以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、本発明の実施形態による筆記具1の正面図であり、図2は、図1の筆記具1の縦断面図であり、図3は、図1の筆記具1の別の縦断面図である。なお、後述する図24は、図1の筆記具1の非筆記状態の拡大縦断面図である。
筆記具1は、いわゆるノック式筆記具である。筆記具1は、筒状に形成され且つ前軸2及び後軸3を備えた軸筒4と、軸筒4内に配置され且つ一端に筆記部5aを備えた筆記体であるリフィル5と、第1スプリング6と、第1スプリング6を包囲するように配置された第2スプリング7と、第1スプリング6及び第2スプリング7の前端部を支持するスプリング支持部材8と、を有している。また、筆記具1は、軸筒4の後端部、すなわち後軸3の後端部に嵌合し且つ筒状に形成された尾栓10と、筒状に形成された部分を備えたクリップ部材20と、クリップ部材20の筒状の部分内に配置されたノック部材30と、ノック部材30の前方に配置された回転子40と、回転子40を包囲するように配置されたカム部材であるカムリング50と、ノック部材30の後端部に嵌合する第1操作部材60と、を有している。なお、ノック部材30及び第1操作部材60は、嵌合によって一体的であることから、嵌合したノック部材30及び第1操作部材60の全体を、第1操作部材と称してもよい。
前軸2の前端部はテーパー状に形成され、リフィル5の筆記部5aを突出させるための貫通孔が形成されている。前軸2の後端部は、後軸3の前端部の内部において螺合することで取り付けられる。筆記具1の軸筒4内には、リフィル5として、シャープペンシル及びシャープペンシル以外(例えばボールペンやマーキングペン)を択一的に収容可能である。
本明細書中では、筆記具1の軸線方向において、筆記部5a側を「前」側と規定し、筆記部5aとは反対側を「後」側と規定する。さらに、筆記具1では、後述するノック操作によって、リフィル5が軸筒4内を前後方向に移動する。筆記部5aが軸筒4内に没入したリフィル5の位置を非筆記位置と称し、そのときの筆記具1の状態を非筆記状態(図1及び図2)と称する。また、筆記部5aが軸筒4から突出したリフィル5の位置を筆記位置と称し、そのときの筆記具1の状態を筆記状態(図示せず)と称す。以下、各部材の構成について説明する。
図4は、図1の筆記具1の尾栓10の斜視図であり、図5は、図4の尾栓10の縦断面図である。図5において、下方が筆記具1の前側である。
尾栓10は、筒状に形成された尾栓本体11と、尾栓本体11の後端部に凸状に形成された嵌合突起12と、を有している。尾栓10を後軸3に取り付ける際には、嵌合突起12が係止することによって、尾栓10が外れにくくなっている。また、クリップ部材20の軸線方向の移動をガイドするため、尾栓本体11の前端部から後方に向かって、矩形の切り欠き状のガイド溝13が形成されている。尾栓10の中心軸線に対してガイド溝13と対向する位置には、後述するノック部材30の一部を受容する矩形の切り欠き部14が形成されている。
図6は、図1の筆記具1のクリップ部材20の斜視図であり、図7は、図6のクリップ部材20の縦断面図である。図7において、下方が筆記具1の前側である。
クリップ部材20は、筒状に形成されたクリップ本体21と、細長い直方体状に形成されたクリップ部22と、クリップ本体21とクリップ部22とを接続する接続部23とを有している。クリップ部材20、具体的にはクリップ部22は、第2操作部材として使用される。クリップ本体21の前端部には、フランジ状のフランジ部24が形成されている。フランジ部24を含むクリップ本体21において、クリップ部22と対向する部分及び当該部分と軸対称の部分には、後方へ延在する矩形の切り欠き状の係合凹部25がそれぞれ形成されている。係合凹部25周辺のフランジ部24の各々は、クリップ部22と平行な面で面取りされた摺動面26が形成されている。係合凹部25の各々から軸線周りに90度回転させた位置にあるフランジ部24の前端面には、弧状に画成された2つの当接凹部27が形成されている。また、係合凹部25内の底面には、後述するノック部材30の係合突起33を押圧する押圧面28が形成されている。
クリップ本体21は、尾栓10の尾栓本体11内に前方から挿入される。このとき、クリップ部材20の接続部23が、尾栓10のガイド溝13内に配置される。接続部23がガイド溝13に沿ってガイドされることよって、クリップ部材20が、尾栓10に対して、前後方向に移動可能となる。
図8は、図1の筆記具1のノック部材30の斜視図であり、図9は、図8のノック部材30の縦断面図である。図9において、下方が筆記具1の前側である。
ノック部材30は、筒状に形成されたノック部本体31を有している。ノック部本体31の前端面には、周方向に沿って形成された複数の山部及び谷部からなるカム面32が形成されている。また、カム面32近傍のノック部本体31の外周面には、互いに反対方向に突出し且つ略立方体形状に形成された2つの係合突起33が形成されている。係合突起33の後端面には、クリップ部材20のノック操作の際にクリップ部材20の押圧面28と当接する受け面34が形成されている。
ノック部本体31は、クリップ部材20のクリップ本体21内に前方から挿入される。筆記具1の非筆記状態において、ノック部材30の係合突起33の各々は、尾栓10のガイド溝13内及び切り欠き部14内に配置され、且つ、クリップ部材20の係合凹部25に配置される。
図10は、図1の筆記具1の回転子40の斜視図であり、図11は、図10の回転子40の縦断面図である。図11において、下方が筆記具1の前側である。
回転子40は、小径部41と、小径部41の前方に形成された中径部42と、中径部42の前方に形成された大径部43とを有している。小径部41は、ノック部材30のノック部本体31内に挿入されて芯合わせに使用される。中径部42は小径部41よりも大きな直径を有し、大径部43は中径部42よりも大きな直径を有する。回転子40は、全体として略同じ肉厚の筒状に形成されていることから、小径部41、中径部42及び大径部43の順に、大きな内径をそれぞれ有している。中径部42の後端面には、ノック部材30のカム面32と相補的な形状のカム受け面44が形成されている。中径部42の外周面には、径方向外方へ突出する4つの内カム45が周方向に等間隔に設けられている。内カム45の後端面は、同一方向に傾斜したカム斜面として形成されている。
中径部42の内径は、リフィル5が外れないように嵌合するように設定されている。すなわち、リフィル5は回転子40内に挿入され嵌合し、一体となって動作する。また、大径部43の内側には、前方に面した環状の面であるスプリング支持面46が形成されている。
図12は、図1の筆記具1のカムリング50の斜視図であり、図13は、図12のカムリング50の別の斜視図であり、図14は、図12のカムリング50の上面図であり、図15は、図12の線A−Aによるカムリング50の断面図である。図15において、下方が筆記具1の前側である。
カムリング50は、筒状に形成されたリング本体51と、リング本体51の後端部から前方に向かって2箇所で切り欠かれることによって画成され且つ軸対称位置にある2つの角部52とを有している。角部52の各々の内面であるリング本体51の内面には、軸線方向に沿ってガイド突起53が形成されている。ガイド突起53の前端部には、径方向内方へ突出する2つの第1カム突起54が対向して形成されている。また、リング本体51の内面において、第1カム突起54の各々から軸線周りに70度〜80度程度回転させた位置であってより前方の位置には、径方向内方へ突出する2つの第2カム突起55が形成されている。第1カム突起54及び第2カム突起55は、外カム56を構成する。第1カム突起54及び第2カム突起55の前端面は、同一方向に傾斜したカム斜面として形成されている。
図16は、図1の筆記具1の後軸3の上面図であり、図17は、図16の後軸3の側面図であり、図18は、図16の線B−Bによる後軸3の断面図であり、図19は、図16の線C−Cによる後軸3の断面図であり、図20は、図19の線D−Dによる後軸3の断面図である。図17、図18及び図19において、下方が筆記具1の前側である。
後軸3は、筒状の後軸本体70を有している。後軸本体70の後端部から前方に向かって、矩形の切り欠き状の受容孔71が形成されている。受容孔71の後端部近傍は、尾栓10の嵌合突起12と嵌合するよう相補的に形成されている。一方、受容孔71は、尾栓10を後軸3に取り付けた状態であっても尾栓10のガイド溝13と共に、後軸3内に連通する孔を画成する。クリップ部材20の接続部23は、この孔内に配置される。後軸本体70の内部は、隔壁72によって2つに隔てられている。
隔壁72の後面からは、後軸本体70の内周面に沿って受容孔71まで後方へ延びる一組とさらにこれらと軸対称位置にある一組との合計二組のガイドレール73が形成されている。各組における2本のガイドレール73の間には、ノック部材30の係合突起33が配置される。ノック部材30の係合突起33がガイドレール73に沿ってガイドされることによって、ノック部材30が、軸線周りに回転することなく前後方向に移動可能となる。また、各組のガイドレール73には、クリップ部材20の摺動面26が対向して配置される。クリップ部材20がガイドレール73上を摺動することによって、クリップ部材20が、軸線周りに回転することなく前後方向に移動可能となる。
隔壁72の中央には、回転子40の中径部42の径より僅かばかり大きい円形の開口74が形成されている。隔壁72の前面において、開口74の周縁から前方へ突出する中カム75が形成されている。中カム75は、図20に示されるように、半円弧状の断面を有する離間した2つの部分に分かれており、全体として略円筒形状を呈している。したがって、後軸本体70の内周面と、中カム75の径方向の外側面との間には、略筒状の空間が形成されている。中カム75の前端面は、同一方向に傾斜したカム斜面として形成されている。また、中カム75の径方向の内側面には縦溝75a(図28及び図29)が形成され、中カム75の径方向の外側面には複数の縦溝75b(図28及び図29)が形成されている。
後軸本体70の内周面近傍の隔壁72には、軸対称位置にある2つの円弧状の貫通孔76が形成されている。また、貫通孔76内の内壁の中央部分には、軸線方向に延びる摺動溝76aが形成されている。
図21は、図1の筆記具1の第1操作部材60の斜視図である。第1操作部材60は、円柱状に形成された小径の嵌合部61と、嵌合部61よりも大径の操作部62とを有している。嵌合部61は、ノック部材30のノック部本体31の後端部内に挿入され、嵌合する。また、第1操作部材60は、筆記具1に収容されるボールペン等の交換式のリフィル5を収容する容器のキャップの役割も果たす。
図22は、リフィル収納品100の側面図であり、図23は、図22のリフィル収納品100の部分縦断面図である。
リフィル収納品100はリフィル収納容器101と、リフィル収納容器101内に収納された1本のリフィル5とから構成される。リフィル収納容器101は、筒状の容器本体102と、容器本体102の頂部側(図において上方)の開口部を開閉するキャップである第1操作部材60とを有する。なお、容器本体102の底部側(図において下方)の開口部内には尾栓103が封密に嵌合されている。リフィル5は、リフィル収納容器101内に筆記部5aが第1操作部材60に向けて位置するように配置される。
第1操作部材60が、リフィル収納容器101のキャップとしての役割を果たすことから、リフィル5を軸筒4に収容する場合には、第1操作部材60をリフィル5のインク色と略同色で着色してもよい。
従来、操作部材等に色識別のために特定の色で着色ができないリフィル交換式の筆記具の場合は、軸筒の全部又は一部を透明又は半透明とすることで、リフィルを外部より視認可能にし、それによってユーザーは筆跡の色を知ることができた。そこで、リフィル5を交換する度に、リフィル5が収納されたリフィル収納容器101のキャップを、第1操作部材60として筆記具1に取り付ける。ユーザーは、筆記具1に取り付けられた第1操作部材60の色を見ることによって、リフィル5の筆跡の色を容易に知ることができる。このため、軸筒4を透明又は半透明にする必要もなくなることから、軸筒4のデザインの幅を広げることが可能となる。
次に、図24及び図25を参照しながら、各部品の組み立て及び関連する動作の概要について説明する。図24は、図1の筆記具1の非筆記状態の拡大縦断面図であり、図25は、図1の筆記具1の筆記状態の拡大縦断面図である。
回転子40は、後軸本体70内に前方から挿入される。すなわち、回転子40の小径部41は開口74を通って隔壁72の後方へ延び、中径部42の一部は中カム75によって包囲される。それによって、回転子40の内カム45と後軸3の中カム75とが、互いに協働するように配置される。また、スプリング支持部材8によって前端部が支持された第1スプリング6の後端部が回転子40のスプリング支持面46に当接し、回転子40及び回転子40に嵌合するリフィル5を後方へ付勢している。
ノック部材30は、係合突起33が後軸3のガイドレール73間に配置されるように、後軸本体70内に後方から挿入される。このとき、ノック部材30のノック部本体31内に回転子40の小径部41が挿入され、それによって、ノック部材30のカム面32と、回転子40のカム受け面44とが対向して配置される。また、クリップ部材20は、接続部23が後軸3の受容孔71内に配置されるように且つ摺動面26が後軸3のガイドレール73上に配置されるように、後軸本体70内に後方から挿入される。さらに、尾栓10は、クリップ部材20の接続部23がガイド溝13内に配置されるように、後軸本体70内に後方から挿入され、嵌合する。筆記具1の非筆記状態(図24)において、ノック部材30の係合突起33は、尾栓10のガイド溝13内及び切り欠き部14内、並びに、クリップ部材20の係合凹部25内に配置される。第1操作部材60は、ノック部材30のノック部本体31の後端部内に挿入される。
カムリング50は、後軸本体70内に前方から挿入される。リング本体51は、後軸3の中カム75を包囲するように、後軸本体70の内周面と中カム75との間の略筒状の空間に配置される。それによって、後軸3の中カム75とカムリング50の外カム56とが、互いに協働するように配置される。
図3に示されるように、カムリング50の2つの角部52は、隔壁72の貫通孔76を通って隔壁72の後方へ延びている。このとき、カムリング50のガイド突起53は、貫通孔76の摺動溝76a内に配置される。カムリング50のガイド突起53が摺動溝76aに沿ってガイドされることによって、カムリング50が、軸線周りに回転することなく前後方向に移動可能となる。隔壁72の後方へ延びる2つの角部52の先端部は、クリップ部材20の当接凹部27内でクリップ部材20と当接する。スプリング支持部材8によって前端部が支持された第2スプリング7の後端部がカムリング50のリング本体51の前端面に当接し、カムリング50及びクリップ部材20を後方へ付勢している。
図24の筆記具1の非筆記状態から、第1操作部材60をノック操作することによって、図25に示されるような、筆記状態に移行する。ここで、ノック操作とは、第1操作部材60又は第2操作部材としてのクリップ部材20のクリップ部22を前方へ押圧した後、すなわち押し込んだ後にその押圧を解除するまでの一連の動作をいう。第1操作部材60をノック操作することを、特に第1ノック操作といい、第2操作部材をノック操作することを、特に第2ノック操作という。
詳細は後述するが、筆記具1の筆記状態は回転子40の内カム45の係合によって維持されるように構成される。筆記具1の非筆記状態又は筆記状態では、ノック部材30のカム面32の山部と回転子40のカム受け面44の山部とは、位相がずれるように配置されている。第1操作部材60のノック操作によって、第1スプリング6の付勢力に抗してノック部材30に対して軸線方向の押圧力を加えると、カム面32及びカム受け面44の山部の位相のずれを無くすように回転方向の力が生じ、回転子40を前進させながら一定方向へ回転させる。第1スプリング6によって後方へ付勢された回転子40が、付勢力に抗して前進し、前方で係合すると筆記具1は筆記状態となり、回転子40の係合が解除されて後方へ移動すると筆記具1は非筆記状態となる。
なお、第2操作部材、すなわちクリップ部材20のクリップ部22のノック操作によって、第2スプリング7の付勢力に抗してクリップ部材20に対して軸線方向の押圧力を加えると、クリップ部材20及びクリップ部材20の当接凹部27内でクリップ部材20に当接するカムリング50は、前進する。
図26は、図25の筆記状態の筆記具1を第1ノック操作している途中の拡大縦断面図である。ここで、リフィル5がシャープペンシルである場合と、シャープペンシル以外である場合とで、筆記状態の筆記具1を第1ノック操作した結果が異なる。すなわち、リフィル5がシャープペンシル以外である場合において、筆記状態の筆記具1を第1ノック操作すると、回転子40の係合が解除されて非筆記状態に切り替えられる。他方、リフィル5がシャープペンシルである場合において、筆記状態の筆記具1を第1ノック操作すると、回転子40の係合が解除されることなく、すなわち、非筆記状態に切り替えられることなく、筆記芯の繰り出しが行われる。
図27は、図24又は図25の筆記状態の筆記具1を第2ノック操作している途中の拡大縦断面図である。筆記状態の筆記具1を第2ノック操作すると、リフィルがシャープペンシルであってもシャープペンシル以外であっても、筆記状態から非筆記状態の切り替えが行われる。
非筆記状態の筆記具1を第2ノック操作すると、第1ノック操作も同時に行われる。すなわち、筆記具1の非筆記状態において、第2ノック操作によって押圧されるクリップ部材20の前方に開口する係合凹部25には、ノック部材30の係合突起33が配置されている。したがって、クリップ部材20が前方へ移動すると、ノック部材30の係合突起33が係合凹部25と係合して前方へ移動する。すなわち、クリップ部材20のクリップ部22を押圧する第2ノック操作を行うと、第1操作部材60を押圧したときと同様にノック部材30も押圧され、結果として第1ノック操作が行われる。
他方、非筆記状態の筆記具1を第1ノック操作しても、第2ノック操作が同時に行われることはない。すなわち、筆記具1の非筆記状態において、ノック部材30が前方へ移動しても、ノック部材30の係合突起33は、クリップ部材20の係合凹部25と係合せず、第1ノック操作のみが行われる。
第1ノック操作することによって、筆記具1は、図24の非筆記状態から図25の筆記状態に移行するが、第2ノック操作を行うと第1ノック操作も行われることから、第2ノック操作をすることによって、筆記具1を非筆記状態から筆記状態に切り替えることが可能となる。すなわち、筆記具1は、第1操作部材60及び第2操作部材(クリップ部22)のいずれを用いてもノック操作が可能である。
したがって、例えば第1操作部材60が外れて無くなるか又はクリップ部22が折れたとしても、他方の操作部材を使用することによってノック操作をすることが可能となる。また、第1操作部材60をノック操作する場合に、軸筒と一緒にクリップ部22を把持してしまっても、第1ノック操作をすることが可能である。すなわち、本発明によれば、第1操作部材60及び第2操作部材(クリップ部22)のいずれを用いてもノック操作可能であり、いずれか一方のノック操作が他方に連動していないノック式筆記具が提供される。以下、第1ノック操作及び第2ノック操作について説明する。
図28は、カム機構の関連性を示す模式図である。図28は、後軸3に形成された中カム75を展開した一部に対する内カム45及び外カム56の位置を示したものである。図28において、上方が筆記具1の前側である。図29は、図28の線E−Eによる断面の模式図である。図28が後軸3に形成された中カム75を展開した状態なので、図29に示す断面図では、これらのカムが湾曲したものでなく、直線状に描かれている。図29において、上方が径方向外側で、下方が径方向内側である。
図29において、径方向の外側から内側に向かって、後軸3の後軸本体70、カムリング50のリング本体51及び外カム56、後軸3の中カム75、及び、回転子40の中径部42及び内カム45が、順に配置されている。より具体的には、内カム45は、中カム75の径方向の内側面に形成された縦溝75a内に配置される。外カム56の第2カム突起55は、中カム75の径方向の外側面に形成された縦溝75b内に配置されている。内カム45及び外カム56は、ノック操作に応じて前後方向に移動する。回転子40は、内カム45が中カム75の縦溝75a内に配置されているときは、回転しないが、縦溝75aを越えると回転可能となる。図29から明らかなように、回転子40の内カム45は、中カム75の径方向の外側面に形成された縦溝75b内に入ることはない。
図30は、図1の筆記具1のリフィル5がシャープペンシル以外である場合のノック操作を説明する模式図であり、図31は、図1の筆記具1のリフィル5がシャープペンシルである場合のノック操作を説明する模式図である。図30及び図31において、上方が筆記具1の前側である。図30及び図31は、図28と同様に、後軸3に形成された中カム75を展開したものに対する内カム45及び外カム56の位置及びその動作を示したものである。回転子40の内カム45は、ノック操作毎に回転して図の右方向へと移動し、図の左端にある内カム45の内の1つが右端まで達すると、回転子40はちょうど1回転したことになる。
図30(1)は、筆記具1の非筆記状態を示しており、図30(4)は、筆記具1の筆記状態を示している。
図30(1)に示されるような、リフィル5が非筆記位置にあるときは、内カム45は、中カム75の縦溝75a内に配置されている。この状態では、第1スプリング6によって回転子40が後方へ付勢されている。そのため、カム面32及びカム受け面44の山部の位相のずれによって、内カム45は、回転方向、すなわち図において右方向へ付勢されているが、縦溝75aの縦壁によって回転が規制されている。
リフィル5が非筆記位置にある状態から第1操作部材60を押圧すると、すなわち、第1ノック操作すると、回転子40の内カム45は、前進して中カム75の縦溝75aの縦壁を越える位置に達する(図30(2))。このとき、縦溝75aの縦壁による規制が解除されるため、カム面32及びカム受け面44の山部の位相のずれを無くすように、回転子40が図において右方向へ僅かに回転する(図30(3))。
次いで、押圧を解除すると、すなわちノック操作を完了させると、回転子40の内カム45のカム斜面が、第1スプリング6の付勢力によって、中カム75のカム斜面に押圧される。それによって、回転子40の内カム45は、中カム75のカム斜面に沿って滑り、外カム56、特に第1カム突起54の縦壁に当接することによって回転が規制される。すなわち、回転子40の内カム45が、中カム75と係合して回転子40の後方への移動が規制されると共に外カム56と係合して回転子40の回転が規制され、それによってリフィル5は筆記位置を維持する(図30(4))。
リフィル5が筆記位置にある状態から第1操作部材60を押圧すると、回転子40の内カム45は、前進して外カム56の縦壁を越える位置に達する(図30(5))。このとき、外カム56の縦壁による規制が解除されるため、カム面32及びカム受け面44の山部の位相のずれを無くすように、回転子40が図において右方向へ僅かに回転する(図30(6))。次いで、押圧を解除すると、すなわちノック操作を完了させると、回転子40の内カム45のカム斜面が、第1スプリング6の付勢力によって、外カム56のカム斜面に押圧される。それによって、回転子40の内カム45は、外カム56のカム斜面に沿って滑り、中カム75の縦溝75a内を後方へ移動する(図30(7))。すなわち、回転子40の内カム45は、中カム75及び外カム56との係合が解除され、回転子40が回転した後に後方へ移動することによって、リフィル5は非筆記位置に移動する(図30(1))。
次に、図31を参照しながら、図1の筆記具1のリフィル5がシャープペンシルである場合のノック操作を説明する。図31(1)乃至(4)は、図30(1)乃至(4)とそれぞれ同一である。図31(4)に示されるように、リフィル5が筆記位置にある状態から第1操作部材60を押圧すると、回転子40の内カム45と、中カム75及び外カム56との係合が解除されることなく、筆記芯の繰り出しが行われる。すなわち、第1ノック操作によって、回転子40の内カム45は前進するが、外カム56の縦壁を越えることがなく(図31(5))、元の筆記位置に復帰する(図31(6))。
言い換えると、第1ノック操作によって、回転子40の内カム45が外カム56の縦壁を越えることがなく回転子40が前後方向に移動して筆記芯の繰り出しが行われるように、シャープペンシルのリフィル5の寸法及び形状が設計される。すなわち、第1操作部材60の押圧によるリフィル5の前進は、リフィル5の先端が前軸2の前端部の内部に当接して回転子40の内カム45が外カム56の縦壁を越える前に停止し、そのさらなる押圧操作は、シャープペンシルのチャックを開放させて、筆記芯の繰り出しが行われる。
リフィル5が筆記位置にある状態(図31(6))から第2操作部材であるクリップ部22を押圧すると、すなわち、第2ノック操作すると、外カム56が前進し、第1カム突起54が回転子40の内カム45を越える位置に達する(図31(7))。このとき、外カム56の縦壁による規制が解除されるが、回転子40の内カム45は、中カム75の縦溝75bの縦壁の先端に当接することによって回転が規制されている。また、外カム56の第2カム突起55のカム斜面は、回転子40の内カム45のカム斜面と当接する。
この状態からさらにクリップ部22の押圧を続けると、回転子40の内カム45は、前進して中カム75の縦溝75bの縦壁を越える位置に達する(図31(8))。このとき、縦溝75bの縦壁による規制が解除されるため、カム面32及びカム受け面44の山部の位相のずれを無くすように、回転子40が図において右方向へ僅かに回転する(図31(9))。次いで、押圧を解除すると、すなわちノック操作を完了させると、回転子40の内カム45のカム斜面が、第1スプリング6の付勢力によって、中カム75のカム斜面に押圧される。それによって、回転子40の内カム45は、中カム75のカム斜面に沿って滑り、中カム75の縦溝75a内を後方へ移動する(図31(10))。すなわち、回転子40の内カム45は、中カム75及び外カム56との係合が解除され、回転子が回転した後に後方へ移動することによって、リフィル5は非筆記位置に移動する(図31(1))。
図32は、非筆記状態の図1の筆記具1の第2ノック操作を説明する模式図である。図30(1)に示されるように、筆記具1の非筆記状態から、クリップ部材20のクリップ部22を押圧すると、カムリング50と共に回転子40も前進する。すなわち、中カム75に対して、回転子40の内カム45及びカムリング50の外カム56が、図32に示されるように同時に前進する。次いで、押圧を解除すると、クリップ部材20は元の位置に復帰し、図30(2)に示される状態となり、最終的に図30(4)に示されるように、リフィル5が筆記位置を維持する。
本発明によれば、後軸3の中カム75、回転子40の内カム45及びカムリング50の外カム56が協働して、リフィル5の筆記位置と筆記位置とを切り替えることが可能となる。すなわち、リフィル5としてシャープペンシル及びシャープペンシル以外を択一的に使用可能なノック式筆記具において、シャープペンシル及びシャープペンシル以外の出没並びにシャープペンシルの筆記芯の繰り出しが可能なノック式筆記具を提供することが可能となる。リフィル5としてシャープペンシルを使用する場合でもシャープペンシル以外を使用する場合でも、筆記位置から非筆記位置への切り替えは、第1操作部材60及び第2操作部材の両方で行うことができる。他方、リフィル5としてシャープペンシルを使用する場合でもシャープペンシル以外を使用する場合でも、非筆記位置から筆記位置への切り替えは、第2操作部材で行うことができる。また、リフィル5としてシャープペンシル以外を使用する場合は、非筆記位置から筆記位置への切り替えは、第1操作部材60でも行うことができる。さらに、リフィル5としてシャープペンシルを使用する場合、筆記芯の繰り出しは第1操作部材60で行うことができる。したがって、シャープペンシルにおける筆記芯の繰り出しと、シャープペンシル及びシャープペンシル以外のいずれのリフィル5の筆記位置及び非筆記位置の切り替えを間違えることが無い。
上述した実施形態では、第1操作部材は軸筒4の後端部に設けられていたが、後端部意外に設けてもよい。また、第2操作部材はクリップ部材20の一部として軸筒4の側面に設けられていたが、側面以外に設けてもよい。さらに、カムリング50の外カム56は、後軸3の中カム75と協働して、回転子40の内カム45の回転方向の移動を規制する限り、任意の構成を採用してもよい。また、後軸3の中カム75は、カムリング50の外カム56と協働して、回転子40の内カム45の後方への移動及び回転方向の移動を規制する限り、任意の構成を採用してもよい。また、筆記具1について、リフィル5としてシャープペンシルを収容することを想定していない場合は、カムリング50を筆記具1に備えず、カムリング50に形成された外カム56を、後軸本体70に一体に形成してもよい。
第1操作部材60は、筆記具1による筆跡を消去するための消去部材として構成してもよい。また、上述した実施形態におけるリフィル5は、熱変色性インクを収容してもよい。この場合、筆記具1は熱変色性筆記具であり、消去部材としての第1操作部材60は摩擦体であり、摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、筆記具1の筆跡を熱変色可能である。なお、リフィル5として、熱変色インクを収容したボールペン、熱変色芯を収容したシャープペンシル、鉛筆ホルダ等を使用することもできる。また、消しゴムで消去可能な消しゴム消去式インクを収容した筆記具としてもよい。
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば−5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた筆記具1では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して摩擦体としての第1操作部材60によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
また、消しゴムで消去可能な消しゴム消去式インクを収容した筆記具とする場合における消しゴム消去性インクは、水と、平均粒子径2〜20μmであり、かつ、非熱可塑性である着色樹脂粒子をインク組成物全量に対して5〜30重量%と、ガラス転移点が0℃未満である非着色粒子とを少なくとも含有することを特徴とするものである。なお、本発明で規定する「平均粒子径」は、粒度分布測定装置〔マイクロトラックHRA9320−X100(日機装社製)〕にて、平均粒子径を測定した値である。本発明に用いる着色樹脂粒子は、着色された樹脂粒子からなるものであり、非熱可塑性であり、かつ、平均粒子径が2〜20μmとなる着色樹脂微粒子であることが必要である。本発明に用いる着色樹脂粒子としては、例えば、樹脂粒子中に顔料からなる着色剤が分散された着色樹脂粒子、樹脂粒子の表面が顔料からなる着色剤で被覆された着色樹脂粒子、樹脂粒子に染料からなる着色剤が染着された着色樹脂粒子などが挙げられる。本発明では、着色樹脂粒子が非熱可塑性で上記平均粒子径を充足するものであれば、その構造〔中空構造あり、中空構造なし(密実)〕、形状(球状、多角形状、扁平状、繊維状)等は特に限定されるものでないが、好ましくは、優れた消去性、筆記性、インクとしての経時安定性を発揮せしめる点から、ガラス転移点が150℃以上で熱分解温度に近く、さらにはメルトフローインデックス値が0.1未満であるような分子内架橋を持つ粒子で粘着性を有せず、かつ、平均粒子径が3〜15μmとなる球状の着色樹脂微粒子の使用が好適である。また、着色樹脂粒子の平均粒子径が2μm未満であると、紙繊維の空隙に入り込みやすくなり消去性が低下してしまうこととなり、好ましくない。また、着色樹脂粒子の平均粒子径が20μmを越えるものであると、消去性は向上することとなるが、インクとしての濃度が薄くなること、着色樹脂粒子が沈殿しやすくなり、経時的安定性が損なわれること、筆記時の感触が悪くなることなどの不具合が生じることとなり、好ましくない。この着色樹脂粒子の平均粒子径を2〜20μmとし、かつ、非熱可塑性のものを用いることにより、初めて、紙の繊維の深部まで入り込むことなく、紙表面付近に留まり、消去具によって容易に除去することができることとなる。
消去部材又は摩擦体としての第1操作部材60を形成する材料として、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等の熱硬化性ゴムやスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといったゴム弾性材料、2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物、市販されている消しゴム等が挙げられる。第1操作部材60は、熱変色筆記具とする場合は、JIS K7204に規定された摩耗試験(ASTM D1044)の荷重9.8N、1000rpm環境下において、テーバー摩耗試験機の摩耗輪CS−17でのテーバー摩耗量が10mg以上であり、JIS K6203に規定されたデュロメータD硬度が30以上であることが、紙面等を傷めず安定した消去とすることができ好適である。
なお、ここでいう「消去」とは、上記熱変色性インクを用いた場合以外にも、筆記した描線、文字等を消しゴム等の消去部で吸着又は削ぎ落とすことをいう。さらに、第1操作部材60を消去部材の代わりに、感圧式タッチペンや軸筒等に電導性を付与して静電容量式タッチペンとして使用可能なように構成してもよい。したがって、本発明は、筆記した描線を、消去部材を用いて消去する任意の筆記具にも適用可能である。