JP6619282B2 - 鋼材の非破壊検査装置及び鋼材の非破壊検査方法 - Google Patents

鋼材の非破壊検査装置及び鋼材の非破壊検査方法 Download PDF

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Description

本発明は、鋼材の非破壊検査装置及び鋼材の非破壊検査方法に関する。
数十年前の日本における高度経済成長期に築造された社会インフラの多くは、その設計寿命に近づいている。例えば、橋梁については、1970年代に竣工されたものの多くが、その設計寿命である50年に近づきつつある。また、これまで、鋼製と比較して長寿命であると考えられてきた鉄筋コンクリート(以下、「RC」ともいう)構造であっても、その劣化の問題が顕在化してきた。例えば、鉄筋の腐食膨張による表面コンクリートの落下のリスクは、既に現実のものとなっている。従って、そのような社会インフラの構造又は材質の劣化を早期に把握し、対策を取ることは、現代社会において急務の課題であるといえる。
一つの具体例として、RC構造を取り上げる。メンテナンスフリーとまで言われてきたRC構造ではあるが、コンクリート内部の鉄筋は、たとえ外観上、コンクリートにクラック及び剥離などが見られない状態であっても、塩害等の腐食によって劣化が生じ得る。また、腐食に限らず、何らかの原因による応力集中等によって鉄筋が損傷を受ける場合も考えられる。しかしながら、従来のコンクリート内部に配置された鋼材の腐食等の評価は、クラック、剥離、すり減り、又は侵食の存在など、コンクリートの外観における変化という、いわば間接的な調査に頼らざるを得なかった。そのため、外観の変化が視認されない、視認し難い、又は現れない状態であっても、非破壊であるとともに確度の高い検査装置又は検査方法を早急に実現することが、産業界のみならず、社会全体として強く求められている。
なお、特許文献1、及び非特許文献1及び2においては、一般的な磁性体に関する測定方法及び装置が開示されている。しかしながら、コンクリートに代表されるマトリクスの内部に配置された鋼材のように、被測定対象(鋼材)が、それとは異質な固形材料(マトリクス)の中に埋め込まれている状況において、その被測定対象のみを確度高く測定する測定装置及びその測定方法の開示ないし示唆はされていない。
国際公開第WO2007/055057号パンフレット
Hisato Yamada et al.、「Magnetic Sensing via Ultrasonic Excitation」、Review of Scientific Instruments、2013、84、044903、pp1−5 Hisato Yamada et al.、「Magnetic hysteresis and magnetic flux patterns measured by acoustically stimulated electromagnetic response in a steel plate」、Japanese Journal of Applied Physics、2015、54、086601、pp1−4
言うまでもなく、社会インフラの保全と整備には、極めて膨大な予算と時間を必要とする。従って、限られた予算と時間の中で各種インフラの維持及び補修を行っていくためには、クラック又は剥離などが確認された後に補修措置を講じる事後的な保全では間に合わないため、予防的な保全及び補修を行うことが望ましい。
しかしながら、上述のとおり、クラック及び剥離などが無い状態で、鉄に代表される鋼材の腐食又は損傷を、非破壊であって、且ついわば直接的に、測定ないし評価する手段の存在は皆無であった。
本願発明者の一部は、特許文献1並びに非特許文献1及び2に示すように、既に音響誘起電磁信号(「音響誘起電磁波」ともいう)を利用した非破壊の測定方法を創出した。しかしながら、その音響誘起電磁信号を利用した測定装置又はその方法を、そのままRC構造の鋼材に採用したとしても、確度の高い測定を実現することが困難であることが分かった。
例えば、コンクリートなどのマトリクス内部に配置された鋼材という特殊な被測定対象に対しては、その特殊な被測定対象の置かれた状況、材質等の違いを考慮する必要がある。そこで、本願発明者が鋭意研究と分析を行い、試行錯誤を重ねた結果、被測定対象が異質の固形材料の中に埋め込まれている状況を考慮したある特徴的な工夫及び方法を見出した。その結果、マトリクスの存在によって生じ得る種々のノイズと測定対象信号とを時間的に分離し、非破壊であって確度の高い検査装置又は検査方法を実現し得ることが分かった。本願発明者らが得た前述の知見は、例えば、RC構造の劣化過程において、外観には現れないが、マトリクス内部の鋼材の腐食が進行しつつある「進展期」と呼ばれる時期の鋼材の直接的な測定を、非破壊に実現し得ることにつながる。本発明は、上述の視点に基づいて創出された。
本発明の1つの鋼材の非破壊検査装置は、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材に、音波パルスを照射する音波発生部と、その音波パルスの照射時に、前述マトリクスとその音波発生部との間に挟まれる位置に設けられる音波媒体と、その音波パルスによって前述の鋼材から発生する電磁信号(「電磁波」ともいう。以下、同じ)を受信する受信部と、を備えている。加えて、この非破壊検査装置は、前述音波発生部からの前述音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズ(「電磁波ノイズ」ともいう。以下、同じ)の持続時間(t)と、その音波発生部から前述鋼材までの距離をその音波パルスが伝搬する時間(t)と、前述音波媒体と前述マトリクスとの界面からその音波発生部までの距離(L)と、その音波媒体内の音速(V)と、の関係が、次の式(1)を満たす。
Figure 0006619282
この非破壊検査装置によれば、上述の音波発生部からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t)と、その音波発生部から被測定対象である鋼材までの距離をその音波パルスが伝搬する時間(t)と、上述の音波媒体と上述のマトリクスとの界面からその音波発生部までの距離(L)と、その音波媒体内の音速(V)との関係が、上述の式(1)の関係を満たすように工夫されている。その結果、上述のマトリクスの内部に配置された鋼材のように、被測定対象(鋼材)が、それとは異質な固形材料(マトリクス)の中に埋め込まれている状況であってもその鋼材から発生する電磁信号(測定対象信号)を確度高く測定することができる。なお、本願における「電磁ノイズ」という用語は、本願発明者の一部が既に特許権を取得している、特許第4919967号において開示されている「電磁波ノイズ」を測定対象信号(本願における「電磁信号」)とより明確に区別するために採用した、技術用語である。
なお、上述の式(1)における、左辺(2×L)/Vは、音波発生部からの音波パルスが、上述の音波媒体と上述のマトリクスとの界面に反射して音波発生部まで戻るまでの時間を意味する。式(1)の左辺と中辺との関係は、この反射(「界面エコー」ともいう)が音波発生部まで戻ることによって新たに発生する電磁ノイズを避けることを意味する。また、式(1)の中辺と右辺との関係は、音波発生部からの前述の音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t)を避けることを意味する。従って、この非破壊検査装置によれば、上述のいずれのノイズも避けることができ、鋼材からの電磁信号を確度高く取得し得る。
また、本発明の1つの鋼材の非破壊検査方法は、音波発生部から、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材に、そのマトリクスとその音波発生部との間に挟まれる位置に音波媒体を設けた状態で、音波パルスを照射する音波発生工程と、その音波パルスによって前述の鋼材から発生する電磁信号を受信する受信工程と、を含む。加えて、この非破壊検査方法は、 前述の音波発生部からの前述の音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t)と、その音波発生部から前述の鋼材までの距離をその音波パルスが伝搬する時間(t)と、前述の音波媒体と前述のマトリクスとの界面からその音波発生部までの距離(L)と、その音波媒体内の音速(V)と、の関係が、次の式(1)を満たす。
Figure 0006619282
この非破壊検査方法によれば、上述の音波発生部からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t)と、その音波発生部から上述の鋼材までの距離をその音波パルスが伝搬する時間(t)と、その音波媒体と上述のマトリクスとの界面からその音波発生部までの距離(L)と、その音波媒体内の音速(V)と、の関係が、上述の式(1)を満たすように工夫されている。その結果、上述のマトリクスの内部に配置された鋼材のように、被測定対象(鋼材)が、それとは異質な固形材料(マトリクス)の中に埋め込まれている状況であっても、電磁ノイズからの影響を避けた状態で、その鋼材から発生する電磁信号(測定対象信号)を確度高く測定することができる。
なお、本願においては、「マトリクス」とは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも一種類を意味する。また、本願における「鋼材」とは、鉄、鋼、及び鋳鉄の群から選択される少なくとも一種類を意味する。加えて、本願における「鋼」には、ステンレス鋼が含まれる。また、本願における「検査」は、「測定」の意味を含む。
本発明の1つの非破壊検査装置又は1つの非破壊検査方法によれば、マトリクスの内部に配置された鋼材のように、被測定対象(鋼材)が、それとは異質な固形材料(マトリクス)の中に埋め込まれている状況であっても、電磁ノイズからの影響を避けた状態で、その鋼材から発生する電磁信号(測定対象信号)を確度高く測定することができる。
第1の実施形態の、鋼材の非破壊検査装置の構成例を示す概要図である。 第1の実施形態の、鋼材の非破壊検査装置を用いた鋼材の検査結果の一例を示すグラフである。 比較例としての、鋼材の非破壊検査装置を用いた鋼材の検査結果の一例を示すグラフである。 その他の実施形態における、非破壊検査装置の構成例を示す概要図である。
本発明の実施形態として、非破壊検査装置及び非破壊検査方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
<第1の実施形態>
1.非破壊検査装置100の構成及び非破壊検査方法の例
本実施形態の非破壊検査装置100及び非破壊検査方法について説明する。図1は、本実施形態の鋼材の非破壊検査装置100の構成例を示す概要側面図である。なお、本実施形態においては、パルス発生部(例えば、市販のパルス発生器)12によって所望のパルスが与えられるように構成されている。また、受信部20によって受信された電磁信号を増幅する増幅回路22が設けられている。加えて、例えば、パルス発生部12と市販のオシロスコープ50とを同期させるために、パルス発生部12とオシロスコープ50とは接続されている。また、本実施形態においては、市販のコンピュータ60を非破壊検査装置100に接続することによって、音波(照射時間、波形、照射強度、パルスの幅など)の制御、及び受信部20によって受信される電磁信号の分析と表示が行われる。
また、図1において、A(A及びA)は、音波発生部10から照射された音波パルスを示し、Eは、音波発生部10から照射された音波パルスが、音波媒体30とマトリクス80との界面に反射した反射波を示している。また、図1におけるSは、音波発生部10から照射された音波パルスによって鋼材90から発生する電磁信号(測定対象信号)を示している。さらに、Aは、音波媒体30内を伝搬する音波パルスを示し、Aは、マトリクス80内を伝搬する音波パルスを示している。なお、音波媒体30内を伝搬する音波(A)の音速はVで表され、マトリクス80内を伝搬する音波(A)の音速はVで表される。
本実施形態の非破壊検査装置100は、以下の(1−1)〜(1−3)に示す構成を少なくとも備えている。
(1−1)被測定対象である鋼材90に向けて、音波パルスを照射する音波発生部10
(1−2)少なくとも音波パルスの照射時に、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクス80と音波発生部10との間に挟まれる位置に設けられる音波媒体30
(1−3)音波パルスの照射によって鋼材90から発生する電磁信号を受信する受信部20
また、本実施形態の非破壊検査方法は、以下の(2−1)〜(2−2)に示す工程を少なくとも含む。
(2−1)マトリクス80の内部に設けられた、被測定対象である鋼材90に向けて、マトリクス80と音波発生部10との間に挟まれる位置に音波媒体30を設けた状態で、音波パルスを照射する音波発生工程
(2−2)音波発生工程によって照射された音波パルスによって、鋼材90から発生する電磁信号を受信する受信工程
なお、上述の非破壊検査方法における音波発生部10は、音波発生源と言い換えることができる。
なお、被測定対象である鋼材90が、上述のマトリクス80内に存在している状態であって、仮にクラック、剥離、すり減り、又は侵食等がないためにマトリクス80によって外部から視認されない状態であっても、鋼材90の状態を非破壊に測定することができることは、非破壊検査装置100の長所の一つである。
また、本実施形態の被測定対象は、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材90である。なお、本実施形態においては、セメントペースト、モルタル、又はコンクリートがそれぞれ含有し得る成分(例えば、水、セメント、骨材、砂(砂利)など)の比率が変動した場合であっても、本実施形態と効果は実質的に損なわれないことも、非破壊検査装置100の長所の一つである。
また、本実施形態の非破壊検査装置100及び非破壊検査方法については、上述の各構成又は各工程に加えて、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t)と、音波発生部10から鋼材90までの距離をその音波パルス(図1のA及びA)が伝搬する時間(t)と、音波媒体30とマトリクス80との界面から音波発生部10までの距離(L)と、音波媒体30内の音波パルス(図1のA)音速(V)と、の関係が、次の式(1)を満たすように、音波媒体30の厚さ(距離,L)が設定されている。
Figure 0006619282
ここで、本実施形態における、音波発生部10の例は、振動子(代表的には、超音波振動子)である。また、図1におけるパルス発生部12の代わりに、ファンクションジェネレータが採用され得る。また、図1における受信部20の例はコイルであるが、受信部20は、コイルに限定されない。例えば、コイルの代わりに、電磁波を捕捉するアンテナ又は電磁波に感応するセンサー(例えば、磁気センサー)を採用し得る。また、音波媒体30は、上記の式(1)を満たす部材であれば限定されない。音波媒体30の材質が、音波減衰が少なく、かつマトリクス80の音響インピーダンスと同程度である材質が、好適な一態様である。音響インピーダンスと同程度である材質を採用されていることは、音波(音波パルス)の反射を抑制し得るためである。なお、前述の観点から言えば、音波媒体30の材質を、マトリクス80の材質と同種の材質にすることが、好適な一態様である。その他の材質の例は、ガラス、アクリル、その他の樹脂又はプラスチックである。また、マトリクス80内の音波(音波パルス)の伝搬を容易にするために、比較的低い周波数(例えば、50Hz以上1MHz以下、より好適には、50kHz以上500kHz以下)の音波パルスが採用されることが好ましい。
2.非破壊検査装置100による検査結果の例
次に、非破壊検査装置100による検査結果について説明する。図2は、本実施形態の非破壊検査装置100を用いた鋼材90の検査結果の一例を示すグラフである。また、図3は、比較例としての、非破壊検査装置100を用いた鋼材90の検査結果の一例を示すグラフである。
なお、図2(本実施形態の結果)と図3(比較例の結果)との違いは、構成部材の観点から言えば、非破壊検査装置100の音波発生部10と鋼材との間に介在する円柱型の音波媒体30の厚さのみである。別の表現を用いれば、その違いは、音波媒体30内を伝搬する音波パルスの伝搬時間のみである。
より具体的には、図2の場合、図1の音波媒体30の材質がモルタルであり、その厚さ(距離)Lは100mmである。また、マトリクス80の材質はモルタルであり、マトリクス80の表面から鋼材90までの距離(図1のd)は42mmである。一方、図3の場合、図1の音波媒体30の材質は図2の例と同じであるが、その厚さ(距離)Lは40mmである。また、マトリクス80の材質とマトリクス80の表面から鋼材90までの距離(図1のd)は、図2の例と同じである。また、いずれの場合も、鋼材90の材質は、円柱状の鉄(いわゆる、鉄筋)であり、その径は16mmである。なお、マトリクス80であるモルタル内の音速は約4000m/秒であると考えられる。
また、図2及び図3の例においては、マトリクス80内の音波(音波パルス)の伝搬を容易にするために、比較的低い周波数(500kHz)の音波が採用された。
図2及び図3に示すように、音波媒体30の厚さ(距離)を変動させるだけでも有意の差が得られることが明らかとなったことは、特筆すべきである。
具体的には、まず比較例(図3)の場合、音波発生部10から照射された音波パルスが音波媒体30とマトリクス80との界面に反射して音波発生部10に戻るまでに、約20μ秒を要すると考えられる。一方、音波発生部10から鋼材90(鉄筋)までの距離は約82mmであることから、測定対象信号(電磁信号)は、音波パルスが発生してから約21μ秒後に発生すると考えられる。
従って、図3(上図)のY’の領域において観測される信号が、界面エコーに対応する。また、図3(下図)のX’の領域は、界面エコーによって生じる音波発生部10からの電磁ノイズと鋼材90からの測定対象信号の両方が含まれていると考えられる。これらの結果から、比較例(図3)では、鋼材90からの測定対象信号のみを区別して観測することが出来ないことがわかる。なお、電磁ノイズ又は電磁信号は、光速で伝わるため、それらが生じる時刻と受信部で観察される時刻とは、実質的に同時と考えてよい。
次に、本実施形態の検査結果の例(図2)においては、音波発生部10から照射された音波パルスが音波媒体30とマトリクス80との界面に反射して音波発生部10に戻るまでに、約50μ秒を要すると考えられる。一方、音波発生部10から鋼材90(鉄筋)までの距離は約142mmであることから、測定対象信号(電磁信号)は、音波パルスが発生してから約36μ秒後に発生すると考えられる。
従って、図2(上図)のYの領域において観測される信号が、界面エコーに対応する。また、図2(下図)のX領域において観測される信号は、明らかにYの領域とは発生時間が異なることから、鋼材90において発生した測定対象信号(電磁信号)であることが分かる。これらの結果から、界面エコーによって生じる音波発生部10からの電磁ノイズと区別して、鋼材90からの測定対象信号(電磁信号)のみを観察することが可能になった。
加えて、図2及び図3のいずれの場合であっても、音波媒体30を設けているために、測定対象信号(電磁信号)X,X’は、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズ、換言すれば、図2及び図3において時間の経過とともに減衰する様子が観察される、いわば「尾を引く」電磁ノイズとは時間的に分離されている。従って、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t)の経過後に、測定対象信号(電磁信号)が観察されるように、音波媒体30の厚さ(距離)Lが設定されることが好ましい。
また、非破壊検査装置100の構成のうち、仮に音波媒体30を省いた構成を採用した場合は、音波パルスの発生から11μ秒後に鋼材90からの電磁信号が発生することになるが、図2又は図3から明らかなように、当該時刻において音波発生部10からの電磁ノイズが持続しているため、測定対象信号(電磁信号)が、音波発生部10からの音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの中に埋れてしまうことになる。従って、非破壊検査装置100が音波媒体30を備えることは、測定対象信号(電磁信号)を、様々なノイズ成分から、確度高く、時間的に分離することを実現し得ることに貢献する。
ところで、現時点における本発明者らの分析によれば、図2及び図3に示された測定対象信号である電磁信号は、鋼材90の電磁気的及び/又は力学的特性を反映していると考えられる。これらの情報は、被測定対象である鋼材90が健全であるか、あるいは劣化又は損傷しているかを示す有力な指標であると考えられる。
図2及び図3の結果から、本実施形態の非破壊検査装置100、及び本実施形態の非破壊検査方法によれば、仮に、鋼材90がマトリクス80内に埋まっている状態であって、かつ、外部から視認することが出来ない又は困難な状態であっても、いわば直接的に、かつ非破壊に、鋼材90の状態を検査することが可能であることが明らかとなった。
なお、図2及び図3の例においては、マトリクス80がモルタルであったが、マトリクス80の例は、モルタルに限定されない。マトリクス80が、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種であれば、図2の結果と同様の結果を得ることが可能である。
<その他の実施形態>
図4は、本実施形態における非破壊検査装置100を用いた非破壊検査方法の別の一例を示している。
この例においては、被測定対象である、断面が略円形であって柱状の鋼材90が、図4の紙面に直交する方向に設けられている。また、音波照射面と同一側に受信部20がある図1の構成とは異なり、図4においては、受信部20がマトリクス80の端部側壁近くに配置されている。また、この例のマトリクス80はコンクリートである。
図4に示す非破壊検査装置100の各構成の配置が採用された場合であっても、第1の実施形態の非破壊検査方法を採用することによって、上述の図2の結果と同様の結果を得ることができる。従って、非破壊検査装置100においては、受信部20が配置される位置は特に限定されない。
なお、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
本発明の非破壊検査装置、及び非破壊検査方法は、現在及び将来の鋼材、特に、マトリクス内に埋まっている鋼材の非破壊検査を活用する各産業ないし事業において極めて有用である。
10 音波発生部
12 パルス発生部
20 受信部
22 増幅回路
30 音波媒体
50 オシロスコープ
60 コンピュータ
80 マトリクス
90 鋼材
100 非破壊検査装置

Claims (4)

  1. セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材に、音波パルスを照射する音波発生部と、
    前記音波パルスの照射時に、前記マトリクスと前記音波発生部との間に挟まれる位置に設けられる音波媒体と、
    前記音波パルスによって前記鋼材から発生する電磁信号を受信する受信部と、を備え、
    前記音波発生部からの前記音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t)と、前記音波発生部から前記鋼材までの距離を前記音波パルスが伝搬する時間(t)と、前記音波媒体と前記マトリクスとの界面から前記音波発生部までの距離(L)と、前記音波媒体内の音速(V)と、の関係が、次の式(1)を満たす、
    鋼材の非破壊検査装置。
    Figure 0006619282
  2. 前記受信部によって受信される前記電磁信号に基づいて、少なくとも前記鋼材が有する磁気特性を評価する測定部と、をさらに備える
    請求項1に記載の鋼材の非破壊検査装置。
  3. 前記音波媒体の材質が、前記マトリクスの材質と同種である、
    請求項1又は請求項2に記載の鋼材の非破壊検査装置。
  4. 音波発生部から、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの群から選択される少なくとも1種のマトリクスの内部に設けられた鋼材に、前記マトリクスと前記音波発生部との間に挟まれる位置に音波媒体を設けた状態で、音波パルスを照射する音波発生工程と、
    前記音波パルスによって前記鋼材から発生する電磁信号を受信する受信工程と、を含み、
    前記音波発生部からの前記音波パルスの発生時に生じる電磁ノイズの持続時間(t)と、前記音波発生部から前記鋼材までの距離を前記音波パルスが伝搬する時間(t)と、前記音波媒体と前記マトリクスとの界面から前記音波発生部までの距離(L)と、前記音波媒体内の音速(V)と、の関係が、次の式(1)を満たす、
    鋼材の非破壊検査方法。
    Figure 0006619282
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