JP6607050B2 - レーザ・アークハイブリッド溶接方法 - Google Patents

レーザ・アークハイブリッド溶接方法 Download PDF

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本発明は、レーザ溶接とアーク溶接とを組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接方法に関するものである。
従来、下記特許文献1に開示されるように、T継手で接合するに際し、レーザ溶接とアーク溶接との複合溶接(レーザ・アークハイブリッド溶接)を用いることが知られている。具体的には、特許文献1に記載の発明では、下板(フランジ1)に上板(リブ2)を垂直に立てた状態で、上板の下端部をレーザ・アークハイブリッド溶接にて下板に接合している。その際、上板の下端部には、予め開先部(A)を形成しておき、その開先部の垂直平坦部(4)にレーザ光(3)を照射すると共に、開先部へ向けてアーク溶接を施している。なお、溶接時、レーザ溶接をアーク溶接に先行させてもよいし、アーク溶接をレーザ溶接に先行させてもよい(段落0035)。
特開2013−6203号公報(請求項1、段落0021−0048、図1−図3)
しかしながら、従来技術では、開先部の形成が必須であった。また、レーザ溶接とアーク溶接とをそれぞれ一回ずつ施すだけなので、開先部がなければ、厚板については、次のような不都合もあった。
すなわち、まず、レーザ溶接をアーク溶接に先行して行う場合、開先部を形成しておかなければ、溶込み深さ(上板の厚さ方向の溶接深さ)が足りず、完全溶込み溶接ができなかった。また、それに伴い、つまり溶接が上板の裏側にまで貫通しないことに伴い、溶接時に気泡が抜けにくく、ポロシティが生じやすかった。
一方、アーク溶接をレーザ溶接に先行して行う場合、溶接の姿勢や狙い位置によっては、やはり開先部を形成しておかなければ、溶込み深さが足りず、完全溶込み溶接ができなかった。また、アーク溶接を先行させてしまうと、表側のビードが不十分な状態となりやすく、表側のフィレットを適正に形成できなかった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、簡易な方法で、T継手の片側からの完全溶込み溶接を適正に実施できるレーザ・アークハイブリッド溶接方法を提供することにある。その際、好ましくは、開先部を形成することなく溶接可能とすることを課題とする。
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、T継手の片側からの完全溶込み溶接方法であって、先行側から順に、先行アーク溶接、レーザ溶接および後行アーク溶接を行い、前記先行アーク溶接は、消耗電極式のアーク溶接であり、溶接トーチを溶接進行方向と逆向き且つ下方へ向けた後進法で行い、前記レーザ溶接は、レーザ光を溶接進行方向且つ下方へ向けると共に、前記先行アーク溶接による溶融池の窪みへ向けて行い、前記後行アーク溶接は、消耗電極式のアーク溶接であり、溶接トーチを溶接進行方向且つ下方へ向けた前進法で行うことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接方法である。
請求項1に記載の発明によれば、最先の溶接としてアーク溶接を行うので、この先行アーク溶接の溶接進行方向には障害物がなく、先行アーク溶接の溶接トーチを後退角に保持(つまり溶接トーチの基端部を溶接進行方向へ傾けて保持)しやすい。そして、先行アーク溶接を後進法で行うので、埋もれアークを生じさせて、前進法と比較して、溶込みを深くする(つまり溶融池の窪みを深くする)ことができる。
後続のレーザ溶接は、先行アーク溶接による溶融池の窪みへ向けてレーザ光を照射して行うので、溶込み深さを確保して、完全溶込み溶接を実現することができる。そのため、裏ビードを適正に形成することができると共に、裏側に気泡を逃がしてポロシティの発生を防止することもできる。また、深溶込みを実現できるから、開先の形成は必須ではない。なお、レーザ光を真上から照射しないので、レーザ発振器の側へのレーザ光の跳ね返りを防止することもできる。
最後に、後行アーク溶接を前進法で行うので、余盛を確保して、表ビードを適正に形成することができる。なお、溶接進行方向と逆側に障害物がないので、後行アーク溶接の溶接トーチを前進角に保持(つまり溶接トーチの基端部を溶接進行方向と逆側へ傾けて保持)しやすい。
請求項2に記載の発明は、下板に上板を立てた状態で上板の片側から溶接する方法であって、前記先行アーク溶接および前記レーザ溶接の各狙い位置は、前記上板の下端縁よりも上方とする一方、前記後行アーク溶接の狙い位置は、前記先行アーク溶接および前記レーザ溶接の各狙い位置よりも下方とすることを特徴とする請求項1に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法である。
請求項2に記載の発明によれば、先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置を、上板の下端縁よりも上方とすることで、斜め下方へ向けて行われる各溶接の溶込み深さ(上板の厚さ方向の溶接深さ)を確保して、完全溶込み溶接を一層実現しやすい。一方、後行アーク溶接の狙い位置を、先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置よりも下方とすることで、表ビードを適正に形成しやすい。
請求項3に記載の発明は、前記下板の上面を基準とした前記各溶接の狙い位置の高さについて、前記先行アーク溶接の狙い位置の高さと、前記レーザ溶接の狙い位置の高さとを、同一としたことを特徴とする請求項2に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法である.
請求項3に記載の発明によれば、先行アーク溶接の狙い位置の高さと、レーザ溶接の狙い位置の高さとを、同一とすることで、先行アーク溶接による溶融池の窪みの深い箇所へレーザ光を照射でき、溶込み深さを確保して、完全溶込み溶接を一層実現しやすい。
請求項4に記載の発明は、溶接進行方向と直交する断面において、前記先行アーク溶接の溶接トーチの水平面に対する傾斜角度は、前記後行アーク溶接の溶接トーチの水平面に対する傾斜角度よりも小さくしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法である。
請求項4に記載の発明によれば、先行アーク溶接では、溶接トーチを比較的寝かせた状態とすることで、溶込み深さ(上板の厚さ方向の溶接深さ)を確保して、完全溶込み溶接を実現しやすい。一方、後行アーク溶接では、溶接トーチを比較的起こした状態とすることで、表ビードを適正に形成しやすい。
請求項5に記載の発明は、前記レーザ溶接は、レーザ光の焦点を母材の表面よりも内側に合わせて行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法である。
請求項5に記載の発明によれば、母材にレーザ光を貫通させて、完全溶込み溶接を実現しやすい。すなわち、前提として、前述したとおり、先行アーク溶接を後進法で行うことで、埋もれアークを生じさせて、溶融池が窪んでいる。従って、レーザ光の焦点を母材の表面よりも内側に合わせることで、凹んだ溶融池の表面に焦点を近づけることができ、溶込み深さを深くすることができる。このようにしてレーザ光の裏抜けを支援することで、その分だけレーザ発振器の出力を小さくすることができる。従って、レーザ・アークハイブリッド溶接の設備費用および運転費用を低減することができる。
さらに、請求項6に記載の発明は、前記レーザ溶接は、レーザ光の焦点を母材の表面よりも外側に合わせて行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法である。
請求項6に記載の発明によれば、レーザ光の焦点を母材の表面よりも外側に合わせることで、母材に当てるビーム幅(母材表面におけるビーム径(スポット径))を大きくすることができる。これにより、ギャップ裕度(たとえば下板に上板を立てて溶接する場合における下板と上板との当接部の隙間の許容度)が広がる。従って、母材の前加工や前組みの精度に余裕が生じ、治具の製造コストを低減することができる。
本発明のレーザ・アークハイブリッド溶接方法によれば、簡易な方法で、T継手の片側からの完全溶込み溶接を適正に実施することができる。また、開先部を形成することなく溶接することも可能となる。
本発明の一実施例のレーザ・アークハイブリッド溶接方法の使用状態を示す概略正面図である。 図1の概略右側面図である。 図1中、先行アーク溶接とレーザ溶接とによる溶接部を示す概略断面図である。
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1および図2は、本発明の一実施例のレーザ・アークハイブリッド溶接方法の使用状態を示す概略図であり、図1は正面図、図2は右側面図である。
本実施例のレーザ・アークハイブリッド溶接方法は、レーザ溶接とアーク溶接とを組み合わせた複合溶接方法であり、特に、T継手の片側からの完全溶込み溶接を実現するために用いられる。また、好ましくは、全自動の1パスでの溶接方法である。つまり、自動溶接機において、1パスで、後述する各溶接(先行アーク溶接、レーザ溶接および後行アーク溶接)を実行するのがよい。たとえば、被溶接物(母材)の溶接方向にモータにより進退可能に走行材を設け、その走行材に、各アーク溶接用のトーチや、レーザ溶接用の機器を設置して、走行材の一度の一方向への走行で、レーザ・アークハイブリッド溶接を実行するのがよい。但し、場合により、これとは逆に、各アーク溶接用の溶接トーチや、レーザ溶接用の機器を固定しておき、被溶接物を走行させてもよい。
本実施例のレーザ・アークハイブリッド溶接方法は、前述したとおり、二つの部材をT継手で接合するのに用いられる。好ましくは、図示例のように、下板1に上板2を立てた状態で、上板2の片側から溶接するのに用いられる。図示例の場合、下板1および上板2は、それぞれ、略矩形の板材であり、図1において左右方向へ沿って配置されている。また、水平に配置された下板1の上面に、上板2が垂直に立てられて配置されている。そして、上板2の下端部に沿って、下板1に上板2を溶接するのに、レーザ・アークハイブリッド溶接方法が用いられる。
上板2および下板1は、典型的には鉄鋼材料(たとえばSS400)から形成されている。また、上板2の下端面は、たとえば切り出した切断面のままでもよいし、所定の平滑面に前処理されていてもよい。同様に、上板2および下板1の表面は、酸化皮膜(黒皮)を残したままでもよいし、所定の平滑面に前処理されていてもよい。
上板2は、厚板であってもよい。また、下板1も、厚板であってもよい。厚板とは、ここでは、6mm以上の厚さを有する板であり、本実施例の溶接方法によれば、少なくとも上板2について、9mm以上の厚板、たとえば、12mm以上20mm以下の厚板(好ましくは14mm以上18mm以下の厚板)にも適用できる。図示例では、下板1の厚さが12mm、上板の厚さが16mmとされている。なお、図2において、下板1の幅寸法(左右方向寸法)Wは60mm、上板2の高さ寸法(上下方向寸法)Wは40mmとされている。また、上板2は、下板1の幅方向中央部よりもやや片側へ寄った位置に配置されている。但し、これら寸法や配置は、一例であって、適宜変更可能なことは言うまでもない。
詳細は後述するが、本実施例のレーザ・アークハイブリッド溶接方法によれば、溶込み深さを深くして溶接できるので、溶接部に予め開先部を形成しておくことは必須ではない。図示例でも、上板2の下端部は、開先部を形成することなく、下板1に溶接される例を示している。
本実施例のレーザ・アークハイブリッド溶接方法では、先行側から順に、先行アーク溶接、レーザ溶接および後行アーク溶接を行う。図1において、白抜き矢印は溶接進行方向を示すが、溶接進行方向の前方から後方へ向けて順に、先行アーク溶接、レーザ溶接および後行アーク溶接を行う。
先行アーク溶接および後行アーク溶接は、消耗電極式のアーク溶接である。特に、溶接部にシールドガスを供給しつつ、且つ溶加材としてのワイヤを供給しつつ溶接するマグ溶接が用いられるが、場合によりミグ溶接が用いられてもよい。本実施例では、炭酸ガスアーク溶接が用いられる。つまり、溶接トーチA1,A2から炭酸ガスを噴出させつつ、また溶接トーチA1,A2先端へ送給されるワイヤを溶かしつつアーク溶接が図られる。なお、後述するように、先行アーク溶接の溶融池の窪みR(図3)へ向けてレーザ溶接を行うので、先行アーク溶接のシールドガス(たとえば炭酸ガス)は、レーザ溶接のシールドガスとしても機能し得る。そのため、レーザ溶接用に別途シールドガスを用意する必要はない。
先行アーク溶接は、溶接トーチA1の先端を溶接進行方向と逆向き且つ下方へ向けた後進法で行う。つまり、図1に示す正面視において、先行アーク溶接の溶接トーチA1は、基端部(上端部)が鉛直線に対し設定角度αA1だけ溶接進行方向へ傾斜して保持される。最先の溶接としてアーク溶接を行うので、この先行アーク溶接の溶接進行方向には障害物がなく、先行アーク溶接の溶接トーチA1を後退角に保持(つまり溶接トーチA1の基端部を溶接進行方向へ傾けて保持)しやすい。
レーザ溶接は、レーザ光Lを、溶接進行方向且つ下方へ向けると共に、先行アーク溶接による溶融池の窪みRへ向けて照射する。つまり、図1に示す正面視において、母材(上板2および下板1)へ出射されたレーザ光Lの光軸は、基端部(上端部)が鉛直線に対し設定角度αだけ溶接進行方向とは逆側へ傾斜している。
後行アーク溶接は、溶接トーチA2の先端を溶接進行方向且つ下方へ向けた前進法で行う。つまり、図1に示す正面視において、後行アーク溶接の溶接トーチA2は、基端部(上端部)が鉛直線に対し設定角度αA2だけ溶接進行方向とは逆側へ傾斜して保持される。最後尾の溶接としてアーク溶接を行うので、この後行アーク溶接の溶接進行方向と逆側には障害物がなく、後行アーク溶接の溶接トーチA2を前進角に保持(つまり溶接トーチA2の基端部を溶接進行方向と逆側へ傾けて保持)しやすい。
なお、図1の正面視において、母材表面上における先行アーク溶接の中心線(溶接トーチA1からのワイヤの軸線)とレーザ溶接のレーザ光Lの軸線との離隔距離dは、前述した各設定角度(先行アーク溶接およびレーザ溶接の各傾斜角度)αA1,αなどと共に調整されて、先行アーク溶接の溶融池の窪みRにレーザ光Lが照射されるように調整される。一方、母材表面上におけるレーザ溶接のレーザ光Lの軸線と後行アーク溶接の中心線(溶接トーチA2からのワイヤの軸線)との離隔距離dは、適宜に設定されるが、あまりに大きくとると、その分だけ溶接設備が大掛かりになる(1パスの走行距離を大きくとれない)ことを考慮して、レーザ光Lと干渉しない範囲で小さい方が好ましい。
図3は、先行アーク溶接とレーザ溶接とによる溶接部を示す概略断面図である。この図に示すように、先行アーク溶接を後進法で行うので、埋もれアークを生じさせて、前進法と比較して、溶込みを深くする(つまり溶融池の窪みRを深くする)ことができる。そして、後続のレーザ溶接は、先行アーク溶接による溶融池の窪みRへ向けてレーザ光Lを照射して行うので、溶込み深さを確保して、完全溶込み溶接を実現することができる。
より具体的に説明すると、先行アーク溶接を後進法で行うと、溶融池の前端部(溶接進行方向の端部)には略半球状の窪みRが生じ、その窪みRへ向けて(好ましくは窪みRの深い箇所へ向けて)レーザ光Lを照射して複合溶接する。これにより、溶込み深さを確保して、完全溶込み溶接を実現することができる。そのため、裏ビードを適正に形成することができると共に、裏側に気泡を逃がしてポロシティの発生を防止することもできる。また、深溶込みを実現できるから、開先の形成は必須ではない。なお、レーザ光Lを真上から照射しないので、レーザ発振器の側へのレーザ光Lの跳ね返りを防止することもできる。
一方、後行アーク溶接を前進法で行うので、表側のビードに余盛を確保して、表ビードを適正に形成することができる。このようにして、図2において二点鎖線で示すように、上板2の厚さ方向に貫通した完全溶込み溶接を実現することができる。
ところで、先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置(母材表面上における先行アーク溶接の中心線やレーザ溶接のレーザ光の軸線が当たる位置)は、上板2の下端縁よりも上方とする一方、後行アーク溶接の狙い位置(母材表面上における後行アーク溶接の中心線が当たる位置)は、先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置よりも下方とするのがよい。言い換えれば、図2において、下板1の上面を基準とした各溶接の狙い位置の高さについて、先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置は、後行アーク溶接の狙い位置よりも上方とするのがよい。その際、先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置は、上板2の板面(レーザ照射側の面)とされるが、後行アーク溶接の狙い位置は、上板2の板面に限らず、上板2と下板1との角(上板2の下端縁)や、その角よりも図2において左側における下板1の板面であってもよい。たとえば、先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置は、下板1の上面から1〜1.5mm上方の上板2の板面とする一方、後行アーク溶接の狙い位置は、前記角またはそこから1mm程度水平方向(図2において左側)へ離隔した下板1の板面とすることができる。
先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置を、上板2の下端縁よりも上方とすることで、斜め下方へ向けて行われる各溶接の溶込み深さ(上板2の厚さ方向の溶接深さ)を確保して、完全溶込み溶接を一層実現しやすい。一方、後行アーク溶接の狙い位置を、先行アーク溶接およびレーザ溶接の各狙い位置よりも下方とすることで、表ビードを適正に形成しやすい。
ここで、先行アーク溶接の狙い位置の高さは、レーザ溶接の狙い位置の高さと異なってもよいが、同一とするのが好ましい。すなわち、図2に示すように、下板1の上面を基準とした各溶接の狙い位置の高さについて、先行アーク溶接の狙い位置の高さと、レーザ溶接の狙い位置の高さとを同一とするのが好ましい。これにより、先行アーク溶接による溶融池の窪みRの深い箇所へレーザ光Lを照射でき、溶込み深さを確保して、完全溶込み溶接を一層実現しやすい。つまり、図3において述べた現象を、溶接進行方向に沿った断面で生じさせると共に、溶接進行方向と直交する断面でも生じさせることができ、深溶込みを実現させることができる。
また、溶込み深さに関連して、溶接トーチA1,A2の傾斜角度βを調整するのもよい。すなわち、溶接進行方向と直交する断面(図2)において、先行アーク溶接の溶接トーチA1の水平面に対する傾斜角度βA1は、後行アーク溶接の溶接トーチA2の水平面に対する傾斜角度βA2よりも小さくするのがよい。たとえば、後行アーク溶接の溶接トーチA2の水平面に対する傾斜角度βA2は、T継手に関する一般的なアーク溶接と同様に、40度以上60度以下の範囲で設定するが、先行アーク溶接の溶接トーチA1の水平面に対する傾斜角度βA1は、40度未満(好ましくは30度未満)の範囲で設定され、たとえば25度程度とされる。
先行アーク溶接では、溶接トーチA1を比較的寝かせた状態とすることで、溶込み深さ(上板2の厚さ方向の溶接深さ)を確保して、完全溶込み溶接を実現しやすい。一方、後行アーク溶接では、溶接トーチA2を比較的起こした状態とすることで、表ビードを適正に形成しやすい。先行アーク溶接およびレーザ溶接においては、各溶接の狙い位置(下板1上面からの高さ)と水平面に対する傾斜角度βA1,βとを調整することで、上板2の厚さ方向への溶込みと、下板1への溶込みとを調整することができる。
ところで、レーザ溶接のレーザ光Lの焦点位置は、母材の表面に限らず、母材の表面よりも内側に合わせたり(インフォーカス)、母材の表面よりも外側に合わせたり(アウトフォーカス)してもよい。つまり、レーザ光Lの焦点位置は、母材表面でもよいし、母材内でもよいし、母材外でもよい。
インフォーカスで照射した場合、母材にレーザ光を貫通させて、完全溶込み溶接を実現しやすい。すなわち、前提として、前述したとおり、先行アーク溶接を後進法で行うことで、埋もれアークを生じさせて、溶融池が窪んでいる。従って、レーザ光Lの焦点を母材の表面よりも内側に合わせることで、凹んだ溶融池の表面に焦点を近づけることができ、溶込み深さを深くすることができる。このようにしてレーザ光Lの裏抜けを支援することで、その分だけレーザ発振器の出力を小さくすることができる。従って、レーザ・アークハイブリッド溶接の設備費用および運転費用を低減することができる。
アウトフォーカスで照射した場合、母材に当てるビーム幅(母材表面におけるビーム径(スポット径))を大きくすることができる。これにより、ギャップ裕度(たとえば下板1に上板2を立てて溶接する場合における下板1と上板2との当接部の隙間の許容度)が広がる。従って、母材の前加工や前組みの精度に余裕が生じ、治具の製造コストを低減することができる。
本発明のレーザ・アークハイブリッド溶接方法は、前記実施例に限らず適宜変更可能である。特に、T継手の片側からの完全溶込み溶接方法であって、先行側から順に、先行アーク溶接、レーザ溶接および後行アーク溶接を行い、先行アーク溶接は消耗電極式のアーク溶接を後進法で行い、レーザ溶接はレーザ光を先行アーク溶接による溶融池の窪みへ向けて行い、後行アーク溶接は消耗電極式のアーク溶接を前進法で行うのであれば、その他は適宜に変更可能である。
たとえば、前記実施例では、被溶接材としての上板2および下板1は、図1において左右方向へ延出する直線状とされたが、曲線状とされてもよい。一例として、円環状の板材に、円筒材を同心に載せて、円筒材の下端部を円環状の板材に溶接するのに用いてもよい。
1 下板
2 上板
A1 先行アーク溶接の溶接トーチ
A2 後行アーク溶接の溶接トーチ
L レーザ溶接のレーザ光
R 溶融池の窪み

Claims (6)

  1. T継手の片側からの完全溶込み溶接方法であって、
    先行側から順に、先行アーク溶接、レーザ溶接および後行アーク溶接を行い、
    前記先行アーク溶接は、消耗電極式のアーク溶接であり、溶接トーチを溶接進行方向と逆向き且つ下方へ向けた後進法で行い、
    前記レーザ溶接は、レーザ光を溶接進行方向且つ下方へ向けると共に、前記先行アーク溶接による溶融池の窪みへ向けて行い、
    前記後行アーク溶接は、消耗電極式のアーク溶接であり、溶接トーチを溶接進行方向且つ下方へ向けた前進法で行う
    ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
  2. 下板に上板を立てた状態で上板の片側から溶接する方法であって、
    前記先行アーク溶接および前記レーザ溶接の各狙い位置は、前記上板の下端縁よりも上方とする一方、前記後行アーク溶接の狙い位置は、前記先行アーク溶接および前記レーザ溶接の各狙い位置よりも下方とする
    ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
  3. 前記下板の上面を基準とした前記各溶接の狙い位置の高さについて、
    前記先行アーク溶接の狙い位置の高さと、前記レーザ溶接の狙い位置の高さとを、同一とした
    ことを特徴とする請求項2に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
  4. 溶接進行方向と直交する断面において、前記先行アーク溶接の溶接トーチの水平面に対する傾斜角度は、前記後行アーク溶接の溶接トーチの水平面に対する傾斜角度よりも小さくした
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
  5. 前記レーザ溶接は、レーザ光の焦点を母材の表面よりも内側に合わせて行う
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
  6. 前記レーザ溶接は、レーザ光の焦点を母材の表面よりも外側に合わせて行う
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
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