(1)本実施形態のバイオ燃料電池
本実施形態に係るバイオ燃料電池は、アノード電極及びカソード電極の少なくとも一方として、後述する本実施形態の電池用電極を用いる。本実施形態に係るバイオ燃料電池は、この点が異なる以外、公知のバイオ燃料電池の構成を用いることができる。
例えば、本実施形態のバイオ燃料電池は、アノード電極及びカソード電極が、電解液中に配置された構成を有する。電解液は、酸化されて電子を放出する燃料、酸化還元酵素、及び必要に応じて電子伝達メディエータを含む。酸化還元酵素は、アノード電極で燃料を酸化させると共に、カソード電極で酸素などを還元させる。電子伝達メディエータは、酵素及び電極間の電子の受け渡しを媒介する。
燃料としては、糖、アルコール、有機酸、アミン、水素及び無機化合物などの生物がエネルギー源として利用できるすべての還元物質を用いることができる。
より具体的には、燃料としては、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリン、ポリビニルアルコールなどのアルコール類、グルコース、フルクトース、ソルボースなどの糖類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、及びこれら混合物を用いることができる。
酸化還元酵素としては、上記の燃料を酸化できるとともに酸素を還元できる酵素を、使用する燃料に応じて選択して用いることができる。
例えば、酸化還元酵素として、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ(BOD)、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ(GOD)、アルコールオキシダーゼ(AOD)、及びアルデヒドオキシダーゼなどを用いることができる。
酸化還元酵素は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電子伝達メディエータとしては、例えば、Os、Fe、Ru、Co、Cu、Ni、V、Mo、Cr、Mn、Pt及びWなどの金属元素を中心金属とする金属錯体、キノン、ベンゾキノン、アントラキノン及びナフトキノン等のキノン類、ビオローゲン、メチルビオローゲン及びベンジルビオローゲンなどの複素環式化合物などが挙げられる。電子伝達メディエータは、使用する酸化還元酵素に応じて選択される。
(2)本実施形態の電池用電極の構成
図1に示すように、電池用電極10は、複数の炭素繊維束14を含む基材12を備えている。
本実施形態においては、基材12は、炭素繊維束14を経糸14a及び緯糸14bとした平織りの織布(炭素繊維クロス)である。基材12は、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂により撥水処理が施されていてもよい。炭素繊維束14は、図2に示すように複数の炭素繊維16を含んでいる。
基材12の一表面には、図3のCCD顕微鏡画像に示すような導電性網目構造体18が形成されている。なお、図3のCCD顕微鏡画像は、導電性網目構造体18をエタノールに再分散させて観察したものである。導電性網目構造体18は、基材12の一表面の炭素繊維束14に含まれる炭素繊維16の表面に付着している。導電性網目構造体18は、基材12の一表面を覆う単一の構造体に限定されない。導電性網目構造体18は、5μm□〜600μm□程度の大きさの構造体を複数含む場合がある。
導電性網目構造体18は、カーボンナノチューブ(以下、CNTという)の薄片20の集合体を含む。本実施形態においては、導電性網目構造体18は、CNT薄片20の集合体からなる(図4A、図4B参照)。CNT薄片20は、複数のCNTが互いに直接接続され、複数層に積層された薄片である。CNT薄片20は、数nm〜十数nm程度の厚さを有する。複数のCNT薄片20が三次元的に結合して網目状となって、導電性網目構造体18が形成される。CNT薄片20は、CNTを介して他のCNT薄片20と結合していてもよい。導電性網目構造体18中には、1〜100μm程度の大きさの連続気泡が存在する。
直接接続とは、CNT同士が、分散剤や界面活性剤、接着剤などで覆われておらず、互いに絡み合った状態で、CNT同士の間に接着剤や分散剤、界面活性剤などの介在物を介さずに接続していることをさす。直接接続には、物理的な接続(単なる接触)と、化学的な接続とが含まれる。
電池用電極10は、基材12の内部にも導電性網目構造体18が付着している。基材12の内部とは、基材12の外側に露出していない部分をさし、炭素繊維束14の内部を含む。図5に示すように、炭素繊維束14の内部では、CNT薄片20同士の間に隙間24を有する導電性網目構造体18が炭素繊維16同士をつないでいる。
導電性網目構造体18は、炭素繊維16の表面に直接固定されている。導電性網目構造体18は、導電性網目構造体18に含まれるCNT薄片20またはCNT(図示せず)が、炭素繊維16の表面に直接固定されることによって、炭素繊維16の表面に固定されている。炭素繊維16とCNT薄片20との間、炭素繊維16とCNTとの間には、接着剤や分散剤、界面活性剤などは存在しない。
図示していないが、導電性網目構造体18は、炭素繊維束14の表面でも、炭素繊維16同士をつないでいる。この場合も、CNT薄片20またはCNTが、炭素繊維16の表面に直接固定される。2つの炭素繊維束14(経糸14aと緯糸14b)が接する部分では、複数のCNT薄片20が導電性網目構造体18を形成して、一方の炭素繊維束14(例えば経糸14a)に含まれる炭素繊維16と、他方の炭素繊維束14(例えば緯糸14b)に含まれる炭素繊維16とをつなぐことができる。
導電性網目構造体18によりつながれた炭素繊維16のSEM像を、図6に示す。2本の炭素繊維16の間には隙間24が存在し、炭素繊維16同士は、CNT薄片20の集合体からなる導電性網目構造体18によってつながれている。導電性網目構造体18中のCNT薄片20は、炭素繊維16の表面に直接固定されている。図6には示されていないが、導電性網目構造体18中には、所定の大きさの連続気泡が存在する。炭素繊維16の表面の一部には、CNT19が付着していることが確認される。
固定とは、導電性網目構造体18に含まれるCNTと炭素繊維16とのファンデルワールス力による結合、及び導電性網目構造体18に含まれるCNTと炭素繊維16との官能基を介した化学的な結合を含む。官能基は、後述するように、炭素繊維16の表面、又は導電性網目構造体18に含まれるCNTの表面に形成されたものである。
本実施形態の場合、炭素繊維16の表面は酸化されている。炭素繊維16の表面の一部には、ヒドロキシ基及びカルボキシ基などの官能基が形成されている。
導電性網目構造体18に含まれるCNTも同様に表面が酸化されており、ヒドロキシ基及びカルボキシ基などの官能基を表面に有している。CNT表面の官能基は、電池用電極10を電池の電極として用いた際に電子の受け渡しに寄与する。
これによって、より円滑に電子の受け渡しが行われるようになる。その結果、電池用電極10を電極に用いた電池では、効率的に電気エネルギーを発生させることができるようになり、電池の出力が向上する。電池用電極10をバイオ燃料電池の電極に用いた場合は、導電性網目構造体18と電子伝達メディエータとの電子の受け渡しが官能基を介しても行われるようになる、このようなバイオ燃料電池は、電子の受け渡しがより円滑になって電池の出力がより向上する。
上述したように、本実施形態の電池用電極10は、基材12に付着した導電性網目構造体18を含んでいる。導電性網目構造体18は、複数のCNT薄片20の集合体からなる。導電性網目構造体18に含まれるCNTの総量は、基材12に対し0.01wt%以上10wt%以下の割合であることが好ましい。0.01wt%未満の場合はCNTの存在頻度が低く、炭素繊維同士を繋ぐことが難しい。一方、10wt%を超えると、チキソ性が高すぎて炭素繊維クロスとの親和性が悪化して、複合化が困難になる。CNTが上記範囲内の割合である場合、基材12の機能を損なうことなく、電池の出力を高めることができる。電池用電極10に含まれるCNTの総量は、基材12に対し0.1wt%以上10wt%以下であるのがより好ましく、3wt%以上10wt%以下であるのが最も好ましい。
CNT薄片20は、基材12の一表面及び内部で網目状となって導電性網目構造体18を形成していればよく、基材12の厚さ方向におけるCNT薄片20の分布状態は、特に規定されない。導電性網目構造体18は、基材12の一表面に加えて他表面にも形成されていてもよい。
なお、基材12及び導電性網目構造体18の機能を制限しない限り、電池用電極10は、炭素繊維16と接着剤や分散剤などを介して結合したCNTを含むCNT薄片20が存在していてもよい。
(3)本実施形態の電池用電極の製造方法
続いて、電池用電極10の製造方法を説明する。電池用電極10を製造する方法は、(3−1)CNT分散液を準備する工程、及び(3−2)CNT薄片の集合体からなる導電性網目構造体を基材に付着させる工程を含む。CNT薄片は、CNT分散液を凍結乾燥させることによって形成される。以下、各工程について説明する。
(3−1)CNT分散液を準備する工程
CNT分散液は、例えばCNTを作製し、得られたCNTを分散溶媒に分散させることにより準備することができる。
(3−1−1)CNTの作製
CNTは、例えば特開2007−126311号公報に記載されているような熱CVD法を用いて作製することができる。この場合、まず、シリコン基板上にアルミニウム、鉄からなる触媒膜を成膜し、触媒膜を熱処理して触媒膜表面に触媒粒子を形成する。次に、加熱雰囲気中で炭化水素ガスを触媒粒子に接触させ、触媒粒子からCNTを成長させることで、CNTを作製できる。
このようにして作製されたCNTは、基板上において基板表面に対して垂直方向に直線的に配向し、数百から数千という高いアスペクト比を有している。CNTは、基板から刈り取って使用する。刈り取ったCNTに触媒粒子やその欠片などの触媒残渣が含まれている場合には、適切な処理を施して触媒残渣を取り除くことが望ましい。触媒残渣は、作製したCNTを不活性ガス中で高温アニールすることによって除去することができる。あるいは、硝酸と硫酸の混酸、または過酸化水素水と硫酸の硫酸過水にCNTを浸漬して酸処理を施すことによって、触媒残渣を除去してもよい。混酸中における硝酸と硫酸との比率は、任意に決定することができる。硫酸過水中における過酸化水素水と硫酸との比率も、任意に決定することができる。CNTに酸処理を施した場合には、CNTの表面が酸化される。
CNTは、CNT以外の不純物(触媒残渣など)を極力含まずに得られる方法で作製するのが望ましい。CNTは、アーク放電法、レーザ蒸発法などその他の方法により作製することもできる。作製されたCNT中に不純物が含まれている場合には、不純物は、触媒残渣と同様に除去することが望まれる。
CNTは、多層であるのが好ましい。またCNTは、長さが0.1μm以上50μm以下であるのが好ましい。CNTは長さが0.1μm以上であると、CNT同士が絡まり合って直接接続される。またCNTは長さが50μm以下であると、均等に分散しやすくなる。一方、CNTは長さが0.1μm未満であるとCNT同士が絡まりにくくなる。また、CNTは長さが50μm超であると凝集しやすくなる。
CNTは、直径が30nm以下であるのが好ましい。CNTは直径が30nm以下であると、柔軟性に富み容易に変形できるので、CNT薄片20を形成して導電性網目構造体18を構成し易い。一方、CNTは直径が30nm超であると、柔軟性が乏しくなって変形しにくくなるので、CNT薄片20を形成し難くなる。
CNTの直径は、20nm以下であるのがより好ましい。CNTの直径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により撮影した画像から求めた平均直径とする。画像は、凍結乾燥する前のCNT分散液中からCNTの一部を取り出して撮影することができる。
(3−1−2)CNTの分散
まず、上記の方法で作製したCNTを所定温度の酸素雰囲気中で酸化する。酸化により触媒や金属が除去されて、ヒドロキシ基やカルボキシ基などの官能基が、CNTの表面の一部に形成される。CNTは、オゾン処理により酸化することができる。CNTは、硝酸と硫酸の混酸、あるいは過酸化水素水と硫酸の硫酸過水に浸漬することによって酸化することもできる。混酸中における硝酸と硫酸との比率は、任意に決定することができる。硫酸過水中における過酸化水素水と硫酸との比率も、任意に決定することができる。
上述したようにCNT作製において、酸処理により触媒残渣を除去した場合には、CNTの表面が酸化される。CNTの表面の一部には、酸化によってヒドロキシ基やカルボキシ基などの官能基がすでに形成されているので、ここでの酸化は必ずしも行なう必要はない。
表面が酸化されたCNTを、所定の濃度となるように分散溶媒に加え、均一に分散させてCNT分散液が得られる。CNT分散液中のCNTの濃度が低すぎる場合には、CNT薄片20を形成して導電性網目構造体18を得ることが困難になる。CNT分散液中におけるCNTの濃度は、少なくとも500ppm程度以上であることが望まれる。CNTの濃度が過剰に高いCNT分散液を用いても、顕著な効果が得られるわけではない。CNT分散液中のCNTの濃度は、最大でも10000ppm程度とすれば十分である。CNT分散液中におけるCNTの濃度は、例えば1000ppmとすることができる。
CNTを均一に分散させるには、ホモジナイザーや高圧せん断、超音波分散機などを用いることができる。CNT分散液は、CNTが1本ずつ物理的に分離して絡み合っていない状態で分散溶媒中に分散している。2以上のCNTが凝集した凝集体の割合は、CNT全体の10%以下である。CNTの凝集体の割合は、TEM画像からCNTの本数と凝集体の個数を測定して求めることができる。
分散溶媒は、その中にCNTが分散できることに加えて、極低温冷媒に接触させて凍結すること、乾燥により除去できること、が求められる。分散溶媒としては、例えば、水、アルコール類(エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなど)、有機溶媒(トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチルなど)を用いることができる。CNT分散液は、基材12及びCNTの機能を制限しない限り、分散剤、界面活性剤、接着剤などを含有していてもよい。
なお、CNT分散液を準備するに当たって、CNTの作製は必ずしも必要とはされない。上述したような条件を備えたCNTを入手した場合には、所定の分散溶媒に分散させてCNT分散液を準備することができる。CNT分散液自体を入手可能な場合には、CNTの作製や分散溶媒へのCNTの分散を行なうことなく、CNT分散液を準備することができる。
(3−2)CNT薄片の集合体からなる導電性網目構造体を基材に付着させる工程
基材12に前処理を施した後、CNT分散液を用いて、CNT薄片20の集合体からなる導電性網目構造体を基材12に付着させる。
(3−2−1)基材の前処理
基材12としては、所定の大きさに切断した炭素繊維クロスなどを用意する。炭素繊維クロスは、複数の炭素繊維16を含む炭素繊維束14を経糸14a及び緯糸14bとして有する平織りの織布とすることができる。炭素繊維クロスは、テフロンにより撥水化処理が施されていてもよい。使用し得る基材12としては、例えば、東陽テクニカ製カーボンクロス(EC−CC1−0601T)が挙げられる。
基材12は、酸素雰囲気中で所定温度に加熱して、炭素繊維束14を構成している炭素繊維16の表面を酸化する。基材12を加熱する。これにより、触媒や金属が除去されて、炭素繊維16の表面の一部にヒドロキシ基やカルボキシ基などの官能基が形成される。炭素繊維16の表面は、オゾン処理により酸化することができる。あるいは、例えば硝酸と硫酸の混酸に基材12を浸漬することによって、炭素繊維16の表面を酸化してもよい。混酸中における硝酸と硫酸との比率は、任意に決定することができる。
このようにヒドロキシ基やカルボキシ基などの官能基を炭素繊維16の表面の一部に形成して、基材12に前処理が施される。
(3−2−2)基材への導電性網目構造体の付着
導電性網目構造体18は、上述のように調製されたCNT分散液を、前処理後の基材12に浸透させ、凍結乾燥によりCNT薄片20を基材12の表面及び内部に形成して、基材12に付着させることができる(第1の付着法)。あるいは、導電性網目構造体18は、CNT薄片分散液を前処理後の基材12に浸透させることによって、基材12に付着させることができる(第2の付着法)。CNT薄片分散液は、CNT薄片20を含む分散液であり、CNT分散液を凍結乾燥させて調製することができる。CNT分散液の凍結乾燥は、例えば特開2015−101531号公報に記載されている方法を参考にすることができる。第1、第2のそれぞれの付着法について、以下に説明する。
<第1の付着法>
まず、上述のように調製されたCNT分散液を、前処理後の基材12に浸透させる。CNT分散液は、基材12を構成している炭素繊維束14の内部、具体的には炭素繊維16同士の間まで浸透することが求められる。基材12をCNT分散液中に浸漬して、CNT分散液を炭素繊維束14内部まで浸透させることができる。CNT分散液は、撥水性の樹脂シートの上に載置された基材12の表面に滴下して、炭素繊維束14の内部まで浸透させてもよい。撥水性の樹脂シートとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用いることができる。
CNT分散液が浸透した基材12は、急冷してCNT分散液を凍結させる。例えば、CNT分散液が浸透した基材12を所定の容器に収容し、容器ごと極低温冷媒に浸漬して、基材12に浸透したCNT分散液を凍結させる。極低温冷媒としては、例えば液体窒素、ドライアイス等を用いることができる。CNT分散液中の分散溶媒は、基材12を構成している炭素繊維束14の表面及び内部で急冷凍結し、基材12の全体にわたって多数の凍結氷塊が生成する。
炭素繊維束14の表面及び内部では、CNT分散液中のCNTが凍結氷塊外に押しやられる。複数のCNTが互いに直接接続され、複数層に積層して薄片を形成する。こうして、複数のCNT薄片20が炭素繊維束14の表面及び内部に形成される。CNT薄片20の厚さは、数nm〜十数nm程度である。CNT分散液が凍結した炭素繊維束14は複数の炭素繊維16を含んでいるので、炭素繊維16同士の間は、凍結氷塊とCNT薄片20とで埋められる。CNT薄片20の形成に寄与しなかったCNTが、そのまま残留する場合もある。
次いで、減圧乾燥を行なって、凍結氷塊を除去する。減圧乾燥は、例えば真空乾燥機中に所定時間、基材12を載置することによって達成することができる。凍結氷塊が除去され、複数のCNT薄片20が三次元的に結合して網目状となり、導電性網目構造体18が形成される。導電性網目構造体18には、1〜100μm程度の連続気泡が含まれる場合がある。CNTが残留している場合には、このCNTも導電性網目構造体18に取り込まれる。CNT薄片20又はCNTが炭素繊維16に直接固定されて、導電性網目構造体18が基材12の内部に付着する。
導電性網目構造体18は、炭素繊維束14内部で炭素繊維16同士をつなぐ。さらに、導電性網目構造体18は、炭素繊維束14同士の間でも、炭素繊維16同士をつなぐことができる。凍結氷塊が除去された部分は、導電性網目構造体18の隙間24になる。隙間24の大きさは、10〜500nm程度である。
基材12に浸透したCNT分散液中の分散溶媒が凍結することによって、基材12の表面にも多数の凍結氷塊とともにCNT薄片20が形成される。凍結氷塊を除去することで、基材12の表面にも導電性網目構造体18が付着する。
このように、第1の付着法では、基材12に浸透したCNT分散液を凍結乾燥させることによって、基材12の表面及び内部に導電性網目構造体18が形成される。
<第2の付着法>
まず、上述のように調製されたCNT分散液を所定の容器に収容し、液体窒素等の極低温冷媒に容器ごと浸漬してCNT分散液を凍結させる。CNT分散液を凍結させることによって、分散溶媒は凍結氷塊となり、CNTが凍結氷塊外に押しやられる。押しやられた複数のCNTによってCNT薄片20が塊状に形成される。塊状のCNT薄片20(以下、バルク体とも称する)の大きさは、数〜数百μm程度である。上述したように、CNT薄片20は、複数のCNTが互いに直接接続され、複数層に積層することで形成される。
図7には、塊状のCNT薄片20(バルク体200)のSEM画像を示す。多数のCNT薄片20が高密度に集合して、バルク体200が構成されている。バルク体200を、図8に模式的に示す。バルク体200においては、CNT薄片20同士の間に隙間240が存在している。隙間240が存在していることにより、後の工程で機械的エネルギーを付与して、個々のCNT薄片20に分離することができる。
分散溶媒を加え、塊状のCNT薄片20(バルク体200)に機械的エネルギーを付与することで個々のCNT薄片20に分離する。CNT薄片20は、これ以上小さくならない最小の大きさの薄片である。このようなCNT薄片20は、電池に作製した際に受けることが想定される応力以上の機械的エネルギーを、分散溶媒中のバルク体200に付与することによって得ることができる。分散溶媒としては、例えばアルコール類(エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなど)、水、有機溶媒(トルエン、アセトン、THF、MEK、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチルなど)等を用いることができる。機械的エネルギーとしては、超音波、ホモジナイザーなどが挙げられる。例えば、バルク体200を含む分散溶媒10〜100mlに対し、100〜1200W程度の超音波を1〜30分程度付与することで、目的のCNT薄片20を含むCNT薄片分散液が得られる。
CNT薄片分散液を前処理後の基材12に浸透させて、導電性網目構造体18を基材12の表面及び内部に付着させることができる。CNT薄片分散液は、基材12を構成している炭素繊維束14の内部、具体的には炭素繊維16同士の間まで浸透することが求められる。基材12をCNT薄片分散液中に浸漬して、CNT薄片分散液を炭素繊維束14内部まで浸透させることができる。CNT薄片分散液は、撥水性の樹脂シートの上に載置された基材12の表面に滴下して、炭素繊維束14の内部に浸透させることもできる。
次いで、CNT薄片分散液が浸透した基材12から分散溶媒を除去する。分散溶媒は、一般的な方法により基材12から除去することができる。分散溶媒が除去され、複数のCNT薄片20が三次元的に結合して網目状となり、導電性網目構造体18が形成される。CNT薄片20が炭素繊維16に直接固定されることにより、導電性網目構造体18が基材12の内部に付着する。
導電性網目構造体18は、炭素繊維束14内部及び表面で炭素繊維16同士をつなぐ。こうして、複数のCNT薄片20を含む導電性網目構造体18が基材12の表面及び内部に形成される。
凍結乾燥を用いた任意の方法によりCNT分散液からCNT薄片20を形成して、基材12の表面及び内部に導電性網目構造体18を付着させることによって、本実施形態の電池用電極10を製造することができる。
(4)電池用電極の評価
製造された電池用電極10は、例えば次のような手法で還元電流値を測定して性能を評価することができる。
まず、電池用電極の液相側表面に酵素(例えばBOD)を吸着させ、気相側裏面に撥水性の樹脂シート(例えばPTFEシート)を配置して、試料電極を準備する。
対電極(例えば白金電極)と参照電極(Ag−AgCl電極)とを用い、電解液中で酵素を還元して、電池用電極の還元電流値を測定する。電解液としては、例えばpH5のクエン酸緩衝液(1.5mol/L)を用いることができる。セル温度は、例えば40℃とし、酸素雰囲気下で測定を行なう。
(5)作用及び効果
本実施形態の電池用電極10は、CNT薄片20の集合体からなる導電性網目構造体18が基材12の表面及び内部に付着している。基材12内部の導電性網目構造体18は、基材12を構成している炭素繊維束14の内部に入り込んで、炭素繊維束14に含まれる炭素繊維16同士をつないでいる。さらに、炭素繊維束14間においても、導電性網目構造体18は、炭素繊維16同士をつないでいる。
CNT薄片20は、CNT分散液が基材12に浸透する前又は浸透した後に、CNT分散液を凍結乾燥させて形成する。これによって、基材12の表面及び内部に導電性網目構造体18を付着させることが可能となった。基材12に付着するのは、CNT薄片20の集合体からなる導電性網目構造体18であるので、基材12の表面がCNT層で覆われたり、基材12が目詰まりするおそれは極めて小さい。
電池用電極10は、導電性網目構造体18が基材12の内部にも付着しているので、基材の表面のみにCNTが付着している場合よりも、CNTの付着量を増大させることができた。CNTは、導電性網目構造体18を形成して基材12の内部で炭素繊維16同士をつないでいることから、基材12からCNTが脱離するおそれは小さい。電池用電極10は、より多量のCNTが効果的に基材12に付着している。
CNTが導電性網目構造体18として基材12の表面に付着しているので、電池用電極10をバイオ燃料電池の電極として用いた際、電解液や酸化還元酵素などの流通が促進されるのに加えて、表面積拡大によって電極に取り込める酵素量が向上するため、電池の出力がよりいっそう向上する。
炭素繊維16同士をつなぐ導電性網目構造体18は、炭素繊維束14内部で導電性経路を形成する。導電性網目構造体18は、炭素繊維束14内の炭素繊維16同士をつないでいるので、炭素繊維束14の内部に導電性経路が形成される。炭素繊維束14の表面で導電性網目構造体18が炭素繊維16に付着することで、炭素繊維束14の表面にも導電性経路が形成される。複数の炭素繊維束14が電池用電極10の基材12を構成しているので、導電性網目構造体18に起因した導電性経路は基材12全体にわたって存在する。これによって、電池用電極10は、電池に用いたとき、電池の出力をより向上できる。
電池用電極10は、基材12の一表面に導電性網目構造体18が付着することによって表面積が増大する。導電性網目構造体18は網目状であるので、CNT単体が基材に付着する場合よりも、表面積の増大の割合は大きくなる。こうした表面積の増大も、電池の出力が向上する一因となる。
本実施形態のバイオ燃料電池は、本実施形態の電池用電極10を用いて構成される。バイオ燃料電池は、基材12の表面及び内部に導電性網目構造体18が存在することで導電性経路が十分に形成されるので、従来よりも効率的に電気エネルギーを生成できる。また、電池用電極10の表面積が大きいことから、従来よりも電流密度を増加でき、電池の出力をより向上できる。
(6)他の実施形態の電池用電極の構成
基材12は、複数の炭素繊維束14を含んでいれば、織布に限定されない。図9に示すような複数の炭素繊維束14を含む不織布を基材22として用いて、電池用電極10Aを構成することもできる。電池用電極10Aは、CNT薄片20の集合体からなる導電性網目構造体18が、図9に示すように基材22の表面で炭素繊維束14に付着している。図示していないが、基材22の内部においても、炭素繊維束14に導電性網目構造体18が付着している。
図1に示した電池用電極10の場合と同様に、炭素繊維束14には複数の炭素繊維(図示せず)が含まれている。炭素繊維束14に含まれる炭素繊維同士は、上述したように導電性網目構造体18によってつながれている。
基材22は、互いに交わる複数の炭素繊維束14が接触する部分、隣接する炭素繊維束14同士が接触する部分、及び複数の炭素繊維束14によって形成された網目などの一部に樹脂など接着剤からなる接着部(図示せず)が形成されていてもよい。この場合、炭素繊維束14同士が接着部によって接着される。
接着部は、例えば、フッ素樹脂などの樹脂材料を炭化して形成される。接着部が炭化されると導電性を示す。この場合、基材22は、接着部が樹脂などの絶縁体で形成されている場合と比較して、導電性が高くなる。
電池用電極10Aは、炭素繊維束14に含まれる炭素繊維同士が導電性網目構造体18によってつながれているので、導電性経路が炭素繊維束14内部に形成される。基材22として用いられる不織布は、炭素繊維束14を経糸14a及び緯糸14bとして織られた織布と比較して、炭素繊維束14同士の隙間が大きい。不織布では、炭素繊維束14の隙間により緻密に導電性網目構造体18が形成される。炭素繊維束14同士の間でも、炭素繊維同士は導電性網目構造体18によってつながれる。
織布に含まれる炭素繊維束14の延びる方向は、縦方向と横方向の2方向のみであるのに対し、不織布に含まれる炭素繊維束14は任意の方向に延びている。基材22を構成している炭素繊維束14が任意の方向に延びることによって、導電性経路がより効率的に基材22内に形成される。
基材22として不織布を用いた電池用電極10Aは、電池用電極10より高い効果が得られることが期待される。
(7)実施例
上記「(3)本実施形態の電池用電極の製造方法」に示す手順にしたがって、実施例1の電池用電極を作製した。CNTとしては、上述した熱CVD法によりシリコン基板上に直径10〜15nm、長さ100μmm以上に成長させた多層カーボンナノチューブを用いた。
基板から刈り取ったCNTは、硝酸と硫酸の混酸に浸漬した後、濾過乾燥して触媒残渣を除去した。混酸中における硝酸と硫酸の比率は、任意に決定できる。CNTは、混酸に浸漬することによって表面が酸化されている。CNTの表面の一部には、ヒドロキシ基やカルボキシ基などの官能基が形成されているので、別途、CNTの酸化を行なう必要はない。CNTを3000ppmの濃度で水に分散させて、CNT分散液を調製した。
調製されたCNT分散液を用いて、上記<第2の付着法>により、基材に導電性網目構造体を付着させた。
基材としては、東陽テクニカ製カーボンクロス(型番:EC-CC1-060T)を50×50mmのサイズにカットして用いた。ここで用いた基材は、テフロン処理が施された撥水性基材である。基材は、密閉容器内(容積1000cc中に1ccの酸素を含む)、500℃で10分加熱して酸洗浄することにより前処理を施した。酸洗浄によって、金属の除去や表面基の導入が達成される。
CNT分散液は、容器ごと液体窒素に浸漬し、CNT分散液を凍結させて塊状のCNT薄片(バルク体)を作製した。バルク体の重量は、0.01g程度であった。バルク体を100gのエタノール中に収容し、100W程度の超音波を10分程度付与した。その結果、バルク体は、厚さが20〜30nm程度のCNT薄片に分離して、CNT薄片分散液が得られた。
前処理後の基材にCNT薄片分散液を滴下して、基材の内部にCNT薄片分散液を浸透させた。CNT薄片分散液が浸透した基材を真空乾燥してエタノールを除去することで、基材の表面及び内部に導電性網目構造体を付着させた。こうして実施例1の電池用電極が得られた。実施例1の電池用電極は、CNTの付着量が約3wt%であった。なお、CNT付着量とは、基材に対するCNTの総量の割合である。CNTの付着量は、CNT付着前後の基材の重量の差に基づいて求めることができる。
また、同様のCNTおよび基材を用い、CNT単体を基材に付着させて比較例1の電池用電極を作製した。CNTは、1000ppmの濃度でエタノールに分散させたCNT分散液として基材に滴下して、基材に浸透させた。基材に浸透したCNT分散液中のエタノールを揮発除去させることで、CNT単体を基材の表面及び内部に付着させた。こうして得られた比較例1の電池用電極は、CNT付着量が9wt%であった。
図10には、実施例1の電池用電極の電流−電位曲線と比較例1の電池用電極の電流−電位曲線とを比較して示す。図10中、横軸は電位(V)を示し、縦軸は電流値(mAcm-2)を示している。曲線aは、実施例1の電池用電極の結果であり、曲線bは、比較例1の電池用電極の結果である。還元電流値は、電解液として飽和塩化カリウム水溶液を用いて、上記「(4)電池用電極の評価」に示した方法により測定した。
比較例1の電池用電極は、還元電流値の立ち上がりは早いものの、還元電流値は−15mAcm-2にとどまっている(曲線b)。これに対し実施例1の電池用電極は、−22mAcm-2という還元電流値が得られている(曲線a)。因みに、CNTを含まない同様の基材の還元電流値は、−0.001mAcm-2程度であった。
比較例1の電池用電極では、9wt%のCNT単体が基材に付着しているのに対し、実施例1の電池用電極におけるCNT付着量は比較例1より少ない。それにもかかわらず、実施例1の電池用電極は比較例1を上回る還元電流値を示している。上述したとおり実施例1の電池用電極は、基材に付着しているのが、CNT薄片の集合体からなる導電性網目構造体である。CNT薄片によって導通をより確実に確保できるとともにガス透過性が向上したことが、還元電流値の向上の一因であると推測される。
図11には、実施例2〜10の電池用電極の電流−電位曲線を示す。実施例2〜10の電池用電極は、CNT付着量を変更する以外は実施例1の電池用電極の場合と同様にして作製した。CNT付着量は、実施例2〜4では2wt%、実施例5〜7では4wt%、実施例8〜10では6wt%である。CNT付着量は、基材に滴下するCNT薄片分散液の量を変更することによって調整した。実施例2〜10の電池用電極においても、実施例1の電池用電極と同様、基材に付着しているのは、CNT薄片の集合体からなる導電性網目構造体である。
実施例2〜10の電池用電極について、還元電流値の時間変化を図12に示す。CNT付着量が2wt%の場合(実施例2〜4)、還元電流値は、60秒までほぼ一定である。CNT付着量が4wt%の場合(実施例5〜7)には、還元電流値が一定値を保つ時間は短くなり、還元電流値は徐々に減少している。同様の傾向は、CNT付着量が6wt%の場合(実施例8〜10)に、より顕著に表れている。これは、電極での酸化還元により生成した水が残留し、基材における導電性網目構造の機能が低下したことが原因であると推測される。
図13には、実施例9の電池用電極と比較例1の電池用電極との電流−電位曲線を比較して示す。図13中、横軸は電位(V)を示し、縦軸は電流値(mAcm-2)を示している。還元電流値は、電解液として飽和塩化カリウム水溶液を用いて、上記「(4)電池用電極の評価」に示した方法により測定した。
実施例9の電池用電極は、CNT付着量が6wt%と比較例1(9wt%)の2/3であるにもかかわらず、還元電流値は、比較例1の電池用電極の2倍以上に向上している。実施例1の電池用電極と同様、実施例9の電池用電極においても、CNT薄片によって導通がより確実に確保され、しかもガス透過性が向上して還元電流値が向上したものと推測される。さらに、実施例9の電池用電極では、CNT付着量が実施例1より多いことから、CNTの効果によって還元電流値がよりいっそう向上したことがわかる。
図14には、電池用電極におけるCNT付着量と電流値との関係を示す。図14中の曲線cは、図12に示した実施例2,3,4の電池用電極の15秒後の値の平均値、実施例5,6,7の電池用電極の15秒後の値の平均値、実施例8,9,10の電池用電極の15秒後の値をプロットし、そのプロットに基づいて得たものである。曲線dは、比較例1〜4の電池用電極の電流値を測定して15秒後の値をプロットし、そのプロットに基づいて得たものである。比較例2〜4の電池用電極は、CNT付着量を1wt%、2wt%、4wt%に変更する以外は比較例1と同様の方法で作製した。したがって、比較例2〜4の電池用電極も、比較例1の電池用電極と同様、基材に付着しているのはCNT単体である。
図14中の曲線c及び曲線dに示されるように、電池用電極の電流値は、CNTの付着量の増加に伴なって増大する。比較例の電池用電極の電流値は、CNT付着量が4w%程度までは増加傾向にあるが、CNT付着量がそれ以上増えても−15mAcm-2程度で一定となっている(曲線d)。実施例の電池用電極の電流値は、比較例の場合よりも急激に増加し、CNT付着量が6wt%の場合、−33mAcm-2程度となっている(曲線c)。導電性網目構造体を基材に付着させることによって、CNT単体を付着させる場合では達成できない高い還元電流値が得られたことが、この結果に示されている。
実施例の電池用電極は、CNT薄片の集合体からなる導電性網目構造体が基材に付着している。導電性網目構造体には適度な空隙が存在しているので、CNT付着量が多くなっても、電池用電極におけるガスの透過経路は確保される。実施例の電池用電極は、導電性網目構造体が基材に付着していることによりガス透過性が優れているので、高い電流値を得ることができたものと推測される。
基材に付着した導電性網目構造体は、SEM画像で確認することができる。実施例5の電池用電極に含まれる基材中の炭素繊維の表面を撮影したSEM画像を、図15A、図15Bに示す。図15Bは、図15Aにおける領域X1の拡大像である。炭素繊維の表面には、CNT薄片20の集合体からなる導電性網目構造体18が付着して、炭素繊維の表面に凹凸が生じている。炭素繊維の表面に凹凸が存在することによって、電池用電極の表面積が増大する。表面の凹凸によって、電池用電極の内部に適度な空隙が形成される。その結果、ガス透過経路が確保されたことも、実施例5〜7の電池用電極の還元電流値が高められた一因であると推測される。
図16は、比較例1の電池用電極に含まれる炭素繊維の表面を撮影したSEM画像である。比較例1の電池用電極の場合、炭素繊維の表面には、多量のCNT19が付着してCNT層190が形成されている。CNT層190は、図15Bに示した導電性網目構造体18とは異なって、炭素繊維の表面に凹凸を形成しない。このようなCNT層190により炭素繊維が覆われているので、比較例1の電池用電極では、表面の凹凸に起因する効果は得られない。CNT層190が炭素繊維の表面を覆うことによって、基材の目詰まりも引き起こされる。
図17は、比較例4の電池用電極に含まれる炭素繊維の表面を撮影したSEM画像である。比較例1の場合と同様、比較例4の電池用電極においても、炭素繊維はCNT層190で覆われていることが示されている。比較例4の電池用電極では、CNT付着量が4wt%であり、比較例1の電池用電極の場合(9wt%)より少ない。このため、形成されるCNT層190に含まれるCNTは、比較例1の場合よりは少なくなる。それでも、基材に付着するのがCNT単体であることに起因して、比較例4の電池用電極においても、炭素繊維の表面がCNT層190で覆われてしまう。
実施例の電池用電極は、含まれているCNTの密度が比較例の電池用電極より低いので、より多くの空隙を内部に有している。このことは、断面のSEM画像から確認することができる。実施例5の電池用電極に含まれる基材の断面を撮影したSEM画像を図18に示し、比較例1の電池用電極に含まれる基材の断面を撮影したSEM画像を、図19に示す。これらの図中の白色の点は、CNTを表している。
図18では、領域Y1(1μm□)中には約25本のCNTが観察された。図19の場合、領域Y2(1μm□)中には、図18の領域Y1の2倍以上のCNTが観察された。比較例1の電池用電極は、CNTの密度が高いことから、内部の空隙が少ないことがわかる。
実施例の電池用電極は、CNT薄片の集合体からなる導電性網目構造体が基材に付着しているので、電極内部に適度な空隙を確保することができる。導電性網目構造体が基材に付着していることによって、十分な導電性経路と十分なガス透過経路とが両立されるので、出力のより向上した電池用電極が得られた。
(8)変形例
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
上記実施形態では、電子伝達メディエータ及び酸化還元酵素が電解液中に存在している場合について説明したが、本発明はこれに限られず、電子伝達メディエータ及び酸化還元酵素が電池用電極10に固定されていてもよい。
本発明の電池用電極10は、バイオ燃料電池以外の電池、例えば燃料電池、リチウムイオン二次電池の電極として用いることができる。
導電性網目構造18は、結着部材を用いて基材12の表面に固定してもよい。結着部材としては、例えば、PTFEエマルジョンなどが挙げられる。導電性網目構造体18が炭素繊維16に物理的に固定されることで、変形例の電池用電極は、導電性網目構造体18が結着部材で補強される。導電性網目構造体18は、より強固に炭素繊維16に固定されるので、電池に用いたとき、導電性網目構造体18の剥離に伴う電池出力の低下や電極間のショートを抑制でき、電池の耐久性を向上できる。
上記実施形態では、導電性網目構造体18は、CNT薄片20の集合体からなるものとしたが、本発明の電池用電極における導電性網目構造体18は、これに限定されない。導電性網目構造体18の機能を阻害しない範囲であれば、グラフェンやカーボンブラックなどが導電性網目構造体18に含まれていてもよい。例えば、グラフェンやカーボンブラックが含有されたCNT薄片分散液を基材12に浸透させることによって、グラフェンやカーボンブラックを含む導電性網目構造体18が基材12に付着した電池用電極を得ることができる。