以下、図面を参照しながら本実施形態のエレベーター故障の遠隔復旧システム100について説明する。図1に示すように、遠隔復旧システム100は、ビル10(10A,10B)の昇降路11(11A,11B)の中に配置されたエレベーター20(20A,20B)の駆動制御を行うエレベーター制御装置200(200A,200B)と、エレベーター制御装置200(200A,200B)と通信し、エレベーター20(20A,20B)に故障の復旧動作を行わせる遠隔復旧装置300とを備えている。遠隔復旧装置300(遠隔監視装置)が復旧動作を行わせるエレベーター20は、1台でもよいし複数台であってもよい。
エレベーター制御装置200は、エレベーター20の駆動制御を行う制御盤210と通信装置250とを含んでいる。制御盤210は内部にCPUとメモリとを含むコンピュータである。また、遠隔復旧装置300は、通信装置320と監視盤330を含む遠隔監視センター310と、情報処理装置360と、保守データベース370と、復旧診断データベース380とを含んでいる。遠隔監視センター310と情報処理装置360と保守データベース370と復旧診断データベース380とは同じ場所に設置されていてもよいし、別々の場所に設置されてお互いをインターネット回線等によって接続するようにしてもよい。
通信装置250は、制御盤210に接続され、制御盤210からの出力を通信ネットワーク30に発信する。また、通信装置250は、情報処理装置360が復旧診断データベース380を参照して選択した制御盤210に対する指令を通信装置320、通信ネットワーク30を介して受信し、制御盤210に出力する。通信装置320は、制御盤210からの信号を通信装置250、通信ネットワーク30を介して受信し、情報処理装置360に出力する。また、通信装置320は、情報処理装置360が選択した制御盤210に対する指令を通信ネットワーク30に発信する。通信装置250、320は無線通信を行う機器であってもよいし有線通信を行う機器であってもよい。また、通信ネットワーク30は、インターネット通信網であってもよいし、電話回線網であってもよい。
遠隔監視センター310は、情報処理装置360とデータの授受を行い、エレベーター20の運行状況、故障状況を監視する監視盤330が配置されている。監視盤330には、エレベーター20の運行状況、故障状況、情報処理装置360からの通知等が表示されるディスプレイ331と、ディスプレイ331の表示を操作するスイッチ332とが設けられている。また、監視盤330には通信ネットワーク35を介してサービスセンター340との通信を行う電話333が備えられている。
保守データベース370は、エレベーター20の仕様や検査、保守、修理等の履歴データが格納されている。復旧診断データベース380は、エレベーター20の制御盤210から出力された故障コードに対応する複数の故障要因とその件数および復旧率等のデータが格納されている。
情報処理装置360は、内部にCPUとメモリとを含むコンピュータである。情報処理装置360には、エレベーター20に故障が発生した際に制御盤210が出力する故障信号が通信装置250、320、通信ネットワーク30を介して入力される。情報処理装置360は、故障信号が入力されると復旧診断データベース380のデータを参照して故障信号に含まれる故障コードに対応する復旧指令と復旧診断指令を選択する。選択された復旧指令と復旧診断指令とは、通信装置250、320と通信ネットワーク30を介して制御盤210に入力され、エレベーター20に復旧動作、復旧診断動作を実行させる。また後述するように、情報処理装置360は、エレベーター20に対して遠隔診断運転を実行させる。
図2に示すように、保守データベース370には、エレベーター仕様データ371、検査履歴データ372、保守作業履歴データ373、遠隔点検履歴データ374、変調履歴データ375、修理工事履歴データ376、故障履歴データ377、故障要因別データ378、及び運転履歴データ379が格納されている。
以下、図3を参照しながら、エレベーター仕様データ371、検査履歴データ372、保守作業履歴データ373、遠隔点検履歴データ374、変調履歴データ375、修理工事履歴データ376、故障履歴データ377、故障要因別データ378のデータ構造、及び運転履歴データ379について説明する。
エレベーター仕様データ371(仕様記憶部)は、エレベーター20の管理番号、機種、製造日、製造番号、設置ビルの名称、設置ビルの用途等の仕様項目データを格納するデータ構造を有している。機種は例えば高層用、低層用といった層別に振り分けられた機種情報や、住宅用、共同住宅用といった用途別に振り分けられた機種情報や、昇降路内が日光に晒される展望用エレベーターか否かといった設置状況別に振り分けられた機種情報が反映される。設置ビルの用途とは、例えば、事務所、一般居住用、飲食店、学校等である。
また、エレベーター仕様データ371は、設置環境及びロープ曲げ回数のデータを格納するデータ構造を有している。設置環境とは例えば温泉地、海沿い地域、工場等、エレベーター20の各機器が劣化し易い環境にあるか否かを示すデータである。またロープ曲げ回数とは、ワイヤ23が綱車によって曲げられる回数を示すデータである。またこの他に、昇降路高さデータが含まれていてもよい。
検査履歴データ372は、エレベーター20の管理番号、技術者350が現地で行った検査の日時、検査項目、検査結果のデータを格納するデータ構造を有している。検査とは、例えば、図1に示すエレベーター20のドア13、26の開閉状態の検査、各階の停止位置の検査(階床12とカゴ22の床27との高さずれ量の点検)、ワイヤ23の検査、走行速度の検査等である。また、検査結果には、検査の結果、異常が発見されたかどうかや、異常は発見されなかったが清掃等の保守作業が必要、あるいは、近々部品交換が必要である等が入力されている。なお、図1において符号25は錘を示す。
保守作業履歴データ373は、エレベーター20の管理番号、技術者350が現場で行ったエレベーター20の保守作業日時、保守作業項目、保守作業結果を格納するデータベース構造を有している。保守作業項目とは、例えば、エレベーター20の運転状態の点検、エレベーター20のドアレールの清掃、図1に示す駆動装置24への給油、エレベーター20のブレーキの調整等である。保守作業結果には、点検、清掃、給油、調整等を実施した実績が入力されている。
遠隔点検履歴データ374は、エレベーター20の管理番号、遠隔点検日時、遠隔点検項目、遠隔点検結果を格納するデータ構造を有している。エレベーター20の遠隔点検は後述するように遠隔診断とも呼ばれ、例えば、一か月に1回等予め設定されたスケジュールに従って、または後述するように類似エレベーターとして選び出されたときに、エレベーター20の制御盤210によって実施される。エレベーター20の制御盤210は、図1に示すエレベーター20のカゴ22を所定の階に移動させる。この移動の際にエレベーター20に取り付けられた各種のセンサによって運転性能(加速度、異常音の有無)、ドア開閉、ブレーキ、非常用バッテリ、外部連絡装置等に異常がないかを点検する。その点検結果を通信装置250、320、通信ネットワーク30を介して情報処理装置360から遠隔点検履歴データ374に格納するものである。なお、後述するように、遠隔点検(遠隔診断)は、情報処理装置360の診断運転指令部402によって実行指令が出力される。
変調履歴データ375は、エレベーター20の管理番号、変調発生日時、変調項目、変調対応結果を格納するデータ構造を有している。エレベーター20の変調とは、技術者350による検査、点検、保守作業、あるいは遠隔点検の結果が異常値には達しないが、そのエレベーター20の通常の値よりも変化しているような場合をいう。言い換えると、正常と異常との間に設けられる中間的な状態が変調である。例えば、走行速度の検査を行った結果、許容値内に入っているが、前回点検の際、あるいはそのエレベーター20の今までの検査結果の値からのずれが大きいような場合に、変調項目の中に「走行速度」と記録される。
修理工事履歴データ376は、エレベーター20の管理番号、修理工事日時、修理工事項目、修理工事結果、交換部品を格納するデータ構造を有している。修理工事とは、ワイヤ23の交換、ハンガローラ交換、ブレーキパッド交換、制御基板交換、リレー交換等の部品交換による復旧工事である。従って、修理工事項目には、「ワイヤ交換」、「ハンガローラ交換」、「ブレーキパッド交換」等の交換部品の名称が入力され、修理工事結果の欄には、「修理工事終了」、「再修理必要」等の事項が入力される。交換部品には、「ワイヤ」、「ハンガローラ」、「ブレーキパッド」等の事項が入力される。
故障履歴データ377は、エレベーター20の管理番号、故障発生日時、故障コード、復旧方法、復旧判定結果を格納するデータ構造を有している。故障コードとは、エレベーター20に故障が発生した際に制御盤210から出力される数字あるいは数字と英文字とを組み合わせたコードである。故障コードの種類は、例えば、1000種類程度である。復旧方法の項目には、例えば、技術者350が出動して検査、点検、復旧を行った場合には「技術者出動」のように入力される。また、復旧方法の項目には、例えば、遠隔復旧システム100によって復旧した場合には「遠隔復旧」のように入力される。復旧判定結果の項目には、エレベーター20が復旧して運行再開した場合には、「復旧」のように入力される。また、復旧判定結果の項目には、エレベーター20が復旧に失敗した場合には、「失敗」のように入力される。
故障要因別データ378は、ある故障コードが制御盤210から出力された際に、技術者350が現場に出動して検査、点検した結果によるその故障コードに対応する故障要因の件数、および、遠隔復旧システム100で復旧した場合のその故障コードに対応する故障要因の件数の合計件数が格納されている。例えば、故障コードがドア13、26に関する故障を示す0001の場合、技術者350が現地で点検した結果、その故障コード「0001」の出力された要因がドア敷居のゴミ詰まり(故障要因1)であったり、ドア開閉装置のスイッチの接触不良(故障要因2)であったり、その他の故障要因3であったりする。そこで、故障要因別データは、故障コード「0001」が出力された場合、ドア敷居のゴミ詰まり要因(故障要因1)の場合が100件、ドア開閉装置のスイッチの接触不良が要因(故障要因2)の場合が50件、その他の故障要因3の場合が10件というようなデータ構造で、その件数が多い順にデータが並べられるように構成されている。遠隔復旧システム100による復旧の場合、復旧指令によってエレベーター20の復旧に成功した場合にその復旧指令の基礎となった故障コードに対応する故障要因の件数が全体の故障要因の件数に追加される。
運転履歴データ379は、稼働率、乗場ドア開閉回数、カゴドア開閉回数、停止回、走行距離、走行延べ時間、及び起動回数の各データが格納される。稼働率は故障と次の故障の間の時間を指す平均故障間隔(MTBF)と修理にかかる時間の平均である平均修復間隔(MTTR)を用いて、MTBF/(MTBF+MTTR)から求められる。乗場ドア開閉回数は、階ごとに乗場ドア13の開閉回数が記録される。カゴドア開閉回数は、カゴ22のドア26の開閉回数が記録される。停止回は、カゴ22の停止回数が階ごとに記録される。走行距離は、カゴ22の延べ走行距離が記録される。走行延べ時間はカゴ22の延べ走行時間が記録される。起動回数は、ブレーキ(図示せず)の係合(制動)から次の係合までを一回とカウントし、その延べカウント数が記録される。
図4に示すように、復旧診断データベース380は、故障要因別データ378の故障要因の件数の多い順に、復旧指令と復旧診断指令のセットである復旧診断指令セットと、その復旧指令の実行によってエレベーター20の故障が復旧した割合である復旧率(%)が格納されている。復旧診断データベース380は、先に説明した故障要因別データ378に復旧診断指令セットと復旧率とをリンクさせたデータベースである。
以下、故障コードがドア13、26に関する故障を示す「0001」の場合の復旧診断データベース380のデータ構成について説明する。ドア敷居のゴミ詰まりが要因(故障要因1)の場合、復旧診断データは、故障要因1の件数データに復旧指令として「ドア回路リセット+ドア高トルク開閉」、復旧診断指令として「ドア開閉診断」、の2つの指令のセットである復旧診断指令セットAと、この復旧指令による復旧動作による復旧率x%とをリンクさせたデータ構成となっている。同様に、ドア開閉装置のスイッチの接触不良が要因(故障要因2)の場合には、復旧診断データは、故障要因2の件数データに復旧指令として「ドア回路リセット+ドア開閉リトライ」、復旧診断指令として「ドア開閉診断」の2つの指令のセットである復旧診断指令セットBと、この復旧指令による復旧動作の復旧率y%とをリンクさせたデータ構成となっている。同様に、故障要因3の場合には、復旧診断データは、故障要因3の件数データに復旧診断指令セットCと復旧率z%とをリンクさせたデータ構成となっている。このように、復旧診断データベース380は、故障コードと、その故障コードに対応する故障要因と、その故障要因の件数と、復旧指令と復旧診断のセットである復旧診断指令セットと、復旧率とを対応づけてデータベースに格納したものである。なお、本実施形態では、復旧率y%は復旧率x%、z%よりも大きな数値であり、復旧診断指令セットBは復旧診断指令セットA、復旧診断指令セットCよりも復旧率が高くなっている。
以下、図2および図5、図6を参照して、エレベーター20から故障信号が発信された場合の遠隔復旧システム100の動作について説明する。以下の説明では、最初にドア13、26に関する故障コード信号「0001」が発信された場合の遠隔復旧動作について説明する。次に、制御盤210の中に組み込まれている制御回路に関する故障コード「0002」が発信された場合の遠隔復旧動作について説明する。その次に、駆動装置24の中のブレーキに関する故障コード「0003」が発信された場合の遠隔復旧動作について説明する。なお、遠隔復旧システム100は、上記以外の部分に関する故障コードが発信された場合にも対応可能である。
図2および図5のステップS101に示すように、エレベーター20の制御盤210は、エレベーター20に故障が発生した否かの判断を行う。エレベーター20のドア13、26に関する故障、例えば、ドア開閉不良等の故障が発生した場合、制御盤210は、故障発生日時と故障がドアに関する故障であることを示す故障コード「0001」を通信装置250に出力する。エレベーター20に故障が発生しない場合には、制御盤210は、ステップS101の最初に戻ってエレベーター20の監視を継続する。
通信装置250は制御盤210から故障コード「0001」が入力されると、図2および図5のステップS102に示すように、故障コード「0001」およびエレベーター20の管理番号および故障発生日時を含む故障信号を通信ネットワーク30に発信する。図2および図5のステップS103に示すように、遠隔監視センター310の通信装置320は、通信ネットワーク30を介して通信装置250が発信した故障信号を受信する。通信装置320は、故障信号を受信すると、故障信号に含まれる故障コード「0001」とエレベーター20の管理番号、および、故障発生日時を情報処理装置360に出力する。情報処理装置360は、入力された故障コード「0001」とエレベーター20の管理番号、故障発生日時を保守データベース370の故障履歴データ377に格納する。
そして、情報処理装置360は、図5のステップS104に示すように、故障の発生したエレベーター20が遠隔復旧可能かどうかを判断する。情報処理装置360は、図2および図3に示すように、エレベーター20の管理番号を用いてエレベーター仕様データ371からエレベーター20の機種、製造日、製造番号を取得する。情報処理装置360は、取得した仕様データに基づいて、そのエレベーター20が遠隔復旧装置300からの復旧指令、復旧診断指令によって復旧動作、復旧診断動作が可能な仕様であるかどうか確認する。情報処理装置360は、エレベーター20が遠隔復旧動作の不可能な機種である場合には、図2および図5のステップS124に示すように、遠隔監視センター310に遠隔復旧不可を通知する信号を出力する。
また、情報処理装置360は、図2に示すように、検査履歴データ372、保守作業履歴データ373、遠隔点検履歴データ374、変調履歴データ375、修理工事履歴データ376、故障履歴データ377を参照して、以下の(a)〜(f)について確認する。(a)エレベーター20が最近の検査で調整手直し指示があったものである。
(b)エレベーター20が最近、あるいは、当日に保守計画があり調整ミスの可能性が予測されるものである。
(c)遠隔点検でエレベーター20に異常の診断結果があった。
(d)最近、エレベーター20に変調の発生があった。
(e)エレベーター20が、最近、修理工事が実施されているものである。
(f)エレベーター20が、最近、同様の故障コード「0001」による故障信号を発信している。
そして、上記(a)〜(f)のいずれか1つまたは複数に該当する場合には、情報処理装置360は、遠隔復旧システム100による復旧よりも技術者350をビル10に派遣した方が良いと判断し、図5のステップS104でNOと判断する。そして、図2および図5のステップS124に示すように、情報処理装置360は、遠隔監視センター310に遠隔復旧不可の通知を出力する。
更に、情報処理装置360は、エレベーター20の管理番号を用いてエレベーター仕様データ371と故障履歴データ377から、ビル10が故障信号の誤発信の多い建物であるかを確認する。このような場合には、情報処理装置360は、故障信号の誤発信の可能性が大きいので、遠隔復旧システム100による復旧よりも技術者350をビル10に派遣した方が良いと判断し、図5のステップS104でNOと判断する。そして、情報処理装置360は、図2および図5のステップS124に示すように、遠隔監視センター310に遠隔復旧不可の通知を出力する。
情報処理装置360から遠隔監視センター310に出力された遠隔復旧不可の通知は、図2に示すように、遠隔監視センター310のディスプレイ331に表示される。監視者334は、この表示を確認したら、図2および図6のステップS125に示すように、エレベーター20の運行休止の指示、および、アナウンス動作を行わせる。そして、監視者334は、電話333によって図2および図6のステップS126に示すように、ビル10近隣のサービスセンター340に技術者350をビル10に派遣するように指示する。
図5のステップS104でエレベーター20が遠隔復旧不可との判断をした場合は、情報処理装置360はステップS103において、入力された故障コード「0001」とエレベーター20の管理番号、故障発生日時を保守データベース370の故障履歴データ377に格納する。そして、情報処理装置360は、保守データベース370の他のデータの更新、並びに、復旧診断データベース380の更新は行わずに遠隔復旧動作を終了する。
一方、図5に示すステップS104において、情報処理装置360は、図2に示すように、検査履歴データ372、保守作業履歴データ373、遠隔点検履歴データ374、変調履歴データ375、修理工事履歴データ376、故障履歴データ377を参照して以下の(g)〜(n)について確認する。
(g)エレベーター20が遠隔復旧装置300からの復旧指令、復旧診断指令によって復旧動作、復旧診断動作が可能な仕様である。
(h)エレベーター20が最近の検査で調整手直し指示があったものではない。
(i)エレベーター20が、最近、あるいは、当日に保守計画がなく調整ミスの可能性が予測されるものではない。
(j)遠隔点検でエレベーター20に異常の診断結果がない。
(k)最近、エレベーター20に変調の発生がない。
(l)エレベーター20が、最近、修理工事が実施されているものではない。
(m)エレベーター20が、最近、同様の故障コード「0001」による故障信号を発信していない。
(n)ビル10が故障信号の誤発信の多い建物ではない。
そして、上記(g)〜(n)の全ての要件を満たす場合には、情報処理装置360は、図5に示すステップS104でYESと判断し、ステップS105で遠隔監視センター310に遠隔復旧開始を通知する。この信号は、遠隔監視センター310のディスプレイ331に表示される。これにより遠隔監視センター310の監視者334にエレベーター20の遠隔復旧が開始されることが通知される。
情報処理装置360は、ステップS105で遠隔監視センター310に遠隔復旧開始を通知したら、図5に示すステップS106に進み、故障コード「0001」に対応する復旧指令と復旧診断指令を選択する。先に、図4を参照して説明したように、復旧診断データベース380は、故障要因別データ378に復旧診断指令セットと復旧率とをリンクさせたデータベースである。以下、故障コードがドア13、26に関する故障を示す「0001」の場合の復旧診断データベース380のデータ構成について再度簡単に説明しておく。ドア敷居のゴミ詰まりが要因(故障要因1)の場合には、復旧診断データは、故障要因1の件数データに復旧指令として「ドア回路リセット+ドア高トルク開閉」、復旧診断指令として「ドア開閉診断」、の2つの指令のセットである復旧診断指令セットAと、この復旧指令による復旧動作による復旧率x%とをリンクさせたデータ構成となっている。同様に、ドア開閉装置のスイッチの接触不良が要因(故障要因2)の場合には、復旧診断データは、故障要因2の件数データに復旧指令として「ドア回路リセット+ドア開閉リトライ」、復旧診断指令として「ドア開閉診断」の2つの指令のセットである復旧診断指令セットBと、この復旧指令による復旧動作の復旧率y%とをリンクさせたデータ構成となっている。同様に故障要因3の場合には、復旧診断データは、故障要因3の件数データに復旧診断指令セットCと復旧率z%とをリンクさせたデータ構成となっている。また、先に説明したように、復旧率y%は復旧率x%、z%よりも大きな数値であり、復旧診断指令セットBは復旧診断指令セットA、復旧診断指令セットCよりも復旧率が高くなっている。
情報処理装置360は、故障コード「0001」に対応する複数の故障要因の内の件数が最も多い故障要因に応じた指令を復旧指令として選択してもよい。また、情報処理装置360は、故障コード「0001」に対応する複数の指令の内の復旧率が最も高い指令を復旧指令として選択してもよい。そして情報処理装置360は、選択した復旧指令に対応する復旧診断指令が選択した復旧指令とセットとなっている復旧診断指令セットを選択する。
まず、情報処理装置360が、故障コード「0001」に対応する複数の故障要因の内で件数が最も多い故障要因に応じた指令を復旧指令として選択する場合について説明する。情報処理装置360は、復旧診断データベース380を参照して、復旧指令として故障コード「0001」の場合に最も件数の多い故障要因を確認する。そして、情報処理装置360は、最も件数の多い故障要因であるドア敷居のゴミ詰まり(故障要因1)に対応する復旧動作を実行させる復旧指令である「ドア回路リセット+ドア高トルク開閉」と、この復旧動作の結果に対応する復旧診断動作を実行させる復旧診断指令である「ドア開閉診断」の2つからなる復旧診断指令セットAを選択する。
次に、情報処理装置360が、故障コード「0001」に対応する複数の指令の内の復旧率が最も高い指令を復旧指令として選択する場合について説明する。情報処理装置360は、復旧診断データベース380を参照して、復旧指令として故障コード「0001」に対応する復旧率が最も高い復旧率を確認する。そして、情報処理装置360は、最も高い復旧率y%であるスイッチの接触不良が要因(故障要因2)に対応する復旧動作を実行させる復旧指令である「ドア回路リセット+ドア開閉リトライ」と、この復旧動作の結果に対応する復旧診断動作を実行させる復旧診断指令である「ドア開閉診断」の2つからなる復旧診断指令セットBを選択する。
復旧診断指令セットを選択する場合、故障コード「0001」に対応する最も件数の多い故障要因に基づくか、故障コード「0001」に対応する復旧診断指令セットの復旧率に基づくかの選択は次のように行ってもよい。例えば、最大件数と次の件数との比率(件数比率)と最大復旧率と次の復旧率の比率(復旧率比率)のうち、比率が大きくなっている方、つまり、次の数値に対して最大値が突出している方を選択してもよい。また、例えば、前回の遠隔復旧で失敗した場合には、前回と異なる選択方法をとるようにしてもよい。また、復旧診断指令セットの選択は、例えば、エレベーター20の機種、仕様等によって決定してもよい。
以下の説明では、情報処理装置360が故障コード「0001」に対応する最も件数の多い故障要因1に基づいて復旧診断指令セットAを選択した場合について説明する。
図5のステップS106で復旧診断指令セットAを選択したら、情報処理装置360は、図2および図5のステップS107に示すように、選択した復旧診断指令セットAを通信装置320から発信する。図2および図5のステップS108に示すように、通信装置250は、通信装置320から復旧診断指令セットAを受信したら、復旧指令と復旧診断指令とを制御盤210に出力する。
制御盤210は、まず、図5のステップS109に示すように、エレベーター20が停止していること、カゴ22の重量センサ、カゴ22内のカメラ、カゴ22内の人物センサ等の出力からカゴ22の中に乗客がいないことを確認する。そして、制御盤210は、エレベーター20が停止していること、カゴ22の中に乗客がいないことを確認したら、カゴ22の中に設置された通話装置のスピーカーから「これから遠隔復旧を開始します。エレベーターのドアが開閉します。」等のアナウンスを行う。
制御盤210は、アナウンスが終了したら、図5のステップS110に進み、復旧指令に従って復旧動作を実行する。いま、受信している復旧指令は、ドア敷居のゴミ詰まり(故障要因1)に対応する復旧動作を実行させる復旧指令である「ドア回路リセット+ドア高トルク開閉」であるから、制御盤210は、まず、制御盤210のドア回路をリセットする。この動作は、ドア回路がドア13またはドア26が開閉不能で、開(または閉)状態、あるいは半開(または半閉)状態を検知している状態をリセットし、ドア13またはドア26を開閉動作可能とする動作である。次に、制御盤210は、ドア13およびドア26の駆動モータのトルクを通常よりも20〜30%高くして通常よりも大きな力でドア13およびドア26を開閉動作させる。この動作は、ドアの敷居に詰まっていたゴミを敷居から移動させ、ドア13、26の開閉動作を通常状態に復旧する動作である。上記動作によってドア13、26の敷居に詰まっていたゴミが移動し、ドア13、26の開閉が復旧したかどうかを確認するため、制御盤210は、図5のステップS111に示すように、復旧診断指令である「ドア開閉診断」を実行する。制御盤210は、通常のトルクでドア13およびドア26の開閉を行い、所定の開閉時間で開閉動作ができているか、ドア13およびドア26の駆動モータの電流が通常よりも大きくなっていないかを確認する。次に制御盤210は、駆動モータのトルクを通常よりも20%程度低くしてドア13およびドア26を開閉し、開閉時間に異常がないかを確認する。
そして、制御盤210は、図5のステップS112に示すように、復旧診断動作によってドア13、26が通常状態に復旧したと判断した場合には、図5のステップS113に進む。ステップS113において、制御盤210は、エレベーター20が復旧したという判定結果信号を出力する。この信号は、通信装置250から通信ネットワーク30に発信される。発信された判定結果信号は、図6のステップS114に示すように通信装置320で受信され、判定結果は情報処理装置360に入力される。また、判定結果は、図6のステップS115に示すように、情報処理装置360から遠隔監視センター310に通知され、その結果が遠隔監視センター310のディスプレイ331に表示される。遠隔監視センター310の監視者334は、この表示を確認したら、図6のステップS116に示すように、エレベーター20の運行再開、および、アナウンス動作を行わせる。また、情報処理装置360は、図6のステップS117、ステップS118に示すように、保守データベース370と、復旧診断データベース380とを更新する。
一方、制御盤210は、復旧診断動作の結果、図5のステップS112でNOと判断した場合には、図5のステップS119に進む。ステップS119において制御盤210は、エレベーター20の復旧に失敗したという判定結果信号を出力する。この信号は、通信装置250から通信ネットワーク30に発信される。発信された判定結果信号は、図6のステップS120に示すように通信装置320で受信され、判定結果は情報処理装置360に入力される。また、判定結果は、図6のステップS121に示すように、情報処理装置360から遠隔監視センター310に通知され、その結果が遠隔監視センター310のディスプレイ331に表示される。監視者334は、この表示を確認したら、図6のステップS122に示すように、エレベーター20の運行休止の指示、および、アナウンス動作を行わせる。また、監視者334は、電話333によって図2および図6のステップS123に示すように、ビル10近隣のサービスセンター340に技術者350をビル10に派遣するように指示する。また、情報処理装置360は、図6のステップS117、ステップS118に示すように、保守データベース370と、復旧診断データベース380とを更新する。
情報処理装置360は、図5のステップS113に示すようなエレベーター20が復旧したという判定信号が入力された場合、次のように、保守データベース370を更新する。
図5のステップS113に示すようなエレベーター20が復旧したという判定信号が入力された場合には、情報処理装置360は、故障履歴データ377の復旧方法の項目に「遠隔復旧」、復旧判定結果の項目に「復旧」を格納する。先に、説明したように、通信装置320が故障信号を受信した際に、情報処理装置360は、通信装置320から入力された故障コード「0001」とエレベーター20の管理番号、故障発生日時を保守データベース370の故障履歴データ377に格納している。従って、今回の復旧方法、復旧判定結果の格納により、故障履歴データ377の全ての項目が更新されることになる。
また、今回の遠隔復旧において情報処理装置360は、復旧診断データベース380を参照して、復旧指令として故障コード「0001」の場合に最も件数の多い故障要因であるドア敷居のゴミ詰まり(故障要因1)に対応する復旧動作を実行させる復旧指令である「ドア回路リセット+ドア開閉リトライ」と、この復旧動作の結果に対応する復旧診断動作を実行させる復旧診断指令である「ドア開閉診断」の2つからなる復旧診断指令セットAを選択して復旧動作および復旧診断動作を実行させている。従って、エレベーター20の復旧に成功した場合には、復旧診断データベース380の故障コード「0001」、故障要因1(ドア敷居のゴミ詰まり)の件数を1件多くし、復旧に成功した分だけ復旧率を高くする。また、情報処理装置360は、故障要因別データ378の故障コード「0001」の故障要因1の件数を1件多くする。
一方、情報処理装置360は、図5のステップS119に示すようなエレベーター20の復旧に失敗したという判定信号が入力された場合、次のように、保守データベース370と復旧診断データベース380を更新する。図5のステップS119に示すようなエレベーター20の復旧に失敗したという判定信号が入力された場合には、情報処理装置360は、故障履歴データ377の復旧方法の項目に「遠隔復旧」、復旧判定結果の項目に「失敗」を格納する。また、復旧診断データベース380の故障コード「0001」、故障要因1(ドア敷居のゴミ詰まり)の件数はそのままとし、復旧に失敗した分だけ復旧率を低下させる。なお、復旧に失敗した場合には、故障要因別データ378の故障コード「0001」の故障要因1の件数は変更されない。
以上の説明では、情報処理装置360が故障コード「0001」に対応する最も件数の多い故障要因に基づいて復旧診断指令セットAを選択した場合について説明した。情報処理装置360が故障コード「0001」に対応する復旧診断指令セットの復旧率に基づいて復旧診断指令セットBを選択した場合には、「ドア高トルク開閉」の復旧動作に代えて、通常のトルクでドア13、26の開閉動作を再度行う「ドア開閉リトライ」の復旧動作を行う点が異なる。その他の動作は復旧診断指令セットAを選択した場合と同様である。
エレベーター20の遠隔復旧に成功すると、それまで、故障コード「0001」の場合に最も件数の多い故障要因であったドア敷居のゴミ詰まり(故障要因1)の件数が多くなる。このため、遠隔復旧システム100が故障コード「0001」に対応する最も件数の多い故障要因に基づいて復旧診断指令セットを選択する場合、次の遠隔復旧の際に故障コード「0001」が入力された際に、情報処理装置360は、再度、復旧診断指令セットAを選択する。また、復旧診断指令セットAの復旧率が復旧診断指令セットBの復旧率よりも高くなった場合には、情報処理装置360が故障コード「0001」に対応する複数の指令の内で復旧率が最も高い指令を復帰指令として選択する場合でも、復旧診断指令セットAを選択する。
一方、エレベーター20の遠隔復旧に失敗すると、故障要因別データ378の故障コード「0001」の故障要因1の件数は変更されないが、復旧診断指令セットAの復旧率が低下する。これにより、復旧診断指令セットBの復旧率が相対的に高くなる。つまり、復旧診断指令セットBの復旧診断指令セットAに対する復旧率比率が高くなる。この復旧率比率が故障要因2の件数に対する故障要因1の件数の比率として計算される件数比率よりも大きくなると、情報処理装置360は、故障コード「0001」に対応する複数の指令の内で復旧率が最も高い指令を復帰指令として選択するようになる。このため、情報処理装置360は、次の遠隔復旧の際に故障コード「0001」が入力された場合には、復旧率が最も高い復旧診断指令セットBを選択する。また、情報処理装置360が前回の遠隔復旧で復旧に失敗した復旧診断指令セットAを選択しない場合には、故障要因1の次に故障コード「0001」に対応する件数の多い故障要因2にリンクした復旧診断指令セットBを選択する。
また、情報処理装置360が故障コード「0001」に対応する複数の指令の内で復旧率が最も高い復旧診断指令セットBを選択してエレベーター20の復旧に成功した場合には、復旧診断指令セットBの復旧率が高くなる。従って、情報処理装置360は、次の遠隔復旧では、前回と同様、復旧診断指令セットBを選択する。一方、復旧診断指令セットBでエレベーター20の復旧に失敗した場合には復旧診断指令セットBの復旧率が低くなる。そして、復旧診断指令セットBの復旧率が復旧診断指令セットAの復旧率よりも低くなったら、情報処理装置360は、復旧診断指令セットAを選択する。なお、情報処理装置360が前回の遠隔復旧で復旧に失敗した復旧診断指令セットBを選択しない場合には、復旧診断指令セットBの次に故障コード「0001」に対応する復旧率の高い復旧診断指令セットAを選択する。
このように、遠隔復旧システム100は、遠隔復旧に成功すると故障要因の件数、選択した復旧診断指令セットの復旧率を増加させる。また、遠隔復旧システム100は、遠隔復旧に失敗すると故障要因の件数はそのままで、選択した復旧診断指令セットの復旧率を低下させる。このため、遠隔復旧に成功すると、その遠隔復旧で選択した復旧診断指令セットが次の遠隔復旧の際に選択される可能性が高くなる。また、遠隔復旧に失敗するとその遠隔復旧で選択した復旧診断指令セットが次の遠隔復旧の際に選択される可能性が低くなる。このため、遠隔復旧の回数が多くなるに従って、情報処理装置360は、復旧診断データベース380から故障コードに対応した復旧可能性の高い復旧診断指令セットを選択できるようになり、エレベーター20の復旧の確実性を向上させていくことができる。
以上説明した実施形態では、制御盤210からドア13、26に関する故障であることを示す故障コード「0001」が出力された場合の遠隔復旧システム100の動作について説明した。次に、制御盤210から、制御回路に関する故障であることを示す故障コード「0002」が出力された場合について説明する。なお、故障コード「0001」が出力された場合と同様の動作については、説明は省略する。
故障コードが制御回路に関する故障を示す「0002」の場合、技術者350が現地で点検した結果、その故障コード「0002」の出力された要因が制御盤210に取り付けられているリレーに不具合のある場合(故障要因4)であったり、リレーを駆動するリレー駆動回路に不具合がある場合(故障要因5)であったり、その他の故障要因6であったりする。故障要因別データ378は、故障コード「0002」の場合、リレーに不具合が要因(故障要因4)の場合が100件、リレー駆動回路の不具合が要因(故障要因5)の場合が50件、その他の故障要因6の場合が10件というようなデータ構造で、その件数が多い順にデータが並べられるように構成されている。先に説明したと同様、遠隔復旧システム100による復旧の場合、復旧指令によってエレベーター20の復旧に成功した場合にその復旧指令の基礎となった故障コードに対応する故障要因の件数が全体の故障要因の件数に追加される。
図7に示すように、復旧診断データベース380は、故障要因別データ378に復旧診断指令セットと復旧率とをリンクさせたデータベースである。以下、故障コードが制御回路に関する故障を示す「0002」の場合の復旧診断データベース380のデータ構成について説明する。リレーに不具合のある場合(故障要因4)には、復旧診断データは、故障要因4の件数データに復旧指令として「制御回路リセット+低速アップ、ダウン運転」、復旧診断指令として「各階運転、高速運転診断」、の2つの指令のセットである復旧診断指令セットDと、この復旧診断指令による復旧動作による復旧率a%とをリンクさせたデータ構成となっている。リレー駆動回路に不具合がある場合(故障要因5)には、復旧診断データは、故障要因5の件数データに復旧指令として「制御回路リセット+最上階、最下階間運転」、復旧指令として「各階運転、高速運転診断」、の2つの指令のセットである復旧診断指令セットEと、この復旧診断指令による復旧動作による復旧率b%とをリンクさせたデータ構成となっている。同様に故障要因6の場合には、復旧診断データは、故障要因6の件数データに復旧診断指令セットFと復旧率c%とをリンクさせたデータ構成となっている。このように、復旧診断データベース380は、故障コードと、その故障コードに対応する故障要因と、その故障要因の件数と、復旧指令と復旧診断のセットである復旧診断指令セットと、復旧率とを対応づけてデータベースに格納したものである。なお、復旧率は、復旧診断指令セットEのb%が最も高くなっている。
故障コードが「0002」の場合、情報処理装置360が、情報処理装置360が故障コード「0002」に対応する最も件数の多い故障要因に基づいて復旧診断指令セットDを選択した場合、情報処理装置360は、復旧診断指令セットDを制御盤210に送信する。制御盤210は、制御回路リセット動作を実行した後、エレベーター20のカゴ22を低速で上昇、下降させる低速アップ、ダウン運転を実行する。その後、制御盤210は、ドア13、26の開閉を行わずに各階に停止する各階運転、複数の階間を高速で運転する高速運転を実行し、各階に停止する運転、および、高速での走行運転に異常がないかを確認する。制御盤210は、各階運転、高速運転で異常のない場合には、エレベーター20の復旧に成功した判定結果を出力する。また、各階運転、高速運転で異常が検出された場合には、制御盤210は、エレベーター20の復旧に失敗した判定結果を出力する。この判定結果は、制御盤210から通信装置250、320を介して情報処理装置360に入力される。情報処理装置360は、先に説明したと同様、判定結果に基づいてより復旧可能性の高い復旧診断指令セットを選択することができるように、故障履歴データ377、故障要因別データ378、復旧診断データベース380を更新する。
また、情報処理装置360が故障コード「0002」に対応する復旧率が最も高い復旧診断指令セットEを選択した場合、情報処理装置360は、復旧診断指令セットEを制御盤210に送信する。制御盤210は、制御回路リセット動作を実行した後、エレベーター20のカゴ22を最下階と最上階との間で移動させる最下階、最上階間運転を実行する。次に、制御盤210は、先に説明した各階運転、高速運転を実行し、エレベーター20の復旧診断を行い、エレベーター20の復旧に成功したか失敗したかの判定結果を出力する。先に説明したと同様、この判定結果は、制御盤210から通信装置250、320を介して情報処理装置360に入力される。情報処理装置360は、判定結果に基づいてより復旧可能性の高い復旧診断指令セットを選択することができるように、故障履歴データ377、故障要因別データ378、復旧診断データベース380を更新する。
次に、故障コードがブレーキに関する故障であることを示す「0003」の場合について説明する。
故障コードがブレーキに関する故障を示す0003の場合、技術者350が現地で点検した結果、その故障コード「0003」の出力された要因が制御盤210のブレーキ回路の異常が要因(故障要因7)であったり、その他の故障要因8、故障要因9であったりする。そこで、故障要因別データ378は、故障コード「0003」の場合、ブレーキ回路の異常が要因(故障要因7)の場合が100件、故障要因8の場合が50件、その他の故障要因9の場合が10件というようなデータ構造で、その件数が多い順にデータが並べられるように構成されている。先に説明したと同様、遠隔復旧システム100による復旧の場合、復旧指令によってエレベーター20の復旧に成功した場合にその復旧指令の基礎となった故障コードに対応する故障要因の件数が全体の故障要因の件数に追加される。
図8に示すように、復旧診断データベース380は、故障要因別データ378に復旧診断指令セットと復旧率とをリンクさせたデータベースである。以下、故障コードがブレーキに関する故障を示す「0003」の場合の復旧診断データベース380のデータ構成について説明する。ブレーキ回路の異常が要因(故障要因7)の場合には、復旧診断データは、故障要因7の件数データに復旧指令として「制御回路リセット」、復旧診断指令として「ブレーキトルク診断」、の2つの指令のセットである復旧診断指令セットGと、この復旧診断指令による復旧動作による復旧率d%とをリンクさせたデータ構成となっている。故障要因8、故障要因9の場合には、復旧診断データは、故障要因8および故障要因9の各件数データに復旧診断指令セットHと復旧率e%、復旧診断指令セットIと復旧率f%をそれぞれリンクさせたデータ構成となっている。このように、復旧診断データベース380は、故障コードと、その故障コードに対応する故障要因と、その故障要因の件数と、復旧指令と復旧診断のセットである復旧診断指令セットと、復旧率とを対応づけてデータベースに格納したものである。なお、復旧率は、復旧診断指令セットHのe%が最も高くなっている。
次に制御盤210がブレーキに関する故障発生を検出した場合の遠隔復旧システム100の動作について説明する。
故障コードが「0003」の場合、情報処理装置360が、図5のステップS106で情報処理装置360が故障コード「0003」に対応する最も件数の多い故障要因に基づいて復旧診断指令セットGを選択した場合、情報処理装置360は、復旧診断指令セットGを制御盤210に送信する。
故障コードが「0003」の場合、この復旧診断指令セットGを受信したら、制御盤210は、図5のステップS109に示す現場確認において、ブレーキトルク診断動作を実行する。ブレーキトルク診断動作は、機械的なブレーキで駆動装置24の中の巻上機が回転しない状態とし、巻上機に駆動力を与えてブレーキの保持力で巻上機が回転しないことを確認する動作である。この動作で異常がなければ、制御盤210は、図5のステップS109でエレベーター20の現場確認ができたとして遠隔復旧のアナウンスを行う。その後、図5のステップS110に進んで、制御盤210は、制御回路リセット動作を実行する。
その後、制御盤210はブレーキトルク診断動作を実行する。制御盤210は、この動作により巻上機の回転がない場合には、エレベーター20の復旧に成功した判定結果を出力する。また、巻上機が回転した場合には、制御盤210は、エレベーター20の復旧に失敗した判定結果を出力する。この判定結果は、制御盤210から通信装置250、320を介して情報処理装置360に入力される。情報処理装置360は、判定結果に基づいて復旧可能性の高い復旧診断指令セットを選択することができるように、故障履歴データ377、故障要因別データ378、復旧診断データベース380を更新する。
また、先に説明したと同様、情報処理装置360が故障コード「0003」に対応する復旧率が最も高い復旧診断指令セットHを選択して制御盤210に復旧動作および復旧診断動作を実行させることもできる。
なお、制御盤210は、ブレーキトルク診断動作で異常があった場合には、遠隔復旧を開始できないと判断し、遠隔復旧動作を実行せず、遠隔監視センター310に遠隔復旧不可を通知する。
以上説明したように、遠隔復旧システム100は、エレベーター20でいろいろな故障が発生した場合に、エレベーター20から離れた場所に配置された遠隔復旧装置300からの指令でエレベーター20に復旧動作、復旧診断動作を実行させてエレベーター20の復旧を行うことができる。このため、エレベーター20に故障が発生した際に技術者350を現地に出動させることなくエレベーター20を短時間で復旧することができ、エレベーター20の運行サービス向上を図ることができる。
また、遠隔復旧システム100は、復旧判定結果に基づいて次回の遠隔復旧の際により復旧可能性が高い復旧診断指令セットを選択することができるように、故障履歴データ377、故障要因別データ378、復旧診断データベース380を更新する。このため、遠隔復旧の回数が多くなるに従って、情報処理装置360は、復旧診断データベース380から故障コードに対応したより適切な復旧診断指令セットを選択できるようになる。これにより、更に、エレベーター20の復旧を確実に行うことができ、復旧にかかる時間を短縮してエレベーター20の運行サービス向上を図ることができる。
<遠隔診断処理>
図2に示すように、情報処理装置360は遠隔復旧処理を実行する機能ブロックと、遠隔診断を実行する機能ブロックとに分けられる。情報処理装置360は、後者(遠隔診断)の機能ブロックとして、類似エレベーター抽出部400、診断運転指令部402、保守点検要否判定部404、閾値変更部406、診断運転スケジュール設定部408、仮異常設定部410、及び診断運転項目データベース412を備える。また、遠隔診断に当たり、保守データベース370の種々のデータが用いられる。このような観点から、本実施形態に係る遠隔復旧装置300は、遠隔監視装置としての機能も有している。
図9,図10には、遠隔復旧装置300(遠隔監視装置)による遠隔診断処理のフローチャートが例示されている。ステップS101からステップS104までは図5の同符号ステップと同内容であることから、説明は省略する。図5のステップが一部重複することから、本実施形態に係る遠隔診断処理は、遠隔復旧処理から分岐した処理フローということもできる。
なお、以下の説明では、故障信号の発信元のエレベーター20がエレベーター20Aであり、類似エレベーターがエレベーター20Bであるときの例について説明する。
ステップS104にてエレベーター20(20A)の故障内容が、遠隔復旧不可のものである場合、復旧には技術者(保安員)がエレベーター20Aに駆け付ける保安点検が必要となり、ステップS1002に進む。なお、法定点検等による通常の保安点検に対して、故障に基づく保安点検を以下では適宜、緊急保安点検と呼ぶ。
エレベーター20の故障内容が、遠隔復旧可能なものである場合、情報処理装置360の診断運転指令部402は、故障信号の発信元であるエレベーター20Aのエレベーター制御装置200A(の制御盤210A)から、遠隔復旧動作の復旧判定結果(図5のS113)を待つ。エレベーター制御装置200Aから通信装置250A,320を介して復旧判定結果が情報処理装置360に送信されると、情報処理装置360の診断運転指令部402は、復旧判定結果が復旧失敗であったか否かを判定する(S1000)。
復旧判定結果が復旧成功である場合、緊急保安点検が不要となることから、遠隔診断処理フローは終了する(図10)。一方、復旧判定結果が復旧失敗である場合、エレベーター20Aの復旧のためには緊急保安点検が必要となることから、ステップS1002に進む。
ステップS1002では、遠隔復旧不可、または遠隔復旧失敗のエレベーター20A、つまり保守点検が必要なエレベーター20Aに類似する、言い換えると今後の故障が予測されるエレベーター20(類似エレベーター)を抽出する。後述するように、類似エレベーターを抽出して遠隔診断を行うことで、当該類似エレベーターに対する緊急保安点検の要否判定を行う。
類似エレベーターの抽出に当たり、情報処理装置360の類似エレベーター抽出部400は、保守データベース370に格納されたデータを参照する。具体的には類似エレベーター抽出部400は、保守データベース370のエレベーター仕様データ371(仕様記憶部)に基づいて類似エレベーターを抽出する。
図3に示すように、エレベーター仕様データ371(仕様記憶部)には種々の仕様項目が記憶されている。類似エレベーター抽出部400は、故障信号の発信元となったエレベーター20Aと仕様項目の少なくとも一つが共通するエレベーター20を類似エレベーターとして抽出する。
例えば図3に例示された、エレベーター仕様データ371(仕様記憶部)の仕様項目のうち、エレベーター管理番号及び製造番号はエレベーターに固有のものであるから、基本的にエレベーター20間で共通しない。残りの機種、製造日、設置ビル名称、設置ビル用途、設置環境、ロープ曲げ回数の6項目はエレベーター20間で共通する可能性がある。類似エレベーター抽出部400は、エレベーター仕様データ371から、故障信号の発信元のエレベーター20Aの仕様データを呼び出すとともに、その仕様項目と少なくとも一つが共通するエレベーター20を類似エレベーターとして抽出する。
また、エレベーター仕様データ371(仕様記憶部)に加えて、保守データベース370のその他のデータ、例えば運転履歴データ379や故障履歴データ377の各項目と共通するエレベーター20を類似エレベーターとして抽出してもよい。
ここで、エレベーター20Aの各項目との共通項目が多い程、後述する遠隔診断の実行順を繰り上げるようにしてもよい。また、各仕様項目に重み付けをした点数を与え、その合計点数に基づいて遠隔診断の実行順を定めてもよい。この点数は、故障コードに応じて変えるようにしてもよい。
例えば、故障コードが制御盤210Aを示す場合、つまり故障機器が制御盤210Aである場合、エレベーター20Aと他のエレベーター20とでロープ曲げ回数が共通していたとしても、故障機器(制御盤210A)から見て重要な共通事項とは言えないため、点数の重み付けは相対的に低くなる。一方、故障コードがワイヤ23Aを示す場合、ロープ曲げ回数の点数の重み付けは相対的に高くなる。このように、情報処理装置360の記憶部(図示せず)は、故障コードと関連付けて保守データベースの各項目の点数を記憶してもよい。
類似エレベーターの抽出が済むと、仮異常設定部410は診断運転項目データベース412を参照し、ステップS1002にて類似エレベーターとして抽出されたエレベーター管理番号の仮異常フラグを「有効」に設定する(S1004)。
図11には診断運転項目データベース412に格納されているデータのうち、エレベーター管理番号123456に対する遠隔診断設定データが示されている。このデータベースには、遠隔診断時の診断項目、具体的な診断内容、及び判定閾値が設定されている。
診断項目は例えばエレベーター20を納入した客先要求等に応じて定められる。また診断内容や判定閾値はエレベーター20の仕様や製造日等によって定められる。判定閾値は正常、変調、異常の3区分に分かれており、これらの区分が判定閾値によって分けられる。
また、診断運転項目データベース412では、仮異常フラグの有効/無効の切り替え設定が可能となっている。上述したように、仮異常設定部410は、類似エレベーターに対して、仮異常フラグを有効に設定する。
また、診断運転項目データベース412は、遠隔診断運転の実行予定日時が予め設定されている。この設定日時は、類似エレベーターに設定されると診断運転スケジュール設定部408によって変更される。例えばステップS1002にて類似エレベーターとして抽出された直後に遠隔診断運転の実行予定日時が変更される。
閾値変更部406は、診断運転項目データベース412を参照し、仮異常フラグが有効に設定されたエレベーター管理番号(類似エレベーター)の判定閾値を変更する(S1006)。具体的には図12に例示するように、正常値、変調値、異常値を分ける判定閾値を正常値側に引き上げる。言い換えると、判定が厳しくなるようにその閾値を変更する。
上述したように、類似エレベーターは故障した機器と類似した仕様、機器を備えており、現在は正常または変調状態であっても近い将来に故障する可能性がある。そこで類似エレベーターに対する遠隔診断では、診断の判定閾値を厳格にして、少しでも故障の予兆があれば機器交換を行うようにしている。
診断運転指令部402は、遠隔診断運転の実行日時が現在時に変更されたことに伴い、通信装置320,250(250B)を介して、類似エレベーターの制御盤210(例えば210B)に遠隔診断運転の実行指令を送信する(S1008)。また、遠隔診断運転の実行指令とともに、遠隔診断運転の診断項目、診断内容、及び判定閾値が制御盤210Bに送信される。なおこのとき、診断運転の判定閾値は閾値変更部406によって変更された(厳し目の)判定閾値が用いられる。また、診断項目、診断内容、及び判定閾値は、ステップS102にて発信された故障コードに関連するものだけであってもよい。
制御盤210Bでは遠隔診断運転の実行指令及びこれに伴って送信された診断項目を受けて診断運転を実行する(S1010)。なお診断運転に先立って、周囲に利用客がいる場合を想定して、乗り場から離れる旨のアナウンスを行ってもよい。またカゴ内にいる乗客を最寄階まで案内してカゴ内から退出させた後に診断運転を実行してもよい。
診断運転の各診断項目は制御盤210Bによって判定される。すべての診断項目において、検出値が正常領域に含まれる場合、制御盤210B及び通信装置250Bは、正常である旨の診断結果を発信する(S1012)。通信装置320がこれを受け、情報処理装置360に送る。
一方、ステップS1010にていずれかの診断運転結果にて検出値が異常領域に含まれる場合、制御盤210B及び通信装置250Bは、異常有りとの診断結果、異常判定された機器及びその検出値(異常値)を発信する(S1012)。通信装置320がこれを受け、情報処理装置360に送る。
保守点検要否判定部404は、制御盤210Bから発信された診断結果を取得し、その結果が正常であるか否かを判定する(図10S1014)。正常である場合、保守点検要否判定部404は緊急保守点検不要と判定する(S1016)。これを受けて仮異常設定部410は仮異常フラグを有効から無効に切り替え設定する(S1018)。加えて情報処理装置360は遠隔監視センター310に判定結果(正常)を送信する(S1020)。またこのときの診断運転内容及び結果は遠隔点検履歴データ374に記憶される。さらに情報処理装置360は類似エレベーター20Bの運転を診断運転から通常運転に切り替える旨の指令を制御盤210Bに送る(S1022)。
次に診断運転スケジュール設定部408は、次の遠隔診断運転の日時を設定する(S1024)。例えば類似エレベーター20Bに対して所定の定常間隔(例えば月に一度)よりも短縮化した間隔(例えば週に一度)で次の遠隔診断運転の日時を設定する。これにより他のエレベーター20Aにて故障が報告された類似エレベーター20Bの機器の状態変化を、より短い時間間隔で監視可能となる。
一方、ステップS1014にて制御盤210Bから発信された診断結果が異常判定であった場合、つまり、いずれかの診断運転結果にて検出値が異常領域に含まれる場合、保守点検要否判定部404は緊急点検が必要と判定する(S1026)。
上記判定を受けて情報処理装置360は遠隔監視センター310に判定結果(例えば、異常判定、異常判定対象機器、及び異常値)を送信する(S1028)。またこのときの診断運転内容及び結果は遠隔点検履歴データ374に記憶される。
さらに遠隔監視センター310の監視者334は、通信装置320、250B、及び制御盤210Bを介してエレベーター20Bの運行休止の指示、および、アナウンス動作を行わせる(S1030)。そして、監視者334は、電話333によってビル10B近隣のサービスセンター340に技術者350(保安員)をビル10Bに派遣するように指示し、緊急保安点検を実行させる(S1032)。
なお、ステップS1028にて遠隔監視センター310が判定結果(異常)を受信した際に、異常判定された機器も併せて受信する。このことから、遠隔監視センター310の監視者334は、緊急保安点検の実行指示に併せて、交換部品、つまり故障機器の代替部品を資材センター(図示せず)等に発注してもよい。また監視者334は、緊急保守点検の点検項目に故障機器の交換作業を登録する。
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲により規定されている本発明の技術的範囲ないし本質から逸脱することない全ての変更および修正を包含するものである。