JP6621666B2 - 組換えフィブリノゲン高産生株及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、組換えフィブリノゲン高産生株及びその製造方法、並びに該産生株を用いた組換えフィブリノゲンの製造方法に関する。より詳細には、フィブリノゲン並びにα2プラスミンインヒビター(以下、α2PIとも称す)及び/又はプラスミノーゲンアクチベータインヒビター2(以下、PAI−2とも称す)を共発現する動物細胞株である、組換えフィブリノゲン高産生株、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子を動物細胞に導入し、該動物細胞中でフィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2を共発現させることを含む、組換えフィブリノゲン高産生株の製造方法、並びに組換えフィブリノゲン高産生株を培地中で培養し、得られた培養物からフィブリノゲンを回収することを含む、組換えフィブリノゲンの製造方法に関する。
フィブリノゲンは、主に肝(実質)細胞により産生される血漿糖タンパク質の一つであって、Aα鎖、Bβ鎖及びγ鎖と称される3種の異なるポリペプチド鎖を各2本ずつ、計6本有する巨大糖タンパク質である。各ポリペプチド鎖の分子量は、Aα鎖が約67,000、Bβ鎖が約56,000、γ鎖が約47,500であり、ジスルフィド結合によってこれらが会合した完全なフィブリノゲン分子の分子量は、約340,000にも達する(特許文献1)。
フィブリノゲンは、正常血漿中に2〜3g/L存在し、組織が損傷した場合に血小板の傷口への粘着に引き続いて血液のゲル化を引き起こし、生体の防御・止血機能を果たす重要なタンパク質である。それゆえ、大量出血や重度の感染症などによって血液中のフィブリノゲン量が低下すると、止血機序が破綻して出血が抑制できず、すなわち出血傾向を来し、生命の危機をも引き起こすこととなる。
フィブリノゲン製剤は、静脈投与などを介して血液中のフィブリノゲン濃度を高めることにより重篤な出血を阻止するのに効果的であり、先天性及び後天性フィブリノゲン欠損症などの補充療法に広く適用されている。また、フィブリノゲンは、フィブリノゲン糊の主成分として、外科手術時における組織の接着・閉鎖のためにも広く使用されている。
現在、医薬品として用いられているフィブリノゲンは、主に、不特定多数(数千人以上)の供血者から集めたヒトプール血漿から調製されており、HCVなどの肝炎ウイルス、HIVなどの免疫不全ウイルス、異常プリオンなどの感染性病原体混入の危険性を排除するために、例えば、リン酸トリ−n−ブチル(TNBP)/ポリソルベート80処理、ウイルス除去膜によるろ過処理、加熱処理など、様々な病原体不活化・除去方法が施されている。しかし、いかに安全対策を講じたとしても、血液を原料とすることに由来する感染症伝播のリスクを完全に排除することはできない。それゆえ、ヒトプール血漿に由来するフィブリノゲン製剤の使用にあたっては、その効果と感染症伝播等のリスクとを考量し、必要であるかを十分に検討した上で、必要最小限の量しか使用できず、投与後においても十分な経過観察が必要とされる。さらに、ヒトプール血漿は、主に献血によって供給されているため、フィブリノゲンの将来的な安定供給についても問題視されている。
これらの問題を解決するために、遺伝子組換え技術を利用したフィブリノゲンの製造が試みられている。しかし、第VIII因子、第IX因子、アルブミンなどの血漿タンパク質が組換え医薬品として上市されているのに対し、フィブリノゲンについては、未だ組換え医薬品として上市されているものはない。
開発が進まない原因の一つとして、フィブリノゲンは、6本のポリペプチド鎖が会合した巨大タンパク質分子であるために、大腸菌においては、フィブリノゲンAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖の3つのタンパク質を同時に発現させたとしても、機能的なフィブリノゲン分子を産生することが難しく、酵母及び動物細胞においては、機能的なフィブリノゲン分子を産生することはできるものの十分な産生量を得ることができず、製造コストの面から実用化に至っていないことが挙げられる(非特許文献1、特許文献1及び2)。
また、他の原因として、フィブリノゲンを動物細胞で発現させて培養した場合に、培養後期にフィブリノゲン分解が著しく進行することが挙げられる。一般に、培養細胞は、遅滞期、対数増殖期、定常期、死滅期の順に増殖し、培養細胞数と組換えタンパク質産生量とは相関関係にある。従って、組換えタンパク質の産生を行う場合には、培養細胞数がピークになる定常期、すなわち培養後期の期間延長が、組換えタンパク質産生量の増大につながると考えられており、培養後期におけるフィブリノゲンの著しい分解は、フィブリノゲンを大量生産する上で致命的な問題であり、これにより、組換えフィブリノゲンの高品質・高収量での製造がより困難なものとなっている。
プラスミンは、フィブリノゲン及びフィブリノゲンから産生されるフィブリンを加水分解(線維素溶解:線溶)するセリンプロテアーゼであり、線溶系においては、プラスミノーゲンがプラスミノーゲンアクチベータにより限定分解されて酵素活性を有するプラスミンとなり、主にフィブリン血栓を溶解する働きを担う。
α2プラスミンインヒビター(α2PI)は、線溶系を司るプラスミンの主たる阻害因子であり、プラスミンと1:1の割合で特異的に結合して、プラスミン−α2PI複合体(PIC)を形成し、速やかにプラスミン活性を失活させるタンパク質である。
プラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI)−1及びPAI−2は、いずれもセリンプロテアーゼインヒビタースーパーファミリー(SERPIN)に属する生体内に存在するインヒビターであり、プラスミノーゲンアクチベータを阻害することにより、プラスミノーゲンからのプラスミンの生成を抑制するタンパク質である。PAI−1が、正常血漿中に約20ng/mLの濃度で存在する一方、PAI−2は、非妊娠血漿中において、通常、検出可能なレベルにないことが報告されている(非特許文献2)。
しかしながら、α2PI及び/又はPAI−2と、組換えフィブリノゲン産生細胞におけるフィブリノゲン産生量増強効果との関連については何ら報告されておらず、その効果については不明であった。
米国特許第6037457号明細書 特開2004−16055号公報
Binnie et al.,Biochemistry 32,107(1993) Wright JG et al.,Br J Haematol 69,253(1988)
現在、医薬品として用いられているフィブリノゲンは、主にヒトプール血漿から調製されているため、十分な安全性を確保できておらず、安定供給についても問題視されている。これらの問題を解決するために、遺伝子組換え技術によるフィブリノゲンの製造が試みられているが、未だ十分な産生量を得ることができず、製造コストの面から実用化には至っていない。
従って、本発明の目的は、感染性病原体混入の危険がなく安全なフィブリノゲンを安定して十分な産生量で供給することのできる、組換えフィブリノゲン高産生株及びその製造方法、並びに本発明の組換えフィブリノゲン高産生株を用いた組換えフィブリノゲンの製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記目的に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、動物細胞において、フィブリノゲンをα2PI及び/又はPAI−2と共発現させることにより、一般にフィブリノゲン分解が進行する培養後期においてもフィブリノゲン分解を強力に抑制することができるばかりでなく、当該フィブリノゲン分解抑制効果とは独立してフィブリノゲン産生量を増大させることができ、これら相乗効果によって、組換えフィブリノゲン産生量が飛躍的に増大することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]フィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2を共発現する動物細胞株であることを特徴とする、組換えフィブリノゲン高産生株。
[2]フィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2が、ヒトフィブリノゲン並びにヒトα2PI及び/又はPAI−2であることを特徴とする、上記[1]記載の組換えフィブリノゲン高産生株。
[3]動物細胞株が、CHO細胞であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の組換えフィブリノゲン高産生株。
[4]フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子を動物細胞に導入し、該動物細胞中でフィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2を共発現させることを特徴とする、組換えフィブリノゲン高産生株の製造方法。
[5]フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子全てを有する単一の発現ベクターを用いて、フィブリノゲンを動物細胞に発現させることを特徴とする、上記[4]記載の方法。
[6]α2PIをコードする遺伝子とPAI−2をコードする遺伝子とを有する単一の発現ベクターを用いて、α2PI及びPAI−2を動物細胞に発現させることを特徴とする、上記[4]又は[5]に記載の方法。
[7]フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子が、いずれもヒト遺伝子であることを特徴とする、上記[4]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]動物細胞が、CHO細胞であることを特徴とする、上記[4]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の組換えフィブリノゲン高産生株又は上記[4]〜[8]のいずれかに記載の方法により得られる組換えフィブリノゲン高産生株を培地中で培養し、得られた培養物からフィブリノゲンを回収することを含む、組換えフィブリノゲンの製造方法。
本発明の組換えフィブリノゲン高産生株は、一般にフィブリノゲン分解が進行する培養後期においてもフィブリノゲン分解を強力に抑制することにより、例えばフィブリノゲンのみを発現した場合に比べてAα鎖の残存率を約2.5倍以上も増加させることができるばかりでなく、当該フィブリノゲン分解抑制効果とは独立してフィブリノゲン産生量を増大させることができるため、これら相乗効果によって、フィブリノゲンのみを発現させた細胞株と比較して、少なくとも約4倍以上のフィブリノゲン産生量を得ることができる。それゆえ、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株によれば、組換えフィブリノゲンを大量生産すること、ひいては実用的なレベルで組換えフィブリノゲンを製剤化することが可能となり、フィブリノゲンの市場への安定供給も確保できる。
さらに、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株により得られるフィブリノゲンは、遺伝子組換え技術によって製造されたものであるため、血液由来製剤特有の問題である感染性病原体混入の危険性を完全に排除することができ、十分な安全性を確保することができる。それゆえ、治療に十分な量のフィブリノゲンを長期に亘って安心・安全に使用することが可能となる。
図1は、フィブリノゲン発現ベクターpNT60を示す図である。 図2は、pcDNA3.3−TOPO/lacZの発現ユニットの部位特異的変異を示す図である。 図3は、pcDNA3.3−modifiedの構築方法を示す図である。 図4は、α2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedの構築方法を示す図である。 図5は、m−pEEの構築方法を示す図である。 図6は、α2PI/PAI−2/m−pEEの構築方法を示す図である。 図7は、フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15を10日間培養後、α2PI及びPAI−2の発現をウエスタンブロットにより確認した図である。 図8は、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #15並びに#8及び#68における導入遺伝子のmRNA発現様式を示す図である。1反応当たり67個の細胞を用いた。フィブリノゲンmRNA発現量はフィブリノゲン発現ベクターpNT60を100pg/mLから0.1pg/mLまで10倍希釈で4段階希釈したサンプルをコントロールとして、pNT60当たりの量として算出した。同様に、α2PI及びPAI−2の発現量は発現ベクターα2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modified(α2PI/PAI−2/T233 #15)又はα2PI/PAI−2/m−pEE(α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68)当たりの量として算出した。各細胞間の値については、T233細胞におけるGAPDH発現量を1とした時の各細胞の値を算出し、その逆数で各サンプルの値を乗じて補正した。 図9は、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15における、フィブリノゲンの分解抑制を示す図である。図9Aは、フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15を2日間、8日間及び14日間培養後、培養上清を還元条件でSDS−PAGEし、泳動後のゲルをInstant Blue染色液(フナコシ製、ISB1L)で15分間染色した図である。図9Bは、染色したゲルをデンシトメーター(Bio−Rad製、Calibrated Densitometer GS−800)でスキャンし、フィブリノゲンAα鎖の変動を数値化した図である。pFbgは血漿由来フィブリノゲン(CALBIOCHEM製、341576)を示す。pFbgのγ鎖に対するAα鎖の比を100%とした場合の各培養サンプルにおけるγ鎖のAα鎖の比の相対値をAα鎖残存率として示す。 図10は、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68における、フィブリノゲンの分解抑制を示す図である。フィブリノゲン発現細胞株T233及び共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68をそれぞれ1×10cells/mLでFed−Batch培地に懸濁し、20mLを125mLフラスコに播種して12日間フラスコ振盪培養をした(37℃、5%CO、120〜140rpm)。4日目、8日目、10日目及び12日目の培養上清を解析した。図10Aは、5μLの培養上清を還元条件でSDS−PAGEし、泳動後のゲルをInstant Blue染色液(フナコシ製、ISBIL)で15分間染色した図である。図10Bは、染色したゲルをデンシトメーター(Bio−Rad製、Calibrated Densitometer GS−800)でスキャンし、フィブリノゲンAα鎖の変動を数値化した図である。付属ソフト「Quantity One」を用いてバンド体積(バンド濃度×面積)を計測した。pFbgは血漿由来フィブリノゲン(CALBIOCHEM製、341576)を示す。pFbgのγ鎖に対するAα鎖の比を100%とした場合の各培養サンプルにおけるγ鎖のAα鎖の比の相対値をAα鎖残存率として示す。 図11は、フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15を14日間培養した後の培養上清中のプラスミン様プロテアーゼ活性を示す図である。フィブリノゲン発現細胞株T233の吸光度を1とした場合の共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15の吸光度を相対値として示す。 図12は、フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15を、フィブリノゲン分解抑制条件下で0〜10日間培養した場合のフィブリノゲン産生量の経時変化を示す図である。 図13は、フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68を、フィブリノゲン分解抑制条件下で0〜10日間培養した場合の、生細胞数、細胞生存率及びフィブリノゲン産生量の経時変化を示す図である。 図14は、フィブリノゲン発現細胞株T233を10日間培養後、培養上清にα2PI、PAI−1及びPAI−2をそれぞれ添加して37℃で3日間静置した場合のフィブリノゲンAα鎖の変動を数値化した図であり、α2PI及びPAI−2添加によるフィブリノゲンの分解抑制効果を示す。培養10日目のフィブリノゲン発現細胞株T233におけるγ鎖に対するAα鎖の比を100%とした場合の各培養サンプルにおけるγ鎖に対するAα鎖の比の相対値をAα鎖残存率として示す。
一実施態様において、本発明は、フィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2を共発現する動物細胞株である、組換えフィブリノゲン高産生株を提供する。
本明細書において、「株」とは、「細胞株」と互換可能に使用され、in vitroにおいて増殖又は維持された細胞を意味する。
本明細書において、「(共)発現する動物細胞株」とは、目的タンパク質をコードする遺伝子が動物細胞に導入されて発現している状態だけでなく、当該遺伝子が動物細胞のゲノムにインテグレートされて恒常的に目的タンパク質を発現している状態も包含する。
本明細書において、「遺伝子」とは、DNA又はRNAのいずれであってもよく、DNAには少なくともゲノムDNA、cDNAが含まれ、RNAには、mRNA、合成RNAなどが含まれる。本明細書において、「遺伝子」とは、開始コドン及び終止コドンを含まない塩基配列を有する核酸断片でも、シグナル配列、非翻訳領域(UTR)配列などを含んでもよい。好ましい実施態様において、「遺伝子」は、cDNAである。
本明細書において、「フィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2を共発現する動物細胞株」とは、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子を動物細胞に導入することによって得られる動物細胞株を意味する。
従って、別の実施態様において、本発明は、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子を動物細胞に導入し、該動物細胞中でフィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2を共発現させることを含む、組換えフィブリノゲン高産生株の製造方法を提供する。
本発明で用いられるフィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子としては、最終的に発現産物が機能的なフィブリノゲンを構成できる限り、それぞれ、その完全長の野生型フィブリノゲン鎖をコードする遺伝子のみならず、例えば、遺伝的多型、グリコシル化やリン酸化の違い、選択的スプライシングなどの天然に生じる変異体(例えば、αE鎖、γ’鎖など)、自体公知の方法により人工的に誘導される変異体など、任意の形態のフィブリノゲン鎖をコードする遺伝子も同様に使用することができる。また、フィブリノゲン遺伝子の動物種についても特に限定されず、任意の動物種のフィブリノゲン遺伝子を使用することができるが、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトフィブリノゲンをコードする遺伝子が使用される。
本明細書において、「機能的なフィブリノゲン」とは、野生型フィブリノゲンが有する生理活性(例えば血液凝固能など)と定性的に同じ活性を有するフィブリノゲンを意味し、その活性の程度や分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
本発明で用いられるα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子としては、それぞれ、その完全長の野生型α2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子のみならず、その発現産物が野生型α2PI及び/又はPAI−2と実質的に同質の活性を有する限り、例えば、天然に生じる変異体、人工的に誘導される変異体など、任意の形態のα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子も同様に使用することができる。また、α2PI及び/又はPAI−2遺伝子の動物種についても特に限定されず、任意の動物種のα2PI及び/又はPAI−2遺伝子を使用することができるが、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子が使用される。
本明細書において、「野生型α2PI及び/又はPAI−2と実質的に同質の活性を有する」とは、野生型α2PI及び/又はPAI−2が有する生理活性(例えば、α2PIの場合にはプラスミン阻害活性、PAI−2の場合にはプラスミノーゲンアクチベータ阻害活性など)と定性的に同じ活性を有することを意味し、その活性の程度や分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
好ましい実施態様において、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子は、いずれもヒト遺伝子である。
フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子は、自体公知の方法により取得することができ、例えば、GENBANKなどの既存の遺伝子データベースを利用してPCR用プライマーを作製し、目的タンパク質が発現している適当な細胞や組織由来の全長cDNAを鋳型としてPCRを行うことにより取得することができる。PCR用プライマーは、ベクターへのサブクローニングを容易にするために、両端に適切な制限酵素切断部位の配列を有していてもよく、また、発現効率を高めるために5’末端側にKOZAK配列を有していてもよい。適当な細胞や組織由来の全長cDNAは、自体公知の方法により、例えば、total RNAからmRNAを精製して、cDNAに変換することにより得てもよく、又は市販のcDNAライブラリーを利用してもよい。
あるいは、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子は、所望の遺伝子配列のみをコードするcDNAクローンとして購入することもでき、例えば、α2PI及びPAI−2のcDNAは、いずれもPromega社により市販されている(Promega製、ORS09380(α2PI)及びORS08641(PAI−2))。
本発明において、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子の動物細胞への導入は、発現ベクターを用いることによって実施される。動物細胞を宿主とする発現ベクターについては、特に限定されず、プラスミドベクター、ウイルスベクターなど、自体公知の発現ベクターを目的に応じて適宜選択することができる。
フィブリノゲン発現ベクターに含まれるプロモーターとしては、使用する宿主動物細胞において効率よく機能し、最終的に機能的なフィブリノゲンが得られる限り、特に限定されず、例えば、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、RSVプロモーター、βアクチンプロモーターなどを挙げることができる。また、プロモーターを適当なエンハンサーと組み合わせてもよい。
フィブリノゲン発現ベクターに含まれてよい選択マーカー遺伝子については、特に限定されず、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子、グルタミンシンターゼ(GS)遺伝子など、自体公知の選択マーカー遺伝子を目的に応じて適宜選択することができる。
フィブリノゲン発現ベクターに含まれてよい他のベクター構成要素(例えば、ターミネーターなど)についても特に限定されず、自体公知のものを適宜利用することができる。
一実施態様において、本発明のフィブリノゲン発現ベクターは、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子全てを有する単一の発現ベクターである。別の実施態様において、本発明のフィブリノゲン発現ベクターは、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子のうち2つ(例えば、Aα鎖及びγ鎖、Bβ鎖及びγ鎖など)を有する発現ベクターと、残り1つを有する発現ベクターとからなる。別の実施態様において、本発明のフィブリノゲン発現ベクターは、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子を各々1つずつ有する、3つの発現ベクターからなる。フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖をコードする遺伝子の構成比についても、特に制限されず、例えば、1:1:1〜6など、目的に応じて適宜選択することができる。2つ以上の発現ベクターを使用してフィブリノゲンを発現させる場合、各発現ベクターは、同時に動物細胞に導入しても、あるいは別々の時期に、例えば選択マーカーを変えて、順次導入してもよく、導入順序は特に制限されない。好ましい実施態様において、本発明のフィブリノゲン発現ベクターは、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖をコードする遺伝子全てを1:1:1の構成比で有する単一の発現ベクターである。
フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子全てを有する単一の発現ベクターの好適な例としては、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子のそれぞれが別個のプロモーターの制御下にある3つの発現カセットを有するものを挙げることができる。各遺伝子の発現を制御するプロモーターは同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一のプロモーター(例えば、CMVプロモーター)が用いられる。例えば、Lonza製発現ベクターpEE14.1の発現ユニットを3重連化したベクターに、自体公知の方法によりフィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖のcDNAを挿入した、pNT60(改変CMVプロモーター/GS遺伝子を有する発現ベクター)(図1を参照されたい)を挙げることができるが、これに限定されない。
あるいは、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子の2以上が単一のプロモーターの制御下にあってもよい。この場合、単一のプロモーターの制御下にある各遺伝子の間に、ポリシストロニックな発現を可能にする配列、例えば、IRES配列や口蹄疫ウイルス由来の2A配列等が挿入される。
α2PI及び/又はPAI−2発現ベクターに含まれるプロモーターとしては、使用する宿主動物細胞において効率よく機能する限り、特に限定されず、例えば、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、RSVプロモーター、βアクチンプロモーターなどを挙げることができる。また、プロモーターは、適当なエンハンサーと組み合わせてもよい。
α2PI及び/又はPAI−2発現ベクターに含まれてよい選択マーカー遺伝子については、特に限定されず、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子、グルタミンシンターゼ(GS)遺伝子など、自体公知の選択マーカー遺伝子を目的に応じて適宜選択することができる。
α2PI及び/又はPAI−2発現ベクターに含まれてよい他のベクター構成要素(例えば、ターミネーターなど)についても特に限定されず、自体公知のものを適宜利用することができる。
α2PIとPAI−2を共に発現させる場合、本発明のα2PI及びPAI−2発現ベクターは、α2PIをコードする遺伝子とPAI−2をコードする遺伝子とを有する単一の発現ベクターであってよく、あるいはα2PIをコードする遺伝子を有する発現ベクターと、PAI−2をコードする遺伝子を有する発現ベクターとの組合せであってもよい。2つの発現ベクターを使用してα2PIとPAI−2を発現させる場合には、各発現ベクターは、同時に動物細胞に導入しても、あるいは別々の時期に、例えば選択マーカーを変えて、順次導入してもよく、導入順序は特に制限されない。α2PIとPAI−2の両方を発現させる場合には、α2PIをコードする遺伝子とPAI−2をコードする遺伝子とを有する単一の発現ベクターを使用することが好ましい。
α2PIをコードする遺伝子とPAI−2をコードする遺伝子とを有する単一の発現ベクターの好適な例としては、α2PI及びPAI−2をコードする遺伝子のそれぞれが別個のプロモーターの制御下にある2つの発現カセットを有するものを挙げることができる。各遺伝子の発現を制御するプロモーターは同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一のプロモーター(例えば、CMVプロモーター)が用いられる。例えば、Invitrogen製発現ベクターpcDNA3.3−TOPO/lacZ(Invitrogen製、K8300−01)の発現ユニットを2重連化し、自体公知の方法によりα2PI及びPAI−2のcDNAを挿入した、α2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modified(CMVプロモーター/ネオマイシン耐性遺伝子を有する発現ベクター)(図4)や、Lonza製発現ベクターpEE(例、pEE16.4、pEE21.4など)の発現ユニットを2重連化し、自体公知の方法によりα2PI及びPAI−2のcDNAを挿入した、α2PI/PAI−2/m−pEE(CMVプロモーター/ピューロマイシン耐性遺伝子を有する発現ベクター)(図6)を挙げることができるが、これに限定されない。
あるいは、α2PIをコードする遺伝子とPAI−2をコードする遺伝子とが単一のプロモーターの制御下にあってもよい。この場合、単一のプロモーターの制御下にある各遺伝子の間に、ポリシストロニックな発現を可能にする配列、例えば、IRES配列や口蹄疫ウイルス由来の2A配列等が挿入される。
フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子の発現ベクターと、α2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子の発現ベクターの導入時期や導入の順序については、特に制限されず、フィブリノゲンとα2PI及び/又はPAI−2とが同じ細胞内で共発現できる限り、同時に導入しても、あるいは別々の時期に、例えば選択マーカーを変えて、順次導入してもよい。
フィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2の発現ベクターを導入する宿主動物細胞としては、特に限定されず、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウスミエローマ細胞、BHK細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞など、あらゆる動物細胞を利用することができ、目的に応じて適宜選択することができる。好ましい実施態様において、本発明の動物細胞は、CHO細胞である。別の好ましい実施態様において、本発明の動物細胞は、浮遊培養細胞である。さらに別の好ましい実施態様において、本発明の動物細胞は、無血清培地に馴化されている。
宿主動物細胞を形質転換する方法については、自体公知の方法を使用すればよく、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、リポフェクチンやリポフェクタミンなどのリポソームを用いる方法、プロトプラスト−PEG法、エレクトロポレーション法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
選択マーカー遺伝子を有する発現ベクターを動物細胞に導入した場合、形質転換細胞の選択には、自体公知の選択方法を利用することができ、例えば、CD−CHO培地(GIBCO製)などの無血清培地、10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したD−MEM/Ham’s F−12培地(和光純薬工業製)などの血清培地に、選択用添加物質(例えば、選択マーカー遺伝子がネオマイシン耐性遺伝子の場合はG−418、dhfr遺伝子の場合はメトトレキセート、ピューロマイシン耐性遺伝子の場合はピューロマイシンなど)を添加して培養することにより、容易に形質転換細胞を選択することができる。
形質転換細胞を選択後、例えば、ラジオイムノアッセイ法(RIA)、酵素抗体法(ELISA)、ウエスタンブロット法(WB)などを利用して目的タンパク質の検出・発現量の測定を行ってもよい。また、目的タンパク質が何らかの活性を有するならば、その活性を直接測定することもできる。
一実施態様において、本発明は、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株を培地中で培養し、得られた培養物からフィブリノゲンを回収することを含む、組換えフィブリノゲンの製造方法を提供する。
本発明の組換えフィブリノゲン高産生株は、一般にフィブリノゲン分解の著しい進行が認められる、細胞密度の高い培養後期においてもフィブリノゲン分解を強力に抑制することができるばかりでなく、当該フィブリノゲン分解抑制効果とは独立してフィブリノゲン産生量を増大させることができるため、これら相乗効果によって、組換えフィブリノゲンを大量に産生することができる。従って、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株は、バッチ培養法などの通常の培養法のほか、高密度細胞培養法、例えば、フェドバッチ培養法、パーフュージョン培養法など、自体公知の培養法を限定されることなく使用することができる。また、その他の培養条件、例えば、培地のpH、培養温度なども特に限定されることなく、動物細胞の増殖やフィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2の産生に適した培養条件を適宜採用してよい。さらに培地についても、特に限定されず、血清含有培地であっても、無血清培地であってもよい。無血清培地で培養した場合には、血清のロット差を気にせずに再現性のある安定したタンパク質産生が得られること、血清由来タンパク質成分が含まれないことによって産生物の精製が容易になることなどから、好ましい実施態様において、無血清培地が使用される。
本発明の組換えフィブリノゲン高産生株を培地中で培養し、得られた培養物からフィブリノゲンを回収する方法としては、培養物からフィブリノゲンを回収できる限り、特に限定されず、例えば、エタノール分画、グリシン分画、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム沈殿など自体公知の方法を挙げることができる。
本発明の組換えフィブリノゲン高産生株は、感染性病原体混入の危険がなく安全なフィブリノゲンを安定して十分な産生量で供給することができる。従って、一実施態様において、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株は、先天性及び後天性フィブリノゲン欠損症などの補充療法に使用するためのフィブリノゲンの製造のために使用される。別の実施態様において、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株は、外科手術時における組織の接着・閉鎖のために使用されるフィブリノゲンを製造するために使用される。別の実施態様において、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株は、フィブリンシーラントに使用されるフィブリノゲンを製造するために使用される。
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
(実施例1:フィブリノゲン発現細胞株の樹立)
Lonza製発現ベクターpEE14.1の発現ユニットを3重連化したベクターに、下記表1に示すPCRプライマーを使用してヒト肝臓由来cDNAライブラリー(タカラバイオ製、9505)より増幅した、フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖のcDNAを挿入し、フィブリノゲン発現ベクターpNT60(改変CMVプロモーター/GS遺伝子を有する発現ベクター)を構築した(図1)。Lonza社によって樹立されたCHO−K1細胞にpNT60を導入し、動物成分不含培地(表3記載のEX−CELL302GS培地)で培養して、フィブリノゲンAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖を発現している細胞を選択した。次いで、フィブリノゲン産生能の高い形質転換細胞をさらに選択することにより、フィブリノゲン発現細胞株T233を樹立し、フィブリノゲン産生の再現性を確認した。
上記方法により得られたフィブリノゲン発現細胞株T233を2Lジャー培養により大量培養したところ、組換えフィブリノゲンとその分解産物が合わせて1.8g/L産生されたが、その半分以上が分解産物であった。次いで、分解産物を除去し、精製した組換えフィブリノゲンを用いてブタ皮膚接着力試験を行ったところ、組換えフィブリノゲンは血漿由来フィブリノゲンと同等の接着効果を示した。以上の結果から、フィブリノゲン発現細胞株T233が、安定して、天然型と同等の生理活性を有するフィブリノゲンを発現できることが確認された。
(実施例2:α2PI/PAI−2発現ベクター(α2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modified)の構築1)
α2PIとPAI−2を動物細胞で発現させるためのベクターの構築にあたり、動物細胞用発現ベクターpcDNA3.3−TOPO/lacZ(Invitrogen製、K8300−01)の発現ユニットの2重連化を行った。
具体的には、pcDNA3.3−TOPO/lacZと2種類のプライマー(BamHI−Fw:CCCTATGGTCGACTCTCAGTACAATCTG(SEQ ID NO:7)及びBamHI−Rv:GATCCGTCGACGTCAGGTGGCACTTTTC(SEQ ID NO:8))を用いて、部位特異的変異導入法(KOD−Plus−Mutagenesis Kit、東洋紡製、SMK−101)により、BglIIをBamHIに変更し、改変したベクターをm−pcDNA3.3とした(図2)。
m−pcDNA3.3のCMVプロモーターとTK poly(A)との間にα2PI又はPAI−2のcDNAを各々挿入するために、部位特異的変異導入法(KOD−Plus−Mutagenesis Kit、東洋紡製、SMK−101)を用いて、PCRにより制限酵素認識配列を付加した。α2PI用m−pcDNA3.3には、特異的プライマー(Base RV KPN:GCTGGTACCCGATCCTCTAGAGTCCGGAGGCTG(SEQ ID NO:9)及びBase FW NSPV:AATTTCGAATACCGGTTAGTAATGAGTTTAAACG(SEQ ID NO:10))を用いてCMVプロモーターの下流にKpnI認識配列及びNspV認識配列を付加した。PAI−2用m−pcDNA3.3には、特異的プライマー(Base RV XHO:CTTCTCGAGCGATCCTCTAGAGTCCGGAGGCTG(SEQ ID NO:11)及びBase FW HIND:GCTAAGCTTTACCGGTTAGTAATGAGTTTAAACG(SEQ ID NO:12))を用いてCMVプロモーターの下流にXhoI認識配列及びHindIII認識配列を導入した。構築した発現ベクターをそれぞれKpnI/NspV−m−pcDNA3.3及びXhoI/HindIII−m−pcDNA3.3とした。次いで、KpnI/NspV−m−pcDNA3.3をBglII(タカラバイオ製、1021A)及びBamHI(タカラバイオ製、1010A)で消化し、予めBglIIで消化したpcDNA3.3−TOPO(Invitrogen製)に断片を挿入した。これにより作製されたベクターをKpnI/NspV−m−pcDNA3.3−TOPOとした。次いで、XhoI/HindIII−m−pcDNA3.3をBglII及びBamHIで処理し、予めBglIIで消化したKpnI/NspV−m−pcDNA3.3−TOPOに断片を挿入した。これをpcDNA3.3−modifiedとした(図3)。
PAI−2のcDNA(Promega製、ORS08641)を鋳型として、特異的プライマー(PAI−2 F XHO:AACCTCGAGGCCGCCACCATGGAGGATCTTTGTGTGGCAAAC(SEQ ID NO:13)及びPAI−2 RV HIND:GGGAAGCTTAGGGTGAGGAAAATCTGCCG(SEQ ID NO:14))により、PAI−2のオープンリーディングフレーム(ORF)部分をPCR(KOD−plus、東洋紡製、KOD−201)増幅し、Kozak配列とXhoI認識配列及びHindIII認識配列を付加した。増幅断片及びpcDNA3.3−modifiedをXhoI(タカラバイオ製、1094A)及びHindIII(タカラバイオ製、1060A)で消化した後、断片をpcDNA3.3−modifiedのXhoI−HindIII間に挿入した。これにより作製されたベクターをPAI−2/pcDNA3.3−modifiedとした。
α2PIのcDNA(Promega製、ORS09380)を鋳型として、特異的プライマー(α2PI F KPN:AAAGGTACCGCCGCCACCATGGCGCTGCTCTGGGGGCTCC(SEQ ID NO:15)及びα2PI RV NSP:CCCTTCGAATCACTTGGGGCTGCCAAACTGGGGG(SEQ ID NO:16))により、α2PIのORF部分をPCR増幅し、Kozak配列とKpnI認識配列及びNspV認識配列を付加した。増幅断片及びPAI−2/pcDNA3.3−modifiedをKpnI(タカラバイオ製、1068A)及びNspV(タカラバイオ製、1225A)で消化した後、断片をPAI−2/pcDNA3.3−modifiedとライゲーションした。これにより構築されたベクターをα2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedとした(図4)。
構築されたα2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedは、CMVプロモーターによって制御される2つの発現カセットを搭載し、それぞれ、α2PIとPAI−2のORFが挿入されている。さらに、動物細胞において選択マーカーとして用いるネオマイシン耐性遺伝子が搭載されており、SV40プロモーターの制御下に発現する。従って、G418を用いた選択により、恒常発現細胞株を構築することが可能である。
(実施例3:α2PI/PAI−2発現ベクター(α2PI/PAI−2/m−pEE)の構築2)
α2PIとPAI−2を動物細胞で発現させるためのベクターの構築にあたり、動物細胞用発現ベクターpEE(Lonza製)の発現ユニットの2重連化を行った。
具体的には、Lonza製pEE16.4とpEE21.4を用いてベクターの改変を行った。pEE21.4を制限酵素EcoRIとSalIで消化し、2.9kbのDNA断片を単離した。pEE16.4を制限酵素EcoRIとSalIで消化し、6.1kbのDNA断片を単離し、これにpEE21.4由来の上記DNA断片を挿入した。改変したベクターをm−pEEとした(図5)。
m−pEEのイントロンAとpoly(A)との間にα2PI又はPAI−2のcDNAを挿入するために、まずPAI−2のcDNA(Promega製、ORS08641)を鋳型に特異的プライマー(PAI−2 F hind:AACAAGCTTGCCGCCACCATGGAGGATCTTTGTGTGGCAAAC(SEQ ID NO:19)及びPAI−2 RV nsp:GGGTTCGAATTAGGGTGAGGAAAATCTGCCG(SEQ ID NO:20))でORF部分をPCR(KOD−plus、東洋紡製、KOD−201)増幅し、Kozak配列とHindIII認識配列及びNspV認識配列を付加した。増幅断片をHindIII(タカラバイオ製、1060A)及びBspT104I(タカラバイオ製、1225A)消化した後、m−pEEのHindIII−NspV間に挿入した。これにより作製されたベクターをPAI−2/m−pEEとした。
次に、α2PIのcDNA(Promega製、ORS09380)を鋳型に特異的プライマー(a2PI F xho:AACCTCGAGGCCGCCACCATGGTGCTGCTCTGGGGGCTCC(SEQ ID NO:17)及びa2PI RV kpn:CCCGGTACCTCACTTGGGGCTGCCAAACTGGGGG(SEQ ID NO:18))でORF部分をPCRにより増幅し、Kozak配列とXhoI認識配列及びKpnI認識配列を付加した。増幅断片をXhoI(タカラバイオ製、1094A)及びKpnI(タカラバイオ製、1068A)消化した後、PAI−2/m−pEEとライゲーションした。これにより構築されたベクターをα2PI/PAI−2/m−pEEとした(図6)。下記表2に、本実施例で使用したPCRプライマーの配列を示す。
構築されたα2PI/PAI−2/m−pEEはCMVプロモーターによって制御される2つの発現カセットを搭載し、それぞれ、α2PIとPAI−2のORFが挿入されている。さらに動物細胞において選択マーカーとして用いるピューロマイシン耐性遺伝子が搭載されており、SV40プロモーターの制御下に発現する。従って、ピューロマイシンを用いた選択により、恒常発現細胞株を構築することが可能である。
(実施例4:フィブリノゲン並びにα2PI及びPAI−2共発現細胞株の樹立)
実施例1で得られたフィブリノゲン発現細胞株T233を10%FCS(Hyclone製、SH3088)含有D−MEM/Ham’s F−12培地(和光純薬工業製、048−29785)に0.5〜2.5×10cells/mLの細胞密度で懸濁後、6ウェルプレートに1ウェル当たり2mLずつ播種した。次いで、37℃、5%CO下で約16時間インキュベートした。新鮮培地1mLに交換した後、Lipofectamin2000(Invitrogen製、11668)を用いて、α2PI及びPAI−2遺伝子の導入を行った。具体的には、ScaI(タカラバイオ製、10844)消化により直鎖状にしたα2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modified(4.0μg)又はα2PI/PAI−2/m−pEE(4.0μg)を80μLのOpti−MEM(Invitrogen製、31985−070)に溶解したA液と、4μLのLipofectamin2000を80μLのOpti−MEMに添加したB液をそれぞれ室温で5分間静置した後、A液とB液とを混合して室温で20分間静置した。混合液を1ウェル当たり160μLずつウェルに添加して37℃、5%CO下で16〜24時間インキュベートした。α2PI及びPAI−2遺伝子を導入したフィブリノゲン発現細胞株T233をPBS(−)で洗浄した後、トリプシン処理(Invitrogen製、12604)を行い、細胞を回収した。
α2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedを用いてα2PI及びPAI−2遺伝子を導入したフィブリノゲン発現細胞株T233については、800μg/mLのG418(CALBIOCHEM製、345812)を添加した10%FCS含有D−MEM/Ham’s F−12培地に細胞を懸濁し、1×10cells/ウェルの細胞密度で細胞を96ウェルプレートに播種した。約2週間培養(37℃、5%CO)後、G418耐性細胞株を選択した(共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15)。
α2PI/PAI−2/m−pEEを用いてα2PI及びPAI−2遺伝子を導入したフィブリノゲン発現細胞株T233については、10μg/mLのピューロマイシン(Invivogen製、ant−pr−1)を添加した10%FCS含有D−MEM/Ham’s F−12培地に細胞を懸濁し、1×10cells/ウェル、1×10cells/ウェル、1×10cells/ウェルの細胞密度で細胞を96ウェルプレートに播種した。約2週間培養(37℃、5%CO)後、ピューロマイシン耐性細胞株を選択した(共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68)。
(実施例5:α2PI、PAI−2及びフィブリノゲンAα、Bβ、γ鎖の発現の確認)
1.α2PI及びPAI−2のタンパク質発現の確認
フィブリノゲン発現細胞株T233及び共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15をFed−Batch培地(表3)にそれぞれ1×10cells/mLの細胞密度で懸濁し、125mLフラスコに5mL播種して10日間フラスコを振盪培養した(37℃、5%CO、120〜140rpm)。10μLの培養上清をSDS−PAGEした後、泳動後のゲルをiBlot Gel Transfer Device(Invitrogen製、IB1001)を用いてニトロセルロースフィルター(Invitrogen製、IB301001)に転写した。フィルターをブロッキングバッファー(3%スキムミルク(ナカライテスク製)含有TBS(20mM Tris−HCl、0.1M NaCl、pH=8.0))で30分間ブロッキングした後、ブロッキングバッファーでそれぞれ200倍希釈した抗α2PI抗体(Santa Cruz製、SC−73658)又は抗PAI−2抗体(Santa Cruz製、SC−25745)を添加し、室温で2時間インキュベートした。フィルターを0.02%(w/v)Tween20含有TBSで10分間、3回洗浄した後、抗α2PI抗体処理フィルターについては、ブロッキングバッファーで10,000倍希釈した抗マウスIgG[H+L](マウス)−HRP複合体(ナカライテスク製、01803−44)を添加し、抗PAI−2抗体処理フィルターについては、ブロッキングバッファーで10,000倍希釈した抗ウサギIgG[H+L](ヤギ)−HRP複合体(ナカライテスク製、01827−44)を添加し、それぞれ室温で1時間インキュベートした。フィルターを0.02%(w/v)Tween20含有TBSで10分間、3回洗浄した後、Super Signal West Dura Extended Duration Substrate(Thermo製、34075)を用いて、α2PI及びPAI−2の発現を検出した。
その結果、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15の培養上清中に、遺伝子導入したα2PI及びPAI−2の発現がそれぞれ確認された(図7)。PAI−2については、フィブリノゲン発現細胞株T233においても宿主動物細胞(CHO細胞)由来のPAI−2が発現していたが、PAI−2遺伝子の導入によって発現量が増加していることが確認された。
2.α2PI、PAI−2及びフィブリノゲンAα、Bβ、γ鎖のmRNA発現の確認
フィブリノゲン発現細胞株T233、並びにα2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedを用いて樹立した共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #15及びα2PI/PAI−2/m−pEEを用いて樹立した共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68をBatch培地(表3)にそれぞれ1×10cells/mLの細胞密度で懸濁し、125mLフラスコに20mL播種して6日間フラスコを振盪培養した(37℃、5%CO、120〜140rpm)。培養した細胞中のmRNA量を定量PCRにより測定し、導入遺伝子が発現しているかどうかを確認した。
RNAの抽出及び逆転写反応は、TaqMan(登録商標)Gene Expression Cells−to−CTTM kit(アプライドバイオシステムズ製、4399002)を用いて付属プロトコルに従って以下のように行った。培養6日目の細胞を冷PBS(−)で洗浄後、2.0×10cell/mLになるように冷PBS(−)調製した。マイクロチューブに細胞懸濁液を5μL分取し、0.5μLのDNaseIを含むLysis Solutionを50μL添加した。反応液をピペッティング後、室温で5分間インキュベートした。Stop Solution 5μLを添加し、室温で2分間インキュベートし、RNA抽出液を調製した。40μLのRT master MIX(2×RT Buffer 25μL、20×RT Enzyme MIX 2.5μL、Nuclease−free water 12.5μL)と10μLのRNA抽出液を混合し、逆転写反応(37℃で30分間インキュベート後、95℃で5分間インキュベート)を行った。
定量PCRはHRMリアルタイムPCR解析システム(Bio−Rad製、185−5196−J4CAM)を用いて、逆転写したDNA量を測定した。具体的には、TaqMan Universal PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ製、4304437)とTaqMan Primer & Probe Mix(×20)(表4)を用い、付属プロトコルに従って以下のように行った。TaqMan Universal PCR Master Mix 10μL、Primer & Probe Mix 1μL、逆転写反応液2μL、滅菌蒸留水7μLを混合した。PCR反応は、50℃、2分間のインキュベートと、それに続く95℃、10分間のインキュベートによる前処理後、95℃で15秒間、60℃で1分間の反応を40回繰り返した。
培養6日目のmRNAの発現量は、フィブリノゲン発現細胞株T233細胞においてはα2PIとPAI−2の発現が検出されないのに対して、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #15、#8及び#68では共に明確な発現が検出され、導入した発現ベクターが機能していることが明らかになった(図8)。α2PI/PAI−2/m−pEEを用いて樹立した共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68ではα2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedを用いて樹立した共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #15に比べ、PAI−2 mRNA量が約10倍多く検出され、ベクターによる発現量の違いが確認された。α2PIのmRNA量に関しては、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8と共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #15は同等の発現が認められたが、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #68では発現量は1/10であり、細胞株間で発現量の違いが認められた。一方、フィブリノゲンについては、Aα鎖、Bβ鎖及びγ鎖の発現がすべての細胞株で確認された。発現量はフィブリノゲン発現細胞株T233細胞と共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #15、#8及び#68との間で差は認められなかった(図8)。
(実施例6:培養中におけるフィブリノゲンAα鎖の分解抑制)
一般に、培養細胞は、遅滞期、対数増殖期、定常期、死滅期の順で増殖し、培養細胞数と組換えタンパク質産生量とは相関関係にある。従って、組換えタンパク質の産生を行う場合には、培養細胞数がピークになる定常期、すなわち培養後期の期間延長が、組換えタンパク質産生量の増大につながると考えられており、細胞密度の高い培養後期におけるフィブリノゲン分解の進行は、フィブリノゲンを大量生産する上で致命的な問題となる。そこで、細胞密度の高い培養条件下において、フィブリノゲン分解を抑制することができるかを調べた。
1.α2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedを用いて樹立した共発現細胞株におけるフィブリノゲンAα鎖の分解抑制
Fed−Batch培地(表3)にフィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15をそれぞれ1×10cells/mLの高細胞密度で懸濁し、125mLフラスコに5mL播種して2週間フラスコを振盪培養した(37℃、5%CO、120〜140rpm)。培養2日目、8日目及び14日目における培養上清10μLを還元条件でSDS−PAGEした後、泳動後のゲルをInstant Blue染色液(フナコシ製、ISB1L)で15分間染色した。フィブリノゲン発現細胞株T233の培養上清中のフィブリノゲンは、フィブリノゲンBβ鎖(56kDa)及びγ鎖(48kDa)に比べて、Aα鎖(67kDa)の割合が培養日数と共に低くなっており、培養期間が長くなるにつれてフィブリノゲンAα鎖の分解が進行することが明らかとなった(図9A)。一方、フィブリノゲンγ鎖は培養期間の多寡に関わらず殆ど分解されないことから、染色したゲルをデンシトメーター(Bio−Rad製、Calibrated Densitometer GS−800)でスキャンし、γ鎖に対するAα鎖の変動を数値化した。具体的には、付属ソフト「Quantity One」を用いて、Aα鎖、Bβ鎖及びγ鎖のバンド体積(バンド濃度×面積)をそれぞれ測定し、Aα鎖のバンド体積をγ鎖のバンド体積で除算してAα鎖の比を算出した(分子量:Aα鎖67kD、γ鎖48kD)。各ゲルにおいてコントロールとして同時に泳動した血漿由来フィブリノゲン(pFbg:CALBIOCHEM製、341576)のγ鎖に対するAα鎖の比を分解の指標とした。pFbgのγ鎖に対するAα鎖の比を100%とした場合の各培養サンプルにおけるγ鎖に対するAα鎖の比の相対値をAα鎖残存率として示す(図9B)。
その結果、培養2日目においては、フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15のAα鎖残存率はいずれも、コントロールpFbgのAα鎖残存率と同等であり、全ての細胞株においてフィブリノゲンAα鎖の分解は認められなかった。しかし、培養8日目になると、フィブリノゲン発現細胞株T233のAα鎖残存率が、コントロールpFbgのAα鎖残存率に対して半分以下(47%)にまで低下し、フィブリノゲンAα鎖の著しい分解が認められたのに対し、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15のAα鎖残存率は、培養2日目と同様、コントロールpFbgのAα鎖残存率に対して同程度以上(97〜106%)を維持しており、フィブリノゲンAα鎖の分解は殆ど認められなかった。さらに、培養14日目では、フィブリノゲン発現細胞株T233のAα鎖残存率が、コントロールpFbgのAα鎖残存率に対して約1/3(33%)にまで低下し、培養8日目よりもさらにフィブリノゲンAα鎖の分解が進行していたのに対し、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15のAα鎖残存率は、培養8日目(97〜106%)と比較すればわずかに低下(80〜85%)しているものの、依然として高いAα鎖残存率を維持しており、これは、同条件のフィブリノゲン発現細胞株T233のAα鎖残存率(33%)と比較して、約2.5倍以上のAα鎖残存率であった(図9B)。
以上の結果から、一般にフィブリノゲン分解の著しい進行が認められる、細胞密度の高い培養後期においても、フィブリノゲンをα2PI及び/又はPAI−2と共発現させることにより、フィブリノゲン単独で発現させた場合と比較して、培養中のフィブリノゲンAα鎖の分解を強力に抑制することにより、フィブリノゲンのみを発現した場合に比べAα鎖の残存率を約2.5倍以上増加させることが明らかになった。
2.α2PI/PAI−2/m−pEEを用いて樹立した共発現細胞株におけるフィブリノゲンAα鎖の分解抑制
α2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedとは異なる発現ベクターα2PI/PAI−2/m−pEEを用いて樹立した共発現細胞株についても、細胞密度の高い培養条件下において、フィブリノゲン分解を抑制することができるかを調べた。
上記実施例6の1.に記載の方法と同様に、Fed−Batch培地(表3)にフィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68をそれぞれ1×10cells/mLの高細胞密度で懸濁し、125mLフラスコに20mL播種して12日間フラスコを振盪培養した(37℃、5%CO、120〜140rpm)。培養4日目、8日目、10日目及び12日目における培養上清5μLを還元条件でSDS−PAGEした後、泳動後のゲルをInstant Blue染色液(フナコシ製、ISB1L)で15分間染色した。その結果、上記1.の結果と同様に、フィブリノゲン発現細胞株T233の培養上清中のフィブリノゲンは、フィブリノゲンBβ鎖(56kDa)及びγ鎖(48kDa)に比べて、Aα鎖(67kDa)の割合が培養日数と共に低くなっており、培養期間が長くなるにつれてフィブリノゲンAα鎖の分解が進行することが明らかとなった(図10A)。一方、フィブリノゲンγ鎖は培養期間の多寡に関わらず殆ど分解されないことから、染色したゲルをデンシトメーター(Bio−Rad製、Calibrated Densitometer GS−800)でスキャンし、γ鎖に対するAα鎖の変動を数値化した。具体的には、付属ソフト「Quantity One」を用いて、Aα鎖、Bβ鎖及びγ鎖のバンド体積(バンド濃度×面積)をそれぞれ測定し、Aα鎖のバンド体積をγ鎖のバンド体積で除算してAα鎖の比を算出した。各ゲルにおいてコントロールとして同時に泳動した血漿由来フィブリノゲン(pFbg:CALBIOCHEM製、341576)のγ鎖に対するAα鎖の比を分解の指標とした。pFbgのγ鎖に対するAα鎖の比を100%とした場合の各培養サンプルにおけるγ鎖に対するAα鎖の比の相対値をAα鎖残存率として示す(図10B)。
その結果、培養4日目及び8日目においては、フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68のAα鎖残存率はいずれも約80%以上であり、全ての細胞株においてフィブリノゲンAα鎖の分解はほとんど認められなかった。しかし、培養10日目になると、フィブリノゲン発現細胞株T233のAα鎖残存率が、コントロールpFbgのAα鎖残存率に対して半分以下(40%)にまで低下し、フィブリノゲンAα鎖の著しい分解が認められたのに対し、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68のAα鎖残存率は、コントロールpFbgのAα鎖残存率に対して同程度以上(100%以上)を維持しており、フィブリノゲンAα鎖の分解は認められなかった。これは、同条件のフィブリノゲン発現細胞株T233のAα鎖残存率と比較して、約2.5倍以上のAα鎖残存率であった(図10B)。
以上のα2PI/PAI−2/m−pEEを用いて樹立した共発現細胞株におけるフィブリノゲン分解抑制効果は、α2PI/PAI−2/pcDNA3.3−modifiedを用いて樹立した共発現細胞株における効果と一致した。
フィブリノゲンをα2PI及びPAI−2とともに共発現させると、α2PI及びPAI−2遺伝子導入ベクターの相違により、或いは得られた細胞株の相違により、α2PI又はPAI−2のmRNA発現量に差異が認められた(実施例5)。それにも関わらず、共発現細胞株におけるフィブリノゲンAα鎖の残存率は、いずれのベクターを用いた場合であっても、またいずれの細胞株においても、同条件のフィブリノゲン発現細胞株T233のAα鎖残存率と比較して、同程度に高い(いずれも約2.5倍)ものであった。
これらの結果は、共発現細胞株におけるフィブリノゲンAα鎖の分解抑制効果は、α2PI及びPAI−2のmRNA発現量の多寡に依らず、また発現ベクターや細胞株が異なっても有意な影響を受けないことを示している。
(実施例7:培養上清中のプラスミン様プロテアーゼ活性の抑制)
フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15を実施例6と同一条件下で培養し、培養14日目における培養上清中のプラスミン様活性をテストチーム(登録商標)PLG・2キット(積水メディカル製、439−9091)を用いて測定した。具体的には、培養上清50μLと、プラスミンに対する発色性合成基質S−2251(プラスミン様活性物質に対して高特異性)50μLとを混合し、37℃で24時間静置した。反応停止液1mLを添加後、分光光度計にて波長405nmで吸光度を測定した。フィブリノゲン発現細胞株T233の吸光度を1とした場合の、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15の吸光度を相対値として示す(図11)。
その結果、フィブリノゲン発現細胞株T233の吸光度に対する、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15の相対的吸光度は、それぞれ0.5及び0.2となり、培養上清中のプラスミン様プロテアーゼ活性が、少なくとも半分以下にまで抑制されていることが明らかとなった。
共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15では、一般にフィブリノゲン分解の著しい進行が認められる、細胞密度の高い培養後期においても、フィブリノゲンAα鎖の分解が強力に抑制されており(図9)、またプラスミン様活性も抑制されている(図11)。従って、培養上清中に存在するプラスミンの生成や活性を、共発現させたα2PI及びPAI−2が阻害したことによってフィブリノゲンAα鎖の分解が抑制された可能性が示唆された。
(実施例8:共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15におけるフィブリノゲンの産生)
上述のとおり、一般にフィブリノゲンの分解は、細胞密度の高い培養後期に著しく進行し、細胞密度の低い培養初期には殆ど進行しない。そこで、フィブリノゲン分解が起こり難い細胞密度の低い培養条件下でフィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15を培養し、フィブリノゲンとα2PI及びPAI−2との共発現が、フィブリノゲン分解抑制効果とは独立して、フィブリノゲン産生能に影響を及ぼすかを調べた。
Batch培地(表3)にフィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15を1.2×10cells/mLの低細胞密度で懸濁し、125mLフラスコに30mL播種して、10日間フラスコを振盪培養した(37℃、5%CO、120〜140rpm)。培養上清を1日当たり0.4mLずつサンプリングし、培養4日目にFed−Batch培地を5%(v/v)添加した。次いで、培養上清中のフィブリノゲン量をELISA法により以下のように測定した。
抗ヒトフィブリノゲン・ウサギポリクローナル抗体(DAKO製、A0080)6mg/mlをCoating Solution(KPL製、50−84−01)で1,200倍希釈し、96ウェルプレート(Coster製、3590)に1ウェル当たり100μLずつ添加して4℃で一晩静置した。次いで、BSA Diluent/Blocking Solution(KPL製、50−61−01)を1ウェル当たり300μLずつ添加し、室温で1時間静置した。血漿由来フィブリノゲン(pFbg:CALBIOCHEM製、341576)の希釈系列を作製し、スタンダード(440ng/mL、220ng/mL、110ng/mL、55ng/mL、27.5ng/mL、13.75ng/mL、6.88ng/mL、3.44ng/mL、0ng/mL)とした。スタンダード及び測定サンプルを1ウェル当たり100μLずつ添加し、室温で1時間静置した。次いで、Washing Solutionでプレートを洗浄し(300μL/ウェル、5回、プレートウォッシャー使用)、BSA Diluent/Blocking Solutionで10,000倍希釈した二次抗体液を1ウェル当たり100μLずつ添加し、室温で1時間静置した。Washing Solution(0.05%Tween80、0.9%NaCl)で洗浄後、Detection Solution(KPL製、50−62−00)を1ウェル当たり100μLずつ添加した。室温で10分間静置後、Peroxidase Stop Solution(KPL製、50−85−01)を1ウェル当たり100μLずつ添加して、反応を停止した。波長405nmで吸光度を測定した。
その結果、培養上清中のフィブリノゲン量は、培養5日目までは、フィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15のいずれにおいても同様の傾向を示し、培養4日目のフィブリノゲン量はいずれも約40μg/mLであった(図12)。しかし、培養8日目になると、フィブリノゲン発現細胞株T233のフィブリノゲン量が約80μg/mLであったのに対し、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15のフィブリノゲン量はいずれも約150μg/mLにまで達し、フィブリノゲン発現細胞株T233と比較して約2倍のフィブリノゲン量を示した。本実施例の低細胞密度培養条件下ではフィブリノゲン分解は殆ど進行しないことから、この結果から、フィブリノゲンをα2PI及び/又はPAI−2と共発現させることにより、フィブリノゲン分解抑制効果とは独立して、フィブリノゲン産生量が大幅に上昇(約2倍)することが明らかとなった。
(実施例9:共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68におけるフィブリノゲンの産生)
共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15とは異なるベクターを用いて樹立した共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68についても、フィブリノゲン分解が起こり難い細胞密度の低い培養条件下でフィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68を培養し、フィブリノゲンとα2PI及びPAI−2との共発現が、フィブリノゲン分解抑制効果とは独立して、フィブリノゲン産生能に影響を及ぼすかを調べた。
Batch培地(表3)にフィブリノゲン発現細胞株T233、並びに共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68を2×10cells/mLの低細胞密度で懸濁し、125mLフラスコに20mL播種して、8日間フラスコを振盪培養した(37℃、5%CO、120〜140rpm)。培養上清を1日当たり0.4mLずつサンプリングし、等量のBatch培地を添加した。
生細胞数および生存率の推移に関しては、フィブリノゲン発現細胞株T233、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68に大きな違いは認められなかった(図13)。
次いで、実施例8と同様の方法により、培養上清中のフィブリノゲン量をELISA法により測定したところ、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8及び#68における培養上清中のフィブリノゲン量は、生細胞数の推移とは異なり、培養3日目以降、フィブリノゲン発現細胞株T233と比較して、高いフィブリノゲン量で推移した。培養8日目になると、フィブリノゲン発現細胞株T233のフィブリノゲン量が約100μg/mLであったのに対し、共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #8では約150μg/mL、#68では約200μg/mLのフィブリノゲン量が認められ、フィブリノゲン発現細胞株T233と比較して約1.5倍〜2倍のフィブリノゲン量を示した。
これらの結果は、フィブリノゲンをα2PI及びPAI−2と共発現させることにより、フィブリノゲン分解抑制効果とは独立して、フィブリノゲン産生能を高めることができることを示している。さらに、この効果はベクターや細胞株の違いによる影響を受けないことが明らかとなった。
以上より、本発明の方法により製造される組換えフィブリノゲン高産生株は、一般にフィブリノゲン分解が進行する培養後期においてもフィブリノゲン分解を強力に抑制することにより、例えばフィブリノゲンのみを発現させた細胞株と比較してフィブリノゲンAα鎖の残存率を約2.5倍以上に増加させることができるばかりでなく、当該フィブリノゲン分解抑制効果とは独立してフィブリノゲン産生量を増大(約1.5倍〜2倍)させることができるため、これら相乗効果によって、フィブリノゲンのみを発現させた細胞株と比較して、少なくとも約4倍以上のフィブリノゲン産生量を得ることができることが示された。
(実施例10:α2PI、PAI−1及びPAI−2添加によるフィブリノゲン分解抑制効果)
実施例6の結果から、フィブリノゲンをα2PI及びPAI−2と共発現させることにより、培養後期におけるフィブリノゲン分解を強力に抑制できることが明らかになった。共発現させた2種類のタンパク質がともに分解抑制効果を奏するのかどうか、PAI−2と同様の作用メカニズムを有するPAI−1を用いてもフィブリノゲン分解抑制効果が認められるのかどうかを確認するために、培養後期のフィブリノゲン発現細胞株T233の培養上清にα2PI、PAI−1及びPAI−2をそれぞれ添加し、フィブリノゲンγ鎖に対するAα鎖の比の変動を調べた。
Fed−Batch培地(表3)にフィブリノゲン発現細胞株T233を1×10cells/mLの高細胞密度で懸濁し、125mLフラスコに5mL播種して10日間フラスコを振盪培養した(37℃、5%CO、120〜140rpm)。培養10日目の培養上清100μLに、α2PI(Abcam製、ab90921)、PAI−1(Pepro tech製、140−04)若しくはPAI−2(Pepro tech製、140−06)を添加し、又は無添加で、さらに37℃で3日間静置した。α2PI及びPAI−2の添加量は、培養10日目の共発現細胞株α2PI/PAI−2/T233 #9及び#15の培養上清中に発現している量と同等量とした。PAI−1の添加量は、PAI−2の添加量に準じた。培養10日目のフィブリノゲン発現細胞株T233におけるγ鎖に対するAα鎖の比を100%とした場合の各培養サンプルにおけるγ鎖に対するAα鎖の比の相対値をAα鎖残存率として示す(図14)。
その結果、培養10日目のフィブリノゲン発現細胞株T233を、無添加条件下、37℃で3日間静置すると分解が進行し、Aα鎖残存率は48%になった。培養10日目のフィブリノゲン発現細胞株T233にα2PI又はPAI−2を添加して37℃で3日間静置した場合、Aα鎖残存率は72〜84%となり、無添加の場合(48%)と比較して、いずれもフィブリノゲン分解を抑制した。α2PIとPAI−2がともにフィブリノゲン分解を抑制したことから、それぞれにフィブリノゲンAα鎖の分解を抑制する効果が存することが明らかとなった。一方、PAI−2の類似タンパク質であるPAI−1を添加して37℃で3日間静置した場合のAα鎖残存率は、無添加の場合(48%)と同程度(44〜48%)であり、PAI−1にはフィブリノゲン分解抑制効果は全く認められなかった(図14)。
PAI−1及びPAI−2は、いずれもSERPINに属する生体内に存在するインヒビターであり、プラスミノーゲンアクチベータを阻害することにより、プラスミノーゲンからのプラスミン生成を抑制するタンパク質である。PAI−1とPAI−2という同様の作用メカニズムを持つプロテアーゼ阻害タンパク質の添加効果に大きな違いが認められたことは、フィブリノゲンAα鎖の分解に関わるメカニズムに厳密な特異性があることを示すものである。
本発明の組換えフィブリノゲン高産生株は、一般にフィブリノゲン分解が進行する培養後期においてもフィブリノゲン分解を強力に抑制することにより、例えばフィブリノゲンのみを発現させた細胞株と比較してフィブリノゲンAα鎖の残存率を約2.5倍以上に増加させることができるばかりでなく、当該フィブリノゲン分解抑制効果とは独立してフィブリノゲン産生量を増大(約1.5〜2倍)させることができるため、これら相乗効果によって、フィブリノゲンのみを発現させた細胞株と比較して、少なくとも約4倍以上のフィブリノゲン産生量を得ることができる。それゆえ、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株によれば、組換えフィブリノゲンを大量生産すること、ひいては実用的なレベルで組換えフィブリノゲンを製剤化することが可能となり、フィブリノゲンの市場への安定供給も確保できる。
さらに、本発明の組換えフィブリノゲン高産生株により得られるフィブリノゲンは、遺伝子組換え技術によって製造されたものであるため、血液由来製剤特有の問題である感染性病原体混入の危険性を完全に排除することができ、十分な安全性を確保することができる。それゆえ、治療に十分な量のフィブリノゲンを長期に亘って安心・安全に使用することが可能となる。
本出願は、日本で出願された特願2013‐273145(出願日:2013年12月27日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。

Claims (9)

  1. フィブリノゲンと、外因性のα2PI及び/又はPAI−2を共発現する動物細胞株であって、フィブリノゲンを発現し、且つ外因性のα2PI及びPAI−2を発現しない動物細胞と比較して、フィブリノゲンの分解が抑制され、且つフィブリノゲンの発現自体が増大していることを特徴とする、組換えフィブリノゲン高産生株。
  2. フィブリノゲン並びに外因性のα2PI及び/又はPAI−2が、ヒトフィブリノゲン並びにヒトα2PI及び/又はPAI−2であることを特徴とする、請求項1記載の組換えフィブリノゲン高産生株。
  3. 動物細胞株が、CHO細胞であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組換えフィブリノゲン高産生株。
  4. フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子を動物細胞に導入し、該動物細胞中でフィブリノゲン並びにα2PI及び/又はPAI−2を共発現させることを特徴とする、組換えフィブリノゲン高産生株の製造方法であって、該組換えフィブリノゲン高産生株は、フィブリノゲンを発現し、且つ外因性のα2PI及びPAI−2を発現しない動物細胞と比較して、フィブリノゲンの分解が抑制され、且つフィブリノゲンの発現自体が増大している、方法
  5. フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子全てを有する単一の発現ベクターを用いて、フィブリノゲンを動物細胞に発現させることを特徴とする、請求項4記載の方法。
  6. α2PIをコードする遺伝子とPAI−2をコードする遺伝子とを有する単一の発現ベクターを用いて、α2PI及びPAI−2を動物細胞に発現させることを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
  7. フィブリノゲンのAα鎖、Bβ鎖及びγ鎖をコードする遺伝子、並びにα2PI及び/又はPAI−2をコードする遺伝子が、いずれもヒト遺伝子であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 動物細胞が、CHO細胞であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えフィブリノゲン高産生株又は請求項4〜8のいずれか1項に記載の方法により得られる組換えフィブリノゲン高産生株を培地中で培養し、得られた培養物からフィブリノゲンを回収することを含む、組換えフィブリノゲンの製造方法。
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