JP6621676B2 - 高圧水素ガス用蓄圧器の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、水素ガスを貯蔵する高圧水素ガス用蓄圧器およびその製造方法に関し、さらに詳しくは水素ステーションで用いる高圧水素ガス用蓄圧器およびその製造方法に関する。
水素は、燃焼によるCOの発生がないことから、石油や天然ガス等の化石燃料に代わるクリーンエネルギーとして注目されている。特に、燃料電池自動車の実用化研究や、燃料電池自動車を広く普及させるための水素ステーション等のインフラ整備に関する研究が進められている。
水素ステーションにおいては、高圧の水素を貯蔵・供給する蓄圧器が設置され、蓄圧器には、水素の充填・放出に伴う温度変化や圧力変化に対する耐久性が要求される。特に、燃料電池自動車では走行距離をより延長することを目的として、最高充填圧力70MPa程度まで高圧化を進めている。そのため、供給側となる水素ステーションで用いる蓄圧器には82MPa以上の高圧化での耐久性が必要とされている。
従来、低圧の水素ガスを貯蔵する金属製ライナーには、低合金鋼であるクロムモリブデン鋼が広く使用されている。しかし、低合金鋼は水素感受性が高いため材質が劣化し易いという問題がある。そのため、高圧の水素ガスを貯蔵する金属製ライナーは、水素感受性が低く材質が劣化し難いSUS316等の高価格のオーステナイト系ステンレス鋼に制限されている。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼は機械的強度が低いため、機械的強度を高くするためには肉厚にせざるを得ないが、結果として蓄圧器の重量が増加するだけではなく、蓄圧器の製造コストも増加する。また、貯蔵できる水素量も制限されるという問題がある。
これに対し、素材コストが低いクロムモリブデン鋼の水素感受性を低下させる検討がなされている(例えば、特許文献1,2)。
特開2009−293799号公報 特開2012−107333号公報
しかしながら、クロムモリブデン鋼の強度重量比を維持しながら、水素感受性を低下させることは容易ではなく、低コストで耐久性に優れた高圧水素ガス用蓄圧器に対するニーズが存在する。
そこで、本発明は、低コストで耐久性に優れた高圧水素ガス用蓄圧器およびその製造方法を提供することを目的とした。
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、コールドスプレー法を用いて金属製ライナーの表面にアルミニウムと金属酸化物の複合体からなる皮膜を形成したところ、金属製ライナーの水素感受性が低下することを見出して本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の高圧水素ガス用蓄圧器の製造方法は、水素ガスを貯蔵する金属製ライナーを有する高圧水素ガス用蓄圧器の製造方法であって、アルミニウム粉末と金属酸化物粉末との混合粉末をコールドスプレー法により前記金属製ライナーの内面に吹き付けて、前記金属製ライナーの内面上にアルミニウムと金属酸化物の複合体からなる皮膜を形成する工程を含む、ことを特徴とする。
また、本発明の高圧水素ガス用蓄圧器は、水素ガスを貯蔵する金属製ライナーを有する高圧水素ガス用蓄圧器であって、前記金属製ライナーの内面上に、アルミニウムと金属酸化物との複合体からなり、気孔率が5%以下である皮膜を有する、ことを特徴とする。
本発明によれば、低コストで耐久性に優れた高圧水素ガス用蓄圧器を提供することが可能となる。
本発明の高圧水素ガス用蓄圧器の構造の一例を示す模式断面図である。 実施例に用いた原料粉末の走査型電子顕微鏡写真である。 実施例で作製した皮膜の断面組織の走査型電子顕微鏡写真である。 図3Aの部分拡大写真である。 本発明に用いるコールドスプレー装置の構成の一例を示す模式図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
本発明の高圧水素ガス用蓄圧器の製造方法は、水素ガスを貯蔵する金属製ライナーを有する高圧水素ガス用蓄圧器の製造方法であって、アルミニウム粉末と金属酸化物粉末との混合粉末をコールドスプレー法により前記金属製ライナーの内面に吹き付けて、前記金属製ライナーの内面上にアルミニウムと金属酸化物の複合体からなる皮膜を形成する工程を含む、ことを特徴とするものである。
本発明に用いる金属製ライナーには、コストの点からクロムモリブデン鋼を挙げることができ、強度の点から、最も代表的なSCM435が好ましい。
コールドスプレー法とは、金属粉末および/またはセラミック粉末を、それら粉末材料の融点または軟化点よりも低い温度に設定した高速ガス流で搬送し、基材の表面に衝突させて基材の表面に皮膜を形成する方法であり、衝突の際に固相状態のままで粉末粒子が塑性変形することによって皮膜が形成される。ここで、粉末原料を用いる皮膜形成法としては、例えば溶射法がある。溶射法では、原料粉末を溶融させる程度に加熱する必要があるが、コールドスプレー法では、原料粉末を溶融させる必要がないので、基材の損傷や組織変化をもたらすことがない。そのため、本発明では基材である金属製ライナーに損傷を与えることがない。また、コールドスプレー法では、原料粉末を溶融させることなく塑性変形させることで、原料粒子よりも結晶サイズを微細化することが可能であり、皮膜内部ではサブミクロンの結晶サイズを得ることが可能となる。
本発明においては、金属粉末にアルミニウム粉末を用いる。アルミニウムは優れた耐水素透過性を有しているので、金属製ライナーへの水素の侵入を防止することで、金属製ライナーの水素感受性を低下させることができる。また、アルミニウムは延性が高く塑性変形し易いので、基材への衝突時に塑性変形して緻密な皮膜を形成することができるので、金属製ライナーへの水素の侵入をさらに防止することができる。アルミニウム粉末の平均粒径は、1〜50μm、好ましくは5〜40μmである。ここで、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した値を用いることができる。なお、本明細書中、水素感受性とは、金属材料への水素の侵入・透過により金属材料が劣化し易くなる程度をいい、具体的には水素脆性が起き易くなることをいう。
本発明ではセラミックス粉末に金属酸化物粉末を用いる。金属酸化物粉末としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物の粉末を用いることができる。好ましくは、酸化アルミニウムまたは酸化チタンである。金属酸化物粉末をアルミニウム粉末と混合して用いることで、アルミニウム粉末粒子の塑性変形が促進され、より緻密な皮膜が形成できるとともに成膜速度を向上させることができる。金属酸化物粉末の平均粒径は、1〜50μm、好ましくは5〜40μmである。
混合粉末におけるアルミニウム粉末と金属酸化物粉末の混合比は、耐水素透過性と成膜速度の観点から、重量比で、アルミニウム/金属酸化物=95/5〜5/95、好ましくは90/10〜30/70、より好ましくは80/20〜40/60である。アルミニウム粉末と金属酸化物粉末の混合は、ボールミル等の機械的混合手段を用いて湿式混合することで行うことができるが、特に限定されない。
図4は、本発明の製造方法に用いるコールドスプレー装置の構成の一例を示す模式図である。コールドスプレー装置10は、作動ガスを供給する主配管11と、主配管11を2つに分岐した分岐管12,13と、分岐管13からの作動ガスを加熱するガスヒーター14と、分岐管12からの作動ガスに、皮膜形成用の原料粉末を供給する粉末供給装置15と、分岐管12と分岐管13とが合流し、分岐管12からの原料粉末を分岐管13からの加熱された作動ガスに投入する混合チャンバ16と、混合チャンバ16に接続され、基材18に原料粉末を作動ガスとともに吹き付けるスプレーノズル17と、を有している。基材18の表面に皮膜19が形成される。
作動ガスは、原料粉末を運搬するキャリアとして機能するものであり、空気、窒素、ヘリウム、アルゴンまたはそれらの混合ガスを用いることができる。
作動ガスの圧力は、原料粉末や基材の種類に応じて選択することができ、低圧条件と高圧条件に分類することができる。低圧条件は、例えば圧力が1.0MPa以下であり、作動ガスには空気(コンプレッサーエアー)を用いることができる。また、高圧条件は、例えば圧力が1.0〜4.0MPaであり、作動ガスには、窒素、ヘリウム、またはアルゴンを用いることができる。本発明においては、コストの観点から低圧での施工が好ましい。また、セラミックスを加えることで、低圧条件においても容易にコーティングすることが可能である。
また、作動ガスの温度は、原料粉末、具体的にはアルミニウム粉末と金属酸化物粉末の融点または軟化温度よりも低い温度であればよい。低圧条件では、室温〜400℃、好ましくは150℃〜400℃である。また、高圧条件では、300℃〜800℃、好ましくは400〜600℃である。
本発明の製造方法によれば、延性の高いアルミニウムを用い、さらにアルミニウムの塑性変形を促進する金属酸化物を用いているので、緻密な皮膜を得ることができる。皮膜の気孔率は、5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。気孔率は、後で説明する走査型電子顕微鏡を用いる皮膜断面の組織観察から算出することができる。また、皮膜を構成する結晶粒の粒径は溶射皮膜と比べると小さくなるのがコールドスプレー法の特徴である。
また、皮膜の厚さは、耐久性と成膜時間の観点から、10μm〜1mm、好ましくは50〜300μm、より好ましくは100〜200μmである。
また、皮膜は塑性変形を受けて成膜されるため、皮膜内に面内圧縮残留応力が発生し、亀裂の発生が抑制される。これにより、基材である金属製ライナーの表面粗さの影響を受けにくいという効果も有する。
本発明の高圧水素ガス用蓄圧器は、35MPaあるいは70MPaの充填圧力で使用可能である。図1は、本発明の高圧水素ガス用蓄圧器の構造の一例を示す模式断面図である。高圧水素ガス用蓄圧器1は、水素ガスを貯蔵する金属製ライナー2を有し、その内面にはコールドスプレー法により形成された、アルミニウム粉末と金属酸化物粉末からなる皮膜3が形成されている。また、必要に応じて、金属製ライナーの外周面を補強材で被覆することもできる。補強材としては、例えば炭素繊維強化樹脂(CFRP)を用いることができ、CFRPによる被覆は、公知のフィラメントワインディング法を用いて行うことができる。
以下、実施例を用いて本発明についてさらに詳しく説明する。
実施例1
(原料粉末)
原料粉末として、アルミニウム粉末(OCPS社製、平均粒径35μm)と酸化アルミニウム粉末(OCPS社製、平均粒径40μm)を用いた。アルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末を、重量比50:50でボールミル混合により混合して混合粉を調製した。図2は、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジー製S−4700)を用いて観察した混合粉のSEM写真である。球状の粒子がアルミニウムであり、不定形状の粒子が酸化アルミニウムである。
(皮膜形成方法)
基材にはSCM435平板(5cm×5cm、厚さ10mm)を用い、高圧型コールドスプレー装置(OCPS社製DYMET403j)を用いて施工した。作動ガスには、圧縮空気を用い、ガス圧力0.6MPa、ガス温度350℃で行った。
(皮膜断面組織観察)
走査型電子顕微鏡を用いて得られた皮膜の断面の組織を観察した。図3Aは、その断面写真であり、図3Bは、その断面上縁部の部分拡大写真である。得られた皮膜の厚さは約1mmであった。その皮膜断面について画像処理ソフト(ImageJ 1.49)を用いて気孔率を測定すると、0.3%の値が得られた。
コールドスプレー法を用いてSCM435基材上に、アルミニウムを含む、気孔率が0.3%という非常に緻密で厚膜の皮膜を作製することができた。この皮膜を形成することで金属製ライナーへの水素感受性を低下させることが可能となる。
本発明によれば、低コストで耐久性に優れた高圧水素ガス用蓄圧器を提供することが可能であり、水素ステーションの普及に資するものである。
1 高圧水素ガス用蓄圧器
2 金属製ライナー
3 皮膜
10 コールドスプレー装置
11 主配管
12 分岐管
13 分岐管
14 ガスヒーター
15 粉末供給装置
16 混合チャンバ
17 スプレーノズル

Claims (4)

  1. 水素ガスを貯蔵する金属製ライナーを有する高圧水素ガス用蓄圧器の製造方法であって、
    アルミニウム粉末と金属酸化物粉末との混合粉末をコールドスプレー法により前記金属製ライナーの内面に吹き付けて、前記金属製ライナーの内面上にアルミニウムと金属酸化物の複合体からなる皮膜を形成する工程を含む、該高圧水素ガス用蓄圧器の製造方法。
  2. 前記金属酸化物粉末が、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物の粉末である、請求項1記載の製造方法。
  3. 前記アルミニウム粉末と前記金属酸化物粉末との混合比が、重量比で、アルミニウム粉末/金属酸化物粉末=95/5〜5/95である、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記皮膜の膜厚が、10μm〜1mmである請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
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