本発明の電池用包装材料は、少なくとも、第1の面及び第2の面を有するステンレス鋼箔と、第1の面側に積層された基材層と、第2の面側に積層されたシーラント層とを備える積層体からなる電池用包装材料であって、ステンレス鋼箔の第1の面側に積層された少なくとも1層が、JIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率が100MPa以上である第1の保護層を構成しており、ステンレス鋼箔の第2の面側に積層された少なくとも1層が、JIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率が100MPa以上である第2の保護層を構成していることを特徴とする。以下、本発明の電池用包装材料について詳述する。
1.電池用包装材料の積層構造
本発明の電池用包装材料は、第1の面31及び第2の面32を有するステンレス鋼箔3と、第1の面31側に積層された基材層1と、第2の面32側に積層されたシーラント層4とを備える積層体からなる。電池用包装材料が電池に使用される際には、基材層1が最外層になり、シーラント層4が最内層(電池素子側)になる。電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置するシーラント層4同士を接面させて熱溶着することにより電池素子が密封され、電池素子が封止される。図3に示すように、本発明の電池用包装材料は、基材層1とステンレス鋼箔3との間に接着層2を有していてもよい。また、図4に示すように、本発明の電池用包装材料は、ステンレス鋼箔3とシーラント層4との間に接着層5を有していてもよい。
また、本発明の電池用包装材料は、ステンレス鋼箔3の第1の面31及び第2の表面32に、それぞれ、化成処理層3a,3bを有していてもよい。なお、図1,図2においては、ステンレス鋼箔3の第1の面31に化成処理層3aが積層されており、ステンレス鋼箔3の第2の面32に化成処理層3bが積層されている。
さらに、本発明の電池用包装材料においては、ステンレス鋼箔3の第1の面31側に積層された少なくとも1層が、JIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率が100MPa以上である第1の保護層を構成している。さらに、ステンレス鋼箔3の第2の面32側に積層された少なくとも1層が、JIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率が100MPa以上である第2の保護層を構成している。
第1の保護層を構成する層は、例えば基材層1であってもよい。また、図5に示すように、電池用包装材料は、基材層1とステンレス鋼箔3との間に設けられた、第1の保護層6a(樹脂層)を有していてもよい。
第2の保護層を構成する層は、例えばシーラント層4であってもよいし、接着層5であってもよい。また、図5に示すように、電池用包装材料は、ステンレス鋼箔3とシーラント層4の間に設けられた、第2の保護層6b(樹脂層)を有していてもよい。
電池用包装材料において、第1の保護層及び第2の保護層は、それぞれ、少なくとも1層積層されていればよく、複数層積層されていてもよい。
前述の通り、ステンレス鋼は剛性(突き刺し強さ)が大きい反面、成形性が低いため、電池用包装材料を成形する際にステンレス鋼箔にピンホール、クラックなどが生じやすいという問題を有している。特に、電池用包装材料は、例えば図1または図2に示されるように、一般的に、冷間成形により凹部が形成され、当該凹部によって形成された空間に電極や電解液などの電池素子を配し、シーラント層同士を熱溶着させることにより、電池用包装材料の内部に電池素子が収容された電池が得られる。このとき、成形後の電池用包装材料の周縁部が屈曲されて、4つ折りにされることがある。例えば図1及び図2に示される頂点部pにおいては、4つ折りによって2度屈曲されるため、特にピンホールが生じやすいという問題を有している。
これに対して、本発明の電池用包装材料においては、前記ステンレス鋼箔の両面側に、JIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率が共に100MPa以上である第1の保護層と第2の保護層となる層を有しているため、ステンレス鋼箔が屈曲される際のクラックなどを抑制することができ、突き刺し強さが高いだけでなく、成形性にも優れている。
電池用包装材料の成形性をより一層高める観点からは、第1の保護層及び第2の保護層のJIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率としては、好ましくは100〜6,000MPa程度、より好ましくは300〜5,000MPa程度、さらに好ましくは750〜5,000MPa程度が挙げられる。
2.電池用包装材料を形成する各層の組成
[基材層1]
本発明の電池用包装材料において、基材層1は、最外層を形成する層である。基材層1を形成する素材については、絶縁性を備えるものであることを限度として特に制限されるものではない。基材層1を形成する素材としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、珪素樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びこれらの混合物や共重合物等が挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリカーボネート、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル等が挙げられる。また、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/フェニル−ジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)等が挙げられる。また、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてブチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらのポリエステルは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ポリエステルは、耐電解液性に優れ、電解液の付着に対して白化等が発生し難いという利点があり、基材層1の形成素材として好適に使用される。
また、ポリアミド樹脂としては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体等の脂肪族系ポリアミド;テレフタル酸及び/又はイソフタル酸に由来する構成単位を含むナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン6IT、ナイロン6I6T(Iはイソフタル酸、Tはテレフタル酸を表す)等のヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸−テレフタル酸共重合ポリアミド、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等の芳香族を含むポリアミド;ポリアミノメチルシクロヘキシルアジパミド(PACM6)等の脂環系ポリアミド;さらにラクタム成分や、4,4’−ジフェニルメタン−ジイソシアネート等のイソシアネート成分を共重合させたポリアミド、共重合ポリアミドとポリエステルやポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体であるポリエステルアミド共重合体やポリエーテルエステルアミド共重合体;これらの共重合体等が挙げられる。これらのポリアミドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。延伸ポリアミドフィルムは延伸性に優れており、成形時の基材層1の樹脂割れによる白化の発生を防ぐことができ、基材層1の形成素材として好適に使用される。
基材層1は、1軸又は2軸延伸された樹脂フィルムで形成されていてもよく、また未延伸の樹脂フィルムで形成してもよい。中でも、1軸又は2軸延伸された樹脂フィルム、とりわけ2軸延伸された樹脂フィルムは、配向結晶化することにより耐熱性が向上しているので、基材層1として好適に使用される。また、基材層1は、上記の素材をステンレス鋼箔3上にコーティングして形成されていてもよい。
これらの中でも、基材層1を形成する樹脂フィルムとして、好ましくはナイロン、ポリエステル、更に好ましくは2軸延伸ナイロン、2軸延伸ポリエステル、特に好ましくは2軸延伸ナイロンが挙げられる。
基材層1は、耐ピンホール性及び電池の包装体とした時の絶縁性を向上させるために、異なる素材の樹脂フィルム及びコーティングの少なくとも一方を積層化することも可能である。具体的には、ポリエステルフィルムとナイロンフィルムとを積層させた多層構造や、2軸延伸ポリエステルと2軸延伸ナイロンとを積層させた多層構造等が挙げられる。基材層1を多層構造にする場合、各樹脂フィルムは接着剤を介して接着してもよく、また接着剤を介さず直接積層させてもよい。接着剤を介さず接着させる場合には、例えば、共押出し法、サンドラミ法、サーマルラミネート法等の熱溶融状態で接着させる方法が挙げられる。また、接着剤を介して接着させる場合、使用する接着剤は、2液硬化型接着剤であってもよく、また1液硬化型接着剤であってもよい。更に、接着剤の接着機構についても、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型、UVやEBなどの電子線硬化型等のいずれであってもよい。接着剤の成分としてポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ樹脂、ゴム、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂が挙げられる。
基材層1には、成形性を向上させるために低摩擦化させておいてもよい。基材層1を低摩擦化させる場合、その表面の摩擦係数については特に制限されないが、例えば1.0以下が挙げられる。基材層1を低摩擦化するには、例えば、マット処理、スリップ剤の薄膜層の形成、これらの組み合わせ等が挙げられる。また樹脂層を形成して付与してもよい。これらの樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ樹脂、ゴム、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂が挙げられる。
基材層1には、必要に応じて架橋剤や硬化剤の使用を併用してもよい。これらを使用することにより、基材層1の低摩擦化だけでなく電解液が付着しても室温で5時間以上耐性を持たせる保護層;電解液により溶解し電解液が付着したことが判別する層を持たせることで容易に製造装置のメンテナンスの必要性を判断できるようにする層;ヒートシールした場合にヒートシール部が目視で判別できる様にする層;製造装置の接触により剥がれることで接触部位をなくしメンテナンスしやすくする層等として基材層1を機能させることができる。
マット処理としては、予め基材層1にマット化剤を添加し表面に凹凸を形成したり、エンボスロールによる加熱や加圧による転写法や、表面を乾式又は湿式ブラスト法やヤスリで機械的に荒らす方法が挙げられる。また、最外層マット化剤としては、例えば、粒径が0.5nm〜5μm程度の微粒子が挙げられる。マット化剤の材質については、特に制限されないが、例えば、金属、金属酸化物、無機物、有機物等が挙げられる。また、マット化剤の形状についても、特に制限されないが、例えば、球状、繊維状、板状、不定形、バルーン状等が挙げられる。マット化剤として、具体的には、はタルク,シリカ,グラファイト、カオリン、モンモリロイド、モンモリロナイト、合成マイカ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛,酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ネオジウム,酸化アンチモン、酸化チタン、酸化セリウム、硫酸カルシウム,硫酸バリウム、炭酸カルシウム,ケイ酸カルシウム、炭酸リチウム、安息香酸カルシウム,シュウ酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム、アルミナ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ類、高融点ナイロン、架橋アクリル、架橋スチレン、架橋ポリエチレン、ベンゾグアナミン、金、アルミニウム、銅、ニッケル等が挙げられる。これらのマット化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのマット化剤の中でも、分散安定性やコスト等の観点から、好ましくはりシリカ、硫酸バリウム、酸化チタンが挙げられる。また、マット化剤には、表麺に絶縁処理、高分散性処理等の各種表面処理を施しておいてもよい。
スリップ剤の薄膜層は、基材層1上にスリップ剤をブリードアウトにより表面に析出させて薄層を形成させる方法や、基材層1にスリップ剤を積層することで形成できる。スリップ剤としては、特に制限されないが、例えば、エルカ酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイドやエチレンビスステアリン酸アマイド等の脂肪酸アマイド、金属石鹸、親水性シリコーン、シリコーンをグラフトしたアクリル、シリコーンをグラフトしたエポキシ、シリコーンをグラフトしたポリエーテル、シリコーンをグラフトしたポリエステル、ブロック型シリコーンアクリル共重合体、ポリグリセロール変性シリコーン、パラフィン等が挙げられる。これらのスリップ剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
基材層1の厚さは、例えば、3〜75μm、好ましくは5〜50μmが挙げられる。
前述の通り、基材層1は、第1の保護層を構成していてもよい。すなわち、基材層1のJIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率が100MPa以上である場合には、基材層1は第1の保護層を構成することができる。例えば、基材層1を前述したような樹脂により形成された延伸フィルムにより構成することにより、当該弾性率を100MPa以上、さらには300MPa以上、さらには750MPa以上とすることができる。
[接着層2]
本発明の電池用包装材料において、接着層2は、基材層1とステンレス鋼箔3との接着性を高めることなどを目的として、必要に応じて設けられる層である。基材層1とステンレス鋼箔3とは直接積層されていてもよい。
接着層2は、基材層1とステンレス鋼箔3とを接着可能である接着樹脂によって形成される。接着層2の形成に使用される接着樹脂は、2液硬化型接着樹脂であってもよく、また1液硬化型接着樹脂であってもよい。更に、接着層2の形成に使用される接着樹脂の接着機構についても、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれであってもよい。
接着層2の形成に使用できる接着樹脂の樹脂成分としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリカーボネート、共重合ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリエーテル系接着剤;ポリウレタン系接着剤;エポキシ系樹脂;フェノール樹脂系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂;ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;セルロース系接着剤;(メタ)アクリル系樹脂;ポリイミド系樹脂;尿素樹脂、メラミン樹脂等のアミノ樹脂;クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等のゴム;シリコーン系樹脂;フッ化エチレンプロピレン共重合体等が挙げられる。これらの接着樹脂成分は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上の接着樹脂成分の組み合わせ態様については、特に制限されないが、例えば、その接着樹脂成分として、ポリアミドと酸変性ポリオレフィンとの混合樹脂、ポリアミドと金属変性ポリオレフィンとの混合樹脂、ポリアミドとポリエステル、ポリエステルと酸変性ポリオレフィンとの混合樹脂、ポリエステルと金属変性ポリオレフィンとの混合樹脂等が挙げられる。これらの中でも、展延性、高湿度条件下における耐久性や黄変抑制作用、ヒートシール時の熱劣化抑制作用等が優れ、基材層1とステンレス鋼箔3との間のラミネーション強度の低下を抑えてデラミネーションの発生を効果的に抑制するという観点から、好ましくはポリウレタン系2液硬化型接着樹脂;ポリアミド、ポリエステル、又はこれらと変性ポリオレフィンとのブレンド樹脂が挙げられる。
また、接着層2は異なる接着樹脂成分で多層化してもよい。接着層2を異なる接着樹脂成分で多層化する場合、基材層1とステンレス鋼箔3とのラミネーション強度を向上させるという観点から、基材層1側に配される接着樹脂成分として基材層1との接着性に優れる樹脂を選択し、ステンレス鋼箔3側に配される接着樹脂成分としてステンレス鋼箔3との接着性に優れる接着樹脂成分を選択することが好ましい。接着層2は異なる接着樹脂成分で多層化する場合、具体的には、ステンレス鋼箔3側に配置される接着樹脂成分としては、好ましくは、酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィン、ポリエステルと酸変性ポリオレフィンとの混合樹脂、共重合ポリエステルを含む樹脂等が挙げられる。
接着層2の厚さについては、例えば、0.5〜50μm、好ましくは2〜25μmが挙げられる。
[ステンレス鋼箔3]
本発明の電池用包装材料において、ステンレス鋼箔3は、電池用包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光等が侵入するのを防止するためのバリア層として機能する層である。
本発明において、ステンレス鋼箔3は、オーステナイト系のステンレス鋼により構成されていることが好ましい。これにより、より一層突き刺し強さが高く、耐電解液性及び成形性にも優れた電池用包装材料となる。
ステンレス鋼箔3を構成するオーステナイト系のステンレス鋼の具体例としては、SUS304、SUS301、SUS316Lなどが挙げられ、これら中でも、突き刺し強さが高く、耐電解液性及び成形性にも優れた電池用包装材料とする観点からは、SUS304が特に好ましい。
ステンレス鋼箔3の厚さについては、特に制限されないが、電池用包装材料をより一層薄型化しつつ、突き刺し強さが高く、耐電解液性及び成形性にも優れた電池用包装材料とする観点からは、好ましくは40μm以下、より好ましくは10〜30μm程度、さらに好ましくは15〜25μm程度が挙げられる。
また、ステンレス鋼箔は、特に、冷間圧延処理されることで延展性が向上し、成形性が良化する。さらに冷間圧延した後、熱処理を施し、焼きなましをすることで流れ方向と幅方向のバランスがよくなり成形性が向上する。また、後述する化成処理の効果を安定化するために圧延処理後、あるいは熱処理後、表面の洗浄工程を入れることが重要である。洗浄方法は、アルカリや酸を用いた洗浄、さらにはアルカリ電解脱脂洗浄などが挙げられる。また、超音波処理やプラズマ処理などを併用することも可能である。好ましくは、アルカリ脱脂洗浄やアルカリ電解脱脂が好ましい。これらにより表面の濡れ性が向上して、化成処理が均一化でき、耐内容物性が安定化する。濡れ性は、水との接触角が好ましくは50°以下、より好ましくは30°以下、さらに好ましくは15°以下である。
[化成処理槽3a,3b]
本発明の電池用包装材料においては、ステンレス鋼箔3の少なくとも第2の面32に、フッ化水素耐性の化成処理層3bが形成されていることが好ましい。これにより、突き刺し強さが高く、耐電解液性及び成形性にも優れた電池用包装材料とすることができる。
また、本発明においては、ステンレス鋼箔3と隣接する層との間の接着の安定化、溶解や腐食の防止等のために、必要に応じて、ステンレス鋼箔3の第1の面31にも化成処理層3aを有していてもよい。本発明においては、ステンレス鋼箔3の第1の面31及び第2の面32に化成処理層3a,3bが積層されていることがさらに好ましい。前述の通り、図1,図2においては、ステンレス鋼箔3の第1の面31に化成処理層3aが積層されており、ステンレス鋼箔3の第2面32に化成処理層3bが積層されている。
ここで、化成処理層とは、具体的には、ステンレス鋼箔3の表面に耐酸性皮膜が形成された層である。化成処理層を形成するための化成処理としては、例えば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロム等のクロム酸化合物を用いたクロム酸クロメート処理;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸等のリン酸化合物を用いたリン酸クロメート処理;上記のクロム酸化合物、上記のリン酸化合物、及びフェノール樹脂を組み合わせたリン酸クロメート処理などが挙げられる。フェノール樹脂としては、下記一般式(1)〜(4)で表される繰り返し単位からなるアミノ化フェノール重合体が挙げられる。なお、当該アミノ化フェノール重合体において、下記一般式(1)〜(4)で表される繰り返し単位は、1種類単独で含まれていてもよいし、2種類以上の任意の組み合わせであってもよい。
一般式(1)〜(4)中、Xは水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基又はベンジル基を示す。また、R1及びR2は、同一又は異なって、ヒドロキシル基、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基を示す。一般式(1)〜(4)において、X、R1、R2で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖又は分枝鎖状アルキル基が挙げられる。また、X、R1、R2で示されるヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ基が1個置換された炭素数1〜4の直鎖又は分枝鎖状アルキル基が挙げられる。一般式(1)〜(4)において、Xは、水素原子、ヒドロキシル基、及び、ドロキシアルキル基のいずれかであることが好ましい。一般式(1)〜(4)で表される繰り返し単位からなるアミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、例えば、約500〜約100万、好ましくは約1000〜約2万が挙げられる。
また、ステンレス鋼箔3に耐食性を付与する化成処理方法として、リン酸中に、酸化アルミ(アルミナ処理)、酸化チタン、酸化セリウム(セリウム処理)、酸化スズ等の金属酸化物や硫酸バリウムの微粒子を分散させたものやトリアジチンチオールをコーティングし、150℃以上で焼付け処理を行うことにより、ステンレス鋼箔3の表面に耐食処理層を形成する方法が挙げられる。これらの場合も、上記のフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等の樹脂に含有させて層として形成してもよい。また、耐食処理層の上には、カチオン性ポリマーを架橋剤で架橋させた樹脂層を形成してもよい。ここで、カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフトさせた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンまたはその誘導体、アミノフェノール等が挙げられる。これらのカチオン性ポリマーは1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、架橋剤としては、例えば、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、及びオキサゾリン基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。これらの架橋剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの化成処理は、1種の化成処理を単独で行ってもよく、2種以上の化成処理を組み合わせて行ってもよい。更に、これらの化成処理は、1種の化合物を単独で使用して行ってもよく、また2種以上の化合物を組み合わせて使用して行ってもよい。
化成処理層は、これらの中でも、クロム酸クロメート処理またはリン酸クロメート処理により形成されたものであることが好ましい。さらに、上記のクロム酸化合物、上記のリン酸化合物、及びフェノール樹脂(好ましくは上記のアミノ化フェノール重合体)を組み合わせたリン酸クロメート処理により形成されたものであることが特に好ましい。ステンレス鋼箔は、表面に不働態膜を形成している。そのため、化成処理を施す場合は、不働態膜の一部を酸処理で活性化あるいは除去した後、クロムと金属の混合層を形成させる必要がある。一般の6価のクロム酸処理では、クロム酸の濃度を上げる必要があり環境に対する負荷が大きい。リン酸クロメート処理では、リン酸の濃度を上げることで対応が可能となり、6価のクロム酸処理に比べて環境負荷を低減できる。また上記組み合わせにより、ステンレス鋼箔表面には化成処理層にフェノール樹脂層が形成される。樹脂層の形成により、表面の電気抵抗が高くなる。そのため、電池形成した場合、内部の絶縁性が高くなり、短絡や異物付着による腐食や腐食に起因する内容物の漏洩が起こりにくくなる。
化成処理においてステンレス鋼箔3の表面に形成させる耐酸性皮膜(化成処理層)の量については、特に制限されないが、例えばクロム酸化合物、リン酸化合物、及びアミノ化フェノール重合体を組み合わせてクロメート処理を行う場合であれば、ステンレス鋼箔3の表面1m2当たり、クロム酸化合物がクロム換算で約0.5〜約50mg、好ましくは約1.0〜約40mg、リン化合物がリン換算で約0.5〜約50mg、好ましくは約1.0〜約40mg、及びアミノ化フェノール重合体が約1〜約200mg、好ましくは約5.0〜150mgの割合で含有されていることが望ましい。
化成処理は、耐酸性皮膜の形成に使用する化合物を含む溶液を、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法等によって、ステンレス鋼箔3の表面に塗布した後に、ステンレス鋼箔3の温度が70〜300℃程度になるように加熱することにより行われる。また、ステンレス鋼箔3に化成処理を施す前に、予めステンレス鋼箔3を、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法等による脱脂処理に供してもよい。このように脱脂処理を行うことにより、ステンレス鋼箔3の表面の不働態層を活性化あるいは除去することができ、化成処理を一層効率的に行うことが可能になる。
[シーラント層4]
本発明の電池用包装材料において、シーラント層4は、ステンレス鋼箔3の第2の面32側に積層されており、最内層に該当し、電池の組み立て時にシーラント層4同士が熱溶着して電池素子を密封する層である。シーラント層4は、複数の層により形成されていてもよい。
シーラント層4は、後述する接着層5を有しない場合、ステンレス鋼箔3と接着可能であり、さらにシーラント層4同士が熱溶着可能な樹脂により形成されている。また、シーラント層4は、後述する接着層5を有する場合には、接着層5と接着可能であり、さらにシーラント層4同士が熱溶着可能な樹脂により形成されている。シーラント層4を形成する樹脂としては、このような特性を有するものであれば、特に制限されないが、例えば、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。また、後述する接着層5を有する場合、これらに加え、ポリオレフィン樹脂、シーラント層4を形成する樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
シーラント層4の形成に使用される酸変性ポリオレフィンとは、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸でグラフト重合すること等により変性したポリマーである。酸変性されるポリオレフィンとしては、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)等の結晶性又は非晶性のポリプロピレン;エチレン−ブテン−プロピレンのターポリマー等が挙げられる。これらのポリオレフィンの中でも、耐熱性の点で、好ましくは、少なくともプロピレンを構成モノマーとして有するポリオレフィン、更に好ましくは、エチレン−ブテン−プロピレンのターポリマー、及びプロピレン−エチレンのランダムコポリマーが挙げられる。変性に使用される不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸の中でも、好ましくはマレイン酸、無水マレイン酸が挙げられる。これらの酸変性ポリオレフィンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
シーラント層4の形成に使用されるポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリカーボネート、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル等が挙げられる。また、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/フェニル−ジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)等が挙げられる。また、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてブチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらのポリエステル樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
シーラント層4の形成に使用されるフッ素系樹脂の具体例としては、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレンテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ素系ポリオール等が挙げられる。これらのフッ素系樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
接着層5を有しない場合、シーラント層4は、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、またはフッ素系樹脂のみから形成されていてもよく、また必要に応じてこれら以外の樹脂成分を含んでいてもよい。シーラント層4に酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、またはフッ素系樹脂以外の樹脂成分を含有させる場合、シーラント層4中の酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、またはフッ素系樹脂の含有量については、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、例えば10〜95質量%、好ましくは30〜90質量%、更に50〜80質量%が挙げられる。
シーラント層4において、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、またはフッ素系樹脂以外に、必要に応じて含有できる樹脂成分としては、例えば、ポリオレフィンが挙げられる。
ポリオレフィンは、非環状又は環状のいずれの構造であってもよい。非環状のポリオレフィンとしては、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)等の結晶性又は非晶性のポリプロピレン;エチレン−ブテン−プロピレンのターポリマー等が挙げられる。また、環状のポリオレフィンとは、オレフィンと環状モノマーとの共重合体であり、環状ポリオレフィンの構成モノマーであるオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、スチレン、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。また、環状ポリオレフィンの構成モノマーである環状モノマーとしては、例えば、ノルボルネン等の環状アルケン;具体的には、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ノルボルナジエン等の環状ジエン等が挙げられる。これらのポリオレフィンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらのポリオレフィンの中でも、エラストマーとしての特性を備えるもの(即ち、ポリオレフィン系エラストマー)、とりわけプロピレン系エラストマーは、ヒートシール後の接着強度の向上、ヒートシール後の層間剥離の防止等の観点から、好ましい。プロピレン系エラストマーとしては、プロピレンと、1種又は2種以上の炭素数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)を構成モノマーとして含む重合体が挙げられ、プロピレン系エラストマーを構成する炭素数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)としては、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらのエチレン系エラストマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
シーラント層4に、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、またはフッ素系樹脂以外の樹脂成分を含有させる場合、当該樹脂成分の含有量については、本発明の目的を妨げない範囲で適宜設定される。例えば、シーラント層4にプロピレン系エラストマーを含有させる場合、シーラント層4中のプロピレン系エラストマーの含有量としては、通常5〜70質量%、好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜50質量%が挙げられる。
ステンレス鋼箔3とシーラント層4との間に、後述の接着層5を有する場合、シーラント層4を形成する樹脂としては、上記の酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂などに加えて、ポリオレフィン、変性環状ポリオレフィンなども挙げられる。これらの樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
接着層5を有する場合、シーラント層4を形成するポリオレフィンとしては、上記で例示したものが挙げられる。変性環状ポリオレフィンは、環状ポリオレフィンを不飽和カルボン酸でグラフト重合したものである。酸変性される環状ポリオレフィンは、オレフィンと環状モノマーとの共重合体である。このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、スチレン、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。また、環状モノマーとしては、例えば、ノルボルネン等の環状アルケン;具体的には、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ノルボルナジエン等の環状ジエン等が挙げられる。変性に使用される不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸の中でも、好ましくはマレイン酸、無水マレイン酸が挙げられる。これらの変性環状ポリオレフィンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
接着層5を有する場合、シーラント層4は、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、または変性環状ポリオレフィンのみから形成されていてもよく、また必要に応じてこれら以外の樹脂成分を含んでいてもよい。シーラント層4にこれら以外の樹脂成分を含有させる場合、シーラント層4中のこれらの樹脂の含有量については、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、例えば10〜95質量%、好ましくは30〜90質量%、更に50〜80質量%が挙げられる。必要に応じて含有できる樹脂成分としては、例えば、上記のエラストマーとしての特性を備えるものが挙げられる。また、必要に応じて含有できる樹脂成分の含有量については、本発明の目的を妨げない範囲で適宜設定される。例えば、シーラント層4にプロピレン系エラストマーを含有させる場合、シーラント層4中のプロピレン系エラストマーの含有量としては、通常5〜70質量%、好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜50質量%が挙げられる。
本発明の電池用包装材料のヒートシール後において、ヒートシール面の位置ズレなどを効果的に抑制する観点から、シーラント層4の融点Tm1としては、好ましくは90〜245℃、より好ましくは100〜220℃が挙げられる。また、同様の観点から、シーラント層4の軟化点Ts1としては、好ましくは70〜180℃、より好ましくは80〜150℃が挙げられる。同様の観点から、シーラント層4の230℃におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1〜25g/10分程度、より好ましくは2〜15g/10分が挙げられる。
さらに、ヒートシール時に加熱されたステンレス鋼箔3が長期間に亘って高温に維持された場合にも、ヒートシール後において、ヒートシール面が動いて位置ズレが生じることを効果的に抑制する観点から、シーラント層4の230℃におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1〜25g/10分程度、より好ましくは2〜15g/10分が挙げられる。
ここで、シーラント層4の融点Tm1は、シーラント層4を構成する樹脂成分の融点をJIS K6921−2(ISO1873−2.2:95)に準拠しDSC法により測定される値である。また、シーラント層4が、複数の樹脂成分を含むブレンド樹脂で形成されている場合には、その融点Tm1は、それぞれの樹脂の融点を上記のようにして求め、これらを質量比で加重平均して算出することができる。
また、シーラント層4の軟化点Ts1は、熱機械的分析法(TMA:Thermo-Mechanical Analyzer)により測定される値である。また、シーラント層4が、複数の樹脂成分を含むブレンド樹脂で形成されている場合には、その軟化点Ts1は、それぞれの樹脂の軟化点を上記のようにして求め、これらを質量比で加重平均して算出することができる。
シーラント層4のメルトフローレートは、JIS K7210に準拠し、メルトフローレート測定器により測定される値である。
シーラント層4の厚みとしては、例えば、12〜120μm、好ましくは18〜80μm、更に好ましくは20〜60μmが挙げられる。
シーラント層4は、単層であってもよいし、多層であってもよい。また、シーラント層4は、必要に応じてスリップ剤などを含んでいてもよい。シーラント層4がスリップ剤を含む場合、電池用包装材料の成形性を高め得る。さらに、本発明においては、シーラント層4がスリップ剤を含むことにより、電池用包装材料の成形性だけでなく、絶縁性をも高め得る。シーラント層4がスリップ剤を含むことによって電池用包装材料の絶縁性が高められる詳細な機序は必ずしも明らかではないが、例えば次のように考えることができる。すなわち、シーラント層4がスリップ剤を含む場合、シーラント層4に外力が加わった際に、シーラント層4内において樹脂の分子鎖が動きやすくなり、クラックが生じにくくなると考えられる。特に、シーラント層4が複数種類の樹脂により形成される場合には、これらの樹脂の間に存在する界面において、クラックが生じやすいが、スリップ剤がこのような界面に存在することにより、界面において樹脂が動きやすくなることで、外力が加わった際にクラックに至ることを効果的に抑制できるものと考えられる。このような機序により、シーラント層にクラックが生じることによる絶縁性の低下が抑制されると考えられる。
スリップ剤としては、特に制限されず、公知のスリップ剤を用いることができ、例えば、上記の基材層1で例示したものなどが挙げられる。スリップ剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。シーラント層4におけるスリップ剤の含有量としては、特に制限されず、電子包装用材料の成形性及び絶縁性を高める観点からは、好ましくは0.01〜0.2質量%程度、より好ましくは0.05〜0.15質量%程度が挙げられる。
前述の通り、シーラント層4は、第2の保護層を構成していてもよい。すなわち、シーラント層4のJIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率が100MPa以上である場合には、シーラント層4は第2の保護層を構成することができる。
[接着層5]
本発明の電池用包装材料においては、ステンレス鋼箔3とシーラント層4とを強固に接着させることなどを目的として、図4,図5に示されるように、ステンレス鋼箔3とシーラント層4との間に接着層5をさらに設けてもよい。接着層5は、1層により形成されていてもよいし、複数層により形成されていてもよい。
接着層5は、ステンレス鋼箔3とシーラント層4とを接着可能な樹脂によって形成される。接着層5を形成する樹脂としては、ステンレス鋼箔3とシーラント層4とを接着可能な樹脂であれば特に制限されないが、好ましくは上記の酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ樹脂、ゴム、シリコン系樹脂等が挙げられる。接着層5を形成する樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
接着層5は、これらの樹脂の少なくとも1種のみから形成されていてもよく、また必要に応じてこれら以外の樹脂成分を含んでいてもよい。接着層5にこれら以外の樹脂成分を含有させる場合、接着層5中の酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ樹脂、ゴム、及びシリコン系樹脂の含有量については、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、例えば10〜95質量%、好ましくは30〜90質量%、更に50〜80質量%が挙げられる。
また、接着層5は、硬化剤をさらに含むことが好ましい。接着層5が硬化剤を含むことにより、接着層5の機械的強度が高められ、電池用包装材料の絶縁性を効果的に高めることができる。硬化剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
硬化剤は、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ樹脂、ゴム、またはシリコン系樹脂を硬化させるものであれば、特に限定されない。硬化剤としては、例えば、多官能イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物などが挙げられる。
多官能イソシアネート化合物は、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されない。多官能イソシアネート化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、これらをポリマー化やヌレート化したもの、これらの混合物や他ポリマーとの共重合物などが挙げられる。
カルボジイミド化合物は、カルボジイミド基(−N=C=N−)を少なくとも1つ有する化合物であれば、特に限定されない。カルボジイミド化合物としては、カルボジイミド基を少なくとも2つ以上有するポリカルボジイミド化合物が好ましい。特に好ましいカルボジイミド化合物の具体例としては、下記一般式(5):
[一般式(5)において、nは2以上の整数である。]
で表される繰り返し単位を有するポリカルボジイミド化合物、
下記一般式(6):
[一般式(6)において、nは2以上の整数である。]
で表される繰り返し単位を有するポリカルボジイミド化合物、
及び下記一般式(7):
[一般式(7)において、nは2以上の整数である。]
で表されるポリカルボジイミド化合物が挙げられる。一般式(4)〜(7)において、nは、通常30以下の整数であり、好ましくは3〜20の整数である。
エポキシ化合物は、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されない。エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどのエポキシ樹脂が挙げられる。
オキサゾリン化合物は、オキサゾリン骨格を有する化合物であれば、特に限定されない。オキサゾリン化合物としては、具体的には、日本触媒社製のエポクロスシリーズなどが挙げられる。
接着層5の機械的強度を高めるなどの観点から、硬化剤は、2種類以上の化合物により構成されていてもよい。
接着層5において、硬化剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ樹脂、ゴム、またはシリコン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部〜50質量部の範囲にあることが好ましく、0.1質量部〜30質量部の範囲にあることがより好ましい。また、接着層5において、硬化剤の含有量は、酸変性ポリオレフィンなどの各樹脂中のカルボキシル基1当量に対して、硬化剤中の反応基として1当量〜30当量の範囲にあることが好ましく、1当量〜20当量の範囲にあることがより好ましい。これにより、電池用包装材料の絶縁性や耐久性をより高め得る。
接着層5が硬化剤を含む場合、接着層5は、2液硬化型接着樹脂により形成してもよいし、1液硬化型接着樹脂により形成してもよい。さらに、接着剤の接着機構についても、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型、UVやEBなどの電子線硬化型等のいずれであってもよい。
接着層5の融点Tm2としては、好ましくは90〜245℃、より好ましくは100〜230℃が挙げられる。また、同様の観点から、接着層5の軟化点Ts2としては、好ましくは70〜180℃、より好ましくは80〜150℃が挙げられる。
なお、接着層5の融点Tm2、軟化点Ts2の算出方法は、シーラント層4の場合と同様である。
接着層5の厚みとしては、特に制限されないが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05〜20μmが挙げられる。なお、接着層5の厚みが0.01μm未満であると、ステンレス鋼箔3とシーラント層4との間を安定して接着させることが困難になる場合がある。
前述の通り、接着層5は、第2の保護層を構成していてもよい。すなわち、接着層5のJIS K7127の規定に準拠した方法により測定された弾性率が100MPa以上である場合には、接着層5は第2の保護層を構成することができる。
(第1の保護層6a)
本発明の電池用包装材料においては、例えば図5に示されるように、例えば、基材層1が前述の弾性率を満たしておらず、第1の保護層を構成しない場合にも、前述の弾性率を有する第1の保護層6aが積層されていることにより、ステンレス鋼箔が積層された電池用包装材料において、高い突き刺し強さと、優れた成形性を発揮させることができる。
第1の保護層6aを設ける場合、第1の保護層6aは、ステンレス鋼箔3と直接接面していてもよいし、接着層2を介して接面していてもよい。好ましくは、基材層1と、第1の保護層6aと、接着層2と、ステンレス鋼箔3とがこの順に積層された積層構造を有することが好ましい。
第1の保護層6aは、樹脂により形成することができる。第1の保護層6aを形成する樹脂としては、特に制限されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、珪素樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びこれらの混合物や共重合物等が挙げられる。樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
第1の保護層6aの厚みとしては、特に制限されないが、好ましくは1〜50μm程度、より好ましくは2〜30μm程度が挙げられる。
(第2の保護層6b)
本発明の電池用包装材料においては、例えば図5に示されるように、ステンレス鋼箔3とシーラント層4との間に、第2の保護層6bが積層されていてもよい。例えば、シーラント層4や絶縁層5が、前述の弾性率を満たしておらず、第2の保護層を構成しない場合にも、前述の弾性率を有する第2の保護層6bが積層されていることにより、ステンレス鋼箔が積層された電池用包装材料において、高い突き刺し強さと、優れた成形性を発揮させることができる。
第2の保護層6bを設ける場合、第2の保護層6bは、ステンレス鋼箔3と直接接面していてもよいし、接着層5を介して接面していてもよい。好ましくは、ステンレス鋼箔3と、接着層5と、第2の保護層6bと、シーラント層4とがこの順に積層された積層構造を有することが好ましい。
第2の保護層6bは、樹脂により形成することができる。第2の保護層6bを形成する樹脂としては、特に制限されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、珪素樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びこれらの混合物や共重合物等が挙げられる。樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ステンレス鋼箔3が積層された電池用包装材料において、高い突き刺し強さと、優れた成形性を発揮させる観点から、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂が好ましい。例えば、第2の保護層6bを形成する樹脂としてポリエステル樹脂を用いることにより、前述の弾性率を100MPa以上、さらには300MPa以上、さらには750MPa以上とすることができる。ポリエステル樹脂は、延伸フィルムであることが好ましい。
第2の保護層6bの厚みとしては、特に制限されないが、好ましくは1〜50μm程度、より好ましくは2〜30μm程度が挙げられる。
本発明の電池用包装材料において、以上のような各層を備える積層体の総厚みとしては、特に制限されないが、電池用包装材料の薄型化と、高い突き刺し強さ、優れた成形性などを好適に発揮する観点からは、好ましくは110μm以下、より好ましくは42〜85μm程度、さらに好ましくは45〜70μm程度が挙げられる。
本発明の電池用包装材料は、JIS Z 1707 1997の規定に準拠した測定方法により測定される前記積層体の突き刺し強度が、好ましくは20N以上、より好ましくは30N以上である。
さらに、電池用包装材料の薄型化と、高い突き刺し強さ、優れた成形性などを好適に発揮する観点からは、積層体の総厚みをT(μm)、前記ステンレス鋼箔の厚みをTS(μm)、JIS Z 1707 1997の規定に準拠した測定方法により測定される前記積層体の突き刺し強度をF(N)とした場合に、F/Tが0.3(N/μm)以上、F/TSが0.7(N/μm)以上であることが好ましい。
3.電池用包装材料の製造方法
本発明の電池用包装材料の製造方法については、所定の組成の各層を積層させた積層体が得られる限り、特に制限されないが、例えば、以下の方法が例示される。
まず、基材層1、必要に応じて接着層2、ステンレス鋼箔3が順に積層された積層体(以下、「積層体A」と表記することもある)を形成する。接着層2を有する場合の積層体Aの形成は、具体的には、基材層1、接着層2、及び必要に応じて表面が化成処理されたステンレス鋼箔3をサーマルラミネート法、サンドラミネート法、ドライラミネート法、溶融押出し法、共押出し法又はこれらの組み合わせ等によって積層させることにより行われる。なお、積層体Aの形成において、エージング処理、加水処理、加熱処理、電子線処理、紫外線処理等を行うことにより、接着層2による基材層1とステンレス鋼箔3との接着の安定性が高め得る。また、ステンレス鋼箔3の上に直接基材層1を積層して積層体Aを形成する方法としては、サーマルラミネート法、溶液コーティング法、溶融押出し法、共押出し法又はこれらの組み合わせ等によって積層させる方法が挙げられる。この際、エージング処理、加水処理、加熱処理、電子線処理、紫外線処理等を行うことにより、基材層1とステンレス鋼箔3との接着の安定性を高め得る。
ドライラミネート法による積層体Aの形成においては、例えば、接着層2を構成する樹脂を水または有機溶剤に溶解または分散させ、当該溶解液または分散液を基材層1の上にコーティングし、水または有機溶剤を乾燥させることにより、基材層1に上に接着層2を形成した後、ステンレス鋼箔3を加熱圧着して行うことができる。
サーマルラミネート法による積層体Aの形成は、例えば、基材層1と接着層2とが積層された多層フィルムを予め用意し、接着層2を重ね合わせて加熱ロールにより、基材層1とステンレス鋼箔3で接着層2を挟持しながら熱圧着することにより行うことができる。また、サーマルラミネート法による積層体Aの形成は、ステンレス鋼箔3と接着層2とが積層された多層フィルムを予め用意し、加熱したステンレス鋼箔3と接着層2に基材層1を重ね合わせて基材層1とステンレス鋼箔3で接着層2を挟持しながら熱圧着することにより行ってもよい。
なお、サーマルラミネート法において予め用意する基材層1と接着層2とが積層された多層フィルムは、基材層1を構成する樹脂フィルムに接着層2を構成する接着剤を溶融押し出し又は溶液コーティング(液状塗工)により積層して乾燥させた後、接着層2を構成する接着剤の融点以上の温度で焼付けて形成する。焼付けを行うことにより、ステンレス鋼箔3と接着層2との接着強度が向上する。また、サーマルラミネート法において予め用意するステンレス鋼箔3と接着層2とが積層された多層フィルムについても、同様にステンレス鋼箔3を構成する金属箔に接着層2を構成する接着剤を溶融押し出し又は溶液コーティングにより積層して乾燥させた後、接着層2を構成する接着剤の融点以上の温度で焼付けることにより形成される。
また、サンドラミネート法による積層体Aの形成は、例えば、接着層2を構成する接着剤をステンレス鋼箔3の上面に溶融押し出しして基材層1を構成する樹脂フィルムをステンレス鋼箔に貼り合わせることにより行うことができる。このとき、樹脂フィルムを貼り合わせて仮接着した後、再度加熱して本接着を行うことが望ましい。なお、サンドラミネート法においても接着層2を異なる樹脂種で多層化してもよい。この場合、基材層1と接着層2とが積層された多層フィルムを予め用意し、ステンレス鋼箔3の上面に接着層2を構成する接着剤を溶融押出して多層の樹脂フィルムとサーマルラミネート法により積層すればよい。これにより、多層フィルムを構成する接着層2と、ステンレス鋼箔3の上面に積層された接着層2とが接着して2層の接着層2が形成される。接着層2を異なる樹脂種で多層化する場合には、ステンレス鋼箔3と接着層2とが積層された多層フィルムを予め用意し、基材層1上に接着層2を構成する接着剤を溶融押出して、これをステンレス鋼箔3上の接着層2と積層してもよい。これにより、多層の樹脂フィルと基材層1との間に2層の異なる接着剤で構成される接着層2が形成される。
次いで、積層体Aのステンレス鋼箔3上に、シーラント層4を積層させる。積層体Aのステンレス鋼箔3上へのシーラント層4の積層は、共押出し法、サーマルラミネート法、サンドラミネート法、コーティング法、又はこれらの組み合わせ等によって行うことができる。例えば、接着層5を設けない場合、シーラント層4は、ステンレス鋼箔3の上にシーラント層4を溶融押出し法、サーマルラミネート法、コーティング法などにより形成することができる。また、接着層5を設ける場合、ステンレス鋼箔3の上に接着層5を溶融押出し法、サーマルラミネート法、コーティング法などにより形成した後、同様の方法でシーラント層4を形成することができる。また、ステンレス鋼箔3の上に、接着層5とシーラント層4とを同時に溶融押出しする共押出し法を行ってもよい。また、ステンレス鋼箔3上に接着層5を溶融押出しすると共に、フィルム状のシーラント層4を貼り合わせるサンドラミネート法を行うこともできる。シーラント層4が2層により形成されている場合、例えば、ステンレス鋼箔3上に接着層5とシーラント層4の1層を共押出しした後、シーラント層4の他の1層をサーマルラミネート法で貼り付ける方法が挙げられる。また、ステンレス鋼箔3上に接着層5とシーラント層4の1層を共押出しすると共に、フィルム状のシーラント層4の他の1層を貼り合わせる方法なども挙げられる。なお、シーラント層4を3層以上にする場合、さらに溶融押出し法、サーマルラミネート法、コーティング法などによってシーラント層4を形成することができる。
上記のようにして、基材層1/必要に応じて形成される接着層2/必要に応じて表面が化成処理されたステンレス鋼箔3/必要に応じて形成される接着層5/シーラント層4からなる積層体が形成される。接着層2の接着性を強固にするために、更に、熱ロール接触、熱風、近又は遠赤外線照射、誘電加熱、熱抵抗加熱等の加熱処理に供してもよい。このような加熱処理の条件としては、例えば150〜250℃で1〜10時間が挙げられる。
上記の積層工程において、基材層と前記ステンレス鋼箔との間に第1の保護層6aをさらに積層する場合には、第1の保護層6aを形成する樹脂組成物を隣接する層に塗布したり、第1の保護層6aを形成する樹脂フィルムを隣接する層に貼り合わせればよい。また、ステンレス鋼箔3とシーラント層4との間に第2の保護層6bをさらに積層する場合にも、第2の保護層6bを形成する樹脂組成物を隣接する層に塗布したり、第2の保護層6bを形成する樹脂フィルムを隣接する層に貼り合わせればよい。
また、本発明の電池用包装材料において、積層体を構成する各層は、必要に応じて、製膜性、積層化加工、最終製品2次加工(パウチ化、エンボス成形)適性等を向上又は安定化するために、コロナ処理、ブラスト処理、酸化処理、オゾン処理等の表面活性化処理を施していてもよい。
本発明の電池用包装材料を用いて電池素子を包装する際には、2枚の電池用包装材料は、同一のものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。異なる2枚の電池用包装材料を用いて電池素子を包装する場合の各電池用包装材料の積層構造の具体例としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
一方の電池用包装材料:基材層1(ナイロン層)/接着層2(2液硬化型ポリエステル樹脂層)/ステンレス鋼箔3/接着層5(酸変性ポリプロピレン層)/シーラント層4(ポリプロピレン層)
他方の電池用包装材料:基材層1(アクリル−ウレタンコート層)/ステンレス鋼箔3/接着層5(フッ素系樹脂層)/シーラント層4(ポリプロピレン)
4.電池用包装材料の用途
本発明の電池用包装材料は、正極、負極、電解質等の電池素子を密封して収容するための包装材料として使用される。
具体的には、少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を、本発明の電池用包装材料で、前記正極及び負極の各々に接続された金属端子が外側に突出させた状態で、電池素子の周縁にフランジ部(シーラント層同士が接触する領域)が形成できるようにして被覆し、前記フランジ部のシーラント層4同士をヒートシールして密封させることによって、電池用包装材料を使用した電池が提供される。なお、本発明の電池用包装材料を用いて電池素子を収容する場合、本発明の電池用包装材料のシーラント層4が内側(電池素子と接する面)になるようにして用いられる。
なお、上述の通り、本発明の電池用包装材料を2つ用意し、シーラント層4同士を対向させた状態でシーラント層4を熱溶着させることによって、2つの空間を併せた空間に電子素子を収容してもよい。また、本発明の電池用包装材料と、上記のようなシート状の積層体とを用意し、シーラント層4同士を対向させた状態でシーラント層4を熱溶着させることによって、1つの空間に電子素子を収容してもよい。
本発明の電池用包装材料は、一次電池、二次電池のいずれに使用してもよいが、好ましくは二次電池である。本発明の電池用包装材料が適用される二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛畜電池、ニッケル・水素畜電池、ニッケル・カドミウム畜電池、ニッケル・鉄畜電池、ニッケル・亜鉛畜電池、酸化銀・亜鉛畜電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサー、キャパシター等が挙げられる。これらの二次電池の中でも、本発明の電池用包装材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において、各層の弾性率は、JIS K7127の規定に準拠した方法により測定された値である。
<電池用包装材料の製造>
(実施例1)
基材層としてのポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(厚み25μm)上に、両面に化成処理を施したステンレス鋼箔(厚さ20μm)をドライラミネーション法により積層させた。具体的には、ステンレス鋼箔の一方面に、2液型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物)を塗布し、ステンレス鋼箔層上に接着層(厚さ3μm)を形成した。次いで、ステンレス鋼箔上の接着層と基材層をドライラミネーション法で積層した後、40℃で24時間のエージング処理を実施することにより、基材層/接着層/ステンレス鋼箔の積層体を作製した。なお、ステンレス鋼箔の化成処理は、フェノール樹脂、フッ化クロム化合物、及びリン酸からなる処理液をクロムの塗布量が10mg/m2(乾燥重量)となるように、ロールコート法によりステンレス鋼箔の両面に塗布し、皮膜温度が180℃以上となる条件で20秒間焼付けすることにより行った。次に積層体のステンレス鋼箔の上に、2液型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物)を塗布し、ステンレス鋼箔層上に接着層(厚さ3μm)を形成した。次いで、ステンレス鋼箔上の接着層と、第2の保護層としてのポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(厚み25μm)をドライラミネーション法で積層した後、40℃で24時間のエージング処理を実施することにより、基材層/接着層/ステンレス鋼箔/接着層/第2の保護層の積層体を作製した。次に、第2の保護層の上に、シーラント層としてのカルボン酸変性ポリプロピレン(第2の保護層側に配置)25μmとランダムポリプロピレン(最内層側)15μmを共押し出しすることにより、基材層/接着層/ステンレス鋼箔/接着層/第2の保護層/シーラント層(2層)が順に積層された電池用包装材料を得た。
(実施例2)
基材層としてのポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(厚み9μm)上に、両面に化成処理を施したステンレス鋼箔(厚さ20μm)をドライラミネーション法により積層させた。具体的には、ステンレス鋼箔の一方面に、2液型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物)を塗布し、ステンレス鋼箔層上に接着層(厚さ3μm)を形成した。次いで、ステンレス鋼箔上の接着層と基材層をドライラミネーション法で積層した後、40℃で24時間のエージング処理を実施することにより、基材層/接着層/ステンレス鋼箔の積層体を作製した。なお、ステンレス鋼箔の化成処理は、実施例1と同様である。次に積層体のステンレス鋼箔の上に、2液型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物)を塗布し、ステンレス鋼箔層上に接着層(厚さ3μm)を形成した。次いで、ステンレス鋼箔上の接着層と、第2の保護層かつシーラント層としての無軸延伸ポリプロピレンフィルム(厚み25μm)をドライラミネーション法で積層した後、40℃で24時間のエージング処理を実施することにより、基材層/接着層/ステンレス鋼箔/接着層/第2の保護層(シーラント層)が順に積層された電池用包装材料を得た。
(比較例1)
基材層としてのポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(厚み9μm)上に、両面に化成処理を施したステンレス鋼箔(厚さ20μm)をドライラミネーション法により積層させた。具体的には、ステンレス鋼箔の一方面に、2液型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物)を塗布し、ステンレス鋼箔層上に接着層(厚さ3μm)を形成した。次いで、ステンレス鋼箔上の接着層と基材層をドライラミネーション法で積層した後、40℃で24時間のエージング処理を実施することにより、基材層/接着層/ステンレス鋼箔の積層体を作製した。なお、ステンレス鋼箔の化成処理は、実施例1と同様である。次に、ステンレス鋼箔の上に、シーラント層としてのカルボン酸変性ポリプロピレン(ステンレス鋼箔側に配置)14μmとランダムポリプロピレン(最内層側)10μmを共押し出しすることにより、基材層/接着層/ステンレス鋼箔/シーラント層(2層)が順に積層された電池用包装材料を得た。
<ピンホール発生率の測定>
上記で得られた各電池用包装材料を80mm×120mmの長方形に断裁してサンプルを作製した。このサンプルを30mm×50mmの口径を有する成形金型(雌型)と、これに対応した成形金型(雄型)を用いて、押さえ圧0.4MPa、成形深さ4.0mmの条件で、それぞれ10個のサンプルについて冷間成形を行った。冷間成形後のサンプルについて、図1及び図2に示される頂点部pが形成されるように4つ折りし、頂点部pにピンホールが発生しているか否かを目視で確認してピンホールの発生率を求めた。結果を表1に示す。
表1において、「PET」はポリエチレンテレフタレート、「PP」はポリプロピレンを示す。
表1に示されるように、電池用包装材料にステンレス鋼箔が積層されている場合にも、弾性率が100MPa以上である保護層が両面に形成されている実施例1,2では、成形後に4つ折りされた頂点部pのピンホール発生が抑制されていた。特に、シーラント層側に、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを積層した実施例1では、ステンレス鋼箔を用いた厳しい成形条件であるにもかかわらず、ピンホールの発生率が50%にまで抑制されていた。一方、基材層側のみにこのような保護層を有する比較例1では、全てのサンプルで頂点部pにピンホールが発生した。