(第1実施形態)
以下、本発明に係る車両用空調装置を、車室内空間を適切な温度に調整するために用いられる車両用空調装置に適用した実施形態(第1実施形態)に基づいて、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
第1実施形態において、冷凍サイクル装置10は、車両が備える各種機器や車室内を適切な温度に調整するために用いられる。即ち、冷凍サイクル装置10は、車載機器温度調整装置および車両用空調装置として機能する。第1実施形態に係る冷凍サイクル装置10は、エンジンENG(換言すれば内燃機関)及び走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得るハイブリッド自動車に適用されている。
更に、冷凍サイクル装置10は、暖房モードの冷媒回路、除湿暖房モードの冷媒回路、及び冷房モードの冷媒回路へ切り替え可能に構成されている。ここで、車両用空調装置1において、暖房モードは、送風空気を加熱して車室内へ吹き出す運転モードである。除湿暖房モードは、冷却されて除湿された送風空気を再加熱して車室内へ吹き出す運転モードである。又、冷房モードは、送風空気を冷却して車室内へ吹き出す運転モードである。
尚、図1では、暖房モードの冷媒回路における冷媒の流れを黒塗り矢印で示し、除湿暖房モードの冷媒回路における冷媒の流れを斜線ハッチング付き矢印で示している。又、冷房モードの冷媒回路における冷媒の流れを白抜き矢印で示している。
この冷凍サイクル装置10では、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力Pdが冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。もちろん、冷媒としてHFO系冷媒(例えば、R1234yf)等を採用してもよい。更に、冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
図1に示すように、冷凍サイクル装置10は、圧縮機11、第1膨張弁15a、第2膨張弁15b、室外熱交換器16、逆止弁17、室内蒸発器18、蒸発圧力調整弁19、アキュムレータ20、第1開閉弁21、第2開閉弁22を有している。
圧縮機11は、冷凍サイクル装置10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものである。圧縮機11は、車両ボンネット内に配置されている。圧縮機11は、吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて駆動する電動圧縮機として構成されている。この圧縮機構としては、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用することができる。
圧縮機11を構成する電動モータは、後述する空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動(回転数)が制御される。この電動モータとしては、交流モータ、直流モータの何れの形式を採用してもよい。そして、空調制御装置40が電動モータの回転数を制御することによって、圧縮機構の冷媒吐出能力が変更される。従って、電動モータが圧縮機構の吐出能力変更部を構成している。
圧縮機11の吐出口には、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、暖房モード時及び除湿暖房モード時に、加熱用熱交換器として機能する。即ち、室内凝縮器12は、暖房モード時及び除湿暖房モード時に、圧縮機11から吐出された高温高圧の吐出冷媒と後述する室内蒸発器18を通過した送風空気とを熱交換させて送風空気を加熱する。室内凝縮器12は、後述する室内空調ユニット30のケーシング31内に配置されている。
室内凝縮器12の冷媒出口には、第1三方継手13aの1つの流入出口側が接続されている。第1三方継手13aのような三方継手は、冷凍サイクル装置10において、分岐部あるいは合流部としての機能を果たす。
例えば、除湿暖房モード時の第1三方継手13aでは、3つの流入出口のうち1つが流入口として用いられ、残りの2つが流出口として用いられる。従って、除湿暖房モード時の第1三方継手13aは、1つの流入口から流入した冷媒の流れを分岐して2つの流出口から流出させる分岐部としての機能を果たす。これらの三方継手は、複数の配管を接合して形成してもよいし、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けて形成してもよい。
更に、冷凍サイクル装置10は、後述するように、第2三方継手13b〜第4三方継手13dを備えている。第2三方継手13b〜第4三方継手13dの基本的構成は、第1三方継手13aと同様である。例えば、除湿暖房モード時の第4三方継手13dでは、3つの流入出口のうち2つが流入口として用いられ、残りの1つが流出口として用いられる。従って、除湿暖房モード時の第4三方継手13dは、2つの流入口から流入した冷媒を合流させて1つの流出口から流出させる合流部としての機能を果たす。
そして、第1三方継手13aの別の流入出口には、第1冷媒通路14aが接続されている。第1冷媒通路14aは、室内凝縮器12から流出した冷媒を、室外熱交換器16の冷媒入口(即ち、流入口16a)側へ導く。
又、第1三方継手13aのさらに別の流入出口には、第2冷媒通路14bが接続されている。第2冷媒通路14bは、室内凝縮器12から流出した冷媒を、後述する第3冷媒通路14cに配置された第2膨張弁15bの入口側(具体的には、第3三方継手13cの1つの流入出口)へ導く。
第1冷媒通路14aには、第1膨張弁15aが配置されている。第1膨張弁15aは、暖房モード時及び除湿暖房モード時に、室内凝縮器12から流出した冷媒を減圧させる。第1膨張弁15aは、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の絞り開度を変化させるステッピングモータからなる電動アクチュエータとを有する可変絞り機構である。
更に、第1膨張弁15aは、絞り開度を全開にすることによって、冷媒減圧作用を殆ど発揮することなく単なる冷媒通路として機能する全開機能付きの可変絞り機構として構成されている。第1膨張弁15aは、空調制御装置40から出力される制御信号(制御パルス)によって、その作動が制御される。
第1膨張弁15aの出口側には、室外熱交換器16の冷媒入口(即ち、流入口16a)側が接続されており、車両ボンネット内の車両前方側に配置されている。室外熱交換器16は、第1膨張弁15aから流出した冷媒と図示しない送風ファンから送風された車室外空気(即ち、外気OA)とを熱交換させるものである。送風ファンは、空調制御装置40から出力される制御電圧によって回転数(送風能力)が制御される電動送風機である。
具体的には、室外熱交換器16は、暖房モード時においては、外気から吸熱する吸熱器として機能する。冷房モード時及び除湿暖房モード時においては、室外熱交換器16は、外気OAへ放熱する放熱器として機能する。
図2に示すように、室外熱交換器16は、冷媒入口としての流入口16aと、冷媒出口としての流出口16bとを有している。流入口16aは、室外熱交換器16の上部に配置されており、第1冷媒通路14aを流れた冷媒が流入する部分である。流出口16bは、室外熱交換器16の下部に配置されており、第2三方継手13bへ向かって冷媒が流出する部分である。
そして、冷媒は、図2における冷媒流れRとして示すように、流入口16aを介して室外熱交換器16内に流入すると、室外熱交換器16を構成する扁平チューブに沿って流れ、流出口16bから外部へ流出する。この時、室外熱交換器16では、扁平チューブ内を流れる冷媒と、車両の前方から後方に向かって流れる外気OAとの間で熱交換が行われる。
室外熱交換器16の流出口16b(即ち、冷媒出口)側には、第2三方継手13bの1つの流入出口が接続されている。第2三方継手13bの別の流入出口には、第3冷媒通路14cが接続されている。第3冷媒通路14cは、室外熱交換器16から流出した冷媒を、室内蒸発器18の冷媒入口側へ導く。
又、第2三方継手13bのさらに別の流入出口には、第4冷媒通路14dが接続されている。第4冷媒通路14dは、室外熱交換器16から流出した冷媒を、後述するアキュムレータ20の入口側(具体的には、第4三方継手13dの1つの流入出口)へ導く。
第3冷媒通路14cには、逆止弁17、第3三方継手13c、並びに、第2膨張弁15bが、冷媒流れに対してこの順に配置されている。逆止弁17は、冷媒が第2三方継手13b側から室内蒸発器18側へ流れることのみを許容するものである。第3三方継手13cには、前述した第2冷媒通路14bが接続されている。
第2膨張弁15bは、室外熱交換器16から流出して室内蒸発器18へ流入する冷媒を減圧させる。第2膨張弁15bは、本発明における減圧装置として機能する。第2膨張弁15bの基本的構成は、第1膨張弁15aと同様であり、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の絞り開度を変化させるステッピングモータからなる電動アクチュエータとを有している。更に、第2膨張弁15bは、絞り開度を全閉した際にこの冷媒通路を閉塞する全閉機能付きの可変絞り機構で構成されている。
従って、第1実施形態に係る冷凍サイクル装置10では、第2膨張弁15bを全閉として第3冷媒通路14cを閉じることによって、冷媒回路を切り替えることができる。換言すると、第2膨張弁15bは、冷媒減圧装置としての機能を果たすとともに、サイクルを循環する冷媒の冷媒回路を切り替える冷媒回路切替装置としての機能を兼ね備えている。
室内蒸発器18は、冷房モード時及び除湿暖房モード時に、冷却用熱交換器として機能する。即ち、室内蒸発器18は、冷房モード時及び除湿暖房モード時に、第2膨張弁15bから流出した冷媒と室内凝縮器12通過前の送風空気とを熱交換させる。室内蒸発器18では、第2膨張弁15bにて減圧された冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることによって送風空気を冷却する。室内蒸発器18は、室内空調ユニット30のケーシング31内のうち、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側に配置されている。
室内蒸発器18の冷媒出口には、蒸発圧力調整弁19の流入口側が接続されている。蒸発圧力調整弁19は、室内蒸発器18の着霜(フロスト)を抑制するために、室内蒸発器18における冷媒蒸発圧力(即ち、低圧側冷媒圧力)を着霜抑制圧力以上に調整する機能を果たす。換言すると、蒸発圧力調整弁19は、室内蒸発器18における冷媒蒸発温度Teを予め定められた着霜抑制温度以上に調整する機能を果たす。
図1に示すように、蒸発圧力調整弁19の出口側には、第4三方継手13dが接続されている。又、前述したように、第4三方継手13dにおける他の流入出口には、第4冷媒通路14dが接続されている。そして、第4三方継手13dのさらに別の流入出口には、アキュムレータ20の入口側が接続されている。
アキュムレータ20は、内部に流入した冷媒の気液を分離して、サイクル内の余剰冷媒を蓄える気液分離器である。アキュムレータ20の気相冷媒出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。従って、アキュムレータ20は、圧縮機11に液相冷媒が吸入されることを抑制し、圧縮機11における液圧縮を防止する機能を果たす。
又、第2三方継手13bと第4三方継手13dとを接続する第4冷媒通路14dには、第1開閉弁21が配置されている。第1開閉弁21は、電磁弁によって構成されている。そして、第1開閉弁21は、第4冷媒通路14dを開閉することによって冷媒回路を切り替える冷媒回路切替装置として機能する。第1開閉弁21は、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
同様に、第1三方継手13aと第3三方継手13cとを接続する第2冷媒通路14bには、第2開閉弁22が配置されている。第2開閉弁22は、第1開閉弁21と同様に、電磁弁によって構成されている。第2開閉弁22は、第2冷媒通路14bを開閉することによって冷媒回路を切り替える冷媒回路切替装置として機能する。
次に、冷凍サイクル装置10と共に車両用空調装置1を構成する室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、冷凍サイクル装置10によって温度調整された送風空気を車室内へ吹き出すためのものである。この室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されている。
図1に示すように、室内空調ユニット30は、その外殻を形成するケーシング31内に送風機32、室内蒸発器18、室内凝縮器12等を収容することによって構成されている。ケーシング31は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成するものである。ケーシング31は、或る程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。
ケーシング31内の送風空気流れ最上流側には、内外気切替装置33が配置されている。内外気切替装置33は、ケーシング31内へ内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する。
具体的には、内外気切替装置33は、ケーシング31内へ内気を導入させる内気導入口及び外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を連続的に変化させることができる。内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。従って、内外気切替装置33は、本発明における導入空気調整部として機能する。
そして、内外気切替装置33の送風空気流れ下流側には、送風機(ブロワ)32が配置されている。この送風機32は、内外気切替装置33を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する。送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機である。送風機32における遠心多翼ファンの回転数(送風量)は、空調制御装置40から出力される制御電圧によって制御される。
送風機32の送風空気流れ下流側には、室内蒸発器18及び室内凝縮器12が、送風空気流れに対して、この順に配置されている。換言すると、室内蒸発器18は、室内凝縮器12よりも送風空気流れ上流側に配置されている。
又、ケーシング31内には、冷風バイパス通路35が形成されている。冷風バイパス通路35は、室内蒸発器18を通過した送風空気を、室内凝縮器12を迂回させて下流側へ流す為の通路である。
室内蒸発器18の送風空気流れ下流側であって、且つ、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側には、エアミックスドア34が配置されている。エアミックスドア34は、室内蒸発器18通過後の送風空気のうち室内凝縮器12を通過させる風量割合を調整する際に用いられる。従って、車両用空調装置1は、冷風バイパス通路35を全開開度とし、エアミックスドア34により室内凝縮器12へ向かう送風空気の流路を全閉することで、室内凝縮器12における熱交換量を最小値にすることができる。
又、室内凝縮器12の送風空気流れ下流側には、混合空間が設けられている。混合空間では、室内凝縮器12にて加熱された送風空気と、冷風バイパス通路35を通過して室内凝縮器12にて加熱されていない送風空気とが混合される。更に、ケーシング31の送風空気流れ最下流部には、複数の開口穴が配置されている。混合空間にて混合された送風空気(空調風)は、これらの開口穴を介して、空調対象空間である車室内へ吹き出される。
これらの開口穴としては、具体的に、フェイス開口穴、フット開口穴、デフロスタ開口穴(いずれも図示せず)が設けられている。フェイス開口穴は、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出す為の開口穴である。フット開口穴は、乗員の足元に向けて空調風を吹き出す為の開口穴である。デフロスタ開口穴は、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出す為の開口穴である。
更に、フェイス開口穴、フット開口穴及びデフロスタ開口穴の送風空気流れ下流側は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口及びデフロスタ吹出口(いずれも図示せず)に接続されている。従って、エアミックスドア34が、室内凝縮器12を通過させる風量と冷風バイパス通路35を通過させる風量との風量割合を調整することによって、混合空間にて混合される空調風の温度が調整されて、各吹出口から車室内へ吹き出される空調風の温度が調整される。
つまり、エアミックスドア34は、車室内へ送風される空調風の温度を調整する温度調整部としての機能を果たす。エアミックスドア34は、エアミックスドア駆動用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
又、フェイス開口穴、フット開口穴、及びデフロスタ開口穴の送風空気流れ上流側には、それぞれ、フェイス開口穴の開口面積を調整するフェイスドア、フット開口穴の開口面積を調整するフットドア、デフロスタ開口穴の開口面積を調整するデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替ドアを構成する。フェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、それぞれリンク機構等を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータに連結されており、連動して回転操作される。この電動アクチュエータも、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
吹出口モード切替ドアによって切り替えられる吹出口モードとしては、具体的に、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード等がある。
フェイスモードは、フェイス吹出口を全開にしてフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。バイレベルモードは、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。フットモードは、フット吹出口を全開にしてフット吹出口から車室内乗員の足元に向けて送風空気を吹き出す吹出口モードである。
更に、乗員が、操作パネル60に設けられた吹出モード切替スイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタモードとすることもできる。デフロスタモードは、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口から車両フロント窓ガラス内面に空気を吹き出す吹出口モードである。
エンジン冷却水回路70は、車両に搭載されたエンジンENGを冷却する為に、熱媒体であるエンジン冷却水を循環させる回路であり、図1に示すように、熱交換器であるエンジンラジエータ71と、図示しない冷却水ポンプとを有している。
エンジンラジエータ71は、エンジン冷却水回路70を循環する熱媒体であるエンジン冷却水と外気とを熱交換させる熱交換器である。図2に示すように、エンジンラジエータ71は、室外熱交換器16に対して導入される外気OAの流れに関して、室外熱交換器16よりも下流側に、間隔を隔てて配置されている。
より具体的には、エンジンラジエータ71は、外気OAの流れの下流側において、室外熱交換器16の流入口16aを含む上側部分を占めるように配置されている。従って、エンジンラジエータ71は、室外熱交換器16で冷媒と熱交換した外気OAに対して、エンジン冷却水の熱を放熱する。そして、冷却水ポンプは、エンジン冷却水を吸入して吐出する電動式の熱媒体ポンプである。
従って、エンジン冷却水回路70は、エンジンENGとエンジンラジエータ71を含む循環流路内を、冷却水ポンプの駆動によってエンジン冷却水を循環させ、エンジンENG及びエンジンラジエータ71で熱交換させる。つまり、エンジン冷却水回路70は、エンジンENGの排熱をエンジン冷却水で吸熱し、この熱をエンジンラジエータ71で放熱させることができる。
エンジン冷却水としては、少なくともエチレングリコール、ジメチルポリシロキサンもしくはナノ流体を含む液体、又は不凍液体が使用可能であるが、冷却対象機器であるエンジンENGの温度条件等に応じて適切なものが用いられている。
インバータ冷却水回路80は、車両に搭載されたインバータINVを含む冷却対象機器を冷却する為に、熱媒体であるインバータ冷却水を循環させる回路であり、熱交換器であるインバータラジエータ81と、図示しない冷却水ポンプとを有している。
インバータINVは、電池から供給された直流電力を交流電力に変換して走行用モータに出力する電力変換部である。インバータINVは、インバータ冷却水回路80によって冷却される冷却対象機器の一つである。インバータ冷却水回路80に配置される冷却対象機器は、インバータINVのみに限定されるものではなく、種々の冷却対象機器がインバータ冷却水回路80に配置されていてもよい。
インバータラジエータ81は、インバータ冷却水回路80を循環する熱媒体であるインバータ冷却水と外気とを熱交換させる熱交換器である。図2に示すように、インバータラジエータ81は、エンジンラジエータ71と同様に、室外熱交換器16に対して導入される外気OAの流れに関して、室外熱交換器16よりも下流側に、間隔を隔てて配置されている。
より具体的には、インバータラジエータ81は、外気OAの流れの下流側において、室外熱交換器16の流出口16bを含む下側部分を占めるように配置されており、エンジンラジエータ71の下方に位置している。従って、インバータラジエータ81は、室外熱交換器16で冷媒と熱交換した外気OAに対して、インバータ冷却水の熱を放熱する。
つまり、インバータラジエータ81は、室外熱交換器16に形成される過冷却域に対して、外気OAの流れの下流側に配置されている為、より効率よく、インバータ冷却水の熱を外気OAに放熱することができる。そして、冷却水ポンプは、インバータ冷却水を吸入して吐出する電動式の熱媒体ポンプである。
従って、インバータ冷却水回路80は、インバータINVとインバータラジエータ81を含む循環流路内を、冷却水ポンプの駆動によってインバータ冷却水を循環させ、インバータINV及びインバータラジエータ81で熱交換させる。つまり、インバータ冷却水回路80は、インバータINVの排熱をインバータ冷却水で吸熱し、この熱をインバータラジエータ81で放熱させることができる。
インバータ冷却水としては、エチレングリコールを含む液体、または不凍液体が使用可能であるが、インバータINVを含む冷却対象機器の温度条件等に応じて適切なものが用いられている。
次に、車両用空調装置1の制御系について、図3を参照しつつ説明する。車両用空調装置1は、冷凍サイクル装置10の構成機器や室内空調ユニット30を制御する為の空調制御装置40を有している。
空調制御装置40は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。そして、空調制御装置40は、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行うことで、出力側に接続された圧縮機11、第1膨張弁15a、第2膨張弁15b、第1開閉弁21、第2開閉弁22、送風機32、内外気切替装置33等の空調制御機器の作動を制御する。
又、空調制御装置40の入力側には、空調制御用のセンサ群の検出信号が入力される。図3に示すように、空調制御用のセンサ群には、内気温センサ51、外気温センサ52、日射センサ53、吐出温度センサ54、高圧側圧力センサ55、蒸発器温度センサ56、低圧側圧力センサ57、冷媒温度センサ58等が含まれる。
内気温センサ51は、車室内温度(内気温)Trを検出する内気温検出部である。外気温センサ52は、車室外温度(外気温)Tamを検出する外気温検出部である。日射センサ53は、車室内へ照射される日射量Asを検出する日射量検出部である。吐出温度センサ54は、圧縮機11吐出冷媒の吐出冷媒温度Tdを検出する吐出温度検出部である。
高圧側圧力センサ55は、室内凝縮器12の出口側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdを検出する高圧側圧力検出部である。蒸発器温度センサ56は、室内蒸発器18における冷媒蒸発温度(蒸発器温度)Teを検出する蒸発器温度検出部である。蒸発器温度センサ56は、室内蒸発器18の熱交換フィン温度を検出している。ここで、蒸発器温度センサ56として、室内蒸発器18のその他の部位の温度を検出する温度検出部を採用してもよいし、室内蒸発器18を流通する冷媒自体の温度を直接検出する温度検出部を採用してもよい。
低圧側圧力センサ57は、冷凍サイクルの低圧側における冷媒圧力を検出する低圧側圧力検出部であり、圧縮機11の吸入口側における冷媒圧力を、低圧側冷媒圧力Psとして検出する。そして、冷媒温度センサ58は、室外熱交換器16の流出口16bから流出する冷媒の温度を検出する検出部である。
そして、空調制御装置40の入力側には、エンジン冷却水回路70のエンジン冷却水温度センサ72と、インバータ冷却水回路80のインバータ冷却水温度センサ82とが夫々接続されている。
エンジン冷却水温度センサ72は、エンジン冷却水回路70の循環流路の内、エンジンENG側の流出口側からエンジンラジエータ71の流入口側までの範囲に配置されており、エンジン冷却水の温度を検出する。即ち、エンジン冷却水温度センサ72は、本発明における熱媒体温度検出部の一例である。空調制御装置40は、エンジンENGからエンジン冷却水が吸熱した熱量を推定することができる。
又、インバータ冷却水温度センサ82は、インバータ冷却水回路80の循環流路の内、インバータINV側の流出口からインバータラジエータ81の流入口側までの範囲に配置されており、インバータ冷却水の温度(以下、インバータ冷却水温度TWhv)を検出する。即ち、インバータ冷却水温度センサ82は、本発明に係る熱媒体温度検出部の一例である。そして、空調制御装置40は、インバータINVからインバータ冷却水が吸熱した熱量を推定できる。
更に、空調制御装置40の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル60が接続されている。従って、空調制御装置40には、操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。
操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチとしては、具体的に、オートスイッチ、冷房スイッチ(A/Cスイッチ)、風量設定スイッチ、温度設定スイッチ、吹出モード切替スイッチ等が含まれる。
オートスイッチは、車両用空調装置1の自動制御運転を設定或いは解除する為の入力部である。冷房スイッチは、車室内の冷房を行うことを要求する為の入力部である。風量設定スイッチは、送風機32の風量をマニュアル設定する為の入力部である。温度設定スイッチは、車室内の目標温度である車室内設定温度Tsetを設定する為の入力部である。吹出モード切替スイッチは、吹出モードをマニュアル設定する為の入力部である。
又、空調制御装置40の入力側には、車両制御装置90が接続されている。この車両制御装置90は、車両用空調装置1が搭載された車両の走行に関する各種制御を担っている。例えば、車両制御装置90は、エンジン冷却水回路70によるエンジンENGの冷却負荷や、インバータ冷却水回路80によるインバータINVの冷却負荷が過大である場合に、空調運転の制御内容の変更を要求する空調制御変更信号を空調制御装置40へ出力する。
尚、空調制御装置40は、その出力側に接続された各種空調制御機器を制御する制御部(換言すると、制御装置)が一体に構成されたものであるが、それぞれの空調制御機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの空調制御機器の作動を制御する制御部を構成している。
例えば、空調制御装置40のうち、圧縮機11の作動を制御する構成が吐出能力制御部40aを構成している。又、空調制御装置40のうち、冷媒回路切替装置である第1開閉弁21、第2開閉弁22等の作動を制御する構成が冷媒回路制御部40bを構成している。
又、空調制御装置40のうち、減圧装置である第1膨張弁15a及び第2膨張弁15bの作動を制御する構成が減圧制御部40cを構成している。もちろん、吐出能力制御部40a、冷媒回路制御部40b、減圧制御部40c等を空調制御装置40に対して別体の制御部で構成してもよい。
続いて、第1実施形態に係る車両用空調装置1の作動について説明する。上述したように、車両用空調装置1では、暖房モード、除湿暖房モード、及び冷房モードの運転を切り替えることができる。そして、これらの各運転モードの切り替えは、空調制御プログラムが実行されることによって行われる。この空調制御プログラムは、操作パネル60のオートスイッチが投入(ON)された際に実行される。
空調制御プログラムのメインルーチンでは、空調制御用のセンサ群の検出信号及び各種空調操作スイッチからの操作信号を読み込む。そして、読み込んだ検出信号及び操作信号の値に基づいて、車室内へ吹き出す吹出空気の目標温度である目標吹出温度TAOを、以下数式F1に基づいて算出する。
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×As+C…(F1)
ここで、Tsetは温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度、Trは内気温センサ51によって検出された車室内温度(内気温)、Tamは外気温センサ52によって検出された外気温、Asは日射センサ53によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
更に、操作パネル60の冷房スイッチが投入された状態で、目標吹出温度TAOが予め定めた冷房基準温度αよりも低くなっている場合には、冷房モードでの運転を実行する。又、操作パネル60の冷房スイッチが投入された状態で、目標吹出温度TAOが冷房基準温度α以上になっている場合には、除湿暖房モードでの運転を実行する。又、冷房スイッチが投入されていない場合には、暖房モードでの運転を実行する。
この空調制御プログラムにより、冷房モードは、主に夏季のように比較的外気温が高い場合に実行される。除湿暖房モードは、主に春季あるいは秋季に実行される。更に、暖房モードは、主に冬季の低外気温時に実行することができる。
更に、空調制御プログラムでは、各運転モード時に応じて、各種制御対象機器の作動状態を決定する。そして、決定した作動状態に応じた制御信号および制御電圧等を各種制御対象機器へ出力する。その後、空調制御プログラムでは、車両用空調装置1の作動停止が要求されるまで、所定の制御周期毎に、検出信号および操作信号の読み込み→運転モードの決定→各種制御対象機器の作動状態の決定→制御電圧および制御信号の出力といった制御ルーチンが繰り返される。以下に、各運転モードについて説明する。
(a)暖房モード
暖房モードでは、空調制御装置40が、第1開閉弁21を開き、第2開閉弁22を閉じる。又、第1膨張弁15aについては、減圧作用を発揮する絞り状態とし、第2膨張弁15bについては全閉状態とする。
これにより、暖房モードでは、図1の黒塗り矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→第1膨張弁15a→室外熱交換器16→(第1開閉弁21→)アキュムレータ20→圧縮機11の順に冷媒を循環させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
このサイクル構成で、空調制御装置40は、室内凝縮器12へ流入する冷媒が目標凝縮器温度TCOとなるように、圧縮機11の作動を制御する。目標凝縮器温度TCOは、目標吹出温度TAOの上昇に伴って上昇するように決定される。さらに、空調制御装置40は、第1膨張弁15aへ流入する冷媒の圧力に基づいて、サイクルのCOPが極大値に近づくように第1膨張弁15aの作動を制御する。又、空調制御装置40は、冷風バイパス通路35が全閉となるようにエアミックスドアを変位させ、室内凝縮器12側の通風路を全開にする。
暖房モードの冷凍サイクル装置10では、室内凝縮器12を放熱器として機能させ、室外熱交換器16を蒸発器として機能させる。そして、室外熱交換器16にて冷媒が蒸発する際に外気から吸熱した熱を室内凝縮器12にて送風空気に放熱する。これにより、送風空気を加熱することができる。
従って、暖房モードでは、室内凝縮器12にて加熱された送風空気を車室内に吹き出すことによって、車室内の暖房を行うことができる。
(b)除湿暖房モード
除湿暖房モードでは、空調制御装置40が、第1開閉弁21及び第2開閉弁22を開き、第1膨張弁15a及び第2膨張弁15bを絞り状態とする。
これにより、除湿暖房モードでは、図1の斜線ハッチング付き矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→第1膨張弁15a→室外熱交換器16→(第1開閉弁21→)アキュムレータ20→圧縮機11の順に冷媒を循環させると共に、圧縮機11→室内凝縮器12→(第2開閉弁22→)第2膨張弁15b→室内蒸発器18→蒸発圧力調整弁19→アキュムレータ20→圧縮機11の順に冷媒を循環させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
つまり、この除湿暖房モードでは、室内凝縮器12から流出した冷媒の流れを第1三方継手13aにて分岐し、分岐された一方の冷媒を第1膨張弁15a→室外熱交換器16→圧縮機11の順に流すと共に、分岐された他方の冷媒を第2膨張弁15b→室内蒸発器18→蒸発圧力調整弁19→圧縮機11の順に流す冷媒回路に切り替えられる。
このサイクル構成で、空調制御装置40は、室内蒸発器18から吹き出される送風空気が目標蒸発器温度TEOとなるように、圧縮機11の作動を制御する。目標蒸発器温度TEOは、目標吹出温度TAOの低下に伴って低下するように決定される。目標蒸発器温度TEOは、室内蒸発器18の着霜を抑制可能な範囲で決定される。
又、空調制御装置40は、第1膨張弁15aへ流入する冷媒の圧力に基づいて、サイクルのCOPが極大値に近づくように第1膨張弁15a及び第2膨張弁15bの作動を制御する。この際、空調制御装置40は、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、第1膨張弁15aの絞り開度を減少させ、第2膨張弁15bの絞り開度を増加させる。又、空調制御装置40は、冷風バイパス通路35が全閉となるようにエアミックスドアを変位させ、室内凝縮器12側の通風路を全開にする。
この除湿暖房モードでは、室内凝縮器12を放熱器として機能させ、室外熱交換器16及び室内蒸発器18を蒸発器として機能させる。この為、目標吹出温度TAOの上昇に伴って室外熱交換器16の冷媒の飽和温度を低下させて、室外熱交換器16における冷媒の吸熱量を増加させることができる。これにより、室内凝縮器12における冷媒の放熱量を増加させて加熱能力を向上させることができる。
従って、この除湿暖房モードでは、室内蒸発器18にて冷却されて除湿された送風空気を、室内凝縮器12にて再加熱して車室内に吹き出すことによって、車室内の除湿暖房を行うことができる。更に、室外熱交換器16における冷媒の飽和温度(蒸発温度)を、室内蒸発器18における冷媒の飽和温度(蒸発温度)よりも低下させることができるので、除湿暖房モードにおける送風空気の加熱能力を増加させることができる。
(c)冷房モード
冷房モードでは、空調制御装置40は、第1開閉弁21及び第2開閉弁22を閉じる。又、空調制御装置40は、第1膨張弁15aを全開状態とし、第2膨張弁15bを絞り状態とする。
これにより、冷房モードでは、図1の白抜き矢印に示すように、圧縮機11→(室内凝縮器12→第1膨張弁15a→)室外熱交換器16→(逆止弁17→)第2膨張弁15b→室内蒸発器18→蒸発圧力調整弁19→アキュムレータ20→圧縮機11の順に冷媒を循環させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
このサイクル構成で、空調制御装置40は、通常、室内蒸発器18から吹き出される送風空気が目標蒸発器温度TEOとなるように、圧縮機11の作動を制御する。目標蒸発器温度TEOは、目標吹出温度TAOの低下に伴って低下するように決定される。目標蒸発器温度TEOは、室内蒸発器18の着霜を抑制可能な範囲で決定される。又、空調制御装置40は、冷風バイパス通路35が全開となるようにエアミックスドア34を変位させ、室内凝縮器12側の通風路を全閉にする。
そして、空調制御装置40は、室外熱交換器16の流出口16b側における冷媒の過冷却度SCが目標過冷却度TSCに近づくように、第2膨張弁15bの作動を制御する。空調制御装置40は、高圧側圧力センサ55で検出された高圧側冷媒圧力Pdと、冷媒温度センサ58により検出された冷媒温度と、サイクルを循環する冷媒の物性に基づいて、室外熱交換器16における現在の過冷却度SCを算出する。
空調制御装置40は、算出した過冷却度SCが目標過冷却度TSCに近づくように、第2膨張弁15bの絞り開度を制御する。この点については後に詳細に説明する。
冷房モードの冷凍サイクル装置10では、室外熱交換器16を放熱器として機能させ、室内蒸発器18を蒸発器として機能させる。そして、室内蒸発器18にて冷媒が蒸発する際に送風空気から吸熱した熱を室外熱交換器16にて外気に放熱する。これにより、送風空気を冷却することができる。
従って、冷房モードでは、室内蒸発器18にて冷却された送風空気を車室内に吹き出すことによって、車室内の冷房を行うことができる。
続いて、車両用空調装置1における目標過冷却度の設定に関する制御処理について、図面を参照しつつ説明する。上述したように、車両用空調装置1の冷房モード時において、空調制御装置40は、室外熱交換器16の出口側における過冷却度SCが目標過冷却度TSCに近づくように、第2膨張弁15bの絞り開度を制御する。
図4に示すフローチャートは、この目標過冷却度TSCを設定する際に、空調制御装置40によって、車両用空調装置1の空調運転が実行されている間、繰り返し実行される。
ステップS1では、運転モードが冷房モードであるか否かが判定される。現時点の運転モードが冷房モードである場合には、ステップS2に進む。一方、現時点の運転モードが冷房モード以外の運転モード(例えば、暖房モードや除湿暖房モード)である場合、そのまま、この制御処理を終了する。
ステップS2においては、エアコン吹込温度Tainが基準吹込温度KTain以下であるか否かが判定される。ここで、エアコン吹込温度Tainは、エアコン熱負荷が高く、室外熱交換器16の放熱が大きいか否かを判定する為の指標の一例である。
エアコン吹込温度Tainは、内気温センサ51で検出される内気温Trと、外気温センサ52で検出される外気温Tamと、内外気切替装置33の作動状態(即ち、内気の風量と外気の風量との風量割合)とに基づいて、空調制御装置40によって算出される。
算出されたエアコン吹込温度Tainが基準吹込温度KTain以下である場合、エアコン熱負荷、及び室外熱交換器16における放熱は大きくないと判断して、ステップS3に移行する。一方、エアコン吹込温度Tainが基準吹込温度KTain以下ではない場合、エアコン熱負荷及び室外熱交換器16における放熱が大きく、室外熱交換器16の下流側に位置するエンジンラジエータ71、インバータラジエータ81の冷却性能が不足する状況であると判断し、ステップS4に進む。
ステップS3では、目標過冷却度設定(A)の処理が行われる。具体的には、この場合における目標過冷却度TSCは、図5に示す制御マップにおける下限線Llと、外気温センサ52で検出した外気温Tamに基づいて特定される。下限線Llは、サイクルの成績係数COPが最も高くなるように定められている。目標過冷却度設定(A)で目標過冷却度TSCを特定した後、この制御処理を終了する。
ステップS4においては、目標過冷却度設定(B)が行われる。具体的には、この場合における目標過冷却度TSCは、図5に示す制御マップにおける上限線Lhと、外気温センサ52で検出した外気温Tamに基づいて特定される。目標過冷却度設定(B)で目標過冷却度TSCを特定した後、この制御処理を終了する。
尚、制御マップにおける上限線Lhは、冷凍サイクル装置10における冷房運転を継続可能な状態で、且つ、室外熱交換器16の出口側における過冷却度ができるだけ大きくなるように決定されており、この制御マップにおける下限線Llよりも大きな値を示す。即ち、上限線Lhは、冷房モード時の成績係数COPの向上よりも、過冷却度SCを大きくとることを優先して定められている。
上述したように、冷房モードにおいては、図4に示す制御処理によって、エアコン吹込温度Tainに応じた目標過冷却度TSCが特定される。そして、第2膨張弁15bの絞り開度を調整することによって、室外熱交換器16の過冷却度SCが図4の制御処理で特定された目標過冷却度TSCに近づくように制御される。
即ち、エアコン熱負荷が低く、室外熱交換器16の放熱がそれほど大きくない場合に、ステップS3の目標過冷却度設定(A)によって目標過冷却度TSCが特定される。この場合における冷房モードの運転中に、ステップS3で特定された目標過冷却度TSCに近づくように、室外熱交換器16の出口側における過冷却度SCを制御すると、図2に示すように、室外熱交換器16の流出口16b側には、過冷却域Rscaが形成される。
一方、室外熱交換器16における放熱量が大きく、エンジンラジエータ71、インバータラジエータ81の冷却性能が不足する状況の場合、ステップS4の目標過冷却度設定(B)によって目標過冷却度TSCが特定される。
そして、ステップS4で特定された目標過冷却度TSCに近づくように、室外熱交換器16の出口側における過冷却度SCを制御すると、図2に示すように、室外熱交換器16の流出口16b側には、過冷却域Rscbが形成される。
同一の外気温Tamという条件下において、ステップS4で特定された目標過冷却度TSCは、ステップS3で特定された目標過冷却度TSCよりも大きい。従って、図2に示すように、この場合の過冷却域Rscbは、ステップS3で設定された目標過冷却度TSCに基づく過冷却域Rscaよりも大きく形成される。
ステップS3における目標過冷却度TSCに基づく冷房運転と、ステップS4における目標過冷却度TSCに基づく冷房運転との場合を比較する。
先ず、ステップS4の場合の冷房運転における成績係数COPは、圧縮機11の動力増加に起因して、ステップS3の場合の冷房運転における成績係数COPよりも低下する。例えば、外気温Tamが40℃の場合には、成績係数COPは、約8%低下する。
一方、ステップS4の場合におけるラジエータ前面温度Trfは、図2に示すように、室外熱交換器16の出口側における過冷却域Rscaが過冷却域Rscbに増大することによって、ステップS3の場合におけるラジエータ前面温度Trfよりも低下する。例えば、外気温Tamが40℃の場合には、ラジエータ前面温度Trfは、約3℃低下する。
尚、ラジエータ前面温度Trfは、外気OAの流れに関して、室外熱交換器16の下流側であって、エンジンラジエータ71及びインバータラジエータ81の上流側に位置する空間における空気の温度を意味する。
このように、第1実施形態に係る車両用空調装置1では、エアコン熱負荷が低く、室外熱交換器16の放熱がそれほど大きくない場合に、ステップS3の目標過冷却度設定(A)によって目標過冷却度TSCが特定される。この場合の目標過冷却度TSCは、成績係数COPが極大値になるように決定されている為、成績係数COPが高い状態で、冷房運転を継続することができる。
又、室外熱交換器16の放熱もそれほど大きくならない為、エンジンラジエータ71によるエンジンENGの冷却及び、インバータラジエータ81によるインバータINVの冷却も十分に行うことができる。
一方、室外熱交換器16における放熱量が大きく、エンジンラジエータ71、インバータラジエータ81の冷却性能が不足する状況では、ステップS4の目標過冷却度設定(C)によって目標過冷却度TSCが特定される。この場合の目標過冷却度TSCは、冷凍サイクル装置10における冷房運転が継続可能であり、且つ、室外熱交換器16の出口側における過冷却度ができるだけ大きくなるように決定されている。
従って、車両用空調装置1は、目標過冷却度設定(A)の場合に比べて、成績係数COPは低下するものの、冷房運転を継続することができる。つまり、車室内の快適性を維持することができる。
又、この車両用空調装置1によれば、室外熱交換器16における過冷却域を増大させることで、ラジエータ前面温度Trfを平均的に低下させることができる。これにより、エンジンラジエータ71、インバータラジエータ81における熱交換性能の低下を抑制できる為、車両用空調装置1は、この場合におけるエンジンENG及びインバータINVの冷却性能不足を抑制できる。
次に、車両用空調装置1における圧縮機11の冷媒吐出能力の設定に関する制御処理について、図面を参照しつつ説明する。上述したように、車両用空調装置1において、圧縮機11の冷媒吐出能力は、圧縮機11を構成する電動モータの回転数を制御することで変更される。冷房モード時においては、圧縮機11の回転数は、室内蒸発器18から吹き出される送風空気が目標蒸発器温度TEOとなるように制御される。
図6に示す制御処理では、圧縮機11の電動モータがとり得る回転数の上限値を変更することによって、圧縮機11が作動する回転数の範囲を設定している。この圧縮機11の回転数範囲を適宜設定することで、空調制御装置40は、状況に応じた圧縮機11の冷媒吐出能力に変更している。
先ず、ステップS11では、運転モードが冷房モードであるか否かが判定される。現時点の運転モードが冷房モードである場合には、ステップS12に進む。一方、現時点の運転モードが冷房モード以外である場合は、そのまま、この制御処理を終了する。
ステップS12では、空調制御装置40に接続されている各種センサや各種空調制御機器(以下、各種センサ等という)が正常動作しているか否かを判定する。この判定は、各種センサ等からの制御信号との間の通信に基づいて行われ、作動エラー及び通信エラーの発生を検出している。
各種センサ等が正常動作していると判定した場合には、ステップS13に進む。一方、各種センサ等が正常動作していないと判定した場合、作動エラー又は通信エラーが発生しているものとして、ステップS14に進む。
ステップS13では、圧縮機回転数設定(A)の処理が実行される。この処理では、圧縮機11の性能により定まる圧縮機11の最大回転数である制御最大値Ncmaxと、最小回転数である制御最小値Ncminとの間の範囲が、通常回転数範囲Rnとして設定される。その後、通常回転数範囲Rnを設定した後、この制御処理を終了する。
図7に示すように、この通常回転数範囲Rn内において、通常過冷却度SCnに制御している場合のラジエータ前面温度Trfは、何れも冷却上限温度Tulよりも低温になっている。ここで、通常過冷却度SCnは、各種センサ等が正常動作している場合の過冷却度SCを意味する。そして、冷却上限温度Tulは、冷却対象機器の冷却を成立させる為に必要なラジエータ前面温度Trfの上限値を意味する。
従って、この場合の冷房モードでは、圧縮機11の回転数は、通常回転数範囲Rnの範囲内において、室内蒸発器18から吹き出される送風空気が目標蒸発器温度TEOとなるように決定される。この場合の冷房運転によれば、何れの圧縮機11の回転数が決定されたとしても、ラジエータによる冷却対象機器の冷却を成立させることができる。
ステップS14においては、特定部位のエラーが発生しているか否かが判定される。ここで、特定部位とは、各種センサ類の内、エアコン熱負荷の大小を判定する際に用いられる部位である。特定部位のエラーが発生していると判定された場合、ステップS15に進む。一方、特定部位とは異なる部位のエラーが発生していると判定された場合、ステップS16に処理を移行する。
ここで、第1実施形態における特定部位は、エアコン熱負荷の判定に用いられるエアコン吹込温度Tainを算出する為のセンサ類を意味し、内気温センサ51、外気温センサ52、及び内外気切替装置33に相当する。
ステップS15においては、圧縮機回転数設定(B)の処理が実行される。この処理では、制御最大値Ncmaxよりも小さなフェールセーフ回転数Ncfと、制御最小値Ncminとの間の範囲が、フェール時回転数範囲Rfとして設定される。その後、フェール時回転数範囲Rfを設定した後、この制御処理を終了する。
ここで、第1実施形態におけるフェールセーフ回転数Ncfは、フェール時過冷却度SCfに制御している場合のラジエータ前面温度Trfと、冷却上限温度Tulに基づいて定められる。フェール時過冷却度SCfは、冷房モードを成立させる為の最低条件の過冷却度SCを意味する。
図7に示すように、フェールセーフ回転数Ncfは、フェール時過冷却度SCfに制御している場合のラジエータ前面温度Trfが冷却上限温度Tulとなった時点における圧縮機11の回転数である。
従って、この場合の冷房モードでは、圧縮機11の回転数は、フェール時回転数範囲Rfの範囲内において、室内蒸発器18から吹き出される送風空気が目標蒸発器温度TEOとなるように決定される。即ち、この場合の冷房運転では、フェール時回転数範囲Rfの範囲内であれば、何れの圧縮機11の回転数が決定されたとしても、ラジエータによる冷却対象機器の冷却を成立させることができる。
又、フェール時回転数範囲Rfは、通常回転数範囲Rnよりも狭くなるが、圧縮機11の運転を停止するものではない。つまり、この車両用空調装置1によれば、特定部位にエラーが生じた場合であっても、少なくとも或る程度の期間、冷房モードにおける空調運転を継続することができる。
ステップS16では、特定部位と異なる部位のエラーの発生に伴い、圧縮機回転数設定(C)の処理が実行される。この処理では、圧縮機11の回転数Ncを0として、圧縮機11の運転を停止する。圧縮機11の運転を停止した後、この制御処理を終了する。
従って、この場合の冷房運転では、圧縮機11の運転が停止される為、各種センサ等に深刻なエラーを抱えたままで、冷房運転が継続されることはない。これにより、車両用空調装置1は、各種空調制御機器における故障の深刻化を防止することができる。
尚、上記ステップS16では、特定部位と異なる部位のエラーが発生した場合には、圧縮機11の運転を停止するものとしていたが、この態様に限定されるものではない。
例えば、特定部位と異なる部位であって、且つ、所定の条件を満たす部位のエラーである場合に、圧縮機11の運転を停止するように構成してもよい。この場合における所定の条件としては、例えば、車両用空調装置1の深刻な故障要因となる部位であることや、空調運転に対する重要度の高い部位であることを挙げることができる。
以上説明したように、第1実施形態に係る車両用空調装置1によれば、冷凍サイクル装置10による車室内空調と、エンジン冷却水回路70、インバータ冷却水回路80による冷却対象機器(例えば、エンジンENG、インバータINV)の冷却とを実行することができる。
図2に示すように、この車両用空調装置1において、エンジンラジエータ71、インバータラジエータ81は、室外熱交換器16に対して導入される外気OAの流れに関して、室外熱交換器16よりも下流側に配置されている。従って、室外熱交換器16における放熱量(即ち、ラジエータ前面温度Trf)は、エンジンラジエータ71、インバータラジエータ81における冷却対象機器の冷却性能に影響を与える。
ここで、エアコン吹込温度Tainの算出に必要な特定部位(即ち、内気温センサ51等)にエラーが発生した場合には、エアコン吹込温度Tainの精度が低下する。このエアコン吹込温度Tainは、冷房モード時における目標過冷却度TSCの特定に用いられる為、冷房モード時における目標過冷却度TSCの精度も低下し、例えば、正常時に特定される目標過冷却度よりも小さな値となってしまう場合がある。
一方、この車両用空調装置1において、冷房モードでは、第2膨張弁15bの絞り開度を制御することで、室外熱交換器16の出口側における過冷却度SCが目標過冷却度TSCに近づくように調整される。
従って、特定部位のエラーは、室外熱交換器16の出口側に形成される過冷却域Rscaの減少を招き、室外熱交換器16の周辺温度(例えば、ラジエータ前面温度Trf)を上昇させてしまう。この結果、エンジンラジエータ71等による冷却対象機器の冷却性能の低下を招いてしまう。
この点、第1実施形態に係る車両用空調装置1は、特定部位にエラーが生じた場合に、ステップS13において、圧縮機11の回転数範囲を、通常回転数範囲Rnからフェール時回転数範囲Rfに変更する。この結果、図7に示すように、特定部位にエラーが生じた場合であっても、ラジエータ前面温度Trfを、冷却上限温度Tul以下にすることができる。
即ち、車両用空調装置1は、特定部位のエラーの発生により目標過冷却度TSCを正常に特定できなった場合であっても、或る程度の間、圧縮機11の運転を停止させることなく、エンジンラジエータ71等による冷却性能の低下を抑制することができる。換言すると、車両用空調装置1は、或る程度の間、エンジンラジエータ71等による冷却対象機器の冷却性能を維持しつつ、車室内の空調を継続することができる。
又、図2に示すように、インバータラジエータ81は、過冷却域が形成される室外熱交換器16の流出口16bに対して外気OAの下流側に配置されており、エンジンラジエータ71は、インバータラジエータ81の上方に配置されている。従って、車両用空調装置1は、エンジンENG、インバータINVのそれぞれに適した態様で、冷却性能を担保することができる。
(第2実施形態)
続いて、上述した第1実施形態とは異なる第2実施形態について、図面を参照しつつ説明する。第2実施形態に係る車両用空調装置1は、特定部位のエラーが発生している場合におけるフェール時回転数範囲Rfの設定態様を除いて、基本的に第1実施形態と同様の構成である。従って、以下の説明において、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
以下、第2実施形態に係る車両用空調装置1が第1実施形態と相違する点について、図8を参照しつつ説明する。
尚、第2実施形態に係る冷房モード時においても、空調制御装置40は、室外熱交換器16の出口側における過冷却度SCが目標過冷却度TSCに近づくように、第2膨張弁15bの絞り開度を制御する。又、圧縮機11の冷媒吐出能力の設定に関する制御処理についても、ステップS15における圧縮機回転数設定(B)の処理内容を除いて、第1実施形態と同様の処理が行われる。
上述した第1実施形態においては、ステップS15において、予め定められたフェールセーフ回転数Ncfを用いて、フェール時回転数範囲Rfを特定していた。この点、第2実施形態においては、冷却対象機器(即ち、インバータINV)の冷却負荷を示す指標であるインバータ冷却水温度TWhvに応じて、フェールセーフ回転数Ncfを特定し、フェール時回転数範囲Rfを決定する。
具体的には、ステップS15に移行すると、インバータ冷却水温度センサ82からの検出信号に基づいて、インバータ冷却水温度TWhvが特定される。そして、このインバータ冷却水温度TWhvと、図8に示す制御マップとを参照することにより、冷却対象機器の冷却負荷に応じたフェールセーフ回転数Ncfが特定される。
図8に示すように、インバータ冷却水温度TWhvが予め定められた基準冷却水温度KTaよりも低い場合、フェールセーフ回転数Ncfは、予め定められた回転数のフェールセーフ回転数Ncfaに特定される。又、インバータ冷却水温度TWhvが基準冷却水温度KTbよりも高い場合、フェールセーフ回転数Ncfは、フェールセーフ回転数Ncfaよりも少ない回転数のフェールセーフ回転数Ncfbに特定される。
そして、インバータ冷却水温度TWhvが基準冷却水温度KTaから基準冷却水温度KTbまでの範囲内である場合、フェールセーフ回転数Ncfは、インバータ冷却水温度TWhvが上昇する程、少ない回転数のフェールセーフ回転数Ncfに特定される。
このように、第2実施形態に係る車両用空調装置1では、ステップS15において、インバータ冷却水温度TWhvが示す冷却対象機器の冷却負荷に応じて、フェールセーフ回転数Ncfが特定される。そして、このフェールセーフ回転数Ncfと制御最小値Ncminに基づいて、フェール時回転数範囲Rfが特定される。
従って、第2実施形態におけるフェール時回転数範囲Rfは、冷却対象機器の冷却負荷に対応する範囲に設定される。これにより、車両用空調装置1は、特定部位のエラーの発生により目標過冷却度TSCを正常に特定できなった場合であっても、冷却対象機器の冷却性能の維持と、車室内空調の運転継続とを、冷却対象機器の冷却負荷を考慮した適切なバランスで両立できる。
以上説明したように、第2実施形態に係る車両用空調装置1は、特定部位のエラーの発生により目標過冷却度TSCを正常に特定できなった場合であっても、或る程度の間、圧縮機11の運転を停止させることなく、エンジンラジエータ71等による冷却性能の低下を抑制することができる。換言すると、車両用空調装置1は、或る程度の間、エンジンラジエータ71等による冷却対象機器の冷却性能を維持しつつ、車室内の空調を継続することができる。
この時、冷却対象機器の冷却負荷に対応するフェール時回転数範囲Rfを設定することができる為、冷却対象機器の冷却性能の維持と、車室内空調の運転継続とを、冷却対象機器の冷却負荷を考慮した適切なバランスで両立できる。
(第3実施形態)
続いて、上述した各実施形態とは異なる第3実施形態について、図面を参照しつつ説明する。第3実施形態に係る車両用空調装置1は、特定部位のエラーが発生している場合におけるフェール時回転数範囲Rfの設定態様を除いて、基本的に上述した実施形態と同様の構成である。従って、以下の説明において、上述した実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
以下、第3実施形態に係る車両用空調装置1が第1実施形態と相違する点について、図9を参照しつつ説明する。
尚、第3実施形態に係る冷房モード時においても、空調制御装置40は、室外熱交換器16の出口側における過冷却度SCが目標過冷却度TSCに近づくように、第2膨張弁15bの絞り開度を制御する。又、圧縮機11の冷媒吐出能力の設定に関する制御処理についても、ステップS15における圧縮機回転数設定(B)の処理内容を除いて、上述した各実施形態と同様の処理が行われる。
上述した第1実施形態においては、ステップS15において、予め定められたフェールセーフ回転数Ncfを用いて、フェール時回転数範囲Rfを特定しており、インバータ冷却水温度TWhvに応じて、フェールセーフ回転数Ncfを特定し、フェール時回転数範囲Rfを決定していた。
この点、第3実施形態においては、エアコン熱負荷を示す指標の一つである外気温Tamに応じて、フェールセーフ回転数Ncfを特定し、フェール時回転数範囲Rfを特定する。具体的には、ステップS15に移行すると、外気温センサ52からの検出信号に基づいて、外気温Tamが特定される。そして、この外気温Tamと、図9に示す制御マップとを参照することにより、エアコン熱負荷に応じたフェールセーフ回転数Ncfが特定される。
図9に示すように、外気温Tamが予め定められた基準外気温度KTcよりも低い場合には、フェールセーフ回転数Ncfは、予め定められた回転数のフェールセーフ回転数Ncfcに特定される。又、外気温Tamが基準外気温度KTdよりも高い場合、フェールセーフ回転数Ncfは、フェールセーフ回転数Ncfcよりも回転数が多いフェールセーフ回転数Ncfdに特定される。
そして、外気温Tamが基準外気温度KTcから基準外気温度KTdまでの範囲内である場合、フェールセーフ回転数Ncfは、外気温Tamが上昇する程、回転数が増加するように特定される。
このように、第3実施形態に係る車両用空調装置1では、ステップS15において、外気温Tamが示すエアコン熱負荷に応じて、フェールセーフ回転数Ncfが特定される。そして、このフェールセーフ回転数Ncfと制御最小値Ncminに基づいて、フェール時回転数範囲Rfが特定される。
従って、第3実施形態におけるフェール時回転数範囲Rfは、エアコン熱負荷に対応する範囲に設定される。これにより、車両用空調装置1は、特定部位のエラーの発生により目標過冷却度TSCを正常に特定できなった場合であっても、冷却対象機器の冷却性能の維持と、車室内空調の運転継続とを、エアコン熱負荷を考慮した適切なバランスで両立できる。
以上説明したように、第3実施形態に係る車両用空調装置1は、特定部位のエラーの発生により目標過冷却度TSCを正常に特定できなった場合であっても、或る程度の間、圧縮機11の運転を停止させることなく、エンジンラジエータ71等による冷却性能の低下を抑制することができる。換言すると、車両用空調装置1は、或る程度の間、エンジンラジエータ71等による冷却対象機器の冷却性能を維持しつつ、車室内の空調を継続することができる。
この時、エアコン熱負荷に対応するフェール時回転数範囲Rfを設定することができる為、冷却対象機器の冷却性能の維持と、車室内空調の運転継続とを、冷凍サイクル装置10におけるエアコン熱負荷を考慮した適切なバランスで両立できる。
(第4実施形態)
続いて、上述した各実施形態とは異なる第4実施形態について、図面を参照しつつ説明する。第4実施形態に係る車両用空調装置1は、圧縮機11の冷媒吐出能力の設定に関する制御処理の内容を除いて、基本的に上述した実施形態と同様の構成である。従って、以下の説明において、上述した実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
以下、第4実施形態に係る車両用空調装置1が第1実施形態と相違する点について、図10を参照しつつ説明する。第4実施形態に係る冷房モード時においても、空調制御装置40は、室外熱交換器16の出口側における過冷却度SCが目標過冷却度TSCに近づくように、第2膨張弁15bの絞り開度を制御する。
尚、第4実施形態に係る冷房モード時においても、空調制御装置40は、室外熱交換器16の出口側における過冷却度SCが目標過冷却度TSCに近づくように、第2膨張弁15bの絞り開度を制御する。又、圧縮機11の冷媒吐出能力の設定に関する制御処理についても、上述した各実施形態とは異なり、図10のフローチャートに示す処理が実行される。
図10に示すように、ステップS21では、先ず、運転モードが冷房モードであるか否かが判定される。現時点の運転モードが冷房モードである場合には、ステップS22に進む。一方、現時点の運転モードが冷房モード以外である場合は、そのまま、この制御処理を終了する。
ステップS22では、各種センサ等が正常動作しているか否かを判定する。ステップS22の判定は、第1実施形態のステップS12と同様に実行される。各種センサ等が正常動作していると判定した場合には、ステップS23に進む。一方、各種センサ等が正常動作していないと判定した場合、作動エラー又は通信エラーが発生しているものとして、ステップS24に進む。
ステップS23では、圧縮機回転数設定(A)の処理が実行される。このステップS23の処理では、第1実施形態におけるS13と同様の処理が行われる。従って、図7に示すように、制御最大値Ncmaxと制御最小値Ncminによって規定される通常回転数範囲Rnが、圧縮機11の回転数の制御範囲として設定される。その後、この制御処理を終了する。
ステップS24においては、特定部位のエラーが発生しているか否かが判定される。この判定処理は、第1実施形態におけるステップS14と同様に実行される。特定部位のエラーが発生していると判定された場合、ステップS25に進む。一方、特定部位と異なる部位のエラーが発生していると判定された場合、ステップS26に処理を移行する。
ステップS25では、車両制御装置90から出力される空調制御変更信号を検出したか否かが判定される。上述したように、空調制御変更信号は、エンジン冷却水回路70によるエンジンENGの冷却負荷やインバータ冷却水回路80によるインバータINVの冷却負荷が過大である場合に、車両制御装置90から出力される。そして、空調制御変更信号は、車両走行系を保護する為に、空調運転の制御内容の変更が要求される。
空調制御変更信号を検出した場合、エンジンラジエータ71等による冷却対象機器の冷却負荷が過大であると判断して、ステップS26に進む。一方、空調制御変更信号を検出していない場合、冷却対象機器の冷却負荷が過大ではないと判断して、ステップS23に進む。
ステップS26においては、圧縮機回転数設定(B)の処理が実行される。この処理では、第1実施形態におけるステップS15と同様の処理が実行される。従って、図7に示すように、フェールセーフ回転数Ncfと制御最小値Ncminによって規定されるフェール時回転数範囲Rfが、圧縮機11の回転数の制御範囲として設定される。
そして、この場合におけるフェールセーフ回転数Ncfは、図7に示すように、フェール時過冷却度SCfに制御している場合のラジエータ前面温度Trfが冷却上限温度Tulとなった時点における圧縮機11の回転数である。即ち、第4実施形態におけるフェールセーフ回転数Ncfは、予め定められた規定値である。フェール時回転数範囲Rfを設定した後、この制御処理を終了する。
ステップS27では、特定部位と異なる部位のエラーの発生に伴い、圧縮機回転数設定(C)の処理が実行される。この処理では、第1実施形態と同様に、圧縮機11の回転数Ncを0として、圧縮機11の運転を停止する。圧縮機11の運転を停止した後、この制御処理を終了する。
以上説明したように、第4実施形態に係る車両用空調装置1は、特定部位のエラーの発生により目標過冷却度TSCを正常に特定できなった場合であっても、或る程度の間、圧縮機11の運転を停止させることなく、エンジンラジエータ71等による冷却性能の低下を抑制することができる。換言すると、車両用空調装置1は、或る程度の間、エンジンラジエータ71等による冷却対象機器の冷却性能を維持しつつ、車室内の空調を継続することができる。
この時、空調制御変更信号の検出に伴い、冷却対象機器の冷却負荷に対応するフェール時回転数範囲Rfを設定することができる為、冷却対象機器の冷却性能の維持と、車室内空調の運転継続とを、冷却対象機器の冷却負荷を考慮した適切なバランスで両立できる。
(他の実施形態)
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。例えば、上述した各実施形態を適宜組み合わせても良いし、上述した実施形態を種々変形することも可能である。
(1)上述した実施形態においては、圧縮機11における冷媒吐出能力を、圧縮機11を構成する電動モータの回転数により制御する構成であったが、この態様に限定されるものではない。例えば、圧縮機11が可変容量式の圧縮機であれば、制御電流、制御電圧、Duty信号等を用いて、当該圧縮機11の冷媒吐出能力を制御してもよい。
(2)上述した第2実施形態においては、インバータ冷却水温度TWhvを用いて、インバータ冷却水回路80の冷却負荷を判定して、フェールセーフ回転数Ncf及びフェール時回転数範囲Rfを特定していたが、この態様に限定されるものではない。ラジエータにおける熱媒体の温度によって、冷却対象機器の冷却負荷を判定し、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御するものであれば、種々の変形が可能である。
例えば、エンジン冷却水回路70の冷却負荷を、エンジン冷却水温度センサ72で検出されるエンジン冷却水温度に基づいて判定して、これに応じたフェールセーフ回転数Ncfを特定する。そして、特定したフェールセーフ回転数Ncfを用いて、フェール時回転数範囲Rfを設定するように構成することも可能である。
(3)上述した第3実施形態においては、外気温Tamを用いて、エアコン熱負荷を判定して、フェールセーフ回転数Ncf及びフェール時回転数範囲Rfを特定していたが、この態様に限定されるものではない。例えば、外気温Tamの代用として、エンジンENGにおける吸気温度を用いるように構成しても良い。
又、エアコン熱負荷の大小を判定することができれば十分であり、複数種類のセンサ類を用いても良い。例えば、日射センサ53により検出される日射量Asと、外気温センサ52の外気温Tamとを用いて、エアコン熱負荷を特定し、特定したエアコン熱負荷に対応するフェールセーフ回転数Ncf及びフェール時回転数範囲Rfを設定することも可能である。
(4)上述した第4実施形態においては、圧縮機回転数設定(B)で予め定められたフェールセーフ回転数Ncfを用いてフェール時回転数範囲Rfを設定していたが、この態様に限定されるものではない。例えば、空調制御変更信号に対して、冷却対象機器の冷却負荷の大きさを示す情報が含まれている場合には、この信号に基づく冷却負荷の大きさに応じて、フェールセーフ回転数Ncfを特定して、フェール時回転数範囲Rfを設定しても良い。又、この場合においても、各種センサ等の検出値を用いて、フェールセーフ回転数Ncfを特定しても良い。
(5)又、上述の各実施形態に係る冷凍サイクル装置10は、冷房運転、暖房運転、除湿暖房運転を切り替え可能に構成されていたが、この態様に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態における各運転モードに加えて、除霜運転モードに切り替え可能に構成することも可能である。
(6)そして、上述の各実施形態における除湿暖房モードは、室外熱交換器16と室内蒸発器18が冷媒流れに対して並列的に接続される冷凍サイクルにより構成されていたが、この態様に限定されるものではない。例えば、圧縮機11→室内凝縮器12→第1膨張弁15a→室外熱交換器16→第2膨張弁15b→室内蒸発器18→蒸発圧力調整弁19→アキュムレータ20→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式の冷凍サイクルにより、除湿暖房運転を行うように構成することも可能である。この場合、室外熱交換器16と室内蒸発器18が冷媒流れに対して直列的に接続される冷凍サイクルが構成される。
更に、除湿暖房モードにおいて、室外熱交換器16と室内蒸発器18が冷媒流れに対して並列的に接続される冷凍サイクルと、室外熱交換器16と室内蒸発器18が冷媒流れに対して直列的に接続される冷凍サイクルとを、適宜切り替えるように構成することも可能である。
(7)上述の各実施形態では、空調制御プログラムを実行することによって、各運転モードを切り替えた例を説明したが、各運転モードの切り替えはこれに限定されるものではない。例えば、目標吹出温度TAOおよび外気温Tamに基づいて、予め空調制御装置40に記憶された制御マップを参照して、各運転モードを切り替えてもよい。
又、操作パネル60に各運転モードを設定する運転モード設定スイッチを設け、当該運転モード設定スイッチの操作信号に応じて、冷房モード、除湿暖房モード及び暖房モードを切り替えるようにしてもよい。