JP6585387B2 - 筆記具用水性インキ組成物及びそれを用いた水性インキ製品並びに筆記具 - Google Patents
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さらに、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンより安全性の高い、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとを含んでなるインキ組成物が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、該インキ組成物を、インキ瓶などの開閉口を備えるインキ保管容器に収容され、万年筆などの櫛溝を利用したインキ供給機構を備えた筆記具に使用した場合、十分な抗菌効果を得るためには、抗菌性物質をある程度の量、添加しなければならず、安全面において十分とは言えなかった。
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、抗菌性物質と、着色剤と、溶媒と、を含んでなる。
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、抗菌性物質として、(+)−カテキンを含んでなるものである。なお、本発明において、「抗菌性物質」とは、微生物を死滅させる能力または増殖を抑える能力を有する物質のことであり、文献によっては、抗菌剤、殺菌剤、防かび剤および防腐剤と呼ばれることもある。
筆記具用水性インキ組成物は、該水性インキ組成物を補充して筆記具に使用する場合、使用者の皮膚に触れる可能性があることや、該水性インキ組成物が開閉口を備えるインキ瓶などに収容されている場合、乳幼児などが誤飲してしまう可能性があることから、筆記具用水性インキ組成物に使用する抗菌性物質は、人体や環境へ影響が少ない抗菌性物質を使用することが望ましい。そのため、筆記具用水性インキ組成物の抗菌性物質として、食品添加物にも用いられるような天然物由来の(+)−カテキンを使用することは効果的である。
従って、(+)−カテキンの安全性は、従来から用いられている抗菌性物質と比較して極めて高いものである。
筆記具用水性インキ組成物の抗菌性物質として、(+)−カテキンを用いると、該水性インキ組成物は、インキ瓶などのインキ保管容器に収容され、該容器からインキを分取して筆記具に充填して使用する筆記具や、筆記具用水性インキ組成物がカートリッジなどに収容され、該カートリッジを付け替えてインキを補充する筆記具のような、インキが使用者の皮膚などに付着してしまう可能性が高く、安全面に特に配慮が必要な筆記具に用いる水性インキ組成物として特に有用なものとなる。
また、筆記具用水性インキ組成物を、開閉口を備えるインキ瓶などに収容して使用する場合、該水性インキ組成物を乳幼児などが誤飲してしまう可能性があるため、食品添加物にも用いられるような(+)−カテキンを筆記具用水性インキ組成物の抗菌性物質として用いることは極めて有効である。
また、筆記具用水性インキ組成物が、開閉口を備えるインキ瓶などの保管容器に収容され、該インキ保管容器から分取して筆記具に使用される場合、該水性インキ組成物は外気に触れる機会が多いため、微生物が混入、繁殖し、異物が発生しやすい。そのため、上記のような状況下で使用される筆記具用水性インキ組成物は、特に十分な抗菌性能が必要である。しかしながら、従来の抗菌性物質では、安全性の面からその添加量が制限され、十分な量を添加することができず、満足な抗菌効果を得ることができないなどの課題を有していた。そこで、安全性の極めて高い(+)−カテキンを抗菌性物質として使用すると、抗菌効果を得るための量を十分に添加することができるようになり、前記課題を解決できるものとなる。このことからも、人体や環境に対する安全性が重要視される筆記具用水性インキ組成物の抗菌性物質として、(+)−カテキンを用いることは有効である。
前記カテキン類としては、(−)−カテキンの他、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガラート、エピガロカテキンガラート、ガロカテキン、カテキンガラート、ガロカテキンガラートなどが挙げられ、これらのカテキン類の異性体も含まれる。
上記抗菌性物質の具体例としては、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3オン、N−(n−ブチル)−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール及びフェノールなどが挙げられる。
同一の抗菌性物質を使用し続けると、抗菌性物質に耐性をもつ微生物(以下耐性菌という)が繁殖することがある。水性インキ組成物は、外気に触れる機会が多いため、該水性インキ組成物中に微生物が混入、繁殖しやすくなると同時に耐性菌が発生する確率も高くなる。該水性インキ組成物に複数種の抗菌性物質を併用することで、微生物が一方の抗菌性物質に耐性を持っていても、併用したもう一方の抗菌性物質により該微生物の繁殖を抑制することができる。そのため、本発明の筆記具用水性インキ組成物は、上記のような従来から使用される抗菌性物質を併用することが可能なため、耐性菌に対する抗菌効果を向上することができる。
更に、本発明の筆記具用水性インキ組成物に、上記のような従来から使用され安全性にやや課題のある抗菌性物質を併用した場合、その抗菌性物質の添加量を従来の添加量より減らすことができるため、筆記具用水性インキ組成物の安全性を向上することができる。
本発明において用いることができる着色剤としては、通常、筆記具用水性インキ組成物に用いる染料、顔料などが挙げられる。
溶媒としては、水、および水と有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水としては、イオン交換水、蒸留水および水道水などの慣用の水を用いることができる。また、水と有機溶剤との混合溶媒を用いる場合、有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましく、(i)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシブタノール、または3−メトキシ−3−メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などを用いることができる。なお、有機溶剤の含有率は、溶媒の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
また、水性インキ組成物は、必要に応じて、インキ物性や機能を向上させる目的で、pH調整剤、保湿剤、防錆剤などの各種添加剤を含んでもよい。ただし、添加剤においても安全性の高い材料を選択することが好ましい。
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、インキ瓶などのインキ保管容器にインキが収容されるような水性インキ製品に用いることができる。保管容器に収容されたインキを、該保管容器から分取して筆記具に詰め替え充填して使用する場合、該インキは、外気に触れる機会が多くなり、その結果、微生物が繁殖する可能性が増加し、保存安定性を保つことが困難になる可能性がある。また、開閉口を有する保管容器に収容されたインキを筆記具に詰め替え充填して使用する場合、該インキが、使用者の皮膚に触れる可能性や乳幼児が誤飲してしまう可能性もある。そのため、インキ瓶などのインキ保管容器にインキが収容されるような水性インキ製品に、本発明の保存安定性や安全性に優れた筆記具用水性インキ組成物を好適に用いることができる。
本発明の筆記具用水性インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップまたはボールペンチップなどをペン先としたマーキングペンやボールペン、金属製のペン先を用いた万年筆などの筆記具に用いることができる。
このようなインキ供給機構を備える筆記具は、そのインキ供給機構の特徴から、微生物の繁殖などが原因で生じる析出物や凝集物などの異物により、インキ供給路が狭くなって筆跡がかすれたり、インキ供給路が塞がれて筆記不能となったりする可能性が高い。そのため、異物の発生が抑制可能な本発明の筆記具用水性インキ組成物は、櫛溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具や毛細管力を利用したインキ供給機構を備える筆記具に使用した場合、良好な筆記性能を得ることができる。
下記原材料、配合量および方法により、筆記具用水性インキ組成物を得た。
(+)−カテキン 0.03質量%
C.I.アシッドブルー90(着色剤:染料) 0.5質量%
C.I.ダイレクトブルー87(着色剤:染料) 0.5質量%
エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
イオン交換水 残部
イオン交換水に水溶性有機溶剤、pH調整剤、抗菌性物質を添加し、プロペラ攪拌により混合してベース液を得た。その後、ベース液に着色剤を添加し、プロペラ攪拌により混合して、筆記具用水性インキ組成物を得た。
(+)−カテキンの配合量を0.08質量%とした以外は実施例1と同じ方法で、筆記具用水性インキ組成物を得た。
(+)−カテキンを用いなかった以外は実施例1と同じ方法で、筆記具用水性インキ組成物を得た。
原材料および配合量を下記のように変更した以外は、実施例1と同じ方法で、筆記具用水性インキ組成物を得た。
エピカテキン 0.0005質量%
ガロカテキン 0.0005質量%
エピガロカテキン 0.002質量%
カテキンガラート 0.001質量%
エピカテキンガラート 0.014質量%
ガロカテキンガラート 0.001質量%
エピガロカテキンガラート 0.011質量%
C.I.アシッドブルー90(着色剤:染料) 0.5質量%
C.I.ダイレクトブルー87(着色剤:染料) 0.5質量%
エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
イオン交換水 残部
原材料および配合量を下記のように変更した以外は、実施例1と同じ方法で、筆記具用水性インキ組成物を得た。
エピカテキン 0.006質量%
ガロカテキン 0.001質量%
エピガロカテキン 0.007質量%
エピカテキンガラート 0.012質量%
ガロカテキンガラート 0.002質量%
エピガロカテキンガラート 0.052質量%
C.I.アシッドブルー90(着色剤:染料) 0.5質量%
C.I.ダイレクトブルー87(着色剤:染料) 0.5質量%
エチレングリコール(水溶性有機溶剤) 2.0質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤) 1.0質量%
イオン交換水 残部
実施例1、実施例2、比較例1〜3の筆記具用水性インキ組成物中に、アスペルギルスsp.(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン耐性菌)を1mlあたり約1000個になるように接種した。これを試験インキとし、接種直後の試験インキをポテトデキストロース寒天培地による塗抹平板法にて28℃で7日間培養し、残存した菌数から抗菌性能を評価した。
さらに、実施例2の水性インキ組成物と比較例3の水性インキ組成物では、カテキン類の総添加量が同等であるにもかかわらず、(+)−カテキンを含む実施例2の水性インキ組成物では、7日間放置後の残存菌が1%未満に減少し極めて良好な抗菌効果を発揮する一方で、比較例3の水性インキ組成物では、残存菌が200%以上増加し、特に、抗菌性能が劣ることがわかった。
このように(+)−カテキンは、他のカテキン類と比較して、極めて良好な抗菌効果を有することがわかった。
Claims (4)
- 溶媒と、着色剤と、抗菌性物質と、を含んでなる筆記具用水性インキ組成物であって、前記筆記具用水性インキ組成物が、インキを繰返し充填して筆記する筆記具に用いられるインキ組成物であって、前記抗菌性物質として、(+)−カテキンを含んでなり、前記(+)−カテキンの含有量が、筆記具用水性インキ組成物の総質量を基準として300〜800ppmであることを特徴とする、筆記具用水性インキ組成物。
- 請求項1に記載の筆記具用水性インキ組成物をインキ保管容器に収容してなることを特徴とする、水性インキ製品。
- 前記インキ保管容器が開閉口を有するインキ保管容器である、請求項2に記載の水性インキ製品。
- 請求項1に記載の筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
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