JP2009228828A - 軸棒の製造方法、軸受の製造方法、軸棒および軸受 - Google Patents

軸棒の製造方法、軸受の製造方法、軸棒および軸受 Download PDF

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Abstract

【課題】かしめ加工により固定させるためには、軸棒の両端部の窒化を防止する必要があるが、仮に、窒化防止剤を用いて軸棒の両端部のみを被覆する等の方法を用いて、個々の軸棒に窒化防止処理を施すとすれば、処理に非常に時間を要し、非効率であると考えられる。また、窒化処理を行なったままの、かしめ加工を行なうには不適切な状態の、高硬度な軸棒の両端部に対してかしめ加工を行ない、相手部材との固定を行なっている。
【解決手段】軟窒化処理および高周波焼入れ処理を行なって、硬度が高くなった軸棒のうち、両端部に存在する端面(かしめ加工を行なう面)に対して、表面からある深さまでの高硬度な領域を除去する。このことにより、かしめ加工を行なう端面の硬度を低くし、かしめ加工を容易にする。
【選択図】図6

Description

本発明は、軸棒の製造方法、軸受の製造方法、軸棒および軸受に関し、より特定的には、軸受の内輪部材として使用する軸棒を相手部材に固定する加工を容易にする軸棒の製造方法、軸受の製造方法、軸棒および軸受に関する。
近年の自動車の低燃費化、変速の多段化、高出力化が進む中で、エンジンや変速機などの構成部品の高性能化が要求されている。ここで高性能化とは、たとえば耐久性の向上、耐摩耗性の向上、長寿命化などを指す。例として、ガソリンエンジンにはロッカーアームと呼ばれる部品を搭載している。ロッカーアームとは動弁系のガソリンエンジンの部品のひとつで、カムがエンジンの出力軸から得た回転を、エンジンの吸排気バルブの開閉の往復運動に変換している。このカムの動きを吸排気バルブに伝達するための動弁機構において、カムが固定された軸棒の運転時の摩擦損失を低く抑え、低燃費化を図るために、カムに追従させる部品であるカムフォロア装置を用いている。カムフォロア装置は、摩擦損失の低減、低燃費化のために、運転時における摩擦を滑り摩擦から転がり摩擦に変えている。
カムフォロア装置は、本体部分であるロッカーアームに設けた1対の支持壁同士の間に配置した円筒状のローラを、両支持壁間に掛け渡したローラ支持軸により、複数本のニードルを介して、ローラが自在に回転できるように支持された構造をなす。ローラおよびニードルが、運転時における摩擦を滑り摩擦から転がり摩擦に変えているのである。しかし、ローラ支持軸の軸棒の表面のうち、主軸方向に伸びる曲面の中央部は、使用時に複数のニードルの転動面と接触するため摩耗が激しい。これをさらに緩和させるため、特開2004−183589号公報(特許文献1)においては、摩耗を防ぐために軸棒の表面からある深さまでの領域を硬化させる。硬化させるためにまず軸棒の表面のうち、主軸方向に伸びる曲面からある深さまでの領域に窒化処理を行なう。その後さらに、高周波焼入れ処理によって、上述した窒化処理を行なった領域のみ硬化させることにより耐摩耗性や転動疲労寿命を向上させる。ただし、軸棒の両方の端面(軸棒の主軸方向の両端部にある、主軸方向に交差する表面)については、かしめ加工によりローラ支持壁に固定させるために、上述した硬化処理は行なわない。このような加工方法で軸棒の表面のうち、主軸方向に伸びる曲面の摩耗を抑制して長寿命化を可能とするための、ローラ支持軸を形成する金属組成を調整している。具体的には、炭素と窒素との含有量を合計0.5質量%以上1.2質量%以下となるようにしている。
また、自動車の変速機については従来の4〜5速切り替え式から、6〜8速切り替え式への多段化が進んでおり、変速機に対する高性能化もまた、重要度を増してきている。一例として、変速機に用いられる遊星ギアの回転数および軸受の回転数が高くなっている。この遊星ギアに使う保持器付きの針状ころ軸受は、自転しながら公転するという特有の条件で使うため、公転による遠心力が作用する。通常の条件に比べて保持器に発生する応力が高くなるため、保持器の強度を向上させ、軸受の寿命を延ばし、遊星ギア機構全体の耐久性を向上させる必要がある。
さらに、自動車の自動変速機に用いられるプラネタリギア機構は、出力軸の周りに配されたキャリアに、ピニオンシャフトと呼ばれる軸棒が固定された構造となっている。近年の自動車の低燃費化により、ピニオンギアの回転速度が高まっているため、ピニオンシャフトに負荷される荷重が増大し、潤滑油量の減少から早期剥離が問題になっていた。早期剥離の防止には表面の窒素濃度を高くすることが有効であるが、窒素はオーステナイトを安定化させる元素であり、窒素濃度を高くすると、残留オーステナイトを分解させるために焼き戻し温度を高くする必要が生じ、かえって寿命を低下させる恐れがある。そこで、この問題を解決するために、特開2003−301933号公報(特許文献2)においては、ピニオンシャフト表面の窒素濃度を0.05質量%以上0.6質量%以下としている。
特開2004−183589号公報 特開2003−301933号公報
特許文献1においては、窒化処理の際に、本体と固定する必要のあるローラ支持軸の両端部(両方の端面)は、かしめ加工を行なうために窒化防止処理を施してもよいと記載されている。硬度が高すぎるとかしめ加工を行なうことができないため、かしめ加工により固定させるためには、ローラ支持軸の両端部の窒化を防止するということであるが、具体的な窒化防止処理の方法については述べられていない。仮に、窒化防止剤を用いて軸棒の両端部のみを被覆する等の方法を用いて、個々の軸棒に窒化防止処理を施すとすれば、処理に非常に時間を要し、非効率であると考えられる。
また、特許文献2においては、ピニオンシャフトの主軸方向に伸びる曲面のうち、軸受に固定した際に軸受の転動体である針状ころが断続的に接触する部分のみ、耐摩耗性を向上させるための高周波焼入れを施す。このため、ピニオンシャフトの両端部(両方の端面)には高周波焼入れ処理が施されておらず硬化されていないので、ピニオンシャフトはその両端部をかしめ加工することによりキャリアに固定できると記載されている。しかし、高周波焼入れ処理に先立って行なう窒化処理については、ピニオンシャフトの両端部に対しては行なわないという記載がない。従って、特許文献2の発明においては、ピニオンシャフトの両端部に対しても窒化処理を行なっており、窒化処理の際に、ピニオンシャフトの両端部の表層部にも窒化層あるいは化合物層が形成されていると考えられる。軸棒の両端部を他の部材とかしめ加工により接合を行なう際には、かしめ荷重やかしめ加工に用いる工具の摩耗を考慮すれば、軸棒の両端部の硬度は、かしめが容易なビッカース硬度であるHv300以下であることが好ましい。しかし、上述した窒化層や化合物層は、Hv300よりも高硬度であり、窒化処理を行なったままの状態の軸棒の両端部に対してかしめ加工を行なうことは適当ではないと考えられる。
本発明は、上述した各問題に鑑みなされたものである。その目的は、軸棒の耐摩耗性を向上させるために行なう軟窒化処理の際に軸棒の両端部に形成された高硬度な窒化層や化合物層を除去し、軸棒の両端部のビッカース硬度をHv300以下とし、相手部材とのかしめ加工を容易にすることである。
始めに、本発明における軸棒の用途について説明する。本発明における軸棒の用途として、まずロッカーアームに組み込むニードル軸受あるいは針状ころの内輪部材として使用する転動軸を挙げることができる。ここで図1は、ロッカーアームに組み込む転がり軸受を示す概略図である。回動部材であるロッカーアーム1は、上述のように動弁系のガソリンエンジンの部品のひとつで、カム5を用いて、たとえばカム5がエンジンの出力軸から得た回転を、エンジンの吸排気バルブ6の開閉の往復運動に変換している。このロッカーアーム1のカム5の運動により転動軸2が受ける滑り摩擦を、ロッカーアームに組み込むニードル軸受ないし針状ころを構成する転動体である、ころ3および外輪のローラ4が、転がり摩擦に変換する役割を持つ。ニードル軸受ないし針状ころは、摩擦損失の低減、低燃費化のために、運転時における摩擦を滑り摩擦から転がり摩擦に変えている。
また、本発明における軸棒の別の用途として、遊星ギア装置に組み込むニードル軸受あるいは針状ころの内輪部材として使用する転動軸を挙げることができる。ここで図2は、プラネタリギア機構の構成部品を組み込んだ自動変速機の構成を示す概略断面図である。また、図3は、図2のP部のプラネタリギア機構の構成を概略的に示す正面図である。また、図4は、図3のプラネタリギア機構の斜視図である。さらに図5は、図3および図4のプラネタリギア機構における軸受部材として転がり軸受の構成を概略的に示す一部破断斜視図である。
図2に示すプラネタリギア機構10は、たとえば自動変速機内で、サンギアシャフト11とリングギアシャフト12との間に配置されている。図3に示すように、複数の遊星ギア13は、プラネタリギア機構10の中心部分に存在する太陽歯車14と内歯歯車15との間に配置されている。この遊星ギア13の内部に、図4に示すようにたとえばニードル軸受などの軸受部材20が存在し、軸受部材20は、図5に示すように、たとえば転動体として針状ころ18を備える。また、この針状ころ18は、保持器19により一定の間隔で正しい位置に保持されており、本発明における軸棒は、この軸受部材20の内輪部材である転動軸17として使用されている。
続いて、本発明における課題の解決の手段について述べる。なお、以下の本発明における課題の解決の手段の説明においては、軸棒を製造する工程の途中にある軸棒の素材についても、完成した軸棒と同様に、軸棒という用語を用いることとする。本発明は、軸受の内輪部材として使用する軸棒の製造方法であり、軸棒の耐摩耗性を向上させる工程と、軸棒の主軸方向の両端部にある、主軸方向に交差する表面を除去する工程とを備える、軸棒の製造方法である。
また、軸棒の耐摩耗性を向上させる工程としては、軸棒の表面に対して軟窒化処理を行なう工程と、軟窒化処理を行なった軸棒の表面のうち、主軸方向に伸びる曲面の、転動体の転走領域に対して高周波焼入れ処理を行なう工程とを備える。このように、軟窒化処理を行なった後に高周波焼入れ処理を行なうことにより、軸棒の表面、特に主軸方向に伸びる曲面が耐摩耗性に優れ、かつ転動疲労寿命に優れた長寿命な軸棒を得ることができる。
上述した軟窒化処理や高周波焼入れ処理といった、耐摩耗性を向上させる工程は、軸棒の表面の硬度を上げることになる。しかし硬度の高い(ビッカース硬度Hv300以上の)表面に対して、相手部材と固定させるためのかしめ加工を行なうことは容易ではない。そこで、かしめ加工を容易に行なえるようにするため、軸棒の主軸方向の両端部にある、主軸方向に交差する表面の、硬度の高い部分を除去する工程を行なう。このことにより、軸棒の内部の、硬化処理の施されていない領域が表面に現れるため、この硬化されていない新しい表面を用いて、かしめ加工を容易に行なうことが可能となる。また、かしめ加工を容易に行なうためには、軸棒の主軸方向の両端部にある、主軸方向に交差する表面からの深さが0.5mm以内の領域は、ビッカース硬度がHv300以下となるように除去することが好ましい。
また、本発明における軸棒の製造方法においては、軟窒化処理を行なう工程により形成される窒化層は、軸棒の表面からの深さが0.2mm以上である。また、本発明における軸棒の製造方法においては、高周波処理を行なった軸棒の表面に存在する窒化層を研削することにより、主軸方向に交差する方向での軸棒の外径を調整する工程を含む。さらに、本発明における軸棒の製造方法においては、外径を調整する工程を行なった後における、主軸方向に伸びる曲面の表面層は、窒素濃度が0.1質量%以上である。
本発明における軸棒を最終的に嵌合させる際には、軸棒の主軸方向に交差する断面を形成する円の外径を調整する必要がある。そのために、軟窒化処理および高周波処理を行なった、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面からある深さまでの領域を除去するための表面の研削を行なう。この表面の研削を行なった後においても、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から約0.1mm以内の領域については、軟窒化処理を行なった窒化層となるようにするためには、当初の軟窒化処理を行なう工程において、軸棒の表面からの窒化層の深さが0.2mm以上あることが好ましい。また、この表面の研削を行なった後においても、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から約0.1mm以内の領域については、軟窒化処理の影響により、窒素濃度が0.1質量%以上であることが好ましい。
また、本発明における軸棒の製造方法については、外径を調整する工程を行なった後における、主軸方向に伸びる曲面からの深さが0.1mm以内の領域は、オーステナイト結晶粒度番号が11番以上、ビッカース硬度がHv653以上である。また、残留オーステナイト量が10〜50質量%である。主軸方向に伸びる曲面は、軸受の転動体が接触するため、摩耗の激しい領域となるが、この領域の表面からの深さが0.1mm以内の領域についての結晶粒を微細化させ、残留オーステナイト量を上記の範囲になるよう調整し、硬度を高めておく。このことにより、転動体が接触する領域の表面部分における耐摩耗性および転動疲労寿命を改善させることができる。
また、以上に述べた軸棒を製造するためには、その材質は、軸受鋼または0.45質量%以上の炭素を含有する機械構造用炭素鋼とすることが好ましい。
さらに、本発明における軸受の製造方法については、上述した軸棒の製造方法を用いて製造された軸棒を準備する工程と、軸棒の主軸方向の両端部を相手部材に固定する工程とを備え、固定する工程は、軸棒の主軸方向の両端部と相手部材とを嵌合させる工程と、嵌合を行なった軸棒の主軸方向の両端部と相手部材とをかしめる工程とを含む。上述した方法を用いることにより、軸棒の主軸方向の両端部と相手部材とをかしめる加工を容易に行なうことができる。以上の製造方法を用いることにより、高性能で耐摩耗性に優れ、転動疲労寿命が改善された軸棒および軸受を提供することができる。
本発明の軸棒の製造方法においては、軸棒の耐摩耗性を向上させるために行なう軟窒化処理の際に軸棒の両端部に形成された高硬度な窒化層や化合物層を除去し、軸棒の両端部のビッカース硬度をHv300以下とする。その結果、相手部材とのかしめ加工を容易にすることができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の実施の形態において、同一の機能を果たす部位には同一の参照符号が付されており、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
(実施の形態)
本発明の実施の形態においては、たとえばロッカーアームや遊星ギア装置に組み込むニードル軸受あるいは針状ころの内輪部材である転動軸として使用する軸棒の製造方法について説明する。図6は、本発明の実施の形態における、軸棒および軸受の製造方法を示すフローチャートである。また、図7は、図6の工程(S7)を詳細に示すフローチャートである。以下、これらのフローチャートに示す各工程について説明する。
まず、軸棒を形成する工程(S1)を実施する。具体的には、たとえばNC旋盤を用いて、軸棒を形成する素材から軸棒の形状を形成する工程である。なお、以下の実施の形態の説明においては、軸棒を製造する工程の途中にある軸棒の素材についても、完成した軸棒と同様に、軸棒という用語を用いることとする。ここで、軸棒は、内部(主軸方向に交差する方向に切った断面の中心付近の領域)を充填させた中実構造としてもよいが、内部を空洞とした中空構造としてもよい。ただし、中空構造とした場合は、軸受の内輪部材として受ける荷重を考慮して、中空とする領域を形成する、断面の円の直径を決めることが好ましい。また、後述する軸端部の除去を行なう工程(S5)のため、軸棒の主軸方向の長さは所望の長さより0.3mm以上長く準備しておくことが好ましい。なお、所望の長さより0.3mm以上0.5mm以下の範囲で長めに形成することがさらに好ましい。さらに、後述する外径部の研削を行なう工程(S6)のため、軸棒の主軸に交差する方向に切った断面の円の直径は、所望の直径より0.1mm以上大きく準備しておくことが好ましい。なお、所望の直径より0.1mm以上0.2mm以下の範囲で大きめに形成することがさらに好ましい。
軸棒を形成する素材である金属材料としては、軸受鋼または0.45質量%以上の炭素を含有する機械構造用炭素鋼を用いる。前者の軸受鋼とは、高速で回転する軸棒に加わる繰り返し荷重に耐えうる、硬度が高く耐摩耗性に優れた鉄鋼材料であり、一般的には高炭素クロム軸受鋼を用いる。転動軸として用いる軸棒を形成する素材は、表面からある深さまでの領域の硬度を高めることにより転動疲労寿命を改善させることができる。なお、ここで深さとは、軸棒の主軸方向に伸びる曲面から軸棒の断面の中心に向かう方向に進む量をいう。特にビッカース硬度がHv653以上であれば、転動疲労寿命を大きく改善させることができる。表面部分の硬度を高めるために、表面部分に対して高周波焼入れなどの処理を行なうが、特に後者の機械構造用炭素鋼については、高周波焼入れ処理によって得られる表面部分の硬度は、機械構造用炭素鋼の素材における炭素の含有量が影響する。すなわち、炭素の含有量が多いほどオーステナイトが安定化され、表面起点型の損傷を抑制する効果を持つ残留オーステナイトを高い割合で形成させることができる。高周波焼入れ処理を行なった後に、転動疲労寿命を大きく改善できる、ビッカース硬度Hv653以上を安定して得るためには、0.45質量%以上の炭素を含有することが好ましい。なお、0.45質量%以上0.60質量%以下とすることがさらに好ましい。さらに、表面からある深さまでの領域のビッカース硬度は、Hv653以上で硬度が高いほど好ましいが、Hv900以上の硬度を安定して得ることは困難なため、Hv700以上Hv900以下であることがさらに好ましい。
ただし、後述する軸端部の除去を行なう工程(S5)にて、軸棒の端面を除去した後、後述するように、除去した軸棒の両方の端面(両端部に存在する、主軸方向に交差する表面)のビッカース硬度がHv300以下となることが好ましい。このため、軟窒化処理や高周波焼入れ処理を行なう前の軸棒の素材のビッカース硬度がHv300以下である素材を用いる。
また、転動疲労寿命を大きく改善させるためには、軸棒を形成する素材の金属のオーステナイト結晶粒の粒径を微細化することによる強靭化が考えられる。したがって、オーステナイト結晶粒は粒径が小さいほど好ましく、粒度番号が11番以上であることが好ましい。しかし、13番を超える粒度番号のものを安定して得ることは難しいので、より好ましくは、粒度番号11番以上13番以下とする。
次に、軟窒化処理を行なう工程(S2)を実施する。具体的には、形成した軸棒の表面からある深さまでの領域に窒素を侵入させて窒素の拡散した領域である窒化層を形成させることにより、オーステナイトを安定化させ、硬化を行なう工程である。また、窒化層は、後にこの窒化層に高周波焼入れを行なうことにより、残留オーステナイト量を増加させ、ミクロ組織を微細化して強靭化させるためのものでもある。
窒化層は、化合物層と拡散層とに分けられる。ここで図8は、軸棒に対して軟窒化処理を行なった後における窒化層を説明する概略図である。図8は軸棒を、主軸に平行な断面で切断したときの断面の組織の一部を表わす概略図である。すなわち図8においては、図の左右に軸棒の主軸方向が伸びており、上側が軸棒の表面のうち、主軸方向に伸びる曲面であり、下側が軸棒の内部である。なお、このさらに下側にも、軸棒の主軸方向に伸びる曲面が存在するが、図8においては省略している。図8において、軸棒の主軸方向に伸びる表面である曲面より軸棒の内部側へ、化合物層101、拡散層102の順に存在し、その内側に軸棒内部103が存在することがわかる。化合物層101は、鉄を主成分とする窒素の化合物であるεFe2−3Nから成り、軸棒の最表面層(一般的には数μmから20μm程度)に形成される硬い層を指す。また、拡散層は、γ’FeNから成り、化合物層101の内側に形成され、窒素の拡散が認められる層を指す。化合物層101は軸棒の耐摩耗性の向上に、拡散層102は転動疲労寿命の改善に効果がある。
次に、軟窒化処理とは、加熱させた素材に窒素を主体として炭素をも拡散させることにより窒化させる、窒化処理の一種であり、炭素を主体として窒素を拡散させることによる浸炭窒化処理も含む。軟窒化処理の方法としては、ガス軟窒化処理を用いても、塩浴軟窒化処理を用いてもよい。以下においては、例としてガス軟窒化処理として説明を進める。たとえば、軸棒に対しておよそ550℃から600℃の温度でガス軟窒化処理を行なった後、油やガス中で冷却を行なう。
なお、このガス軟窒化処理を行なう際には、軟窒化処理後に窒化が行なわれた領域である窒化層の、軸棒表面からの深さが0.2mm以上となるように処理を行なうことが好ましい。ここで潤滑油に硬質な異物が混入した条件の下で軸受が使用されると、異物によって軸受の転動体や軸棒の表面に圧痕が発生し、表面起点型の損傷が進展すると考えられる。潤滑油の経路には、通常、異物を除去するためのフィルター等が設けられているため、転動体や軸棒の表面に発生する損傷に影響する異物の大きさは、一般的には0.1mm以下であると考えられる。転動疲労寿命は、異物の大きさと同等以上の窒化層深さがあれば改善されると考えられるため、後述する外径部の研削を行なう工程(S6)(図6参照)を行なった後に残った窒化層の表面からの深さは0.1mm以上を必要とする。後述する外径部(後述するように、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面からある深さまでの領域)の研削を行なう研削の取りしろ分を0.1mm考慮するとすれば、ガス軟窒化処理において、窒化層の深さを0.2mm以上形成させることが好ましいと考えられる。ただし、窒化層を深くしすぎると、軟窒化処理の時間を長くする必要が生じ、量産性を低下することから、深さは0.2mm以上0.4mm以下とすることがさらに好ましい。
また、先述のように、転動疲労寿命を改善させるためには、後述する外径部の研削を行なう工程(S6)(図6参照)を行なった後に窒化層の表面からの深さは0.1mm以上を必要とする。外径部の研削を行なう研削の取りしろ分を0.1mm考慮するとすれば、ガス軟窒化処理を行なう工程(S2)において、窒化層の深さは0.2mm以上を必要とする。この窒化層深さを安定して確保するためには、窒化層の一部である化合物層101(図8参照)の、軸棒の表面からの深さは少なくとも3μm以上必要となる。また、ガス軟窒化処理によって得られる化合物層101の深さは、一般的に数μmから20μm程度であり、化合物層101深さを深くするためには、ガス軟窒化処理の時間を長くする必要が生じ、量産性を低下することから、深さは3μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。なお、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面からある深さまでの領域において特に上述した条件が好ましいのは、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面が、この軸棒を軸受の部材として使用する際に、転動体による摩耗が激しく、耐摩耗性の向上および転動疲労寿命の改善が特に要求される部分であるからである。
次に、高周波焼入れを行なう工程(S3)を実施する。具体的には、形成した軸棒の表面のうち、主軸方向に伸びる曲面の、転動体の転走領域に対して、先の工程(S2)にて形成させた窒化層を急速に加熱した後、急冷させることにより、硬化を行なう工程である。また、この過程で、窒化層の拡散層102(図8参照)におけるミクロ組織が微細化され、強靭化させることができる。このように強度を改善させる結果、軸棒の転動疲労寿命を大きく改善することができる。なお、上述した急冷については、たとえば軸棒全体を水に浸して、軸棒の表面全体に対して行なってもよい。このとき、たとえば軸棒の端面など、高周波焼入れによる急速な加熱を行なわなかった箇所については、ミクロ組織上の変化は起こらない。
なお、先述したように残留オーステナイトは、表面起点型の損傷の進展を抑制する効果がある。しかしその含有量が10質量%以下であれば上述した効果を十分に得ることができない。また、50質量%を超えると、軸棒の表面からある深さまでの領域の硬度が低下するために、かえって短寿命となることがある。また、残留オーステナイトは高温で分解して変形を生じさせる。このため、軸棒を高温で使用する場合には転動疲労寿命を低下させることがある。したがって、軸棒の特に主軸方向に伸びる曲面の表面からある深さ、たとえば0.1mm以内の領域において、残留オーステナイトの含有量は10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。なお、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面からある深さまでの領域において特に上述した条件が好ましいのは、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面が、この軸棒を軸受の部材として使用する際に、転動体による摩耗が激しく、耐摩耗性の向上および転動疲労寿命の改善が特に要求される部分であるからである。
次に、焼戻しを行なう工程(S4)を行なう。先の焼入れを行なう工程(S3)により、材料の硬度や強度は上がっているが、材料の粘り強さを表わす靭性が低下している。このため、靭性を改善させ、組織を安定化させるために再加熱する処理を行なう工程が、焼戻しを行なう工程(S4)である。
なお、焼戻しを行なう工程(S4)については、たとえば軸棒全体を加熱するなどして、軸棒の表面全体に対して行なってもよい。このとき、たとえば軸棒の端面など、高周波焼入れによる急速な加熱を行なわなかった箇所については、ミクロ組織上の変化は起こらない。
次に、軸端部の除去を行なう工程(S5)を行なう。上述した工程(S2)から工程(S4)までの工程により、軸棒の表面からある深さの領域については、その全面が硬化され、硬度が高くなっている。そのため、このままの状態では、相手部材にかしめ加工を行なうことは困難である。そこで、後述するかしめ加工を行なう前に、たとえば両頭研削盤を用いて、軸棒の表面のうち、かしめ加工を行なう両方の端面(両端部に存在する、主軸方向に交差する表面)からある深さまでの領域を研削して除去する工程を行なう。なお、除去を行なうために、研削の代わりに、たとえば旋削を行なってもよい。これにより、軸棒の端面からある深さまでの領域の硬度を、軸棒内部の、硬化されていない領域の硬度と同じにすることができる。そのため、かしめ加工を容易に行なうことが可能となる。したがって、先述のとおり、軟窒化処理を行なう前の軸棒の素材のビッカース硬度はHv300以下とする。工程(S5)を行なうことにより、たとえば先の軟窒化処理を行なう工程(S2)を行なう際に、たとえば窒化防止剤を用いて軸棒の両端部のみを被覆する等の方法を用いて、個々の軸棒に窒化防止処理を施すなどの手間を省くことができる。なおかつ、工程(S5)を行なうことにより、窒化層の形成された、硬度の高い軸棒の端面に対してかしめ加工を行なうという困難を回避することができる。
一般に、かしめ加工を容易に行なうためには、素材の表面のうち、かしめを行なう部分の硬度はHv300以下であることが要求される。かしめ工具の摩耗を少なくし、かしめ加工を行なう際の負担を小さくするためにも、かしめ加工を行なう部分の硬度は低いほど望ましい。ここで図9は、軟窒化処理を行なった軸棒の表面からの深さに対する硬度を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、横軸は軸棒の表面からの深さ(位置)をmm単位にて表わし、縦軸はその深さ(位置)における素材のビッカース硬度をHv単位にて表わす。なお、この調査を行なった軸棒の素材は、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)である。
図9に示すデータを導出した軸棒は、以下の図10に示す条件にて熱処理を行なった。図10は、図9のデータを導出した軸棒に対して行なった熱処理の条件を示す概略図である。まず、断面(端面)を形成する円の直径が14mmであり、素材が高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)、ビッカース硬度がHv220である、軸棒を形成する。次にガス軟窒化処理を行なう。ガス軟窒化処理は、アンモニア(NH)、窒素(N)、二酸化炭素(CO)をおよそ20:8:1のモル数比で混合した雰囲気の中で、図10に示すように、575℃で45分間加熱することにより行なう。次に、軸棒をガス冷により55℃以下まで冷却する。続いて、高周波焼入れ処理を行なう。これは、高周波焼入れ装置を用い、周波数50KHz、出力41kWにて軸棒を800℃〜1000℃まで急速に(1秒間)加熱した後、水冷により急冷する処理を行なう工程である。そして、水冷させた軸棒に対して焼戻し処理を行なう。これは、図10に示すように、165℃で90分間加熱を行なっている。その後空冷を行ない、軸棒の硬化を行なっている。
図9より、図10の条件にて軸棒の硬化処理を行なった軸棒に関しては、表面から約0.15mmの位置(深さ)にて、ビッカース硬度がHv300になっており、表面から約0.15mm以上の深さの領域においては、ビッカース硬度がHv300以下となっている。以上より、かしめ加工を容易に行なうためには、軸棒の両方に存在する端面において、その表面からビッカース硬度がHv300以下となる深さである、深さ0.2mm以上の領域を除去すればよいことがわかる。
以上のように、かしめ加工を行ないたい軸棒の端面においては、その表面のビッカース硬度がHv300以下となるように端面を除去することが好ましい。なお、たとえば上述した軸棒の素材のビッカース硬度がHv220であれば、上述した素材の硬度であるHv220となるように端面を除去することがさらに好ましい。また、後述するかしめ加工を容易におこなうためには、たとえば研削による除去を行なった後の端面の表面からの深さが0.5mm以内の領域は特に、かしめ加工を行なうためのビッカース硬度がHv300以下となるように除去することが好ましい。したがって、軸棒の素材のビッカース硬度がHv300以下であることとする。たとえば、上述した素材として、ビッカース硬度がHv220のものを使用することが好ましい。このことにより、たとえば研削除去した後の軸棒の端面の表面からの深さが0.5mm以内の領域については、ビッカース硬度がHv220とすることができる。
そして、外径部の研削を行なう工程(S6)を行なう。これは、加工した軸棒を実際に相手部材に嵌合するために、断面の直径を調整する工程である。断面の直径を調整するために、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面からある深さまでの領域を研削する。研削加工は、たとえばセンタレス研削盤を用いて行なう。このように、先の工程にて軟窒化処理および高周波処理を行なった軸棒の表面に存在する窒化層を研削することにより、主軸方向に交差する方向での軸棒の外径を調整する工程である。なお、先の工程(S5)および工程(S6)は、工程を行なう順序を逆にしてもよい。
外径部の研削を行なう研削の取りしろ分は0.05mmから0.1mm程度である。すなわち、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面からおよそ0.1mm以内の領域に存在する窒化層を研削除去するということである。ところで、窒化層は、先述のように、化合物層101と拡散層102とに分けられる。(図8参照)そして、先述のように、主軸の表面側に存在する化合物層101は、その厚みがおよそ3μmから20μmの範囲にある。このため、たとえば外径部の研削を表面から0.1mm行なうと、化合物層101は完全に除去されてしまうことになる。化合物層101は硬度が高いために耐摩耗性を向上させる効果を持つが、今回の手法において軟窒化処理を施す目的は、この化合物層101の効果を得ることよりもむしろ、化合物層101より内部側に形成される、窒素が侵入した拡散層102を得ることで、これによって、オーステナイトを安定させ、焼入れ後の残留オーステナイトの質量%を増加させることにある。以上により、化合物層101が除去されてしまうことに関しては特に問題はない。
先述のように、転動体や軸棒の表面に発生する損傷に影響する異物の大きさは、一般的には0.1mm以下であると考えられる。転動疲労寿命は、異物の大きさと同等以上の窒化層深さがあれば改善されると考えられるため、外径部の研削を行なう工程(S6)を行なった後に窒化層の表面からの深さは0.1mm以上を必要とする。したがって、特に、外径部の研削を行なう工程(S6)を行なった後における、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から深さ0.1mm以内の領域は、窒化層の拡散層102として存在することが好ましい。また、この窒化層の深さを安定して確保し、十分な転動疲労寿命を確保する効果を得るために、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面層は、窒素濃度が0.1質量%以上であることが好ましい。ただし、窒素濃度が0.7質量%以上となると、残留オーステナイト量が多くなって軸棒の表面からある深さまでの領域の硬度が低下するために、かえって短寿命となることがある。また、残留オーステナイトは高温で分解して変形を生じさせる。したがって、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面層は、窒素濃度が0.1質量%以上0.7質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、外径部の研削を行なう工程(S6)を行なった後における、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から深さ0.1mm以内の領域は、窒素濃度0.1質量%以上0.7質量%以下とすることがさらに好ましい。ここで、外径部の研削を行なった後における、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面からの深さが0.1mm以内の領域において特に上述した条件が好ましいのは、先述のように、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面が、この軸棒を軸受の部材として使用する際に、転動体による摩耗が激しく、耐摩耗性の向上および転動疲労寿命の改善が特に要求される部分であるからである。
また、先述のように、表面からある深さまでの領域のビッカース硬度は、Hv653以上で硬度が高いほど好ましいが、特に、外径部の研削を行なう工程(S6)を行なった後における、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から深さ0.1mm以内の領域は、ビッカース硬度は、Hv653以上で硬度が高いほど好ましい。特に、Hv700以上Hv900以下であることがさらに好ましい。なお、外径部の研削を行なう工程(S6)を行なった後における、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から深さ0.2mm以内の領域については、ビッカース硬度は、Hv653以上で硬度が高いほどさらに好ましい。特に、Hv700以上Hv900以下であることがさらに好ましい。
さらに先述のように、オーステナイト結晶粒は粒径が小さいほど好ましく、粒度番号が11番以上であることが好ましいが、同様に考え、外径部の研削を行なう工程(S6)を行なった後における、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から深さ0.1mm以内の領域は、オーステナイト結晶粒度番号が11番以上であることが好ましい。しかし、13番を超える粒度番号のものを安定して得ることは難しいので、より好ましくは、粒度番号11番以上13番以下とする。なお、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から深さ0.2mm以内の領域は、オーステナイト結晶粒度番号が11番以上であることがさらに好ましい。特に、粒度番号11番以上13番以下であることが好ましい。
さらに同様に、外径部の研削を行なう工程(S6)を行なった後における、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から深さ0.1mm以内の領域は、残留オーステナイトの含有量が10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。なお、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面から深さ0.2mm以内の領域は、残留オーステナイトの含有量が10質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
以上の方法により、軸棒が形成されるが、この軸棒を実際に相手部材に固定することにより、先述のように、たとえばニードル軸受や針状ころなどの軸受の内輪部材である転動軸として、この軸棒を使用することができる。それが相手部材に固定する工程(S7)である。
相手部材に固定する工程(S7)においては、図7に示すように、まず、嵌合させる工程(S71)を実施する。これは具体的には、軸棒の主軸方向の両端部(端面)と相手部材とを嵌合させる工程である。なお、ここで相手部材は、軸棒に完全に嵌合して軸棒が相手部材を貫通できるように穴が空いた構造とする。
そして、かしめ加工を行なう工程(S72)を実施する。これは具体的には、軸棒の主軸方向の両端部(端面)の一部を塑性加工させて塑性流動を起こさせて、そこで生じた流動性を有する部分を介して、軸棒と相手部材とを固着させることにより両者を固定させる工程である。
図11は、軸棒を相手部材にかしめた状態を、主軸に平行な断面で切った断面図である。図12は、図11における軸棒の端面の状態を示す概略図である。かしめ加工を行なう方法としては、相手部材に嵌合させた軸棒104を、軸受を構成するための相手部材107に嵌合させ、さらにたとえば、図11に示すように、軸棒104が軸受の外輪105および転動体106の内輪部材となるようにセットする。図11のように軸棒104の両端部に相手部材が存在する場合、たとえば溝を形成するためのかしめ工具を用いて、軸棒104の両方の端面108にV字型の溝109を、図12に示すように端面108の中心からある半径の円をなすように形成する。そのあと、かしめ加工により、V字型の溝109を彫った部分より外周側に元々存在した素材は端面108の円周方向(外側)へ流動し、図11に示すように流動した部分を軸棒104の外側に存在する相手部材107に固着させる。このようにして軸棒104と相手部材107とをかしめることにより、両者を固定させることができる。
なお、かしめ加工を行なうには上述したように、端面108にV字型の溝109を形成する必要があるが、端面108の表面からある深さまでの領域の硬度が高いと、V字型の溝109を形成し、端面108の外周部を外側へ流動させることが困難になる。その結果、かしめ加工を行なうことが困難になる。したがって、先述のとおり、かしめ加工を容易に行なうために、軸棒104の端面108からある深さまでの領域の硬度をビッカース硬度Hv300以下に下げることが好ましい。
以上の方法により形成した軸棒は、たとえば図1に示したロッカーアームや図2から図5に示した遊星ギア装置に組み込むニードル軸受や針状ころの内部部材として使用した場合に、転動体による摩耗が激しいと思われる、軸棒の主軸方向に伸びる曲面の表面からある深さの領域に関して、耐摩耗性を向上させ、転動疲労寿命を改善させることができる。その結果、軸受の性能や品質も向上させることができる。また、これらの軸棒や軸受は、上述した方法を用いることにより、容易に形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明は、耐摩耗性や転動疲労寿命を改善させた軸棒を容易に製造する技術として特に優れている。
ロッカーアームに組み込む転がり軸受を示す概略図である。 プラネタリギア機構の構成部品を組み込んだ自動変速機の構成を示す概略断面図である。 図2のP部のプラネタリギア機構の構成を概略的に示す正面図である。 図3のプラネタリギア機構の斜視図である。 図3および図4のプラネタリギア機構における軸受部材として転がり軸受の構成を概略的に示す一部破断斜視図である。 本発明の実施の形態における、軸棒および軸受の製造方法を示すフローチャートである。 図6の工程(S7)を詳細に示すフローチャートである。 軸棒に対して軟窒化処理を行なった後における窒化層を説明する概略図である。 軟窒化処理を行なった軸棒の表面からの深さに対する硬度を示すグラフである。 図9のデータを導出した軸棒に対して行なった熱処理の条件を示す概略図である。 軸棒を相手部材にかしめた状態を、主軸に平行な断面で切った断面図である。 図11における軸棒の端面の状態を示す概略図である。
符号の説明
1 ロッカーアーム、2 転動軸、3 ころ、4 外輪のローラ、5 カム、6 吸排気バルブ、10 プラネタリギア機構、11 サンギアシャフト、12 リングギアシャフト、13 遊星ギア、14 太陽歯車、15 内歯歯車、17 転動軸、18 針状ころ、19 保持器、20 軸受部材、101 化合物層、102 拡散層、103 軸棒内部、104 軸棒、105 外輪、106 転動体、107 相手部材、108 端面、109 V字型の溝、110 かしめない箇所。

Claims (12)

  1. 軸受の内輪部材として使用する軸棒の製造方法であり、
    前記軸棒の耐摩耗性を向上させる工程と、
    前記軸棒の主軸方向の両端部にある、前記主軸方向に交差する表面を除去する工程とを備える、軸棒の製造方法。
  2. 前記軸棒の耐摩耗性を向上させる工程としては、
    前記軸棒の表面に対して軟窒化処理を行なう工程と、
    前記軟窒化処理を行なった前記軸棒の表面のうち、前記主軸方向に伸びる曲面に対して高周波焼入れ処理を行なう工程とを備える、請求項1に記載の軸棒の製造方法。
  3. 前記軟窒化処理を行なう工程により形成される窒化層は、前記軸棒の表面からの深さが0.2mm以上である、請求項2に記載の軸棒の製造方法。
  4. 前記高周波処理を行なった前記軸棒の表面に存在する前記窒化層を研削することにより、前記主軸方向に交差する方向での前記軸棒の外径を調整する工程を含む、請求項2または3に記載の軸棒の製造方法。
  5. 前記外径を調整する工程を行なった後における、前記主軸方向に伸びる曲面の表面層は、窒素濃度が0.1質量%以上である、請求項4に記載の軸棒の製造方法。
  6. 前記外径を調整する工程を行なった後における、前記主軸方向に伸びる曲面からの深さが0.1mm以内の領域は、オーステナイト結晶粒度番号が11番以上、ビッカース硬度がHv653以上である、請求項4または5のいずれか1項に記載の軸棒の製造方法。
  7. 前記外径を調整する工程を行なった後における、前記主軸方向に伸びる曲面からの深さが0.1mm以内の領域は、残留オーステナイト量が10〜50質量%である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の軸棒の製造方法。
  8. 前記主軸方向に交差する表面を除去する工程においては、
    前記軸棒の主軸方向の両端部にある、前記主軸方向に交差する表面からの深さが0.5mm以内の領域は、ビッカース硬度がHv300以下となるように除去する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の軸棒の製造方法。
  9. 前記軸棒の材質は、軸受鋼または0.45質量%以上の炭素を含有する機械構造用炭素鋼である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の軸棒の製造方法。
  10. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の軸棒の製造方法を用いて製造された軸棒を準備する工程と、
    前記軸棒の主軸方向の両端部を相手部材に固定する工程とを備え、
    前記固定する工程は、
    前記軸棒の主軸方向の両端部と前記相手部材とを嵌合させる工程と、
    前記嵌合を行なった前記軸棒の主軸方向の両端部と前記相手部材とをかしめる工程とを含む、軸受の製造方法。
  11. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の軸棒の製造方法により製造された軸棒。
  12. 請求項10に記載の軸受の製造方法により製造された軸受。
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