以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の一例に係る製造方法が適用される偏心揺動型減速装置の全体断面図である。なお、図2、図3のそれぞれの左上の部分に、クランク軸および外歯歯車が、単品の状態で示してある。先ず、この偏心揺動型減速装置の全体構成から説明する。
偏心揺動型減速装置10は、いわゆる振り分けタイプと称される偏心揺動型減速装置である。偏心揺動型減速装置10は、内歯歯車12と、該内歯歯車12に内接噛合する第1、第2外歯歯車14、16と、を備えるとともに、該内歯歯車12の軸心O1からR1だけオフセットした位置に、第1、第2外歯歯車14、16を揺動させるための複数(この例では3本)のクランク軸18(18A〜18C:図1では18Aのみ図示)を備えている。クランク軸18は、本実施形態における「外歯歯車の自転と同期する自転同期部材」に相当している(後述)。
この実施形態に係る偏心揺動型減速装置10では、モータ(図示略)の動力は、入力軸26を介して入力される。入力軸26の反モータ側の端部には、入力歯車32が直切り形成されている。入力歯車32は、複数(この例では3個)のクランク軸歯車30(30A〜30C:図1では30Aのみ図示)と同時に噛合している。各クランク軸歯車30は、自身の嵌合穴30p(30Ap〜30Cp:図1では30pのみ図示)およびクランク軸18の複数(この例では3個)のトルク入力部70(70A〜70C:図1では70のみ図示)を介して、複数(この例では3本)のクランク軸18にそれぞれ連結されている。
各クランク軸18には、複数(この例では2個)の第1、第2偏心部20、22と、第1偏心部20と第2偏心部22との間の接続部23と、クランク軸18を支持する第1、第2クランク軸軸受44、46が配置される第1、第2軸受配置部19、21と、入力側からのトルクを受ける前記トルク入力部70が形成されている。
各クランク軸18の各第1偏心部20および各第2偏心部22は、軸方向同位置に形成され、偏心位相が揃えられている。第1偏心部20と第2偏心部22の偏心位相差は180度である(互いに離反する方向に偏心している)。第1、第2軸受配置部19、21は、軸方向において、それぞれ第1、第2偏心部20、22の外側に形成されている。
また、トルク入力部70は、この実施形態では、クランク軸18の軸方向モータ側(駆動源側)の端部に形成されている。トルク入力部70は、前述したクランク軸歯車30の嵌合穴30pと係合する断面形状を有している。この実施形態においては、クランク軸18の軸方向と直角の断面が正六角形の多角形形状とされている。ただし、このトルク入力部70の形状は、特に、正六角形に限定されるものではない。すなわち、必ずしも正多角形である必要はなく、また六角形である必要もなく、例えば、スプラインのようなものであってもよいし、いわゆるDカット形状でもよい。クランク軸歯車30の嵌合穴30pとトルク入力部70は、この実施形態では、締まり嵌めで嵌合している。なお、クランク軸18の製造方法については、後に詳述する。
各クランク軸18の外周には、第1、第2偏心部軸受34、36を介して第1、第2外歯歯車14、16が組み込まれている。第1、第2外歯歯車14、16は、外周に歯部14A、16Aを備えるとともに、該第1、第2外歯歯車14、16の中心からオフセットした位置に、クランク軸18および第1、第2偏心部軸受34、36が貫通するオフセット貫通孔14B、16Bを備えている。また、第1、第2外歯歯車14、16は、さらに、径方向中央に中央貫通孔14C、16Cを備えると共に、オフセット貫通孔14B、16Bの間に、後述する第1、第2キャリヤ38、40を連結するキャリヤピン38Pが貫通するキャリヤピン貫通孔14D、16Dを備えている。
より具体的には、第1偏心部20の外周には、ころで構成された第1偏心部軸受34が設けられ、第1外歯歯車14を貫通しているオフセット貫通孔14Bを介して第1外歯歯車14が組み込まれている。各クランク軸18の第2偏心部22の外周には、ころで構成された第2偏心部軸受36が設けられ、第2外歯歯車16を貫通しているオフセット貫通孔16Bを介して第2外歯歯車16が組み込まれている。これにより、3本のクランク軸18上の第1偏心部20が同期して回転することで第1外歯歯車14を揺動させ、同様に、3本のクランク軸18上の第2偏心部22が同期して回転することで第2外歯歯車16を揺動させることができる。第1外歯歯車14と第2外歯歯車16の偏心位相差は、(第1偏心部20と第2偏心部22の偏心位相差を受けて)180度である。第1、第2外歯歯車14、16の製造方法については後に詳述する。
第1、第2外歯歯車14、16の軸方向両側には、第1、第2キャリヤ38、40が配置されている。各クランク軸18は、第1、第2軸受配置部19、21において、第1、第2クランク軸軸受44、46(クランク軸18を支持する軸受)を介して第1、第2キャリヤ38、40に支持されている。なお、第1、第2クランク軸軸受44、46は、内輪44A、46A、外輪44B、46B、および円錐ころ44C、46Cをそれぞれ有している。
第1、第2キャリヤ38、40は、一対のアンギュラ玉軸受48、50を介してケーシング52に支持されている。なお、第1、第2キャリヤ38、40は、第1キャリヤ38から一体的に突出され、第1、第2外歯歯車14、16の前記キャリヤピン貫通孔14D、16Dを貫通(遊嵌)するキャリヤピン38Pを介してボルト53等により連結・一体化されている。
第1、第2外歯歯車14、16は、内歯歯車12に内接噛合している。内歯歯車12は、この実施形態ではケーシング52と一体化された内歯歯車本体12Aと、該内歯歯車本体12Aに回転自在に組み込まれ、内歯歯車12の内歯を構成する外ピン12Bとで構成されている。内歯歯車12の歯数(外ピン12Bの本数)は、第1、第2外歯歯車14、16の歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
本実施形態では、ケーシング52にはボルト(ボルト孔52Aのみ図示)を介してロボットの第1アーム(図示略)が連結され、第1キャリヤ38には、ボルト(タップ穴38Bのみ図示)を介してロボットの第2アーム(図示略)がそれぞれ連結される。なお、符号61は、オイルシールである。
次に、この偏心揺動型減速装置10の作用を説明する。
図示せぬモータが回転すると、入力軸26の先端に形成された入力歯車32が回転する。入力歯車32は、3個のクランク軸歯車30と同時に噛合しているため、該入力歯車32の回転により3個のクランク軸歯車30が同一の方向に同一の回転速度で同期して回転する。
各クランク軸歯車30は、それぞれクランク軸歯車30の嵌合穴30pおよびクランク軸18のトルク入力部70の嵌合を介してクランク軸18と連結されている。そのため、3本のクランク軸18が入力歯車32とクランク軸歯車30との歯数比に減速された状態で、同一の方向に同一の回転速度で同期して回転する。その結果、各クランク軸18の軸方向同位置にそれぞれ形成された3個の第1偏心部20が同期して回転して第1外歯歯車14を揺動させると共に、各クランク軸18の軸方向同位置にそれぞれ形成された3個の第2偏心部22が同期して回転して第2外歯歯車16を揺動させる。
第1、第2外歯歯車14、16は、それぞれ内歯歯車12に内接噛合しているため、第1、第2外歯歯車14、16が1回揺動する毎に、該第1、第2外歯歯車14、16は、内歯歯車12に対して歯数差分(この実施形態では1歯分)円周方向の位相がずれる(自転する)。この第1、第2外歯歯車14、16の自転成分は、第1、第2外歯歯車14、16のオフセット貫通孔14B、16Bを介して、各クランク軸(外歯歯車の自転と同期する自転同期部材)18の内歯歯車12の軸心O1周りの公転として第1、第2キャリヤ38、40に伝達される。第1、第2キャリヤ38、40は第1キャリヤ38と一体化されたキャリヤピン38Pおよびボルト53等を介して互いに連結されているため、結局、入力軸26の回転によって、ケーシング52に連結された第1アームに対して、第1キャリヤ38に連結された第2アームを相対的に回転させることができる。
ここで、クランク軸18および第1、第2外歯歯車14、16に関する作用を、それぞれの製造方法の説明と共に、詳細に説明する。
偏心揺動型減速装置10にあっては、第1、第2外歯歯車14、16と内歯歯車12とを円滑に噛合させ、第1、第2外歯歯車14、16のオフセット貫通孔14B、16Bを介して第1、第2外歯歯車14、16と内歯歯車12の相対回転を円滑に取り出す必要がある。そのためには、クランク軸18の回転によって第1、第2外歯歯車14、16を安定して揺動させなければならない。とりわけ、本実施形態のような、いわゆる振り分けタイプ(内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、を備えるとともに、該内歯歯車の軸心から所定量だけオフセットした位置に、外歯歯車を揺動させるための複数のクランク軸を備えるタイプ)の偏心揺動型減速装置10にあっては、さらに、各クランク軸18の第1、第2外歯歯車14、16を揺動させるための位相も正確に揃っている必要がある。
そのため、従来、クランク軸18や第1、第2外歯歯車14、16には、十分な硬度が必要であり、かつ、高い寸法精度の仕上げ加工が必要であるとされていた。したがって、従来は、クランク軸18および第1、第2外歯歯車14、16の素材は、必要な形状を形成する工程を経た後に、クランク軸18あるいは第1、第2外歯歯車14、16の素材全体に、浸炭・焼入れによる熱処理を行って、それぞれの素材全体に、十分な硬度を与えるように構成していた。
しかし、浸炭・焼入れによる熱処理を行うと、焼入れ終了の段階で必然的に熱処理歪が増大してしまい、高度な寸法精度の確保が困難となってしまう。換言するならば、クランク軸18や第1、第2外歯歯車14、16の仕上げ加工は、非常に硬度が高く、かつ大きな熱処理歪が発生している素材に対して行わざるを得ず、コストと時間が掛かるという問題があった。
そこで、本実施形態では、クランク軸18や第1、第2外歯歯車14、16に対し、従来、当然のように行われてきた「素材全体に浸炭・焼入れを施す」という製造方法を抜本的に見直し、部分的な高周波焼入れ処理を導入することによって、クランク軸18や第1、第2外歯歯車14、16として必要な強度(硬度)を維持しつつ、それぞれの仕上げコストを低減し、加工時間を短縮するようにしている。
図2を参照して、クランク軸18の製造方法から説明する。
本実施形態では、先ず、切削加工によって、クランク軸18の素材を加工し、図2の左上に示されるように、クランク軸18の第1、第2偏心部20、22を形成し(工程A1)、第1偏心部20と第2偏心部22との間の接続部23を形成し(工程A2)、クランク軸18を支持する第1、第2クランク軸軸受44、46が配置される第1、第2軸受配置部19、21を形成し(工程A3)、さらにトルク入力部70を形成する(工程A4:以上、前加工工程A)。その後、図2の下部に示されるように、クランク軸18全体(第1、第2偏心部20、22、接続部23、第1、第2軸受配置部19、21、およびトルク入力部70を全て含むクランク軸18の全体)に、浸炭処理を施す(工程B1)。なお、トルク入力部70については、本実施形態では、浸炭処理を行っているが、構造によっては、必ずしも浸炭処理を行わなくてもよい(むしろ、構造によっては防炭処理を行ってもよい)。例えば、クランク軸の端面にタップ穴を形成し、該タップ穴に歯車やプーリを固定するトルク入力構造を採用している場合の当該タップ穴(トルク入力部)については、浸炭処理は必要なく、むしろ防炭処理が施された方がよい。また、例えば、クランク軸の外周にねじ部を形成して、ベアリングナットを固定するような場合の当該ねじ部についても、むしろ防炭処理が施された方がよい。
なお、トルク入力構造として、クランク軸を中空としてキー溝を設ける場合は、当該キー溝(トルク入力部)に対して防炭処理をしてもよいが、キー溝の場合は、中実軸のまま軸端面に防炭処理をし、浸炭処理後に中空穴とキー溝を加工するようにしてもよい(すなわち、クランク軸の主たる形状を形成する上記工程A1〜A4等の加工は、必ずしもその全てを浸炭処理の「前加工工程」で行わなければならないということではなく、また、その順序も特に限定されない)。そして、その後、浸炭処理を行った炉内で徐冷した後(工程B2)、第1、第2偏心部20、22に、高周波焼入れ処理を施し、第1、第2偏心部20、22の硬度を、第1、第2軸受配置部19、21の硬度よりも高くするようにしている(工程B3)。なお、その後、焼戻しをして靭性を高める(工程B4)。
前記第1、第2偏心部20、22を形成する工程A1、接続部23を形成する工程A2、第1、第2軸受配置部19、21を形成する工程A3、およびトルク入力部70を形成する工程A4においては、公知の形成方法を適宜採用できるが、本実施形態においては、例えば旋盤を用いた切削加工により形成している。
この工程B(B1〜B4)に係る一連の熱処理は、換言するならば、本実施形態に係るクランク軸18に対し、第1、第2偏心部20、22の硬度を、(高周波焼入れ処理を行っていない)第1、第2軸受配置部19、21の硬度よりも高くする工程ということになる。また、この工程B(B1〜B4)に係る一連の熱処理は、第1、第2軸受配置部19、21を、クランク軸18全体に浸炭・焼入れ処理した場合と比較して、熱処理歪をより小さく維持する工程ということでもある。
より具体的には、浸炭処理に係る工程B1では、第1、第2偏心部20、22、接続部23、第1、第2軸受配置部19、21、およびトルク入力部70の形成されたクランク軸18の素材を浸炭炉内に配置し、炭素を含有するガスの雰囲気中で加熱し(時刻t1〜t2)、高温状態を保持する(時刻t2〜t3)。本実施形態においては、例えば800℃〜1000℃程度に、150分〜450分程度保持する。この保持温度や保持時間は特に限定されるものではなく、素材の大きさや必要な浸炭深さに応じて適宜設定すればよい。本実施形態においては、その後、若干温度を下げて所定時間保持する(時刻t3〜t5)。ただし、時刻t3〜t5の部分の処理は行わなくてもよい。以上の処理により、クランク軸18の素材の表層部に炭素を含ませる。
この浸炭処理により、マルテンサイト構造を作り得る炭素濃度にまで素材の表面に炭素を拡散させることができる。すなわち、ここで焼入れすると素材全体の組織をマルテンサイト化することができるが、これでは偏心体軸の各部位間の硬度の差別化はできない。そのため、本実施形態では、浸炭処理後、炉冷する(浸炭処理を行った浸炭炉にて徐冷する)(工程B2:時刻t5〜t6)。すなわち、ここで敢えて炉冷し、クランク軸18の組織のマルテンサイト化を避ける。
工程B2の炉冷においては、浸炭炉の加熱終了後もクランク軸18の素材を炉内に留めておき、炉の冷却速度に合わせてゆっくりと冷却を行う。炉冷の冷却速度は特に限定されるものではなく、組織のマルテンサイト化を避ける冷却速度であればよく、通常、30℃〜100℃/時間の速度とされる。なお、本実施形態においては、浸炭処理を行った炉内において炉冷しているが、これに限定されるものではなく、組織のマルテンサイト化を避ける、あるいは100℃/時間よりも遅い速度で冷却するのであれば、浸炭炉以外で冷却しても構わない。
次に、炉冷の完了したクランク軸18の素材を浸炭炉から取り出し、工程B3において、第1、第2偏心部20、22のみを対象として高周波焼入れを行う。具体的には、第1、第2偏心部20、22に高周波の電磁波による電磁誘導を起こし、表面を加熱させ(時刻t11〜t12)、その状態を保持する(時刻t12〜t13)。保持温度や保持時間は特に限定されるものでなく、クランク軸18の素材の大きさ、必要硬さ、必要硬化深さ等に応じて適宜設定すればよい。本実施形態においては、例えば浸炭処理時よりも若干低い温度に加熱している。その後、急冷して焼入れする(本実施形態においては、水焼入れする:時刻t13〜t14)。以上の処理により、第1、第2偏心部20、22の表層部組織がマルテンサイト化される。
次に、工程B4において焼戻しを行う(時刻t21〜t24)。焼戻し温度も特に限定されないが、本実施形態においては、例えば150℃〜300℃程度とされる。
炉冷(徐冷)すると炭素が内部に拡散して炭素濃度が低くなったり、結晶が大きくなったりする傾向となるため、硬度は高くなりにくい。一方、第1、第2偏心部20、22の表層部組織は、急冷を伴う高周波焼入れ処理(工程B3)によってマルテンサイト化できる。これにより、第1、第2軸受配置部19、21、接続部23、トルク入力部70については、熱処理歪の増大を抑制しつつ、第1、第2偏心部20、22については、必要な硬度を確実に確保することができる。要するならば、本実施形態においては、浸炭・焼入れ処理のように、素材全体を急冷して素材全体に硬さを与えるのではなく、第1、第2偏心部20、22のように硬さの必要な部位に高周波焼入れ処理を施すことによって部分的に硬さを与え、単一のクランク軸18内において敢えて「硬度差」を生じさせているものである。
なお、第1、第2偏心部20、22の浸炭処理、徐冷処理、および高周波焼入れ処理を行うときは、第1、第2偏心部20、22の表面の硬度が、該第1、第2偏心部20、22の径方向中心部の硬度よりも、ロックウェル硬度HRCで10ポイント以上高くなるようにするとよい。これにより、クランク軸18全体の強度(靭性)の確保と、第1、第2偏心部20、22での表面硬度の確保とを両立させることができる。
次に仕上げ工程Cに移行する。すなわち、第1、第2偏心部20、22には、その後、仕上げ加工(工程C1)を施す。なお、この実施形態では、第1、第2偏心部20、22との同軸度を確保するため、第1、第2軸受配置部19、21にも仕上げ加工(工程C2)を施すようにしている。第1、第2軸受配置部19、21の部分は素材が硬くなく、また、熱処理歪が小さいため、該仕上げ加工(工程C2)における「削り代」も小さい。そのため、仮に、仕上げ加工(工程C2)を行う場合であっても、該仕上げ加工自体は低コストかつ簡易であり、加工時間も短縮できる。但し、この第1、第2軸受配置部19、21については、(高周波焼入れ処理を省略するのみならず)仕上げ加工(工程C2)そのものを省略するようにしてもよい。特に、本実施形態のように、クランク軸18を支持するに当たり、内輪44A、46Aを有する第1、第2クランク軸軸受44、46を設けている場合には、第1、第2軸受配置部19、21には、それほど高度な寸法精度は要求されない。現実には、この種の偏心揺動型減速装置には、内輪を有する軸受(第1、第2クランク軸軸受44、46)を配置していることが多いことから、仕上げ加工(工程C2)が省略できることも多い。
なお、本実施形態では、第1、第2偏心部20、22と第1、第2軸受配置部19、21の硬度差を、第1、第2偏心部20、22に対して高周波焼入れ処理を行うことによって得るようにしているが、第1、第2偏心部20、22に対する高周波焼入れ処理の影響によって、第1、第2軸受配置部19、21も若干硬くなってしまう現象が発生することがある。しかし、この現象は、許容され得る。要するに、第1、第2偏心部20、22に対して積極的に高周波焼入れ処理を施し、第1、第2軸受配置部19、21に対して積極的には高周波焼入れ処理を施さないようにすれば、それだけで両部位の硬度差は生じる。実用的には、第1、第2偏心部20、22の硬度を、第1、第2軸受配置部19、21の硬度よりも、ロックウェル硬度HRCで、例えば10ポイント以上高く維持できれば足りる。どのようにしてどの部分にどの程度の硬度差を得るかという具体的工程については、特に限定されない。例えば、本実施形態では、第1、第2偏心部20、22、接続部23、第1、第2軸受配置部19、21、およびトルク入力部70を全て含むクランク軸18の全体に浸炭処理を施すようにしているが、既に述べたように、例えば、トルク入力部70については、浸炭処理は必ずしも必要なく、むしろ防炭処理が施された方がよい場合もある。
なお、本実施形態では、クランク軸18の接続部23については、高周波焼入れ処理は行われない。したがって、接続部23は、高周波焼入れ処理後の第1、第2偏心部20、22よりも硬度が低くなっている(例えば、ロックウェル硬度HRCで10ポイント以上低くなっている)。なお、接続部23についても、積極的には高周波焼入れ処理を行わないが、両サイドに位置する第1、第2偏心部20、22に対して高周波焼入れ処理を行った際に、その影響を受けて、若干焼入れられる現象が発生し得る。しかし、この現象も、積極的には回避する必要はない(結果として、接続部23の硬度が、第1、第2偏心部20、22の硬度と比較して殆ど低くならなくてもよい)。
なお、本実施形態では、接続部23については、仕上げ加工を行う工程は省略されている。この実施形態では、接続部23には、もともと高精度な寸法管理は要求されず、高周波焼入れ処理を行わないことから、熱処理歪も大きくはないため、接続部23の仕上げ加工を省略しても、特に問題は発生しない。
クランク軸18のトルク入力部70については、当該偏心揺動型減速装置10が伝達するトルクや、該トルク入力部70の形状、許容し得るバックラッシ量等を考慮し、高周波焼入れ処理を行っても良いし、行わなくてもよい。例えば、トルク入力部70が、駆動源側の軸(例えばモータ軸)と連結するキーやタップ穴で構成とされる場合、該トルク入力部70は高周波焼入れ処理についても、外周も含めて行わなくてよい。トルク入力部70に高周波焼入れ処理を施さないようにした場合には、単に工程が省略できるのみならず、該トルク入力部70が適度の「軟らかさ」を持つことができることから、クランク軸歯車30の嵌合穴30pとの馴染みがより良好となり、騒音が低減されるというメリットが得られる。特に、この実施形態の場合は、1個の入力歯車32に対して3個のクランク軸歯車30が同時に噛合している構造に起因して、噛合干渉による騒音が発生し易い構造であるため、トルク入力部70とクランク軸歯車30の嵌合穴30pとの馴染みの向上による騒音低減効果は大きい。また、トルク入力部70に高周波焼入れ処理を施さないようにした場合には、熱処理歪が小さいため、仕上げ加工を省略できる場合も多い。もちろん、仕上げ加工を行ってより高度な寸法精度を確保するようにしてもよいが、仕上げ加工を行う場合であっても、素材が比較的軟らかいため、仕上げ加工のコストを低減することができ、加工時間も短縮できる。
一方、本実施形態のように、トルク入力部70が、歯車を装着するための多角形やスプラインで構成されているときは、高周波焼入れ処理を行った方がよい場合がある。なお、トルク入力部70に高周波焼入れ処理を施すようにした場合には、熱処理歪が大きく発生するため、仕上げ加工を行うのが好ましい。これにより高い強度(硬度)を有し、かつ高度な寸法精度を有した構成を得ることができる。
なお、上記実施形態においては、第1偏心部20と第2偏心部22の間の接続部23は、該第1偏心部20と第2偏心部22との間隔を確保する程度の機能しか有していなかったため、特に高周波焼入れ処理を施すことはなかった。しかし、図示はしないが、偏心揺動型減速装置によっては、本実施形態のようにクランク軸歯車30を第2キャリヤ40の軸方向外側位置に配置するのではなく、第1偏心部(20)と第2偏心部(22)との間の接続部(23)にクランク軸歯車(30)を配置し、この軸方向位置でクランク軸(18)にトルクを入力する構成とすることもある。要するに、接続部(23)がトルク入力部(70)を兼ねる構成とされることがある。この構造は、クランク軸(18)の捻れが第1、第2外歯歯車(14、16)に均等に及ぶので第1、第2外歯歯車(14、16)の偏心位相の同期をより正確に取り易いというメリットがある。
このような構成の偏心揺動型減速装置にあっては、接続部にトルク入力部としての歯車を形成する工程の後、当該歯車の歯部に高周波焼入れ処理を施す工程を設けるようにするとよい。なお、この場合は、さらに仕上げ処理も行うとよい。この製造方法は、結局、「偏心部と、トルク入力部とに高周波焼入れ処理が施され、偏心部およびトルク入力部の双方の硬度が、クランク軸軸受が配置される軸受配置部の硬度よりも高い状態を形成する製造方法」と捉えることができる。
以上の構成(製造方法)により、第1、第2偏心部20、22の硬度を高く維持しつつ(クランク軸18として必要な硬度を維持しつつ)、結果として、より仕上げ加工が容易で、かつ低コストなクランク軸18(ひいては偏心揺動型減速装置10)を得ることができるようになる。このクランク軸18のコスト低減効果は、偏心揺動型減速装置10が、上述したようなクランク軸18を複数有する振り分けタイプの偏心揺動型減速装置とされている場合に、特に顕著に得られる。
本発明の基本趣旨は、第1、第2外歯歯車14、16の製造方法にも適用することができる。
図3を参照して、第1、第2外歯歯車14、16の構成および製造方法を説明する。
本実施形態における第1、第2外歯歯車14、16の製造方法は、図3の左上に示されるように、前加工工程Dとして、切削加工によって、第1、第2外歯歯車14、16の歯部14A、16Aを形成する工程(工程D1)と、第1、第2外歯歯車14、16の中心からオフセットした位置に、該第1、第2外歯歯車14、16の自転と同期する自転同期部材(上記実施形態ではクランク軸18)のオフセット貫通孔14B、16Bを形成する工程(工程D2)と、第1、第2外歯歯車14、16の中心に、中心貫通孔14C、16Cを形成する工程と(工程D3)と、を含む。この実施形態では、ここで、さらに第1、第2キャリヤ38、40を連結するキャリヤピン38Pが貫通するキャリヤピン貫通孔14D、16Dを形成する工程(工程D4)を入れる。なお、この前加工工程D(D1〜D4)の順序はこの順でなくてもよい。
その後に、図3の下部に示されるように、第1、第2外歯歯車14、16の全体に、浸炭処理を施す工程(工程E1)を入れる。そして、歯部14A、16Aおよびオフセット貫通孔14B、16Bに高周波焼入れ処理を施し、歯部14A、16A(具体的には歯面)およびオフセット貫通孔14B、16Bの周辺(具体的には内周面)の硬度を、第1、第2外歯歯車14、16の該歯部14A、16Aおよびオフセット貫通孔14B、16B以外のいずれかの部位の硬度より高くする工程(工程E3)を施工する。具体的には、この実施形態では、歯部14A、16A、およびオフセット貫通孔14B、16Bの周辺の硬度を、中央貫通孔14C、16Cや、キャリヤピン貫通孔14D、16Dの周辺の硬度よりも高くしている。なお、第1、第2外歯歯車14、16の場合も、その後、焼戻しをして靭性を高める(工程E4)。
この一連の定性的な熱処理工程E(E1〜E4)は、具体的な温度や処理時間等の違いはあるが、先のクランク軸18の場合とほぼ同様であるため、同様なタイミングに同一のタイム符号を付すに止め、重複説明は省略する。
この実施形態においては、高周波焼入れ処理を施すのは、歯部14A、16Aとオフセット貫通孔14B、16Bの周辺のみである。第1、第2外歯歯車14、16の中央貫通孔14C、16Cおよびキャリヤピン貫通孔14D、16Dの周辺は、高周波焼入れ処理を行わない(省略する)。したがって、第1、第2外歯歯車14、16の歯部(歯面)14A、16Aおよびオフセット貫通孔14B、16Bの周辺(内周面)の硬度は、中央貫通孔14C、16Cおよびキャリヤピン貫通孔14D、16Dの周辺の硬度より(例えば、ロックウェル硬度HRCで10ポイント以上)高くなる。また、この実施形態の場合、歯部(歯面)14A、16Aおよびオフセット貫通孔14B、16Bの周辺(内周面)については、仕上げ加工(工程F)を施すが、中央貫通孔14C、16Cおよびキャリヤピン貫通孔14D、16Dの周辺は、仕上げ加工も行わない。これは、中央貫通孔14C、16Cおよびキャリヤピン貫通孔14D、16Dの周辺は、高周波焼入れ処理をしないことから、熱処理歪が小さく、また、機能上、高い寸法精度も必要としないので、仕上げ加工をしなくても、特に問題は生じないからである。
尤も、中央貫通孔14C、16Cまたはキャリヤピン貫通孔14D、16Dに仕上げ加工(工程F)を施すことを禁止するものではない。例えば、中央貫通孔14C、16Cに制御用のワイヤハーネスを通す場合であって、該ワイヤハーネスの損傷を極力避けたいとき等においては、該中央貫通孔14C、16Cに仕上げ加工を施してもよい。この場合でも、中央貫通孔14C、16Cの周辺は、硬度が低く、また、熱処理歪も小さいため(削り代が少なくて済むため)加工は容易であり、加工時間も短縮できる。
偏心揺動型減速装置10の第1、第2外歯歯車14、16は、該第1、第2外歯歯車14、16の各部において発生する内部応力の大小差が大きく、かつ、この内部応力は、偏心位相の変化に伴って常時変化する。そのため、噛合点、転動点、あるいは摺動点が多いことと相まって、外歯歯車には共振が発生することがある。本発明に係る外歯歯車は、硬度の高い部分と低い部分が混在しているため、より共振が抑えられ、振動や騒音の増大を抑制する効果が得られる。
なお、本発明は、上述したような振り分けタイプの偏心揺動型減速装置に適用した場合に、多くの顕著な作用効果が得られるが、偏心揺動型減速装置には、ほかに、内歯歯車の軸心位置に1本のクランク軸を有する、いわゆるセンタクランクタイプの偏心揺動型減速装置も知られている。この1本のクランク軸は、外歯歯車の径方向中央の中央貫通孔を貫通し、該中央貫通孔を介して外歯歯車を揺動させている。本発明は、このようなセンタクランクタイプの偏心揺動型減速装置のクランク軸や外歯歯車の製造にも同様に適用することができる。
なお、センタクランクタイプの偏心揺動型減速装置の外歯歯車を製造する場合は、「歯部」および「外歯歯車の自転と同期する自転同期部材のオフセット貫通孔」のほか、クランク軸が径方向の中心位置で貫通している中央貫通孔にも高周波焼入れ処理を施すとよい。