以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は以下の実施形態に何ら限定されない。
本発明の製造方法は、一般式(1)で表される有機テルル化合物を用いてビニルモノマーをリビングラジカル重合し、ビニル重合体を合成する工程(A)と、前記工程(A)で得られたビニル重合体に還元剤を作用させる工程(B)と、前記工程(B)で得られたビニル重合体を洗浄する工程(C)とを備える、ビニル重合体の製造方法である。
前述の工程(A)は、一般式(1)で表される有機テルル化合物をリビングラジカル重合開始剤として用いるリビングラジカル重合であり、ビニルモノマーの種類に応じ反応促進、分子量の制御等の目的で、さらにアゾ系重合開始剤及び/又は一般式(2)で表される有機ジテルル化合物を加えて重合を行ってもよい。
具体的には、ビニルモノマーを、下記(a)〜(d)のいずれかを用いて重合し、ビニル重合体を製造する方法が挙げられる。
(a)一般式(1)で表される有機テルル化合物。
(b)一般式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤との混合物。
(c)一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(2)で表される有機ジテルル化合物との混合物。
(d)一般式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤と一般式(2)で表される有機ジテルル化合物との混合物。
〔式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基を表す。R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。R4は炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、置換アリール基、芳香族へテロ環基、アルコキシ基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基、シアノ基、アリル基又はプロパルギル基を表す。〕
〔式中、R1は、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基を表す。〕
R1で表される基は、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基であり、具体的には次の通りである。
炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、更に好ましくはメチル基又はエチル基である。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。
芳香族ヘテロ環基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基等を挙げることができる。
R2及びR3で表される基は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であり、各基は、具体的には次の通りである。
炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、更に好ましくはメチル基又はエチル基である。
R4で表される基は、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、置換アリール基、芳香族ヘテロ環基、アルコキシ基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基、シアノ基、アリル基又はプロパルギル基であり、具体的には次の通りである。
炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等を挙げることができる。好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、更に好ましくはメチル基又はエチル基である。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。好ましくはフェニル基である。
置換アリール基としては、置換基を有しているフェニル基、置換基を有しているナフチル基等を挙げることができる。上記置換基を有しているアリール基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、−COR41で示されるカルボニル含有基(R41は炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はアリーロキシ基)、スルホニル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。また、これらの置換基は、1個又は2個置換しているのが良い。
芳香族ヘテロ環基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基等を挙げることができる。
アルコキシ基としては、炭素数1〜8のアルキル基が酸素原子に結合した基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tet−ブトキシ基、ペンチロキシ基、ヘキシロキシ基、ヘプチロキシ基、オクチロキシ基等を挙げることができる。
アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等を挙げることができる。
アミド基としては、−CONR421R422(R421、R422は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又はアリール基)を挙げることがきる。
オキシカルボニル基としては、−COOR43(R43は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又はアリール基)で表される基が好ましく、例えばカルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、ter−ブトキシカルボニル基、n−ペントキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等を挙げることができる。好ましいオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基がよい。
アリル基としては、−CR441R442−CR443=CR444R445(R441、R442は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基、R443、R444、R445は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又はアリール基であり、それぞれの置換基が環状構造で繋がっていてもよい)等を挙げることができる。
プロパルギル基としては、−CR451R452-C≡CR453(R451、R452は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基、R453は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又はシリル基)等を挙げることができる。
一般式(1)で示される有機テルル化合物は、具体的には(メチルテラニルメチル)ベンゼン、(メチルテラニルメチル)ナフタレン、エチル−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネート、エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート、(2−トリメチルシロキシエチル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネート、(2−ヒドロキシエチル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネート、(3−トリメチルシリルプロパルギル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネート等を挙げることができる。
一般式(2)で示される有機ジテルル化合物は、具体的には、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジ−s−ブチルジテルリド、ジ−t−ブチルジテルリド、ジシクロブチルジテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス−(p−メトキシフェニル)ジテルリド、ビス−(p−アミノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−ニトロフェニル)ジテルリド、ビス−(p−シアノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリド、ジピリジルジテルリド等を挙げることができる。
アゾ系重合開始剤は、通常のラジカル重合で使用するアゾ系重合開始剤であれば特に制限なく使用することができる。例えば2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)、2,2’−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等を挙げることができる。
工程(A)で使用するビニルモノマーは、ラジカル重合可能なものであれば特に制限はないが、具体的には下記のビニルモノマーを挙げることができる。
また、本発明の製造方法で得られるビニル重合体は、下記ビニルモノマーを含む複数のビニルモノマーからなる共重合体であってもよい。なお、本発明において、「ビニルモノマー」とは分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有するモノマーのことをいう。「(メタ)アクリル」とは「アクリル及びメタクリルの少なくとも一方」をいい、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方」をいい、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方」をいう。
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレート。
(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環族アルキル基を有する(メタ)アクリレート。
(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香環基を有する(メタ)アクリレート。
(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基を有する(メタ)アクリレート。
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコール構造単位を有する(メタ)アクリレート。
スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、2−ヒドロキシメチルスチレン、1−ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー。
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸等の酸無水物を反応させたモノマー等のカルボキシル基を有するビニルモノマー。
スチレンスルホン酸、ジメチルプロピルスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スルホン酸エチル(メタ)アクリレート、スルホン酸エチル(メタ)アクリルアミド、ビニルスルホン酸等のスルホン酸基を有するビニルモノマー。
メタクリロイロキシエチルリン酸エステル等のリン酸基を有するビニルモノマー。
(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド。
N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の3級アミン含有不飽和モノマー。
N−2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド、N−メタクリロイルアミノエチル−N,N,N−ジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩基含有不飽和モノマー。
(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有不飽和モノマー。
2−ビニルチオフェン、N−メチル−2−ビニルピロール、1−ビニル−2−ピロリドン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等のヘテロ環含有不飽和モノマー。
N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−ε―カプトラクタム等のビニルアミド。
酢酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニルなどのカルボン酸ビニル。
1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等のα−オレフィン。
ブタジエン、イソプレン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン等のジエン類。
これらの中でも、好ましくは脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレート、脂環族アルキル基を有する(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリレート、芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリルアミド、3級アミン含有不飽和モノマー、ヘテロ環含有不飽和モノマー、ビニルアミドモノマーがよい。
工程(A)は、不活性ガスで置換した容器で、ビニルモノマーと一般式(1)で表される有機テルル化合物、ビニルモノマーの種類に応じ、反応促進、分子量の制御等の目的で、さらにアゾ系重合開始剤及び/又は一般式(2)で表される有機ジテルル化合物を混合する。このとき、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができる。好ましくは、アルゴン、窒素が良い。特に好ましくは、窒素が良い。
上記(a)、(b)、(c)及び(d)におけるビニルモノマーの使用量としては、目的とするビニル重合体の物性により適宜調節することができる。通常、一般式(1)で表される有機テルル化合物1molに対して、ビニルモノマーを5〜10,000molとすることができる。
一般式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤とを併用する場合、アゾ系重合開始剤の使用量としては、通常、一般式(1)で表される有機テルル化合物1molに対して、アゾ系重合開始剤を0.01〜10molとすることができる。
一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(2)で表される有機ジテルル化合物とを併用する場合、一般式(2)で表される有機ジテルル化合物の使用量としては、通常、一般式(1)で表される有機テルル化合物1molに対して、一般式(2)で表される有機ジテルル化合物を0.01〜100molとすることができる。
一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(2)で表される有機ジテルル化合物とアゾ系重合開始剤とを併用する場合、アゾ系重合開始剤の使用量としては、通常、一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(2)で表される有機ジテルル化合物の合計1molに対して、アゾ系重合開始剤を0.01〜100molとすることができる。
工程(A)は、無溶剤でも行うことができるが、ラジカル重合で一般に使用される溶媒(非プロトン性溶媒又はプロトン性溶媒)を使用し、上記混合物を撹拌して行われる。
使用できる非プロトン性溶媒としては、特に限定はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、ヘキサフルオロイソプロパオール、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
使用できるプロトン性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等を挙げることができる。
溶媒の使用量としては、適宜調節すればよく、例えば、ビニルモノマー1gに対して、通常0.01〜50mlの範囲であり、好ましくは0.05〜10mlの範囲であり、より好ましくは0.1〜1mlの範囲である。
反応温度及び反応時間は、目的とするビニル重合体の分子量又は分子量分布により適宜調節すればよく、通常、0℃〜150℃の範囲で、1分〜100時間撹拌する。
上記工程(A)により得られるビニル重合体の成長末端は、一般式(1)で表される有機テルル化合物由来の−TeR1(式中、R1は上記と同じであり、以下テルル基という。)の形態であることから、マクロリビングラジカル重合開始剤として用いることができる。すなわち、マクロリビングラジカル重合開始剤を用いてA−Bブロック共重合体、A−B−Aトリブロック共重合体、A−B−Cトリブロック共重合体等を製造することができる。
工程(A)の終了後、得られたビニル重合体の成長末端は、重合反応の終了後、ビニル重合体に還元剤を作用させる工程(B)により、ビニル重合体の成長末端のテルル基に作用し、テルル基が有機ジテルル化合物としてビニル重合体の成長末端より除去される。その後の工程(C)の洗浄により有機ジテルル化合物として高効率で回収することができる。
工程(B)は、工程(A)終了後の重合溶液からビニル重合体を単離し溶媒に溶解させて行っても、リビングラジカル重合後の溶液について行ってもよいが、工程短縮の観点から工程(A)終了後の重合溶液に還元剤を添加し、反応させることが好ましい。
工程(B)で用いることができる還元剤としては、ビニル重合体成長末端のテルル基に対し還元性を示す化合物で、一般に還元剤として知られるものを用いることができる。例えば、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物及び有機テルロール化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
水素化ホウ素化合物として、例えば、ボラン錯体(ボラン・ジメチルスフィド錯体、ボラン・テトラヒドロフラン錯体等)、ジボラン、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリ(sec−ブチル)水素化ホウ素リチウム、トリ(sec−ブチル)水素化ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラエチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム、水素化ホウ素トリメチルオクチルアンモニウム、水素化ホウ素トリメチルベンジルアンモニウム等を挙げることができる。これらの中でも、安全面や経済面、取扱い性等から、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウムが好ましい。
水素化アルミニウム化合物としては、例えば、水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等を挙げることができる。
有機テルロール化合物としては、例えば、下記一般式(3)で表される有機テルロール化合物等を挙げることができる。
〔式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基を表す。〕
R1で表される各基は、上記に示した通りである。
一般式(3)で表される有機テルロール化合物としては、メチルテルロール、エチルテルロール、n−プロピルテルロール、イソプロピルテルロール、n−ブチルテルロール、s−ブチルテルロール、t−ブチルテルロール、フェニルテルロール、p−メトキシフェニルテルロール、p−アミノフェニルテルロール、p−ニトロフェニルテルロール、p−シアノフェニルテルロール、p−スルホニルフェニルテルロール、ナフチルテルロール、ピリジルテルロール等を挙げることができる。
一般式(3)で表される有機テルロール化合物は、一般式(2)で表される有機ジテルル化合物を水素化ホウ素化合物等により還元することにより製造することができる。
一般式(3)で表される有機テルロール化合物は反応系中において生成させてもよく、例えば、下記一般式(4)で表されるテルル化合物とアルコールとの混合物、一般式(2)で表される有機ジテルル化合物と水素化ホウ素化合物との混合物等を用いることで反応系中において、一般式(3)で表される有機テルロール化合物を発生させる方法がある。
〔式中、R1は炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基を表す。Yは脱離基を表す。〕
R1で表される各基は、上記に示した通りである。
Yで表される脱離基は、重合体溶液中で脱離して一般式(3)で表される有機テルロール化合物を生成し得るものであればよく、例えばトリメチルシリル(TMS)基が挙げられ、メタノール等のアルコールとの反応によりTMS基が脱離して一般式(3)で表される有機テルロール化合物を生成することができる。
一般式(4)で表される有機テルル化合物としては、例えば、メチル−トリメチルシリルテルリド、エチル−トリメチルシリルテルリド、n−プロピル−トリメチルシリルテルリド、イソプロピル−トリメチルシリルテルリド、n−ブチル−トリメチルシリルテルリド、s−ブチル−トリメチルシリルテルリド、t−ブチル−トリメチルシリルテルリド、フェニル−トリメチルシリルテルリド、p−メトキシフェニル−トリメチルシリルテルリド、p−アミノフェニル−トリメチルシリルテルリド、p−ニトロフェニル−トリメチルシリルテルリド、p−シアノフェニル−トリメチルシリルテルリド、p−スルホニルフェニル−トリメチルシリルテルリド、ナフチル−トリメチルシリルテルリド、ピリジル−トリメチルシリルテルリド等を挙げることができる。
一般式(4)で表されるテルル化合物は、一般式(2)で表される有機ジテルル化合物に還元剤を反応させ、続いてシリル化剤と反応させることにより製造することができる。
一般式(4)で表されるテルル化合物を製造するために用いる還元剤としては、リチウム金属、ナトリウム金属、カリウム金属及びこれらの金属のナフタレニド、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化シアノホウ素ナトリウム等の金属ヒドリド等を用いることができる。この中でも水素化トリエチルホウ素リチウムが好ましい。
シリル化剤としては、トリメチルシリルクロライド、トリメチルシリルブロマイド、トリエチルシリルブロマイド等が挙げられるが、好ましくはトリメチルシリルブロマイドがよい。
上記一般式(4)で表されるテルル化合物を製造する方法としては、具体的には下記である。
一般式(2)で表される有機ジテルル化合物を溶媒に溶解させる。使用できる溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)等の極性溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、ヘキサン、ジメトキシエタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。好ましくは、THFがよい。溶媒の使用量としては適宜調整すればよいが、通常、一般式(2)で表される有機ジテルル化合物1gに対して1〜500mlがよく、好ましくは10〜100mlがよい。
上記溶液に還元剤をゆっくりと滴下し、攪拌する。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分〜24時間がよく、好ましくは10分〜3時間がよい。反応温度としては0〜80℃がよく、好ましくは10〜50℃がよい。
次に、この反応液にシリル化剤を加え、攪拌する。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、5分〜24時間がよく、好ましくは10分〜3時間がよい。反応温度としては0〜80℃がよく、好ましくは10〜50℃がよい。
反応終了後、溶媒を濃縮し、目的物を単離精製する。溶媒濃縮の前に、適宜、水、食塩水等にて洗浄を行ってもよい。精製方法としては、化合物により適宜選択できるが、通常、減圧蒸留や再結晶等が好ましい。
工程(B)における溶媒の使用量としては、適宜調節すればよく、例えば、ビニル重合体1gに対して、通常0.01〜100mlの範囲であり、好ましくは0.1〜10mlがよい。
工程(B)の温度及び時間は、通常、0〜100℃の範囲で、5分〜24時間撹拌する。好ましくは、20〜80℃で、10分〜3時間がよい。
工程(B)における還元剤の使用量は、一般式(1)で表される有機テルル化合物1molに対して0.5〜10.0molとすることができる。好ましくは、1.0〜3.0molがよい。
本発明の製造方法は、工程(B)で得られたビニル重合体を洗浄する工程(C)を備える。前記洗浄としては、公知の洗浄方法を用いることができるが、分液洗浄であることが好ましく、工程(B)終了後の溶液からビニル重合体を単離し適当な溶媒に溶解させた溶液、又は工程(B)終了後の溶液を用いて行う。
上記分液洗浄の具体例としては、ビニル重合体を溶解した溶媒と、ビニル重合体を溶解する溶媒と相分離可能な溶媒とを混合後、分離した溶媒を抜き取る。この操作によりビニル重合体中から有機ジテルル化合物を除去することが可能であり、分液洗浄を繰り返すことで一層の効果がある。また、有機ジテルル化合物の除去効率の観点から、ビニル重合体を溶解する溶媒と相分離可能な溶媒は、ビニル重合体を溶解する溶媒よりも疎水性であることが好ましい。分液洗浄後、それぞれの相の溶媒を減圧下除去することで、ビニル重合体と有機ジテルル化合物を分離し、回収することができる。
上述の分液操作の溶媒は、ビニル重合体を溶解すことができる非プロトン性溶媒又はプロトン性溶媒であればよい。
使用できる非プロトン性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
使用できるプロトン性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール、アセトニトリル等を挙げることができる。
上記溶媒を混合して用いてもよく、例えば、溶媒相を親水性とするため、メタノール、エタノール等の低級アルコール、又はアセトニトリル等を含む混合溶媒を用いることができる。低級アルコール、アセトニトリル等を混合する場合、非プロトン性溶媒、プロトン性溶媒又はその混合溶媒に対して、通常、通常0.1〜10倍量添加するが、好ましくは0.5〜5倍量である。
ビニル重合体を溶解する溶媒と相分離可能な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、四塩化炭素等が挙げられる。好ましくは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエンであり、更に好ましくはヘプタンが良い。
上記分液洗浄において、相分離可能な溶媒は、重合体を溶解する溶媒相に対して、通常、0.1〜10倍量添加するが、好ましくは0.5〜5倍量である。分液洗浄は、通常、10〜60℃で行うが、好ましくは室温が良い。
回収したテルル化合物は高純度の有機ジテルル化合物であることから、例えば、特開2004−323437号公報の方法を用いて、容易に有機テルル化合物(リビングラジカル重合開始剤)として再生することもできる。
本発明の製造方法で得られるビニル重合体の分子量は、反応時間及び有機テルル化合物の量により適宜調整可能であるが、数平均分子量(Mn)が500〜1,000,000のビニル重合体を得ることができる。特にMnが1,000〜50,000のビニル重合体を得るのに好適である。Mnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)法により測定することができる。
本発明の製造方法で得られるビニル重合体の分子量分布(PDI)は1.5以下に制御することができる。分子量分布(PDI)とは、(ビニル重合体の重量平均分子量(Mw))/(ビニル重合体の数平均分子量(Mn))によって求められるものであり、PDIは小さいほど分子量分布の幅が狭い、分子量のそろったビニル重合体となり、その値が1.0のとき最も分子量分布の幅が狭い。反対に、PDIが大きいほど設計したビニル重合体の分子量に比べて、分子量が小さいものや、分子量の大きいものが含まれることになる。
本発明の製造方法で得られるビニル重合体は、テルル含有量が少ないことから、例えば光学用途、医療用途、電気・電子用途、エネルギー材料用途等で好適に用いることができる。
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
<還元剤の合成>
(合成例1)
ブチル−トリメチルシリルテルリドを、以下の方法で合成した。
300mLの3つ口ガラス容器にジブチルジテルリド(3.8g、10.2mmol)とTHF(23mL)を加えたのち、水素化トリエチルホウ素リチウムTHF溶液(23.5mL、23.5mmol)を加えた。この溶液にトリメチルシリルブロマイド(8.1mL、61.2mmol)を加え、室温で5分間攪拌した。THFを減圧にて留去したのちにヘキサンを加えて、生じた固体をろ過で取り除いた。ろ液からヘキサンを減圧にて留去したのち、減圧蒸留して黄色液体を得た(4.2g、収率80%)。1H−NMRにより目的物であることを確認した。
(実施例1〜2及び比較例1)
以下の表1に示すように、工程(A)、工程(B)、及び工程(C)を行った。
表1に示す、有機テルル化合物、有機ジテルル化合物、アゾ系重合開始剤、ビニルモノマー及び重合溶媒は、以下の通りである。
BTEE:エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート
DBDT:ジブチルジテルリド
AIBN:2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)
DMAEMA:メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル
PMA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
表1に示す化合物#1)は、以下の通りである。
#1)ブチル−トリメチルシリルテルリド
<工程(A)>
表1に示す有機テルル化合物、アゾ系重合開始剤、ビニルモノマー、及び重合溶媒を用いて、表1に示す重合条件でビニルモノマーをリビングラジカル重合した。表1において、各当量は、有機テルル化合物に対する当量である。
<工程(B)>
重合終了後の溶液に、表1に示す処理剤を添加し、表1に示す処理条件で処理した。実施例1においては、還元作用を示す化合物#1)を処理剤として用いた。この場合、保護基の脱離剤としてメタノールを用いた。実施例2においては、還元作用を示すNaBH4を処理剤として用いた。比較例1においては、実質的に還元作用を示さないチオフェノールを処理剤として用いた。
<工程(C)>
表1に示す洗浄溶媒を用いて、工程(B)で得られたビニル重合体を分液洗浄した。回収されたテルル化合物の回収率及び純度を表1に示している。回収率は、使用したテルル化合物(有機テルル化合物、有機ジテルル化合物及びテルル系還元剤)の総量に対する回収したテルル化合物の割合を示している。純度は、回収したテルル化合物中の有機ジテルル化合物の純度を示している。
数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)は、GPC[Shodex GPC−104(カラム:Shodex LF−604x2)、Shodex GPC−101(カラム:Shodex LF804・K−805F・K−800RL)]を用いて、ポリスチレン標準サンプル(東ソー社製 TSK Standard)の分子量を基準に求めた。
代表例として、実施例1を下記に具体的に示す。
ガラス管に、BTEE(91μL、0.4mmol)、DMAEMA(2.2mL、12.8mmol)、DBDT(74mg、0.2mmol)、AIBN(13.2mg、0.08mmol)、PMA(2mL)を加えた。この溶液を窒素雰囲気で60℃にて14時間攪拌し、有機テルル基を末端にもつポリ2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートを得た。GPC分析(ポリスチレン標準)よりMn=4700、Mw/Mn=1.29であった(2.0g、収率97%)。
得られたポリマーに、ブチル−トリメチルシリルテルリド(113mg、0.44mmol)、メタノール(180μL、4.4mmol)を加え、室温(20℃)で2時間攪拌した。
この溶液にヘプタン(12mL)、メタノール(3mL)を加え、撹拌した。二相が分離するまで静置した後、ヘプタン相を取り除いた。この分液洗浄操作を7回繰り返した。集めたヘプタン相から溶媒を留去してオレンジ色の固体を得た。1H−NMRよりジブチルジテルリドであることを確認し、純度は96%であった。重量測定よりテルル化合物の回収率は85%であった。
一方、分離したメタノール相から溶媒を留去して、ポリ2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートを回収した。GPC分析(ポリスチレン標準)よりMn=4600、Mw/Mn(PDI)=1.28であった。重量測定よりポリマーの回収率は98%であった。
表1に示すように、本発明に従う実施例1及び2においては、使用した有機テルル化合物を高い回収率で有機ジテルル化合物として回収できることがわかる。