実施の形態1
以下、適宜図面を参照して、本発明を実施するための形態(実施の形態1)について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電気絶縁用樹脂モールドを備える電気機器の診断方法を段階的に表すフローチャートである。
図1が示すように、本発明の一実施形態に係る電気絶縁用樹脂モールドを備える電気機器の診断方法は、診断に関する第1の工程(樹脂モールドの表層部にかかる応力の測定)、第2の工程(樹脂モールドの表層部にかかる応力の、通電部位との界面における応力への変換)、第3の工程(樹脂モールドの通電部位との界面における応力の、相当経過年数への変換)を含む。
図1に示されるように、診断結果13を得るために、電気機器11および電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12それぞれに対する解析や試験、測定を行う。なお、電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12は、実際に稼働する電気機器11から直接切り出してきた試験片でも構わないし、これと全く同じ化学成分、複合材組成をもち、別途製造した樹脂材料の試験片であっても構わない。
図1に示す11Aから11Cに至るフローは、電気機器11に対する有限要素法による数値解析に関するものであり、実際に電気機器を診断する前に行い、結果をデータベースに格納しておく。具体的に、電気機器のモデル化11Aでは、電気機器の部品構造を基に有限要素モデリングを行う。電気機器のモデル化11Aで作成したモデルの各要素に対して、電気機器11の各部位、例えば通電部位や樹脂モールドなどを実際に構成する材料の材料物性を入力する。ここで、材料物性とは、ヤング率やポアソン比などの力学物性、線膨張係数や熱伝導率などの熱物性である。
熱応力解析11Bでは、電気機器のモデル化11Aで作成したモデルを用いて、電気機器11の熱応力解析を行う。このとき、電気機器11が通電負荷に曝されている状態を再現するため、モデル中の通電部位における電気抵抗と電圧を用いて、オームの法則から電流値を求め、次にジュールの法則から発熱量を求める。
この通電部位での発熱を考慮して、熱応力解析を行う。電気抵抗と電圧は、例えば通電部位がコイルの場合、コイルを構成する巻線の全長と、巻線の断面積から計算できる。熱応力解析11Bを実施すると、電気機器11が備える樹脂モールドにかかる応力の分布がわかる。得られた応力値には、通電部位の発熱が樹脂モールドに伝熱した際に生じる熱応力の他、樹脂モールドの形状に起因する残留応力も含まれる。
ここで、応力の分布とは、図2に示すように、通電部位21と電気絶縁用樹脂モールド22との界面部23から、樹脂モールドの表層部24に至るまでの各位置における応力の値を意味する。
図2は、応力の分布の模式図であり、分布から、界面部23にかかる応力S1と、表層部24にかかる応力S2をそれぞれ抽出する。図2では、表層部24にかかる応力S2が、界面部23にかかる応力S1よりも小さく示してあるが、表層部24にかかる応力S2が、界面部23にかかる応力S1よりも大きくとも構わないし、等しくとも構わない。
樹脂モールド応力比データベース11Cでは、熱応力解析から得られた応力S1と応力S2との比、すなわちS1/S2の値を電気機器1に固有の応力比として、データベース化する。前記の熱応力解析は、様々な寸法や、出力、通電状態などを有する電気機器11に対して、実施する。それ故、熱応力解析から得た応力比は、データベース化に際し、電気機器11の寸法、出力、使用環境、通電状態などによって関数化される。
ここで、使用環境とは、電気機器11を動作させる場所の温度、湿度、大気汚染度などの情報を含み、通電状態とは、一年あたりの平均通電時間や、一日における電流ピーク値とそのホールド時間、電気機器の最大出力の何%で稼働させたか、などの情報を含む。
図1に示す11Aから11Cに至るフローの他、12Aから12Bに至るフローも、実際に電気機器を診断する前に行い、結果をデータベースに格納しておく。12Aから12Bに至るフローは、電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12に対する疲労寿命試験に関するものである。
具体的に、疲労寿命試験12Aでは、電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12に対する疲労寿命試験を行う。疲労寿命試験は、電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12を、例えば短冊状やダンベル状に加工し、加工した試験片の片方の末端を固定し、他方の末端に引っ張り荷重を与えることで行われる。
試験片のサイズは、例えばJIS K 7139規格などに従えばよい。引っ張り荷重は繰り返し与え、繰り返しの周波数や荷重の最大値は任意である。繰り返し引っ張り荷重を与えると、試験片は、ある繰り返し回数で破断する。
このような試験を、引っ張り荷重の最大値を変えながら複数回実施し、破断に至った繰り返し回数を横軸に、引っ張り荷重の最大値を縦軸にプロットすることで、疲労寿命曲線が得られる。
前記疲労寿命試験の結果得られる疲労寿命曲線は、指数関数形のBasquin則やCoffin−Manson則などの経験式に従い、横軸の破断に至った繰り返し回数を対数スケールにした場合に、応力値が減少する曲線となる。
前記経験則で疲労寿命曲線を近似した場合、切片から引っ張り強度が得られ、指数部から応力値の減衰の度合いを表す係数が得られ、すなわち2つの材料疲労定数が得られる。材料疲労定数データベース12Bでは、この材料疲労定数を電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12に固有な数値として、データベース化する。
前記の疲労寿命試験は、様々な材料組成などを有する電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12に対して、実施することができる。それ故、疲労寿命試験から得た材料疲労定数は、データベース化に際し、電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12の材料組成などによって関数化される。
ここで、材料組成とは、電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12を構成する樹脂の主剤、硬化剤、着色剤、補強剤などの種類とその混合割合を意味する。
図1に示す11Aから11Cに至るフローおよび12Aから12Bに至るフローにより、電気機器11を診断するための準備が整う。ここから、3つの診断の工程について説明する。
図1における<第1の工程S101>では、電気機器11が備える電気絶縁用樹脂モールドの表層部24にかかる応力S2を測定する。応力の測定は、非破壊検査手法によって行う。このとき、電気機器11は、通電負荷状態にあっても構わないし、停電状態にあっても構わない。
得られる応力値には、通電部位の発熱が樹脂モールドに伝熱した際に生じる熱応力の他、樹脂モールドの形状に起因する残留応力も含まれる。非破壊検査は、例えばX線など放射光を用いた応力測定装置を用いて行う。この場合には、樹脂モールドに複合化された無機充填材のX線回折から、応力を測定する。粉末状で複合化された無機充填材に作用する応力は、樹脂モールドそのものに負荷される応力とみなして構わない。
なぜならば、測定される応力値は、ミクロレベルでの無機充填材と樹脂母材との密着状態を反映するためである。具体的には、樹脂モールド成型時には、無機充填材と樹脂母材とはミクロレベルで強固に密着し、無機充填材と樹脂母材ともに等価でゼロでない応力が作用している。経年もしくは熱的負荷がかかると、無機充填材と樹脂母材との密着は弱くなり、やがて応力解放される。
従って、無機充填材に作用する応力を測定することにより、経年や熱的負荷によって変化する、電気機器11が備える電気絶縁用樹脂モールドの表層部24にかかる応力S2を測定することができる。
電気絶縁用樹脂モールドに複合化する無機充填材の粉末のミクロ構造は、規則的な原子配列を有する結晶質、原子配列が不規則な非晶質、どちらでも構わないが、X線による応力測定を行う場合には、明確な回折パターンを有する結晶質である必要がある。
結晶質の無機充填材としては、例えば、結晶性シリカ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セシウムなどが挙げられる。また、無機充填材の配合量は任意である。
上記説明した第1の工程は、言い換えると、樹脂内部状態検査処理、表層部応力検査処理または界面応力検査処理であるということである。
<第2の工程S102>では、<第1の工程S101>で得た、電気機器11が備える電気絶縁用樹脂モールドの表層部24にかかる応力S2と、応力比データベース11Cに蓄積された応力比(S1/S2)との積を計算し、通電部位との界面部23にかかる応力S1に変換する。
前記の通り、応力比は、電気機器1の大きさや、出力、通電状態などによって関数化されているため、診断に供する電気機器の状況に見合った応力比を入力する。
<第3の工程S103>では、<第2の工程S102>で得た、通電部位と電気絶縁用樹脂モールドとの界面部23にかかる応力S1を、疲労寿命曲線に当てはめ、応力負荷繰り返し回数に変換する。
疲労寿命曲線は、12Bで得たデータベースにある2つの材料疲労定数を、指数関数形のBasquin則やCoffin−Manson則などの経験式に代入することで作成される。疲労寿命曲線に対し、界面部23の応力S1を代入することで、その応力に対応した繰り返し回数が得られる。
前記の通り、電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片12の材料組成によって関数化されているため、診断に供する電気機器の状況に見合った材料疲労定数を入力する。
上記説明した第2の工程は、言い換えると、樹脂モールド応力特定処理、樹脂モールド内部応力特定処理、通電部応力特定処理または界面応力特定処理ということである。
<第3の工程S103>では、疲労寿命曲線から得られた繰り返し回数を、電気機器11の相当経過年数に変換する。例えば、電気機器を最大出力で長期間使用し続け、樹脂モールドへの熱的負荷が繰り返されると、電気機器の製造日からの起算で実際に経過した年数よりも多くの年数を重ねた電気機器の状態と等しくなる。
相当経過年数とは、このような使用状況を加味した上で得られる、電気機器の使用における経過年数である。前記では、相当経過年数が実際の経過年数よりも長くなる例を示したが、例えば、電気機器を全く使用せずに保管した場合など相当経過年数が短くなる場合もある。
疲労寿命曲線から得られた繰り返し回数の相当経過年数への変換は、変換係数によって行う。例えば、電気機器を昼夜問わず連続運転した場合には、昼と夜との温度差によって熱応力の増減が一回起きる。
この場合、変換係数は、1日/回となる。疲労寿命曲線から得られた繰り返し回数にこの変換係数を乗じ、年単位とすることで、相当経過年数が得られる。
なお、第三の工程において、材料疲労定数データベースから得た材料疲労定数に基づいて、界面部にかかる応力と相当経過年数との関係を求めておき、この関係に、第2の工程で得られた表層部にかかる応力を当てはめて、相当経過年数を求めるようにしても良い。
また、電気機器の設計寿命から当該電気機器の相当経過年数を差し引くことで、余寿命を求めることができる。
余寿命とは、電気絶縁性を保証して安全に当該電気機器を使用できる残り年数を意味する。余寿命が負の値を示す場合には、当該電気機器が、既に設計寿命を超える状態に至っている。
上記説明した第3の工程は、言い換えると、相当経過年数特定処理、樹脂モールド相当年齢特定処理またはモールド変圧器の相当寿命特定処理ということである。
図3に、本発明の一実施形態に係る、電気絶縁用樹脂モールドを備える電気機器の診断システムを表すブロック構成図を示す。電気機器の診断システムは、表層部応力測定装置30と診断装置40から構成されている。
表層部応力測定装置30は、電気機器11が備える電気絶縁用樹脂モールドの表層部24にかかる応力S2を測定する装置であり、例えばX線回折から応力を測定するX線応力測定装置などを用いることができる。
診断装置40は、界面部応力算出部42、樹脂モールド応力比データベース43、相当経過年数算出部44、材料疲労定数データベース45、表示部46を備えている。樹脂モールド応力比データベース43は、電気機器の部品構造を基に有限要素モデリングを行い、電気機器の熱応力解析を行って、表層部応力と界面部応力との応力比S1/S2を求めて、データベース化したものである。
また、材料疲労定数データベース45は、電気機器が備える樹脂モールド材料の試験片に対して疲労寿命試験を行って疲労寿命曲線を求め、疲労寿命曲線から得られる材料疲労定数をデータベース化したものである。
界面部応力算出部42は、表層部応力測定装置30で測定した表層部応力S2と、樹脂モールド応力比データベース43に蓄積された応力比との積を計算し、界面部にかかる応力S1を算出する。
相当経過年数算出部44は、界面部応力算出部42で求めた界面部応力を、材料疲労定数データベース45の材料疲労定数に基づいて作成した疲労寿命曲線に当てはめて、応力負荷繰り返し回数を求める。
そして、応力負荷繰り返し回数を、電気機器の相当経過年数に変換する。表示部46は、得られた電気機器の相当経過年数を表示する。表示部46は、診断装置40内に設けても良いし、診断装置とは別体の例えばタブレット端末などとし、これに診断装置から表示信号を伝送するようにしても良い。なお、図3では、表層部応力測定装置30と診断装置40とを、別の装置として記載したが、両装置を一体として一つの装置としても良い。
以上に説明した電気絶縁用樹脂モールドを備える電気機器の診断方法および診断システムは、電気機器の故障を律する、電気機器内部の通電部位と樹脂モールドとの界面部23における樹脂モールドにかかる熱応力を基に、電気機器の相当経過年数や余寿命を求める、高精度な診断技術を提供することができる。
次に、本発明の所望の効果を奏する実施例により、本発明をより具体的に説明する。
本実施例では、前記の診断手順に従い、電気機器の診断を行った。電気機器の代表として、モールド変圧器を選んだ。
診断に供した変圧器は通電部位として銅線を巻いたコイルを、その周りには電気的絶縁のために樹脂モールドを備える。樹脂モールドは、エポキシ樹脂の複合材からなり、主な充填材として結晶性シリカを含む。
〔1〕熱応力解析による応力比の導出
モールド変圧器を有限要素でモデル化し、有限要素法による熱応力解析を行った。試験片を用いて、構成材料の力学物性、熱物性を予め測定しておき、各要素に割り当てた。熱応力解析では、コイルを構成する巻線の全長と、巻線の断面積から通電部位における発熱量を求め、樹脂モールドへの伝熱を考慮した。
結果として得られた、樹脂モールドにかかる応力の分布から、コイルとの界面部の樹脂モールドにかかる応力と、樹脂モールドの表層部の応力の比(S1/S2)を求めた。
表1には、寸法、出力、通電状態が異なる3つの変圧器に対する応力比の解析結果を記載した。No. 1、No. 2、No. 3全ての変圧器は、通電での使用開始から10年経過したものである。寸法には、コイル部の高さを代表値として示してある。
また、通電負荷率とは、変圧器の最大容量に占める、実使用上の負荷率の割合であり、この数値が大きいほど、発熱が大きく、よって熱応力の発生が顕著になる。表1のNo. 1とNo. 2の比較より、通電負荷率が大きいほど応力比が大きくなることがわかる。
また、No. 2とNo. 3の比較より、寸法が大きい場合に、応力比が大きくなることがわかる。表1は、樹脂モールド応力比データベース11Cの一例である。
〔2〕疲労寿命試験による材料疲労定数の導出
表1に示した変圧器No. 1、No. 2、No. 3が備える電気絶縁用樹脂モールドと同一の材料組成を有する複合樹脂試験片に対する疲労寿命試験を行った。試験片は、前記の通りプラスチック試験片のJIS規格に従い、ダンベル形状とした。
疲労寿命試験では、10種類の応力値を設定し、それぞれの応力値において、繰り返し引っ張り試験を行うことで、樹脂試験片が破断に至る繰り返し回数を求めた。
図4には、疲労寿命試験から得た疲労寿命曲線を示す。疲労寿命曲線は、指数関数形のBasquin則でプロットされている。No. 1、No. 2曲線は切片110MPa、指数係数-0.04であり、No. 3曲線は切片100MPa、指数係数-0.08である。
変圧器No. 3に用いられる樹脂モールド材料は、変圧器No. 1、No. 2に用いられる樹脂モールド材料に比べ、材料疲労定数、すなわち、切片から得られる引っ張り強度と、指数部から得た応力値の減衰の度合いを表す係数ともに小さい。
これより、変圧器No. 3に用いられる樹脂モールド材料は、変圧器No. 1、No. 2に用いられる樹脂モールド材料に比べ、元々の引っ張り強度が小さいことに加え、繰り返し回数の増加に伴って、応力値の減少量が大きいことがわかる。表2に、得られた材料疲労定数データベース12Bの一例を示す。
〔3〕モールド変圧器の診断
前記の〔1〕で得た応力比S1/S2と、〔2〕で得た材料疲労定数とを用いて、実際にモールド変圧器の診断を行った。
<第1の工程>まず、表層部応力測定装置で、変圧器No. 1、No. 2、No. 3それぞれの電気絶縁用樹脂モールドの表層部に作用する応力を測定した。これらの樹脂モールドには、充填材として結晶性シリカが配合されている。そこで、X線回折応力測定法により、樹脂モールドの表層部に作用する応力を測定した。
<第2の工程>次に、界面部応力算出部で、〔1〕で得た応力比データベースに格納した応力比S1/S2を用いて、樹脂モールドの表層部に作用する応力を、樹脂モールドがモールドするコイルとの界面部の樹脂モールドに作用する応力に変換した。
<第3の工程>最後に、相当経過年数算出部で、〔2〕で得た材料疲労定数データベースに格納した材料疲労定数を用いて、樹脂モールドがモールドするコイルとの界面部の樹脂モールドに作用する応力を、疲労寿命曲線における繰り返し回数に変換した後、変換係数を用いて相当経過年数に変換した。
本実施例の変圧器は昼夜問わず連続運転しており、昼と夜との温度差によって熱応力の増減が1日に一回起きるため変換係数は、1日/回とした。相当経過年数を求めるには、予め作成した界面部にかかる応力と相当経過年数との関係を用いても良く、図5にその一例を示す。表3には、変圧器No. 1、No. 2、No. 3それぞれに対する診断結果をまとめた。
No. 1とNo. 2の比較より、同一の変圧器であっても、通電負荷率が大きいほど、樹脂モールドの界面部にかかる熱応力が大きくなるため、相当経過年数が大きくなることがわかる。また、No. 2とNo. 3の比較より、同一の通電負荷率であっても、変圧器の寸法が大きい場合に、樹脂モールドの界面部にかかる残留応力や熱応力が大きくなるため、相当経過年数が大きくなることがわかる。
前記の通り、No. 1、No. 2、No. 3全ての変圧器は、通電での使用開始から10年経過したものである。No. 1の変圧器は実際の経過年数と相当経過年数はほぼ等しいと診断される。一方、No. 2とNo. 3の変圧器は、相当経過年数が実際の経過年数を超過していると診断される。
また、No. 1、No. 2、No. 3全ての変圧器は、寿命30年で設計してある。寿命30年から相当経過年数を減算することにより、変圧器の余寿命は、No. 1について、19.9年、No. 2について15.2年、No. 3について7.4年と計算することができ、変圧器の外部から、故障の要因となる内部界面の剥離や樹脂モールドの割れの前兆を数値化して、適切に診断することができる。
電気機器内部の通電部位と樹脂モールドとの界面の剥離や樹脂モールドの割れは、前記の通り、電気機器の運転中に自ずと印加される繰り返し熱応力による。上記の実施例は、電気機器の外側から目視することができない、通電部位と樹脂モールドとの界面の剥離や樹脂モールドの割れなどの前兆を直接的に知ることができ、電気機器の診断の高精度化が可能であることが示された。
本実施例では、変圧器を例に本発明を説明したが、本発明は、変圧器に限らず開閉器、モーター、インバーターなどの通電部位を樹脂モールドした電気機器全般に用いることができる。
実施の形態2
先に説明した実施の形態1では、第1の工程S101と、第2の工程S102と、第3の工程S103を有する3つの診断の工程について説明した。実施の形態2では実施の形態1と同様にS101からS103を用いた際の表示方法と診断方法の一例について説明する。
従来の樹脂モールドの劣化状態は、破壊検査によるものがあり、例えば、変圧器のような昼夜の連続稼動が求められる装置においては、運転を停止しなければ検査ができなかった。
また、破壊検査であるため、樹脂モールドを破壊した場合には、破壊された樹脂モールドが使用できないため、検査対象である変圧器を検査後に使用することができなかった。
これに対して、本実施の形態2では、実施の形態1同様に樹脂モールドの被破壊検査によって、寿命を診断することができる。
図6は、検査方法の一例を示す図である。モールド変圧器100は樹脂モールド110を有する。この樹脂モールド110を検査手段120によって撮像する様子が示されている。検査手段120からは光学またはX線が照射され、樹脂モールド110から反射されている様子を示す。後述するモールド変圧器100の寿命情報等が表示手段150に表示され、その表示結果を検査員200が観察している。
図7には、図6に示す診断対象である樹脂モールド110を有するモールド変圧器100の診断領域の一例を示す。後述する診断領域については、領域や分解能で行ってもよいが、ここでは、領域A111と、領域B112と、領域C113として説明する。
図6に示す検査手段120と表示手段150の構成の一例を図8を用いて説明する。検査手段120を用いて樹脂モールド110の観察または撮像をする。検査手段120は検査として説明するが、撮像または撮影であってもよく、樹脂モールド110の表面状態を観察できる手段であればよい。
検査手段120は、樹脂モールド110の表面を撮像する検出部121と、撮像された樹脂モールドの画像を記憶する記憶部122と、記憶部122に記憶された樹脂モールド110の画像を用いて後述する相当経過年数を計算する制御部123と、通信手段124を有している。
また、必要に応じて、検査手段120に表示部125を有していてもよい。表示部125は検出部121によって取得した画像やデータを表示することや、通信部124から受信した情報を表示する。
検出部121は、モールド変圧器100のコイルを覆うように形成された樹脂モールド110の表面を撮像する。記憶部122は、樹脂モールド110の表面の温度分布情報を記憶する。また、温度分布情報を用いずとも実施の形態1または実施例1で説明した方法を用いてもよい。
本実施の形態では、撮像の方式は、樹脂モールド110の表面温度分布を観察するサーモグラフィを用いる。なお、本実施の形態においては、表面温度分布が観察できればよく、サーモグラフィに限らず、被検査対象物から赤外線の波長を数値として取得することが可能な撮像方式であっても実施できる。
また、熱応力解析を用いた表面部応力の特定には、サーモグラフィのような樹脂モールド110全体の表面温度を測定することは必須でない。一部の温度を測定するだけでも、表層部応力を特定することができる。この場合は、例えば、レーザ光を照射した部分の温度が測定できれば実施できる。レーザ光に限られず、温度計等の手段で樹脂モールド110の温度を測定する方法を採用してもよい。このようなピンポイントの温度測定よりも広い面積を測定した方が、より精度の高い熱応力解析ができる。
ここで、検出部121は、モールド変圧器100の運転中(稼動状態とも呼ぶ)に行うことで、樹脂モールド110の表面の温度分布を取得することができる。樹脂モールド110の表面温度分布から熱応力を算出するため、稼動時の温度分布を取得する必要があるからである。
熱応力解析の方法は、運転状態の樹脂モールド110の表面の温度分布用いて行う。実施の形態1で説明した図1に示される樹脂モールド応力比データベース11Cや熱応力解析11Bを用いるとよい。
具体的には、検出部121が撮像した画像を、制御部123が表面温度分布を取得または変換し、その後、第1の工程S101、第2の工程S102、第3の工程S103の順に処理する。このような処理工程によりモールド110の寿命または劣化状態を特定する。
上記第1の工程S101から第3の工程S103は、検査手段120の制御部153または表示手段150の制御部153で行ってもよく、他の計算機等で行ってもよい。
表層部応力と界面部応力とを用いた余寿命または劣化状態を特定する原理を簡単に説明する。モールド変圧器100の出荷時の樹脂モールド110は、コイルに対して収縮応力が生じている。この収縮応力は、コイルを覆った固化前の樹脂モールド110が固化する際に、収縮することにより生じる。コイルが絶縁部材である樹脂モールド110で覆われることで、絶縁性を維持することができる。
樹脂モールド110は、使用時間に合わせて樹脂が劣化するため、モールド変圧器100の製造時から時間とともに収縮応力が減少していくこととなる。
また、モールド変圧器100の稼動により樹脂モールド110が加熱され、その後、負荷率が下がることで冷却または放熱される。この際に、樹脂モールド110は、熱膨張と熱収縮とが生じ、コイルと樹脂モールド110との間の負荷応力(界面部応力)が変化することとなる。
これを繰り返すことで、樹脂モールド110のコイルを保持する力が弱くなり、樹脂モールド110の負荷応力は、製造時から徐々に下がっていくこととなる。
また、負荷応力が下がっていくとコイルと樹脂モールド110との間には、空隙ができ部分放電が生じる場合がある。部分放電の値が所定値を超えた場合には、モールド変圧器100の交換が必要となる。また、部分放電は、樹脂モールド110内部のシリカが散乱等することによっても生じ得ると考えられる。
上記より、出荷時の樹脂モールド110の負荷応力と、変圧器の稼動状態、すなわち、樹脂モールドの熱収縮と熱膨張の状態を特定することによって、樹脂モールドとコイルとの空隙の値を換算し特定することができる。
制御部123は、記憶部122に記憶された樹脂モールド110の表面の温度分布情報を用いて、熱解析を行うことにより樹脂モールド110の表面部応力を算出する。実施の形態1で説明した応力比を用いた界面部応力を特定する処理方法等を用いて、空隙を特定することができる。また、同一機種のコイルと樹脂モールド110との界面の空隙と界面部の応力を用いて特定するとよく、可能であれば過去に分解した際のデータと突き合わせるとより精確に空隙の量を特定することができる。
ここで、制御部123は、樹脂モールド110の表面の温度分布情報の特定も行ってもよい。例えば、検出部121が赤外線の波長を検出する手段を有している場合には、その波長と強度から温度分布情報へ計算や変換を行うことができる。
温度分布情報を用いて界面部応力を算出する方法の一例について説明する。まず、測定される変圧器について出荷時の界面部応力を特定する。界面部応力の測定は、熱応力解析を用いたものに限らず、同じ機種や型番の変圧器の樹脂モールドを解体して測定した界面部応力の実データとを比較して、測定対象の樹脂モールドとを比較し特定してもよい。
また、実施の形態1と同様に、表層部応力と界面部応力を用いて、撮像されたモールド変圧器100の相当経過年数(相当使用年数または実質変圧器年齢とも呼ぶ)を特定してもよい。
ここで、相当経過年数とは、実際にモールド変圧器100が現実に使用された時間とは異なり、実使用環境から特定される使用状態を考慮した仮想の経過年数の概念である。
すなわち、モールド変圧器100の耐用年数は所定の運転状態や使用負荷率を想定し特定されるが、所定の運転状態等に対して高い負荷率となる環境で使用を継続すると、相当経過年数を多く経過したものとし、所定の運転状態等に対して低い負荷率となる環境で使用を継続すると、相当経過年数は少ないとされる。
なお、所定の運転状態等に対して低い負荷率である場合には、熱応力による樹脂モールド110の劣化の影響が小さいことにより、相当経過年数が、実際の使用時間と一致する場合がある。
相当経過年数の概念を説明する一例として、変圧器の寿命を計算する際に用いられる負荷率に対して使用負荷率を120%で継続使用すると、相当経過年数も120%として経過されたと判断するということである。つまり、使用負荷率120%で10年使用した変圧器は相当経過年数12年ということである。
ここで、特定された相当経過年数は、図6に示される表示手段150に表示する。必要に応じて検査手段120に表示してもよい。
表示手段150は、図8に示すように、検査手段120や他の機器と通信する通信部154と、通信された情報を計算や演算等を行う制御部153と、制御部153で演算等された情報を記憶する記憶部152と、記憶部152に記憶された情報や通信された情報を表示する表示部155と、を有している。タッチパネルやキーボードやマウス等の入力手段を有していてもよい。
実施例2として相当経過年数等の表示方法を図9を用いて説明する。
表示手段150の表示部155の上段左側の領域に、変圧器表面温度分布情報500を表示している。また、表示部155の上段右側に、変圧器表面温度分布情報500に対応する測定領域501と、表面温度502と、測定値503と、を表示する。
また、表示部155の下段には、測定したモールド変圧器100の機種情報511と、変圧器のサイズ情報512と、応力勾配値情報513、実際の経過年数情報514(現実の経過年齢、現実の変圧器年齢とも呼ぶ)、相当経過年数情報515(実質変圧器年齢とも呼ぶ)が表示されている。これらの情報は全てを表示する必要はなく、少なくとも相当経過年数情報515が表示されていれば、実施できる。
また、変圧器表面温度分布情報500は領域を大きく分割し、この例では3つの領域A,B,Cを表示している。領域ごとに色やハッチング等を付し、表面温度を可視化することができる。
また、上段右側には、測定領域501の領域A,B,Cの平均温度と、カーソル505の位置の温度と、を表面温度502に表示する。これらの表面温度情報から算出された表面部応力503を表示する。
カーソル505はタッチパネルの操作やカーソル505を操作することによって、移動し、カーソル505の位置の温度を適宜表示する。これによって変圧器表面面温度分布情報500がカラーマップを用いた領域内の大まかな表面温度だけでなく、特定位置の詳細な表面温度を知ることができる。
下段には、表面部応力503と界面部応力504の情報を用いて特定された相当経過年数515を表示する。併せて、実際の経過年数514(変圧器の現実の使用時間)を表示する。これにより、現実の使用時間と変圧器の相当経過年数とを比較することができる。この場合は、診断したモールド変圧器100が現実の使用時間よりも4年多く使用している状態であることを意味する。
また、表面部応力503の変化量を基にして特定された応力勾配率513を表示してもよい。応力勾配率は出荷時と測定時の変化量を示す。また、応力勾配率513は、界面部応力504を用いて特定してもよい。いずれの場合も応力勾配値513を表示することで、モールド変圧器100の現実の使用時間に対する想定使用時間が進行する度合いを示すことができる。
この例では、耐用年数が30年のモールド変圧器であった場合に、現実の使用時間が25年であった際の測定であるが、その相当経過年数(実質変圧器年齢)は29年であるため、交換時期が近いことがわかる。すなわち、測定対象のモールド変圧器100は、現実の使用時間よりも想定使用時間が加算される環境下で使用されていたことがわかり、交換が必要なことをユーザに伝えることができる。よって、相当経過年数を用いてモールド変圧器の交換時期を知ることができる。
また、表面部応力503は表面温度502以外にも実施の形態1のX線を用いた樹脂モールド110の表面部を観察することによって算出した表面部応力を表示してもよい。
さらに、変圧器温度分布情報500と表面温度502とから測定領域内で温度の高い部分についてX線を用いて検査をすることで、より高精度の相当経過年数を特定することが可能となる。
さらに、モールド変圧器100は所定の時間帯に所定の負荷状態で長期運用される場合が多いため、一日の樹脂モールド110の表面の温度分布をタイムラプス観察等の経時観察をすることで、これまでの樹脂モールドの熱応力をより精確な推定をすることができる。
また、モールド変圧器100の負荷率(負荷状態)に応じた樹脂モールド110の表面の温度分布を取得すると、負荷率と表面温度分布との関係を特定でき、より精度の高い表面部応力を特定でき、ひいては精度の高い寿命診断を行うことができる。
また、検出部121の撮像と併せて外気温と比較することも可能である。この場合は、外気温と樹脂モールド110の表面温度分布との関係を求めることができ、精度の高い寿命診断に寄与することができる。
表示方法の一例である実施例3を図10を用いて説明する。
4種類のモールド変圧器100のうち機種AAA,AAB,AAC,AADについて相当経過年数を特定した例を示す。先の表示例との違いは、交換年数情報516を有する点である。いずれのモールド変圧器も耐用年数(耐用時間)は30年である。
交換年数情報516は、耐用年数と相当経過年数を比較することにより特定される変圧器の交換時期を示すものである。機種AAAであれば、耐用年数30年から相当経過年数29年を引き、交換時期は1年以内であることが望ましい。これを表示したものが交換年数情報516である。
さらに、交換年数情報516には、3つのインジケータにより交換時期を示す機能を有していてもよい。ここでは、左から青色、黄色、赤色の3種類の表示部があり、機種AAAは交換年数情報が残り1年であるため、赤色が表示される。
これにより、ユーザや検査員等に対して変圧器の交換時期を視覚的に認知させることができる。 また、3つのインジケータについては、黄色、赤色の表示を油入変圧器の指標として用いられる重合度に対応させて「要注意」「危険」として文字として表現を用いてもよい。合わせて、「注意」を黄色、「危険」を赤色で表示するとなおわかりやすい。
次に、機種AABについて説明する。この場合は、交換年数情報516の表示は残り5年である。この場合、3つの表示部のうち、中央の黄色が点灯している。
次に、機種AACは、交換年数情報516が、2年オーバーと示されている。この場合は、速やかに交換が必要であることを示す。このとき、インジケータは赤色であれば点滅させるとよりよい。より緊急度が高いことがわかる。
最後に、機種AADについて説明する。交換年数情報516には、残り10年と表示され、インジケータは左側の青色が点灯する。
交換年数情報516に、残り年数だけでなく3つのインジケータを用いた表示をすることで、より視覚的に変圧器の交換時期を知ることができる。例えば、交換時期について、交換時期が過ぎたものまたは1年、5年、10年をしきい値として赤色、黄色、青色として表示しているが、所定の値で設定するとよい。モールド変圧器100の交換時期を考慮すると交換まで3年程度を黄色として表示するとユーザにとって便利である。
上記した3つのインジケータは、青色、黄色、赤色の3色に限定されることはなく、3段階の状態を表示する色やカラーバーで示してもよい。
カラーバーで表示する場合を図16に示す。機種情報511と、交換年数情報516aとが示されている。交換年数情報516aのカラーバーは、10本の長さの異なるバーを表示する。機種AAIのように残り3年であれば、短い順に3本を点灯させ、残り7本を薄いグレーとして表示するとよい。
機種AAJであれば、5本を点灯させ、残り5本を非点灯状態(消灯状態)とすればよい。機種AAKであれば、全点灯するとよい。機種AALであれば、交換時期が1年オーバーしているため、カラーバーをグレーアウトし消灯状態または点滅するとよい。または、上記の交換まで余裕のある状態と異なる色で全点灯してもよい。
また、カラーバーは、左から3本を赤色、4,5本目を黄色、6から10本目を緑または青とすると、交換時期を認識しやすい。
次に、他の表示方法について図11を用いて説明する。本実施例では、上段に界面部応力517と、実際の使用環境での使用通電平均518と、を表示し、下段に、想定交換時期520を表示する。界面部負荷応力517は、実施の形態1で説明した表層部応力より特定される界面部応力である。なお、応力勾配率513の表示は必須でない。
表層部応力または特定された界面部応力517と、実際に使用される負荷率の平均値である使用通電平均518と、を基にして測定対象樹脂モールド110の将来の界面部応力を求めることができる。これを想定交換時期520の縦軸とし、横軸には、相当経過年数を表示する。なお、測定値を表示したい場合には、表層部応力517の代わりに、表層部応力を表示してもよい。
この想定交換時期520には、耐用年数である30年となる界面部応力の閾値を表示し、すなわち、相当経過年数が30年と判断される界面部応力を表示する。現在の状態と推奨交換時期までの年数を表示する。これにより、樹脂モールド110の現実の使用通電負荷率を考慮した交換推奨時期を特定できる。
また、当該測定した変圧器と同じ機種または型番の変圧器について、交換した際の現実の使用通電負荷率または交換した際の界面部応力を表示し、望ましい交換推奨時期を併せて表示することもできる。
表示には、実施例3で説明した3つのインジケータを採用することで視覚的に交換時期を知ることができる。ここでは、相当経過年数が29年になる前の交換を推奨し、今回診断した相当経過年数が26年の時点において、交換時期を3年以内が推奨値であると表示している。また、相当経過年数が28年の値では、機種AAEを実際に使っているユーザが相当経過年数に対応した交換時期として表示することで、ユーザは交換時期を判断しやすくなる。
実施例5では、図12を用いて測定したモールド変圧器100の情報から使用状況を考慮し他の容量変圧器に交換した場合の交換後の変圧器寿命を予測し、表示する方法について説明する。
図12には、機種情報511、変圧器のサイズ情報512、(予測)実経過年数514a、相当経過年数情報515a、使用通電平均情報518、変圧器容量情報519が表示されている。実経過年数514aは、推定値であるため、予測実経過年数でもある。
使用通電平均情報518は、診断したモールド変圧器100の使用状況を考慮した値である。また、変圧器容量情報519は、機種情報511に対応するものであり、予めデータベース等に保存された情報である。
界面部応力が特定されたモールド変圧器100は機種AAEのものであり、現実の使用時間と相当経過年数が表示されている。機種AAEに交換(リプレース)した場合に、交換前と同様の環境下で使用されれば、相当経過年数は、同じ年数となる。
例えば、機種AAEに交換した場合であれば、相当経過年数が残り3年となるくらいで交換することを考慮し、実使用時間が21から23年程度で交換することが望ましい。
ここで、交換する変圧器の候補として機種AAFとAAGを表示する。使用されている変圧器に近いサイズであり、変圧器容量が機種AAEよりも大きいものに交換した場合を示している。
機種AAFとAAGの使用通電平均が60%と50%である。機種AAEの使用通電平均情報を基にして、機種AAFとAAGの機種AAEと同様に使用した場合の相当経過年数を特定し表示する。つまり、機種AAFとAAGの相当経過年数は、樹脂モールド110等を実際に測定していないため、他の機種AAFとAAGで測定したデータ等を用いる。
例えば、変圧器表面の温度分布は、外乱がなければ同一の機種であれば同じような分布となる。同一機種の測定データから機種AAFとAAGの温度分布を求め、機種AAEの使用通電平均情報を機種AAFとAAGに適用することで、機種AAFとAAGを機種AAEと同様に運用した場合の温度分布状態を特定することができる。温度分布状態を用いて相当使用時間と予測実使用時間を求めることができる。
ここでは、機種AAFとAAGについては、機種AAE同様に予測実使用時間が20年の場合の相当使用時間を表示している。機種AAEに交換した場合には、実使用時間と相当使用時間が一致するため、交換対象として望ましいということである。また、過去に測定した他の変圧器に類似のデータを用いると予測実使用時間と相当経過年数の特定精度が上がる。
実施例6は、図13を用いて、業種別交換時期の表示方法について説明する。図13には、上段に、モールド変圧器100の機種AAHを診断した情報を表示する。現実の経過年数514が22年に対して、相当経過年数515aが23年である。
このときに、交換時期の判断を支援するため、下段に、業種別の交換時期等を表示する。具体的には、業種情報530aと、業種別交換推奨使用年数530bと、交換までの推奨年数530cと、を表示する。この業種別交換推奨使用年数530bは予め業種ごとの変圧器の交換年数を記憶部に記憶させておく。
業種ごとに求められる業種別交換推奨使用年数530bと、相当経過年数515aと、を併せて表示し比較することで、ユーザは変圧器を交換する時期を判断しやすくなる。
なお、下段の表だけ表示しても交換時期の判断が可能である。また、交換までの推奨時間530cは、図11で示した交換年数情報516を用いることもできる。
実施例7では、図14を用いて、表面温度を測定したモールド変圧器100の寿命予測情報540を表示する方法について説明する。寿命予測情報540は、図9で説明した変圧器表面温度分布情報500の特定箇所の温度を観察した様子を示している。
上段のグラフは、測定した温度を縦軸とし、対応する測定時間を横軸としたものである。つまり、モールド変圧器100表面の所定の箇所の温度変化を示すものである。
下段は、グラフから特定された特徴的な温度を抽出した表である。時間帯540aと、温度540bと、推奨値540cと、推奨負荷率540dと、を示す。時間帯540aは、特徴的な値を抽出したものである。特徴量の抽出には、極大値の判定等の既知の方法を用いることができる。
特徴的な時間帯の温度540bに対して、推奨値540cを示す。推奨値540cは、推奨値となる温度であり、推奨負荷率540dは、温度測定時のモールド変圧器100の負荷率(使用状況)を変更する推奨値を示す。
この例では、06:00から08:00の時間帯は、モールド変圧器100の温度を56℃から54℃となるように2℃下げた方がよく、具体的には、負荷率を2%下げるとよい。また、23:00から03:00の時間帯は、負荷率を8%上昇させるとよい。
これは、先に説明したように、樹脂モールド110の温度変化を抑制することで、モールド変圧器100の寿命を延ばすことができる。
併せて、モールド変圧器100の負荷率に推奨値を採用した場合の相当経過年数の変化を表示すると具体的な数値で示されるためなおよい。
実施例7では、図15を用いて、モールド変圧器100の寿命診断方法の他の例について説明する。図15には、界面部応力517と、測定負荷応力に対応する部分放電換算値550aが示されている。
界面部応力517が特定できると、樹脂モールド110の内部状態と、界面部応力と、からコイルと樹脂モールド110との空隙の量と、を推定できる。これらの内部状態と空隙の量とを用いて、モールド変圧器100の部分放電値550aに換算する。
換算方法の一例として、他の同機種のモールド変圧器100を実際に測定した部分放電値とを予めデータベースとして用意する。樹脂モールド110の界面部応力または表層部応力と内部状態とに対応する部分放電値の変換テーブルを用意する。
これにより、同機種または類似機種のモールド変圧器100であれば、変換テーブルを用いて、界面部応力と内部状態とから部分放電値の換算ができる。
図15に示されるように界面部応力517の出荷時の値は39MPaであるが、このときの部分放電換算値550aは、0である。
3年前測定、今回、3年後予測の測定負荷応力はそれぞれ38,37,36MPaであり、部分放電換算値は、XXX、YYY、ZZZである。3年前測定と、今回の測定負荷応力値は、実際に樹脂モールド110の表面温度分布等から負荷応力を特定したものである。
これまでの実施例同様に、使用通電状態や表面温度のタイムラプス観察等を用いると、将来の樹脂モールド110の内部状態とコイルと樹脂モールド110との空隙の量が予測することができるため、上記のような3年後予測の測定負荷応力を表示でき、対応する部分放電換算値も示すことができる。
このように部分放電換算値550aを表示することによって、モールド変圧器100の定量的な状態をユーザに知らせることができる。また、部分放電換算値550aは、変圧器業界ではよく知られた指標であり、ユーザにとって分かりやすい指標を提供することができる。
上記した実施形態または実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成に一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。