以下、図面を用いて本実施形態に係る助手席用エアバッグ装置20について説明する。なお、図面に適宜示される矢印FR、矢印UP、矢印RHは、それぞれ助手席用エアバッグ装置20が適用された自動車(車両)V(図2参照)の前方、上方、右方を示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下、車両左右方向(車幅方向)の左右を示すものとする。また、以下の説明では、始めに、自動車Vの内部の概略構成および助手席用エアバッグ装置20の概略構成について説明し、次いで助手席用エアバッグ装置20の要部について説明する。
(自動車Vの内部の概略構成)
図2には、助手席用エアバッグ装置20が適用された自動車VにおけるキャビンC内の前部における右側部が模式的な平面図にて示されている。なお、図2では、後述する助手席用エアバッグ装置20のエアバッグ24が膨張展開された状態を示している。この図に示されるように、キャビンCの前部における右側部には、助手席用の車両用シート10が配設されている。この車両用シート10は、乗員P(以下、「助手席乗員P」という)が着座するシートクッション10Aと、助手席乗員Pの背部を支えるシートバック10Bと、を含んで構成されており、シートバック10Bの下端部がシートクッション10Aの後端部に連結されている。
また、車両用シート10には、乗員拘束用のシートベルト装置(図示省略)が設けられており、シートベルト装置は所謂3点式シートベルト装置とされている。このため、助手席乗員Pの腰部がラップベルトによって拘束されると共に、助手席乗員Pの上体がショルダベルトによって拘束されるようになっている。なお、上記の助手席乗員Pは、AM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)のダミー人形とされている。以下、助手席乗員Pを、「AM50ダミーP」と称する場合がある。
車両用シート10の左側には、図示しない運転席用の車両用シートが配設されている。すなわち、本実施形態の自動車Vは、左ハンドル仕様の自動車とされている。そして、自動車Vの車幅方向中央部(詳しくは、運転席用の車両用シートと助手席用の車両用シート10との間)には、センタコンソール12が配置されている。すなわち、本実施形態の自動車Vは、運転席用の車両用シートと助手席用の車両用シート10との間に中央座席が配置されていない構成となっている。なお、自動車Vを、センタコンソール12を備えない構成(例えば、左右の車両用シート10間を通路とし得る構成)にしてもよい。
車両用シート10の前側には、車幅方向に延びるインストルメントパネル14が設けられており、インストルメントパネル14の車幅方向中央部には、センタパネル14Aが設けられている。そして、前述したセンタコンソール12の前端がセンタパネル14Aに繋がっている。
(助手席用エアバッグ装置20の概略構成)
図2に示されるように、助手席用エアバッグ装置20は、モジュールケース22と、エアバッグ24と、ガス発生装置であるインフレータ40と、を含んで構成されている。また、助手席用エアバッグ装置20は、エアバッグ24の内部に配置された第1テザー34及び「テザー」としての第2テザー36を有している。以下、助手席用エアバッグ装置20の各構成について説明する。なお、第1テザー34及び第2テザー36については、助手席用エアバッグ装置20の要部において説明する。
モジュールケース22は、上方側へ開放された略矩形箱状に形成されている。このモジュールケース22は、車両用シート10に対して前方側のインストルメントパネル14の内側(キャビンCとは反対側)に配置されている。また、モジュールケース22の車幅方向中心線(図示省略)が、車両用シート10のシート幅方向中心線(図示省略)と略一致する位置に設定されている。さらに、モジュールケース22は、インストルメントパネル14の内側において車幅方向に延在されたインストルメントパネルリインフォース(図示省略)等に支持されている。そして、インストルメントパネル14には、モジュールケース22を上方側から覆う部位において、エアバッグドア(図示省略)が形成されている。
図1にも示されるように、エアバッグ24は、一例として複数枚の基布が互いに外周縁部を縫製されることにより袋状に形成されている。このエアバッグ24は、通常時には折り畳まれた状態でモジュールケース22内に収納されている。そして、後述するインフレータ40によって発生するガスがエアバッグ24の内部に供給されることで、エアバッグ24が、インストルメントパネル14の外側(キャビンC側)で膨張展開される構成になっている。また、エアバッグ24は、助手席乗員Pの前方で膨張展開される本体バッグ部26と、本体バッグ部26に対して車幅方向中央側で膨張展開されるセンタバッグ部28と、含んで構成されている。
本体バッグ部26は、本体バッグ部26の左側部分を構成する左バッグ部26Lと、本体バッグ部26の右側部分を構成する右バッグ部26Rと、を含んで構成されると共に、平面視で略左右対称を成す形状に膨張展開されるようになっている。また、左バッグ部26Lと右バッグ部26Rとの境界線(すなわち本体バッグ部26の車幅方向中心線)は、モジュールケース22の車幅方向中心線と略一致する構成になっている。また、膨張展開された本体バッグ部26の後端部における車幅方向中央部(左バッグ部26L及び右バッグ部26Rの間の部分)には、後側へ開放された凹部26Bが形成されており、助手席乗員Pの頭部Hの前方に凹部26Bが位置する構成になっている。そして、エアバッグ24の膨張展開状態において左バッグ部26L及び右バッグ部26Rの後方を向く面が、乗員拘束面26Aとされており、自動車Vの正面衝突時に前方側へ移動する助手席乗員Pの上半身(頭部Hを含む)を乗員拘束面26Aによって拘束する構成になっている。
また、膨張展開状態の本体バッグ部26は、自動車Vのウインドシールドガラス(図示省略)及びインストルメントパネル14に当接する構成になっている。これにより、膨張展開された本体バッグ部26が、ウインドシールドガラス及びインストルメントパネル14によって前方側から支持される構成になっている。
センタバッグ部28は、本体バッグ部26に連通されると共に、本体バッグ部26に対して車幅方向中央側に隣接して前後方向に膨張展開されるようになっている。詳しくは、センタバッグ部28が、後述するインフレータ40に対して車幅方向中央側へオフセットした位置に配置されて、センタコンソール12の上方側において前後方向に膨張展開されるようになっている。これにより、エアバッグ24が、車幅方向中央側へ拡大されて、平面視で左右非対称を成す形状に膨張展開されるようになっている。
また、センタバッグ部28は、膨張展開時に平面視で前後方向を長手方向とする略矩形状を成すように形成されている。さらに、センタバッグ部28の後端部は、突出部28Bとされており、突出部28Bは、本体バッグ部26の乗員拘束面26Aよりも後方へ突出されている。この突出部28Bは、膨張展開された本体バッグ部26の上下方向中央よりも上方側にオフセットした位置で後方に突出し、助手席乗員Pの頭部Hに対して左斜め前側に位置するように形成されている。そして、膨張展開状態における突出部28Bの右方側(車幅方向外側:本体バッグ部26側)を向く面は、斜突用拘束面28Aとされており、自動車Vの斜め衝突時に左斜め前方へ移動する助手席乗員Pの頭部Hを斜突用拘束面28Aによって拘束する構成になっている。また、自動車Vの左側への斜め衝突時には、左斜め前方へ移動する助手席乗員Pの左肩部が、突出部28Bの下方の空間に入り込むように、突出部28Bの下端の上下位置が設定されている。
さらに、図2に示されるように、センタバッグ部28の膨張展開状態では、センタバッグ部28がインストルメントパネル14のセンタパネル14Aに当接するように構成されている。これにより、センタバッグ部28の膨張展開状態では、センタバッグ部28がインストルメントパネル14によって前方側から支持される構成になっている。
インフレータ40は、モジュールケース22の車幅方向中央部に配置されている。このインフレータ40は、所謂ディスク形のインフレータとされており、中空の略円柱状に形成されると共に、上下方向を軸方向としてモジュールケース22の底壁に固定されている。インフレータ40の上部はガス噴出部とされており、本体バッグ部26の前端部内に収容されている。ガス噴出部の外周面には、図示しない複数のガス噴出孔が形成されており、複数のガス噴出孔はインフレータ40の周方向に沿って所定間隔毎に並んでいる。これにより、インフレータ40によって発生するガスが、平面視でインフレータ40から放射状に噴出されるようになっている。
インフレータ40は、エアバッグECU42(制御装置)と電気的に接続されている。そして、エアバッグECU42によってインフレータ40が作動すると、エアバッグ24がインフレータ40からガスの供給を受けて膨張展開されるようになっている。また、この際には、インストルメントパネル14に設けられた図示しないエアバッグドアがエアバッグ24の膨張圧を受けて開裂される構成になっている。
さらに、上記エアバッグECU42には、衝突センサ(又はセンサ群)44が電気的に接続されている。このエアバッグECU42は、衝突センサ44からの情報に基づいて、自動車Vの前面衝突を検知又は予測可能とされている。そして、エアバッグECU42が、衝突センサ44からの情報に基づいて前面衝突を検知又は予測すると、インフレータ40を作動させるようになっている。なお、上記の前面衝突の形態には、斜め衝突等が含まれる。ここで、斜め衝突(MDB斜突、オブリーク衝突)とは、例えばNHSTAにて規定される斜め前方(一例として、衝突相手方との相対角15°、車幅方向のラップ量35%程度の衝突)とされている。この実施形態では、一例として相対速度90km/hrでの斜め衝突が想定されている。
次に、本実施形態の助手席用エアバッグ装置20の要部について説明する。図1及び図3に示されるように、助手席用エアバッグ装置20では、エアバッグ24の後端部における本体バッグ部26とセンタバッグ部28との境界部分が、境界部24Aとされている。この境界部24Aは、本体バッグ部26を構成する基布30(図1参照)と、センタバッグ部28を構成する基布32(図1参照)とが、略車幅方向を厚み方向として重なり合って構成されると共に、乗員拘束面26A及び突出部28Bに対して前方側の位置において、上下方向に延在されている。また、境界部24Aの前端部は縫製部24A1とされており、縫製部24A1では、基布30及び基布32が縫製によって結合されている。さらに、境界部24Aには、縫製部24A1に対して後側において、後方側へ開口され且つ上下方向に延在されたスリット24A2が形成されている。これにより、エアバッグ24の膨張展開状態において、スリット24A2が乗員拘束面26A及び突出部28Bに対して前方側に配置されている。なお、図1及び図4以外では基布30、32の符号を省略している。
また、スリット24A2は、エアバッグ24の膨張展開状態において、後方側に加えて下方側にも開口するように形成されている。つまり、境界部24Aにおける上端部が縫製などによって結合されて、スリット24A2の後端部及び下端部が開口する一方、スリット24A2の上端部が閉塞された構成になっている。なお、上記膨張展開状態において、スリット24A2の下端部が閉塞された構成にしてもよい。さらに、図1に示されるように、エアバッグ24の膨張展開状態を平面視で見た場合に、スリット24A2(境界部24A)が、自動車Vの左側への斜め衝突時における助手席乗員Pの頭部Hの重心Gの移動方向に沿って延びるように形成されている。このため、上記左側への斜め衝突時において、助手席乗員Pが左斜め前方へ移動すると、助手席乗員Pの頭部Hがスリット24A2内に侵入するように構成されている。
なお、前述したように、自動車Vの斜め衝突におけるNHSTAでの規定では、自動車Vと衝突相手方との相対角が15°とされている。そして、この規定に基づくダミー人形を用いた自動車の斜め衝突試験では、助手席乗員Pの頭部Hの移動方向が、車両前後方向に対して平面視で略25°程度傾斜することが判明している。このため、本実施形態では、エアバッグ24の膨張展開状態を平面視で見た場合において、車両前後方向に対するスリット24A2の傾斜角度θが例えば20度〜30度の範囲内に設定されている。また、図1に示される一点鎖線Dは、上記の斜め衝突試験を自動車Vの左側に対して実施した場合における頭部Hの重心Gの移動方向(スリット24A2への頭部Hの侵入方向)に沿い且つ平面視で重心Gを通る仮想線である。
図1及び図3に示されるように、エアバッグ24の本体バッグ部26内には、第1テザー34が配設されている。この第1テザー34は、可撓性を有するシート状の材料(ここでは、エアバッグ24の基布と同じ布材)を長尺帯状に切り出して形成されている。そして、第1テザー34は、本体バッグ部26内の上部において、略上下方向を幅方向として略車幅方向に延在されている。具体的には、第1テザー34の長手方向一端部34A(車幅方向外側端部)が、前方側へ屈曲されて、本体バッグ部26の車幅方向外側の側部に縫製によって結合されている。一方、第1テザー34の長手方向他端部34B(車幅方向中央側の端部)が、前方側へ屈曲されて、境界部24Aの縫製部24A1の車幅方向外側に隣接して配置されると共に、縫製部24A1に縫製によって結合されている。これにより、境界部24Aの縫製部24A1が、第1テザー34によって本体バッグ部26の車幅方向外側の側部に連結されて、本体バッグ部26の内部が第1テザー34によって前後に仕切られる構成になっている。以下、第1テザー34によって仕切られた本体バッグ部26内における前側の空間を前側スペース部26Cと称し、第1テザー34によって仕切られた本体バッグ部26内における後側の空間を後側スペース部26Dと称する。
さらに、エアバッグ24の膨張展開状態では、第1テザー34の長手方向一端部34Aが、第1テザー34の長手方向他端部34Bよりも前方側に位置するように設定されている。すなわち、第1テザー34は、平面視で、車幅方向外側へ向かうに従い前側へ若干傾斜している。そして、エアバッグ24の膨張展開状態において、第1テザー34が長手方向に伸張されるように(第1テザー34が長手方向一端部34Aから長手方向他端部34Bに亘って弛みのないピンと張った状態となるように)、第1テザー34の長さ寸法が設定されている。
なお、上述のように、本体バッグ部26の内部が、第1テザー34によって前後に仕切られるように構成されているが、第1テザー34の上端部及び下端部(すなわち、第1テザー34の幅方向両端部)は、それぞれ本体バッグ部26から離間して配置されている。つまり、第1テザー34の上端部及び下端部と本体バッグ部26との間には、それぞれ隙間が設けられており、本体バッグ部26内の前側スペース部26Cと後側スペース部26Dとが、当該隙間によって連通されている。これにより、インフレータ40によって前側スペース部26Cに供給されたガスが、当該隙間を介して、後側スペース部26D側へ供給される構成になっている。
一方、エアバッグ24のセンタバッグ部28内には、第2テザー36が配設されている。この第2テザー36は、第1テザー34と同様に、可撓性を有するシート状の材料(ここでは、エアバッグ24の基布と同じ布材)を長尺帯状に切り出して形成されている。また、第2テザー36は、センタバッグ部28内の上下方向中央部において、略上下方向を幅方向として車幅方向に延在されている。具体的には、第2テザー36の長手方向一端部36A(車幅方向外側端部)が、前方側へ屈曲されて、境界部24Aの縫製部24A1の車幅方向中央側に隣接して配置されると共に、縫製部24A1に縫製によって結合されている。これにより、境界部24Aの縫製部24A1では、第1テザー34、基布30、32、及び第2テザー36が、4枚に重なった状態で縫製によって結合されている(図1参照)。一方、第2テザー36の長手方向他端部36B(車幅方向中央側の端部)は、後方側へ屈曲されて、センタバッグ部28の突出部28Bにおける車幅方向中央側の側部に縫製によって結合されている。これにより、境界部24Aの縫製部24A1が、第2テザー36によって突出部28Bにおける車幅方向中央側の側部に連結されて、センタバッグ部28の内部が第2テザー36によって前後に仕切られる構成になっている。以下、第2テザー36によって仕切られたセンタバッグ部28内における前側の空間を前側スペース部28Cと称し、第2テザー36によって仕切られたセンタバッグ部28内における後側の空間を後側スペース部28Dと称する。
また、エアバッグ24の膨張展開状態において、第2テザー36の長手方向他端部36Bが、第2テザー36の長手方向一端部36Aよりも後方側に位置するように設定されている。具体的には、第2テザー36の長手方向他端部36Bにおける前端の前後位置が、本体バッグ部26の乗員拘束面26Aの前後位置に略一致するように設定されている。これにより、第2テザー36は、平面視で、車幅方向中央側へ向かうに従い後側へ傾斜する設定になっている。そして、エアバッグ24の膨張展開状態において、第2テザー36が長手方向に伸張されるように(第2テザー36が長手方向一端部36Aから長手方向他端部36Bに亘って弛みのないピンと張った状態となるように)、第2テザー36の長さ寸法が設定されている。
また、第2テザー36は、膨張展開されたエアバッグ24のスリット24A2に助手席乗員P(ここではAM50ダミーP)の頭部Hが侵入した状態を左斜め前方から見た場合に、当該頭部Hとラップする高さに位置するように設けられている。なお、助手席乗員PがAF05ダミー(米国人成人女性の5パーセンタイル)である場合にも、当該AF05ダミーの頭部が上記のようにスリット24A2に侵入した状態において、当該頭部と第2テザー36とが上記のようにラップするように構成することが好ましい。
さらに、上述のように、センタバッグ部28の内部が、第2テザー36によって前後に仕切られる構成になっているが、第2テザー36の上端部及び下端部(すなわち、第2テザー36の幅方向両端部)は、それぞれセンタバッグ部28から離間して配置されている。つまり、第2テザー36の上端部及び下端部とセンタバッグ部28との間には、それぞれ隙間が設けられており、センタバッグ部28内の前側スペース部28Cと後側スペース部28Dとが、当該隙間によって連通されている。これにより、インフレータ40によって前側スペース部28C内へ供給されたガスが、当該隙間を介して、後側スペース部28Dへ供給される構成になっている。
また、図3に示されるように、本体バッグ部26の車幅方向外側の側部には、略円形状の第1ベントホール26Hが形成されており、第1ベントホール26Hは、第1テザー34(の長手方向一端部34A)に対して後方側に配置されている。これにより、本体バッグ部26内のガスが第1ベントホール26Hから排出されて、本体バッグ部26内の内圧が過度に高くなることを抑制する構成になっている。
さらに、図1及び図3に示されるように、センタバッグ部28の突出部28Bにおける車幅方向中央側の側部には、略円形状の第2ベントホール28Hが形成されており、第2ベントホール28Hは、第2テザー36(の長手方向他端部36B)に対して後方側に配置されている。すなわち、センタバッグ部28における第2テザー36に対して前方側の部分には、第2ベントホール28Hが形成されていない構成になっている。これにより、センタバッグ部28(後側スペース部28D)内のガスが第2ベントホール28Hから排出されて、センタバッグ部28内の内圧が過度に高くなることを抑制する構成になっている。なお、助手席乗員Pをエアバッグ24によって拘束するときにエアバッグ24の内圧が所定の内圧になるように、第1ベントホール26H及び第2ベントホール28Hの大きさ(開口面積)が適宜設定されている。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
上記構成の助手席用エアバッグ装置20では、エアバッグECU42が、衝突センサ44からの信号に基づいて自動車Vへの前面衝突を検知又は予測すると、当該エアバッグECU42によってインフレータ40が作動する。これにより、インフレータ40からガスの供給を受けたエアバッグ24が、インストルメントパネル14に設けられたエアバッグドアを開裂させつつ膨張展開される。そして、本体バッグ部26が助手席乗員Pの前方で膨張展開されると共に、センタバッグ部28が本体バッグ部26に対する車幅方向中央側で膨張展開され、センタバッグ部28の突出部28Bが本体バッグ部26よりも後方側へ突出される。
また、エアバッグ24の膨張展開完了時には、エアバッグ24の本体バッグ部26内に配設された第1テザー34が、伸張された状態で、境界部24Aの縫製部24A1と本体バッグ部26の車幅方向外側の側部とを連結する。さらに、エアバッグ24のセンタバッグ部28内に配設された第2テザー36が、伸張された状態で、境界部24Aの縫製部24A1とセンタバッグ部28の車幅方向中央側の側部とを連結する。これにより、エアバッグ24内における境界部24A(縫製部24A1)の車幅方向及び前後方向の位置が、第1テザー34及び第2テザー36によって決定されて、スリット24A2が平面視で車幅方向中央側斜め前方へ傾く状態に配置される。
さらに、エアバッグ24における左右一対の第1ベントホール26H及び第2ベントホール28Hからガスが排出されて、エアバッグ24の内圧が過度に高くなることが抑制された状態にエアバッグ24が膨張展開される。
(自動車Vの正面衝突)
上記の前面衝突が正面衝突(フルラップ前面衝突)であった場合、助手席乗員Pは、慣性力によって前方へ移動する(図2の矢印A参照)。なお、助手席乗員Pには3点式シートベルト装置が装着されているため、助手席乗員Pの前方への移動は、腰部を中心に助手席乗員Pの上体が前傾する形態となる。そして、前方へ移動する助手席乗員Pの頭部Hが本体バッグ部26の乗員拘束面26Aに接触する。このとき、本体バッグ部26には、インストルメントパネル14及びウインドシールドガラスから反力が作用するため、助手席乗員Pの頭部Hが本体バッグ部26によって支持されて、頭部Hの移動が制限される。その結果、自動車Vの正面衝突時において、前方へ移動する助手席乗員Pの頭部Hを本体バッグ部26によって拘束(保護)することができる。
また、本体バッグ部26によって助手席乗員Pの頭部Hを拘束するときには、エアバッグ24の車幅方向両側部にそれぞれ形成された第1ベントホール26H及び第2ベントホール28Hからエアバッグ24内のガスが排出される。このため、車幅方向(左右方向)におけるエアバッグ24の形状のバランスを保ちながら、エアバッグ24内のガスを排出して、本体バッグ部26によって助手席乗員Pの頭部Hを拘束することができる。したがって、本体バッグ部26によって助手席乗員Pを効果的に拘束することができる。
(自動車Vの左側への斜め衝突)
次に、上記の前面衝突が左側(運転席側)への斜め衝突であった場合について、比較例の助手席用エアバッグ装置と比較しつつ説明する。この比較例の助手席用エアバッグ装置では、以下に示す点を除いて、本実施形態の助手席用エアバッグ装置20と同様に構成されている。すなわち、比較例の助手席用エアバッグ装置では、センタバッグ部28に形成された第2ベントホール28Hが、第2テザー36に対して前方側の部位(具体的には、図1に示される部位E)に配置されている。より詳しくは、平面視で、第2ベントホール28Hが、一点鎖線D上に配置される設定になっている。
そして、自動車Vの左側への斜め衝突では、助手席乗員Pは、図2に矢印Bにて示すように、慣性力によって前方へ移動しつつ車体に対し車幅方向の衝突側である左側へ移動する。すなわち、助手席乗員Pが左斜め前方(車幅方向中央側かつ前方)へ移動する。この場合、助手席乗員Pの頭部Hが、センタバッグ部28の突出部28B(斜突用拘束面28A)に接触すると共に、本体バッグ部26の後部(乗員拘束面26A)に接触する(図1にて実線で示される頭部Hを参照)。このため、左斜め前方への衝突荷重が、頭部Hからセンタバッグ部28の突出部28Bに作用する。これにより、センタバッグ部28には、その前端側の部分を中心とする右回り(時計回り:図1の矢印F参照)の回転モーメントが作用する。すなわち、突出部28Bが左側へ変位するように、センタバッグ部28が倒れ込むようになる。
ここで、比較例の助手席用エアバッグ装置では、センタバッグ部28における第2テザー36の前方側の部位Eに、第2ベントホール28Hが形成されている。そして、センタバッグ部28では、第2ベントホール28Hが形成された部位Eにおける曲げ剛性が、他の部位に比べて低くなるように構成されている。すなわち、比較例では、曲げ剛性の比較的低くなる第2ベントホール28Hの形成部位Eが、第2テザー36よりも車両前側に配置された構成になっている。このため、左斜め前方の衝突荷重がセンタバッグ部28の突出部28Bに作用すると、センタバッグ部28が、第2ベントホール28Hの形成部位Eを起点として左側へ屈曲して(倒れ込んで)、センタバッグ部28の突出部28Bが左側へ変位するようになる。
そして、図5に示されるように、助手席乗員Pの頭部Hがスリット24A2内に侵入して、頭部Hのスリット24A2内への侵入が進むにつれて、センタバッグ部28の突出部28Bが左側へさらに変位する。これにより、センタバッグ部28(突出部28B)による助手席乗員Pの頭部Hに対する拘束性が低下して、助手席乗員Pの頭部Hが、頸部の軸線回りに回転する虞がある。このように、比較例の助手席用エアバッグ装置では、自動車Vの斜め衝突において、センタバッグ部28が第2ベントホール28Hの形成部位Eを起点として左側へ倒れ込むようになる。したがって、助手席乗員Pの頭部Hをセンタバッグ部28によって有効に拘束することができなくなる可能性がある。
これに対して、本実施形態の助手席用エアバッグ装置20では、センタバッグ部28に形成された第2ベントホール28Hが、第2テザー36よりも後方側に配置されている。すなわち、曲げ剛性の比較的低くなる第2ベントホール28Hの形成部位を、第2テザー36よりも車両前側に配置しない構成になっている。このため、自動車Vの斜め衝突において、左斜め前方の衝突荷重がセンタバッグ部28の突出部28Bに作用しても、センタバッグ部28が、第2テザー36よりも前側の部位を起点として左側へ屈曲することが抑制される。これにより、センタバッグ部28全体の左側への倒れ込みが抑制されると共に、センタバッグ部28の突出部28Bの左側への変位が抑制される。
そして、助手席乗員Pの頭部Hが左斜め前方へさらに移動すると、頭部Hがスリット24A2内に侵入する。これにより、頭部Hが、突出部28B及び本体バッグ部26によって車幅方向に挟み込まれるようになる。したがって、助手席乗員Pの頭部Hが頸部の軸線回りに回転することを抑制しつつ、頭部Hをエアバッグ24によって拘束することができる。
また、図4に示されるように、頭部Hが、スリット24A2内をさらに侵入して、スリット24A2の底部に到達すると(底付きすると)、頭部Hがエアバッグ24の境界部24A(縫製部24A1)を左斜め前方側へ押し込むように作用する。このため、第2テザー36の長手方向に作用する張力が増加して、第2テザー36の長手方向他端部36Bが突出部28Bの車幅方向中央側の側部を車幅方向外側(本体バッグ部26側)へ引張るように作用する。このとき、第2テザー36では、長手方向他端部36Bが長手方向一端部36Aよりも後方側に位置しているため、第2テザー36によって車幅方向外側へ引張られた突出部28Bが第2テザー36の長手方向一端部36Aを中心として本体バッグ部26側(図4の矢印J参照)へ回転するように作用する。これにより、突出部28Bが、頭部H側へ巻き込まれ、頭部Hに対して車幅方向中央側から巻き付くようになり、突出部28Bと本体バッグ部26とによって頭部Hが拘束される。したがって、助手席乗員Pの頭部Hに対するエアバッグ24の回転抑制効果を維持しつつ、エアバッグ24によって頭部Hを拘束することができる。
このように、本実施形態では、上述のように、センタバッグ部28に形成された第2ベントホール28Hが、第2テザー36よりも後方側に配置されている。このため、自動車Vの斜め衝突において、左斜め前方の衝突荷重がセンタバッグ部28の突出部28Bに作用しても、センタバッグ部28が第2テザー36よりも前方側の部位を起点に屈曲することを抑制できると共に、センタバッグ部28の突出部28Bが左側へ変位することを抑制できる。したがって、センタバッグ部28によって助手席乗員Pの頭部Hを有効に拘束することができる。
また、上述のように、第2ベントホール28Hは、センタバッグ部28の突出部28Bの車幅方向中央側の側部に形成されている。このため、センタバッグ部28内のガスが第2ベントホール28Hから排出されるときには、センタバッグ部28における前側スペース部28Cの内圧に比べて後側スペース部28Dの内圧が低くなるように作用する。これにより、突出部28Bによって助手席乗員Pの頭部Hを拘束するときにおける突出部28Bから頭部Hへ作用する反力を、上記比較例と比べて低くすることができる。その結果、突出部28Bによって助手席乗員Pの頭部Hを拘束するときに、突出部28Bを頭部Hに対して車幅方向中央側から良好に巻き付けるように作用させることができる。したがって、頭部Hに対する拘束性能をより一層向上することができる。
また、第2ベントホール28Hを、センタバッグ部28の突出部28Bの車幅方向中央側の側部に形成することで、助手席乗員Pに対する危害性を低減しつつ、センタバッグ部28内のガスを第2ベントホール28Hから良好に排出することができる。すなわち、仮に、第2ベントホール28Hを、突出部28Bの右側面(斜突用拘束面28A)に形成した場合には、第2ベントホール28Hから排出されたガスが助手席乗員Pの頭部Hへ向けて排出される。また、仮に、第2ベントホール28Hを、突出部28Bの後面や下面に形成した場合においても、第2ベントホール28Hから排出されるガスが助手席乗員Pへ向けて排出される虞がある。このため、これらのような第2ベントホール28Hの配置では、助手席乗員Pに対する危害性の悪化が懸念される。また、仮に、第2ベントホール28Hを突出部28Bの上面に形成した場合には、第2ベントホール28Hが自動車Vのルーフなどによって塞がれて、第2ベントホール28Hからガスを良好に排出することができなくなる可能性がある。これに対して、本実施の形態では、第2ベントホール28Hを、センタバッグ部28の突出部28Bの車幅方向中央側の側部に形成している。これにより、第2ベントホール28Hから排出されるガスが助手席乗員Pに向けて排出されることを抑制できると共に、第2ベントホール28Hが自動車Vのルーフなどによって塞がれることを抑制できる。したがって、第2ベントホール28Hを、センタバッグ部28の突出部28Bの車幅方向中央側の側部に形成することで、助手席乗員Pに対する危害性を低減しつつ、センタバッグ部28内のガスを第2ベントホール28Hから良好に排出することができる。
さらに、本実施の形態では、本体バッグ部26の車幅方向外側の側部に形成された第1ベントホール26Hが、第1テザー34の長手方向一端部34Aに対して後方側に配置されている。このため、仮に、第1ベントホール26Hを第1テザー34(の長手方向一端部34A)に対して前方側に配置する場合と比べて、第1ベントホール26Hの前後位置を第2ベントホール28Hの前後位置に近づけることができる。換言すると、前後方向における第1ベントホール26Hと第2ベントホール28Hとのずれ量を小さくすることができる。これにより、車幅方向(左右方向)におけるエアバッグ24の形状のバランスを保ちながら、エアバッグ24内のガスを排出することができる。
また、エアバッグ24の膨張展開状態では、境界部24Aの縫製部24A1が、伸張された第1テザー34によって本体バッグ部26の車幅方向外側の側部に連結されると共に、伸張された第2テザー36によってセンタバッグ部28の車幅方向中央側の側部に連結されている。このため、エアバッグ24内における境界部24A(縫製部24A1)の車幅方向及び前後方向の位置を、第1テザー34及び第2テザー36によって決定することができる。これにより、エアバッグ24の膨張展開完了後において、スリット24A2を所定の位置に良好に配置することができる。
なお、本実施形態では、第2テザー36の長手方向他端部36Bの前端の前後位置が、本体バッグ部26の乗員拘束面26Aの前後位置に略一致するように設定されているが、第2テザー36の長手方向他端部36Bの前後位置を任意に変更してもよい。
例えば、第2テザー36の長手方向他端部36Bを、本体バッグ部26の乗員拘束面26Aよりも前方側に設定してもよい。なお、この場合においても、例えば衝突試験等を実施して、自動車Vの斜め衝突時に、センタバッグ部28の突出部28Pが助手席乗員Pの頭部Hに巻き付くように、第2テザー36の長手方向他端部36Bの前後位置を設定する。
また、例えば、第2テザー36の長手方向他端部36Bを、本体バッグ部26の乗員拘束面26Aよりも後方側に設定してもよい。この場合には、第2テザー36の長手方向他端部36Bが本体バッグ部26の乗員拘束面26Aよりも後方側に設定されているため、自動車Vの斜め衝突時に、センタバッグ部28の突出部28Pが、助手席乗員Pの頭部Hに対して巻き付き易くなる。したがって、助手席乗員Pの頭部Hに対する拘束性能をより一層向上することができる。
さらに、例えば、第2テザー36の長手方向他端部36Bを、本体バッグ部26の乗員拘束面26Aに接触した助手席乗員Pの頭部Hの重心G(図1にて、AM50ダミーPの頭部Hの重心Gを通過し且つ車幅方向に沿って延在された基準線L)よりも後方側に設定してもよい。これにより、第2テザー36の長手方向他端部36Bが、本体バッグ部26の乗員拘束面26Aに接触した助手席乗員Pの頭部Hの重心Gよりも前方側に位置する場合と比較して、頭部Hがスリット24A2の底部に到達した際に、第2テザー36に作用する張力を速やかに増加させることができる。なお、この場合には、センタバッグ部28の後端を後方側へ適宜延ばして、第2テザー36よりも後方側に第2ベントホール28Hを配置してもよい。
また、本実施の形態では、第1ベントホール26Hが第1テザー34の長手方向一端部34Aに対して後方側に配置されているが、第1ベントホール26Hを第1テザー34の長手方向一端部34Aに対して前方側に配置する構成にしてもよい。
また、本実施形態では、第1テザー34及び第2テザー36がエアバッグ24に取り付けられた構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、エアバッグ24の基布の一部が延長された延長部によって第1テザー34及び第2テザー36を構成にしてもよい。
また、本実施形態では、本体バッグ部26が左バッグ部26Lと右バッグ部26Rとを含んだ構成にしたが、本発明はこれに限らず、本体バッグ部26の構成は適宜変更可能である。
また、本実施形態では、助手席用エアバッグ装置20が、左ハンドル仕様の自動車Vに適用されているが、助手席用エアバッグ装置20を右ハンドル仕様の自動車Vに適用してもよい。
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。