JP6635288B2 - 熱電変換素子とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高温耐久性に優れた熱電変換素子とその製造方法に関する。
熱電変換素子は、温度差を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を有し、熱電変換材料を熱電変換部としその両端に電極部が設けられてなるものであり、それを1個又は複数設置して作製されたものが熱電変換モジュールである。
熱電変換素子及びそれに用いる熱電変換材料は古くから研究開発され、例えば、ビスマス・テルル、鉛・テルル、亜鉛・アンチモナイドなどが知られている。しかしながら、これらの材料は、有害元素や希少元素が含まれるために、実用化の障害になっている。
近年、高変換効率、環境低負荷など優れた特徴を持つシリサイド系化合物、特に多結晶性マグネシウムシリサイド(ドーピング元素を含むものと含まないものを総称する)が特に注目されている。(例えば、特許文献1、特許文献2参照)
特開2011−029632号公報 国際公開第2014/084163号
熱電変換素子は、無次元性能指数(ZT)をはじめ、優れた各種の熱電変換特性を有するものであることが要求されるが、実用化には長期高温耐久性が必要である。多結晶性マグネシウムシリサイドをはじめ、様々な熱電変換材料を用いた多くの熱電変換素子については、含有させるドーパントの種類を選択して高温耐久性の向上を図っているが、稼働温度域(約600℃程度の高温領域)において長期高温耐久性が不充分なため、耐久性の改善が求められている。
本発明は上記課題を解決し、長期高温耐久性に優れた熱電変換素子およびその製法を提供することを目的とする。
本発明者等は、熱電変換部用の代表的材料である多結晶性マグネシウムシリサイドについて、その焼結体にアンチモンを0.5at%ドープしたものを試料とし、大気雰囲気中で約600℃に加熱し、10時間、100時間、1000時間の各経過時点で観察した。その結果、焼結体表面の酸素濃度が高くなっていることを確認し、また焼結時の粒界を起点に表面全体に黒い粒が生成して酸化が進んでいることがわかった。このため、熱電変換部の表面を保護する必要があることを認識した。
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ね、その結果、高温下でも酸化を防止でき、ボイドや亀裂を発生させない、酸化物結晶化ガラスを開発することができ、本発明を創出するに至った。具体的には、本発明は以下の(C1)〜(C12)のとおりである。
(C1) 熱電変換部を備える熱電変換素子であって、
熱電変換部が酸化物結晶化ガラスによって被覆されており、
熱電変換部の熱膨張係数と、酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数とが0.5×10−5/K〜2.0×10−5/Kであり、かつ熱電変換部の熱膨張係数と酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数との差が0.5×10−5/K以下であり、
前記酸化物結晶化ガラスがガラス相と結晶相とを含有し、該ガラス相が以下の(1)、(2)及び(3)の金属酸化物を含む、熱電変換素子。
(1)Na及びKから選択されるアルカリ金属元素の酸化物の少なくとも1種
(2)Mg、Ca、Sr及びBaから選択されるアルカリ土類金属元素の酸化物の少なくとも1種
(3)Siの酸化物
) ガラス相が以下の(4)の金属酸化物をさらに含む、(C)の熱電変換素子。
(4)Al、B及びZnから選択される金属元素の酸化物の少なくとも1種
(C) 酸化物結晶化ガラスは、ガラス相がNaO、KO、CaO、Al及びSiOを含有し、かつ、結晶相がアルカリ金属酸化物及び/又はアルカリ土類金属酸化物を含有するケイ酸塩結晶相を含む、(C)又は(C)の熱電変換素子。
(C熱電変換部を備える熱電変換素子であって、
前記熱電変換部が酸化物結晶化ガラスによって被覆されており、
前記熱電変換部の熱膨張係数と、前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数とが0.5×10 −5 /K〜2.0×10 −5 /Kであり、かつ前記熱電変換部の熱膨張係数と前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数との差が0.5×10 −5 /K以下であり、
酸化物結晶化ガラスの膜厚が20〜150μmである、熱電変換素子。
(C熱電変換部を備える熱電変換素子であって、
前記熱電変換部が酸化物結晶化ガラスによって被覆されており、
前記熱電変換部の熱膨張係数と、前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数とが0.5×10 −5 /K〜2.0×10 −5 /Kであり、かつ前記熱電変換部の熱膨張係数と前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数との差が0.5×10 −5 /K以下であり、
熱電変換部が多結晶性マグネシウムシリサイドを含有する、熱電変換素子。
(C) (C1)〜(C)のいずれかの熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
(C) (C1)〜(C)のいずれかの熱電変換素子を構成し、酸化物結晶化ガラスの膜によって被覆された熱電変換部材。
(C) 酸化物ガラス粉末を含むスラリーに熱電変換部を浸漬させる工程と、
スラリーで被覆された熱電変換部を焼成する工程と、
を含む、酸化物結晶化ガラスによって被覆された熱電変換部を備える熱電変換素子の製造方法であって、
スラリーに浸漬された熱電変換部を前記スラリーから引き上げる速度が5〜25mm/秒であり、
熱電変換部を焼成する工程において、5〜20Paの圧力下、5〜15℃/分の速度で昇温し、650〜750℃で50〜70分間焼成した後、1〜5℃/分の速度で降温する、熱電変換素子の製造方法。
(C) 該酸化物ガラス粉末は、Na及びKから選択されるアルカリ金属元素の酸化物の少なくとも1種、Mg、Ca、Sr及びBaから選択されるアルカリ土類金属元素の酸化物の少なくとも1種、並びにSiの酸化物、である金属酸化物を含む、(C)の熱電変換素子の製造方法。
(C10) 金属酸化物の組成が、以下の(1a)、(2a)又は(3a)である、(C)の熱電変換素子の製造方法。
(1a)10〜20mol%のNaO、10〜20mol%のKO、5〜15mol%のCaO、5〜15mol%のAl及び40〜70mol%のSiO
(2a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO、2.5〜7.5mol%のAl及び50〜60mol%のSiO
(3a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO及び55〜65mol%のSiO
(C11) スラリーにおける酸化物ガラス粉末の濃度が45〜60質量%であり、酸化物ガラス粉末の平均粒径が3〜15μmである、(C)〜(C10)のいずれかの熱電変換素子の製造方法。
(C12) 下記(1a)(2a)又は(3a)の組成を有する金属酸化物を備え、結晶相及びガラス相からなる、熱電変換部を被覆する酸化物結晶化ガラス。
(1a)10〜20mol%のNaO、10〜20mol%のKO、5〜15mol%のCaO、5〜15mol%のAl及び40〜70mol%のSiO
(2a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO、2.5〜7.5mol%のAl及び50〜60mol%のSiO
(3a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO及び55〜65mol%のSiO
本発明によれば、長期高温耐久性に優れた熱電変換素子およびその製法を提供することができる。
(a)熱電変換素子の外観を示す概略図であり、(b)熱電変換モジュールの外観を示す概略図である。 組成が20mol%のNaO、10mol%のKO、10mol%のCaO及び60mol%のSiOからなる酸化物ガラスの焼成後のX線回折(XRD)曲線図である。 組成が20mol%のNaO、10mol%のKO、10mol%のCaO、5mol%のAl及び55mol%のSiOからなる酸化物ガラスの焼成後のXRD曲線図である。 組成が15mol%のNaO、15mol%のKO、10mol%のCaO、10mol%のAlおよび50mol%のSiOからなる酸化物ガラスの焼成後のXRD曲線図である。 図4に示す酸化物ガラスを用いたコーティング試料とガラス焼成試料のXRD測定結果を示す図である。 図4に示す酸化物ガラス(徐冷ガラス)とガラス焼成試料(酸化物結晶化ガラス)、及び多結晶性マグネシウムシリサイドの焼結体の熱膨張曲線を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態によって限定的に解釈されるものではない。
本発明は、熱電変換部を備える熱電変換素子であって、熱電変換部が酸化物結晶化ガラスによって被覆されている、熱電変換素子である。
図1(a)は、熱電変換素子の外観を示す概略図であり、図1(b)は熱電変換モジュールの外観を示す概略図である。熱電変換素子3は、酸化物結晶化ガラスで被覆された熱電変換部1と端部2を備えている。
熱電変換部1に用いられる熱電変換材料としては、特に限定されず、従来から知られているビスマス・テルル、鉛・テルル、亜鉛・アンチモナイドなどをはじめ、マグネシウムシリサイド、マンガンシリサイド、鉄シリサイド、バリウムガリウムシリサイドなどのシリサイド系材料、およびハーフホイスラー系材料、フイルドスクッテルダイド系材料、カーボンナノチューブなどの炭素系材料、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの有機高分子系材料などが適用可能である。この中でも、多結晶性のマグネシウムシリサイドは変換効率が高く、酸化物結晶化ガラスでコーティングされることによって長期耐久性を備えることから、特に好ましい材料である。
熱電変換部の形状は特に限定されず、例えば図1(a)に示すような柱状体であってもよく、平板状であってもよい。柱状体とは三角柱、四角柱、六角柱等の角柱体や、円柱、楕円柱等を含む。
熱電変換部1に用いる熱電変換材料の作製方法は特に限定されない。例えば、多結晶性マグネシウムシリサイドを用いる場合は、特許文献1に記載されるように、ほぼ化学量論量の割合のマグネシウムとケイ素を、必要に応じて約0.1〜2.0at%の一種以上のドーパント元素(例えば、Sb、Bi、Al、Zn、Sn、Taなど)とを混合し、その混合物を全ての原材料が溶融する程度の温度で加熱し反応させた後徐冷し、次いで、得られたインゴットAを粉砕して形成した粒子を放電プラズマ焼結することによってインゴットBを得る。インゴットBを、ワイヤーソーなどを用いて所定の大きさの柱状体に切り出して、熱電変換素子の熱電変換部材として用いられることができる。またインゴットAが、ボイドなどの少ない均質なものである場合には、インゴットAから柱状体を直接切り出して熱電変換部材とすることもできる。
端部2は、電極層として機能することが好ましく、例えば金属シリサイドや金属材料などを用いて構成されてもよく、熱電変換部1との接触抵抗が低い材料で構成されることが好ましい。
熱電変換部1に端部2を設ける方法は限定されないが、例えば、焼結用装置に収容したインゴットAの粉砕粒子集合体の両側に、端部2を構成する金属粒子を積重した後、一体に焼結させてインゴットCを作製し、柱状体の形状に切り出して、熱電変換部1と端部2とが設けられた熱電変換素子3として製造することができる。また、熱電変換部である柱状体の端側にガラス粉末の膜が付着しない方法でスラリーに浸漬塗布するか、あるいは酸化物結晶化ガラスが被覆された柱状体の端側の酸化物結晶化ガラスを取り除き、そこに導電性ペーストを塗ることや、導電材料を蒸着する方法などもある。
また、先述した一体焼結法などによって、熱電変換部1と端部2を有する熱電変換素子を予め準備し、後述の酸化物ガラス粉末スラリーに浸漬して、あるいはスプレーコーティングなどにより均一塗布し焼成することによって、酸化物結晶化ガラスが被覆されてなる、熱電変換部1と端部2を有する熱電変換素子3を作製できる。
熱電変換部1を被覆する酸化物結晶化ガラスは、耐熱性に優れており、熱電変換部1を被覆することによって、熱電変換部1の表面を保護する。本発明者らは、熱膨張係数が上述の焼結体とほぼ同じ結晶化ガラスに着目し、熱電変換部の周囲を該結晶化ガラスでコーティングすることによって酸化を防止できることを見出したものである。
結晶化ガラスは、ガラスを結晶化させたもので結晶相及びガラス相からなる。酸化物結晶化ガラスにおける「酸化物」とは、ガラス中に陰イオンとしてハロゲン元素やカルコゲン元素等を含まないことを意味する。
熱電変換部の材料、例えばマグネシウムシリサイドの熱膨張係数は、一般的に安定性の高いケイ酸塩系酸化物ガラスに対して比較的大きいものである。これに対し、酸化物ガラスは、熱膨張係数を大きくできる組成にすると、軟化温度が下がり高温で形状を維持できなくなるという問題がある。また化学的耐久性(特に耐水性)や強度が低下するという問題がある。さらに、ガラスは準安定相のため、組成によっては高温・長時間での使用で徐々に結晶化し、亀裂や剥離が生じる可能性がある。また、高温・長時間のコーティングプロセスが必要な場合には、熱電素子部材や電極に劣化などの悪影響を与える可能性がある。これらの問題を解決するために、本発明者らは、コーティングの熱処理時に軟化・焼結(緻密化)を進ませると同時に結晶(高温安定相)を生じさせることで結晶化ガラスとし、緻密化、熱膨張係数、高温安定性(軟化や結晶化による変形・亀裂・剥離の防止)、化学耐久性、高強度を同時に達成できる酸化物結晶化ガラスを見出したものである。
酸化物結晶化ガラスからなる膜の膜厚は、20〜150μmであることが好ましく、40〜100μmであることがより好ましい。酸化物結晶化ガラスの膜は150μm以下であると、剥離が発生しにくくなり好ましい。
酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数と、熱電変換部1の熱膨張係数とは、0.5×10−5/K〜2.0×10−5/Kであることが好ましく、1.3×10−5/K〜1.8×10−5/Kであることがより好ましい。また、酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数と熱電変換部の熱膨張係数との差は小さければ小さいほど好ましく、0.5×10−5/K以下であることが好ましく、0.3×10−5/K以下であることがより好ましい。熱膨張係数の差が小さいことによって、結晶化ガラスにボイドや亀裂が発生しにくくなり、熱電変換素子3の長期耐久性がより向上する。
酸化物結晶化ガラスは、熱膨張係数が熱電変換部1とほぼ同じものになるように、次のようにして作製することが好ましい。すなわち、酸化物結晶化ガラスは、母ガラスから熱処理によって析出した結晶相と、残存成分によるガラス相からなり、該母ガラス相が後述の金属酸化物群から選択される複数の金属酸化物から構成されるものであるが、この複数の金属酸化物はそれぞれ個別の係数因子(αi)を有するので、下記のAppenの式(1)を用いて、熱電変換部材の熱膨張係数とほぼ同じ値になるように、組成(mol%)を変えながら、酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数(α)を見積って、母ガラスである酸化物ガラスの処方を決めることができる。
α=0.1×Σαipi 式(1)
(αi:係数因子、pi:組成(mol%)、0≦pi≦100)
本発明における酸化物ガラス作製に用いる金属酸化物は、主要な成分としては、(1)Na及びKから選択されるアルカリ金属元素の酸化物の少なくとも1種、(2)Mg、Ca、Sr及びBaから選択されるアルカリ土類金属元素の酸化物の少なくとも1種、並びに(3)Siの酸化物であり、任意成分として(4)Al、B及びZnから選択される金属元素の酸化物の少なくとも1種であることが好ましい。
酸化物結晶化ガラスは、ガラス相がNaO、KO、CaO、Al及びSiOを含有し、かつ、結晶相がアルカリ金属酸化物及び/又はアルカリ土類金属酸化物を含有するケイ酸塩結晶相を含むことが好ましい。アルカリ金属酸化物及び/又はアルカリ土類金属酸化物を含有するケイ酸塩結晶相としては、例えば、アノーサイトを含む長石類やカルシライトが挙げられる。
酸化物ガラスは、Appenの式(1)を用いて決めた処方に基づいて、上述の(1)〜(4)の各グループの金属酸化物から選択したものを所定の配合割合で混合し、該混合物を溶融した後急冷したガラスを粉砕して、酸化物ガラス粉末を作製することができる。また、急冷したガラスをさらに徐冷し(該徐冷により得られるガラスを徐冷ガラスという)、該徐冷ガラスを粉砕して酸化物ガラス粉末を作製することも好ましい態様である。
酸化物ガラスの組成は、以下の(1a)、(2a)又は(3a)のいずれかであることが好ましい。
(1a)10〜20mol%のNaO、10〜20mol%のKO、5〜15mol%のCaO、5〜15mol%のAl及び40〜70mol%のSiO
(2a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO、2.5〜7.5mol%のAlおよび50〜60mol%のSiO
(3a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaOおよび55〜65mol%のSiO
この酸化物ガラスの組成の具体例として、以下のものを挙げることができる。
(1a−1)15mol%のNaO、15mol%のKO、10mol%のCaO、10mol%のAlおよび50mol%のSiOからなる(図4にガラス焼成試料のXRD曲線を示す)。
(2a−1)20mol%のNaO、10mol%のKO、10mol%のCaO、5mol%のAlおよび55mol%のSiOからなる(図3にガラス焼成試料のXRD曲線を示す)。
(3a−1)20mol%のNaO、10mol%のKO、10mol%のCaO、60mol%のSiOからなる(図2にガラス焼成試料のXRD曲線を示す)。
次に、この粉末を含むスラリーに熱電変換部材である柱状体を浸漬した後、スラリーから引き上げて焼成し、被覆対象物である柱状体表面に酸化物結晶化ガラスの被膜を形成できる。すなわち、本発明は、酸化物ガラス粉末を含むスラリーに熱電変換部を浸漬させる工程と、前記スラリーで被覆された熱電変換部を焼成する工程と、を含む、酸化物結晶化ガラスによって被覆された熱電変換部を備える熱電変換素子の製造方法である。
酸化物ガラス粉末は、Na及びKから選択されるアルカリ金属元素の酸化物の少なくとも1種、Mg、Ca、Sr及びBaから選択されるアルカリ土類金属元素の酸化物の少なくとも1種、並びにSiの酸化物、である金属酸化物を含むことが好ましい。
使用するスラリーは、平均粒径が約3〜15μmの酸化物ガラス粉末をエタノールなどに分散させたもの(ガラススラリー)であることが好ましい。スラリー中の酸化物ガラス粉末の濃度は、後述するように、熱電変換部1である柱状体のスラリー中からの引き上げ速度との兼ね合いで決まるが、約45〜60質量%が好ましく、約50〜55質量%がより好ましい。
スラリー中の酸化物ガラス粉末の分散性が良い状態で浸漬塗布(ディップコート)を行うと、熱電変換部の表面にガラス粉末が付着しやすくなり、また付着が均一になって、焼成後形成された結晶化ガラスからなる膜の密着性は良くなる傾向が出てくるため、超音波などを使って分散状態を向上させることが好ましい。またスラリー作製後できるだけ早期に使用することが好ましく、さらに、ガラス粉末の沈降を防止するために分散剤を含有させることもできる。
所望の酸化物結晶化ガラスの膜を形成するためには、熱電変換部の表面に付着するガラス粉末の厚さと密度が可能な限り均一であることが重要であり、それはスラリー中での浸漬時間とスラリーからの熱電変換部である柱状体の引き上げ速度が大きく影響する。
浸漬は、1.0秒間前後の短時間で行うことが好ましい。浸漬時間を長くするとガラス粒子の沈降が進み、均質性に悪影響が出るためである。この引き上げ速度が一定であることが重要であり、5〜25mm/秒が好ましく、15〜20mm/秒がより好ましい。引き上げる速度を25mm/秒以下にすると、付着するガラス粒子からなる膜は薄くなる反面、最終的に形成される結晶化ガラス膜に亀裂が発生しにくく、熱電変換部から結晶化ガラス膜が剥離しにくい傾向となる。また、引き上げる速度を5mm/秒以上にすると、膜厚が厚くなったり付着量が多くなったりする傾向にあり、量産時の生産性も上がる傾向にある。
スラリー中から引き上げた後、熱電変換部である柱状体を大気中で10分間前後乾燥させた後、焼成を行う。焼成は、5〜20Paの真空中で、約5〜15℃/minの速度で昇温し、650〜750℃で50〜70分間焼成した後、1〜5℃/minの速度で降温し行うのが好ましい。このような降温する速度では、残留歪が残りにくく、結晶化ガラス膜に亀裂が発生しにくく、熱電変換部から結晶化ガラス膜が剥離しにくい傾向となる。これにより、熱電変換素子として使用する、酸化物結晶化ガラスで被覆された熱電変換部である柱状体が形成される。
焼成によって形成された酸化物結晶化ガラスには、結晶相の存在が認められる。結晶相の存在する酸化物結晶化ガラスと前記徐冷ガラスと熱電変換部のそれぞれの熱膨張係数の差が小さいことに依り、所期の目的の高耐酸化性及び高温耐久性が達成されていると本発明者らは推察している。
また、本発明の酸化物結晶化ガラスで被覆された熱電変換部である柱状体を、稼働領域の約600℃より高温に長時間晒しても被膜は、亀裂や剥離は発生せず、耐酸化性のある高温耐久性の高いコーティングである。
以上説明した、酸化物結晶化ガラスが被覆された熱電変換部1である柱状体は、図1(a)のとおり端部2が電極層として設けられているが、該熱電変換部1の端側からも電流を取り出すことはできるため、電極部である端部2を設けなくても柱状体である熱電変換部1自体を熱電変換素子3として機能させることはできる。従って、本発明においては、酸化物結晶化ガラスが被覆された熱電変換部1自体を熱電変換素子と称することもできる。しかしながら、効率的に電流を取り出すために、熱電変換部である柱状体の材質によっては、電極部である端部2を別途設ける方が好ましい。
図1(b)は、熱電変換モジュールの外観を示す概略図である。図1(b)に示すように、熱電変換モジュール5は、熱電変換素子3が接続配線4によって他の熱電変換素子3と接続している。熱電変換モジュール5は、熱電変換素子3を複数接続することによって高出力化を図ることができる。
熱電変換モジュール5は、熱電変換部1と端部2を有する熱電変換素子3を予め複数準備し、複数の熱電変換素子3を電極板に挟持した構造体をガラス粉末スラリーに浸漬し、あるいはスプレーコーティングなどにより均一塗布し焼成することによって、酸化物結晶化ガラスに被覆された熱電変換モジュールを作製することができる。
次に、本発明について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明は該実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
<酸化物ガラスの熱膨張係数・見積り値と処方>
作製目標とする酸化物ガラスを構成する金属酸化物として、NaO、KO、CaO、Al、SiOを選択し、これらの金属酸化物の係数因子(先述のAppenの式におけるα)がNaO:39.5、KO:42.0、CaO:13、Al:−3.0、SiO:3.8なので、酸化物ガラスの熱膨張係数・見積り値を算出すると1.51×10−5/Kになり、熱電変換部の多結晶性マグネシウムシリサイドの熱膨張係数値である1.6×10−5/Kに近い値となった。
こうして得られた、酸化物ガラスの処方は15NaO−15KO−10CaO−10Al−50SiO(mol%)である。
<酸化物ガラス粉末の作製(15NaO−15KO−10CaO−10Al−50SiO(mol%))>
NaCO(15mol%)、KCO(15mol%)、CaCO(10mol%)、Al(10mol%)及びSiO(50mol%)を乾式混合した後、大気中1400℃で60分間溶融し、急冷して、ただちに600℃で60分間保持した後、100℃まで1℃/分の降温速度で徐冷して、徐冷ガラスを作製した。
該徐冷ガラスを粉砕し、45μmの粒子が通過できる篩を使って分級し、次いで、メノウ製の遊星ボールミルを用いて湿式粉砕(400rpm、60分を2回)して、平均粒径10μmの酸化物ガラス粉末を得た。
該徐冷ガラスの諸物性は、以下のとおりであった。
熱膨張係数(TMAで測定):1.5×10−5/K(MgSi焼結体:1.6×10−5/K)
ガラス転移点(熱膨張測定による):530℃
屈伏点(熱膨張測定による):584℃
結晶化温度(XRD測定による):620℃
<ガラス粉末・スラリーの準備>
平均粒径10μmの前記ガラス粉末をエタノールに分散して、濃度が48.7〜50.3重量%のスラリーを準備した。
<ガラス粉末・スラリーの焼成による酸化物結晶化ガラス被膜の形成>
(株)安永製のマグネシウムシリサイドの焼結体(Sb(0.5at%)とZn(0.5at%)がドープされたもの)から切り出して、3mm×3mm×6mmの熱電変換部用の柱状体を準備した。
時間の制御機構を備えたディップコーティング用装置を用いて、該柱状体をスラリーに1.0秒間浸漬した後、20mm/秒の速度で引き上げ、次いで、大気雰囲気中室温で10分間乾燥させた後、5〜20Paの真空下で、10℃/minの速度で700℃まで昇温し、700℃で60分間焼成した後、2℃/minの速度で降温させて、酸化物結晶化ガラスで被覆した柱状体を作製した。
<焼成によって結晶化ガラス中に形成される結晶相について>
徐冷ガラス粉末を700℃で焼成すると結晶相が形成され、析出結晶相の熱膨張係数はガラス相より一般に大きいことから、結晶化ガラスの熱膨張係数は、徐冷ガラスより大きい値を示す。
前述のように、該結晶化ガラスの結晶化温度は620℃であるが、620℃、650℃および700℃の3点でそれぞれ1時間加熱後、XRD測定をした結果、この結晶相がいずれもカルシライト(KAlSiO)であることを確認した。
<結晶化ガラスの高温耐久性試験>
次に、酸化物結晶化ガラスで被覆した柱状体を、大気雰囲気中で10℃/分の昇温速度で加熱し、700℃で1時間、700℃で100時間および600℃で500時間加熱する3つのケースの高温耐久試験行い、XRD測定と走査型電子顕微鏡(SEM)観察による結晶化挙動、及び電子線マクロアナライザ(EPMA)分析による相互拡散の有無を調べた。
また、参考試料として、上記の酸化物ガラス粉末を成形後、700℃で1時間焼成して得たバルク状のガラス焼成試料を作製し、結晶化状態の比較観察及び熱膨張係数を測定に使用した。
図5にXRD測定結果を示す。バルク状のガラス焼成試料では結晶相としてKAlSiOの他に、CaSiOと思われるピークが観察されたが、3つのケースはいずれも主たる結晶相がKAlSiOのみでCaSiOは確認されず、また、3つのケース共に結晶化状態の変化は観察されず、ほぼ同じものと推察される。
さらに、SEM観察結果によると、700℃での熱耐久試験後のコーティング表面は、サイクル数が増えるにつれて表面粗さが増したが、顕著な亀裂や剥離は見られなかった。
さらに、EPMA観察によって、元素の相互拡散の有無を調べたところ、マグネシウムシリサイドと酸化物結晶化ガラスのそれぞれの構成元素(Mg、Si、Na、K、CaとAl)およびOの拡散が確認されなかった。このことは、高温領域でも熱電変換部と結晶化ガラス被膜が安定でかつ大気中の酸素に対してガラス被膜がバリヤーになって熱電変換部の耐酸化性能が向上したことを示している。
図6は、高温耐久性試験に用いた各試料の熱膨張曲線を示している。ガラス焼成試料、MgSi焼結体、徐冷ガラスの熱膨張係数(×10−5/K)はそれぞれ1.8、1.6、1.5であった。
熱電変換部材表面に形成されたコーティング層は、主な析出結晶相であるKAlSiOとガラス相との複合化された酸化物結晶化ガラスからなるものであるが、該コーティング層が極めて薄膜で熱膨張係数を測定できなかった。しかし、図2のXRDチャートで分かるように、ガラス焼成試料に観られる数多くの結晶相(KAlSiO4とCaSiO)がコーティング試料には観られず、結晶相が少なければ熱膨張係数の値も低くなるとの知見から、ガラス焼成試料の値の1.8より低いものと想定し、ガラス焼成試料の熱膨張係数の値を該コーティング層の値とした。
従って、該コーティング層とMgSi焼結体のそれぞれの熱膨張係数の値の差が小さく、700℃での長時間耐久試験の結果、上記のように、亀裂、剥離などが生じず、拡散も観察されないのは、「熱膨張係数値の差が少ない」ことに依るものであり、該コーティング層は耐酸化膜として極めて有効に機能するものである。
(実施例2)
実施例1と同様にしてAppenの式1により決めた下記の組成に基づいて、酸化物ガラス(徐冷ガラス)を作製し、実施例1に従い同じ工程で、酸化物結晶化ガラスで被覆した熱電変換部材を得た。
20mol%のNaO、10mol%のKO、10mol%のCaO、5mol%のAl及び55mol%のSiO
該酸化物結晶化ガラスのXRD測定チャートを図3に示す。得られた酸化物結晶化ガラスで被覆した熱電変換部材について、実施例と同じ試験を行った結果、高温耐久性が高いものであることを確認した。
(実施例3)
実施例1と同様にしてAppenの式1により決めた下記の組成に基づいて、酸化物ガラス(徐冷ガラス)を作製し、実施例1に従い同じ工程で、酸化物結晶化ガラスで被覆した熱電変換部材を得た。
20mol%のNaO、10mol%のKO、10mol%のCaOおよび60mol%のSiO2。
該酸化物結晶化ガラスのXRD測定チャートを図2に示す。得られた酸化物結晶化ガラスで被覆した熱電変換部材について、実施例と同じ試験を行った結果、高温耐久性が高いものであることを確認した。
<熱電変換素子としての機能>
上記実施例1〜3で作製され、結晶化ガラスで被覆された柱状体は、あらためて電極部が設けられたものではないが、該熱電変換部材である柱状体の端部から電流を取り出すことができ、該柱状体自体が熱電変換素子として機能するものであることを確認した。
また、実施例1〜3で作製された熱電変換素子を複数連結して構成した熱電変換モジュールも機能するものであることを確認した。
1・・・酸化物結晶化ガラスで皮膜された熱電変換部、2・・・端部、3・・・熱電変換素子、4・・・接続配線、5・・・熱電変換モジュール。

Claims (12)

  1. 熱電変換部を備える熱電変換素子であって、
    前記熱電変換部が酸化物結晶化ガラスによって被覆されており、
    前記熱電変換部の熱膨張係数と、前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数とが0.5×10−5/K〜2.0×10−5/Kであり、かつ前記熱電変換部の熱膨張係数と前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数との差が0.5×10−5/K以下であり、
    前記酸化物結晶化ガラスがガラス相と結晶相とを含有し、該ガラス相が以下の(1)、(2)及び(3)の金属酸化物を含む、熱電変換素子。
    (1)Na及びKから選択されるアルカリ金属元素の酸化物の少なくとも1種
    (2)Mg、Ca、Sr及びBaから選択されるアルカリ土類金属元素の酸化物の少なくとも1種
    (3)Siの酸化物
  2. 前記ガラス相が、以下の(4)の金属酸化物をさらに含む、請求項に記載の熱電変換素子。
    (4)Al、B及びZnから選択される金属元素の酸化物の少なくとも1種
  3. 前記酸化物結晶化ガラスは、前記ガラス相がNaO、KO、CaO、Al及びSiOを含有し、かつ、前記結晶相がアルカリ金属酸化物及び/又はアルカリ土類金属酸化物を含有するケイ酸塩結晶相を含む、請求項又はに記載の熱電変換素子。
  4. 熱電変換部を備える熱電変換素子であって、
    前記熱電変換部が酸化物結晶化ガラスによって被覆されており、
    前記熱電変換部の熱膨張係数と、前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数とが0.5×10 −5 /K〜2.0×10 −5 /Kであり、かつ前記熱電変換部の熱膨張係数と前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数との差が0.5×10 −5 /K以下であり、
    前記酸化物結晶化ガラスの膜厚が20〜150μmである、熱電変換素子。
  5. 熱電変換部を備える熱電変換素子であって、
    前記熱電変換部が酸化物結晶化ガラスによって被覆されており、
    前記熱電変換部の熱膨張係数と、前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数とが0.5×10 −5 /K〜2.0×10 −5 /Kであり、かつ前記熱電変換部の熱膨張係数と前記酸化物結晶化ガラスの熱膨張係数との差が0.5×10 −5 /K以下であり、
    前記熱電変換部が多結晶性マグネシウムシリサイドを含有する、熱電変換素子。
  6. 請求項1乃至のいずれか一項に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
  7. 請求項1乃至のいずれか一項に記載の熱電変換素子を構成し、酸化物結晶化ガラスの膜によって被覆された熱電変換部材。
  8. 酸化物ガラス粉末を含むスラリーに熱電変換部を浸漬させる工程と、
    前記スラリーで被覆された前記熱電変換部を焼成する工程と、
    を含む、酸化物結晶化ガラスによって被覆された前記熱電変換部を備える熱電変換素子の製造方法であって、
    前記スラリーに浸漬された前記熱電変換部を前記スラリーから引き上げる速度が5〜25mm/秒であり、
    前記熱電変換部を焼成する工程において、5〜20Paの圧力下、5〜15℃/分の速度で昇温し、650〜750℃で50〜70分間焼成した後、1〜5℃/分の速度で降温する、熱電変換素子の製造方法。
  9. 該酸化物ガラス粉末は、(1)Na及びKから選択されるアルカリ金属元素の酸化物の少なくとも1種、(2)Mg、Ca、Sr及びBaから選択されるアルカリ土類金属元素の酸化物の少なくとも1種、並びに(3)Siの酸化物、である金属酸化物を含む、請求項に記載の熱電変換素子の製造方法。
  10. 前記金属酸化物の組成が、以下の(1a)、(2a)又は(3a)である、請求項に記載の熱電変換素子の製造方法。
    (1a)10〜20mol%のNaO、10〜20mol%のKO、5〜15mol%のCaO、5〜15mol%のAl及び40〜70mol%のSiO
    (2a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO、2.5〜7.5mol%のAl及び50〜60mol%のSiO
    (3a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO及び55〜65mol%のSiO
  11. 前記スラリーにおける前記酸化物ガラス粉末の濃度が45〜60質量%であり、前記酸化物ガラス粉末の平均粒径が3〜15μmである、請求項乃至10のいずれか一項に記載の熱電変換素子の製造方法。
  12. 下記(1a)(2a)又は(3a)の組成を有する金属酸化物を備え、結晶相及びガラス相からなる、熱電変換部を被覆する酸化物結晶化ガラス。
    (1a)10〜20mol%のNaO、10〜20mol%のKO、5〜15mol%のCaO、5〜15mol%のAl及び40〜70mol%のSiO
    (2a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO、2.5〜7.5mol%のAl及び50〜60mol%のSiO
    (3a)15〜25mol%のNaO、5〜15mol%のKO、5〜15mol%のCaO及び55〜65mol%のSiO
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