JP6686361B2 - 細胞回収のための標本作製方法 - Google Patents
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Description
保持部へ細胞を導入する工程と、接着物質を含む試薬を前記保持部に添加して前記接着物質を修飾させた保持部により前記細胞を接着させる工程と、細胞固定試薬を含む細胞膜透過試薬を前記保持部に添加して前記細胞を標本化する工程とを含む、標本作製方法であって、
接着物質を含む試薬が0.01(w/v)%以下のポリ−L−リジンを含む試薬であり、
細胞膜透過試薬が30から65(v/v)%のエタノールを含む試薬である、前記方法である。
導入口13aから細胞60を含む液体を導入し、細胞60を保持部50へ導入させる。図1に示す装置では細胞60を保持部50へ導入させる際、誘電泳動力70を利用して導入する。具体的には、信号発生器40から電極基板21・22へ交流電圧を印加することで誘電泳動力70を発生させ、保持部50へ細胞60を導入する。図1に示す装置に導入する細胞を含む液体は、誘電泳動力で細胞が移動できるよう懸濁された液であればよく、例えば、マンニトール、グルコース、スクロース等の糖類を含んだ水溶液や、当該水溶液に塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の電解質、および/またはBSA(ウシ血清アルブミン)等のタンパク質をさらに含んだ水溶液に、細胞を含んだ試料を懸濁させた液体があげられる。特に細胞を含む液体として、マンニトールを含む水溶液に細胞を含んだ試料を懸濁させた液体を用いると、細胞へのダメージが少なくなる点で好ましい。添加するマンニトールの濃度は等張液となる濃度とすればよく、具体的には250mMから350mMの間とするとよい。信号発生器40から電極基板21・22へ印加する交流電圧は、保持部50に保持された細胞60の充放電が周期的に繰り返される波形を有した交流電圧とすると好ましく、周波数を100kHzから3MHzまでの間とし、電界強度を1×105から5×105V/mまでの間とすると特に好ましい(WO2011/149032号および特開2012−013549号公報参照)。
導入口13aから接着物質80を含む試薬を導入することで、保持部50を接着物質80で修飾し、接着物質80を介して保持部50と保持部50に導入した細胞60とを接着させる。なお接着物質80による保持部50の修飾は前記(1)の工程の前に実施してもよい。
排出口13bから接着物質80を含む試薬を排出した後、導入口13aから細胞固定試薬を含む細胞膜透過試薬を導入することで、保持部50に導入した細胞60を標本化する。細胞膜透過試薬は30から65(v/v)%のエタノールを含んでいればよい。細胞膜透過試薬に含まれる細胞固定試薬は、当業者が細胞固定に通常用いる試薬の中から適宜選択することができ、例えば0.1から1%のホルムアルデヒドがあげられる。細胞固定試薬を含む細胞膜透過試薬の導入時間(保持部への試薬置換時間)は5から15分が好ましく、10分前後がより好ましい。
後述の標識工程における非特異標識の発生を防止するため、導入口13aから洗浄液を導入して、残存した細胞膜透過試薬を除去した後、導入口13aから非特異標識を防止するためのブロッキング試薬を導入する。洗浄液は、細胞膜透過試薬に含まれる有機溶媒成分(エタノール、ホルムアルデヒド等)を除去可能な水系溶媒であればよく、例えば、Phosphate Buffered Saline(PBS)があげられる。また洗浄液に界面活性剤を添加すると、液置換による洗浄が容易に行なえるため好ましく、前記好ましい洗浄液の一例として、Tween 20(商品名)を0.05(v/v)%添加したPBSがあげられる。
排出口13bからブロッキング試薬を排出した後、導入口13aから標識試薬を導入して、標本化した細胞を標識させる(標識化細胞61)。標識試薬は、目的細胞の検出に適した標識物質の中から適宜選択すればよい。例えば目的細胞が血中循環癌細胞(CTC)の場合、蛍光標識された抗サイトケラチン抗体もしくは抗EpCAM抗体を含む溶液や、白血球染色試薬である抗CD45抗体と細胞核染色試薬である4’,6−diamidino−2−phenylindole(DAPI)、Hoechst 33258、Hoechst33342等との混合溶液が使用できる。なお抗原抗体反応を利用して目的細胞を標識する場合であって、当該細胞における抗原発現量が少ないときは、当該抗原に対する抗体を含む標識試薬を添加後、添加した抗体に対する抗体を順次添加していくことで蛍光シグナルを増幅させる方法を採用してもよい。
標識試薬に由来するバックグラウンドの上昇を防止するため、導入口13aから洗浄液を導入して、残存した標識試薬を除去した後、光学検出器200で標本化された細胞の光情報(可視光または蛍光)および位置情報を取得し、目的細胞61の位置を検出する。洗浄液としては、標識試薬を除去できる水系の溶媒であればよく、一例として前記(4)の工程で洗浄液として用いた、PBSやTween20を0.05(v/v)%添加したPBSがあげられる。目的細胞がCTCの場合、光学検出器200により、抗サイトケラチン抗体または抗EpCAM抗体由来の蛍光が確認され、DAPI等の細胞核染色試薬由来の蛍光が確認され、かつ抗CD45抗体由来の蛍光が確認されない細胞を選別すればよい。
光学検出器200で検出した目的細胞61を回収するために、電極基板22をスペーサ13から取り外した後、回収装置300で吸引することで目的細胞61を回収する。電極基板22を取り外す際は、スペーサ13を剥がさないよう取り外す必要がある。もしスペーサ13が絶縁体12から剥がれると、装置内に保持されている溶液が系外に流れてしまい、目的細胞61が破壊されるからである。
回収装置300による吸引で回収した目的細胞61を回収チューブ400へ吐出し、回収チューブ400へ目的細胞61が吐出されたかどうかを光学検出器200で検出する。回収チューブ400に回収された目的細胞61はその後遺伝子解析等さらなる解析に供される。
(1)ヒト非小細胞肺がん由来のH1975細胞を、10(v/v)%のFBSを含むRPMI−1640培地を用いて、5%CO2存在下、37℃で培養した。
(2)細胞がサブコンフルエントに達した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、トリプシン−EDTAを用いて個々の細胞がばらばらになるよう細胞を剥がした。
(3)処理した細胞を遠心し(200×g、25℃、5分間)、上清を捨てた後、105個/mLの細胞密度になるよう、300mMマンニトール水溶液に懸濁させた。
(4)(3)で調製した懸濁液を図1に示す装置100に導入し、誘電泳動力を利用して保持部へ細胞を導入した。なお各保持部50の大きさは直径30μm、深さ40μmであり、各保持部50間の距離は50μmである。信号発生器40から電極基板21・22に印加する交流電圧は、電圧20Vpp、周波数3MHzの矩形波である。交流電圧を印加してから1分程度で、保持部50へ細胞を1つずつ導入することができた。
(5)(4)に記載の条件で交流電圧を印加しながら、0.01(w/v)%のポリ−L−リジンを含む300mMマンニトール水溶液を導入し、2分間静置後、前記交流電圧の印加を停止し、前記水溶液を吸引除去した。
(6)エタノールと1%ホルムアルデヒドを含む水溶液(以下、細胞膜透過試薬)を導入し、10分間静置することで、細胞膜を透過させ、保持部に導入した細胞を標本化した。
なおエタノール濃度は40(v/v)%、45(v/v)%、50(v/v)%、55(v/v)%、60(v/v)%、65(v/v)%、70(v/v)%、75(v/v)%、80(v/v)%、86(v/v)%、90(v/v)%、95(v/v)%のいずれかとした。
(7)細胞膜透過試薬を吸引除去し、PBSを導入することで、残留した細胞膜透過試薬を洗浄した。
(8)細胞膜内外のタンパク質と特異的に結合可能な蛍光標識された抗体と、細胞核を標識する蛍光試薬を含む水溶液(以下、標識試薬)を導入し、10分間静置した。
(9)標識試薬を吸引除去し、PBSを導入することで、残留した標識試薬を除去した。
(10)電極基板22をスペーサ13から取り外した後、蛍光顕微鏡のステージ上に載置した。
(11)蛍光顕微鏡による蛍光観察で、細胞が保持部で標本化されていることを確認した後、円筒状の細管(回収装置300)を用いて任意の保持部から細胞を吸引できるか検証した。
(1)ヒト非小細胞肺がん由来のH1975細胞を、10(v/v)%のFBSを含むRPMI−1640培地を用いて、5%CO2存在下、37℃で培養した。
(2)細胞がサブコンフルエントに達した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、トリプシン−EDTAを用いて個々の細胞がばらばらになるよう細胞を剥がした。
(3)処理した細胞を遠心し(200×g、25℃、5分間)、上清を捨てた後、105個/mLの細胞密度になるよう、300mMマンニトール水溶液に懸濁させた。
(4)(3)で調製した懸濁液を図1に示す装置100に導入し、誘電泳動力を利用して保持部へ細胞を導入した。なお各保持部50の大きさは直径30μm、深さ40μmであり、各保持部50間の距離は50μmである。信号発生器40から電極基板21・22に印加する交流電圧は、電圧20Vpp、周波数3MHzの矩形波である。交流電圧を印加してから1分程度で、保持部50へ細胞を1つずつ導入することができた。
(5)(4)に記載の条件で交流電圧を印加しながら、0.01(w/v)%のポリ−L−リジンを含む300mMマンニトール水溶液を導入し、2分間静置後、前記交流電圧の印加を停止し、前記水溶液を吸引除去した。
(6)電極基板22をスペーサ13から取り外した後、蛍光顕微鏡のステージ上に載置した。
(7)蛍光顕微鏡による蛍光観察で、細胞が保持部で標本化されていることを確認した後、円筒状の細管(回収装置300)を用いて任意の保持部から細胞を吸引できるか検証した。
実施例2のうち、細胞膜透過試薬として、86(v/v)%エタノールと1%ホルムアルデヒドを含む溶液を用いて細胞の標本化を行なった後、細胞と保持部の接着性を弱める目的でトリプシンを添加し、保持部から細胞を吸引できるか検討した。
(1)ヒト非小細胞肺がん由来のH1975細胞を、10(v/v)%のFBSを含むRPMI−1640培地を用いて、5%CO2存在下、37℃で培養した。
(2)細胞がサブコンフルエントに達した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、トリプシン−EDTAを用いて個々の細胞がばらばらになるよう細胞を剥がした。
(3)処理した細胞を遠心し(200×g、25℃、5分間)、上清を捨てた後、105個/mLの細胞密度になるよう、300mMマンニトール水溶液に懸濁させた。
(4)(3)で調製した懸濁液を図1に示す装置100に導入し、誘電泳動力を利用して保持部へ細胞を導入した。なお各保持部50の大きさは直径30μm、深さ40μmであり、各保持部50間の距離は50μmである。信号発生器40から電極基板21・22に印加する交流電圧は、電圧20Vpp、周波数3MHzの矩形波である。交流電圧を印加してから1分程度で、保持部50へ細胞を1つずつ導入することができた。
(5)(4)に記載の条件で交流電圧を印加しながら、0.01(w/v)%のポリ−L−リジンを含む300mMマンニトール水溶液を導入し、2分間静置後、前記交流電圧の印加を停止し、前記水溶液を吸引除去した。
(6)86(v/v)%エタノールと1%ホルムアルデヒドを含む水溶液(以下、細胞膜透過試薬)を導入し、10分間静置することで、細胞膜を透過させ、保持部に導入した細胞を標本化した。
(7)細胞膜透過試薬を吸引除去し、PBSを導入することで、残留した細胞膜透過試薬を洗浄した。
(8)細胞膜内外のタンパク質と特異的に結合可能な蛍光標識された抗体と、細胞核を標識する蛍光試薬を含む水溶液(以下、標識試薬)を導入し、10分間静置した。
(9)標識試薬を吸引除去し、PBSを導入することで、残留した標識試薬を除去した。
(10)蛍光顕微鏡による蛍光観察で、細胞が保持部で標本化されていることを確認した。
(11)0.25w/v%トリプシン−1mol/l EDTA・4Na溶液(和光純薬工業製)をPBSで1/20に希釈したもの(以下、トリプシン溶液)を導入し、室温で20分間静置した。
(12)トリプシン溶液を吸引除去し、PBSを導入することで残留したトリプシン溶液を除去した。
(13)電極基板22をスペーサ13から取り外した後、蛍光顕微鏡のステージ上に載置した。
(14)蛍光顕微鏡による蛍光観察で、細胞が保持部で標本化されていることを確認した後、円筒状の細管(回収装置300)を用いて任意の保持部から細胞を吸引できるか検証した。
実施例1のうち、細胞膜透過試薬として、86(v/v)%エタノールと1%ホルムアルデヒドを含む溶液を用いて細胞の標本化を行なった後、以下の(i)から(v)に示す、ポリ−L−リジンによる静電相互作用を阻害する処理を行なうことで、保持部から細胞を吸引ができるか検討した。
(i)pH変化
スペーサ13から電極基板22を取り外した後、細胞を標本化した保持部へ、HClまたはNaOHを添加することでpHを変動させた。
(ii)塩強度変化
10×Tris−EDTA緩衝液(pH8.0)、5×Tris−EDTA緩衝液(pH8.0)または1M NaCl溶液を導入し、30分間静置した。
(iii)シアル酸分解酵素処理
0.1から5.0U/mLのノイラミニダーゼ(Sigma Aldrich社製)と40mMのCaCl2とを添加した酢酸緩衝液(pH5.0)を導入し、1時間静置した。
(iv)ポリ−L−リジン分解酵素処理(その1)
50から500μg/mLのパパイン(和光純薬工業製)と10mMのEDTAと60mMの2−メルカプトエタノールと50mMのシステイン塩酸塩とを含むPBSを導入し、37℃で30分間静置した。
(v)ポリ−L−リジン分解酵素処理(その2)
0.05から1.0mg/mLのα―キモトリプシン(和光純薬工業製)と80mMのTrisと8mMのEDTAと200mMのCaCl2とを含む水溶液を導入し、37℃で30分間静置した。
200:光学検出器
300:回収装置
400:回収チューブ
10:細胞導入保持手段
11:遮光部材
12:絶縁体
11a、12a:貫通孔
13:スペーサ
13a:導入口
13b:排出口
13c:貫通部
21・22:電極基板
30:導線
40:信号発生器
50:保持部
60:細胞
61:標識化細胞(目的細胞)
70:誘電泳動力
80:接着物質
Claims (5)
- 保持部へ細胞を導入する工程と、接着物質を含む試薬を前記保持部に添加して前記接着物質を修飾させた保持部により前記細胞を接着させる工程と、細胞固定試薬を含む細胞膜透過試薬を前記保持部に添加して前記細胞を標本化する工程と、回収手段により前記標本化した細胞を回収する工程とを含む、標本作製方法であって、
接着物質を含む試薬が0.01(w/v)%以下のポリ−L−リジンを含む試薬であり、細胞膜透過試薬が30から65(v/v)%のエタノールを含む試薬である、前記方法。 - 細胞固定試薬が0.1から5%のホルムアルデヒドである、請求項1に記載の方法。
- 保持部へ細胞を導入する工程が、誘電泳動力を利用して保持部へ細胞を導入する工程である、請求項1または2に記載の方法。
- 前記細胞回収方法において、細胞を、保持部との接着力を弱める酵素を含む溶液で処理する工程を含む、請求項1〜3の何れかに記載の細胞回収方法。
- 回収手段により標本化した細胞を回収する工程が、回収手段により、当該細胞を標本化した保持部の中心から水平方向に一定距離ずらした位置で、垂直方向に吸引することで細胞を回収する工程である、請求項1〜4の何れかに記載の方法。
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