(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る電力計測システムについて、図1〜図6を参照して説明する。
本実施形態の電力計測システム1は、計測した負荷電流と負荷電圧とに基づいて、交流電源2から負荷3に供給される負荷電力を計測する。ここでいう負荷電流は、外部の交流電源2から導線4を介して負荷3に供給される電流である。負荷電圧は、交流電源2から負荷3に印可される電圧である。本実施形態の電力計測システム1は、例えば電力量計に用いられ、電源周波数が50Hz又は60Hzの商用の交流電源2から需要家施設(負荷3)に供給される電力を、計測する。
図1に示すように、本実施形態の電力計測システム1は、コイル10と、電流計測部20と、電圧検出部30と、処理部40と、を備える。
コイル10は、ロゴスキーコイルなどの、コアを用いない(コアレスの)空芯コイルである。コイル10は貫通孔100を有しており、測定対象の負荷電流が流れる導線4が、貫通孔100に挿通される。コイル10は、導線4に流れる負荷電流の微分値に比例した出力(以下、「第1電流信号SI1」という)を生じる。コイル10からの第1電流信号SI1は、電流計測部20に入力される。
電流計測部20は、コイル10からの第1電流信号SI1に基づいて、導線4に流れる負荷電流に応じた電流信号(以下、「第2電流信号SI2」という)を生成する。電流計測部20は、増幅回路21と、第1A/D変換回路22と、ローパスフィルタ23と、を備える。
増幅回路21は、コイル10からのアナログの第1電流信号SI1を増幅し、増幅した信号(以下、「第3電流信号SI3」という)を出力するアンプで構成されている。本実施形態の電流計測部20では、増幅回路21は、VGA(Variable Gain Amplifier:可変利得アンプ)で構成されている。
第1A/D変換回路22は、増幅回路21からの第3電流信号SI3を、所定のサンプリング周期でディジタル信号(以下、「第4電流信号SI4」という)に変換する。
ローパスフィルタ23は、第1A/D変換回路22からの第4電流信号SI4をフィルタリングして、電流信号(第2電流信号SI2)を生成する。すなわち、ローパスフィルタ23は、コイル10の出力(第1電流信号SI1)に応じた信号をフィルタリングして電流信号(第2電力信号)を生成する。ローパスフィルタ23は、コイル10の出力(第1電流信号SI1)に応じた信号を積分して、負荷電流の電流波形に戻している。ローパスフィルタ23は、ディジタルフィルタであって、例えばIIR(Infinite Impulse Response:無限インパルス応答)型のフィルタである。ローパスフィルタ23は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)でプログラムを実行することで実現される。ローパスフィルタ23からの電流信号(第2電流信号SI2)は、処理部40に入力される。
ローパスフィルタ23は、カットオフ周波数(以下、「第1カットオフ周波数fc1」という)を有している。ローパスフィルタ23は、入力される信号(第4電流信号SI4)のうち、第1カットオフ周波数fc1より低い周波数領域の成分は、ほぼ減衰させずに通過させる。一方、ローパスフィルタ23は、入力される信号のうち、第1カットオフ周波数fc1より高い周波数領域の成分は、周波数が高くなるほどより多く減衰させて通過させる。
電圧検出部30は、交流電源2から負荷3に印可される負荷電圧に応じた出力(以下、「第1電圧信号SV1」という)を生成する。電圧検出部30は、例えば、電圧線としての導線4と中性線との間の線間電圧を計測し、線間電圧のデータを第1電圧信号SV1として処理部40へ出力する。電圧検出部30は、例えば分圧回路で構成される。
処理部40は、電流計測部20からの電流信号(第2電流信号SI2)と電圧検出部30からの出力(第1電圧信号SV1)とに基づいて、交流電源2から負荷3に供給される負荷電力を求める。処理部40は、第2A/D変換回路41と、ハイパスフィルタ42と、電圧信号補正部43と、演算部44と、を備える。
第2A/D変換回路41は、電圧検出部30からの第1電圧信号SV1を所定のサンプリング周期でディジタル信号(以下、「第2電圧信号SV2」という)に変換する。
ハイパスフィルタ42は、第2A/D変換回路41からの第2電圧信号SV2をフィルタリングして、電圧信号(以下、「第3電圧信号SV3」という)を生じる。すなわち、ハイパスフィルタ42は、電圧検出部30からの出力(第1電圧信号SV1)に応じた信号をフィルタリングして電圧信号(第3電圧信号SV3)を生成する。ハイパスフィルタ42は、ディジタルフィルタであって、例えばIIR型のフィルタである。ハイパスフィルタ42は、例えば、DSPでプログラムを実行することで実現される。
ハイパスフィルタ42は、カットオフ周波数(以下、「第2カットオフ周波数fc2」という)を有している。ハイパスフィルタ42は、入力される信号(第2電圧信号SV2)のうち、第2カットオフ周波数fc2より高い周波数領域の成分は、ほぼ減衰させずに通過させる。一方、ハイパスフィルタ42は、入力される信号のうち、第2カットオフ周波数fc2より低い周波数領域の成分は、周波数が低くなるほどより多く減衰させて通過させる。第2カットオフ周波数fc2(ハイパスフィルタ42のカットオフ周波数)は、第1カットオフ周波数fc1(ローパスフィルタ23のカットオフ周波数)と同じに設定される。
ハイパスフィルタ42は、ローパスフィルタ23と同じタイプのディジタルフィルタである。例えばローパスフィルタ23がバターワース・ローパスフィルタであれば、ハイパスフィルタ42は、バターワース・ハイパスフィルタである。また、本実施形態では、ハイパスフィルタ42のクロックソースとローパスフィルタ23のクロックソースとは同じである。
電圧信号補正部43は、交流電源2の電源周波数に応じて、ハイパスフィルタ42からの出力(第3電圧信号SV3)の信号レベル(強度;振幅)を補正して補正後の信号(以下、「第4電圧信号SV4」という)を生じる。電圧信号補正部43は、処理後の信号(第4電圧信号SV4)の信号レベルが、第1電圧信号SV1の信号レベルと一致するように、第3電圧信号SV3の信号レベルを補正する。
ハイパスフィルタ42のゲインは、周波数に対して一定ではない。このため、電源周波数に変動があると、ハイパスフィルタ42で処理された後の第3電圧信号SV3の信号レベルは、負荷電圧の電圧レベルに変化がなくても変動する可能性がある。電圧信号補正部43は、この、電源周波数の変動に応じて生じる第3電圧信号SV3の信号レベルの変動を補償する。電圧信号補正部43で補正された信号(第4電圧信号SV4)は、演算部44に入力される。
本実施形態の電圧信号補正部43は、自動利得制御回路431を備える。自動利得制御回路431は、第2A/D変換回路41の第2電圧信号SV2から、交流電源2の電源周波数を検出する。自動利得制御回路431は、ハイパスフィルタ42からの第3電圧信号SV3の信号レベルを、検出した電源周波数に応じて補正し、第4電圧信号SV4の信号レベルが電源周波数の変動によらず一定になるように第4電圧信号SV4を生成する。
演算部44は、第2電流信号SI2と、第4電圧信号SV4とに基づいて、負荷電力を求める。
次に、負荷電流及び負荷電圧に対する電力計測システム1のゲイン特性(各周波数でのゲイン)及び位相特性(各周波数での位相)について、図2〜図5を参照して説明する。
図2に、負荷電流に対する、電力計測システム1の各部でのゲイン特性を示す。図2において、横軸は周波数を表し、縦軸はゲイン(増幅率)を表す。「fc」は第1カットオフ周波数fc1(=第2カットオフ周波数fc2)を表し、「fs」は電源周波数を表す。図2中、「GI1」はコイル10の出力特性を表し、「GI2」はローパスフィルタ23のゲイン特性を表す。「GI」は、コイル10の出力特性GI1とローパスフィルタ23のゲイン特性GI2とから得られる、負荷電流に対する電力計測システム1のゲイン特性を表す。
コイル10は、導線4に流れる負荷電流の微分値に比例した出力を生じる。したがって、コイル10の出力特性GI1は、周波数が高くなるほど大きくなる。
ローパスフィルタ23は、カットオフ周波数fc(第1カットオフ周波数fc1)より低い周波数領域の成分は、ほぼ減衰させずに通過させる。一方、ローパスフィルタ23は、カットオフ周波数fcより高い周波数領域の成分は、周波数が高くなるほどより多く減衰させて通過させる(「GI2」参照)。
図2に示すように、負荷電流に対する電力計測システム1のゲイン特性GIは、カットオフ周波数fc付近の周波数まで漸増し、カットオフ周波数fcより大きな周波数ではほぼ一定値になる。
図3に、負荷電圧に対する、電力計測システム1の各部でのゲイン特性を示す。図3において、横軸は周波数を表し、縦軸はゲイン(増幅率)を表す。「fc」は第2カットオフ周波数fc2(=第1カットオフ周波数fc1)を表し、「fs」は電源周波数を表す。図3中、「GV1」は電圧検出部30の出力特性を表し、「GV2」はハイパスフィルタ42のゲイン特性を表す。「GV」は、電圧検出部30の出力特性GV1とハイパスフィルタ42のゲイン特性GV2とから得られる、負荷電圧に対する電力計測システム1のゲイン特性を表す。
図3に示すように、電圧検出部30の出力特性GV1は、周波数によらず一定である。
ハイパスフィルタ42は、カットオフ周波数fc(第2カットオフ周波数fc2)より高い周波数領域の成分は、ほぼ減衰させずに通過させる。一方、ハイパスフィルタ42は、カットオフ周波数fcより低い周波数領域の成分は、周波数が低くなるほどより多く減衰させて通過させる(「GV2」参照)。
図3に示すように、負荷電圧に対する電力計測システム1のゲイン特性GVは、カットオフ周波数fc付近の周波数まで漸増し、カットオフ周波数fcより大きな周波数では一定値に収束する。
図4に、負荷電流に対する、電力計測システム1の各部での位相特性を示す。図4において、横軸は周波数を表し、縦軸は位相変化を表す。「fc」は第1カットオフ周波数fc1(=第2カットオフ周波数fc2)を表し、「fs」は電源周波数を表す。図4中、「ΔθI1」はコイル10の位相特性を表し、「ΔθI2」はローパスフィルタ23の位相特性を表す。「ΔθI」は、コイル10の位相特性ΔθI1とローパスフィルタ23の位相特性ΔθI2とから得られる、負荷電流に対する電力計測システム1の位相特性を表す。
図4に示すように、コイル10は、入力された信号の位相を90度進ませる(「ΔθI1」参照)。
ローパスフィルタ23は、入力された信号の位相を、信号成分の周波数に応じて遅らせる(「ΔθI2」参照)。ローパスフィルタ23は、カットオフ周波数fc(第1カットオフ周波数fc1)より十分高い周波数領域では、信号の位相をほぼ90度遅らせる。ローパスフィルタ23は、0[Hz]付近の周波数領域では、信号の位相を実質的に変化させずに通過させる。また、カットオフ周波数fc付近の周波数領域では、ローパスフィルタ23は、周波数が高くなるほど遅れが大きくなるように、信号の位相を遅らせる。
したがって、コイル10とローパスフィルタ23との合計では(「ΔθI」参照)、カットオフ周波数fcより十分高い周波数領域では、信号の位相を実質的に変化させずに通過させ、0[Hz]付近の周波数領域では、信号の位相を90度進ませる。また、カットオフ周波数fc付近の周波数領域では、周波数が低くなるほど進みが大きくなるように、信号の位相を進ませる。
図5に、負荷電圧に対する、電力計測システム1の各部での位相特性を示す。図5において、横軸は周波数を表し、縦軸は位相変化を表す。「fc」は第2カットオフ周波数fc2(=第1カットオフ周波数fc1)を表し、「fs」は電源周波数を表す。図5中、「ΔθV1」は電圧検出部30の位相特性を表し、「ΔθV2」はハイパスフィルタ42の位相特性を表す。「ΔθV」は、電圧検出部30の位相特性ΔθV1とハイパスフィルタ42の位相特性ΔθV2とから得られる、負荷電圧に対する電力計測システム1の位相特性を表す。
電圧検出部30で得られる信号の位相は、負荷電流の位相と同じである。すなわち、電圧検出部30は、入力される信号に対して位相の変化を与えない(「ΔθV1」参照)。
ハイパスフィルタ42は、入力された信号の位相を、信号成分の周波数に応じて進ませる(「ΔθV2」参照)。ハイパスフィルタ42は、0[Hz]付近の周波数領域では、信号の位相をほぼ90度進ませる。カットオフ周波数fc(第2カットオフ周波数fc2)より十分高い周波数領域では、ハイパスフィルタ42は、信号の位相を実質的に変化させずに通過させる。また、カットオフ周波数fc付近の周波数領域では、ハイパスフィルタ42は、周波数が低くなるほど進みが大きくなるように、信号の位相を進ませる。
電圧検出部30は位相の変化を与えないので、電圧検出部30とハイパスフィルタ42との合計による位相の変化(「ΔθV」)は、ハイパスフィルタ42による位相の変化(「ΔθV2」)と一致する。
上述のように、本実施形態の電力計測システム1では、ハイパスフィルタ42のカットオフ周波数である第2カットオフ周波数fc2は、ローパスフィルタ23のカットオフ周波数である第1カットオフ周波数fc1と、同じ値に設定されている。このため、図4、図5に示すように、ローパスフィルタ23の位相特性(「ΔθI2」参照)とハイパスフィルタ42の位相特性(「ΔθV2」参照)とは、同一の形状になる。すなわち、任意の周波数において、コイル10による位相の進みとローパスフィルタ23による位相の遅れとの合成値が、ハイパスフィルタ42による位相の進みと同じ値になる。これにより、負荷電流の位相に対する第2電流信号SI2の位相のずれは、負荷電圧の位相に対する第4電圧信号SV4の位相のずれと、同じになる。言い換えれば、コイル10とローパスフィルタ23とにより電流信号に与えられる位相の進みを、ハイパスフィルタ42により電圧信号に与えられる信号の進みによって、補償することができる。
ここで、ローパスフィルタのカットオフ周波数が電源周波数に近い値に設定されていると、電源周波数(測定対象の信号成分の周波数)が変動すれば、ローパスフィルタによる位相の遅れも変動する(図4の「ΔθI2」参照)。これにより、ローパスフィルタによって処理された後の電流信号の位相も、電源周波数の変動に応じて変動する。電流信号の位相の変動によって、演算部に入力される電流信号と電圧信号との間に位相差が生じると、演算部で求める負荷電力に誤差が生じてしまう。このため、ローパスフィルタと同じカットオフ周波数を有するハイパスフィルタを備えていない、従来の電力計測器では、ローパスフィルタのカットオフ周波数を、電源周波数よりも十分小さな値に設定する必要がある。すなわち、従来の電力計測器では、電源周波数でのローパスフィルタによる位相の遅れが、電源周波数の変動によらずにほぼ一定となるように、ローパスフィルタのカットオフ周波数を電源周波数よりも十分小さな値に設定する必要がある。
一方、ローパスフィルタのゲインは、カットオフ周波数よりも低い低周波数領域では実質的に一定であり、カットオフ周波数よりも高い高周波数領域では、カットオフ周波数から離れるにつれて徐々に減少する(図2の「GI2」参照)。このため、従来の電力計測器のように、ローパスフィルタのカットオフ周波数を電源周波数よりも十分小さな値に設定すると、電源周波数でのゲインに対する低周波数領域でのゲインの割合が、比較的大きくなる。その結果、ローパスフィルタでフィルタリングされた後の信号では、低周波数領域で生じるノイズ成分が増幅されてしまい、S/Nが悪くなってしまう。
これに対し、本実施形態の電力計測システム1では、ローパスフィルタ23のカットオフ周波数と同じカットオフ周波数を有するハイパスフィルタ42で、電圧信号をフィルタリングしている。このため、交流電源2の電源周波数の変動に応じて生じる、電源周波数でのローパスフィルタ23による位相の遅れの変動を、ハイパスフィルタ42によって補償することができる。したがって、ローパスフィルタ23の第1カットオフ周波数fc1を、電源周波数に近い値に設定することができる。これにより、従来に比べてS/Nを改善することができる、すなわち、電源周波数での信号成分に対する低周波数領域のノイズ成分の割合を減少させることができる。
なお、図3に示すように、ハイパスフィルタ42のゲインは、第2カットオフ周波数fc2より高い周波数領域では一定値に収束する(「GV2」参照)。ただし、カットオフ周波数付近の周波数領域では、ハイパスフィルタ42のゲインは周波数の増加に応じて僅かに変化(増加)する。このため、電源周波数が変動すると、ハイパスフィルタ42のゲインも僅かに変動する。
これに対し、本実施形態の電力計測システム1では、電圧信号補正部43が、交流電源2の電源周波数に応じてハイパスフィルタ42からの電圧信号(第3電圧信号SV3)の信号レベルを補正している。これにより、電源周波数の変動によらずに、負荷電力をより正確に求めることができる。
以上説明した実施形態の電力計測システム1は、本発明の一例に過ぎず、本発明は、上記の実施形態に限定されることはなく、上記の実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、本実施形態の変形例を列挙する。
自動利得制御回路431は、ハイパスフィルタ42によるフィルタリングに先立って、交流電源2の電源周波数に応じて、電圧検出部30からの出力に応じた信号の信号レベルを補正してもよい。すなわち、自動利得制御回路431は、電源周波数に応じて、第2A/D変換回路41からの第2電圧信号SV2の信号レベルを補正してもよい。この場合、ハイパスフィルタ42は電圧信号補正部43からの出力をフィルタリングし、ハイパスフィルタ42からの出力が演算部44に入力される。
電圧信号補正部43は、図6に示すように、ハイパスフィルタ42と演算部44との間に介在するフィルタ432で構成されていてもよい。本変形例のフィルタ432は、ディジタルフィルタであって、FIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)型のフィルタである。フィルタ432は、ハイパスフィルタ42のゲイン特性だけを補償する。すなわちフィルタ432は、電源周波数付近の周波数領域において、周波数に対してフラットな位相特性を有し、かつ周波数に対して線形であってハイパスフィルタ42のゲイン特性と逆の傾きのゲイン特性を有する。なお、フィルタ432(電圧信号補正部43)は、第2A/D変換回路41とハイパスフィルタ42との間に設けられてもよい。
第2カットオフ周波数fc2と第1カットオフ周波数fc1が同じとは、第2カットオフ周波数fc2と第1カットオフ周波数fc1とが完全に一致することに限定されない。必要となる計測精度の範囲で、ローパスフィルタ23による位相の変化を、ハイパスフィルタ42によって補償できれば、第2カットオフ周波数fc2は第1カットオフ周波数fc1と異なっていてもよい。
電力計測システム1は、主幹回路と複数の分岐回路とを有する分電盤に用いられてもよい。この場合、複数の分岐回路の各々に対してコイル10と電流計測部20とが設けられ、分岐回路ごとに負荷電流が計測される。また、電圧検出部30は、主幹回路の線間電圧を負荷電圧として計測する。演算部44は、負荷電圧と、分岐回路の各々について計測した負荷電流とに基づいて、分岐回路ごとに負荷電力を求める。
ローパスフィルタ23、ハイパスフィルタ42は、アナログ回路(例えばRC回路、CR回路)により構成されていてもよい。この場合、第1A/D変換回路22、第2A/D変換回路は省略される。
以上説明したように、本実施形態及び変形例に係る電力計測システム1は、コイル10と、ローパスフィルタ23と、電圧検出部30と、ハイパスフィルタ42と、演算部44と、を備える。コイル10は、外部の交流電源2から負荷3に供給される電流の微分値に比例した出力(第1電流信号SI1)を生じる。ローパスフィルタ23は、第1カットオフ周波数fc1を有する。ローパスフィルタ23は、コイル10の出力(第1電流信号SI1)に応じた信号をフィルタリングして電流信号(第2電流信号SI2)を生成する。電圧検出部30は、交流電源2から負荷3に印可される電圧に応じた出力(第1電圧信号SV1)を生成する。ハイパスフィルタ42は、第1カットオフ周波数fc1と同じに設定されている第2カットオフ周波数fc2を有する。ハイパスフィルタ42は、電圧検出部30からの出力(第1電圧信号SV1)に応じた信号をフィルタリングして電圧信号(第3電圧信号SV3)を生成する。演算部44は、電流信号(第2電流信号SI2)と電圧信号(第3電圧信号SV3)とに基づいて、交流電源2から負荷3に供給される電力を求める。
本実施形態の電力計測システム1によれば、交流電源2の電源周波数の変動に応じたローパスフィルタ23による位相の変動を、ハイパスフィルタ42により補償することができる。したがって、ローパスフィルタ23のカットオフ周波数fc1を高くすることができる。また、ローパスフィルタ23のカットオフ周波数fc1を高くすることで、S/Nを改善することができる。
一態様において、電力計測システム1は、電圧信号補正部43をさらに備える。電圧信号補正部43は、ハイパスフィルタ42によるフィルタリングに先立って、交流電源2の電源周波数に応じて、電圧検出部30からの出力(第1電圧信号)に応じた信号の信号レベルを補正する。或いは、電圧信号補正部43は、交流電源2の電源周波数に応じて、電圧信号(第3電圧信号SV3)の信号レベルを補正する。
これにより、電圧信号補正部43によって、周波数に対するハイパスフィルタ42のゲインの変化を補償することができる。
一態様において、電圧信号補正部43は、交流電源2の電源周波数を検出する。また、電圧信号補正部43は、電圧検出部30からの出力(第1電圧信号SV1)に応じた信号を、検出した周波数に応じて補正する。これにより電圧信号補正部43は、補正後の信号をハイパスフィルタ42でフィルタリングして生成される信号の信号レベルを、電圧検出部30からの出力の信号レベルと一致させる。或いは、電圧信号補正部43は、ハイパスフィルタ42でフィルタリングされた後の電圧信号(第3電圧信号SV3)を、検出した周波数に応じて補正する。これにより電圧信号補正部43は、補正後の信号(第4電圧信号SV4)の信号レベルを、電圧検出部30からの出力(第1電圧信号SV1)の信号レベルと一致させる。
これにより、電圧信号補正部43によって、周波数に対するハイパスフィルタ42のゲインの変化を動的に補償することができる。
一態様において、電圧信号補正部43は、電源周波数付近の周波数領域において、周波数に対して位相が一定でゲインが線形に変化する特性を有する、有限インパルス応答型のフィルタ432を備える。
これにより、フィルタ432を設けるだけで、周波数に対するハイパスフィルタ42のゲインの変化を補償することができる。
一態様において、第1カットオフ周波数fc1を有するローパスフィルタ23及び第2カットオフ周波数fc2を有するハイパスフィルタ42の各々は、ディジタルフィルタで構成される。
これにより、ローパスフィルタ23及びハイパスフィルタ42の位相特性の特性曲線の形状を、容易に一致させることができる。
(実施形態2)
図7を参照して、本発明の実施形態2に係る電力計測システム1について説明する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
本実施形態の電力計測システム1は、実施形態1のハイパスフィルタ42としての第1のハイパスフィルタ42に加えて、第2のハイパスフィルタ45と第3のハイパスフィルタ24とをさらに備えている。第2のハイパスフィルタ45は、第3カットオフ周波数fc3を有し、第1のハイパスフィルタ42の前段又は後段に設けられる。第3のハイパスフィルタ24は、第4カットオフ周波数fc4を有し、ローパスフィルタ23の前段又は後段に設けられる。第2のハイパスフィルタ45及び第3のハイパスフィルタ24の各々は、入力された信号の低周波数領域成分を減衰させる。第3カットオフ周波数fc3と第4カットオフ周波数fc4とは同じに設定される。
一例において、図7に示すように、第2のハイパスフィルタ45は第1のハイパスフィルタ42の前段に設けられ、第3のハイパスフィルタ24はローパスフィルタ23の前段に設けられる。この場合、第2のハイパスフィルタ45は、第2A/D変換回路41からの出力の低周波数領域成分を減衰させる。また、第3のハイパスフィルタ24は、第1A/D変換回路22からの出力の低周波数領域成分を減衰させる。
別例において、第2のハイパスフィルタ45は第1のハイパスフィルタ42の後段に設けられ、第3のハイパスフィルタ24はローパスフィルタ23の後段に設けられる。この場合、第2のハイパスフィルタ45は、第1のハイパスフィルタ42からの出力の低周波数領域成分を減衰させる。また、第3のハイパスフィルタ24は、ローパスフィルタ23からの出力の低周波数領域成分を減衰させる。
なお、第2のハイパスフィルタ45を第1のハイパスフィルタ42の前段に設け、第3のハイパスフィルタ24をローパスフィルタ23の後段に設けてもよい。或いは、第2のハイパスフィルタ45を第1のハイパスフィルタ42の後段に設け、第3のハイパスフィルタ24をローパスフィルタ23の前段に設けてもよい。
本実施形態の電力計測システム1によれば、第2のハイパスフィルタ45及び第3のハイパスフィルタ24によって、低周波数領域のノイズ成分をさらに低減することができる。また、電流信号と電圧信号との両方を、同じカットオフ周波数を有するハイパスフィルタでフィルタリングしているので、電流信号(第2電流信号SI2)と電圧信号(第4電圧信号SV4)との間で位相差が生じるのも防ぐことができる。
なお、第3カットオフ周波数fc3及び第4カットオフ周波数fc4は、第1カットオフ周波数fc1及び第2カットオフ周波数fc2以下に設定されることが好ましい。また、第3カットオフ周波数fc3と第4カットオフ周波数fc4が同じとは、第3カットオフ周波数fc3と第4カットオフ周波数fc4とが完全に一致することに限定されない。
実施形態2で説明した構成は、実施形態1で説明した構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて適用可能である。