以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1に示される基板収納容器1は、例えばφ450mmのシリコンウェーハである半導体ウェーハ100(図8参照)を収納する。基板収納容器1は、容器本体2と、蓋体3とを有する。容器本体2は、半導体ウェーハ100を収納するための空間を形成する。蓋体3は、容器本体2の開口した正面に着脱自在に取り付けられて、収納空間を閉鎖する。蓋体3は、後述する施錠機構4(図3参照)によって二段階の施錠操作で施錠される。
容器本体2及び蓋体3は、所定の樹脂を含有する成形材料により複数の部品がそれぞれ射出成形される。この成形材料に含まれる樹脂としては、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、液晶ポリマーといった熱可塑性樹脂やこれらのアロイ等があげられる。これらの樹脂には、カーボン繊維、カーボンパウダー、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー等からなる導電物質やアニオン、カチオン、非イオン系等の各種帯電防止剤が必要に応じて添加されてもよい。また、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系、ヒンダードアミン系の紫外線吸収剤が添加されてもよい。また、剛性を向上させるガラス繊維や炭素繊維等も選択的に添加されてもよい。
容器本体2は、半導体ウェーハ100を導入する開口6を有するフロントオープンボックスである。以下の説明において、必要に応じて「上下」、「右左」、「背面」の文言を用いる。「上下」とは、容器本体2の長手方向が水平となる姿勢において、開口6を正面視したときの鉛直方向である。「左右」とは、容器本体2の長手方向が水平となる姿勢において、開口6を正面視したときの水平方向をいう。「背面」とは、容器本体2の開口6と対向する側の面をいう。容器本体2は、開口6を囲むように設けられたリブ7を有する。図2に示されるように、リブ7は、施錠に利用される施錠穴8(係合部)を有する。施錠穴8は、リブ7の内周面7aに設けられる。
図3に示されるように、蓋体3は、蓋本体9とカバープレート11とを有する。蓋本体9とカバープレート11との間には、施錠機構4が配置される。蓋本体9は、略トレイ形をなし、容器本体2のリブ7に着脱自在に嵌合される。蓋本体9は、角部がそれぞれ丸く面取りされた長方形の板状を呈する。蓋本体9は、施錠穴8に対向するように設けられた矩形の出没孔13を有する。出没孔13は、蓋本体9の周囲壁9aにおける上部と下部とに設けられる(図2参照)。蓋本体9は、施錠機構4を設置するための一対の設置空間14を有する。
蓋本体9は、設置空間14に設けられたリブ群16を有する。リブ群16は、包囲リブ17と、支持リブ18とを含む。包囲リブ17は、回転操作体用リブ21と、複数のラッチバー用リブ22とをさらに含む。回転操作体用リブ21は、設置空間14の中央部に形成される。回転操作体用リブ21は、平面視でリングを描くように配置された複数の円弧リブを有する。回転操作体用リブ21の上部と下部とには、ラッチバー用リブ22がそれぞれ接続される。ラッチバー用リブ22は、周囲壁9aと回転操作体用リブ21との間に配置される。支持リブ18は、回転操作体用リブ21に囲まれた空間において、回転操作体用リブ21に対して略同心円状に設けられる。支持リブ18は、平面視でリングを描くように配置された複数の湾曲リブを有する。
蓋本体9は、シール機能のためのガスケット12を有する。ガスケット12は、蓋本体9の容器本体2と対面する裏面の周縁を囲むように配置される。ガスケット12は、例えばシリコーンゴムやフッ素ゴム等からなり、施錠時に蓋本体9と容器本体2とに挟持されて圧縮変形する(図2参照)。ガスケット12の圧縮変形は、シール機能を発揮し、外気との接触に伴う半導体ウェーハ100の汚染を防止する。
蓋本体9は、半導体ウェーハ100の円周縁を保護するリテーナ23を有する。リテーナ23は、半導体ウェーハ100に対向する蓋本体9の裏面に着脱自在に設けられる。リテーナ23は、断面略V字型の保持溝が形成された複数の弾性片24を含む。保持溝は、複数枚の半導体ウェーハ100を容器本体2内の背面方向に押し込みつつ弾性的に保持する。
カバープレート11は、蓋本体9の開口形状に対応する略長方形の板であり、蓋本体9の前面側に取り付けられる。カバープレート11は、中央部において放射状に設けられた複数の洗浄孔26を有する。カバープレート11は、施錠機構4を操作するためのキースロット27を有する。キースロット27は、カバープレート11の左右両側部の中央に設けられる。
図4に示されるように、カバープレート11は、裏面両側部の中央付近に設けられた対応リブ28を有する。対応リブ28は、蓋本体9の回転操作体用リブ21(図3参照)に対向する。対応リブ28は、一対の回転規制片29を含む。回転規制機構30を構成する回転規制片29は、対応リブ28の一部が略へ字形に屈曲して形成される。カバープレート11は、裏面の下部両側に設けられた三角突起31を有する。
基板収納容器1は、蓋体3に配置された2組の施錠機構4を有する。
図5に示されるように、施錠機構4は、1個のカムリール32(回転操作体)と2個のラッチバー33(施錠体)とを有する。カムリール32は、設置空間14の支持リブ18に回転可能に支持され、カバープレート11のキースロット27から差し込まれる施錠キーによって回転操作される。ラッチバー33は、カムリール32の回転により設置空間14の回転軸線Aと交差する上下方向D1に往復移動する。ラッチバー33の両端は、カムリール32の回転により回転軸線Aの方向と平行な前後方向D2に揺動する。つまり、施錠機構4では、カムリール32が施錠方向DLに回転したとき、ラッチバー33の上下方向D1への移動によって、蓋体3の出没孔13から容器本体2の施錠穴8内にラッチバー33の先端部59を非接触で突出させる動作(第1動作)が行われる。また、施錠機構4では、カムリール32が施錠方向DLに回転したとき、ラッチバー33の両端の前後方向D2への揺動によって、蓋体3を容器本体2に引き込む動作(第2動作)が行われる。
カムリール32は、第1カムリール34と第2カムリール36とを有する。第1カムリール34及び第2カムリール36は、回転軸線Aにおいて互いに離間して配置される。この第1カムリール34及び第2カムリール36には、ラッチバー33の基端部37が連結される。具体的には、第1カムリール34及び第2カムリール36は、それらの間に形成される隙間に、ラッチバー33の基端部37を挟み込む。
図6に示されるように、第1カムリール34は、円板38(円板部)と円筒リブ39とを有する。
円板38は、設置空間14の回転操作体用リブ21に包囲されるように蓋体3に取り付けられる。円板38は、中心部に設けられた長方形の操作孔41(図5参照)を有する。円板38は、周縁部において180°の間隔でそれぞれ内方向に切り欠かれるように設けられた一対の凹部42を有する。円板38は、周縁部と各凹部42との境界付近に設けられた位置制御片43を有する。位置制御片43は、略鉤形であって可撓性を有し、周方向に突出して凹部42を囲む。一対の位置制御片43は、カバープレート11の回転規制片29(図5参照)に係合する。この係合により、カムリール32の回転が制御される。したがって、位置制御片43と回転規制片29とは、回転規制機構30を構成する。
円筒リブ39は、第2カムリール36に嵌め合わされる。円筒リブ39は、円板38上に設けられる。円板38は、ラッチバー33の基端部37を案内する円弧状溝部44を有する。円弧状溝部44は、円板38の周縁部付近において凹部42の近傍に設けられる。円弧状溝部44は、一端部が円板38の回転軸線Aに偏在する。この一端部の偏在により、ラッチバー33を蓋体3の内部へ収納する動作及び蓋体3から突出させる動作がなされる。円弧状溝部44の他端部側は、徐々に円板38の円周方向に沿うように形成され、やがて円周方向に同心円状の溝になる。円弧状溝部44は、後述する第1カム機構10を構成する。
第1カムリール34は、第2カム機構20を構成する第1カム46を有する。第1カム46は、円板38において円筒リブ39が立設する面に設けられる。第1カム46は、第1水平カム47と、第1傾斜カム48と、第1係合カム49とを有する。第1傾斜カム48及び第1係合カム49は、立体カムを構成する。
第1水平カム47は、一対の円弧状溝部44の間に設けられ、円弧状溝部44の一端部に隣接する。
第1傾斜カム48は、円弧状溝部44の周縁両側部に部分的に立設される。第1傾斜カム48は、円弧状溝部44を挟む一対の湾曲した略三角形の壁に形成される。第1傾斜カム48の高さは、円弧状溝部44の基端部から終端部方向に向かうにしたがい徐々に高くなる。第1傾斜カム48は、最も低い低位部分が円弧状溝部44中央の変曲点付近に位置する。第1傾斜カム48は、最も高い高位部分が円弧状溝部44の終端部の手前付近に位置する。
第1係合カム49は、円弧状溝部44の終端部の近傍に立設される。第1係合カム49は、円弧状溝部44の他端部を包囲する断面略U字形の壁に形成される。第1係合カム49の高さは、第1傾斜カム48の高位部分と同じである。第1係合カム49は、第1傾斜カム48と一体であり、第1傾斜カム48の高位部分に整合されて滑らかに連続する。
図7に示されるように、第2カムリール36は、円筒リブ51と、外側フランジ52と、を有する。円筒リブ51は、第1カムリール34の円筒リブ39に嵌め合される。外側フランジ52は、円筒リブ51の外周面から半径外方向に張り出すように設けられる。外側フランジ52は、円筒リブ51の外周面に設けられた一対の分割壁53によって二分割される。一対の分割壁53に分割された外側フランジ52のそれぞれの部分は、立体的な第2カム54をそれぞれ形成する。
第2カム54は、第2水平カム56と、第2傾斜カム57と、第2係合カム58とを有する。第2傾斜カム57の高さは、他方の分割壁53の方向に向かうにしたがい徐々に変化する。第2係合カム58は、第2傾斜カム57の端部と他方の分割壁53の他端部との間に連続して位置する。
第2傾斜カム57及び第2係合カム58は、第2傾斜カム57から第2係合カム58に向かうにしたがい張り出し量が徐々に小さくなる。第2傾斜カム57の一部は、施錠機構4が施錠操作される前段階において、第1カム46の第1傾斜カム48の一部と対向してラッチバー33の末端部を挟持する。また、第2係合カム58は、施錠操作前の段階において、第1カム46の第1水平カム47と対向してラッチバー33の基端部37を挟持する。
図5に示されるように、施錠爪であるラッチバー33は、基本的には略長方形の板に形成され、設置空間14のラッチバー用リブ22内に収納される。ラッチバー33は、矩形を呈した先端部59を有する。先端部59は、蓋体3の施錠時に蓋体3の出没孔13から突出して容器本体2の施錠穴8に嵌入する。
ラッチバー33は、長手方向に伸びる複数本の補強リブ61を有する。補強リブ61は、ラッチバー33のカバープレート11に対向する表面に横一列に設けられる。補強リブ61の間には、カバープレート11の三角突起31が配置される。ラッチバー33は、断面略台形の支点部62を有する。支点部62は、ラッチバー33の蓋本体9に対向する裏面の先端側に設けられる。
ラッチバー33は、カムリール32に遊嵌するピン63を有する。ピン63は、ラッチバー33の基端部37に設けられる。ピン63は、円弧状溝部44、第1傾斜カム48、第1係合カム49に第2カムリール36側からスライド可能及び揺動可能に遊嵌する。ピン63は、円弧状溝部44との接触を円滑にするために円筒形や円柱形に形成される。
基板収納容器1における施錠動作について説明する。既に述べたように、ラッチバー33による施錠動作には、先端部59を施錠穴8に係合させる第1動作と蓋体3を容器本体2に引き込む第2動作とがあり、さらに施錠方向DLへのカムリール32の回転を規制する第3の動作がある。第1動作は、第1カム機構10により行われる。第2動作は、第2カム機構20により行われる。第3の動作は、回転規制機構30により行われる。
図8及び図9を参照しつつ、施錠動作について説明する。図8の(a)部及び図9の(a)部に示されるように、蓋体3を容器本体2のリブ7内に嵌め込む。このとき、ラッチバー33の先端部59は、蓋本体9内に配置される。すなわち、ラッチバー33と容器本体2の施錠穴8とは係合していない。次に、図8の(b)部及び図9の(b)部に示されるように、施錠キーの回転を始めると、まず、第1動作が開始されて、ラッチバー33の先端部59が施錠穴8(係合部)に係合する。この第1動作が進行している間に、第2動作が開始される。すなわち、第1動作と第2動作とは一部が重複している。さらに、施錠キーを回転させると、第1動作が終了する。つまり、ラッチバー33が最も突出した位置になる。この状態では、第2動作は継続している。つまり、蓋体3を容器本体2に引き込む動作が継続する。さらに、施錠キーを回転させると、図8の(c)部及び図9の(c)部に示されるように、蓋体3が容器本体2に引き込まれて第2動作が終了する。ここで、蓋体3が容器本体2に引き込まれるとは、蓋体3が容器本体2の内部へ移動することをいう。この蓋体3の引き込みによって、搭載部5aに支持された半導体ウェーハ100は、リテーナ23により、容器本体2内の背面方向に押し込まれる。さらに、施錠キーを回転させると、今度は、第3の動作が開始される。つまり、第2動作と第3の動作とは重複しない。そして、さらに施錠キーを回転させると、カムリール32の回転運動が規制されて第3の動作が終了する。
図9の(a)部は、施錠動作開始前の第1カムリール34とラッチバー33との関係を示す正面図である。図9の(a)部に示されるように、施錠動作において施錠キーが回転される範囲は施錠領域θaである。そして、施錠キーが回転される方向は、施錠方向DLである。ラッチバー33のピン63は、第1カムリール34の円弧状溝部44の一端に配置される。ここで、円弧状溝部44は、第1溝部44aと第2溝部44bとを有する。
第1溝部44aは、第1カムリール34の回転軸線Aから溝までの距離が変化する部分ある。ピン63が円弧状溝部44を案内されるとき、ピン63の中心軸線が通る軌跡Lを設定する。軌跡Lの始点L1と回転軸線Aとを通る直線R1の長さは、軌跡Lにおける第1溝部44aの終点L2と回転軸線Aとを通る直線R2の長さよりも短い。このような第1溝部44aにピン63が嵌められて、第1カムリール34が施錠方向DLに回転されたとき、図9の(b)部に示されるように、ピン63は、円弧状溝部44に案内される。このピン63の動きは、ピン63が回転軸線Aから離れるように移動する動きに見える。
一方、軌跡Lにおける第2溝部44bの始点L3(終点L2と同じ)と回転軸線Aとを通る直線R3の長さは、軌跡Lにおける第2溝部44bの終点L4と回転軸線Aとを通る直線R4の長さと略等しい。したがって、回転軸線Aから軌跡Lまでの距離は一定である。これにより、ピン63が第2溝部44bにおいて案内されたとき、図9の(c)部に示されるように、ピン63は第1カムリール34に対する相対位置は変化するものの、ピン63が回転軸線Aから離れるような移動は生じない。したがって、円弧状溝部44における第1溝部44aは、第1動作を生じさせる。
ここで、図10に示されるように、第1動作は、施錠領域θaにおける第1角度領域θ1において生じる。第1角度領域θ1は、第1溝部44aの形状に基づく。ピン63の移動は、第1溝部44aにおける始点L1から終点L2までの間において生じる。この始点L1に対応する直線R1と終点L2に対応する直線R2とのなす角が、第1角度領域θ1である。すなわち、第1角度領域θ1は、回転軸線Aと始点L1とを通る直線と、回転軸線Aと終点L2とを通る直線とのなす角度領域であるといえる。この第1角度領域θ1は、20°以上35°以下であり、一例として、30°である。
図11の(a)部は、施錠開始前の第1カムリール34とラッチバー33との関係を示す側面図である。第2動作は、第1傾斜カム48によって実現される。ピン63は、第1傾斜カム48が形成する溝に案内される。このとき、ピン63が設けられたラッチバー33の基端部37は、第1傾斜カム48の斜面に沿って案内される。第1傾斜カム48は、容器本体2の背面に向かって突出するように配置される。したがって、ラッチバー33の基端部37は、容器本体2の背面側に向かって移動される。
ラッチバー33は、図11の(b)部に示される動作を経て、図11の(c)部に示された支点部62が蓋本体9に押し当てられた状態に至る。したがって、ラッチバー33の基端部37を容器本体2の背面側に向けて押すと、ラッチバー33の先端部59は、容器本体2の外側に向けて移動して、施錠穴8の側壁に当接する。先端部59が施錠穴8に当接した後、さらに基端部37が移動されると、先端部59はそれ以上移動することができず、施錠穴8から反力F2を受けるようになる。この反力F2と、リテーナ23の弾性片24の圧縮により生じる圧縮力F1とが釣り合う位置まで蓋体3が容器本体2の内部に引き込まれる。すなわち、図11の(c)部に示された状態では、蓋体3の引き込みによって生じる弾性片24の圧縮力F1は、先端部59と施錠穴8との当接による反力F2と釣り合う。
ここで、物理学上の仕事の概念を提示する。仕事は、力と変位との積によって定義される。この定義を利用して、第2動作に必要な仕事の規定を試みると、力は施錠キーのトルクに相当し、変位は第2動作が行われる第2角度領域θ2の角度に相当する。したがって、第2動作に必要な仕事は、トルクと第2角度領域θ2の角度の積として考えることができる。一方、第2動作に必要な仕事は、弾性片24を所定長さだけ圧縮するために必要な仕事であるともいえる。そうすると、弾性片24のバネ定数と圧縮長さ(すなわち引き込み長さ)が決まれば、仕事の量も決まる。第2動作では、トルクと回転角度との積が弾性片24のバネ定数と圧縮長さから決まる仕事の量を満たせばよい。この場合、大きいトルクによって小さい角度だけ第1カムリール34を回転させる態様と、小さいトルクによって大きい角度だけ第1カムリール34を回転させる態様と、が考えられる。基板収納容器1の技術分野においては、施錠動作に要するトルクは、上限がSEMI規格によって規定されている。したがって、施錠動作における第2動作にあっては、小さいトルクによって大きい角度だけ第1カムリール34を回転させる態様の方が望ましい。
換言すると、基板収納容器1は、蓋体3に設けられるリテーナ23を用いて、輸送時に基板が回転しないように所定の荷重以上で保持する。その荷重は、蓋体3を施錠する際のキー回転トルク(ラッチトルク)となる。この荷重は引き込み長さに比例するので、カムリール32が回転されて引き込み長さが大きくなるにつれてトルクが一律に大きくなる。そして、最終的な施錠に生じるトルクのピーク値が高くなってしまうという問題があった。この施錠機構のトルクは、SEMI標準規格にて上限値が規定されている。したがって、装置側の負荷を減らすためになるべく低いトルクで施錠できることが望まれていた。一方、低いトルクに設定した蓋体開閉装置において、施錠に必要なトルクが高い基板収納容器では、エラーとなり、その後の開閉動作が停止してしまい、生産効率が悪くなってしまう問題がった。
そこで、基板収納容器1は、トルクの最大値を抑制するために、第2動作が行われる第2角度領域θ2を大きく確保している。図10に示されるように、第2角度領域θ2は、少なくとも第1角度領域θ1よりも大きい。一方、第2角度領域θ2は、施錠領域θaに含まれるので、第2角度領域θ2は施錠領域θaよりも小さい。本実施形態の施錠機構4では、施錠領域θaは90°以上とできるが、SEMI規格により多くの場合は90°である。第1角度領域θ1は、30°であり、第2角度領域θ2は55°であり、第3角度領域θ3は15°である。第2角度領域θ2は、第3角度領域θ3と重複しないので、75°(=90°−15°)の領域に第1角度領域θ1と第2角度領域θ2とが設定される。要するに、第1角度領域θ1は施錠領域θaにおける0°から30°まで(すなわちθ1=30°)に設定される。第2角度領域θ2は、施錠領域θaにおける20°から75°(すなわちθ2=55°)に設定される。したがって、第2角度領域θ2は、第1角度領域θ1に対して10°だけ重複している。なお、第2角度領域θ2は、少なくとも施錠領域θaにおける15°以上の角度において設定されればよい。
この第2角度領域θ2は、第1傾斜カム48が設けられた範囲に対応する。第1傾斜カム48は、始点L5と回転軸線Aとを通る直線R5と終点L6と回転軸線Aとを通る直線R6との間の角度(第2角度領域θ2)が45°以上70°以下に設定され、一例として55°に設定される。また、直線R5と基準線である直線R1との間の角度は20°である。また、第2角度領域θ2は、施錠領域θaの1/2より大きく、且つ、施錠領域θaの4/5より小さいと規定することもできる。
ここで、第2動作に要するトルクは、リテーナ23の弾性片24における反力に対応することを既に述べた。この弾性片24の反力は、圧縮バネの反力と同様に取り扱うことが可能である。すなわち、弾性片24の反力の大きさは距離に比例して大きくなる。したがって、弾性片24の反力は、蓋体3が容器本体2に引き込まれるほど(弾性片24が圧縮されるほど)に大きくなるので、第2動作に要するトルクも蓋体3が容器本体2に引き込まれるほどに大きくなる。さらに、蓋体3が容器本体2に引き込まれる過程は、その過程の最終段階において、蓋体3がガスケット12を押し潰しながら容器本体2に引き込まれる過程も含む。したがって、第2動作では、弾性片24に起因する反力と、ガスケット12の圧縮に起因する力とにより必要なトルクが増加する傾向にある。
この点に鑑み、本実施形態の施錠機構4は、第2動作におけるトルクの最大値の増加をさらに抑制する構成を有する。上述したように、第2動作にあっては、小さいトルクによって大きい角度だけ第1カムリール34を回転させる態様が望ましい。そこで、第1傾斜カム48において、立体カム勾配が互いに異なる第1カム部48a(第1部分)と第2カム部48b(第2部分)とを設定する。第1カム部48aは、第2角度領域θ2のうち第1カム領域θ2aを占める。具体的には、第1カム領域θ2aは、第2角度領域θ2の40%以下に設定される。一例として、第1カム領域θ2aは、30%に設定される。また、第2カム部48bは、第2角度領域θ2のうち第2カム領域θ2bを占める。
図12に示されるように、第1立体カム勾配αは、第2立体カム勾配βよりも大きい。第1立体カム勾配αは、第1カム部48aの斜面と円板38の平坦面との間の角度である。第2立体カム勾配βは、第2カム部48bの斜面と円板38の平坦面との間の角度である。第1立体カム勾配αは、10°以上45°以下であり、一例として30°である(カムが半径約50mm)。第2立体カム勾配βは、5°以上22.5°以下であり、一例として5°である。ここで、第1立体カム勾配αと第2立体カム勾配βとの比(α/β)は、2/1〜6/1となるように設定することが好ましい。この比率が2/1であれば、第2角度領域θ2の40%以内で引き込み動作の70%を完了させることができる。すなわちリテーナ23の弾性片24からの反力が増大する前に引き込み動作の70%を完了できる。比率が6/1以下であれば、第2角度領域θ2が好適な範囲にある間に、引き込み動作をスムーズに完了させることができる。
要するに、第1傾斜カム48は、第1カム部48aと第2カム部48bとを有する。第1カム部48aは、第1カム領域θ2aが16.9°であり、第1立体カム勾配αが30°である。一方、第2カム部48bは、第2カム領域θ2bが38.1°であり、第2立体カム勾配βが5°である。それぞれの立体カム勾配は、回転角度と引き込み長さとの関係から決定される。
図13は、回転角度と引き込み長さとの関係を示す。グラフにおける符号θ2は、第1傾斜カム48が設けられた第2角度領域θ2に対応する。グラフにおいて、符号θ2aが第1カム部48aに対応し、符号θ2bが第2カム部48bに対応する。第1カム部48aに対応する第1カム領域θ2aは、第2角度領域θ2の40%以下に設定する。また、第1カム部48aにおける引き込み長さDAは、最大引き込み長さDの70%以上に設定する。
上述したように、第2動作では、リテーナ23の弾性片24からの反力が、蓋体3が容器本体2に引き込まれるに伴って徐々に大きくなる。そうすると、第2動作(引込動作)は後半になるにつれ、強いトルクが必要になる。したがって、トルクの軽い前半に少ない回転角度で引込動作の大半(最大引き込み長さDの70%以上)を完了させ、その後の高トルク領域で立体カム勾配を小さくし、多くのカムリール回転角度を使いトルクの最大値を低減する。
次に、本実施形態の基板収納容器1に関する作用効果を説明する。
容器本体2の開口を閉鎖するように蓋体3が容器本体2へ取り付けられた後に、施錠機構4による施錠動作が行われる。まず、施錠機構4は、第1角度領域θ1におけるカムリール32の回転運動により第1カム機構10を動作させる。この第1カム機構10の動作によれば、ラッチバー33の先端部59が容器本体2の施錠穴8に係合される。したがって、蓋体3が容器本体2に固定される。次に、施錠機構4は、第2角度領域θ2におけるカムリール32の回転運動により第2カム機構20を動作させる。この第2カム機構20の動作によれば、蓋体3が容器本体2に引き込まれる。ここで、蓋体3を容器本体2に引き込む第2動作に要する仕事を考えたとき、力と変位の積である仕事は、カムリール32を回転させるトルク(力)と第2角度領域θ2の大きさ(変位)とにより示される。そして、第2カム機構20の動作は、第1角度領域θ1よりも大きい第2角度領域θ2において行われる。したがって、第2動作に要する仕事を得る場合において、第2角度領域θ2の大きさ(変位)が大きくなるので、カムリール32を回転させるトルク(力)の最大値が低減される。したがって、この基板収納容器1によれば、施錠動作に要するトルクの最大値を低減することができる。
第1カム機構10は、円弧状溝部44であり、第2カム機構20は、立体カムである。円弧状溝部44によれば、カムリール32の回転運動を回転軸線Aに交差する方向へのラッチバー33の直線運動へ確実に変換することができる。また、立体カムによれば、カムリール32の回転運動を回転軸線Aの方向へのラッチバー33の直線運動へ確実に変換することができる。
立体カムは、第1カム部48aと第2カム部48bとを含む(図5参照)。第1カム部48aは、第1立体カム勾配αを有し、第2カム部48bは、第2立体カム勾配βを有する(図13参照)。ここで、第2動作に要するトルクは、容器本体2への蓋体3の引き込み長さに対応して変化する。この構成によれば、第1カム部48aと第2カム部48bとで、カムリール32の回転運動をラッチバー33の直線運動(引き込み動作)に変換する効率を異ならせることができる。したがって、第2動作に要するトルクの変化に対応することが可能になるので、施錠動作に要するトルクの最大値を低減することができる。
第2立体カム勾配βは、第1立体カム勾配αよりも小さい。第2動作は、第1カム部48aにおけるカムリール32の回転と、第2カム部48bにおけるカムリール32の回転とを含む。ここで、第2立体カム勾配βは、第1カム部48aよりも小さいので、単位長さ当たりの直線運動を得るために必要な回転角度が大きくなる。その結果、上記した仕事を考えたとき、ある仕事を得るために必要な回転角度は、第1カム部48aよりも第2カム部48bの方が大きい。回転角度が大きくなると、必要な仕事を得るためのトルクの最大値は小さくなる傾向にある。換言すると、第1カム部48aと第2カム部48bとで同じトルクを付与した場合には、第1カム部48aよりも第2カム部48bにおける仕事が大きくなる。したがって、この構成によれば、第2動作において、単位トルクあたりの仕事を第1カム部48aに対して第2カム部48bにおいて大きくなるように設定することができる。
第2角度領域θ2は、第1カム領域θ2aと第2カム領域θ2bとを含む。第1カム領域θ2aは、第2カム領域θ2bの40%以下である。また、第2動作では、蓋体3が第1カム部48aによって第1引き込み長さS1だけ容器本体2に引き込まれる。蓋体3が第2カム部48bによって第2引き込み長さS2だけ容器本体2に引き込まれる。第1引き込み長さS1と第2引き込み長さS2の和は、第2動作において蓋体3が容器本体2に引き込まれる総引き込み長さSAである。第1引き込み長さS1は、総引き込み長さSAの70%以上である。この構成によれば、第2動作に要するトルクの最大値を好適に低減させることができる。
施錠機構4は、カムリール32の施錠方向DLへの回転を規制する第3の動作を行う回転規制機構30をさらに含む。第3の動作は、施錠領域θaに含まれた第3角度領域θ3におけるカムリール32の回転に基づく回転規制機構30の動作によって行われる。この構成によれば、蓋体3が容器本体2へ固定された状態と蓋体3が容器本体2へ引き込まれた状態とを確実に維持することができる。第3の動作は、第2の動作の終了後に開始されるので、第2の動作と第3の動作とが重なって必要な回転トルクの最大値が大きくなってしまうことを防止できる。
また、上記構成によれば、第1カムリール34及び第2カムリール36がラッチバー33を挟持するので、ラッチバー33が外れにくくなる。したがって、落下等で施錠機構4に強い衝撃が作用しても、施錠機構4が解錠して半導体ウェーハ100を破損させたり、外部からの空気の流入で半導体ウェーハ100の汚染を招く事態を未然に防止できる。また、第1カムリール34及び第2カムリール36の間にラッチバー33を挟持する構成によれば、施錠機構4を構成する部品点数を低減し、且つ、構成を簡易にすることができる。したがって、施錠機構4を有する蓋体3を容易に組み立てることができる。
また、上記構成によれば、容器本体2の施錠穴8内にラッチバー33の先端部59が深く突出した後、蓋体3のカバープレート11側に揺動して施錠穴8の正面側壁面に接触し、蓋体3を深く引き込む。したがって、施錠動作が安定化し、ラッチバー33の先端部59や施錠穴8を損傷させるおそれがない。しかも、蓋体3の十分な引き込み長さを確保することができる。また、容器本体2の施錠穴8内にラッチバー33の先端部59が接触しないよう突出するので、例え施錠機構4に過大な施錠力が作用しても、擦接に伴いパーティクルが発生したり、ラッチバー33の先端部59の変形を招くおそれがない。
本実施形態に係る基板収納容器1において、第2動作に要するトルクの最大値を低減させる効果を確認した。実施例1、実施例2、実施例3及び参考例1に係る施錠機構を作成し、それぞれの施錠機構において第2動作に要するトルクを測定した。
表1に示されるように、実施例1、実施例2、実施例3及び参考例1に係る施錠機構は、第1角度領域θ1、第2角度領域θ2、及び第3角度領域θ3が互いに相違する。実施例1の施錠装置は、θ1が20°以上35°以下(30°)であり、θ2が45°以上70°以下(55°)であり、θ3が15°である。実施例2の施錠装置は、θ1が20°以上35°以下(22.5°)であり、θ2が45°以上70°以下(60°)であり、θ3が15°である。実施例3の施錠装置は、θ1が20°以上35°以下(30°)であり、θ2が45°以上70°以下(57.5°)であり、θ3が12.5°である。実施例4の施錠装置は、θ1が20°以上35°以下(20°)であり、θ2が45°以上70°以下(65°)であり、θ3が12.5°である。一方、参考例1の施錠装置は、θ1が35°以上(57.5°)であり、θ2が45°以上(47.5°)であり、θ3が17.5°である。
また、実施例1、実施例2、及び実施例3の施錠機構は、立体カムが第1カム部48aと第2カム部48bとを有する。そして、図14の(a)部及び表2に示されるように、実施例1、実施例2、及び実施例3の施錠機構では、第1カム部48aと第2カム部48bとの構成が互いに相違する。図14の(a)部において、グラフG1は実施例1の回転角度と引き込み長さとの関係を示す。グラフG2は実施例2の回転角度と引き込み長さとの関係を示す。グラフG3は参考例1の回転角度と引き込み長さとの関係を示す。グラフG4は実施例3の回転角度と引き込み長さとの関係を示す。具体的には、第2角度領域θ2に占める第1カム領域θ2aの割合が相違する。また、総引き込み長さSAに占める第1引き込み長さS1の割合が相違する。実施例1の施錠機構は、第2角度領域θ2に占める第1カム領域θ2aの割合が0.4以下(0.307)であり、総引き込み長さに占める割合が0.7以上(0.726)である。実施例2の施錠機構は、回転角度の割合が0.4以下(0.261)であり、総引き込み長さに占める割合が0.7以上(0.726)である。実施例3の施錠機構は、回転角度の割合が0.4以下(0.280)であるが、総引き込み長さに占める割合が0.7以下である(0.402)である。
上記した実施例1、実施例2、実施例3及び参考例1に係る施錠機構を準備し、回転角度センサとトルクゲージを取り付けた容器蓋体開閉装置を用いてトルクに関するデータを取得した。回転角度センサには、(株)緑測器製CP−45Hを利用した。トルクゲージには、アイコーエンジニアリング(株)製RX−T−20を利用した。
図14の(b)部は、カムリール32の回転角度と正規化したトルクとの関係を示すグラフである。トルクの正規化は、参考例1の最大トルク値を基準(即ち「1」)とし、参考例1の最大トルク値に対する大きさを示している。グラフG5は、実施例1の測定結果を示す。グラフG6は、実施例2の測定結果を示す。グラフG7は、参考例1の測定結果を示す。グラフG8は、実施例3の測定結果を示す。
図14の(b)部を参照すると、トルクの最大値は、実施例1、2(グラフG5,G6)のいずれにおいても、参考例1(グラフG7)よりも小さくなることがわかった。また、実施例1の結果がトルクの最大値が最も小さかった。この実施例1の構成によれば、第2動作に要する仕事をトルク及び回転角度の積と考えたときに、トルクが回転角度によらず概ね一定になることがわかった。そして、この実施例1の構成が、トルクの最大値を低減するために適した構成であることがわかった。例えば、実施例1のトルクの最大値は、参考例1のトルクの最大値に対しておよそ35%程度低減されていることが確認できた。また、実施例3の場合は、参考例1のトルクの最大値に対しておよそ12%程度低減されていることが確認できた。
なお、上述した実施形態は本発明に係る基板収納容器の一例を示すものである。本発明に係る基板収納容器は、実施形態に係る基板収納容器に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、実施形態に係る基板収納容器を変形し又は他のものに適用したものであってもよい。
例えば、容器本体2の側壁外面は、手動操作用のグリップ具や搬送用のサイドレール等を備えていてもよい。また、各ラッチバー33のピン63には、磨耗防止の観点から、回転可能なローラを有していてもよい。また、カムリール32の立体カムは、第1カムリール34又は第2カムリール36の一方の側面に設けられた立体カム溝であってもよい。