JP2004016055A - 組換えフィブリノーゲンの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ピキア酵母を用いて、完全分子構造のフィブリノーゲンを遺伝子工学的手法により、安定的にかつ大量に製造できる方法を確立すること。
【解決手段】1)ピキア酵母での異種蛋白質の発現を制御可能なプロモーター、フィブリノーゲン由来のシグナル配列、フィブリノーゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖をコードする遺伝子を各々連結した発現用プラスミドを調製する工程、2)当該プラスミドをピキア酵母に導入して形質転換体を調製する工程、3)当該形質転換体をpH5〜8の条件下で培養してフィブリノーゲンを産生する工程、および4)培養上清から回収されたフィブリノーゲンを精製する工程を含む、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する組換えフィブリノーゲンの製造方法。
【選択図】 図13
【解決手段】1)ピキア酵母での異種蛋白質の発現を制御可能なプロモーター、フィブリノーゲン由来のシグナル配列、フィブリノーゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖をコードする遺伝子を各々連結した発現用プラスミドを調製する工程、2)当該プラスミドをピキア酵母に導入して形質転換体を調製する工程、3)当該形質転換体をpH5〜8の条件下で培養してフィブリノーゲンを産生する工程、および4)培養上清から回収されたフィブリノーゲンを精製する工程を含む、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する組換えフィブリノーゲンの製造方法。
【選択図】 図13
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピキア酵母を用いた遺伝子組換えによるフィブリノーゲンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
(ヒト)フィブリノーゲンは血漿中に存在する血漿蛋白の一種で、糖鎖構造を有する分子量約340kDaの糖蛋白質である。血漿中には約3mg/mLのレベルで存在する。フィブリノーゲンはAα鎖、Bβ鎖、γ鎖からなり、S−S結合により(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する。Aα鎖は67kDa、610アミノ酸残基からなり、糖鎖を有しない。Bβ鎖は56kDa、461アミノ酸残基からなり、364位のAsnが糖鎖を有する。γ鎖は48kDa、411アミノ酸残基からなり、52位のAsnが糖鎖を有する。フィブリノーゲンは血液凝固に関わる。すなわち、フィブリノーゲンは生体内ではトロンビンによってAα鎖、Bβ鎖が各々切断され、FPA(フィブリノペプチドA)、FPB(フィブリノペプチドB)が除去されて(α−β−γ)2へと変換される(フィブリンモノマー)。このフィブリンモノマーはCa2+の存在下に重合化してフィブリンポリマーを形成する。さらにトロンビンによって血液凝固第XIII因子が活性化されると、そのトランスグルタミナーゼ活性によりフィブリンポリマー同士にペプチド結合が形成されて強固な交差架橋フィブリンとなる。フィブリノーゲンは医薬品としてフィブリノーゲン欠損症の補充療法等に適用されている。また、フィブリノーゲンはフィブリン糊の主成分として、外科手術時の組織の接着・閉鎖用に用いられる。
【0003】
ところで、フィブリノーゲンは通常ヒトのプール血漿から調製されるが、ウイルス感染の恐れがあるにもかかわらず、加熱処理、SD処理、ウイルス除去膜処理などの現行の方法ではある種のウイルスを完全に不活化・除去することが困難であり、100%安全な医薬品として供給することができているとは必ずしも断言できない状況にある。
【0004】
そこで、血漿由来のフィブリノーゲンを用いる代わりの手段として、遺伝子組換え技術を利用してフィブリノーゲンを製造する方法が各種試みられている。例えば、宿主として酵母を用いる方法、動物細胞を用いる方法、トランスジェニック動物を用いる方法などが報告されている。動物細胞はUSP6037457、トランスジェニック動物はWO00/17234、WO00/17239などを参照のこと。
【0005】
このうち、宿主として酵母を用いる方法としては、最も代表的であるパン酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)を用いてフィブリノーゲンを産生する方法が知られている。特表平10−505496;JBC、270巻40号、23761〜23767頁、1995年を参照のこと。しかしながら、パン酵母でのフィブリノーゲンの産生は比較的少量のレベルにすぎないこと、上記JBC誌の共同著者が後述しているように、発現性・再現性に問題があったことを指摘している。JBC、274巻、554頁、1999年を参照のこと。従って、当該方法は技術的に確立された方法とは言い難いものがある。
【0006】
また、ピキア酵母(ピキア・パストリス)を用いてフィブリノーゲンの部分構造(例えば、γ鎖C末断片)を産生する方法が報告されている。JBC、272巻38号、23792〜23798頁、1997年;Blood、92巻10号、3669〜3674頁、1998年を参照のこと。しかしながら、当該断片とフィブリノーゲンの完全分子構造とでは分子の大きさが全く異なっており(分子量で、当該断片は約40kDa前後にすぎないが、完全分子体では約340kDa)、生理活性も同一のものではないことから、本先行技術での知見が完全分子構造のフィブリノーゲンの製造にそのまま活用できるとはとても考えられない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ピキア酵母を用いて、完全分子構造のフィブリノーゲンを遺伝子工学的手法により、安定的にかつ大量に製造できる方法を確立することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の事情を考慮に入れてさらに研究を行った結果、特定の発現系・宿主系を用いてフィブリノーゲンを産生すること、培地中に産生されたフィブリノーゲンの分解を抑えること、培養上清から回収したフィブリノーゲンを効率よく回収すること、により所期の目的を達成できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、1)ピキア酵母での異種蛋白質の発現を制御可能なプロモーター、フィブリノーゲン由来のシグナル配列、フィブリノーゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖をコードする遺伝子を各々連結した発現用プラスミドを調製する工程、2)当該プラスミドをピキア酵母に導入して形質転換体を調製する工程、3)当該形質転換体をpH5〜8の条件下で培養してフィブリノーゲンを産生する工程、および4)培養上清から回収されたフィブリノーゲンを精製する工程を含む、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する組換えフィブリノーゲンの製造方法に関するものである。以下にその詳細を説明する。
【0010】
【発明の実施の形態】
発現系・宿主系の構築
(ヒト)フィブリノーゲンをコードする遺伝子として、Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の各鎖をコードする遺伝子を用いる。Aα鎖は610アミノ酸残基からなり、その1位がAla、610位がValである。Bβ鎖は461アミノ酸残基からなり、その1位、461位ともGlnである。γ鎖は411アミノ酸残基からなり、その1位はTyr、411位はValである。これらの遺伝子(配列)は公知のものを用いることができる。例えば、Aα鎖遺伝子は、Biochemistry、22巻、3237〜3244頁、1983年;Gen Bank ACCESSION M58569などに、Bβ遺伝子は、Adv.Exp.Med.Biol.、281巻、39〜48頁、1990年;Gen Bank ACCESSION M64983などに、γ鎖遺伝子は、Biochemistry、22巻、3250〜3256頁、1983年;Gen Bank ACCESSION M10014などに各々報告されているので、これらを利用することができる。
【0011】
発現系としては、プロモーター、シグナル配列の選択が重要である。プロモーターはピキア酵母において異種蛋白質の発現(分泌)を制御可能なものとして通常利用されているものであれば特に限定されない。具体的にはアルコールオキシダーゼ由来のプロモーター、GAP(glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase)プロモーター(GENE、186巻、37〜44頁、1997年)などが例示される。アルコールオキシダーゼプロモーターとしては、例えば、AOX1プロモーター、AOX2プロモーターなどが例示される。本発明のプロモーターとして好ましいのは、変異型AOX2プロモーター、すなわち、天然型AOX2プロモーター(Yeast、5巻、167〜177頁、1989年)中の開始コドン上流255番目の塩基がTからCに変異したもの(特開平4−299984)やその他の箇所が変異または欠失したもの(Mol.Gen.Genet.、243巻、489〜499頁、1994年)またはGAPプロモーターである。
【0012】
シグナル配列としては(ヒト)フィブリノーゲン由来のnativeなものを用いる。具体的には以下の配列で示される。Aα鎖のシグナル配列の場合は、MFSMRIVCLVLSVVGTAWTで示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子である。当該シグナル配列としては上記のアミノ酸配列に対応するコドンを有する塩基配列であれば特に限定されない。その一例として、ATGTTTTCCATGAGGATCGTCTGCCTGGTCCTAAGTGTGGTGGGCACAGCATGGACTで示される塩基配列などが例示される。
【0013】
Bβ鎖のシグナル配列の場合は、MKHLLLLLLCVFLVKSで示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子である。当該シグナル配列としては上記のアミノ酸配列に対応するコドンを有する塩基配列であれば特に限定されない。その一例として、ATGAAACATCTATTATTGCTACTATTGTGTGTTTTTCTAGTTAAGTCCで示される塩基配列などが例示される。
【0014】
γ鎖のシグナル配列の場合は、MSWSLHPRNLILYFYALLFLSSTCVAで示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子である。当該シグナル配列としては上記のアミノ酸配列に対応するコドンを有する塩基配列であれば特に限定されない。その一例として、ATGAGTTGGTCCTTGCACCCCCGGAATTTAATTCTCTACTTCTATGCTCTTTTATTTCTCTCTTCAACATGTGTAGCAで示される塩基配列などが例示される。
【0015】
また、ターミネーター、選択マーカーなども公知のものを利用することができる。ターミネーターとしてはAOX1ターミネーターなどが例示される。選択マーカーとしてはピキア酵母由来のARG4、HIS4、パン酵母由来のSUC2、LEU2、URA3などのアミノ酸/核酸合成遺伝子あるいはゼオシン、G418などの薬剤耐性遺伝子等が例示される。
【0016】
また、発現用プラスミドを宿主の染色体上に導入する場合は相同領域を用いることができる。相同領域としては上記のアミノ酸/核酸合成遺伝子、アルコールオキシダーゼ遺伝子、ribosomeDNA遺伝子、Ty因子、その他のピキア酵母の既知遺伝子などが例示される。
【0017】
発現用プラスミド(発現ベクター)は、プロモーターの下流にシグナル配列、フィブリノーゲンの各鎖をコードする遺伝子、ターミネーター、選択マーカー、相同領域などを連結することにより調製することができる。また、同一プラスミド上にフィブリノーゲンの各鎖を発現するユニットを全て担持させることにより、3鎖の共発現系を構築することができる。
【0018】
宿主としては、ピキア酵母(ピキア・パストリス)を用いる。具体的にはGTS115株(NRRL 寄託番号Y−15851)、GS190株(同Y18014)、PPF1株(同Y18017)、野生株(同Y11431)などが例示される。また、本発明においてはプロテアーゼA欠損株を用いることが好ましい。具体的にはSMD1168株(インビトロジェン社)などが例示される。
【0019】
プラスミドをピキア酵母に導入し形質転換体を調製する手段としては、各鎖を発現する複数種のプラスミドを、各々の相異なる相同領域を利用して順次、宿主の染色体上に組込む方法と、3鎖の遺伝子発現ユニットを同一のプラスミド上に組込んだ発現用プラスミドを宿主の染色体上に組込む方法がある。なお、形質転換体は当該発現用プラスミドを1または複数個(コピー数で)組込んでいてもよい。
【0020】
また、プラスミドを宿主染色体に組込む方法の他に、プラスミドに自律複製配列を付加することにより、細胞内にエピゾーマル型で存在させることもできる。
【0021】
発現用プラスミドを宿主細胞内に導入する(宿主染色体に組込む、細胞内にエピゾーマル型で存在させる)方法は公知の手法を用いることができる。例えば、アルカリカチオン法、プロトプラストポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法などが例示される。
【0022】
培養(産生)工程
本工程は形質転換体を培地で培養して組換えフィブリノーゲンを産生させる工程である。培地としてはピキア酵母の培養に通常用いられるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、YPD培地(酵母エキス、ペプトン、デキストロースからなる)、YPM培地(酵母エキス、ペプトン、メタノールからなる)、YPG培地(酵母エキス、ペプトン、グリセロールからなる)などが例示される。
【0023】
YP濃度としては1×〜10×程度(1×は1%酵母エキス、2%ペプトンからなる組成の意味)が例示される。好ましくは2×〜5×程度である。メタノール(M)濃度としては1〜5%程度が例示される。好ましくは2〜3%程度である。グリセロール(G)濃度としては1〜10%程度が例示される。
【0024】
培養はpH5〜8の条件下で行われる。好ましくは培養初期のpH条件としてpH5〜6程度に調整する。pHを調整するにはクエン酸緩衝液を用いることが好ましい。培養途中および培養終了時においてpH5〜8の範囲内にあればよい。
【0025】
添加剤としてプロテアーゼ阻害剤を用いることができる。好ましくはセリンプロテアーゼ阻害剤である。具体的にはPMSF(フェニルメチルスルホニルフロリド)、アプロチニン、キモスタチン、AEBSF[4−(2−アミノエチル)−ベンゼンスルホニルフロリド]などが例示される。その添加濃度としては0.1〜10mM程度が例示される。
【0026】
培養条件としては培養温度10〜45℃程度で、培養時間10〜500時間程度が例示される。培養様式としてはバッチ培養、フェドバッチ培養(フェドバッチ)などを用いることができる。
【0027】
なお、当該本培養に先立って前培養を行うことが好ましい。前培養用の培地としては、例えば、YNB(イーストナイトロジェンベースとブドウ糖からなる)、YPGなどが例示される。また、前培養の培養条件としては温度10〜45℃程度、培養時間10〜100時間程度が例示される。
【0028】
精製工程
本工程は培養上清から回収された組換えフィブリノーゲンを精製する工程である。その精製方法としては、陽イオン交換体処理、ゲル濾過処理が挙げられる。得られた培養上清をそのまま、あるいは適当な方法により濃縮等の操作を施してから精製処理を行ってもよい。そのような前処理としては、エタノール分画、硫安分画、透析などが例示される。
【0029】
陽イオン交換体処理は陽イオン交換体を用いて、吸着した組換えフィブリノーゲンを溶出することにより精製するものである。陽イオン交換体は陽イオン交換能を持った置換基を有する水不溶性担体である。陽イオン交換能を持った置換基としてはカルボキシアルキル、例えば、カルボキシメチル(CM)など、スルホアルキル、例えば、スルホプロピル(SP)などが例示される。水不溶性担体としては、アガロース(例えば、セファロースなど)、架橋デキストラン(例えば、セファデックスなど)、セルロース、ポリビリル(例えば、トヨパールなど)が例示される。陽イオン交換体は市販のものを用いることもできる。
【0030】
pH条件としては、アプライ・洗浄時はpH6〜8、塩濃度0.01〜0.1M程度が挙げられる。具体的には50mMのHEPES緩衝液(pH7.0)などが用いられる。溶出時はpH6〜8、塩濃度0.1〜0.5M程度が挙げられる。具体的には、0.1M塩化ナトリウムを含む上記緩衝液(pH7.0)などが用いられる。陽イオン交換体処理はカラム、バッチのいずれの様式で行ってもよい。また、当該溶媒は1〜10mM程度のEACA(イプシロンアミノカプロン酸)、EDTAなどを含んでいてもよい。
【0031】
ゲル濾過処理は、ゲル濾過用担体を用いて分子量の違いにより目的とする組換えフィブリノーゲンを精製・回収するものである。ゲル濾過用担体としてはアガロース、架橋デキストラン(例えば、セファデックスなど)、ポリアクリルアミドなどを用いることができる。組換えフィブリノーゲンの分子量(約340kDa)を考慮して、分画分子量領域が10kDa〜1000kDa程度にあるものを用いることが好ましい。
【0032】
展開時のpH条件としてはpH6〜9程度、塩濃度としては0.01〜0.5M程度が挙げられる。具体的には、0.3M塩化ナトリウム、0.025Mクエン酸ナトリウムを含む0.025Mトリス塩酸緩衝液(pH7.4)などが例示される。また、当該溶媒は0.01〜0.1M程度のEACAなどを含んでいてもよい。
【0033】
精製された組換えフィブリノーゲンの性状は、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する。分子量は340kDa程度であり、フィブリノーゲン抗体吸着ビーズの凝集、フィブリン血栓の形成、トロンビンおよび血液凝固第XIII因子による交差架橋フィブリンの形成などの生理活性を有する。また、当該組換えフィブリノーゲンはN型糖鎖を付加していてもよい。
【0034】
【実施例】
本発明をより詳細に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0035】
なお、本実施例において、ウェスタンブロットによる分析は以下の条件で行った。還元または非還元条件でSDS−PAGEにより分離し、ウェスタンブロットで検出した。分子量マーカーとして37、50、75、100、250kDaの組換え蛋白(BIO RAD製、Precision Protein Standards)を用いた。また対照としてヒト血漿由来フィブリノーゲン(以下pフィブリノーゲン。三菱ウェルファーマまたはカルビオケム社)を用いた。
【0036】
実施例1 変異型AOX2プロモーターの制御下でヒトフィブリノーゲンが発現される発現ベクターの構築
1)Aα鎖発現ベクターの構築
Aα鎖cDNAの取得
PCR法によりAα鎖cDNAを5’および3’末端にそれぞれAsuII、BamHIサイトを付加するように増幅した。PCRプライマー用オリゴDNAは公知のAα鎖cDNAの塩基配列(Biochemistry、22巻、3237〜3244頁、1983年;Gen Bank ACCESSION M58569)を参考に合成した。鋳型DNAにはHuman Liver cDNALibrary(TAKARA)を用い、PCR法によりDNAを増幅した結果、Aα鎖cDNAに相当する約1.9kbのPCR産物を得た。当該DNAは19アミノ酸残基のシグナル配列から610アミノ酸残基の成熟配列に至り、610位のValの後に停止コドンを付加した遺伝子である。
【0037】
Aα鎖発現ベクターの構築
ヒト血清アルブミン(HSA)発現ベクターであるpMM042(特開平4−299984)をEcoRV+SphIで消化してHIS4遺伝子を除いた断片に、pYM30(パン酵母由来。特開昭62−107789)を同制限酵素で消化して得たARG4遺伝子断片を挿入し、ARG4マーカーを有するHSA発現ベクターを構築した。さらにこのベクターをAsuII+BamHI消化することによりHSA遺伝子を除いた断片に、上記1.9kbのPCR産物を同制限酵素で消化したAα鎖cDNA断片を挿入し、Aα鎖発現ベクターpIM104を構築した。pIM104は変異型AOX2プロモーター(以下mAOX2プロモーター)、Aα鎖cDNA、AOX1ターミネーター、ARG4マーカーを含んでなる(図1)。
【0038】
Aα鎖cDNAの塩基配列の確認
構築したAα鎖発現ベクターpIM104にクローニングされたAα鎖cDNAの塩基配列を確認した。シークエンスプライマー用オリゴDNAは公知のAα鎖cDNAの塩基配列(上述の文献およびデータベース)を参考にして合成した。プライマー3.2pmol、テンプレートDNA300ng、プレミックス8μLおよび蒸留水(全量20μLとなるように添加)を混合して常法により反応させた。反応液をスピンカラムで精製して遊離の蛍光ターミネーターを除いた後に、TSR(templete suppression reagent)20μLを加えて攪拌し、95℃で2分間加熱し、氷中で急冷したものについてシークエンスを行った。さらにオートシークエンサーによって得られた配列データを配列情報解析システム(Vector Nti、Contig ExpressおよびAlign X)により編集、連結し、データベース上のDNA配列(上述のGen Bank)と比較した。その結果、両者のDNA配列および推定されるアミノ酸配列は一致した。
【0039】
2)Bβ鎖発現ベクターの構築
Bβ鎖cDNAの取得
PCRプライマー用オリゴDNAは公知のBβ鎖cDNAの塩基配列(Adv.Exp.Med.Biol.、281巻、39〜48頁、1990年;Gen Bank ACCESSION M64983)を参考に合成した。その他は1)に準じて行った。PCRの結果、Bβ鎖cDNAに相当する約1.5kbのPCR産物を得た。当該DNAは16アミノ酸残基のシグナル配列から461アミノ酸残基の成熟配列に至り、461位のGlnの後に停止コドンを付加した遺伝子である。
【0040】
Bβ鎖発現ベクターの構築
上記1.5kbのPCR産物を1)と同様にpMM042からAsuII+BamHI消化によりHSA遺伝子を除いた断片に挿入し、Bβ鎖cDNAの発現ベクターを構築した。まず、5’側のAsuIIサイトからBβ鎖cDNAのBamHIのサイトまでを挿入したベクターを構築し、次にこのベクターをBamHI消化した断片に、Bβ鎖cDNAの残りの領域を同サイトを用いて挿入することによりBβ鎖cDNAの全領域が挿入されたベクターを得た。さらにSphI+EcoRVで消化してHIS4遺伝子断片を除去したものにパン酵母由来のSUC2遺伝子断片(Nucl.Acids Res.11巻、1943〜1954頁、1983年)を挿入し、Bβ鎖発現ベクターpNT40を構築した。pNT40はmAOX2プロモーター、Bβ鎖cDNA、AOX1ターミネーター、SUC2マーカーを含んでなる(図2)。
【0041】
塩基配列の確認
構築したBβ鎖発現ベクターpNT40にクローニングされたBβ鎖cDNAの塩基配列を確認した。シークエンスプライマー用オリゴDNAは公知のBβ鎖cDNAの塩基配列(上述の文献およびデータベース)を参考にして合成した。その他は1)の方法に従った。その結果、両者のDNA配列および推定されるアミノ酸配列は一致した。
【0042】
3)γ鎖発現ベクターの構築
γ鎖cDNAの取得
PCRプライマー用オリゴDNAは公知のγ鎖cDNAの塩基配列(Biochemistry、22巻、3250〜3256頁、1983年;Gen Bank ACCESSION M10014)を参考に合成した。その他は1)に準じて行った。その結果、γ鎖cDNAに相当する約1.3kbのPCR産物を得た。当該DNAは26アミノ酸残基のシグナル配列から411アミノ酸残基の成熟配列に至り、411位のValの後に停止コドンを付加した遺伝子である。
【0043】
γ鎖発現ベクターの構築
上記1.3kbのPCR産物を1)と同様にpMM042からAsuII+BamHI消化によりHSA遺伝子を除いた断片に挿入し、γ鎖発現ベクターpNT41を構築した。pNT41はmAOX2プロモーター、γ鎖cDNA、AOX1ターミネーター、HIS4マーカーを含んでなる(図3)。
【0044】
塩基配列の確認
構築したγ鎖発現ベクターpNT41のγ鎖cDNA領域の塩基配列を確認した。シークエンスプライマー用オリゴDNAは公知のγ鎖cDNAの塩基配列(上述の文献およびデータベース)を参考に合成した。その他は1)の方法に従った。その結果、両者のDNA配列および推定されるアミノ酸配列は一致した。
【0045】
4)Aα・Bβ・γ共発現ベクターの構築
pNT40をEcoRI+ClaI消化して得られたBβ発現ユニットの両端を末端平滑化し、これをpNT41のEcoRI消化、末端平滑化ベクターと連結することにより、2鎖(Bβ・γ)発現ベクターpNT42を得た。次にpIM104をEcoRV消化後にEcoRIで部分消化して得られたAα発現ユニットを末端平滑化し、pNT42をNaeI消化して得られたベクターに連結し、3鎖(Aα・Bβ・γ)共発現ベクターpNT43を構築した。pNT43はAα、Bβおよびγ鎖の発現ユニット、HIS4マーカーを含んでなる(図4)。
【0046】
実施例2 酵母形質転換体の作製
1)Aα、Bβ、γの各単鎖発現ベクターを用いた酵母形質転換体の作製
Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の各鎖単独発現ベクター(pIM104、pNT41、pNT40)を、各々の選択マーカー(相同領域)を利用してピキア酵母を順次形質転換を行っていくことで、各鎖が組込まれた3鎖共発現株を作製した。まず、pIM104をSalIで消化、線状化し、アルカリカチオン法によりピキア酵母PPF1株(his4,arg4)に導入した。ヒスチジンを含み、アルギニンを含まないSD寒天培地に再生したアルギニン非要求性のクローンよりSingle Colony Isolationを行い、Aα単鎖発現形質転換体の単一クローンを得た。次にpNT40をStuIで消化、線状化し、Aα単鎖発現形質転換体に導入した。SD w/o a.a.寒天培地に再生したヒスチジン非要求性クローンよりSingle Colony Isolationを行い、Aα・γ2鎖発現形質転換体の単一クローンを得た。さらに、pNT41をSpeIで消化、線状化し、Aα・γ2鎖発現形質転換体に導入した。SUC選択寒天培地(1/2MSu plate)に再生したクローンよりSingleColony Isolationを行い、Aα・Bβ・γ3鎖発現形質転換体の単一クローンを得た。
【0047】
2)3鎖共発現ベクターを用いた酵母形質転換体の作製
3鎖共発現ベクターpNT43をピキア酵母GTS115株(his4)およびプロテアーゼA欠損株であるSMD1168(his4,pep4)株に導入した。pNT43をSalIで消化、線状化し、アルカリカチオン法により形質転換した。SD w/o a.a.寒天培地に再生したクローンよりSingleColony Isolationを行うことにより形質転換体の単一クローンを得た。各宿主酵母(GTS115株およびSMD1168株)を用いて得られた形質転換体をそれぞれGNT43株およびSNT43株と命名した。
【0048】
形質転換体はYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%デキストロースからなる)で30℃、48時間培養し、遠心(2800rpm×10分)にて集菌し、10%グリセロールを分散溶媒として1mLずつセラムチューブに分注し、−80℃で保存した。
【0049】
3)形質転換体のフラスコ培養
以上のようにして作製した組換えヒトフィブリノーゲン発現形質転換体を通常の方法でYP−2%メタノール培地を用いて30℃で最大96時間まで培養したが、培養24、48、72、96時間のいずれの時点でも検出することができなかった。これは産生された組換えヒトフィブリノーゲンが激しく分解を受けたためと考えられた。
【0050】
実施例3 血漿由来フィブリノーゲンと酵母培養上清を用いた分解抑制条件の検討
組換え酵母を用いて異種蛋白質を発現させる場合、宿主由来のプロテアーゼによって目的産物が分解を受ける場合がある。フィブリノーゲンも宿主酵母由来のプロテアーゼにより分解を受けることが明らかとなった。そこで、酵母による組換えヒトフィブリノーゲンを産生させる培養条件を決定するために、ヒト血漿由来フィブリノーゲンを用いて以下の検討を行った。
【0051】
1)プロテアーゼ阻害剤
ピキア酵母GTS115株を1×YP−2%メタノール培地で30℃72時間培養して培養上清を得た。これにpフィブリノーゲン(終濃度30μg/mL)および適量のプロテアーゼ阻害剤を添加して、30℃で60分間共存させた。その後に当該溶液をウェスタンブロットで分析して、pフィブリノーゲンの残存度および分解物の生成度を確認した。フィブリノーゲンの残存度、分解物の生成度とも、−(なし)、±(若干あり)、+(あり)、++(大いにあり)の4段階で判定した。その結果、pフィブリノーゲンは培養上清中に産生された酵母由来のプロテアーゼにより分解されpフィブリノーゲンの分解はPMSF、アプロチニン、キモスタチンの添加により完全に抑制された(表1)。また、pフィブリノーゲンの分解は培養上清中に産生された酵母由来プロテアーゼによるものと考えられた。
【0052】
【表1】
【0053】
2)pH
pフィブリノーゲンと酵母培養上清を各pH条件下で共存させた。pH調整は0.1Mクエン酸ナトリウム塩緩衝液、0.1Mリン酸カリウム塩緩衝液を用いた。実験は1)に準じて行った。その結果、pHがアルカリ性になるほど、pフィブリノーゲンが分解され易いことが判明した(表2)。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例4 フィブリノーゲンの分解が抑制される酵母培養条件の検討
フィブリノーゲンの分解が抑制されるような酵母培養条件を検討するために、酵母培養系にpフィブリノーゲンを添加し、各培養条件がその分解に及ぼす影響を調べた。
【0056】
1)培地のpH
各pHの緩衝液を用いて調製した3×YP−2%メタノール培地を用いたGTS115株の培養系にpフィブリノーゲン(終濃度30μg/mL)を添加し、30℃で72時間の培養を行った。培地中のpHは0.1Mクエン酸ナトリウム塩緩衝液(pH4.5、5.5)、0.1Mリン酸カリウム塩緩衝液(pH6.5)を用いて調整した。培養終了後にpフィブリノーゲンの残存度と分解物の生成度を実施例3に準じて確認した。その結果、pフィブリノーゲンはpH5.5の緩衝液を用いて調製した3×YP−2%メタノール培地で培養したとき最も分解が抑制された(表3)。
【0057】
【表3】
【0058】
2)YP(酵母エキスおよびペプトン)濃度
YP濃度を1×、3×、5×とする以外は、1)に準じて行った。その結果、pフィブリノーゲンはYP濃度が高いほど分解が抑制された(表4)。
【0059】
【表4】
【0060】
3)カザミノ酸添加
カザミノ酸を終濃度3%となるように培地に添加する以外は、1)に準じて行った。その結果、カザミノ酸添加によるpフィブリノーゲン分解抑制効果は著しいものではなかった(表5)。
【0061】
【表5】
【0062】
4)炭素源
培地として3×YP−2%メタノール培養系(3×YP−M)または3×YP−4.5%グリセロール培養系(3×YP−G)を用いる以外は、1)に準じて行った。その結果、3×YP−G培養系を用いることにより、pフィブリノーゲンの分解は抑制された(表6)。
【0063】
【表6】
【0064】
実施例5 分解抑制条件下で培養した酵母形質転換体による組換えヒトフィブリノーゲンの産生
1)pHを調整した培地を用いた培養
形質転換体GNT43株を、クエン酸緩衝液(pH5.5)を用いて調製した3×YP−2%メタノール培地を用いて、30℃で96時間まで培養し、培養上清を回収してウェスタンブロットにて分析した。その結果、培養上清中に組換えヒトフィブリノーゲンの分泌産生を確認した(図5)。
【0065】
2)培地にキモスタチンを添加した培養
形質転換体GNT43株を、1mMのキモスタチンを添加した3×YP−2%メタノール培地を用いて1)と同様に実験を行った。その結果、培養上清中に組換えヒトフィブリノーゲンの分泌産生を確認した(図6)。
【0066】
実施例6 フィブリノーゲン産生量を向上させる条件の検討
1)酵母宿主株
形質転換体(GNT43株、SNT43株。いずれも1コピー組込み体)を3×YP(pH5.5)−4.5%グリセロール培地で30℃、3日間の前培養後に、3×YP(pH5.5)−2%メタノール培地にOD540nm=1となるように植菌し、30℃で振盪培養した。pH5.5の調整はクエン酸緩衝液によった(以下の実験も同様)。培養24、48および72時間目にサンプリングし、培養上清中に産生された組換えヒトフィブリノーゲンをウェスタンブロットにて分析した。その結果、プロテアーゼA欠損株SMD1168を宿主とするSNT43株が野生株GTS115を宿主とするGNT43株よりも高い産生量を示した(図7)。
【0067】
2)培地のpH
形質転換体SNT43株を3×YP(なりゆきpH)−4.5%グリセロール培地および3×YP(pH5.5)−4.5%グリセロール培地で30℃、3日間の前培養後に、各々3×YP(なりゆきpH)−2%メタノールおよび3×YP(pH5.5)−2%メタノール培地で振盪培養した。その後は1)と同様に実験を行った。その結果、3×YP(pH5.5)の培養系では分解が抑制されており、より高い産生量を示した(図8)。
【0068】
3)導入したベクターの組込みコピー数
SNT43株の1、2および3コピー組込み体を用いて1)に準じて実験を行った。その結果、2および3コピー組込み体は1コピー組込み体よりも高い産生量を示した(図9)。
【0069】
4)メタノール濃度
SNT43株を用い、本培養時の培地におけるメタノール濃度を2%または3%とし、1)に準じて実験を行った。その結果、3%メタノールの培地の方が組換えヒトフィブリノーゲンの産生量が高いことが判明した(図10)。
【0070】
5)YP(酵母エキスおよびペプトン)濃度
SNT43株を用い、本培養時の培地におけるYP濃度を1×、3×、5×とする以外は1)に準じて実験を行った。併せて菌体の増殖も確認した。増殖度は培養72時間目に当該培地の540nmでの吸光度を測定した。その結果、YP濃度に依存して菌体の増殖も進み(表7)、産生量も増加した(図11)。
【0071】
【表7】
【0072】
6)産生量測定
SNT43株の1、2および3コピー組込み体を用いて1)に準じて培養し、培養24、48、72、96時間目における培養上清中の組換えフィブリノーゲン量を2種類のヒトフィブリノーゲン特異的ポリクローナル抗体[Rabbit anti−huFbg(DAKO,Code No.A0080)およびRabbit anti−huFbg−HRP(DAKO,Code No.PO0455)]を用いたサンドイッチELISAにより測定した(検出感度約3ng/mL)。コピー数を増加させた場合の産生量の増大が確認され、SNT43(3コピー組込み体)株で培養96時間目の産生量は10.7μg/mLに達した(表8)。
【0073】
【表8】
【0074】
実施例7 培養上清中に分泌された組換えヒトフィブリノーゲンの性状分析
実施例6により調製した、SNT43株を48時間培養した際の培養上清中に分泌された組換えヒトフィブリノーゲンの性状を分析した。対照としてpフィブリノーゲンを用いて比較した。
【0075】
1)分子量と3鎖のアセンブリ
培養上清についてウェスタンブロットで分析した。これらの結果から、分泌産生された組換えヒトフィブリノーゲンは分子量約340kDaであり、Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の3鎖がアセンブリしていると推察された(図12、図13)。すなわち、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造であることが判明した。
【0076】
2)N型糖鎖の付加
培養上清についてグリコペプチダーゼF(GPF)を用いて37℃で17時間処理して組換えヒトフィブリノーゲンを消化し、ウェスタンブロットで分析して、各鎖のN型糖鎖付加について解析した。pフィブリノーゲンと比較し、ウェスタンブロットの結果を図14に、それをまとめた結果を表9に示す。
【0077】
【表9】
【0078】
3)交差架橋フィブリン形成能
培養上清を緩衝液[20mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、5mM EACA、1mM CaCl2]に交換したものを血液凝固第XIII因子(0.7U/mL)存在下または非存在下にトロンビン(3.3NIU)と37℃で反応させて、交差架橋フィブリン(フィブリン複合体)を形成させた。これを還元条件下でウェスタンブロッティングにより分析した。その結果、血液凝固第XIII因子存在下にトロンビンと反応させたときのみ、分子量約90kDaの高分子領域にγ2鎖からなる交差架橋フィブリンのバンドが検出された(図15)。
【0079】
実施例8 培養上清からの組換えヒトフィブリノーゲンの精製
実施例6の培養上清を回収し、緩衝液A[50mM HEPES(pH7.0)、5mM EDTA、5mM EACA]に透析後、同緩衝液で平衡化したCM−セファロースカラムに吸着させた。同緩衝液で洗浄後、0.1M NaClを含む同緩衝液で溶出させた。溶出液の各画分についてELISAを行い、ヒトフィブリノーゲンを含むことが確認された画分をプールし、ゲル濾過クロマト処理を行った。ゲル濾過にはSuperdex 200カラムを用いた。展開液は0.3M NaCl、0.025Mクエン酸ナトリウム、0.02M EACAを含む0.025Mトリス塩酸緩衝液(pH7.4)を用いた。流速は1mL/分とした。分子量約340kDaの画分を回収した。
【0080】
実施例9 精製フィブリノーゲンのフィブリン塊形成能
実施例8により精製した組換えヒトフィブリノーゲンを血液凝固第XIII因子(0.7U/mL)存在下でトロンビン(3.3NIU)と37℃で反応させた。その結果、フィブリン塊の形成が肉眼で観察された。また、当該塊は血栓溶解剤(プラスミン)を添加することにより分解・溶解した。
【0081】
実施例10 GAPプロモーターの制御下に組換えヒトフィブリノーゲンが発現される酵母発現系
1)Aα鎖発現ベクターの構築
GAPプロモーター遺伝子の取得
市販のGAPプロモーターを有する発現ベクターpGAPZαA(インビトロジェン社)を鋳型としてPCRによりGAPプロモーター遺伝子を増幅した。PCRプライマー用オリゴDNAは公知のpGAPZαAの配列(GENE、186巻、37〜44頁、1997年)を参考に合成した。すなわち、正方向プライマーはGAPプロモーターの5’末端BglIIサイトを除去し、代わりにEcoRIおよびPmaCIサイトを付加するように合成した。また、逆方向プライマーはpGAPZαAのGAPプロモーターの下流に位置するαファクタープレプロ配列の3’末端に相補的な配列とし、末端にEcoRIサイトを付加するように設計した。得られた約0.8kbのPCR産物をEcoRI消化し、市販のクローニングベクターpUC19の同サイトにクローニングした。このベクターをpIM108と命名した。
【0082】
塩基配列の決定
構築したベクターIM108のGAPプロモーターに相当する領域の塩基配列を決定した。シークエンスプライマー用オリゴDNAは公知のGAPプロモーターのcDNAの塩基配列(上記のGENE誌)を参考にして合成した。その他は実施例1の1)の方法に従った。その結果、両者は一致した。
【0083】
Aα鎖発現ベクターの構築
実施例1で構築したベクターpIM104をPmaCI+AsuII消化してmAOX2プロモーターを除いた断片にpIM108を同制限酵素で消化して得られたGAPプロモーター遺伝子を挿入し、Aα発現ベクターpIM109を構築した。pIM109はGAPプロモーター、Aα鎖cDNA、AOX1ターミネーター、ARG4マーカーを含んでなる(図16)。
【0084】
2)Bβ鎖発現ベクターの構築
実施例1で構築したベクターpNT40をPmaCI+AsuII消化してmAOX2プロモーターを除いた断片にpIM108を同制限酵素で消化して得られたGAPプロモーター遺伝子を挿入し、Bβ発現ベクターpIM110を構築した。pIM110はGAPプロモーター、Bβ鎖cDNA、AOX1ターミネーター、SUC2マーカーを含んでなる(図17)。
【0085】
3)γ鎖発現ベクターの構築
実施例1で構築したベクターpNT41をEcoRI+AsuII消化してmAOX2プロモーターを除いた断片にpIM108を同制限酵素で消化して得られたGAPプロモーター遺伝子を挿入し、γ発現ベクターpIM111を構築した。pIM111はGAPプロモーター、γ鎖cDNA、AOX1ターミネーター、HIS4マーカーを含んでなる(図17)。
【0086】
4)Bβ・γ2鎖を共発現させるベクターの構築
pIM110をEcoRI+ClaI消化して得られたBβ発現ユニットの両端を末端平滑化し、これをpIM111のEcoRI消化、末端平滑化ベクターと連結することにより、2鎖(Bβ・γ)発現ベクターpIM112を構築した。pIM112はGAPプロモーター制御のBβおよびγ鎖の発現ユニット、HIS4マーカーを含んでなる(図17)。
【0087】
5)酵母形質転換体の作製
Aα単鎖発現ベクターpIM109およびBβ・γ2鎖発現ベクターpIM112を各々の選択マーカー(相同領域)を利用して、ピキア酵母宿主PPF1株を順次形質転換することでフィブリノーゲン3鎖共発現株を作製した。作製した株をGAP111株(1コピー組込み体)およびGAP222株(2コピー組込み体)と命名した。
【0088】
6)分解抑制条件下での培養における組換えヒトフィブリノーゲンの産生
GAPプロモーターの制御下にヒトフィブリノーゲンを産生する形質転換体GAP111株をクエン酸緩衝液(pH5.5)を用いて調製した3×YP−3%の炭素源を含む培地を用いて、30℃で72時間まで培養した。炭素源はメタノール、デキストロース、グリセロールとした。培養上清を回収し、ウェスタンブロットで分析した。その結果、ヒトフィブリノーゲンの産生はいずれの培地でも確認されたが、メタノールを炭素源として用いたときに最も高いものであった(図18)。
【0089】
【発明の効果】
本発明によれば、血漿由来のフィブリノーゲンと同じ完全分子構造を有し、しかも生理活性も同一である組換えフィブリノーゲンを、安定的にかつ大量に製造することができる。また、血漿由来品とは異なり原料血漿に起因するウイルス汚染の危険性も生じない。従って、より安全性に優れたフィブリノーゲンをより安定的に臨床の場に供給することが可能となる。
【0090】
【配列表】
配列表配列番号1:フィブリノーゲンAα鎖のシグナル配列
配列表配列番号2:Aα鎖のシグナル配列をコードする遺伝子
配列表配列番号3:フィブリノーゲンBβ鎖のシグナル配列
配列表配列番号4:Bβ鎖のシグナル配列をコードする遺伝子
配列表配列番号5:フィブリノーゲンγ鎖のシグナル配列
配列表配列番号6:γ鎖のシグナル配列をコードする遺伝子
【0091】
【0092】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1〜4はmAOX2プロモーターの制御下で組換えフィブリノーゲンを発現させるベクターの構築手順を概略的に示したものである。そのうち、本図はAα鎖発現ベクターpIM104の構築手順を示す。
【図2】Bβ鎖発現ベクターpNT40の構築手順を示す。
【図3】γ鎖発現ベクターpNT41の構築手順を示す。
【図4】Aα・Bβ・γ3鎖共発現ベクターpNT43の構築手順を示す。
【図5】形質転換体の培養におけるpHの効果について、産生された組換えフィブリノーゲンをウェスタンブロット(還元条件、図6〜11も同じ)にて分析した結果を示したものである。符号1〜4はなりゆきpH(pH未調整)の場合を、符号5〜8はpH5.5に調整した場合を各々示す。また、符号1と5は培養24時間後のものを、符号2と6は同48時間後のものを、符号3と7は培養72時間後のものを、符号4と8は同96時間後のものを各々示す。
【図6】形質転換体の培養におけるキモスタチンの効果について、産生された組換えフィブリノーゲンをウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜4はキモスタチン無添加の場合を、符号5〜8はキモスタチンを培地に添加した場合を各々示す。また、符号1と5は培養24時間後のものを、符号2と6は同48時間後のものを、符号3と7は培養72時間後のものを、符号4と8は同96時間後のものを各々示す。
【図7】宿主株の種類と組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてをウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜4はGNT43株(野生株GTS115)の場合を、符号5〜8はSNT43株(プロテアーゼ欠損株SMD1168)の場合を各々示す。また、符号1と5は培養24時間後のものを、符号2と6は同48時間後のものを、符号3と7は培養72時間後のものを、符号4と8は同96時間後のものを各々示す。
【図8】培地のpHと組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜3はなりゆきpH(pH未調整)の場合を、符号4〜6はpH5.5に調整した場合を各々示す。また、符号1と4は培養24時間後のものを、符号2と5は同48時間後のものを、符号3と6は同72時間後のものを各々示す。
【図9】導入したベクターのコピー数と組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜3は1コピー株の場合を、符号4〜6は2コピー株の場合を、符号7〜9は3コピー株の場合を各々示す。また、符号1、4、7は培養24時間後のものを、符号2、5、8は同48時間後のものを、符号3、6、9は同72時間後のものを各々示す。
【図10】培地のメタノール濃度と組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜4はメタノール濃度2%の場合を、符号5〜8は同濃度3%の場合を各々示す。また、符号1と5は培養24時間後のものを、符号2と6は同48時間後のものを、符号3と7は同72時間後のものを、符号4と8は同96時間後のものを各々示す。
【図11】培地のYP濃度と組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜3はYP濃度1×の場合を、符号4〜6はYP濃度3×の場合を、符号7〜9はYP濃度5×の場合を各々示す。また、符号1、4、7は培養24時間後のものを、符号2、5、8は同48時間後のものを、符号3、6、9は同72時間後のものを各々示す。
【図12】図12と13は各鎖の分子量と3鎖のアセンブリをウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。そのうち、図12は還元条件での分析結果を示す。符号1は組換えフィブリノーゲンを示す。また、左端の符号は各分子量マーカーに対応するバンドの位置とその分子量を示したものである。
【図13】非還元条件での分析結果を示す。符号1は組換えフィブリノーゲンを示す。また、左端の符号は図12に同じ。
【図14】N型糖鎖付加をウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1と2は血漿由来フィブリノーゲンを、符号3と4は組換えフィブリノーゲンを各々示す。また、符号1と3はGPF未処理を、符号2と4はGPF処理後を各々示す。
【図15】交差架橋フィブリンの形成をウェスタンブロット(還元条件)にて分析した結果を示したものである。符号1〜3は血漿由来フィブリノーゲンを、符号4〜6は組換えフィブリノーゲンを各々示す。また、符号1と4は未処理を、符号2と5はトロンビン処理を、符号3と6はトロンビンおよび血液凝固第XIII因子処理を各々示す。
【図16】図16〜17はGAPプロモーターの制御下で組換えフィブリノーゲンを発現させるベクターの構築手順を概略的に示したものである。そのうち、本図はAα鎖発現ベクターpIM109の構築手順を示す。
【図17】Bβ鎖発現ベクターpIM110、γ鎖発現ベクターpIM111およびBβ・γ2鎖共発現ベクターpIM112の、各々の構築手順を示す。
【図18】GAPプロモーターの制御下で組換えフィブリノーゲンを発現させた場合のウェスタンブロット(還元条件)による分析結果を示したものである。符号1〜3は3×YP−3%メタノール培養系を、符号4〜6は3×YP−3%グルコース培養系を、符号7〜9は3×YP−3%グリセロール培養系を各々示す。また、符号1、4、7は培養24時間後、符号2、5、8は同48時間後、符号3、6、9は同72時間後のものを各々示す。
【0093】
【符号の説明】
M 分子量マーカー
S 血漿由来フィブリノーゲン
Aα Aα鎖に対応するバンド
Bβ Bβ鎖に対応するバンド
γ γ鎖に対応するバンド
γ2 交差架橋フィブリンに対応するバンド
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピキア酵母を用いた遺伝子組換えによるフィブリノーゲンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
(ヒト)フィブリノーゲンは血漿中に存在する血漿蛋白の一種で、糖鎖構造を有する分子量約340kDaの糖蛋白質である。血漿中には約3mg/mLのレベルで存在する。フィブリノーゲンはAα鎖、Bβ鎖、γ鎖からなり、S−S結合により(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する。Aα鎖は67kDa、610アミノ酸残基からなり、糖鎖を有しない。Bβ鎖は56kDa、461アミノ酸残基からなり、364位のAsnが糖鎖を有する。γ鎖は48kDa、411アミノ酸残基からなり、52位のAsnが糖鎖を有する。フィブリノーゲンは血液凝固に関わる。すなわち、フィブリノーゲンは生体内ではトロンビンによってAα鎖、Bβ鎖が各々切断され、FPA(フィブリノペプチドA)、FPB(フィブリノペプチドB)が除去されて(α−β−γ)2へと変換される(フィブリンモノマー)。このフィブリンモノマーはCa2+の存在下に重合化してフィブリンポリマーを形成する。さらにトロンビンによって血液凝固第XIII因子が活性化されると、そのトランスグルタミナーゼ活性によりフィブリンポリマー同士にペプチド結合が形成されて強固な交差架橋フィブリンとなる。フィブリノーゲンは医薬品としてフィブリノーゲン欠損症の補充療法等に適用されている。また、フィブリノーゲンはフィブリン糊の主成分として、外科手術時の組織の接着・閉鎖用に用いられる。
【0003】
ところで、フィブリノーゲンは通常ヒトのプール血漿から調製されるが、ウイルス感染の恐れがあるにもかかわらず、加熱処理、SD処理、ウイルス除去膜処理などの現行の方法ではある種のウイルスを完全に不活化・除去することが困難であり、100%安全な医薬品として供給することができているとは必ずしも断言できない状況にある。
【0004】
そこで、血漿由来のフィブリノーゲンを用いる代わりの手段として、遺伝子組換え技術を利用してフィブリノーゲンを製造する方法が各種試みられている。例えば、宿主として酵母を用いる方法、動物細胞を用いる方法、トランスジェニック動物を用いる方法などが報告されている。動物細胞はUSP6037457、トランスジェニック動物はWO00/17234、WO00/17239などを参照のこと。
【0005】
このうち、宿主として酵母を用いる方法としては、最も代表的であるパン酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)を用いてフィブリノーゲンを産生する方法が知られている。特表平10−505496;JBC、270巻40号、23761〜23767頁、1995年を参照のこと。しかしながら、パン酵母でのフィブリノーゲンの産生は比較的少量のレベルにすぎないこと、上記JBC誌の共同著者が後述しているように、発現性・再現性に問題があったことを指摘している。JBC、274巻、554頁、1999年を参照のこと。従って、当該方法は技術的に確立された方法とは言い難いものがある。
【0006】
また、ピキア酵母(ピキア・パストリス)を用いてフィブリノーゲンの部分構造(例えば、γ鎖C末断片)を産生する方法が報告されている。JBC、272巻38号、23792〜23798頁、1997年;Blood、92巻10号、3669〜3674頁、1998年を参照のこと。しかしながら、当該断片とフィブリノーゲンの完全分子構造とでは分子の大きさが全く異なっており(分子量で、当該断片は約40kDa前後にすぎないが、完全分子体では約340kDa)、生理活性も同一のものではないことから、本先行技術での知見が完全分子構造のフィブリノーゲンの製造にそのまま活用できるとはとても考えられない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ピキア酵母を用いて、完全分子構造のフィブリノーゲンを遺伝子工学的手法により、安定的にかつ大量に製造できる方法を確立することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の事情を考慮に入れてさらに研究を行った結果、特定の発現系・宿主系を用いてフィブリノーゲンを産生すること、培地中に産生されたフィブリノーゲンの分解を抑えること、培養上清から回収したフィブリノーゲンを効率よく回収すること、により所期の目的を達成できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、1)ピキア酵母での異種蛋白質の発現を制御可能なプロモーター、フィブリノーゲン由来のシグナル配列、フィブリノーゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖をコードする遺伝子を各々連結した発現用プラスミドを調製する工程、2)当該プラスミドをピキア酵母に導入して形質転換体を調製する工程、3)当該形質転換体をpH5〜8の条件下で培養してフィブリノーゲンを産生する工程、および4)培養上清から回収されたフィブリノーゲンを精製する工程を含む、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する組換えフィブリノーゲンの製造方法に関するものである。以下にその詳細を説明する。
【0010】
【発明の実施の形態】
発現系・宿主系の構築
(ヒト)フィブリノーゲンをコードする遺伝子として、Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の各鎖をコードする遺伝子を用いる。Aα鎖は610アミノ酸残基からなり、その1位がAla、610位がValである。Bβ鎖は461アミノ酸残基からなり、その1位、461位ともGlnである。γ鎖は411アミノ酸残基からなり、その1位はTyr、411位はValである。これらの遺伝子(配列)は公知のものを用いることができる。例えば、Aα鎖遺伝子は、Biochemistry、22巻、3237〜3244頁、1983年;Gen Bank ACCESSION M58569などに、Bβ遺伝子は、Adv.Exp.Med.Biol.、281巻、39〜48頁、1990年;Gen Bank ACCESSION M64983などに、γ鎖遺伝子は、Biochemistry、22巻、3250〜3256頁、1983年;Gen Bank ACCESSION M10014などに各々報告されているので、これらを利用することができる。
【0011】
発現系としては、プロモーター、シグナル配列の選択が重要である。プロモーターはピキア酵母において異種蛋白質の発現(分泌)を制御可能なものとして通常利用されているものであれば特に限定されない。具体的にはアルコールオキシダーゼ由来のプロモーター、GAP(glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase)プロモーター(GENE、186巻、37〜44頁、1997年)などが例示される。アルコールオキシダーゼプロモーターとしては、例えば、AOX1プロモーター、AOX2プロモーターなどが例示される。本発明のプロモーターとして好ましいのは、変異型AOX2プロモーター、すなわち、天然型AOX2プロモーター(Yeast、5巻、167〜177頁、1989年)中の開始コドン上流255番目の塩基がTからCに変異したもの(特開平4−299984)やその他の箇所が変異または欠失したもの(Mol.Gen.Genet.、243巻、489〜499頁、1994年)またはGAPプロモーターである。
【0012】
シグナル配列としては(ヒト)フィブリノーゲン由来のnativeなものを用いる。具体的には以下の配列で示される。Aα鎖のシグナル配列の場合は、MFSMRIVCLVLSVVGTAWTで示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子である。当該シグナル配列としては上記のアミノ酸配列に対応するコドンを有する塩基配列であれば特に限定されない。その一例として、ATGTTTTCCATGAGGATCGTCTGCCTGGTCCTAAGTGTGGTGGGCACAGCATGGACTで示される塩基配列などが例示される。
【0013】
Bβ鎖のシグナル配列の場合は、MKHLLLLLLCVFLVKSで示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子である。当該シグナル配列としては上記のアミノ酸配列に対応するコドンを有する塩基配列であれば特に限定されない。その一例として、ATGAAACATCTATTATTGCTACTATTGTGTGTTTTTCTAGTTAAGTCCで示される塩基配列などが例示される。
【0014】
γ鎖のシグナル配列の場合は、MSWSLHPRNLILYFYALLFLSSTCVAで示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子である。当該シグナル配列としては上記のアミノ酸配列に対応するコドンを有する塩基配列であれば特に限定されない。その一例として、ATGAGTTGGTCCTTGCACCCCCGGAATTTAATTCTCTACTTCTATGCTCTTTTATTTCTCTCTTCAACATGTGTAGCAで示される塩基配列などが例示される。
【0015】
また、ターミネーター、選択マーカーなども公知のものを利用することができる。ターミネーターとしてはAOX1ターミネーターなどが例示される。選択マーカーとしてはピキア酵母由来のARG4、HIS4、パン酵母由来のSUC2、LEU2、URA3などのアミノ酸/核酸合成遺伝子あるいはゼオシン、G418などの薬剤耐性遺伝子等が例示される。
【0016】
また、発現用プラスミドを宿主の染色体上に導入する場合は相同領域を用いることができる。相同領域としては上記のアミノ酸/核酸合成遺伝子、アルコールオキシダーゼ遺伝子、ribosomeDNA遺伝子、Ty因子、その他のピキア酵母の既知遺伝子などが例示される。
【0017】
発現用プラスミド(発現ベクター)は、プロモーターの下流にシグナル配列、フィブリノーゲンの各鎖をコードする遺伝子、ターミネーター、選択マーカー、相同領域などを連結することにより調製することができる。また、同一プラスミド上にフィブリノーゲンの各鎖を発現するユニットを全て担持させることにより、3鎖の共発現系を構築することができる。
【0018】
宿主としては、ピキア酵母(ピキア・パストリス)を用いる。具体的にはGTS115株(NRRL 寄託番号Y−15851)、GS190株(同Y18014)、PPF1株(同Y18017)、野生株(同Y11431)などが例示される。また、本発明においてはプロテアーゼA欠損株を用いることが好ましい。具体的にはSMD1168株(インビトロジェン社)などが例示される。
【0019】
プラスミドをピキア酵母に導入し形質転換体を調製する手段としては、各鎖を発現する複数種のプラスミドを、各々の相異なる相同領域を利用して順次、宿主の染色体上に組込む方法と、3鎖の遺伝子発現ユニットを同一のプラスミド上に組込んだ発現用プラスミドを宿主の染色体上に組込む方法がある。なお、形質転換体は当該発現用プラスミドを1または複数個(コピー数で)組込んでいてもよい。
【0020】
また、プラスミドを宿主染色体に組込む方法の他に、プラスミドに自律複製配列を付加することにより、細胞内にエピゾーマル型で存在させることもできる。
【0021】
発現用プラスミドを宿主細胞内に導入する(宿主染色体に組込む、細胞内にエピゾーマル型で存在させる)方法は公知の手法を用いることができる。例えば、アルカリカチオン法、プロトプラストポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法などが例示される。
【0022】
培養(産生)工程
本工程は形質転換体を培地で培養して組換えフィブリノーゲンを産生させる工程である。培地としてはピキア酵母の培養に通常用いられるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、YPD培地(酵母エキス、ペプトン、デキストロースからなる)、YPM培地(酵母エキス、ペプトン、メタノールからなる)、YPG培地(酵母エキス、ペプトン、グリセロールからなる)などが例示される。
【0023】
YP濃度としては1×〜10×程度(1×は1%酵母エキス、2%ペプトンからなる組成の意味)が例示される。好ましくは2×〜5×程度である。メタノール(M)濃度としては1〜5%程度が例示される。好ましくは2〜3%程度である。グリセロール(G)濃度としては1〜10%程度が例示される。
【0024】
培養はpH5〜8の条件下で行われる。好ましくは培養初期のpH条件としてpH5〜6程度に調整する。pHを調整するにはクエン酸緩衝液を用いることが好ましい。培養途中および培養終了時においてpH5〜8の範囲内にあればよい。
【0025】
添加剤としてプロテアーゼ阻害剤を用いることができる。好ましくはセリンプロテアーゼ阻害剤である。具体的にはPMSF(フェニルメチルスルホニルフロリド)、アプロチニン、キモスタチン、AEBSF[4−(2−アミノエチル)−ベンゼンスルホニルフロリド]などが例示される。その添加濃度としては0.1〜10mM程度が例示される。
【0026】
培養条件としては培養温度10〜45℃程度で、培養時間10〜500時間程度が例示される。培養様式としてはバッチ培養、フェドバッチ培養(フェドバッチ)などを用いることができる。
【0027】
なお、当該本培養に先立って前培養を行うことが好ましい。前培養用の培地としては、例えば、YNB(イーストナイトロジェンベースとブドウ糖からなる)、YPGなどが例示される。また、前培養の培養条件としては温度10〜45℃程度、培養時間10〜100時間程度が例示される。
【0028】
精製工程
本工程は培養上清から回収された組換えフィブリノーゲンを精製する工程である。その精製方法としては、陽イオン交換体処理、ゲル濾過処理が挙げられる。得られた培養上清をそのまま、あるいは適当な方法により濃縮等の操作を施してから精製処理を行ってもよい。そのような前処理としては、エタノール分画、硫安分画、透析などが例示される。
【0029】
陽イオン交換体処理は陽イオン交換体を用いて、吸着した組換えフィブリノーゲンを溶出することにより精製するものである。陽イオン交換体は陽イオン交換能を持った置換基を有する水不溶性担体である。陽イオン交換能を持った置換基としてはカルボキシアルキル、例えば、カルボキシメチル(CM)など、スルホアルキル、例えば、スルホプロピル(SP)などが例示される。水不溶性担体としては、アガロース(例えば、セファロースなど)、架橋デキストラン(例えば、セファデックスなど)、セルロース、ポリビリル(例えば、トヨパールなど)が例示される。陽イオン交換体は市販のものを用いることもできる。
【0030】
pH条件としては、アプライ・洗浄時はpH6〜8、塩濃度0.01〜0.1M程度が挙げられる。具体的には50mMのHEPES緩衝液(pH7.0)などが用いられる。溶出時はpH6〜8、塩濃度0.1〜0.5M程度が挙げられる。具体的には、0.1M塩化ナトリウムを含む上記緩衝液(pH7.0)などが用いられる。陽イオン交換体処理はカラム、バッチのいずれの様式で行ってもよい。また、当該溶媒は1〜10mM程度のEACA(イプシロンアミノカプロン酸)、EDTAなどを含んでいてもよい。
【0031】
ゲル濾過処理は、ゲル濾過用担体を用いて分子量の違いにより目的とする組換えフィブリノーゲンを精製・回収するものである。ゲル濾過用担体としてはアガロース、架橋デキストラン(例えば、セファデックスなど)、ポリアクリルアミドなどを用いることができる。組換えフィブリノーゲンの分子量(約340kDa)を考慮して、分画分子量領域が10kDa〜1000kDa程度にあるものを用いることが好ましい。
【0032】
展開時のpH条件としてはpH6〜9程度、塩濃度としては0.01〜0.5M程度が挙げられる。具体的には、0.3M塩化ナトリウム、0.025Mクエン酸ナトリウムを含む0.025Mトリス塩酸緩衝液(pH7.4)などが例示される。また、当該溶媒は0.01〜0.1M程度のEACAなどを含んでいてもよい。
【0033】
精製された組換えフィブリノーゲンの性状は、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する。分子量は340kDa程度であり、フィブリノーゲン抗体吸着ビーズの凝集、フィブリン血栓の形成、トロンビンおよび血液凝固第XIII因子による交差架橋フィブリンの形成などの生理活性を有する。また、当該組換えフィブリノーゲンはN型糖鎖を付加していてもよい。
【0034】
【実施例】
本発明をより詳細に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0035】
なお、本実施例において、ウェスタンブロットによる分析は以下の条件で行った。還元または非還元条件でSDS−PAGEにより分離し、ウェスタンブロットで検出した。分子量マーカーとして37、50、75、100、250kDaの組換え蛋白(BIO RAD製、Precision Protein Standards)を用いた。また対照としてヒト血漿由来フィブリノーゲン(以下pフィブリノーゲン。三菱ウェルファーマまたはカルビオケム社)を用いた。
【0036】
実施例1 変異型AOX2プロモーターの制御下でヒトフィブリノーゲンが発現される発現ベクターの構築
1)Aα鎖発現ベクターの構築
Aα鎖cDNAの取得
PCR法によりAα鎖cDNAを5’および3’末端にそれぞれAsuII、BamHIサイトを付加するように増幅した。PCRプライマー用オリゴDNAは公知のAα鎖cDNAの塩基配列(Biochemistry、22巻、3237〜3244頁、1983年;Gen Bank ACCESSION M58569)を参考に合成した。鋳型DNAにはHuman Liver cDNALibrary(TAKARA)を用い、PCR法によりDNAを増幅した結果、Aα鎖cDNAに相当する約1.9kbのPCR産物を得た。当該DNAは19アミノ酸残基のシグナル配列から610アミノ酸残基の成熟配列に至り、610位のValの後に停止コドンを付加した遺伝子である。
【0037】
Aα鎖発現ベクターの構築
ヒト血清アルブミン(HSA)発現ベクターであるpMM042(特開平4−299984)をEcoRV+SphIで消化してHIS4遺伝子を除いた断片に、pYM30(パン酵母由来。特開昭62−107789)を同制限酵素で消化して得たARG4遺伝子断片を挿入し、ARG4マーカーを有するHSA発現ベクターを構築した。さらにこのベクターをAsuII+BamHI消化することによりHSA遺伝子を除いた断片に、上記1.9kbのPCR産物を同制限酵素で消化したAα鎖cDNA断片を挿入し、Aα鎖発現ベクターpIM104を構築した。pIM104は変異型AOX2プロモーター(以下mAOX2プロモーター)、Aα鎖cDNA、AOX1ターミネーター、ARG4マーカーを含んでなる(図1)。
【0038】
Aα鎖cDNAの塩基配列の確認
構築したAα鎖発現ベクターpIM104にクローニングされたAα鎖cDNAの塩基配列を確認した。シークエンスプライマー用オリゴDNAは公知のAα鎖cDNAの塩基配列(上述の文献およびデータベース)を参考にして合成した。プライマー3.2pmol、テンプレートDNA300ng、プレミックス8μLおよび蒸留水(全量20μLとなるように添加)を混合して常法により反応させた。反応液をスピンカラムで精製して遊離の蛍光ターミネーターを除いた後に、TSR(templete suppression reagent)20μLを加えて攪拌し、95℃で2分間加熱し、氷中で急冷したものについてシークエンスを行った。さらにオートシークエンサーによって得られた配列データを配列情報解析システム(Vector Nti、Contig ExpressおよびAlign X)により編集、連結し、データベース上のDNA配列(上述のGen Bank)と比較した。その結果、両者のDNA配列および推定されるアミノ酸配列は一致した。
【0039】
2)Bβ鎖発現ベクターの構築
Bβ鎖cDNAの取得
PCRプライマー用オリゴDNAは公知のBβ鎖cDNAの塩基配列(Adv.Exp.Med.Biol.、281巻、39〜48頁、1990年;Gen Bank ACCESSION M64983)を参考に合成した。その他は1)に準じて行った。PCRの結果、Bβ鎖cDNAに相当する約1.5kbのPCR産物を得た。当該DNAは16アミノ酸残基のシグナル配列から461アミノ酸残基の成熟配列に至り、461位のGlnの後に停止コドンを付加した遺伝子である。
【0040】
Bβ鎖発現ベクターの構築
上記1.5kbのPCR産物を1)と同様にpMM042からAsuII+BamHI消化によりHSA遺伝子を除いた断片に挿入し、Bβ鎖cDNAの発現ベクターを構築した。まず、5’側のAsuIIサイトからBβ鎖cDNAのBamHIのサイトまでを挿入したベクターを構築し、次にこのベクターをBamHI消化した断片に、Bβ鎖cDNAの残りの領域を同サイトを用いて挿入することによりBβ鎖cDNAの全領域が挿入されたベクターを得た。さらにSphI+EcoRVで消化してHIS4遺伝子断片を除去したものにパン酵母由来のSUC2遺伝子断片(Nucl.Acids Res.11巻、1943〜1954頁、1983年)を挿入し、Bβ鎖発現ベクターpNT40を構築した。pNT40はmAOX2プロモーター、Bβ鎖cDNA、AOX1ターミネーター、SUC2マーカーを含んでなる(図2)。
【0041】
塩基配列の確認
構築したBβ鎖発現ベクターpNT40にクローニングされたBβ鎖cDNAの塩基配列を確認した。シークエンスプライマー用オリゴDNAは公知のBβ鎖cDNAの塩基配列(上述の文献およびデータベース)を参考にして合成した。その他は1)の方法に従った。その結果、両者のDNA配列および推定されるアミノ酸配列は一致した。
【0042】
3)γ鎖発現ベクターの構築
γ鎖cDNAの取得
PCRプライマー用オリゴDNAは公知のγ鎖cDNAの塩基配列(Biochemistry、22巻、3250〜3256頁、1983年;Gen Bank ACCESSION M10014)を参考に合成した。その他は1)に準じて行った。その結果、γ鎖cDNAに相当する約1.3kbのPCR産物を得た。当該DNAは26アミノ酸残基のシグナル配列から411アミノ酸残基の成熟配列に至り、411位のValの後に停止コドンを付加した遺伝子である。
【0043】
γ鎖発現ベクターの構築
上記1.3kbのPCR産物を1)と同様にpMM042からAsuII+BamHI消化によりHSA遺伝子を除いた断片に挿入し、γ鎖発現ベクターpNT41を構築した。pNT41はmAOX2プロモーター、γ鎖cDNA、AOX1ターミネーター、HIS4マーカーを含んでなる(図3)。
【0044】
塩基配列の確認
構築したγ鎖発現ベクターpNT41のγ鎖cDNA領域の塩基配列を確認した。シークエンスプライマー用オリゴDNAは公知のγ鎖cDNAの塩基配列(上述の文献およびデータベース)を参考に合成した。その他は1)の方法に従った。その結果、両者のDNA配列および推定されるアミノ酸配列は一致した。
【0045】
4)Aα・Bβ・γ共発現ベクターの構築
pNT40をEcoRI+ClaI消化して得られたBβ発現ユニットの両端を末端平滑化し、これをpNT41のEcoRI消化、末端平滑化ベクターと連結することにより、2鎖(Bβ・γ)発現ベクターpNT42を得た。次にpIM104をEcoRV消化後にEcoRIで部分消化して得られたAα発現ユニットを末端平滑化し、pNT42をNaeI消化して得られたベクターに連結し、3鎖(Aα・Bβ・γ)共発現ベクターpNT43を構築した。pNT43はAα、Bβおよびγ鎖の発現ユニット、HIS4マーカーを含んでなる(図4)。
【0046】
実施例2 酵母形質転換体の作製
1)Aα、Bβ、γの各単鎖発現ベクターを用いた酵母形質転換体の作製
Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の各鎖単独発現ベクター(pIM104、pNT41、pNT40)を、各々の選択マーカー(相同領域)を利用してピキア酵母を順次形質転換を行っていくことで、各鎖が組込まれた3鎖共発現株を作製した。まず、pIM104をSalIで消化、線状化し、アルカリカチオン法によりピキア酵母PPF1株(his4,arg4)に導入した。ヒスチジンを含み、アルギニンを含まないSD寒天培地に再生したアルギニン非要求性のクローンよりSingle Colony Isolationを行い、Aα単鎖発現形質転換体の単一クローンを得た。次にpNT40をStuIで消化、線状化し、Aα単鎖発現形質転換体に導入した。SD w/o a.a.寒天培地に再生したヒスチジン非要求性クローンよりSingle Colony Isolationを行い、Aα・γ2鎖発現形質転換体の単一クローンを得た。さらに、pNT41をSpeIで消化、線状化し、Aα・γ2鎖発現形質転換体に導入した。SUC選択寒天培地(1/2MSu plate)に再生したクローンよりSingleColony Isolationを行い、Aα・Bβ・γ3鎖発現形質転換体の単一クローンを得た。
【0047】
2)3鎖共発現ベクターを用いた酵母形質転換体の作製
3鎖共発現ベクターpNT43をピキア酵母GTS115株(his4)およびプロテアーゼA欠損株であるSMD1168(his4,pep4)株に導入した。pNT43をSalIで消化、線状化し、アルカリカチオン法により形質転換した。SD w/o a.a.寒天培地に再生したクローンよりSingleColony Isolationを行うことにより形質転換体の単一クローンを得た。各宿主酵母(GTS115株およびSMD1168株)を用いて得られた形質転換体をそれぞれGNT43株およびSNT43株と命名した。
【0048】
形質転換体はYPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%デキストロースからなる)で30℃、48時間培養し、遠心(2800rpm×10分)にて集菌し、10%グリセロールを分散溶媒として1mLずつセラムチューブに分注し、−80℃で保存した。
【0049】
3)形質転換体のフラスコ培養
以上のようにして作製した組換えヒトフィブリノーゲン発現形質転換体を通常の方法でYP−2%メタノール培地を用いて30℃で最大96時間まで培養したが、培養24、48、72、96時間のいずれの時点でも検出することができなかった。これは産生された組換えヒトフィブリノーゲンが激しく分解を受けたためと考えられた。
【0050】
実施例3 血漿由来フィブリノーゲンと酵母培養上清を用いた分解抑制条件の検討
組換え酵母を用いて異種蛋白質を発現させる場合、宿主由来のプロテアーゼによって目的産物が分解を受ける場合がある。フィブリノーゲンも宿主酵母由来のプロテアーゼにより分解を受けることが明らかとなった。そこで、酵母による組換えヒトフィブリノーゲンを産生させる培養条件を決定するために、ヒト血漿由来フィブリノーゲンを用いて以下の検討を行った。
【0051】
1)プロテアーゼ阻害剤
ピキア酵母GTS115株を1×YP−2%メタノール培地で30℃72時間培養して培養上清を得た。これにpフィブリノーゲン(終濃度30μg/mL)および適量のプロテアーゼ阻害剤を添加して、30℃で60分間共存させた。その後に当該溶液をウェスタンブロットで分析して、pフィブリノーゲンの残存度および分解物の生成度を確認した。フィブリノーゲンの残存度、分解物の生成度とも、−(なし)、±(若干あり)、+(あり)、++(大いにあり)の4段階で判定した。その結果、pフィブリノーゲンは培養上清中に産生された酵母由来のプロテアーゼにより分解されpフィブリノーゲンの分解はPMSF、アプロチニン、キモスタチンの添加により完全に抑制された(表1)。また、pフィブリノーゲンの分解は培養上清中に産生された酵母由来プロテアーゼによるものと考えられた。
【0052】
【表1】
【0053】
2)pH
pフィブリノーゲンと酵母培養上清を各pH条件下で共存させた。pH調整は0.1Mクエン酸ナトリウム塩緩衝液、0.1Mリン酸カリウム塩緩衝液を用いた。実験は1)に準じて行った。その結果、pHがアルカリ性になるほど、pフィブリノーゲンが分解され易いことが判明した(表2)。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例4 フィブリノーゲンの分解が抑制される酵母培養条件の検討
フィブリノーゲンの分解が抑制されるような酵母培養条件を検討するために、酵母培養系にpフィブリノーゲンを添加し、各培養条件がその分解に及ぼす影響を調べた。
【0056】
1)培地のpH
各pHの緩衝液を用いて調製した3×YP−2%メタノール培地を用いたGTS115株の培養系にpフィブリノーゲン(終濃度30μg/mL)を添加し、30℃で72時間の培養を行った。培地中のpHは0.1Mクエン酸ナトリウム塩緩衝液(pH4.5、5.5)、0.1Mリン酸カリウム塩緩衝液(pH6.5)を用いて調整した。培養終了後にpフィブリノーゲンの残存度と分解物の生成度を実施例3に準じて確認した。その結果、pフィブリノーゲンはpH5.5の緩衝液を用いて調製した3×YP−2%メタノール培地で培養したとき最も分解が抑制された(表3)。
【0057】
【表3】
【0058】
2)YP(酵母エキスおよびペプトン)濃度
YP濃度を1×、3×、5×とする以外は、1)に準じて行った。その結果、pフィブリノーゲンはYP濃度が高いほど分解が抑制された(表4)。
【0059】
【表4】
【0060】
3)カザミノ酸添加
カザミノ酸を終濃度3%となるように培地に添加する以外は、1)に準じて行った。その結果、カザミノ酸添加によるpフィブリノーゲン分解抑制効果は著しいものではなかった(表5)。
【0061】
【表5】
【0062】
4)炭素源
培地として3×YP−2%メタノール培養系(3×YP−M)または3×YP−4.5%グリセロール培養系(3×YP−G)を用いる以外は、1)に準じて行った。その結果、3×YP−G培養系を用いることにより、pフィブリノーゲンの分解は抑制された(表6)。
【0063】
【表6】
【0064】
実施例5 分解抑制条件下で培養した酵母形質転換体による組換えヒトフィブリノーゲンの産生
1)pHを調整した培地を用いた培養
形質転換体GNT43株を、クエン酸緩衝液(pH5.5)を用いて調製した3×YP−2%メタノール培地を用いて、30℃で96時間まで培養し、培養上清を回収してウェスタンブロットにて分析した。その結果、培養上清中に組換えヒトフィブリノーゲンの分泌産生を確認した(図5)。
【0065】
2)培地にキモスタチンを添加した培養
形質転換体GNT43株を、1mMのキモスタチンを添加した3×YP−2%メタノール培地を用いて1)と同様に実験を行った。その結果、培養上清中に組換えヒトフィブリノーゲンの分泌産生を確認した(図6)。
【0066】
実施例6 フィブリノーゲン産生量を向上させる条件の検討
1)酵母宿主株
形質転換体(GNT43株、SNT43株。いずれも1コピー組込み体)を3×YP(pH5.5)−4.5%グリセロール培地で30℃、3日間の前培養後に、3×YP(pH5.5)−2%メタノール培地にOD540nm=1となるように植菌し、30℃で振盪培養した。pH5.5の調整はクエン酸緩衝液によった(以下の実験も同様)。培養24、48および72時間目にサンプリングし、培養上清中に産生された組換えヒトフィブリノーゲンをウェスタンブロットにて分析した。その結果、プロテアーゼA欠損株SMD1168を宿主とするSNT43株が野生株GTS115を宿主とするGNT43株よりも高い産生量を示した(図7)。
【0067】
2)培地のpH
形質転換体SNT43株を3×YP(なりゆきpH)−4.5%グリセロール培地および3×YP(pH5.5)−4.5%グリセロール培地で30℃、3日間の前培養後に、各々3×YP(なりゆきpH)−2%メタノールおよび3×YP(pH5.5)−2%メタノール培地で振盪培養した。その後は1)と同様に実験を行った。その結果、3×YP(pH5.5)の培養系では分解が抑制されており、より高い産生量を示した(図8)。
【0068】
3)導入したベクターの組込みコピー数
SNT43株の1、2および3コピー組込み体を用いて1)に準じて実験を行った。その結果、2および3コピー組込み体は1コピー組込み体よりも高い産生量を示した(図9)。
【0069】
4)メタノール濃度
SNT43株を用い、本培養時の培地におけるメタノール濃度を2%または3%とし、1)に準じて実験を行った。その結果、3%メタノールの培地の方が組換えヒトフィブリノーゲンの産生量が高いことが判明した(図10)。
【0070】
5)YP(酵母エキスおよびペプトン)濃度
SNT43株を用い、本培養時の培地におけるYP濃度を1×、3×、5×とする以外は1)に準じて実験を行った。併せて菌体の増殖も確認した。増殖度は培養72時間目に当該培地の540nmでの吸光度を測定した。その結果、YP濃度に依存して菌体の増殖も進み(表7)、産生量も増加した(図11)。
【0071】
【表7】
【0072】
6)産生量測定
SNT43株の1、2および3コピー組込み体を用いて1)に準じて培養し、培養24、48、72、96時間目における培養上清中の組換えフィブリノーゲン量を2種類のヒトフィブリノーゲン特異的ポリクローナル抗体[Rabbit anti−huFbg(DAKO,Code No.A0080)およびRabbit anti−huFbg−HRP(DAKO,Code No.PO0455)]を用いたサンドイッチELISAにより測定した(検出感度約3ng/mL)。コピー数を増加させた場合の産生量の増大が確認され、SNT43(3コピー組込み体)株で培養96時間目の産生量は10.7μg/mLに達した(表8)。
【0073】
【表8】
【0074】
実施例7 培養上清中に分泌された組換えヒトフィブリノーゲンの性状分析
実施例6により調製した、SNT43株を48時間培養した際の培養上清中に分泌された組換えヒトフィブリノーゲンの性状を分析した。対照としてpフィブリノーゲンを用いて比較した。
【0075】
1)分子量と3鎖のアセンブリ
培養上清についてウェスタンブロットで分析した。これらの結果から、分泌産生された組換えヒトフィブリノーゲンは分子量約340kDaであり、Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の3鎖がアセンブリしていると推察された(図12、図13)。すなわち、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造であることが判明した。
【0076】
2)N型糖鎖の付加
培養上清についてグリコペプチダーゼF(GPF)を用いて37℃で17時間処理して組換えヒトフィブリノーゲンを消化し、ウェスタンブロットで分析して、各鎖のN型糖鎖付加について解析した。pフィブリノーゲンと比較し、ウェスタンブロットの結果を図14に、それをまとめた結果を表9に示す。
【0077】
【表9】
【0078】
3)交差架橋フィブリン形成能
培養上清を緩衝液[20mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、5mM EACA、1mM CaCl2]に交換したものを血液凝固第XIII因子(0.7U/mL)存在下または非存在下にトロンビン(3.3NIU)と37℃で反応させて、交差架橋フィブリン(フィブリン複合体)を形成させた。これを還元条件下でウェスタンブロッティングにより分析した。その結果、血液凝固第XIII因子存在下にトロンビンと反応させたときのみ、分子量約90kDaの高分子領域にγ2鎖からなる交差架橋フィブリンのバンドが検出された(図15)。
【0079】
実施例8 培養上清からの組換えヒトフィブリノーゲンの精製
実施例6の培養上清を回収し、緩衝液A[50mM HEPES(pH7.0)、5mM EDTA、5mM EACA]に透析後、同緩衝液で平衡化したCM−セファロースカラムに吸着させた。同緩衝液で洗浄後、0.1M NaClを含む同緩衝液で溶出させた。溶出液の各画分についてELISAを行い、ヒトフィブリノーゲンを含むことが確認された画分をプールし、ゲル濾過クロマト処理を行った。ゲル濾過にはSuperdex 200カラムを用いた。展開液は0.3M NaCl、0.025Mクエン酸ナトリウム、0.02M EACAを含む0.025Mトリス塩酸緩衝液(pH7.4)を用いた。流速は1mL/分とした。分子量約340kDaの画分を回収した。
【0080】
実施例9 精製フィブリノーゲンのフィブリン塊形成能
実施例8により精製した組換えヒトフィブリノーゲンを血液凝固第XIII因子(0.7U/mL)存在下でトロンビン(3.3NIU)と37℃で反応させた。その結果、フィブリン塊の形成が肉眼で観察された。また、当該塊は血栓溶解剤(プラスミン)を添加することにより分解・溶解した。
【0081】
実施例10 GAPプロモーターの制御下に組換えヒトフィブリノーゲンが発現される酵母発現系
1)Aα鎖発現ベクターの構築
GAPプロモーター遺伝子の取得
市販のGAPプロモーターを有する発現ベクターpGAPZαA(インビトロジェン社)を鋳型としてPCRによりGAPプロモーター遺伝子を増幅した。PCRプライマー用オリゴDNAは公知のpGAPZαAの配列(GENE、186巻、37〜44頁、1997年)を参考に合成した。すなわち、正方向プライマーはGAPプロモーターの5’末端BglIIサイトを除去し、代わりにEcoRIおよびPmaCIサイトを付加するように合成した。また、逆方向プライマーはpGAPZαAのGAPプロモーターの下流に位置するαファクタープレプロ配列の3’末端に相補的な配列とし、末端にEcoRIサイトを付加するように設計した。得られた約0.8kbのPCR産物をEcoRI消化し、市販のクローニングベクターpUC19の同サイトにクローニングした。このベクターをpIM108と命名した。
【0082】
塩基配列の決定
構築したベクターIM108のGAPプロモーターに相当する領域の塩基配列を決定した。シークエンスプライマー用オリゴDNAは公知のGAPプロモーターのcDNAの塩基配列(上記のGENE誌)を参考にして合成した。その他は実施例1の1)の方法に従った。その結果、両者は一致した。
【0083】
Aα鎖発現ベクターの構築
実施例1で構築したベクターpIM104をPmaCI+AsuII消化してmAOX2プロモーターを除いた断片にpIM108を同制限酵素で消化して得られたGAPプロモーター遺伝子を挿入し、Aα発現ベクターpIM109を構築した。pIM109はGAPプロモーター、Aα鎖cDNA、AOX1ターミネーター、ARG4マーカーを含んでなる(図16)。
【0084】
2)Bβ鎖発現ベクターの構築
実施例1で構築したベクターpNT40をPmaCI+AsuII消化してmAOX2プロモーターを除いた断片にpIM108を同制限酵素で消化して得られたGAPプロモーター遺伝子を挿入し、Bβ発現ベクターpIM110を構築した。pIM110はGAPプロモーター、Bβ鎖cDNA、AOX1ターミネーター、SUC2マーカーを含んでなる(図17)。
【0085】
3)γ鎖発現ベクターの構築
実施例1で構築したベクターpNT41をEcoRI+AsuII消化してmAOX2プロモーターを除いた断片にpIM108を同制限酵素で消化して得られたGAPプロモーター遺伝子を挿入し、γ発現ベクターpIM111を構築した。pIM111はGAPプロモーター、γ鎖cDNA、AOX1ターミネーター、HIS4マーカーを含んでなる(図17)。
【0086】
4)Bβ・γ2鎖を共発現させるベクターの構築
pIM110をEcoRI+ClaI消化して得られたBβ発現ユニットの両端を末端平滑化し、これをpIM111のEcoRI消化、末端平滑化ベクターと連結することにより、2鎖(Bβ・γ)発現ベクターpIM112を構築した。pIM112はGAPプロモーター制御のBβおよびγ鎖の発現ユニット、HIS4マーカーを含んでなる(図17)。
【0087】
5)酵母形質転換体の作製
Aα単鎖発現ベクターpIM109およびBβ・γ2鎖発現ベクターpIM112を各々の選択マーカー(相同領域)を利用して、ピキア酵母宿主PPF1株を順次形質転換することでフィブリノーゲン3鎖共発現株を作製した。作製した株をGAP111株(1コピー組込み体)およびGAP222株(2コピー組込み体)と命名した。
【0088】
6)分解抑制条件下での培養における組換えヒトフィブリノーゲンの産生
GAPプロモーターの制御下にヒトフィブリノーゲンを産生する形質転換体GAP111株をクエン酸緩衝液(pH5.5)を用いて調製した3×YP−3%の炭素源を含む培地を用いて、30℃で72時間まで培養した。炭素源はメタノール、デキストロース、グリセロールとした。培養上清を回収し、ウェスタンブロットで分析した。その結果、ヒトフィブリノーゲンの産生はいずれの培地でも確認されたが、メタノールを炭素源として用いたときに最も高いものであった(図18)。
【0089】
【発明の効果】
本発明によれば、血漿由来のフィブリノーゲンと同じ完全分子構造を有し、しかも生理活性も同一である組換えフィブリノーゲンを、安定的にかつ大量に製造することができる。また、血漿由来品とは異なり原料血漿に起因するウイルス汚染の危険性も生じない。従って、より安全性に優れたフィブリノーゲンをより安定的に臨床の場に供給することが可能となる。
【0090】
【配列表】
配列表配列番号1:フィブリノーゲンAα鎖のシグナル配列
配列表配列番号2:Aα鎖のシグナル配列をコードする遺伝子
配列表配列番号3:フィブリノーゲンBβ鎖のシグナル配列
配列表配列番号4:Bβ鎖のシグナル配列をコードする遺伝子
配列表配列番号5:フィブリノーゲンγ鎖のシグナル配列
配列表配列番号6:γ鎖のシグナル配列をコードする遺伝子
【0091】
【0092】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1〜4はmAOX2プロモーターの制御下で組換えフィブリノーゲンを発現させるベクターの構築手順を概略的に示したものである。そのうち、本図はAα鎖発現ベクターpIM104の構築手順を示す。
【図2】Bβ鎖発現ベクターpNT40の構築手順を示す。
【図3】γ鎖発現ベクターpNT41の構築手順を示す。
【図4】Aα・Bβ・γ3鎖共発現ベクターpNT43の構築手順を示す。
【図5】形質転換体の培養におけるpHの効果について、産生された組換えフィブリノーゲンをウェスタンブロット(還元条件、図6〜11も同じ)にて分析した結果を示したものである。符号1〜4はなりゆきpH(pH未調整)の場合を、符号5〜8はpH5.5に調整した場合を各々示す。また、符号1と5は培養24時間後のものを、符号2と6は同48時間後のものを、符号3と7は培養72時間後のものを、符号4と8は同96時間後のものを各々示す。
【図6】形質転換体の培養におけるキモスタチンの効果について、産生された組換えフィブリノーゲンをウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜4はキモスタチン無添加の場合を、符号5〜8はキモスタチンを培地に添加した場合を各々示す。また、符号1と5は培養24時間後のものを、符号2と6は同48時間後のものを、符号3と7は培養72時間後のものを、符号4と8は同96時間後のものを各々示す。
【図7】宿主株の種類と組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてをウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜4はGNT43株(野生株GTS115)の場合を、符号5〜8はSNT43株(プロテアーゼ欠損株SMD1168)の場合を各々示す。また、符号1と5は培養24時間後のものを、符号2と6は同48時間後のものを、符号3と7は培養72時間後のものを、符号4と8は同96時間後のものを各々示す。
【図8】培地のpHと組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜3はなりゆきpH(pH未調整)の場合を、符号4〜6はpH5.5に調整した場合を各々示す。また、符号1と4は培養24時間後のものを、符号2と5は同48時間後のものを、符号3と6は同72時間後のものを各々示す。
【図9】導入したベクターのコピー数と組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜3は1コピー株の場合を、符号4〜6は2コピー株の場合を、符号7〜9は3コピー株の場合を各々示す。また、符号1、4、7は培養24時間後のものを、符号2、5、8は同48時間後のものを、符号3、6、9は同72時間後のものを各々示す。
【図10】培地のメタノール濃度と組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜4はメタノール濃度2%の場合を、符号5〜8は同濃度3%の場合を各々示す。また、符号1と5は培養24時間後のものを、符号2と6は同48時間後のものを、符号3と7は同72時間後のものを、符号4と8は同96時間後のものを各々示す。
【図11】培地のYP濃度と組換えフィブリノーゲンの産生量との関係についてウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1〜3はYP濃度1×の場合を、符号4〜6はYP濃度3×の場合を、符号7〜9はYP濃度5×の場合を各々示す。また、符号1、4、7は培養24時間後のものを、符号2、5、8は同48時間後のものを、符号3、6、9は同72時間後のものを各々示す。
【図12】図12と13は各鎖の分子量と3鎖のアセンブリをウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。そのうち、図12は還元条件での分析結果を示す。符号1は組換えフィブリノーゲンを示す。また、左端の符号は各分子量マーカーに対応するバンドの位置とその分子量を示したものである。
【図13】非還元条件での分析結果を示す。符号1は組換えフィブリノーゲンを示す。また、左端の符号は図12に同じ。
【図14】N型糖鎖付加をウェスタンブロットにて分析した結果を示したものである。符号1と2は血漿由来フィブリノーゲンを、符号3と4は組換えフィブリノーゲンを各々示す。また、符号1と3はGPF未処理を、符号2と4はGPF処理後を各々示す。
【図15】交差架橋フィブリンの形成をウェスタンブロット(還元条件)にて分析した結果を示したものである。符号1〜3は血漿由来フィブリノーゲンを、符号4〜6は組換えフィブリノーゲンを各々示す。また、符号1と4は未処理を、符号2と5はトロンビン処理を、符号3と6はトロンビンおよび血液凝固第XIII因子処理を各々示す。
【図16】図16〜17はGAPプロモーターの制御下で組換えフィブリノーゲンを発現させるベクターの構築手順を概略的に示したものである。そのうち、本図はAα鎖発現ベクターpIM109の構築手順を示す。
【図17】Bβ鎖発現ベクターpIM110、γ鎖発現ベクターpIM111およびBβ・γ2鎖共発現ベクターpIM112の、各々の構築手順を示す。
【図18】GAPプロモーターの制御下で組換えフィブリノーゲンを発現させた場合のウェスタンブロット(還元条件)による分析結果を示したものである。符号1〜3は3×YP−3%メタノール培養系を、符号4〜6は3×YP−3%グルコース培養系を、符号7〜9は3×YP−3%グリセロール培養系を各々示す。また、符号1、4、7は培養24時間後、符号2、5、8は同48時間後、符号3、6、9は同72時間後のものを各々示す。
【0093】
【符号の説明】
M 分子量マーカー
S 血漿由来フィブリノーゲン
Aα Aα鎖に対応するバンド
Bβ Bβ鎖に対応するバンド
γ γ鎖に対応するバンド
γ2 交差架橋フィブリンに対応するバンド
Claims (5)
- 以下の工程を含む、(Aα−Bβ−γ)2の完全分子構造を有する組換えフィブリノーゲンの製造方法;
1)ピキア酵母での異種蛋白質の発現を制御可能なプロモーター、フィブリノーゲン由来のシグナル配列、フィブリノーゲンのAα鎖、Bβ鎖、γ鎖をコードする遺伝子を各々連結した発現用プラスミドを調製する工程、
2)当該プラスミドをピキア酵母に導入して形質転換体を調製する工程、
3)当該形質転換体をpH5〜8の条件下で培養してフィブリノーゲンを産生する工程、および
4)培養上清から回収されたフィブリノーゲンを精製する工程。 - 前記プロモーターがアルコールオキシダーゼプロモーターまたはGAPプロモーターである、請求項1記載の方法。
- 前記ピキア酵母がプロテアーゼ欠損株である請求項1記載の製造方法。
- 前記培養をセリンプロテアーゼ阻害剤の存在下で行う、請求項1記載の製造方法。
- 前記精製手段が陽イオン交換体処理、ゲル濾過処理である請求項1記載の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2002173520A JP2004016055A (ja) | 2002-06-14 | 2002-06-14 | 組換えフィブリノーゲンの製造方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2012118176A1 (ja) | 2011-03-03 | 2012-09-07 | 日本製粉株式会社 | フィブリノゲンを産生するトランスジェニックカイコ |
WO2015099124A1 (ja) | 2013-12-27 | 2015-07-02 | 一般社団法人 日本血液製剤機構 | 組換えフィブリノゲン高産生株及びその製造方法 |
-
2002
- 2002-06-14 JP JP2002173520A patent/JP2004016055A/ja active Pending
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US10208101B2 (en) | 2013-12-27 | 2019-02-19 | Japan Blood Products Organization | Recombinant fibrinogen high-production line and method for producing same |
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