以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の車両の制御システム図である。車両は、エンジン1と、自動変速機2と、エンジンコントローラ11と、変速機コントローラ12とを備える。自動変速機2は、トルクコンバータ3と、前後進切替機構4と、無段階に変速するCVT(無段変速機)5とで構成される。変速機は、複数の変速段の中から変速段を段階的に切り換える有段変速機であってよい。また、変速機は、例えば、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)であってもよい。
エンジン1で発生した回転は、トルクコンバータ3、前後進切替機構4、CVT5、歯車組8、ディファレンシャルギア9を経て駆動輪10に伝達される。
トルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ3aを有しており、ロックアップクラッチ3aが締結されると、トルクコンバータ3の入力軸と出力軸とが直結し、入力軸と出力軸とが同じ速度で回転する。
前後進切替機構4は、ダブルピニオン遊星歯車組を主な構成要素とし、そのサンギヤをトルクコンバータ3を介してエンジン1に結合し、キャリアをプライマリプーリ5aに結合する。前後進切替機構4はさらに、ダブルピニオン遊星歯車組のサンギヤ及びキャリア間を直結する締結要素としての前進クラッチ4a、及びリングギヤを固定する後進ブレーキ4bを備える。前進クラッチ4aの締結時にはエンジン1からトルクコンバータ3を経由した入力回転をそのままプライマリプーリ5aに伝達し、後進ブレーキ4bの締結時にはエンジン1からトルクコンバータ3を経由した入力回転を逆転減速してプライマリプーリ5aへ伝達する。
CVT5は、プライマリプーリ5aと、セカンダリプーリ5bと、これらプーリ間に巻き掛けたベルト5cとを備え、プライマリプーリ5aの回転は、ベルト5cを介して、セカンダリプーリ5bに伝達される。CVT5においては、プライマリプーリ5aの可動円錐板及びセカンダリプーリ5bの可動円錐板を軸方向に移動させ、各プーリ5a、5bとベルト5cとの接触位置半径を変えることで、プライマリプーリ5aとセカンダリプーリ5bのプーリ比(回転比)が変化する。これによって、変速比を無段階に変化させることができる。
自動変速機2には油圧制御回路6と、機械式オイルポンプ7aと、電動オイルポンプ7bと、オイルパン7cとを備える。油圧制御回路6を介してプライマリプーリ5aと、セカンダリプーリ5bの各油圧アクチュエータに供給するオイルの圧力(油圧)を制御することで、プライマリプーリ5a及びセカンダリプーリ5bの各可動円錐版を軸方向に移動させることができる。
CVT5のケース底部のオイルパン7cにはオイルが貯留されており、このオイルが機械式オイルポンプ7aにより吸入加圧され、油圧制御回路6を介して、前後進切換機構4及びプーリ5a、5bの各油圧アクチュエータに作動油として供給される。
油圧制御回路6は、供給各部(前後進切換機構4及びプーリ5a、5b)ごとに、リリーフ機能を有する電磁弁を備え、変速機コントローラ12の制御下で、機械式オイルポンプ7aの吐出圧を供給各部の目標圧に調圧して、供給各部に供給する。これにより、車両の前後進の切換えと変速比の制御とが行われる。
機械式オイルポンプ7aは動力源であるエンジン1により駆動される。機械式オイルポンプ7aは、油圧制御回路6を介して前後進切換機構4及びプーリ5a、5bに作動油としてオイルを供給する他、自動変速機2の各部に潤滑用の及び冷却用のオイルを供給する。供給されたオイルはオイルパン7cに戻されて循環される。
電動オイルポンプ7bは、機械式オイルポンプ7aと並列に設けられている。電動オイルポンプ7bは、エンジン1の停止中、従って機械式オイルポンプ7aの停止中に、機械式オイルポンプ7aに代わり、油圧制御回路6を介して前後進切換機構4及びプーリ5a、5bに作動油としてオイルを供給する他、自動変速機2の各部に潤滑用の及び冷却用のオイルを供給する。
変速機コントローラ12には、アクセルペダル開度APOを検出するアクセル開度センサ21からの信号、ブレーキペダルの操作量に対応したブレーキ液圧BRPを検出するブレーキ液圧センサ22からの信号、シフトレバー31の位置を検出するインヒビタスイッチ23からの信号が入力される。また、変速機コントローラ12には、前後進切替機構4の入力側(エンジン1側)の回転速度Ninを検出する入力側回転速度センサ24からの信号、前後進切替機構4の出力側(CVT5側)の回転速度Noutを検出する出力側回転速度センサ25からの信号、CVT5の出力側の回転速度を検出する回転速度センサ(図示せず)からの信号、エンジン1の回転速度Neを検出する回転速度センサ32からの信号等が入力される。また、車速VSPを検出する車速センサ33からの信号も変速機コントローラ12に入力される。
変速機コントローラ12とエンジンコントローラ11とは相互に通信可能となっている。変速機コントローラ12とエンジンコントローラ11とを統合して1つのコントローラとしてもよい。
本実施形態では、車両の走行中にセーリング許可条件が成立すると、変速機コントローラ13がセーリングの制御を実行する。ここで、「セーリング」とは、エンジン1と駆動系が切り離された状態で車両が惰性で走行することをいう。「セーリングの制御」とは、エンジン1と駆動系が切り離した状態で車両を惰性で走行させることをいう。セーリングの制御(以下、「セーリング制御」という。)には、セーリングストップとセーリングアイドルが含まれる。いずれであってもよい。「セーリングストップ」とは、車両の走行中にエンジン1と駆動系を切り離すと共に、エンジン1を停止することをいう。一方、「セーリングアイドル」とは、車両の走行中にエンジン1と駆動系を切り離すものの、エンジン1はアイドル状態で運転することをいう。エンジン1と駆動系を切り離すには、前後進切替機構4の前進クラッチ4a及び後進ブレーキ4bを解放してニュートラル状態としてやればよい。トルクコンバータを有する有段変速機の場合にエンジン1と駆動系を切り離すには、ロックアップクラッチを開放してやればよい。DCTの場合にエンジン1と駆動系を切り離すには、両方のクラッチを開放してニュートラルにすればよい。
車両の走行中に変速機コントローラ12がセーリング制御を行わせることで、エンジン1を停止したりアイドル運転したりした状態での惰性走行距離が長くなり、エンジン1の燃費を向上させることができる。
セーリングを許可する条件は、例えば以下の条件である。
(a)シフトレバー31によってD(前進)レンジが選択されていること。
(b)車速VSPが下限値以上であること。
(c)アクセルペダルが踏み込まれていない(アクセル開度がゼロ)こと。
(d)ブレーキペダルが踏み込まれていないこと。
上記の(a)、(b)は車両の走行中であることを判断するための条件である。上記の(c)は車両が惰性走行していることを判断するための条件である。上記の(d)を条件とするのは、ブレーキペダルが踏み込まれているときにはドライバに減速したい意図があるためである。セーリング許可条件は上記(a)〜(d)の条件を全て満たす場合に成立する。上記(a)〜(d)のいずれかを満たさない場合にはセーリング許可条件が成立しない。
セーリング制御中にセーリング許可条件が成立しなくなった場合には、セーリング制御の解除要求があったとして、変速機コントローラ12がセーリング制御を解除し、エンジン1を始動し、前進クラッチ4aを締結する。
さて、車両の走行中にセーリング許可条件が成立したからといって、セーリング制御を一律に行わせるのでは、車両の走行中におけるドライバの意図を汲み取りきれず、ドライバの運転性に対する満足度が悪化する虞がある。
これについて図2〜図7を参照して説明する。まず、図2〜図4は下り勾配路を車両が走行する場合である。図2は路面勾配が所定値(例えば−A%で、後述する)の下り勾配路を車両が一定車速で走行している途中にt1でセーリング許可条件が成立したときの車速VSPとアクセル開度APOの変化を上下に並べてモデルで示している。図3は同じ下り勾配路を車両が減速走行している途中に、図4は同じ下り勾配路を車両が加速走行している途中にt1でセーリング許可条件が成立したときの車速VSPとアクセル開度APOの変化を上下に並べてモデルで示している。
次に、図5〜図7は平坦路を車両が走行する場合である。図5は路面勾配がゼロの平坦路を車両が一定車速で走行している途中にt11でセーリング許可条件が成立したときの車速VSPとアクセル開度APOの変化を上下に並べてモデルで示している。図6は同じ平坦路を車両が減速走行している途中に、図7は同じ平坦路を車両が加速走行している途中にt11でセーリング許可条件が成立したときの車速VSPとアクセル開度APOの変化を上下に並べてモデルで示している。
ここでは簡単のため、セーリング許可条件が成立する直前に一定のアクセル開度を維持していたとする。そして、下り勾配路を車両が走行している場合に一定のアクセル開度からアクセル開度がゼロになるまでの時間を所定時間1としたとき、セーリング許可条件成立時より所定時間1前のアクセル開度を「直前の開度」で定義する。言い換えると、直前の開度は、アクセル開度が減少する前の一定のアクセル開度のことである。同様に、下り勾配路を車両が走行している場合にセーリング許可条件成立時より所定時間1前の車速、車両の要求駆動力、エンジン回転速度、変速比を「直前の車速」、「直前の要求駆動力」、「直前の回転速度」、「直前の変速比」で定義する。
また、平坦路を車両が走行している場合に一定のアクセル開度からアクセル開度がゼロになるまでの時間を所定時間2としたとき、セーリング許可条件成立時より所定時間2前のアクセル開度を「直前の開度」で定義する。同様に、平坦路を車両が走行している場合にセーリング許可条件成立時より所定時間2前の車速、車両の要求駆動力、エンジン回転速度、変速比を「直前の車速」、「直前の要求駆動力」、「直前の回転速度」、「直前の変速比」で定義する。
図2〜図7ではセーリング許可条件成立時よりセーリング制御を行う場合の車速と、セーリング許可条件成立時よりセーリング制御を行わない場合の車速とを上段に重ねて示している。図2〜図7の上段に示したように、セーリング許可条件成立時よりセーリング制御を行う場合には車速が相対的にゆっくりと低下し、セーリング制御を行わない場合には車速が相対的に急激に低下している。そして、図2〜図4の上段ではいずれの場合にも、時間がしばらく経過すれば車両の要求駆動力と車両の走行抵抗が一致して一定車速に落ち着く。この落ち着く先の一定車速は「釣り合い車速」といわれる。
まず、下り勾配路を車両が走行する場合を説明する。下り勾配路を車両が一定車速で走行するときのアクセル開度を基準開度1とする。図2下段に示したように直前の開度が基準開度1に等しくなっているときに、図2上段に示したようにt1まで下り勾配路を車両が一定車速で走行する。図3下段に示したように直前の開度が基準開度1未満となっているときに、図3上段に示したようにt1まで下り勾配路を車両が減速走行する。一方、図4下段に示したように直前の開度が基準開度1を超えているときに、図4上段に示したようにt1まで下り勾配路を車両が加速走行する。
図2のように下り勾配路を車両が一定車速で走行している途中のt1でアクセル開度をゼロにしたことから、減速制御を行いたい意図がドライバに有ると判断できる。図3のように下り勾配路を車両が減速走行している途中のt1でアクセル開度をゼロにしたことからも、図2の場合と同様に減速制御を行いたい意図がドライバに有ると判断できる。これらの場合にもセーリング許可条件成立時よりセーリング制御を行うとすれば車両が突っ走るようにドライバに感じられるため、セーリング制御を行わない。セーリング制御を行わないことで、セーリング許可条件成立時より車速の低下度合が、セーリング制御を行う場合より大きくなり、減速制御を行いたいというドライバの意思に沿ったものとなる。
一方、図4のように下り勾配路を車両が加速走行している途中のt1でアクセル開度をゼロにしたことから、車速を維持したい意図がドライバにあると判断できる。この場合にはセーリング制御を行っても車両が突っ走るようにはドライバに感じられないため、積極的にセーリング制御を行うことで車速を維持したいというドライバの意図に沿ったものとなる。
次に、平坦路を車両が走行する場合を説明する。平坦路を車両が一定車速で走行するときのアクセル開度を基準開度2とする。図5下段に示したように直前の開度が基準開度2に等しくなっているときに、図5上段に示したようにt11まで平坦路を車両が一定車速で走行する。図6下段に示したように、直前の開度が基準開度1未満となっているときに、図6上段に示したようにt11まで平坦路を車両が減速走行する。一方、図7下段に示したように直前の開度が基準開度1を超えているときに、図7上段に示したようにt11まで平坦路を車両が加速走行する。
図6のように平坦路を車両が減速走行している途中のt11でアクセル開度をゼロにしたことから、減速制御を行いたい意図がドライバに有ると判断できる。この場合にもセーリング制御を行うとすれば車両が突っ走るようにドライバに感じられることになるため、セーリング制御を行うことはしない。セーリング制御を行わないことで、車速の低下度合が、セーリング制御を行う場合より大きくなり、減速制御を行いたいというドライバの意図に沿ったものとなる。
一方、図7のように平坦路を車両が加速走行している途中のt11でアクセル開度をゼロにしたことから、車速を維持したい意図がドライバにあると判断できる。この場合にはセーリング許可条件成立時よりセーリング制御を行っても車両が突っ走るようにはドライバに感じられないため、積極的にセーリング制御を行うことで車速を維持したいというドライバの意思に沿ったものとなる。このように、平坦路を車両が減速走行したり加速走行したりしている途中のt11でセーリング許可条件が成立する場合には、下り勾配路を減速走行したり加速走行したりしている途中のt1でセーリング許可条件が成立する場合と同様に考える(図6は図3と、図7は図4と対応する)。
しかしながら、平坦路を車両が一定車速で走行している途中のt11でセーリング許可条件が成立する場合には、下り勾配路を車両が一定車速で走行している途中のt1でセーリング許可条件が成立する場合と同様に考えることができない。というのも、図5のように平坦路を車両が一定車速で走行している途中のt11でアクセル開度をゼロにしたことからは、減速制御を行いたい意図がドライバに有るとも判断できるし、あるいは車速を維持したい意図がドライバにあるとも判断できるためである。
このように、セーリング許可条件成立時に、セーリング制御を一律に行うのではなく、直前の開度と基準開度1,2との比較により、セーリング制御を行わないのか、それともセーリング制御を行うのかを判定する。これによって、下り勾配路走行時や平坦路走行時にドライバがセーリング制御を行うことを要求していないのか要求しているのかを明確にすることでき、車両の走行中においてドライバの運転性に対する満足度を向上させることができる。
ただし、直前の開度と基準開度1,2との比較により、セーリング制御を行わないのか、それともセーリング制御を行うのかを判定する方法では、基準開度1,2をどのように設定するのかが問題となる。仮に基準開度1,2を設定できたとしても、車両の走行中に、常に直前の開度と基準開度1,2とを比較させるのでは、変速機コントローラ12の演算負荷が高くなる。
そこで、さらに考える。図8は、車速[km/h]と車両の要求駆動力[N]をパラメータとする二次元平面に車両の走行抵抗[N]を書き入れたものである。路面勾配が同じであるとき、走行抵抗は車速が高くなるほど大きくなる(右上がりの曲線となる)。図8には曲線をいくつか記載しているが、これは路面勾配の違いを表している。路面勾配がゼロ%のときの走行抵抗に対して、下り勾配路の路面勾配が−A%,−B%,−C%,−D%と大きくなるほど、同じ車速でも走行抵抗が低下してゆく。上記のA〜Dは正の値で、A<B<C<Dの関係がある。A〜Dの前に付けたマイナスは路面が下り勾配であることを表している。
さて、図2、図3で示したように、特に下り勾配路を一定車速で走行している途中や減速走行している途中でセーリング許可条件が成立するときには、セーリング制御を行わないほうが、減速制御を行いたいというドライバの意思に沿うものとなることを前述した。つまり、下り勾配路を車両が一定車速で走行しているときや減速走行しているときに、セーリング制御を行うとすれば車両が勝手に突っ走るようにドライバが感じてしまうので、その突っ走り感がドライバに生じることがないように車速を抑制する。
具体的には、平坦路(つまり路面勾配が0%の道路)を走行中には、アクセルペダルを離すことでセーリング許可条件が成立し、セーリング制御が行われても、ドライバに突っ走り感が生じることはあまりない。これは、平坦路であれば、セーリング制御を行うことでセーリング制御を行わない場合より車速が高くなっても運転上あまり違和感がないためである。ところが、アクセルペダルを離したからといって、下り勾配路を車両が走行するときにセーリング制御を行ってしまうと、突っ走り感がドライバに生じてしまうのである。
これより考えて、路面勾配が基準値の下り勾配路を「基準の下り勾配路」とし、基準の下り勾配路より路面勾配が大きい下り勾配路の走行中には、セーリング許可条件が成立しても、セーリング制御を行わないようにすればよい。基準の下り勾配路より路面勾配が大きい下り勾配路の走行中に、セーリング制御を行わないのであればエンジンブレーキが働く。これによって、期待した制動感がドライバに得られることとなる。
基準の下り勾配路を定めるに際しては、車両の走行抵抗をベースに考える。車両の走行抵抗は、同じ種類の車両であっても、オプションを装備する場合と装備しない場合とで多少変化する。ここではオプションを装備しないベース車両の走行抵抗を考える。下り勾配路を車両が走行するときの当該ベース車両の走行抵抗は、シミュレーションや実験により予め知り得る。
例えば、図8において−A%を基準値とする。つまり、路面勾配が−A%の下り勾配路を「基準の下り勾配路」とし、路面勾配が−A%より負の値で大きな下り勾配路の領域を、セーリング制御を行わない領域、つまりセーリング制御禁止域(図8では斜線でハッチングした領域)として定める。言い換えると、セーリング制御禁止域は車両が下り勾配路を一定車速で走行しているときや減速走行している領域である。セーリング制御禁止域としないときの同じ領域には、特に、下り勾配路でセーリング制御を行うときとセーリング制御を行わずエンジンブレーキを働かせるときとで釣り合い車速が大きく乖離する場合が含まれる。この場合にセーリング制御を行ったのでは、ドライバの意図と異なる高い車速になってしまい運転性が損なわれる事態が生じ得る。一方、上記の場合が含まれる領域をセーリング制御禁止域とすることで上記の事態が生じないようにすることができる。このようにセーリング制御禁止域を要求駆動力が小さい側(低アクセル開度側)に限定することで突っ走り感がドライバに生じることを抑制できる。
この逆に、路面勾配が−A%より負の値で小さな下り勾配路の領域を、セーリング制御を行う領域、つまりセーリング制御実行域(図8ではドットを記載した領域)として定める。路面勾配がゼロ%の平坦路及び路面勾配が正の値の上り勾配路の領域も、セーリング制御実行域に含める。なお、−A%を基準値とする場合に限定されない。平坦路や上り勾配路において車速を維持するためには下り勾配路で車速を維持する場合より要求駆動力(アクセル開度)が大きいものとなる。この場合には、アクセルペダルを戻してアクセル開度がゼロになるとセーリング制御に入りやすくなる。これによって平坦路や上り勾配路においてセーリング制御が行われる頻度を増やすことが可能となる。
ただし、セーリング制御禁止域には車速制限を設ける。まず、車速範囲の上限は次のように定める。車両の走行中にセーリング制御を行っている状態で、アクセルペダルを踏み込む等してセーリング許可条件の一つでも成立しなくなると、変速機コントローラ12がセーリング制御を解除する。つまり、セーリング制御を行っている状態でセーリング許可条件が成立しなくなると、エンジン1と駆動系を接続するため前進クラッチ4aを締結する。前進クラッチ4aを締結するには、前進クラッチ4aの駆動系側の締結要素の回転速度とエンジン側の締結要素の回転速度が一致するまで、エンジン回転速度を上昇させる必要がある。これは、2つの締結要素の回転速度が不一致の状態で2つの締結要素を締結すると、トルクショックが生じるためである。
高車速側であるほどエンジン1の回転速度を上昇させないといけないので、エンジン1がその分だけ多く燃料を消費する。すると、却って燃費が悪くなってしまう。そこで、トータルの燃費が悪くならないように車速範囲の上限を定める。図8では、例えば100km/hを超えたところに車速範囲の上限を定めている。車速範囲の上限はこの数値に限定されるものでない。
次に、車速範囲の下限は、次のように定める。まず、図8において基準の下り勾配路(路面勾配が−A%の下り勾配路)の走行抵抗の曲線が横軸を切るときの車速を「横切り車速」とする。図8に対する他の態様として、図9に示したように車速範囲の下限をゼロとすることが考えられる。つまり、図9では図8でいう横切り車速以下の低車速域が、図8と相違してセーリング制御実行域となる。このように図9において、図8でいう横切り車速以下の低車速域で必ずセーリング制御を行うことになると、当該低車速域のうちの低負荷側の領域(破線の丸で囲った領域)で突っ走り感がドライバに生じることがある。
そこで本実施形態では、当該低車速域のうちの低負荷側の領域での突っ走り感が生じることを回避するため、図8では、横切り車速を車速範囲下限とした。つまり、図8では横切り車速以下の低車速域はセーリング制御禁止域となっている。これによって、当該低車速域のうちの低負荷側の領域(図9に破線の丸で囲った領域)で突っ走り感がドライバに生じることを回避できる。図8では、例えば50km/hを下回るところに車速範囲の下限がきている。車速範囲の下限はこの数値に限定されるものでない。車速範囲の下限は、変速機のタイプや変速機の要件から決めたり、コーストストップ(車両の減速時に車速が所定値以下になった場合にエンジンを停止すること)との兼ね合いから決めたりすることもできる。
次に、図10も図8と同様で、車速と車両の要求駆動力をパラメータとする走行抵抗の特性図である。図8では、路面勾配が−A%の下り勾配路を「基準の下り勾配路」、つまり路面勾配が−A%の下り勾配路の走行抵抗の曲線を、セーリング制御禁止域とセーリング制御実行域の境界とした。一方、図10は路面勾配が−A’%の下り勾配路を基準の下り勾配路、つまり路面勾配が−A’%の下り勾配路の走行抵抗の曲線を、セーリング禁止制御領域とセーリング制御実行域の境界とするものである。路面勾配が−A’%の下り勾配路の走行抵抗の曲線では、車速がゼロのとき走行抵抗がちょうどゼロとなっている。ここで、A’は正の値でA’<Aの関係がある。
図9は横切り車速以下の低車速域をセーリング制御禁止域とすることによって、当該低車速域うちの低負荷側での突っ走り感を回避できるという効果を得るものであったが、図10は、別の方法によって同じ効果を得ようとするものである。詳述すると、図9に一点鎖線で囲った領域(つまり、図8でいう横切り車速以下の低車速域のうちの低負荷側)を図10にも書き入れている。図10においては、セーリング制御禁止域とセーリング制御実行域の境界が上方に移動するため、セーリング制御禁止域が高負荷側及び低車速側に拡大する。このため、図10に一点鎖線の丸で囲った領域(つまり、図8でいう横切り車速以下の低車速域のうちの低負荷側)をセーリング制御禁止域がカバーすることになっている。これによって、図10の場合においても、図8でいう横切り車速以下の低車速域のうちの低負荷側でセーリング制御を行わないので、図8でいう横切り車速以下の低車速域のうちの低負荷側で突っ走り感がドライバに生じることを回避できる。
図8より不要な部分を取り去ることで、車速と車両の要求駆動力をパラメータとして、セーリング制御禁止域とセーリング制御実行域とを区分けしたマップが図12に示したように得られる。また、図10より不要な部分を取り去ることで、車速と車両の要求駆動力をパラメータとして、セーリング制御禁止域とセーリング制御実行域とを区分けしたマップが図13に示したように得られる。図12,図13において縦軸に採る車両の要求駆動力は要求負荷の代表値である。後述するように、要求負荷としては、この要求駆動力に限られるものでない。
図12,図13のマップを用いる際には、横軸を直前の車速として、縦軸を直前の車両の要求駆動力として用いる。そして、直前の車速と直前の要求駆動力から定まる運転点が、セーリング制御実行域に属しているのか、それともセーリング制御禁止域に属しているのか否かによって、セーリング制御を行うか行わないかを判定する。このように、基準の勾配路の走行抵抗(路面勾配が−A%、−A’%の路面勾配の走行抵抗)の曲線を境界とする図12,図13のマップを用いて、セーリング制御を行うか否かを判定するのであれば、路面勾配を検出する必要がなくなる。
また、図12では、縦軸を直前の要求駆動力としているため、直前の変速比の影響を受けることがない。つまり、直前の変速比に関係なく、図12,図13に示した1つの特性だけで対応できる。
図11のフローチャートは変速機コントローラ12がセーリング制御を行うためのもので、処理の手順を示している。一定時間毎に繰り返し行うものでない。
ステップ1では変速機コントローラ12が、セーリング許可条件が成立するか否かをみる。セーリング許可条件は、上記(a)、(c)、(d)の条件を全て満たす場合に成立する。上記(a)、(c)、(d)のいずれかを満たさない場合にはセーリング許可条件が成立しない。なお、上記(b)の条件が成立するか否かは本フローでは後述するステップ7で判定している。セーリング許可条件が成立しないときにはステップ2に進み、変速機コントローラ12がセーリング制御を行わない(セーリング制御を禁止)。このときにはステップ1に戻る。
ステップ1でセーリング許可条件が成立するときにはステップ3,4,5,6に進む。ステップ3,4,5で変速機コントローラ12は、セーリング許可条件が成立するタイミングより所定時間前のアクセル開度を直前の開度APOcに、同じく所定時間前のエンジン回転速度Neを直前の回転速度Necに、同じく所定時間前の車速を直前の車速Vcに入れる。ステップ6で変速機コントローラ12は、セーリング許可条件が成立するタイミングより所定時間前の変速比(目標変速比または実際の変速比)を直前の変速比Rcに入れる。
上記の所定時間は、図2〜図7に示した所定時間1,2と同じものである。すなわち、所定時間はセーリング許可条件が成立する直前において、一定のアクセル開度が減少に変化するタイミングよりセーリング許可条件が成立するまでの時間である。上記の所定時間は、適合により予め定めておく。一定時間(例えば10ms)が経過する度にアクセル開度のデータをメモリに記憶しておくことで、現在のタイミングより過去に遡るデータ群が生じる。このデータ群から所定時間前のデータを検索することで直前の開度APOcを求めることができる。直前の回転速度、直前の車速、直前の変速比についても同様である。一定時間が経過する度にエンジン回転速度、車速、変速比のデータをメモリに記憶しておくことで、現在のタイミングより過去に遡るデータ群が生じる。このデータ群から所定時間前のデータを検索することで直前の回転速度Nec、直前の車速Vc、直前の変速比Rcを求めることができる。
ステップ7では、変速機コントローラ12が直前の車速Vcが所定の車速範囲にあるか否かをみる。直前の車速Vcが車速範囲下限VL未満であるか、車速範囲上限VHを超えているときには、ステップ2に進み、セーリング制御を行わない(セーリング制御を禁止)。このときにはステップ1に戻る。本フローでは車速の条件を満たすか否かをステップ6で判定しているが、車速の条件を満たすか否かをステップ1で他の条件とまとめて行うようにしてもよい。
ステップ7で直前の車速Vcが車速範囲下限VL以上でありかつ車速範囲上限VH以下であるときには、変速機コントローラ12は、直前の車速Vcが所定の車速範囲にあると判断する。このときにはステップ8に進み、直前の開度APOcと直前の回転速度Necと直前の変速比Rcに基づいて、車両の要求駆動力Fを算出し、得られた要求駆動力Fを直前の要求駆動力Fcとする。アクセル開度と回転速度と変速比に基づいて車両の要求駆動力を算出するには公知の手法を用いればよい。
ステップ9では、変速機コントローラ12が直前の要求駆動力Fcと直前の車速Vcから定まる運転点(直前の運転点)が図12または図13に示したセーリング制御禁止域に属しているかセーリング制御実行域に属しているかをみる。図12は、セーリング制御禁止域とセーリング制御実行域の境界として、路面勾配が−A%の下り勾配路の走行抵抗の曲線を採用する場合である。図13は、セーリング制御禁止域とセーリング制御実行域の境界として、路面勾配が−A’%の下り勾配路の走行抵抗の曲線を採用する場合である。直前の運転点が境界とたまたま一致する場合が考えられる。境界はセーリング制御禁止域に属させることもできるし、セーリング制御実行域に属させることもできる。直前の運転点がセーリング制御禁止域に属しているときにはステップ10に進み、変速機コントローラ12がセーリング制御を行わない(セーリング制御を禁止)。
ステップ8で直前の運転点がセーリング制御実行域に属しているときにはステップ11に進み、変速機コントローラ12がセーリング制御を行う。
本実施形態では、ステップ7で直前の車速Vcを、車速範囲下限VL、車速範囲上限VHと比較することで、車速範囲にあるか否かを判定したが、この場合に限定されない。例えば、直前の車速Vcとセーリング許可条件成立時の車速VSPとがあまり変わらないのであれば、セーリング許可条件成立時の車速VSPを、車速範囲下限VL、車速範囲上限VHと比較することで、車速範囲にあるか否かを判定してもかまわない。同様に、ステップ8で直前の開度APOcと直前の回転速度Necと直前の変速比Rcに基づいて、車両の要求駆動力Fを算出し、得られた要求駆動力Fを直前の要求駆動力Fcとしたが、この場合に限定されない。例えば、直前の要求駆動力とセーリング許可条件成立時の要求駆動力Fとがあまり変わらないのであれば、セーリング許可条件成立時のアクセル開度APOとエンジン回転速度Neと変速比Rに基づいて、車両の要求駆動力Fを算出し、得られた要求駆動力Fをそのまま直前の要求駆動力Fcとしてよい。
ここで、本実施形態の作用効果をまとめる。
本実施形態では、車速と車両の要求駆動力(要求負荷)をパラメータとして、低負荷側にセーリング制御禁止域を、高負荷側にセーリング制御実行域を区分けするマップを有し、アクセル開度に基づいてセーリング許可条件が成立するか否かを判定する。前記判定結果よりセーリング許可条件が成立するときに、当該条件が成立する直前の車速及び要求駆動力を求め、前記求めた直前の車速及び要求駆動力で定まる直前の運転点が前記セーリング制御禁止域と前記セーリング制御実行域のいずれにあるかを判定する。前記判定結果より前記直前の運転点がセーリング制御禁止域にあるときにセーリングを禁止し、前記直前の運転点がセーリング制御実行域にあるときにセーリングを行う。本実施形態によれば、特に車両が下り勾配路を走行中においてドライバのエンジンブレーキ要求を満たすことができる。
本実施形態では、前記セーリング制御禁止域とセーリング制御実行域を区分けする境界が、下り勾配路の走行抵抗から定まるので、車両が下り勾配路を走行中においてエンジンブレーキが必要となる場合に対処できる。
セーリング許可条件が成立するときの車速及び要求駆動力からセーリング許可条件が成立する直前のドライバの意図を推定するのでは、ドライバの意図を誤推定することがある。一方、本実施形態では、直前の車速及び要求駆動力は、セーリング許可条件が成立するときから予め定めた所定時間前の車速及び要求駆動力である。これによって、直前の運転点でのドライバの意図を正確に推定できる。
横切り車速(下り勾配路の走行抵抗がゼロとなるときの車速)以下の低車速域をセーリング制御実行域とするときには、横切り車速以下の低車速域のうちの低負荷側で突っ走り感がドライバに生じることがある(図9参照)。本実施形態では、下り勾配路の走行抵抗は、車速がゼロのときにゼロになる走行抵抗である(図10参照)。これによって、セーリング制御禁止域が高負荷側及び低車速側に拡大し、横切り車速以下の低車速のうちの低負荷側をカバーすることから、横切り車速以下の低車速の低負荷側での突っ走り感がドライバに生じことを回避できる。
横切り車速以下の低車速域をセーリング制御実行域としたときには、当該低車速域のうちの低負荷側で突っ走り感がドライバに生じることがある(図9参照)。一方、本実施形態では、セーリング許可条件に車速が下限値以上であることを含める場合に、横切り車速を車速の下限値としている(図8参照)。これによって、横切り車速以下の低車速域ではセーリング制御が行われることがないので、横切り車速以下の低車速域うちの低負荷側での突っ走り感を回避できる。
(第2実施形態)
アクセルペダルを戻す(アクセル開度をゼロまで小さくする)ことでセーリング許可条件が成立するといっても、アクセルペダルから足を離すことによってアクセルペダルを戻す場合と、アクセルペダルに足を乗せたままでアクセルペダルを戻すことによってアクセルペダルを戻す場合がある。以下、アクセルペダルから足を離すことによってアクセルペダルを戻すことを「アクセルペダル早戻し」ともいう。アクセルペダルに足を乗せたままでアクセルペダルを戻すことによってアクセルペダルを戻すことを「アクセルペダルゆっくり戻し」ともいう。
第1実施形態は、アクセルペダル早戻しの場合を対象とし、所定時間を一定値で定める場合であった。しかしながら、アクセルペダルゆっくり戻しの場合には、直前の開度APOcが、アクセルペダル早戻しの場合より小さくなるはずである。
これをさらに図14を用いて説明する。図14において、横軸に時間、縦軸にアクセル開度APOを採っている。実線の直線がアクセルペダル早戻しの場合のアクセル開度の特性図、一点鎖線の直線がアクセルペダルゆっくり戻しの場合のアクセル開度の特性図である。
セーリング許可条件成立より所定時間前にアクセル開度が正の所定値APOdであったとして、アクセルペダル早戻しの場合にアクセル開度がゼロになるまでの時間を「基準時間」とする。セーリング許可条件成立前にアクセル開度が同じ所定値APOdであったとしても、アクセルペダルゆっくり戻しの場合にはアクセル開度がゼロになるまでの時間が上記の基準時間より長くなる。そこで、アクセルペダルゆっくり戻しの場合にアクセル開度が所定値APOdからゼロになるまでの時間を「ゆっくり戻し時間」とする。
図14においてAPOdから水平線を引き、水平線が実線の直線と交わる点をE点とし、破線の実線と交わる点をF点とする。E点から垂線を引き、垂線が破線の実線と交わる点をG点、横軸と交わる点をH点とする。また、F点から垂線を引き、垂線が横軸と交わる点をI点とする。原点はO点とする。
アクセルペダルゆっくり戻しの場合には、アクセルペダル早戻しの場合より直前の開度APOcが小さくなるはずであるから、アクセルペダル早戻しの場合のアクセル開度がEHであるときに、アクセルペダルゆっくり戻しの場合には、GHを直前の開度APOcとして採用する。
次に、GHを求めることを考える。△OGHと△OFIにおいて、次の式が成立する。
GH:FI=基準時間:ゆっくり戻し時間 …(1)
(1)式を変形して次の式が得られる。
GH=FI×基準時間/ゆっくり戻し時間 …(2)
FIはAPOであるから、これを(2)式に代入して
GH=APOd×基準時間/ゆっくり戻し時間 …(3)
の式を得る。
ここで、GHを、改めてアクセルペダルゆっくり戻しの場合の直前の開度APOcとおくと、
APOc=APOd×基準時間/ゆっくり戻し時間 …(4)
の式が得られる。アクセルペダルゆっくり戻しの場合には、ゆっくり戻し時間が基準時間より長くなるので、(4)式より、APOcはAPOdより小さくなる。このようにして、アクセルペダルゆっくり戻しの場合を直前の開度APOcに反映させることが可能となった。
図15のフローチャートは第2実施形態の直前の開度APOcを設定するためのもので、処理の手順を示している。一定時間毎に繰り返し行うものでない。
ステップ21では変速機コントローラ12がアクセル開度APOに減少傾向が発生したか否かをみる。アクセル開度APOに減少傾向がなければそのまま待機し、ステップ21に戻る。
ステップ21でアクセル開度APOに減少傾向が発生したときには、変速機コントローラ12は、ステップ22に進み、アクセル開度APOに減少傾向が発生してからの時間を計測する。
ステップ23では変速機コントローラ12が、セーリング許可条件が成立した否かをみる。セーリング許可条件が成立していなければ、ステップ22に戻って、時間の計測を継続する。
ステップ23でセーリング許可条件が成立すれば変速機コントローラ12は、ステップ24に進む。アクセルペダルゆっくり戻しの場合には、セーリング許可条件が成立するタイミングでの時間計測値は、アクセル開度APOに減少傾向が発生してからアクセル開度がゼロになるまでの時間を表す。このため、変速機コントローラ12は、セーリング許可条件が成立したタイミングでの時間計測値をゆっくり戻し時間に入れる。
ステップ25で変速機コントローラ12は、セーリング許可条件が成立するタイミングより所定時間前のアクセル開度を所定値APOdに入れる。
所定時間は第1実施形態と同様に適合により予め定めておく。
ステップ26で変速機コントローラ12は、所定値APOdから図16を内容とするテーブルを検索することにより、基準時間を算出する。図16はアクセルペダル早戻しの場合のアクセル開度の特性である。アクセルペダル早戻しの場合のアクセル開度の特性は、車種によって多少異なってくるので、車種毎に記憶させておけばよい。
ステップ27で変速機コントローラ12は、所定値APOdに、基準時間/ゆっくり戻し時間の除算値を乗じた値を、直前の開度APOcとする。つまり、上記(4)式を用いて直前の開度APOcを算出する。アクセルペダル早戻しの場合には、上記(4)式において基準時間=ゆっくり戻し時間となるため、APOc=APOdとなり、APOcは第1実施形態の場合と変わりない。一方、クセルペダルゆっくり戻しの場合には、基準時間よりゆっくり戻し時間が大きくなるため、第2実施形態のAPOcはAPOd(=第1実施形態のAPOc)よりも減少側に変更される。
図11に相当するセーリング制御のフローを第2実施形態では図示しない。第2実施形態でも図11のフローを基本的に用いるものとし、図15のフローで求めた、アクセルペダル早戻しの場合の直前の開度APOcを、図11のステップ3でのAPOcに代えて用いればよい。
第2実施形態では、直前の開度APOc、直前の回転速度Nec及び直前の変速比Rcに基づいて直前の要求駆動力Fcを算出する場合において、所定の開度(APOd)からアクセル開度がゼロになることでセーリング許可条件が成立するときに、アクセルペダルから足を離すことによってアクセル開度が所定の開度(APOd)からゼロになるまでの時間を基準時間とする。また、アクセルペダルに足を乗せたままでアクセルペダルを戻すことによってアクセル開度が所定の開度(APOd)からゼロになるまでの時間を計測し、基準時間とこの時間計測値(ゆっくり戻し時間)の比を所定の開度(APOd)に乗算した値を直前の開度APOcとする。これによって、アクセルペダルに足を乗せたままでアクセルペダルを戻す場合にも、直前の開度APOcを適切に与えることができる。
(第3実施形態)
図17のフローは、第3実施形態のセーリング制御を行わせるためのもので、処理の手順を示している。一定時間毎に繰り返し行うものでない。
第3実施形態は、第1実施形態の図11のフローに対して、ステップ31,32を追加するものである。
第1実施形態は、直前の運転点がセーリング制御禁止域に含まれていれば、直前の運転点の状態に関係なく、セーリング制御を行わないものであった。しかしながら、直前の運転点がセーリング制御禁止域に含まれていても、直前の運転点の状態によってはセーリング制御を行いたい要求がある。例えば、セーリング許可条件が成立する直前にアクセル開度をゆっくり小さくしている(アクセルペダルをゆっくり戻している)ときには、ドライバが車速を維持していると考えられる。このとき、セーリング制御禁止域にあるからといって、セーリング制御を行わないとすれば、セーリング制御を行う場合より車速の減少度合が大きくなり、車速を維持できなくなる。ドライバにとっては、違和感が生じることとなるのである。この場合にはむしろ、セーリング制御禁止域にあってもセーリング制御を行って車速を維持させたほうがドライバの意図に沿うものとなる。
そこで、第3実施形態では、直前の運転点がセーリング制御禁止域にあっても、直前の運転点でアクセルペダルをゆっくり戻しているときにはセーリング制御を行わせるようにする。
図17において第1実施形態と相違する部分を主に説明すると、ステップ9で直前の運転点がセーリング制御禁止域に属しているときには変速機コントローラ12は、ステップ31に進み、直前の運転点でアクセルペダルをゆっくり戻しているか否かを判定する。
この判定には、第2実施形態の図15のフローを用いればよい。すなわち、セーリング許可条件成立時の直前にアクセルペダルをゆっくり戻している場合に、図15のフローで算出する直前の開度APOcが所定値APOdより小さくなる。あるいはゆっくり戻し時間が基準時間より長くなる。そこで、直前の開度APOcと所定値APOdを比較し、直前の開度APOcが所定値APOdより小さい場合にセーリング許可条件成立時の直前にアクセルペダルをゆっくり戻していると、あるいはゆっくり戻し時間と基準時間を比較し、ゆっくり戻し時間が基準時間より長い場合にセーリング許可条件成立時の直前にアクセルペダルをゆっくり戻していると判断させればよい。
セーリング許可条件成立時の直前にアクセルペダルをゆっくり戻している場合に変速機コントローラ12は、ステップ32に進み、セーリング制御を行う。このように、直前の運転点はセーリング制御禁止域にあっても、直前の運転点でアクセルペダルをゆっくり戻している場合には、セーリング制御を行うことで、車速を維持したいというドライバの意図に沿うものとなる。
第3実施形態では、直前の運転点がセーリング制御禁止域にある場合でも直前の運転点でアクセルペダルに足を乗せたままでアクセルペダルを戻しているときにはセーリング制御を行う。これによって、セーリング制御禁止域にあっても、車速を維持したいというドライバの意図に応えることができる。
実施形態では、図12,図13に示したように直前の車速と直前の要求駆動力をパラメータとするマップで与えた。マップの与え方は、図12,図13の場合に限られない。図12,図13において縦軸に要求駆動力[N]を採っているが、要求駆動力にタイヤの有効半径[m]を乗算すれば要求駆動トルク[Nm]になるので、縦軸を要求駆動トルクとしてもよい。ただし、この場合には、走行抵抗についても要求駆動トルクと同じ単位に揃えることが必要である。
さらに、図18に示したように横軸に直前の車速Vcを、縦軸に直前の開度APOcを採り、基準の勾配路の走行抵抗に相当するアクセル開度の曲線を書き入れたマップとすることもできる。しかしながら、直前の車速Vcと直前の開度APOcをパラメータとするマップの場合には、直前の開度APOcが同じであっても、直前の変速比Rcによって直前の要求駆動力が相違する。つまり、直前の車速Vcと直前の開度APOcをパラメータとするマップの場合には直前の変速比Rcによって直前の要求駆動力が変化するので、直前の変速比Rc毎に直前の車速Vcと直前の開度APOcをパラメータとするマップを用意する必要がある。複数のマップが必要となり、その分、メモリ容量が増加してしまう。一方、直前の車速Vcと直前の要求駆動力Fcをパラメータとするマップの場合には直前の変速比が異なっても直前の要求駆動力は変化しないので、マップの数は一つだけでよい。
このように、マップの縦軸に採り得る要求駆動力、要求駆動トルク、アクセル開度は全て要求負荷の代表値であるので、要求駆動力に代えて、要求駆動トルクやアクセル開度とすることができる。