以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の一例に係る歯車装置の構成を示す断面図である。本歯車装置12は、外歯歯車14が内歯歯車16に対して揺動しながら内接噛合する「偏心揺動型」と称される歯車装置である。
概略から説明すると、本歯車装置12は、ケーシング20と、該ケーシング20と相対回転する第1キャリヤ24と、ケーシング20と該第1キャリヤ24との間に配置される第1主軸受30と、を備える。
第1主軸受30は、第1キャリヤ24に設けられる第1内輪32と、ケーシング20に設けられる第1外輪34と、第1内輪32と第1外輪34との間に配置される複数の第1ころ(転動体)36と、該複数の第1ころ36を保持する第1リテーナ38と、を備える。
複数の第1ころ36は、第1主軸受30の軸心C30に対して傾いた回転軸S36を有している。この実施形態では、第1内輪32の外周面、および第1外輪34の内周面には、第1ころ36の回転軸S36方向の移動を規制するリブが設けられていない。
また、本歯車装置12は、ケーシング20と、該ケーシング20と相対回転する第2キャリヤ124と、ケーシング20と該第2キャリヤ124との間に配置される第2主軸受130と、を備える。
第2主軸受130は、第2キャリヤ124に設けられる第2内輪132と、ケーシング20に設けられる第2外輪134と、第2内輪132と第2外輪134との間に配置される複数の第2ころ(転動体)136と、該複数の第2ころ136を保持する第2リテーナ138と、を備える。
複数の第2ころ136は、第2主軸受130の軸心C130に対して傾いた回転軸S136を有している。この実施形態では、第2内輪132の外周面、および第2外輪134の内周面には、第2ころ136の回転軸S136方向の移動を規制するリブが設けられていない。
また、この実施形態では、一対の第1、第2主軸受30、130は、背面合わせの態様でケーシング20と第1、第2キャリヤ24、124との間にそれぞれ配置されている。第1キャリヤ24には第1止め輪40が配置されている。第1リテーナ38は、該第1止め輪40に直接当接している。第2キャリヤ124には第2止め輪140が配置されている。第2リテーナ138は、該第2止め輪140に直接当接している。
以下、より具体的に説明する。
歯車装置12は、内歯歯車16の軸心C16からR42だけオフセットした位置に配置された複数のクランク軸42を備える。クランク軸42は、この例では、円周方向に120°の間隔で3本組み込まれている(1本のみ図示)。
クランク軸42には、軸方向同位置に、該クランク軸42の軸心C42に対して偏心した外周を有する偏心部44が軸方向に2個並んで形成されている。各クランク軸42の軸方向同位置にある偏心部44同士は、偏心位相が揃えられている。なお、二つの偏心部44の偏心位相差は、この例では180°である(互いに離反する方向に偏心している)。
各クランク軸42には、動力を入力するためのクランク軸歯車46がスプライン47を介して連結されている。各クランク軸歯車46は、図示せぬ入力軸に設けられた入力歯車50と同時に噛合している。
一方、クランク軸42の偏心部44の外周には、偏心部軸受52を介して外歯歯車14が組み込まれている。外歯歯車14は、内歯歯車16に内接噛合している。内歯歯車16は、この実施形態ではケーシング20と一体化された内歯歯車本体16Aと、該内歯歯車本体16Aに回転自在に組み込まれ、該内歯歯車16の内歯を構成するピン部材16Bとで構成されている。内歯歯車16の歯数(ピン部材16Bの本数)は、外歯歯車14の歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
2枚の外歯歯車14、14の軸方向両側には、一対の第1、第2キャリヤ24、124が配置されている。負荷側の第2キャリヤ124からは、キャリヤピン54が一体的に突出されている。キャリヤピン54は、外歯歯車14を非接触で貫通している。
一対の第1、第2キャリヤ24、124は、キャリヤピン54を介してキャリヤボルト(図示略:ノックピン56のみ図示)により連結・一体化され、大きな質量を有する出力体を構成している。一対の第1、第2キャリヤ24、124は、背面合わせで組み込まれた一対の第1、第2主軸受30、130を介してそれぞれケーシング20に支持されている。第1、第2主軸受30、130の構成については、後に詳述する。
本実施形態では、ケーシング20には連結ボルト(ボルト孔20Bのみ図示)を介してロボットの第1アーム(図示略)が連結される。また、負荷側の第2キャリヤ124には、ボルト(図示略)を介してロボットの第2アーム(図示略)が連結される。
なお、各クランク軸42は、正面合わせで組み込まれた一対の第1、第2テーパころ軸受58、158を介して、該一対の第1、第2キャリヤ24、124に支持されている。
次に、第1、第2主軸受30、130の近傍の構成について詳細に説明する。
反負荷側の第1キャリヤ24に配置された第1主軸受30と、負荷側の第2キャリヤ124に配置された第2主軸受130は、軸方向において、第1主軸受30および第2主軸受130から等距離にある面P14に対して対称に構成されている(同様の構成を有している)。
そのため、ここでは、ケーシング20と反負荷側の第1キャリヤ24との間に配置された第1主軸受30の近傍の構成に着目して説明することとし、ケーシング20と負荷側の第2キャリヤ124との間に配置された第2主軸受130の近傍の構成については、図中で主な部位に下2桁が同一の符号を付すに止め重複説明を省略する。
図2は、図1の反負荷側の第1キャリヤ24の第1主軸受30の近傍を拡大した要部拡大断面図である。
第1主軸受30は、アンギュラころ軸受で構成されている。第1主軸受30は、第1キャリヤ24に設けられる第1内輪32と、ケーシング20に設けられる第1外輪34と、第1内輪32と第1外輪34との間に配置される複数の第1ころ36と、該複数の第1ころ36を保持する第1リテーナ38と、を備える。
この実施形態では、第1主軸受30の第1内輪32は、第1キャリヤ24と同一の部材で該第1キャリヤ24と一体化されている。第1主軸受30の第1外輪34は、ケーシング20と別の部材で構成されている。しかし、第1主軸受30の第1内輪32は、第1キャリヤ24と別の部材で構成されていてもよく、逆に、第1外輪34は、ケーシング20と同一の部材で一体的に構成されていてもよい。
換言するならば、「第1キャリヤ24に設けられる第1内輪32」の概念には、第1キャリヤ24とは別部材の第1内輪32が第1キャリヤ24に固定されている形態と、この構成例のように第1キャリヤ24の外周面を加工することにより第1キャリヤ24自体が第1内輪32として機能している形態との双方が含まれる。
また、「ケーシング20に設けられる第1外輪34」の概念には、この構成例のようにケーシング20とは別部材の第1外輪34がケーシング20に固定されている形態と、ケーシング20の内周面を加工することによりケーシング20自体が第1外輪34として機能している形態との双方が含まれる。
この構成例での第1主軸受30の第1内輪32は、第1キャリヤ24と一体化されているため、第1キャリヤ24自体が、外周に第1主軸受30の内輪転走面32Cを一体的に有している。内輪転走面32Cは、第1主軸受30の軸心C30とθ(この例では45°)の角度を有している(θは必ずしも45°でなくてもよい)。
一方、第1主軸受30の第1外輪34は、第1主軸受30の軸心C30と平行な外周面34Aと、該外周面34Aの軸方向外歯歯車14側の端部から径方向内側に延在する側面34Bと、外周面34Aの軸方向反外歯歯車側の端部および側面34Bの径方向内側端部を第1主軸受30の軸心C30と角度θで連結する外輪転走面34Cとを有する。なお、第1主軸受30の軸心C30は、内歯歯車16の軸心C16および第1キャリヤ24の軸心C24と同一である。
第1外輪34は、第1主軸受30の軸心C30を含む平面で切断した断面(図1、図2の紙面に相当する断面)がほぼ直角二等辺三角形とされている。第1外輪34は、第1主軸受30の軸心C30と平行な外周面34Aがケーシング20の内周面20Aに当接する態様で、ケーシング20に設けられている。
なお、第1外輪34は、側面34Bの一部がケーシング20の段差部20Gに当接することで、該第1外輪34の軸方向外歯歯車14側への移動が規制されている。第1外輪34の側面34Bの一部は、内歯歯車16の内歯を構成しているピン部材16Bの軸方向端面16B1とも当接し、該ピン部材16Bの軸方向移動を規制している。また、同時に、第1外輪34の側面34Bの一部は、外歯歯車14の軸方向端面とも当接し、該外歯歯車14の軸方向移動も規制している。
第1主軸受30の複数の第1ころ36は、(いわゆるテーパころではなく)円柱状のころで構成されている。つまり、本第1主軸受30の第1ころ36の外周面36Aは、該第1ころ36の回転軸S36と平行である。第1ころ36の回転軸S36は、第1主軸受30の軸心C30に対してθ(この例では45°)だけ傾いている。換言するならば、本第1主軸受30の複数の第1ころ36は、該第1主軸受30の軸心C30に対してθだけ傾いた回転軸S36を有している。第1主軸受30は、零でない接触角α(=90°−θ=45°)を有する軸受であるとも言い得る(α≠0)。
第1主軸受30の第1リテーナ38は、複数の第1ころ36を回転自在に保持する保持部38Aと、該保持部38Aから突出する突出部38Bと、を備える。第1リテーナ38の保持部38Aは、第1主軸受30の周方向における各第1ころ36の間に位置して各第1ころ36の周方向の位置決めを行う複数の柱部(図示略)と、該複数の柱部の両端を周方向に連結する一対のリング部38A1、38A2とを備えている。
第1リテーナ38の突出部38Bは、当該一対のリング部38A1、38A2のうちの一方(径が大きい方)のリング部38A1から、第1キャリヤ24の軸方向反外歯歯車側にリング状に突出している。
リング状に突出した突出部38Bの外周38B1および内周38B2は第1キャリヤ24の軸心C24と平行である。突出部38Bの先端には、第1キャリヤ24の軸心C24と直角の面で構成された当接面38Pが形成されている。
前述したように、第1キャリヤ24には、第1止め輪40が配置されている。具体的には、第1キャリヤ24の内輪転走面32Cの軸方向反外歯歯車側には、第1キャリヤ24の軸心C24と平行に止め輪配置部24Kが延在されている。そして止め輪配置部24Kに、第1止め輪40を嵌め込むための止め輪溝24Mが形成され、第1止め輪40は、該止め輪溝24Mに嵌め込まれている。
第1主軸受30の第1リテーナ38は、前記突出部38Bの当接面38Pにおいて、第1止め輪40の被当接面(第1リテーナ38に当接する部分)40Pに直接当接している。被当接面40Pは、この例では、第1止め輪40の軸方向第1主軸受30側の端面に相当する。
第1止め輪40の被当接面(第1リテーナ38に当接する部材)40Pは、低摩擦被膜(図示略)が施されている。つまり、第1止め輪40の被当接面(第1リテーナ38に当接する部分)40Pは、低摩擦被膜を有している。なお、具体的には、この実施形態の第1止め輪40は、第1リテーナ38に当接しない部分も含めて、全体に低摩擦被膜が施されている。低摩擦被膜は全体に施してしまう方がコスト的にむしろ有利な場合がある。この場合は、第1リテーナ38の被当接面40Pだけでなく、第1止め輪40の全体に低摩擦被膜を施すようにしてもよい。
低摩擦被膜は、例えばパーカー処理(リン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸マンガンなどのリン酸塩の溶液を用いて第1止め輪40の表面に化学的にリン酸塩皮膜を生成させる化成処理)などによって形成することができる。この構成例では、低摩擦被膜として、リン酸マンガン被膜を採用している。
なお、止め輪溝24Mの軸方向幅W24Mは、第1止め輪40の軸方向幅W40よりも僅かに(この例ではδ24Mだけ)大きい。このため、止め輪溝24M内に第1止め輪40を容易に装着することができる。
この場合に、第1止め輪40の軸方向幅W40が僅かに異なる(別言するならば止め輪溝24Mの軸方向幅W24Mとの差δ24Mが僅かに異なる)第1止め輪40を複数用意し、実際に組み込んだときに、第1リテーナ38の突出部38Bの当接面38Pと、第1止め輪40の被当接面40Pが、適正な(僅かな)隙間を有して、あるいは適正な接触圧を有して当接できる第1止め輪40を選択するようにしてもよい。つまり、第1止め輪40自身に組み付け誤差を吸収するシムとしての機能を持たせるようにしてもよい。
なお、ケーシング20と負荷側の第2キャリヤ124との間にはオイルシール64が配置されている。そのため、負荷側の第2キャリヤ124の止め輪配置部124Kは、オイルシール64が配置される分、反負荷側の第1キャリヤ24の止め輪配置部24Kよりも広く形成されている。
次に、この歯車装置12の作用を説明する。
図示せぬ入力軸に組み込まれた入力歯車50が回転すると、該入力歯車50と噛合しているクランク軸歯車46が回転し、各クランク軸42が回転する。これにより、各クランク軸42に形成されている偏心部44が同一方向に同一の回転速度で回転する。偏心部44が回転すると、偏心部軸受52を介して外歯歯車14が偏心揺動する。外歯歯車14は、内歯歯車16に内接噛合しており、かつ、内歯歯車16の歯数(ピン部材16Bの本数)は外歯歯車14の歯数よりも1だけ多い。そのため、外歯歯車14が1回揺動する毎に、該外歯歯車14は、内歯歯車16に対して一歯分だけ相対的に回転する(自転する)。
この外歯歯車14の自転により、クランク軸42が内歯歯車16の軸心C16の周りで公転し、この公転が第1、第2キャリヤ24、124に伝達される。この結果、第1、第2キャリヤ24、124は、第1、第2主軸受30、130を介してケーシング20に対して回転し、ケーシング20に連結された第1アームに対し、第2キャリヤ124に連結された第2アームを回転させることができる。
なお、このケーシング20に対する第1、第2キャリヤ24、124の回転は、あくまで相対的なものである。例えば、この実施形態では、ロボットの関節用に本歯車装置12を適用しているが、第2アームが連結されている第2キャリヤ124側から見れば、第1アームが連結されているケーシング20が回転部材であると捉えることもできる。
ここで、ケーシング20と第1、第2キャリヤ24、124との間に配置された第1、第2主軸受30、130の作用について詳細に説明する。
反負荷側の第1主軸受30の複数の第1ころ36は、第1主軸受30の軸心C30に対して傾いた回転軸S36を有している。負荷側の第2主軸受130の複数の第2ころ136も、同様に第2主軸受130の軸心C130に対して傾いた回転軸S136を有している。
また、第1主軸受30および第2主軸受130は、背面合わせの組み込み態様でケーシング20と第1キャリヤ24との間、およびケーシング20と第2キャリヤ124との間にそれぞれ配置されている。そのため第1主軸受30および第2主軸受130は、第1キャリヤ24および第2キャリヤ124に掛かるラジアル荷重およびスラスト荷重の両方を、大きな作用スパンで支持することができる。
第1主軸受30の複数の第1ころ36および第2主軸受130の複数の第2ころ136は、基本的に同様の作用を奏するため、以降は、主に第1主軸受30の側に着目して説明する。
第1主軸受30の第1ころ36は、回転軸S36に対して平行な外周面36Aを有する単純な「円筒状のころ」である。このため、例えば「テーパころ」で構成された第1主軸受と比較して、第1ころ36の回転時において該第1ころ36が回転軸S36方向に移動しようとする分力が発生しにくい。
一方、第1リテーナ38は、全体がほぼ円錐台形状に形成されているため、第1ころ36の回転軸S36方向に動きにくい。そのため、第1内輪32の内輪転走面(外周面)32C、および第1外輪34の外輪転走面(内周面)34Cに、第1ころ36の回転軸S36方向の移動を規制するリブが設けられていないにも拘わらず、第1リテーナ38によって複数の第1ころ36を支持することにより、各第1ころ36の回転軸S36方向の動きや周方向の動きは、基本的には、ほぼ規制できる。
しかし、現実には(もし第1リテーナ38全体の動きを何ら拘束しないまま組み込んだ場合には)、各部材の微小な製造誤差や、外歯歯車14の揺動に伴って時々刻々と変化する支持荷重の変動等により、第1リテーナ38が微小に動いたり捻れたりしてしまうことがある。発明者の確認では、第1リテーナ38は、特に大径側(軸方向反外歯歯車側)に動く傾向がある。
本歯車装置12では、第1キャリヤ24に第1止め輪40が配置され、かつ第1リテーナ38の突出部38Bは、当接面38Pにおいて該第1止め輪40の被当接面40Pに当接している。そのため、この第1リテーナ38の軸方向の動き(第1キャリヤ24の軸方向の動き、あるいは第1ころ36の回転軸S36方向の動き)を効果的に抑制することができる。そして、第1リテーナ38全体の動きがより確実に拘束されることにより、該第1リテーナ38によって保持されている複数の第1ころ36を、より安定的に保持することができる。
また、第1内輪32および第1外輪34には、第1ころ36の回転軸S36方向の移動を規制するリブが設けられていないため、第1主軸受30を低コストで製造することができる。
本歯車装置12では、この第1リテーナ38の動きを拘束するに当たって、第1リテーナ38の突出部38Bの当接面38Pを、第1キャリヤ24に配置された第1止め輪40の被当接面40Pに直接当接させるようにしている。
第1止め輪40は、低コストで製造することができ(あるいは、多くの市販品の中から低コストで入手することができ)、かつ、第1止め輪40の被当接面40Pは、摺動する部材の位置決めを行ない得る平滑性および硬度を、基本的に有している。
また、止め輪溝24Mの形成は、第1止め輪40が入り込むだけの幅の狭い溝を形成するだけで足り、かつ加工精度についても高い精度は必要とされない。そのため、例えば、従来の、「リテーナの一部を嵌め込むことができるほどに幅が広く、かつリテーナの摺動に耐え得るほどに加工精度が高い(加工表面が平滑な)溝を、ケーシングやキャリヤに直接形成する構成」と比較して、大幅にコストを低減することができる。
更に、本歯車装置12においては、(第1リテーナ38に当接する部材である)第1止め輪40の、被当接面(第1リテーナ38に当接する部分)40P(より具体的には、被当接面40Pを含む第1止め輪40の全体)に、低摩擦被膜が施されている。そのため、第1止め輪40と第1リテーナ38の摺動を、一層円滑に行うことができ、摺動抵抗を低減すると共に、より安定した第1リテーナ38の位置決めを行うことができる。
この場合、例えば、ケーシング20や第1キャリヤ24に直接形成した幅の広い溝に低摩擦被膜を施す場合と比較して、本歯車装置12では、第1止め輪40に低摩擦被膜を施すだけで済むため、この点でも、より簡易に、かつより低コストに低摩擦被膜を施すことができる。
なお、上記実施形態においては、第1リテーナ38を、第1キャリヤ24に配置した第1止め輪40に直接当接させるようにしていた。しかし、第1リテーナ38は、必ずしも第1止め輪40に直接当接させなくてもよい。この例を図3に示す。
図3に係る構成例においては、第1リテーナ38は、(第1止め輪40に直接当接するのではなく)第1スペーサ70を介して当接している。第1スペーサ70は、第1キャリヤ24の軸方向において所定の幅W70を有し、第1止め輪40と軸方向に重なって組み込まれている。第1スペーサ70は、第1キャリヤ24の外周に隙間嵌めで外嵌されている。なお、図示はしないが、第2主軸受130の側にも同様に第2スペーサを配置することができる。
このように、第1止め輪40と第1リテーナ38との間に第1スペーサ70を介在させるようにすると、軸方向幅W70の僅かに異なる第1スペーサ70を複数用意し、適切な幅の第1スペーサ70を選択することにより、最適な軸方向寸法による組付けがより容易に実現できるようになるというメリットが得られる。このシムとしての機能は、前述したように第1止め輪40のみを有する場合にも採用し得るが、第1止め輪40で実現するより、第1スペーサ70で実現する方が寸法調整の柔軟性が高い。
別言するならば、ここでの「第1止め輪40と第1リテーナ38との間に介在される第1スペーサ70」には、シムの概念が含まれる。第1スペーサ70は、必ずしも1個でなくてもよく、例えば、第1スペーサ70のほかに、専用のシムが別途用意されてもよい。
なお、この例では、第1スペーサ70の被当接面(第1リテーナ38に当接する部分)70Pに、低摩擦被膜が施される。つまり、このように第1止め輪40と第1リテーナ38との間に第1スペーサ70を介在させる場合は、(第1止め輪40および第1スペーサ70のうち第1リテーナ38に当接する部材である)第1スペーサ70の被当接面70Pに、低摩擦被膜を施すようにするとよい(この場合においても、第1スペーサ70の全体に低摩擦被膜を施すようにしてもよい)。
第1スペーサ70に低摩擦被膜を施す場合には、専用の素材で構成した第1スペーサ70に対し、該専用の素材と相性の良い低摩擦被膜を施すことができるため、摺動性能の面でより効果的なメリットが得られる可能性がある。この点でも第1止め輪40のみの構造よりも設計の柔軟性が高い。
その他の構成は、先の実施形態と同様であるため、図中で同一または同一の機能を有する部位に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。なお、以降の変形例についても、同様に、図中で同一または同一の機能を有する部位に同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
図4に、図3の変形例を示す。
この変形例では、第1止め輪40と第1リテーナ38との間に介在される第1スペーサ75が、第1キャリヤ24の軸心C24を含む平面で切断した断面がL字型のリング状の部材で構成されている。
具体的には、第1スペーサ75は、第1キャリヤ24の軸方向において所定の幅W75を有する本体部75Aと、該本体部75Aの外周端部から第1キャリヤ24の軸方向第1ころ36側に突出する突出部75Bと、を有している。
そして、第1リテーナ38の突出部38Bは、第1キャリヤ24の軸方向において第1スペーサ75の本体部75Aの軸方向当接面75Pに当接するとともに、第1キャリヤ24の径方向において第1スペーサ75の突出部75Bの径方向当接面75Qに当接している。これにより、第1リテーナ38は、第1スペーサ75を介して軸方向反外歯歯車側に移動しようとするときの支持反力のみならず、径方向外側に移動しようとするときの支持反力をも受けることができ、より安定した状態で複数の第1ころ36を保持することができる。
ところで、前述したように、第1リテーナ38の保持部38Aの複数の柱部の両端を連結す一対のリング部38A1、38A2のうちの他方(径の小さい方)のリング部38A2の側は、これまでの構成例で示されるように、必ずしも支持は必要ではない。
しかし、図5の構成例では、該一対のリング部38A1、38A2の他方のリング部38A2についても、径方向内側に向けて突出部38Cを形成し、その先端面(当接面)38P2を、例えば第1キャリヤ24の内輪転走面32Cと軸方向外歯歯車側に隣接する外周面24Pに当接させている。これにより、第1リテーナ38を一層安定した状態で支持することができる。
なお、第1主軸受30の第1内輪32が第1キャリヤ24から独立している場合には、当該第1リテーナ38の突出部38Cを第1内輪32に当接させるようにしてもよい。また、図5の構成例では、突出部38Cを径方向内側に向けて形成しているが、突出部38Cを軸方向外歯歯車14側に向けて形成し、該突出部38Cの軸方向外歯歯車14側の端面を外歯歯車14の軸方向端面14Eに当接させるようにしてもよい。
第1キャリヤ24や外歯歯車14に対する当接は、該第1キャリヤ24や外歯歯車14に溝等を形成したりする必要がないことから、第1リテーナ38の形状を変更するだけで対応することができる。そのため、先の構成例に対して追加的なコストを殆ど伴うことなく実施することができる。
さらに、これまでの構成例では、第1止め輪40を第1キャリヤ24に配置するようにしていた。しかし、第1止め輪は、必ずしも第1キャリヤに配置する必要はなく、ケーシングに配置するようにしてもよい。この構成例を図6に示す。
図6の構成例では、ケーシング80を、先の実施形態のケーシング20と比較して、第1主軸受30の軸方向反外歯歯車側にまで大きく延在させ、この延在部80Aの内周80Bに止め輪溝80Mを形成して第1止め輪84を配置するようにしている。
第1リテーナ38は、(第1止め輪84に直接当接するのではなく)第1スペーサ86を介して当接している。第1スペーサ86は、第1止め輪84と軸方向に重ねて組み込まれる本体部86Aと、該本体部86Aの径方向内側の端部から第1キャリヤ24の軸方向第1ころ36側に突出する突出部86Bと、を有している。(第1リテーナ38に当接する部材である)第1スペーサ86の被当接面(第1リテーナ38に当接する部分)86Pには、低摩擦被膜が施されている。なお、この第1スペーサ86も、被当接面86Pだけでなく、該第1スペーサ86の全体に低摩擦被膜を有している。第1リテーナ38の突出部38Bは、第1キャリヤ24の軸方向において第1スペーサ86の本体部86Aに当接すると共に、第1キャリヤ24の径方向において突出部86Bに当接している。
これにより、第1リテーナ38は、第1スペーサ86を介して軸方向反外歯歯車側に移動しようとするときの支持反力のみならず、径方向を内側に移動しようとするときの支持反力をも受けることができる。
なお、上記実施形態においては、軸受の複数のころが円筒ころで構成されていたが、本発明の軸受に係るころは、円筒ころに限定されない。例えば、テーパころであってもよい。すなわち、本発明の軸受は、テーパころ軸受であってもよく、この場合でも、既に説明した作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
また、上記実施形態においては、外歯歯車(揺動歯車)を揺動させるクランク軸が内歯歯車の軸心からオフセットした位置に複数設けられる偏心揺動型の歯車装置に本発明が適用された例が示されていた。しかし、偏心揺動型の歯車装置としては、外歯歯車を揺動させるクランク軸が内歯歯車の軸心位置に一本のみ設けられている偏心揺動型の歯車装置も公知である。本発明は、このような偏心揺動型の歯車装置にも同様に適用可能である。
また、揺動と非揺動は、相対的なものであり、偏心揺動型の歯車装置としては、内歯歯車が外歯歯車に対して揺動するタイプの歯車装置も公知である。本発明は、このような偏心揺動型の歯車装置にも同様に適用可能である。
さらには、本発明の適用対象は、必ずしもこのような偏心揺動型の歯車装置に限定されるものではなく、例えば、単純遊星歯車装置にも適用することができる。要するならば、ケーシングと、ケーシングに対して相対回転するキャリヤと、該ケーシングとキャリヤとの間に配置される軸受と、を備えた歯車装置ならば、同様に適用することができる。