一般に、上述したようなプロペラシャフトのハイポイドピニオンギヤ及びディファレンシャルギヤのハイポイドリングギヤは、内燃機関の動力を減速した状態で車輪に伝達する関係上、比較的大きなトルクが作用するため、これに対応するために、それらの軸部の径が比較的大きく設定される傾向にある。これにより、従来の動力伝達装置では、その全体の大型化及び重量化を招いてしまう。また、ハイポイドピニオンギヤ及びハイポイドリングギヤの軸部の径が大きいことによって、両者に作用する潤滑油の攪拌抵抗が大きくなり、それにより、車両の効率が悪化してしまう。また、従来の動力伝達装置では、回転している右サイドギヤ及び右後輪の間を第2クラッチで接続するため、第2クラッチに前述したスラスト軸受けが必要であり、その分、動力伝達装置の構成が複雑になってしまう。
また、一般に、前述したようなディファレンシャルギヤでは、ピニオンギヤが常に空転することを想定していないため、ピニオンギヤは軸受けを介してデフケースに支持されておらず、また、ピニオンギヤ及び左サイドギヤは、両者の軸線が互いに直交する関係上、すぐばかさ歯車で構成されている。以上から、ピニオンギヤ及び左サイドギヤのフリクションは、プロペラシャフトなどのフリクションよりは小さいものの、比較的大きい傾向にある。前述したように、従来の動力伝達装置では、前輪駆動モード中、そのようなピニオンギヤ及び左サイドギヤが、左後輪の動力が伝達されることにより常に空転するので、このことによっても、車両の効率が悪化してしまう。同じ理由により、これらのギヤの焼き付きが発生し、ひいては、動力伝達装置の耐久性が低下するおそれがある。
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、小型化、軽量化、構成の簡略化及び耐久性の向上を図ることができるとともに、車両の効率を向上させることができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、前輪WFL、WFR及び後輪WRL、WRRが動力源(実施形態における(以下、本項において同じ)エンジン3)の動力により駆動される車両Vにおいて、動力源の動力を前輪WFL、WFR及び後輪WRL、WRRの一方である左右の車輪(左右の後輪WRL、WRR)に伝達するための動力伝達装置1、21、31であって、動力源に機械的に連結された回転軸16と、動力源と回転軸16の間を接続/遮断するための接断装置(クラッチ13)と、デフケース15aを有するとともに、左右の車輪に機械的に連結され、デフケース15aに伝達された動力を左右の車輪に伝達するように構成されたディファレンシャルギヤ(後輪用ディファレンシャルギヤ15)と、第1回転要素(サンギヤ17a、リングギヤ17d)、第2回転要素(キャリヤ17c)及び第3回転要素(リングギヤ17d、サンギヤ17a)を有し、第1〜第3回転要素の回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように構成され、第1回転要素が回転軸16に機械的に連結されるとともに、第2及び第3回転要素の一方である一方の回転要素(キャリヤ17c、リングギヤ17d)がデフケース15aに機械的に連結された遊星歯車装置17と、第2及び第3回転要素の他方である他方の回転要素(リングギヤ17d、キャリヤ17c、サンギヤ17a)を制動するための制動装置(ブレーキ18)と、を備え、遊星歯車装置17は、他方の回転要素が制動装置で制動されている場合において、動力源の動力が回転軸16を介して第1回転要素に入力されているときに、入力された動力を、減速した状態で一方の回転要素に出力するように構成されていることを特徴とする。
この構成によれば、前輪及び後輪が動力源の動力により駆動される車両において、回転軸が動力源に機械的に連結されており、動力源と回転軸の間が接断装置によって接続/遮断される。また、ディファレンシャルギヤが、前輪及び後輪の一方である左右の車輪に機械的に連結されており、ディファレンシャルギヤのデフケースに伝達された動力は、これらの左右の車輪に伝達される。さらに、遊星歯車装置の第1〜第3回転要素の回転数が、共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たしている。第1回転要素は、回転軸に機械的に連結されるとともに、第2及び第3回転要素の一方である一方の回転要素は、デフケースに連結されており、第2及び第3回転要素の他方である他方の回転要素は、制動装置によって制動される。
以上の構成より、動力源と回転軸の間を接断装置で接続するとともに、他方の回転要素を制動装置で制動すると、動力源からの動力は、回転軸を介して第1回転要素に入力され、第1回転要素に入力された動力は、他方の回転要素に作用する制動装置の制動力を反力として、一方の回転要素に伝達され、さらにディファレンシャルギヤを介して、左右の車輪すなわち前輪及び後輪の一方に伝達される。その結果、この場合には、前輪及び後輪が動力源の動力で駆動されるようになる。また、この場合、第1回転要素に入力された動力は、減速した状態で一方の回転要素に出力され、左右の車輪に伝達される。このように、動力源からの動力を遊星歯車装置で減速した状態で車輪に伝達できるため、動力源と回転軸の間に前述したようなハイポイドピニオンギヤ及びハイポイドリングギヤを設けた場合に、これらの減速比を小さく設定することができる。これにより、両ギヤに作用するトルクが小さくなるため、それに応じて両ギヤの軸部の径を小さく設定することによって、動力伝達装置全体の小型化及び軽量化を図ることができる。同じ理由により、ハイポイドピニオンギヤ及びハイポイドリングギヤに作用する潤滑油の攪拌抵抗を小さくできるので、車両の効率を向上させることができる。
また、動力源と回転軸の間を接断装置で遮断すると、動力源の動力が回転軸を介して左右の車輪に伝達されなくなることによって、左右の車輪すなわち前輪及び後輪の一方が、動力源の動力で駆動されなくなるとともに、回転軸を含む動力伝達装置の各種の回転要素のフリクションが動力源に作用しなくなる。その結果、この場合には、前輪及び後輪の他方のみが動力源の動力で駆動されるようになる。さらに、制動装置による制動を解除すると、それにより他方の回転要素に作用する制動装置の制動力による反力がなくなることと、回転軸及び第1回転要素のフリクションが他方の回転要素のフリクションよりも大きいこととによって、走行する車両の左右の車輪からディファレンシャルギヤを介して一方の回転要素に伝達された動力は、第1回転要素には伝達されず、他方の回転要素に伝達される結果、他方の回転要素が空転する。このように、制動装置による制動を解除することによって、左右の車輪に連結された一方の回転要素から回転軸及び第1回転要素への動力の伝達が、遮断される。以上のように、接断装置による遮断と制動装置による制動の解除とによって、回転軸及び第1回転要素の全体の比較的大きなフリクションが動力源及び左右の車輪に作用するのを防止でき、それにより、車両の効率を向上させることができる。
この場合、上述したように、前述した従来の動力伝達装置と異なり、回転軸及び第1回転要素とディファレンシャルギヤとの間の動力の伝達が遮断され、ディファレンシャルギヤと左右の車輪の連結は保たれるので、この遮断に起因して、ディファレンシャルギヤを構成する各種のギヤが常に空転するという状況が発生しない。また、この場合、上述したように遊星歯車装置の他方の回転要素が空転するものの、遊星歯車装置の各種の回転要素を構成する各種のギヤは、それらの軸線が互いに平行に延びる関係上、前述したディファレンシャルギヤのサイドギヤ及びピニオンギヤとは異なり、すぐばかさ歯車では構成されず、平歯車などで構成されるので、そのフリクションが比較的小さい傾向にある。以上より、車両の効率をさらに向上させることができる。また、遊星歯車装置は既存技術であるため、他方の回転要素の空転による焼き付きを容易に抑制でき、それにより、動力伝達装置全体の耐久性を向上させることができる。
さらに、上述したように、回転軸及び第1回転要素とディファレンシャルギヤとの間における動力の伝達の接続/遮断を、前述した従来の動力伝達装置と異なり、制動装置の制動/制動の解除により行えるので、制動装置を構成するにあたって、前述したような従来の第2クラッチのスラスト軸受けは不要であり、その分、動力伝達装置の構成を簡略化することができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の動力伝達装置1において、遊星歯車装置17は、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置であり、第1回転要素としてのサンギヤ17aと、第2回転要素及び一方の回転要素としてのキャリヤ17cと、第3回転要素及び他方の回転要素としてのリングギヤ17dを有することを特徴とする。
この構成によれば、遊星歯車装置は、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置であり、第1回転要素としてのサンギヤと、第2回転要素及び一方の回転要素としてのキャリヤと、第3回転要素及び他方の回転要素としてのリングギヤを有している。したがって、動力源からサンギヤに入力された動力を、リングギヤに作用する制動装置の制動力を反力として、減速した状態でキャリヤに出力することができ、ひいては、請求項1に係る発明による前述した効果、すなわち、動力伝達装置全体の小型化、軽量化及び車両の効率の向上を図れるという効果を有効に得ることができる。
また、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いるので、請求項1に係る発明の説明で述べたように他方の回転要素としてのリングギヤの空転に伴ってピニオンギヤが空転しているときに、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いた場合と比較して、この空転によるフリクションを小さくでき、ひいては、車両の効率をさらに向上させることができる。
さらに、他方の回転要素としてのリングギヤを制動することにより遊星歯車装置を介した動力の伝達を接続するので、キャリヤを制動する場合と比較して、制動装置が受け持つ反力を小さくでき、それに応じて制動装置の小型化を図ることができる。
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の動力伝達装置21において、遊星歯車装置17は、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置であり、第1回転要素としてのサンギヤ17aと、第2回転要素及び他方の回転要素としてのキャリヤ17cと、第3回転要素及び一方の回転要素としてのリングギヤ17dを有することを特徴とする。
この構成によれば、遊星歯車装置は、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置であり、第1回転要素としてのサンギヤと、第2回転要素及び他方の回転要素としてのキャリヤと、第3回転要素及び一方の回転要素としてのリングギヤを有している。したがって、動力源からサンギヤに入力された動力を、キャリヤに作用する制動装置の制動力を反力として、減速した状態でリングギヤに出力することができ、ひいては、請求項1に係る発明による前述した効果、すなわち、動力伝達装置全体の小型化、軽量化及び車両の効率の向上を図れるという効果を有効に得ることができる。
また、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いるので、請求項1に係る発明の説明で述べたように他方の回転要素としてのキャリヤの空転に伴ってピニオンギヤが空転しているときに、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いた場合と比較して、この空転によるフリクションを小さくでき、ひいては、車両の効率をさらに向上させることができる。
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の動力伝達装置31において、遊星歯車装置17は、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置であり、第1回転要素としてのリングギヤ17dと、第2回転要素及び一方の回転要素としてのキャリヤ17cと、第3回転要素及び他方の回転要素としてのサンギヤ17aを有することを特徴とする。
この構成によれば、遊星歯車装置は、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置であり、第1回転要素としてのリングギヤと、第2回転要素及び一方の回転要素としてのキャリヤと、第3回転要素及び他方の回転要素としてのサンギヤを有している。したがって、動力源からリングギヤに入力された動力を、サンギヤに作用する制動装置の制動力を反力として、減速した状態でキャリヤに出力することができ、ひいては、請求項1に係る発明による前述した効果、すなわち、動力伝達装置全体の小型化、軽量化及び車両の効率の向上を図れるという効果を有効に得ることができる。
また、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いるので、請求項1に係る発明の説明で述べたように他方の回転要素としてのサンギヤの空転に伴ってピニオンギヤが空転しているときに、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いた場合と比較して、この空転によるフリクションを小さくでき、ひいては、車両の効率をさらに向上させることができる。
さらに、他方の回転要素としてのサンギヤを制動することにより遊星歯車装置を介した動力の伝達を接続するので、キャリヤを制動する場合と比較して、制動装置が受け持つ反力を小さくでき、それに応じて制動装置の小型化を図ることができる。
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の動力伝達装置1、21、31において、一方の回転要素がデフケース15aに一体に設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、一方の回転要素がデフケースに一体に設けられているので、両者を互いに別個に設けるとともにギヤなどを介して連結する場合と比較して、動力伝達装置全体を小型化することができる。
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の動力伝達装置1、21、31において、動力源は車両Vの前部に設けられ、ディファレンシャルギヤが機械的に連結された左右の車輪は、左右の後輪WRL、WRRであり、前後方向に延びるとともに、前端部が動力源に機械的に連結されたプロペラシャフト14と、プロペラシャフト14の後端部に一体に設けられたハイポイドピニオンギヤ(第2ハイポイドピニオンギヤ14b)と、回転軸16に一体に設けられるとともに、ハイポイドピニオンギヤに噛み合うハイポイドリングギヤ(第2ハイポイドリングギヤ16a)と、をさらに備え、接断装置は、動力源とプロペラシャフト14及び回転軸16との間を接続/遮断するように構成されていることを特徴とする。
この構成によれば、動力源が車両の前部に設けられており、ディファレンシャルギヤが、左右の後輪に機械的に連結されている。また、前後方向に延びるプロペラシャフトの前端部が動力源に機械的に連結されており、プロペラシャフトの後端部には、ハイポイドピニオンギヤが一体に設けられている。さらに、ハイポイドリングギヤが、回転軸に一体に設けられるとともに、ハイポイドピニオンギヤに噛み合っている。以上のように、動力源は、プロペラシャフトに連結され、さらにハイポイドピニオンギヤ、ハイポイドリングギヤ、回転軸、遊星歯車装置、及びディファレンシャルギヤを介して、左右の後輪に連結されている。
また、動力源とプロペラシャフト及び回転軸との間が接断装置により接続/遮断される。以上の構成より、動力源とプロペラシャフト及び回転軸との間を接断装置により接続するとともに、遊星歯車装置の他方の回転要素を制動装置で制動すると、動力源の動力が左右の後輪すなわち前輪及び後輪の一方に伝達され、その結果、この場合には、前輪及び後輪が動力源の動力で駆動されるようになる。さらに、動力源とプロペラシャフト及び回転軸との間を接断装置により遮断するとともに、制動装置による他方の回転要素の制動を解除すると、動力源の動力が後輪に伝達されなくなり、その結果、この場合には、前輪のみが動力源の動力で駆動されるようになる。この場合、接断装置による遮断と制動装置による制動の解除とによって、プロペラシャフト、ハイポイドピニオンギヤ、ハイポイドリングギヤ、回転軸及び第1回転要素のフリクションが、動力源及び後輪に作用しなくなるので、請求項1に係る発明で説明したディファレンシャルギヤの各種のギヤの空転防止と相まって、車両の効率をさらに向上させることができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による動力伝達装置1を、これを適用した車両Vとともに概略的に示している。この車両Vは、全輪駆動式の四輪車両であり、左右の前輪WFL、WFRと、左右の後輪WRL、WRRを有している。また、車両Vの前部には、動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)3と、エンジン3の動力を変速するための変速装置4が設けられている。エンジン3は、例えば複数の気筒(図示せず)を有するガソリンエンジンである。変速装置4は、例えば有段式の自動変速装置であって、その入力軸がエンジン3のクランク軸(いずれも図示せず)に機械的に連結されており、エンジン3の動力は、変速装置4の入力軸に伝達され、さらに、変速された状態で出力軸に伝達される。変速装置4の出力軸には、ギヤ4aが同軸状に一体に設けられている。
また、車両Vの前部には、前輪用ディファレンシャルギヤ5が設けられている。前輪用ディファレンシャルギヤ5は、一般的なものであり、デフケース5aと、デフケース5aに同軸状に一体に設けられたリングギヤ5bと、デフケース5aに回転自在に支持された複数のピニオンギヤ5c(2つのみ図示)と、ピニオンギヤ5cに噛み合う左右のサイドギヤ5d、5eなどで構成されている。リングギヤ5bは、変速装置4のギヤ4aに噛み合っている。また、左サイドギヤ5dは、左前駆動軸SFLを介して、左前輪WFLに機械的に連結されており、右サイドギヤ5eは、右前駆動軸SFRを介して、右前輪WFRに機械的に連結されている。ピニオンギヤ5c及び左右のサイドギヤ5d、5eは、例えばすぐばかさ歯車で構成されている。
以上の構成により、エンジン3の動力は、変速装置4、ギヤ4a、リングギヤ5bを介してデフケース5aに伝達され、さらに、ピニオンギヤ5c、左右のサイドギヤ5d、5e及び左右の前駆動軸SFL、SFRをそれぞれ介して、左右の前輪WFL、WFRに伝達される。
動力伝達装置1は、エンジン3の動力を左右の後輪WRL、WRRに伝達するためのものであり、図1に示すように、左右方向に延びる中空の第1回転軸11及び第2回転軸12と、第1及び第2回転軸11、12の間を接続/遮断するためのクラッチ13と、第2回転軸12に連結されたプロペラシャフト14を備えている。第1回転軸11の左端部は、上述した前輪用ディファレンシャルギヤ5のケース5aに同軸状に取り付けられており、その内側には、右前駆動軸SFRが回転自在に嵌合している。第1回転軸11の右端部には、周方向に並んだ多数のドグ歯が設けられている。
上記の第2回転軸12は、第1回転軸11と同軸状に、かつ、その左端部が第1回転軸11の右端部と対向するように配置されており、その内側には、右前駆動軸SFRが回転自在に嵌合している。第2回転軸12の右端部には、例えばはすばかさ歯車で構成された第1ハイポイドリングギヤ12aが同軸状に一体に設けられている。クラッチ13は、例えばシンクロクラッチであり、本出願人による特許第3712660号に開示されたものと同様に構成されているので、その構成及び動作について以下、簡単に説明する。
クラッチ13は、第2回転軸12の左端部に、相対的に回転不能にかつ軸線方向に移動可能に設けられたリング状のスリーブ13aと、スリーブ13aを第2回転軸12に対して軸線方向に駆動するためのアクチュエータ13bを有している。スリーブ13aは、その内周面に、軸線方向に延びるとともに、周方向に並んだ多数のスプライン歯(図示せず)が形成されている。アクチュエータ13bは、例えば電磁式のものであり、その動作が後述するECU2によって制御される(図3参照)。
クラッチ13では、アクチュエータ13bで駆動されたスリーブ13aが図1に示すニュートラル位置にあるときには、スリーブ13aのスプライン歯が第1回転軸11の前述したドグ歯と噛み合わず(係合せず)、それにより、第1及び第2回転軸11、12の間が遮断される。一方、アクチュエータ13bで駆動されたスリーブ13aが噛み合い位置(図示せず)にあるときには、スリーブ13aのスプライン歯が第1回転軸11のドグ歯と噛み合い(係合し)、それにより、第1及び第2回転軸11、12の間が接続される。以上のように、クラッチ13による第1及び第2回転軸11、12の間の接続/遮断は、ECU2により、クラッチ13のアクチュエータ13bを介して制御される。
前記プロペラシャフト14は、前後方向に延びており、その前端部には、第1ハイポイドピニオンギヤ14aが同軸状に一体に設けられている。第1ハイポイドピニオンギヤ14aは、例えばはすばかさ歯車で構成されており、前述した第2回転軸12の第1ハイポイドリングギヤ12aに、左方から噛み合っている。また、図2に示すように、プロペラシャフト14の後端部には、第2ハイポイドピニオンギヤ14bが同軸状に一体に設けられており、第2ハイポイドピニオンギヤ14bは、第1ハイポイドピニオンギヤ14aと同様、例えばはすばかさ歯車で構成されている。
さらに、図1及び図2に示すように、動力伝達装置1は、ケースCAに収容された後輪用ディファレンシャルギヤ15、回転軸16、遊星歯車装置17及びブレーキ18を備えている。ケースCAは、車両Vのシャーシ(図示せず)に固定されており、その内部には、後輪用ディファレンシャルギヤ15や遊星歯車装置17などを潤滑するための潤滑油が充填されている。後輪用ディファレンシャルギヤ15は、前輪用ディファレンシャルギヤ5と同様に構成されており、デフケース15aと、デフケース15aに回転自在に支持された複数のピニオンギヤ15b(2つのみ図示)と、ピニオンギヤ15bに噛み合う左右のサイドギヤ15c、15dなどで構成されている。左サイドギヤ15cは、左後駆動軸SRLを介して、左後輪WRLに機械的に連結されており、右サイドギヤ15dは、右後駆動軸SRRを介して、右後輪WRRに機械的に連結されている。ピニオンギヤ15b及び左右のサイドギヤ15c、15dは、例えばすぐばかさ歯車で構成されている。
回転軸16は、中空状に形成されており、その内側には、左後駆動軸SRLが同軸状に回転自在に嵌合している。また、回転軸16の左端部には、第2ハイポイドリングギヤ16aが同軸状に一体に設けられており、第2ハイポイドリングギヤ16aは、例えばはすばかさ歯車で構成され、前述したプロペラシャフト14の第2ハイポイドピニオンギヤ14bに、左方から噛み合っている。第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aは、エンジン3の動力を減速して左右の後輪WRL、WRRに伝達するための減速ギヤとして構成されている。
前記遊星歯車装置17は、シングルピニオンタイプのものであり、回転軸16の右端部に同軸状に一体に設けられたサンギヤ17aと、サンギヤ17aと噛み合う複数のピニオンギヤ17b(2つのみ図示)と、ピニオンギヤ17bを回転自在に支持するキャリヤ17cと、サンギヤ17aの外周に設けられ、ピニオンギヤ17bと噛み合うリングギヤ17dを有している。キャリヤ17cは、後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15aに同軸状に一体に設けられている。サンギヤ17a、ピニオンギヤ17b及びリングギヤ17dは、例えば平歯車で構成されており、ピニオンギヤ17bは、キャリヤ17cに軸受け(図示せず)を介して支持されている。
ブレーキ18は、上述した遊星歯車装置17のリングギヤ17dを制動するためのものであって、多板式の摩擦クラッチなどで構成されており、多数のクラッチ板が設けられたリング状のインナー18aと、多数のクラッチ板が設けられたリング状のアウター18bと、アウター18bを駆動するためのアクチュエータ18cを有している。インナー18aのクラッチ板と、アウター18bのクラッチ板は、軸線方向に交互に配置されている。また、インナー18aは、リングギヤ17dの外周面に同軸状に取り付けられている。アウター18bは、前記ケースCAに軸線方向に移動可能にかつ回転不能に設けられており、リターンスプリング(図示せず)で付勢されることによって、図2に示す解放位置に保持されている。アクチュエータ18cは、例えば電磁式のものであり、その動作がECU2によって制御される(図3参照)。
ブレーキ18では、アウター18bが図2に示す解放位置にあるときには、インナー18aのクラッチ板及びアウター18bのクラッチ板が互いに係合せず、それにより、ブレーキ18によるリングギヤ17dの制動が解除される。また、アクチュエータ18cで駆動されたアウター18bが、リターンスプリングの付勢力に抗して係合位置(図示せず)に位置しているときには、回転不能なアウター18bのクラッチ板が、リングギヤ17dと一体のインナー18aのクラッチ板に押しつけられ、係合することによって、リングギヤ17dが制動される。以上のように、ブレーキ18によるリングギヤ17dの制動及び制動の解除は、ECU2により、ブレーキ18のアクチュエータ18cを介して制御される。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAM及びROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されており、ROMに記憶された制御プログラムに従って、アクチュエータ13b及び18cを制御する。
以上の構成の動力伝達装置1では、その動作モードとして、前輪WFL、WFR及び後輪WRL、WRRをすべて駆動する際に用いられる全輪駆動モードと、前輪WFL、WFRのみを駆動する際に用いられる前輪駆動モードが設定されている。以下、これらの全輪駆動モード及び前輪駆動モードにおける動力伝達装置1の動作について説明する。
[全輪駆動モード]
全輪駆動モード中には、クラッチ13により第1及び第2回転軸11、12の間が接続されるとともに、ブレーキ18によりリングギヤ17dが回転不能に制動される。変速装置4を介して前輪用ディファレンシャルギヤ5のデフケース5aに伝達されたエンジン3からの動力は、ピニオンギヤ5cや左右のサイドギヤ5d、5eなどをそれぞれ介して、左右の前輪WFL、WFRに伝達される。
また、デフケース5aに伝達されたエンジン3からの動力は、第1回転軸11及びクラッチ13を介して第2回転軸12に伝達され、第1ハイポイドリングギヤ12a、第1ハイポイドピニオンギヤ14a、プロペラシャフト14、第2ハイポイドピニオンギヤ14b、第2ハイポイドリングギヤ16a、回転軸16を介して、遊星歯車装置17のサンギヤ17aに伝達される。サンギヤ17aに伝達されたエンジン3からの動力は、リングギヤ17dに作用するブレーキ18の制動力を反力として、ピニオンギヤ17b及びキャリヤ17cを介して、後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15aに伝達され、さらに、ピニオンギヤ15b、左右のサイドギヤ15c、15d及び左右の後駆動軸SRL、SRRをそれぞれ介して、左右の後輪WRL、WRRに伝達される。
全輪駆動モード中、上述した動作から明らかなように、サンギヤ17aに伝達されたエンジン3からの動力は、減速した状態でキャリヤ17cを介して後輪用ディファレンシャルギヤ15に伝達される。この場合、サンギヤ17aの歯数をZsとし、リングギヤ17dの歯数をZrとすると、減速比(サンギヤ17aの回転数/キャリヤ17cの回転数)は、1+Zr/Zsである。このように、全輪駆動モード中、エンジン3からの動力が遊星歯車装置17により減速した状態で左右の後輪WRL、WRRに伝達されるため、前述した第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aの減速比は、それに応じて比較的小さな値に設定されている。
[前輪駆動モード]
前輪駆動モード中には、クラッチ13により第1及び第2回転軸11、12の間が遮断されるとともに、ブレーキ18によるリングギヤ17dの制動が解除される。クラッチ13による第1及び第2回転軸11、12の間の遮断によって、動力伝達装置1のうちの第2回転軸12から後輪WRL、WRR側の動力伝達経路に、エンジン3からの動力が伝達されなくなり、エンジン3からの動力は、前輪WFL、WFRにのみ伝達される。また、後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15a、及びこれと一体の遊星歯車装置17のキャリヤ17cには、走行する車両Vの後輪WRL、WRRから動力が伝達される。
この場合、サンギヤ17aと、サンギヤ17aに連結された各種の回転要素、すなわち、回転軸16、第2ハイポイドリングギヤ16a、第2ハイポイドピニオンギヤ14b、プロペラシャフト14、第1ハイポイドピニオンギヤ14a、第1ハイポイドリングギヤ12a、及び第2回転軸12とから成る動力伝達経路全体のフリクションは、リングギヤ17d及びブレーキ18のインナー18aに作用するフリクションよりも大きい。このことと、ブレーキ18によるリングギヤ17dの制動が解除されていることとによって、車両Vの後輪WRL、WRRからキャリヤ17cに伝達された動力は、サンギヤ17aには伝達されず、ピニオンギヤ17bを介してリングギヤ17dに伝達され、それにより、リングギヤ17d及びインナー18aが空転する。このように、ブレーキ18によるリングギヤ17dの制動を解除することによって、左右の後輪WRL、WRRに連結されたキャリヤ17cから、サンギヤ17aや回転軸16、プロペラシャフト14などの動力伝達経路への動力の伝達が、遮断される。
なお、全輪駆動モードから前輪駆動モードに動作モードを変更する場合には、クラッチ13による遮断とブレーキ18による制動の解除が、併行して行われる。また、前輪駆動モードから全輪駆動モードに動作モードを変更する場合には、まず、ブレーキ18による制動を行い、それにより後輪WRL、WRRの動力を、サンギヤ17aや、回転軸16、プロペラシャフト14、第2回転軸12に伝達した後に、クラッチ13による接続が行われる。
また、第1実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第1実施形態におけるクラッチ13及びブレーキ18が、本発明における接断装置及び制動装置にそれぞれ相当する。また、第1実施形態におけるサンギヤ17a、キャリヤ17c及びリングギヤ17dが、本発明における第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素にそれぞれ相当するとともに、キャリヤ17c及びリングギヤ17dが、本発明における一方の回転要素及び他方の回転要素にそれぞれ相当する。さらに、第1実施形態における左右の後輪WRL、WRRが、本発明における左右の車輪に相当する。
以上のように、第1実施形態によれば、前輪WFL、WFR及び後輪WRL、WRRがエンジン3の動力により駆動される車両Vにおいて、エンジン3が、プロペラシャフト14に連結され、さらに第2ハイポイドピニオンギヤ14b、第2ハイポイドリングギヤ16a、回転軸16、遊星歯車装置17、及び後輪用ディファレンシャルギヤ15を介して、左右の後輪WRL、WRRに連結されている。また、遊星歯車装置17のサンギヤ17aが回転軸16に一体に設けられ、キャリヤ17cが後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15aに一体に設けられるとともに、変速装置4とプロペラシャフト14の間がクラッチ13により接続/遮断され、リングギヤ17dがブレーキ18で制動される。
全輪駆動モード中、前述したように、エンジン3と、第2回転軸12、プロペラシャフト14及び回転軸16との間がクラッチ13により接続されるとともに、リングギヤ17dがブレーキ18で制動される。これにより、エンジン3の動力は、車両Vの左右の前輪WFL、WFRに加え、左右の後輪WRL、WRRに伝達され、ひいては、これらの前後左右の車輪WFL、WFR、WRL、WRRが駆動される。
また、全輪駆動モード中には、エンジン3からサンギヤ17aに入力された動力は、減速した状態でキャリヤ17cに出力され、左右の後輪WRL、WRRに伝達される。このため、第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aの減速比は、それに応じて比較的小さな値に設定されている。したがって、第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aに作用するトルクが小さくなるため、それに応じて両ギヤ14b、16aの軸部の径を小さく設定することによって、動力伝達装置1全体の小型化及び軽量化を図ることができる。同じ理由により、第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aに作用する潤滑油の攪拌抵抗を小さくできるので、車両Vの効率を向上させることができる。
また、前輪駆動モード中には、前述したように、エンジン3と、第2回転軸12、プロペラシャフト14及び回転軸16との間をクラッチ13により遮断するとともに、ブレーキ18によるリングギヤ17dの制動を解除することによって、エンジン3の動力は前輪WFL、WFRにのみ伝達され、前輪WFL、WFRのみが駆動される。この場合、クラッチ13による遮断及びブレーキ18による制動の解除によって、第2回転軸12、第1ハイポイドリングギヤ12a、第1ハイポイドピニオンギヤ14a、プロペラシャフト14、第2ハイポイドピニオンギヤ14b、第2ハイポイドリングギヤ16a、回転軸16及びサンギヤ17aから成る動力伝達経路の比較的大きなフリクションが、エンジン3及び後輪WRL、WRRに作用しなくなるので、車両Vの効率をさらに向上させることができる。
また、この場合、前述した従来の動力伝達装置と異なり、回転軸16及びサンギヤ17aと後輪用ディファレンシャルギヤ15との間の動力の伝達が遮断され、後輪用ディファレンシャルギヤ15と後輪WRL、WRRの連結は保たれるので、この遮断に起因して、後輪用ディファレンシャルギヤ15を構成する各種のギヤが常に空転するという状況が発生しない。さらに、この場合、前述したように、遊星歯車装置17のリングギヤ17dが空転するものの、遊星歯車装置17の各種の回転要素を構成する各種のギヤは、それらの軸線が互いに平行に延びる関係上、前述した後輪用ディファレンシャルギヤ15のピニオンギヤ15b及びサイドギヤ15c、15dとは異なり、すぐばかさ歯車では構成されず、平歯車などで構成されるので、そのフリクションが比較的小さい傾向にある。以上より、車両Vの効率をさらに向上させることができる。また、遊星歯車装置17は既存技術であるため、リングギヤ17dの空転による焼き付きを容易に抑制でき、それにより、動力伝達装置1全体の耐久性を向上させることができる。
さらに、回転軸16及びサンギヤ17aと後輪用ディファレンシャルギヤ15との間における動力の伝達の接続/遮断を、前述した従来の動力伝達装置と異なり、ブレーキ18の制動/制動の解除により行えるので、ブレーキ18を構成するにあたって、前述したような従来の第2クラッチのスラスト軸受けは不要であり、その分、動力伝達装置1の構成を簡略化することができる。
また、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置17を用いるので、リングギヤ17dの空転に伴ってピニオンギヤ17bが空転しているときに、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いた場合と比較して、この空転によるフリクションを小さくでき、ひいては、車両Vの効率をさらに向上させることができる。さらに、リングギヤ17dを制動することにより遊星歯車装置17を介した動力の伝達を接続するので、キャリヤ17cを制動する場合と比較して、ブレーキ18が受け持つ反力を小さくでき、それに応じてブレーキ18の小型化を図ることができる。
また、キャリヤ17cがデフケース15aに一体に設けられているので、両者17c、15aを互いに別個に設けるとともにギヤなどを介して連結する場合と比較して、動力伝達装置1全体を小型化することができる。
次に、図4を参照しながら、本発明の第2実施形態による動力伝達装置21について説明する。この動力伝達装置21は、第1実施形態と比較して、遊星歯車装置17のキャリヤ17cがブレーキ18のインナー18aに、リングギヤ17dが後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15aに、それぞれ同軸状に一体に設けられている点が、主に異なっている。図4において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図4に示すように、回転軸16の第2ハイポイドリングギヤ16aは、第1実施形態の場合と異なり、プロペラシャフト14の第2ハイポイドリングギヤ14bに右方から噛み合っている。これは次の理由による。すなわち、第2実施形態では、上述した構成の相違から明らかなように、サンギヤ17aに入力されたエンジン3からの動力は、キャリヤ17cに作用するブレーキ18の制動力を反力として、ピニオンギヤ17bを介してリングギヤ17dに伝達され、さらに後輪用ディファレンシャルギヤ15などを介して、左右の後輪WRL、WRRに伝達される。この場合、エンジン3からの動力がサンギヤ17aからピニオンギヤ17bを介してリングギヤ17dに伝達される際に、動力の回転方向が逆方向に変更されるためである。
動力伝達装置21では、第1実施形態と同様、その動作モードとして、全輪駆動モード及び前輪駆動モードが設定されている。以下、これらの動作モードにおける動力伝達装置21の動作について説明する。
[全輪駆動モード]
全輪駆動モード中には、クラッチ13(図1参照)により第1及び第2回転軸11、12の間が接続されるとともに、ブレーキ18によりキャリヤ17cが回転不能に制動される。前輪用ディファレンシャルギヤ5のデフケース5aに伝達されたエンジン3の動力は、第1実施形態と同様、第1回転軸11及びクラッチ13を介して第2回転軸12に伝達され、プロペラシャフト14や回転軸16を介して、遊星歯車装置17のサンギヤ17aに伝達される。サンギヤ17aに伝達されたエンジン3からの動力は、キャリヤ17cに作用するブレーキ18の制動力を反力として、ピニオンギヤ17b及びリングギヤ17dを介して、後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15aに伝達され、さらに、ピニオンギヤ15bや左右のサイドギヤ15c、15dなどをそれぞれ介して、左右の後輪WRL、WRRに伝達される。
全輪駆動モード中、上述した動作から明らかなように、サンギヤ17aに伝達されたエンジン3からの動力は、減速した状態でリングギヤ17dを介して後輪用ディファレンシャルギヤ15に伝達される。この場合の減速比(サンギヤ17aの回転数/リングギヤ17dの回転数)は、Zr/Zsである。このように、第1実施形態と同様、全輪駆動モード中、エンジン3からの動力が遊星歯車装置17により減速した状態で左右の後輪WRL、WRRに伝達されるため、第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aの減速比は、それに応じて比較的小さな値に設定されている。
[前輪駆動モード]
前輪駆動モード中には、クラッチ13により第1及び第2回転軸11、12の間が遮断されるとともに、ブレーキ18によるキャリヤ17cの制動が解除される。クラッチ13による第1及び第2回転軸11、12の間の遮断によって、第1実施形態と同様、動力伝達装置21のうちの第2回転軸12から後輪WRL、WRR側の動力伝達経路に、エンジン3からの動力が伝達されなくなる。一方、後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15a、及びこれと一体の遊星歯車装置17のリングギヤ17dには、走行する車両Vの後輪WRL、WRRから動力が伝達される。
この場合、サンギヤ17aから第2回転軸12までの動力伝達経路全体のフリクションは、キャリヤ17c及びブレーキ18のインナー18aに作用するフリクションよりも大きい。このことと、ブレーキ18によるキャリヤ17cの制動が解除されていることから、車両Vの後輪WRL、WRRからリングギヤ17dに伝達された動力は、サンギヤ17aには伝達されず、ピニオンギヤ17bを介してキャリヤ17cに伝達され、それにより、キャリヤ17c及びインナー18aが空転する。このように、ブレーキ18によるキャリヤ17cの制動を解除することによって、左右の後輪WRL、WRRに連結されたリングギヤ17dから、サンギヤ17aや回転軸16、プロペラシャフト14などの動力伝達経路への動力の伝達が、遮断される。
また、第2実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第2実施形態におけるキャリヤ17c及びリングギヤ17dが、本発明における他方の回転要素及び一方の回転要素にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1実施形態と同様である。
以上のように、第2実施形態によれば、全輪駆動モード中、エンジン3からサンギヤ17aに入力された動力は、減速した状態でリングギヤ17dに出力され、左右の後輪WRL、WRRに伝達される。このため、第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aの減速比は、それに応じて比較的小さな値に設定されている。したがって、第1実施形態と同様、動力伝達装置21全体の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、車両Vの効率を向上させることができる。
また、前輪駆動モード中、クラッチ13による遮断及びブレーキ18による制動の解除によって、第1実施形態と同様、第2回転軸12、第1ハイポイドリングギヤ12a、第1ハイポイドピニオンギヤ14a、プロペラシャフト14、第2ハイポイドピニオンギヤ14b、第2ハイポイドリングギヤ16a、回転軸16及びサンギヤ17aから成る動力伝達経路の比較的大きなフリクションが、エンジン3及び後輪WRL、WRRに作用しなくなるので、車両Vの効率をさらに向上させることができる。
この場合、第1実施形態と同様、後輪用ディファレンシャルギヤ15と後輪WRL、WRRの連結が保たれるので、この遮断に起因して、後輪用ディファレンシャルギヤ15を構成する各種のギヤが常に空転するという状況が発生しない。また、この場合、前述したように、遊星歯車装置17のキャリヤ17c及びピニオンギヤ17bが空転するものの、遊星歯車装置17の各種のギヤのフリクションは、比較的小さい傾向にある。以上より、車両Vの効率をさらに向上させることができる。また、遊星歯車装置17は既存技術であるため、キャリヤ17cの空転による焼き付きを容易に抑制でき、それにより、動力伝達装置21全体の耐久性を向上させることができる。
さらに、第1実施形態と同様、回転軸16及びサンギヤ17aと後輪用ディファレンシャルギヤ15との間における動力の伝達の接続/遮断を、ブレーキ18の制動/制動の解除により行えるので、動力伝達装置21の構成を簡略化することができる。また、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置17を用いるので、キャリヤ17cの空転に伴ってピニオンギヤ17bが空転しているときに、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いた場合と比較して、この空転によるフリクションを小さくでき、ひいては、車両Vの効率をさらに向上させることができる。さらに、リングギヤ17dがデフケース15aに一体に設けられているので、動力伝達装置21全体を小型化することができる。
次に、図5を参照しながら、本発明の第3実施形態による動力伝達装置31について説明する。この動力伝達装置31は、第1実施形態と比較して、遊星歯車装置17のリングギヤ17dが回転軸16に、キャリヤ17cが後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15aに、サンギヤ17aがブレーキ18のインナー18aに、それぞれ同軸状に一体に設けられている点が異なっており、その他の構成については、第1実施形態と同様である。図5において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。
動力伝達装置31では、第1実施形態と同様、その動作モードとして、全輪駆動モード及び前輪駆動モードが設定されており、上述した第1実施形態との構成の相違から、これらの動作モードにおける動力伝達装置31の動作も若干、異なっている。
[全輪駆動モード]
全輪駆動モード中には、クラッチ13(図1参照)により第1及び第2回転軸11、12の間が接続されるとともに、ブレーキ18によりサンギヤ17aが回転不能に制動される。前輪用ディファレンシャルギヤ5のデフケース5aに伝達されたエンジン3の動力は、第1回転軸11及びクラッチ13を介して第2回転軸12に伝達され、プロペラシャフト14や回転軸16を介して、遊星歯車装置17のリングギヤ17dに伝達される。リングギヤ17dに伝達されたエンジン3からの動力は、サンギヤ17aに作用するブレーキ18の制動力を反力として、ピニオンギヤ17b及びキャリヤ17cを介して、後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15aに伝達され、さらに、ピニオンギヤ15bや左右のサイドギヤ15c、15dなどをそれぞれ介して、左右の後輪WRL、WRRに伝達される。
全輪駆動モード中、上述した動作から明らかなように、リングギヤ17dに伝達されたエンジン3からの動力は、減速した状態でキャリヤ17cを介して後輪用ディファレンシャルギヤ15に伝達される。この場合の減速比(リングギヤ17dの回転数/キャリヤ17cの回転数)は、1+Zs/Zrである。このように、第1実施形態と同様、全輪駆動モード中、エンジン3からの動力が遊星歯車装置17により減速した状態で左右の後輪WRL、WRRに伝達されるため、第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aの減速比は、それに応じて比較的小さな値に設定されている。
[前輪駆動モード]
前輪駆動モード中には、クラッチ13により第1及び第2回転軸11、12の間が遮断されるとともに、ブレーキ18によるサンギヤ17aの制動が解除される。クラッチ13による第1及び第2回転軸11、12の間の遮断によって、第1実施形態と同様、動力伝達装置31のうちの第2回転軸12から後輪WRL、WRR側の動力伝達経路に、エンジン3からの動力が伝達されなくなる。一方、後輪用ディファレンシャルギヤ15のデフケース15a、及びこれと一体の遊星歯車装置17のキャリヤ17cには、走行する車両Vの後輪WRL、WRRから動力が伝達される。
この場合、リングギヤ17dから第2回転軸12までの動力伝達経路全体のフリクションは、サンギヤ17a及びブレーキ18のインナー18aに作用するフリクションよりも大きい。このことと、ブレーキ18によるサンギヤ17aの制動が解除されていることから、車両Vの後輪WRL、WRRからキャリヤ17cに伝達された動力は、リングギヤ17dには伝達されず、ピニオンギヤ17bを介してサンギヤ17aに伝達され、それにより、サンギヤ17a及びインナー18aが空転する。このように、ブレーキ18によるサンギヤ17aの制動を解除することによって、左右の後輪WRL、WRRに連結されたキャリヤ17cから、リングギヤ17dや回転軸16、プロペラシャフト14などの動力伝達経路への動力の伝達が、遮断される。
また、第3実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第3実施形態におけるリングギヤ17d、キャリヤ17c及びサンギヤ17aが、本発明における第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素にそれぞれ相当するとともに、キャリヤ17c及びサンギヤ17aが、本発明における一方の回転要素及び他方の回転要素にそれぞれ相当する。その他の対応関係については、第1実施形態と同様である。
以上のように、第3実施形態によれば、全輪駆動モード中、エンジン3からリングギヤ17dに入力された動力は、減速した状態でサンギヤ17aに出力され、左右の後輪WRL、WRRに伝達される。このため、第2ハイポイドピニオンギヤ14b及び第2ハイポイドリングギヤ16aの減速比は、それに応じて比較的小さな値に設定されている。したがって、第1実施形態と同様、動力伝達装置31全体の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、車両Vの効率を向上させることができる。
また、前輪駆動モード中、クラッチ13による遮断及びブレーキ18による制動の解除によって、第2回転軸12、第1ハイポイドリングギヤ12a、第1ハイポイドピニオンギヤ14a、プロペラシャフト14、第2ハイポイドピニオンギヤ14b、第2ハイポイドリングギヤ16a、回転軸16及びリングギヤ17dから成る動力伝達経路の比較的大きなフリクションが、エンジン3及び後輪WRL、WRRに作用しなくなるので、車両Vの効率をさらに向上させることができる。
この場合、第1実施形態と同様、後輪用ディファレンシャルギヤ15と後輪WRL、WRRの連結が保たれるので、この遮断に起因して、後輪用ディファレンシャルギヤ15を構成する各種のギヤが常に空転するという状況が発生しない。また、この場合、前述したように、遊星歯車装置17のサンギヤ17aが空転するものの、遊星歯車装置17の各種のギヤのフリクションは、比較的小さい傾向にある。以上より、車両Vの効率をさらに向上させることができる。また、遊星歯車装置17は既存技術であるため、サンギヤ17aの空転による焼き付きを容易に抑制でき、それにより、動力伝達装置31全体の耐久性を向上させることができる。
さらに、第1実施形態と同様、回転軸16及びリングギヤ17dと後輪用ディファレンシャルギヤ15との間における動力の伝達の接続/遮断を、ブレーキ18の制動/制動の解除により行えるので、動力伝達装置31の構成を簡略化することができる。また、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置17を用いるので、サンギヤ17aの空転に伴ってピニオンギヤ17bが空転しているときに、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いた場合と比較して、この空転によるフリクションを小さくでき、ひいては、車両Vの効率をさらに向上させることができる。さらに、サンギヤ17aを制動することにより遊星歯車装置17を介した動力の伝達を接続するので、キャリヤ17cを制動する場合と比較して、ブレーキ18が受け持つ反力を小さくでき、それに応じてブレーキ18の小型化を図ることができる。また、キャリヤ17cがデフケース15aに一体に設けられているので、動力伝達装置31全体を小型化することができる。
なお、本発明は、説明した第1〜第3実施形態(以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置17を用いているが、本願の特許請求の範囲に記載された条件を満たす他の適当な遊星歯車装置、例えば、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置や、2つのサンギヤと、これらの2つのサンギヤにそれぞれ噛み合う2つのピニオンギヤを一体に有する2連ピニオンギヤと、2連ピニオンギヤを回転自在に支持するキャリヤとを有する遊星歯車装置などを用いてもよい。また、実施形態では、本発明における一方の回転要素(キャリヤ17c又はリングギヤ17d)を、デフケース15aに一体に設けているが、デフケースと別体に設けるとともに、ギヤなどを介して、デフケースに連結してもよい。
さらに、実施形態では、回転軸16をエンジン3に、プロペラシャフト14を介して連結しているが、他の適当な連結要素を介して連結してもよい。例えば、回転軸16及び第2回転軸12の各々にギヤを一体に設けるとともに、これらのギヤにアイドラギヤを噛み合わせることによって、回転軸16をエンジン3に連結してもよく、あるいは、スプロケットやチェーンなどを介して連結してもよい。また、実施形態では、本発明における接断装置として、シンクロクラッチであるクラッチ13を用いているが、他の適当な接断装置、例えば電磁式のクラッチなどを用いてもよい。さらに、実施形態では、本発明における制動装置として、摩擦クラッチで構成されたブレーキ18を用いているが、他の適当な制動装置、例えば電磁式のブレーキなどを用いてもよい。
さらに、実施形態は、全輪駆動式の車両Vに、本発明による動力伝達装置1、21、31を適用した例であるが、動力源で常に駆動されない車輪(従動輪)を有する車両に本発明を適用してもよいことは、もちろんである。また、実施形態は、動力源としてのエンジン3が前部に設けられるとともに、前輪WFL、WFRのみを駆動する走行モードが設定された車両Vに、本発明による動力伝達装置1、21、31を適用した例であるが、動力源が後部に設けられるとともに、後輪のみを駆動する走行モードが設定された車両に、本発明を適用してもよい。あるいは、動力源が中央に設けられるとともに、前輪のみ又は後輪のみを駆動する走行モードが設定された車両に、本発明を適用してもよい。
また、実施形態は、エンジン3を動力源として備える車両Vに、本発明による動力伝達装置1、21、31を適用した例であるが、他の適当な動力源、例えば回転電機などを備える車両に、本発明を適用してもよい。さらに、実施形態では、本発明による動力伝達装置1、21、31が適用された車両Vの車輪の数は、4つであるが、3つ又は5つ以上でもよい。以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。