以下、本発明の熱硬化性樹脂シートおよび半導体装置の製造方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<半導体装置の製造方法>
≪第1実施形態≫
次に、本発明の半導体装置の製造方法の第1実施形態について説明する。
図1、2は、それぞれ本発明の半導体装置の製造方法の第1実施形態を適用した発光ダイオード装置の製造方法を説明するための断面図である。
本実施形態に係る発光ダイオード装置100の製造方法は、[1]半導体層21とそれに付随する電極部22とを備える半導体素子基板2を準備する工程と、[2]電極部22と重なるように熱硬化性樹脂シート1(本発明の熱硬化性樹脂シートの実施形態)を配置する工程と、[3]電極部22を熱硬化性樹脂シート1に埋め込む工程と、[4]熱硬化性樹脂シート1を硬化させる工程と、[5]電極部22を露出させる工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
[1]準備工程
まず、半導体素子基板2を準備する。
具体的には、図1(a)に示すように、半導体層支持基板23を用意し、その表面(図1の上面)に半導体層21を形成する。続いて、半導体層21中に複数の発光ダイオードの素子構造(図示せず)を形成する。
次いで、素子構造と電気的に接続されるように、半導体層21の表面に電極部22を配置する。これにより、半導体層支持基板23の表面に設けられた、図1(b)に示す半導体素子基板2を得る。
すなわち、図1(b)に示す半導体素子基板2は、複数の素子構造を含む半導体層21と、半導体層21の表面に露出している電極部22と、を備えている。本実施形態では、半導体素子基板2を切断して個片化することにより、互いに独立した複数の発光ダイオード装置(半導体装置)を得ることのできる半導体層21のことを「半導体チップ」という。すなわち、図1に示す半導体層21(半導体チップ)には、半導体製造プロセスによって配線やトランジスター等の各要素を含む素子構造が集合配置されており、最終的に個片化されることが前提になっている。なお、半導体層21に含まれる素子構造の数は、特に限定されず、1個であってもよく、その場合には必ずしも個片化する必要はない。
また、半導体層21は、バルク状の半導体ウエハーであってもよいが、本実施形態では半導体層支持基板23の表面に対して各種成膜法により成膜された薄膜で構成されている。すなわち、図1に示す半導体素子基板2は、半導体層21と、それを裏面側から支持する半導体層支持基板23と、を備えている。なお、本明細書では、各図における半導体層21の上面を「表面」といい、下面を「裏面」という。また、本実施形態では、この半導体層21が発光ダイオードの発光層となる。
半導体層支持基板23としては、例えば、シリコン基板、サファイア基板や、任意の基板の表面に単結晶シリコンを成膜した複合基板等が挙げられる。
また、半導体層21の構成材料としては、例えば、窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)、ガリウムリン(GaP)、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムリン(InP)、シリコンゲルマニウム(SiGe)等が挙げられる。
一方、電極部22の構成材料としては、例えば、銅、金、アルミニウム等の金属材料の単体またはこれらのいずれかを含む合金等が挙げられる。
また、図1の例では、半導体層21の表面に電極部22が設けられており(表出しており)、半導体素子基板2は、フリップチップ実装を可能な構造を有している。
一方、熱硬化性樹脂シート1を準備する。
熱硬化性樹脂シート1は、例えば、後述する原材料を混合してワニスを調製し、これをシート状に成形することにより形成される。混合方法は、各成分が均一に分散混合される方法であれば、特に限定されない。ワニス調製の際、必要に応じて有機溶剤等を用いることができる。そして、調製されたワニスを、ポリエステルフィルムやフッ素樹脂フィルム等の支持材上に塗布した後、乾燥させることにより熱硬化性樹脂シート1が得られる。なお、必要に応じて、塗布と乾燥とを繰り返すことにより、熱硬化性樹脂シート1の厚さを増すようにしてもよい。
塗布する装置としては例えば、コンマコーター、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター等が挙げられる。
その後、必要に応じて、得られた熱硬化性樹脂シート1の表面を保護するために、ポリエステルフィルムやフッ素樹脂フィルム等の保護材を貼り合わせるようにしてもよい。この保護材は、後述するシート配置工程において剥離される。
ワニス調製の際に用いられる有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、トルエン、キシレン、メシチレン、酢酸エチル、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、有機溶剤の使用量は、例えば、ワニスの固形分濃度が20〜99質量%程度になるように調整される。
なお、熱硬化性樹脂シート1は、例えば、後述する原材料を混錬し、得られた混錬物をシート状に成形することによっても形成される。シート状に成形する方法としては、例えば、ミキシングロール法、カレンダーロール法、押出成形法、プレス成形法等が挙げられる。また、必要に応じて、成形されたシート同士を積層して厚さを増すようにしてもよい。
[2]シート配置工程
次に、電極部22と重なるように熱硬化性樹脂シート1を配置する(図1(c)参照)。なお、熱硬化性樹脂シート1を加熱しながら配置することにより、本工程と後述する電極部埋込工程とを同時に行うようにしてもよい。
熱硬化性樹脂シート1の配置作業には、例えば熱ロールラミネート装置、真空ラミネート装置等を用いることもできる。特に、熱硬化性樹脂シート1は、常温において固形または半固形を呈しているので、一般的なシートと同様の取り扱いが可能になる。このため、各種ラミネート装置等を用いる場合であっても、効率よく配置作業を行うことができる。
なお、後述する電極部埋込工程において加熱された際、熱硬化性樹脂シート1の粘度が低くなり過ぎる場合には、本工程または本工程より前に熱硬化性樹脂シート1を加熱しておいてもよい。これにより、熱硬化性樹脂シート1の硬化反応を進めておくことができ、電極部埋込工程における軟化粘度を調整することができる。加熱温度は、熱硬化性樹脂シート1が硬化に至らない温度であれば特に限定されないが、例えば50〜150℃とされる。
[3]電極部埋込工程
次に、電極部22を熱硬化性樹脂シート1に埋め込む(図2(a)参照)。具体的には、熱硬化性樹脂シート1と半導体素子基板2とを積層してなる積層体を、例えばプレス機の下台と天板との間に配置し、プレス機によって圧縮する。これにより、熱硬化性樹脂シート1に電極部22が埋め込まれるとともに、熱硬化性樹脂シート1を目的とする形状に成形することができる。
かかる埋め込みは、例えば、室温〜300℃の温度(好ましくは50〜250℃の温度)で加熱しつつ、0.01〜10MPaの圧力で、0.1〜300分間圧縮することによって行うことができる。また、圧縮する圧力は、好ましくは0.1〜5MPa、圧縮時間は、好ましくは0.5〜120分とすることができる。
熱硬化性樹脂シート1は、Aステージ(未反応)状態のシリコーン系樹脂を含んでいるため、このような加熱温度で容易に軟化する。そのため、電極部22の形状や厚さ等によらず、電極部22を埋め込むことができる。
[4]硬化工程
次に、熱硬化性樹脂シート1を加熱することにより硬化させる。これにより、硬化物10を得る(図2(b)参照)。
本工程における熱硬化性樹脂シート1の加熱条件は、熱硬化性樹脂12の組成等に応じて適宜設定されるが、例えば50〜300℃であるのが好ましく、70〜180℃であるのがより好ましい。また、加熱時間は、例えば1〜300分であるのが好ましく、2〜120分であるのがより好ましい。これにより、半導体素子基板2の熱劣化を抑えつつ、熱硬化性樹脂シート1を十分に硬化させることができる。
なお、本工程は複数回に分けて行うようにしてもよい。すなわち、上述したような加熱条件で加熱した後、好ましくは50〜300℃、より好ましくは70〜180℃の加熱温度で、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは1〜4時間の後工程を行うようにしてもよい。
また、電極部埋込工程と本工程(硬化工程)とを連続して行うようにしてもよい。すなわち、電極部埋込工程において熱硬化性樹脂シート1に電極部22を埋め込んだ後、そのまま加熱を継続して硬化に至らせるようにしてもよい。
以上のようにして、隣り合う電極部22同士の間に硬化物10を配置することができる。かかる硬化物10は、電極部22同士の間に印加された過電圧から、電極部22を含む回路を保護する機能を有する。このため、回路に接続された発光ダイオード素子(半導体素子)等を過電圧から保護し得る発光ダイオード装置100(半導体装置)が得られる。
その後、必要に応じて、図2(b)に示すように、半導体素子基板2から半導体層支持基板23を剥離する。なお、半導体層支持基板23は、剥離以外の方法、例えば研磨や研削によって除去されてもよい。
次いで、半導体素子基板2および熱硬化性樹脂シート1の表裏を反転させた後、図2(c)に示すように、半導体層21の表面に蛍光体層24を成膜する。蛍光体層24の成膜は、蛍光体を含む組成物を塗布した後、固化(硬化)させる方法、蛍光体を含むシートを重ねた後、固化(硬化)させる方法等により行うことができる。
[5]電極部露出工程
次に、熱硬化性樹脂シート1の硬化物10の一部を除去する。これにより、図2(d)に示すように電極部22を露出させることができ、かかる露出面を介して外部回路との接続を容易に行うことができる。
硬化物10の一部を除去する方法としては、例えば研磨、研削等の機械的方法、溶解、エッチング等の化学的方法等が挙げられる。
なお、電極部22の構造によっては、本工程を省略してもよい。例えば、電極部22を図2の紙面厚さ方向に延伸させることによって電極部22を露出させるようにしてもよい。この場合、硬化物10を除去しなくても電極部22の表面を露出させることができ、この露出部において電極部22の導通を図ることができるので、本工程を省略することができる。
このようにして、半導体素子基板2と、硬化物10と、蛍光体層24と、を含む発光ダイオード装置100を製造することができる。なお、かかる発光ダイオード装置100は、複数のものが集合化されたものであるため、その後、個片化されてもよい。
発光ダイオード装置100が含む硬化物10は、電極部22同士を絶縁する機能とともに、発光ダイオード素子を過電圧から保護する機能を有している。このため、かかる硬化物10は、発光ダイオード装置100の薄型化および小型化に寄与するとともに、静電破壊に対する十分な耐性を付与することができる。
≪第2実施形態≫
次に、本発明の半導体装置の製造方法の第2実施形態について説明する。
図3、4は、それぞれ本発明の半導体装置の製造方法の第2実施形態を適用した発光ダイオード装置の製造方法を説明するための断面図である。
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
本実施形態に係る発光ダイオード装置100の製造方法は、[1]半導体層21とそれに付随する電極部22とを備える半導体素子基板2を準備する工程と、[2]電極部22と重なるように熱硬化性樹脂シート1(本発明の熱硬化性樹脂シートの実施形態)を配置する工程と、[3]電極部22を熱硬化性樹脂シート1に埋め込む工程と、[4]熱硬化性樹脂シート1を硬化させる工程と、[5]熱硬化性樹脂シート1の硬化物10の表面に熱硬化性樹脂部材7を載置し成形する工程と、[6]熱硬化性樹脂部材7を硬化させる工程と、[7]電極部22を露出させる工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
[1]準備工程
まず、第1実施形態と同様、半導体素子基板2および熱硬化性樹脂シート1を準備する。
加えて、本実施形態では、熱硬化性樹脂部材7を準備する。
熱硬化性樹脂部材7は、熱硬化性樹脂を含む部材であれば、いかなる形状であってもよい。具体的には、シート状、粉末状、顆粒状、塊状、タブレット状等であってもよい。
また、熱硬化性樹脂部材7が含む熱硬化性樹脂は、特に限定されず、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリイミド・アミド系樹脂等が挙げられる。
[2]シート配置工程
次に、第1実施形態と同様、電極部22と重なるように熱硬化性樹脂シート1を配置する。
[3]電極部埋込工程
次に、第1実施形態と同様、電極部22を熱硬化性樹脂シート1に埋め込む。
[4]硬化工程
次に、第1実施形態と同様、熱硬化性樹脂シート1を加熱することにより硬化させる。これにより、図3(a)に示す硬化物10を得る。
[5]熱硬化性樹脂部材成形工程
次に、図3(b)に示すように、硬化物10の表面に熱硬化性樹脂部材7を載置する。
熱硬化性樹脂部材7の載置方法は、その形状に応じて適宜選択される。
例えば、熱硬化性樹脂部材7がシート状をなしている場合、ロールラミネート法、真空ラミネート法等により載置することができる。
また、熱硬化性樹脂部材7が粉末状または顆粒状をなしている場合、熱硬化性樹脂部材7を撒いたり、敷き詰めたりすることにより載置することができる。
さらに、熱硬化性樹脂部材7が塊状またはタブレット状をなしている場合、熱硬化性樹脂部材7を並べることにより載置することができる。
次に、硬化物10の表面に載置された熱硬化性樹脂部材7を、目的とする形状に成形する。例えば、熱硬化性樹脂部材7を載置した硬化物10および半導体素子基板2を、プレス機の下台と天板との間に配置し、プレス機によって圧縮する。これにより、熱硬化性樹脂部材7をシート状に成形することができる。
なお、熱硬化性樹脂部材7の載置と成形とを同時に行うようにしてもよい。例えば、硬化物10および半導体素子基板2を成形型のキャビティー内に載置した状態で、トランスファー成形法により、硬化物10の表面に熱硬化性樹脂部材7を供給するとともに成形するようにしてもよい。
[6]熱硬化性樹脂部材硬化工程
次に、成形された熱硬化性樹脂部材7を加熱することにより硬化させる。これにより、図3(c)に示す硬化物70を得る。
本工程における熱硬化性樹脂部材7の加熱条件は、熱硬化性樹脂部材7の組成等に応じて適宜設定されるが、例えば50〜300℃であるのが好ましく、70〜180℃であるのがより好ましい。また、加熱時間は、例えば1〜300分であるのが好ましく、2〜120分であるのがより好ましい。これにより、半導体素子基板2の熱劣化を抑えつつ、熱硬化性樹脂部材7を十分に硬化させることができる。
なお、本工程は複数回に分けて行うようにしてもよい。すなわち、上述したような加熱条件で加熱した後、好ましくは50〜200℃、より好ましくは70〜180℃の加熱温度で、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは1〜4時間の後工程を行うようにしてもよい。
以上のようにして、硬化物10の表面に熱硬化性樹脂部材7の硬化物70を積層することができる。
その後、図4(a)に示すように、半導体素子基板2から半導体層支持基板23を剥離する。
次いで、第1実施形態と同様、半導体素子基板2の表裏を反転させた後、半導体層21の表面に蛍光体層24を成膜する(図4(b)参照)。
[7]電極部露出工程
次に、必要に応じて、電極部22を露出させる。具体的には、熱硬化性樹脂部材7の硬化物70の全部と熱硬化性樹脂シート1の硬化物10の一部とを除去する。これにより、図4(c)に示すように電極部22を露出させることができ、かかる露出面を介して外部回路との接続を容易に行うことができる。
硬化物70を除去する方法としては、前述した第1実施形態において硬化物10を除去する方法と同様の方法を用いることができる。
以上のような第2実施形態でも、第1実施形態と同様の効果が得られる。
また、この方法では、硬化物10に加えて硬化物70が積層される。このため、半導体素子基板2は、これら硬化物10と硬化物70の積層体で支持されることとなり、反りの発生がより確実に抑制される。その結果、電極部露出工程において例えば硬化物10の一部を除去する場合も、除去作業の寸法精度を高めることができる。
さらに、硬化物70が積層されることによって、その分、硬化物10の厚さを減じたとしても半導体素子基板2の反りを抑制するという作用の低減を避けることができる。このため、熱硬化性樹脂シート1の厚さを薄くしても半導体素子基板2の反りを抑制することが可能になり、熱硬化性樹脂シート1の使用量の削減を図ることができる。特に半導体セラミックス粒子11は、高コストの物質を含んでいることが多いため、その使用量が削減されることによって、熱硬化性樹脂シート1の低コスト化および発光ダイオード装置100の製造コストの低減を図ることができる。
<熱硬化性樹脂シート>
≪第1実施形態≫
次に、本発明の熱硬化性樹脂シートの第1実施形態について説明する。
本実施形態に係る熱硬化性樹脂シート1は、粒界部とこの粒界部によって離隔される複数の結晶部とを含む半導体セラミックス粒子11と、シリコーン系樹脂を含有する熱硬化性樹脂12と、を含む樹脂組成物により構成されている。そして、熱硬化性樹脂12は、未硬化状態にあり、常温で固形または半固形を呈している。
このような熱硬化性樹脂シート1は、加熱により硬化する。その際、硬化過程の初期において一旦、軟化が生じ、その後、粘度が再上昇して硬化に至る。また、熱硬化性樹脂シート1は、常温では固形または半固形であるので取り扱いが容易であるとともに、比較的容易に軟化して目的とする形状に成形することができ、その後、硬化によってその形状を維持させることができる。このため、目的とする形状の絶縁層を容易に形成することができる。
また、熱硬化性樹脂シート1では、熱硬化性樹脂12中に半導体セラミックス粒子11が分散しており、その状態が維持されるようになっている。これにより、経時的に半導体セラミックス粒子11が沈降したり、分離が生じたりすることが抑制される。
また、常温において固形または半固形を呈する熱硬化性樹脂シート1は、軟化した状態で被着物に密着し、その後、硬化することにより被着物に固定される。このため、被着物の表面に均一な厚さの絶縁層を形成するとともに、被着物の表面に対して半導体セラミックス粒子11を均一に分散させた状態で固定することができる。
なお、常温とは、15〜30℃の温度範囲を指し、特に25℃を指す。
また、「半固形」とは、可塑性を有する状態を指し、特定の形状に成形されたとき、その形状を1時間以上、好ましくは8時間以上にわたって保持し得る特性を有する状態をいう。例えば、常温において非常に高い粘度を有し少なくとも1時間にわたって形状の変化を肉眼において認めない場合、その熱硬化性樹脂は「半固形」であるという。
熱硬化性樹脂シート1が硬化することにより、絶縁性を有する絶縁層を形成することができる。一方、半導体セラミックス粒子11は、高電圧が印加された場合には、電気抵抗の低下を生じ、電流を通すことができる。このため、熱硬化性樹脂シート1の硬化物10は、電極部22同士の間に入り込むことで半導体素子を含む回路に組み込まれることにより、半導体素子に高電圧が印加されるのを抑制する保護素子として機能する。
また、硬化物10は、電圧−電流特性がオームの法則に従わない非直線性を示すのが好ましい。このような硬化物10は、特定の電圧以下の電圧が印加されている間は絶縁性を示し、所定の電圧を超える電圧が印加されたときには導電性を示す。このため、半導体素子を含む回路に硬化物10が組み込まれることにより、例えば半導体素子に対して高電圧が誘導されたとき、硬化物10は導電性を示すため硬化物10にサージ電流を流すことができる。これにより、半導体素子に対して高電圧が印加されるのを防止することができる。その結果、半導体素子の静電破壊を防止することができる。
なお、本明細書では、「電圧−電流特性がオームの法則に従わない非直線性」のことを「バリスタ特性」ともいう。
熱硬化性樹脂シート1の厚さは、特に限定されないが、5μm以上2000μm以下であるのが好ましく、10μm以上1000μm以下であるのがより好ましい。これにより、熱硬化性樹脂シート1は、単独でも十分な剛性を有するものとなる。その結果、熱硬化性樹脂シート1の取り扱いがより容易になるとともに、破れ等が生じ難いものとなる。
加えて、十分な変形許容量を確保することができるので、例えば熱硬化性樹脂シート1に電極部22を埋め込む場合、埋め込み量が大きい場合でも貫通させることなく埋め込むことができる。このため、適用対象の選択自由度が高い熱硬化性樹脂シート1が得られる。
以下、第1実施形態に係る熱硬化性樹脂シート1についてさらに詳述する。
図5は、図2(a)に示す熱硬化性樹脂シート(本発明の熱硬化性樹脂シートの第1実施形態)の一部を拡大して示す断面図である。
(樹脂組成物)
熱硬化性樹脂12は、シリコーン系樹脂を含有する。このような熱硬化性樹脂12は、シリコーン系樹脂特有の性質、すなわち樹脂材料であるにもかかわらず、Siに由来する無機的性質に起因して、無機系材料に対する優れた親和性を有する。このため、熱硬化性樹脂12は半導体セラミックス粒子11に対する濡れ性が高くなり、より均質な熱硬化性樹脂シート1の実現に寄与する。
熱硬化性樹脂12に含まれるシリコーン系樹脂の組成は、特に限定されないものの、好ましくは繰り返し単位として3官能性シラン由来の単位を有する第1のシリコーン系樹脂を含む。このような繰り返し単位を有する第1のシリコーン系樹脂は、三次元網目構造を形成する。このため、かかるシリコーン系樹脂は、常温においてより固形または半固形を呈し易くなり、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性をより高めることができる。また、熱硬化性樹脂シート1の硬化物10に対して硬度を高めるように作用し、熱硬化性樹脂12の硬化物と半導体セラミックス粒子11との密着性が特に良好になるので、バリスタ特性を特に高めるとともに硬化物10とその被着物との間の密着性も高めることができる。加えて、かかるシリコーン系樹脂は、熱硬化性樹脂シート1の表面タック性が大きくなるのを抑えることができる。これにより、熱硬化性樹脂シート1に異物が付着したり、熱硬化性樹脂シート1が装置等に貼着したりする確率を下げることができる。このため、かかる観点からも熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性を高めることができる。
ここで、3官能性シラン由来の単位とは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位(T単位)のことをいう。
RSiO3/2 (1)
[ただし、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、フェニル基等の非反応性官能基、または反応性官能基を示す。]
また、第1のシリコーン系樹脂は、好ましくは繰り返し単位として3官能性シラン由来の単位をモル比で最も多く含むオルガノポリシロキサンとされる。これにより、上述した効果がより顕著になり、例えば熱硬化性樹脂12に第1のシリコーン系樹脂以外の樹脂が含まれた場合でも、常温において固形または半固形を呈し易くすることができる。このため、熱硬化性樹脂12の組成の選択自由度をより高めることができる。
なお、このような第1のシリコーン系樹脂は、各単位の原料となる化合物を、重合後において各単位が目的とするモル比となるように調製し、これらを例えば酸の存在下で共加水分解縮合させることによって合成することができる。
3官能性シラン由来の単位の原料としては、例えば、MeSiCl3、EtSiCl3、PhSiCl3、プロピルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシランのようなクロロシラン類、メトキシシランのようなアルコキシシラン類等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて含む原料が用いられる。なお、上記原料におけるMeはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基を指す。
また、第1のシリコーン系樹脂は、3官能性シラン由来の単位以外に、1官能性シラン由来の単位、2官能性シラン由来の単位、および4官能性シラン由来の単位のうちの少なくとも1種を繰り返し単位として含んでいてもよい。
このうち、第1のシリコーン系樹脂は、3官能性シラン由来の単位に次いで2官能性シラン由来の単位を多く含むことが好ましい。これにより、熱硬化性樹脂シート1の可撓性を制御し易くなり、目的とする可撓性を有する熱硬化性樹脂シート1が得られる。
なお、1官能性シラン由来の単位とは、下記一般式(2)で表される繰り返し単位(M単位)のことをいう。
R3SiO1/2 (2)
[ただし、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、フェニル基等の非反応性官能基、または反応性官能基を示す。]
また、2官能性シラン由来の単位とは、下記一般式(3)で表される繰り返し単位(D単位)のことをいう。
R2SiO2/2 (3)
[ただし、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、フェニル基等の非反応性官能基、または反応性官能基を示す。]
また、4官能性シラン由来の単位とは、下記一般式(4)で表される繰り返し単位(Q単位)のことをいう。
SiO4/2 (4)
また、本実施形態に係る第1のシリコーン系樹脂は、反応性官能基として、ビニル基、エポキシ基、ヒドロキシ基、水素原子、アクリル基、メタクリル基、メルカプト基、アルコキシ基等を有している。このうち、ビニル基、エポキシ基、ヒドロキシ基および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種の反応性官能基を有するのが好ましい。このような第1のシリコーン系樹脂は、前記反応性官能基を有するため、別の樹脂と反応して結合することができる。これにより、熱硬化性樹脂シート1(熱硬化性樹脂12)の固形または半固形という特性を維持しつつ、硬化時の被着体との密着性を向上させることができる。
なお、ビニル基、エポキシ基および水素原子は、それぞれ付加反応を生じる。このため、熱硬化性樹脂シート1が硬化する際、反応副生成物が発生せず、かつ、硬化収縮が少なくて済む。このため、特に取り扱い性が良好な熱硬化性樹脂シート1が得られる。また、硬化物10においては、熱硬化性樹脂12の硬化物と半導体セラミックス粒子11との密着性が特に良好になり、バリスタ特性を特に高めることができる。
一方、ヒドロキシ基は、別のヒドロキシ基との間で脱水縮合反応を生じる。脱水縮合反応では、原則として触媒がなくても反応が進むので、反応が均一に進み易い。このため、より均質な熱硬化性樹脂シート1の硬化物10が得られるという利点を有する。
第1のシリコーン系樹脂は常温で固形または半固形で軟化点を有することが好ましい。
また、熱硬化性樹脂12は、さらに、第1のシリコーン系樹脂と反応する第2のシリコーン系樹脂を含んでいてもよい。かかる第2のシリコーン系樹脂を含むことにより、熱硬化性樹脂シート1には、固形または半固形という特性を損なうことなく、第2のシリコーン系樹脂に由来する特性を付加することができる。これにより、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性をさらに高めることができる。加えて、第2のシリコーン系樹脂と第1のシリコーン系樹脂とが反応することにより、熱硬化性樹脂12が硬化する際に形成される三次元網目構造をより嵩高くすることができる。これにより、硬化物10の機械的強度や他の部材への密着性を向上させることができる。その結果、熱硬化性樹脂シート1は、より取り扱い性が良好で、かつ、硬化後の信頼性に優れたものとなる。
第2のシリコーン系樹脂は、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基に反応する置換基を有するオルガノポリシロキサンであれば、特に限定されない。
かかる置換基としては、例えば、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基がビニル基である場合、水素原子等が挙げられる。また、反応性官能基が水素原子である場合には、ビニル基等が挙げられ、反応性官能基がエポキシ基やヒドロキシ基である場合には、ヒドロキシ基やエポキシ基等が挙げられる。
この他、第2のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基としては、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基がビニル基である場合、エポキシ基等であってもよく、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基がエポキシ基である場合、ビニル基等であってもよい。
なお、第2のシリコーン系樹脂は、1官能性シラン由来の単位、2官能性シラン由来の単位、3官能性シラン由来の単位、および4官能性シラン由来の単位のうちの少なくとも1種を繰り返し単位として含んでいてもよい。
また、第2のシリコーン系樹脂は、少なくとも2官能性シラン由来の単位を含んでおり、そのうちの少なくとも一部が連続して繰り返す構造を含んでいるのが好ましい。これにより、第2のシリコーン系樹脂は、熱硬化性樹脂シート1に対して適度な可撓性を付与するとともに、硬化物10に対して伸縮性を付与することができる。その結果、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性がさらに高くなるとともに、硬化物10の信頼性や他の部材との密着性をより高めることができる。なお、このような効果は、前記構造が直鎖状に延伸する構造であることが理由の1つとして考えられる。
加えて、熱硬化性樹脂シート1の埋め込み性(流動性)がより良好になる。すなわち、熱硬化性樹脂シート1に部材等を埋め込むとき、その形状追従性が良好になる。その結果、部材との間に隙間が生じ難くなるとともに、熱硬化性樹脂シート1を凹部等に充填するときの充填性も良好になる。
なお、上述したような2官能性シラン由来の単位が繰り返す構造には、第2のシリコーン系樹脂が繰り返し単位として含む2官能性シラン由来の単位のうち、50モル%以上が含まれているのが好ましく、80モル%以上が含まれているのがより好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著になる。
また、第2のシリコーン系樹脂に含まれる置換基、すなわち、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基に反応する置換基(反応性官能基)を有する繰り返し単位(X単位)は、特に、下記一般式(6)で表される。
RaXbSiO(4−a−b)/2 (6)
[ただし、Xは、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基に反応する置換基を示し、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、フェニル基等の非反応性官能基を示す。また、aは0、1または2であり、bは1または2であり、a+bは2または3である。]
また、第2のシリコーン系樹脂におけるT単位の含有率(モル%)は、第1のシリコーン系樹脂におけるT単位の含有率(モル%)より小さいことが好ましく、20モル%以上小さいことがより好ましい。これにより、第1のシリコーン系樹脂の剛性と第2のシリコーン系樹脂の可撓性とのバランスが最適化され、熱硬化性樹脂シート1の埋め込み性(流動性)と取り扱い性とをより高度に両立させることができる。
なお、このような第2のシリコーン系樹脂は、各単位の原料となる化合物を、重合後において各単位が目的とするモル比となるように調製し、これらを例えば酸の存在下で共加水分解縮合させることによって合成することができる。
また、上述したX単位の一般式(6)は、RXSiO単位、R2XSiO1/2単位、X2SiO単位、およびRX2SiO1/2単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位の任意の組み合わせであることを示している。そして、X単位の原料としては、Me2XSiCl、MeXSiCl2、Ph2XSiCl、PhXSiCl2等のクロロシラン類、これらのクロロシラン類に対応するメトキシシラン類のような各種アルコキシシラン類等が挙げられる。なお、上記原料におけるMeはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基を指す。
第2のシリコーン系樹脂は、常温で液状、半固形または固形のいずれであってもよいが、熱硬化性樹脂シート1の埋め込み性(流動性)を良好にするためには常温で液状であることが好ましく、常温の粘度は0.1〜1000Pa.sであることが好ましい。
また、熱硬化性樹脂12は、さらに、第1のシリコーン系樹脂や第2のシリコーン系樹脂とは異なる第3のシリコーン系樹脂を含んでいてもよい。第3のシリコーン系樹脂としては、例えば、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基と反応する置換基を有するもの、あるいは、第2のシリコーン系樹脂が有する置換基と反応する置換基を有するもの等が挙げられる。かかる第3のシリコーン系樹脂を含むことにより、熱硬化性樹脂シート1には、固形または半固形という特性を損なうことなく、第3のシリコーン系樹脂に由来する特性を付加することができる。これにより、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性をさらに高めることができる。加えて、第3のシリコーン系樹脂と第1のシリコーン系樹脂および第2のシリコーン系樹脂の少なくとも一方とが反応することにより、熱硬化性樹脂12が硬化する際に形成される三次元網目構造をより嵩高くすることができる。これにより、硬化物10の機械的強度や他の部材への密着性を向上させることができる。その結果、熱硬化性樹脂シート1は、より取り扱い性が良好で、かつ、硬化後の信頼性に優れたものとなる。
第3のシリコーン系樹脂は、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基に反応する置換基を有するオルガノポリシロキサン、または、第2のシリコーン系樹脂が有する置換基に反応する置換基を有するオルガノポリシロキサンであれば、特に限定されない。
第3のシリコーン系樹脂が有する置換基としては、例えば、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基がビニル基である場合、水素原子等が挙げられる。また、反応性官能基が水素原子である場合には、ビニル基等が挙げられ、反応性官能基がエポキシ基やヒドロキシ基である場合には、ヒドロキシ基やエポキシ基等が挙げられる。同様に、第3のシリコーン系樹脂が有する置換基としては、例えば、第2のシリコーン系樹脂が有する置換基がビニル基である場合、水素原子等が挙げられ、第2のシリコーン系樹脂が有する置換基が水素原子である場合、ビニル基等が挙げられ、第2のシリコーン系樹脂が有する置換基がエポキシ基やヒドロキシ基である場合には、ヒドロキシ基やエポキシ基等が挙げられる。
なお、第3のシリコーン系樹脂は、1官能性シラン由来の単位、2官能性シラン由来の単位、3官能性シラン由来の単位、および4官能性シラン由来の単位のうちの少なくとも1種を繰り返し単位として含んでいてもよい。
また、第3のシリコーン系樹脂は、少なくとも2官能性シラン由来の単位を含んでおり、そのうちの少なくとも一部が連続して繰り返す構造を含んでいるのが好ましい。これにより、第3のシリコーン系樹脂は、熱硬化性樹脂シート1に対して適度な可撓性を付与するとともに、硬化物10に対して伸縮性を付与することができる。その結果、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性がさらに高くなるとともに、硬化物10の信頼性や他の部材との密着性をより高めることができる。なお、このような効果は、前記構造が直鎖状に延伸する構造であることが理由の1つとして考えられる。
加えて、熱硬化性樹脂シート1の埋め込み性(流動性)がより良好になる。すなわち、熱硬化性樹脂シート1に部材等を埋め込むとき、その形状追従性が良好になる。その結果、部材との間に隙間が生じ難くなるとともに、熱硬化性樹脂シート1を凹部等に充填するときの充填性も良好になる。
なお、上述したような2官能性シラン由来の単位が繰り返す構造には、第3のシリコーン系樹脂が繰り返し単位として含む2官能性シラン由来の単位のうち、50モル%以上が含まれているのが好ましく、80モル%以上が含まれているのがより好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著になる。
また、第3のシリコーン系樹脂に含まれる置換基(反応性官能基)、すなわち、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基に反応する置換基または第2のシリコーン系樹脂が有する置換基に反応する置換基を有する繰り返し単位(Y単位)は、特に、下記一般式(7)で表される。
RcYdSiO(4−c−d)/2 (7)
[ただし、Yは、第1のシリコーン系樹脂が有する反応性官能基に反応する置換基または第2のシリコーン系樹脂が有する置換基に反応する置換基を示し、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、フェニル基等の非反応性官能基を示す。また、cは0、1または2であり、dは1または2であり、c+dは2または3である。]
また、第3のシリコーン系樹脂におけるT単位の含有率(モル%)は、第1のシリコーン系樹脂におけるT単位の含有率(モル%)より小さいことが好ましく、20モル%以上小さいことがより好ましい。これにより、第1のシリコーン系樹脂の剛性と第3のシリコーン系樹脂の可撓性とのバランスが最適化され、熱硬化性樹脂シート1の埋め込み性(流動性)と取り扱い性とをより高度に両立させることができる。
なお、このような第3のシリコーン系樹脂は、各単位の原料となる化合物を、重合後において各単位が目的とするモル比となるように調製し、これらを例えば酸の存在下で共加水分解縮合させることによって合成することができる。
また、上述したY単位の一般式(7)は、RYSiO単位、R2YSiO1/2単位、Y2SiO単位、およびRY2SiO1/2単位からなる群より選択される少なくとも1種の単位の任意の組み合わせであることを示している。そして、Y単位の原料としては、Me2YSiCl、MeYSiCl2、Ph2YSiCl、PhYSiCl2等のクロロシラン類、これらのクロロシラン類に対応するメトキシシラン類のような各種アルコキシシラン類等が挙げられる。なお、上記原料におけるMeはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基を指す。
第3のシリコーン系樹脂は常温で液状、半固形または固形のいずれでも良いが、熱硬化性樹脂シート1の埋め込み性(流動性)を良好にするためには常温で液状であることが好ましく、常温の粘度は0.1〜1000Pa・sであることが好ましい。
以上、第1〜第3のシリコーン系樹脂について説明したが、シリコーン系樹脂全体における第1のシリコーン系樹脂の含有率は、特に限定されず、0.1〜50質量%であるのが好ましく、2〜30質量%であるのがより好ましく、3〜20質量%であることが特に好ましい。第1のシリコーン系樹脂の含有率を前記範囲内に設定することで、熱硬化性樹脂12は常温において固形または半固形をより呈し易くなる。このため、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性をより高めることができる。また、熱硬化性樹脂シート1の硬化物10の硬度をより高めることができ、熱硬化性樹脂12の硬化物と半導体セラミックス粒子11との密着性が特に良好になるので、バリスタ特性を特に高めるとともに硬化物10とその被着物との間の密着性も高めることができる。加えて、熱硬化性樹脂シート1の可撓性を確保しつつ、表面タック性を抑える(表面タックフリー性を高める)ことができる。これにより、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性をさらに高めることができるとともに、熱硬化性樹脂シート1に異物が付着したり、熱硬化性樹脂シート1が装置等に貼着したりする確率をより下げることができる。
また、各々のシリコーン系樹脂の反応性官能基の当量を考慮して、反応に寄与しないシリコーン系樹脂の発生量を最小限に留めることが好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著になる。
また、熱硬化性樹脂12にはこの他に有機溶剤が添加されていてもよく、その他の添加物が添加されていてもよい。
有機溶剤としては、例えば、沸点が80〜200℃程度の溶剤が好ましく用いられる。具体的には、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ヘキサメチルジシクロサン等が挙げられる。また、有機溶剤の使用量は、例えば、ワニスの固形分濃度が20〜99質量%程度になるように調整される。そして、調製されたワニスを、ポリエステルフィルムやフッ素樹脂フィルム等の支持体上に塗布した後、溶剤を乾燥除去することにより、シート体を得ることができる。
その他の添加物としては、例えば、無機充填材、密着助剤、反応抑制剤、硬化触媒等が挙げられる。
このうち、無機充填材の構成材料としては、特に限定されないものの、例えば、シリカ、二酸化チタン、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化鉄、酸化亜鉛等が挙げられる。このような無機充填材を添加することにより、熱硬化性樹脂シート1やその硬化物10の熱膨張係数を低下させることができ、被着体との熱膨張差を低減することができるが、バリスタ特性は低下するおそれがある。そのため、無機充填材の添加量はシリコーン系樹脂の合計量100質量部に対して100質量部以下の割合であることが好ましい。
なお、無機充填材の平均粒径は、0.001〜150μmであるのが好ましく、0.01〜100μmであるのがより好ましい。これにより、熱膨張係数を効率よく調整することができ、かつ、熱硬化性樹脂シート1の機械的特性が低下するのを抑制することができる。
また、密着助剤としては、特に限定されないものの、例えば、ケイ素原子に結合した水素原子、ケイ素原子に結合したアルケニル基、アルコキシシリル基、エポキシ基等の官能基を含むシロキサンモノマーやシロキサンオリゴマー等が挙げられる。密着助剤は、シリコーン系樹脂の合計量100質量部に対して10質量部以下の割合で添加されるのが好ましく、0.1〜8質量部の割合で添加されるのがより好ましい。このような密着助剤を添加することにより、熱硬化性樹脂シート1やその硬化物10の被着物への接着性をより高めることができる。
また、反応抑制剤としては、特に限定されないものの、例えば、トリアリルイソシアヌレート、アルキルマレエート、アセチレンアルコール類、アセチレンアルコール類のシラン変性物、アセチレンアルコール類のシロキサン変性物、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。反応抑制剤は、シリコーン系樹脂の合計量100質量部に対して0.001〜1.0質量部の割合で添加されるのが好ましく、0.005〜0.5質量部の割合で添加されるのがより好ましい。このような反応抑制剤を添加することにより、熱硬化性樹脂シート1の硬化反応を抑制することができ、熱硬化性樹脂シート1の保存性を向上させることができる。
また、硬化触媒としては、特に限定されないものの、例えば、H2PtCl6・mH2O、K2PtCl6、KHPtCl6・mH2O、K2PtCl4、K2PtCl4・mH2O、PtO2・mH2O(mは、それぞれ正の整数)や、これらの化合物と、オレフィン等の炭化水素、アルコールまたはビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化触媒は、特にヒドロシリル化に基づく硬化反応の促進に寄与し、これらの硬化反応を生じる樹脂の合計量に対して白金族金属としての質量に換算して0.1〜500ppmであるのが好ましく、0.5〜100ppmであるのがより好ましい。
(半導体セラミックス粒子)
図6は、図5に示す半導体セラミックス粒子の部分拡大図である。
図6に示す半導体セラミックス粒子11は、粒界部111と、上記粒界部111によって離隔された複数の結晶部112とを有する粒子である。すなわち、半導体セラミックス粒子11は、結晶部112同士が粒界部111を介して凝集してなる二次粒子である。このような半導体セラミックス粒子11は、バリスタ電圧未満の電圧が印加された場合には、粒界部111が抵抗として作用するため電流を通さないが、バリスタ電圧以上の電圧が印加された場合には、トンネル効果が生じて図6に示す矢印のように電流を通すという特性を有する。
半導体セラミックス粒子11の平均粒子径D50は、例えば0.01μm以上1500μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上1000μm以下であるのがより好ましく、1μm以上500μm以下であるのがさらに好ましく、5μm以上150μm以下であるのが特に好ましい。これにより、より狭い隙間にも半導体セラミックス粒子11を侵入させることができるので、発光ダイオード装置100の電極配置の高密度化に寄与することができる。また、半導体セラミックス粒子11においてより確実にバリスタ特性を発現させることが可能となる。
なお、半導体セラミックス粒子11の平均粒子径D50は、例えば、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて得られた質量基準の粒度分布において、累積50%の粒子径のことをいう。
また、半導体セラミックス粒子11は、球状粒子であることが好ましい。これにより、バリスタ特性の制御を容易に行うことができる。
半導体セラミックス粒子11において結晶部112は、酸化亜鉛、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウムおよびチタン酸バリウムからなる群より選択される1種以上を含む材料により形成されていることが好ましい。特に酸化亜鉛を主成分として含む材料は、半導体セラミックス粒子11自体の非直線性係数やエネルギー耐量を向上させる観点から好ましい。炭化ケイ素を主成分として含む材料は、絶縁破壊電圧が高いため、バリスタ電圧を高電圧に設定する場合には好適である。また、チタン酸ストロンチウムを主成分として含む材料は、高電圧・高周波ノイズの吸収や抑制という点において、好適である。
半導体セラミックス粒子11において粒界部111は、ビスマス、プラセオジム、アンチモン、マンガン、コバルトおよびニッケル、またはこれらの化合物からなる群より選択される1種以上を含む材料により形成されていることが好ましい。中でも、粒界部111は、非直線性抵抗特性が良好であるという観点から、ビスマス、プラセオジム、またはこれらの化合物からなる群より選択される1種以上を含む材料により形成されていることが好ましい。なお、上記これらの化合物としては、酸化物、窒化物、有機化合物、その他の無機化合物等が挙げられるが、バリスタ特性を良好に発現させる観点から、酸化物であることが好ましい。
半導体セラミックス粒子11の含有量は、熱硬化性樹脂シート1の硬化物10のバリスタ特性を発現させるという観点から、硬化前の熱硬化性樹脂シート1において、好ましくは60質量%以上97質量%以下とされ、より好ましくは70質量%以上95質量%以下とされ、さらに好ましくは75質量%以上95質量%以下とされる。半導体セラミックス粒子11の含有量が前記範囲内となるよう制御することにより、図5に示す模式図のように、隣り合う電極部22同士の間に半導体セラミックス粒子11を必要かつ十分な密度で存在させることができる。これにより、硬化物10の保護素子としてのエネルギー耐量やバリスタ特性をより高めることができる。
また、硬化物10において、半導体セラミックス粒子11同士は互いに離間していてもよいが、互いに接しているのが好ましい。なお、半導体セラミックス粒子11の含有量を前記範囲内となるよう制御することにより、半導体セラミックス粒子11同士を互いに接し易くさせ、硬化物10のバリスタ特性をより確実に発現させることができる。
なお、熱硬化性樹脂シート1は、熱硬化性樹脂とともに、特定量のバリスタ特性を示す半導体セラミックス粒子11を含む構成を採用している。かかる構成を採用することによって、熱硬化性樹脂シート1は、可塑性を有するものとなるため、従来の保護素子用の組成物と比較して成形が容易であり、各種各様の形状にすることが可能である。このため、電極部22の形状によらず熱硬化性樹脂シート1を適用することができる。
また、このような熱硬化性樹脂シート1は、半導体セラミックス粒子11と熱硬化性樹脂12とを含んでいるため、チキソトロピー性を示す。このため、熱硬化性樹脂シート1は、電極部22が埋め込まれるときには、電極部22の埋入とともに優れた流動性を示す一方、埋入が終了した後には、流動性の低下(粘度の増大)を招く。その結果、熱硬化性樹脂シート1は、成形性(形状追従性)と保形性とを両立するものとなる。特に、埋入が終了した後に流動性が低下することにより、熱硬化性樹脂シート1と電極部22とが十分に密着した状態を容易に作り出すことができる。このため、熱硬化性樹脂シート1によれば、電極部22と硬化物10との密着性が特に良好で信頼性の高い発光ダイオード装置100を効率よく製造することが可能になる。
また、熱硬化性樹脂シート1の軟化点は、特に限定されないが、35〜170℃であるのが好ましく、40〜140℃であるのがより好ましい。これにより、電極部22を熱硬化性樹脂シート1に埋め込む作業をより容易かつ確実に行うことができる。
なお、熱硬化性樹脂シート1の軟化点は、例えば、サーモメカニカルアナリシス(TMA)でペネトレーション法により測定される。
また、熱硬化性樹脂シート1は、支持材や保護材を含んだ形態であってもよい。すなわち、熱硬化性樹脂シート1は、半導体セラミックス粒子11と熱硬化性樹脂12とを含む樹脂層と、かかる樹脂層を支持する支持材と、を含んでいてもよく、さらに、樹脂層の支持材とは反対側に設けられ、樹脂層を保護する保護材を含んでいてもよい。支持材を含むことにより、樹脂層が補強されるため、樹脂層自体の厚さが薄い場合でも、熱硬化性樹脂シート1全体の剛性が確保され、取り扱い性が良好になる。また、保護材を含むことにより、樹脂層が外力や異物付着等から保護されるため、樹脂層に電極部22を埋め込む作業を支障なく行うことができる。
支持材および保護材の構成材料としては、例えば、フッ素樹脂フィルム、PET樹脂フィルムのようなポリエステルフィルム、ポリエチレン樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム、ポリノルボルネン樹脂フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂フィルムのようなポリオレフィン樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム等の有機樹脂フィルム、銅箔、アルミ箔のような金属等が挙げられる。
このうち、支持材としては、特に、PET樹脂フィルムまたはエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂フィルムが好ましく用いられる。また、保護材としては、特に、ポリエチレン樹脂フィルムまたはポリプロピレン樹脂フィルムが好ましく用いられる。
≪第2実施形態≫
次に、本発明の熱硬化性樹脂シートの第2実施形態について説明する。
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
本実施形態に係る熱硬化性樹脂シート1は、熱硬化性樹脂12に含まれる第1のシリコーン系樹脂、第2のシリコーン系樹脂および第3のシリコーン系樹脂の組み合わせが、第1実施形態と異なること以外、第1実施形態と同様である。
本実施形態に係る第1のシリコーン系樹脂は、第1実施形態と同様、繰り返し単位として3官能性シラン由来の単位を有している。また、本実施形態に係る第1のシリコーン系樹脂は、反応性官能基を実質的に有しておらず、代わりに非反応性官能基を有している。非反応性官能基としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、シクロヘキシル基のようなシクロアルキル基、フェニル基、フロロ基、ポリエーテル基等が挙げられる。
このように第1のシリコーン系樹脂が非反応性官能基を有している場合でも、繰り返し単位として3官能性シラン由来の単位を有していることで、第1のシリコーン系樹脂には三次元網目構造が形成される。これにより、かかるシリコーン系樹脂は、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性をより高めることができる。
以上の点が異なる以外、本実施形態に係る第1のシリコーン系樹脂は、第1実施形態に係る第1のシリコーン系樹脂と同様である。
また、本実施形態に係る第2のシリコーン系樹脂は、ビニル基および水素原子のうちの少なくとも1種の置換基を有するオルガノポリシロキサンである。かかる第2のシリコーン系樹脂を含むことにより、熱硬化性樹脂シート1には、固形または半固形という特性を損なうことなく、第2のシリコーン系樹脂に由来する特性をより確実に付加することができる。これにより、熱硬化性樹脂シート1の取り扱い性をさらに高めることができる。特に、これらの置換基は、反応性を有するため、別の樹脂と反応して結合することができる。これにより、熱硬化性樹脂シート1の固形または半固形という特性を維持しつつ、硬化時の被着物に対する密着性を向上させることができる。
以上の点が異なる以外、本実施形態に係る第2のシリコーン系樹脂は、第1実施形態に係る第2のシリコーン系樹脂と同様である。
また、本実施形態に係る第3のシリコーン系樹脂は、第2のシリコーン系樹脂が有する置換基と反応する置換基を有するオルガノポリシロキサンである。かかる第3のシリコーン系樹脂を含むことにより、熱硬化性樹脂シート1には、固形または半固形という特性を損なうことなく、第3のシリコーン系樹脂に由来する特性を付加することができる。加えて、第2のシリコーン系樹脂と第3のシリコーン系樹脂とが反応することにより、熱硬化性樹脂12には直鎖状のポリマー同士が架橋した構造が形成される。これにより、熱硬化性樹脂シート1には、固形または半固形という性状に加えて、硬化物10には、より優れた機械的強度や他の部材への密着性が付与される。その結果、熱硬化性樹脂シート1は、より取り扱い性が良好で、かつ、硬化後の信頼性に優れたものとなる。
以上の点が異なる以外、本実施形態に係る第3のシリコーン系樹脂は、第1実施形態に係る第3のシリコーン系樹脂と同様である。
なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
≪第3実施形態≫
次に、本発明の熱硬化性樹脂シートの第3実施形態について説明する。
図7は、図2(a)に示す熱硬化性樹脂シート(本発明の熱硬化性樹脂シートの第3実施形態)の一部を拡大して示す断面図である。
以下、第3実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
本発明の熱硬化性樹脂シートは、前述した各実施形態に任意の添加物が添加されたものであってもよいが、一例として、本実施形態に係る熱硬化性樹脂シート1は、さらに導電粒子18を含んでいる。これにより、熱硬化性樹脂シート1の硬化物10にバリスタ電圧を超える電圧が印加されたとき、硬化物10の電気伝導性をより高めることができる。すなわち、図7に示すように、隣り合う電極部22同士の間に、導電粒子18が入り込むことにより、バリスタ電圧を超えたときの電子伝導パスを形成することができる。これにより、硬化物10のバリスタ特性をより良好なものとすることができる。
導電粒子18の含有量は、硬化物10のバリスタ特性を十分に発現させるという観点から、熱硬化性樹脂シート1の全量において、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下である。導電粒子18の含有量を前記範囲内となるよう制御することにより、図7に示す模式図のように、互いに隣り合う電極部22同士の間に侵入した複数の半導体セラミックス粒子11の隙間領域に対して、導電粒子18をより確実に入り込ませることが可能となる。
導電粒子18の平均粒子径D50は、硬化物10のバリスタ特性を十分に発現させるという観点から、例えば0.01μm以上500μm以下であるのが好ましく、0.02μm以上300μm以下であるのがより好ましく、0.05μm以上200μm以下であるのがさらに好ましく、0.1μm以上100μm以下であるのが特に好ましい。
なお、導電粒子18の平均粒子径D50は、例えば、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて得られた質量基準の粒度分布において、累積50%の粒子径のことをいう。
導電粒子18を形成する材料の具体例としては、ニッケル、カーボンブラック、アルミニウム、銀、金、銅、グラファイト、亜鉛、鉄、ステンレス鋼、錫、黄銅、およびそれらの合金からなる群より選択される導電材料や、酸化亜鉛、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸バリウムからなる群より選択される半導電材料等が挙げられる。
また、熱硬化性樹脂シート1に含まれる半導体セラミックス粒子11と、導電粒子18の大きさは、以下の条件を満たすものであることが好ましい。具体的には、半導体セラミックス粒子11の平均粒子径D50をxとし、導電粒子18の平均粒子径D50をyとしたとき、y/xの値は、0.05以上1未満であることが好ましく、0.1以上0.8以下であることがより好ましい。これにより、図7に示す模式図のように、互いに隣り合う電極部22同士の間に侵入した複数の半導体セラミックス粒子11の隙間領域に対して、導電粒子18をより確実に入り込ませることが可能となる。
なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の熱硬化性樹脂シートは、発光ダイオード装置以外の半導体装置の製造(例えば、半導体レーザー装置等)や、半導体装置以外の電子装置の製造にも適用可能である。
また、本発明の熱硬化性樹脂シートは、前述した実施形態に任意の要素が付加されたものであってもよい。
また、本発明の半導体装置の製造方法は、前述した実施形態に任意の目的の工程が付加されたものであってもよく、また、前述した実施形態の工程の順序を入れ替えたものであってもよい。
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
1.熱硬化性樹脂シートの作製
(実施例1)
(1)ワニスの調製
まず、第1のシリコーン系樹脂を含む原材料として、ビニル基(反応性官能基)含有シリコーンレジン(信越化学工業株式会社製、KR−2621−1)(トルエン希釈、樹脂分60質量%)を用意した。
また、第2のシリコーン系樹脂を含む原材料として、置換基として水素原子を含有するオルガノポリシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、IVSM−4500(B))(25℃粘度50Pa・s)を用意した。
また、第3のシリコーン系樹脂を含む原材料として、置換基としてビニル基を含有するオルガノポリシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、IVSM−4500(A))(25℃粘度350Pa・s)を用意した。
また、半導体セラミックス粒子として、マイクロバリスタ(音羽電気工業社製、平均粒子径D50:50μm)を用意した。
また、有機溶剤として、トルエン(キシダ化学社製)を用意した。
なお、これらの原材料の配合比は、表1に示す通りである。
次に、これらの原材料とトルエンとをプラネタリーミキサーで撹拌し、ワニスを調製した。得られたワニスの粘度は、25℃において5Pa・sであった。
(2)シート化
次に、得られたワニスを、フッ素系樹脂製の厚さ50μmの基材フィルム上にコンマコーターを用いて塗工した後、100℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ0.1mmの熱硬化性樹脂シートを得た。
(実施例2〜7)
原材料やその配合比を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして熱硬化性樹脂シートを得た。
なお、表1に示す原材料は、以下の通りである。
・エポキシ基含有シリコーンレジン:東レ・ダウコーニング株式会社製、AY42−119
・ヒドロキシ基含有シリコーンレジン:旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、SILRES MK
(実施例8〜12)
原材料やその配合比を表2に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして熱硬化性樹脂シートを得た。
なお、表2に示す原材料は、以下の通りである。
・メチル基含有シリコーンレジン:トリメチルシロキシケイ酸(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、SR1000)
・ビニル基含有オルガノポリシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、IVSM−4500(A))(25℃粘度350Pa・s)
・水素原子含有オルガノポリシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、IVSM−4500(B))(25℃粘度50Pa・s)
(比較例1、2)
原材料やその配合比を表2に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして熱硬化性樹脂シートを得ることを試みた。しかしながら、使用したシリコーン系樹脂の粘性が低いため、常温において固形または半固形の状態にすることができなかった。このため、熱硬化性樹脂シートを得ることができなかった。
なお、表2に示す原材料は、以下の通りである。
・ビニル基含有オルガノポリシロキサン(信越化学工業株式会社製、KE−109E−A)(25℃粘度1Pa・s)
・水素原子含有オルガノポリシロキサン(信越化学工業株式会社製、KE−109E−B)(25℃粘度1Pa・s)
・シリカ(電気化学工業社製、FB−74)(平均粒子径D50:30μm)
2.熱硬化性樹脂シートの評価
2.1 表面タックフリー性の評価
作製した熱硬化性樹脂シートについて、表面タックフリー性を以下の評価基準に照らして評価した。
<表面タックフリー性の評価基準>
A:表面タックフリー性が極めて良好である
B:表面タックフリー性がやや良好である
C:表面タックフリー性がやや不良である
D:表面タックフリー性が極めて不良である
なお、表面タックフリー性は、熱硬化性樹脂シートの上にカバーフィルムを重ねた後、カバーフィルムを剥がしたとき、カバーフィルム側に転写される物質の有無や量によって評価され、転写される物質の量が少ないほど、表面タックフリー性が良好である。
以上の評価結果を表1、2に示す。
2.2 可撓性の評価
作製した熱硬化性樹脂シートについて、基材フィルムごと90°折り曲げた。その後、折り曲げを解除し、熱硬化性樹脂シートにクラックや剥離等が入っているかを目視にて確認した。そして、確認結果を以下の評価基準に照らして評価した。
<可撓性の評価基準>
A:クラックおよび剥離が全く認められない
B:わずかなクラックまたは剥離が認められる
C:多くのクラックまたは剥離が認められる
以上の評価結果を表1、2に示す。
2.3 密着性の評価
まず、作製した熱硬化性樹脂シートを、回路基板に重ね合わせた。なお、回路基板には、FR−4基材(厚さ0.15mm)と回路層(銅回路、厚さ12μm、隣接する回路間の最短距離が50μm)とを有するものを使用した。そして、回路層と熱硬化性樹脂シートとが接するように、回路基板と熱硬化性樹脂シートとを重ね合わせた。
次いで、150℃に加熱した状態で、熱硬化性樹脂シートを1.5MPaの圧力で回路基板に対して押圧した。そして、押圧したまま60分間加熱を継続した。これにより、熱硬化性樹脂シートを硬化させるとともに、回路間を樹脂層の硬化物で封止した。これにより、評価用基板を得た。
次いで、評価用基板を温度サイクル試験に供した。試験条件はJEDEC規格準拠温度サイクル試験のB条件に準拠し、−55℃/15分および125℃/15分を1サイクルとして、1000サイクルまで実施した。その後、熱硬化性樹脂シートの硬化物にクラックや剥離等が入っているかを目視にて確認した。そして、確認結果を以下の評価基準に照らして評価した。
<密着性の評価基準>
A:クラックおよび剥離が全く認められない
B:わずかなクラックまたは剥離が認められる
C:多くのクラックまたは剥離が認められる
以上の評価結果を表1、2に示す。
2.4 バリスタ特性の評価
2.3で作製した評価用基板の電流−電圧特性を評価した。
具体的には、pA meter/DC VOLTAGE SOURCE 4140B(アジレントテクノロジー社製)を用いて隣接した回路間に0Vから100Vまで昇圧速度0.5V/秒で電圧を印加し、そのときに流れた電流値を測定し、電圧−電流特性を示すグラフを作成した。そして、そのグラフから、電圧−電流特性のバリスタ電圧が求められるか否かによって、熱硬化性樹脂シートの硬化物がバリスタ特性を示すか否かを評価した。
評価結果を表1、2に示す。なお、表1、2では、バリスタ電圧を算出可能な場合を○とし、算出不可能な場合を×としている。
表1、2から明らかなように、各実施例の熱硬化性樹脂シートは、表面タックフリー性が良好であった。また、各実施例の熱硬化性樹脂シートの硬化物は、優れたバリスタ特性を示した。
一方、各比較例では、常温において固形または半固形のシートを得ることができなかった。また、これに伴い、表面タックフリー性が不良であった。