以下、本発明の運賃箱を移動式の運賃箱(以下「移動式運賃箱」という)に適用した実施形態を各図に基づいて説明する。まず、本実施形態の移動式運賃箱5の構成概要を図1〜図3に基づいて説明する。移動式運賃箱5により精算が行われる運賃は、特にことわらない限り、乗車区間に関係なく予め定められた「定額料金」である。図1には、移動式運賃箱5を正面パネル21aの側から見た正面図が図示されている。また図2には、移動式運賃箱5を背面パネル21dの側から見た背面図が図示されている。さらに図3には、移動式運賃箱5を構成する運賃収受部20の制御コンピュータ30とそれに接続される各ユニット等の構成例を示すブロック図が図示されている。
図1および図2に示すように、移動式運賃箱5は、台車部10、運賃収受部20および電源装置50により構成される、ポータブルタイプの運賃箱である。台車部10は、手押しタイプの台車であり、主に、荷台11、ハンドル12、キャスタ14,15等により構成されている。即ち、台車部10は、運賃収受部20を載置可能な矩形状の搭載面11aを表面に有する荷台11と、荷台11の後端側に上方に向けて立設されて係員の手が掛かり得る高さに横棒が位置するコ字形状のハンドル12と、荷台11の裏面に取り付けられるキャスタ14,15と、により構成されている。なお、図1,2においては、矩形状の荷台11は、その長手方向が紙面左右方向に表されている。また、台車部10の先端側は、図1において紙面右側であり、図2において紙面左側である。同様に、台車部10の後端側は、図1において紙面左側であり、図2において紙面右側である。
キャスタ14は、荷台11の裏面の後端側に固定されるフォーク14aと、台車部10を前後方向に移動可能にフォーク14aに回動自在に軸支される車輪14bと、により構成されている。このキャスタ14は、図略のブレーキ機構により回動を任意に規制することができる。これに対して、キャスタ15は、荷台11の裏面の先端側において同裏面の拡がり方向に回動自在に図略のベアリング機構を介して取り付けられるフォーク15aと、フォーク15aに回動自在に軸支される車輪15bとにより構成されている。これらのキャスタ14,15は、いずれも台車部10の前後方向に直交する左右方向(荷台11の短手方向)に所定間隔を隔てて2箇所に設けられている。なお、図1,2においては、左右のキャスタ14,14およびキャスタ15,15が重なって表されているため、それぞれのキャスタが1つに見えることに注意されたい。
このように構成される台車部10の荷台11には、運賃収受部20と電源装置50が載置されている。運賃収受部20は、次に説明するように、その外観および機械的な構成が乗合車両に搭載される運賃箱とほぼ同様に構成されている。荷台11の搭載面11aには、運賃収受部20の後側面パネル21bに取り付けられて搭載面11aに固定されるL金具17と、運賃収受部20の前側面パネル21cに取り付けられて搭載面11aに固定されるL金具18と、によって運賃収受部20が荷台11に固定されている。また電源装置50は、例えば、その筐体に形成されたフランジ部が荷台11に取り付けられることによって荷台11に固定される。このように台車部10の荷台11に固定された運賃収受部20と電源装置50は、係員が台車部10を押すことにより路面R上を移動することが可能になる。これにより、当該係員は、移動式運賃箱5を、停車駅等に一時的に設置したり撤去したりすることが容易になる。
運賃収受部20は、その外観および機械的な構成が乗合車両に搭載される運賃箱とほぼ同様に構成されている。運賃収受部20は、台車部10に載置された状態において、台車部10の前後方向(荷台11の長手方向)に延びる高背の厚板壁形状の筐体21により外観形状の大半が構成されている。この筐体21の上部には、券銭投入口22、ICカードリードライタ23、硬貨挿入口24および乗客用ディスプレィ27が設けられている。移動式運賃箱5の利用者から見て筐体21の正面側には、正面パネル21aが設けられている。移動式運賃箱5の利用者、即ち乗合車両から降りた乗客は、正面パネル21aに対してほぼ正面に立って当該運賃収受部20を利用する。そのため、本実施形態の移動式運賃箱5の運賃収受部20は、乗合車両に搭載される運賃箱とは異なる、正面パネル21aを備えている。
例えば、運賃収受部20の正面パネル21aには、取り替え可能な表示パネルPと、この表示パネルPを左右や下方で保持するガイド板Q,Q’と、が設けられている。表示パネルPには、例えば、料金区分(「普通料金」、「割引料金(身体障害者など)」や金額(「大人210円」、「小児100円」等)等をマトリックス状に表示した運賃案内が印刷されている。また、正面パネル21aの上方には、正面パネル21aを向く乗客に対して正面方向に開口する紙幣挿入口25が設けられている。正面パネル21aの下方には、金庫29が設けられている。
移動式運賃箱5の利用者から見て筐体21の右側面側には、前側面パネル21cが設けられている。本実施形態の移動式運賃箱5の運賃収受部20では、この前側面パネル21cに硬貨排出口26が設けられている。さらに、筐体21の背面側、即ち運賃収受部20を操作する係員側の背面パネル21dには、券銭投入口22から投入されてダンパ部に滞留する硬貨M等を目視確認し得る窓部21wと、操作パネル28が設けられている。
券銭投入口22は、乗客が乗車する際に予め決められている一定金額の運賃(例えば、大人210円、小児100円)を支払うために硬貨や乗車券を投入するための受け口である。券銭投入口22から投入された硬貨や乗車券は、筐体21内に設けられる、図略の券銭分離装置、搬送コンベア、硬貨シュート等を経て、下方の金庫29に収容される。なお、券銭分離装置の下方には、硬貨の詰まりを検出する硬貨詰まりセンサ35bが設けられており、この硬貨詰まりセンサ35bは、制御コンピュータ30に電気的に接続されている(図3参照)。
ICカードリードライタ23は、券銭投入口22に硬貨等を投入する代わりに、所定のICカードで運賃を精算する際に使用されるICカードの読み取りおよび書き込み装置である。ICカードは、例えば、カード内に、アンテナコイル、制御IC、半導体メモリ(情報記憶媒体)等を備えた非接触タイプのカードであり、交通系ICカード等である。例えば、乗客が自分のICカードをICカードリードライタ23にタッチまたはかざす(以下これらの動作を「タッチ等」という)ことにより、ICカードリードライタ23はそのICカードに記憶されているポイントデータやその他の付加データ等を読み出したり、そのポイントデータから運賃相当のポイント数を差し引いた後のポイントデータを書き戻したりする。ICカードリードライタ23は、制御コンピュータ30に電気的に接続されている(図3参照)。本実施形態のICカードリードライタ23は、後述するように、メンテナンス用のICカードに記憶された機器設定の情報も読み出す。
硬貨挿入口24や紙幣挿入口25は、乗客が券銭投入口22に投入する運賃額相当の硬貨を持ち合わせていない場合に両替や釣り銭の返金を可能にするものである。これらに、硬貨(硬貨挿入口24)や紙幣(紙幣挿入口25)が挿入されると、筐体21内の図略の両替装置により両替された硬貨や運賃を差し引いて残金(釣り銭)が硬貨排出口26から排出される。単なる両替の場合には、乗客は、硬貨排出口26から排出された受け皿内の硬貨から運賃額分の硬貨を券銭投入口22に投入して運賃を支払う。硬貨挿入口24や紙幣挿入口25から挿入された硬貨や紙幣も、筐体21内に設けられる、硬貨シュートや紙幣シュートを経て下方の金庫28に収容される。
なお、硬貨挿入口24の下方には、硬貨受入れセンサ35aが設けられており(図3参照)、硬貨の有無、硬貨の金種や枚数の検出等を行っている。また紙幣挿入口25の搬送経路の途中には、紙幣識別センサ36aや紙幣詰まりセンサ36bが設けられている(図3参照)。紙幣識別センサ36aは、紙幣挿入口25に挿入された紙幣の券種や真偽を識別する。また、紙幣詰まりセンサ36bは、搬送経路における紙幣詰まりを検出する。これらのセンサ35a,36a,36bは、制御コンピュータ30にそれぞれ電気的に接続されている(図3参照)。
乗客用ディスプレィ27は、制御コンピュータ30による情報処理の結果を文字や図形等の情報により表示する液晶ディスプレィ装置である。本実施形態の運賃収受部20では、乗客用ディスプレィ27は、運賃の支払いや両替の処理状態や処理結果を乗客や移動式運賃箱5の係員が目視確認できるように表示する。このため、乗客用ディスプレィ27も、制御コンピュータ30に対して電気的に接続されている(図3参照)。
操作パネル28は、キースイッチ28aと係員用ディスプレィ28bにより構成されている。キースイッチ28aは、例えば、0〜9の数字キー、上下左右の方向操作を指示する方向キーやこれらの操作入力の状態を確定させるエンターキー等により構成されている。係員用ディスプレィ28bは、制御コンピュータ30による情報処理の結果や後述するようにメンテナンス用ICカードから読み込んだ系統情報を、文字や図形等の情報により表示する液晶ディスプレィ装置である。キースイッチ28aおよび係員用ディスプレィ28bは、いずれも制御コンピュータ30に電気的に接続されている(図3参照)。
図3に示すように、制御コンピュータ30は、例えば、MPU31、メモリ32、システムバス33および入出力インタフェース34により構成されている。MPU31は中央演算処理装置であり、メモリ32は半導体記憶装置である。メモリ32には、後述する機器設定の情報が記憶される。システムバス33は、MPU31、メモリ32および入出力インタフェース34を相互に接続する並列信号線である。システムバス33は、例えば、アドレスバスとデータバスにより構成されている。入出力インタフェース34は、主に、シリアルインタフェース、パラレルインタフェースおよびドライバ回路で構成されている。ドライバ回路は、駆動モータ38a,38bを駆動制御するのに十分な電力を供給し得るように構成されている。
制御コンピュータ30には、前述したように、各種センサやユニット等が接続されている。具体的には、硬貨受入れセンサ35a、硬貨詰まりセンサ35b、紙幣識別センサ36a、紙幣詰まりセンサ36b、駆動モータ38a,38b、ICカードリードライタ23、乗客用ディスプレィ27、キースイッチ28a、係員用ディスプレィ28bである。駆動モータ38aは、例えば、硬貨を挟んで搬送する搬送ローラを駆動する直流モータである。また、駆動モータ38bは、例えば、紙幣を搬送する搬送ベルトを駆動する直流モータである。駆動モータ38a,38bは、硬貨詰まりや紙幣詰まりが発生すると、振動したり逆回転したりしてこれらの詰まりも解消させ得る。
なお、制御コンピュータ30には、電源ユニット39から駆動電力が供給されており、またこれらのセンサ35a,35b,36a,36bには、制御コンピュータ30を介して駆動電力が供給されている。また、ICカードリードライタ23、乗客用ディスプレィ27、係員用ディスプレィ28bおよび駆動モータ38a,38bには、電源ユニット39から個別に駆動電力が供給される。
電源装置50は、降圧トランスを内蔵したドロッパ型の直流安定化電源であり、商用電力(例えば、交流100V)を運賃収受部20の駆動に適した直流電力(例えば、直流12V)に変換し得るように構成されている。電源装置50に入力される交流電力は、図略の電源コードとコンセントを介して停車駅に配電される交流電源ラインから供給される。また電源装置50から出力される直流電力は、図略の電源配線を介して運賃収受部20に供給される。
このように構成される運賃収受部20は、制御コンピュータ30のメモリ32に次に挙げるような機器設定の情報(以下「設定情報」という)を記憶している。
(1) 移動式運賃箱5が設置される停車駅の情報として、設置場所情報(例えば、駅名)
(2) この停車駅に停車する乗合車両の運行系統の情報として、系統情報(例えば、系統番号、または始発駅名と終着駅名、始発駅名と停車駅名、停車駅名と終着駅名)
(3) 運賃収受部20に一意に付与される固有の機器識別情報(例えば、機器番号)
(1)の設置場所情報は、当該移動式運賃箱5を停車駅に運び込んで設置した際に運賃収受部20に設定される情報であり、(2)の系統情報は、その停車駅に直前に停車していた乗合車両とは異なる運行系統の乗合車両が到着した場合に運賃収受部20に設定される情報である。また、(3)の機器識別情報は、運賃収受部20が製造段階において設定される情報である。そのため、これらの設定情報のうちで、運賃収受部20に対する設定変更の頻度が最も高いものは、(2)の系統情報であり、次いで(1)の設置場所情報である。特に(2)の系統情報は、停車中の乗合車両の運行系統が直前に停車していた別の乗合車両の運行系統と異なる場合に変更の必要が生ずる。そのため、乗合車両の利用客(乗客)の多い通勤時やラッシュ時においては、運賃収受部20の設定を頻繁に変更する必要がある。
なお、(2)の系統情報に代えて、乗合車両に一意に付与される固有の車両識別情報(例えば、車両番号)を、運賃収受部20に設定する場合もある。この車両識別情報は、乗合車両ごとに異なる。そのため、乗合車両が停車駅に到着する度に運賃収受部20の設定を変更する必要がある。つまり、車両識別情報は、(2)の系統情報よりも変更の頻度が高い。
本実施形態の移動式運賃箱5では、このように頻度の高い機器設定の変更を運賃収受部20に対して容易に行い得るように、制御コンピュータ30による機器設定処理を実行する。ここからは、制御コンピュータ30により実行される機器設定処理の流れを図4に基づいて説明する。図4には、制御コンピュータ30により実行される運賃収受部20の機器設定処理の流れを示すフローチャートが図示されている。
この機器設定処理は、当該運賃収受部20に電源が投入されて制御コンピュータ30が起動した後、ICカードリードライタ23によりICカードのデータが読み取られると開始される。つまり、ICカードリードライタ23による「データ読み取り有り」のハードウェア割り込みをトリガーに当該機器設定処理が始まる。
図4に示すように、機器設定処理は処理を開始すると、まず最初にステップS101によりカードデータ取得処理を行う。この処理では、ICカードリードライタ23が読み取ったカードデータをICカードリードライタ23から取得する。そして、次のステップS103の判定処理により、取得したカードデータに基づいてICカードリードライタ23にタッチ等されたICカードがメンテナンス用のカードであるか否かを判定する。
ICカードには、前述したように、カードデータとして、ポイントデータやその他の付加データ等が記憶されている。そのため、このステップS103では、カードデータから付加データを抽出してカードデータを読み取ったICカードの種別を判定する。当該ICカードが、メンテナンス用のICカードである場合には(S103;Yes)、続くステップS105により設定情報抽出処理を行う。これに対して、メンテナンス用のICカードでない場合には(S103;No)、制御コンピュータ30は、本機器設定処理を終了して再度の処理の開始に備える。
続くステップS105では設定情報抽出処理が行われる。メンテナンス用のICカードは、カードデータの付加データとして、運賃収受部20の設定情報を所定のフォーマットで記憶している。そのため、この処理では、カードデータの付加データから設定情報を抽出する。そして、続くステップS107により、抽出した設定情報が当該移動式運賃箱5の設置場所情報であるか否かを判定する。
設置場所情報は、例えば、停車駅の駅名(テキストデータ)であり、駅名の前に所定のデータ種別(バイナリデータ)が付加されている。そのため、このステップS107では、このデータ種別により設置場所情報であるか否かを判定する。抽出した設定情報が設置場所情報である場合には(S107;Yes)、このメンテナンス用のICカードは、設置場所情報が記憶された「設置場所設定カード」であることから、ステップS113に処理を移行して当該カードから読み取った設置場所情報を運賃収受部20の設定情報として記憶する。これに対して、抽出した設定情報が設置場所情報でない場合には(S107;No)、この設定情報は運行系統の情報である。そのため、次のステップS109により系統情報表示処理を行う。
ステップS109の系統情報表示処理はメンテナンス用のICカードが「運行系統設定カード」である場合に行われる。即ち、この系統情報表示処理は、ステップS105により抽出された設定情報が運行系統の情報である場合に行われる。運行系統の情報は、1つ以上の系統情報で構成さており、例えば、系統番号や、「始発駅と停車駅」、「停車駅と終着駅」または「始発駅と終着駅」であったり、これらの組み合わせで構成されていたりする。例えば、これらの系統情報は、次のようにテキストデータで記憶されている。なお、「/」は、隣り合うテキストデータを区切る識別子である。
<系統情報の例>
○○○駅〜□□□停/○○○駅〜☆☆☆駅/□□□停〜☆☆☆駅/☆☆☆駅〜△△△停/☆☆☆駅〜◇◇◇駅/☆☆☆駅〜▽▽▽駅/△△△停〜◇◇◇駅
そのため、ステップS109の系統情報表示処理では、これらの複数の系統情報を係員用ディスプレィ28bに順番に表示する。例えば、上記の複数の系統情報の例では、図5(A)に示すように、係員用ディスプレィ28bに上方から下方に向けて各系統情報が表示される。各系統情報の左側に表示されている数字(例えば、「1:」)は、ICカードに記憶されている順番を示す。
係員用ディスプレィ28bは、一度に表示可能な行数が定められている。例えば、図5(A)に示す係員用ディスプレィ28bのように、表示行数の最大が5行である場合には、6番目以降の系統情報は当該係員用ディスプレィ28bに表示されていない。そのため、例えば、係員がキースイッチ28aの方向キーにより上スクロールを制御コンピュータ30に指示することによって、図5(B)に示すように6番目以降の系統情報が表示される(破線αで囲まれた系統情報)。
このように係員用ディスプレィ28bには、複数の系統情報が表示されるため、ステップS111では、キースイッチ28aによる系統情報の選択が確定したか否かを判定する。選択は、例えば、係員が数字キーを入力した後、エンターキーを入力することにより確定する。例えば、図5(B)に示すように、数字キー「6」が入力されると、系統情報を示すテキストデータの文字色の濃淡が反転して仮選択された旨が表示される。この後、エンターキーを入力することにより選択が確定する。仮選択の対象は、方向キーの入力により上下方向に変更することが可能である。系統情報の選択が確定するまで(S111;Yes)、ステップS109による系統情報表示処理が継続される(S111;No)。
系統情報の選択が確定すると(S111;Yes)、次のステップS113により設定情報記憶処理を行う。この処理は、ステップS111により選択された系統情報(運行系統の情報)を運賃収受部20の設定情報として制御コンピュータ30のメモリ32に記憶したり、また前述したように設置場所情報を運賃収受部20の設定情報として制御コンピュータ30のメモリ32に記憶する。これにより、運賃収受部20には、系統情報や設置場所情報が設定されるため、運賃収受部20の機器設定が完了する。ステップS113の設定情報記憶処理が終わると、制御コンピュータ30は、本機器設定処理を終了して、再度の処理の開始に備える。
なお、メンテナンス用のICカードが「運行系統設定カード」である場合において、このICカードに記憶されている運行系統の情報として、系統情報が1つだけ記憶されており、系統情報を複数記憶したICカードをICカードリードライタ23に読み取らせないことが仕様上、確定しているケースでは、次のように機器設定処理を構成する。即ち、設置場所情報判定処理(S107)、系統情報表示処理(S109)および選択確定判定処理(S111)を廃止し、設定情報抽出処理(S105)により抽出した設定情報を、設定情報記憶処理(S113)により運賃収受部20の設置場所情報または系統情報として制御コンピュータ30のメモリ32に記憶させる。これにより、機器設定処理がシンプルな構成になる。
このように本実施形態の移動式運賃箱5では、運賃収受部20において、乗合車両の運行系統の情報として、系統情報が記憶されたメンテナンス用のICカードから当該乗合車両の運行系統の情報を取得する(S101,S105)。これにより、移動式運賃箱5を操作する係員は、煩雑な手動入力を行うことなく、メンテナンス用のICカードをICカードリードライタ23にタッチ等するという簡単な操作により当該乗合車両の運行情報を容易に取得して運賃収受部20に設定することができる(S113)。したがって、運行系統の設定を容易に変更することが可能になる。また、当該乗合車両の停車駅における運行系統ごとの乗客数を把握することが可能になる。
また、メンテナンス用のICカードに複数の系統情報が記憶されている場合には、そのICカードから当該乗合車両の運行系統の情報を取得した後(S101,S105)、係員用ディスプレィ28bにそれら複数の系統情報を表示させて(S109)、その中から任意の系統情報をキースイッチ28aにより選択する(S111)。これにより、1枚のメンテナンス用のICカードで複数の系統情報を設定することができる。そのため、系統情報ごとに専用に作成されたメンテナンス用のICカードを複数種類用意する必要がないことから、メンテナンス用のICカードの作成コストを低減することが可能になり、またICカードの管理も容易になる。
さらに、メンテナンス用のICカードでのみ、運賃収受部20の機器設定の変更を可能にすることによって、メンテナンス用のICカードを所持する者(例えば、係員等の運行業務関係者)だけが運賃収受部20の機器設定を変更することが許容される。そのため、移動式運賃箱5が設置された停車駅等において、例えば、運行業務関係者以外の者が運賃収受部20に触れ得る状態に置かれていたとしても、そのような者による機器設定の変更を防止することが可能になる。
なお、メンテナンス用のICカードに記憶させる情報を、系統情報に代えて、乗合車両に一意に付与される固有の車両識別情報(例えば、車両番号)に変更しても良い。この場合においても、系統情報のときと同様に、車両識別情報の設定を容易に変更することが可能になり、また当該乗合車両の停車駅における運行系統ごとの乗客数を把握することが可能になる。また、メンテナンス用のICカードの作成コストを低減することやICカードの管理を容易にすることも可能になる。さらに、運行業務関係者以外の者が機器設定の変更を防止することも可能になる。
なお、図4に示す機器設定処理に代えて、図6(B)に示すような改変例の機器設定処理を制御コンピュータ30により実行するように情報処理を構成しても良い。図6(A)には、乗車側ICカードリードライタ(図略)により実行される系統情報等書込み処理の流れを示すフローチャートが図示されている。また図6(B)には、制御コンピュータ30により実行される運賃収受部20の機器設定処理の改変例を示すフローチャートが図示されている。
改変例の機器設定処理は、乗客が所持するICカードに当該乗合車両の系統情報を記憶させ、当該乗合車両を降車した乗客が運賃を精算する際(精算する前)に改変例の機器設定処理により乗客のICカードから当該乗合車両の系統情報を取得する。そのため、改変例の機器設定処理を説明する前に、乗客のICカードに当該乗合車両の系統情報を記憶させる系統情報等書込み処理を図6(A)を参照して説明する。
図6(A)に示すように、系統情報等書込み処理は、乗合車両の乗車口近く車内に設けられる図略の乗車側ICカードリードライタにより実行される。当該乗合車両では、乗客が降車する際(移動式運賃箱5では降車した後)に乗車区間に応じた運賃を支払う「後払い方式」の運賃収受を行う。そのため、乗客は、乗車時に、車両内の乗車口近くに設けられた乗車側ICカードリードライタにICカードをタッチ等することで、乗車側ICカードリードライタが当該乗客のICカードに乗車駅の情報を書き込む。なお、乗車側ICカードリードライタは、乗合車両内に設けられる図略の運行管理コンピュータにデータ通信可能に接続されている。運行管理コンピュータは、例えば、乗合車両内において乗車区間に応じた運賃表示等を行う情報表示用のコンピュータである。
即ち、系統情報等書込み処理では、乗車側ICカードリードライタの制御コンピュータは、ステップS201により乗合車両内の運行管理コンピュータから現在停車中の停車駅情報(例えば、駅番号)を取得する。これが当該乗客の乗車駅の情報になる。また、同制御コンピュータは、ステップS203により当該乗合車両が運行している系統情報を運行管理コンピュータから取得する。系統情報は、例えば、系統番号、「始発駅と停車駅」、「停車駅と終着駅」または「始発駅と終着駅」である。
続くステップS205では、乗車側ICカードリードライタの制御コンピュータは、ステップS201,S203で取得した各情報を乗客のICカードに書き込む処理を行う。乗車駅の情報は、例えば、既存のカードデータのフォーマットに従って書き込まれる。また、系統情報は、例えば、既存のカードデータのフォーマットを拡張した領域(拡張領域)に拡張データとして書き込まれる。これにより、乗客のICカードの半導体メモリ等(情報記憶媒体)には、乗車駅の情報と系統情報が記憶される。
このようなICカードを所持する乗客は、目的の停車駅または終着駅で乗合車両から降車した後、移動式運賃箱5の運賃収受部20のICカードリードライタ23にそのICカードをタッチ等すると、ICカードリードライタ23がカードデータを読み取る。制御コンピュータ30では、この読み取りによるハードウェア割り込みをトリガーにして改変例の機器設定処理を開始する。
図6(B)に示すように、改変例の機器設定処理は処理を開始すると、まず最初にステップS301によりカードデータ取得処理を行い、次のステップS303の判定処理により、取得したカードデータに基づいて当該ICカードがメンテナンス用のカードであるか否かを判定する。当該ICカードは、乗客が所持するICカードであり、メンテナンス用のICカードではない(S303;No)。そのため、ステップS307に処理を移行して系統情報抽出処理を行う。
乗客のICカードは、カードデータの拡張データとして、乗客が降車した乗合車両の系統情報を記憶している。そのため、ステップS307の系統情報抽出処理では、カードデータの拡張領域から系統情報を抽出する。そして、続くステップS309により、抽出した系統情報(運行系統の情報)を運賃収受部20の設定情報として記憶する。これにより、運賃収受部20には、系統情報が設定されるため、運賃収受部20の機器設定が完了する。ステップS309の設定情報記憶処理が終わると、制御コンピュータ30は、本機器設定処理を終了して、再度の処理の開始に備える。なお、制御コンピュータ30では、本機器設定処理が終了すると、続けて運賃収受処理を行う。即ち、後払い方式の運賃収受処理として、運行系統の情報(系統情報)に関連付けられた運賃情報に基づいて運賃の収受を行う。
これに対して、ICカードリードライタ23にタッチ等されたICカードがメンテナンス用のICカードであり、前述したようにそのICカードが運賃収受部20の設置場所情報を記憶している場合、つまりこのメンテナンス用のICカードが設置場所情報を記憶した「設置場所設定カード」である場合には(S303;Yes)、続くステップS305の設置場所情報抽出処理により当該ICカードから設置場所情報を抽出する。そして、ステップS309に処理を移行して当該ICカードから読み取った設置場所情報を運賃収受部20の設定情報として記憶する。これにより、運賃収受部20には、設置場所情報が設定される。
なお、ステップS305に代えて、図4に示すステップS105,S107,S109,S111の各情報処理を行い得るように改変例の機器設定処理を構成しても良い。これにより、メンテナンス用のICカードが「設置場所設定カード」である場合に加えて、メンテナンス用のICカードが「運行系統設定カード」である場合にも対応可能な、さらなる改変例の機器設定処理を構成することができる。
このように改変例の機器設定処理を運賃収受部20の制御コンピュータ30が実行する移動式運賃箱5では、乗客が所持するICカードから当該乗合車両の運行系統の情報を取得する(S101,S105)。これにより、移動式運賃箱5を操作する係員は、煩雑な手動入力を行うことなく、メンテナンス用のICカードをICカードリードライタ23にタッチ等するという簡単な操作により当該乗合車両の運行情報を容易に取得して運賃収受部20に設定することができる(S113)。したがって、運行系統の設定を容易に変更することが可能になる。また、当該乗合車両の停車駅における運行系統ごとの乗客数を把握することが可能になる。
また、メンテナンス用のICカードに複数の系統情報が記憶されている場合には、そのICカードから当該乗合車両の運行系統の情報を取得して(S301,S307)、その系統情報を設定する(S309)。これにより、乗客が運賃を精算する前に、その乗客が降車した乗合車両の運行系統の情報を運賃収受部20に対して設定(変更)することが可能になる。そのため、例えば、乗客が降車の際に乗車区間に応じた運賃を支払う「後払い方式」であっても、移動式運賃箱5による運賃収受を行うことができる。また、降車した乗合車両が異なる乗客が交互に運賃精算する場合においても、移動式運賃箱5による運賃収受を行うことができる。
なお、上述した実施形態では、台車部10の荷台11に運賃収受部20を載置する構成を採ったが、運賃箱が移動できる構成であれば、例えば、運賃収受部20の底面にキャスタを取り付けて運賃箱としての運賃収受部20が移動可能に構成しても良い。
また、上述した実施形態では、移動式運賃箱5の場合を例示して説明したが、運賃箱が設置される停車駅が、運行系統が異なる乗合車両が停車する駅であれば、当該運賃箱は、移動式である必要はなく、例えば、停車駅の床面や路面に固定されていても良い。
さらに、上述した実施形態では、運行系統の情報を記憶する情報記憶媒体として、内部に半導体メモリ等を備えるICカードを例示して説明したが、情報記憶媒体であれば、例えば、磁気的に情報を記憶する磁気カードや光学的に情報を記憶する光カードに運行系統の情報を記憶させても良い。これらの場合、運賃収受部20に設けられるカードリーダは、磁気カードまたは光カードに対応し得ることが必要になる。
また、上述した実施形態では、ICカードに記憶されているカードデータから所定の処理(S107,S109,S111,S113,S305,S307,S309)に必要な付加データや拡張データを抽出してこれら所定の処理に使用するように情報処理を構成したが、ICカードに記憶されているカードデータの全部を抽出してその中から必要な付加データや拡張データをこれら所定の処理に使用するように情報処理を構成しても良い。
なお、上述した停車駅は、例えば、乗合車両が路線バスやトロリーバス等の乗合バスである場合には、停留所または終点(終着駅)であり、また乗合車両が路面電車やワンマン電車等の鉄道である場合には、途中駅または終着駅である。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、上述した具体例を様々に変形または変更したものが含まれる。また、上述した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。さらに、上述において例示した技術は、複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つ。