しかしながら、上記従来の特許文献1に示されるフラックスは、主として、電子部品の回路基板等への実装を、いわゆるSMT(Surface mount technology、表面実装技術)により行うハンダペースト向けに利用されている。そのため、このフラックスを用いたハンダペーストでバンプ形成や狭ピッチ印刷等を行うと、隣接したバンプや印刷パターンが印刷後にダレて、お互いが接触してしまう、いわゆるブリッジ等の不具合が生じることがある。このため、上記特許文献1に示されるフラックスは、SMT用途での使用や環境面等では非常に優れるものの、例えばFC(Flip-Chip)ボンディング技術のようにバンプ形成や狭ピッチ印刷等が必要な実装技術で用いられるハンダペースト向けには十分に適しているとはいえない。そこで、バンプ形成や狭ピッチ印刷に適した印刷性或いは溶融性を悪化させることなく、リフロー後、水のみで洗浄可能なペーストを調製できるハンダペースト用フラックス等の開発が求められている。
一方、例えば、100℃以下程度の通常の環境下で使用される機器用途には、共晶温度が217℃のSn−Ag−Cu系(組成比:Sn=96.5質量%、Ag=3.0質量%、Cu=0.5質量%)や、共晶温度が227℃のSn−Cu系(組成比:Sn=99.3質量%、Cu=0.3質量%)ハンダ(粉末)等が使用されている。これに対し、上述の車載用途のように、実装後の接合部に耐熱性の付与が求められる場合には、これらのハンダよりも高い共晶温度、液相温度を有する高温ハンダが使用されている。高温ハンダとしては、例えば液相温度が314℃のPb−Sn系(組成比:Pb=95質量%、Sn=5質量%)や共晶温度が280℃のAu−Sn系(組成比:Au=80質量%、Sn=20質量%)ハンダ(粉末)等が一般的に使用されている。しかし、高温ハンダを使用すると、通常のハンダを使用した時よりもリフロー温度が高くなるため、ハンダペーストに使用されるフラックス成分(有機化合物)の酸化(炭化)や分解が進みやすい。そのため、これまでに開発した狭ピッチ印刷等に対応する水溶性フラックスをそのまま高温ハンダ用のフラックスとして使用した場合、十分なはんだ溶融性が得られなかったり、また、水のみでは十分に洗浄できないという不具合があった。このような事情から、FCボンディング技術等に求められる良好な印刷性や溶融性が得られ、更に、高温ハンダ用のフラックスとして使用しても、リフロー後の洗浄を水のみで十分に行うことができるハンダペースト用フラックスの開発が求められていた。
本発明の目的は、印刷性や溶融性に優れるとともに、リフロー後、水のみで洗浄可能なペーストを調製できるフラックスであって、特に、高温ハンダ用のフラックスとして好適なハンダペースト用フラックス及び該フラックスを用いて調製されたハンダペーストを提供することにある。
本発明の第1の観点は、有機酸ポリグリセリンエステルと、溶剤と、活性剤と、チキソ剤と、酸化防止剤とを含むハンダペースト用水溶性フラックスにおいて、溶剤が1分子中に水酸基を2個以上有し、沸点が200〜400℃、かつ融点が25℃未満の有機溶剤を1種以上含み、活性剤が非イオン性有機ハロゲン化合物及び/又は1分子中に水酸基を2個以上有し、かつ融点が25℃以上の有機化合物であり、前記ハンダペースト用水溶性フラックス全体量100質量%中に占める前記有機酸ポリグリセリンエステルの割合は10質量%以上50質量%未満であり、前記溶剤の割合は30〜60質量%であり、前記活性剤の割合は0.1〜20質量%であり、前記チキソ剤の割合は1〜10質量%であり、前記酸化防止剤の割合は1〜10質量%であることを特徴とする。
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に有機酸ポリグリセリンエステルのHLB値が10〜19であることを特徴とする。
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、更に活性剤の水酸基価が250〜2200mgKOH/gであることを特徴とする。
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更に活性剤が2,3-ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ジブロモコハク酸、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、ピロガロール、リビトール、没食子酸、没食子酸メチル、没食子酸プロピル、エリトリトール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、1,3,5−アダマントリオール、1,2,3−シクロヘキサントリオール、1,3,5−シクロヘキサントリオール、エピガロカテキン、1,2,7−ヘプタントリオール、2‘,3’,4‘−トリヒドロキシアセトフェノン、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、トリメチロールプロパン、1,2,9‐ノナントリオール、1,2,8−オクタントリオール、1,3−ジオキサン−5,5−ジメタノール、トリメチロールメタン、フィトスフィンゴシン、1,2,5‐ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、1,2,7−ヘプタントリオール、1,2,10−デカントリオール又は1,2,4−ブタントリオールのいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする。
本発明の第5の観点は、第1ないし第4の観点に基づく発明であって、更に有機溶剤がジプロピレングリコール、グリセリン、エチルジエタノールアミン、1,5−ペンタンジオール、ノナエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又は2−エチル−1,3−ヘキサンジオールのいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする。
本発明の第6の観点は、第1ないし第5の観点に基づく発明であって、更にチキソ剤がベンジリデンソルビトール、ベンジリデンソルビトール誘導体、N,N‘−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、硬化ひまし油、脂肪酸アマイド、天然油脂、合成油脂又は12−ヒドロキシステアリン酸のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする。
本発明の第7の観点は、第1ないし第6の観点のハンダペースト用水溶性フラックスとハンダ粉末とを撹拌、混合して得られたハンダペーストである。
本発明の第1の観点のハンダペースト用水溶性フラックスは、有機酸ポリグリセリンエステルと、溶剤と、活性剤と、チキソ剤とを含み、溶剤が1分子中に水酸基を2個以上有し、沸点が200〜400℃、かつ融点が25℃未満の有機溶剤を1種以上含み、活性剤が非イオン性有機ハロゲン化合物及び/又は1分子中に水酸基を2個以上有し、かつ融点が25℃以上の有機化合物である。これにより、特に、高温ハンダ用のフラックスとして使用しても、リフロー後、有機溶剤等を使用せずに、水(温水も含む、以下同様)のみで洗浄可能であり、実装中の安全衛生面及び環境面等に優れたハンダペーストを調製できる。また、調製するハンダペーストに、実装中の優れた印刷性及び溶融性を付与できる。
本発明の第2の観点のハンダペースト用水溶性フラックスは、有機酸ポリグリセリンエステルのHLB値が10〜19である。これにより、リフロー後、水によるフラックスの洗浄性がより高められる。
本発明の第3の観点のハンダペースト用水溶性フラックスは、有機化合物の水酸基価が250〜2200mgKOH/gである。これにより、ハンダ表面の酸化皮膜を除去する効果が高められ、良好なハンダ溶融性を実現できる。
本発明の第4の観点のハンダペースト用水溶性フラックスは、活性剤が2,3-ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ジブロモコハク酸、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、ピロガロール、リビトール、没食子酸、没食子酸メチル、没食子酸プロピル、エリトリトール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、1,3,5−アダマントリオール、1,2,3−シクロヘキサントリオール、1,3,5−シクロヘキサントリオール、エピガロカテキン、1,2,7−ヘプタントリオール、2‘,3’,4‘−トリヒドロキシアセトフェノン、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、トリメチロールプロパン、1,2,9‐ノナントリオール、1,2,8−オクタントリオール、1,3−ジオキサン−5,5−ジメタノール、トリメチロールメタン、フィトスフィンゴシン、1,2,5‐ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、1,2,7−ヘプタントリオール、1,2,10−デカントリオール又は1,2,4−ブタントリオールのいずれか1種又は2種以上である。これにより、250℃以上の融点を有するハンダ粉末を使用しても、より良好な溶融性を実現できる。
本発明の第5の観点のハンダペースト用水溶性フラックスは、有機溶剤がジプロピレングリコール、グリセリン、エチルジエタノールアミン、1,5−ペンタンジオール、ノナエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又は2−エチル−1,3−ヘキサンジオールのいずれか1種又は2種以上である。これにより、ハンダペーストとしてのレオロジー(流動性)が高められるとともに、融点が250℃以上のハンダ粉末を使用した場合でも、非常に優れた溶融性が得られる。
本発明の第6の観点のハンダペースト用水溶性フラックスは、チキソ剤がベンジリデンソルビトール、ベンジリデンソルビトール誘導体、N,N‘−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、硬化ひまし油、脂肪酸アマイド、天然油脂、合成油脂又は12−ヒドロキシステアリン酸のいずれか1種又は2種以上である。これにより、ハンダペーストの印刷性がより向上する。
本発明の第7の観点のハンダペースト用水溶性フラックスは、本発明のハンダペースト用水溶性フラックスを使用しているため、車載用途等のように実装後に耐熱性の付与が求められるペーストとして使用しても、リフロー後の洗浄を水のみで行うことができるため、実装中の安全衛生面や環境面等で優れる。また、実装中の優れた印刷性及び溶融性を維持することができる。
次に本発明を実施するための形態を説明する。本発明のハンダペースト用水溶性フラックスは、有機酸ポリグリセリンエステルと、溶剤と、活性剤と、チキソ剤と、酸化防止剤とを含む。なお、本明細書において、溶剤とは、上記フラックスを合成する際、最初に有機酸ポリグリセリンエステルを溶解させるときに使用する材料をいう。
溶剤には、1分子中に水酸基(−OH基)を2個以上有し、沸点が200〜400℃、かつ融点が25℃未満の有機溶剤が1種以上含まれる。このように、フラックス中の溶剤成分の一つに、上記所定の有機溶剤を含ませることによって、高温ハンダの共晶温度又は液相温度以上の高い温度でリフローした後でも、ハンダ表面の酸化皮膜を容易に除去することができ、水のみによる高い洗浄性が付与される。その技術的理由は、水酸基を有することにより、当該有機溶剤がハンダ表面の金属酸化物と金属塩を形成し、この金属塩がフラックス中に溶解することによって、ハンダ表面の酸化皮膜が除去可能になるためと考えられる。また、上記有機溶剤が所望の沸点を有することにより、ハンダペーストを印刷する工程で、ペーストの良好なレオロジー(流動特性)が得られるとともに、印刷中のペーストの乾燥を抑制して、経時的なペースト粘度の変化を抑制することができる。また、この有機溶剤の融点が所定値未満であることにより、良好なレオロジー(流動特性)が得られる。
一方、1分子中に含まれる水酸基が所定数に満たないと、上述の挙動が得られず、上記効果が十分に得られない。このうち、溶剤成分の一つとして必ず含ませる上記有機溶剤としては1分子中に含まれる水酸基が2〜3個であるものが好ましい。1分子中に含まれる水酸基が4個以上のものは融点が高くなる傾向があり、溶剤として使用するのが困難になる場合がある。また、水酸基が4個以上の有機溶剤は現状では入手が困難である。また、上記有機溶剤の沸点が下限値未満では、揮発しやすくなるため、印刷中にペースト粘度の経時変化が起こるといった不具合が生じる。一方、上限値を超えると、フラックス中の成分であるポリグリセリンエステルや活性剤の溶解性が悪く、これらが十分に溶解しない或いは、一旦溶解しても経時的に析出し、ハンダペーストとしての流動性や溶融性を低下させる。また、上限値を超えるような有機溶剤は一般に入手が困難である。また、融点が所定値以上の有機溶剤では、室温(25℃)でのペースト保管中に有機溶剤が固体として析出することがあるため、ハンダペーストとしての流動性が低下する不具合が生じる場合がある。
このような有機溶剤としては、ジプロピレングリコール、グリセリン、エチルジエタノールアミン、1,5−ペンタンジオール、ノナエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又は2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等が挙げられる。
また、溶剤には、このような有機溶剤以外に、α―テルピネオールやジエチレングリコールモノヘキシルエーテル等の他の溶剤を含ませることもできるが、上述の効果を得るためには、溶剤成分の総量100質量%中に、上記所定の有機溶剤を少なくとも70質量%以上の割合で含ませることが望ましい。
活性剤には、非イオン性有機ハロゲン化合物及び/又は1分子中に水酸基を2個以上有し、かつ融点が25℃以上の有機化合物を使用する。活性剤として、非イオン性有機ハロゲン化合物又は上記所定の有機化合物を使用することにより、ハンダ表面の酸化皮膜を除去することができる。その技術的理由は、非イオン性有機ハロゲン化合物の場合、リフロー中に脱離するハロゲンイオンがハンダ表面の金属酸化物と金属塩を形成し、この金属塩がフラックス中に溶解することによって、ハンダ表面の酸化皮膜が除去可能になるためと考えられる。一方、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩のようなイオン性の有機ハロゲン化合物の場合、高温ハンダの共晶温度又は液相温度よりも低い温度から分解が開始し、失活していくため、高温ハンダが溶融する時には十分な活性を有していない状態となる。そのため、ハンダ表面の酸化皮膜を除去する効果が十分に得られない。また、上記所定の有機化合物の場合、水酸基を有することにより、ハンダ表面の金属酸化物と金属塩を形成し、この金属塩がフラックス中に溶解することによって、ハンダ表面の酸化皮膜が除去可能になると考えられる。このうち、活性剤として含まれる有機化合物は、1分子中に含まれる水酸基が2〜6個のものが好ましい。1分子中に含まれる水酸基が7個以上の有機化合物は現状では入手が困難若しくは非常に高価であるため、コストの面等から好ましくない。一方、1分子中の水酸基が所定数に満たないと上述の挙動がみられず、上記効果が十分に得られない。また、融点が下限値未満のものでは、リフロー時に揮発、分解してしまい、十分なハンダ溶融性が得られない。なお、融点が極端に高過ぎるものは、溶剤への溶解性が悪く、溶剤に十分に溶解しなかったり、一旦溶解しても経時的に析出し、ハンダペーストとしての流動性や溶融性を低下させる場合がある。このため、融点が400℃未満のものが好ましい。
また、活性剤として含まれる上記所定の有機化合物の水酸基価は、250〜2200mgKOH/gであるものが好ましい。水酸基価が2200mgKOH/gを超える有機化合物は現状では入手が困難である、若しくは非常に高価であるため、コストの面等から好ましくない。一方、水酸基価が250mgKOH/gに満たない有機化合物では、良好なハンダ溶融性が得られない場合がある。
非イオン性有機ハロゲン化合物としては、2,3-ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ジブロモコハク酸等が挙げられる。また、上記所定の有機化合物としては、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、ピロガロール、リビトール、没食子酸、没食子酸メチル、没食子酸プロピル、エリトリトール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、1,3,5−アダマントリオール、1,2,3−シクロヘキサントリオール、1,3,5−シクロヘキサントリオール、エピガロカテキン、1,2,7−ヘプタントリオール、2‘,3’,4‘−トリヒドロキシアセトフェノン、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、トリメチロールプロパン、1,2,9‐ノナントリオール、1,2,8−オクタントリオール、1,3−ジオキサン−5,5−ジメタノール、トリメチロールメタン、フィトスフィンゴシン、1,2,5‐ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、1,2,7−ヘプタントリオール、1,2,10−デカントリオール、1,2,4−ブタントリオール等が挙げられる。
有機酸ポリグリセリンエステルは、フラックスの主成分として一般的に使用されているガムロジン、水添ロジン、重合ロジン、エステルロジン等のロジンの代替として含まれる。即ち、このフラックスは、ロジンや他の樹脂成分を含まない。また、有機酸ポリグリセリンエステルは一般的なハンダペーストに用いられていたロジン(樹脂成分)の代替として含まれるため、クリームハンダのフラックスに、粘度調整剤等の副成分として極少量添加されるものではない。
有機酸ポリグリセリンエステルは、グリセリンを脱水縮合して得られるポリグリセリンと有機酸とをエステル化反応させることにより得られる。具体的には、ラウリン酸ポリグリセリンエステル、ステアリン酸ポリグリセリンエステル、イソステアリン酸ポリグリセリンエステル、セスキステアリン酸ポリグリセリンエステル、ジイソステアリン酸ポリグリセリンエステル、ミリスチン酸ポリグリセリンエステル、パルミチン酸ポリグリセリンエステル、オレイン酸ポリグリセリンエステル又はベヘニン酸ポリグリセリンエステル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用してもよい。この他、有機酸ポリグリセリンエステルには、天然物油脂から得られたヤシ油脂肪酸等も使用することができる。
また、本発明で使用する有機酸ポリグリセリンエステルは、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値が10〜19であることが好ましい。HLB値とは、水溶性を示す指標であり、有機酸の種類やポリグリセリンの重合の数等により変動し、数値が大きい程、水溶性が高いことを示す。有機酸ポリグリセリンエステルのHLB値が下限値未満では、フラックス又はペーストに十分な水溶性が付与されず、リフロー後の洗浄を水のみで行った際に残渣が生じる場合がある。一方、上限値を超えると、有機酸ポリグリセリンエステルの水への親和性が高くなりすぎて、これを十分に溶解させる適切な有機溶剤が無くなり、フラックスの作製が困難になる。或いは溶解できる有機溶剤であっても、非常に極性が高い有機溶剤になるため、フラックスの溶剤としては適さない。このうち、HLB値は11〜18の範囲であることが特に好ましい。
チキソ剤には、ベンジリデンソルビトール又はベンジリデンソルビトール誘導体、N,N‘−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、硬化ひまし油、脂肪酸アマイド、天然油脂、合成油脂、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられるが、このうち、ベンジリデンソルビトール又はその誘導体、N,N‘−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリルアミドを使用するのが好ましい。これは、例えばFC(Flip-Chip)ボンディング技術のように、バンプ形成や狭ピッチ印刷等が必要な実装方法で使用されるハンダペーストにおいて、樹脂成分に有機酸ポリグリセリンエステルを使用したときに、これらのチキソ剤を使用すると、良好な印刷性や印刷後の形状保持性等が得られやすいからである。ベンジリデンソルビトール又はその誘導体としては、1,3:2,4−ビス−O−(ベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(4−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトールが挙げられる。
酸化防止剤には、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤又はアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
フラックス全体量100質量%中に占める有機酸ポリグリセリンエステルの割合は10質量%以上50質量%未満とし、好ましくは、15〜45質量%とする。また、溶剤の割合は30〜60質量%、チキソ剤の割合は1〜10質量%、活性剤の割合は0.1〜20質量%、酸化防止剤の割合は1〜10質量%とする。有機酸ポリグリセリンエステルの割合が下限値未満では、ペーストの流動性、基板へのタッキング性等が低下するため、印刷後のバンプに形状不良等の不具合が生じる場合がある。一方、上限値を越えると、フラックスの粘度が高くなり過ぎ、これに応じてペースト粘度も高くなることで、印刷後のバンプに形状不良が生じる、若しくはペーストがマスク開口部から吐出されずにバンプが形成されない、いわゆるミッシング等の不具合が生じる場合がある。また、溶剤の割合が下限値未満では、フラックスの粘度が高くなり、これに応じてペースト粘度が高くなりすぎることで、上述のバンプの形状不良やミッシング等の不具合が生じる場合がある。一方、上限値を越えると、フラックスの粘度が低くなり、これに応じてペーストの粘度が低くなり過ぎることで、ペースト中のハンダ粉末が沈降分離する等の不具合が生じる場合がある。
また、チキソ剤の割合が下限値未満では、ハンダペーストとしての形状保持性が低下し、隣接したバンプ同士が繋がってしまう、いわゆるブリッジ等の不具合が生じる場合がある。一方、上限値を越えると、フラックスの粘度が高くなり、これに応じてペースト粘度が高くなりすぎることで、上述のバンプの形状不良やミッシング等の不具合が生じる場合がある。また、活性剤の割合が下限値未満では、ハンダ粉末が溶融せず、十分な接合強度が得られない場合があり、一方、上限値を越えると、保管中に活性剤がハンダ粉末と反応しやすくなるため、ハンダペーストの保存安定性が低下する場合がある。また、酸化防止剤の割合が下限値未満では、ハンダ粉末とフラックス成分が反応しやすくなるため、ハンダペーストの保存安定性が低下する場合がある。一方、上限値を越えると、ハンダ粉末の溶融性が低下する場合がある。
このようにして得られたフラックスを用いてハンダペーストを調製するには、フラックスとハンダ粉末を所望の割合で混合する。使用するハンダ粉末には、上述の理由から、共晶温度が217℃のSn−Ag−Cu系(組成比:Sn=96.5質量%、Ag=3.0質量%、Cu=0.5質量%)ハンダのような通常のハンダ粉末よりも高い共晶温度又は液相温度を有する高温ハンダを好適に使用することができる。現在広く利用されている一般的な高温ハンダは、共晶温度又は液相温度が、少なくとも250℃以上、好ましくは280〜400℃のものであり、例えば液相温度が314℃のPb−Sn系(組成比:Pb=95質量%、Sn=5質量%)の高温ハンダ、共晶温度が280℃のAu−Sn系(組成比:Au=80質量%、Sn=20質量%)の高温ハンダ、共晶温度が363℃のAu−Si系(組成比:Au=97質量%、Si=3質量%)の高温ハンダ、共晶温度が361℃のAu−Ge系(組成比:Au=88質量%、Ge=12質量%)の高温ハンダ、融点が360℃のAu−Sb系(組成比:Au=75質量%、Sb=25質量%)の高温ハンダ等が挙げられる。また、ハンダ粉末の平均粒径については、一般的なハンダペーストに用いられる範囲内のものであれば特に限定されないが、例えば0.1μm〜1mmの範囲のものを好適に使用できる。なお、ハンダ溶融性、狭ピッチ印刷等を考慮すると、ハンダ粉末の平均粒径は1〜20μmの範囲内であることが好ましい。本明細書において、平均粒径とは、レーザ回折散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、型式名:Partica LA-950)を用いて測定された体積基準の平均粒径D50をいう。
ハンダペーストを調製する際のフラックスの混合量は、調製後のペースト100質量%中に占める該フラックスの割合が3〜60質量%となる量に調整するのが好ましい。下限値未満では、フラックスの量が少ないため、ペースト化が困難になる、或いはハンダ粉末が溶融しない等の不具合が生じる場合がある。一方、上限値を越えると、ペースト中に含まれるハンダ粉末の量が少なくなり、溶融後に必要なハンダ量が得られない場合がある。
このように調製されたハンダペーストには、本発明のハンダペースト用水溶性フラックスが使用されているため、高温ハンダの共晶温度又は液相温度以上の非常に高い温度でリフローを行っても、リフロー後の洗浄を水だけで行うことができるため、実装中の安全衛生面や環境面等で優れる。また、バンプ形成や狭ピッチ印刷に適した良好な印刷性や溶融性を有するため、FCボンディング技術等の実装技術にも対応できる。
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
有機酸ポリグリセリンエステルと、チキソ剤と、溶剤と、活性剤と、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤をそれぞれ用意した。これらを、以下の表4に示す割合になるよう秤量した後、先ず、有機酸ポリグリセリンエステルと溶剤を混合することにより、該有機酸ポリグリセリンエステルを溶剤中に溶解させた。次いで、有機酸ポリグリセリンエステルが溶解する溶剤中に、チキソ剤、溶剤、活性剤及び酸化防止剤を更に添加し、混合、撹拌することによりフラックスを得た。なお、表4中、分類A〜Eで示される有機酸ポリグリセリンエステル(樹脂成分)、分類A〜Fで示される溶剤、分類Aで示されるチキソ剤、分類A〜Jで示される活性剤の具体的な物質名等の詳細は以下の表1〜表3に示す。また、表1中、有機酸ポリグリセリンエステルの名称の末尾に記載された数字はポリグリセリンの重合数を示す。
<実施例2〜16、比較例1〜5>
有機酸ポリグリセリンエステル、チキソ剤、溶剤、活性剤及び酸化防止剤を、以下の表4に示す割合で配合したこと以外は、実施例1と同様にしてフラックスを得た。以下の表1〜表3に、実施例2〜16、比較例1〜5でそれぞれ使用した、有機酸ポリグリセリンエステル、チキソ剤、溶剤、活性剤の詳細を示す。なお、比較例1では、樹脂成分として有機酸ポリグリセリンエステルの代わりに、ロジン(重合ロジン)を使用した。
<比較試験及び評価1>
実施例1〜16及び比較例1〜5で得られたフラックスを用いて、以下の(i),(ii)の評価を行った。これらの結果を以下の表4に示す。
(i) ハンダ溶融性(銅箔):先ず、平均粒径が5.3μmのAu−Sn系の高温ハンダ粉末(組成比:Au=80質量%、Sn=20質量%)を用意し、この高温ハンダ粉末90.0質量部と、実施例1等で得られたフラックス10.0質量部とを室温にて撹拌、混合することによりハンダペーストを調製した。なお、ハンダ粉末の平均粒径は、レーザ回折散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、型式名:Partica LA-950)を用いて測定した体積基準の平均粒径D50ある。
また、耐水研磨紙(♯400)にて表面を研磨した、純度99.9%以上(3N)のリン脱酸銅箔(寸法:縦40mm×横20mm×厚さ0.3mm)を用意した。次いで、開口部が2箇所設けられたSUS製メタルマスク(開口径φ6.5mm、厚さ0.2mm)を用いて、上記調製したハンダペーストを上記銅箔上に印刷した。そして、ペーストが印刷された銅箔を、リフロー炉(マルコム社製、型式名:SRS-1C)を用いて、窒素雰囲気中、室温から180℃まで1.5℃/sの昇温速度で昇温し、150℃で2分間予備乾燥した後、180℃から320℃の温度まで1.5℃/sの昇温速度で昇温し、320℃で20秒間加熱することにより、銅箔上のハンダを溶融させた。リフロー後の外観を目視にて観察し、ハンダ粉末の溶け残りが確認されなかった場合を「良好」、溶け残りが確認された場合を「不良」と評価した。
(ii) フラックス洗浄性(銅箔):100mlのガラス製ビーカーに入れた50mlのイオン交換水を、ホットプレートを用いて60℃になるまで加熱した。この60℃のイオン交換水が入ったビーカーに、上述の溶融性試験を行った後の銅箔を投入し、更に超音波洗浄器内にビーカーごと投入して5分間超音波をかけた。その後、銅箔をビーカーから取り出し、エアブローにて水を除去した後に、乾燥器を用いて、50℃の温度で5分間乾燥させた。乾燥後の銅箔について、ハンダ溶融部分を目視及び走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子社製 型式名:JSM-6510LV)の反射電子像にて観察し、有機成分の残渣の有無を確認した。このとき、有機成分の残渣が確認されなかった場合を「良好」、有機成分の残渣が確認された場合を「不良」と評価した。
表5から明らかなように、実施例1〜16と比較例1〜5とを対比すると、樹脂成分として有機酸ポリグリセリンエステルの代わりに重合ロジンを使用した比較例1では、ハンダ溶融性(銅箔)の評価では高い評価が得られたものの、水だけでは十分な洗浄ができず、フラックス洗浄性(銅箔)の評価が、「不良」の結果となった。一方、活性剤として、イオン性の有機ハロゲン化合物と、1分子中に含まれる水酸基の数が2個に満たない有機化合物を使用した比較例2では、ハンダ溶融性(銅箔)の評価が「不良」の結果となった。また、溶剤として、1分子中に含まれる水酸基の数が2個未満であり、融点が25℃以上の有機溶剤を使用した比較例3では、ハンダ溶融性(銅箔)の評価が「不良」の結果となった。また、溶剤として、分子中に含まれる水酸基の数が2個に満たない有機溶剤を使用した比較例4では、ハンダ溶融性(銅箔)の評価が「不良」の結果となった。また、沸点が所定温度に満たない溶剤を使用した比較例5では、ハンダ溶融性(銅箔)の評価が「不良」の結果となった。
これに対し、所定の溶剤及び活性剤を使用した実施例1〜16では、すべての評価において高い評価が得られた。
<比較試験及び評価2>
実施例1〜16及び比較例1〜5で得られたフラックスを用いて、以下の(iii)〜(v)の評価を行った。これらの結果を以下の表5に示す。
(iii) バンプ印刷性(基板):複数の開口部が設けられたNiメッキ製のメタルマスク版(外形寸法:縦300mm×横300mm×厚さ20μm、開口径φ:120μm、開口部ピッチ:150μm)を備える小型半自動スクリーン印刷機を用い、上述の溶融性試験で調製したハンダペーストを基板(寸法:縦60mm×横60mm×厚さ0.8mm)上に印刷することにより、基板上にハンダバンプを形成した。なお、上記基板は、基板の一方の面に設けられた厚さが約50μmの銅箔と、この銅箔上に設けられ、銅箔まで貫通する複数の開口部が形成されたレジスト膜(膜厚15μm、開口径φ70μm、開口部ピッチ150μm)を備える。上記基板上に形成されたハンダバンプの形状等から印刷性を評価した。具体的には、隣接するバンプ同士が繋がるブリッジや、ペーストがマスク開口部から吐出されずにバンプが形成されないミッシングといった印刷不良の有無、或いはその程度及び頻度を、全バンプ中のブリッジ又はミッシングの発生割合(%)より、0%以上、2.5%未満を評価4とし、2.5%以上、5%未満を評価3とし、5%以上、15%未満を評価2とし、15%以上、50%未満を評価1とする4段階で評価した。なお、表6に示す数値は、数値が高い程、印刷性の評価が高かったことを示しており、3以上を合格とした。
(iv) バンプ溶融性(基板):上述の印刷性試験でハンダバンプを形成した基板を、リフロー炉(マルコム社製、型式名:SRS-1C)を用いて、窒素雰囲気中、室温から150℃まで1.5℃/sの昇温速度で昇温し、180℃で2分間予備乾燥した後、180℃から320℃の温度まで1.5℃/sの昇温速度で昇温し、320℃の温度で20秒間加熱することにより、基板上のハンダバンプを溶融させた。リフロー後の外観を目視にて観察し、バンプ周辺に未凝集のハンダが確認されなかった場合を「良好」、未凝集のハンダが確認された場合を「不良」と評価した。
(v) フラックス洗浄性(基板):上述のバンプ溶融性試験を行った後の基板に、上述の洗浄性試験と同様、60℃のイオン交換水中にて5分間超音波をかけた後に、エアブローにて水を除去し、更に50℃の温度で5分間乾燥させた。リフロー及び洗浄後のバンプ部分を、上記SEMの反射電子像にて観察し、有機成分の残渣の有無及びその程度を確認した。このときの有機成分の残渣の有無又はその程度から、残渣がほぼ皆無の場合を「優良」、バンプ表面積100%に対して5%未満の残渣が確認された場合を「良好」、バンプ表面積100%に対して5%以上の残渣が確認された場合を「不良」とし、3段階にて評価した。
表6から明らかなように、実施例1〜16と比較例1〜5とを対比すると、樹脂成分として有機酸ポリグリセリンエステルの代わりに重合ロジンを使用した比較例1では、バンプ溶融性(基板)等の評価では高い評価が得られたものの、水だけでは十分な洗浄ができず、上述の評価1に続き、基板におけるフラックス洗浄性についても「不良」の結果となった。一方、活性剤として、イオン性の有機ハロゲン化合物と、1分子中に含まれる水酸基の数が2個に満たない有機化合物を使用した比較例2では、上述の評価1に続き、基板におけるバンプ溶融性も「不良」の結果となった。また、溶剤として、1分子中に含まれる水酸基の数が2個未満であり、融点が25℃以上の有機溶剤を使用した比較例3では、上述の評価1に続き、基板におけるバンプ溶融性も「不良」の結果となった。また、溶剤として、分子中に含まれる水酸基の数が2個に満たない有機溶剤を使用した比較例4では、上述の評価1に続き、基板におけるバンプ溶融性も「不良」の結果となった。また、沸点が所定温度に満たない溶剤を使用した比較例5では、バンプ印刷性の評価が低くなり、また、基板におけるバンプ溶融性も「不良」の結果となった。
これに対し、所定の溶剤及び活性剤を使用した実施例1〜16では、上述の評価1も含め、全ての評価において高い評価が得られた。