JP6651188B1 - 電動機の減磁検出方法 - Google Patents
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Abstract
Description
)は、駆動用の交流電力に測定用交流電力を重畳させ、インピーダンスを測定し永久磁石の温度を推定するものである。特許文献2(特開2013−255570号公報)は、モータの熱抵抗等からなる熱回路を用いて永久磁石の温度を演算するものである。特許文献3(特開2003−19197号公報)は、コイル電流から誘起電圧を推定し磁極位置の温度変化を補償するものである。上記以外にも例えば減磁による電流増加を検出する方法なども提案されている。
また不可逆減磁は多くの場合長期間かけて非常にゆっくりと進行するため、リアルタイムで減磁を防止する必要性はそれほど高くない。しかし単に磁気的寿命を判定するだけであっても確実に動作するためには測定系に長期間にわたって高い安定度と高精度が要求され、従来の複雑な推定演算による方法では精度的に厳しいことが多い。永久磁石界磁型電動機の不可逆減磁による磁気的劣化は、多くのアプリケーションにおいて検出されておらず、永久磁石界磁の磁気的寿命を超えても使われ続け出力低下や発熱増大を招いている。
また小型DCモータはブラシレスDC(BLDC)モータをはじめブラシ付きDCモータやステッピングモータまで多種多様であり、さらに相数・極数や着磁パターンあるいは回路構成等についても様々な種類があることから、それらすべてのモータシステムに適用できる汎用性が必要である。
さらにモータ温度を温度センサなしで検出できることが望ましい。例えば上位コントローラはモータ温度を表示したり、冷却ファンの回転数を自動調整したりすることも可能となる。
Vc=コイル電圧、I=コイル電流、R=コイル抵抗、L=コイルインダクタンス、E=誘起電圧とすると、モータコイルの電圧方程式はVc=IR+Ldi/dt+Eである。上記電圧方程式はI=0のときVc=Eと簡略化される。このとき負荷電流変動もコイル温度特性も無視できるので誘起電圧の検出は容易でしかも誤差がない。そこでI=0を実現するために測定時はコイル通電を遮断し惰性回転させることとする。出力を遮断することで電源ラインと直接的には接続されなくなりコイル電圧は誘起電圧そのものとして扱える。また、誘起電圧E=βlvである(β=磁束密度、l=導体長、v=速度)。従って誘起電圧Eは磁束密度βに比例し、誘起電圧Eにより減磁を検出することができる。惰性回転時の誘起電圧Eは、任意相における通電区間内のコイル電圧変動幅ΔVとして観測され、コイル電圧変動幅ΔVを扱えば中性点電位の検出は不要となる。
さらに誘起電圧Eを回転数Nで除算すれば誘起電圧定数Keとなり、誘起電圧定数Keを扱えば回転数Nに依存しないで減磁を検出できる。誘起電圧E=KeN、N=1/t、(但しt=電気角周期)よりE=Ke/tと表すことができ、変形してKe=Etとなる。さらに前述により惰性回転時の誘起電圧E=コイル電圧変動幅ΔVであるから、Ke=ΔVt、つまり惰性回転時の誘起電圧定数Keはコイル電圧変動幅ΔV×電気角周期tで求めることができ、誘起電圧定数Keも磁束密度βに比例するから減磁を検出することができる。
誘起電圧定数Keと似ているが波形によっては全く異なる値となるので注意が必要である。拡張誘起電圧定数もKV=ΔVtで求めることができる。整流波形も磁束密度を反映するから拡張誘起電圧定数KVを用いて減磁を検出できる。惰性回転時のコイル電圧波形を、拡張誘起電圧定数KVとして扱うことで歪んだ概正弦波や概矩形波から整流波形まで波形を無視して適用することができる。
さらに予め複数の拡張誘起電圧定数を想定し複数の閾値KVth1〜nとして設定しておくことで、より精細な減磁判定を行うことが可能となる。例えば、予防安全のための減磁限界値より小さな閾値KVth1と、寿命判定のための減磁限界値と等しい閾値KVth2と、緊急事態に対処するための減磁限界値より大きな閾値KVth3の3段階を設定しておく。これにより測定した拡張誘起電圧定数KVが、KVth3を越えたら「高温・減磁警報」、KVth2を超えたら「モータ交換警告」、KVth1を超えたら「減磁注意報」、を制御回路は発令することができる。
通常、駆動回路の出力部にはFET(Field Effect Transistor)ゲートをプリドライブするための昇圧回路(チャージポンプ、ブートストラップ回路)やスイッチングノイズ除去フィルタ、あるいはセンサレス駆動の場合は中性点検出用の抵抗ネットワークなどが接続される。そのためコイルにはわずかな電流が流れ、非通電時のコイル端子は高インピーダンス状態となることから大きな電位が発生して中性点電位は電源電圧の1/2の値から大きく外れ、また回転数が高いと誘起電圧は電源電圧範囲を超えること、などから誘起電圧はFETボディーダイオードにより電源ラインにクランプされる。
これらの中性点電位変動や誘起電圧振幅変化を避けて正確に線間誘起電圧を測定するためには、コイル線をリレーなどで出力手段から切り離したうえで計測アンプによる差動入力で受ける必要がある。リレーやMOSスイッチ(SSR)などは動作時間が遅いあるいはON抵抗が大きいといった欠点がある。さらに計測アンプを動作させるためには+側電源及び−側電源を設けなければならずアンプの電源電圧はモータ電源電圧の2倍必要となるが、高電圧動作アンプは製造が困難であることからモータ電源電圧が12Vを超える場合などは各相の入力部に分圧抵抗を設けて測定電圧を下げる必要がある。従って測定手段が非常に大がかりとなり誤差要因が増えコストもかさむ。
例えば一相を短絡相として接地電位GNDに接続する(短絡する)ことにより、他の開放相端子には誘起電圧がGNDを中心に正負に発生する。誘起電圧波形は、負電圧側の半サイクルは出力手段FETのボディーダイオードを経由してGND電位にクランプされるため半波整流波形となり、負電圧の整流期間は誘起電圧を検出できない。しかし正電圧の半サイクルはクランプされないため誘起電圧を検出でき、コイル電圧変動幅ΔVから短絡相と開放相との合成誘起電圧の正ピーク電圧即ち線間誘起電圧(0toPEAK)が検出できる。
測定タイミングは、開放二相がともに正電圧となるおおむね120°の区間である。この区間に必ず正電圧ピークが存在するので確実にピーク電圧を検出できる。
以上の方法によれば正電圧側の誘起電圧はクランプされることなく測定でき、誤差の少ない線間誘起電圧(0toPEAK)を測定できるのですでに述べてきた方法で拡張誘起電圧定数KVを求めることができ高精度で減磁を検出可能である。
これにより、減磁量を検出することで、減磁量を表示したり外部機器の制御に反映させたりすることができ、また減磁曲線(図1参照)の減磁量変化に照らし合わせて、減磁発生の要因が熱減磁によるものか、不可逆減磁によるものかを特定することができる。
界磁マグネットは使用初期に減磁しそれから安定する性質をもっているため、閾値は初期減磁を見込んで設定しなければならない。そこでいったん使用最高温度にして初期減磁を発生させてしまえば電動機運用時は初期減磁を考慮する必要がなくなり、閾値の設定が非常に簡単に行える。
実測により拡張誘起電圧定数KVと界磁温度Tの関係を表す関数を求めることができ、図3のように近似曲線MOTを描く。従って、測定によって拡張誘起電圧定数KVが得られたときは、近似式を用いて界磁温度を求めることができる。関数は二次近似式でも実用になるので最低3点の拡張誘起電圧定数KVを測定すれば演算用の二次関数を決定することができる。
不可逆減磁が発生するとオフセット誤差が生じ実際より高い温度に演算されるが、不可逆減磁量が判ればオフセットを補償できる。そこで、電動機運用前に標準温度で初期の拡張誘起電圧定数KVを求めて記憶しておき、電動機運用時に必要に応じて再度、標準温度
にて拡張誘起電圧定数KVを測定し、初期の標準温度での拡張誘起電圧定数KVとの差分
を不可逆減磁とみなして上述で求めた関数の切片が異なる新たな関数をオフセット補償として用いる。
オフセット補償は温度推定についてだけ行い、減磁判定に関してはオフセット補償しないでおけば減磁判定は不可逆減磁まで含めて行われ安全性は確保できる。
よって、モータ運用時にモータを標準温度にして拡張誘起電圧定数KVを測定し、それに基づいて上述で求めた関数の切片を補正して不可逆減磁によるオフセットを補償し、補正された新たな関数にて界磁温度の演算を行うことで、不可逆減磁が発生しても正確に界磁温度を検出することができる。
電動機の一例として三相ブラシレスDCモータを例示して説明する。三相ブラシレスDCモータは、回転子2に永久磁石界磁3を備え、固定子4に巻き線を120°位相差で配置してスター結線され、相端がモータ出力回路に接続されており、以下では近年利用が拡大しているセンサレスBLDCモータを用いて説明する。
また、非通電区間の中間で誘起電圧の正負が切り替わるいわゆるゼロクロス点が発生する。センサレスモータではこのゼロクロス点をゼロクロスコンパレータ(ZERO55)により検出してタイマーを用いて電気角で30°遅延を設けて励磁切り替えを行う位置センサレス駆動が用いられている。
前述したようにモータコイルの電圧方程式は、Vc=IR+LdI/dt+Eである。但しVc=コイル電圧、I=コイル電流、R=コイル抵抗、L=コイルインダクタンス、E=誘起電圧とする。上記電圧方程式はI=0のときVc=Eと簡略化される。このとき負荷電流変動もコイル温度特性も無視できるので誘起電圧の検出は容易でしかも誤差がない。
誘起電圧E=βlvである。但しβ=磁束密度、l=導体長、v=速度。よって誘起電圧は磁束密度に比例し、誘起電圧から減磁を検出できる。
誘起電圧定数Ke=誘起電圧E/回転数Nである。またN=1/t、但しt=電気角周期、よりKe=E・tである。誘起電圧定数Keは回転数Nに依存しないことから、誘起電圧定数Keを扱うことによりコイル電圧測定時の回転数の制約を無くす。
ゆえにKV=ΔV・t、あるいはKV=ΔV/N
本検出方法はこのように拡張誘起電圧定数KVを用いることで中性点電位の検出を不要としまた開放相コイル電圧波形の制約を無くす。以下に具体的な波形を例示して説明する。
各波形のΔV×tの矩形波面積が拡張誘起電圧定数KVに相当し、図から波形への依存性が無いことが判る。また誘起電圧定数Keは中性点電位を基準とする0 to Peak値であるが、拡張誘起電圧定数KVは中性点電位と無関係であり値も誘起電圧定数Keと異なる。例えばA図ブラシレスモータはKV=2Ke、D図ブラシ付きモータはKV=0.232Keとなる。
具体的な測定方法は、1相のコイル電圧について惰性回転時にADコンバータ(ADC54)でサイクリックに高速サンプリングし、1電気角に相当するコイル電圧測定データ群から最大値と最小値を選び出し、最大値と最小値の差分をとって電圧変動幅ΔVを抽出する。またコイル電圧測定データ群から電気角周期tも抽出する。コイル電圧変動幅ΔV×電気角周期tにより拡張誘起電圧定数KVを求める。
予め減磁を見込んだ適切な閾値を設定しておき、得られた拡張誘起電圧定数KVと大小比較すれば、減磁量が大きくなり磁束密度が閾値以下に低下したかどうか、即ち磁気的寿命となったか判定できる。また、得られた拡張誘起電圧定数KVと閾値との差分から減磁量を検出できる。さらには未減磁状態で標準温度時の拡張誘起電圧定数KVあるいは前記閾値KVthと、今回測定した拡張誘起電圧定数KVとの差分から減磁量を検出してもよい。これにより、減磁量を検出することで、減磁量を表示したり外部機器の制御に反映させたりすることができ、また減磁曲線(図1参照)の減磁量変化に照らし合わせて、減磁発生の要因が熱減磁によるものか、不可逆減磁によるものかを特定することができる。
本検出方法は上述の手法を用いることで、モータ構造・通電方式・負荷電流・コイル抵抗等に影響されず、相数・電源電圧・測定回転数・コイル電圧波形等の制約もなく、極めて高い汎用性と安定性そして高精度を実現できる。
以下では、拡張誘起電圧定数KVの限界値を閾値KVthと表記するものとする。電動機の使用最高温度Tmaxはマグネット減磁特性あるいは内蔵センサの耐熱温度等からあらかじめ設計段階で決定される。そこで実際に運用に供する駆動回路にてモータを回転させ、恒温槽を使うなどしてモータ内部温度を使用最高温度Tmaxにまで昇温した状態にて拡張誘起電圧定数KVを測定し、測定値を閾値KVthとしてもよい。マグネットは使用初期に減磁しそれから安定する性質をもっているため、閾値は初期減磁を見込んで設定しなければならず減磁量推定を困難にしている。しかし上述の方法で閾値を決定すれば初期減磁まで含んだ適正な値に設定することができる。なお使用最高温度Tmaxは自己発熱も含んだ温度である。一般的にモータ内部温度はジュール熱によりモータ外装温度より高くなるので、許容雰囲気温度は使用最高温度Tmaxより自己発熱分低くなる。
図3左上の矢印範囲は安全動作領域を示している(例えば0℃〜80℃)。破線MAGはマグネット減磁特性(例えば−0.10%/℃)から推定した拡張誘起電圧定数KV温度特性カーブ、ドットDATAはモータによる拡張誘起電圧定数KV実測値、実線MOTは拡張誘起電圧定数KV実測値の近似曲線で図3右上に近似式を表示した。実線MOT′は不可逆減磁時の近似曲線でありMOTを下方に平行移動したものである。Tmaxは使用最高温度(例えば100℃)、閾値KVthは使用最高温度Tmax時の拡張誘起電圧定数KVである。
それに対し従来の温度を検出する方式では、不可逆減磁時には検出点は使用最高温度Tmax垂直線上の△印となり、拡張誘起電圧定数KVは低下しそれにともなってコイル電流が増加し、電流の二乗で発熱も増えるため安全性は低下する。高温状態が長時間継続すると減磁量は50%に達する場合もあり発熱は非常に大きくなり部品焼損や火災の恐れもある。
マグネット減磁特性は、使用するマグネット材質とパーミアンス係数からシミュレーションにより求められる。しかしコイル電圧を測定するとき駆動回路の影響を受けて波形歪が発生するかあるいは整流されて正側波形しか出力されない場合等があり、閾値はマグネット減磁特性のシミュレーションだけでは決定できないため、最終的にはモータと駆動回路を組み合わせた電動機システムにより実際に動作させて拡張誘起電圧定数KVを実測し、実測データに基づき閾値KVthを決定することが望ましい。
本検出方法は基本的にモータの通電期間(RUN)終了ごとにコイル電圧と電気角周期を測定し減磁を検出することとしている。通電時にリアルタイムに減磁量を検出してコイル出力を制御し減磁を防止することは想定していない。
通電期間(RUN)直後に短い出力オフ期間を設け、ブレーキをかけることなくモータを惰性回転させ測定する。このタイミングであればモータ駆動に影響を与えず、回転数も高く等速惰性回転とみなすことができ測定精度も確保できる。
なおRUN(通電回転時)でも瞬間的に出力オフすることが許されるならば任意のタイミングで測定可能であり、複数測定を行って減磁検出の応答性を改善できる。例えば24時間連続運転される冷蔵庫のコンプレッサー用モータなら1時間に1回程度測定すればよい、出力オフ時間は20ms程度でありモータ運転に与える影響はわずかである。
また、モータ始動後、目標速度近傍に到達したら測定してもよい。これによりすでに減磁しているモータでも回転開始時に減磁を検出して直ちにアラームを出力しあるいはコイル出力を停止するなどの安全対策を講じることができる。
また停止中に一瞬モータを回し惰性回転させコイル電圧を測定してもよい。あるいは外力で回転している場合は任意タイミングでコイル電圧を測定して減磁をセンシングしてもよい。
ここまで拡張誘起電圧定数KVと閾値KVthの大小比較により減磁発生をデジタル的に検出する方法を中心に説明したが、さらに未減磁状態にて標準温度での拡張誘起電圧定数KVあるいは前記閾値KVthと、今回測定した拡張誘起電圧定数KVとの差分を演算してアナログ値の減磁量を検出可能である。
減磁量を検出することで、制御動作を高度化できる。例えば減磁量の数値表示や多段階の警報レベル設定等が可能となり、あるいは上位コントローラは減磁量に応じて外部機器の制御を行うことができる。
さらに例えば室温が一定といった条件下では、始動直後に拡張誘起電圧定数KVの測定を行うなどしてモータ運転による熱減磁の影響を回避し、時系列で減磁量を比較することで不可逆減磁量を検出できる。不可逆減磁量が急激に増加した時は、異常事態と判定してモータ出力停止などの安全対策を講じることができる。
引き続き界磁温度の推定方法について説明する。本検出方法は、図3に例示したとおり実測等により拡張誘起電圧定数KVと界磁温度Tの関数(近似式)を求めることができる。従って電動機運用時に測定により拡張誘起電圧定数KVが得られたときは、関数を使って界磁温度を演算により求めることができる。関数は二次近似式で充分実用になるので最低3点の界磁温度にて拡張誘起電圧定数KVを測定すれば関数を決定できる。
例えば医療器具用モータは高温殺菌処理されるが、もし電動機外装だけが冷えて内部はまだ熱い状態で使用されるとトルク不足となり好ましくないが界磁温度が表示されれば安全に運用できる。あるいはレンジフードや天井・屋根裏に設置される換気扇の温度を測定することで雰囲気温度を推定し自動的に換気扇の回転数を調整することなどが可能となり、さらには異常高温を検知して火災警報を出力するなどの応用も考えられる。
ただし不可逆減磁が発生するとオフセット誤差が生じ実際より高い温度に演算される。この誤差に関しては不可逆減磁量が判ればオフセットを補償することで解消できる。そこで運用前に標準温度で初期のKVを求めて記憶しておき、運用時に必要に応じて再度、標準温度にてKVを測定し、初期の標準温度でのKVとの差分を不可逆減磁成分とみなして関数の切片に加算する。
よって運用時にモータを標準温度にしてKVを測定し、それに基づいて関数の切片を補正して不可逆減磁によるオフセットを補償し、補正した関数にて界磁温度の演算を行う。
以上の操作を行うことで不可逆減磁が発生しても正確に温度を検出することができる。なおオフセット補償は温度推定についてだけ行い、減磁判定に関してはオフセット補償しないでおけば減磁判定は不可逆減磁まで含めて行われ安全性は確保できる。
減磁発生時の減磁処理(STEP14)は特に規定しないが、警告表示、メモリーへエラーコード記憶、等が考えられる。さらに重篤さを考慮して出力を停止することなども考えられる。
なお、モータ駆動回路の構成や制御プログラム構成は様々考えられ、本実施例に開示された態様に限定されるものではなく、本案主旨を逸脱しない範囲で電子回路技術者あるいはプログラマー(当業者)であれば当然なし得る回路構成の変更やプログラム構成の変更も含まれる。
図7は未減磁の例であり、三相ブラシレスDCモータを標準温度20℃にて定速回転させ途中で非通電状態とした時の1相のコイル電圧波形である。電気角周期t1=2.08ms、開放時のコイル電圧変動幅ΔV1=8.18Vである。
図8は減磁時の例であり、上記モータを120℃に昇温し定速回転させ途中で非通電状態とした時の1相のコイル電圧波形である。電気角周期t2=2.08ms、開放時のコイル電圧変動幅ΔV2=7.58Vと図7に比べ0.6V小さくなっている。
20℃時のKV KV1 =ΔV1・t1=17.04mV・s
85℃の閾値 KVth=16.19mV・s(5%減磁相当)
120℃時のKV KV2=ΔV2・t2=15.77mV・s
測定値KV2は閾値KVthより小さいから減磁或いは高温と判定される。
更に位相分解能を検討する。ADコンバータ(ADC54)サンプリング周期を5usとする。実測値では電気角周期は約2.08msだから2.08ms/5us=400サンプリング/電気角となる。よって位相分解能=360°/400=0.9°但しモータ回転速度28.8krpmである。標本化誤差0.9°により発生する電圧軸の量子化誤差は非常に小さく無視できる。なお、モータが低速回転になるほどサンプリング数は増加し標本化誤差は小さくなる。
以上の検討から本例では0.5℃程度の温度分解能が可能である。ちなみに電動自動車の主モータの界磁温度検出精度としては例えば±15℃あるいは50℃乖離といった値が報告されておりそれと比べて本検出方法は十分高精度であると言える。
次に永久磁石界磁を備えるステッピングモータへの適用例を説明する。拡張誘起電圧定数KVを検出するために惰性回転する必要があり、オープンループ位置決め動作には適用できない。図9はステッピングモータの駆動回路を示すブロック構成図である。図5と共通部分は符号を援用し説明を省略する。MOTORは2相ハイブリッド型バイポーラステッピングモータを想定している。出力回路(INV52)はフルブリッジ×2組で構成され2相コイル(A+とA−、B+とB−)をPWM駆動しロータを所定の角度で歩進する。分圧回路(DIV)はどのコイル出力線に接続してもよい。
このように非通電時のコイル電圧波形は出力段の特性の影響を大きく受ける。出力段ブリッジのハイサイドとローサイドのインピーダンスを整合させれば電源電圧/2を中性点とするコイル電圧波形を観測可能である。
次にブラシ付きDCモータへの適用例を説明する。コイル端子は2端子でHブリッジ等の駆動回路を用いる場合について例示する。ブラシの寿命は短く磁気的な寿命のほうがはるかに長い。しかし車載補機用モータのように停止状態での極寒酷暑あるいは想定外の極端な過負荷運転などにより不可逆減磁が発生する場合がある。
120°通電波形は6区間でほぼ同じ波形が観測されるので、コイル電圧変動幅ΔVの検出は1区間だけで行っても構わない。これにより測定時間を1/6に短縮できる。区間ごとの電圧と時間の偏差によるばらつきは、同一の通電区間で出力を遮断して測定すれば改善でき、繰り返し精度が大幅に向上する。
次に三相センサレスBLDCモータの一相を電源ラインに短絡して減磁を検出する方法について説明する。尚、実施例4と後述する実施例5は三相センサレスBLDCモータの変形例であり、ステッピングモータやブラシ付きDCモータへの適用は想定していない。
図13に例示したスター結線された三相センサレスBLDCモータを、駆動回路出力をリレーで遮断して惰性回転させるとコイル線間には2相の誘起電圧の合成波形が観測される。図16にコイルを駆動回路から切り離し惰性回転させたときのコイル電圧波形を示す。V相端子を基準電位としたときのU相端子に現れる線間誘起電圧波形であり、U相とV相との合成誘起電圧が観測されている。この波形の基準電位(中性点)とピーク電位との差を一般的に線間誘起電圧(0toPEAK)と呼び、図中に矢印Eで示す。ここで重要なことは、線間誘起電圧(PEAKtoPEAK)は回転数が高いと電源電圧を超えてしまうことである。駆動時は電源とGNDを適宜選択して半波整流通電することから線間誘起電圧は(0toPEAK)となり電源電圧内に収まるが、出力を遮断したフリー回転時は(PEAKtoPEAK)となり2倍の誘起電圧が発生し、駆動回路が接続されていると電源電圧を超えた分はFETのボディーダイオードにより電源レールにクランプされ回生電流が流れる。
以下では、例えば図5の駆動回路を用いて三相センサレスBLDCモータのコイル電圧変動幅ΔV及び電気角周期tを測定する実施例について説明する。駆動回路についての説明はすでに済んでいるので省略する。前記コイル電圧変動幅ΔV及び電気角周期tの測定に際しては、V相のローサイドアームのみをオンしてV相をGNDに接続し、その他のすべての出力素子はオフとする。するとU相にはU相とV相、W相にはW相とV相の合成誘起電圧がGNDを基準に正負に発生する。その際、負電圧側の半サイクルはFETのボディーダイオードを介してGNDにクランプされるため回生電流が流れ正しい誘起電圧は測定できない。
電気角周期tはU相あるいはW相の立ち上がりエッジ間を測定すれば求められる。以上の測定はU相の代わりにW相でも可能であり、電源に短絡する相もU〜Wのいずれでも可能である。
V相電圧がわずかに変動しているのは回生電流を反映したものでありこれがGNDレベルとなったときが回生電流ゼロ時でピーク測定可能な期間である。
図17からピーク電圧の測定相としては開放相であるU相とW相のいずれでも検出可能であることが判る。尚、負の半サイクルはクランプ電圧の約−0.7Vとなっている。また、クランプ電流のためにピーク検出可能期間Thの約120°以外ではコイル電圧波形は歪んでいるが、ピーク近傍ではクランプ電流が流れず従ってピーク電圧は正しく観測できることが判る。
尚、一般的に線間誘起電圧は、理想的なサイン波着磁のとき相間誘起電圧×3(1/2)である。矩形波着磁の場合はそれより大きくなり、二乗波形に近い着磁の場合は小さくなる。実際のモータでは着磁波形の歪や相間ばらつきがあることから線間誘起電圧から厳密な相間誘起電圧を演算することはできない。従ってコモン線が無いモータは厳密な誘起電圧定数Keを測定できない。しかしながら減磁は誘起電圧定数の相対的変化であることから、線間誘起電圧によって減磁を検出しても正確な減磁率が得られる。
以上の方法によれば測定相の電圧を小さくしてADコンバータの測定レンジにマッチングするための分圧抵抗2本と1チャンネルのADコンバータ(ADC)があれば実現できる。通常MPUはADCを内蔵しており実質的には抵抗2本の追加のみで線間誘起電圧定数(0toPEAK)及び減磁率を正確に測定できるようになる。図5の駆動回路例では何も部品追加することなくそのままで実施することができる。
次にモータ駆動回路の外部に測定回路を追加し減磁を検出する場合について述べる。図18に三相センサレスBLDCモータ(MOTOR)とその駆動回路(ECU(Electronic Control Unit)56)及び外付け接続された外部測定回路57のブロック構成図を示し、以下これらの構成について説明する。
駆動回路(ECU56)からモータ(MOTOR)へは出力U〜Wの3線が接続される。外部測定回路57へはモータ出力UとV及び駆動回路(ECU56)からモータオン信号(MOTOR−ON)とGNDラインの4線が接続される。尚、制御部(CPU57a)への制御用電源は、駆動回路(ECU56)からあるいは別途DC電源から供給すればよく、また上位コントローラ等と通信することなども当然に想定されるが、煩雑化をさけるためこれらの記載は省略した。
Claims (5)
- 永久磁石界磁を備えた回転子と電機子コイルを有する固定子を備えた電動機と、前記回転子の回転を付勢するように前記電機子コイルへ通電する出力回路と上位コントローラからの指令を受けて前記出力回路による前記電機子コイルへの通電を制御する制御回路と、前記電機子コイルに発生したコイル電圧を測定して前記制御回路へ送出する測定回路と、を有する電動機の減磁検出方法であって、
前記制御回路は、前記電動機を通電制御された回転状態から非通電として惰性回転させて多相コイルのうち任意の一相のコイルを接地電位あるいは電源電位に接続し他相を開放としてから、開放相の一相のコイル電圧変動幅ΔV及び電気角周期tを測定し、得られた電気角周期t内のコイル電圧変動幅ΔVと電気角周期tを乗算して得られた値を拡張誘起電圧定数KVとして記憶し、予め所望の一つ或いは複数の拡張誘起電圧定数を閾値KVthとして設定しておき、電動機を惰性回転させて得られた拡張誘起電圧定数KVが前記閾値KVth以下なら減磁発生と判定することを特徴とする電動機の減磁検出方法。 - 未減磁状態で標準温度時の拡張誘起電圧定数KVあるいは前記閾値KVthと、今回測定した拡張誘起電圧定数KVとの差分から減磁量を検出する請求項1記載の電動機の減磁検出方法。
- 前記電動機の設計段階で使用最高温度を設定し、電動機運用前に前記永久磁石界磁が使用最高温度のときの拡張誘起電圧定数KVを推定若しくは測定し、前記制御回路は得られた値を閾値KVthとして記憶しておく請求項1又は請求項2記載の電動機の減磁検出方法。
- 前記制御回路は、電動機運用前に少なくとも3点以上の複数の界磁温度にて拡張誘起電圧定数KVを推定若しくは測定して記憶しておき、前記界磁温度と前記拡張誘起電圧定数KVとの関係を表す関数(近似式)を求めて前記制御回路に記憶し、電動機運用時において拡張誘起電圧定数KVの測定時に前記関数を用いて界磁温度を推定する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電動機の減磁検出方法。
- 前記制御回路は、電動機運用前に永久磁石界磁の標準温度にて拡張誘起電圧定数KVを推定若しくは測定して記憶しておき、電動機運用時に再び前記標準温度で拡張誘起電圧定数KVを測定し、今回測定値と運用前に記憶した拡張誘起電圧定数KVとの差分に基づいて請求項4で求めた関数の切片が補正された新たな関数を求めて前記制御回路に記憶し、拡張誘起電圧定数KVの測定時に前記補正された新たな関数を用いて界磁温度を推定する請求項4記載の電動機の減磁検出方法。
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