しかしながら,上記した従来技術のように,乳酸菌の菌数を増加させるために,原料乳や発酵乳基材に,pH緩衝剤などの乳酸菌の増殖促進剤を添加すると,この増殖促進剤が原因となって,乳本来の風味とは異なる雑味,苦味,酸味などが発生するという問題があった。このため,従来の乳酸菌の増殖促進剤を用いる場合,発酵乳の風味の調整が困難であった。
また,乳酸菌の増殖促進剤を添加すると,発酵乳に含まれる乳酸菌の菌数を増加させることはできるが,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の両方を含む発酵乳において,従来の乳酸菌の増殖促進剤を用いる場合,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の両方の菌数が一緒に増加することとなる。つまり,従来の乳酸菌の増殖促進剤を用いる場合,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の増殖が一緒に促進されるため,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進することが困難であり,その結果として,ブルガリア菌に由来する多糖体の産生を促進することが困難であった。これに対し,上述したようなヨーグルトでは,その製造過程において,ブルガリア菌の増殖のみを促進させて,サーモフィルス菌の増殖を促進させなくてもよい製品も存在する。このとき,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の両方を含む発酵乳において,ブルガリア菌の菌数の比率を高めることで,ブルガリア菌に由来する多糖体の生産量を増やすことが可能となる。
このため,現在では,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む発酵乳において,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いずに,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進し,サーモフィルス菌の増殖を相対的に抑制することができる技術が求められている。
そこで,本発明の発明者らは,従来の問題を解決する手段について鋭意検討した結果,(加熱)殺菌後の原料乳に,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加し,その発酵前の発酵乳基材を低温で保持する工程を行うことで,予想外にも,ブルガリア菌の増殖が促進され,サーモフィルス菌の増殖が抑制されるという知見を得た。その結果として,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いることなく,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることに成功し,多糖体を多く含む雑味のない発酵乳を製造することができた。そして,本発明者らは,上記の知見に基づけば,従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。
本発明の第1の側面は,発酵乳の製造方法に関する。
本発明の発酵乳の製造方法は,殺菌工程と,冷却工程と,スタータ添加工程と,低温保持工程と,加温工程と,発酵工程と,を含む。
殺菌工程は,原料乳を(加熱)殺菌する工程である。
冷却工程は,殺菌工程後の原料乳を冷却する工程である。
スタータ添加工程は,冷却工程中又は冷却工程後の原料乳に,ブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加して,発酵乳基材を得る工程である。
低温保持工程は,スタータ添加工程後の発酵乳基材を,発酵促進温度よりも低温で保持する工程である。なお,発酵促進温度とは,乳酸菌が活性化して,発酵乳基材の発酵が促進される温度を意味する。発酵促進温度よりも低温では,発酵乳基材が全く発酵しないというわけではなく,発酵乳基材が僅かに発酵されていてもよい。
加温工程は,低温保持工程後の発酵乳基材を,発酵促進温度まで加温する工程である。
発酵工程は,加温工程後の発酵乳基材を発酵させて,発酵乳を得る工程である。
上記のように,本発明では,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータが添加された発酵乳基材を,意図的に低温保持するように設定している。そして,発酵乳基材を所定期間で低温保持した後に,この発酵乳基材を加温して発酵を促進する。このように,発酵乳の製造過程において,あえて発酵乳基材を一旦低温保持するという操作を行うことにより,予想外にも,発酵乳に含まれるブルガリア菌の菌数が相対的に増加するという結果が得られた。つまり,低温保持工程(低温保持処理)を行った場合の発酵乳と,低温保持工程(低温保持処理)を行わなかった場合の発酵乳を比較すると,後者よりも前者で,ブルガリア菌の菌数が多くなり,しかも,後者よりも前者で,サーモフィルス菌の菌数が少なくなっていた。このため,低温保持工程を行うことで,ブルガリア菌の増殖を促進しつつ,サーモフィルス菌の増殖を抑制することに成功したといえる。そして,ブルガリア菌には,機能性の多糖体(EPS:Exopolysaccharide)を生産するものがある。従って,本発明によれば,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いることなく,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることで,多糖体を多く含む雑味のない発酵乳を製造することができる。
本発明において,冷却工程は,原料乳を15℃以下まで冷却する工程であることが好ましい。より具体的には,原料乳を,1℃以上15℃以下まで冷却することが好ましい。
また,低温保持工程は,発酵乳基材を,15℃以下に,1日以上の期間で低温保持する工程であることが好ましい。より具体的には,発酵乳基材を,5℃以上15℃以下に,1日間(24時間)〜10日間(240時間)で保持することが好ましい。
上記のように,発酵工程前に,発酵乳基材を,15℃以下に,1日以上で低温保持することで,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の活性を適度に調整することができ,予想外にも,発酵乳に含まれるブルガリア菌の菌数が相対的に増加し,サーモフィルス菌の菌数が相対的に減少した。つまり,低温保持工程を行うことで,発酵工程において,ブルガリア菌の増殖率が向上し,サーモフィルス菌の増殖率が低下した。このような操作を行うことで,発酵乳に含まれるブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数の比率を,好ましい数値に調整することが可能となる。
本発明において,加温工程は,発酵乳基材を,30℃以上50℃以下の発酵促進温度まで加温する工程であることが好ましい。
上記のように,低温保持工程後に,発酵乳基材の温度が15℃以下である場合において,発酵促進温度を30℃以上50℃以下に設定することで,加温工程において,発酵乳基材を,少なくとも15℃以上で加温することとなる。このように,低温保持を行う温度と発酵を行う温度に15℃以上の大きな温度差を持たせることで,発酵工程において,ブルガリア菌の増殖率を向上させつつ,サーモフィルス菌の増殖率を低下させることができる。
本発明において,少なくとも低温保持工程において,発酵乳基材に不活性ガスを注入して嫌気状態とする嫌気工程をさらに含むことが好ましい。なお,嫌気工程は,低温保持工程だけでなく,冷却工程,スタータ添加工程,加温工程,及び発酵工程に行われてもよい。
上記のように,発酵乳基材を低温保持している間,発酵乳基材に不活性ガスを混入して嫌気状態とすることで,低温保持工程中に,発酵乳基材の酸化を抑制や防止しながら,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の活性を適度に調整することができる。このため,低温保持工程後の発酵工程において,ブルガリア菌とサーモフィルス菌,特にブルガリア菌が好適に活性化されて,例えば,多糖体を多く含む発酵乳を製造することができる。
本発明において,低温保持工程前の発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)の数値をαとする。そして,本発明において,発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)の数値をβとする。この場合において,β/αの数値が,1.1以上であることが好ましい。
本発明において,低温保持工程前の発酵乳基材は,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)が,0.01以上0.5以下であることが好ましい。そして,これに対し,本発明において,発酵乳は,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)が,0.6以上であることが好ましい。
上記のように,本発明の発酵乳の製造方法によれば,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率が小さい乳酸菌スタータを用いた場合であっても,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率が大きい発酵乳を製造することができる。つまり,本発明の発酵乳の製造方法によれば,サーモフィルス菌に対するブルガリア菌の菌数の比率を飛躍的に向上させることが可能である。
本発明において,乳酸菌の増殖促進剤を添加しないことが好ましい。乳酸菌の増殖促進剤とは,乳酸菌の増殖を促進することを目的とした乳由来以外の添加物である。例えば,乳酸菌の増殖促進剤としては,pH緩衝剤,オレイン酸,グァバ葉エキス,アラビアガムなどの従来公知の添加剤が挙げられる。
上記のように,本発明の発酵乳の製造方法によれば,乳酸菌の増殖促進剤を添加しなくても,ブルガリア菌の菌数が多い発酵乳を製造することができる。その結果として,本発明によれば,この増殖促進剤に由来する雑味,苦味,酸味などの発生を防止することができ,乳本来の風味を損なうことなく,発酵乳を製造することができる。
本発明において,発酵工程は,発酵乳基材を容器に充填した後に発酵させて,発酵乳を得る工程であってもよい。いわゆる後発酵処理を行うことで,いわゆるセットタイプヨーグルトやプレーンタイプヨーグルトを製造することができる。
本発明の第2の側面は,発酵乳に関する。
本発明の発酵乳は,原料乳にブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加して発酵乳基材を得てから,この発酵乳基材を発酵させることにより得られる。ここで,発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率の値をαとする。そして,発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率の値をβとする。この場合において,本発明の発酵乳は,β/αの数値が1.1以上である。
上記のように,本発明において,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率を高めることで,ブルガリア菌に由来する多糖体の生産量を増やすことが可能となる。特に,本発明において,乳酸菌の増殖促進剤を添加せずに,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率を高めたものであることが好ましい。
本発明の発酵乳は,乳酸酸度(酸度)が0.9%以下であることが好ましい。
上記のように,本発明において,発酵時間を長くせず,発酵乳の乳酸酸度が0.9%以下という適度な乳酸酸度で,発酵乳の風味のまろやかさや食感のなめらかさなどを維持しつつ,ブルガリア菌の菌数の比率を高めることが可能となる。一般的に,発酵時間を長くし,発酵乳の乳酸酸度が0.9%超になるまで,乳酸酸度を高めれば,ブルガリア菌に由来する多糖体の生産量を十分に増やすことが可能となると考えられる。ただし,発酵時間を長くし,発酵乳の乳酸酸度が高まると,風味のまろやかさや食感のなめらかさが損なわれる恐れがある。そこで,本発明の発酵乳は,乳酸酸度が0.9%以下という条件において,β/αの数値が1.1以上であることが好ましい。
本発明の発酵乳は,多糖体の濃度が5mg/100g以上であることが好ましい。
上記のように,本発明において,ブルガリア菌の菌数の比率を高めることで,このブルガリア菌に由来する多糖体の濃度を高めることが可能となる。本発明において,ブルガリア菌由来の多糖体の濃度が高まって,サーモフィラス菌由来の多糖体が高まる場合よりもなめらかさが増大する。
本発明によれば,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む発酵乳において,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いずに,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進し,サーモフィルス菌の増殖を相対的に抑制することができる。
以下,図面を用いて,本発明を実施するための形態について説明する。ただし,本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
本願明細書において,「原料乳(ヨーグルトミックス)」とは,発酵乳の材料であり,生乳のみからなるものや,生乳に,脱脂粉乳,クリーム,水などを混合して調製した,スタータ添加工程前の状態のものを意味する。また,「発酵乳基材(ヨーグルトベース)」とは,原料乳に乳酸菌スタータを添加した発酵乳の材料であり,発酵工程前の状態のものを意味する。また,「発酵乳」とは,発酵乳基材を発酵させることにより得られる,発酵工程後の状態の製造結果物を意味する。
なお,本願明細書において,「A〜B」とは,「A以上B以下」であることを意味する。
本発明は,発酵乳及びその製造方法に関する。発酵乳の例は,ヨーグルトである。ヨーグルトは,プレーンタイプやハードタイプやソフトタイプであってもよいし,ドリンクタイプであってもよい。また,本発明によって製造された発酵乳を,フローズンヨーグルトの材料として用いることが可能である。また,本発明によって製造された発酵乳を,チーズの材料として用いることも可能である。本発明において,発酵乳とは,乳等省令で定義される「発酵乳」,「乳製品乳酸菌飲料」,「乳酸菌飲料」などのいずれであってもよい。
図1は,本発明の一実施形態に係る製造方法の各工程を示した流れ図である。図1に示されるように,本発明に係る発酵乳の製造方法は,原料乳調製工程(ステップS1),殺菌工程(ステップS2),冷却工程(ステップS3),スタータ添加工程(ステップS4),低温保持工程(ステップS5),加温工程(ステップS6),発酵工程(ステップS7),再冷却工程(ステップS8)を含むことが好ましい。また,本発明の製造方法は,さらに,嫌気工程(ステップS9)を含むことが好ましい。
図1に示されるように,発酵乳の製造にあたり,最初に,原料乳調製工程(ステップS1)が行われる。原料乳調製工程は,発酵乳の材料となる原料乳を調製する工程である。原料乳は,ヨーグルトミックスとも呼ばれる。本発明において,原料乳には,公知のものを用いることができる。例えば,原料乳は,生乳のみからなるもの(生乳100%)であってもよい。また,原料乳は,生乳に,脱脂粉乳,クリーム,水などを混合して調製したものであってもよい。また,原料乳には,その他に,殺菌乳,全脂乳,脱脂乳,全脂濃縮乳,脱脂濃縮乳,全脂粉乳,バターミルク,有塩バター,無塩バター,ホエー,ホエー粉,ホエータンパク質濃縮物(WPC),ホエータンパク質単離物(WPI),α−La(アルファ−ラクトアルブミン),β−Lg(ベータ−ラクトグロブリン),乳糖などを添加してもよい。また,原料乳には,予め温めたゼラチン,寒天,増粘剤,ゲル化剤,安定剤,乳化剤,ショ糖,甘味料,香料,ビタミン,ミネラルなどを適宜添加してもよい。原料乳調製工程では,原料乳を均質化する均質化工程により,原料乳に含まれる脂肪球などを微硫化(粉砕)することが好ましい。この均質化工程により,発酵乳の製造過程や製造後において,原料乳,発酵乳基材,発酵乳の脂肪分が分離することや浮上することを抑制や防止できる。
殺菌工程(ステップS2)は,原料乳調製工程後に行われる。殺菌工程は,原料乳を加熱処理などして殺菌する工程である。例えば,殺菌工程では,原料乳の雑菌を殺菌できる程度に,加熱温度及び加熱時間を調整して加熱処理すればよい。本発明において,殺菌工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,殺菌工程では,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器,スチームインジェクション式加熱装置,スチームインフュージョン式加熱装置,通電式加熱装置などによって加熱処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって加熱処理を行ってもよい。そして,殺菌工程では,ヨーグルトがプレーンタイプやハードタイプやソフトタイプの場合などにおいて,高温短時間殺菌処理(HTST)などの加熱処理を行えばよく,ヨーグルトがドリンクタイプの場合などにおいて,超高温殺菌処理(UHT)などの加熱処理を行ってもよい。さらに,例えば,殺菌工程では,高温短時間殺菌処理(HTST)は,原料乳を80℃〜100℃に,3分〜15分間程度で加熱する処理であればよく,超高温殺菌処理(UHT)は,110℃〜150℃に,1秒〜30秒間程度で加熱する処理であればよい。
冷却工程(ステップS3)は,殺菌工程後に行われる。冷却工程は,加熱処理などされた原料乳を,所定温度に冷却などする工程である。冷却工程では,原料乳を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)よりも低温になるまで冷却する。本発明において,冷却工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,冷却工程では,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器,真空(減圧)蒸発冷却器によって冷却処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって冷却処理を行ってもよい。なお,具体的に,冷却工程では,原料乳が15℃以下まで冷却されていることが好ましい。そして,冷却工程では,原料乳が1℃〜15℃に冷却されていることが好ましく,3℃〜10℃に冷却されていることがより好ましく,5℃〜8℃に冷却されていることがさらに好ましい。
冷却工程では,殺菌工程が加熱処理の場合において,その殺菌工程で温度が上昇した100℃程度の原料乳を低温(15℃以下)まで急速に冷却することが好ましい。そして,例えば,冷却工程では,殺菌工程が加熱処理の場合において,その殺菌工程で温度が上昇した100℃程度の原料乳を15℃まで冷却する時間は,10分間以内であることが好ましく,5分間以内であることがより好ましく,1分間以内であることがさらに好ましく,30秒間以内であることが特に好ましい。この冷却工程により,原料乳において,タンパク質が変性することや糖質が褐変化することを抑制や防止できる。
スタータ添加工程(ステップS4)は,冷却工程後又は冷却工程中に行われる。スタータ添加工程は,原料乳に乳酸菌スタータを添加(混合)して,発酵乳基材を得る工程である。すなわち,殺菌工程後に,原料乳が所定温度まで低下した後に,乳酸菌スタータを添加してもよいし,殺菌工程後に,原料乳が所定温度まで低下している最中に,乳酸菌スタータを添加してもよい。本発明において,スタータ添加工程には,公知の方法を用いることができる。ただし,本発明において,乳酸菌スタータには,少なくとも,ブルガリア菌とサーモフィルス菌が含まれる。すなわち,「ブルガリア菌」とは,ラクトバチルス・ブルガリカス(L. bulgaricus)であり,「サーモフィルス菌」とは,ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.t hermophilus)である。また,本発明において,スタータ添加工程では,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の他に,公知の乳酸菌を添加(混合)してもよい。例えば,スタータ添加工程では,ガセリ菌(ラクトバチルス・ガッセリ(L. gasseri)),ラクティス菌(ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)),クレモリス菌(ラクトコッカス・クレモリス(L. cremoris)),ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)など)を添加(混合)してもよい。なお,乳酸菌スタータは,乳酸菌として,ブルガリア菌とサーモフィルス菌のみからなるものが好ましい。一方,乳酸菌スタータの添加量は,公知の発酵乳の製造方法において採用されている数量であればよく,例えば,0.1〜5重量%であることが好ましく,0.5〜4重量%であることがより好ましく,1〜3重量%であることがさらに好ましい。
スタータ添加工程では,乳酸菌スタータに含まれるブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数(生菌数)は,公知の発酵乳の製造方法において採用されている数値であればよい。そして,例えば,乳酸菌スタータに含まれるブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数の比率では,1:4〜1:5が一般的である。なお,具体的に,スタータ添加工程では,乳酸菌スタータに含まれるサーモフィルス菌の菌数を1(基準)としたときのブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)は,0.01〜0.8であればよく,0.05〜0.7であることが好ましく,0.1〜0.5であることがより好ましく,0.2〜0.4であることがさらに好ましい。一方,スタータ添加工程では,乳酸菌スタータに含まれるブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数(生菌数)は,予め,サーモフィルス菌の菌数よりもブルガリア菌の菌数を多く含ませることもできる。例えば,乳酸菌スタータに含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率は,1.0〜5.0,又は1.5〜4.0などであってもよい。なお,乳酸菌の菌数は,公知の方法に従って測定すればよい。
低温保持工程(ステップS5)は,スタータ添加工程後に行われる。低温保持工程は,乳酸菌スタータが添加されている発酵乳基材を,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)よりも低温に,所定期間で保持する工程である。例えば,低温保持工程では,冷却工程において発酵乳基材が15℃以下まで冷却されているため,そのまま15℃以下の状態で保持すればよい。ただし,冷却工程から低温保持工程までの間に,発酵乳基材の温度が上昇していても,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)よりも低温に保持されていれば問題はない。本発明において,低温保持工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,低温保持工程では,ジャケット付のタンクによって低温保持処理を行ってもよい。なお,具体的に,低温保持工程では,発酵乳基材が15℃以下に低温保持されていることが好ましい。そして,低温保持工程では,発酵乳基材が1℃〜20℃に低温保持されていることが好ましく,3℃〜15℃に低温保持されていることがより好ましく,5℃〜10℃に低温保持されていることがさらに好ましい。また,具体的に,低温保持工程では,発酵乳基材が低温の状態に,1日以上で保持されていることが好ましい。そして,低温保持工程では,発酵乳基材を保持する期間は,1日間(24時間)〜10日間(240時間)であることが好ましく,2日間(48時間)〜8日間(192時間)であることがより好ましく,3日間(72時間)〜6日間(144時間)であることがさらに好ましい。
加温工程(ステップS6)は,低温保持工程後に行われる。加温工程は,低温保持処理されていた発酵乳基材を,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)まで加温などする工程である。ここで,発酵促進温度とは,微生物(乳酸菌など)が活性化して,発酵乳基材の発酵が進行や促進される温度を意味する。本発明において,加温工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,加温工程では,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器などによって加熱処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって加熱処理を行ってもよい。そして,例えば,乳酸菌の発酵促進温度では,30℃〜50℃が一般的である。なお,具体的に,加温工程では,発酵乳基材が30℃以上まで加温されていることが好ましい。さらに,加温工程では,発酵乳基材が30℃〜50℃に加温されていることが好ましく,33℃〜47℃に加温されていることがより好ましく,35℃〜44℃に加温されていることがさらに好ましい。
加温工程では,低温保持工程で温度が低下した10℃程度の発酵乳基材を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)まで所定時間で(比較的に短時間で)加温することが好ましい。そして,例えば,加温工程では,低温保持工程で温度が低下した10℃程度の発酵乳基材を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)まで加温する時間は,1時間以内であることが好ましく,30分間以内であることが好ましく,10分間以内であることがさらに好ましく,1分間以内であることが特に好ましい。この加温工程により,発酵乳基材において,ブルガリア菌の増殖を効率的に促進しつつ,サーモフィルス菌の増殖を効率的に抑制することができる。なお,加温工程では,低温保持工程で温度が低下した10℃程度の発酵乳基材を,そのまま30℃〜50℃程度の室温に設定された発酵室に移動させて,発酵室内で徐々に昇温させながら加温処理を行うこともできる。ただし,その結果として,加温工程の所要時間が大幅に延長される可能性があり,発酵乳を短時間で効率的に製造することが困難となる。
発酵工程(ステップS7)は,加温工程後に行われる。発酵工程は,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)に加温された発酵乳基材を,発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)に保持しながら発酵させて,発酵乳を得る工程である。本発明において,発酵工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,発酵工程では,発酵室などによって発酵処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって発酵処理を行ってもよい。そして,発酵工程では,ヨーグルトがプレーンタイプやハードタイプの場合などにおいて,後発酵処理を行えばよく,ヨーグルトがソフトタイプやドリンクタイプの場合などにおいて,前発酵処理を行ってもよい。さらに,例えば,発酵工程では,発酵室内の温度(発酵温度)を30℃〜50℃に維持し,その発酵室内で発酵乳基材を発酵する処理であればよく,ジャケット付のタンク内の温度(発酵温度)を30℃〜50℃に維持し,そのタンク内で発酵乳基材を発酵する処理であってもよい。ここで,発酵工程では,発酵乳基材を発酵させる条件を,原料乳や乳酸菌の種類や数量,発酵乳の風味や食感などを考慮して,発酵温度や発酵時間などを適宜調整すればよい。なお,具体的に,発酵工程では,発酵乳基材が30℃以上で保持されていることが好ましい。さらに,発酵工程では,発酵乳基材が30℃〜50℃に保持されていることが好ましく,33℃〜47℃で保持されていることがより好ましく,35℃〜44℃で保持されていることがさらに好ましい。また,具体的に,発酵工程では,発酵乳基材が発酵促進温度の状態に,1時間以上で保持されていることが好ましい。そして,発酵工程では,発酵乳基材を保持する期間(発酵時間)は,1時間〜12時間であることが好ましく,2時間〜8時間であることがより好ましく,3時間〜5時間であることがさらに好ましい。
発酵工程では,発酵乳基材を発酵させる条件を,原料乳や乳酸菌の種類や数量,発酵乳の風味や食感などを考慮して,乳酸酸度(酸度)やpHなどを適宜調節してもよい。なお,具体的に,発酵工程では,乳酸酸度が0.7%以上まで到達していることが好ましい。さらに,発酵工程では,ヨーグルトがプレーンタイプやハードタイプの場合などにおいて,後発酵処理を行うときには,乳酸酸度が0.9%以下(0.7%〜0.9%)であることが好ましく,0.85%以下(0.7%〜0.85%)であることがより好ましく,0.8%以下(0.7%〜0.8%)であることがさらに好ましく,ヨーグルトがソフトタイプやドリンクタイプの場合などにおいて,前発酵処理を行うときには,乳酸酸度が1.2%以下(0.7%〜1.2%)であることが好ましく,1.1%以下(0.7%〜1.1%)であることがより好ましく,1.0%以下(0.7%〜1.0%)であることがさらに好ましい。なお,このとき,上記のように,発酵乳基材が発酵促進温度で保持されていることが好ましい。
本願明細書において,酸度(乳酸酸度)は,乳等省令の「乳等の成分規格の試験法」に従って測定することができる。具体的には,試料の10gに,炭酸ガスを含まないイオン交換水を10mlで添加してから,指示薬として,フェノールフタレイン溶液を0.5mlで添加する。そして,水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/L)を添加しながら,微紅色が消失しないところを限度として滴定し,その水酸化ナトリウム溶液の滴定量から試料の100g当たりの乳酸の含量を求めて,乳酸酸度とする。なお,フェノールフタレイン溶液は,フェノールフタレインの1gをエタノール溶液(50%)に溶かして100mlにフィルアップして調製する。
発酵工程は,後発酵処理と前発酵処理のどちらであってもよい。そして,後発酵処理を行うときには,実際に製品として販売するための容器に発酵乳基材を充填した後に,発酵乳基材を発酵させる。例えば,後発酵処理を行うときには,発酵乳基材が充填された(密閉)容器を発酵室内に静置するなどして発酵させ,その得られた中間生成物である発酵乳(発酵乳カード)を,後述する再冷却工程にて冷却し,最終生成物である発酵乳(セットタイプヨーグルト,プレーンタイプヨーグルト)を得ればよい。また,前発酵処理を行うときには,実際に製品として販売するための容器に発酵乳基材を充填する前に,発酵乳基材を発酵させる。例えば,前発酵を行うときには,発酵乳基材が充填されたジャケット付のタンクを静置するなどして発酵させ,その得られた中間生成物である発酵乳(発酵乳カード)を破砕や微粒化してから,後述する再冷却工程にて冷却し,必要に応じて,果肉,野菜,果汁,野菜汁,ジャム,ソース,プレパレーションなどを混合した後に,(密閉)容器に充填して,最終生成物である発酵乳(ソフトタイプヨーグルト,ドリンクタイプヨーグルト)を得ればよい。
本実施形態において,後発酵処理に用いる容器には,発酵乳を詰めることが可能な全部の入れ物が含まれる。例えば,発酵乳は,プラスチック製,紙製,ガラス製,金属製,陶器製又はその複合材料からなる容器でよい。また,発酵乳は,上面に開口を有する容器に充填されて,発酵や凝固させてもよく,容器に蓋が付けられてもよいし,プラスチック製のシュリンクフィルム,遮光フィルム(例えば,金属箔積層フィルム,金属薄膜層フィルム,黒色または暗色インク塗布フィルム)で,容器ごとが被覆されてもよい。上記容器や上記フィルム等を二種類以上で組み合わせて用いてもよい。発酵乳は,光透過や酸素透過による風味劣化の抑制の観点から,ペットボトルや瓶に充填後に遮光フィルムを被覆すること,紙製容器や遮光性のあるプラスチック容器に充填後に遮光フィルムで密封する,プラスチック製のシュリンクフィルムで密封した後に遮光性蓋を用いることが好ましい。
発酵工程では,機能性の多糖体を生産するブルガリア菌の増殖を促進しつつ,サーモフィルス菌の増殖を抑制することで,多糖体を多く生産することが可能となる。つまり,本発明において,発酵工程では,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いることなく,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることで,多糖体を多く含む雑味のない発酵乳を製造することができる。このとき,乳酸酸度が0.9%以下(0.7%〜0.9%のいずれか)のときに,発酵乳における多糖体の濃度が5mg/100g以上であることが好ましく,5.5mg/100g以上であることがより好ましく,6mg/100g以上であることがさらに好ましい。また,例えば,乳酸酸度が0.85%以下(0.7%〜0.85%のいずれか)のときに,発酵乳における多糖体の濃度が5mg/100g以上であることが好ましく,5.5mg/100g以上であることがより好ましく,6mg/100g以上であることがさらに好ましい。また,例えば,乳酸酸度が0.8%以下(0.7%〜0.8%のいずれか)のときに,発酵乳における多糖体の濃度が5mg/100g以上であることが好ましく,5.5mg/100g以上であることがより好ましく,6mg/100g以上であることがさらに好ましい。
再冷却工程(ステップS8)は,発酵工程後に行われる。再冷却工程は,発酵工程で得られた発酵乳を冷却する工程である。再冷却工程では,発酵の進行が抑制される。このとき,再冷却工程では,発酵乳を発酵促進温度(例えば,30℃〜50℃)よりも低温になるまで冷却する。本発明において,再冷却工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,再冷却工程では,冷蔵室,冷凍室によって再冷却処理を行えばよく,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器,ジャケット付のタンクによって再冷却処理を行ってもよい。なお,具体的に,再冷却工程では,発酵乳が15℃以下まで冷却されていることが好ましい。そして,再冷却工程では,発酵乳が1℃〜15℃に冷却されていることが好ましく,3℃〜10℃に冷却されていることがより好ましく,5℃〜8℃に冷却されていることがさらに好ましい。この再冷却工程により,発酵乳を食用に適した温度に冷却することで,発酵乳の風味(酸味など)や食感(舌触りなど)や物性(硬さなど)が変化することを抑制や防止できる。
嫌気工程(ステップS9)は,任意の工程である。嫌気工程は,原料乳,発酵乳基材,発酵乳に,窒素などの不活性ガスを混合して,嫌気状態とする工程である。本発明において,嫌気工程には,公知の方法を用いることができる。例えば,嫌気工程では,原料乳,発酵乳基材に,不活性ガスを混入(注入)して嫌気処理する,又は発酵乳が充填された容器内のヘッドスペース,発酵乳が充填されたタンク内のヘッドスペースに,不活性ガスを充満(充填)して嫌気処理することで,これらに存在している酸素を除去や低減する。この嫌気工程により,原料乳などに含まれる酸素が除去や低減され,原料乳などに含まれる脂質やタンパク質の酸化が抑制や防止される,又は乳酸菌の活性が促進される。そして,例えば,不活性ガスでは,窒素の他に,ヘリウム,ネオン,アルゴン,キセノンの希ガスを用いることができる。なお,具体的に,嫌気工程では,原料乳,発酵乳基材,発酵乳の溶存酸素濃度(DO)を5ppm以下に低減させることが好ましく,4ppm以下に低減させることがより好ましく,3ppm以下に低減させることがさらに好ましく,2ppm以下に低減させることが特に好ましい。
嫌気工程は,原料乳調製工程,殺菌工程を含めて,どの工程の段階で行ってもよいし,図1に示されるように,加熱殺菌工程以降であれば,どの工程の段階で行ってもよい。また,嫌気工程は,複数の工程の段階で継続的に行うこともできる。本発明において,嫌気工程は,少なくとも,低温保持工程及び/又はスタータ添加工程で行うことが好ましい。また,本発明において,嫌気工程は,加温工程及び/又は発酵工程で行うことが好ましい。そして,低温保持工程及び/又はスタータ添加工程の(低温保持処理されている)発酵乳基材に,窒素などの不活性ガスを混入して,発酵乳基材の溶存酸素濃度を低減させると共に,加温工程及び/又は発酵工程の(加温処理されている)発酵乳基材に,窒素などの不活性ガスを混入して,発酵乳基材の溶存酸素濃度を低減させ,さらに,発酵乳基材が充填されている(密閉)容器内のヘッドスペースに,不活性ガスを充満することがより好ましい。上記のように,本発明において,発酵乳基材は比較的に長期間(例えば,1日間以上)で,低温保持される。このとき,嫌気処理を行うことによって,発酵乳基材の風味や品質を良好に維持すると共に,発酵乳基材に含まれているブルガリア菌の活性及びサーモフィルス菌の活性を適切に管理することができる。この嫌気工程により,発酵乳基材を低温保持後に発酵させると,ブルガリア菌及びサーモフィルス菌,特に,ブルガリア菌が好適に活性化されて,多糖体を多く含む発酵乳を得ることができる。
上記のように,本発明において,各処理工程を経て製造された発酵乳は,ブルガリア菌の菌数(生菌数)が相対的に多くなっている。すなわち,本発明の製造方法では,ブルガリア菌とサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータが添加された発酵乳基材を,意図的に長時間(所定期間)で低温保持するように設定している。そして,この所定期間で低温保持した発酵乳基材を加温処理して発酵を促進する。このように,発酵乳の製造過程において,あえて発酵乳基材を一旦低温保持する操作を行うことによって,予想外にも,発酵乳に含まれているブルガリア菌の菌数が増加する現状が確認された。つまり,低温保持工程(低温保持処理)を行った場合の発酵乳と,低温保持工程(低温保持処理)を行わなかった場合の発酵乳を比較すると,後者よりも前者で,ブルガリア菌の菌数が多くなり,しかも,後者よりも前者で,サーモフィルス菌の菌数が少なくなっていた。このため,低温保持工程を行うことで,ブルガリア菌の増殖を促進しつつ,サーモフィルス菌の増殖を抑制することに成功したといえる。そして,ブルガリア菌には,機能性の多糖体(EPS:Exopolysaccharide)を生産するものがある。従って,本発明によれば,乳酸菌の増殖促進剤などの添加物を用いることなく,ブルガリア菌の菌数を相対的に増加させることで,多糖体を多く含む雑味のない発酵乳を製造することができる。
本発明において,低温保持工程(ステップS5)前の発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数を1(基準)としたときのブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)の数値をαとする。ここで,このαの数値は,スタータ添加工程(ステップS4)の直後(具体的に,原料乳に乳酸菌スタータを添加してから1時間以内の発酵乳基材)に含まれるサーモフィルス菌の菌数とブルガリア菌の菌数から求めることが好ましい。また,発酵工程(ステップS7)後の発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数を1(基準)としたときのブルガリア菌の菌数の比率(ブルガリア菌の菌数/サーモフィルス菌の菌数)の数値をβとする。ここで,このβの数値は,再冷却工程(ステップS8)の直後の発酵乳(具体的に,再冷却してから1時間以内の発酵乳)に含まれるサーモフィルス菌の菌数とブルガリア菌の菌数から求めることが好ましい。この場合において,本発明によれば,β/αの数値は,1.1以上とすることができる。そして,この場合において,本発明によれば,β/αの数値は,1.2以上となることが好ましく,1.5以上となることがより好ましく,2.0以上となることがさらに好ましく,2.5以上となることが特に好ましく,3.0以上となることが最も好ましい。なお,この場合において,本発明によれば,β/αの数値の上限値は,特に限定されないが,例えば,20.0とすればよい。このように,本発明によれば,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率を飛躍的に向上させることができる。すなわち,本発明によれば,ブルガリア菌の増殖を相対的に促進し,サーモフィルス菌の増殖を相対的に抑制することが可能となる。
本発明において,例えば,低温保持工程前の発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(α)が,0.01〜0.5であるときに,本発明によれば,発酵工程後の発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率(β)を0.6以上とすることができる。ここで,この低温保持工程前の発酵乳基材に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率は,スタータ添加工程の直後の発酵乳基材(具体的に,原料乳に乳酸菌スタータを添加してから1時間以内の発酵乳基材)に含まれるサーモフィルス菌の菌数とブルガリア菌の菌数から求めることが好ましい。また,発酵工程後の発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率は,再冷却工程(ステップS8)の直後の発酵乳(具体的に,再冷却してから1時間以内の発酵乳)に含まれるサーモフィルス菌の菌数とブルガリア菌の菌数から求めることが好ましい。そして,この場合において,本発明によれば,発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率は,0.65以上となることが好ましく,0.7以上となることがより好ましく,0.8以上となることがさらに好ましく,0.9以上となることが特に好ましく,1.0以上となることが最も好ましい。なお,この場合において,本発明によれば,発酵乳に含まれるサーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率の上限値は,特に限定されないが,例えば,5.0とすればよい。このように,本発明によれば,発酵乳基材の段階において,ブルガリア菌の菌数がサーモフィルス菌の菌数の半分以下であっても,発酵乳の段階において,最終的に,ブルガリア菌の菌数がサーモフィルス菌の菌数と同等である,又は同等以上に高められた発酵乳を得ることが可能となる。
本発明は,ブルガリア菌の増殖の促進方法,サーモフィルス菌の増殖の抑制方法,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率の向上方法などにも関する。すなわち,本発明は,原料乳を殺菌する殺菌工程と,前記殺菌工程後の前記原料乳を,冷却する冷却工程と,前記冷却工程中又は前記冷却工程後の前記原料乳に,ブルガリア菌及びサーモフィルス菌を含む乳酸菌スタータを添加して,発酵乳基材を得るスタータ添加工程と,前記スタータ添加工程後の前記発酵乳基材を,発酵促進温度よりも低温で保持する低温保持工程と,前記低温保持工程後の前記発酵乳基材を,前記発酵促進温度まで加温する加温工程と,前記加温工程後の前記発酵乳基材を発酵させて,発酵乳を得る発酵工程と,を含む,ブルガリア菌の増殖の促進方法,サーモフィルス菌の増殖の抑制方法,サーモフィルス菌の菌数に対するブルガリア菌の菌数の比率の向上方法などでもある。なお,これらの詳細は,本発明の発酵乳の製造方法などに従うものとする。
以下,実施例を用いて,本発明を具体的に説明する。ただし,本発明は,以下の実施例に限定されることなく,公知の手法に基づく様々な改良を加えることができるものである。
<実施例1> 発酵乳基材の低温保持:有
生乳:500g,脱脂粉乳:76g,生クリーム:23g,水道水:401gを混合して,原料乳(ヨーグルトミックス,無脂乳固形分(SNF):9.5重量%,乳脂肪分:3.0重量%)を調製し,95℃に5分間で加熱殺菌した後に,約10℃(8℃〜12℃)に冷却した。冷却後の原料乳に,乳酸菌スタータ(明治社製,明治ブルガリア ヨーグルトLB81から分離した乳酸菌)を2重量%で添加(接種)して,発酵乳基材(ヨーグルトベース)を得た。実験の再現性の確認のため,発酵乳基材を製造する操作を2回で行った。1回目と2回目の発酵乳基材のそれぞれについて,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
1回目の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.1×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が1.5×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.067であった。
2回目の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.3×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が1.1×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.273であった。
そして,この発酵乳基材を,5〜10℃に,3日間(72時間)で低温保持した。また,発酵乳基材を低温保持している間,発酵乳基材に対して窒素ガス(N2)を注入して嫌気状態とした。その後,この発酵乳基材を40℃に加温してから,窒素ガス(N2)を注入し,発酵乳基材の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した。その後,この発酵乳基材をカップ容器(容量:100g,プラスチック製)へ充填し,発酵室(40℃)に,乳酸酸度が0.8%に到達するまで,約3時間で静置してから,冷蔵室(10℃以下)で冷却して,発酵乳(セットタイプヨーグルト)[実施例1]を製造した。上記1回目の発酵乳基材と2回目の発酵乳基材を用いて,実施例1の発酵乳を製造する操作を2回で行った。1回目と2回目の実施例1のそれぞれについて,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
1回目の実施例1(発酵乳)では,ブルガリア菌の菌数が38.5×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が40.0×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.963であった。
2回目の実施例1(発酵乳)では,ブルガリア菌の菌数が33.5×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が38.0×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.882であった。
<比較例1> 発酵乳基材の低温保持:無
発酵乳基材を低温保持することの効果を確認するために,低温保持せずに,発酵乳(セットタイプヨーグルト)[比較例1]を製造した。低温保持の有無以外について,比較例1の製造条件は,上記実施例1と同じ条件とした。
すなわち,生乳:500g,脱脂粉乳:76g,生クリーム:23g,水道水:401gを混合して,原料乳(ヨーグルトミックス,無脂乳固形分(SNF):9.5重量%,乳脂肪分:3.0重量%)を調製し,95℃に5分間で加熱殺菌した後に,約10℃(8℃〜12℃)に冷却した。そして,冷却後の原料乳に,乳酸菌スタータ(明治社製,明治ブルガリア ヨーグルトLB81から分離した乳酸菌)を2重量%で添加(接種)して,発酵乳基材(ヨーグルトベース)を得た。実験の再現性の確認のため,発酵乳基材を製造する作業を2回で行った。1回目と2回目の発酵乳基材のそれぞれについて,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
1回目の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.6×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が2.0×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.300であった。
2回目の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.3×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が2.2×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.136であった。
乳酸菌スタータの添加後,すぐに,この発酵乳基材を40℃にまで加温してから,窒素ガス(N2)を注入し,発酵乳基材の溶存酸素濃度(DO)を5ppmに低減した。その後,この発酵乳基材をカップ容器(容量:100g,プラスチック製)へ充填し,発酵室(40℃)に,乳酸酸度が0.8%に到達するまで,約3時間で静置してから,冷蔵室(10℃以下)で冷却して,発酵乳(セットタイプヨーグルト)[比較例1]を製造した。上記1回目の発酵乳基材と2回目の発酵乳基材を用いて,比較例1の発酵乳を製造する操作を2回で行った。1回目と2回目の実施例1のそれぞれについて,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
1回目の比較例1(発酵乳)では,ブルガリア菌の菌数が16.5×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が91.5×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.180であった。
2回目の比較例1(発酵乳)では,ブルガリア菌の菌数が10.0×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が86.0×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.116であった。
[発酵乳基材の菌数の比較]
以下の表1は,実施例1で用いた発酵乳基材と比較例1で用いた発酵乳基材における,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数の対比を示している。
[発酵乳の菌数の比較]
以下の表2は,実施例1の発酵乳と比較例1の発酵乳における,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数の対比を示している。
実施例1において,発酵乳基材の菌数比(α)と発酵乳基材の菌数比(β)を比較すると,発酵乳基材の菌数比(β)が発酵乳基材の菌数比(α)よりも大きい数値となった(β>α)。1回目の実施例1では,β/αの値が,0.963÷0.067=14.373…となった。2回目の実施例1では,β/αの値が,0.882÷0.273=3.230…となった。
<実施例2> 発酵乳基材の低温保持:有
脱脂粉乳:124g,無塩バター:4,砂糖:54g,水道水:818gを混合して,原料乳(ヨーグルトミックス,無脂乳固形分(SNF):9.5重量%,乳脂肪分:3.0重量%)を調製し,95℃に5分間で加熱殺菌した後に,約10℃(8℃〜12℃)に冷却した。冷却後の原料乳に,乳酸菌スタータ(明治社製,明治ヨーグルトR−1から分離した乳酸菌)を2重量%で添加(接種)して,発酵乳基材(ヨーグルトベース)を得た。実験の再現性の確認のため,発酵乳基材を製造する操作を2回で行った。1回目と2回目の発酵乳基材のそれぞれについて,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
1回目の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.4×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が1.1×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.364であった。
2回目の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.3×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が1.1×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.273であった。
そして,この発酵乳基材を,5〜10℃に,2日間(48時間)で低温保持した。また,発酵乳基材を低温保持している間,発酵乳基材に対して窒素ガス(N2)を注入して嫌気状態とした。その後,発酵乳基材を38℃にまで加温してから,窒素(N2)を注入し,発酵乳基材の溶存酸素濃度(DO)を3ppmに低減した後に,小型のバット(容量:2kg,ステンレス製)へ充填し,発酵室(38℃)に,乳酸酸度が0.8%に到達するまで,約4時間で静置してから,発酵乳のカードを破砕した。その後,得られた発酵乳をカップ容器(容量:100g,プラスチック製)へ充填し,冷蔵室(10℃以下)で冷却して,発酵乳(ソフトタイプヨーグルト)[実施例2]を製造した。上記1回目の発酵乳基材と2回目の発酵乳基材を用いて,実施例2の発酵乳を製造する操作を2回で行った。1回目と2回目の実施例2のそれぞれについて,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
1回目の実施例2(発酵乳)では,ブルガリア菌の菌数が43.0×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が51.0×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.843であった。
2回目の実施例2(発酵乳)では,ブルガリア菌の菌数が41.0×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が46.5×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.882であった。
<比較例2> 発酵乳基材の低温保持:無
発酵乳基材を低温保持することの効果を確認するために,低温保持せずに,発酵乳(ソフトタイプヨーグルト)[比較例2]を製造した。低温保持の有無以外について,比較例2の製造条件は,上記実施例2と同じ条件とした。
すなわち,脱脂粉乳:124g,無塩バター:4,砂糖:54g,水道水:818gを混合して,原料乳(ヨーグルトミックス,無脂乳固形分(SNF):9.5重量%,乳脂肪分:3.0重量%)を調製し,95℃に5分間で加熱殺菌した後に,約10℃(8℃〜12℃)に冷却した。冷却後の原料乳に,乳酸菌スタータ(明治社製,明治ヨーグルトR−1から分離した乳酸菌)を2重量%で添加(接種)して,発酵乳基材(ヨーグルトベース)を得た。実験の再現性の確認のため,発酵乳基材を製造する操作を2回で行った。1回目と2回目の発酵乳基材のそれぞれについて,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
1回目の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.2×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が0.7×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.286であった。
2回目の発酵乳基材では,ブルガリア菌の菌数が0.3×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が1.3×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.231であった。
乳酸菌スタータの添加後,すぐに,発酵乳基材を38℃にまで加温してから,窒素(N2)を注入し,発酵乳基材の溶存酸素濃度(DO)を3ppmに低減した後に,小型のバット(容量:2kg,ステンレス製)へ充填し,発酵室(38℃)に,乳酸酸度が0.8%に到達するまで,約4時間で静置してから,発酵乳のカードを破砕した。その後,得られた発酵乳をカップ容器(容量:100g,プラスチック製)へ充填し,冷蔵室(10℃以下)で冷却して,発酵乳(ソフトタイプヨーグルト)[比較例2]を製造した。上記1回目の発酵乳基材と2回目の発酵乳基材を用いて,比較例2の発酵乳を製造する操作を2回で行った。1回目と2回目の実施例2のそれぞれについて,ブルガリア菌の菌数とサーモフィルス菌の菌数を測定した。
1回目の比較例2(発酵乳)では,ブルガリア菌の菌数が28.0×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が73.5×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.381であった。
2回目の比較例2(発酵乳)では,ブルガリア菌の菌数が21.5×107cfu/gであり,サーモフィルス菌の菌数が111.5×107cfu/gであった。そして,この菌数比(ブルガリア菌/サーモフィルス菌)は,0.193であった。
[発酵乳基材の菌数の比較]
以下の表3は,実施例2で用いた発酵乳基材と比較例2で用いた発酵乳基材における,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数の対比を示している。
[発酵乳の菌数の比較]
以下の表4は,実施例2の発酵乳と比較例2の発酵乳における,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の菌数の対比を示している。
実施例2において,発酵乳基材の菌数比(α)と発酵乳基材の菌数比(β)を比較すると,発酵乳基材の菌数比(β)が発酵乳基材の菌数比(α)よりも大きい数値となった(β>α)。1回目の実施例2では,β/αの値が,0.843÷0.364=2.315…となった。2回目の実施例2では,β/αの値が,0.882÷0.273=3.230…となった。
[発酵乳の多糖体の濃度の比較]
以下の表5は,実施例2の発酵乳に含まれる多糖体の濃度(産生量)と,比較例2の発酵乳に含まれる多糖体の濃度(産生量)の対比を示している。
上記の表5に示されるように,実施例2の発酵乳では,比較例2の発酵乳よりも,多糖体の濃度が高くなっていた。この結果は,表4に示されるように,実施例2の発酵乳では,比較例2の発酵乳よりも,ブルガリア菌の菌数が多いことに起因するものであると考えられる。
なお,発酵乳に含まれる多糖体の濃度を測定する際には,100gの発酵乳から多糖体を分離し,この菌体外の多糖体をフェノール−硫酸法により定量した。なお,発酵乳から多糖体を分離する方法には,以下の工程a)〜d)を行なった。
a)トリクロロ酢酸を用いて,除タンパクする。
b)エタノール沈殿法により,多糖体を沈澱させる。
c)透析膜を用いて,前記の多糖体の水溶液を透析する。
d)高分子側の水溶液を得る。
ただし,除タンパクや,エタノール沈殿法,透析などの工程では,乳酸菌,培養液,培養条件などに応じて,その操作条件などを適宜調整して行うことができる。
上記の表1〜表4に示されるとおり,発酵前の発酵乳基材に低温保持処理を行った実施例1及び2では,発酵前の発酵乳基材に低温保持処理を行わなかった比較例1及び2と比較して,いずれも,ブルガリア菌の菌数が多くなり,サーモフィルス菌の菌数が少なくなった。このことから,発酵前に発酵乳基材を,発酵促進温度(例えば,30℃〜40℃)よりも低温(例えば,15℃以下)で保持することにより,ブルガリア菌の増殖が促進されて,サーモフィルス菌の増殖が抑制されることが確認された。一方,上記表5に示されるとおり,発酵前の発酵乳基材に低温保持処理を行った実施例2では,発酵前の発酵乳基材に低温保持処理を行わなかった比較例2と比較して,発酵乳に含まれる多糖体の総量が多くなった。このことから,発酵前に発酵乳基材を,発酵促進温度よりも低温で保持してから発酵させることにより,ブルガリア菌に由来する多糖体を多く含む発酵乳を製造できることが確認された。