従来の扉用の閉鎖制動装置は、アームの回転動作を閉鎖制動装置内での比較的短い距離の直線運動に変換してその直線動作を制御する機構で、シリンダー内部に圧縮ばねとピストンを挿入し、扉の開閉に連動するアームの回転動作により歯車が回転し、歯車と係合しているラックの移動動作でピストンを直線運動させ、ピストンの動作により区切られた2室間をシリンダー内に充填されたオイルおよびエアーがオリフィスを通して流動することにより負荷をかける構成のものが多く、基本機構に油圧や空気圧を利用したものがほとんどである。この機構の特徴は扉を閉鎖したときに一旦確実に低速度にまで減速し、その後緩やかに最後まで閉じることができる点で、大きく扉を開けた状態からでも、僅かに扉を開けた状態からでも同様の閉鎖動作が得られる。また扉を開くときと閉じるときにオリフィスを流動する流量を変化させることにより、開くときには軽く、閉じるときには大きな負荷が得られるような機構も併せて有している。
これら従来のタイプでは、閉鎖制動装置本体を扉に取り付け、2本のアームを折りたたんだような状態で連結し、連結した2本のアームの片端を上枠に、他端を閉鎖制動装置本体に取り付け、扉の開閉とともに両方のアームの角度が変化し、閉鎖制動装置側のアームの回転動作を閉鎖制動装置内で直線移動動作に変換する構成と、上枠に配置された閉鎖制動装置本体に1本の直線状のアームの端部を装着し、扉にはレール部材を装着し、扉の開閉とともにアームが回転する動作を閉鎖制動装置内で直線移動動作に変換し、アームの他端部は扉面に沿ってレール部材内を直線移動する構成との大きく分けて2タイプがある。前者に該当するタイプを基本としてさらに改良されたものが特開2001−303847公報等に多数開示されており、後者に該当するタイプのものが特開2003−193740公報等に多数開示されている。
しかしながら、前述の油圧式のタイプは優れた性能を有するものの、圧力の変わるオイルを確実に密封する必要があり、どうしても構造が複雑になり部品点数も多く、コスト面で高価になるという問題点を有している。また閉鎖動作としては閉鎖制動装置本体側のアーム端部に連結された歯車を支点位置で回転させるため油圧等に負けない非常に力の強いばねが必要になり、上記強度に対応できる高強度のラックや歯車等をも内蔵させなければならない。したがって閉鎖制動装置全体としてはかなり大きな形状になり、サイズ面でコンパクト性に欠け、デザイン面でもあまり好ましくないことが挙げられる。またデザイン性で優位な扉や枠体に内蔵させ外部に露出させないコンシールドタイプにおいては、よりコンパクト性が要求され、ますます精密な構造が必要で、さらに高価になるという点も懸念されている。
また油圧を用いない扉の閉鎖装置も多数提案されており、単にばね部材の力のみで扉を引寄せる構成のものとしては、特開2000−45624公報や特開2001−288956公報等が開示されている。ところが閉鎖動作の駆動力にばねのみを直接用いる場合は、ばねの特性として扉を大きく開けたときほど引寄せ力は強く、僅かにのみ開けたときは引寄せ力が小さくなる傾向を有している。さらに閉鎖時に何ら負荷がかからない状態では閉鎖途中からは慣性力も加わることになる。したがって扉の開放度合いによって完全に閉じる最終段階での速度が変化してしまうものがほとんどであり、機能的に満足なものであるとは考えにくい。
したがって解決するべき最も重要な点としては、大きく開け放った状態からの閉鎖では速度が付きすぎるため最終段階での減速動作が必要になり、少しだけ開けた状態からの閉鎖では引寄せ力が小さいため減速動作を有すると閉まり切らない、この相反する現象に対応する機構が必要になってくると考えられる。そこでばねの特性として大きく撓ませた前後での負荷があまり変わらないぜんまいばねや等荷重ばね等を用いる構成が考えられ、本発明者によっても特開2005−273199に報告されている。しかしぜんまいばねや等荷重ばねは巻き込み機能が必要であり、サイズ面で大きくなることとコスト面で高価であるため、比較的コンパクトで安価に構成することを要求される室内ドア用の閉鎖制動装置には採用しにくい点が問題としてまだ残っている。さらにはぜんまいばねや等荷重ばねであっても撓みが小さいときのほうが力が大きくなるような逆転現象は得られない。
そこで本発明者は、ケース内に柱状カムと第一軸心と押し込みビットとばね部材を組み付け、第一軸心を柱状カムに固定しておき、押し込みビットの先端突部を柱状カムの外周面にばね部材により付勢した状態で当接させておく構成の閉鎖装置を設け、歯車の回転動作により負荷が発生する構成の減速部材を装着したスライド部材が、ラックを備えたレ−ル本体内を直線移動可能なように組みつけたレール装置を設け、スライド部材にも第二軸心を装着して、ア−ム部材にて第一軸心と第二軸心を連結する構成の閉鎖制動装置を特願2013−031561にて報告した。
また上記構成での柱状カムは、第一軸心の中心から外周面までの距離が狭い開き角度範囲で比較的大きく変化する形状の傾斜面と、それに連続した同一単位開き角度に対して第一軸心の中心から外周面までの距離が徐々に変化していくように設定された湾曲面を有している。そして第一軸心と柱状カムがア−ム部材に同時に固定されているため、扉の開放によりア−ム部材とともに柱状カムが閉鎖装置の第一軸心を中心に回転し、押し込みビットがばね部材を圧縮させながら移動することになり、そのまま放置すると扉の閉鎖動作を得ることができる。またレール装置においてはレ−ル本体内のスライド部材の第二軸心に対してもア−ム部材は回転動作し、スライド部材がレ−ル本体内を移動する動作になる。そしてその移動動作の最終段階で減速部材の歯車がラックに係合して減速動作が得られる構成になっている。
しかし上記閉鎖動作や減速動作においてもまだまだ不備な点があり、減速度合いが大きすぎると閉鎖力より勝ってしまい、扉が完全に閉鎖する前に停止してしまう誤作動になりやすい点が主として挙げられる。したがって確実に扉を閉鎖させるにはあまり大きな減速力を用いることができにくく、風によるあおりのような急激な閉鎖時においての制動効果が小さくなってしまう。さらには閉鎖力を高めようとばね部材の力を大きくすると、片側に第一軸心や柱状カムが押し付けられてしまうため、他の個所の摩擦力も増加して損失の比率が大きくなり、それほど有効な結果にはなりにくい、等の現象がありまだ改良の余地が残っている。
また上記での減速量は減速装置の歯車とラックが係合しながら移動する距離に略比例する構成であり、長い距離を係合しながら移動するほど大きな減速量が得られることになる。しかし上記の構成での扉とアーム本体の軌跡においては、レール本体内をスライド部材が移動する距離は扉が完全に閉鎖する直前において最も小さくなり、条件としてよくないことがもう一つの重要な改良点として挙げられる。
特開2001−303847公報
特開2003−193740公報
特開2000−45624公報
特開2001−288956公報
特開2005−273199公報
特願2013−031561公報
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、複雑で大掛かりな油圧の機構を用いず、比較的単純でかつコンパクトに形成できることを前提条件とし、扉の約180度までの開放と90度弱位置からの自動閉鎖機構を有し、閉鎖最終段階での減速機構による制動動作と、さらには所定の位置での停止保持機能をも備えた扉用の閉鎖制動装置を提案することを目的とする。そして全体としてさらに大きな閉鎖力を有し、かつ最終閉鎖時にもっとも閉鎖力が大きくなるような構成の閉鎖装置を実現し、それと同時に扉の閉鎖最終段階での減速部材の歯車とラックが係合する距離を増幅させる手段を備えることで、閉鎖時には扉の閉鎖速度に応じた制動力が得られ、なおかつ停止してしまわない程度の閉鎖力を有し続け、そのまま緩やかに完全に閉鎖する動作を可能とすることを目的とする。
本発明では上記問題点を解決するために次の技術手段を設けた。まず閉鎖装置とア−ム部材と直線状のレ−ル本体内にスライド部材を移動可能な状態で配置したレール装置とを設け、扉上部と上枠に閉鎖装置とレ−ル装置を振り分けて装着し、両者をア−ム部材で回動可能に連結して扉の閉鎖制動装置を構成する。閉鎖装置はケース内の中央位置に柱状カムと軸心を一体化した状態で回動自在に装着し、その左右両方向から2個の押し込みビットを複数のばね部材と共に向かい合わせた状態で配置し、2個の押し込みビットの先端突部を柱状カムの外周面にばね部材により付勢した状態で当接させておく。そしてスライド部材にも軸心部を形成してレ−ル本体内を直線移動可能なように組みつけ、ア−ム部材にて閉鎖装置の軸心とスライド部材の軸心部を連結する。
ここで、柱状カムは横断面が同一形状の上下方向に長い柱状であり、中央位置に軸心挿入孔を有し、中心を通る基準線に対して片方半分の外周面は軸心の中心からの外周面までの距離が狭い開き角度範囲にて極端に変わる傾斜面と、それに連続した同一単位開き角度に対して軸心の中心からの外周面までの距離が徐々に変化していくように設定された湾曲面とそれ以降の曲面から形成され、他方半分の外周面は片方半分の外周面を、軸心を中心としてそのまま180度回転させた形状であり、全体としては略8の字形状として形成しておく。
そして両押し込みビットと柱状カムとの動作においては、扉が閉鎖しているときは両押し込みビットの先端突部は柱状カムの略8の字の凹み位置付近の傾斜面と当接しており、扉の初期開放段階でアーム部材に装着された柱状カムの回転動作により両押し込みビットの先端突部が傾斜面に押されてばね部材を大きく撓ませながら移動し、続けて扉を開放すると軸心の中心からの外周面までの距離が徐々に増加していく形状の湾曲面に当接しながらさらにばね部材を徐々に撓ませることになる。この状態での柱状カムに対する力のかかり方は、左右両方向から同じ力で柱状カムを挟み込んで押し付けているため、単に1個の押し込みビットをばね部材と共に片方からのみ押し付ける構成と比較すると、柱状カムを元の方向に回転させようとする力は単に2倍になるだけでなく、軸心部分周辺の摩擦の低減にもつながるため非常に効率のよい力の伝達が実現できる。
また湾曲面を扉の開放角度が約85度の位置までにて設定しておくと、その位置でばね部材の撓みが最も大きくなっているため、湾曲面の接線の傾斜方向に対して大きな力がかかり、そのまま放置すると閉鎖動作を始めることになる。そしてばね部材の力は撓み量が減少していくにつれて少しずつ弱くなっていくため、その分湾曲面の接線の傾斜を調整しておいて極端に閉鎖力が小さくならないようにしておくとよい。さらには傾斜面にて急激に変化量が大きくなるように設定しておくと、この最終閉鎖段階において最も閉鎖力を大きくすることも可能である。またアーム部材の作動範囲での、ばね部材の初期たわみ時と最大撓み時での力の差をなるべく小さくするために、ばね部材は比較的自由長の長い圧縮ばねを既に大きく撓ませた状態でケース内に配置し、その状態から柱状カムの回転動作でさらに一定距離を圧縮させるように設定しておくとよい。
またレール装置においては、扉が閉鎖するときにスライド部材が移動してくる方向のレ−ル本体内の端部に制動ラックを装着し、歯車と連動しており歯車の回転が速くなるほど発生する負荷も増加する構成の減速部材を設け、レ−ル本体内を移動するスライド部材に上記の減速部材を組み付け、扉の閉鎖最終段階の所定位置から減速部材の歯車と制動ラックが係合するように配置し、その係合動作によって扉の速度を減速させることができるように構成する。したがって閉鎖時の減速量は減速部材の歯車と制動ラックが係合したままで移動する距離に略比例することになる。
次に開閉時の一連の動作としては、扉が閉鎖しているときは閉鎖装置とレ−ル装置とア−ム部材は一直線にて重なった状態であり、扉を開放するにつれてア−ム部材が閉鎖装置の軸心を中心に回転しながらスライド部材がレ−ル本体内を移動する動作になる。また閉鎖装置においては軸心と柱状カムがア−ム部材に同時に固定されているためアーム部材と共に柱状カムも回転し、ばね部材を撓ませながら両押し込みビットがケース内を直線移動することになる。そして開放動作を停止させると、両押し込みビットの先端突部が柱状カム両外周面の湾曲面や傾斜面を押す動作になり、その外周面の接線方向の傾斜度合いによって柱状カムを回転させようとする動作を得、柱状カムと軸心と共にア−ム部材を戻る方向に回転させようとする力につながる。
次に扉を所定の角度まで開放した後で放置した場合の閉鎖動作としては、その状態での閉鎖力を丁番等の摩擦抵抗より僅かに強くしておくと、そのまますぐに閉動作を開始し、所定角度位置にて制動ラックと減速部材の歯車の係合による減速動作が一旦実施されることになる。そして、この減速動作開始位置にて押し込みビットの先端突部の当接位置が湾曲面から傾斜面に移動した段階に設定しておくと、湾曲面と連続している傾斜面は軸心の中心からの距離が急激に小さくなるように設定されているためにさらに大きな閉鎖力が得られ、扉は減速されつつも止まることなくそのまま閉鎖動作を継続し、扉を最後まで確実に閉鎖することが可能になる。
しかし上記の構成での扉とアーム部材とレール装置の軌跡においては、レール本体内をスライド部材が移動する距離は、扉の開放角度が30度以上90度未満では比較的大きいが、30度から15度においてはかなり少なくなり、扉が完全に閉鎖する直前の15度から0度において最も小さくなる。ところが減速量は減速装置の歯車と制動ラックが係合しながら移動する距離に略比例するため、上記のままでの減速部材の歯車と制動ラックが係合する構成では条件としてはあまりよくない。
そこで、扉が閉鎖するときにスライド部材が移動してくる方向のレ−ル本体内の端部の制動ラックを、増幅ラックと移動制動ラックとから構成して連動歯車にて両者を連動させておくとよい。そしてレ−ル本体内を移動するスライド部材の端面がまず増幅ラックに当接し、その動作で移動制動ラックが逆の方向に移動するように両者を配置しておく。すると移動制動ラックを減速部材の歯車と係合させることでスライド部材の移動距離と移動制動ラックの逆方向への移動距離の合計距離にて減速動作を得ることができ、扉の閉鎖最終段階でのレール内でのスライド部材の短い移動距離においても減速動作に必要な歯車と移動制動ラックの係合距離を大幅に増幅させることが可能になる。
さらには減速部材の歯車が、まず停止した状態での移動制動ラックに一定距離係合し、次のタイミングでスライド部材の端面が増幅ラックに当接し、その後は移動制動ラックが逆の方向に移動することによる減速動作に連続するような、2段階での減速動作を設定することも可能である。または増幅ラックと移動制動ラックを連動させる連動歯車の両側の歯数の比率を変更し、スライド部材の移動距離に対する移動制動ラックの移動距離を任意に設定することで、移動制動ラックが減速部材の歯車と係合して扉を減速させる度合いを幅広く調整可能とするような構成も実施可能である。
また人の通行の際に扉を開放する角度を75度程度と想定すると、それより大きく開放したときにそのまま停止保持できる機能が必要と考えられる。その手段としては、扉の開放角度が80度から85度位置付近におけるアーム部材の角度位置での、柱状カムの外周面に対して押し込みビットの先端が当接している位置に凹状の溝部分を設けておくとよい。ここで実際には扉の開放角度が85度付近の時にはアームの角度は105度程度に達しており、柱状カムのこの位置に設けられた溝部分に押し込みビットの先端突部が入り込むことにより、クリック感を有した停止動作を得ることが可能である。そしてこの溝部分を越えてさらに開放する段階においては、柱状カムの曲面の傾斜を扉がより開こうとする方向に力がかかる設定にするとよく、そのまま扉を180度まで完全に開放することが可能になる。
そしてレール本体内の扉が約80度程度開放した段階で減速部材の歯車が位置する付近にもう一つの開放時係合ラックを配置し、扉の開放時にも80度〜90度開放付近の一定角度範囲にて減速動作が得られるように構成すると、強く扉を開け放った場合にも開放角度が80度以上にて減速部材の歯車と開放時係合ラックにより減速させることができる。さらには扉の開放角度がもう少し手前の位置から係合させて一定距離間減速し、そのまま85度付近での柱状ラックの溝部分にて停止させる動作に連続させる構成も可能である。
また、扉を閉鎖させるために必要な力は扉の重量やサイズにより異なるため、各種扉に対して閉鎖力が調整できることが重要である。そこで閉鎖装置のケース内の両押し込みビットを付勢しているばね部材の両端部に互いに斜面を有した2個の部材からなるばね力調整部材を左右2組設けておく。そしてばね力調整部材の片方の部材に設けた雌ねじ部分に螺合させた状態でばね力調整ねじをケースに対して空転する状態にて組みつけておく。すると施工後に左右2本のばね力調整ねじを均等に回すことでばね部材を押し込む動作が得られ、ばね部材の初期撓みを変更することで扉の閉鎖力を調整できることになる。
ケース内に2個の押し込みビットと2セットのばね力調整部材と複数のばね部材と柱状カムを挿入した構成の閉鎖装置と、減速部材を装着したスライド部材と制動ラックを備えたレール本体からなるレール装置と、両者を連結するためのアーム部材のみの簡単な構成であり、部品点数も少なく安価に提供可能である。また大掛かりな油圧機構等は用いておらず、耐久性に優れていると共に油漏れ等の危険性も無い。そして扉の解放後に自動的に閉鎖動作を開始し、閉鎖最終段階においては一定の減速動作が実施され、その後停止することなく閉鎖動作を続け、より確実に扉を完全に閉鎖することが可能になる。
アーム部材に傾斜面と湾曲面を備えた略8の字形状の柱状カムを軸心と共に固定し、その左右両側からばね部材にて押し込みビットの先端突部を柱状カムの両外周面に押し付ける機構であるため、単に1個の押し込みビットをばね部材と共に片方からのみ押し付ける構成に比べて、柱状カムを元の方向に回転させようとする力は単に2倍になるだけでなく、軸心周辺のブッシュ等との摩擦の低減にもつながるため非常に効率のよい力の伝達が実現でき、全体として大きな閉鎖力が得られるため、比較的重量があるドア等にも適応可能になる。
扉を停止保持させたい任意の開放角度において、その位置での柱状カムの外周面に凹状の溝部分を設けて押し込みビットの先端突部が入り込むように設定しておくことにより、クリック感を有した扉の停止保持動作を得ることができる。さらにはレール本体内にストッパーを装着することでスライド部材の移動を制限し、任意の開き角度にてそれ以上扉が開放しないようにすることもでき、ドアストッパーやアームストッパーの役割も簡単に追加することが可能である。
レ−ル本体内の制動ラックを、増幅ラックと移動制動ラックから構成して連動歯車にて両者を連動させておき、レ−ル本体内を移動するスライド部材が増幅ラックに当接し、その動作で移動制動ラックが逆の方向に移動するように両者を配置する。するとスライド部材が増幅ラックに当接すると同時に移動制動ラックを減速部材の歯車と係合させることで、スライド部材の移動距離と移動制動ラックの逆方向への移動距離の合計距離にて減速動作を得ることができ、扉の閉鎖最終段階でのレール内でのスライド部材の短い移動距離においても減速動作に必要な歯車と移動制動ラックの係合距離を大幅に増幅させることが可能になる。
また減速動作の初期段階として、減速部材の歯車が停止した状態の移動制動ラックに一定距離係合し、次のタイミングでスライド部材が増幅ラックに当接し、その後は移動制動ラックが逆の方向に移動することによる減速動作に連続するような、2段階での減速動作を設定することも可能である。さらには、増幅ラックと移動制動ラックを連動させる連動歯車の両側の歯数の比率を変更し、スライド部材の移動距離に対する移動制動ラックの移動距離を任意に設定することで、移動制動ラックが減速部材の歯車と係合して扉を減速させる度合いを幅広く調整可能とするような構成も実施可能である。
扉と枠体に閉鎖装置とレール本体を振り分けて両者をアーム部材で連結する構成においては、閉鎖装置を上枠にレール本体を扉の上部に配置する構成と、その逆の閉鎖装置を扉の上部に、そしてレール本体を上枠に配置する構成が可能であり、その両方の構成において上枠や扉に掘り込んで内蔵させ、アーム部材の薄い側面のみが露出するだけのコンシールドタイプとして実施することができる。またドアの施工後にも取り付け可能な面付け型も可能であり、細長いレール装置と比較的小さい閉鎖装置が扉の上部に水平に並んで配置されることになり、スリムな感じのデザイン性に優れた構成にすることができる。
以下図面に基づいて本発明に関する扉用閉鎖制動装置の実施の形態を説明する。図1は本発明の閉鎖制動装置をドアの上枠33と扉34の上部に内蔵させた状態で取り付け、30度程度扉34を開放したときの斜視図であり、図2はその状態での納まり上面図である。まず本発明においては、図1に示すように上枠33の下部内面に閉鎖装置aを、扉34の上部厚み方向面にスライド部材2とレール本体1からなるレール装置bを共に埋め込んだ内蔵状態で配置し、閉鎖装置aとスライド部材2をアーム部材3にて連結しておく。また図3は同じ構成での扉34の閉鎖状態を示す正面断面図であり、上枠33と扉34上面との隙間部分にアーム部材3が配置された状態になる。そして図4は閉鎖状態から180度開放状態までの扉34の開閉によるスライド部材2とアーム部材3の位置関係の軌跡を示した上面図であり、アーム部材3は一定の長さであるため、扉34の開閉に従ってスライド部材2がレール本1体内を直線移動しながらアーム部材3が水平方向に回転移動する動作になる。
次に図5は閉鎖装置aの斜視図であり、ケース4内の中央位置に柱状カム5と軸心7を樹脂等のブッシュ13を介在させて円滑に回動自在になるように装着し、その左右両側に2個の押し込みビット6と複数のばね部材12を組み付けて構成する。柱状カム5は軸心7に回転不可な状態で固定されており、両押し込みビット6先端の先端突部11を柱状カム5の外周面に対向させた状態で複数のばね部材12により付勢させておく。そして軸心7の先端を太鼓形状にカットしておき、アーム部材3の片端に同様に太鼓形状の軸心取り付け孔14を設け、両者を互いに嵌め込んでねじにて連結する。図6は閉鎖装置aの正面図であり、図7は閉鎖装置aを下から見上げたときの平面図である。また図6と図7に示すように、実施形態ではばね部材12を各4本ずつ両押し込みビット6に配置して均等に柱状カム5を押し付けるようにしている。
また図6に示すように、ばね部材12の片端に共に斜面18を有したばね力調整部材15を2個組み合わせた状態で配置し、その片方のばね力調整部材15に雌ねじ部分16を形成しておき、ばね力調整ねじ17を雌ねじ部分16に挿通した状態で、ばね力調整ねじ17の頭部が下向きになる配置で、ケース4に対して空転するように装着しておく。すると図6に示す状態からばね力調整ねじ17を回すと、雌ねじ部分16を有した側のばね力調整部材15が上下方向に移動し、互いの斜面18により他方のばね力調整部材15が横方向に移動することになる。この動作はばね部材12を撓み方向に押し引きすることになり、その結果押し込みビット6の柱状カム5の外周面への付勢力を調整することが可能になる。
次に図8は軸心7に固定された状態の柱状カム5の上面図であり、その形状は横断面が同一の上下方向に長い柱状で、外周は略8の字形状になっており、その外周面は略8の字の凹み部分10の深い位置から傾斜面9が形成されており、その後なだらかに連続した状態で同一単位開き角度に対して軸心7の中心から外周面までの距離が徐々に変化していくように設定された湾曲面8に続いている。そして基準線Xからの開き角度が110度位置付近の湾曲面8が終了する位置に溝部分19が形成されており、その後はなだらかな曲面にて反対側の凹み部分10へと連続した形状にて形成されている。したがって全体としては基準線Xを中心として上下を180度回転させた状態で重なり合う形状になっている。また、柱状カム5はアーム部材3に固定された状態で回転する方向は決まっており、図8に表示する向きでは扉34が開放するときには常に時計と反対回りに回転するように設定しておく。そして図7に示すように扉34が閉鎖している状態では、押し込みビット6の先端突起11は凹み部分10の傾斜面9に当接した位置に配置されている。
ここで傾斜面9や湾曲面8の外周形状としては、図8に示すように傾斜面9と湾曲面8を軸心7の中心位置から等角度毎ごとに0度から110度までを10度ずつにて分割し、その各々の外周面位置と軸心7の中心までの距離をA〜Lとすると、その長さが必ずL>K>J>I>H>G>F>E>D>C>B>Aとなるように設定しておく。またCからBを経てAに至るアーム部材3が戻る最終段階の角度範囲では、外周面位置においては湾曲面8から傾斜面9に連続した位置付近になり、この狭い範囲角度で外周面位置と軸心7の中心までの距離が極端に小さくなるように設定しておく。そしてL付近の軸心7からの距離がもっとも長くなる外周面位置に溝部分19を形成しておく。すると図7の閉鎖状態からアーム部材3と共に柱状カム5を回転させると、両スライド部材2の先端突起11の位置が湾曲面8により左右横方向に押されて移動することになり、すなわちばね部材12を圧縮させる力につながる。
図9は閉鎖装置aに対するアーム部材3の回転動作を順に示しており、扉が完全に閉鎖した状態が図9(b)であり、スライド部材2の先端突起11は図8での柱状カム5の傾斜面9のBからAの位置付近に当接している。そしてこの状態から扉34を開けると図4に示すように柱状カム5と共にアーム部材3が反時計回りに回転し、扉34が85度〜90度開放した位置でアーム部材3は図9(d)に示すように約110度程度回転することになり、常に先端突起11が傾斜面9や湾曲面8に当接しながら図8におけるK〜Lの位置に至る。したがってその間ばね部材12はずっと圧縮され続けるため、その結果図9(d)付近にてもっとも強い力がかかっていることになる。そしてこの位置で扉34の開放動作を停止してフリーにすると、ばね部材12の付勢力によりその湾曲面8での接点の接線方向の傾斜の度合いによった強さにてアーム部材3を時計回りに回転させる力がかかり、すなわち扉34を閉鎖する動作が得られる。また扉34を完全に閉じ切るためにアーム部材3は図9(a)に示すように余分に回転するように設定しておくとよく、この状態においてもばね部材12はまだある程度撓んでおり、押し込みビット6に対しては十分な付勢力を有しているように設定しておく。すると施工時の建付け誤差等により閉まり切らないような不具合を阻止することができる。
この閉鎖動作が本発明での最も重要な機構であり、理想的な条件としては図9(d)の位置からは扉34を閉鎖するために必要な丁番等の摩擦力を超える程度の閉鎖力が継続し、図9(c)付近からの閉鎖最終段階においては、慣性力が無い状態でも確実に閉じ切るためにはより強めの閉鎖力が必要と想定される。ところがばね部材12自体の付勢力は圧縮度合いに対して略比例して強弱するため、どうしても撓みの小さい図9(c)付近のほうが力は弱まってしまう。そこで前述でのAからLに順に距離が大きくなっていく湾曲面8の形状設定、つまり同一開き角度あたりの変化寸法をばね部材12の力の強い範囲では小さく、ばね部材12の力が弱まった範囲では大きく設定しておくとよい。したがって図8での単位角度あたりの中心からの距離の差である変化寸法が、理想とするとK−J<J−I<I−H<H−G<G−F<F−E<E−D<D−C<C−B<B−Aの順に大きくなれば、ばね部材12の力と相殺されて比較的均一な閉鎖力が得られることになる。そしてC−BやB−Aにあたる範囲を傾斜面9として急激に変化寸法を大きくしておくと、ラッチが掛かる閉鎖最終段階でより大きな閉鎖力を得ることができる。
また扉34の重量は重いもので30kgを超えるため、この閉鎖装置aによる閉鎖力は一定以上強いことが絶対条件として挙げられる。そこで上記での柱状カム5を中央に挟んで両側から複数のばね部材12による押し込みビット6での付勢力をかける構成が最も適しており、柱状カム5の片側からのみ1個の押し込みビット6をばね部材12により付勢する構成と比較すると、単にばね部材12の力が2倍になるだけではなく、ケース4とブッシュ13との回転時の摩擦を大きく低減させる点においても非常に優れている。さらには柱状カム5の外周面を滑らかに研磨し、かつ摩擦抵抗の小さいクロムメッキを施し、押し込みビット6も潤滑剤入りの樹脂成型品等で構成する等の処置を追加するとさらに損失の少ない条件が得られる。
そして図9(d)の位置を超えてさらに扉34を開放すると、柱状カム5の外周形状は曲面にて軸心7の中心からの距離は小さくなっていくため、今度は扉34をさらに開放しようとする動作になり、そのまま180度まで開放することができる。つまり図8の柱状カム5の形状では扉34が約90度の位置を境にして両方向に付勢する動作になる。また図9での柱状カム5には図8に示すような溝部分19は表記しておらず、したがってこの場合は大きな抵抗無く扉34が90度開放位置付近を通過する動作になる。ここで図8に示すような溝部分19を設けておくと、図9(d)付近で先端突起11が溝部分19に入り込み扉34を停止保持することができ、その後は両方向へのクリック感のある扉34の開閉動作を得ることも可能になる。また扉34の90度以上の開放動作においてはこの動作に限定されるわけではなく任意であり、例えば図9(d)の位置からの柱状カム5の外周面形状を軸心7を中心とした円周面にすることで、扉34の90度開放以降はどちらの方向にも力はかからず、その位置にてそのまま停止するような構成も可能である。
以上、上記の閉鎖装置aの構成によって一定以上の閉鎖力、特に閉鎖最終段階での大きな閉鎖力が得られることになり、その特徴をさらに用いることで単に扉34が閉じるだけでなく、油圧式のドアクローザーのように閉鎖最終段階で一旦低速度にまで減速し、その後ゆっくりと最後まで閉鎖するような制動機構も十分追加可能であると考えられる。そこで減速部材として歯車21の回転で負荷が発生する構成のロータリーダンパー20を用い、レール本体1内をスライド部材2が移動した閉鎖最終段階で、レール本体1内に装着された制動ラック22と歯車21が係合することによる減速動作を用いる構成が適している。図10は歯車21を有するロータリーダンパー20を装着したスライド部材2の正面図であり、図11はその上面図である。ここで図4に示すようにスライド部材2は扉34の開閉に従ってレール本体1内を移動するため、その際にレール本体1の内壁面とスライド部材2の側面が擦れて走行性能が下がらないようにスライド部材2の適当な箇所にローラー23を配置しておくとよい。そして図2に示すようにスライド部材2の上部とアーム部材3の他端部を回動自在に連結する。
ここでロータリーダンパー20の構成としては、ハウジング内に粘性の高いオイルと羽根状の部材とを収容して0リングにて密封されており、歯車21が回転するとこの羽根状の部材が連動して回転し、オイルを押しのけながら回転することで負荷をかける機構が適しており、歯車21の回転速度が速いほど大きな負荷が掛かり、歯車21の回転速度が小さい場合は発生する負荷も小さくなる性質が非常に有効である。そして扉34を開放するときは当然操作が軽いほうがよいため、このロータリーダンパー20は歯車21が片方向に回転するときにのみ負荷が発生し、逆方向への回転時はフリーになるワンウエイクラッチ付のものを使用するとよい。また減速部材として用いることができるものはロータリーダンパー20のみに限らず、耐磨耗性能に優れた材質のワッシャ状の部材にて複数の皿ばね座金を挟み込んで歯車21と連動して回転するように組付けた、ばねの押し圧力と摩擦力とを利用して回転時に負荷をかけるトルクヒンジ(スイーベルヒンジ)のような構成でも可能である。
ここで、ロータリーダンパー20と制動ラック22による減速動作においてはさまざまな構成が実施可能である。まず基本的なロータリーダンパー20と制動ラック22の配置においては、図12に示すように扉34の閉鎖時にスライド部材2が移動してくるレール本体1の片端部に制動ラック22を装着しておく構成が簡単である。この構成ではスライド部材2が所定の速度で図13(a)に示す位置に移動した段階で、ロータリーダンパー20の歯車21が制動ラック22に係合して減速動作が開始する。そしてある程度減速が実施されるとスライド部材2の移動速度が落ち、その結果ロータリーダンパー20への負荷が小さくなる。ところが閉鎖装置aによる閉鎖力は最終段階でも十分有しているため、図13(b)に示すように引き続きスライド部材2はレール本体1内をゆっくりと移動して、そのまま低速度にて閉鎖動作が実施され、完全に扉34を閉鎖させることができる。しかし前述のように、閉鎖装置aの特徴として閉鎖最終段階での閉鎖力が大きく設定できているとしても、それを超える負荷が発生するロータリーダンパー20を用いると図13(a)と図13(b)の間で停止してしまうことも懸念される。したがって扉34が非常にゆっくりと慣性力がついていない状態で閉鎖して図13(a)の位置に差し掛かっても、停止せずにそのまま最後まで閉鎖するように閉鎖力とロータリーダンパー20の負荷との関係を適宜設定しておく必要がある。
そして、もう一点ここで非常に問題となるのが、扉34が閉鎖するときの単位角度あたりのスライド部材2の移動距離である。図14は扉34を90度開放した時点から閉鎖させる際の、スライド部材2のレール本体1内での移動距離を、扉34の15度ごとの閉鎖位置にて示した模式図である。つまり90度から75度に閉鎖したときにスライド部材2はg−fの距離を移動することになる。そして本発明の構成における特性としては、この15度ごとの移動距離においては、75度から45度までのf−eとe−dとが最も大きく、その次に少しだけ短くなるのが90度から75度のg−fと45度から30度のd−cになる。そして30度から15度のc−bはかなり移動距離が小さくなり、15度から0度への最終閉鎖段階においてのb−aは極端に短くなってしまう。そして15度から0度への閉鎖においても15度から10度より10度から5度が、さらには5度から0度がますます移動距離は小さくなってしまう。
ところが上記の減速動作はロータリーダンパー20の歯車21が制動ラック22に係合したまま移動する距離に略比例するため、閉鎖最終段階での減速量に関してはこの係合距離があまり取れないことになり、条件面において十分とは想定しにくい。そこで図15に示すように、扉34が閉鎖するときにスライド部材2が移動してくる方向のレ−ル本体1内の端部下部に増幅ラック24を設け、その斜め上部に移動制動ラック25を配置して、2個の平坦な歯車を軸で連結したような形状の連動歯車26にて両者を連動させ、増幅ラック24が押されると移動制動ラック25が逆方向に移動するように設定しておくとよい。そしてスライド部材2の端面が増幅ラック24に当接すると同時にロータリーダンパー20の歯車21が移動制動ラック25と係合するように構成しておく。
すると閉鎖最終段階でレ−ル本体1内を移動するスライド部材2がまず図16(a)に示すように増幅ラック24に当接し、ほぼ同時に移動制動ラック25がロータリーダンパー20の歯車21と係合する動作が得られる。そしてこの動作は連動歯車26の両側の歯数が同じであるなら、図16(b)に示すように歯車21と移動制動ラック25が係合してからスライド部材2が移動する距離L1と移動制動ラック25が逆方向に移動する距離L2の合計である2倍の距離にて減速動作が実施されることになり、扉34の閉鎖最終段階でのレール本体1内でのスライド部材2の短い移動距離においても減速動作に必要な歯車21と移動制動ラック25の係合距離を大幅に増幅させることが可能になる。また比較的急速に扉34が閉鎖した場合などのために、増幅ラック24のスライド部材2と当接する部分に衝撃吸収材27等を装着しておくとよい。
しかし上記の減速係合距離が2倍の構成では、瞬間的にかなり急激な減速動作が実施されると想定される。そこでさらに優れた構成としては図17に示すように、移動制動ラック25を手前方向にさらに長く設定しておき、図17(a)に示すようにまずロータリーダンパー20の歯車21が停止状態の移動制動ラック25に係合してL1の距離のみ1倍の減速動作を実施させ、その後のタイミングで図17(b)に示すようにスライド部材2が増幅ラック24に当接し、さらに図17(c)に示すようにスライド部材2が移動する距離L2と移動制動ラック25が逆方向に移動する距離L3の合計の2倍の距離を減速させる2段階での減速動作を用いるとよい。この構成においては、比較的スライド部材2の移動距離がある図14での扉34の開放速度が30度から15度付近を1倍の減速動作にて設定し、その後の15度〜0度の範囲を2倍の減速動作に設定するともっとも有効な制動動作が得られると想定される。
さらには図示はしないが、増幅ラック24と移動制動ラック25を連動させる連動歯車26の両側の歯数の比率を変更し、スライド部材2の移動距離に対する移動制動ラック25の移動距離を任意に増幅して設定することで、移動制動ラック25がロータリーダンパー20の歯車21と係合して扉34を減速させる度合いをより幅広く可能とするような構成も実施できる。また閉鎖状態から扉34を開放する際には増幅ラック24と移動制動ラック25が所定の位置に必ず復帰するように図16や図17に示すように増幅ラック24内にばね部材12を装着しておくとよい。
また別の制動機構としては、扉34が所定位置にまで閉鎖した段階で強制的に歯車21が移動して移動制動ラック25と噛み合う係合手段と、扉34がロータリーダンパー20の負荷により減速されながらさらに閉じ、所定の低速度になった段階で歯車21が移動制動ラック25から外れる離脱手段とを有する係脱機構を用いることも可能である。その係脱機構の一例としては、図18に示すように、まず昇降部分28を設けたロータリーダンパー20をスライド部材2に対して一定の角度範囲にて首振り動作するように両者をスイング軸29で連結し、レール本体1の端部に増幅ラック24と連動歯車26と移動制動ラック25からなる構成を、その少し手前の下部位置に山型片30を配置しておく。そしてロータリーダンパー20の歯車21が移動制動ラック25に対して常に離れようとする方向に力がかかるように離脱用ばね31をスイング軸29に巻き付けるような配置にて組みつけておく。
すると、図18(a)に示すような扉34が大きく開放された状態ではロータリーダンパー20の歯車21と移動制動ラック25は離れているため両者は何ら影響していない。そして閉鎖最終段階に差し掛かるとスライド部材2がレール本体1内を移動してきて、ロータリーダンパー20の昇降部分28が山型片30に当たり、離脱用ばね31を撓ませながら山型片30に乗り上げるようにして上方に首振り動作し、ロータリーダンパー20の歯車21が移動制動ラック25側に移動する。そしてそのままさらに閉鎖すると図18(b)に示すように歯車21と移動制動ラック25が強制的に係合し、この段階から減速動作を得ることになる。ところがロータリーダンパー20の昇降部分28が山型片30の上面に乗っているのはこの状態からは極僅かな範囲のみであり、図18(c)の位置においては、既に昇降部分28が山型片30から外れており、強制的に歯車21と移動制動ラック25を係合させる構成は終了している。
したがって図18(c)から図18(d)に至る状態では、扉34が閉鎖する力すなわちスライド部材2の移動しようとする力により歯車21と移動制動ラック25間に発生する摩擦力と離脱用ばね31の力が存在していることになる。つまり扉34を減速させるための負荷により移動制動ラック25と歯車21間に発生する摩擦力が離脱用ばね31によるロータリーダンパー20を下方に戻そうとする力より大きい間は減速動作を連続させ、その力が小さくなった段階で離脱用ばね31の力が上回ると歯車21が移動制動ラック25から離脱して減速動作が終了することになる。この離脱動作に関しては歯車21と移動制動ラック25との接点とスイング軸29とを結ぶ線の水平面に対する傾きが重要になり、この傾きが大きくなるほど離脱しにくい条件になる。そこで離脱用ばね31の強さとこの傾きを適宜調整して最も適した離脱条件にて設定するとよい。
そしてこのロータリーダンパー20の歯車21と移動制動ラック25間に発生する摩擦力は扉34の閉鎖速度が速い時ほど大きく、速度が遅くなるにつれて小さくなっていく。したがって非常に強く扉34を閉鎖した場合等では、ある程度減速されてもまだ扉34の閉鎖速度が残っているときには摩擦力はまだ大きく、図18(d)のように歯車21は移動制動ラック25から離脱することは無い。そして閉鎖速度が所定の低速度になり歯車21が移動制動ラック25から離脱した状態を図18(e)に表示しており、歯車21と移動制動ラック25に発生する摩擦力が離脱用ばね31の付勢力よりも小さくなった段階で歯車21は移動制動ラック25から離脱して減速動作が終了する。
また歯車21が移動制動ラック25から離脱した図18(e)の段階においても、押し込みビット6を付勢するばね部材12と柱状カム5とによる閉鎖力は残っているため、そのまま最後まで扉34は閉鎖することになる。したがってこの歯車21と移動制動ラック25が離脱するときの条件を任意に設定することにより、扉34を比較的遅い所定速度にまで一旦減速し、引き続きそのまま緩やかに閉じる制動動作が得られることになる。つまり非常に扉34の速度が速いときには歯車21と移動制動ラック25が噛み合っている距離が長くなり、その分全体の減速量も大きくなり、逆に扉34の速度が遅いときは歯車21と移動制動ラック25が噛み合っている距離が短くなり、全体の減速量も少なくなるためである。その結果閉鎖速度の大小に比例した減速量が得られることになり、風での強いあおり等による閉鎖動作であっても最終段階での速度を一定にできるため、非常に優れた扉34の閉鎖制動動作が実現できることになる。
以上では様々な閉鎖条件にて説明してきたが、長年の使用により丁番の動きが悪くなったりする場合も想定され、どのような条件においても扉34を確実に最後まで閉鎖させることが必要である。そこで前述の図6に示すばね部材12の付勢力を調整可能な構成が有効であり、施工後にばね力調整ねじ17にてばね部材12の初期撓みを変更することで扉34の閉鎖力を調整するとよい。その要点としては、扉34を閉鎖方向への慣性力がついていない状態で減速動作に差し掛かる位置にて一旦停止保持し、その後閉鎖装置aのみの力でゆっくりと閉鎖が継続するようにばね力調整ねじ17にて強さを調整するとよい。また扉34を閉鎖させるために必要な力は扉34の重量やサイズにより異なり、各種様々な扉34に対して適応させることも重要であり、この点においても上記手段での施工後に閉鎖力が調整できることが重要と考えられる。
また扉34を開放する動作においては、操作力は軽いほどよいため、ロータリーダンパー20の種類としては、歯車21は片方向の回転動作にのみ負荷が発生し逆方向はフリーになるワンウエイクラッチ付のタイプを使用し、逆方向の歯車21の回転では負荷が発生しないようにしておくとよい。すると開放時には閉鎖装置aのみの力に対して扉34を押し開く、比較的軽い開放操作にて実施可能になる。
また廊下等での約90度までしか扉34が開放できない納まりの場合においては、通常85度開放付近にて壁面に扉34が衝突しないように、戸当たりやアームストッパーが装着されることが多い。しかしこれらの戸当たりやアームストッパーでは閉鎖状態から急激に扉34を開け放った場合においては強い力で衝撃を伴って戸当たりやアームストッパーにて強制停止させられることになる。そこで本発明のレール装置においては、扉34が約80度開放した段階でのレール本体1内のスライド部材2の位置に、歯車21と係合して負荷が発生するように、開放時係合ラック32を装着しておくとよい。また上記の構成では、ワンウエイクラッチのロータリーダンパー20を用いているため、図3に示すようにレール本体1の中央下部位置に開放時係合ラック32を設けておくと、扉34の開放時にも80度開放以上の一定角度範囲にて減速動作が得られることになる。そしてこの角度範囲は図14でのg−fに相当し、この範囲はスライド部材2の移動距離が比較的大きいため減速動作としてはかなり有効である。
さらには、もう少し手前の扉34の開放角度が75度付近からロータリーダンパー20の歯車21を開放時係合ラック32に係合させてある程度の距離にて減速し、その後に押し込みビット6の先端突起11が柱状カム5の溝部分19に入り込むように設定しておくと、急激に開け放った後に減速動作が得られ、そのまま85度開放位置付近にて扉34を停止保持させることも可能になる。また、この停止保持させる強さ度合いは図8に示す溝部分19の深さにて任意に設定可能である。さらには図示はしないが、スライド部材2が85度開放位置で必ず停止するように、レール本体1内にストッパーを固定しておくと、約90度開放タイプの閉鎖制動装置としても設定することができる。その結果通常必要とされている戸当たりやアームストッパーをも必要としない、戸当たり兼用タイプにまで発展させることが可能になる。
また上記実施形態では上枠33に閉鎖装置aを、扉34の上部にレール装置bを共に掘り込んだ納まりにて内蔵させ、両者をアーム部材3で連結した構成にて表記しているが、その逆の上枠33にレール装置bを、扉34の上部に閉鎖装置aを配置する構成も可能である。さらにはレール装置bや閉鎖装置aを上枠33と扉34の上部正面に振り分けて取り付ける面付けタイプも可能である。図19は扉34の上部表面にレール装置bを、上枠33の表面に閉鎖装置aを配置した状態での開閉軌跡を示しており、この面付け納まりの配置においても各々の動作は同じである。また図20はその面付けタイプの閉鎖制動装置をドアの上部に装着し、扉34を閉鎖した状態の正面図であり、細長いレール装置bの上に閉鎖装置aが配置された意匠になり、両者共に扉面からの出っ張りも小さく、全体としても細長いで形状のため、デザイン性も兼ね備えた面付けタイプとしても非常に有効である。