図1は、本発明の一実施例としてのモータ駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、モータ32と、インバータ34と、バッテリ36と、昇圧コンバータ40と、電子制御ユニット50と、を備える。
モータ32は、同期発電電動機として構成されており、永久磁石が埋め込まれた回転子と、三相コイルが巻回された固定子と、を備える。このモータ32の回転子は、駆動輪22a,22bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸26に接続されている。
インバータ34は、モータ32に接続されると共に高電圧系電力ライン42を介して昇圧コンバータ40に接続されている。このインバータ34は、6つのトランジスタT11〜T16と、6つのダイオードD11〜D16と、を有する。トランジスタT11〜T16は、それぞれ高電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるように2個ずつペアで配置されている。6つのダイオードD11〜D16は、それぞれトランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続されている。トランジスタT11〜T16の対となるトランジスタ同士の接続点の各々には、モータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、電子制御ユニット50によって、対となるトランジスタT11〜T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。高電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには、平滑用のコンデンサ46が取り付けられている。
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、低電圧系電力ライン44を介して昇圧コンバータ40に接続されている。低電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには、平滑用のコンデンサ48が取り付けられている。
昇圧コンバータ40は、インバータ34が接続された高電圧系電力ライン42とバッテリ36が接続された低電圧系電力ライン44とに接続されている。この昇圧コンバータ40は、2つのトランジスタT31,T32と、2つのダイオードD31,D32と、リアクトルLと、を有する。トランジスタT31は、高電圧系電力ライン42の正極母線に接続されている。トランジスタT32は、トランジスタT31と、高電圧系電力ライン42および低電圧系電力ライン44の負極母線と、に接続されている。2つのダイオードD31,D32は、それぞれ、トランジスタT31,T32に逆方向に並列接続されている。リアクトルLは、トランジスタT31,T32同士の接続点と、低電圧系電力ライン44の正極母線と、に接続されている。昇圧コンバータ40は、電子制御ユニット50によって、トランジスタT31,T32のオン時間の割合が調節されることにより、低電圧系電力ライン44の電力を昇圧して高電圧系電力ライン42に供給したり、高電圧系電力ライン42の電力を降圧して低電圧系電力ライン44に供給したりする。
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に、処理プログラムを記憶するROM54やデータを一時的に記憶するRAM56,入出力ポートを備える。
電子制御ユニット50には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50に入力される信号としては、例えば、モータ32の回転子の回転角(回転位置)を検出する回転角検出センサ(例えば、レゾルバと、レゾルバからの信号をデジタル値に変換するR/Dコンバータとを備える周知の回転角検出センサ)32aからのモータ32の回転子の回転角θmや、モータ32の各相に流れる電流を検出する電流センサ32u,32vからのモータ32に流れる相電流Iu,Ivを挙げることができる。また、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからの電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからの電流Ibも挙げることができる。さらに、コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46(高電圧系電力ライン42)の電圧VHや、コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48(低電圧系電力ライン44)の電圧VLも挙げることができる。加えて、イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号や、シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSPも挙げることができる。また、アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vも挙げることができる。
電子制御ユニット50からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。電子制御ユニット50から出力される信号としては、例えば、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号を挙げることができる。電子制御ユニット50は、回転角検出センサ32aからのモータ32の回転子の回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmを演算している。また、電子制御ユニット50は、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibの積算値に基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算している。ここで、蓄電割合SOCは、バッテリ36の全容量に対するバッテリ36から放電可能な電力の容量の割合である。
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、以下の走行制御を行なう。走行制御では、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸26に要求される要求トルクTd*を設定し、設定した要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*に設定し、モータ32がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。また、モータ32をトルク指令Tm*で駆動できるように高電圧系電力ライン42の目標電圧VH*を設定し、高電圧系電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*となるように昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。
ここで、インバータ34の制御について説明する。実施例では、インバータ34については、モータ32の目標動作点(トルク指令Tm*および回転数Nm)に基づいて、正弦波PWM(パルス幅変調)制御モード,過変調PWM制御モード,矩形波制御モードのうちの何れかを制御モードMdとして制御するものとした。ここで、正弦波PWM制御モードは、擬似的な三相交流電圧がモータ32に印加(供給)されるようにインバータ34を制御する制御モードであり、過変調PWM制御モードは、過変調電圧がモータ32に印加されるようにインバータ34を制御する制御モードであり、矩形波制御モードは、矩形波電圧がモータ32に印加されるようにインバータ34を制御する制御モードである。図2は、モータ32の回転数Nm,トルク指令Tm*とインバータ34の制御モードMdとの関係の一例を説明するための説明図である。インバータ34の制御モードMdは、図示するように、モータ32の回転数Nmやトルク指令Tm*が小さい側から大きい側に向けて正弦波PWM制御モード,過変調PWM制御モード,矩形波制御モードとなるように定められる。
正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードでは、電子制御ユニット50は、まず、モータ32の各相(U相,V相,W相)に流れる電流の総和が値0であるとして、電流センサ22u,22vによって検出されたモータ32の相電流Iu,Ivと、回転角検出センサ32aによって検出されたモータ32の回転子の回転角θmに基づいて演算された電気角θeと,を用いて、U相,V相の相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)する。続いて、トルク指令Tm*と予め定めたマップとからd−q座標系におけるd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する。次に、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*とd軸,q軸の電流Id,Iqとの差分ΔId,ΔIqとに基づくフィードバック項としてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を演算する。そして、モータ32の電気角θeを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)し、この電圧指令Vu*,Vv*,Vwと搬送波電圧との比較によってトランジスタT11〜T16のPWM信号を生成して、このPWM信号を用いてトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。
次に、こうして構成された実施例の電気自動車20の動作、特に、矩形波制御モードでインバータ34を制御する際の動作について説明する。図3は、電気自動車20において、矩形波制御モードでのインバータ34の制御を説明するためのブロック図である。
矩形波制御モードでは、電子制御ユニット50は、図示するように、まず、正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードと同一の処理で、U相,V相の相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)する。続いて、d軸,q軸の電流Id,Iqに基づいて、モータ32から出力されていると推定される推定出力トルクTrq1を設定する(推定出力トルク設定)。そして、モータ32の各相(U相,V相,W相)に流れる電流の総和が値0であるとして、推定出力トルクTrq1と電流センサ32u,32bにより検出されたU相,V相の相電流Iu,Ivと電圧センサ36aからの電圧Vbと電流センサ36bからの電流Ibとモータ32の回転数Nmとを用いて補正後トルクTrqを設定する。補正後トルクTrqの設定については後述する。そして、補正後トルクTrqをモータ32の出力トルクとして推定して、補正後トルクTrqとトルク指令Tm*との差分が打ち消されるように、電圧位相指令θp*を計算する(矩形制御フィードバック演算)。こうして電圧位相指令θp*を計算すると、電圧位相指令θp*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるように矩形波信号Vu,Vv,Vwを生成して、生成した矩形波信号Vu,Vv,Vwをインバータ34に出力する(スイッチングパターン出力)。そして、形波信号Vu,Vv,Vwを用いてインバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。電子制御ユニット50は、こうした一連の処理を所定時間Tc毎(例えば、数msec毎など)に実行する。
次に、補正後トルクTrqの設定について説明する。図4は、電子制御ユニット50により実行される補正後トルク設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。本ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、U相,V相の相電流Iu,Ivとバッテリ36の電圧Vb,電流Ibとモータ32の回転数Nmと回転角θmとを入力する処理を実行する(ステップS100)。相電流Iu,Ivは、電流センサ22u,22vで検出されたものを入力している。電圧Vbは、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aにより検出されたものを入力している。電流Ibは、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bにより検出されたものを入力している。回転数Nmは、モータ32の回転子の回転角θmに基づいて演算したものを入力している。回転角θmは、回転角検出センサ32aにより検出されたものを入力している。
次に、d軸,q軸の電流Id,Iqに基づいて、モータ32から出力されていると推定される推定出力トルクTrq1を設定する(ステップS110)。この処理は、上述の推定出力トルク設定に対応する処理である。推定出力トルクTrq1の設定は、d軸,q軸の電流Id,Iqとモータ32から出力されるトルクとの関係を実験や解析などで定めてマップとして記憶しておき、d軸,q軸の電流Id,Iqが与えられたときに対応するトルクを推定出力トルクTrq1に設定する。図5は、d軸,q軸の電流Id,Iqとモータ32から出力されるトルクとの関係を示す説明図である。
続いて、ステップS120〜S150の処理を実行して、モータ32から実際に出力されているトルクの平均値(トルク平均値)Trq1_avと、トルク平均値Trq1_avからの変動量(トルク変動量)ΔTrq2を演算する。トルク変動量ΔTrq2の演算は、バッテリパワーPbとモータ32の回転数Nmとを用いて行なわれる。最初に、バッテリ36に入出力されるバッテリパワーPbを演算する(ステップS120)。バッテリパワーPbは、電圧Vbに電流Ibを乗じて演算する。
続いて、バッテリパワーPbとモータ32の回転数Nmとを用いて、モータ32から出力されているトルクの推定値である推定出力トルクTrq2を演算する(ステップS130)。推定出力トルクTrq2の演算は、バッテリパワーPbに含まれる周波数成分のうち駆動軸26に接続される駆動系(モータ32や駆動輪22a,22b,デファレンシャルギヤ24など)の共振周波数の成分のみを抽出するようにバッテリパワーPbにバンドパス処理を施した値Pb_fitをモータ32の回転数Nmで除して演算される。バッテリパワーPbには、インバータ34や昇圧コンバータ40のスイッチングの周波数成分など様々な周波数成分が含まれる。値Pb_fitを用いて推定出力トルクTrq2を設定することにより、バッテリパワーPbに含まれる周波数成分のうち、駆動軸26に接続される駆動系の共振周波数の成分のみを抽出することができる。ここで、バッテリパワーPbは、回転角検出センサ32aにより検出された回転角θを用いずに演算されるから、回転角検出センサ32aの検出遅れの影響を受けない。回転数Nmは、回転角検出センサ32aにより検出された回転角θmを用いて演算されるが、外乱によりモータ32の回転数が変化したことによって回転角検出センサ32aの検出遅れが生じても、回転数Nmと実際のモータ32の回転数とは大きく乖離しないことが知られている。このように、回転角検出センサ32aの検出遅れの影響を受けないバッテリパワーPbと、回転角検出センサ32aの検出遅れから受ける影響が小さい回転数Nmとを用いて推定出力トルクTrq2を演算するから、推定出力トルクTrq2は、回転角検出センサ32aの検出遅れから受ける影響が小さい値となる。
こうして推定出力トルクTrq2を演算したら、次式(1),(2)を用いて推定出力トルクTrq1,Trq2の平均値であるトルク平均値Trq1_av,Trq2_avを演算する(ステップS140)。式(1),(2)中、「Trq1_N」,「Trq2_N」は、本ルーチンをN(Nは値1以上の実数)回目に実行したときにステップS110,S130の処理で設定または演算された推定出力トルクTrq1,Trq2である。また、値Nthは、次式(3)を用いて演算される。式(3)中、「ωe」は、モータ32を含む駆動系のねじれ振動の共振周波数である。駆動系としては、モータ32の回転軸が車両の駆動軸に接続されるときには、駆動軸に接続される駆動系(モータや駆動輪,デファレンシャルギヤなど)を挙げることができる。なお、「N」は、本ルーチンの繰り返し回数が値Nthになったときに値0にリセットされる。
Nth=(1/ωe)/Tc・・・(3)
次に、推定出力トルクTrq2からトルク平均値Trq_2を減じてトルク変動量ΔTrq2を演算する(ステップS150)。推定出力トルクTrq2が、回転角検出センサ32aの検出遅れから受ける影響が小さい値であるから、トルク変動量ΔTrq2も回転角検出センサ32aの検出遅れから受ける影響が小さい値となっている。
こうしてトルク平均値Trq1_avとトルク変動量ΔTrq2を演算すると、回転数Nm2の変動量ΔNmが所定変動量dNmrefを超えているか否かを判定する(ステップS160)。変動量ΔNmは、ステップS100の処理で入力されたモータ32の回転数Nmから前回本ルーチンを実行したときにステップS100の処理で入力された回転数Nmを減じることにより演算される。所定変動量dNmrefは、外乱によりモータ32の回転数Nmに変動が生じている否かを判定するための閾値であり、例えば、50rpm,100rpm,150rpmなどに設定される。
ステップS160の処理により変動量ΔNmが所定変動量dNmref以下であると判定されたときには、モータ32の回転数Nmが変動していないと判断して、推定出力トルクTrq1を補正後トルクTrqに設定して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。こうした補正後トルクTrqを設定すると、補正後トルクTrqをモータ32の出力トルクとして推定して、補正後トルクTrqとトルク指令Tm*との差分が打ち消されるように、電圧位相指令θp*を計算し、電圧位相指令θp*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるように矩形波信号Vu,Vv,Vwを生成する。そして、生成した矩形波信号Vu,Vv,Vwをインバータ34に出力することにより、インバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。このように、正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードと同一の状態量(相電流Iu,Ivと回転角θm)を用いて演算されたd軸,q軸の電流Id,Iqに基づく推定出力トルクTrq1を補正後トルクTrqに設定し、補正後トルクTrqをモータ32から出力されるトルクとして推定して、インバータ34を制御することにより、正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードと矩形波制御との間で制御モードを切り替える際のモータ32からの出力トルクの急変を抑制している。
ステップS160の処理で変動量ΔNmが所定変動量dNmrefを超えていると判定されたときには、モータ32の回転数Nmが変動していると判断して、続いて、トルク変動量ΔTrq1が所定トルク変動量dTrqrefを超えているか否かを判定する(ステップS170)。トルク変動量ΔTrq1は、ステップS110の処理で設定した推定出力トルクTrq1から前回本ルーチンを実行したときにステップS110の処理で設定した推定出力トルクTrq1を減じることにより演算される。所定トルク変動量dTrqrefは、実際にモータ32から出力されているトルクが変動しているか否かを判定するための閾値である。
ここで、ステップS130の処理で、トルク変動量ΔTrq1が所定トルク変動量dTrqrefを超えているか否かを判定する理由について説明する。図6は、外乱によりモータ32の回転数Nmが変化しているときの推定出力トルクTrq1とモータ32から実際に出力されている実トルクTmrとの時間変化の一例を示す説明図である。図中、実線は、実トルクTmrの時間変化の一例である。破線は、推定出力トルクTrq1の時間変化の一例である。回転角検出センサ32aは、応答性の良いことが望ましいが、応答性が良すぎるとノイズ耐性が低下するため、応答性が若干低下するよう構成されている。そのため、外乱によりモータ32の回転数Nmが変化すると、回転角検出センサ32aによるモータ32の回転角θmの検出遅れが生じる。こうした検出遅れが生じると、図示するように、実トルクTmrの位相に対して推定出力トルクTrq1の位相が遅くなる。そのため、推定出力トルクTrq1は、実トルクTmrが増加しモータ32の回転数Nmが増加しているときには、実トルクTmrに比して小さく演算され、実トルクTmrが減少しモータ32の回転数Nmが減少しているときには、実トルクTmrに比して大きく演算される。このように実トルクTmrと推定出力トルクTrq1との間に位相差が生じた状態で、推定出力トルクTrq1をそのまま補正後トルクTrqに設定し、補正後トルクTrqとトルク指令Tm*との差分が打ち消されるように電圧位相指令θp*を計算し、電圧位相指令θp*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるように生成した矩形波信号Vu,Vv,Vwでインバータ34を制御すると、モータ32から実際に出力されるトルクがトルク指令Tm1*付近のトルクで増減し(振動し)、モータ32の回転数Nmやモータ32から出力するトルクに変動が生じる。モータ32の回転数Nmの変動は、上述したモータ32の回転数Nmの変化とは異なる要因でも生じる。実施例では、トルク変動量ΔTrq1が所定変動量dNmrefを超えているか否かを判定することにより、実際にモータ32から出力するトルクに変動が生じているか否かを判定している。こうした理由により、トルク変動量ΔTrq1が所定トルク変動量dTrqrefを超えているか否かを判定する。
ステップS170の処理でトルク変動量ΔTrq1が所定トルク変動量dTrqref以下であると判定されたときには、実際にモータ32から出力しているトルクの変動が小さいため、推定出力トルクTrq1を補正後トルクTrqに設定しても差し支えないと判断して、推定出力トルクTrq1を補正後トルクTrqに設定して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。こうして補正後トルクTrqを設定すると、補正後トルクTrqをモータ32の出力トルクとして推定して、補正後トルクTrqとトルク指令Tm*との差分が打ち消されるように、電圧位相指令θp*を計算し、電圧位相指令θp*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるように矩形波信号Vu,Vv,Vwを生成する。そして、生成した矩形波信号Vu,Vv,Vwをインバータ34に出力することにより、インバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。こうした処理により、正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードと矩形波制御との間で制御モードを切り替える際のモータ32からの出力トルクの急変を抑制している。
ステップS170の処理でトルク変動量ΔTrq1が所定トルク変動量dTrqrefを超えていると判定されたときには、モータ32から出力しているトルクの変動が大きくなっていると判断して、トルク平均値Trq_avにトルク変動量ΔTrq2を加えたものを補正後トルクTrqに設定して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。こうして補正後トルクTrqを設定すると、補正後トルクTrqをモータ32の出力トルクとして推定して、補正後トルクTrqとトルク指令Tm*との差分が打ち消されるように、電圧位相指令θp*を計算し、電圧位相指令θp*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるように矩形波信号Vu,Vv,Vwを生成する。そして、生成した矩形波信号Vu,Vv,Vwをインバータ34に出力することにより、インバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。こうした処理により、正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードと同一の状態量(相電流Iu,Ivと回転角θm)を用いて演算される推定出力トルクTrq1を用いて演算されるトルク平均値Trq_1にトルク変動量ΔTrq22を加えたものを補正後トルクTrqに設定するから、正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードと異なる状態量から演算されるモータ32から出力されるトルクの推定値(例えば、バッテリパワーPbから推定される推定出力トルクTrq2)をそのまま補正後トルクTrqとするものに比して、正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードと矩形波制御との間で制御モードを切り替える際のモータ32からの出力トルクの急変を抑制することができる。また、トルク平均値Trq_avに回転角検出センサ32aの検出遅れから受ける影響が小さいトルク変動量ΔTrq2を加えたものを補正後トルクTrqに設定するから、補正後トルクTrqをよりモータ32から実際に出力されている実トルクTmrへ近づけることができる。
図7は、推定出力トルクTrq1を補正後トルクTrqとして矩形制御フィードバック演算したときの電圧位相指令θp*と、実際に出力されている実トルクTrを補正後トルクTrqとして矩形制御フィードバック演算したときの電圧位相指令θprと、の時間変化の一例を示す説明図である。図中、実線は、電圧位相指令θprの時間変化の一例である。破線は、電圧位相指令θp*の時間変化の一例である。図7に示すように、電圧位相指令θp*と電圧位相指令θprとは乖離している。実施例では、補正後トルクTrqを実トルクTmrに近づけることができるから、電圧位相指令θp*を電圧位相指令θprに近づけることができる。これにより、外乱によるモータ32の出力トルクの変動を抑制することができる。よって、車両の振動を抑制することができる。
以上説明した実施例の電気自動車20によれば、矩形波制御モードでインバータ34を制御するときには、モータ32の各相の電流Iu,Iv,Iwとモータ32の回転角θmとを用いてトルク平均値Trq_avを演算し、バッテリパワーPbとモータ32の回転数Nmとを用いてモータ32のトルク変動量ΔTrq2を演算し、トルク平均値Trq_avにトルク変動量ΔTrq2を加えたトルクをモータ32の出力トルクと推定し、推定した出力トルクを用いてモータ32が目標トルクTm*で駆動するようにインバータ34を制御することにより、矩形波制御モードと他の制御モードとの間で制御モードを切り替える際の出力トルクの急変を抑制すると共に、外乱によるモータ32の出力トルクの変動を抑制することができる。
実施例の電気自動車20では、ステップS160,S170の処理で、回転数Nm2の変動量ΔNmが所定変動量dNmrefを超えているか否かやトルク変動量ΔTrq1が所定トルク変動量dTrqrefを超えているか否かを判定しているが、ステップS160,S170の処理およびステップS180の処理を実行せずに、ステップS150の処理を実行した後に、ステップS190の処理を実行してもよい。
実施例の電気自動車20では、バッテリ36とインバータ34との間に昇圧コンバータ40を備えているものとしているが、昇圧コンバータ40を備えていないものとしても構わない。
実施例の電気自動車20では、蓄電装置として、バッテリ36を用いるものとしたが、キャパシタなどの蓄電可能な装置であれば如何なる装置を用いるものとしてもよい。
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、インバータ34が「インバータ」に相当し、回転角検出センサ32aが「回転角検出センサ」に相当し、電子制御ユニット50が「制御装置」に相当する。
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。