JP6602737B2 - 肉盛合金および肉盛部材 - Google Patents

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Description

本発明は、耐摩耗性(特に高温域での耐摩耗性)と被削性に優れる肉盛部を備えた肉盛部材と、その肉盛部となり得る肉盛合金に関する。
機械部材は、部位によって要求される機械的特性が異なる。例えば、内燃機関(「エンジン」という。)のシリンダーヘッドやエンジンブロックは、摺動部において、高耐摩耗性や低摩擦特性等が要求される。最近のシリンダーヘッド等は、軽量で熱伝導性や鋳造性等に優れるアルミニウム合金(「Al合金」という。)からなるが、Al合金(鋳物)自体は耐摩耗性等が必ずしも十分ではない。このため、その摺動部(例えば軸受、ライナー等)には、別部材が設けられたり、改質処理がなされたりする。
このような摺動部の別例として、シリンダーヘッドの吸排気ポート周縁部に設けられ、緩やかに回転する吸排気バルブの傘部外周縁部と当接を繰り返すバルブシートがある。吸気側バルブシートは、高速で流入する空気や多様な燃料成分を含む混合気に曝され、排気側バルブシートは高速で流出する高温燃焼ガスに曝される。このような過酷な環境下でも、バルブシートには、高い耐摩耗性(特に耐凝着摩耗性)や潤滑性等が要求される。特に排気側バルブシートには、吸気側バルブシートよりも、高温耐摩耗性に優れることが要求される。
このようなバルブシートは、一般的に、特許文献1にあるような鉄基焼結合金からなるシートリングを、シリンダーヘッドのポート外周縁部に形成したリング溝へ圧入(打ち込み)して形成されている。これに対して、レーザークラッド法を用いた肉盛によりバルブシートを形成することも提案されている。前者の打込み式バルブシートから後者の肉盛り式バルブシートに変更すれば、吸排気ポート径の拡大等のみならず、バルブシート自体の熱伝導性向上やシリンダーヘッド側のウォータージャケットとの距離短縮等による動弁系周辺の冷却性向上も可能となる。
肉盛り式バルブシートは、例えば、次のようにして形成される。先ず、銅基合金粉末(原料粉末)にレーザー照射で溶融した後に急冷凝固する。こうして銅基マトリックス中に略球状の硬質粒子が分散した急冷凝固組織からなる肉盛部が、ポート周縁部に形成される。次に、その肉盛部をバルブガイドと同軸で切削加工等することにより、所望の寸法・表面粗さのバルブシートが得られる。
下記の特許文献2〜7には、そのような肉盛部またはその原料粉末に適した銅基合金に関する記載がある。また、特許文献8〜10には、肉盛やレーザークラッド法とは無関係であるが、銅合金に関する記載がある。例えば、特許文献8には、TiまたはZrの一方と、SおよびCを含む4元系銅合金の鋳塊を、溶体化処理、冷間圧延および時効処理して得られる板材に関する記載がある。この板材は、金属組織中に金属硫化物を分散させて被削性の向上を図ったものであるが、高電導性が要求される電子電気部品に用いられるものに過ぎない。
特開2006−307331号公報 特公平7−17978号公報 特許第3305738号公報 特許第4114922号公報 特許第4472979号公報 特許第4603808号公報 特開2002−194462号公報 特開2001−240923号公報 WO2006/16629号公報 特開2012−140645号公報
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、肉盛を前提として、従来の銅(基)合金とは異なる組成からなり、肉盛後の被削性にも優れる新たな肉盛合金と、そのような肉盛部を有する肉盛部材を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究し、従来とは異なる組成からなる肉盛合金を新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《肉盛合金》
(1)本発明の肉盛合金は、Cu、Fe、NiおよびSiからなる第1元素群と、Mo、WおよびVからなる第2元素群より選択された一種以上の第2元素とを含み、溶融時にCuを含む合金液相と第2元素およびFeを含む合金液相とが分離した状態となり得る肉盛合金であって、さらに、チタン硫化物を含み、全体を100質量%(単に「%」という。)として、下記の組成を満たす銅基合金からなることを特徴とする。
Fe :3〜20%、
Ni :5〜30%、
Si :0.5〜5%、
第2元素の合計:3〜20%
チタン硫化物 :0.1〜2%
残部:Cuおよび不純物
(2)本発明の肉盛合金は、先ず、所定の温度範囲内で、Cuを含む合金液相(「Cu系合金液相」ともいう。)と第2元素およびFeを含む合金液相(「第2合金液相」ともいう。)とが分離した状態(「液相分離状態」という。)となる。このまま急冷凝固がなされると、その液相分離状態が凍結された金属組織が得られる。特に、液相分離状態時に強撹拌されて急冷凝固すると、Cu系合金液相が凝固したマトリックス(「銅基マトリックス」という。)中に、第2合金液相が凝固した略球状(略粒状)の粒子(硬質粒子)が分散した複合組織が得られる。
次に本発明の肉盛合金は硫化物を含んでいる。この硫化物は、銅基マトリックスまたは硬質粒子の少なくとも一方に取り込まれた状態となって晶出する。このような金属組織からなる肉盛合金(肉盛部)は、銅基マトリックスと硬質粒子により発現される特性(例えば、耐熱性や耐摩耗性等)を維持したまま、金属組織中に分散している硫化物により被削性にも優れる。
なお、硫化物は、肉盛後にできる銅基マトリックスまたは硬質粒子の少なくとも一方に取り込まれた状態となって晶出すれば十分である。但し、硫化物は、液相分離状態の生成や銅基マトリックスと硬質粒子の形成に、あまり影響を与えない安定なものが好ましい。つまり、硫化物は液相分離状態でも分解せず、固相状態で存在し得るものが好ましい。このような硫化物は、液相分離状態時にCu系合金液相もしくは/および第2合金液相と併存し易く、上述した金属組織の形成も容易となる。
《肉盛部材》
本発明は、上述した肉盛合金としてのみならず、その肉盛合金からなる肉盛部を有する肉盛部材としても把握できる。すなわち、本発明は、基材と、基材に形成された肉盛部とを備える肉盛部材であって、この肉盛部が上述した肉盛合金からなることを特徴とする肉盛部材でもよい。
《その他》
(1)本発明に係る「硬質」粒子は、銅基マトリックスよりも硬さが大きい粒子という意味であるが、適宜、分散粒子と換言してもよい。
本明細書でいう「X基〜」は、原子割合(原子%)で、その全体組成中でX元素が他のいずれの構成元素よりも多く含まれていることを意味する。具体的にいうと、銅基合金は、その合金全体中でCuが他元素よりも多いことを意味する。また銅基マトリックスは、そのマトリックス全体中でCuが他元素よりも多いことを意味する。
硬質粒子は、液相分離状態を利用して得られるため、通常、Feを多く含み、Feと第2元素およびSiとの化合物からなる。
本発明の肉盛合金は、肉盛前と肉盛後の両方を含む。例えば、肉盛合金は、肉盛に供される原料粉末でもよいし、肉盛されて銅基マトリックス中に硬質粒子が分散した金属組織を有する肉盛部でもよい。原料粉末の粉末粒子中に含まれる硫化物は、その金属組織中に微細分散したものでもよい。
液相分離状態となる銅基合金は、本発明で規定する元素(組成)からなり、少なくとも、Cu系合金液相と反発する性質を持った第2液相を生じるものであればよく、偏晶系合金に限らず、包晶系合金を基本として一部で偏晶反応を有するものでもよい。
本発明の肉盛合金は、種々の改質元素(例えば、合計で5%以下さらには2%以下)や技術的またはコスト的に除去困難な不可避不純物を含む。なお、本明細書でいう成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
(2)被削性は、工具寿命、切削抵抗、切削面粗さ、切屑処理性等により評価される。本発明に係る被削性は、主に、工具寿命で評価する。耐摩耗性は、使用環境(温度、雰囲気等)により変化し、肉盛部自体の摩耗量の他、接触相手側の摩耗量も評価対象となる。本発明に係る耐摩耗性は、主に、高温(大気)中における肉盛部の摩耗量で評価する。
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
試料1の肉盛部の金属組織を示す光学顕微鏡写真である。 試料C1の肉盛部の金属組織を示す光学顕微鏡写真である。 試料1のマトリックスと硬質粒子に関するSEM像である。 試料1のマトリックスに関するDF−STEM像とEDXの分析結果である。 試料1の硬質粒子に関するDF−STEM像とEDXの分析結果である。 各試料の肉盛部からなるバルブシートにバルブを離着座させる模擬試験後(試験温度:300℃)の各摩耗量を示す棒グラフである。 各試料の肉盛部の加工数と刃具逃げ面の摩耗量との関係を示すグラフである。 模擬試験装置の概要図である。
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の肉盛合金のみならず肉盛部材やその製造方法にも該当し得る。また方法的な構成要素も、一定の場合、物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《硫化物》
本発明に係る硫化物は、液相分離状態となる高温域(例えば1200〜1800℃さらには1400〜1600℃)でも、殆ど、分解したり他元素と反応せず、安定的に存在する化合物であると好ましい。このような硫化物として、例えば、TiとSからなる金属硫化物がある。より具体的にいうと、TiS、Ti、TiS、Ti3 S等である。なお、本発明でいう硫化物には複合硫化物も含まれる。複合硫化物は、例えば、TiとS以外の他元素(金属元素または非金属元素)とを含む硫化物等である。
このような硫化物は、肉盛合金全体に対して0.1〜2%さらには0.3〜1%含まれていると好ましい。硫化物は、肉盛部の被削性の向上を図れる範囲で含有されていれば十分である。硫化物が過少ではその効果が乏しいが、硫化物が過多になると肉盛部が本来発揮すべき特性(耐摩耗性、耐熱性等)が相対的に低下し兼ねない。
硫化物は、その種類(組成)、冷却過程等により、金属組織中で種々の形態をとり得る。例えば、硫化チタン(TiS、Ti等)は、銅基マトリックスまたは硬質粒子中で、略針状(晶出物)となって存在し得る。
《合金組成》
本発明の肉盛合金は、主元素であるCu(残部)と、上述した硫化物を構成する元素(Sと第3元素)の他、少なくとも、Fe、Ni、Si、第2元素(Mo、W、Vの一種以上)を含む。NiおよびSiはCuと共に銅基マトリックスを構成する主要元素である。Feは、Cuと共に、溶融時に液相分離状態となるために重要な元素である。またFeは、Si(さらにはNi)および第2元素と共に銅基マトリックス中に分散した硬質粒子を構成する元素である。
各元素の選択および割合は、肉盛部に要求される特性または組織に応じて調整されるが、例えば、下記のような組成が好ましい。なお、ここで述べる組成は、肉盛合金(銅基合金)全体を100質量%とした。
Feは、上述したように重要な元素であり、3〜20%、4〜10%さらには5〜8%含まれると好ましい。Feが過少では、硬質粒子の生成が不十分となり耐摩耗性が低下し得る。Feが過多になると硬質粒子は粗大化し、肉盛り性、被削性が低下する。
Niは5〜30%、10〜20%さらには12〜18%であると好ましい。Niは銅基マトリックスに固溶して、その強度を高め得る。また、Ni量は、二液相分離傾向に影響を与え、硬質粒子の大きさに寄与して、肉盛合金の耐摩耗性を左右する。Niが過少ではマトリックス強度向上の効果が乏しく、Niが過多になると二液相分離傾向は低下し、硬質粒子が微細化するため耐摩耗性が低下する。
Siは0.5〜5%、1〜4%さらには2〜3%であると好ましい。Siは銅基マトリックスの強化または肉盛性の向上に寄与する。またSiは、Feおよび第2元素とケイ化物(シリサイド)を形成し、硬質粒子の形成に寄与する。Siが過少ではそれらの効果が乏しく、Siが過多になると硬質粒子の靱性が低下し、割れ発生を誘発する。
第2元素(Mo、WおよびVの一種以上)は、合計で3〜20%、5〜15%さらには6〜10%であると好ましい。第2元素は、FeやSiとともに、硬質粒子を形成する。特にMoは、Feよりも、さらに高温までCuと反発して二液相分離状態を生成しやすくすると共に、自己潤滑性を発揮して肉盛部の耐摩耗性を高める。第2元素が過少ではそれらの効果が乏しく、第2元素が過多になると硬質粒子は粗大化し、肉盛り性、被削性が低下する。
銅基合金は、Cを0.01〜0.5%さらに0.02〜0.3%含んでもよい。Cは高温でより安定した炭硫化物の形成に寄与し得る。Cは第2元素の炭化物として銅基合金中に存在してもよい。このような炭化物は硬質粒子の微細化や、銅基合金の耐摩耗性や耐割れ性の向上に寄与し得る。
銅基合金は、Coを0.1〜2%さらには0.5〜1.9%含んでもよい。CoはFeと同様にCuに殆ど固溶せず、溶融時に液相分離状態を促進する元素である。Coを含有することにより銅基合金の耐熱性の向上を図れる。但し、Coは稀少元素で高価であり、資源リスクを伴う。このため銅基合金は、Coを実質的に含まず、敢えていうならCo≦1%さらにはCo<0.01%であると好ましい。
銅基合金は、Crを1〜15%さらには3〜10%含んでもよい。Crは、酸化膜形成により銅基合金(肉盛部)の耐酸化性を高める。またCrは、FeやCoと同様に、Cuに殆ど固溶せず、溶融時に液相分離状態を促進する元素である。但し、Crは環境負荷の高い元素であるため、銅基合金はCrを実質的に含まず、敢えていうならCr≦1%さらにはCr<0.01%であると好ましい。
《合金組織》
(1)本発明の肉盛合金は、溶融から凝固に至る形成過程を調整することにより、種々の金属組織をとり得る。肉盛部の耐摩耗性と被削性を両立する観点から、その金属組織は、銅基マトリックス(Cu−Ni−Si系マトリックス)と、この銅基マトリックス中に分散している略球状の硬質粒子(Fe−Mo−Si等の化合物粒子)と、銅基マトリックスまたは硬質粒子の少なくとも一方に分散している硫化物とからなると好ましい。
(2)硬質粒子は、平均粒径が10μm〜10mm、50μm〜5mmさらには100μm〜1mmであると好ましい。硬質粒子が過小では銅基合金(肉盛部)の耐摩耗性が不十分となり、硬質粒子が過大では相手材の摩耗(攻撃性)が大きくなったり、被削性が低下するため好ましくない。ここでいう各硬質粒子の粒径は面積円相当径とし、その平均粒径は相加平均値とする。
また銅基合金(肉盛部)の被削性を向上させる硫化物は、平均粒子サイズが0.1〜10μm、0.5〜5μmさらには1〜3μmであると好ましい。ここでいう各硫化物粒子のサイズは最大長さとし、その平均粒径は相加平均値とする。
硬質粒子の粒径または硫化物のサイズは、銅基合金(肉盛部)の断面中央付近を光学顕微鏡で観察して得られた所定領域(視野)内の画像に基づいて特定する。観察範囲(視野)の大きさは、2.0mm×2.8mm(面積)とする。具体的な測定および各平均値の算出は、その視野の顕微鏡写真(画像)を画像処理(使用ソフト:株式会社ニレコ製 LUZEX)して行う。
(3)耐摩耗性と被削性を両立するため、金属組織を構成する各部は所望の硬さを有すると好適である。例えば、銅基マトリックスは150〜350Hvさらには200〜300Hvであり、硬質粒子は400〜1500Hvさらには600〜1200Hvであると好ましい。なお、硫化物(粒子)は微細なため、その硬さの測定は困難であるが、銅基マトリックスよりも硬さが小さい(軟質である)と考えられる。
ここでいう各硬さは、圧子の押し付け荷重(試験力)を100gfとして測定したときのマイクロビッカース硬さである。硬さの測定は、銅基合金(肉盛部)の最表面について行い、約0.5mm間隔で測定した10点の平均値とする。
《基材/肉盛部材》
本発明の肉盛合金を肉盛する相手材(基材)は、鉄系材(ステンレス鋼を含む。)、非鉄系材(アルミニウム系材、マグネシウム系材、チタン系材、銅系材等)など、種々考えられる。
Cuベースの肉盛合金は、純AlまたはAl合金からなる基材に肉盛されても、過度に基材と反応することはないため、例えば、アルミニウム合金(鋳造材、展伸材等)からなる基材上にも、欠陥(ボイドや割れ等)の少ない健全な肉盛部の形成が可能である。
例えば、アルミニウム合金からなる内燃機関用のシリンダーヘッド(鋳物/基材)の吸気ポートおよび/または排気ポートに形成されたバルブシート(肉盛部)を、本発明の肉盛合金で形成すると好ましい。吸気側バルブシートと排気側バルブシートは、各要求特性に応じて、各肉盛部の組成や組織が異なってもよい。例えば、従来よりも硬質粒子を増加・増大等させて、排気側バルブシートの(高温)耐摩耗性を高めてもよい。この場合でも、本発明の肉盛合金を用いれば、被削性の確保も併せて確保される。
なお、本発明でいう肉盛部材は、肉盛により形成されたバルブシートを有するシリンダーヘッドに限らず、種々の材質からなる様々な部材(基材)に肉盛されたものでもよい。
《レーザークラッド法》
本発明では肉盛部の形成過程を問わないが、例えば、レーザークラッド法により、所望の金属組織または特性を有する肉盛部を形成することができる。
レーザークラッド法は、レーザビームまたは電子ビーム等の高密度エネルギー熱源を用いて、供給された肉盛合金素材(原料)を所定温度域で溶融し、その溶融液を基材表面で急冷凝固させて、所定の金属組織(急冷凝固組織)からなる肉盛部を形成する方法である。
原料として、ワイヤ材または棒材を用いることも考えられるが、所望する金属組織を均一的または安定的に形成する観点から、粉末を用いると好ましい。このような原料粉末は、例えば、(ガス)アトマイズ法により得られる。アトマイズ粉末の構成粒子も本発明の肉盛合金の一形態である。但し、アトマイズ粉末の製造時、その溶融液(噴霧前の溶湯)は一液相状態でもよい。
レーザークラッド法に供される原料粉末は、例えば、粒度が32〜180μmさらには63〜106μmであると好ましい。この粒度は篩い分けにより特定される(JIS Z 8801に準拠)。具体的にいうと、粒度:a〜bμmは、公称目開きがaμmの篩いを通過せず、公称目開きがbμmの篩いを通過した粒子からなることを意味する。なお、原料粉末は、成分組成の異なる複数種の粉末を混合した混合粉末でも、単一粉末でもよい。但し、取扱性に優れる単一粉末を用いる方が、均一的な肉盛部を容易に形成できる。
レーザとして、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ等を用いることもできるが、制御性に優れる半導体レーザーを用いると好ましい。銅基マトリックス中に略球状の硬質粒子が均一的に分散した金属組織を得るために、液相分離状態にある溶融プールが強撹拌されつつ急冷されることが望ましい。このような強撹拌は、例えば、原料粉末へ照射するレーザーを周期的に、断続またはその強度を変化させることにより行える。具体的にいうと、半導体レーザーの出力を電子制御したり、上記した特許文献4(特許第4114922号公報)、特許文献5(特許第4472979号公報)等に記載されているようなオッシレーターを用いればよい。
成分組成の異なる原料粉末を用いて、レーザークラッド法により基材上に肉盛を行った。こうして得られた肉盛部について、組織観察、耐摩耗性および被削性をそれぞれ評価した。これらの具体例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
《試料の製造》
(1)基材
肉盛する基材として、アルミニウム合金(JIS AC2C)を用意した。基材の形状は、組織観察:板状(100mm×100mm×20mm)、耐摩耗性:リング状(外径φ80mm×内径φ20mm×高さ50mm)および被削性:丸棒状(外径φ60mm)とした。
(2)原料粉末
原料粉末には、表1に示す成分組成を有するガスアトマイズ粉末を用意した。ガスアトマイズ粉末は、1800℃で調製された合金溶湯を、不活性ガス雰囲気に噴霧して製造した。入手したガスアトマイズ粉末を篩い分けにより分級した。こうして粒度:32〜180μmに調整した粉末を肉盛に供した。
(3)肉盛
肉盛は、半導体レーザービーム(LD)を熱源とするレーザークラッド装置(レーザライン製)を用いて行った。照射条件は、出力:2.8kW、移動速度:900mm/min、雰囲気:Nフローとした。こうして、肉盛厚み:約2mm、肉盛幅:約4mm となる半円形状の肉盛部を形成した。
なお、肉盛工程時、原料粉末は約1500℃以上に加熱されて二液相分離状態になった後、基材等への放熱により急冷凝固されて肉盛部となる。このことは、後述する金属組織からもわかる。
《観察・試験》
(1)組織観察
各試料の肉盛部のビード中央部断面を湿式研磨処理して、光学顕微鏡で観察して得られた金属組織を図1A、図1B(両者を併せて単に「図1」という。)に示した。
図1Aに示したマトリックスと硬質粒子の各領域を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られた金属組織を図2に示した。
さらに図2に示したマトリックスと硬質粒子の各領域について、走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察して得られた暗視野像(DF−STEM像)と、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)により得られた各元素の分析結果を図3A、図3B(両者を併せて単に「図3」という。)に示した。
各試料の各部の硬さと、硬質粒子の平均粒径と硫化物粒子の平均サイズを既述した方法により算出した。これらも表1に併せて示した。
(2)耐摩耗性試験
図6に示す試験装置を用いて、各試料の肉盛部からなる模擬的なバルブシートに、表面を窒化処理した耐熱鋼からなるバルブを繰返し離着座させる実機模擬試験を行った。この試験は、バルブ側をバーナー加熱すると共にバルブシート側を水冷することにより、バルブシート近傍の温度(試験温度)を約300℃に保持しつつ行った。その他の試験条件は、対象エンジンの仕様に近いものとした。シート側(試料側)とバルブ側(相手材側)とについて、試験後の摩耗深さを摩耗量として測定した。こうして各試料について得られた各摩耗量を図4に示した。
(3)被削性試験
各試料の肉盛部を超硬刃具で旋削し、その刃具の逃げ面における摩耗量を測定した。このときの加工条件は、被削材(試料)の回転数:2450rpm、刃具送り量:0.075mm/rev、切込み量:3.0mm、切削油:不使用とした。こうして各試料について得られた加工数と逃げ面の摩耗量(相手攻撃性)の関係を図5に示した。なお、ここでいう加工数は、肉盛り部全周のトレース数をカウントしたものである。また逃げ面の摩耗量は、加工数:25毎に刃具先端形状を実体顕微鏡により観察し、摩耗深さを測定した。
《評価》
(1)金属組織
図1から明らかなように、いずれの試料の肉盛部も、マトリックス中に(硬質)粒子が分散した複合組織となっていた。このことから、レーザーで加熱された原料粉末は、溶融して二液相分離状態となった後に、急冷凝固したことがわかる。
図2から明らかなように、試料1の肉盛部には、マトリックスと硬質粒子の両方に、針状晶出物(硫化物粒子)が存在していた。
図3から、その針状晶出物はいずれも、主にチタン硫化物であることがわかった。TEM電子線回折の結果、そのチタン硫化物は主にTiSであることもわかった。なお、SやTiを含まない原料粉末を用いた試料C1や試料C2では、マトリックスや硬質粒子に、そのような針状晶出物は一切観られなかった。
また図3から、マトリックスはCu−Ni−Si系であり、硬質粒子はFe−Mo−Si系であることもわかる。
さらに表1および図1から、硬質粒子はマトリックスよりも遙かに硬く、試料1は試料C2等よりも硬質粒子が大きいこともわかる。
(2)耐摩耗性
図4から明らかなように、試料1は試料C2よりも、少なくともシート側(肉盛部側)の摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることがわかった。この傾向は試験温度に依らない。
(3)被削性
図5から明らかなように、試料1は加工数が増加しても逃げ面の摩耗量が僅かにしか増加していない。従って、試料1の肉盛部は、相手攻撃性が低く、工具寿命の長期化を図れるという点で被削性に優れることがわかる。一方、試料C1は、その摩耗量が加工数に比例して急激に増加し、被削性に劣ることがわかる。
図1〜図5を総合的に考慮すると、試料1は試料C2よりも耐摩耗性が向上している一方で、試料C2と同等な被削性が確保されていることがわかる。このように耐摩耗性と被削性の両立は、マトリックス中または硬質粒子中に分散している硫化物により生じているといえる。

Claims (11)

  1. Cu、Fe、NiおよびSiからなる第1元素群と、
    Mo、WおよびVからなる第2元素群より選択された一種以上の第2元素とを含み、
    溶融時にCuを含む合金液相と第2元素およびFeを含む合金液相とが分離した状態となり得る肉盛合金であって、
    さらに、チタン硫化物を含み、
    全体を100質量%(単に「%」という。)として、下記の組成を満たす銅基合金からなることを特徴とする肉盛合金。
    Fe :3〜20%、
    Ni :5〜30%、
    Si :0.5〜5%、
    第2元素の合計:3〜20%
    チタン硫化物 :0.1〜2%
    残部:Cuおよび不純物
  2. 前記チタン硫化物はTiSを含む請求項1に記載の肉盛合金。
  3. 前記第2元素はMoである請求項1または2に記載の肉盛合金。
  4. 前記銅基合金は、C:0.01〜0.5%をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載の肉盛合金。
  5. 前記銅基合金は、Cr≦1%および/またはCo≦1%である請求項1〜4のいずれかに記載の肉盛合金。
  6. NiおよびSiを含む銅基マトリックスと、
    Siおよび前記第2元素を含み、該銅基マトリックス中に分散している略球状の硬質粒子とを有し、
    前記チタン硫化物は、該銅基マトリックスと該硬質粒子の少なくとも一方に分散している請求項1〜5のいずれかに記載の肉盛合金。
  7. 前記チタン硫化物は、略針状である請求項6に記載の肉盛合金。
  8. 肉盛に供される原料粉末である請求項1〜5のいずれかに記載の肉盛合金。
  9. 基材と、
    該基材に形成された肉盛部と、
    を備えた肉盛部材であって、
    前記肉盛部は、請求項1〜7のいずれかに記載した肉盛合金からなることを特徴とする肉盛部材。
  10. 前記基材は、アルミニウム合金からなる請求項9に記載の肉盛部材。
  11. 前記肉盛部は、内燃機関用のシリンダーヘッドの吸気ポートおよび/または排気ポートに形成されたバルブシートである請求項10に記載の肉盛部材。
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