JP6662423B1 - リグニンを分離する方法 - Google Patents

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【課題】本発明の課題は、クラフト蒸解する工程から排出される黒液からリグニンを効率的に分離する方法を提供することである。【解決手段】a)黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加してpH10未満にしてリグニンを沈殿させた後に脱水する工程、b)工程a)で得られたリグニン沈殿物を水に懸濁し、炭酸ナトリウムを添加する工程、c)工程b)で得られた懸濁液に酸を添加してpH3未満に調整してリグニンを沈殿させる工程、d)工程c)で得られたリグニン沈殿物を脱水及び洗浄する工程、の各工程を含んでなる方法によって、木材をクラフト蒸解する工程から排出される黒液からリグニンを分離する。【選択図】 なし

Description

本発明は、木材チップをクラフト蒸解する工程から排出される黒液より溶解しているリグニンを効率よく分離する方法に関する。
近年、石油の代替としてリグニンを原料として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等に変換して利用することが検討されている。リグニンは木材中に多量に存在するが、抽出するためには酸、アルカリ、あるいは有機溶媒を使用する化学処理、粉砕等の機械的処理が必要である。例えば、サルファイト蒸解法では、酸性亜硫酸塩と亜硫酸の混液を加えて、130〜145℃で蒸煮し木材中のリグニンをリグニンスルホン酸塩として溶出させ(例えば、特許文献1)、クラフト蒸解法では、苛性ソーダ(NaOH)と硫化ソーダ(NaS)を主成分とする薬品を加えて、150〜170℃程度で蒸解して、クラフトリグニンとして溶出させる。これらの蒸解法とは別に、苛性ソーダ等のアルカリ水溶液を加えてリグニンを溶出することが検討されている(特許文献2)。
また、抽出されたリグニンを効率よく分離することも重要である。例えば、クラフト蒸解法等で得られる黒液を酸性化してリグニンを沈殿させて脱水し、リグニン濾過ケーキを洗浄してリグニンを得ることが開示されている(特許文献3)。
特開2001−89986号公報 特開2014−208803号公報 特表2008−513549号公報
しかしながら、特許文献3の黒液からリグニンを分離する方法ではリグニンの沈殿物をフィルターで分離する際にフィルターの目詰まりが発生し、効率的なリグニンの分離が困難であった。
本発明の課題は、クラフト蒸解する工程から排出される黒液からリグニンを効率的に分離する方法である。
本発明者らはこれらの目的を達成するために検討を重ねた結果、木材をクラフト蒸解する工程から排出される黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加してpH10未満にして得られたリグニン沈殿物を水に懸濁し、さらに炭酸ナトリウムを添加することにより、上記目的が達成されることを見出した。
すなわち本発明は下記の発明を提供するものである。
(1) 木材をクラフト蒸解する工程から排出される黒液からリグニンを分離する方法であって、下記の各工程を含んでなる方法。
a)黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加してpH10未満にしてリグニンを沈殿させた後に脱水する工程。
b)工程a)で得られたリグニン沈殿物を水に懸濁し、炭酸ナトリウムを添加する工程。
c)工程b)で得られた懸濁液に酸を添加してpH3未満に調整してリグニンを沈殿させる工程。
d)工程c)で得られたリグニン沈殿物を脱水及び洗浄する工程。
(2) 前記工程a)及び工程b)における脱水をフィルタープレス装置で行う(1)に記載の方法。
(3) フィルタープレス装置で用いるフィルタークロスの透気度が0.5cm/cm/secを超え60cm/cm/sec未満である(2)に記載の方法。
(4) 前記工程b)において添加される炭酸ナトリウムがリグニン(固形分)に対して5質量%以上60質量%以下である(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 工程d)で洗浄に用いる洗浄水のpHが6以上である(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 前記工程d)における洗浄がフィルタープレス装置で行われる(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 前記工程d)で得られる洗浄ろ液の電気伝導度が0.5S/m以下になるまで洗浄が行われる(1)〜(6)のいずれかに記載に記載の方法。
(8) 黒液の固形分が30質量%以下である(1)〜(7)のいずれかにに記載の方法。
本発明によれば、クラフト蒸解する工程から排出される黒液からリグニンを効率的に分離することが可能となる。
本発明は、木材をクラフト蒸解する工程から排出される黒液からリグニンを分離する方法において、a)黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加してpH10未満にしてリグニンを沈殿させた後に脱水する工程、b)工程a)で得られたリグニンを水に懸濁し、炭酸ナトリウムを添加する工程、c)工程b)で得られた懸濁液に酸を添加してpH3未満に調整してリグニンを沈殿させる工程、d)工程c)で得られたリグニンを脱水および洗浄する工程、を含む方法である。以下に、本発明の各工程について具体的に説明する。
クラフト蒸解
原料の木材としては、広葉樹、針葉樹のいずれも使用できる。広葉樹としては、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が例示される。針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が例示される。
木材チップは、蒸解液と共に蒸解釜へ投入され、クラフト蒸解に供する。また、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型などの蒸解型式なども特に限定はない。すなわち、本願のアルカリ性水溶液を含浸し、これを保持する工程は、従来の蒸解液の浸透処理を目的とした装置や部位とは別個に設置してもよい。好ましくは、蒸解を終えた未晒パルプは蒸解液を抽出後、ディフュージョンウォッシャーなどの洗浄装置で洗浄する。洗浄後の未晒パルプのカッパー価は、7〜30にすることが好ましく、9〜25としてもよい。一つの態様において洗浄後の未晒パルプのカッパー価は、7〜20であり、9〜15としてもよい。
クラフト蒸解は、木材チップを蒸解液とともに耐圧性容器に入れて行うことができるが、容器の形状や大きさは特に制限されない。木材チップと蒸解液の液比は、例えば、1.0〜40L/kgとすることができ、1.5〜30L/kgが好ましく、2.0〜30L/kgがさらに好ましい。また別の態様において、木材チップと薬液の液比は、例えば、1.0〜5.0L/kgとすることができ、1.5〜4.5L/kgが好ましく、2.0〜4.0L/kgがさらに好ましい。
また、本発明のクラフト蒸解においては、苛性ソーダ(NaOH)、硫化ナトリウム(NaS)の他に種々の蒸解助剤を併用することもできる。例えば、絶乾チップ当たり0.01〜5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加してもよい。キノン化合物の添加量が0.01質量%未満であると黒液中に抽出されるリグニンの抽出量が十分ではない。また、キノン化合物の添加量が5質量%を超えてもさらなるリグニンの抽出量の向上が認められない。
使用されるキノン化合物はいわゆる公知の蒸解助剤としてのキノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1−メチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2−メチル−1,4−ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10−ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2−メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
蒸解液は、対絶乾木材チップ質量当たりの活性アルカリ添加率(AA)を8〜55質量%とすることができ、8〜20質量%とすることが好ましい。活性アルカリ添加率が8質量%未満であるとリグニンやヘミルロースの除去が不十分となり、55質量%を超えると収率の低下や品質の低下が起こる。ここで活性アルカリ添加率とは、NaOH、NaSの添加率をNaOの添加率として換算したもので、NaOHの添加率に0.775を乗じることでNaOの添加率に換算できる。また、硫化度は15〜40%の範囲が好ましい。硫化度20%未満の領域においては、脱リグニン性の低下、パルプ粘度の低下、粕率の増加を招く。
クラフト蒸解は、120〜180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140〜160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
また、本発明におけるクラフト蒸解は、Hファクター(Hf)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。Hファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。Hファクターは、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。Hファクターとしては、250〜6000が好ましい。
Hf=∫exp(43.20−16113/T)dt
本発明においては、蒸解後得られた未漂白(未晒)パルプは、必要に応じて、種々の処
理に供することができる。例えば、クラフト蒸解後に得られた未漂白パルプに対して、漂
白処理を行うことができる。
黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加してpH10未満にしてリグニンを沈殿させた後に脱水する工程(工程a))
クラフト蒸解後に得られる黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加して、黒液のpHを10未満として懸濁液とすることにより、黒液中に溶解しているリグニンを不溶物として沈殿させることが可能となる。この工程は2回以上繰り返して行ってもよい。黒液のpHは1〜9としてもよく、2〜8に調整してもよい。黒液のpHが10以上では、リグニンの不溶物が十分に生成しない。使用する酸は無機酸でも有機酸でもよい。無機酸としては、硫酸、亜硫酸、塩酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、炭酸等が挙げられ、硫酸が好ましい。また、二酸化塩素発生装置から排出される残留酸を使用してもよい。有機酸としては、酢酸、乳酸、蓚酸、クエン酸、ギ酸等が挙げられる。なお、黒液はpHを調整する前に、エバポレーターなどを用いて濃縮することができ、固形分は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上50質量%であることがより好ましい。
黒液のpHを10未満に調整する際の温度は室温〜100℃が好ましい。温度が100℃を超えるとリグニンが縮合するので、リグニンの分離が困難になる。
また、前述のpHを10未満に調整する工程で酸及び二酸化炭素を添加する場合、処理温度としては、特に限定されないが、40〜80℃程度が好ましい。二酸化炭素を加える方法は特に限定されないが、大気圧下で吹き込む方法、あるいは密閉容器中で二酸化炭素を吹き込んで加圧(0.1〜1MPa)する方法がある。二酸化炭素としては、純粋な二酸化炭素ガスでもよいが、焼却炉、ボイラーなどから排出される燃焼排ガス、石灰焼成工程などから発生する二酸化炭素を含むガスを用いることもできる。
また、必要に応じて凝集剤を添加して、リグニンの沈殿を促進させてもよい。凝集剤としては、硫酸バンド、塩化アルミ、ポリ塩化アルミ、ポリアミン、DADMAC、メラミン酸コロイド、ジンアンジアジド等が挙げられる。
黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加して、黒液のpHを10未満に調整することによって、リグニンを含有するケーキ状の沈殿物が得られる。この沈殿物を脱水し、水で洗浄することによって分取する。沈殿物を脱水・洗浄するための装置としては、フィルタープレス、ドラムプレス、遠心脱水装置、吸引濾過装置等を使用することができる。なお、フィルタープレス装置で脱水する際には、用いるフィルタークロスの透気度が0.5cm/cm/secを超え60cm/cm/sec未満であることが好ましい。フィルタークロスの透気度が0.5cm/cm/sec以下であると、脱水の際に目詰まりを起こす。また、透気度が60cm/cm/sec以上であると、クロス上にリグニンが保持されない。洗浄する際に使用する水は特に限定されないが、工業用水、水道水等を使用することができ、pHは1〜9、温度は20〜80℃、電気伝導度が0.5S/m以下であることが好ましい。
工程a)で得られたリグニン沈殿物を水に懸濁し、炭酸ナトリウムを添加する工程(工程b))
工程b)では、工程a)で得られたケーキ状のリグニン沈殿物は水を加えて懸濁させる。この際に使用される水は工程a)で洗浄に使用する水と同様の水でよい。次に懸濁液の粘度を低下させるために炭酸ナトリウムを添加する。炭酸ナトリウムの添加量はリグニン(固形分)に対して5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
工程b)で得られた懸濁液に酸を添加してpH3未満に調整してリグニンを沈殿させる工程(工程c))
工程c)では、工程b)で得られたリグニン懸濁液に酸を添加してpH3未満に調整してリグニンを沈殿させる。使用する酸は工程a)で使用する無機酸、有機酸いずれでもよい。無機酸としては、硫酸、亜硫酸、塩酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、炭酸等が挙げられ、硫酸が好ましい。また、二酸化塩素発生装置から排出される残留酸を使用してもよい。有機酸としては、酢酸、乳酸、蓚酸、クエン酸、ギ酸等が挙げられる。
工程c)で得られたリグニン沈殿物を脱水及び洗浄する工程(工程d))
工程d)では、工程c)で得られたケーキ状のリグニン沈殿物を脱水及び洗浄する工程である。洗浄は洗浄ろ液の電気伝導度が0.5S/m以下になるまで行うことが望ましい。リグニン沈殿物を脱水・洗浄するための装置としては、工程a)と同様にフィルタープレス、ドラムプレス、遠心脱水装置、吸引濾過装置等を使用することができる。リグニン沈殿物の洗浄に使用される水は工程a)あるいは工程b)で洗浄に使用する水と同様の水でよい。なお、洗浄水のpHは6以上が好ましく、pH6〜8としてもよい。
工程d)で得られたリグニンの沈殿物に有機溶媒を添加して溶解させ、不純物である不溶物を分離することによって、リグニンを精製することもできる。添加する有機溶媒としては、糖類の非溶媒または貧溶媒であり、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−メトキシルエタノール、ブタノールなどを含むアルコール類、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどを含むエーテル類、アセトンやメチルエチルケトンなどを含むケトン類、アセトニトリルなどを含むニトリル類、ピリジンなどを含むアミン類、ホルムアミドなどを含むアミド類、酢酸エチル、酢酸メチルなどを含むエステル類、ヘキサンなどを含む脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等を含む芳香族炭化水素などのうち、一種類または複数を混合したもの、若しくは一種類または複数を混合し、水を加えたものを用いることができる。特に、アセトンが好ましい。懸濁液中の不溶物を固液分離する方法としては、フィルタープレス、ドラムプレス、遠心脱水装置、吸引濾過装等を使用することができる。
本発明で得られるリグニンは、熱硬化性樹脂、分散剤、接着剤として利用できる。また、さらに低分子化することによりフェノール樹脂原料やエポキシ樹脂原料として利用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において%は特に断らない限り質量%を示す。
[実施例1]
<工程a)>
製紙工場のクラフトパルプ製造においてクラフト蒸解から得られた黒液160L(固形分濃度16.0%)を、容量300Lの反応槽に仕込んで60℃に加温した。次に炭酸ガスを1分間当たり0.03kgの速度でpHが9.8になるまで反応槽へ導入した。沈殿したリグニンは、フィルタープレス(Lab Pressure Filter VPA 04, Metso社製)に供して脱水した。フィルタークロスはポリプロピレン製平織のP28(薮田産業製、透気度1.0cm/cm/秒)を使用した。得られたリグニンは13.4kg(ドライ換算で4.6kg)であった。
上記の24時間後に同じ製紙工場から採取した黒液120L(固形分16.1%)を、同じ処理を実施してリグニン9.5kg(ドライ換算3.2kg)を調製した。
<工程b)>
工程a)で得られたケーキ状のリグニン沈殿物(合計22.9kg(ドライ換算7.8kg))に水30.5kgを添加し、反応槽内で攪拌して50℃に調整しながら懸濁した。次に炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬(株))を2.2kg添加し溶解させた。
<工程c)>
工程b)で得られた懸濁液(固形分濃度15%)に送液ポンプを用いて0.1kg/分の添加速度で硫酸(試薬特級、和光純薬(株))を添加した。この時、懸濁液のpHをモニターしつつpHが2.5になったところで硫酸の添加を停止した。硫酸の添加量は4.0kgであった。その後、攪拌を1時間継続し、リグニンを沈殿させた。
<工程d)>
工程c)で沈殿させたケーキ状のリグニンを工程a)と同様にしてフィルタープレスに供して脱水した。フィルタークロスはポリプロピレン製平織のP28(薮田産業製、透気度1.0cm/cm/秒)を使用した。次にフィルタープレス内に脱水されたケーキ状のリグニンを保持させたままで工業用水(pH7.2)を通水することで洗浄を実施した。洗浄の終点は洗浄ろ液の電気伝導度が0.5S/m以下になる点とした。洗浄比に対して洗浄ろ液の電気伝導度およびpHをプロットした結果を図1に示した。電気伝導度およびpHは、ポータブル型pH・ORP・電気伝導率メータD-74(HORIBA製)で測定した。
次にフィルタープレスのろ室を7.5barに加圧して圧搾、引き続いてろ室に空気を導入してリグニンから水分を可能な限り除去して、リグニンを9.6kg(ドライ換算4.6kg)を得た。得られたリグニンを蛍光X線分析装置EDX-8000(島津製作所製)に供してNa濃度を定量した。その結果、Na含量は検出限界以下であった。このことから洗浄ろ液の電気伝導度を測定することにより、リグニン洗浄の程度を評価できることがわかる。
[実施例2]
実施例1の工程a)および工程d)のフィルタープレスでの脱水工程において、透気度が1.0cm/cm/secであるフィルタークロスを使用し、結果を表1に示した。
[実施例3]
透気度が5.0cm/cm/secであるフィルタークロスを使用した以外、は実施例2と同様にして、結果を表1に示した。
[実施例4]
透気度が0.5cm/cm/secであるフィルタークロスを使用した以外、は実施例2と同様にして、結果を表1に示した。
[実施例5]
透気度が60cm/cm/secであるフィルタークロスを使用した以外、は実施例2と同様にして、結果を表1に示した。
Figure 0006662423
実施例2および3ではリグニンはケーキ状となり、脱水操作が可能であった。透気度0.5cm/cm/secであるフィルタークロスを使用した実施例4ではクロスにリグニンスラリーが目詰まりし脱水操作が困難であった。また、透気度60cm/cm/secであるフィルタークロスを使用した実施例5ではリグニンスラリーがクロスを素通りしてリグニンを回収することが困難であった。
[実施例6]
実施例1の工程a)で得たリグニンの一部を採取して水を添加し、スラリー96gを調整した(固形分濃度15%)。このスラリーに炭酸ナトリウムを3.98g(対リグニン27.6%)添加した後に粘度計(B型粘度計LVT、ブルックスフィールド社)で粘度を測定した。測定後のスラリーに硫酸を添加してpH1.9に調整したあとに、再び粘度を測定した。次に、リグニンスラリーを、ろ紙(No.2)およびろ布(20μmメッシュ)をセットしたブフナー漏斗上に流し込み、吸引することで脱水性を評価した。
[実施例7]
炭酸ナトリウムを7.33g(対リグニン50.9%)添加した以外は、実施例6と同様にして、リグニンスラリーの粘度を測定し、さらにリグニンスラリーの脱水性を評価した。
[実施例8]
炭酸ナトリウムを0.64g(対リグニン4.4%)添加した以外は、実施例6と同様にして、リグニンスラリーの粘度を測定し、さらにリグニンスラリーの脱水性を評価した。
[実施例9]
炭酸ナトリウムを2.31g(対リグニン16.0%)添加した以外は、実施例6と同様にして、リグニンスラリーの粘度を測定し、さらにリグニンスラリーの脱水性を評価した。
[比較例1]
炭酸ナトリウムを添加しない以外は、実施例6と同様にして、リグニンスラリーの粘度を測定し、さらにリグニンスラリーの脱水性を評価した。
Figure 0006662423
炭酸ナトリウムを添加した実施6〜9ではリグニンの脱水が見られ、固形分が30〜33%のリグニンマットがろ布上に形成された。ただし、炭酸ナトリウムの添加量がリグニン(固形分)に対して5質量%未満である実施例8ではリグニンスラリーの粘度が上昇し、脱水性は低下した。一方、比較例1では、吸引による通水はほとんど観察されず、リグニンの脱水は困難であった。
図1のグラフは、実施例1の工程d)でケーキ状のリグニンを洗浄した際に、洗浄比に対して洗浄ろ液の電気伝導度およびpHをプロットした結果である。

Claims (8)

  1. 木材をクラフト蒸解する工程から排出される黒液からリグニンを分離する方法であって、下記の各工程を含んでなる方法。
    a)黒液に酸及び/又は二酸化炭素を添加してpH10未満にしてリグニンを沈殿させた後に脱水する工程。
    b)工程a)で得られたリグニン沈殿物を水に懸濁し、炭酸ナトリウムを添加する工程。
    c)工程b)で得られた懸濁液に酸を添加してpH3未満に調整してリグニンを沈殿させる工程。
    d)工程c)で得られたリグニン沈殿物を脱水及び洗浄する工程。
  2. 前記工程a)における脱水をフィルタープレス装置で行う請求項1記載の方法。
  3. フィルタープレス装置で用いるフィルタークロスの透気度が0.5cm/cm/secを超え60cm/cm/sec未満である請求項2記載の方法。
  4. 前記工程b)において添加される炭酸ナトリウムがリグニン(固形分)に対して5質量%以上60質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 工程d)で洗浄に用いる洗浄水のpHが6以上である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記工程d)における洗浄がフィルタープレス装置で行われる請求項1〜5のいずれかにに記載の方法。
  7. 前記工程d)で得られる洗浄ろ液の電気伝導度が0.5S/m以下になるまで洗浄が行われる請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 前記黒液の固形分が30質量%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
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