以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
<A.工作機械100の構成>
図1および図2を参照して、工作機械100の構成について説明する。図1は、工作機械100の外観を示す図である。図2は、工作機械100の内部構造の一例を示す図である。
図1および図2には、マシニングセンタとしての工作機械100が示されている。以下では、マシニングセンタとしての工作機械100について説明するが、工作機械100は、マシニングセンタに限定されない。たとえば、工作機械100は、旋盤であってもよいし、その他の切削機械や研削機械であってもよい。また、工作機械100は、工具が鉛直方向に取り付けられる縦形のマシニングセンタであってもよいし、工具が水平方向に取り付けられる横形のマシニングセンタであってもよい。
工作機械100は、切削に関する各種情報を表示するためのディスプレイ130と、工作機械100に対する各種操作を受け付ける入力デバイス131とを含む。
また、工作機械100は、その内部に、主軸頭21を有する。主軸頭21は、主軸22と、ハウジング23とで構成されている。主軸22は、ハウジング23の内部に配置されている。主軸22には、被加工物であるワークを加工するための工具が装着される。図2の例では、エンドミルとしての工具32が主軸22に装着されている。
主軸頭21は、ボールねじ25に沿ってZ軸方向に駆動可能に構成されている。ボールねじ25にはサーボモータなどの駆動機構が接続されている。当該駆動機構は、ボールねじ25を駆動することで主軸頭21を移動させ、Z軸方向の任意の位置に主軸頭21を移動する。
また、主軸22にはサーボモータなどの駆動機構が接続される。当該駆動機構は、Z軸方向(鉛直方向)に平行な中心軸AX1を中心に主軸22を回転駆動する。その結果、主軸22に装着された工具32は、主軸22の回転に伴って中心軸AX1を中心に回転する。なお、工作機械100が旋盤である場合には、主軸22には、ワークが装着される。この場合、主軸22の回転に伴って、主軸22に装着されたワークが回転する。
工作機械100は、自動工具交換装置(ATC:Automatic Tool Changer)30をさらに有する。自動工具交換装置30は、マガジン31と、押出し機構33と、アーム36とで構成されている。マガジン31は、ワークを加工するための種々の工具32を収容するための装置である。マガジン31は、複数の工具保持部34と、スプロケット35とで構成されている。
工具保持部34は、種々の工具32を保持可能なように構成されている。複数の工具保持部34は、スプロケット35の周囲に環状に配列されている。スプロケット35は、モータ駆動により、X軸に平行な中心軸AX2を中心に回転可能に設けられている。スプロケット35の回転に伴って、複数の工具保持部34が中心軸AX2を中心に回転移動する。
自動工具交換装置30は、工具の交換命令を受けたことに基づいて、マガジン31から装着対象の工具32を抜き取り、当該工具32を主軸22に装着する。より具体的には、自動工具交換装置30は、目的の工具32を保持する工具保持部34を押出し機構33の前に移動する。次に、押出し機構33は、アーム36による交換位置に向けて目的の工具32を押し出す。その後、アーム36は、目的の工具32を工具保持部34から抜き取るとともに、現在装着されている工具32を主軸22から抜き取る。その後、アーム36は、これらの工具32を保持した状態で半回転し、目的の工具32を主軸22に装着するとともに、元の工具32を工具保持部34に収容する。これにより、工具32の交換が行われる。
工作機械100は、加工対象のワークをXY平面上で移動するための移動機構50をさらに有する。移動機構50は、ガイド51,53と、ボールねじ52,54と、ワークを保持するためのテーブル55(ワーク保持部)とで構成されている。
ガイド51は、Y軸に対して平行に設置されている。ガイド53は、ガイド51上に設けられており、X軸に対して平行に設置されている。ガイド53は、ガイド51に沿って駆動可能に構成されている。テーブル55は、ガイド53上に設けられており、ガイド53に沿って駆動可能に構成されている。
ボールねじ52にはサーボモータなどの駆動機構が接続されている。当該駆動機構は、ボールねじ52を駆動することでガイド53をガイド51に沿って移動し、Y軸方向の任意の位置にガイド53を移動する。同様に、ボールねじ54にもサーボモータなどの駆動機構が接続されている。当該駆動機構は、ボールねじ54を駆動することでテーブル55をガイド53に沿って移動し、X軸方向の任意の位置にテーブル55を移動する。すなわち、工作機械100は、ボールねじ52,54のそれぞれに接続される駆動機構を協働して制御することで、XY平面上の任意の位置にテーブル55を移動する。これにより、工作機械100は、テーブル55上で保持されるワークをXY平面上で移動させながら加工を行うことができる。
ハウジング43には、主軸22または工具32の振動周波数を検知するための加速度センサ110が設けられている。好ましくは、複数の加速度センサ110がハウジング43に設けられ、各加速度センサ110は、主軸22または工具32の異なる方向(たとえば、X,Y,Z方向)の振動を検知する。なお、振動周波数を検知するためのセンサは、加速度センサ110に限定されず、工具32または主軸22の振動周波数を検知することが可能な任意のセンサが用いられ得る。
<B.再生びびり振動が生じる原理>
工作機械100でワークを加工する際、工具32の刃先が振動する再生びびり振動が生じることがある。再生びびり振動は、主軸回転速度と工具32によるワークの切込み幅との関係が所定の条件を満たしたときに生じる振動である。
以下では、図3〜図6を参照して、再生びびり振動が生じる原理について説明する。図3は、再生びびり振動が生じやすい切削条件の一例を示す図である。より詳細には、図3(A)には、前回の切削時におけるワーク上の切削跡が示されている。図3(B)には、今回の切削時における工具32の振動周波数が示されている。図3(C)には、今回の切削時における工具32によるワークの切削厚が示されている。
工具32は、回転しながらワークを繰り返し切削することでワークを切削する。工具32は、ワークの切削中に振動しており、図3(A)に示されるように、ワークの切削面に起伏が生じる。
工具32が次にワークを切削するとき、前回の切削時における切削跡と、今回の切削時における工具32の振動周波数とがずれることがある。このずれを「φ」で表わすと、図3(A)および図3(B)の例では、ずれφは、π/4(=90度)となっている。このようなずれが生じると、ワークの切削厚が切削位置に応じて変動する。図3(C)には、φ=π/4のずれが生じている場合における切削厚の変動が示されている。切削厚が変動すると、工具32が切削中にワークから受ける力が変動し、再生びびり振動が生じやすくなる。特に、φ=π/4となるときが、再生びびり振動が一番生じやすい。
図4は、再生びびり振動が生じにくい切削条件の一例を示す図である。より詳細には、図4(A)には、前回の切削時におけるワーク上の切削跡が示されている。図4(B)には、今回の切削時における工具32の振動周波数が示されている。図4(C)には、今回の切削時における工具32によるワークの切削厚が示されている。
図4(A)および図4(B)の例では、工具32の振動周波数は、前回の切削時における切削跡と重なっている。この場合、ずれ「φ」が0となり、ワークの切削厚が一定になる。そのため、工具32が切削中にワークから受ける力が一定になり、再生びびり振動が生じにくくなる。
したがって、ずれ「φ」が0に近付くように主軸22の回転数が調整されると再生びびり振動が生じにくくなる。一方で、ずれ「φ」がπ/4に近付くように主軸22の回転数が調整されると再生びびり振動が生じやすくなる。
典型的には、下記式(1)に示される「k」が整数になるとき、ずれ「φ」が0となる。
(数1)
k=60・fc/(n0・N)・・・(1)
式(1)に示される「k」は、工具32の第1の刃がワークに接触してから第2の刃がワークに接触するまでの間に工具32の振動によって生じる切削面の波数を表わす。「fc」は、主軸22の振動周波数を表わす。「N」は、工具32の刃数を表わす。「n0」は、主軸22の回転数を表わす。ここでいう回転数とは、単位時間辺り(たとえば、一分間辺り)における主軸22の回転数を意味し、回転速度と同義である。工具32は、主軸22に連動するため、主軸22の回転数は、工具32の回転数と等しい。そのため、主軸22の回転数は、工具32の回転数と同義である。以下では、主軸22または工具32の回転数を「主軸回転速度」ともいう。
図5は、「k」が整数となる場合におけるワークWの切削態様を示す図である。図5には、主軸22の軸方向から見た場合における工具32およびワークWの態様が示されている。
図5(A)には、「k」が1である場合におけるワークWの切削態様が示されている。図5(A)に示されるように、「k」が1である場合、工具32の刃32AがワークWに接触してから工具32の刃32BがワークWに接触するまでの間に工具32の振動によって生じる切削面の波数は1となる。
図5(B)には、「k」が2である場合におけるワークWの切削態様が示されている。図5(B)の切削態様における工具回転数は、図5(A)の切削態様における主軸回転速度の1/2に相当する。図5(B)に示されるように、「k」が2である場合、ワークWの切削面における波数は2となる。
図5(C)には、「k」が3である場合におけるワークWの切削態様が示されている。図5(C)の切削態様における主軸回転速度は、図5(A)の切削態様における主軸回転速度の1/3に相当する。図5(C)に示されるように、「k」が3である場合、ワークWの切削面における波数は3となる。
図5(A)〜図5(C)に示される切削態様では、ずれ「φ」がいずれも0となるため、再生びびり振動が生じにくい。
再生びびり振動が生じるか否かは、主軸回転速度とワークWの切込み幅との関係によって決まる。図6は、主軸回転速度とワークWの切込み幅との切削条件の関係において再生びびり振動が生じない切削条件の範囲(以下、「安定範囲」ともいう。)と再生びびり振動が生じる切削条件の範囲(以下、「不安定範囲」ともいう。)とを示す図である。図6では、安定範囲と不安定範囲との関係が安定限界線図60として示されている。安定範囲にはハッチングが付されており、不安定範囲にはハッチングが付されていない。
図6に示されるグラフの横軸は、主軸回転速度を表わす。図6に示されるグラフの縦軸は、ワークの切込み幅を表わす。ここでいう「切込み幅」は、主軸22の軸方向において工具32がワークWを切込む幅(以下、「切込み幅Ap」ともいう。)と、主軸22の軸方向の直交方向であってワークWに対する工具32の移動方向の直交方向において工具32がワークWを切込む幅(以下、「切込み幅Ae」ともいう。)とを含む概念である。すなわち、図6に示されるグラフの縦軸は、切込み幅Apで表されてもよいし、切込み幅Aeで表されてもよい。
図7は、工具32によるワークWの切削態様を示す図である。図7には、エンドミルとしての工具32が示されている。工具32は、その側面に複数の刃を有し、回転しながらワークWに接触することでワークWを切削する。
図7には、エンドミルとしての工具32が示されている。工具32は、その側面に複数の刃を有し、予め定められた経路に沿って回転しながらワークWに接触することでワークWを切削する。一例として、工具32は、切込み幅Apの1段目の切削部分を切込み幅Aeごとに順次切削する。次に、工具32は、切込み幅Apの2段目の切削部分を切込み幅Aeごとに順次切削する。このような切削が繰り返されることで、工具32は、ワークWを任意の形状に切削する。
<C.部分安定限界線図の表示態様>
本実施の形態に従う工作機械100は、安定限界線図60内の現在の主軸回転速度を中心とする所定範囲を表示対象範囲に決定し、安定限界線図60から、当該表示対象範囲に対応する部分図(以下、「部分安定限界線図」ともいう。)を抽出する。そして、工作機械100は、抽出した部分図をディスプレイ130(表示部)に表示する。これにより、現在の主軸回転速度は、常に、部分安定限界線図の中心に位置する。そのため、ユーザは、現在の主軸回転速度を安定限界線図上で探す必要がなく、現在の主軸回転速度を直感的に把握することができる。
以下では、図8および図9を参照して、部分安定限界線図の表示方法について説明する。図8は、主軸回転速度が「nc1」であるときに表示される部分安定限界線図を示す図である。
まず、工作機械100は、安定限界線図60の主軸回転速度の軸上において、現在の主軸回転速度「nc1」を中心とする所定範囲「Δn」を表示対象範囲として特定する。より具体的には、工作機械100は、現在の主軸回転速度「nc1」から「Δn/2」を減算した値を表示対象範囲の下限値「ns1」とする。また、工作機械100は、現在の主軸回転速度「nc1」から「Δn/2」を加算した値を表示対象範囲の上限値「ne1」とする。「Δn/2」の大きさは、予め決められていてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
次に、工作機械100は、安定限界線図60から、表示対象範囲「Δn」に相当する部分を部分安定限界線図70Aとして抽出する。抽出された部分安定限界線図70Aは、ディスプレイ130に表示される。なお、部分安定限界線図70Aは、ディスプレイ130内の表示領域の中心に表示されてもよいし、ディスプレイ130内の表示領域の中心以外に表示されてもよい。
好ましくは、工作機械100は、現在の主軸回転速度を示す基準線71を、部分安定限界線図70A上の主軸回転速度を表わす軸77に直交させて表示する。基準線71は、破線で示されてもよいし、直線で示されてもよいし、その他の種類の線で示されてもよい。基準線71が軸77に直交して表示されることで、ユーザは、現在の主軸回転速度をより直感的に理解することができる。
好ましくは、工作機械100は、部分安定限界線図70A内において、現在の主軸回転速度および現在の切込み幅を示すマーカーP1をさらに表示する。マーカーP1は、基準線71上に表示される。マーカーP1が表示されることにより、ユーザは、現在の主軸回転速度だけでなく、現在の切込み幅も把握することができる。
工作機械100は、主軸回転速度が変化したことに基づいて、変化後の主軸回転速度に合わせて部分安定限界線図の表示対象範囲を変える。一例として、主軸回転速度が「nc1」から「nc2」に変更したとする。図9は、主軸回転速度が「nc2」であるときに表示される部分安定限界線図を示す図である。
図9を参照して、工作機械100は、安定限界線図60の主軸回転速度の軸上において、現在の主軸回転速度「nc2」を中心とする所定範囲「Δn」を表示対象範囲として特定する。より具体的には、工作機械100は、現在の主軸回転速度「nc2」から「Δn/2」を減算した値を表示対象範囲の下限値「ns2」とする。また、工作機械100は、現在の主軸回転速度「nc2」から「Δn/2」を加算した値を表示対象範囲の上限値「ne2」とする。
次に、工作機械100は、安定限界線図60から、表示対象範囲「Δn」に相当する部分を部分安定限界線図70Bとして抽出する。抽出された部分安定限界線図70Bは、ディスプレイ130に表示される。
このように、工作機械100は、主軸回転速度が変化したことに基づいて、変更後の主軸回転速度に合わせて安定限界線図60内における表示対象範囲を変える。このとき、安定限界線図60内における現在の主軸回転速度を中心とした所定範囲が、表示対象範囲として特定されるため、部分安定限界線図の中心は、常に、現在の主軸回転速度を表わすことになる。これにより、より直感的な表示方法で現在の主軸回転速度を提示することができる工作機械を提供することである。
主軸回転速度の変更前後で、現在の主軸回転速度を示す基準線71の表示位置は、変化しない。すなわち、基準線71は、部分安定限界線図の中心を常に通過するように表示される。
好ましくは、工作機械100は、部分安定限界線図70B内において、現在の主軸回転速度および現在の切込み幅を示すマーカーP2をさらに表示する。マーカーP2は、現在の主軸回転速度を表わす基準線71上に表示される。これにより、ユーザは、現在の主軸回転速度だけでなく、現在の切込み幅も把握することができる。
<D.部分安定限界線図の表示態様の変形例>
次に、図10を参照して、安定限界線図の表示態様の変形例について説明する。上述の図8の例では、安定限界線図60から抽出された部分安定限界線図70Aのみがディスプレイ130に表示されていた。これに対して、本変形例では、部分安定限界線図70Aだけでなく、部分安定限界線図70Aの抽出元の安定限界線図60がディスプレイ130に表示される。
図10は、部分安定限界線図の表示態様の変形例を示す図である。図10に示されるように、工作機械100は、部分安定限界線図70Aと、部分安定限界線図70Aの抽出元の安定限界線図60とを並べてディスプレイ130上に表示する。このとき、工作機械100は、安定限界線図60上に表示対象範囲73Aを表わす。図10の例では、表示対象範囲73Aがハッチングで安定限界線図60上に表示されている。なお、安定限界線図60上に表示される表示対象範囲73Aは、必ずしも、ハッチングで示される必要なく、たとえば、ユーザの注意を引くことが可能な特定色で示されてもよい。
表示対象範囲73Aが安定限界線図60上に重ねて表示されることで、ユーザは、部分安定限界線図70Aが安定限界線図60内のどこを示しているかを容易に理解することができる。
好ましくは、工作機械100は、現在の主軸回転速度を示す基準線71を、部分安定限界線図70A上の主軸回転速度を表わす軸77Aに直交させて表示するとともに、安定限界線図60A上の主軸回転速度を表わす軸77Bに直交させて表示する。すなわち、工作機械100は、現在の主軸回転速度を表わす基準線71を、部分安定限界線図70A上だけでなく、安定限界線図60上にさらに表示する。
なお、図10の例では、1つの共通の基準線71が安定限界線図60上および部分安定限界線図70A上に表示されているが、2つの基準線71のそれぞれが、安定限界線図60上および部分安定限界線図70A上に表示されてもよい。
典型的には、基準線71は、常に、安定限界線図60の軸77Bの中心と、部分安定限界線図70Aの軸77Aの中心とを通過するように表示される。その結果、安定限界線図60の中心と、部分安定限界線図70Aの中心とは、常に、現在の主軸回転速度を表わすことになる。
安定限界線図60内の表示対象範囲73Aは、バーオブジェクト75S,75Eに対するスライド操作よって変更され得る。バーオブジェクト75S,75Eは、安定限界線図60の主軸回転速度の軸方向にスライド可能に構成されており、互いに連動するように構成されている。より具体的には、ユーザがバーオブジェクト75Sをスライドさせた場合、他方のバーオブジェクト75Eは、バーオブジェクト75Sのスライド方向とは反対方向に、かつ、バーオブジェクト75Sのスライド量と同量の分、スライドする。一方で、ユーザがバーオブジェクト75Eをスライドさせた場合、他方のバーオブジェクト75Sは、バーオブジェクト75Eのスライド方向とは反対方向に、かつ、バーオブジェクト75Eのスライド量と同量の分、他方のバーオブジェクト75Sをスライドする。
図10に示されるように、バーオブジェクト75S,75Eのスライド操作によって、表示対象範囲73Aが表示対象範囲73Bに変更されたとする。このことに基づいて、工作機械100は、安定限界線図60から、変更後の表示対象範囲73Bに対応する部分を抽出し、当該抽出部分を部分安定限界線図70Cとして表示する。このように、バーオブジェクト75S,75Eのスライド操作により、ユーザは、安定限界線図60内の任意の範囲を表示対象範囲として指定することができる。
なお、上述では、表示対象範囲がバーオブジェクト75S,75Eで指定される例について説明を行ったが、表示対象範囲を指定するためのオブジェクトは、バーオブジェクト75S,75Eに限定されない。一例として、表示対象範囲は、始点を指定するための矢印オブジェクトと、終点を指定するための矢印オブジェクトとで指定されてもよい。
<E.主軸回転速度の変更操作>
図11を参照して、主軸回転速度の変更操作の一例について説明する。図11は、主軸回転速度を変更する過程を示す図である。
工作機械100のディスプレイ130は、安定限界線図60内の表示対象範囲を変更する操作を受け付けることができるように構成されている。一例として、表示対象範囲は、ディスプレイ130に対するスライド操作によって変えられる。当該スライド操作は、タッチ操作で実現されてもよいし、マウス操作で実現されてもよい。
図11の例では、ユーザは、紙面右方向から紙面左方向に部分安定限界線図70Aをスライド操作している。当該スライド操作に連動して、安定限界線図60内の表示対象範囲が移動し、移動後の表示対象範囲に対応する部分安定限界線図70Bが逐次表示される。
工作機械100は、現在の主軸回転速度を、変更後の表示対象範囲の中心に対応する主軸回転速度に変更する。すなわち、工作機械100は、変更後の部分安定限界線図70Bの中心に位置する主軸回転速度を新たな設定値とする。このように、主軸回転速度は、安定限界線図60内の表示対象範囲の変更操作に連動する。これにより、ユーザは、主軸回転速度を直感的に変更することができる。
<F.工作機械100のハードウェア構成>
図12を参照して、工作機械100のハードウェア構成の一例について説明する。図12は、工作機械100の主要なハードウェア構成を示すブロック図である。
工作機械100は、主軸22と、ボールねじ25,52,54と、制御装置101と、ROM102と、RAM103と、通信インターフェイス104と、表示インターフェイス105と、入力インターフェイス109と、加速度センサ110と、サーボドライバ111A〜111Dと、サーボモータ112A〜112D(駆動部)と、エンコーダ113A〜113Dと、記憶装置120とを含む。
制御装置101は、たとえば、NC(Numerical Control)プログラムを実行可能なNC制御装置である。NC制御装置は、少なくとも1つの集積回路によって構成される。集積回路は、たとえば、少なくとも1つのCPU(Central Processing Unit)、少なくとも1つのASIC(Application Specific Integrated Circuit)、少なくとも1つのFPGA(Field Programmable Gate Array)、またはそれらの組み合わせなどによって構成される。
制御装置101は、工作機械100の切削プログラム122(NCプログラム)などの各種プログラムを実行することで工作機械100の動作を制御する。制御装置101は、切削プログラム122の実行命令を受け付けたことに基づいて、記憶装置120からROM102に切削プログラム122を読み出す。RAM103は、ワーキングメモリとして機能し、切削プログラム122の実行に必要な各種データを一時的に格納する。
通信インターフェイス104には、LANやアンテナなどが接続される。工作機械100は、通信インターフェイス104を介して、外部の通信機器との間でデータをやり取りする。外部の通信機器は、たとえば、サーバーや、その他の通信端末などを含む。工作機械100は、当該通信端末から切削プログラム122をダウンロードできるように構成されてもよい。
表示インターフェイス105は、ディスプレイ130などの表示機器と接続され、制御装置101などからの指令に従って、ディスプレイ130に対して、画像を表示するための画像信号を送出する。ディスプレイ130は、たとえば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはその他の表示機器である。
入力インターフェイス109は、入力デバイス131に接続され得る。入力デバイス131は、たとえば、ディスプレイ130に設けられるタッチパネル、マウス、キーボード、またはユーザ操作を受け付けることが可能なその他の入力機器である。
サーボドライバ111Aは、制御装置101から目標回転速度(または目標位置)の入力を逐次的に受け、サーボモータ112Aが目標回転速度で回転するようにサーボモータ112Aを制御する。より具体的には、サーボドライバ111Aは、エンコーダ113Aのフィードバック信号からサーボモータ112Aの実回転速度(または実位置)を算出し、当該実回転速度が目標回転速度よりも小さい場合にはサーボモータ112Aの回転速度を上げ、当該実回転速度が目標回転速度よりも大きい場合にはサーボモータ112Aの回転速度を下げる。このように、サーボドライバ111Aは、サーボモータ112Aの回転速度のフィードバックを逐次的に受けながらサーボモータ112Aの回転速度を目標回転速度に近付ける。サーボドライバ111Aは、ボールねじ54に接続されるテーブル55(図2参照)をX軸方向に沿って移動し、テーブル55をX軸方向の任意の位置に移動する。
同様のモータ制御により、サーボドライバ111Bは、ボールねじ52に接続されるガイド53(図2参照)をY軸方向に沿って移動し、ガイド53上のテーブル55(図2参照)をY軸方向の任意の位置に移動する。同様のモータ制御を行うことにより、サーボドライバ111Cは、ボールねじ25に接続される主軸頭21(図2参照)をZ軸方向の任意の位置に移動する。同様のモータ制御を行うことにより、サーボドライバ111Dは、主軸回転速度を制御する。
記憶装置120は、たとえば、ハードディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体である。記憶装置120は、安定限界線図60、切削プログラム122、切削プログラム122で用いられる各種の制御パラメータ124(たとえば、主軸回転速度、主軸22の送り速度、切込み幅Ap,Aeなど)などを格納する。安定限界線図60は、たとえば、限界の切込み幅を目的変数とし、現在の主軸回転速度や再生びびり振動の振動強度などを説明変数とする予め定められた演算式で規定される。あるいは、限界の切込み幅と、現在の主軸回転速度と、再生びびり振動の振動強度との関係がテーブル形式で規定されてもよい。
安定限界線図60、切削プログラム122、および制御パラメータ124の格納場所は、記憶装置120に限定されず、制御装置101の記憶領域(たとえば、キャッシュ領域など)、ROM102、RAM103、外部機器(たとえば、サーバー)などに格納されていてもよい。
切削プログラム122は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、本実施の形態に従う制御処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う切削プログラム122の趣旨を逸脱するものではない。さらに、切削プログラム122によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが切削プログラム122の処理の一部を実行する所謂クラウドサービスのような形態で工作機械100が構成されてもよい。
<G.工作機械100の機能構成>
図13を参照して、工作機械100の機能について説明する。図13は、工作機械100の機能構成の一例を示す図である。
図13に示されるように、工作機械100の制御装置101は、検出部152と、生成部154と、抽出部156と、表示制御部158と、設定部160と、駆動制御部162とを含む。
検出部152は、主軸22の回転速度を検出する。主軸回転速度は、種々の方法で検出され得る。一例として、検出部152は、上述のエンコーダ113D(図12参照)が検出した主軸回転速度をサーボドライバ111D(図12参照)から取得する。あるいは、検出部152は、主軸22を回転制御するサーボドライバ111Dに出力される主軸回転速度の指令値(制御信号)を取得し、当該指令値に基づいて、主軸回転速度を検出してもよい。検出部152によって検出された主軸回転速度は、抽出部156に出力される。
生成部154は、現在の切削条件に基づいて、安定限界線図60を生成する。安定限界線図は、種々の方法で生成される。一例として、安定限界線図は、Y・Altintasが考案した解析方法を用いて求められる。
Y・Altintasによる解析方法では、工具32の運動方程式が、下記式(2),(3)で示されるように、X方向とY方向との2自由度の物理モデルで表される。
(数2)
x”+2Gxωxx’+ωx 2x=Fx/mx ・・・(2)
(数3)
y”+2Gyωyy’+ωy 2y=Fy/my ・・・(3)
上記式に示される「ωx」は、工具32のX方向の固有振動数[rad/sec]を表わす。「ωy」は、工具32のY方向の固有振動数[rad/sec]を表わす。「Gx」は、X方向の減衰比[%]を表わす。「Gy」は、Y方向の減衰比[%]を表わす。「mx」は、X方向の等価質量[kg]を表わす。「my」は、Y方向の等価質量[kg]を表わす。「Fx」は、工具32に作用するX方向の切削動力[N]を表わす。「Fy」は、工具32に作用するY方向の切削動力[N]を表わす。「x”」および「y”」は、それぞれ時間の二階微分を表わす。「x’」および「y’」は、それぞれ時間の一階微分を表わす。
上記式(2),(3)に示される切削動力「Fx」,「Fy」は、下記式(4),(5)で求められる。
(数4)
Fx=−Ktaph(φ)cos(φ)−KrKtaph(φ)sin(φ)・・・(4)
(数5)
Fy=+Ktaph(φ)sin(φ)−KrKtaph(φ)cos(φ)・・・(5)
上記式に示される「h(φ)」は、工具32の刃がワークWを切り取る厚さ[m2]を表わす。「ap」は、軸方向の切込み幅[mm]を表わす。「Kt」は、主分力の比切削抵抗[N/m2]を表わす。「Kr」は、主分力と背分力との比[%]を表わす。
切削動力Fx,Fyは、工具32の回転角「φ」によって変化するため、切削の開始角度「φs」と切削の終了角度「φe」との間で切削動力Fx,Fyを積分し、それぞれの平均を求めることによって得られる。また、回転角「φs」および回転角「φe」は、工具32の直径D[mm]、径方向の切込み幅Ae[mm]、送り方向、アッパーカットかダウンカットかによって幾何学的に求めることができる。
上記式(2),(3)に係る固有値Λは、再生びびり振動の振動数をωcとすると、下記式(6)によって表わされる。但し、下記式(6)の右辺の各変数は、下記式(7)〜(14)から求められる。
(数6)
Λ=−(a1±(a1 2−4a0)1/2)/2a0・・・(6)
(数7)
a0=Φxx(iωc)Φyy(iωc)(αxxαyy−αxyαyx)・・・(7)
(数8)
a1=αxxΦxx(iωc)+αyyΦyy(iωc)・・・(8)
(数9)
Φxx(iωc)=1/(mx(−ωc 2+2iGxωcωx+ωx 2))・・・(9)
(数10)
Φyy(iωc)=1/(my(−ωc 2+2iGyωcωy+ωy 2))・・・(10)
(数11)
αxx=[(cos2φe−2Krφe+Krsin2φe)−(cos2φs−2Krφs+Krsin2φs)]/2・・・(11)
(数12)
αxy=[(−sin2φe−2φe+Krcos2φe)−(−sin2φs−2φs+Krcos2φs)]/2・・・(12)
(数13)
αyx=[(−sin2φe+2φe+Krcos2φe)−(−sin2φs+2φs+Krcos2φs)]/2・・・(13)
(数14)
αyy=[(−cos2φe−2Krφe−Krsin2φe)−(cos2φs−2Krφs−Krsin2φs)]/2・・・(14)
次に、固有値「Λ」の実部を「ΛR」、虚部を「ΛI」とすると、安定限界における軸方向の切込み幅aplim、および主軸回転速度nlimは、それぞれ、下記式(15),式(16)によって表される。
(数15)
aplim=2πΛR(1+(ΛI/ΛR)2)/(NKt)・・・(15)
(数16)
nlim=60ωc/(N(2kπ+π−2tan−1(ΛI/ΛR)))・・・(16)
生成部154は、上記数式(15),(16)に示される「ωc」および「k」の値を任意に変化させながら限界切込み幅「aplim」および主軸回転速度「nlim」を順次算出することで安定限界線図60を生成する。このように、生成部154は、予め定められた算出式に基づいて、安定限界線図60を生成する。生成された安定限界線図60は、抽出部156に出力される。
抽出部156は、安定限界線図60内の現在の主軸回転速度を中心とする所定範囲を表示対象範囲として決定し、安定限界線図60から、当該表示対象範囲に対応する部分安定限界線図を抽出する。部分安定限界線図の抽出方法については図8〜図10で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。
表示制御部158は、たとえば、抽出部156によって抽出された部分安定限界線図をディスプレイ130に表示する。また、表示制御部158は、安定限界線図60内の表示対象範囲の変更操作に合わせて、部分安定限界線図の表示を逐次更新する。安定限界線図60内の表示対象範囲の変更操作は、たとえば、図10で説明したようにバーオブジェクト75S,75Eに対するスライド操作で実現されてもよいし、図11で説明したように部分安定限界線図に対するスライド操作で実現されてもよい。
設定部160は、安定限界線部60内の表示対象範囲が変更されたことに基づいて、現在の主軸回転速度を、変更後の表示対象範囲の中心に対応する主軸回転速度に変更する。すなわち、工作機械100は、変更後の部分安定限界線図の中心に位置する主軸回転速度を新たな設定値とする。主軸回転速度の変更操作については図11で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。
駆動制御部162は、設定部160から出力される主軸回転速度を新たな目標回転速度としてサーボドライバ111D(図12参照)に出力する。これにより、サーボドライバ111Dは、目標回転速度で回転するように主軸22を回転制御する。
<H.工作機械100の制御構造>
図14を参照して、工作機械100の制御構造について説明する。図14は、工作機械100が実行する処理の一部を表わすフローチャートである。
図14に示される処理は、工作機械100の制御装置101(図13参照)が切削プログラム122(図12参照)を実行することにより実現される。他の局面において、処理の一部または全部が、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。
ステップS110において、制御装置101は、ワークの切削が開始されたか否かを判断する。制御装置101は、ワークの切削が開始されたと判断した場合(ステップS110においてYES)、制御をステップS112に切り替える。そうでない場合には(ステップS110においてNO)、制御装置101は、ステップS110の処理を再び実行する。
ステップS112において、制御装置101は、現在の切削条件や工具の種類に対応する安定限界線図60を取得する。安定限界線図60は、たとえば、上述の生成部154(図13参照)によって生成される。安定限界線図60は、予め生成されていてもよいし、切削開始前に生成されてもよい。安定限界線図60の生成方法については上述の通りであるので、その説明については繰り返さない。
ステップS114において、制御装置101は、上述の検出部152(図13参照)として、現在の主軸回転速度を検出する。
ステップS120において、制御装置101は、現在の主軸回転速度が前回から所定値以上変化しているか否かを判断する。制御装置101は、現在の主軸回転速度が前回から所定値以上変化していると判断した場合(ステップS120においてYES)、制御をステップS122に切り替える。そうでない場合には(ステップS120においてNO)、制御装置101は、制御をステップS130に切り替える。
ステップS122において、制御装置101は、上述の抽出部156(図13参照)として、ステップS112で取得した安定限界線図60から、安定限界線図60内の現在の主軸回転速度を中心とする所定範囲を表示対象範囲として決定し、安定限界線図60から、当該表示対象範囲に対応する部分安定限界線図を抽出する。部分安定限界線図の抽出方法については図8〜図10で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。
ステップS124において、制御装置101は、上述の表示制御部158(図13参照)として、ステップS122で抽出された部分安定限界線図をディスプレイ130に表示する。
ステップS130において、制御装置101は、安定限界線図内の表示対象範囲が変更されたか否かを判断する。一例として、制御装置101は、安定限界線図60内の表示対象範囲の変更操作を検出したことに基づいて、安定限界線図内の表示対象範囲が変更されたと判断する。安定限界線図60内の表示対象範囲の変更操作は、たとえば、図10で説明したようにバーオブジェクト75S,75Eに対するスライド操作で実現されてもよいし、図11で説明したように部分安定限界線図に対するスライド操作で実現されてもよい。制御装置101は、安定限界線図内の表示対象範囲が変更されたと判断した場合(ステップS130においてYES)、制御をステップS132に切り替える。そうでない場合には(ステップS130においてNO)、制御装置101は、制御をステップS140に切り替える。
ステップS132において、制御装置101は、安定限界線図60から、変更後の表示対象範囲に相当する部分安定限界線図を抽出し、当該抽出した部分安定限界線図をディスプレイ130に表示する。
ステップS134において、制御装置101は、上述の設定部160(図13参照)として、変更後の表示対象範囲の中心に対応する主軸回転速度を目標回転速度としてサーボドライバ111D(図12参照)に出力する。サーボドライバ111Dは、主軸22が新たな目標回転速度で回転するようにサーボモータ112Aを制御する。
ステップS140において、制御装置101は、ワークの切削が終了したか否かを判断する。制御装置101は、ワークの切削が終了したと判断した場合(ステップS140においてYES)、図14に示される処理を終了する。そうでない場合には(ステップS140においてNO)、制御装置101は、制御をステップS114に戻す。
<I.まとめ>
以上のようにして、工作機械100は、安定限界線図60内の現在の主軸回転速度を中心とする所定範囲を表示対象範囲として決定し、安定限界線図60から、当該表示対象範囲に対応する部分安定限界線図を抽出し、当該抽出した部分安定限界線図をディスプレイ130に表示する。これにより、現在の主軸回転速度が、常に、部分安定限界線図内の中心に表示されることとなる。そのため、ユーザは、現在の主軸回転速度を安定限界線図上で探す必要がなく、現在の主軸回転速度を直感的に把握することができる。
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。