JP6610770B2 - Wiebe関数パラメータ同定装置、方法及びプログラム - Google Patents

Wiebe関数パラメータ同定装置、方法及びプログラム Download PDF

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Description

本開示は、Wiebe関数パラメータ同定装置、Wiebe関数パラメータ同定方法、Wiebe関数パラメータ同定プログラム、内燃機関状態検出装置、及び車載制御システムに関する。
内燃機関の気筒内の燃焼による熱発生率をWiebe関数によりモデル化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特開2008-215204号公報
ところで、実際の内燃機関の気筒においては、熱損失が発生するので、筒内圧の実測値に基づく熱発生率(見掛けの熱発生率)は、特定のクランク角度で負となりうる。しかしながら、Wiebe関数は、見掛けの熱発生率が負となる領域(即ち熱発生率よりも大きい熱損失が生じる領域)を表現できないので、従来技術では、Wiebe関数を用いて、実測筒内圧に対応する見掛けの熱発生率を精度良く再現することが難しい。
そこで、本開示は、実測筒内圧に対応する見掛けの熱発生率を精度良く再現することが可能なWiebe関数パラメータ同定装置等の提供を目的とする。
本開示の一局面によれば、内燃機関の気筒内の燃焼による熱発生率をWiebe関数によりモデル化するWiebe関数パラメータ同定装置であって、
クランク角度毎に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される見掛けの熱発生率である第1熱発生率に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される熱損失である正の所定値を加算することで、クランク角度に応じた第2熱発生率を導出する所定値加算部と、
クランク角度に応じた前記第2熱発生率と前記Wiebe関数から得られる熱発生率との誤差が最小になるように、運転条件毎に、前記Wiebe関数の複数のWiebe関数パラメータの値を同定する第1同定部と
運転条件毎に、前記熱損失の算出に用いられる熱損失モデルの複数の熱損失パラメータの値を同定する第2同定部とを備える、Wiebe関数パラメータ同定装置が提供される。
本開示の一局面によれば、内燃機関の気筒内の燃焼による熱発生率をWiebe関数によりモデル化するWiebe関数パラメータ同定方法であって、
クランク角度毎に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される見掛けの熱発生率である第1熱発生率に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される熱損失である正の所定値を加算することで、クランク角度に応じた第2熱発生率を導出し、
クランク角度に応じた前記第2熱発生率と前記Wiebe関数から得られる熱発生率との誤差が最小になるように、運転条件毎に、前記Wiebe関数の複数のWiebe関数パラメータの値を同定し、
運転条件毎に、前記熱損失の算出に用いられる熱損失モデルの複数の熱損失パラメータの値を同定する、コンピューターにより実行されるWiebe関数パラメータ同定方法が提供される。
本開示の一局面によれば、内燃機関の気筒内の燃焼による熱発生率をWiebe関数によりモデル化するWiebe関数パラメータ同定プログラムであって、
クランク角度毎に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される見掛けの熱発生率である第1熱発生率に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される熱損失である正の所定値を加算することで、クランク角度に応じた第2熱発生率を導出し、
クランク角度に応じた前記第2熱発生率と前記Wiebe関数から得られる熱発生率との誤差が最小になるように、運転条件毎に、前記Wiebe関数の複数のWiebe関数パラメータの値を同定し、
運転条件毎に、前記熱損失の算出に用いられる熱損失モデルの複数の熱損失パラメータの値を同定する
処理をコンピューターに実行させるWiebe関数パラメータ同定プログラムが提供される。
本開示によれば、実測筒内圧に対応する見掛けの熱発生率を精度良く再現することが可能なWiebe関数パラメータ同定装置等が得られる。
Wiebe関数と燃焼率の関係を示す図である。 Wiebe関数と熱発生率の関係を示す図である。 熱損失特性(クランク角度と熱損失の関係)の一例を示す図である。 3段噴射の場合のWiebe関数と熱発生率の関係を示す図である。 筒内圧から算出する見掛けの熱発生率ROHR見掛けの波形の一例を示す図である。 本実施例によるWiebe関数パラメータ同定方法の概略流れを模式的に説明するための説明図である。 比較例による同定結果の説明図である。 図6のX1部の拡大図である。 本実施例による同定結果の説明図である。 図8のX1部の拡大図である。 熱損失モデルの説明図である。 パラメータ同定装置を含む車載制御システム1の一例を示す図である。 運転データの一例を示す図である。 パラメータ同定装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。 モデルパラメータ記憶部16内のデータの一例を概念的に示す図である。 本実施例による熱損失モデルの同定結果の効果の説明図である。 本実施例による熱損失モデルの同定結果の効果の説明図である。 パラメータ同定装置10により実行される処理の一例を示すフローチャートである。 エンジン制御装置30により実行される処理の一例を示すフローチャートである。 車載制御システム1におけるパラメータ同定装置10及びエンジン制御装置30の動作の概略流れを模式的に説明するための説明図である。 パラメータ同定装置を含む車載制御システムの他の一例を示す図である。
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
ここでは、まず、図1A及び図1Bを参照して、Wiebe関数の基本事項について説明する。
図1Aは、Wiebe関数と燃焼率の関係を示す図である。図1Bは、Wiebe関数と熱発生率の関係を示す図である。
Wiebe関数は、熱発生パターン(燃焼波形)の近似関数として知られる。具体的には、Wiebe関数とは、燃焼圧力から計算された燃焼率xのプロフィールを近似する関数であり、クランク角度θに対して次式で与えられる。
Figure 0006610770
ここで、a、mは、それぞれ形状指数、θsocは、燃焼開始時期、Δθは燃焼期間をそれぞれ表す。このa、m、θsoc、及びΔθの4つのパラメータは、Wiebe関数パラメータと呼ばれる。図1Aには、Wiebe関数と燃焼率xの関係が示され、横軸がクランク角度θであり、縦軸が燃焼率xである。これら4つのWiebe関数パラメータを用いて筒内の熱発生率(Rate of Heat Release)ROHRwは、次式のように表現される。
Figure 0006610770
ここで、Qbは、筒内の総熱発生量である。総熱発生量Qの値は、燃料噴射量等に基づいて算出される値が用いられてよい。
併せて、燃焼開始時期θsocからある時期Θまでの発生した総熱発生量は下式で表される。
Figure 0006610770
図1Bには、Wiebe関数と熱発生率dQb/dθの関係が示され、横軸がクランク角度θであり、縦軸が熱発生率dQb/dθである。図1Bには、クランク角度θ=Θであるときの総発生熱量HR(Θ)がハッチング範囲で示されている。
ここで、数2の式において、同定すべきWiebe関数パラメータの値がa、m、θsoc、及びΔθの4つのWiebe関数パラメータの値であるとすると、同定すべきWiebe関数パラメータの値は4個である。尚、燃焼割合xfの値についても、同定すべきWiebe関数パラメータの値に含まれてもよい。また、例えばWiebe関数パラメータaは、例えば6.9といった固定値とされてもよい。以下では、これらのWiebe関数パラメータa、m、θsoc、及びΔθの各値を、それぞれ、a値、m値、θsoc値、及びΔθ値と称する。
a値、m値、θsoc値、及びΔθ値のような各Wiebe関数パラメータの値は、例えば、ROHRとROHRwとの誤差が最小になるように同定される。具体的には、Wiebe関数パラメータの値を同定するための評価式(評価関数)は、以下のとおりである。この場合、ROHRとROHRwとの誤差二乗和が最小となるように各Wiebe関数パラメータの値が同定される。この際、内点法や逐次計画法等を用いた最適化計算により評価関数Fを最小にするWiebe関数パラメータの各値が導出されてよい。
Figure 0006610770
ここで、ROHRは、運転データ(実測筒内圧)に基づく見掛けの熱発生率ROHR見掛けに対して、熱損失HLを加算した熱発生率あり、以下、「真の熱発生率」とも称する。ROHRwは、Wiebe関数から得られる熱発生率である。Σは、例えば、1サイクル中の又は燃焼期間中の各クランク角度での積算を表す。真の熱発生率ROHRは、例えば、以下の通り算出できる。
Figure 0006610770
ここで、HLは、熱損失を表す。尚、熱損失は、熱発生率との関係では負の値となるが、ここでは、正の値で扱う。即ち、HL(及び後述のHLcalc等も同様)は正の値である。熱損失HLは、図2に示すように、クランク角度に応じて変化する。熱損失HLは、運転データ(実測筒内圧データ)に基づき導出できる。例えば、クランク角度に応じた熱損失HL(θ)は、実測筒内圧データを用いて、シリンダ壁面における平均的な熱伝達率を予測する実験式により導出できる。例えば、シリンダ壁面への熱伝達率は、以下で表せることが知られている。
Figure 0006610770
ここで、Cは実験定数、Wは燃焼室内ガス流動の効果、dはボア径である。mには0.8が用いられた経験式として、以下が知られている。
Figure 0006610770
これらの熱伝達率を用いて熱損失HLは、以下の式で表すことができる。
Figure 0006610770
ここで、Tはシリンダ内ガス温度、Twはシリンダ壁面温度、Nは機関回転数、Awはシリンダ壁面積、Pは筒内圧である。尚、tは時間であり、クランク角度θと実質的に等価である。Pの値は、実測筒内圧データに基づく値(クランク角度θに応じた値)が用いられる。
また、見掛けの熱発生率ROHR見掛けは、試験で得られる実測筒内圧データに基づいて、以下の関係を用いて導出できる。
Figure 0006610770
ここで、Qは熱発生量、γは比熱比、Pは筒内圧、Vは筒内体積である。例えば、γの値は、燃焼ガスの組成などに基づいて定まる既知の値が用いられてよい。Pの値は、同様に、実測筒内圧データに基づく値が用いられる。筒内体積V、及びその変化率dV/dθの各値は、クランク角度θに応じて幾何的に定まる値が用いられてよい。
Wiebe関数を用いるモデル化方法には、複数のWiebe関数の組み合わせを用いるモデル化方法もある。例えば、ディーゼル機関のような多段噴射の場合の熱発生率は、各段の熱発生率を重ね合わせたものとなるため、複数のWiebe関数を用いることで精度良く表現できる。図3は、3段噴射を行うディーゼルエンジンにおける場合のクランク角度θと熱発生率の関係を示す波形(以下、「燃焼波形」とも称する)が示される。図3には、1段目の噴射によるプレ燃焼に係る燃焼波形と、2段目の噴射によるメイン燃焼に係る燃焼波形と、3段目の噴射によるアフター(after)燃焼の第1燃焼と第2燃焼(拡散燃焼)に係る各燃焼波形と、これらの合成波形とが示されている。
例えば、図3のような3段噴射の場合、例えば、以下のように、N+1個のWiebe関数の組み合わせを用いるモデル化方法が用いられてよい。この場合、N=3とし、4つのWiebe関数の組み合わせを用いられてよい。即ち、Nは噴射回数に対応する。
Figure 0006610770
ここで、xfは、燃焼割合である。数10の式は、数2の式を、燃焼割合xfを乗じた形でN+1個組み合わせた式に対応する。即ち、数10の式は、i=kに係るWiebe関数(但し、kは、1〜N+1の任意の数)を、燃焼割合xfを乗じた形でN+1個組み合わせた式に対応する。
このような、組み合わせWiebe関数を用いるモデル化方法によれば、燃焼種別の異なる複数の燃焼形態が1サイクル中に存在する場合であっても、精度の高いモデル化が可能である。例えば数10のモデル化方法は、燃焼種別の異なる燃焼形態が1サイクル中にN+1個存在する場合に好適である。燃焼種別の異なる燃焼形態とは、例えば、図1Bに示すようなクランク角度θと熱発生率との関係が有意に異なる燃焼形態である。尚、最新のディーゼル機関のような多段噴射の場合の熱発生率は、各段の熱発生率を重ね合わせたものとなるため、組み合わせWiebe関数を用いるモデル化方法が有用である。但し、ディーゼルエンジンのみならず、ガソリンエンジン等においても、燃焼種別の異なる複数の燃焼形態が1サイクル中に存在する場合がありうる。従って、組み合わせWiebe関数を用いるモデル化方法は、ガソリンエンジン等のような他のエンジンにも適用可能である。
ここで、数10の式において、同定すべきWiebe関数パラメータの値がa、m、θsoc、及びΔθの4つのWiebe関数パラメータの値であるとすると、Wiebe関数がN+1個あるため、同定すべきWiebe関数パラメータの値は4×(N+1)個である。尚、燃焼割合xfの値についても、同定すべきWiebe関数パラメータの値に含まれてもよい。また、例えばWiebe関数パラメータaは、例えば6.9といった固定値とされてもよい。
組み合わせWiebe関数の場合も、同様に、Wiebe関数パラメータの値を同定するための評価式(評価関数)には、数4に示した評価関数Fが用いられてもよい。尚、この場合、熱発生率ROHRwは、数10の式に基づいて算出される。或いは、パラメータ同定の精度を上げるため、熱発生量HRの誤差二乗和や、燃焼種別の異なる2つの燃焼形態のそれぞれに係るWiebe関数間のm値の差分と、同Wiebe関数間のΔθ値の差分などを含んでもよい。例えば、この場合、評価関数Fは、例えば以下のとおりであってもよい。
Figure 0006610770
数11の式において、Σは、例えば、1サイクル中の又は燃焼期間中の各クランク角度での積算を表す。ここで、中括弧内の第1項は、熱発生率(ROHR)に関する評価値であり、上記の数4に示した評価関数Fと同じである。但し、この場合、熱発生率ROHRwは、数10の式に基づいて算出される。中括弧内の第2項は、熱発生量HRの誤差二乗和に関する評価値である。尚、HRは、数3の式から得られる。但し、この場合、数3の式のROHRwは、数10の式に基づく。HRは、以下のとおりである。中括弧内の第3項は、i番目の燃焼形態に係るWiebe関数のm値とk番目の燃焼形態に係るWiebe関数のm値との差分に関する評価値である。w及びwは、重みである。
Figure 0006610770
他の実施例では、評価関数Fは、例えば、以下の通りであってもよい。
Figure 0006610770
数13の評価関数Fの場合、中括弧内の第2項は、i番目の燃焼形態に係るWiebe関数のΔθ値とk番目の燃焼形態に係るWiebe関数のΔθ値との差分に関する評価値である。
数10に含まれる各Wiebe関数パラメータは、評価関数Fを最小にする値に同定される。この際、内点法や逐次計画法等を用いた最適化計算により評価関数Fを最小にする各Wiebe関数パラメータの値が導出されてよい。また、最適化計算の際には、他の拘束条件が追加されてもよい。他の拘束条件は、例えば、燃焼割合xfiの総和が約1となることや、メイン燃焼に係るWiebe関数の燃焼割合xfが他の燃焼に係るWiebe関数の燃焼割合xfよりも大きいこと等を含んでよい。
ここで、図4を参照して、見掛けの熱発生率ROHR見掛けについて説明する。図4は、実測筒内圧データから算出する見掛けの熱発生率ROHR見掛けの波形の一例を示す図である。図4のX1部に示すように、見掛けの熱発生率ROHR見掛けは、エンジンでの熱損失を含むため負の値をとる場合がある。尚、エンジンでの熱損失としては、シリンダ壁面からの熱損失や、噴射に起因した熱損失等がある。
他方、Wiebe関数は、図1Bや数2等に示すように、負の値を取り得ず、見掛けの熱発生率が負となる領域(即ち熱発生率よりも大きい熱損失が生じる領域)を表現できない。従って、熱損失に起因して負の値をとり得る見掛けの熱発生率ROHR見掛けをそのまま用いてWiebe関数パラメータの各値を同定する場合、同定した各値を用いたWiebe関数に基づいて、見掛けの熱発生率ROHR見掛けを精度良く再現することが難しい。
これに対して、本実施例によれば、上述のように、見掛けの熱発生率ROHR見掛けに代えて、真の熱発生率ROHRを用いてWiebe関数パラメータの各値が同定される。真の熱発生率ROHRは、数5の式を参照して上述したように、見掛けの熱発生率ROHR見掛けに熱損失HLを加算して算出される。従って、本実施例によれば、Wiebe関数に基づいて、見掛けの熱発生率ROHR見掛けを精度良く再現することが可能となる。即ち、本実施例によれば、Wiebe関数から得られる熱発生率ROHRwは、見掛けの熱発生率ROHR見掛けに熱損失HLを加算した真の熱発生率ROHRを精度良く再現している。これは、真の熱発生率ROHRは、見掛けの熱発生率ROHR見掛けに比べて、熱損失HLが加算される分だけ、負となる領域(即ち熱発生率よりも大きい熱損失が生じる領域)を持つ可能性が低くなるためである。尚、理論上は、真の熱発生率ROHRは、負となる領域を持たない。従って、真の熱発生率ROHRに対するWiebe関数の同定精度は、見掛けの熱発生率ROHR見掛けに対するWiebe関数の同定精度よりも高くなる。従って、真の熱発生率ROHRを精度良く再現する熱発生率ROHRwから、熱損失HLの算出値である熱損失HLcalcを減算すれば、見掛けの熱発生率ROHR見掛けを精度良く再現できる。即ち、以下の式から、見掛けの熱発生率ROHR見掛けを精度良く再現できる。
Figure 0006610770
ここで、ROHRは、Wiebe関数に基づき得られる熱発生率ROHRwから熱損失HLcalcを減算した熱発生率を表す。本実施例によれば、このようにして、Wiebe関数を用いて得られる熱発生率ROHR(=ROHRw−HLcalc)を、実測筒内圧データに基づく見掛けのROHR見掛けに近づけることができる(即ち見掛けの熱発生率ROHR見掛けの再現性を高めることができる)。この結果、Wiebe関数を用いて得られる熱発生率ROHRに基づき算出できる筒内圧の算出値の精度も高めることができる。
熱損失HLの算出値である熱損失HLcalcは、好ましくは、後述の熱損失モデルを用いて算出される。但し、運転条件毎の熱損失HLをマップデータとして保持しておき、運転条件に応じた熱損失HLを熱損失HLcalcとして用いることもできる。但し、運転条件毎の熱損失HLを持つマップデータのデータ量は膨大となり得る。この点、熱損失HLcalcが後述の熱損失モデルを用いて算出される場合、運転条件毎の熱損失HLをマップデータとして保持しておく必要が無くなる。
次に、図5を参照して、上述した本実施例によるWiebe関数パラメータ同定方法を概説する。
図5は、上述した本実施例によるWiebe関数パラメータ同定方法の概略流れを模式的に説明するための説明図である。図5には、図4のX1部に係る各波形(クランク角度と熱発生率の関係)が示されている。具体的には、図5には、矢印の順に上流側から、1番目に、クランク角度と見掛けの熱発生率ROHR見掛けの関係(ここでは、「第1関係」と称する)が示される。また、図5には、矢印の順に2番目に、クランク角度と真の熱発生率ROHRの関係(ここでは、「第2関係」と称する)が示される。また、図5には、更に、矢印の順に3番目に、クランク角度とWiebe関数からの熱発生率ROHRwの関係(ここでは、「第3関係」と称する)が示される。また、図5において、第1関係を表す波形には、参考として、クランク角度とマイナスの熱損失-HLの関係を表す波形が一点鎖線で重畳して示される。また、図5において、第2関係及び第3関係を表す波形には、参考として、第1関係を表す波形が点線で重畳して示される。
先ず、ある運転条件に関して、実測筒内圧データに基づき第1関係(クランク角度と見掛けの熱発生率ROHR見掛けの関係)が得られる。次いで、同運転条件に関して、実測筒内圧データに基づくクランク角度と熱損失HLの関係(一点鎖線参照)を用いて、クランク角度毎に、第1関係に基づく見掛けの熱発生率ROHR見掛けの値に、熱損失HLの値(所定値の一例)が加算される。この結果、第2関係(クランク角度と真の熱発生率ROHRの関係)が得られる。次いで、同運転条件に関して、Wiebe関数パラメータの各値が同定される。同定されたWiebe関数パラメータの各値を用いてWiebe関数から得られる第3関係は、図5に示すように、第2関係を精度良く再現する。換言すると、Wiebe関数パラメータの各値は、同運転条件に関して、第3関係が第2関係に一致するように同定される。
次に、図6乃至図9を参照して、上述した本実施例によるWiebe関数パラメータ同定方法の効果について、比較例と対比して説明する。
図6及び図7は、比較例による同定結果の説明図であり、図8及び図9は、本実施例による同定結果の説明図である。図6には、クランク角度と熱発生率の関係を表す波形として、実測筒内圧データに基づく見掛けの熱発生率ROHR見掛けに係る波形W1と、比較例による同定方法で同定されたWiebe関数から得られる熱発生率ROHRw比較に係る波形W2とが示される。図7には、図6のX1部の拡大図が示される。図8には、クランク角度と熱発生率の関係を表す波形として、同波形W1と、熱発生率ROHRに係る波形W21とが示される。尚、熱発生率ROHRに係る波形W21は、上述のように、本実施例による同定方法でWiebe関数パラメータの各値が同定されたWiebe関数を用いて得た熱発生率ROHRwから、熱損失HLcalcを減算することで得られる。図9には、図8のX1部の拡大図が示される。
比較例では、見掛けの熱発生率ROHR見掛けをそのまま用いてWiebe関数パラメータの各値が同定される。即ち、比較例では、上述した数4の式等において、真の熱発生率ROHRに代えて、見掛けの熱発生率ROHR見掛けを用いてWiebe関数パラメータの各値が同定される。かかる比較例では、図6及び図7に示すように、Wiebe関数から得られる熱発生率ROHRw比較に係る波形W2は、負の値を取る波形W1に適合できていない。
これに対して、本実施例によれば、図8及び図9に示すように、熱発生率ROHRに係る波形W21は負の値を取る波形W1に適合できており、再現性が高いことが確認できる。このように、本実施例によれば、Wiebe関数を用いて、実測筒内圧に基づく見掛けの熱発生率(見掛けの熱発生率ROHR見掛け)を精度良く再現することが可能である。尚、見掛けの熱発生率ROHR見掛けは、上述のように、試験で得られる実測筒内圧データに基づいて算出されている。従って、見掛けの熱発生率ROHR見掛けからは、逆算的に実測筒内圧を算出できる。従って、Wiebe関数を用いて、見掛けの熱発生率ROHR見掛けを精度良く再現できることは、実測筒内圧に精度良く対応する筒内圧を算出できることを意味する。
より具体的な評価として、本願発明者は、比較例による波形W2と本実施例による波形W21を適合度、および二乗平均平方根誤差 (RMSE)にて比較した。適合度は、以下のとおりである。
Figure 0006610770
ここで、
外1
Figure 0006610770
本実施例によれば、クランク角度-30°〜5°における熱発生率が負となる部分の適合度が向上しており、全体の適合度は、比較例に比べて、75.1%から77.3%に向上し、RMSEが3.37から3.07に低減した。また、本実施例によれば、特に熱発生率が負となるクランク角度-20°〜3°の範囲においては、適合度は、2.8%から43.2%に向上し、RMSEは2.35から1.37に低減し、比較例に比べて大きく改善した。
次に、熱損失モデルについて説明する。熱損失モデルは、運転条件毎の熱損失HLのマップデータを用いることなく、運転条件毎に熱損失HLの算出値である熱損失HLcalcを得るために用いることができる。熱損失HLcalcは、上述のように、熱発生率ROHRを求めるために熱発生率ROHRwから減算される(数14の式参照)。
本願発明者は、熱損失モデルの開発にあたり、異なる運転条件の下で多くの熱損失特性(クランク角度と熱損失との関係)を確認した結果、熱損失特性が筒内圧力特性(クランク角度と筒内圧力との関係)の影響を大きく受けることに着目した。これは、上記した数8の式にも符合する。
更に、本願発明者は、吸気弁が閉じてからメイン噴射による燃焼が開始するまでと、メイン噴射による燃焼の開始時期以降の排気弁が開くタイミング(EVO:Exhaust Valve Open)までとで、異なるモデルを用いることが有効であることを知見した。そこで、熱損失モデルは、第1熱損失モデル(第1関数の一例)と、第2熱損失モデル(第2関数の一例)との組み合わせを含む。第1熱損失モデルは、吸気弁が閉じてからメイン噴射による燃焼が開始するまでの熱損失を主にモデル化し、第2熱損失モデルは、メイン噴射による燃焼の開始時期以降の排気弁が開くタイミングまでの熱損失をモデル化する。
第1熱損失モデルとしては、例えば以下のモデルが用いられてよい。先ず、吸気弁が閉じてからメイン噴射による燃焼が開始するまでは、シリンダ壁面からの熱損失がある。この熱損失は、等温変化と断熱変化の中間的変化であるポリトロープ変化である。ポリトロープ変化は、次のとおりである。
Figure 0006610770
ここで、nはポリトロープ指数である。
従って、吸気弁閉時の筒内圧PIVCと筒内体積VIVCと、クランク角度θのときの筒内圧P(θ)と筒内体積V(θ)との間には、以下の関係が成り立つ。
Figure 0006610770
数17の式から、吸気弁が閉じてからメイン噴射による燃焼が開始するまでは、熱損失は、以下のようにモデル化できる。即ち、第1熱損失モデルは、例えば以下のとおりである。
Figure 0006610770
ここで、z1は、第1熱損失モデルの熱損失パラメータの一つである。
第2熱損失モデルとしては、例えば以下のモデルが用いられてよい。メイン噴射による燃焼の開始時期以降の排気弁が開くタイミングEVOまでは、筒内圧と熱発生率は、上記の数9の式のような関係があり、筒内圧特性と見掛けの熱発生率特性(クランク角度と見掛けの熱発生率との関係)との相関性が高い。そこで、本願発明者は、見掛けの熱発生率特性を用いた第2熱損失モデルの検討を行ったところ、Wiebe関数で表現できる関数を用いることが有効であることを確認した。これは、Wiebe関数で表現できる関数は、着火時期と燃焼期間、形状指数からなるパラメータにより表現され、形状指数と燃焼期間による波形形状の自由度が大きいことに起因する。尚、「Wiebe関数で"表現"できる関数」とは、「Wiebe関数」という称呼が、熱発生率を表す関数として一般的に用いられていることから、使用される表現である。数式上は、第2熱損失モデル=Wiebe関数である。
メイン噴射による燃焼の開始時期以降の排気弁が開くタイミングEVOまでの期間における熱損失特性は、次のとおりである。燃焼開始時、熱損失は、燃焼開始以降の爆発的温度上昇に伴うエンジン壁面への熱移動量の急激な増大に起因して大きくなる。その後、燃焼が終わるまで、もしくは排気弁が開くまで、熱損失は徐々に減少する。従って、かかる期間の熱損失特性は、見掛けの熱発生率特性と同様、物理量として燃焼期間と着火時期(燃焼の開始時期)が重要であり、Wiebe関数による熱発生率の波形形状を用いて精度良く表現できる。従って、第2熱損失モデルは、例えば以下のとおりである。
Figure 0006610770
ここで、HLEVOは排気弁開 (Exhaust Valve Open)時の熱損失、z2〜6は熱損失パラメータである。z2〜6のうち、z5は、熱損失モデルにおける燃焼開始以降の熱損失期間であり、z6は、燃焼開始時期である。
この場合、熱損失モデルは、第1熱損失モデルと、第2熱損失モデルとの組み合わせとして、以下のとおりである。
Figure 0006610770
ここで、数20の式において、同定すべきパラメータの値は、z1〜6の6つのパラメータの値である。VIVCは設計値を用い、PIVC及びHLEVOは実験値を用いることができる。
各パラメータz1〜6の値は、例えば、HLとHLcalcとの誤差が最小になるように同定される。具体的には、パラメータの値を同定するための評価式(評価関数)は、以下の数21のとおりである。数21の場合、HLとHLcalcとの誤差二乗和が最小となるように各パラメータの値が同定される。HLは、試験で得られる実測筒内圧データに基づいて数8の式より計算した熱損失である。
Figure 0006610770
尚、パラメータ同定時の制約条件は任意であるが、例えば、パラメータz6はメイン噴射による燃焼の開始時期近傍とし、パラメータz5の取り得る範囲をz6からEVOまでの期間内としてもよい。
図10は、上述した熱損失モデルによる同定結果の説明図である。図10には、クランク角度と熱損失の関係を表す波形として、実測筒内圧データに基づく熱損失HLに係る波形W3と、本実施例による同定方法でパラメータ値が同定された熱損失モデルから得られる熱損失HLcalcに係る波形W4とが示される。また、図10には、第1熱損失モデルM1及び第2熱損失モデルM2が点線で模式的に示されると共に、パラメータz5及びz6が模式的に示される。
本実施例による熱損失モデルによれば、熱損失特性における波形の特徴をとらえたパラメータ同定ができ、実測筒内圧データに基づく熱損失HLに対して高い適合度を得ることができる。具体的には、図10に示すように、実測筒内圧データに基づく実験値に対してRMSEが0.045、適合度95.8%の高い再現性を示した。
次に、図11乃至図16を参照して、本実施例による同定方法を用いるパラメータ同定装置を含む車載制御システムについて説明する。以下では、区別のため、上述したWiebe関数のパラメータを「Wiebe関数パラメータ」とも称し、上述した熱損失モデルのパラメータを「熱損失パラメータ」とも称する。また、Wiebe関数パラメータ及び熱損失パラメータを区別しないときは、「モデルパラメータ」と総称する。
図11は、パラメータ同定装置10を含む車載制御システム1の一例を示す図である。図11には、車載制御システム1以外に、運転データ記憶部2が併せて示されている。
運転データ記憶部2には、エンジンシステム4の実働時に得られる運転データが記憶されている。尚、運転データは、必ずしもエンジンシステム4と同一個体に係るデータである必要はなく、同一型式の内燃機関を含む同一のエンジンシステムに係るデータであればよい。運転データは、エンジンシステム4の実働時に得られる各値であって、内燃機関の運転条件を表す所定の各パラメータ(以下、「運転条件パラメータ」という)の各値と、実測筒内圧データと、熱損失HLを算出するために必要な他の各値(シリンダ壁面温度等)とを含んでよい。運転データは、例えばエンジンダイナモメータ設備による台上試験で取得できる。運転条件パラメータは、モデルパラメータの最適値に影響するパラメータである。即ち、モデルパラメータの最適値は、運転条件パラメータの各値が変化すると変化する。実測筒内圧データは、例えばクランク角度毎の筒内圧の値の集合であり、運転条件毎に収集される。例えば、図12には、運転データの一例が示される。図12に示す例では、運転条件パラメータは、機関回転数、燃料噴射量、燃料噴射圧、酸素濃度等を含み、燃料噴射量は、噴射毎(図12に示す例では、パイロット噴射、プレ噴射等)の値である。図12に示す例では、各運転条件パラメータの各値、及び実測筒内圧データは、運転条件ID(Identification)毎に、運転条件IDに紐付けられる形態で記憶される。
図11に示す車載制御システム1は、車両に搭載される。車両は、内燃機関を動力源とする車両であり、内燃機関と電気モータとを動力源とするハイブリット車を含む。内燃機関の種類は、任意であり、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等でありうる。また、ガソリンエンジンの燃料の噴射方式は任意であり、ポート噴射式や筒内噴射式、またはこれらの組み合わせであってもよい。
車載制御システム1は、エンジンシステム4(車両駆動装置の一例)と、センサ群6と、パラメータ同定装置10(Wiebe関数パラメータ同定装置の一例)と、エンジン制御装置30(内燃機関状態検出装置の一例)とを含む。
エンジンシステム4は、内燃機関に設けられる各種アクチュエータ(インジェクタ、電子スロットル、スタータ等)や各種部材(吸気通路、触媒等)を含んでよい。
センサ群6は、内燃機関に設けられる各種センサ(クランク角センサ、エアフローメータ、吸気圧センサ、空燃比センサ、温度センサ等)を含んでよい。尚、センサ群6は、筒内圧センサを含む必要はない。筒内圧センサの設置は、コスト、耐久性、及び保守性の観点から不利である。
パラメータ同定装置10は、運転データ記憶部2内の運転データに基づいて、上述した本実施例による同定方法によりモデルパラメータを同定する。
図13は、パラメータ同定装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。
図13に示す例では、パラメータ同定装置10は、制御部101、主記憶部102、補助記憶部103、ドライブ装置104、ネットワークI/F部106、入力部107を含む。
制御部101は、主記憶部102や補助記憶部103に記憶されたプログラムを実行する演算装置であり、入力部107や記憶装置からデータを受け取り、演算、加工した上で、記憶装置などに出力する。
主記憶部102は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などである。主記憶部102は、制御部101が実行する基本ソフトウェアであるOS(Operating System)やアプリケーションソフトウェアなどのプログラムやデータを記憶又は一時保存する記憶装置である。
補助記憶部103は、HDD(Hard Disk Drive)などであり、アプリケーションソフトウェアなどに関連するデータを記憶する記憶装置である。
ドライブ装置104は、記録媒体105、例えばフレキシブルディスクからプログラムを読み出し、記憶装置にインストールする。
記録媒体105は、所定のプログラムを格納する。この記録媒体105に格納されたプログラムは、ドライブ装置104を介してパラメータ同定装置10にインストールされる。インストールされた所定のプログラムは、パラメータ同定装置10により実行可能となる。
ネットワークI/F部106は、有線及び/又は無線回線などのデータ伝送路により構築されたネットワークを介して接続された通信機能を有する周辺機器とパラメータ同定装置10とのインターフェースである。
入力部107は、例えばコンソールボックスやインストルメントパネルに設けられるユーザインターフェースであってよい。
尚、図13に示す例において、以下で説明する各種処理等は、プログラムをパラメータ同定装置10に実行させることで実現することができる。また、プログラムを記録媒体105に記録し、このプログラムが記録された記録媒体105をパラメータ同定装置10に読み取らせて、以下で説明する各種処理等を実現させることも可能である。なお、記録媒体105は、様々なタイプの記録媒体を用いることができる。例えば、記録媒体105は、CD(Compact Disc)−ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の様に情報を光学的、電気的或いは磁気的に記録する記録媒体、ROM、フラッシュメモリ等の様に情報を電気的に記録する半導体メモリ等であってよい。なお、記録媒体105には、搬送波は含まれない。
図11を再度参照する。パラメータ同定装置10は、運転データ取得部11と、筒内圧データ取得部12と、熱発生率算出部13と、最適化演算部14とを含む。また、パラメータ同定装置10は、モデルパラメータ格納部15(第1関係式導出部及び第2関係式導出部の一例)と、モデルパラメータ記憶部16(第1記憶部及び第2記憶部の一例)とを含む。熱発生率算出部13は、見掛け熱発生率算出部131と、熱損失算出部132と、真熱発生率算出部133(所定値加算部の一例)とを含む。最適化演算部14は、Wiebe関数パラメータ同定部141(第1同定部の一例)と、熱損失モデルパラメータ同定部142(第2同定部の一例)とを含む。
尚、運転データ取得部11、筒内圧データ取得部12、熱発生率算出部13、最適化演算部14、及びモデルパラメータ格納部15は、例えば、図13に示した制御部101が主記憶部102等内の1つ以上のプログラムを実行することで実現できる。また、モデルパラメータ記憶部16は、例えば図13に示した補助記憶部103により実現できる。
運転データ取得部11は、運転データ記憶部2から運転条件毎の運転データ(図12参照)を取得する。
筒内圧データ取得部12は、運転データ取得部11が取得した運転データのうちの筒内圧データを取得する。
熱発生率算出部13は、運転条件毎に、筒内圧データ取得部12が取得した筒内圧データに基づいて、真の熱発生率ROHRを算出する。具体的には、見掛け熱発生率算出部131は、運転条件毎に、筒内圧データ取得部12が取得した筒内圧データに基づいて、見掛けの熱発生率ROHR見掛けを算出する。見掛けの熱発生率ROHR見掛けの算出方法は上述した通りである。また、熱損失算出部132は、運転条件毎に、筒内圧データ取得部12が取得した筒内圧データに基づいて、熱損失HLを算出する。熱損失HLの算出方法は上述した通りである。また、真熱発生率算出部133は、運転条件毎に、見掛け熱発生率算出部131により算出された見掛けの熱発生率ROHR見掛けと熱損失算出部132により算出された熱損失HLとを足し合せた真の熱発生率ROHRを算出する。
最適化演算部14は、運転条件毎に、モデルパラメータを同定する。具体的には、Wiebe関数パラメータ同定部141は、運転条件毎に、熱発生率算出部13が算出した真の熱発生率ROHRに基づいて、評価関数F(数11参照)を用いた最適化計算を実行する。Wiebe関数パラメータ同定部141は、Wiebe関数パラメータの各値を変化させながら、評価関数Fを最小化するWiebe関数パラメータの各値(最適値)を探索する。また、熱損失モデルパラメータ同定部142は、運転条件毎に、熱損失算出部132が算出した熱損失HLに基づいて、評価関数FHL(数21参照)を用いた最適化計算を実行する。熱損失モデルパラメータ同定部142は、熱損失モデルパラメータの各値を変化させながら、評価関数FHLを最小化する熱損失モデルパラメータの各値(最適値)を探索する。
モデルパラメータ格納部15は、最適化演算部14が運転条件毎に得たモデルパラメータの各最適値を、運転条件IDに紐付けてモデルパラメータ記憶部16に格納する。このようにして、運転条件毎(運転条件ID毎)に、モデルパラメータの各最適値が算出され、モデルパラメータ記憶部16に格納される。図14は、モデルパラメータ記憶部16内のデータの一例を概念的に示す図である。図14に示す例では、図12に示したデータ(運転条件パラメータ)に対して、モデルパラメータの各最適値が紐付けられている。即ち、図14に示したデータは、各運転条件(運転条件パラメータの各組み合わせ)に対して、モデルパラメータの各最適値が紐付けられている。尚、図14に示す例では、Wiebe関数パラメータの各最適値は、Wiebe関数毎(即ち、プレ燃焼、メイン燃焼といった燃焼形態毎)に求められている。
モデルパラメータ格納部15は、好ましくは、モデルパラメータ記憶部16内のデータ(図14参照)に基づいて、モデルパラメータの各最適値と、各運転条件との関係を表す関係式(例えば1次の多項式)を算出する。具体的には、モデルパラメータ格納部15は、図14に示したデータに基づいて、多項式モデル化情報(例えば、以下で説明する各係数β〜β等の値)を算出する。この場合、モデルパラメータ格納部15は、図14に示したデータに代えて、多項式モデル化情報をモデルパラメータ記憶部16に格納することとしてよい。この場合、図14に示したデータ(マップデータ)を保持する場合に比べて、モデルパラメータ記憶部16において必要とされる記憶容量を大幅に低減できる。
多項式モデル化情報は、例えば以下のように生成されてもよい。モデルパラメータ格納部15は、モデルパラメータ記憶部16内のデータ(図14参照)に基づいて、以下の1次の多項式を用いて、Wiebe関数パラメータの各最適値と、各運転条件との関係を近似してもよい。
Figure 0006610770
βは、切片であり、β〜βは、係数であり、E〜Eは、運転条件パラメータ(説明変数)である。nは、説明変数の数に対応する。yは、Wiebe関数パラメータの値であり、Wiebe関数パラメータ毎に、数22の多項式が用いられる。本実施例によれば、多様な運転条件にわたって、運転条件とWiebe関数パラメータの関係性が保たれるので、同関係性を多項式等のような関数で表すことができる。これにより、任意の運転条件に対応する各Wiebe関数パラメータの値を高精度に推定することが可能となる。
同様に、モデルパラメータ格納部15は、モデルパラメータ記憶部16内のデータに基づいて、以下の1次の多項式を用いて、熱損失モデルパラメータの各最適値と、各運転条件との関係を近似してもよい。
Figure 0006610770
β1は、切片であり、β1〜β1は、係数であり、E〜Eは、運転条件パラメータ(説明変数)である。nは、説明変数の数に対応する。zは、熱損失モデルパラメータの値であり、熱損失モデルパラメータ毎に、数23の多項式が用いられる。本実施例によれば、多様な運転条件にわたって、運転条件と熱損失モデルパラメータの関係性が保たれるので、同関係性を多項式等のような関数で表すことができる。これにより、任意の運転条件に対応する熱損失モデルパラメータの値を高精度に推定することが可能となる。
尚、数22及び数23の式は、1次の多項式であるが、2次の多項式等の他の多項式が用いられてもよい。
ところで、図14に示したデータは、上述のように、各運転条件(運転条件パラメータの各組み合わせ)に対して、モデルパラメータの各最適値が紐付けられている。従って、多数の運転条件に関するデータが得られると、ある任意の運転条件に適合するモデルパラメータの値を抽出できる可能性が高くなる。しかしながら、内燃機関の運転条件は、機関回転数、空気量、燃料噴射圧などの組み合わせにより、極めて多様である。そのような多様な運転条件にわたって、モデルパラメータの各最適値を導出することは現実的でない。
これに対して、図14に示したデータに基づいて、上述の数22及び数23の式のような多項式を用いて多項式モデル化情報を得る場合は、小さいデータ量で、多様な運転条件にわたって、モデルパラメータの各最適値を導出することが可能となる。即ち、多項式モデル化情報は、Wiebe関数パラメータ毎に係数β〜βの各値を、熱損失モデルパラメータ毎に係数β1〜β1の各値をそれぞれ含めばよく、各運転条件(運転条件パラメータの各組み合わせ)との紐付けは不要である。従って、多項式モデル化情報は、図14に示したデータよりも圧倒的にデータ量が小さい。他方、多項式モデル化情報は、データ量が小さいにも拘らず、多様な運転条件にわたって、モデルパラメータの各最適値を精度良く導出できる。
図15A及び図15Bは、本実施例による熱損失モデルを用いた同定結果の効果の説明図である。ここでは、上述の多項式モデル化情報を用いて、異なる運転条件に関して、本実施例による熱損失モデルを用いた同定を行った。図15A及び図15Bは、それぞれ、異なる運転条件に関する同定結果に関する図である。図15A及び図15Bには、それぞれ、実測値に基づく熱損失HLに対して熱損失HLcalcの適合度は高く、本実施例による熱損失モデルは有効であることが分かる。より具体的な評価として、図15Aに係る運転条件では、適合度は、91.1%であり、RMSEは0.034であり、図15Bに係る運転条件では、適合度は、96.8%であり、RMSEは0.034であった。
図16は、パラメータ同定装置10により実行される処理の一例を示すフローチャートである。図16に示す処理は、例えば、オフラインで実行される。また、図16に示す処理は、例えば、運転データ記憶部2内の複数の運転条件に関する運転データに対して、運転条件毎に実行される。尚、運転条件は、上述した運転条件パラメータの各値の組み合わせで規定される。
ステップS1600では、運転データ取得部11は、運転データ記憶部2から、今回の算出対象の1つ以上の運転条件(運転条件ID)に係る運転データを取得する。尚、運転データは、上述のように、運転条件ID毎に、運転条件パラメータの各値と、筒内圧データとを含む(図12参照)。
ステップS1601では、運転データ取得部11は、ステップS1600で取得した1つ以上の運転条件IDに係る運転データのうちから、所定の順(例えば運転条件IDの昇順)に、特定の1つの運転条件IDに係る運転データを選択する。
ステップS1602では、筒内圧データ取得部12は、ステップS1601で選択された運転データのうちの筒内圧データを取得する。
ステップS1603では、熱発生率算出部13は、ステップS1602で取得した筒内圧データに基づいて、クランク角度毎の熱損失HL及び見掛けの熱発生率ROHR見掛けを算出する。
ステップS1604では、熱発生率算出部13は、クランク角度毎の見掛けの熱発生率ROHR見掛けに、クランク角度毎の熱損失HLを加算して、クランク角度毎の熱発生率ROHRを算出する。
ステップS1605では、最適化演算部14のWiebe関数パラメータ同定部141は、ステップS1604で得た熱発生率ROHRに基づいて、評価関数F(例えば数11参照)を最小化するWiebe関数パラメータの各値(最適値)を導出する。
ステップS1606では、最適化演算部14の熱損失モデルパラメータ同定部142は、ステップS1603で得た熱損失HLと熱損失モデル(数20参照)とに基づいて、熱損失モデルパラメータの最適値を導出する。即ち、熱損失モデルパラメータ同定部142は、評価関数FHL(数21参照)を最小化する熱損失モデルパラメータの各値(最適値)を導出する。
ステップS1608では、モデルパラメータ格納部15は、ステップS1604及びステップS1606で得られたモデルパラメータの各値を、今回の運転条件IDに紐付けてモデルパラメータ記憶部16に格納する。
ステップS1610では、モデルパラメータ格納部15は、ステップS1600で取得した1つ以上の運転条件IDの全てに対して最適化演算処理が終了したか否かを判定する。判定結果が"YES"の場合は、ステップS1612に進む。他方、判定結果が"NO"の場合は、図16に示す処理は、ステップS1601に戻り、新たな1つの運転条件IDに係る運転データが選択され、ステップS1604乃至ステップS1608の処理が実行される。
ステップS1612では、モデルパラメータ格納部15は、ステップS1608で格納されたモデルパラメータ記憶部16内の各値(運転条件ID毎の各値)に基づいて、多項式モデル化情報を生成する。多項式モデル化情報の生成方法は、上述のとおりである。
ステップS1614では、モデルパラメータ格納部15は、多項式モデル化情報をモデルパラメータ記憶部16に記憶する。
図16に示す処理によれば、運転データ記憶部2から多様な運転条件にわたる運転データを取得することで、多様な運転条件にわたって精度の高いモデルパラメータの値を導出できる多項式モデル化情報を得ることができる。これにより、任意の運転条件に対応する各モデルパラメータの値を高精度に推定することが可能となる。
尚、図16に示す処理では、Wiebe関数パラメータの同定後に、熱損失モデルパラメータが同定されているが、逆であってもよい。即ち、熱損失モデルパラメータの同定後に、Wiebe関数パラメータが同定されてもよい。これは、Wiebe関数パラメータの同定と、熱損失モデルパラメータの同定とは互いに独立しているためである。
次に、図11を再度参照しつつ、図17を参照してエンジン制御装置30について説明する。
エンジン制御装置30は、エンジンシステム4の各種アクチュエータを制御する。エンジン制御装置30は、図11に示すように、モデルパラメータ取得部32(判断部の一例)と、モデル関数演算部34と、エンジントルク算出部36(筒内圧算出部の一例)と、制御値算出部38(制御部の一例)とを含む。モデル関数演算部34は、Wiebe関数値演算部341(第1算出部の一例)と、熱損失モデル値算出部342(第2算出部の一例)と、熱発生率推定値算出部343とを含む。エンジン制御装置30のハードウェア構成は、図13に示したパラメータ同定装置10のハードウェア構成と同一であってよい。モデルパラメータ取得部32、モデル関数演算部34、エンジントルク算出部36、及び制御値算出部38は、図13に示した制御部101が主記憶部102等内の1つ以上のプログラムを実行することで実現できる。
図17は、エンジン制御装置30により実行される処理の一例を示すフローチャートである。図17に示す処理は、例えば、エンジンシステム4の実働時に実行される。
ステップS1700では、モデルパラメータ取得部32は、センサ群6から現在の内燃機関の状態を表すセンサ情報を取得する。現在の内燃機関の状態を表す情報は、例えば、現在の運転条件パラメータの各値(現在の内燃機関の運転条件を表す情報)及び現在のクランク角度である。
ステップS1702では、モデルパラメータ取得部32は、ステップS1700で得たセンサ情報に基づいて現在の運転条件を判断し、現在の運転条件に対応するモデルパラメータの各値をモデルパラメータ記憶部16から取得する。例えば、モデルパラメータ記憶部16内に上述の多項式モデル化情報が記憶されている場合、モデルパラメータ取得部32は、現在の運転条件パラメータの各値を、各モデルパラメータに係る多項式に代入することで、各モデルパラメータの値を取得する。
ステップS1703では、モデル関数演算部34のWiebe関数値演算部341は、モデルパラメータ取得部32が取得した各Wiebe関数パラメータの値に基づいて、現在のクランク角度における熱発生率ROHRwを算出する。
ステップS1704では、モデル関数演算部34の熱損失モデル値算出部342は、モデルパラメータ取得部32が取得した各熱損失モデルパラメータの値に基づいて、現在のクランク角度における熱損失HLcalcを算出する。
ステップS1705では、モデル関数演算部34の熱発生率推定値算出部343は、現在のクランク角度における熱発生率ROHRを算出する。具体的には、熱発生率推定値算出部343は、Wiebe関数値演算部341により算出された熱発生率ROHRwから、熱損失モデル値算出部342により算出された熱損失HLcalcを減算することで、現在の熱発生率ROHRを算出する。
ステップS1706では、エンジントルク算出部36は、ステップS1704でモデル関数演算部34により算出された現在の熱発生率ROHRの算出値に基づいて、現在の筒内圧を算出する。筒内圧の算出は、上述したように、数9に示す関係式を用いて実現できる。具体的には、以下の関係式を用いて算出できる。
Figure 0006610770
ステップS1708では、エンジントルク算出部36は、ステップS1706で算出した筒内圧の算出値に基づいて、現在の内燃機関の発生トルクを算出する。内燃機関の発生トルクは、筒内圧によるトルク、慣性トルク等の和として算出できる。
ステップS1710では、制御値算出部38は、ステップS1708でエンジントルク算出部36により算出された現在の内燃機関の発生トルクの算出値に基づいて、エンジンシステム4に与える制御目標値を算出する。例えば、制御値算出部38は、要求駆動トルクと、ステップS1708で得た現在の内燃機関の発生トルクの算出値との差分に基づいて、要求駆動トルクが実現されるように制御目標値を決定してもよい。制御目標値は、例えばスロットル開度の目標値や燃料の噴射量の目標値等であってよい。要求駆動トルクは、車速及びアクセル開度に応じた運転者要求駆動トルクや、運転者による車両の運転を支援するための要求駆動トルク等であってよい。運転者による車両の運転を支援するための要求駆動トルクは、例えば、レーダセンサ等からの情報に基づいて決まる。運転者による車両の運転を支援するための要求駆動トルクは、例えば、所定車速で走行するために必要な駆動トルク、先行車に追従するために必要な駆動トルク、制限車速を超えないように車速を制限するための駆動トルク等であってよい。
図17に示す処理によれば、エンジン制御装置30は、例えば、要求駆動力と、組み合わせWiebe関数に基づく内燃機関の発生トルクの算出値との差分に基づいて、エンジンシステム4をフィードバック制御できる。上述のようにWiebe関数に基づく内燃機関の発生トルクの算出値の精度は、上述のようにWiebe関数の各モデルパラメータの同定精度が高いため、高くなる。このため、内燃機関の発生トルクの高精度の算出値を用いてエンジンシステム4を精度良く制御できる。これにより、例えば過剰に筒内に燃料を噴射する必要がなくなり、エンジン性能が向上し、燃費やドライバビリティが改善される。このようにして、パラメータ同定装置10により得られたデータ(モデルパラメータ記憶部16内のデータ)をエンジン制御システムの高性能化に有効に利用できる。
尚、図11に示すエンジン制御装置30は、パラメータ同定装置10の全ての構成要素と共に車載制御システム1に実装されているが、これに限られない。例えば、エンジン制御装置30は、パラメータ同定装置10の一部であるモデルパラメータ記憶部16と共に車載制御システム1に実装されてもよい。即ち、車載制御システム1は、パラメータ同定装置10の各構成要素のうちの、モデルパラメータ記憶部16以外の構成要素を含まなくてもよい。この場合、モデルパラメータ記憶部16には、上述したデータが事前に(工場の出荷前に)記憶されればよい。
尚、図11に示す車載制御システム1では、エンジンシステム4が、制御対象の車両駆動装置の一例であるが、これに限られない。例えば、制御対象の車両駆動装置は、エンジンシステム4に加えて又は代えて、トランスミッション、電気モータ、クラッチ等を含んでよい。
次に、図18を参照して、上述した車載制御システム1におけるパラメータ同定装置10及びエンジン制御装置30の動作の流れ及び効果を概説する。
図18は、上述した車載制御システム1におけるパラメータ同定装置10及びエンジン制御装置30の動作の概略流れを模式的に説明するための説明図である。図18には、図4のX1部に係る各波形(クランク角度と熱発生率の関係等)が示されている。図18には、上述した図5と同様、矢印の順に上流側から1番目に、クランク角度と見掛けの熱発生率ROHR見掛けの関係(第1関係)が示される。また、図18には、矢印の順に2番目に、クランク角度と真の熱発生率ROHRの関係(第2関係)が示される。また、図18には、矢印の順に3番目に、クランク角度とWiebe関数からの熱発生率ROHRwの関係(第3関係)と、第1関係との関係が示される。また、図18には、矢印の順に4番目に、クランク角度と熱損失Lの関係(ここでは、「第5関係」と称する)を表す波形が一点鎖線で示される。また、図18には、矢印の順に4番目に、更に、クランク角度と熱損失HLcalcの関係(ここでは、「第6関係」と称する)を表す波形が実線で示される。また、図18には、矢印の順に5番目に、クランク角度と熱発生率ROHRの関係(ここでは、「第4関係」と称する)が示される。尚、図18において、第1関係及び第4関係を表す波形には、参考として、クランク角度とマイナスの熱損失-HLの関係を表す波形と、クランク角度とマイナスの熱損失-HLcalcの関係を表す波形とが、それぞれ、一点鎖線で重畳して示される。また、図18において、第2関係及び第3関係を表す波形には、参考として、第1関係を表す波形が点線で重畳して示される。
先ず、パラメータ同定装置10において、各運転条件に関して、クランク角度毎に、第1関係に基づく見掛けの熱発生率ROHR見掛けの値に、第5関係に基づく熱損失HLの値が加算される。この結果、第2関係(クランク角度と真の熱発生率ROHRの関係)が得られる。次いで、各運転条件に関して、Wiebe関数パラメータが同定される。同定されたパラメータ値を用いてWiebe関数から得られる第3関係は、図18に示すように、第2関係を精度良く再現する。また、パラメータ同定装置10において、各運転条件に関して、熱損失モデルパラメータが同定される。
エンジン制御装置30においては、各運転条件に関して、クランク角度毎に、第3関係に基づく熱発生率ROHRの値から、第6関係に基づく熱損失HLcalcの値が減算される。この結果、図18に示すように、第4関係(クランク角度と熱発生率ROHRの関係)が得られる。このようにして得られる第4関係は、図18に模式的に示すように、第1関係を精度良く再現できる。従って、エンジン制御装置30において第4関係に基づき算出される内燃機関の筒内圧の算出値及びそれに基づく発生トルクの算出値の精度が高くなる。
次に、図19を参照して、上述した車載制御システム1に対する代替例について説明する。
図19は、パラメータ同定装置を含む車載制御システムの他の一例を示す図である。
図19に示す車載制御システム1Aは、図11に示した車載制御システム1に対して、運転データ取得部11が省略された点が異なる。また、図19に示す車載制御システム1Aは、図11に示した車載制御システム1に対して、パラメータ同定装置10がパラメータ同定装置10Aで置換され、且つ、センサ群6がセンサ群6Aで置換された点が異なる。図19に示す車載制御システム1Aの構成要素について、図11に示した車載制御システム1と同様であってよい構成要素については、図19において同一の参照符号を付して説明を省略する。
センサ群6Aは、筒内圧センサを必ず含む点で、筒内圧センサを含む必要が無い上述したセンサ群6に対して異なる。
パラメータ同定装置10Aは、筒内圧データ取得部12が筒内圧データ取得部12Aで置換された点が、パラメータ同定装置10に対して異なる。筒内圧データ取得部12Aは、取得するデータ自体は筒内圧データ取得部12と同じであるが、センサ群6A(筒内圧センサ)から同データを取得する点が、運転データ記憶部2から同データを取得する筒内圧データ取得部12に対して異なる。
図19に示す車載制御システム1Aによれば、センサ群6Aが筒内圧センサを含むので、車両実装状態(即ち車両の出荷後の状態)においても、図16に示した処理を実行できる。即ち、図19に示す車載制御システム1Aによれば、車両実装状態において、定期的に又は不定期的に、モデルパラメータ記憶部16内のデータ(多項式モデル化情報の場合も含む)を更新できる。これにより、内燃機関の特性に個体差がある場合でも、該個体差に応じてモデルパラメータを修正できる。また、内燃機関の特性に経時変化が生じた場合でも、モデルパラメータを更新できる。
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
例えば、上述した実施例では、熱損失モデルは、第1熱損失モデルと、第2熱損失モデルとの組み合わせとして、数20の式で表現されているが、これに限られない。例えば、第2熱損失モデルは、Wiebe関数と同様、複数のHL(θ)を組み合わせて表現されてもよい。また、HL(θ)は、θ>zのとき、HL(θ)=0とされてもよい。更に、上述した実施例では、好ましい実施例として、第1熱損失モデルと第2熱損失モデルとを組み合わせた熱損失モデルを用いているが、一方のみを用いてもよい。例えば、第2熱損失モデルのみを含む熱損失モデルが用いられてもよい。
1、1A 車載制御システム
2 運転データ記憶部
4 エンジンシステム
6、6A センサ群
10、10A パラメータ同定装置
11 運転データ取得部
12、12A 筒内圧データ取得部
13 熱発生率算出部
131 見掛け熱発生率算出部
132 熱損失算出部
133 真熱発生率算出部
14 最適化演算部
141 Wiebe関数パラメータ同定部
142 熱損失モデルパラメータ同定部
15 モデルパラメータ格納部
16 モデルパラメータ記憶部
30 エンジン制御装置
32 モデルパラメータ取得部
34 モデル関数演算部
341 Wiebe関数値演算部
342 熱損失モデル値算出部
343 熱発生率推定値算出部
36 エンジントルク算出部
38 制御値算出部

Claims (8)

  1. 内燃機関の気筒内の燃焼による熱発生率をWiebe関数によりモデル化するWiebe関数パラメータ同定装置であって、
    クランク角度毎に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される見掛けの熱発生率である第1熱発生率に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される熱損失である正の所定値を加算することで、クランク角度に応じた第2熱発生率を導出する所定値加算部と、
    クランク角度に応じた前記第2熱発生率と前記Wiebe関数から得られる熱発生率との誤差が最小になるように、運転条件毎に、前記Wiebe関数の複数のWiebe関数パラメータの値を同定する第1同定部と
    運転条件毎に、前記熱損失の算出に用いられる熱損失モデルの複数の熱損失パラメータの値を同定する第2同定部とを備える、Wiebe関数パラメータ同定装置。
  2. 前記熱損失モデルは、吸気バルブ閉時の筒内圧及び筒内体積、及び排気バルブ開時の熱損失を用いて表現される、請求項に記載のWiebe関数パラメータ同定装置。
  3. 前記熱損失モデルは、燃焼開始前及び燃焼開始後の熱損失をモデル化する第1関数と、燃焼開始後の熱損失をモデル化する第2関数との組み合わせを有する、請求項に記載のWiebe関数パラメータ同定装置。
  4. 前記第2関数は、Wiebe関数で表現できる関数である、請求項に記載のWiebe関数パラメータ同定装置。
  5. 複数の前記熱損失パラメータは、燃焼開始以降の熱損失期間と、燃焼開始時期とである、請求項に記載のWiebe関数パラメータ同定装置。
  6. 前記運転条件毎に同定した複数の前記Wiebe関数パラメータの値に基づいて、前記運転条件を表す複数の運転条件パラメータと、複数の前記Wiebe関数パラメータの値との第1関係式を導出する第1関係式導出部と、
    前記運転条件毎に同定した複数の前記熱損失パラメータの値に基づいて、複数の前記運転条件パラメータと、複数の前記熱損失パラメータの値との第2関係式を導出する第2関係式導出部とを更に備える、請求項に記載のWiebe関数パラメータ同定装置。
  7. 内燃機関の気筒内の燃焼による熱発生率をWiebe関数によりモデル化するWiebe関数パラメータ同定方法であって、
    クランク角度毎に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される見掛けの熱発生率である第1熱発生率に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される熱損失である正の所定値を加算することで、クランク角度に応じた第2熱発生率を導出し、
    クランク角度に応じた前記第2熱発生率と前記Wiebe関数から得られる熱発生率との誤差が最小になるように、運転条件毎に、前記Wiebe関数の複数のWiebe関数パラメータの値を同定し、
    運転条件毎に、前記熱損失の算出に用いられる熱損失モデルの複数の熱損失パラメータの値を同定する、コンピューターにより実行されるWiebe関数パラメータ同定方法。
  8. 内燃機関の気筒内の燃焼による熱発生率をWiebe関数によりモデル化するWiebe関数パラメータ同定プログラムであって、
    クランク角度毎に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される見掛けの熱発生率である第1熱発生率に、筒内圧の実測値に基づき運転条件毎に導出される熱損失である正の所定値を加算することで、クランク角度に応じた第2熱発生率を導出し、
    クランク角度に応じた前記第2熱発生率と前記Wiebe関数から得られる熱発生率との誤差が最小になるように、運転条件毎に、前記Wiebe関数の複数のWiebe関数パラメータの値を同定し、
    運転条件毎に、前記熱損失の算出に用いられる熱損失モデルの複数の熱損失パラメータの値を同定する
    処理をコンピューターに実行させるWiebe関数パラメータ同定プログラム。
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