JP6604163B2 - 空気入りタイヤの評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、空気入りタイヤの評価方法に関する。詳細には、本発明は、空気入りタイヤの摩耗性能の評価方法に関する。
走行により、タイヤのトレッドは摩耗する。摩耗により、トレッドの立体形状は変化する。この変化は、タイヤの走行性能に影響する。このような摩耗として、クラウン摩耗、ショルダー摩耗及びヒールアンドトウ摩耗が例示される。タイヤのクラウン部がショルダー部に比して早期に摩耗していくことが、クラウン摩耗である。ショルダー部がクラウン部に比して早期に摩耗していくことが、ショルダー摩耗である。トレッドパターンの一部をなすブロックにおいて、路面に先に接触する先着側よりも、この路面に後に接触する後着側が早期に摩耗していくことが、ヒールアンドトウ摩耗である。
旋回時に外側に位置するショルダー部では、接地圧が高く、接地長が長くなる傾向にある。このショルダー部では、ショルダー摩耗が生じやすい。ネガティブキャンバーでタイヤを車輌に装着した場合には、車輌の幅方向内側に位置するショルダー部において、接地圧が高く、接地長が長くなる傾向にあり、このショルダー部においてショルダー摩耗が生じやすい。さらにこの場合、後輪に装着されたタイヤでは、前輪に装着されたタイヤに比べて、荷重が小さく、制動力が作用しやすい状態にあるため、車輌の幅方向内側に位置するショルダー部において、ビールアンドトウ摩耗が生じやすい。またタイヤの接地形状が丸みを帯びている場合には、クラウン部とショルダー部との外径差による接触面のすべりが大きい。このため、この場合、制動時にはショルダー摩耗が生じ、駆動時にはクラウン摩耗が生じやすい。
タイヤの摩耗性能の向上を図るには、摩耗状態の把握が必要である。摩耗状態の把握のために、タイヤを走行させて、摩耗量や摩耗エネルギー等を計測し、摩耗性能を評価することがある。コンピュータを用いて仮想実験を行い、タイヤの摩耗性能を評価することもある。いずれの評価もタイヤの摩耗状態の把握には有効ではあるが、コストだけでなく時間がかかり実用性にかける。
タイヤの接地形状の把握は、容易である。この接地形状は、摩耗性能に影響する。摩耗性能の向上のために、接地形状の適正化について検討が行われている。この検討の一例が、特開平09−309301号公報に開示されている。
特開平09−309301号公報
摩耗によりトレッドの立体形状は変化するため、タイヤの接地形状は刻々と変化していく。接地形状により把握できる摩耗状態は、この接地形状を把握した時点の摩耗状態にすぎない。新品タイヤの接地形状から把握できる摩耗性能から、摩耗がある程度進んだタイヤの摩耗性能を予測することは難しい。この評価方法は、簡便に摩耗性能の把握ができ実用的ではあるが、評価結果の有効性に欠ける。
実用的でしかも有効な評価結果の得られる、タイヤの摩耗性能の評価方法の確立には至っていないのが現状である。
本発明の目的は、実用的でしかも有効な、空気入りタイヤの摩耗性能の評価方法の提供にある。本発明の他の目的は、摩耗性能に優れる空気入りタイヤの提供にある。
本発明に係る評価方法は、トレッド、一対のサイドウォール及びカーカスを備えており、一方の第一サイドウォール及び他方の第二サイドウォールのそれぞれが上記トレッドの端から半径方向略内向きに延びており、上記カーカスが上記第一サイドウォール、上記トレッド及び上記第二サイドウォールの内側に沿って延在している、空気入りタイヤを評価するための方法である。この評価方法は、
(1)このタイヤをリムに組み込み、このタイヤが内圧Pを有するようにこのタイヤの内部に空気を充填した状態において、このタイヤの周方向に対して垂直な、このタイヤの断面を得る工程、
(2)上記断面における上記カーカスの輪郭を特定する工程、
(3)上記輪郭をこのタイヤの回転軸を中心に回転させて、上記カーカスの立体形状を特定する工程、
(4)このタイヤの赤道面及びこのタイヤの半径方向に対して垂直な第一仮想平面に対して傾斜して延在する第二仮想平面で上記立体形状を切断し、切り口を得る工程、
(5)上記赤道面と上記切り口との交線を線分CLとし、この線分CLでこの切り口を第一切り口及び第二切り口に分割し、上記線分CLよりも上記第一サイドウォールの側の第一切り口と上記赤道面に平行な第三仮想平面との交線を線分ALとし、上記線分CLよりも上記第二サイドウォールの側の第二切り口と上記赤道面に平行な第四仮想平面との交線を線分BLとし、上記線分CLの長さLc、上記線分ALの長さLa及び上記線分BLの長さLbを得て、上記切り口の形状を特定する工程
及び
(6)上記長さLcに対する上記長さLaの比(La/Lc)に関する下記の基準(1)、及び、上記長さLcに対する上記長さLbの比(Lb/Lc)に関する下記の基準(2)に基づいて、このタイヤの摩耗性能を判定する工程
を含む。
基準(1) 上記比(La/Lc)が0.70以上0.73以下であること
基準(2) 上記比(Lb/Lc)が0.83以上0.88以下であること
この評価方法では、上記切り口を得る工程において、上記第一仮想平面上の各位置から上記第二仮想平面までの半径方向距離は、上記トレッドの第一端からその第二端に向かう方向に、漸増している。上記切り口は、このタイヤに掛けられる荷重Wを上記内圧Pで除して得られる仮想接地面積と等しい面積を有している。
この評価方法では、上記切り口の形状を特定する工程において、上記線分CLから上記線分ALまでの距離は、上記第一切り口の最大幅の3/4である。上記線分CLから上記線分BLまでの距離は、上記第二切り口の最大幅の3/4である。
好ましくは、この空気入りタイヤの評価方法では、このタイヤはベルトをさらに備えている。上記ベルトは、上記トレッドの半径方向内側において上記カーカスと積層されている。上記ベルトは、第一層及び第二層を備えている。上記第一層の幅は、上記第二層の幅よりも大きい。上記第二層の幅の半分は、上記第二切り口の最大幅と同じか、この第二切り口の最大幅よりも大きい。
好ましくは、この空気入りタイヤの評価方法では、上記第二層の幅の半分と上記第二切り口の最大幅との差は4mm以下である。
好ましくは、この空気入りタイヤの評価方法では、上記第二層の端から上記第一層の端までの長さは6mm以上9mm以下である。
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド、一対のサイドウォール及びカーカスを備えている。それぞれのサイドウォールは、上記トレッドの端から半径方向略内向きに延びている。上記カーカスは、一方の上記サイドウォール、上記トレッド及び他方の上記サイドウォールの内側に沿って延在している。このタイヤをリムに組み込み、このタイヤが内圧Pを有するようにこのタイヤの内部に空気を充填した状態において、上記カーカスの、このタイヤの赤道面及びこのタイヤの半径方向に対して垂直な第一仮想平面に対して傾斜して延在する第二仮想平面による切り口は、このタイヤに掛けられる荷重Wを上記内圧Pで除して得られる仮想接地面積と等しい面積を有している。上記第一仮想平面上の各位置から上記第二仮想平面までの半径方向距離は、上記トレッドの第一端からその第二端に向かう方向に漸増している。上記赤道面と上記切り口との交線を線分CLとし、この線分CLでこの切り口を第一切り口及び第二切り口に分割し、上記線分CLよりも上記第一サイドウォールの側の第一切り口と上記赤道面に平行な第三仮想平面との交線を線分ALとし、上記線分CLよりも上記第二サイドウォールの側の第二切り口と上記赤道面に平行な第四仮想平面との交線を線分BLとしたとき、上記線分CLから上記線分ALまでの距離は、上記第一切り口の最大幅の3/4である。上記線分CLから上記線分BLまでの距離は、上記第二切り口の最大幅の3/4である。上記線分CLの長さLcに対する上記線分ALの長さLaの比(La/Lc)は、0.70以上0.73以下である。上記長さLcに対する上記線分BLの長さLbの比(Lb/Lc)は、0.83以上0.88以下である。
好ましくは、この空気入りタイヤはベルトをさらに備えている。上記ベルトは、上記トレッドの半径方向内側において上記カーカスと積層されている。上記ベルトは、第一層及び第二層を備えている。上記第一層の幅は、上記第二層の幅よりも大きい。上記第二層の幅の半分は、上記第二切り口の最大幅と同じか、この第二切り口の最大幅よりも大きい。
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記第二層の幅の半分と上記第二切り口の最大幅との差は、4mm以下である。
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記第二層の端から上記第一層の端までの長さは6mm以上9mm以下である。
タイヤの摩耗性能の評価方法の検討において、発明者らは、カーカスの立体形状において、特定の面積を有するように第二仮想平面でこの立体形状を仮想的に切断して得られる切り口の形状が摩耗性能と相関していること、そして、この切り口が特定の形状を有しているときに、タイヤが良好な摩耗性能を示すことを見出した。本発明は、この知見に基づいている。
本発明に係る空気入りタイヤの評価方法では、接地形状ではなく、カーカスの立体形状が評価の対象である。カーカスの立体形状は、タイヤの摩耗の影響は受けにくい上に、この立体形状の把握は容易である。しかもこの評価方法では、前述の知見に基づき、カーカスの立体形状において、特定の面積を有するように第二仮想平面でこの立体形状を仮想的に切断して得られる切り口が特定の形状を有するかどうかで、タイヤの摩耗性能の良否が判定される。この評価方法は実用的であり、しかもこの評価方法によれば摩耗性能に関し有効な評価結果が得られる。本発明によれば、実用的でしかも有効な、空気入りタイヤの摩耗性能の評価方法が得られる。
さらに本発明に係る空気入りタイヤでは、そのカーカスの立体形状において、特定の面積を有するように第二仮想平面でこの立体形状を仮想的に切断して得られる切り口が特定の形状を有している。このカーカスの立体形状は、タイヤの摩耗性能に寄与する。本発明によれば、摩耗性能に優れる空気入りタイヤが得られる。
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。 図2は、図1のタイヤにおけるカーカス及びベルトの輪郭を示す図である。 図3は、図2におけるカーカスの輪郭から得た、このカーカスの立体形状の一部が示された斜視図である。 図4は、図3のIV−IV線に沿った断面図である。 図5は、カーカスの立体形状の第二仮想平面による切り口を示す図である。
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1には、空気入りタイヤ2の一部が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1に示されているのは、このタイヤ2の周方向に対して垂直な、このタイヤ2の断面の一部である。図1において、一点鎖線ELはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
タイヤ2は、リム4に組み込まれている。リム4は、正規リムである。このタイヤ2の内部には、このタイヤ2が内圧Pを有するように空気が充填されている。この内圧Pは、正規内圧である。図1に示されたタイヤ2は、このタイヤ2をリム4に組み込み、このタイヤ2が内圧Pを有するようにこのタイヤ2の内部に空気を充填した状態にある。
本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
本発明では、特に言及のない限り、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。なお、乗用車用タイヤ2の場合には、内圧が180kPaの状態で寸法及び角度を測定することがある。
本明細書において正規荷重とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
図1において、符号PWは、タイヤ2の外面、詳細には、このタイヤ2の側面上の特定の地点を示している。このタイヤ2は、この地点PWにおいて、左右の側面間の軸方向距離で表される幅が最大の幅を示す。この地点PWは、このタイヤ2が最大の軸方向幅を示す、タイヤ2の側面上の地点である。
このタイヤ2は、トレッド6、一対のサイドウォール8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16及びインナーライナー18を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
トレッド6は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド6は、トレッド面20を備えている。タイヤ2は、トレッド面20において路面と触れる。トレッド6には、溝22が刻まれている。この溝22により、トレッドパターンが形成されている。
トレッド6は、キャップ層24とベース層26とを有している。キャップ層24は、ベース層26に積層されている。キャップ層24は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。ベース層26は、キャップ層24の半径方向内側に位置している。ベース層26は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。ベース層26の典型的な基材ゴムは、天然ゴムである。
このタイヤ2では、赤道面の部分はクラウン部Crとも称される。トレッド6の端28の部分は、ショルダー部Shとも称される。クラウン部Crは、左右のショルダー部Shで挟まれている。
それぞれのサイドウォール8は、トレッド6の端28から半径方向略内向きに延びている。サイドウォール8は、カーカス12の軸方向外側に位置している。サイドウォール8は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。サイドウォール8は、カーカス12の損傷を防止する。本発明においては、トレッド6の第一端28a(図示されず)から半径方向略内向きに延びるサイドウォール8a(図示されず)は、第一サイドウォールとも称される。トレッド6の第二端28bから半径方向略内向きに延びるサイドウォール8bは、第二サイドウォールとも称される。
それぞれのビード10は、サイドウォール8よりも半径方向内側に位置している。ビード10は、コア30と、エイペックス32とを備えている。コア30は、ビード10の半径方向内側部分を構成している。コア30はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス32は、コア30から半径方向外向きに延在している。エイペックス32は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス32は、高硬度な架橋ゴムからなる。このエイペックス32は、15mm以上40mm以下の長さを有している。図1に示されているように、このエイペックス32の外側端34は、半径方向において、地点PWよりも内側に位置している。
カーカス12は、カーカスプライ36を備えている。このタイヤ2のカーカス12は、1枚のカーカスプライ36からなる。このカーカス12が2枚以上のカーカスプライ36から形成されてもよい。
このタイヤ2では、カーカスプライ36は、両側のビード10の間に架け渡されている。このカーカスプライ36は、第一サイドウォール8a、トレッド6及び第二サイドウォール8bの内側に沿って延在している。
カーカスプライ36は、それぞれのビード10のコア30の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、このカーカスプライ36には、主部38と一対の折り返し部40とが形成されている。主部38は、一方の第一ビード10aのコア30と他方の第二ビード10bのコア30との間を架け渡している。それぞれの折り返し部40は、コア30から半径方向外向きに延在している。このタイヤ2では、折り返し部40の端42は地点PWよりも半径方向外側に位置している。このタイヤ2のカーカス12は、ハイターンアップ(HTU)構造を有している。この折り返し部40の端42が半径方向においてエイペックス32の外側端34の近くに位置していてもよいし、この折り返し部40の端42がベルト14の端44の近くに位置していてもよい。言い換えれば、このカーカス12がローターンアップ(LTU)構造を有していてもよいし、このカーカス12が超ハイターンアップ(U−HTU)構造を有していてもよい。
図示されていないが、カーカスプライ36は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス12はラジアル構造を有する。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
ベルト14は、トレッド6の半径方向内側に位置している。ベルト14は、カーカス12と積層されている。ベルト14は、カーカス12を補強する。ベルト14は、内側層46及び外側層48の2層からなる。図1から明らかなように、軸方向において、内側層46の幅は外側層48の幅よりも若干大きい。このベルト14が、3以上の層を備えてもよい。
図示されていないが、内側層46及び外側層48のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の一般的な絶対値は、10°以上35°以下である。内側層46のコードの赤道面に対する傾斜方向は、外側層48のコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。コードの好ましい材質は、スチールである。コードに、有機繊維が用いられてもよい。ベルト14の軸方向幅は通常、タイヤ2の最大幅の0.5倍以上0.9倍以下の範囲で設定される。
バンド16は、ベルト14の半径方向外側に位置している。軸方向において、バンド16の幅はベルト14の幅よりも大きい。このバンド16は、ベルト14の全体を覆っている。このバンド16は、フルバンドとも称される。
図示されていないが、バンド16は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド16は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下である。このコードによりベルト14が拘束されるので、ベルト14のリフティングが抑制される。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
インナーライナー18は、カーカス12の内側に位置している。インナーライナー18は、カーカス12の内面に接合されている。インナーライナー18は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー18の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー18は、タイヤ2の内圧を保持する。
前述したように、タイヤ2は、トレッド面20において路面と触れる。走行状態において、トレッド6と路面との間には接触面が形成される。車輌の動力は、この接触面を介して路面に伝えられる。トレッド6は、架橋ゴムからなるので、路面と接触することで徐々に摩耗していく。これにより、トレッド6の立体形状は変化していく。立体形状の変化は、タイヤ2の接地形状の変化を招来する。
図1から明らかなように、カーカス12の外側にはトレッド6が位置している。トレッド6が路面と触れるので、このカーカス12が路面と触れることはない。カーカス12の立体形状には、トレッド6の立体形状のように、摩耗による変化は生じない。カーカス12の立体形状は、トレッド6の摩耗がある程度進んでも、ほとんど変わらない。
トレッド6の摩耗が進むと、カーカス12はタイヤ2の外面に近づいていく。摩耗によりトレッド6が磨り減るにつれて、タイヤ2の接地形状には、カーカス12の立体形状が反映されるようになる。つまり、摩耗後のタイヤ2の接地形状の予測は、摩耗により変化が生じるトレッド6の立体形状というより、この変化が生じないカーカス12の立体形状に基づく方が相応しい。
タイヤ2において、カーカス12は露出していない。このため、タイヤ2におけるカーカス12の立体形状の把握には、タイヤ2の周方向に対して垂直な、このタイヤ2の断面におけるカーカス12の輪郭(二次元プロファイル)が用いられる。このカーカス12の輪郭をタイヤ2の中心軸(回転軸)を中心に回転させれば、カーカス12の立体形状(3次元プロファイル又は3次元曲面)を把握できるからである。
カーカス12の輪郭特定のための断面には、例えば、X線を用いたコンピュータ断層撮影法(以下、X線CT法)により撮影された、タイヤ2の断面画像が用いられる。この断面画像をCAD(Computer−aided design)に取り込み、実際の寸法に補正し、このCAD上で、カーカス12の輪郭が特定される。この特定では、カーカス12、より詳細には、カーカスプライ36の主部38の外面又は内面に沿って線を描き、カーカス12の輪郭が表される。この主部38に含まれるコードに沿って線を描き、カーカス12の輪郭が表されてもよい。
図2には、図1のタイヤ2におけるカーカス12の輪郭がベルト14の輪郭とともに示されている。図2において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。ベルト14の輪郭も、前述されたカーカス12の輪郭と同様、X線CT法により撮影された断面画像におけるベルト14に沿って描かれた線で特定されている。
図2において、符号PWSは、軸方向においてカーカス12が最大幅を有する、このカーカス12の輪郭上の地点を表している。符号P1Eは、ベルト14の内側層46の端を表している。符号P2Eは、ベルト14の外側層48の端を表している。両矢印L2は、赤道面から外側層48の端P2Eまでの、この外側層48の長さを表している。この長さL2は、外側層48の幅の半分に等しい。符号P2Cは、赤道面からの外側層48の長さが長さL2の半分に相当する、外側層48の輪郭上の地点を表している。符号P2Sは、赤道面からの外側層48の長さが長さL2の3/4に相当する、外側層48の輪郭上の地点を表している。両矢印LSは、外側層48の端P2Eから内側層46の端P1Eまでの、内側層46の長さを表している。この長さLSは、ステップ長さとも称される。本発明では、この長さLSと前述の長さL2との和(L2+LS)が、内側層46の幅の半分に相当する。
このタイヤ2では、カーカス12の輪郭は、クラウン円弧C、ショルダー円弧S及びアップサイド円弧Uの、3つの円弧を少なくとも含んでいる。これらの円弧のうち、クラウン円弧Cは、赤道面から地点P2Cまでのゾーンに含まれるカーカス12の輪郭を表す円弧である。図2において、符号Rcで示される矢印はこのクラウン円弧Cの曲率半径を表している。図示されていないが、このクラウン円弧Cの中心は赤道面上にある。
このタイヤ2では、ショルダー円弧Sは、地点P2Sから地点P2Eまでのゾーンに含まれるカーカス12の輪郭を表す円弧である。図2において、符号Rhで示される矢印はこのショルダー円弧Sの曲率半径を表している。このタイヤ2では、ショルダー円弧Sが前述のクラウン円弧Cの隣に位置するように、このカーカス12の輪郭が構成されてもよい。この場合、ショルダー円弧Sはクラウン円弧Cと接するように、このカーカス12の輪郭は構成される。このショルダー円弧Sとクラウン円弧Cとの間に1又は2以上の円弧を含むように、このカーカス12の輪郭が構成されてもよい。この場合、ショルダー円弧Sとクラウン円弧Cとの間に位置する円弧はそれぞれ、隣に位置する円弧と接するように、このカーカス12の輪郭は構成される。
このタイヤ2では、アップサイド円弧Uは、地点P2Eから地点PWSまでのゾーンに含まれるカーカス12の輪郭を表す円弧である。図2において、符号Rwで示される矢印はこのアップサイド円弧Uの曲率半径を表している。このタイヤ2では、アップサイド円弧Uがショルダー円弧Sと接するように、このカーカス12は構成される。アップサイド円弧Uの中心50、ショルダー円弧Sの中心52及び地点P2Eは、同一直線上にある。
このタイヤ2では、クラウン円弧Cの曲率半径Rcは、好ましくは、300mm以上800mm以下である。ショルダー円弧Sの曲率半径Rhは、好ましくは、40mm以上120mm以下である。アップサイド円弧Uの曲率半径Rwは、好ましくは、30mm以上50mm以下である。そして、このタイヤ2では、好ましくは、クラウン円弧Cの曲率半径Rcはショルダー円弧Sの曲率半径Rhよりも大きい。好ましくは、ショルダー円弧Sの曲率半径Rhは、アップサイド円弧Uの曲率半径Rwよりも大きい。
図3には、カーカス12の立体形状が示されている。図3において、符号Oはタイヤ2の中心である。X軸、Y軸及びZ軸は、この中心Oにおいて互いに直交している。なお、Y軸の延在方向はタイヤ2の軸方向に相当する。このY軸は、このタイヤ2の中心軸である。Z軸の延在方向は、タイヤ2の半径方向に相当する。タイヤ2の半径は、このZ軸に沿って計測される。
このタイヤ2では、カーカス12の立体形状は、図2に示されたカーカス12の輪郭をこのタイヤ2の中心軸(Y軸)を中心に回転させることで特定される。この特定された立体形状を所定の平面で仮想的に切断して、このカーカス12の切り口54が得られる。このタイヤ2では、この切り口54が特定の形状を有している。
このタイヤ2では、前述の切り口54を得るために、第一仮想平面及び第二仮想平面が規定される。図3において、符号V1で示される仮想平面が第一仮想平面である。この第一仮想平面V1は、このタイヤ2の赤道面及びこのタイヤ2の半径方向(Z軸)に対して垂直である。このタイヤ2では、この第一仮想平面V1は、カーカス12の立体形状と赤道面との交線である赤道56において、この立体形状と接している。この図3において、符号V2で示される仮想平面が第二仮想平面である。この第二仮想平面V2は、第一仮想平面V1に対して傾斜して延在している。
この図3において、実線CSは、カーカス12の立体形状の第二仮想平面V2による切り口54の輪郭を表している。この輪郭CSは、カーカス12の立体形状と第二仮想平面V2との交線である。この切り口54は、カーカス12の立体形状を第二仮想平面V2で切断して得られる。
図4には、図3のIV−IV線に沿った断面が示されている。この断面は、図3に示された立体形状を、Y軸及びZ軸を含む仮想平面YZで切断して得られる。この図4において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。この図4には、カーカス12の輪郭が、第一仮想平面V1及び第二仮想平面V2とともに示されている。このカーカス12の輪郭は、図2に示されたカーカス12の輪郭に一致する。この図4において、紙面の左側はトレッド6の第一端28aの側である。この紙面の右側は、トレッド6の第二端28bの側である。
図4から明らかなように、第一仮想平面V1は軸方向に延在している。このタイヤ2では、この第一仮想平面V1は、カーカス12の赤道56において、このカーカス12の輪郭と接している。前述の通り、第二仮想平面V2は、第一仮想平面V1に対して傾斜して延在している。このタイヤ2では、第一仮想平面V1上の各位置から第二仮想平面V2までの半径方向距離は、トレッド6の第一端28aの側からその第二端28bの側に向かう方向に漸増している。
図5には、カーカス12の第二仮想平面V2による切り口54が示されている。この図5において、上下方向はこのタイヤ2の周方向に相当し、左右方向はこのタイヤ2の略軸方向に相当する。この紙面に対して垂直な方向は、このタイヤ2の略半径方向に相当する。この図5において、紙面の左側がこのタイヤ2の第一サイドウォール8aの側であり、この紙面の右側がこのタイヤ2の第二サイドウォール8bの側である。
図5において、線分CLはこのタイヤ2の赤道面と切り口54との交線である。本発明においては、この切り口54のうち、線分CLよりも第一サイドウォール8aの側の部分が第一切り口58であり、この線分CLよりも第二サイドウォール8bの側の部分が第二切り口60である。この切り口54は、この線分CLで第一切り口58及び第二切り口60に分割される。
この図5において、二点鎖線V3は第三仮想平面を表している。この第三仮想平面V3は、第一切り口58と交差し、このタイヤ2の赤道面に平行な仮想平面である。線分ALは、この第一切り口58とこの第三仮想平面V3との交線である。符号Pnは、第一切り口58において、軸方向、詳細には、線分CLに対して垂直な線に沿って計測される線分CLから切り口54の輪郭CSまでの距離が最大となる、この輪郭CS上の地点を表している。両矢印Dnは、この線分CLから地点Pnまでの距離を表している。本発明では、この距離Dnが第一切り口58の最大幅である。このタイヤ2では、線分CLから線分ALまでの距離(図5の両矢印Da)は、この最大幅Dnの3/4に設定される。
この図5において、二点鎖線V4は第四仮想平面を表している。この第四仮想平面V4は、第二切り口60と交差し、このタイヤ2の赤道面に平行な仮想平面である。線分BLは、この第二切り口60とこの第四仮想平面V4との交線である。符号Pxは、第二切り口60において、軸方向、詳細には、線分CLに対して垂直な線に沿って計測される線分CLから切り口54の輪郭CSまでの距離が最大となる、この輪郭CS上の地点を表している。両矢印Dxは、この線分CLから地点Pxまでの距離を表している。本発明では、この距離Dxが第二切り口60の最大幅である。このタイヤ2では、線分CLから線分BLまでの距離(図5の両矢印Db)は、この最大幅Dxの3/4に設定される。
このタイヤ2では、第二仮想平面V2はトレッド6の第一端28aからその第二端28bに向かって半径方向内側に傾斜しつつ延在している。切り口54はこの第二仮想平面V2でカーカス12の立体形状を切断して得られるので、第二切り口60の最大幅Dxは第一切り口58の最大幅Dnよりも大きい。この最大幅Dxと最大幅Dnとの和は、この切り口54を仮想接地面とした場合における、タイヤ2の接地幅に相当する。
図3(又は図4)において、両矢印δは、赤道面に沿って計測される、カーカス12の赤道56から第二仮想平面V2までの距離である。この距離δは、赤道面における第二仮想平面V2の通過位置62を特定する。
経験的及び実験的に、タイヤ2の路面との接触面の面積は、薄膜理論に基づいて、タイヤ2に掛けられる荷重Wをこのタイヤ2の内圧Pで除して得られる面積(以下、仮想接地面積SV)に近い値になることが知られている。このタイヤ2では、切り口54は、摩耗後のタイヤ2の接地形状の予測のために仮想的に特定されている。このタイヤ2では、この切り口54の面積が仮想接地面積SVと等しくなるように、距離δは設定される。このタイヤ2では、カーカス12の第二仮想平面V2による切り口54は、仮想接地面積SVと等しい面積を有している。
図5において、両矢印Lcは線分CLの長さを表している。両矢印Laは、線分ALの長さを表している。両矢印Lbは、線分BLの長さを表している。この長さLc、長さLa及び長さLbのそれぞれは、この切り口54を仮想接地面とした場合における、タイヤ2の接地長に相当する。
このタイヤ2では、長さLcに対する長さLaの比(La/Lc)は0.70以上0.73以下である。この比が0.70以上に設定されることにより、クラウン部Crとショルダー部Shとの外径差による接触面のすべりが抑えられる。これにより、主に制動時に生じると考えられているショルダー摩耗、及び、主に駆動時に生じると考えられているクラウン摩耗の発生が効果的に抑制される。この比が0.73以下に設定されることにより、旋回時に外側に位置するショルダー部Shにおいて、接地圧及び接地長が適切に維持される。これにより、ショルダー摩耗の発生が効果的に抑制される。特に、このタイヤ2が後輪に装着されている場合には、ヒールアンドトウ摩耗の発生が効果的に抑制される。
このタイヤ2では、長さLcに対する長さLbの比(Lb/Lc)は0.83以上0.88以下である。この比が0.83以上に設定されることにより、クラウン部Crとショルダー部Shとの外径差による接触面のすべりが抑えられる。これにより、主に制動時に生じると考えられているショルダー摩耗、及び、主に駆動時に生じると考えられているクラウン摩耗の発生が効果的に抑制される。この比が0.88以下に設定されることにより、旋回時に外側に位置するショルダー部Shにおいて、接地圧及び接地長が適切に維持される。これにより、ショルダー摩耗の発生が効果的に抑制される。特に、このタイヤ2が後輪に装着されている場合には、ヒールアンドトウ摩耗の発生が効果的に抑制される。
このタイヤ2では、そのカーカス12の立体形状において、特定の面積を有するように第二仮想平面V2でこの立体形状を仮想的に切断して得られる切り口54が特定の形状を有している。このカーカス12の立体形状は、タイヤ2の摩耗性能に寄与する。本発明によれば、摩耗性能に優れる空気入りタイヤ2が得られる。
図4において、符号βは、第二仮想平面V2が第一仮想平面V1に対してなす角度を表している。
このタイヤ2では、角度βは、第二仮想平面V2でカーカス12の立体形状を仮想的に切断して得られる切り口54の形状に影響する。より正確な摩耗性能の把握の観点から、この角度βは1°以上が好ましく、2°以下が好ましい。特に好ましい角度βは、1.5°である。
前述したように、このタイヤ2では、切り口54の面積が仮想接地面積SVと等しくなるように、第二仮想平面V2が赤道面を通過する位置、言い換えれば、距離δは設定される。仮想接地面積SVは荷重Wを内圧Pで除することで得られるので、この距離δは荷重Wと相関している。仮想接地面積SVと等しい面積を有する切り口54の特定ができればよいので、この荷重Wに特に制限はない。しかし、より正確に摩耗性能の把握ができるとの観点から、切り口54の特定のために設定される荷重Wは、正規荷重の50%以上が好ましく、70%以下が好ましい。特に好ましい荷重Wは、正規荷重の60%である。
このタイヤ2では、ベルト14の幅と切り口54の幅とが適切な関係にあることで、摩耗性能の更なる向上を図ることができる。特にこのタイヤ2のベルト14では、外側層48は内側層46の幅よりも小さな幅を有しているので、内側層46の一部が外側層48の端から突出している。この突出部分、すなわち、ベルト14のステップ部分の剛性は低い。このステップ部分と、タイヤ2の接地面との関係は、摩耗性能において重要である。
このタイヤ2では、好ましくは、外側層48の幅の半分、すなわち、長さL2が、第二切り口60の最大幅Dxと同じか、この長さL2がこの最大幅Dxよりもよりも大きい。言い換えれば、好ましくは、長さL2と最大幅Dxとの差(L2−Dx)は0mm以上である。これにより、ベルト14のステップの部分が、タイヤ2の接地幅の外側に位置するよう、配置される。このタイヤ2では、ステップの部分による摩耗性能への影響が効果的に抑えられる。
このタイヤ2では、軸方向において、内側層46の端P1Eは外側層48の端P2Eよりもさらに外側に位置している。この内側層46の端P1Eは、ベルト14の端44である。このベルト14の端44には、歪みが集中しやすい。
このタイヤ2では、差(L2−Dx)は4mm以下が好ましい。これにより、内側層46の端P1E、すなわち、ベルト14の端44が適切な位置に配置される。ベルト14が適切な幅を有するので、このベルト14の端44には歪みは集中しにくい。ルースの発生が、効果的に抑えられる。さらにこのベルト14の端44がこの外面に露出することを防止するために、ベルト14の端44を覆うゴムを必要以上に厚くする必要もない。このタイヤ2では、質量及び転がり抵抗が適切に維持される。
このタイヤ2では、ステップ長さLsは6mm以上9mm以下が好ましい。この長さLsが6mm以上に設定されることにより、外側層48の端P2Eと内側層46の端P1Eとが近接することが防止される。軸方向において、ベルト14の端44よりも内側とその外側とで、剛性差が大きくなることが防止されるので、摩耗の進行が抑えられる。この長さLsが9mm以下に設定されることにより、内側層46の端P1Eの部分の動きが効果的に抑えられる。このタイヤ2では、良好な摩耗性能が適切に維持されるとともに、この内側層46の端P1Eでのルースの発生が防止される。このタイヤ2は、摩耗性能だけでなく、耐久性にも優れる。
このタイヤ2では、ショルダー円弧Sの曲率半径Rhに対するクラウン円弧Cの曲率半径Rcの比は、5以上が好ましく、8.3以下が好ましい。この比が5以上に設定されることにより、クラウン部Crとショルダー部Shとの外径差による接触面のすべりが抑えられる。これにより、主に制動時に生じると考えられているショルダー摩耗、及び、主に駆動時に生じると考えられているクラウン摩耗の発生が効果的に抑制される。この比が8.3以下に設定されることにより、旋回時に外側に位置するショルダー部Shにおいて、接地圧及び接地長が適切に維持される。これにより、ショルダー摩耗の発生が効果的に抑制される。特に、このタイヤ2が後輪に装着されている場合には、ヒールアンドトウ摩耗の発生が効果的に抑制される。
このタイヤ2では、アップサイド円弧Uの曲率半径Rwに対するクラウン円弧Cの曲率半径Rcの比は、7.5以上が好ましく、12.5以下が好ましい。この比が7.5以上に設定されることにより、クラウン部Crとショルダー部Shとの外径差による接触面のすべりが抑えられる。これにより、主に制動時に生じると考えられているショルダー摩耗、及び、主に駆動時に生じると考えられているクラウン摩耗の発生が効果的に抑制される。この比が12.5以下に設定されることにより、旋回時に外側に位置するショルダー部Shにおいて、接地圧及び接地長が適切に維持される。これにより、ショルダー摩耗の発生が効果的に抑制される。特に、このタイヤ2が後輪に装着されている場合には、ヒールアンドトウ摩耗の発生が効果的に抑制される。
特に、このタイヤ2では、ショルダー円弧Sの曲率半径Rhに対するクラウン円弧Cの曲率半径Rcの比が5以上8.3以下であり、かつ、アップサイド円弧Uの曲率半径Rwに対するクラウン円弧Cの曲率半径Rcの比が7.5以上12.5以下であるとき、カーカス12の立体形状が、特定の面積を有するように第二仮想平面V2でこの立体形状を仮想的に切断して得られる切り口54が、前述された、特定の形状を有するように、構成される。このカーカス12を有するタイヤ2では、摩耗性能の一層の向上を図ることができる。
前述したように、このタイヤ2では、バンド16はベルト14を覆っている。このバンド16は、タイヤ2のトレッド6の部分の変形を抑える。このバンド16は、ベルト14のステップ部分による摩耗への影響を抑える。さらに良好な摩耗性能が得られるとの観点から、ベルト14の端44からバンド16の端までの長さは、8mm以上が好ましく、12mm以下が好ましい。
このタイヤ2では、トレッド6のうち、キャップ層24が路面と接触する。このため、前述したように、このキャップ層24には、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムが用いられる。良好な摩耗性能及び操縦安定性能の観点から、このキャップ層24の複素弾性率E*は、10MPa以上が好ましく、20MPa以下が好ましい。良好な摩耗性能に加え、低い転がり抵抗が達成されるとの観点から、このキャップ層24のロスコンプライアンスLCは、0.01以上が好ましく、0.03以下が好ましい。なお、このロスコンプライアンスLCは、複素弾性率E*に対する損失弾性率E”の比で表される。
本発明において、複素弾性率E*及び損失弾性率E”は、「JIS K 6394」の規定に準拠して、測定される。測定条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF−3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:30℃
以上説明した、摩耗性能の向上を達成するためのタイヤ2の構成に関する知見は、タイヤ2の摩耗性能の良否の判定にも用いることができる。そこで、この知見に基づいて得られた、タイヤ2の摩耗性能の評価方法が以下に説明される。
本発明に係る評価方法では、STEP1として、タイヤ2をリム4に組み込み、このタイヤ2が内圧Pを有するようにこのタイヤ2の内部に空気を充填した状態において、このタイヤ2の断面画像がX線CT法により撮影される。これにより、このタイヤ2の周方向に対して垂直な、このタイヤ2の断面が得られる。つまりこの評価方法は、
(1)タイヤ2をリム4に組み込み、このタイヤ2が内圧Pを有するようにこのタイヤ2の内部に空気を充填した状態において、このタイヤ2の周方向に対して垂直な、このタイヤ2の断面を得る工程(STEP1)
を含んでいる。なお、この評価方法では、タイヤ2の断面は前述の撮影画像に限られない。例えば、CAD上で設計したタイヤ2の構造図が、このタイヤ2の断面として用いられてもよい。
この評価方法では、STEP1で得た断面画像をCADに取り込み、実際の寸法に補正し、このCAD上で、カーカスプライ36の主部38に沿って線を描き、カーカス12の輪郭が表される。これにより、図2に示されているようなカーカス12の輪郭が特定される(STEP2)。つまりこの評価方法は、
(2)タイヤ2の断面における、カーカス12の輪郭を特定する工程(STEP2)
をさらに含んでいる。このSTEP2では、カーカス12の輪郭がカーカスプライ36の主部38の外面に沿って描かれた線で表されてもよい。この輪郭が、この主部38の内面に沿って描かれた線で表されてもよい。この輪郭が、この主部38に含まれるコードに沿って描かれた線で表されてもよい。この評価方法では、このカーカス12の輪郭は、軸方向に並列された複数の円弧で描写されるのが好ましい。この場合、この輪郭は、その特徴を把握しやすいとの観点から、クラウン円弧C、ショルダー円弧S及びアップサイド円弧Uの、3つの円弧を少なくとも含むように構成されるのが好ましい。なお、クラウン円弧C、ショルダー円弧S及びアップサイド円弧Uの詳細は、前述のタイヤ2に係る発明で説明した通りである。
この評価方法では、STEP2で得たカーカス12の輪郭を、CADにおいて、タイヤ2の回転軸を中心に回転させて、図3に示されたようなカーカス12の立体形状が特定される(STEP3)。つまりこの評価方法は、
(3)カーカス12の輪郭をタイヤ2の回転軸を中心に回転させて、このカーカス12の立体形状を特定する工程(STEP3)
をさらに含んでいる。
この評価方法では、STEP3で得たカーカス12の立体形状の解析がCADにおいて実行される(STEP4)。このSTEP4では、まず、第一仮想平面V1が設定される。この第一仮想平面V1の詳細は、前述のタイヤ2に係る発明で説明した通りである。次に、この第一仮想平面V1に対して傾斜して延在する平面が設定される。この平面でカーカス12の立体形状を切断して切り口を得、この切り口の面積が計算される。仮想接地面積SVと等しい面積を有する切り口54が得られる平面を特定し、この平面が第二仮想平面V2とされる。つまりこの評価方法は、
(4)第一仮想平面V1に対して傾斜して延在する第二仮想平面V2で、カーカス12の立体形状を仮想的に切断し、切り口54を得る工程(STEP4)
をさらに含んでいる。そして、この工程で得られる切り口54は、仮想接地面積SVと等しい面積を有している。なお、仮想接地面積SV及び第二仮想平面V2の詳細は、前述のタイヤ2に係る発明で説明した通りである。また、第二仮想平面V2の特定ができるまで、前述の切り口の面積計算は繰り返される。
この評価方法では、STEP4で得た切り口54の解析がCADにおいて実行される(STEP5)。このSTEP5では、まず、切り口54と赤道面との交線が線分CLとして特定される。この線分CLで切り口54を分割し、第一切り口58及び第二切り口60が特定される。さらに第三仮想平面V3が設定され、この第三仮想平面V3と第一切り口58との交線が線分ALとして特定される。第四仮想平面V4が設定され、この第四仮想平面V4と第二切り口60との交線が線分BLとして特定される。これにより、線分CLの長さLc、線分ALの長さLa及び線分BLの長さLbが得られる。つまりこの評価方法は、
(5)タイヤ2の赤道面と切り口54との交線を線分CLとし、第一切り口58と第三仮想平面V3との交線を線分ALとし、第二切り口60と第四仮想平面V4との交線を線分BLとし、線分CLの長さLc、線分ALの長さLa及び線分BLの長さLbを得て、切り口54の形状を特定する工程(STEP5)
をさらに含んでいる。なお、第一切り口58及び第二切り口60、第三仮想平面V3及び第四仮想平面V4、並びに、線分AL及び線分BLの詳細は、前述のタイヤ2に係る発明で説明した通りである。
この評価方法では、STEP5で得た、長さLc、長さLa及び長さLbを用いて、タイヤ2の摩耗性能が判定される(STEP6)。このSTEP6では、摩耗性能の判定のために、次の、長さLcに対する長さLaの比(La/Lc)に関する基準(1)及び長さLcに対する長さLbの比(Lb/Lc)に関する基準(2)が用いられる。
基準(1) 上記比(La/Lc)が0.70以上0.73以下であること
基準(2) 上記比(Lb/Lc)が0.83以上0.88以下であること
つまりこの評価方法は、
(6)上記基準(1)、及び、上記基準(2)に基づいて、タイヤ2の摩耗性能を判定する工程(以下、STEP6)
をさらに含んでいる。
この評価方法では、接地形状ではなく、カーカス12の立体形状が評価の対象である。カーカス12の立体形状は、タイヤ2の摩耗の影響は受けにくい上に、この立体形状の把握は容易である。しかもこの評価方法では、カーカス12の立体形状において、特定の面積を有するように第二仮想平面V2でこの立体形状を仮想的に切断して得られる切り口54が特定の形状を有するかどうかで、タイヤ2の摩耗性能の良否が判定される。タイヤ2に係る発明で説明した通り、カーカス12の立体形状の、第二仮想平面V2による切り口54が、上記基準(1)及び基準(2)を満たしているタイヤ2は、摩耗性能に優れる。この評価方法は実用的であり、しかもこの評価方法によれば摩耗性能に関し有効な評価結果が得られる。本発明によれば、実用的でしかも有効な、空気入りタイヤ2の摩耗性能の評価方法が得られる。
この評価方法では、切り口54の形状に関する知見に基づいて、摩耗性能及び耐久性を考慮したベルト14の幅の設定が可能である。言い換えれば、この評価方法は、タイヤ2の設計においてベルト14の幅を設定する際に、この設定のための知見を提供することができる。この評価方法は、タイヤ2の設計の効率化にも貢献する。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[実施例1]
図1に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、195/65R15 91Sである。このタイヤのカーカス及びベルトに関する諸元は、下記の表1に示す通りである。
[実施例2−4及び比較例1−6]
カーカス及びベルトに関する諸元を下記の表1及び2に示す通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−4及び比較例1−6のタイヤを得た。
[実施例5−8]
差(L2−Dx)及び長さL2を下記の表3の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例5−8のタイヤを得た。
[実施例9−12]
差(L2−Dx)、長さL2及び長さLsを下記の表4の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例9−12のタイヤを得た。
[摩耗性能]
タイヤを6.0Jのリムに組み込み、このタイヤに内圧が230kPaとなるように空気を充填した。このタイヤを、排気量が2000ccである乗用車(後輪駆動)に装着した。前輪については、キャンバー角は0°に設定された。後輪については、キャンバー角は1.5°(ネガティブキャンバー)に設定された。ドライバーに、この乗用車を1周330kmのコースで走行させた。このコースは、100km/hから120km/hの速度で走行する平坦な高速道、40km/hから60km/hの速度で走行する平坦な一般道、そして、起伏に富んだ山岳道を含んでいる。このコースは、その50%が高速道となり、25%が一般道となり、残りの25%が山岳道となるように設定された。このコースの路面は、その全長に亘ってアスファルトで舗装されている。約8000km走行した時点で、タイヤを回収し、タイヤの摩耗量を計測した。計測は、タイヤの周方向の8箇所について、その幅方向に6箇所、すなわち、タイヤ1本あたり計48箇所について実施された。この計測結果に基づいて、前輪に装着していたタイヤについては、車輌の幅方向外側のショルダー部におけるショルダー摩耗の状況、及び、クラウン部におけるクラウン摩耗の状況を把握し、後輪に装着していたタイヤについては、車輌の幅方向内側のショルダー部におけるヒールアンドトウ摩耗の状況、及び、クラウン部におけるクラウン摩耗の状況を把握した。そしてこの把握した摩耗状況に基づいて、前輪のタイヤでは、外側ショルダー部(外側Sh)及びクラウン部(クラウン)の摩耗性能を判断し、後輪のタイヤでは、内側ショルダー部(内側Sh)及びクラウン部(クラウン)の摩耗性能を判断した。この結果が、指数として下記の表1−4に示されている。数値が大きいほど好ましい、すなわち、摩耗性能に優れていることを表している。
Figure 0006604163
Figure 0006604163
Figure 0006604163
Figure 0006604163
表1−4に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。言い換えれば、摩耗性能の判定のための基準(1)及び基準(2)を満たす実施例のタイヤでは、これらを満たさない比較例のタイヤに比べて、良好な摩耗性能が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
以上説明されたカーカスの立体形状に関する技術は、種々のタイヤにも適用されうる。
2・・・タイヤ
4・・・リム
6・・・トレッド
8、8a、8b・・・サイドウォール
10、10a、10b・・・ビード
12・・・カーカス
14・・・ベルト
16・・・バンド
20・・・トレッド面
24・・・キャップ層
26・・・ベース層
28、28a、28b・・・トレッド6の端
36・・・カーカスプライ
38・・・主部
40・・・折り返し部
44・・・ベルト14の端
46・・・内側層
48・・・外側層
50・・・アップサイド円弧Uの中心
52・・・ショルダー円弧Sの中心
54・・・カーカス12の切り口
56・・・赤道
58・・・第一切り口
60・・・第二切り口
62・・・通過位置

Claims (4)

  1. トレッド、一対のサイドウォール及びカーカスを備えており、一方の第一サイドウォール及び他方の第二サイドウォールのそれぞれが上記トレッドの端から半径方向略内向きに延びており、上記カーカスが上記第一サイドウォール、上記トレッド及び上記第二サイドウォールの内側に沿って延在している、空気入りタイヤを評価するための方法であって、
    このタイヤをリムに組み込み、このタイヤが内圧Pを有するようにこのタイヤの内部に空気を充填した状態において、このタイヤの周方向に対して垂直な、このタイヤの断面を得る工程と、
    上記断面における上記カーカスの輪郭を特定する工程と、
    上記輪郭をこのタイヤの回転軸を中心に回転させて、上記カーカスの立体形状を特定する工程と、
    このタイヤの赤道面及びこのタイヤの半径方向に対して垂直な第一仮想平面に対して傾斜して延在する第二仮想平面で上記立体形状を切断し、切り口を得る工程と、
    上記赤道面と上記切り口との交線を線分CLとし、この線分CLでこの切り口を第一切り口及び第二切り口に分割し、上記線分CLよりも上記第一サイドウォールの側の第一切り口と上記赤道面に平行な第三仮想平面との交線を線分ALとし、上記線分CLよりも上記第二サイドウォールの側の第二切り口と上記赤道面に平行な第四仮想平面との交線を線分BLとし、上記線分CLの長さLc、上記線分ALの長さLa及び上記線分BLの長さLbを得て、上記切り口の形状を特定する工程と、
    上記長さLcに対する上記長さLaの比(La/Lc)に関する下記の基準(1)、及び、上記長さLcに対する上記長さLbの比(Lb/Lc)に関する下記の基準(2)に基づいて、このタイヤの摩耗性能を判定する工程と
    を含んでおり、
    上記切り口を得る工程において、
    上記第一仮想平面上の各位置から上記第二仮想平面までの半径方向距離が、上記トレッドの第一端からその第二端に向かう方向に、漸増しており、
    上記切り口が、このタイヤに掛けられる荷重Wを上記内圧Pで除して得られる仮想接地面積と等しい面積を有しており、
    上記切り口の形状を特定する工程において、
    上記線分CLから上記線分ALまでの距離が上記第一切り口の最大幅の3/4であり、
    上記線分CLから上記線分BLまでの距離が上記第二切り口の最大幅の3/4である、空気入りタイヤの評価方法。
    基準(1) 上記比(La/Lc)が0.70以上0.73以下であること
    基準(2) 上記比(Lb/Lc)が0.83以上0.88以下であること
  2. このタイヤがベルトをさらに備えており、
    上記ベルトが上記トレッドの半径方向内側において上記カーカスと積層されており、
    上記ベルトが第一層及び第二層を備えており、
    上記第一層の幅が、上記第二層の幅よりも大きく、
    上記第二層の幅の半分が、上記第二切り口の最大幅と同じか、この第二切り口の最大幅よりも大きい、請求項1に記載の空気入りタイヤの評価方法。
  3. 上記第二層の幅の半分と上記第二切り口の最大幅との差が、4mm以下である、請求項2に記載の空気入りタイヤの評価方法。
  4. 上記第二層の端から上記第一層の端までの長さが6mm以上9mm以下である、請求項2又は3に記載の空気入りタイヤの評価方法。
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