以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
(第1実施形態)
図1~図5を用いて、本開示の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本開示に係る車両用空調装置1を、電動モータから走行用の駆動力を得る電気自動車に搭載された車両用空調装置として採用している。この車両用空調装置1は、空調対象空間である車室内の空調を行うだけでなく、バッテリ80の温度を調整する機能を有している。このため、車両用空調装置1は、バッテリ温度調整機能付きの空調装置と呼ぶこともできる。
バッテリ80は、電動モータ等の車載機器へ供給される電力を蓄える二次電池である。本実施形態のバッテリ80は、リチウムイオン電池である。バッテリ80は、複数の電池セル81を積層配置し、これらの電池セル81を電気的に直列あるいは並列に接続することによって形成された、いわゆる組電池である。
この種のバッテリは、低温になると入出力に制限がかかり、高温になると出力が低下しやすい。この為、バッテリの温度は、バッテリの充放電容量を充分に活用することができる適切な温度範囲内(本実施形態では、15℃以上、かつ、55℃以下)に維持されている必要がある。
又、この種のバッテリは、バッテリの温度が高温になるほど、バッテリを構成するセルの劣化が進行しやすい。換言すると、バッテリの温度を或る程度低い温度に維持することで、バッテリの劣化の進行を抑制することができる。
そこで、車両用空調装置1では、冷凍サイクル装置10によって生成された冷熱によってバッテリ80を冷却することができるようになっている。従って、本実施形態の車両用空調装置1における冷却対象機器の一例とは、バッテリ80である。
車両用空調装置1は、図1の全体構成図に示すように、冷凍サイクル装置10、室内空調ユニット30、高温側熱媒体回路40、制御装置60等を備えている。
冷凍サイクル装置10は、車室内の空調を行うために、車室内へ送風される送風空気を冷却する機能、および高温側熱媒体回路40を循環する高温側熱媒体を加熱する機能を果たす。さらに、冷凍サイクル装置10は、冷却対象機器であるバッテリ80を冷却する機能を果たす。
冷凍サイクル装置10は、車室内の空調やバッテリ80の温度調整を行う為に、様々な運転モード用の冷媒回路を切替可能に構成されている。冷凍サイクル装置10は、例えば、冷房モードの冷媒回路、除湿暖房モードの冷媒回路、暖房モードの冷媒回路等を切替可能に構成されている。さらに、冷凍サイクル装置10は、空調用の各運転モードにおいて、バッテリ80を冷却する運転モードとバッテリ80の冷却を行わない運転モードとを切り替えることができる。
また、冷凍サイクル装置10では、冷媒としてHFO系冷媒(具体的には、R1234yf)を採用しており、圧縮機11から吐出された吐出冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されている。冷凍機油の一部は、冷媒とともにサイクルを循環している。
図1に示すように、冷凍サイクル装置10には、圧縮機11、熱媒体冷媒熱交換器12、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14c、室外熱交換器16、室内蒸発器18、冷却用熱交換部19等が接続されている。
冷凍サイクル装置10の構成機器のうち、圧縮機11は、冷凍サイクル装置10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。圧縮機11は、車室の前方に配置されて電動モータ等が収容される駆動装置室内に配置されている。
圧縮機11は、吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて回転駆動する電動圧縮機である。圧縮機11は、後述する制御装置60から出力される制御信号によって、回転数(すなわち、冷媒吐出能力)が制御される。
圧縮機11の吐出口には、熱媒体冷媒熱交換器12の冷媒通路の入口側が接続されている。熱媒体冷媒熱交換器12は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒を流通させる冷媒通路と、高温側熱媒体回路40を循環する高温側熱媒体を流通させる熱媒体通路とを有している。そして、熱媒体冷媒熱交換器12は、冷媒通路を流通する高圧冷媒と、熱媒体通路を流通する高温側熱媒体とを熱交換させて、高温側熱媒体を加熱する加熱用の熱交換器であり、凝縮器の一例に相当する。
熱媒体冷媒熱交換器12の冷媒通路の出口には、互いに連通する3つの流入出口を有する第1三方継手13aの流入口側が接続されている。このような三方継手としては、複数の配管を接合して形成されたものや、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けることによって形成されたものを採用することができる。
さらに、冷凍サイクル装置10は、後述するように、第2三方継手13b~第6三方継手13fを備えている。これらの第2三方継手13b~第6三方継手13fの基本的構成は、第1三方継手13aと同様である。
第1三方継手13aの一方の流出口には、暖房用膨張弁14aの入口側が接続されている。第1三方継手13aの他方の流出口には、バイパス通路22aを介して、第2三方継手13bの一方の流入口側が接続されている。バイパス通路22aには、除湿用開閉弁15aが配置されている。
除湿用開閉弁15aは、第1三方継手13aの他方の流出口側と第2三方継手13bの一方の流入口側とを接続する冷媒通路を開閉する電磁弁である。さらに、冷凍サイクル装置10は、後述するように、暖房用開閉弁15bを備えている。暖房用開閉弁15bの基本的構成は、除湿用開閉弁15aと同様である。
除湿用開閉弁15aおよび暖房用開閉弁15bは、冷媒通路を開閉することで、各運転モードの冷媒回路を切り替えることができる。従って、除湿用開閉弁15aおよび暖房用開閉弁15bは、サイクルの冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部である。除湿用開閉弁15aおよび暖房用開閉弁15bは、制御装置60から出力される制御電圧によって、その作動が制御される。
暖房用膨張弁14aは、少なくとも車室内の暖房を行う運転モード時に、熱媒体冷媒熱交換器12の冷媒通路から流出した高圧冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量(質量流量)を調整する暖房用減圧部である。暖房用膨張弁14aは、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の開度を変化させる電動アクチュエータとを有して構成される電気式の可変絞り機構である。
さらに、冷凍サイクル装置10は、後述するように、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cを備えている。冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cの基本的構成は、暖房用膨張弁14aと同様である。
暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cは、全開機能および全閉機能をそれぞれ有している。全開機能は、弁開度を全開にすることで流量調整作用および冷媒減圧作用を殆ど発揮することなく単なる冷媒通路として機能させる。全閉機能は、弁開度を全閉にすることで冷媒通路を閉塞させる機能である。そして、この全開機能および全閉機能によって、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cは、各運転モードの冷媒回路を切り替えることができる。
従って、本実施形態の暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cは、冷媒回路切替部としての機能も兼ね備えている。暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cは、制御装置60から出力される制御信号(制御パルス)によって、その作動が制御される。
暖房用膨張弁14aの出口には、室外熱交換器16の冷媒入口側が接続されている。室外熱交換器16は、暖房用膨張弁14aから流出した冷媒と図示しない冷却ファンにより送風された外気とを熱交換させる熱交換器であり、室外熱交換部の一例に相当する。室外熱交換器16は、駆動装置室内の前方側に配置されている。このため、車両走行時には、室外熱交換器16に走行風を当てることができる。
室外熱交換器16の冷媒出口には、第3三方継手13cの流入口側が接続されている。第3三方継手13cの一方の流出口には、暖房用迂回通路22bを介して、第4三方継手13dの一方の流入口側が接続されている。暖房用迂回通路22bには、この冷媒通路を開閉する暖房用開閉弁15bが配置されている。暖房用迂回通路22bは迂回通路の一例に相当し、暖房用開閉弁15bは切替弁の一例に相当する。
第3三方継手13cの他方の流出口には、第2三方継手13bの他方の流入口側が接続されている。第3三方継手13cの他方の流出口側と第2三方継手13bの他方の流入口側とを接続する冷媒通路には、第1逆止弁17aが配置されている。第1逆止弁17aは、第3三方継手13c側から第2三方継手13b側へ冷媒が流れることを許容し、第2三方継手13b側から第3三方継手13c側へ冷媒が流れることを禁止する。
第2三方継手13bの流出口には、第5三方継手13eの流入口側が接続されている。第5三方継手13eの一方の流出口には、冷房用膨張弁14bの入口側が接続されている。第5三方継手13eの他方の流出口には、冷却用膨張弁14cの入口側が接続されている。
冷房用膨張弁14bは、少なくとも車室内の冷房を行う運転モード時に、室外熱交換器16から流出した冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する冷房用減圧部である。従って、冷房用膨張弁14bは、冷房用減圧部の一例に相当する。
冷房用膨張弁14bの出口には、室内蒸発器18の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器18は、後述する室内空調ユニット30の空調ケース31内に配置されている。室内蒸発器18は、冷房用膨張弁14bにて減圧された低圧冷媒と送風機32から送風された送風空気とを熱交換させて低圧冷媒を蒸発させ、低圧冷媒に吸熱作用を発揮させることによって送風空気を冷却する冷却用熱交換器である。即ち、室内蒸発器18は、空調用蒸発部の一例に相当する。
そして、室内蒸発器18の冷媒出口には、蒸発圧力調整弁20を介して、第6三方継手13fの一方の流入口側が接続されている。蒸発圧力調整弁20は、室内蒸発器18の着霜を抑制するために、室内蒸発器18における冷媒蒸発圧力を、予め定めた基準圧力以上に維持する機能を果たす。蒸発圧力調整弁20は、室内蒸発器18の出口側冷媒の圧力の上昇に伴って、弁開度を増加させる機械式の可変絞り機構で構成されている。これにより、蒸発圧力調整弁20は、室内蒸発器18における冷媒蒸発温度を、室内蒸発器18の着霜を抑制可能な着霜抑制温度(本実施形態では、1℃)以上に維持している。
冷却用膨張弁14cは、少なくともバッテリ80の冷却を行う運転モード時に、室外熱交換器16から流出した冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する冷却用減圧部である。
冷却用膨張弁14cの出口には、冷却用熱交換部19の冷媒通路の入口側が接続されている。冷却用熱交換部19は、バッテリ80を形成する複数の電池セル81に接触するように配置された金属製の複数の冷媒流路を有している。そして、冷却用熱交換部19は、冷媒流路を流通する低圧冷媒と電池セル81とを熱交換させることによって、バッテリ80を冷却する熱交換部であり、冷却用蒸発部の一例に相当する。
このような冷却用熱交換部19は、積層配置された電池セル81同士の間に冷媒流路を配置することによって形成すればよい。又、冷却用熱交換部19は、バッテリ80に一体的に形成されていてもよい。例えば、積層配置された電池セル81を収容する専用ケースに冷媒流路を設けることによって、バッテリ80に一体的に形成されていてもよい。
冷却用熱交換部19の出口には、第2逆止弁17bを介して、第6三方継手13fの他方の流入口側が接続されている。第2逆止弁17bは、冷却用熱交換部19の出口側から第6三方継手13fの他方の流入口側へ冷媒が流れることを許容し、第6三方継手13f側から冷却用熱交換部19の出口側へ冷媒が流れることを禁止する。
第6三方継手13fの流出口には、第4三方継手13dの他方の流入口側が接続されている。第4三方継手13dの流出口には、アキュムレータ21の入口側が接続されている。アキュムレータ21は、内部に流入した冷媒の気液を分離して、サイクル内の余剰液相冷媒を蓄える気液分離器である。アキュムレータ21の気相冷媒出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。
以上の説明から明らかなように、本実施形態の第5三方継手13eは、室外熱交換器16から流出した冷媒の流れを分岐する分岐部として機能する。また、第6三方継手13fは、室内蒸発器18から流出した冷媒の流れと冷却用熱交換部19から流出した冷媒の流れとを合流させて、圧縮機11の吸入側へ流出させる合流部である。
そして、室内蒸発器18および冷却用熱交換部19は、冷媒流れに対して互いに並列的に接続されている。さらに、バイパス通路22aは、熱媒体冷媒熱交換器12の冷媒通路から流出した冷媒を、分岐部の上流側へ導いている。暖房用迂回通路22bは、室外熱交換器16から流出した冷媒を、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14c、室内蒸発器18及び冷却用熱交換部19を迂回させて、圧縮機11の吸入口側へ導いている。
次に、車両用空調装置1における高温側熱媒体回路40について説明する。高温側熱媒体回路40は、高温側熱媒体を循環させる熱媒体循環回路である。高温側熱媒体としては、エチレングリコール、ジメチルポリシロキサン、あるいはナノ流体等を含む溶液、不凍液等を採用することができる。高温側熱媒体回路40には、熱媒体冷媒熱交換器12の熱媒体通路、高温側熱媒体ポンプ41、ヒータコア42等が配置されている。
高温側熱媒体ポンプ41は、高温側熱媒体を熱媒体冷媒熱交換器12の熱媒体通路の入口側へ圧送する水ポンプである。高温側熱媒体ポンプ41は、制御装置60から出力される制御電圧によって、回転数(すなわち、圧送能力)が制御される電動ポンプである。
熱媒体冷媒熱交換器12の熱媒体通路の出口には、ヒータコア42の熱媒体入口側が接続されている。ヒータコア42は、熱媒体冷媒熱交換器12にて加熱された高温側熱媒体と室内蒸発器18を通過した送風空気とを熱交換させて、送風空気を加熱する熱交換器である。ヒータコア42は、室内空調ユニット30の空調ケース31内に配置されている。ヒータコア42の熱媒体出口には、高温側熱媒体ポンプ41の吸入口側が接続されている。
従って、高温側熱媒体回路40では、高温側熱媒体ポンプ41がヒータコア42へ流入する高温側熱媒体の流量を調整することで、ヒータコア42における高温側熱媒体の送風空気への放熱量(即ち、ヒータコア42における送風空気の加熱量)を調整できる。
つまり、本実施形態では、熱媒体冷媒熱交換器12および高温側熱媒体回路40の各構成機器によって、圧縮機11から吐出された冷媒を熱源として、送風空気を加熱する加熱部25が構成されている。
次に、車両用空調装置1の室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、冷凍サイクル装置10によって温度調整された送風空気を車室内へ吹き出すためのものである。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されている。
室内空調ユニット30は、図1に示すように、その外殻を形成する空調ケース31内に形成された空気通路の内部に送風機32、室内蒸発器18、ヒータコア42等を収容している。
空調ケース31は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成している。空調ケース31は、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。
空調ケース31の送風空気流れ最上流側には、内外気切替装置33が配置されている。内外気切替装置33は、空調ケース31内へ内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する。
内外気切替装置33は、空調ケース31内へ内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の導入風量と外気の導入風量との導入割合を変化させる。内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、制御装置60から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
内外気切替装置33の送風空気流れ下流側には、送風機32が配置されている。送風機32は、内外気切替装置33を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する。送風機32は、遠心多翼ファンを電動モータにて駆動する電動送風機である。送風機32は、制御装置60から出力される制御電圧によって、回転数(即ち、送風能力)が制御される。
送風機32の送風空気流れ下流側には、室内蒸発器18、ヒータコア42が、送風空気流れに対して、この順に配置されている。つまり、室内蒸発器18は、ヒータコア42よりも、送風空気流れ上流側に配置されている。
空調ケース31内には、室内蒸発器18通過後の送風空気を、ヒータコア42を迂回して流す冷風バイパス通路35が設けられている。空調ケース31内の室内蒸発器18の送風空気流れ下流側であって、かつ、ヒータコア42の送風空気流れ上流側には、エアミックスドア34が配置されている。
エアミックスドア34は、室内蒸発器18通過後の送風空気のうち、ヒータコア42側を通過する送風空気の風量と冷風バイパス通路35を通過させる送風空気の風量との風量割合を調整する風量割合調整部である。エアミックスドア34は、エアミックスドア用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、制御装置60から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
空調ケース31内のヒータコア42及び冷風バイパス通路35の送風空気流れ下流側には、混合空間が配置されている。混合空間は、ヒータコア42にて加熱された送風空気と冷風バイパス通路35を通過して加熱されていない送風空気とを混合させる空間である。
さらに、空調ケース31の送風空気流れ下流部には、混合空間にて混合された送風空気(即ち、空調風)を、空調対象空間である車室内へ吹き出すための開口穴が配置されている。
この開口穴としては、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴(いずれも図示せず)が設けられている。フェイス開口穴は、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。フット開口穴は、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。デフロスタ開口穴は、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。
これらのフェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口(いずれも図示せず)に接続されている。
従って、エアミックスドア34が、ヒータコア42を通過させる風量と冷風バイパス通路35を通過させる風量との風量割合を調整することによって、混合空間にて混合される空調風の温度が調整される。そして、各吹出口から車室内へ吹き出される送風空気(空調風)の温度が調整される。
また、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴の送風空気流れ上流側には、それぞれ、フェイスドア、フットドア、およびデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。フェイスドアは、フェイス開口穴の開口面積を調整する。フットドアは、フット開口穴の開口面積を調整する。デフロスタドアは、デフロスタ開口穴の開口面積を調整する。
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替装置を構成する。これらのドアは、リンク機構等を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータに連結されて連動して回転操作される。この電動アクチュエータも、制御装置60から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
吹出口モード切替装置によって切り替えられる吹出口モードとしては、具体的に、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード等がある。
フェイスモードは、フェイス吹出口を全開としてフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。バイレベルモードは、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。フットモードは、フット吹出口を全開とするとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出す吹出口モードである。
さらに、乗員が操作パネル70に設けられた吹出モード切替スイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタモードに切り替えることもできる。デフロスタモードは、デフロスタ吹出口を全開としてデフロスタ吹出口からフロント窓ガラス内面に空気を吹き出す吹出口モードである。
次に、車両用空調装置1の制御系の概要について説明する。制御装置60は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。そして、制御装置60は、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、各種制御対象機器の作動を制御する。制御装置60は制御部の一例に相当する。
制御装置60の出力側には、各種制御対象機器が接続されている。各種制御対象機器には、圧縮機11、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14c、除湿用開閉弁15a、暖房用開閉弁15b、送風機32、高温側熱媒体ポンプ41等が含まれる。
図2のブロック図に示すように、制御装置60の入力側には、各種センサ群が接続されている。そして、制御装置60には、これらのセンサ群の検出信号が入力される。センサ群には、内気温センサ61、外気温センサ62、日射センサ63、第1冷媒温度センサ64a~第6冷媒温度センサ64f、蒸発器温度センサ64gが含まれている。更に、センサ群には、第1冷媒圧力センサ65a、第2冷媒圧力センサ65b、高温側熱媒体温度センサ66a、バッテリ温度センサ68、空調風温度センサ69等が含まれている。
内気温センサ61は、車室内温度(内気温)Trを検出する内気温検出部である。外気温センサ62は、車室外温度(外気温)Tamを検出する外気温検出部である。日射センサ63は、車室内へ照射される日射量Tsを検出する日射量検出部である。
第1冷媒温度センサ64aは、圧縮機11から吐出された冷媒の温度T1を検出する吐出冷媒温度検出部である。第2冷媒温度センサ64bは、熱媒体冷媒熱交換器12の冷媒通路から流出した冷媒の温度T2を検出する第2冷媒温度検出部である。第3冷媒温度センサ64cは、室外熱交換器16から流出した冷媒の温度T3を検出する第3冷媒温度検出部である。
第4冷媒温度センサ64dは、室内蒸発器18から流出した冷媒の温度T4を検出する第4冷媒温度検出部である。第5冷媒温度センサ64eは、冷却用熱交換部19の冷媒入口側における冷媒の温度T5を検出する第5冷媒温度検出部である。第6冷媒温度センサ64fは、冷却用熱交換部19から流出した冷媒の温度T6を検出する第6冷媒温度検出部である。
蒸発器温度センサ64gは、室内蒸発器18における冷媒蒸発温度(蒸発器温度)Tefinを検出する蒸発器温度検出部である。本実施形態の蒸発器温度センサ64gでは、具体的に、室内蒸発器18の熱交換フィン温度を検出している。ここで、蒸発器温度Tefinは、室内蒸発器18を流通する冷媒の温度に相関を有する物理量である。
第1冷媒圧力センサ65aは、熱媒体冷媒熱交換器12の冷媒通路から流出した冷媒の圧力P1を検出する第1冷媒圧力検出部である。第2冷媒圧力センサ65bは、冷却用熱交換部19から流出した冷媒の圧力P2を検出する第2冷媒圧力検出部である。高温側熱媒体温度センサ66aは、熱媒体冷媒熱交換器12の熱媒体通路から流出した高温側熱媒体の温度である高温側熱媒体温度TWHを検出する高温側熱媒体温度検出部である。
バッテリ温度センサ68は、バッテリ温度TB(即ち、バッテリ80の温度)を検出するバッテリ温度検出部である。本実施形態のバッテリ温度センサ68は、複数の温度センサを有しており、バッテリ80の複数の箇所の温度を検出している。このため、制御装置60では、バッテリ80の各部の温度差を検出することもできる。さらに、バッテリ温度TBとしては、複数の温度センサの検出値の平均値を採用している。空調風温度センサ69は、混合空間から車室内へ送風される送風空気温度TAVを検出する空調風温度検出部である。
さらに、制御装置60の入力側には、図2に示すように、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル70が接続されている。従って、制御装置60には、操作パネル70に設けられた各種操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネル70に設けられた各種操作スイッチとしては、具体的に、オートスイッチ、エアコンスイッチ、風量設定スイッチ、温度設定スイッチ、吹出モード切替スイッチ等がある。
オートスイッチは、車両用空調装置の自動制御運転を設定あるいは解除する際に操作される。エアコンスイッチは、室内蒸発器18で送風空気の冷却を行うことを要求する際に操作される。風量設定スイッチは、送風機32の風量をマニュアル設定する際に操作される。温度設定スイッチは、車室内の目標温度Tsetを設定する際に操作される。吹出モード切替スイッチは、吹出モードをマニュアル設定する際に操作される。
なお、本実施形態の制御装置60は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御部が一体に構成されたものである。制御装置60において、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御部を構成している。
例えば、制御装置60のうち、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cの作動を制御する構成は、減圧制御部60aを構成している。従って、減圧制御部60aは、各運転モードに応じた態様となるように、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14bおよび冷却用膨張弁14cの絞り開度を制御している。
又、制御装置60のうち、運転モードに従った冷媒回路にする為に、除湿用開閉弁15a、暖房用開閉弁15b等を制御する構成は、切替制御部60bを構成する。そして、制御装置60のうち、運転モードに応じて圧縮機11の冷媒吐出能力を制御する構成は、圧縮機制御部60cを構成する。
そして、制御装置60のうち、冷凍サイクルの低圧冷媒の圧力である低圧圧力を特定する構成は、低圧圧力特定部60dを構成する。低圧圧力特定部60dは、第2冷媒圧力センサ65bで検出される冷却用熱交換部19の出口側の冷媒圧力を用いて、低圧圧力を特定する。
又、制御装置60のうち、冷凍サイクルの高圧冷媒の圧力である高圧圧力を特定する構成は、高圧圧力特定部60eを構成する。高圧圧力特定部は、第1冷媒圧力センサ65aで検出される熱媒体冷媒熱交換器12の冷媒出口側の冷媒圧力を用いて、高圧圧力を特定する。
そして、制御装置60のうち、室外熱交換器16の出口側における冷媒の過冷却度を特定する構成は、過冷却度特定部60fを構成する。
制御装置60のうち、冷却用熱交換部19の出口側における冷媒の温度である出口側温度を特定する構成は、出口側温度特定部60gを構成する。出口側温度特定部60gは、第6冷媒温度センサ64fで検出される第6冷媒温度T6や、第2冷媒圧力センサ65bで検出される冷媒圧力を用いて、出口側温度を特定する。
そして、制御装置60のうち、冷却用熱交換部19の出口側における冷媒の過熱度を特定する構成は、過熱度特定部60hを構成する。
次に、上記構成における本実施形態の作動について説明する。前述の如く、本実施形態の車両用空調装置1は、車室内の空調を行うだけでなく、バッテリ80の温度を調整する機能を有している。
この為、冷凍サイクル装置10の運転モードは、車室内の空調に関する空調モードと、バッテリ80の温度調整の有無に関する冷却モードの組み合わせにより構成される。具体的に、本実施形態に係る冷凍サイクル装置10では、冷媒回路を切り替えて、以下の11種類の運転モードでの運転を行うことができる。
(1)冷房モード:冷房モードは、バッテリ80の冷却を行うことなく、送風空気を冷却して車室内へ吹き出すことによって車室内の冷房を行う運転モードである。
(2)直列除湿暖房モード:直列除湿暖房モードは、バッテリ80の冷却を行うことなく、冷却されて除湿された送風空気を再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。
(3)並列除湿暖房モード:並列除湿暖房モードは、バッテリ80の冷却を行うことなく、冷却されて除湿された送風空気を直列除湿暖房モードよりも高い加熱能力で再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。
(4)暖房モード:暖房モードは、バッテリ80の冷却を行うことなく、送風空気を加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。
(5)冷房冷却モード:冷房冷却モードは、バッテリ80の冷却と並行して、送風空気を冷却して車室内へ吹き出すことによって車室内の冷房を行う運転モードである。
(6)直列除湿暖房冷却モード:直列除湿暖房冷却モードは、バッテリ80の冷却と並行して、冷却されて除湿された送風空気を再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。
(7)並列除湿暖房冷却モード:並列除湿暖房冷却モードは、バッテリ80の冷却と並行して、冷却されて除湿された送風空気を直列除湿暖房冷却モードよりも高い加熱能力で再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。
(8)暖房冷却モード:暖房冷却モードは、バッテリ80の冷却と並行して、送風空気を加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。
(9)暖房直列冷却モード:暖房直列冷却モードは、バッテリ80の冷却と並行して、送風空気を暖房冷却モードよりも高い加熱能力で加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。
(10)暖房並列冷却モード:暖房並列冷却モードは、バッテリ80の冷却と並行して、送風空気を暖房直列冷却モードよりも高い加熱能力で加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。
(11)冷却単独モード:冷却単独モードは、車室内の空調を行うことなく、バッテリ80の冷却を行う運転モードである。
これらの運転モードの切り替えは、空調制御プログラムが実行されることによって行われる。空調制御プログラムは、乗員の操作によって操作パネル70のオートスイッチが投入(ON)されて、車室内の自動制御が設定された際に実行される。
空調制御プログラムのメインルーチンでは、上述の空調制御用のセンサ群の検出信号および各種空調操作スイッチからの操作信号を読み込む。そして、読み込んだ検出信号および操作信号の値に基づいて、車室内へ吹き出す吹出空気の目標温度である目標吹出温度TAOを算出する。
具体的には、目標吹出温度TAOは、以下数式F1によって算出される。
TAO=Kset×Tset-Kr×Tr-Kam×Tam-Ks×Ts+C…(F1)
なお、Tsetは温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度である。Trは内気センサによって検出された車室内温度である。Tamは外気センサによって検出された車室外温度である。Tsは日射センサによって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
操作パネル70のエアコンスイッチが投入された状態で、目標吹出温度TAOが冷房用基準温度α1以下になっている場合には、空調モードが冷房モードに決定される。冷房用基準温度α1は、外気温Tamに基づいて、予め制御装置60に記憶された制御マップを参照して決定される。本実施形態では、外気温Tamの低下に伴って、冷房用基準温度α1が低い値となるように決定される。
また、操作パネル70のエアコンスイッチが投入された状態で、目標吹出温度TAOが冷房用基準温度α1以上になっており、かつ、目標吹出温度TAOが除湿用基準温度β1以下である場合は、空調モードが直列除湿暖房モードに決定される。
除湿用基準温度β1は、外気温Tamに基づいて、予め制御装置60に記憶された制御マップを参照して決定される。除湿用基準温度β1は、冷房用基準温度α1と同様に、外気温Tamの低下に伴って低い値となるように決定される。さらに、除湿用基準温度β1は、冷房用基準温度α1よりも高い値に決定される。
また、操作パネル70のエアコンスイッチが投入された状態で、目標吹出温度TAOが冷房用基準温度α1以上になっており、かつ、目標吹出温度TAOが除湿用基準温度β1よりも高くなっている場合には、空調モードが並列除湿暖房モードに決定される。
そして、エアコンスイッチの冷房スイッチが投入されていない場合や、操作パネル70のエアコンスイッチが投入された状態で目標吹出温度TAOが暖房用基準温度γ以上である場合には、空調モードが暖房モードに決定される。
暖房用基準温度γは、外気温Tamに基づいて、予め制御装置60に記憶された制御マップを参照して決定される。本実施形態では、外気温Tamの低下に伴って、暖房用基準温度γが低い値となるように決定される。暖房用基準温度γは、ヒータコア42にて送風空気を加熱することが、空調対象空間の暖房を行うために有効となるように設定されている。
このため、本実施形態における運転モードの空調モードとして、冷房モードは、主に夏季のように比較的外気温が高い場合に実行される。直列除湿暖房モードは、主に春季あるいは秋季に実行される。並列除湿暖房モードは、主に早春季あるいは晩秋季のように直列除湿暖房モードよりも高い加熱能力で送風空気を加熱する必要のある場合に実行される。暖房モードは、主に冬季の低外気温時に実行される。
そして、冷却モードが有効であるか否かは、バッテリ温度センサ68によって検出されたバッテリ温度TBが予め定めた基準冷却温度KTB(本実施形態では、35℃)以上であるか否かに対応して決定される。
バッテリ温度TBが基準冷却温度KTB以上である場合、冷却モードは、バッテリ80の冷却を実行するように定められる。例えば、空調モードが有効でない場合には、冷却単独モードに決定され、空調モードが冷房モードである場合は、冷房冷却モードに決定される。バッテリ温度TBが基準冷却温度KTBより低い場合には、バッテリ80の冷却を実行することなく、運転モードが空調モードに従って定められる。
次に、運転モードが冷房モードである場合の各構成機器の動作について説明する。尚、以下の説明にて各運転モードで参照される制御マップは、予め運転モード毎に制御装置60に記憶されたものである。各運転モードの対応する制御マップ同士は、互いに同等の場合もあるし、互いに異なる場合もある。
冷房モードでは、制御装置60は、先ず、目標蒸発器温度TEOを決定する。目標蒸発器温度TEOは、目標吹出温度TAOに基づいて、制御装置60に記憶された制御マップを参照して決定される。本実施形態の制御マップでは、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、目標蒸発器温度TEOが上昇するように決定される。目標蒸発器温度TEOは、室内蒸発器18が目標空調用冷却能力を発揮する場合の蒸発器温度Tefinを示している。
又、制御装置60は、室外熱交換器16から流出した冷媒の目標過冷却度SCO1を決定する。目標過冷却度SCO1は、例えば、外気温Tamに基づいて、制御マップを参照して決定される。本実施形態の制御マップでは、サイクルの成績係数(COP)が極大値に近づくように、目標過冷却度SCO1を決定する。
そして、制御装置60は、冷房モードを実現する為に、各制御対象機器の制御状態を決定する。圧縮機11の回転数の増減量ΔIVOは、目標蒸発器温度TEOと蒸発器温度Tefinとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、蒸発器温度Tefinが目標蒸発器温度TEOに近づくように決定される。即ち、圧縮機11の冷媒吐出能力は、蒸発器温度センサ64gで検出される蒸発器温度Tefinが目標蒸発器温度TEOに近づく為に必要な冷媒流量となるように決定される。
又、冷房用膨張弁14bの絞り開度の増減量ΔEVCは、目標過冷却度SCO1と室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1との偏差に基づいて、フィードバック制御手法により決定される。この時、増減量ΔEVCは、室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1が目標過冷却度SCO1に近づくように決定される。室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1は、第3冷媒温度センサ64cによって検出された温度T3や第1冷媒圧力センサ65aによって検出された圧力P1に基づいて算出される。
そして、制御装置60は、冷凍サイクル装置10を冷房モードの冷媒回路に切り替えるために、暖房用膨張弁14aを全開状態とし、冷房用膨張弁14bを冷媒減圧作用を発揮する絞り状態とし、冷却用膨張弁14cを全閉状態とする。更に、制御装置60は、除湿用開閉弁15aを閉じ、暖房用開閉弁15bを閉じる。更に、制御装置60は、冷房モードに関して定められた制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号あるいは制御電圧を出力する。
この結果、冷房モードの冷凍サイクル装置10では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。この場合の冷媒は、圧縮機11、熱媒体冷媒熱交換器12、室外熱交換器16、第1逆止弁17a、冷房用膨張弁14b、室内蒸発器18、蒸発圧力調整弁20、アキュムレータ21、圧縮機11の順に流れて循環する。
つまり、冷房モードの冷凍サイクル装置10では、熱媒体冷媒熱交換器12及び室外熱交換器16が圧縮機11から吐出された冷媒を放熱させる放熱器として機能する。そして、冷房用膨張弁14bが冷媒を減圧させる減圧部として機能し、室内蒸発器18が吸熱器として機能する。
これによれば、室内蒸発器18にて、送風空気を冷却することができるとともに、熱媒体冷媒熱交換器12にて、高温側熱媒体を加熱することができる。
従って、冷房モードの車両用空調装置1では、エアミックスドア34の開度調整によって、室内蒸発器18にて冷却された送風空気の一部をヒータコア42にて再加熱することができる。つまり、目標吹出温度TAOに近づくように温度調整された送風空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の冷房を行うことができる。
続いて、運転モードが冷房冷却モードの場合の各構成機器の動作について説明する。冷房冷却モードでは、制御装置60は、冷房モードと同様に、目標蒸発器温度TEO、目標過冷却度SCO1、エアミックスドア34の開度SWを決定する。
冷房冷却モードにおける圧縮機11の回転数の増減量ΔIVOを決定する際に、制御装置60は、冷凍サイクル装置10を循環する冷媒流量の基準となる合計冷媒流量を決定する。合計冷媒流量は、室内蒸発器18における目標空調用冷却能力を発揮させる為に必要な冷媒流量と、冷却用熱交換部19における目標冷却用冷却能力がバッテリ80を適切に冷却する為に必要な冷媒流量との合計値により定められる。
ここで、目標空調冷却能力とは、空調対象空間の温度がユーザの設定温度に近づくように決定された冷却能力を意味する。従って、室内蒸発器18に目標空調用冷却能力を発揮させる為に必要な冷媒流量は、目標蒸発器温度TEOと蒸発器温度Tefinとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、蒸発器温度Tefinが目標蒸発器温度TEOに近づくように決定される。
又、目標冷却用冷却能力とは、冷却対象物の温度を所定時間内に予め定められた温度に低下させることができる冷却能力を意味する。従って、冷却用熱交換部19における目標冷却用冷却能力の最小値は、冷却対象物であるバッテリ80の発熱量に相当する冷却能力となり、多くの場合、この最小値を上回るように決定される。
具体的には、冷房冷却モードにおける目標冷却用冷却能力は、上述した最小値以上の冷却能力であって、サイクルの効率を不必要に低下させることのない範囲で決定される。つまり、目標冷却用冷却能力を発揮させる為に必要な冷媒流量は、バッテリ80を不必要に急冷することなく、サイクルの効率を不必要に低下させることのない範囲で決定される。
そして、圧縮機11の回転数の増減量ΔIVOは、目標空調用冷却能力及び目標冷却用冷却能力を発揮させる為に必要な合計冷媒流量を基準として、合計冷媒流量よりも多くなるように決定される。
又、冷房用膨張弁14bの絞り開度の増減量ΔEVCは、冷房モードと同様に、目標過冷却度SCO1と室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1との偏差に基づいて、フィードバック制御手法により決定される。この時、増減量ΔEVCは、室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1が目標過冷却度SCO1に近づくように決定される。
又、冷房冷却モードにおける冷却用膨張弁14cの絞り開度の増減量ΔEVBは、目標蒸発器温度TEOと蒸発器温度Tefinとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、蒸発器温度Tefinが目標蒸発器温度TEOに近づくように決定される。つまり、蒸発器温度Tefinが目標蒸発器温度TEOよりも低い場合には、冷却用膨張弁14cの絞り開度は更に大きくなるように決定される。又、蒸発器温度Tefinが目標蒸発器温度TEOよりも高い場合には、冷却用膨張弁14cの絞り開度は更に小さくなるように決定される。
そして、制御装置60は、冷凍サイクル装置10を冷房冷却モードの冷媒回路に切り替えるために、暖房用膨張弁14aを全開状態とし、冷房用膨張弁14b及び冷却用膨張弁14cを絞り状態とする。更に、制御装置60は、除湿用開閉弁15aを閉じると共に、暖房用開閉弁15bを閉じる。そして、制御装置60は、冷房冷却モードに関して定められた制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号或いは制御電圧を出力する。
この結果、冷房冷却モードの冷凍サイクル装置10では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。この場合の冷媒は、圧縮機11、熱媒体冷媒熱交換器12、室外熱交換器16、第1逆止弁17a、冷房用膨張弁14b、室内蒸発器18、蒸発圧力調整弁20、アキュムレータ21、圧縮機11の順に流れて循環する。同時に、冷媒は、圧縮機11、熱媒体冷媒熱交換器12、室外熱交換器16、第1逆止弁17a、冷却用膨張弁14c、冷却用熱交換部19、第2逆止弁17b、アキュムレータ21、圧縮機11の順に流れて循環する。
つまり、冷房冷却モードの冷凍サイクル装置10では、熱媒体冷媒熱交換器12及び室外熱交換器16が圧縮機11から吐出された冷媒を放熱させる放熱器として機能し、室内蒸発器18が吸熱器として機能する。そして、冷房用膨張弁14bおよび室内蒸発器18に対して並列的に接続された冷却用膨張弁14cが減圧部として機能し、冷却用熱交換部19が吸熱器として機能する。
これによれば、室内蒸発器18にて送風空気を冷却することができるとともに、熱媒体冷媒熱交換器12にて、高温側熱媒体を加熱することができる。さらに、冷却用熱交換部19にてバッテリ80を冷却することができる。
従って、冷房冷却モードの車両用空調装置1では、エアミックスドア34の開度調整によって、室内蒸発器18にて冷却された送風空気の一部をヒータコア42にて再加熱することができる。即ち、目標吹出温度TAOに近づくように温度調整された送風空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の冷房を行うことができる。更に、冷却用熱交換部19に対して低圧冷媒を流入させることで、バッテリ80の冷却を行うことができる。
次に、運転モードが冷却単独モードの場合の各構成機器の動作について説明する。冷却単独モードでは、制御装置60は、冷房モード及び冷房冷却モードと同様に、目標過冷却度SCO1等、各構成機器の状態を決定する。
そして、制御装置60は、冷凍サイクル装置10を冷却単独モードの冷媒回路に切り替えるために、暖房用膨張弁14aを全開状態とし、冷房用膨張弁14bを全閉状態にすると共に、冷却用膨張弁14cを絞り状態とする。更に、制御装置60は、除湿用開閉弁15aを閉じると共に、暖房用開閉弁15bを閉じる。そして、制御装置60は、冷却単独モードに関して定められた制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号或いは制御電圧を出力する。
この結果、冷却単独モードの冷凍サイクル装置10では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。この場合の冷媒は、圧縮機11、熱媒体冷媒熱交換器12、室外熱交換器16、第1逆止弁17a、冷却用膨張弁14c、冷却用熱交換部19、第2逆止弁17b、アキュムレータ21、圧縮機11の順に流れて循環する。
つまり、冷却単独モードの冷凍サイクル装置10では、熱媒体冷媒熱交換器12及び室外熱交換器16が圧縮機11から吐出された冷媒を放熱させる放熱器として機能し、冷却用膨張弁14cが減圧部として機能する。そして、冷却用熱交換部19が吸熱器として機能する。これによれば、車両用空調装置1は、冷却用熱交換部19に対して低圧冷媒を流入させることで、バッテリ80を冷却することができる。
尚、車両用空調装置1の制御装置60は、加熱部を構成する高温側熱媒体回路40の高温側熱媒体ポンプ41の作動も制御している。具体的には、制御装置60は、上述した冷凍サイクル装置10の運転モードによらず、予め定めた各運転モードの基準圧送能力を発揮するように、高温側熱媒体ポンプ41の作動を制御する。
従って、高温側熱媒体回路40では、熱媒体冷媒熱交換器12の熱媒体通路にて、高温側熱媒体が加熱されると、加熱された高温側熱媒体がヒータコア42へ圧送される。ヒータコア42へ流入した高温側熱媒体は、送風空気と熱交換する。これにより、送風空気が加熱される。ヒータコア42から流出した高温側熱媒体は、高温側熱媒体ポンプ41に吸入され、熱媒体冷媒熱交換器12へ圧送される。
ここで、第1実施形態に係る車両用空調装置1において、冷房冷却モード等の運転モードの切り替えが実現される為には、暖房用膨張弁14a~冷却用膨張弁14c、除湿用開閉弁15a、暖房用開閉弁15bが正常に動作していることが必要となる。これらの構成機器の動作にエラーが生じてしまうと、適切な冷媒回路を構成することができなくなり、車室内空調の快適性を損ねてしまったり、バッテリ80の温度管理に影響を及ぼしてしまったりすることが考えられる。
第1実施形態に係る車両用空調装置1では、暖房用開閉弁15bの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、エラー判定制御を行っている。図3を参照して、第1実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、車両用空調装置1に対する電源の投入と共に、制御装置60のCPUによって実行される。
図3に示すように、先ず、ステップS1において、現時点における運転モードが冷却単独モード又は空調冷却モードであるか否かが判定される。ここで、本実施形態における空調冷却モードとは、バッテリ80の冷却と並行して、少なくとも室内蒸発器18にて送風空気を冷却する運転モードを意味している。従って、冷房冷却モード、除湿暖房冷却モードは、ステップS1の空調冷却モードに含まれるが、暖房冷却モードは除外される。
換言すると、ステップS1では、現時点の運転モードが、少なくとも冷却用熱交換部19によるバッテリ80の冷却が実行される運転モードであるか否かが判定されている。現時点の運転モードが冷却単独モード又は空調単独モードである場合、ステップS2に処理を進める。一方、現時点の運転モードが冷却単独モード又は空調単独モードではない場合は、エラー判定制御を終了する。
ステップS2に移行すると、低圧圧力特定部60dで特定される低圧圧力が基準低圧圧力KPLよりも高いか否かが判定される。上述したように、低圧圧力は、低圧圧力特定部60dによって、第2冷媒圧力センサ65bの検出値を用いて特定される。
基準低圧圧力KPLは、図4に示す制御特性図と外気温とを参照して特定される。基準低圧圧力KPLは、低圧圧力が異常に高い値であるか否かの判定基準を示し、図4に示すように、外気温の上昇に伴って大きな値を示すように定められている。従って、基準低圧圧力KPLは、外気温センサ62の検出値と図4に示す制御特性図に従って定められる。低圧圧力が基準低圧圧力KPLよりも高い場合、ステップS3に処理を進める。一方、低圧圧力が基準低圧圧力KPLよりも高くない場合、エラー判定制御を終了する。
ステップS3では、圧縮機11の回転数が基準回転数以上であるか否かが判定される。本実施形態の基準回転数とは、圧縮機11の制御上で定められている回転数の上限値を意味している。換言すると、ステップS3においては、圧縮機11の冷媒吐出能力が最大であるか否かが判定されている。圧縮機11の回転数が基準回転数以上である場合、ステップS4に処理を移行する。一方、圧縮機11の回転数が基準回転数以上ではない場合、エラー判定制御を終了する。
ステップS4においては、高圧圧力特定部60eで特定される高圧圧力が基準高圧圧力KPHよりも低いか否かが判定される。上述したように、高圧圧力は、高圧圧力特定部60eによって、第1冷媒圧力センサ65aの検出値を用いて特定される。
基準高圧圧力KPHは、図5に示す制御特性図と外気温とを参照して特定される。基準高圧圧力KPHは、基準低圧圧力KPLに対応しており、基準低圧圧力KPLに対して、システムごとに定められる冷媒配管の圧損を加算した値として定義することができる。
高圧圧力が基準高圧圧力KPHよりも低い場合、ステップS5に移行して、エラー発生信号を出力する。エラー発生信号は、暖房用開閉弁15bが開状態で固定され、開度調整に関するエラーが生じていることを示す制御信号である。エラー発生信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、高圧圧力が基準高圧圧力KPHよりも低くない場合、そのままエラー判定制御を終了する。
尚、第1実施形態に係る車両用空調装置1では、エラー発生信号を出力することで、車両用空調装置1の運転停止等の制御が行われる。これにより、エラーが生じた状態で運転が継続することを抑制できる為、車両用空調装置1を構成する各構成機器(例えば、バッテリ80等)への影響を抑制することができる。
又、エラー発生信号に基づいて、ユーザに対する暖房用開閉弁15bの状態を報知するように構成してもよい。これによれば、報知された内容に応じて、暖房用開閉弁15bに対する適切な措置(例えば、修理や交換等)を行うことができる。
第1実施形態に係るエラー判定制御では、冷却単独モード及び空調冷却モードにおいて、暖房用開閉弁15bが開状態のままになっていないか否かが判定されている。上述した冷却単独モード及び空調冷却モードでは、暖房用開閉弁15bを閉状態にすることによって、冷凍サイクルの高低圧の差を担保している。従って、暖房用開閉弁15bが開状態のままになってしまうと、バッテリ80の冷却や車室内の空調に影響を及ぼすと共に、冷凍サイクルの各構成機器の寿命等にも影響を及ぼすことが考えられる。
ここで、冷却単独モード及び空調冷却モードにおいて、暖房用開閉弁15bが開状態のままになっている場合について考察する。上述したように、冷却単独モードや空調冷却モードの場合、冷房用膨張弁14b及び冷却用膨張弁14cは、全閉状態又は絞り状態に開度調整されている。冷凍サイクルにおいて、冷媒は圧損の小さい方へ向かって流れる為、冷媒は、室内蒸発器18側、冷却用熱交換部19側にほとんど流れることなく、暖房用開閉弁15b及び暖房用迂回通路22bを流通する。
従って、暖房用開閉弁15bが開状態になってしまっている場合、ほとんどの冷媒は、圧縮機11、暖房用膨張弁14a、熱媒体冷媒熱交換器12、室外熱交換器16、暖房用開閉弁15b、アキュムレータ21、圧縮機11の順に流れて循環する。この時の暖房用膨張弁14aは、全開状態で減圧作用を発揮させる状態ではない為、この冷媒回路での冷媒圧力の低下は、冷媒回路を構成する冷媒配管の圧損に由来すると考えられる。そして、車両用空調装置1は、冷媒配管の圧損分の冷媒圧力を圧縮機11で上げて、サイクルをバランスさせている。
又、この場合において、冷媒が室内蒸発器18、冷却用熱交換部19に流れない為、車両用空調装置1は、圧縮機11の回転数を制御上の上限値まで回転させる。この上限値は、ステップS4の基準回転数に対応している。そして、圧縮機11の回転数が制御上の上限値になった状態でバランスすることになる。
つまり、圧縮機11の冷媒吐出能力は制御上の上限値で一定であり、冷媒回路上における圧力低下は、冷媒配管の圧損に由来することになる。この結果、暖房用開閉弁15bが開状態になってしまっている場合における冷媒の状態は、外気温を因子として一定に定まる。
即ち、暖房用開閉弁15bが開状態のままになってしまった場合、冷凍サイクルの低圧圧力及び高圧圧力が外気温によって定まることになる。そして、この状態では、冷媒回路の経路上に減圧部として機能している膨張弁がないことになる為、基本的には、高圧圧力は、低圧圧力に対して冷媒配管の圧損分を加算したものとなる。
従って、ステップS2で、外気温により定められる基準低圧圧力KPLと低圧圧力とを比較することで、低圧圧力が通常の運転状態ではありえない比較的高い状態となっているか否かが判定でき、暖房用開閉弁15bにエラーが生じているか否かを特定できる。
又、ステップS4にて、外気温により定められる基準高圧圧力KPHと高圧圧力とを比較することで、システムによって異なる配管圧損を含めた判定を実行できるので、除湿用開閉弁15aに関するエラーの発生に関する判定精度を向上させることができる。
従って、第1実施形態に係る車両用空調装置1によれば、図3に示すエラー判定制御を実行することによって、バッテリ80の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、暖房用開閉弁15bに関するエラーの発生を検知することができる。
以上説明したように、第1実施形態に係る車両用空調装置1によれば、冷却単独モード又は空調冷却モードにおいて、図3のエラー判定制御で低圧圧力を用いた判定を行うことで、暖房用開閉弁15bの開度調整に対するエラーが発生しているか否かを特定できる。そして、車両用空調装置1は、バッテリ80の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、暖房用開閉弁15bに関するエラーの発生を検知することができる。
更に、図3に示すエラー判定制御においては、ステップS4の高圧圧力を用いた判定によって、システムによる冷媒配管の圧損の違いを考慮に入れた判定を行うことができ、暖房用開閉弁15bに関する判定精度を向上させることができる。
(第2実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第2実施形態について、図6、図7を参照して説明する。第2実施形態では、エラー判定制御の内容が上述した実施形態と相違している。その他の車両用空調装置1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
第2実施形態に係る車両用空調装置1では、切替弁である暖房用開閉弁15bの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、図6に示すエラー判定制御を行っている。図6を参照して、第2実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、第1実施形態と同様に、車両用空調装置1に対する電源の投入と共に、制御装置60のCPUによって実行される。
第2実施形態に係るエラー判定制御において、ステップS11では、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。バッテリ冷却要求は、バッテリ温度TBが基準冷却温度KTB以上である場合に有効になる。従って、ステップS11では、バッテリ温度TBが基準冷却温度KTB以上であるか否かの判定と同様の判定結果となる。バッテリ温度TBが基準冷却温度KTB以上で、バッテリ冷却要求がある場合、ステップS12に移行する。バッテリ温度TBが基準冷却温度KTB以上で、バッテリ冷却要求がない場合、エラー判定制御を終了する。
ステップS12では、現時点における運転モードが空調停止中であるか否かが判定される。空調停止中である場合、ステップS13に処理を進め、そうではない場合、エラー判定制御を終了する。つまり、ステップS11、ステップS12によって、現時点の運転モードが冷却単独モードであるか否かが判定されており、冷却単独モードである場合に、ステップS13に移行することになる。
ステップS13に移行すると、過冷却度特定部60fで特定される過冷却度SC1が第1基準過冷却度KSCl以下であるか否かが判定される。第2実施形態において、室外熱交換器16の出口側における冷媒の過冷却度SC1は、図7に示す制御特性図と外気温によって定められる目標過冷却度SCO1に近づくように制御される。
そして、第1基準過冷却度KSClは、図7に示すように、外気温に関わらず、目標過冷却度SCO1よりも低い値となるように定められている。過冷却度SC1が第1基準過冷却度KSCl以下である場合、ステップS14に処理を進める。過冷却度SC1が第1基準過冷却度KSCl以下ではない場合、エラー判定制御を終了する。
ステップS14においては、冷却用膨張弁14cの絞り開度が冷却用基準開度以上であるか否かが判定される。ステップS14の冷却用基準開度とは、冷却用膨張弁14cに定められている絞り開度の最大値を意味する。冷却用膨張弁14cの絞り開度が冷却用基準開度以上である場合は、ステップS15に進む。一方、冷却用膨張弁14cの絞り開度が冷却用基準開度以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。
ステップS15では、第6冷媒温度センサ64fで検出される第6冷媒温度T6が基準出口側温度よりも高いか否かが判定される。第6冷媒温度T6は、冷却用熱交換部19の出口側における冷媒の温度である。そして、ステップS15における基準出口側温度とは、バッテリ80の冷却が十分に行われていない状態を示す指標として定められている。
第6冷媒温度T6が基準出口側温度よりも高い場合、ステップS16に処理を進め、エラー発生信号を出力する。エラー発生信号は、暖房用開閉弁15bが開状態で固定され、開度調整に関するエラーが生じていることを示す制御信号である。エラー発生信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、第6冷媒温度T6が基準出口側温度よりも高くない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。
第2実施形態では、冷却単独モードにおける暖房用開閉弁15bの開度調整にエラーが生じ、開状態になっているか否かが判定されている。冷却単独モードにおいて、暖房用開閉弁15bが開状態になっていた場合、暖房用開閉弁15b及び暖房用迂回通路22bを介して、高圧側と低圧側が連通する為、冷却用熱交換部19の出口側の過冷却度SC1が取れなくなる。又、暖房用開閉弁15b及び暖房用迂回通路22bの圧損が冷却用膨張弁14c側よりも低くなる為、冷却用膨張弁14c及び冷却用熱交換部19に対する冷媒流量が低下する。
この結果、冷却用熱交換部19の出口側での過熱度SHが大きくなりすぎてしまう為、冷却用膨張弁14cの開度調整としては、過熱度SHを小さくする為に、冷却用膨張弁14cの絞り開度を大きくするように調整していく。
しかしながら、暖房用開閉弁15bが開状態である為、冷却用膨張弁14cの絞り開度を、どれだけ大きくしたとしても、過熱度SHは大きいままの状態となる。この結果、冷却用膨張弁14cの絞り開度は、最終的には、ステップS14における冷却用基準開度である最大値まで開いて、制御不能な状態になる。
この為、第2実施形態に係るエラー判定制御では、冷却単独モードにおいて、ステップS13の過冷却度SC1に関する判定と、ステップS14の冷却用膨張弁14cの絞り開度に関する判定を行うことで、暖房用開閉弁15bに係るエラーを判定できる。
又、ステップS15において、第6冷媒温度T6に関する判定を行うことで、冷却用熱交換部19におけるバッテリ80の冷却が実効的に機能しているか否かを判定することができ、暖房用開閉弁15bに係るエラーに関する判定精度を向上させることができる。
尚、第2実施形態におけるステップS15では、第6冷媒温度T6を用いた判定を行っているが、冷却用熱交換部19の出口側の冷媒の過熱度SHを採用しても、同様の効果を発揮させることができる。
以上説明したように、第2実施形態に係る車両用空調装置1によれば、冷却単独モードにおいて、過冷却度SC1を用いた判定と、冷却用膨張弁14cの絞り開度を用いた判定を行うことで、暖房用開閉弁15bの開度調整にエラーが生じていることを特定できる。即ち、車両用空調装置1は、バッテリ80の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する暖房用開閉弁15bに関するエラーの発生を検知することができる。
更に、エラー判定制御において、第6冷媒温度T6を用いた判定を行うことで、バッテリ80の冷却が正常に行われているか否かの判定と、暖房用開閉弁15bに関するエラーの発生に関する判定精度を向上させることができる。
(第3実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第3実施形態について、図8、図9を参照して説明する。第3実施形態では、エラー判定制御の内容が上述した実施形態と相違している。その他の車両用空調装置1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
第3実施形態に係る車両用空調装置1においては、暖房用開閉弁15bの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、図8に示すエラー判定制御を行っている。図8を参照して、第3実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、上述した実施形態と同様に、車両用空調装置1に対する電源の投入と共に、制御装置60のCPUによって実行される。
図8に示すように、ステップS21においては、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。ステップS21の判定内容は、上述したステップS11等と同様である。バッテリ冷却要求がある場合は、ステップS22に処理を進め、そうではない場合は、エラー判定制御を終了する。
ステップS22では、現時点における運転モードが空調運転中であるか否かが判定される。ここで、ステップS22における空調運転とは、少なくとも室内蒸発器18にて送風空気を冷却する運転を意味している。従って、冷房モード、除湿暖房モードは、ステップS22の空調運転に含まれるが、暖房モードは除外される。
現時点の運転モードにおける空調モードが冷房モード又は除湿暖房モードであり、空調運転中であると判定された場合、ステップS23に処理を移行する。つまり、冷房冷却モード又は除湿暖房冷却モードである場合、処理をステップS23に進め、そうではない場合、エラー判定制御を終了する。
ステップS23においては、過冷却度特定部60fで特定される過冷却度SC1が第1基準過冷却度KSCl以下であるか否かが判定される。ステップS23の判定処理の内容は、上述したステップS13と同じである為、再度の説明を省略する。過冷却度SC1が第1基準過冷却度KSCl以下である場合、ステップS34に処理を進める。過冷却度SC1が第1基準過冷却度KSCl以下ではない場合、エラー判定制御を終了する。
ステップS24では、冷房用膨張弁14bの絞り開度を制御する為の制御信号が指示する開度指示が冷房用基準開度以下であるか否かが判定される。上述したように、この場合における冷房用膨張弁14bの絞り開度は、目標過冷却度SCO1と室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1との偏差に基づいて、フィードバック制御手法により決定される。
具体的には、冷房用膨張弁14bの絞り開度は、室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1が目標過冷却度SCO1に近づくように定められる。つまり、冷房用膨張弁14bの開度指示は、室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1が目標過冷却度SCO1に近づくように定められた開度を示す。
ステップS24における冷房用基準開度は、室外熱交換器16の出口側冷媒の過冷却度SC1が予め定められた値となると考えられる閾値を意味する。上述したように、冷房用膨張弁14bの絞り開度は、過冷却度SC1が目標過冷却度SCO1に近づくように定められる為、過冷却度SC1が出ていない場合、絞り開度を小さくするような制御が行われる。つまり、冷房用膨張弁14bの絞り開度がこれだけしまっていたら、過冷却度SC1がでるはずという閾値が存在する。ステップS24では、この閾値を冷房用基準開度に定めている。
即ち、ステップS24では、冷房用膨張弁14bの開度指示が冷房用基準開度以下であるか否かを判定することで、現時点の運転モードにおいて、過冷却度SC1がでる状態となるような制御信号が出力されているか否かが判定されている。冷房用膨張弁14bの開度指示が冷房用基準開度以下である場合、ステップS25に処理を進める。一方、冷房用膨張弁14bの開度指示が冷房用基準開度以下ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。
ステップS25においては、冷却用膨張弁14cの絞り開度が冷却用基準開度以上であるか否かが判定される。ステップS25の判定処理は、上述したステップS14の判定処理と同じ内容である為、再度の説明は省略する。冷却用膨張弁14cの絞り開度が冷却用基準開度以上である場合、ステップS26に処理を進める。一方、冷却用膨張弁14cの絞り開度が冷却用基準開度以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。
ステップS26に移行すると、過熱度特定部60hで特定された過熱度SHが基準過熱度KSH以上であるか否かが判定される。この場合において、冷房用膨張弁14bが正常に作動していれば、冷却用熱交換部19の出口側における冷媒の過熱度SHは、冷却用膨張弁14cの開度調整によって、目標過熱度SHOに近づくように制御される。
目標過熱度SHOは、図9に示す制御特性図と外気温によって定められ、基準過熱度KSHは、図9に示すように、外気温に関わらず、目標過熱度SHOよりも高い値となるように定められている。過熱度SHが基準過熱度KSH以上である場合、ステップS27に処理を進め、エラー発生信号を出力する。エラー発生信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、過熱度SHが基準過熱度KSH以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。
第3実施形態では、冷房冷却モード又は除湿暖房冷却モードにおける暖房用開閉弁15bの開度調整にエラーが生じ、開状態になっているか否かが判定されている。車両用空調装置1の冷凍サイクル装置10において、過冷却度SC1は、冷媒が凝縮した後の絞り(つまり、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14cの絞り開度)を小さくするほど大きな値を示し、大きくすれば小さな値を示す。又、冷凍サイクル装置10の冷媒回路における冷媒の流れは、圧損が小さい径路を経由するように形成される。
上述したように、車両用空調装置1では、冷房用膨張弁14bの絞り開度は、過冷却度SC1が目標過冷却度SCO1に近づくように制御される為、過冷却度SC1が出ていない場合は、冷房用膨張弁14bの絞り開度を小さく絞るように制御される。この為、冷房用膨張弁14bの絞り開度がこれだけしまっていたら、過冷却度SC1が出るはずという閾値が存在する。
冷房用基準開度に相当する閾値を下回っている状態で、過冷却度SC1が出ていないということは、暖房用迂回通路22bを介して、冷媒が絞られることなく、サイクルを循環している状態であることを意味している。従って、第3実施形態に係る車両用空調装置1では、ステップS23、ステップS24の判定処理を行うことで、暖房用開閉弁15bの開度調整に関して、開状態のエラーが生じていることを判定できる。
又、冷房用膨張弁14bの開度制御が正常に作動している場合、冷却用熱交換部19の出口側における冷媒の過熱度SHは正常に制御される。そして、暖房用開閉弁15bが開状態になっている場合、冷却用膨張弁14c及び冷却用熱交換部19に対する冷媒流量が低下し、過熱度SHは目標過熱度SHOに対して高い値を示す。過熱度SHが目標過熱度SHOよりも高い値を示すと、過熱度SHを小さくする為に、冷却用膨張弁14cの絞り開度は大きくなるように制御される。ここで、冷却用膨張弁14cの絞り開度についても、絞り開度がこれだけ開いていたら過熱度SHが小さくなるはずという閾値が存在する。
従って、図8に示すエラー判定制御にて、ステップS25で冷却用膨張弁14cの絞り開度が冷却用基準開度以上で、且つ、ステップS26で過熱度SHが基準過熱度KSH以上となる状態は、暖房用開閉弁15bの開度制御のエラーが生じた状態であるといえる。車両用空調装置1によれば、エラー判定制御にて、ステップS25、ステップS26の判定処理を行うことで、バッテリ80の冷却が正常に行われているか否かの判定と、暖房用開閉弁15bに関するエラーの発生に関する判定の判定精度を向上させることができる。
第3実施形態に係る車両用空調装置1によれば、冷房冷却モード、除湿暖房冷却モードにおいて、過冷却度SC1を用いた判定と、冷却用膨張弁14cの絞り開度を用いた判定を行うことで、暖房用開閉弁15bの開度調整にエラーが生じていることを特定できる。即ち、車両用空調装置は、バッテリ80の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、暖房用開閉弁15bに関するエラーの発生を検知することができる。
更に、エラー判定制御において、冷却用膨張弁14cの絞り開度を用いた判定と、過熱度SHを用いた判定を行うことで、バッテリ80の冷却が正常に行われているか否かの判定と、暖房用開閉弁15bに関するエラーの発生に関する判定精度を向上できる。
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
(a)上述の実施形態では、冷媒としてR1234yfを採用した例を説明したが、冷媒はこれに限定されない。例えば、R134a、R600a、R410A、R404A、R32、R407C、等を採用してもよい。または、これらの冷媒のうち複数種を混合させた混合冷媒等を採用してもよい。
(b)冷凍サイクル装置の構成機器は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。上述した効果を発揮できるように、複数のサイクル構成機器の一体化等を行ってもよい。例えば、第2三方継手13bと第5三方継手13eとを一体化させた四方継手構造のものを採用してもよい。また、冷却用膨張弁14cとして、全閉機能を有しない電気式膨張弁と開閉弁とを直接的に接続したものを採用してもよい。
(c)加熱部の構成は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。例えば、第1実施形態で説明した高温側熱媒体回路40に対して、三方弁および高温側ラジエータを追加し、余剰の熱を外気に放熱させるようにしてもよい。更に、ハイブリッド車両のように内燃機関(エンジン)を備える車両では、高温側熱媒体回路40にエンジン冷却水を循環させるようにしてもよい。又、高温側熱媒体回路40を利用した構成ではなく、高圧冷媒と送風空気の熱交換により、送風空気を加熱する室内凝縮器を用いて、加熱部25を構成しても良い。
(d)上述した実施形態では、冷却用熱交換部19に対して低圧冷媒を流通させることで、冷却対象機器であるバッテリ80を冷却していたが、この構成に限定されるものではない。例えば、冷却対象機器を冷却する為の構成として、冷却用膨張弁14cの下流側に配置されたチラーと、チラーで低圧冷媒と熱交換して冷却される低温側熱媒体が循環する低温側熱媒体回路と、低温側熱媒体でバッテリ80を冷却する冷却用熱交換部を採用できる。
(e)又、冷却対象機器はバッテリ80に限定されるものではない。例えば、冷却対象機器として、インバータ、充電器、モータジェネレータのように作動時に発熱を伴う電気機器を採用することができる。インバータは直流電流と交流電流とを変換する。充電器はバッテリ80に電力を充電する。モータジェネレータは、電力を供給されることによって走行用の駆動力を出力するとともに、減速時等には回生電力を発生させる。
(f)そして、上述した実施形態においては、暖房側エラー信号、冷房側エラー信号を出力し、車両用空調装置1の運転制御(例えば、空調運転の停止等)に利用する構成であったが、暖房側エラー信号、冷房側エラー信号の利用態様はこれに限定されるものではない。
例えば、車両用空調装置1の制御装置60における記憶装置に対して、暖房側エラー信号等を出力し、暖房用膨張弁14aの開度調整等に関するエラーの発生状況等を蓄積するように構成しても良い。
又、暖房側エラー信号、冷房側エラー信号の出力先を、ネットワーク網を介して接続されたサーバとし、複数の車両用空調装置1からの暖房側エラー信号を蓄積する構成としても良い。多くの車両用空調装置1における暖房側エラー信号、冷房側エラー信号を蓄積してビッグデータの一部として取り扱うことができるので、開度調整に関するエラーの発生要因等の解析に利用することができる。