JP6677441B2 - ロボット、ロボットの形状設計方法 - Google Patents

ロボット、ロボットの形状設計方法 Download PDF

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Description

本発明は、可動部を備えたロボット、ロボットの形状設計方法に関する。
ロボットは、例えばアーム等の可動部が移動や回転した際に周囲の人や構造物に衝突する可能性が存在することから、例えば安全柵で囲って、動作中には可動部の可動範囲内に人が進入しないようにする等の安全対策が施されている。ただし、設置作業や生産等で可動範囲内に人が進入すること等も想定されるため、ロボット側にも人体に影響を与えないような安全対策が施されている。例えば特許文献1には、人体の接近を検出する検出機能を設け、可動部が人体と接触する前にロボットの動作を停止させることが記載されている。また、例えば特許文献2には、アームの衝突を検知したときに衝撃を緩和する機構を備えることが記載されている。
特開2013−193137号公報 特開2012−110971号公報
しかしながら、例えば特許文献1等のように制御によって衝突を防止する構成の場合、ロボットの制御が正しく行われること、換言すると、ロボットが正常な状態で動作していることが前提且つ必須の要件であり、ロボットに万が一の異常が発生してしまうと衝突を防止する制御自体ができなくなる。このように、いわゆる機能安全の考え方に基づく従来のものでは、ロボットに本質安全を実現することが困難であった。
また、例えば特許文献2のように衝突防止機構を設ける構成の場合、衝突防止機構は衝突が発生した後に作動を開始するものであるから、衝突したその瞬間には人体に衝撃が加わることになり、人体への影響を必ずしも払拭できないことになる。また、衝突防止機構を設ける場合にはアームの重量が増加することから、そのアームを駆動するための駆動部の出力を大きくする必要があり、その結果、衝突した際に加わる力も増加して、衝突時に人体に与える影響が反って大きくなってしまうことも懸念される。そして、駆動部の出力を大きくする場合には駆動部自体が大型化してしまい、結果としてロボットの大型化を招くことになる。
なお、可動部を衝撃吸収用のクッション材等で覆ってしまえば衝突時の衝撃を緩和することはできるものの、そのような構成では、可動部(例えば、アーム)の外形が大きくなって作業領域が狭くなったり、上記したロボットの大型化を招いたりする等、ロボットにとって望ましくない状況を招くことになる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外形の大型化を招くこと無く、本質安全を実現することができるロボット、ロボットの形状設計方法を提供することにある。
請求項1記載の発明では、可動部とその可動部を駆動する駆動部とを備えたロボットであって、前記可動部の外形を形成する構造体であって移動中に人体に衝突する可能性がある衝突予想部位を、モータにより最大推力で駆動されて人体に衝突した際に人体に加える圧力が、人体に対して予め規定されている圧力の安全基準を満たす形状にしている。これにより、例えばXベースの外縁部等の衝突予想部位が万が一人体に衝突したとしても、人体に加えられる圧力の安全基準値を超えることがない。したがって、ロボットにおいて本質安全を実現することができる。この場合、安全基準値としては、例えばロボットの安全に関する国際規格等の値を採用すればよい。
また、衝突予想部位の形状により圧力を緩和する構造となっているので、前述のクッション材等とは異なり、外形の大型化を招くことが無い。
このとき、衝突予想部位が衝突する可能性のある被衝突部位として指を想定し、衝突予想部位はその形状が曲率半径Rとなる曲面状に形成されており、その曲率半径Rを、駆動部が最大推力で可動部を駆動して衝突予想部位が人体に押し付けられる際の押付力をFとし、指の断面形状を幅Wfの四角形状でモデル化し、その指の圧縮係数をkとし、規定されている圧力の安全基準の最大値をPsとした場合、次の(1)式を満たす範囲としている。
Figure 0006677441
指は、人体の他の部位に比べると相対的に小さい力でも損傷するおそれがある。そこで、衝突予想部位の曲率半径Rを指の安全基準値を満たす範囲とすることで、人体への影響を低減させることができる。
また、例えば二の腕等の他の部位の場合には指よりも安全基準値が相対的に高く規定されているので、指の安全基準値を満たしていれば、自ずと他の部位についても安全基準を満たすことができる。なお、安全基準値や人体の部位毎の安全基準値の大小関係は、本願の出願時に規定されている値であり、将来的に変更される可能性がある。ただし、接触リスクに関してリスクアセスメントを行い、安全基準値が最も厳しい部位を基準とした設計を行えば、安全基準値の変更があったとしても安全基準値を満たすことができる。
請求項2に係る発明では、衝突予想部位が衝突する可能性のある被衝突部位として指を想定し、衝突予想部位はその形状が曲率半径Rとなる曲面状に形成されており、その曲率半径Rを、駆動部が最大推力で前記可動部を駆動して衝突予想部位が人体に押し付けられた際の押付力をFとし、指の断面形状を直径Rfの円形でモデル化し、指の圧縮係数をkとし、規定されている圧力の安全基準の最大値をPsとした場合、次の(2)式を満たす範囲としている。
Figure 0006677441
指は、人体の他の部位に比べると相対的に小さい力でも損傷するおそれがある。そこで、衝突予想部位の曲率半径Rを指の安全基準値を満たす範囲とすることで、人体への影響を低減させることができる。また、上記した請求項2に係る発明と同様に、指の安全基準値を満たしていれば、自ずと他の部位についても安全基準を満たすことができる。
請求項3、4に係る発明では、可動部と、可動部を駆動する駆動部と、を備えたロボットにおいて、可動部において移動中に人体に衝突する可能性がある衝突予想部位を、駆動部により最大推力で当該可動部が駆動されて人体に衝突した際に人体に加える圧力が、人体に対して予め規定されている圧力の安全基準値を下回る形状に設計する。これにより、上記した請求項1、2に係る発明と同様に、ロボットにおいて本質安全を実現することができるとともに、衝突予想部位の形状により圧力が緩和されるので、外形の大型化を招くことが無い。
また、可動部の形状によって圧力を緩和する構成となっているので、可動部の形状を変化させることで、圧力の安全基準値が変化した場合であってもその変化に対応させることができる。すなわち、圧力の安全基準値を、ロボットを設計する際の設計値へと容易に落とし込むことができる。
第1実施形態のロボットの外観および電気的構成を模式的に示す図 アームが人体に衝突する状態、および衝突時に人体に加わる圧力の関係を模式的に示す図 アームおよび人体をモデル化した状態を示す図 アームが人体に衝突した際の衝突状態を角柱モデルで模式的に示す図 アームが人体に衝突した際の衝突状態を円柱モデルで模式的に示す図 実施形態のロボットにおいて挟み込みが発生する可能性のある部位を模式的に示す図 その他のロボットの外観を模式的に示す図
以下、本発明の一実施形態について、図1から図6を参照しながら説明する。
図1(A)に示すように、本実施形態の対象となるロボット1は、いわゆる直角座標ロボットであり、周知のように、ロボット1に取り付けられるチャック2(図1(B)参照。ハンド、ツール等とも称される)の位置を三次元で位置決め可能に構成されている。このロボット1は、コントローラ3(図1(B)参照)によってその移動やチャック2の動作が制御される。なお、図1(A)は直角座標ロボットの代表的な構成を例示しているのであって、本発明を適用することができるロボットは、図1(A)に例示したものに限定されるわけではない。
ロボット1は、ロボット1全体を支える構造体である直線状のYベース10を有しており、このYベース10上に、Y軸移動ユニット11がYベース10に沿って往復移動可能に取り付けられている。このY軸移動ユニット11は、ロボット1の動作中にその位置が変化する可動部に相当する。以下、Yベース10の延びる向きを便宜的にY軸方向と称する。
Yベース10は、概ね四角柱状で中空に形成されており、その内部には複数のプーリとそれらを連結するベルトとが設けられており、それらがY軸モータ17(図1(B)参照)により駆動されて支持板12が移動すると、それに伴って支持板12に固定されているY軸移動ユニット11も移動する。このY軸移動ユニット11は、ケーブルベア14(登録商標)内に配線されたケーブルによってYベース10側に電気的に接続されている。
Y軸移動ユニット11には、X軸移動ユニット15が取り付けられている。このX軸移動ユニット15は、ロボット1の動作中にその位置が変化する可動部に相当する。
X軸移動ユニット15は、概ね四角柱状で中空に形成され、Yベース10に直交する方向に延びるXベース16を有している。このXベース16は、可動部の外形を形成する構造体(フレーム)に相当する。以下、Xベース16の延びる向きを便宜的にX軸方向と称する。Xベース16の内部には、複数のプーリとそれらを連結するベルトとが設けられており、それらがX軸モータ18(図1(B)参照)により駆動されることで支持板17が移動し、それに伴って支持板17に固定されているX軸移動ユニット15も移動する。このX軸モータ18は、Xベース16の端部に設けられているXモータケース19に収容されている。このXモータケース19は、可動部の外形を形成する構造体に相当する。
このX軸移動ユニット15には、Z軸移動ユニット20が取り付けられている。このZ軸移動ユニット20は、ロボット1の動作中にその位置が変化する可動部に相当する。Z軸移動ユニット20は、レール21上に配置されているケーブルベア22内に配線されたケーブルによってX軸移動ユニット15側と電気的に接続されている。
Z軸移動ユニット20は、概ね四角柱状で中空に形成され、X軸およびY軸の双方と直交する方向に延びるZベース23を有している。このZベース23は、可動部の外形を形成する構造体に相当する。以下、Zベース23の延びる向きを便宜的にZ軸方向と称する。
Zベース23の内部には、Z軸方向に延びる台形すべりシャフト(図示省略)が回転可能に設けられているとともに、その台形すべりシャフトに台形すべりナット(図示省略)が螺合されている。この台形すべりナットは、X軸移動ユニット15の支持板17に固定的に取り付けられている。また、Zベース23の図示上方側の端部には、Z軸モータ24(図1(B)参照)を収容するZモータケース25が設けられている。このZモータケース25は、可動部の外形を形成する構造体に相当する。
X軸移動ユニット15の支持板17は、本実施形態では概ね平板を直角に折り曲げた形状となっており、一方の面がXY平面に平行になるように配置されてX軸移動用の台形すべりナットに取り付けられているとともに、他方の面がXY平面と直交するXZ平面に平行になるように配置されている。そして、XZ平面に平行となる面側に、Z軸移動用の台形すべりナットが取り付けられている。
そのため、Z軸モータ24(図1(B)参照)によりZ軸用の台形すべりシャフトが回転駆動されると、台形すべりナット自体はX軸移動ユニット15側に固定されていることから、台形すべりシャフトがZ軸方向に移動し、それによりZ軸モータ24を含むZ軸移動ユニット20全体がZ軸方向に移動する。
このZ軸移動ユニット20の先端側(図示下方の端部側)には、チャック2が取り付けられる。そして、コントローラ3からの指令に基づいてX軸移動ユニット15、Z軸移動ユニット20が移動し、チャック2の位置決めが行われることで、例えばワークのピックアンドプレース等の作業が行われる。このとき、X軸移動ユニット15やZ軸移動ユニット20は、予め定められている範囲内で移動する。
さて、このような構成のロボット1では、ロボット1の動作中にその位置が変化するX軸移動ユニット15やZ軸移動ユニット20等の可動部は、作業領域G(図1(A)参照)内に物体が存在するとその物体に衝突するおそれがある。また、物体が作業領域G外に位置している場合であっても、可動部の外縁部分つまりロボット1の外形を形成するXベース16、Zベース23やモータケース等の構造体と周辺の物体との間に例えば人の手や指が挟み込まれるおそれがある。
つまり、可動部の移動する範囲(以下、可動範囲と称する)内、より厳密に言えば、可動部の最外縁となる部位が移動する範囲内には、衝突や挟み込み等の危険が存在している。そのため、一般的には、ロボット1の周囲を安全柵等で囲って可動範囲内に人が侵入しないようにする等の安全対策が施されている。
しかし、実際に作業現場では誤って可動範囲に進入する可能性が存在し、また、近年では、人とロボット1が協調作業することにより作業効率を改善しようとする動きがあり、その場合には、ロボット1の直ぐ近くで人が作業し続けることになる。そのため、ロボット1には、より確実な安全対策を施すこと、つまり、本質安全を実現することが望まれている。
このような場合、ロボット1(ロボット1の周辺環境も含む)に施す安全対策としては、まず、上記した衝突や挟み込み等が発生しないようにすることが考えられる。具体的には、人等の物体を検知する検知手段を設け、その検知結果に応じて物体との衝突や挟み込みを避ける制御を行うことが考えられる。しかし、検知手段が故障したり、万が一プログラムの暴走等により制御が正しく行われなかったりした場合には、衝突や挟み込みを防止することができなくなる。また、可動部全体を検知対象とするためには、多くの検知手段を設ける必要があり、重量の増加やコストの大幅な上昇を招くことになる。
また、他の安全対策としては、衝突時の衝撃を緩和する機構等を設け、物体への損傷を低減することも考えられる。この場合、衝突が起こってしまった場合において、ロボット1や物体へのさらなる損傷を低減することは可能になると考えられる。しかし、このような機構は衝突が発生した後に作動を開始することから、衝突したその瞬間には物体に衝撃が加わることになる。そのため、対象として人を考慮する場合には、安全を確保できるとは言い難い。
また、そのような機構を設けた場合、可動部の重量が増加することから駆動部となるモータの出力を大きくする必要があり、モータの出力を大きくした場合には、衝突した際に加わる力が増加して人体に与える影響が反って大きくなってしまうことが懸念される。そして、モータが大型化すると、それを収容するモータケースも大きくなり、ロボット1の大型化を招くことになる。その結果、可動部の外形が大きくなり、他の部位と干渉することを避けるためには移動範囲を狭くせざるを得ず、作業領域Gが小さくなって作業効率が低下するおそれがある。
このように、従来の安全対策では、ロボット1の大型化や効率の低下を招くこと無く、ロボット1にいわゆる本質安全を実現することができなかった。そして、衝突や挟み込みが発生した際に人体に影響を与えないようにすることを目的としている場合においては、衝突や挟み込みを事前に防止する制御や衝突や挟み込みが生じてから初めて作動を開始する機構等はそもそも参考になるものでもない。
他の安全対策としては、衝撃を吸収あるいは緩和できる材料で可動部の構造体を形成することが考えられる。しかし、構造体自体を弾性体材料で形成してしまうと、撓んだり移動時に振動したりして位置決めを正しく行えなくなるおそれがある。また、金属材料等の剛性を有する材料で形成した構造体に例えばウレタン材料等で形成したクッション材を取り付けることも考えられるが、その場合、上記したように可動部の大型化を招いてしまうことから、人と協調動作させて効率を向上させたい場合等に採用することは望ましくない。
そこで、本実施形態では、ロボット1の形状を適切に設計することにより、衝突や挟み込み時に人体に影響を与えないようにしている。以下、圧力の安全基準値を満たすための形状設計方法、および実際のロボット1への適用例について説明する。
まず、設計の基礎となる考え方について説明する。
ロボット1は、上記したような衝突や挟み込み等の衝突リスクが存在しているため、ロボット1の本質安全を実現するにあたって、人体に対して許容される押付力、衝撃力、圧力の基準値(安全基準値に相当する)、ならびに、それらに付随する人体特性である圧縮係数が国際規格によって人体の部位毎に規定されている。これらの安全基準値のうち、押付力、衝撃力に関しては、計算および測定により規定されているが、圧力に関しては、理論化手段が確立されておらず、また、測定も困難であることから、推定値が規定されている。
このため、ロボット1を設計する場合には、押付力および衝撃力については容易にロボット1の設計値へ落とし込むことが可能であるものの、圧力については設計値への落とし込みが困難であった。
そこで、本実施形態では、圧力をロボット1の設計値へ落とし込むための手法を確立させている。換言すると、圧力の安全基準値を満たしたロボット1を設計するための形状設計方法を確立させている。
圧力は、単位面積当たりに加わる力として求めることができる。例えば図2(A)に示すようにZベース23の端部が人の手30に衝突したと想定すると、図2(B)に示すように、押付力が小さいほど衝突時の衝撃が小さくなるとともに、接触面積が大きくなるほど押付力が分散されて圧力が小さくなる。そのため、モータ出力等の仕様により定まる押付力が圧力の安全基準値(図2(B)では、例えば60[N/cm])より下回る範囲であって、且つ、国際規格により規定されている押付力の基準値(図2(B)では、例えば135[N])を下回る範囲になるようにすれば、人体への衝撃を許容範囲(以下、便宜的に安全範囲Rsafeとも称する)内に抑えることができると考えられる。
なお、図2(B)に示す60[N/cm](=0.60[N/mm])の値は、人体の部位として指を対象とした場合の圧力の安全基準値である。この国際規格では、指を対象とした場合の安全基準値が、押付力については上限が135[N]、衝撃力については上限が180[N]と規定されている。そのため、押付力だけで無く、図2(C)に示すように、衝撃力も基準値である180[N/cm]を下回る範囲になっていることも必要となる。また、足や腕等の他の部位についても同様に安全基準値が規定されているが、ロボット1において衝突や挟み込みが生じると想定される部位のうち、指の安全基準値が最も厳しい値(小さい値)となっている。
さて、圧力の安全基準値を満たす形状を設計するために、本実施形態では、まず安全基準値と人体の特性値(上記した圧縮係数)とに基づいて、ロボット1と人体との衝突状態をモデル化している。
図3は、ロボット1と人の指をモデル化したものであり、ロボット1を衝突予想部位M1、指を被衝突部位M2として示している。衝突予想部位M1は、モータ推力Fm[N]のモータにより駆動され、衝突速度V[m/sec]、慣性質量M[kg]としてモデル化されている。この衝突予想部位M1は、人体に衝突する可能性のある部位であるロボット1の可動部の外形、例えば概ね四角柱状に形成されているXベース16やZベース23の角部、モータケースの角部等が当てはまる。
被衝突部位M2は、衝突予想部位M1が衝突した際に変形する変形量(後述するもぐり量)が圧縮係数k[N/m]、および、衝突予想部位M1が衝突した際における衝突予想部位M1と被衝突部位M2との接触面積S[m]がモデル化されている。
さて、被衝突部位M2に加わる圧力を求めるには、衝突予想部位M1が衝突したときの押付力を求める必要がある。この、押付力F[N]は、周知のように、モータトルクや電流制限割合等の電気的な仕様や、プーリ径やリードといったボールねじの機械的な仕様から算出することができる。この場合、トルクの最大値を用いれば、対象となるロボット1において最大となる押付力Fを求めることができる。押付力Fは、その最大値が上記した国際規格を満たしていることが求められる。
参考までに、一般的な直角座標ロボットでは、Z軸移動ユニット20の押付力が最も大きくなることが多い。これは、Z軸移動ユニット20の場合、重力によって落下することを防止するために台形すべりのリードが小さく設計されるためである。このため、各モータの出力が同一であっても、モータの単位回転数辺りの移動距離が短くなるZ軸移動ユニット20が、押付力が最も大きくなる。
そのため、本実施形態では、Z軸モータ24の押付力の最大値を算出し、それを採用している。本実施形態の場合、Z軸モータ24による押付力は、110[N]となっており、国際規格(135[N])を満たしている。なお、例えばX軸移動ユニット15とZ軸移動ユニット20とを駆動するY軸モータ13が最も押付力が大きくなるのであれば、それを採用すればよいことは勿論である。
押付力が国際規格を満たしていることが確認できれば、次は、接触面積Sを求めればある力を求めることができる。この場合、接触面積Sは、押付力Fと、衝突予想部位M1の形状と、押付力Fで衝突予想部位M1が押し付けられたときの被衝突部位M2の変形量と、から求めることができる。そして、被衝突部位M2の変形量は、圧縮係数kから求めることができる。
ところで、指のモデル化は、次の2通りの手法が考えられる。1つ目は、指の断面が概ね四角形状であるとしてモデル化するもの(後述するモデルA)であり、2つ目は、指の断面が概ね円形状であるとしてモデル化するもの(後述するモデルB)である。以下、2通りの手法について個別に説明するが、両者とも、衝突予想部位M1(ロボット1)の形状と、その衝突予想部位M1が衝突したときの被衝突部位M2(人の指)の変形量とに基づいて圧力を求めるという共通する技術的思想に基づいてなされているものである。
<モデルA>
図4(A)は、衝突予想部位M1が衝突して、被衝突部位M2が衝突予想部位M1により押し付けられている状態を、指の側面から視たものとして模式的に示している。この衝突予想部位M1は、例えばZベース23の下端等が想定される。
衝突予想部位M1は、その曲率半径がRとなるように形成されている。なお、この曲率半径Rを求めること、つまり、衝突予想部位M1に相当する可動部の形状(特に、その外形の形状)を決定する設計方法を提供することが、本実施形態の目的である。
被衝突部位M2のもぐり量d[m]は、圧縮係数kから求めることができる。すなわち、圧縮係数kは、いわば指のバネ係数とも考えられるため、フックの法則から、d=F/kとして算出できる。そして、もぐり量dが求まれば、図4(A)に示す接触幅Wc[m]は、数学的にWc=2×R×cos−1(R−(F/k))/R)として求まる。さらに、接触幅Wcが求まれば、図4(B)に示すように被衝突部位M2が幅Wfの断面が概ね四角形状であったとすると、接触面積S[m]は、S=Wc×Wfとして求めることができる。なお、Cfは、被衝突部位M2の中心位置を模式的に示している。
そして、接触面積Sが求まれば、圧力P[N/mm]は、以下の(3)式のように求めることができる。
Figure 0006677441
そして、この圧力Pが上記した安全基準値である0.60[N/mm]を下回っていれば、国際規格に規定された安全要件を満たしたものとなる。つまり、圧力の安全基準値をPsとすると、P≦Psとなる関係、すなわち、上記した(1)式の関係を満たすようにロボット1の形状を設計すれば、安全基準値を満たすことができ、本質安全を実現するロボット1を製造することができる。
このように、ロボット1の可動部の外形、例えばXベース16やXベース16の角部等を、単純な直角では無く上記(1)式を満たす曲率半径Rのカーブ形状(いわゆるR形状)とすることで、安全基準値を満たすことができる。
<モデルB>
モデルBの場合、図5(B)に示すように、被衝突部位M2として直径Rfの断面が概ね円形のモデルを想定している。なお、Cfは、被衝突部位M2の中心位置を模式的に示している。このとき、図5(A)に示すように衝突予想部位M1が衝突して被衝突部位M2が変形したとする。
このとき、上記したモデルAと同様にもぐり量d、接触幅Wc、接触面積S等を数学的に求めることで、指が円形であるとした場合における圧力Pは、以下の(4)式により求めることができる。
Figure 0006677441
この圧力Pが上記した安全基準値である0.60[N/mm]を下回っていれば、国際規格に規定された安全要件を満たしたものとなる。つまり、圧力の安全基準値をPsとすると、P≦Psとなる関係、すなわち、上記した(2)式の関係を満たすようにロボット1の形状を設計すれば、安全基準値を満たすことができ、本質安全を実現するロボット1を製造することができる。
このように、ロボット1の可動部の外形、例えばXベース16やXベース16の角部等を、単純な直角では無く上記(2)式を満たす曲率半径Rのカーブ形状(いわゆるR形状)とすることで、安全基準値を満たすことができる。
モデルBの具体例を挙げると、Zベース23の下端側の端部において、ロボット1の仕様から求めたZ軸モータ24の最大推力(=押付力の最大値)が約61[N]であり、指の直径Rfが0.018[m]であったとすると、曲率半径を概ね0.005m(=5mm)以上とすれば、圧力Pが約59[N/2]となっていた。このため、安全基準値である60[N/2]を下回るようにするためには、Zベース23の下端側の端部(角部)を、曲率半径R>5mmに設計すればよいことが分かる。
なお、この具体例における曲率半径Rの基準値である5mmは、単なる一例であり、例えばモータの出力が小さい等の押付力が弱い場合には、基準値が5mmよりも小さくなることもあるし、逆にモータの出力が大きい等の押付力が強い場合には、基準値が5mmよりも大きくなることもある。
このように、本実施形態では、被衝突部位M2として最も安全基準が厳しい指を想定し、ロボット1の仕様から最大の押付力を求め、押付力からもぐり量を求め、もぐり量から接触面積を求めることで人体に接触した際の圧力を求め、その圧力つまり可動部が最大推力で人体に衝突した際の圧力が、国際規格によって定められている安全基準値を満たすように、ロボット1の形状を設計している。
図6は、衝突予想部位M1の一例であり、挟み込みが生じる可能性のある衝突予想部位M1を、破線にて模式的に示している。衝突予想部位M1は、構造体の角部が対象となっており、例えばXベース16の端部16a、支持板17の端部17a、Xモータケース19の端部19a、レール21の端部21a、Zベース23の端部23a、Zモータケース25の端部25a等が相当する。
なお、図6に示す衝突予想部位M1は一例であり、斜視図では示されていない部位等も衝突予想部位M1に設定されている。また、Yベース10に沿って設けられているレール26は、可動部ではないので対象から外されている。また、Zベース23の支持板17側の端部23b等は、挟み込みが生じないので対象から外されているが、衝突を考慮するならば対象に含めてもよい。
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
ロボット1は、可動部のうち移動中に人体に衝突する可能性がある衝突予想部位M1を、モータにより最大推力で駆動されて人体に衝突した際に人体(被衝突部位M2)に加える圧力が、人体に対して予め規定されている圧力の安全基準を満たす形状としている。これにより、例えばXベース16の外縁部等の衝突予想部位M1が万が一人体に衝突したとしても、人体に加えられる圧力の安全基準値を超えることがない。したがって、ロボット1において本質安全を実現することができる。
また、その外形が概ね四角柱状に形成されているXベース16やZベース23であれば、角部以外はほぼ平面(つまり、曲率半径が無限大)となっているので、角部が衝突した際の圧力が安全基準値を満たしていれば、その側面等で衝突した場合であっても圧力の安全基準値を満たすことができる。
また、衝突予想部位M1の形状により圧力を緩和する構造となっているので、前述のクッション材等とは異なり、外形の大型化を招くことが無い。
また、衝突予想部位M1として角部を対象とすることで、過度の大型化を防止することができる。ロボット1のような直角座標ロボットの場合、内部にプーリやベルトを収容する空間が必要となる。その場合、例えばXベース16を円柱状に形成すると、四角柱状の場合に比べると外形が大きくなってしまう。そのため、角部を対象とすることで、必要以上の大型化を招くこと無く、安全性を確保することができる。
また、このような設計方法、つまり、駆動部の仕様に基づいて可動部のうち移動中に人体に衝突する可能性がある衝突予想部位M1が人体に衝突する際の押付力(F)を求め、押付力と予め規定されている人体の圧縮係数(k)とに基づいて衝突時に衝突予想部位M1が人体にもぐり込むもぐり量(d)を求め、もぐり量と衝突予想部位M1の形状(曲率半径R)とに基づいて人体と衝突予想部位M1との接触面積(S)を求め、接触面積と押付力とに基づいて衝突予想部位M1により人体に加えられる圧力(P)を求め、人体に加えられる圧力が予め規定されている圧力の安全基準値を下回るように衝突予想部位M1の形状を設計する形状設計方法を採用することにより、ロボット1において本質安全を実現することができる。
指は、人体の他の部位に比べると相対的に小さい力でも損傷するおそれがある。そこで、衝突予想部位M1の曲率半径Rを指の安全基準値を満たす範囲とすることで、最も損傷しやすい人体の部位を保護することができる。
そして、例えば二の腕等の他の部位の場合には指よりも安全基準値が相対的に高く規定されているので、指の安全基準値を満たしていれば、自ずと他の部位についても安全基準を満たすことができる。
この場合、モデルAのように、指の断面形状を幅Wfの四角形状でモデル化し、その指の圧縮係数をkとし、規定されている圧力の安全基準の最大値をPsとすると、曲率半径Rを、上記した(1)式を満たす範囲とすればよい。これにより、安全基準値を満たしたロボット1を設計することができる。
また、モデルBのように、指の断面形状を直径Rfの円形でモデル化し、曲率半径Rを、上記した(2)式を満たす範囲とすればよい。この場合も同様に、安全基準値を満たしたロボット1を設計することができる。なお、モデルAとモデルBとのいずれを採用するかは、適宜選択すればよい。
また、圧力の安全基準値を満たすことで、図2(C)から明らかなように、衝撃力の安全基準値も満たすことができる。
(その他の実施形態)
本発明は上記した実施形態で例示した構成に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、拡張することができる。
実施形態で例示した数値は一例であり、それらに限定されるものではない。すなわち、対象とする人体の部位が変化した場合には安全基準値が異なるし、安全基準値が異なれば曲率半径も異なってくる。また、安全基準値自体の見直しが行われた場合には、必要となる曲率半径も変化する。そのような場合であっても、実施形態で説明した考え方に基づいて曲率半径を算出してロボット1の形状を設計することにより、本質安全を実現することができる。
実施形態では人体のうち指を被衝突部位M2として想定したが、他の部位を想定してもよい。例えば、人の手との接触は想定されず、足との接触が予想されるような場所に配置されるロボット1であれば、足を被衝突部位M2として想定してその形状を設計してもよい。
また、実施形態では指の断面形状を四角形または円形でモデル化したが、楕円形の他の形状でモデル化してもよい。これは、人体の他の部位をモデル化する際も同様である。
実施形態では例えばXベース16やZベース23の角部等、ロボット1の構造体(フレーム)そのものの形状で圧力を緩和させる構成としたが、可動部に、その外形を変更するカバー部材を設けてもよい。つまり、本発明において可動部の外形を形成する構造体とは、でXベース等のフレームの他に、可動部に取り付けてその外形を変更するものも含んでいる。この場合、カバー部材は、あくまでも可動部の外形を変更するものであり、前述のクッション材等とは異なり、カバー部材は、衝撃を緩和する材料等で形成しなくてもよい。クッション材等は、材料で衝撃を吸収あるいは緩和することから、どうしても厚くなり、可動部の外形が大きくなって作業領域Gの縮小等を招くことになる。
これに対して、可動部の外形を変更するだけであれば、厚みの薄いカバー部材を用いることができ、過度に大型化することを抑制できる。また、カバー部材を取り付ける構成であれば既存のロボット1に対しても適用でき、安全性を確保できるようになる。
また、図7に示すような可動部として複数のアームを有する垂直多関節型ロボット(図7ではいわゆる6軸ロボットを示している)や、水平回転可能な可動部を有する水平多関節型ロボット、あるいは、1軸方向あるいは2軸方向へ可動部が移動する直動型ロボット等に本発明を適用してもよい。
また、人等の物体を検知する検知手段を設け、その検知結果に基づいて衝突や挟み込みを防止するための制御を行って機能安全を実現しているロボットに、本発明を適用しても勿論よい。そのような構成によれば、機能安全によってまず衝突や挟み込みの防止を図ることができるとともに、万が一検知手段が故障したり制御に異常が生じたりした場合であっても、ロボット1の形状そのものが最後の砦となって、けが等の人体への影響を抑制することができ、ロボット1の安全性をさらに高めることができる。
図面中、1はロボット、11はY軸移動ユニット(可動部)、13はY軸モータ(駆動部)、15はX軸移動ユニット(可動部)、16はXベース(衝突予想部位)、16aは端部(衝突予想部位)、17は支持板(衝突予想部位)、17aは端部(衝突予想部位)、18はX軸モータ(駆動部)、19はXモータケース(衝突予想部位)、19aは端部(衝突予想部位)、20はZ軸移動ユニット(可動部)、21はレール(衝突予想部位)、21aは端部(衝突予想部位)、23はZベース(衝突予想部位)、23aは端部(衝突予想部位)、23bは端部(衝突予想部位)、24はZ軸モータ(駆動部)、25はZモータケース(衝突予想部位)、25aは端部(衝突予想部位)、30は手(被衝突部位)、M1は衝突予想部位(可動部)、M2は被衝突部位(人体)、Rは曲率半径、Sは接触面積、Wfは指の幅、Rfは指の直径、dはもぐり量、kは指の圧縮係数を示す。

Claims (2)

  1. 可動部と、前記可動部を駆動する駆動部と、を備えたロボットであって、
    前記可動部の外形を形成する構造体であって移動中に人体に衝突する可能性がある衝突予想部位を、前記駆動部により最大推力で当該可動部が駆動されて人体に衝突した際に人体に加える圧力が、人体に対して予め規定されている圧力の安全基準値を下回る形状とする際、
    前記衝突予想部位が衝突する可能性のある被衝突部位として指を想定し、
    前記衝突予想部位を、その形状が曲率半径Rとなる曲面状に形成し、
    前記衝突予想部位の曲率半径Rを、前記駆動部が最大推力で前記可動部を駆動して前記衝突予想部位を人体に押し付ける際の押付力をFとし、指の断面形状を幅Wfの四角形状でモデル化し、その指の圧縮係数をkとし、規定されている圧力の安全基準の最大値をPsとした場合、次の(1)式を満たす範囲としたことを特徴とするロボット。
    Figure 0006677441
  2. 可動部と、前記可動部を駆動する駆動部と、を備えたロボットにおいて、
    前記可動部において移動中に人体に衝突する可能性がある衝突予想部位を、前記駆動部により最大推力で当該可動部が駆動されて人体に衝突した際に人体に加える圧力が、人体に対して予め規定されている圧力の安全基準値を下回る形状に設計する際、
    前記衝突予想部位が衝突する可能性のある被衝突部位として指を想定し、
    前記衝突予想部位を、その形状が曲率半径Rとなる曲面状に形成し、
    前記衝突予想部位の曲率半径Rを、前記駆動部が最大推力で前記可動部を駆動して前記衝突予想部位を人体に押し付ける際の押付力をFとし、指の断面形状を幅Wfの四角形状でモデル化し、その指の圧縮係数をkとし、規定されている圧力の安全基準の最大値をPsとした場合、次の(1)式を満たす範囲とすることを特徴とするロボットの形状設計方法。
    Figure 0006677441
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