JP6610311B2 - 金属板圧延用ロール - Google Patents

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本発明は、金属板圧延用ロールに関する。
表面品質が重視される金属板の冷間圧延には、圧延時の荷重制御が比較的容易である、直径150mm以下の小径ワークロールが用いられる。このワークロール材には、熱処理によって表面の硬度を高めたダイス鋼、ハイス鋼などの鋼材が多用される。
特許文献1には、耐摩耗性を向上させるために、ワークロール表面にTiNなどの硬質セラミックス皮膜層を設ける技術が記載されている。
特開平4−253511号公報
ワークロールによって金属板の圧延を繰り返し行うと、ロール表面に凝着物が付着することがある。このような凝着物の凹凸は、被圧延材に転写され、被圧延材の表面疵となり、表面品質が低下する。このような問題は、高い表面性状が要求される用途において顕在化する。また、ワ−クロール表面の凝着物は、中間ロールまたはバックアップロールにも転写されるため、これらのロールの洗浄または交換が必要となり、生産性を著しく阻害することがある。このため、ロール表面への凝着物の付着を防止する必要がある。
本発明者らは、純ニッケル金属板の圧延に用いられるワークロール表面を詳細に調べた結果、その凝着物の多くがニッケルを主成分とするものであった。すなわち、凝着物の原因は、主として、被圧延材中の成分であるものと判明した。そして、この付着物が少ないうちは、特に問題とならないが、その凝着物が次第に大きくなっていくことによって上記の問題が顕在化する。対処方法として、圧延時の圧下率を低下させれば、被圧延材中に含まれる元素のロール表面への付着量を減らすことができ、凝着物による表面性状の低下の問題は発生しにくくなる。しかし、圧延パス回数が増加し、生産効率の低下が余儀なくされる。
なお、上記のメカニズムは、純ニッケル金属板の圧延ロールに限られず、純チタン金属板、チタン合金板の圧延ロールにおいても同様であり、ワークロールに形成される凝着物の主成分は、チタンであった。
特許文献1には、凝着物の付着を防止について全く考慮されていない。
本発明は、上記の従来技術の問題を解決するためになされたものであり、ワークロール表面の凝着を防止することができる金属板圧延用ロールを提供することを目的としている。
本発明者らは、純ニッケル板の圧延に用いられたワークロール(鍛鋼材、表面処理なし)を分割し、表面状態をSEM−EDS装置にて解析した。なお、図1に示すように、このワークロールは、中間ロール2およびバックアップロール3とともに構成された6段ミルのワークロール4である。6段ミルにおいて、純ニッケル板のワーク1は、所定の間隔で設置されたワークロール対4、4の間を通過することにより圧延される。図2に示すように、ワークロール4は、例えば、中央にロール部4a、その両外側に小径部4b、両端に大径部4cを備え、ロール部4aの中央部にワーク(図示省略)の摺動部4dがある。本発明者らは、摺動部4dについて圧延中心部、圧延端部などを切断した供試材を観察した結果、ロール表面には、Niの凝着物が付着しており、その凝着物の表層にはFeおよびCrも観察された。なお、ロールのバレル方向位置にもよるが、最大5μm厚み程度の凝着物が観察された。
よって、ワークロール表面に付着した凝着物は、被圧延材のNiであることが分かった。また、観察されたFeおよびCrについては、バックアップロールまたは中間ロールに由来する成分が、ワークロールに転写されたものであると推定される。
すなわち、バックアップロールまたは中間ロールが摺動条件下で摩耗し、その摩耗粉がワークロールへ転写されし、ワークロール表面で凝集し、凝着した可能性が考えられる。また、製造ラインは、純ニッケル板の冷延だけでなく、SUS鋼板などの冷延も行われる。このとき、ワークロールは、被圧延材の種類によって変更されるが、中間ロール、バックアップロールなどの共通部品は変更されない。このため、純ニッケル板の冷延前に、SUS鋼板などが冷延された場合には、SUS鋼板由来のFe、Crなどの元素が中間ロール、バックアップロールなどの圧延装置に残存し、それががワークロールへ転写されし、ワークロール表面で凝集し、凝着した可能性が考えられる。
一方、本発明者らは、特許文献1に記載される技術に従って、TiN層をワークロール表面に形成して純ニッケル金属板の圧延を実施し、圧延に用いたワークロールについて、上記と同様に、表面状態をSEM−EDS装置にて解析したところ、ワークロールへのニッケルの凝着が確認された。これは、TiNは高硬度であり、耐摩耗性の面では優れている反面、摩擦係数が0.6〜0.8と高く、圧延時(摺動時)に被圧延材由来の成分が付着したと考えられる。このため、被圧延材の表面性状を維持するためには、圧延荷重の低減、圧延速度の低下などを余儀なくされ、生産効率の悪化が避けられない。
なお、被圧延材のNiは、TiNを構成するTi粒子と、室温近傍においても化学的に親和性を有しており、特に凝着しやすいと考えられる。
そこで、本発明者らは、高い硬度を有し、十分な耐久性を有するとともに、摩擦係数が低く、被圧延材由来の成分の凝着が発生しないような表面処理方法について検討した結果、ダイアモンドライクカーボン(以下「DLC」と記す。)に着目した。DLCとは、ダイアモンド結合およびグラファイト結合が混在したアモルファス構造の物質である。DLCは、アモルファス構造を有しているため、結晶粒界を持たず、TiNなどの硬質膜と比べて非常に平滑な表面を有する。そして、DLCの摩擦係数は、ダイアモンド結合/グラファイト結合比にも拠るが、高い場合でも0.15以下であり、TiNに代表される従来の硬質保護膜よりも格段に低い。特に、ニッケルと、DLCは、化学的に非親和であることも大きな理由であると考えられる。
ところで、ロール基材に用いられる中炭素鋼材は、その線熱膨張係数(以下、「β」と呼ぶ。)が約10〜11×10−6/℃であるのに対して、DLCのβは、1.0〜2.0×10−6/℃であり、大きな差異がある。このため、ロール基材表面に直接DLCを被覆した場合には、接着界面に内部残留応力が存在することになる。すなわち、DLC被覆層側には引張応力が、ロール基材側には圧縮応力がそれぞれ負荷される。従って、DLC被覆層がロール基材から剥離するおそれがある。DLC被覆層の剥離が発生すると、被圧延材の表面性状を劣化させる。このため、DLC被覆層とロール基材との密着性を強化する必要がある。
そこで、本発明者らは、βがDLC被覆層およびロール基材の中間帯域にある硬質保護膜を、DLCとロール基材界面に中間層として組み込むこととを検討した。本発明者らがロール基材表面に直接DLCを被覆した場合の密着力を測定したところ、最大でも30Nに留まる。しかし、中間層として、炭化珪素(β=3.7)、炭化チタン(同8.0)、クロム(同4.9)、珪素(同3.0)、ニオブ(同7.0)を適用した場合、密着力が最小でも40Nまで上昇する傾向を確認した。
一般に、被圧延材の生産効率を上げる策として、圧延パス回数をより少なく抑えることが有効である。圧延パス進行に伴って被圧延材の板厚は制御されるため、ワークロールの荷重を引き上げることが出来れば、板厚制御に要する圧延パスを減らすことが可能となる。しかしながら、ワークロールの荷重を引き上げた場合、ワークロールに負荷される摩擦力の上昇が必至なため、硬質保護膜の剥離が生じ易くなる。そのため、ワークロールの荷重設定値と硬質保護膜の密着力には密接な関係がある。つまり、密着力を引き上げることが出来れば、ワークロールの荷重を引き上げることも可能となる。
例えば、密着力が30Nに留まる場合、硬質保護膜を剥離させないため、ワークロールの荷重は100ton以下に抑える必要があった。上述の各種の中間層を設けて密着力が40N以上となった場合、荷重は150ton以上に引き上げることが可能となった。
しかしながら、ワークロールへの硬質保護膜形成に拠り、ワークロール作製に要する工具コストの増額が不可避である以上、さらなる生産効率改善が求められる。圧延パス回数をさらに少なく抑えるには、上述の荷重をより引き上げ、最低200ton以上に設定する必要がある。
本発明者らは、上記の課題を解決するために様々な検討を行い、基材と硬質保護膜との間に中間層を設けることを考えた。本発明者らは、その中間層について鋭意研究を重ねた結果、中間層を複層構造とし、しかも各層を構成する材料を種々選択することにより、密着力をさらに60N以上まで引き上げることに成功した。その結果、所期荷重値である200tonの実現に至った。
上述の密着力が大幅に上昇したメカニズムとして以下を推察する。すなわち、βがDLC被覆層とロール基材の中間帯域に、複数層の中間層を設けることによって、ロール基材表面に直接DLCを被覆した場合のような過度な内部残留応力が生じず、DLC被覆層/中間層/ロール基材の各接着界面の内部残留応力は相対的に小さく抑えられる。内部残留応力を完全に無くすことは理論的に不可能であるものの、相対的に小さく抑え、さらに多層構造内部で段階的に当該負荷を分散させることにより、DLC剥離に至る密着力しきい値が高くなると推察される。
詳細には、ロール基材に面した第一中間層にはβが8.0〜9.4であるチタン炭化物、チタン窒化物ならびにチタン炭窒化物のうち、少なくとも1種から成る硬質膜を設けた。最表層側に面した第二中間層にはβが3.0〜4.0である炭化珪素から成る硬質膜を設けた。このような多層膜構造の皮膜を形成したロールは、ロール基材、第一中間層、第二中間層、最表層のDLC膜の順にβが傾斜的に減ぜられている。各接触界面に生じる内部残留応力はβ値の差が小さいほど低く抑えられるため、硬質保護膜の密着力が大幅に改善された所以と考えられる。また上述の第二中間層は炭化膜であるため、炭素を主成分とする最表層のDLC膜との化学的親和性が良好であり、密着力をさらに強化させたと考えられる。
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであり、下記の金属板圧延用ロールを要旨とする。
(1)Ni、TiおよびCrから選択される1種以上を含有する、金属板を圧延するのに用いるロールであって、ロール基材と、ダイアモンド結合およびグラファイト結合が混在したアモルファス構造のダイアモンドライクカーボン被覆層と、前記ロール基材と前記ダイアモンドライクカーボン被覆層との接着界面に形成した複数層の中間層を備え、前記複数層の中間層が、金属炭化物、金属窒化物および金属炭窒化物から選択される一種以上からなる、金属板圧延用ロール。
(2)前記複数層の中間層が、前記ロール基材に面した第一中間層と、前記ダイアモンドライクカーボン被覆層に面した第二中間層を備え、前記第一中間層が、チタン窒化物、チタン炭化物およびチタン炭窒化物から選択される一種以上からなり、前記第二中間層が、炭化珪素からなる、上記(1)の金属板圧延用ロール。
(3)前記中間層が、前記第一中間層および前記第二中間層の二層からなる、上記(1)または(2)の金属板圧延用ロール。
(4)前記ロール基材、前記第一中間層、前記第二中間層および前記ダイアモンドライクカーボン被覆層の線熱膨張係数をそれぞれβ、β、βおよびβとするとき、β>β>β>βの関係を満足する、上記(2)または(3)の金属板圧延用ロール。
(5)前記ダイアモンドライクカーボン被覆層表面の摩擦係数が、0.15以下である、上記(1)〜(4)のいずれかの金属板圧延用ロール。
(6)前記ダイアモンドライクカーボン被覆層の厚さが、1〜10μmである、上記(1)〜(5)いずれかの金属板圧延用ロール。
(7)前記ダイアモンドライクカーボン被覆層が、ダイアモンド型結晶構造を有する炭素化合物とグラファイト型結晶構造を有する炭素化合物の結晶比率で、前記ダイアモンド型結晶構造を有する炭素化合物の割合が60〜80%である、上記(1)〜(6)のいずれかの金属板圧延用ロール。
(8)99.5質量%以上のNiまたはTiを含有する、金属板を圧延するのに用いるロールである、上記(1)〜(7)のいずれかの金属板圧延用ロール。
本発明によれば、ワークロール表面の凝着を防止することができるとともに、ワークロール表面に形成したDLC被覆層の剥離を効果的に防止することができる。このため、本発明の金属板圧延用ロールは、被圧延材の表面性状を長時間維持することが可能である。
6段ミルの装置構成の例を示す図。 ワークロールの例を示す図。 本発明のワークロールの例を示す断面図。 比較例3のワークロールの断面写真(走査型電子顕微鏡像)。 比較例1および本発明例2におけるワークロールを示す写真。 比較例1および本発明例2の被圧延材の表面状態を示す写真。 (a) 比較例1の写真、(b)本発明例2の写真。
本発明は、Ni、TiおよびCrから選択される1種以上を含有する、金属板を圧延するのに用いるロールに関するものである。本発明のロールは、ロール表面に凝着しやすい元素を含む金属板を圧延する場合においても、これらの凝着を防止することができる。Ni、TiおよびCrから選択される1種以上を含有する金属板としては、例えば、99.5質量%以上の純Ni、99.5質量%以上の純Ti、Ti合金、ステンレス鋼などが挙げられる。本発明は、図1に示す、ワークロール1のほか、中間ロール2およびバックアップロール3など、圧延に関係するあらゆるロールに適用することができる。ただし、被圧延材(ワーク)と直接接触するワークロール1に適用することが好ましい。
図3に示すように、本発明の金属板圧延用ロール4は、そのロール部4aの表面に、ダイアモンドライクカーボン被覆層40を備えている。すなわち、ロール部4aは、ダイアモンドライクカーボン被覆層40とロール基材41とで構成され、ダイアモンドライクカーボン被覆層40とロール基材41との界面に複数層の中間層(第一中間層42と第二中間層43)を備えている。ダイアモンドライクカーボン(DLC)被覆層40とは、ダイアモンド結合(立方晶、sp3結合)およびグラファイト結合(六方晶、sp2結合)が混在したアモルファス構造を有している。このため、DLCは、超硬合金なみの高硬度を備えるとともに、アルミナ等の金属酸化膜、TiC等の金属炭化膜、TiN等の金属窒化膜と比較して各段位に摩擦係数が小さいため、高い潤滑性を備えている。特に、ta-C:H型(水素化テトラヘドラルアモルファスカーボン)の組成を有するDLC被覆層を用いることが好ましい。
ダイアモンドライクカーボン被覆層表面の摩擦係数は、Ni、Ti、Crなどの凝着を防止するためには、0.2以下とすることが好ましい。より好ましいのは、0.15以下であり、更に好ましいのは、0.1以下である。
DLC被覆層の組成は、特に限定しない。よって、結晶比率で、グラファイト結合の存在率sp2およびダイアモンド結合の存在率sp3の比(sp3/sp2)が0.60〜0.80であればよい。
DLC被覆層の厚さは、硬質保護膜としての機能を確保するためには、1μm以上とすることが好ましい。一方、DLC被覆層が厚すぎる場合には、「てこの原理」に基づき、DLC被覆層とロール基材との界面に負荷される引張応力が強くなり過ぎて、DLC被覆層がロール基材から剥がれる場合がある。このような事態は、特に、高荷重圧延などのように、圧延時の剪断応力が所定値を超えた場合に生じやすい。このため、DLC被覆層の厚さは、10μm以下とすることが好ましい。
DLCの高潤滑性は、定量的には摩擦係数の低さを指標に捉えることができる。そして、低摩擦係数の所以は、DLCを構成するグラファイトが亀甲状の層状構造を有し、同じ層内では極めて強い結合(σ結合とも称される共有結合)を示すのに対し、層間(亀甲の上下面)では脆弱な結合(π結合とも称されるファンデルワールス力)に留まる。このため、後者の結合力がDLC表面に負荷された剪断応力を下回った場合、比較的容易に層間の滑り現象(数Åオーダの滑り)が生じ、当該結合が解離する。その結果、DLC被覆膜層の高潤滑性が得られる。
そして、ワークロール表面には圧延時に必ず剪断応力が作用するので、DLCが摩耗し、圧延環境下でもDLCが剥離せず、残存する条件で成膜されなければならない。係る成膜条件の下限値が1μm以上のDLC厚みであれば、少なくとも所期生産工程(鋼板の圧延総長)を処理することが可能である。
なお、DLC被覆層の厚さは、ロール基材を成膜装置の内に晒す時間によって調整できる。ここで、例えば、物理蒸着法(PVD法)を用いてDLCをロール基材に成膜する際には、成膜温度が、ロール基材を構成する鋼材の焼戻し温度を上回る場合がある。成膜温度が焼戻し温度を上回っても、成膜時間が短時間であれば、特段問題が生じないが、あまりに長時間になると、ロール基材を構成する鋼材が成膜装置の内部で焼き戻された結果、想定外の軟化を引き起こす危険性がある。この点、DLC被覆層の厚さが10μm以下であれば、比較的短時間で成膜できるため、成膜温度が高くても、ロール基材への影響は無視できる程に小さくすることができる。また、DLC被覆層は、耐熱温度が低いため、本発明のロールは、熱間圧延には適さず、温間圧延または冷間圧延に適している。
DLC被覆層は、例えば、化学蒸着法(CVD法)、物理蒸着法(PVD法)等のドライ成膜手法を用い、ロール基材表面に直接または、中間層を介し成膜することができる。近年の成膜装置技術の発展に伴い、水素含有量が制御された超高硬度膜のほか、クロム、珪素などを硬質粒子としてマトリックスに組み込んだ硬質膜も実用化されている。PVD法またはCVD法の処理条件は、ロール基材を構成する鋼材の熱処理後の鋼材組織と、鋼材構造を損なわない範囲であれば、周知慣用の条件に従えばよく、特定条件には限定されない。例えば、PVDではアークイオンプレーティング法が、CVDではプラズマCVD法がロール円周部全面に均質かつ均一にDLCを成膜する上で望ましい。
ワークロールのロール基材の化学組成は、所定の機械的性能(表面硬さ:Hvで800以上、表面粗さ:Raで0.06程度)を有しておれば、特に限定はない。例えば、JIS規格では、SKD系列、SKH系列などが鋼材分類として挙げられる。
中間層は、複数層で構成されており、金属炭化物、金属窒化物および金属炭窒化物から選択される一種以上からなる。このような複数層の中間層を設ければ、ロール基材表面に直接DLCを被覆した場合のような過度な内部残留応力が生じず、DLC被覆層/中間層/ロール基材の各接着界面の内部残留応力は相対的に小さく抑えられる。内部残留応力を完全に無くすことは理論的に不可能であるものの、相対的に小さく抑え、さらに多層構造内部で段階的に当該負荷を分散させることにより、DLC剥離に至る密着力しきい値が高くなる。
複数層の中間層は、ロール基材に面した第一中間層と、ダイアモンドライクカーボン被覆層に面した第二中間層を備え、第一中間層および第二中間層の組成が異なることが望ましい。特に、前記第一中間層は、チタン窒化物、チタン炭化物およびチタン炭窒化物から選択される一種以上からなり、前記第二中間層は、炭化珪素からなるのが望ましい。このような中間層を用いることにより、前記ロール基材、前記第一中間層、前記第二中間層および前記ダイアモンドライクカーボン被覆層の線熱膨張係数を傾斜的に減ぜられる。すなわち、前記ロール基材、前記第一中間層、前記第二中間層および前記ダイアモンドライクカーボン被覆層の線熱膨張係数をそれぞれβ、β、βおよびβとするとき、β>β>β>βの関係を満足する。各接触界面に生じる内部残留応力はβ値の差が小さいほど低く抑えられるため、硬質保護膜の密着力が大幅に改善される。特に、第二中間層を炭化珪素とすることにより、炭素を主成分とする最表層のDLC膜との化学的親和性が良好であり、密着力をさらに強化することが可能となる。
複数層の中間層は、前記第一中間層および前記第二中間層の二層からなるのがより望ましい。層数が増えると、製造効率が悪化するからである。
図1に示す6段ミル(実機圧延ミル)にて、被圧延材として、純ニッケル箔(初期板厚0.2mm、板幅600mm、ニッケル純度≧99.5%)を板厚0.1mmまで圧延(パス回数:1パス、圧延荷重:最大250ton、総圧延長:10km)し、被圧延材の表面性状を確認した。
なお、ワークロールの形状は、図2に示す形状とし、ロール部の胴長:1,000mm、ロール部の直径:80mmとした。
比較例1のワークロールは、鍛鋼製ワークロール表面を、プラズマCVD成膜装置内に装入し、ta-C:H型(水素化テトラヘドラルアモルファスカーボン)の組成を有するDLC被覆層を成膜した。このDLC被覆層の膜厚は、1.3μmであった。
また、比(sp/sp)は75%であった。
次に、DLC被覆層とロール基材との間に表1に示す中間層を設けた場合の効果を確認する実験を行った。図4に、本発明例2と全く同一条件で成膜を行った場合の試験片断面SEM写真を示す。基材表面に中間層を介して良好な硬質保護膜層が形成されることが確認された。
図5(a)に、比較例1と本発明例2の圧延後のワークロール外観写真を示す。比較例1では臨界荷重を100ton以下に、本発明例2では臨界荷重を250ton以下に制御した結果、共に被圧延材の凝着や、硬質保護膜の剥離は確認されなかった。また、圧延された純ニッケル箔に表面不良が発生していなかった(図5(b)参照)。
本発明例1〜3のワークロールは、鍛鋼製ワークロール表面を、プラズマCVD成膜装置内に装入し、図3と表1に示す中間層を成膜した後、ta-C:H型(水素化テトラヘドラルアモルファスカーボン)の組成を有するDLC被覆層を成膜した。なお、本発明例1では中間層として、0.05μmの厚さのTiNを成膜した後、0.05μm厚さのSiCを成膜し、本発明例2では中間層として、0.05μmの厚さのTiCを成膜した後に0.05μm厚さのSiCを成膜し、さらに本発明例3では中間層として、0.05μmの厚さのTiCNを成膜した後に0.05μm厚さのSiCを成膜した。いずれの例でも、DLC被覆層の膜厚は2.0μmであり、比(sp3/sp2)は75%であった。いずれの例においても、ワークロールの表面には、均一なDLC被覆層が形成されていた。
上記ワークロールについて、硬質保護膜の機械強度とトライボロジー性能を評価した。
評価用試験片はワークロールと同等鋼材を四角形状(15mm×15mm×厚10mm)に裁断加工し、硬質保護膜の被膜面を鏡面加工の上、当該表面にワークロールと同じ成膜方法で硬質保護膜を施したものを使用した。密着力、耐荷重、摩擦係数およびナノ硬度を評価した。その結果も表1に併記した。なお、ワークロールの形状は、図2に示す形状とし、ロール部の胴長:1,000mm、ロール部の直径:80mmとした。
<臨界荷重>
ワークロールを被圧延材の法線方向に押し付ける力を荷重値とし、圧延開始後、被圧延材の成分がワークロール表面に凝着物として目視確認されるか、或いは硬質保護膜が部分的に剥離した時点の荷重値を「臨界荷重」と定義した。なお、臨界荷重は、前述の実機圧延ミルの操業に先立つ予備検討段階の実績値である。したがって、表1に示す実機圧延は臨界荷重以下の荷重で行われた。
<密着力(スクラッチ試験)>
硬質保護膜の基材に対する密着力を測定した。密着力の測定には、CSM Instruments社製、Revetest Scratch Tester、N27−486型のスクラッチ式試験機を使用した。ダイアモンド製触針;外径200μm(N2−4996型)を荷重;0〜200N間で、室温、走査速度10mm/分、荷重速度100N/分で走査させた。異常振動信号が検出された荷重値と、走査動画写真にて硬質保護層剥離に伴うロール基材層の露出、もしくは顕著な膜破壊が確認された時点の荷重値を比較して、最も低い荷重値を以て「密着力」と定義した。
<摩擦係数>
バウデン方式で評価した動摩擦係数(荷重5N,SUJ2球の往復直線摺動)を求め、「摩擦係数」とした。
<ナノ硬度>
ナノインデンテーション法によって、ナノ硬度を求めた。すなわち、ナノ硬度の測定には、ナノインデンター(Agilent Technologies社製、XP/DCM)を用いた。押込圧子;ダイアモンド製バーコビッチ型を用い、以下の条件で測定した。押込方法;連続剛性方式、荷重;200μN、振動周波数;45Hz、振動振幅幅;2nm、最大押込深さ;500nm、室温、測定15箇所(間隔は70μm)の平均値、押込深さ200nm地点の硬度を以て、ナノ硬度と定義した。
表1に示すように、中間層を設けなかった比較例1においては、密着力が30N程度に留まっているが、中間層を設けた比較例2〜8においては、密着力が40Nを超えていた。本発明例1〜3では中間層の組成と膜構造を同時に検討した結果、密着力がさらに60Nを超えることがわかった。
本発明によれば、ワークロール表面の凝着を防止することができるとともに、ワークロール表面に形成したDLC被覆層の剥離を効果的に防止することができる。このため、本発明の金属板圧延用ロールは、被圧延材の表面性状を長時間維持することが可能である。
1 ワーク
2 中間ロール
3 バックアップロール
4 ワークロール
4a ロール部
4b 小径部
4c 大径部
4d 摺動部
40 ダイアモンドライクカーボン被覆層
41 ロール基材
42 第一中間層
43 第二中間層

Claims (8)

  1. Ni、TiおよびCrから選択される1種以上を含有する、金属板を圧延するのに用いるロールであって、
    ロール基材と、ダイアモンド結合およびグラファイト結合が混在したアモルファス構造のダイアモンドライクカーボン被覆層と、前記ロール基材と前記ダイアモンドライクカーボン被覆層との接着界面に形成した複数層の中間層を備え、
    前記複数層の中間層が、金属炭化物、金属窒化物および金属炭窒化物から選択される一種以上からなる、金属板圧延用ロール。
  2. 前記複数層の中間層が、前記ロール基材に面した第一中間層と、前記ダイアモンドライクカーボン被覆層に面した第二中間層を備え、
    前記第一中間層が、チタン窒化物、チタン炭化物およびチタン炭窒化物から選択される一種以上からなり、
    前記第二中間層が、炭化珪素からなる、
    請求項1に記載の金属板圧延用ロール。
  3. 前記中間層が、前記第一中間層および前記第二中間層の二層からなる、
    請求項2に記載の金属板圧延用ロール。
  4. 前記ロール基材、前記第一中間層、前記第二中間層および前記ダイアモンドライクカーボン被覆層の線熱膨張係数をそれぞれβ、β、βおよびβとするとき、β>β>β>βの関係を満足する、
    請求項2または3に記載の金属板圧延用ロール。
  5. 前記ダイアモンドライクカーボン被覆層表面の摩擦係数が、0.15以下である、
    請求項1から4までのいずれかに記載の金属板圧延用ロール。
  6. 前記ダイアモンドライクカーボン被覆層の厚さが、1〜10μmである、
    請求項1から5までのいずれかに記載の金属板圧延用ロール。
  7. 前記ダイアモンドライクカーボン被覆層が、ダイアモンド型結晶構造を有する炭素化合物とグラファイト型結晶構造を有する炭素化合物の結晶比率で、前記ダイアモンド型結晶構造を有する炭素化合物の割合が60〜80%である、
    請求項1から6までのいずれかに記載の金属板圧延用ロール。
  8. 99.5質量%以上のNiまたはTiを含有する、金属板を圧延するのに用いるロールである、請求項1から7までのいずれかに記載の金属板圧延用ロール。
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