従来の扉用のピボットヒンジで閉鎖機構を備えた構成としては、特開2002−266551等に報告されているような強力な捻りばねを軸心方向に巻き込み、複雑なクラッチやリングを多数用いて閉鎖時の動作を制動する構成や、フロアヒンジ等によく用いられる分断された2部屋をオリフィスを通して密封されたオイルが移動するような油圧等を用いる構成や、特開2000−17940に報告されているような、連続傾斜面を有した円筒カムを軸周辺に配置して、扉の開放動作により互いの円筒カム面の傾斜で扉が持ち上がる動作を得、その後は扉の自重により閉鎖する構成のグラビティーヒンジが一般的に用いられている。
しかし前記先行技術で前者2点は、捻りバネを軸心方向に巻き込むことで、その捻りバネの付勢力で扉の閉鎖力を得る基本動作であり、ばねの持つ特徴としては付勢力は巻き込み量に略比例することになり、したがって扉を大きく開けたときほど付勢力は大きくなり、扉をごく僅かしか開放しない状態では付勢力は小さくなる。そして極僅かにのみ開放した段階からも確実な閉鎖動作を実施可能とするためには、閉鎖最終段階においてもある程度以上の閉鎖力を有していることが条件になる。すると大きく開放した状態からでは非常に強い力が掛かりさらには加速度も付くために急速に閉鎖して、バタンと衝撃を持って戸当たりにぶつかる様な閉鎖条件になってしまう。そこで常時非常に強力な捻りばねにて付勢させた状態を保持しつつ、閉鎖時には急激に閉鎖しないように様々な減速機構を用いて全体の動作を制動しようとする構成になっている。したがってどうしても大きな力を無理やり制動させようとするためその機構も複雑で大げさなものになりがちである。すると扉を開放するときの操作が重たくなりがちであり、体重をかけて押し開くような障害者や高齢者にとっては操作性に悪いものにもなりかねない。
またグラビティーヒンジにおいては、扉の自重を利用して軸周辺の連続傾斜面にて閉鎖させる構成であるため、閉鎖力を必要角度のみに設定することが可能である。しかしこの機構の最大の特徴は扉の自重を閉鎖力に変換する構成であるため、開放したときに扉自体が持ち上がる動作が不可欠であり、その結果開放動作と共に扉の上端が上枠に接近することになる。したがって比較的上枠と扉上面の隙間が大きいトイレ用のドアにおいては普及しているが、納まりとして上記隙間が小さい室内ドアにおいては使用できず、ほとんど普及していないのが現状である。
また一般的な通行の際の扉の開閉角度は70度から80度程度未満であるが、通常の室内ドアにおいては180度までの開放が可能なことが必要条件とされており、上記のような捻りバネを180度の開放にまで適応させると、益々閉鎖段階での力が大きくなりすぎることが問題とされる。したがって閉鎖方向への付勢力は85度位置付近からのみで十分であり、それ以降の180度までの開放動作においては、付勢力が増加しないような構成が望ましい。
さらには、室内ドアにおいては通常80度から85度程度の開放角度にて扉を開け放って保持しておくことも多く、この付近の位置で停止する動作も必要とされており、通常のピボットヒンジであれば閉鎖機構はないためどの角度位置にても停止させることができる。しかし上記の捻りバネを用いた構成では常に閉鎖しようと力が掛かっており、ましてや90度位置付近に置いてはかなり大きな閉鎖力を有している状態のため、この位置で停止させるためにはまた別途の複雑な機構を用い、閉鎖しようとする力に打ち勝って停止保持するための構成を付加させなければならない。
特開2002−266551号
特開2000−17940号
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、複雑で大掛かりな油圧等の機構を用いず、単純でコンパクトな構成にて形成できることを前提条件とし、所定角度範囲からの閉鎖力は扉を回転させるに必要な付勢力を若干上回った程度の比較的小さな力にて実施可能とし、最終閉鎖段階では大きめの閉鎖力を有してより確実な閉鎖動作を可能とし、開放時には非常に軽い操作で開放操作が実施できる構成の閉鎖機構付きピボットヒンジを提案することを目的とする。そしてさらに、施工後に全体の閉鎖力が調整できる機構を併せ持つことを次の目的とする。
本発明では上記問題点を解決するために次の技術手段を設けた。まず本発明のピボットヒンジはドアの吊り元側の上下に配置され、各々扉側ピボットと枠側ピボットとから構成される。そしてまず枠側ベースと枠側フタを設け、両者を重ね合わせた状態で一定の厚みの矩形の空間が生じるようにして枠側ケースを形成する。次にその枠側ケースの空間内の先端側位置に柱状カムと軸心を一体化した状態で回動自在に装着し、押し込みビットの先端突部を柱状カムの外周面にばね部材により付勢した状態で当接させて閉鎖機構部分として形成し、枠側ケース内に配置して枠側ピボットを構成しておく。また、枠側ケースにばね力調整部材とばね力調整ねじを設けてばね部材の付勢力を調整できるようにしておくとよい。
ここで、柱状カムは横断面が同一形状の上下方向に長い柱状であり、中央位置に軸心挿入孔を有し、その外周面は軸心の中心からの外周面までの距離が狭い開き角度範囲にて極端に変わる傾斜面と、それに連続した同一単位開き角度に対して軸心の中心からの外周面までの距離が徐々に増加していくように設定された湾曲面とそれ以降の曲面とから形成されている。そして湾曲面は扉を任意の開放位置で放置して、その後に閉鎖動作を得たい位置にまで連続させておくとよく、その後の曲面の形状は任意であり、扉をそのままの位置で停止させたいならば曲面を軸心の中心からの円弧形状にしておくとよく、さらに大きく180度にまで自動的に開放するように設定したいなら、軸心の中心からの外周面までの距離が徐々に減少していくように曲面を形成しておくとよい。そして先端が円の両端をカットした太鼓形状である異型の軸心を軸心挿入孔に差し込んで一体化しておく。
次にあらかじめ上下の枠側ピボットを枠体に装着しておき、軸部嵌合孔もしくは軸部嵌合溝を有した扉側ピボットを扉の上下に装着しておく。そして下部の扉側ピボットの軸部嵌合孔と下部の枠側ピボットの軸心の異型部分を、両者が互いにがたつき無く共回りしない状態で嵌合されるように形成しておき、下部の枠側ピボットに下部の扉側ピボットを嵌め込み、その次に上部の扉側ピボットを上部軸にて上部の枠側ピボットに嵌め込んで枠体に扉を吊り込む。すると扉の開閉動作にて扉側ピボットが回転し、枠側ピボットの軸心と共に柱状カムが回転する動作が得られる。ここで、閉鎖機構部分を有する枠側ピボットを上部か下部のどちらか片方にのみ配置するか、もしくは上下両方に配置するかは任意である。そして両方に配置したほうが当然扉全体としての閉鎖力は大きくなる。
また押し込みビットと柱状カムとの動作においては、扉が閉鎖しているときは押し込みビットの先端突部は柱状カムの傾斜面と当接しており、扉の初期開放段階で柱状カムの回転動作により押し込みビットの先端突部が傾斜面に押されてばね部材を大きく撓ませながら移動し、続けて扉を開放すると軸心の中心からの外周面までの距離が徐々に増加していく形状の湾曲面に当接しながらさらにばね部材を徐々に撓ませることになる。
また湾曲面を扉の開放角度が約85度の位置までにて設定しておくと、その位置でばね部材の撓みが最も大きくなっているため、湾曲面の接線の傾斜方向に対して大きな力がかかり、そのまま放置すると扉は閉鎖動作を始めることになる。そしてばね部材の力は撓み量が減少していくにつれて少しずつ弱くなっていくため、その分湾曲面の接線の傾斜を調整しておいて極端に閉鎖力が小さくならないようにしておくとよい。さらには傾斜面にて軸心の中心からの距離の変化量が急激に大きくなるように設定しておくと、この最終閉鎖段階において最も閉鎖力を大きくすることも可能である。またばね部材の初期撓み時と最大撓み時での力の差は極力小さいほうが条件がよく、ばね部材は比較的自由長の長い圧縮ばねを既に大きく撓ませた状態で枠側ケース内に配置し、その状態から柱状カムの回転動作でさらに一定距離を圧縮させるように設定しておくとよい。
ここで、扉を任意の角度まで開放した後で放置した場合からの閉鎖動作としては、その状態での閉鎖力を上下ピボットヒンジ間の摩擦抵抗より僅かに強くしておくと、そのまますぐに閉鎖動作を開始することになる。したがって上記での湾曲面の形状とばね部材の強さを適宜設定して、所定の開放角度範囲内で停止したときの閉鎖力が、かろうじて扉を閉鎖させる程度の力にてなるべく均一になるように設定しておくとよい。するとどの位置で停止させても極ゆっくりとした閉鎖動作が開始されることになる。そして閉鎖最終段階での湾曲面と連続している傾斜面は軸心の中心からの距離が急激に小さくなるように設定されているため、ここからさらに大きな閉鎖力が得られ、ラッチが掛かる最終閉鎖位置においても確実に閉鎖することが可能になる。
また人の通行の際に扉を開放する角度を75度程度と想定すると、それより大きく85度程度開放したときにそのまま停止保持できる機能が必要と考えられる。その手段としては、扉の開放角度が85度位置付近での、柱状カムの外周面に対して押し込みビットの先端が当接している位置に凹状の溝部分を設けておくとよい。すると柱状カムのこの位置に設けられた溝部分に押し込みビットの先端突部が入り込むことにより、クリック感を有した停止動作を得ることが可能である。そして90度開放納まりの場合では、壁面の手前で扉を停止保持することが可能になる。また扉が175度程度開放した位置にも溝部分を形成しておくと、180度開放できる納まりにおいて、同様に壁面の手前で停止保持することが可能になる。
また、扉を閉鎖させるために必要な力は扉の重量やサイズにより異なり、さらには長年の使用によりピボットヒンジ自体の開閉時の摩擦力が変化することもあるため、ドアの施工後に閉鎖力が調整できることが必要でありかつ重要である。そこで枠側ケース内の押し込みビットを付勢しているばね部材の端部に雌ねじ部分を有したばね力調整部材を設けておく。そして枠側ケースに頭部が空転する状態にてばね力調整ねじを組み付け、その雄ねじ部をばね力調整部材の雌ねじ部に螺合させておく。するとばね力調整ねじを回すことにより、ばね力調整部材が移動するためばね部材の初期撓みを調整することが可能になり、扉の閉鎖力を調整できることになる。
また上記の構成のみでは、ピボットヒンジの閉鎖機構自体による閉鎖力に追加して、手で閉じ放つ操作や風によるあおり等により、閉鎖速度が速くなる現象が発生しやすいことが問題点として残る。そこでこの点に関しては、片方の羽根に直管シリンダータイプで内部にオイルが封入されており、出没ピンの先端が押される際に高速な没入動作時には大きな負荷が発生し、低速な没入動作時には小さな負荷しか発生しない構成のダンパーを戸尻面に装着し、扉の閉鎖最終段階で枠側ピボットの取り付け面かもしくは縦枠内面に出没ピンの先端が当接するように配置しておくとよい。
この手段は前述での閉鎖最終段階において最も閉鎖力が大きくできる構成であるからこそ採用可能であり、低速度で閉鎖してきた状態においても閉鎖最終段階でダンパーの力に負けて停止してしまわずに、そのままゆっくりと扉が閉鎖する動作を得られるように扉の閉鎖力を設定しておくとよい。すると比較的高速度で閉鎖した状態においても上記ダンパーの特性による大き目の負荷が得られることになり、一定量の制動動作が実施可能になる。その結果若干閉鎖速度が速くなってもダンパーで減速後にゆっくりと最終段階まで閉鎖する動作が実現できることになる。
枠側ケース内に押し込みビットと複数のばね部材と軸心を一体化した柱状カムとばね力調整部材とを挿入した構成の閉鎖機構を有する枠側ピボットと、極単純な形状の扉側ピボットのみの簡単な構成であり、デザイン性に優れており、部品点数も少なく安価に提供可能である。また閉鎖機構に油圧機構等は用いておらず、耐久性に優れていると共に油漏れ等の危険性も無い。そして扉の解放後に自動的にかろうじて閉鎖が実施される程度の低速度で閉鎖動作を開始し、閉鎖最終段階においてはもう少し大きな閉鎖力を得て、確実に扉を最後まで閉鎖することが可能になる。
柱状カムの傾斜面と湾曲面の形状と、ばね部材による付勢力を適宜設定することにより、どの開放位置においても均等な閉鎖力を得ることができ、大きく開放した状態からでも、小さく開放した状態からでもほぼ同一の閉鎖動作を得ることが可能になる。その結果大きく開放した状態からのどんどん加速していくような不必要な慣性力を極力低減させることができ、より良好な閉鎖動作を得ることが可能になる。またばね力調整ねじとばね力調整部材を設けたため、ばね部材の付勢力を扉の重量に合わせて調整することが可能になり、さらには長期間使用中に何らかの原因で閉鎖力が不足したような状態においても、閉鎖力を調整できるため非常に有効である。
扉を停止保持させたい任意の開放角度において、その位置での柱状カムの外周面に凹状の溝部分を設けて押し込みビットの先端突部が入り込むように設定しておくことにより、クリック感を有した扉の停止保持動作を得ることができる。
扉の戸尻面に直管シリンダータイプのダンパーを装着しておくと、閉鎖最終段階において最も閉鎖力が大きくできる構成であるため、低速度で閉鎖してきた状態においても閉鎖最終段階でダンパーの力に負けずにそのままゆっくりと扉が閉鎖する動作を得られ、比較的高速度で閉鎖した状態においてもダンパーの特性による大き目の負荷が得られることになり、一定量の制動動作が実施可能になる。その結果ダンパーで減速後にゆっくりと最終段階まで閉鎖する動作が実現できる。
以下図面に基づいて本発明に関する閉鎖機構付きピボットヒンジの実施の形態を説明する。図1は本発明の閉鎖機構付きピボットヒンジの枠側下ピボットaと扉側下ピボットbとを扉22と枠体23に振り分けて装着し、扉側下ピボットbの軸部嵌合孔12を軸心3の先端に形成した異型部分13に差し込んで下部ピボットヒンジを組み付けようとする状態を示す斜視図である。そして図2は閉鎖機構を組み込んだ枠側下ピボットaの取り付け上面図である。以下実施形態においては、主に図1または図2に示すように閉鎖機構を枠側下ピボットaに配置した状態で説明する。まず枠側ベースと枠側フタを設け、両者を重ね合わせた状態で一定の厚みの矩形の空間が生じるようにして枠側ケース1を形成する。そして図1に示すように枠側ケース1内の先端部の中央位置に柱状カム2と軸心3を樹脂等のブッシュ7を介在させて円滑に回動自在になるように装着し、その手前側に押し込みビット4と複数のばね部材6を組み付けて枠側下ピボットaを構成する。
ここで図2に示すように柱状カム2は軸心3に回転不可な状態で固定されており、押し込みビット4の先端突部5を柱状カム2の外周面に対向させた状態で複数のばね部材6により付勢させておく。そして軸心3の先端を太鼓形状にカットして異型部分13として形成しておく。また扉側下ピボットbの先端中央部にも同様に太鼓形状の軸部嵌合孔12を設け、同様にブッシュ7等をはめ込んでおく。次に図2に示すように、枠側ベースと枠側フタの端部を面形状で上下方向に曲げ込んでおき、その面間にばね力調整ねじ15の頭部を挟んだ状態で枠側ケース1に対してばね力調整ねじ15が空転するように装着しておく。そして雌ねじ部分16を有したばね力調整部材14をばね部材6を挟んでの柱状カム2とは逆側の端部に配置し、ばね力調整ねじ15をばね力調整部材14の雌ねじ部分16に螺合しておく。
すると図2に示すように、複数のばね部材6により押し込みビット4の先端突部5が軸心3に一体化された柱状カム2の外周面を押し付けており、この状態からばね力調整ねじ15を回すとばね力調整部材14がばね部材6を撓ませる方向に移動し、押し込みビット4の柱状カム2に対する付勢力を調整することができる。また図2に示すように枠側下ピボットa全体に化粧カバーを取り付けてデザイン性を向上させておくとよい。そして図1の状態から扉側下ピボットbを枠側下ピボットaに装着し、さらに扉上部の扉側ピボットと枠側ピボットも組み付けることで枠体23に扉22を吊り込むことができ、その吊り込んだ状態から扉22の開放動作を実施すると、扉側下ピボットbと共に枠側下ピボットaの軸心3と柱状カム2が回転する動作が得られる。
次に図3は柱状カム2の上面図であり、その形状は中央部分に軸心挿入孔17を有した横断面が同一の上下方向に長い柱状で、その外周面は凹み部分8の深い位置から傾斜面9が形成されており、その後なだらかに連続した状態で同一単位開き角度に対して軸心挿入孔17の中心から外周面までの距離が徐々に変化していくように設定された湾曲面10に続いている。そして基準線Yからの開き角度が90度位置付近で湾曲面10が終了するように形成されており、その後は軸心挿入孔17の中心からの距離が一定の円周面11にて形成されている。また、軸心3を柱状カム2の軸心挿入孔17に差し込んで一体化しているため両者は扉22の開放により回転する方向は決まっており、図2での納まりでは扉22が開放するときには常に時計と反対回りに回転するように設定しておく。そして扉22が閉鎖している状態では、押し込みビット4の先端突部5は凹み部分8の傾斜面9に当接した位置に配置されており、扉22の開放動作と共に柱状カム2は図2の状態から時計と反対方向に回転することになる。
そして本発明においては上記の傾斜面9と湾曲面10の形状が最も重要であり、図3に示すように傾斜面9と湾曲面10を軸心3の中心位置から等角度毎ごとに0度から90度までを10度ずつにて分割し、その各々の外周面位置と軸心3の中心までの距離をA〜Jとすると、その長さが必ずJ>I>H>G>F>E>D>C>B>Aとなるように設定しておく。またCからBを経てAに至る開放初期であり閉鎖最終段階の角度範囲では、外周面位置においては湾曲面10から傾斜面9に連続した位置付近になり、この狭い角度範囲で外周面位置と軸心3の中心までの距離が極端に変化するように設定しておく。すると図2の閉鎖状態から扉22の開放と共に柱状カム2を回転させると、押し込みビット4の先端突部5の位置が傾斜面9に押されて一気に横方向に大きく移動し、さらに連続して湾曲面10により徐々に横方向に押されて移動することになり、すなわち湾曲面10が終了するまでの全域においてばね部材6を圧縮させる力につながる。
図4は扉22の開閉に対する枠側下ピボットa内での柱状カム2の回転動作を順に示しており、扉22が完全に閉鎖した状態が図4(b)であり、押し込みビット4の先端突部5は図3での柱状カム2の傾斜面9のBからAの位置付近に当接している。そしてこの状態から扉22を開けると図4に示すように柱状カム2が反時計回りに回転し、扉22が90度開放した段階では図4(f)に示す位置になり、常に先端突部5が傾斜面9や湾曲面10に当接しながら図3におけるJの位置に至る。したがってその間ばね部材6はずっと圧縮され続けるため、その結果図4(f)付近にてもっとも強い力がかかっていることになる。
そしてこの90度開放位置までの範囲で扉22の開放動作を停止してフリーにすると、どの位置であってもばね部材6の付勢力により、先端突部5と湾曲面10の接点の接線方向の傾斜の度合いに比した強さにて柱状カム2を時計回りに回転させる力がかかり、すなわち扉22を閉鎖する動作が得られる。また扉22を完全に閉じ切るために図4(a)に示すように柱状カム2は閉鎖方向に余分に回転するように設定しておくとよく、この状態においてもばね部材6はまだある程度撓んでおり、押し込みビット4に対しては十分な付勢力を有しているように設定しておく。すると施工時の建付け誤差等により扉22が閉まり切らないような不具合を阻止することができる。そして扉22を90度以上開放した段階では柱状カム2の外周面は軸心3を中心とした円周面11になっているため閉鎖方向には力はかからず、その結果180度までのどの位置においても扉22はその位置にて停止する動作が得られる。また図示はしないが、90度以降は円周面11の代わりに軸心3の中心から外周面までの距離が徐々に小さくなっていくように設定しておくと、90度開放後は180度まで自然に開放しようとする動作を得ることも可能である。
次にこの閉鎖動作としての最も理想的な条件としては、約90度開放位置である図4(f)から約15度開放位置である図4(c)付近までの範囲においては、慣性力が無い停止状態からでも確実に扉22の閉鎖動作が開始されるように、ピボットヒンジ自体が有する摩擦力を一定量超える程度の閉鎖力が発生し、図4(c)付近からの閉鎖最終段階においてはラッチ錠と係合させると共に、より確実な閉鎖感覚が得られるために強めの閉鎖力が必要と想定される。ところがばね部材6自体の付勢力は圧縮度合いに対して略比例して強弱するため、どうしても撓みの小さい図4(c)付近のほうが力は弱まってしまう。そこで前述でのAからJに順に距離が大きくなっていく傾斜面9や湾曲面10の形状設定、つまり同一開き角度あたりの変化寸法を、ばね部材6の撓みが大きく付勢力の強い範囲では小さく、ばね部材6の撓みが小さく付勢力が弱まった範囲では大きく設定しておくとよい。したがって図3での単位角度あたりの軸心挿入孔17の中心から外周面までの距離の差、つまり図3での例えばB引くAから算出される変化寸法が、理想とするとJ−I<I−H<H−G<G−F<F−E<E−D<D−C<C−B<B−Aの順に大きくなれば、ばね部材6の付勢力と相殺されて比較的均一な閉鎖力が得られることになる。そしてC−BやB−Aにあたる範囲を傾斜面9として急激に変化寸法を大きくしておくと、ラッチが掛かる閉鎖最終段階でより大きな閉鎖力を得ることができる。
そこで上記の設定からも、ばね部材6の初期撓み時と最大撓み時での付勢力の差は極力小さいほうが条件としてはさらに向上することになる。したがってばね部材6は耐久性能を満たした上で比較的自由長の長い圧縮ばねを既に大きく撓ませた状態で枠側ケース1内に配置し、その状態から柱状カム2の回転動作でさらに一定距離を圧縮させるように設定しておくとよい。すると枠側ケース1の長さをなるべく大きく設定するほうが、ばね部材6の挿入するスペースを確保しやすくなり、条件面としては向上する。そこで図2に示すばね力調整機構よりも図5に示す枠側ケース1に雌ねじ部16を設けて、外側からばね力調整ねじ15を螺合してそのまま直接的にばね力調整部材14を介してばね部材6を圧縮させる構成のほうが、枠側ケース1内を有効に使うことができると想定される。
また人の通行の際に扉22を開放する角度を75度程度と想定すると、それより大きく85度もしくは90度程度開放したときにそのまま扉22を停止保持できる機能が必要と考えられる。その手段としては、図6に示すように扉22の開放角度が90度位置付近での、柱状カム2の外周面に対して押し込みビット4の先端突部5が当接している位置に凹状の溝部分18を設けておくとよい。すると柱状カム2の溝部分18に押し込みビット4の先端突部5が入り込むことにより、クリック感を有した停止動作を得ることが可能である。そして廊下等での90度開納まりの場合では、85度位置付近に溝部分18を設けておくと、壁面の手前で扉22を停止保持することが可能になる。また180度程度開放した位置にも溝部分18を形成しておくと、扉22を完全に開け放った状態で停止保持することが可能になり、これらの溝部分18の位置や数量は任意に設定可能である。
また扉22の重量は重いもので30kgを超えるため、この閉鎖機構による閉鎖力は一定以上強いことが絶対条件として挙げられる。そこで上記での図1に示すような柱状カム2を押し込みビット4でばね部材6を介して付勢力をかける構成を枠側下ピボットaだけではなく、上部の枠側ピボットにも配置するとよく、その結果全体として比較的大きな閉鎖力を得ることができる。また柱状カム2の外周面を滑らかに研磨し、かつ摩擦抵抗の小さいクロムメッキ等を施し、押し込みビット4やブッシュ7等も潤滑剤入りの樹脂成型品等で構成する等の処置を追加するとさらに損失の少ない条件を得ることができる。しかし前述のように枠側ケース1のサイズは軸心3の位置を余程大きく扉面から持ち出さない限り限界があり、前述でのばね部材6の自由長の設定にも当然影響を及ぼすことになる。
そこで図7に示すように、扉側ピボットに閉鎖機構を配置する構成も可能である。この場合は押し込みビット4を扉22と平行に移動する部材と、先端突部5を有して扉面に直角に移動する部材との2部品に分割して両者に斜面19を設けて面対させ、扉22と平行な部材を比較的長く設定してその中に自由長の長いばね部材6を大きく圧縮させた状態で組み込んで付勢させるとよい。すると柱状カム2の回転動作によるばね部材6の付勢力の差を比較的小さくすることができる。そしてばね部材6による付勢力が両斜面19にて直角方向に変換されて先端突部5が柱状カム2の外周面を押し込む動作が可能になる。しかしこの構成では図2や図5に示すようなばね力調整機構を用いようとすると、扉22の上下厚み方向面内からばね力調整ねじ15を回す操作になり無理が生じる。したがって図7及び図8に示すように、ばね部材6の軸心3とは逆側の端部に共に斜面19を有したばね力調整部材14を2個組み合わせて配置し、その片方のばね力調整部材14に雌ねじ部分16を形成しておき、ばね力調整ねじ15を雌ねじ部分16に挿通した状態で、ばね力調整ねじ15の頭部が上下方向になる配置で、扉側ピボットのケースに対して空転するように装着しておく。そして図8に示す状態からばね力調整ねじ15を回すと、雌ねじ部分16を有した側のばね力調整部材14が上下方向に移動し、互いの斜面19により他方のばね力調整部材14が横方向に移動することになる。この動作はばね部材6を撓み方向に押し引きすることになり、その結果押し込みビット4の先端突部5の柱状カム2の外周面への付勢力を調整することができる。したがって扉22の上部に図8に示す構成を配置すると、扉22を開放した状態でばね力調整ねじ15を回すことが可能になる。
また以上では軸心3が扉22の厚み部分より外側に配置されている構成の、持ち出し吊のピボットヒンジにて説明してきたが、上記の閉鎖機構は軸心3が扉22の厚み部分内に配置される中心吊での構成にも適している。図9はその中心吊で扉22が室内側室外側両方向に90度ずつ開放する構成の上面図である。この場合は図9に示すように、柱状カム2の外周形状を扉の閉鎖状態での中心線に対して前後対称な形状にし、扉22が閉鎖している状態で押し込みビット4の先端突部5が当接している凹み部分8から両方向に傾斜面9が形成され、そのまま湾曲面10にと連続しているような外周形状にて形成しておくとよい。そして前述と同様に扉22と平行な方向にばね部材6と押し込みビット4を配置する構成になる。すると扉22を部屋の内外のどちら側に開放しても閉鎖位置に戻る動作を得ることができる。さらには閉鎖状態で先端突部5を凹み部分8の両側の傾斜面9に一定以上の力で押し付けているため、扉22の閉鎖位置を停止保持するという点においても優れている。またこの中心吊の構成では、閉鎖機構を扉22の上下面に配置して、ばね力調整部材14はドライバー等で操作可能な上部扉側ピボットにのみ組み込んでおくような構成が適している。
さらには図9に示す中心吊の構成を発展させると、図10に示すような上枠に配置されたレール内を吊戸車が移動する構成を備え、戸先部分を片方向もしくは両方向に開放する折れ戸ドアにも展開させることが可能になる。そして折れ戸ドアの吊元側の軸心3部分に上記の閉鎖機構を用いることで、自閉機構を有した折れ戸ドアとして提供することができる。またこの構成では柱状カム2の両傾斜面9に挟まれた凹み部分8にて押し込みビット4がばね部材6により強い力で付勢されるため、図9と同様に扉22が枠体23と平行になった状態で保持することが可能になる。さらには室内外から共に押す操作で開放することが可能な両開きの構成では、閉鎖位置にて枠体23の内面と扉22の戸先先端を比較的弱い力であっても保持することができる、例えばローラーキャッチのようなクリック感が必要と想定され、前述での最終閉鎖力を増強できる構成がこの両開きの折れ戸ドアにおいても非常に有効であると考えられる。またこの構成を収納スペース用の通常の折れ戸に用いることも当然可能であり、閉鎖機構付の収納折れ戸として提供することができる。
次に図11に示すように、中心吊の配置でフロアヒンジのように床面に閉鎖機構を埋め込むような構成も可能である。しかしこのような使用用途を想定した場合には公共施設等に用いられるガラス扉等の比較的サイズも大きく重い扉にて実施すると考えられるため、より強力な閉鎖力が必要になると考えられる。そこで図11に示すように柱状カム2を、図9での両開きの形状からさらに反転対称にした凹み部分8が左右対称位置に設けられた形状にし、片側からは押し込みビット4をばね部材6を圧縮することで付勢するように配置し、逆側からは押し込みビット4をばね部材6を引っ張ることで付勢するように配置するとよい。つまり図11の内側2本のばね部材6は圧縮ばねで、柱状カム2の片側を押し付けており、外側の2本のばね部材6は引っ張りばねで、柱状カム2の逆側を引く力により付勢していることになる。
したがって柱状カム2の両側から同じ力で付勢していることになり、柱状カム2の回転動作によりさらに大きな閉鎖力が得られる構成になっている。また前述のような柱状カム2の片側からのみ1個の押し込みビット4をばね部材6により付勢する構成と比較すると、単にばね部材6の付勢力が約2倍になるだけではなく、同じ力で両側から挟みこんでいるため、枠側ケース1とブッシュ7や軸心3とブッシュ7間の回転時の摩擦を大きく低減させる点においても非常に優れており、より損失の少ない構成に発展させることが可能である。またこの構成においても同様にばね力調整機構が必要と考えられる。そしてその手段としては、図示はしないが2組のばね力調整部材14を用いて別々の方向に移動させる構成で、2本のばね力調整ねじ15を個々に操作する手段が簡単である。しかしこの手段では調整の手間が掛かることと、両側のばね部材6による付勢力が異なってしまうことがありえる点がまだ完全とはいえない。
そこで図12に示すように、図8に示しているばね力調整部材14を左右方向に反転複写して一体化したような、両端に斜面19を有しかつ真ん中に雌ねじ部分16を備えた台形のばね力調整部材14を設け、その両側に同じく斜面19を有した2個のばね力調整部材14を、斜面19同士が面対した状態で配置しておくとよい。そして雌ねじ部分16にばね力調整ねじ15を螺合して枠側ケース1に対して空転するように組み込んでおく。するとばね力調整ねじ15を回す操作で真ん中のばね力調整部材14が上下方向に移動し、その両側のばね力調整部材14が両横方向に同時に移動する動作が得られる。そこでこの動作にて軸心3に近づく方のばね力調整部材14に圧縮ばねを配置し、軸心3から遠ざかる方のばね力調整部材14に引っ張りばねを配置しておくと、一本のばね力調整ねじ15で均等なばね部材6の付勢力の調整作業を実施することが可能になる。
以上、上記の閉鎖機構によって一定以上の閉鎖力、特に閉鎖最終段階での大きな閉鎖力が得られることになり、その特徴をさらに用いることで単に扉22が閉じるだけでなく、閉鎖最終段階で一旦低速度にまで減速し、その後ゆっくりと最後まで閉鎖するような制動機構も限定的な範囲ではあるが追加可能であると考えられる。つまり図13に示すように、直管シリンダータイプで内部にオイルが封入されており、出没ピン21の先端が押される際に速い没入動作時には大きな負荷が発生し、遅い没入動作時には小さな負荷しか発生しない構成のダンパー20を扉22の戸尻面に装着し、閉鎖最終段階で枠側ピボットの取り付け面かもしくは縦枠内面に出没ピン21の先端が当接するように配置しておくとよい。
この場合での閉鎖動作の設定方法としては、扉22を任意の角度まで開放した後でそのまま放置した場合では、その状態での閉鎖力を開閉の際に発生する上下ピボットヒンジの摩擦抵抗より強くしておくと、すぐに閉鎖動作を開始することになる。そして閉鎖最終段階でのダンパー20の出没ピン21が枠体23に当接する直前位置において、慣性力が付いていない低速度で閉鎖してきた状態でも、ダンパー20の制動力に負けずにそのままゆっくりと扉22が引き続き閉鎖する動作を得られるように、ばね力調整ねじ15にて扉22の閉鎖力を設定しておくとよい。するともう少し高速度で閉鎖した状態においても上記ダンパー20の特性による大き目の負荷が得られることになり、一定量の減速動作が実施可能になる。その結果上記の範囲内においては閉鎖速度が速くなってもダンパー20の制動効果により減速後にゆっくりと最終段階まで閉鎖する動作が実現できることになる。そしてこの手段は前述での閉鎖機構が閉鎖最終段階において最も閉鎖力が大きくできる構成であるからこそ採用可能と考えられる。また図13でのダンパー20の出没ピン21はそのまま露出した状態で表記しているが、実際の扉22の閉鎖時には出没ピン21の先端は縦枠内面に当接しながら横方向にも移動するため、図示はしないが先端にローラーを設ける等の処置と共に、出没ピン21が必ず真っ直ぐに没するようなガイドを備えておくとよい。