JP6679387B2 - 筆記具用水性インキ組成物、およびそれを用いた水性インキ製品並びに筆記具。 - Google Patents

筆記具用水性インキ組成物、およびそれを用いた水性インキ製品並びに筆記具。 Download PDF

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Description

本発明は、筆記具用水性インキ組成物、およびそれを用いた水性インキ製品並びに筆記具に関するものである。
水性インキ組成物は、一般に水を主溶剤として含んでなるため、細菌、カビ、または酵母などの微生物が繁殖しやすい。微生物が繁殖すると、インキ組成物の腐敗が起こり、粘度などインキ組成物の物性に変化が生じたり、インキ組成物中に菌糸や析出物、凝集物などの異物が生じたり、インキ組成物の変色が起きたりするなど、水性インキ組成物としての機能が損なわれてしまうことがあった。そこで、水性インキ組成物に抗菌性物質を添加し、微生物などの繁殖を抑制することが盛んに行われている(特許文献1〜4)。
しかしながら、使用する抗菌性物質によっては、インキ組成物を長期間保管した場合、インキ組成物の物性が変化してしまうなど、保存安定性に問題が生じたり、抗菌性物質自体の耐熱性や安全性が低いなど各種課題が生じている。
また、筆記具用水性インキ組成物は、近年、人体や環境に対する安全性が重要視されている。中でも、インキ組成物が保存されたインキ収容体から、該インキ組成物を分種して筆記具に充填する場合や、インキ組成物が収容されたインキカートリッジを、筆記具本体に付け替えることでインキ組成物を筆記具に充填する場合(インキカートリッジ式筆記具)など、使用者がインキ組成物を筆記具に直接充填して用いる場合、使用者の体の一部にインキが触れる可能性が高いことから、特に安全性を考慮する必要がある。しかしながら、上述のような従来のインキ組成物では、十分な抗菌効果を得るため、人体への影響が強い抗菌性物質が用いられたり、抗菌性物質を一定程度以上の量、添加しなければならないなど、筆記具用水性インキ組成物として用いるには、安全性において十分と言えるものではなかった。
また、カートリッジ式筆記具に用いられるような筆記具用水性インキ組成物では、主溶剤の水が蒸発し、インキ組成物中の抗菌性物質の濃度が上昇してしまうなど、安全に出荷されたインキ組成物であっても、経時的に安全性の低下が生じる場合がある。インキカートリッジ式筆記具に用いられる筆記具用インキカートリッジは、筆記具への付け替えが簡便であること、使用後は廃棄することなど、機能性、利便性、経済性を考慮した結果、その材質や形状によっては、気密性が十分でなかったり、水分蒸発率が高かったりするなどして、収容されているインキ組成物の主溶剤である水が蒸発しやすい傾向にある。よって、カートリッジ式筆記具にも用いられるような筆記具用水性インキ組成物は、経時保存後の安全性にも課題を有している。
また、筆記具用水性インキ組成物においては、使用する着色剤や添加剤、また、利用される筆記具の筆記先端の種類や、収容されるインキ収容体の材質の種類などにより、金属イオンに由来する析出物などの異物が生じ、該異物がインキ流路を塞いで、筆記が不可能になってしまうなどの課題も有している。そこで、インキ組成物にEDTAなどのキレート剤を添加するなどの検討がされている。(特許文献5など。)しかしながら、析出物の抑制において十分とは言えず、改良の余地があった。また、金属イオンに由来する析出物などの異物の発生だけでなく、微生物の繁殖に伴う析出物や凝集物などの異物の発生も防ぐためには、それぞれの異物発生の抑制に対応する添加剤を加えなければならず、多種の添加剤によるインキ組成物の影響を考慮しなければならないなどの課題も有している。
特開2004−175851号公報 特開2011−046893号公報 特開2013−014647号公報 特開平11−131002号公報 特開2015−105280号公報
本発明者は、今般、筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により水性インキ組成物と表す。)に特定の成分を配合することにより、良好な筆跡性能を十分保持しながら、筆記具用インキ組成物の初期安全性、経時安全性および保存安定性を改良することができるとの知見を得た。
本発明はこのような知見に基づくものであり、その目的は人体や環境に対する影響が少なく、微生物が繁殖しにくく、初期安全性および経時安全性に優れ、かつ、保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物および、それを用いた水性インキ製品並びに筆記具を提供することである。
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、水と、着色剤と、ナトリウムオマジンと、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オンを含んでなることを特徴とするものである。
また、本発明による水性インキ製品および筆記具用インキカートリッジは、前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とするものである。
また、本発明による筆記具は、前記筆記具用インキカートリッジが内蔵されたことを特徴とするものである。
本発明によれば、抗菌性能が高く、初期安全性、経時安全性および保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物を提供することができる。また、本発明の水性インキ組成物は、抗菌効果の極めて高い抗菌性物質と、安全性の極めて高い抗菌性物質を組み合わせて用いているため、高い抗菌性と高い安全性を兼ね備え、保存安定性に優れたものとなる。また、本発明の水性インキ組成物は、主溶剤の水が蒸発しやすい保存容器やインキカートリッジに保存された場合でも、高い抗菌性能を維持したまま経時的な安全性も維持することができるため、人体や環境に対し特に配慮が必要な筆記具用水性インキ組成物に使用することができる。さらに、本発明の筆記具用水性インキ組成物は微生物の繁殖に伴う析出物や凝集物などの異物の発生だけでなく、金属イオンに由来する析出物などの異物の発生をも抑制することができることから、特に、保存安定性が優れたものとなる。このため、本発明において、インキ保管容器やインキカートリッジなどの種々の水性インキ製品の他、種々のインキ供給機構を利用した筆記具への適用が可能になるなど適用範囲の広い、初期安全性、経時安全性および保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物を提供することができる。
本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」、「ppm」などは特に断らない限り質量基準である。
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」と表す。)は、水と、着色剤と、ナトリウムオマジンと、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オンを含んでなる。以下、本発明による水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
<抗菌性物質>
本発明による水性インキ組成物は、必須の抗菌性物質として、ナトリウムオマジンと、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オンを含んでなる。
なお、本発明において、「抗菌性物質」とは、微生物を死滅させる能力または増殖を抑える能力を有する物質のことであり、抗菌剤、殺菌剤、防かび剤および防腐剤と同義である。
前記ナトリウムオマジンは、皮膚感作性が認められていない極めて安全性の高い抗菌性物質である。そのため、人体に対する安全性が重要視されている筆記具用水性インキ組成物に好適に用いることができる。中でも、使用者が直接、筆記具に充填して用いるようなインキ組成物は、使用者の皮膚などの体の一部にインキ組成物が触れる可能性が高いため、前記ナトリウムオマジンを抗菌性物質として用いることは有用である。また、ナトリウムオマジンは、その安全性が高いことから、比較的高添加量をインキ組成物中に、添加することが可能である。このため、ナトリウムオマジンは、インキ組成物の抗菌性能を向上させるとともに、長期に渡りインキ組成物の抗菌性能を持続させることができ、水性インキ組成物の保存安定性を向上させることができる。
また、前記ナトリウムオマジンは、インキ組成物中に含まれる金属イオンに由来する析出物を抑制する働きもあわせもつ。このため、インキ組成物にナトリウムオマジンを含むことは、細胞、カビ、または酵母などの微生物の繁殖に伴う析出物や凝集物だけでなく、金属イオンに由来する析出物などの異物の発生をも抑制することができる。よって、インキ組成物中にナトリウムオマジンを含むことで、微生物の繁殖を抑制すると共に、金属イオンに由来する析出物などの種々の異物の発生を抑制する優れた保存安定性を有する水性インキ組成物を得ることができる。
前記2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オン(以下、場合によりOITと表す。)は、イソチアゾリン系抗菌性物質の一種であり、極めて抗菌効果の高い抗菌性物質であり、少量で抗菌効果を十分に発揮することができる。従って、インキ組成物中にOITを含むことにより、インキ組成物中の抗菌性物質の総添加量を減らすことが可能となり、安全性の高い、かつ抗菌性能を十分に維持した水性インキ組成物を得ることができる。
本発明の水性インキ組成物は、前記ナトリウムオマジンと前記OITの2つの抗菌性物質を併用していることから、高い抗菌性能と高い安全性を兼ね備え、保存安定性に優れたものとなる。
抗菌効果の極めて高いOITを含んでなるため、抗菌性物質を添加した当初から抗菌効果を十分に発揮することができる。また、一定程度以上の量を添加することが可能である安全性の高いナトリウムオマジンを含んでなるため、長期に渡り抗菌効果を維持することができる。よって、本発明の水性インキ組成物は、初期および長期抗菌性能の高い、極めて保存安定性に優れたインキ組成物となる。
また、少量で極めて高い抗菌効果を得ることができるOITとナトリウムオマジンを併用することで、OIT単独で用いた場合よりも、その添加量を減らすことができることから、本発明の水性インキ組成物は、高い安全性と高い抗菌効果を両立させた優れたインキ組成物となる。
従って、本発明の水性インキ組成物は、高い抗菌性能を持ちながらも安全性にも極めて優れており、人体に対する安全性が重要視されている筆記具用水性インキ組成物に好適に用いることができる。中でも、インキ組成物が保存されたインキ収容体から、該インキ組成物を分種して筆記具に充填する場合や、インキ組成物が収容されたインキカートリッジを筆記具本体に付け替えて、インキ組成物を筆記具に充填する場合(カートリッジ式筆記具)など、使用者が、筆記具に直接充填して用いるような筆記具に好適に用いることができる。
また、前記の通り、OITはイソチアゾリン系の抗菌性物質の1種であり、抗菌効果が極めて高い反面、添加量によっては皮膚感作性が認められる抗菌性物質である。しかし、本発明の水性インキ組成物では、ナトリウムオマジンとOITを併用していることから、前記OITの添加量を、安全性が十分に保たれる添加量に留めながらも、抗菌効果を十分に得ることができる。また、インキ組成物中の主溶剤である水が蒸発した際には、水分が蒸発したことでインキ組成物中の有効成分が濃縮され、抗菌性物質の含有量が高濃度化する場合がある。本発明の水性インキ組成物においては、ナトリウムオマジンとOITを併用することで、あらかじめ皮膚感作性抗菌性物質であるOITの添加量を安全性が十分に保たれる添加量に留めていることから、インキ組成物の主溶剤である水が蒸発した際にも、安全性および抗菌性能を維持することが可能となる。
よって、本発明のインキ組成物は、インキ収容体に保存されるようなインキ組成物や筆記具用カートリッジに収容されるようなインキ組成物のように、主溶剤である水が蒸発してしまい、出荷当初は安全性が得られていたにもかかわらず、経時後に安全性が低下してしまうなど、経時安全性に課題を有しているインキ組成物に好適に用いることができる。特に、筆記具用インキカートリッジは、使用後には廃棄されることから樹脂などの汎用素材が用いられたり、また、装着の作業性が簡便である構造が採用されたりするなど、その特性から、上記課題が発生する可能性が高い。従って、本発明の水性インキ組成物は、筆記具用インキカートリッジに有効に用いることができる。
また、本発明の水性インキ組成物は、オマジン系抗菌性物質であるナトリウムオマジンと、イソチアゾリン系抗菌性物質であるOITの異なる抗菌性物質を含んでなることから、広範囲の微生物に対して抗菌効果を有するインキ組成物となる。筆記具用インキ組成物は、様々な状況下で用いられる可能性が高く、種々の微生物に晒される可能性が高い。よって、本発明のインキ組成物は、微生物の繁殖に由来する異物を効果的に抑制することができることから、各種筆記具に用いられるインキ組成物として好適に用いることができる。
また、前記のようにナトリウムオマジンは、金属イオンに由来する析出物も効果的に抑制することもできる。
筆記具用インキ組成物は、使用する着色剤や添加剤に共存する金属イオンとインキ組成物中の成分が反応することにより、金属イオンに由来する析出物が発生する可能性がある。また、筆記具の筆記先端の材質には金属が用いられることが多く、この金属部材とインキ組成物中の成分が反応して金属イオンに由来する析出物が発生する可能性もある。更に、インキ組成物が収容されるインキ収容体の材質にガラスや金属が用いられた場合には、その材質とインキ組成物が反応し、金属イオンに由来する析出物が発生する可能性もある。このようなインキ組成物中に生じた金属イオンに由来する析出物によって、筆記具のインキ流路が塞がれて筆記不能になってしまうことがあり、インキ組成物によっては、金属イオンに由来する析出物を抑制することが課題となっている。
ナトリウムオマジンは、上記のような着色剤、添加剤、利用される筆記具の筆記先端の材質、および収容されるインキ収容体の材質などから生じる、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、アルミニウムイオンなどの金属イオンを補足し、錯体化させて安定な状態にさせるいわゆるキレート効果を呈すると推定される。このため、ナトリウムオマジンをインキ組成物に含むことで、金属イオンに由来する析出物を効果的に抑制することができ、上記のような課題を解決することができるようになる。
以上より、ナトリウムオマジンとOITを用いる本発明のインキ組成物は、微生物由来に留まらず、金属イオン由来の種々の異物を効果的に抑制することができ、従来のインキ組成物では発生した異物によりインキ流路が塞がり、インキが供給されず筆記不能になってしまうなどの課題を有していた筆記具に好適に用いることができる。
特に、万年筆などくし溝を利用した筆記具は、インキ流路が一つしかないため、ひとたび、発生した析出物や凝集物などの異物によりインキ流路が塞がれてしまうと、筆記不能になる可能性が高い。よって、万年筆などくし溝を利用した筆記具に、本発明のインキ組成物を有効に利用できる。
従って、本発明の水性インキ組成物は、万年筆用インキ組成物として効果的に利用することができ、さらに、インキカートリッジ式万年筆に好適に利用することができる。
また、同一の抗菌性物質を使用し続けた場合、抗菌性物質に耐性をもつ微生物(以下、耐性菌という)が発生して繁殖することがあるが、本発明のインキ組成物は、ナトリウムマジンとOITの2種類を併用してなるため、微生物が一方の抗菌性物質に耐性を持っていても、併用したもう一方の抗菌性物質により該微生物の繁殖を抑制することができる。よって、本発明のインキ組成物は、耐性菌に対しても効果的なものとなり、各種筆記具に好適に用いることができる。
水性インキ組成物において、ナトリウムオマジンの添加量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、10〜2000ppmであることが好ましく、50〜1500ppmであることがより好ましく、100〜1000ppmであることがさらに好ましい。ナトリウムオマジンの添加量が、上記数値範囲であれば、抗菌効果を十分に得ることができるとともに、金属イオン由来の異物の発生も十分に抑制することができ、インキ組成物中の経時変化が少なく、保存安定性を十分に保つことができる。
また、OITの添加量は、水性インキ組成物の総質量を基準として、1〜500ppmであることが好ましく、3〜50ppmであることがより好ましく、5〜45ppmであることがさらに好ましく、最適には、5〜40ppmであることが好ましい。OITの含有量が上記数値範囲であれば、抗菌効果を十分に得ることができ、かつ、インキ組成物の安全性を十分に確保することができる。
なお、「ppm」とは「part per million」の略称であり、100万分の1の濃度を表す単位である。以下、本発明においては、単位「ppm」は水性インキ組成物の総質量を基準とする。
また、ナトリウムオマジンに対する、OITの配合比は、質量基準で0.0005〜50倍であることが好ましく、0.003〜1倍であることがより好ましく、0.005〜0.4倍であることがさらに好ましい。配合比が上記数値範囲内であれば、初期および経時安全性を十分に確保しながら、ナトリウムオマジンとOITの抗菌効果を効果的に得ることができ、また、微生物由来の異物や、金属イオン由来の異物など、種々の異物発生を効果的に防ぐことができ、保存安定性を十分に保つことができる。
水性インキ組成物は、抗菌性物質として、ナトリウムオマジンおよびOIT以外に、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下、場合によりMITと表す。)または、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(以下、場合によりBITと表す。)を含んでなることが好ましい。水性インキ組成物が、抗菌性物質としてナトリウムオマジン、OITの他、MITまたはBITを含んでなることにより、更に多種多様な微生物の繁殖を顕著に抑えることができる。また、MITまたはBITを更に含ませることで、OITを単独で用いた場合よりも、OITの添加量を抑えることが可能となり、同等以上の抗菌効果を有しつつ、更に、安全性を向上させることができる。
MITの添加量は、1〜1000ppmであることが好ましく、5〜100ppmであることがより好ましく、10〜90ppmであることがさらに好ましく、最適には、10〜80ppmであることが好ましい。
また、BITの添加量は、1〜500ppmであることが好ましく、5〜50ppmであることがより好ましく、10〜45ppmであることが好ましく、最適には、10〜40ppmであることが好ましい。
本発明の水性インキ組成物は、ナトリウムオマジンとOITとBITとMITを併用することが、特に好ましい。抗菌性物質としてナトリウムオマジンとOITとBITとMITの4種類を併用した場合、オマジン系抗菌性物質とイソチアゾリン系抗菌性物質の異なる系の抗菌効果を十分に得ることができるとともに、イソチアゾリン系抗菌性物質の総添加量をおさえることができることから、抗菌性能、初期安全性、経時安全性を更に向上させることができる。また、ナトリウムオマジンとOITとBITとMITの4種類を併用してなるため、種々の微生物や耐性菌に対して更に効果的なものとなり、微生物の繁殖に伴う異物を抑制することが出来る他、金属イオン由来の異物の発生をも防ぐことができるため、種々の異物発生において効果的に抑制することができ、保存安定性をも更に向上させることができる。
また、本発明によるインキ組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、抗菌性物質として、ナトリウムオマジン、OIT、MITおよびBIT以外に任意の抗菌性物質を更に含んでいても良い。
上記抗菌性物質の具体例としては、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3オン、N−(n−ブチル)−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ブチルカバミン酸ヨウ化プロピニル、安息香酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール及びフェノールなどが挙げられる。
本発明において、抗菌性物質の総添加量は、11〜5000ppmであることが好ましく、50〜2000ppmであることが好ましく、150〜1200ppmであることがより好ましい。抗菌性物質の総添加量が、上記数値範囲であると、十分な抗菌効果とインキ組成物の安全性を確保することができる。
<着色剤>
本発明において用いることができる着色剤としては、通常、筆記具用水性インキ組成物に用いる染料、顔料などが挙げられる。
本発明においては、インキが乾燥した際にも再溶解性に優れるため、染料を用いることが好ましい。本発明において用いることができる染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能であれば特に制限されるものではない。例えば、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、直接染料、分散染料および食用色素など各種染料が挙げられ、これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。染料の添加量は、インキ組成物の総質量に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。
具体的には、酸性染料としては、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバイオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、塩基性染料としては、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3、C.I.ベーシックバイオレット10、直接染料としては、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51、C.I.ダイレクトブラック19、食用色素としては、C.I.フードイエロー3、C.I.フードブラック2などが挙げられる。
インキ組成物に用いられる染料と抗菌性物質の組み合わせによっては、インキ組成物中に析出物が発生してしまうことがあった。しかし、ナトリウムオマジンおよびOITを含む抗菌性物質にすることにより、その発生を抑制することが可能となる。例えば、上記C.I.ダイレクトブルー87の染料を用いた場合、微生物の養分となり微生物が増殖し、異物が発生する可能性や、上記C.I.アシッドレッド52の染料を用いた場合、金属イオン由来の析出物が発生する可能性が高かった。しかし、本発明のナトリウムオマジンおよびOITを含む抗菌性物質を用いることで、これらの析出物などの異物の発生を抑制することができる。このため、筆記性、保存安定性に優れたインキ組成物を実現することができ、筆記具用水性インキ組成物としての効果を十分に得ることができるようになる。
このように、本発明においては、特定の抗菌性物質を用いることで、従来の抗菌性物質との組み合わせでは、析出物を抑制しにくく、実用が困難であった染料を使用することが可能となるため、インキ組成物の材料としての染料の選択範囲が広がることとなる。
<水>
水としては、特に制限はなく、例えば、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
<その他>
本発明による水性インキ組成物は、インキ物性や機能を向上させる目的で、水溶性有機溶剤、pH調整剤、保湿剤、防錆剤などの各種添加剤を含んでもよい。
水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシブタノール、または3−メトキシ−3−メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。水溶性有機溶剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミンなどの水溶性のアミン化合物などの有機塩基性化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。pH調整剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。
保湿剤としては、前記水溶性有機溶剤の他に尿素、またはソルビットなどが挙げられる。保湿剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。また、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンを添加することができる。
さらには、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
<水性インキ製品>
本発明の水性インキ組成物は、開口部を有するインキ収容体にインキが収容されてなる水性インキ製品に用いることができる。開口部を有するインキ収容体にインキが収容されるような水性インキ製品は、収容されたインキ組成物を分取して筆記具に繰返し充填して用いることがあり、インキ組成物が外気に触れる機会が多く、その結果、微生物が繁殖し、インキ組成物の性能が損なわれてしまう可能性が高い。また、乳幼児が誤飲してしまう可能性や、充填時にインキ組成物が使用者の皮膚などに触れる可能性もある。このため、開口部を有するインキ収容体にインキが収容されてなる水性インキ製品に、本発明の安全性および抗菌性能に優れる水性インキ組成物を用いることは効果的である。
また、インキが収容してなる開口部を有するインキ収容体においては、インキ収容体の素材によっては、インキ収容体と収容されるインキ組成物とが反応し、インキ組成物自体の性能が損なわれてしまうため、収容体の素材にはインキ組成物と反応し難いものを用いる必要がある。このため、コスト面からも有利である汎用性樹脂が用いられるが、その素材によっては、経時保存の間にインキ収容体に収容されたインキ組成物の主溶剤である水が蒸発してしまい、抗菌性物質の濃度が上昇し、インキ組成物の安全性が低下してしまうという課題を有している。本発明のインキ組成物は、経時安全性に優れており、主溶剤である水が蒸発した場合にでも十分に安全性が保つことができる。よって、水分蒸発の可能性が高い素材のインキ収容体にインキが収容されてなる水性インキ製品に、本発明の水性インキ組成物を好適に用いることができる。
本発明の水性インキ組成物は、インキが収容されなる開口部を有するインキ収容体の材質の水蒸気透過度が、0.1〜1000g/m/dayである水性インキ製品に好ましく用いられ、該インキ収容体の材質の水蒸気透過度が0.1〜100g/m/dayである水性インキ製品により好ましく用いられ、該インキ収容体の材質の水蒸気透過度が0.3〜10g/m/dayである水性インキ製品により好ましく用いられる。
具体的には、インキ収容体の材質として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドなどの樹脂が挙げられ、特には、ポリエチレン、ポリプロピレンのインキ収容体に、本発明の水性インキ組成物を好適に用いることができる。
以上より、本発明の水性インキ組成物を収容してなる本発明の水性インキ製品は、初期安全性、経時安全性、および保存安定性に優れ、コスト面からも有用なものとなり、各種筆記具に好適に用いることができる。
尚、上述の水蒸気透過度とは、規定の温度及び湿度の条件で、単位時間中に試験片を通過する単位面積当たりの水蒸気の量を示すもので、25℃、90%RHの条件下、試験片が厚さ25μmにおける測定値である。
本発明の水性インキ製品は、前記のように、収容されたインキ組成物を分取して筆記具に繰返し充填して用いられる他、インキ収容体の開口部を直接、筆記具本体に装着することで、収容されるインキ組成物を筆記具本体に充填して用いられるようなものもある。具体的には、筆記具用インキカートリッジが挙げられる。
筆記具用インキカートリッジは、使用者が自ら筆記具本体に装着して用いるため、人体に対する安全性に考慮が必要である。また、使用後は廃棄することから樹脂などの汎用素材が用いられたり、また、装着の作業性が簡便である構造が採用されたりするため、筆記具用インキカートリッジは、水蒸気透過度の高い素材が用いられたり、水分蒸発率の高い構造体になる可能性が高く、経時安全性に考慮が必要である。よって、本発明の水性インキ組成物は、筆記具用インキカートリッジに好適に用いることができる。特には、50℃、4週間後の水分蒸発率が2.0%〜7.0%である筆記具用インキカートリッジに、より好適に用いることができる。
以上より、本発明の水性インキ組成物が収容された本発明の筆記具用インキカートリッジは、初期安全性、経時安全性および保存安定性に優れたものとなり、インキカートリッジ式筆記具に好適に用いることができる。
<筆記具>
本発明の水性インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップまたはボールペンチップなどを筆記先端としたマーキングペンやボールペン、金属製の筆記先端を用いた万年筆などの筆記具に用いることができる。
また、本発明の水性インキ組成物が用いることができる筆記具としては、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、インキ組成物を充填することのできる、インキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。また、前記インキ収容体が、筆記具本体に着脱自在に交換可能な構造をもつインキカートリッジ式筆記具であってもよい。
また、本発明の水性インキ組成物が用いることができる筆記具の出没機構は、特に限定されず、筆記先端を覆うキャップを備えたキャップ式、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内に筆記先端を収容可能な出没式であってもよい。
また、本発明の水性インキ組成物が用いることができる筆記具の供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調整部材として備え、水性インキ組成物を筆記先端に供給する機構、(2)くし溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、水性インキ組成物を筆記先端に供給する機構、(3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物を筆記先端筆記先端に供給する機構、および(4)インキ流量調整部材なしに直接、筆記先端に供給する機構などを挙げることができる。
本発明の水性インキ組成物は、万年筆などのくし溝状のインキ流量調節部材を介在させ、筆記先端にインキを供給する機構を備える筆記具や、マーカーなどの繊維束などからなるインキ誘導芯を備え、筆記先端にインキを供給する機構を備える筆記具に有効に利用できる。
このようなインキ供給機構を備える筆記具は、そのインキ供給機構の特徴から、微生物の繁殖などが原因で生じる析出物や凝集物などの異物や、金属イオン由来の析出物などの異物により、インキ供給路が狭くなって筆跡がかすれたり、インキ供給路が塞がれて筆記不能となったりする可能性が高い。そのため、種々の異物の発生を抑制することが可能な本発明の水性インキ組成物は、くし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具や毛細管力を利用したインキ供給機構を備える筆記具に好適に用いることができ、良好な筆記性能を得ることができる。
特に、万年筆はくし溝を利用したインキ供給機構であることから、発生した異物により筆記性能に問題が生じやすい。また、万年筆は、インキ収容体からインキを充填して使用する可能性が高く、該インキが外気に触れる機会や使用者の皮膚に触れる機会が多いため、用いられるインキ組成物の抗菌性能や安全性において考慮が必要である。また、万年筆は、筆記具用インキカートリッジを筆記具本体に付け替えてインキを充填して使用する可能性も高いため、水分蒸発などによる安定性の低下など経時安全性においても考慮が必要である。よって、微生物の増殖に伴う析出物や凝集物などの異物だけでなく、金属イオン由来の析出物などの異物においても抑制可能で、かつ初期安全性、経時安全性および保存安定性の優れた本発明の水性インキ組成物は、万年筆用の水性インキ組成物として好適に用いることができる。更には、インキカートリッジ式万年筆にも好適に用いることができる。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
下記の配合組成および方法により、インキ組成物を得た。
(筆記具用水性インキ組成物)
・ナトリウムオマジン 0.05質量%
(500ppm相当量)
・2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オン 0.0005質量%
(5ppm相当量)
・2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.008質量%
(80ppm相当量)
・1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン 0.003質量%
(30ppm相当量)
・C.I.ダイレクトブルー87(着色剤:青色染料) 2質量%
・エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2質量%
・トリエタノールアミン(pH調整剤) 2質量%
・イオン交換水 残部
イオン交換水に水溶性有機溶剤、pH調整剤、抗菌性物質を添加し、プロペラ攪拌により混合してベース液を得た。その後、ベース液に染料を添加し、プロペラ攪拌により混合して、インキ組成物を得た。
<実施例2〜実施例7>
実施例2〜7は、インキ組成物に含まれる抗菌性物質の種類、配合量、配合比を表1において表される組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてインキ組成物を得た。
<比較例1〜5>
比較例1〜5は、インキ組成物に含まれる抗菌性物質の種類、配合量、配合比を表2において表される組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてインキ組成物を得た。
<<抗菌性能試験>>
実施例1〜7および比較例1〜5のインキ組成物に細菌、酵母、カビをそれぞれ接種し、50℃で7日間保温後、の各インキ組成物を試験インキとした。各インキ組成物を寒天培地に接種し、細菌、酵母については30℃で、カビについては25℃で、それぞれ7日間培養し、そのときの状態を目視により観察して評価した。細菌は、Escherichia coli、Pseudomonas Aeruginosa、Pseudomonas Putida、Burkholderia Cepacia、Staphylococcus Aureus、Alcaligenes faecalis al、酵母は、Candida Valida、Rhodotorula Mucilaginosa、Saccharomyces Cerevisiae、かびは、Aspergillus Oryzae、Cladosporium Cladosporoides、Geotrichum Candidum、Paecilomyces Variotti、Penicillium Ochrochloronを用いた。
○:細菌、酵母、カビの繁殖が見られず、高い抗菌性能を有している。
△:細菌、酵母、カビの繁殖がわずかに見られるが、一定の抗菌性は有している。
×:細菌、酵母、カビの繁殖が顕著であり、抗菌性能を有していない。
<<安全性評価>>
実施例1〜7および比較例1〜5のインキ組成物のインキ組成物のOITの添加量を元に、その安全性を評価した。評価結果を表1、表2に表した。
◎:OITの添加量が40ppm以下であり、安全性が特に高い。
○:OITの添加量が40ppmより多く45ppm以下であり、安全性が高い。
△:OITの添加量が45ppmより多く50ppm以下であり、安全性を有している。
×:OITの添加量が50ppmより多く安全性に若干の課題がある。
<<経時安全性評価>>
実施例1〜7および比較例1〜5のインキ組成物が収容されたポリエチレン製(水蒸気透過度:0.92g/m/day)の万年筆用インキカートリッジ(水分蒸発率:5% (50℃、4週間後))を、50℃、4週間、放置したときのインキ組成物のOITの含有量を元に、その経時安全性を評価した。評価結果を表1、表2に表した。
◎:主溶剤である水が蒸発し、蒸発後のOITの含有量が40ppm以下であり、安全性が特に高い。
○:主溶剤である水が蒸発し、蒸発後のOITの含有量が40ppmより多く、45ppm以下であり、安全性が高い。
△:主溶剤である水が蒸発し、蒸発後のOITの含有量が45ppmより多く、50ppm以下であり、安全性を有している。
×:主溶剤である水が蒸発し、蒸発後のOITの含有量が50ppmより多く、安全性に若干の課題がある。
<<保存安定性評価>>
抗菌性試験に用いた試験インキをポリエチレン製(水蒸気透過度:0.92g/m/day)の万年筆用インキカートリッジ(水分蒸発率:5% (50℃、4週間後))に充填し、(株)パイロットコーポレーション製万年筆(キャップレス)に装着し、初期筆記した後、室温、4週間放置した。このときのインキカートリッジ中のインキ組成物中の異物の発生状況を目視にて確認して評価した。さらに、前記万年筆を用いて筆記し、その筆跡を確認し評価した。評価結果を表1、表2に表した。
○:インキ組成物中に異物は確認されず、また、良好な筆跡を得ることができた。
△:インキ組成物中に異物がわずかに確認され、筆跡がかすれたものもあったが、実用上問題ない筆跡が得られた。
×:インキ組成物中に異物が確認され、また、得られた筆跡はとぎれるなど良好な筆跡を得ることができなかった。
Figure 0006679387
Figure 0006679387
<実施例8、比較例6>
実施例1および比較例2のインキ組成物に含まれるC.I.ダイレクトブルー87(着色剤:青色染料)をC.I.アシッドレッド52(着色剤:赤色染料)に変更した以外は、実施例1および比較例2と同様にして、実施例8と比較例6のインキ組成物を調整した。これらのインキ組成物を50℃で14日間放置したところ、実施例8のインキ組成物には析出物などの異物が確認されず、このインキ組成物を(株)パイロットコーポレーション製万年筆(キャップレス)に利用したところ、良好な筆跡が得られた。一方、比較例6のインキ組成物においては析出物などの異物が発生し、このインキ組成物を万年筆に利用したところ、筆跡がかすれたりするなど、良好な筆記性能を発揮することができず、また、筆記不能になるものも発生した。
以上より、ナトリウムオマジンとOITを含んでなる、実施例1〜実施例7のインキ組成物は、抗菌性能試験、安全性評価、経時安全性評価、保存安定性評価のいずれに対しても良好な結果が得られ、筆記具用水性インキ組成物として優れたものであることがわかった。
一方、ナトリウムオマジンとOITが併用されていない比較例1〜5においては、安全性が優れるものの抗菌性が劣ってしまったり、抗菌性が優れるものの安全性は劣ってしまったりするなど、抗菌性能試験、安全性評価、経時安全性評価、保存安定性評価、すべてを満足できる結果を得ることができず、筆記具用水性インキ組成物として劣るものであることがわかった。

本発明のインキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、マーキングペンなどの各種筆記具用のインキ組成物や、それらに利用できるような水性インキ製品に用いることができる。特に、初期安全性、経時安全性および保存安定性の向上が図られていることから、万年筆やつけペンなどのインキが外気に触れることが多い筆記具や、インキが使用者の皮膚などに触れる可能性が高い筆記具に好適に用いることができる他、水性インキ組成物を開口部を有するインキ収容体に収容してなる水性インキ製品に好適に用いることができる。特には、経時保存後の安全性および抗菌性能に考慮が必要な筆記具用インキカートリッジや、それを用いた筆記具に好適に用いることができる。

Claims (8)

  1. 水と、着色剤と、ナトリウムオマジンと、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オンと、を含んでなる、筆記具用水性インキ組成物であって、前記ナトリウムオマジンの添加量が、前記筆記具用水性インキ組成物の総質量を基準として、10〜2000ppmであり、前記2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オンの添加量が、前記筆記具用水性インキ組成物の総質量を基準として、1〜500ppmであることを特徴とする、筆記具用水性インキ組成物。
  2. 前記ナトリウムオマジンに対する、前記2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オンの配合比が、質量基準で0.0005倍〜50倍である、請求項1に記載の水性インキ組成物。
  3. 2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンまたは1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンを更に含んでなることを特徴とする、請求項1または2に記載の水性インキ組成物。
  4. くし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具に充填されて用いられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性インキ組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のインキ組成物が、開口部を有するインキ収容体に収容されていることを特徴とする、水性インキ製品。
  6. 前記開口部を有するインキ収容体の材質の水蒸気透過度が、0.1g/m/day〜1000g/m/dayである、請求項5に記載の水性インキ製品。
  7. 請求項6に記載の水性インキ製品が、筆記具本体に着脱自在に交換可能である、筆記具用インキカートリッジ。
  8. 請求項7に記載の筆記具用インキカートリッジが内蔵された、筆記具。
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