以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る車両用変速装置の縦断面図であり、図4にそのスケルトン図を示している。
まず、構成について説明する。
図1および図4に示すように、本実施形態の車両用変速装置2は、動力源であるエンジン1の後方に配置されており、トランスミッションケース10と、トランスミッションケース10内に設けられた平行軸歯車変速機20と、平行軸歯車変速機20の後段に設けられた高低2段変速が可能な補助変速機80と、を備えている。なお、ここでは、スプリッタ付の平行軸歯車変速機20を主変速機として、それより後段の補助変速機80と分けている。また、スプリッタを設けないものであってもよい。
トランスミッションケース10は、図1中の左端側のクラッチケース11と、中央側のメインケース12と、右端側の補助変速機ケース13とを、軸方向に隣り合うセグメント状に配置しつつ、複数の位置決めピン10a、10bおよび複数の締結ボルトにより相互に一体に結合して構成されている。
クラッチケース11は、図1中の左端側となる前端側でエンジン1の後部またはその後部に締結されたフライホイールハウジング等のエンジン側部材5に締結されるようになっている。
また、クラッチケース11は、メインケース12に結合される後端側に、メインケース12の前端側の開口を閉塞する隔壁部11bを有している。そして、エンジン1およびエンジン側部材5により閉塞されたクラッチケース11の内部には、公知のクラッチ装置3およびフライホイール4が収納され、さらに、車両用変速装置2内の各摺動部や噛合部に潤滑・冷却用のオイルを圧送する機械式のオイルポンプ6が、隔壁部11bに支持されて設けられている。
メインケース12には、平行軸歯車変速機20が収納されており、補助変速機ケース13には、補助変速機80が収納されている。
平行軸歯車変速機20は、トランスミッションケース10の前端側でクラッチ装置3を介してエンジン1からの回転動力を入力するインプットシャフト21と、インプットシャフト21からの回転動力を入力可能なメインシャフト22およびカウンターシャフト23と、を有している。インプットシャフト21は、軸受18を介してクラッチケース11の隔壁部11bに支持されつつクラッチケース11内に突出し、クラッチ装置3にスプライン結合されている。
メインシャフト22は、インプットシャフト21に対し同一軸線上に配置されており、その前端側で軸受16を介してインプットシャフト21の後端部の凹状部分に支持される一方、軸受17を介してメインケース12の後端側に位置する隔壁部12bに支持されている。このメインシャフト22の後端部は、隔壁部12bから後方に突出しており、平行軸歯車変速機20による変速後の回転動力をトランスミッションケース10の後端側に出力できるようになっている。
カウンターシャフト23は、メインシャフト22に対し平行に離間するように配置されており、軸受27、28を介してクラッチケース11およびメインケース12に支持されている。すなわち、メインシャフト22およびカウンターシャフト23は、トランスミッションケース10に対して、互いに平行にかつそれぞれ回転自在に支持された平行軸となっている。また、カウンターシャフト23の前端部には、オイルポンプ6の入力軸が回転方向に一体に結合されており、カウンターシャフト23の回転速度に応じてオイルポンプ6の吐出量が変化するようになっている。
メインシャフト22には、変速用の複数のメインギヤ31、32、33、34が空転可能に支持されており、インプットシャフト21には、スプリッタハイギヤ35が空転可能に支持されている。一方、カウンターシャフト23には、メインギヤ31〜34およびスプリッタハイギヤ35に常時噛合する複数のカウンターギヤ41、42、43、44、45が一体的に支持されている。これらカウンターギヤ41〜45は、ここではカウンターシャフト23に一体に形成されたものであるが、カウンターシャフト23に一体回転可能に支持された別体の部品でもよい。
メインシャフト22には、さらに、中心部を軸方向に貫通しつつ複数の径方向の油孔に分岐し、オイルポンプ6から圧送されるオイルをメインギヤ31〜34の内周部や噛合部等に供給するオイル通路22hが形成されている。
図4に示すように、互いに噛合する複数のメインギヤ31〜34および複数のカウンターギヤ41〜44は、1速の変速ギヤ対36、2速の変速ギヤ対37、3速の変速ギヤ対38および後退速の変速ギヤ対39からなる複数の歯数比の異なる変速ギヤ対36〜39を構成している。
勿論、1速の変速ギヤ対36の変速ギヤ比は、2速の変速ギヤ対37の変速ギヤ比より大きく、2速の変速ギヤ対37の変速ギヤ比は、3速の変速ギヤ対38の変速ギヤ比より大きく設定されている。後退速の変速ギヤ対39のメインギヤ34とカウンターギヤ44の間には、アイドルギヤ46が介装されている。
スプリッタハイギヤ35およびカウンターギヤ45は、スプリッタハイギヤ35がインプットシャフト21に結合されたときにインプットシャフト21から回転動力を入力しつつ変速するスプリッタハイギヤ対40Hを構成している。また、メインギヤ33およびカウンターギヤ43は、メインギヤ33がインプットシャフト21に結合されるときにインプットシャフト21から回転動力を入力しつつ変速するスプリッタローギヤ対40Lを構成している。すなわち、メインギヤ33は、スプリッタローギヤを兼ねている。
具体的には、例えば、スプリッタハイギヤ35はカウンターギヤ45より歯数が少なくなっており、スプリッタハイギヤ対40Hは、インプットシャフト21からの回転を入力しつつ減速するようになっている。同様に、メインギヤ33はカウンターギヤ43より歯数が少なくなっており、スプリッタローギヤ対40Lは、インプットシャフト21からの回転を入力しつつ減速するようになっている。そして、スプリッタローギヤ対40Lの変速ギヤ比は、スプリッタハイギヤ対40Hの変速ギヤ比より大きくなっている。
インプットシャフト21およびメインシャフト22の回転中心軸線上に所定間隔を隔てて配置されたメインギヤ31〜34およびスプリッタハイギヤ35の間には、それらの軸方向における間隔内に位置するように、複数のスリーブ式の噛合切替機構51、52、53が配置されている。
また、複数のメインギヤ31〜34、スプリッタローギヤ33およびスプリッタハイギヤ35には、後述する噛合切替えのためのドグ歯状のスプライン31a、32a、33a、33b、34a、35aが、それぞれ一体的に装着されている。なお、ここでは、メインギヤ33が3速のメインギヤとならずスプリッタローギヤとして機能する場合、スプリッタローギヤ33としている(以下、同様とする)。
噛合切替機構51は、1速の変速ギヤ対36のメインギヤ31と後退速の変速ギヤ対39のメインギヤ34の間に配置されている。また、噛合切替機構52は、2速の変速ギヤ対37のメインギヤ32と3速の変速ギヤ対38のメインギヤ33の間に配置されている。噛合切替機構53は、スプリッタローギヤ対40Lの一部であるスプリッタローギヤ33とスプリッタハイギヤ対40Hの一部であるスプリッタハイギヤ35との間に配置されている。
噛合切替機構51、52は、それぞれシンクロナイザリングのような回転同期用の摩擦トルク発生を担う中間部品を有していないものである。一方、噛合切替機構53は、公知の同期噛合機構と同様にシンクロナイザリングあるいは回転同期用の摩擦テーパ面を有するものである。
具体的には、噛合切替機構51は、メインシャフト22にスプライン結合されたハブ51aと、外周側に環状溝を有するとともに内周側にハブ51aにスプライン結合するスプライン歯部を有するスリーブ51bと、スリーブ51bを中立位置に付勢するディテント機構とを有している。
噛合切替機構51のスリーブ51bは、ハブ51aにスプライン結合することでメインシャフト22に対し軸方向に移動可能となっており、対応する1速と後退速のメインギヤ31、34のスプライン31a、34aのうち任意の一方に対して回転方向に一体に係合および離脱可能となっている。
このスリーブ51bは、外周側の環状溝に係合する第1のシフトフォーク61によって軸方向に移動操作され、そのシフト操作がされないときには、中立位置に戻された後に、前述のディテント機構によって中立位置に保持されるようになっている。
第1のシフトフォーク61は、図1に示す公知のシフト・セレクト機構60によって択一的に選択(セレクト操作)されてシフト操作されるシフト軸66、67、68のうち第1のシフト軸66に支持されている。
第1のシフト軸66がシフト操作されるとき、第1のシフトフォーク61は、スリーブ51bのスプライン歯部を、対応するメインギヤ31、34のスプライン31a、34aのうちシフト操作に応じた任意の一方側に軸方向移動させることができる。
スリーブ51bの内歯のスプライン歯部および各メインギヤ31、34の外歯のスプライン31a、34aは、それぞれドグ歯状のチャンファ部を有しており、例えばスリーブ51bのスプライン歯部およびメインギヤ31のスプライン31aのチャンファ部が係合することで、回転同期状態で噛合動作を開始させ、噛合完了まで進行させることができるようになっている。
噛合切替機構51と略同様に、噛合切替機構52、53は、メインシャフト22にスプライン結合されたハブ52a、53aと、外周側に環状溝を有するとともに内周側にハブ52a、53aにスプライン結合するスプライン歯部を有するスリーブ52b、53bと、スリーブ52b、53bを中立位置に付勢するディテント機構とを、それぞれ有している。
噛合切替機構52のスリーブ52bは、ハブ52aにスプライン結合することでメインシャフト22に対し軸方向に移動可能となっており、対応する2速と3速のメインギヤ32、33のスプライン32a、33aのうち任意の一方に対して回転方向に一体に係合および離脱可能となっている。
このスリーブ52bは、外周側の環状溝に係合する第2のシフトフォーク62によって軸方向に移動操作され、そのシフト操作がされないときには、中立位置に戻された後に、前述のディテント機構によって中立位置に保持されるようになっている。
また、噛合切替機構53のスリーブ53bは、ハブ53aにスプライン結合することでインプットシャフト21およびメインシャフト22に対し軸方向に移動可能となっており、対応するスプリッタローギヤ33およびスプリッタハイギヤ35のうち任意の一方に対して回転方向に一体に係合および離脱可能となっている。
このスリーブ53bは、外周側の環状溝に係合する第3のシフトフォーク63によって中立位置から軸方向の一方側または他方側に移動操作されるとき、インプットシャフト21とカウンターシャフト23の間にスプリッタローギヤ33またはスプリッタハイギヤ35のどちらかを選択して介在させるようになっている。また、スリーブ53bは、中立位置に戻されたとき、前述のディテント機構によって中立位置に保持されるようになっている。
第2、第3のシフトフォーク62、63は、シフト・セレクト機構60により択一的にシフト操作されるシフト軸66、67、68のうち第2、第3のシフト軸67、68に、それぞれ支持されている。そして、第2のシフト軸67がシフト操作されるとき、第2のシフトフォーク62は、スリーブ52bのスプライン歯部を2速と3速のメインギヤ32、33のスプライン32a、33aうちシフト操作に応じた任意の一方側に噛合するように軸方向移動させることができる。また、第3のシフト軸68がシフト操作されるとき、第3のシフトフォーク63は、スリーブ53bのスプライン歯部をスプリッタローギヤ33およびスプリッタハイギヤ35のスプライン33b、35aのうちシフト操作に応じた任意の一方側に噛合させるように軸方向移動させることができる。
シフト・セレクト機構60とその上流側の操作機構については、詳述しないが、例えばドライバによる図外のシフトレバー(ギヤチェンジレバー)への操作入力によるレバーポジションをセンサで検知し、変速要求に応じて、蓄圧タンクPからの圧縮空気の圧力を利用する空圧式のパワーシフト機構等によりシフトレバーへの操作入力をアシストする補助操作力を出力させ、シフトレバーへの軽い操作力に比べてシフト・セレクト機構60が十分に大きい操作力で操作されるようになっている。
また、本実施形態の車両には、シフトレバーポジションのみならず、車速およびアクセルポジション等に基づいてシフト・セレクト機構60に対する操作入力を制御する変速制御用のECU(電子制御ユニット)が搭載されており、そのECUからの変速要求に従って、電磁切換弁Vあるいは流体圧制御バルブやモータその他の電動アクチュエータを作動させることで、シフト・セレクト機構60に対して要求される変速操作に必要な操作力がそれらアクチュエータ類から入力されるようになっている。
すなわち、車両用変速装置2においては、シフト・セレクト機構60に対する操作入力をECUにより制御することで、手動変速機と同様な構成を有する平行軸歯車変速機20が、車速や加速要求等に応じて自動変速制御できるように構成されている。
平行軸歯車変速機20においては、前述のシフトレバーへの操作入力に応じて、後述するシャフト回転の同期制御と相俟って同期噛合機構の機能を発揮する噛合切替機構51、52、53が操作される。
例えば、噛合切替機構51、52のいずれかが操作されるとき、カウンターシャフト23から1速の変速ギヤ対36、2速の変速ギヤ対37および3速の変速ギヤ対38のうちどれかを介してメインシャフト22に回転動力が伝達されるか、あるいは、カウンターシャフト23から後退速の変速ギヤ対39およびアイドルギヤ46を介してメインシャフト22に回転動力が反転して伝達されるかが、切り替えられる。そして、変速後の回転動力がメインシャフト22の後端側から出力される。
また、噛合切替機構53が操作されるときには、エンジン1からクラッチ装置3を介して平行軸歯車変速機20に入力される回転動力がインプットシャフト21からスプリッタハイギヤ対40Hに伝達されるか、スプリッタローギヤ対40Lに伝達されるかが、切り替えられる。したがって、平行軸歯車変速機20においては、スプリッタハイギヤ対40Hおよびスプリッタローギヤ対40Lによる高低2段の変速と、1速から3速の変速ギヤ対36〜38による3段の変速とが可能となり、車両用変速装置2全体としては、補助変速機80による高低2段の変速と組み合わせることで、前進12段、後進2段の変速が可能となっている。
メインケース12の隔壁部12bより後方側に突出するメインシャフト22の後端部には、補助変速機80の入力軸である外歯車状のサンギヤ81が一体に設けられている。
補助変速機80は、サンギヤ81と、サンギヤ81に公転可能に噛合する複数、例えば3つのピニオンギヤ82と、複数のピニオンギヤ82をそれぞれ軸受83aを介して自転可能にかつ公転方向に等間隔に保持するキャリア83と、複数のピニオンギヤ82が噛合する内歯のリングギヤ84と、スリーブ式の噛合切替機構55とを含んで構成されている。
この補助変速機80は、トランスミッションケース10のメインケース12の後端側で、メインケース12の隔壁部12bにより前方側を閉塞された補助変速機ケース13内に収納されている。補助変速機80のサンギヤ81、ピニオンギヤ82、キャリア83およびリングギヤ84は、公知の遊星歯車減速機と同様なものである。キャリア83は、アウトプットシャフト24に対し一体に支持されている。
補助変速機80は、さらに、リングギヤ84にスプライン結合する略円錐台形状のカバー85を有しており、リングギヤ84は、カバー85を介してアウトプットシャフト24に対して同軸に支持されている。なお、アウトプットシャフト24には、公知のリターダ100が装着されている。
噛合切替機構55は、スプライン結合したカバー85の側の一端側筒部と共に軸受25を介してアウトプットシャフト24に対し回転自在に支持されたハブ55aと、外周側に環状溝を有するとともに内周側にハブ55aにスプライン結合するスプライン歯部を有するスリーブ55bと、スリーブ55bを中立位置に付勢するディテント機構とを有している。この噛合切替機構55は、公知の同期噛合機構と同様にシンクロナイザリングあるいは回転同期用の摩擦テーパ面を有するものである。
ハブ55aの軸方向両側には、補助変速機ケース13に一体的に支持された固定側スプライン13aと、アウトプットシャフト24にスプライン結合等により回転方向一体に結合された出力側スプライン24aとが配置されている。
スリーブ55bは、外周側の環状溝に係合する補助変速用のシフトフォーク86によって軸方向に移動操作され、固定側スプライン13aに噛合する低速レンジ側の切替え位置と、出力側スプライン24aに噛合する高速レンジ側の切替え位置とに択一的に移動するようになっている。
補助変速用のシフトフォーク86は、公知の補助変速用の空圧式の操作機構90の一部を構成しており、補助変速機ケース13に支持されたシリンダ91内のピストン92により、操作ロッド93を介してシフトフォーク86が移動操作されるようになっている。
そして、スリーブ55bが固定側スプライン13aに噛合し、リングギヤ84が補助変速機ケース13に回転方向一体に結合されるとき、補助変速機80は、メインシャフト22の後端側から出力される回転動力を所定の減速比で減速した相対的に低速でトルクの大きい回転動力を出力することができる。
また、スリーブ55bが出力側スプライン24aに噛合し、リングギヤ84がキャリア83およびアウトプットシャフト24に対し回転方向一体に結合されるとき、補助変速機80は、メインシャフト22の後端側から出力される回転動力を減速することなく相対的に高速でトルクの小さい回転動力を出力することができるようになっている。
一方、トランスミッションケース10のメインケース12の後方側には、カウンターシャフト23の回転速度を低下すなわち減速させるよう、カウンターシャフト23に対し制動力を出力可能な空圧式のカウンターブレーキ機構70が、補助変速機ケース13に支持されて設けられている。なお、カウンターブレーキ機構70は、ここでは空圧式すなわち圧縮空気の圧力を用いるものとするが、他の流体の圧力により作動する流体圧作動型のブレーキであってもよい。
噛合切替機構51、52、53のスリーブ51b、52b、53bがシフトフォーク61、62、63によって移動操作され、インプットシャフト21から入力される回転動力が平行軸歯車変速機20より変速されて補助変速機80側に出力されるとき、このカウンターブレーキ機構70は、カウンターシャフト23の回転速度[rpm]を制動し調整することができるようになっている。
具体的には、アップシフト方向への変速、例えば2速から3速へのアップシフトに際して、噛合切替機構52のスリーブ52bがメインギヤ33側に軸方向移動することで、3速のメインギヤ33がメインシャフト22に回転方向一体に結合されるとき、カウンターブレーキ機構70が作動する。
より具体的には、変速のためにクラッチ装置3が動力伝達経路を切断し、車両の車速が略一定の走行状態で、2速から3速に変速されるとすると、平行軸歯車変速機20の出力回転数[rpm]が略一定の状態で変速ギヤ比(入力回転数/出力回転数)が小さくなり、エンジン回転数が変速後の回転速度に近付くように低下する。一方、噛合切替機構52のスリーブ52bが2速のメインギヤ32から切り離されて中立位置に戻ると、オイル粘性等によりカウンターシャフト23の回転数[rpm]も低下するが、噛合切替機構52のスリーブ52bが3速のメインギヤ33に同期噛合可能な程度まで自然に減速するのには時間がかかる。このようなとき、カウンターブレーキ機構70を作動させる。
また、本実施形態では、シフトレバーからのアップシフト方向の変速要求となる操作入力に応じて、あるいは、車速およびアクセルポジション等に基づいてシフト・セレクト機構60に対する操作入力を制御する変速制御用のECUからのアップシフト方向の変速要求に応じて、電磁切換弁Vや前述の変速操作用のアクチュエータ類を作動させる。
一方、シフトレバーからのダウンシフト方向の変速要求となる操作入力に応じて、あるいは、前述の変速制御用のECUからのダウンシフト方向の変速要求に応じて、エンジン制御ECUは、エンジン回転数を上昇させるように燃料噴射制御等を実行するようになっている。
カウンターブレーキ機構70は、前述の電磁切換弁Vの作動に応じて、例えば2速から3速へのアップシフト要求時に、カウンターシャフト23の回転速度を減速させる。そして、例えばスリーブ52bのスプライン歯部と対応するメインギヤ33のスプライン33aとを、所定値以内の回転速度差に制御するように、カウンターシャフト23の回転速度を低下させる。
ここにいう所定値以内の回転速度差とは、スリーブ52bの軸方向移動により前述のチャンファ部同士が当接して同期噛合を開始することが可能となる状態に円滑に移行させ得る範囲内に設定されている。
なお、この回転制御の開始時には、変速前に2速のメインギヤ32をメインシャフト22に結合させていた噛合切替機構52のスリーブ52bが中立位置に復帰し、2速のメインギヤ32を含むすべてのメインギヤ31〜34がメインシャフト22に対して空転可能な状態に移行している。
ところで、カウンターブレーキ機構70は、カウンターシャフト23およびトランスミッションケース10のメインケース12に対して、メインシャフト22の出力端側に配置されている。
具体的には、カウンターブレーキ機構70は、トランスミッションケース10の後端側に一体に支持されたブレーキケース71と、ブレーキケース71に対しボルト締結されることでトランスミッションケース10の外側に着脱可能に支持されたブレーキカバー72とを有している。
すなわち、本実施形態の車両用変速装置は、メインシャフト22の後端側から出力される平行軸歯車変速機20の変速後の回転動力をさらに変速する補助変速機80と、トランスミッションケース10の後端側部分で補助変速機80を収納する補助変速機ケース13とを有している。そして、カウンターブレーキ機構70のブレーキケース71が、補助変速機ケース13に一体に支持されている。
より具体的には、カウンターブレーキ機構70は、外歯のスプラインを有する固定側の複数のアウターディスク73(固定側の摩擦板)と、カウンターシャフト23に対し回転方向一体に連結されるブレーキハブ74と、ブレーキハブ74に回転方向一体に結合される内歯のスプラインを有し、アウターディスク73に摩擦可能に対面配置された可動側の複数のインナーディスク75(可動側の摩擦板)とを有している。
さらに、カウンターブレーキ機構70は、背面側で圧縮空気の圧力を受圧することにより前面側のアウターディスク73およびインナーディスク75を加圧することができるブレーキピストン76と、ブレーキピストン76からの加圧推力を担持しつつアウターディスク73およびインナーディスク75をそれぞれの環状の摩擦面で圧接させるストッパリング77aおよび複数の受け板77bとを有している。
ブレーキピストン76とブレーキカバー72との間には、圧縮空気が供給されたり外部に排出されたりする加圧流体室78が画成されており、この加圧流体室78は、ブレーキカバー72に形成された流体圧供給ポート72aを通して蓄圧タンクPからの圧縮空気を導入可能となっている。また、流体圧供給ポート72aを蓄圧タンクPに配管接続するエア配管Lの途中には、例えば加圧流体室78への圧縮空気の給排(供給および排出)を制御するための電磁切換弁Vが設けられている。
なお、蓄圧タンクPは、図外のエアコンプレッサによって車両の運転中常に圧縮空気が供給されることで、所定圧力以上の蓄圧状態に保持されるようになっている。
図2に示すように、カウンターブレーキ機構70は、また、カウンターシャフト23にスプライン結合もしくはキー結合により回転方向に一体に連結された丸棒状のブレーキシャフト79を有している。ブレーキシャフト79の前端部79aは、例えばカウンターシャフト23と同様な素材からなり、カウンターシャフト23より小径である。ブレーキシャフト79の後端部79bは、前端部79aより大径でブレーキハブ74に一体に結合されるとともに、軸受29を介して補助変速機ケース13に回転自在に支持されている。これにより、ブレーキハブ74は、ブレーキケース71に対し同軸にかつ回転自在に配置され、ブレーキカバー72の着脱により、複数のインナーディスク75を補助変速機ケース13の外方から着脱できるようになっている。
補助変速機ケース13は、メインケース12の後端部に締結されるその前端部側に対して、アウトプットシャフト24を軸受19を介し回転自在に支持する後端部側が小径になっている。そして、補助変速機ケース13の前端部側には、補助変速機80を高低に切り替える前述の噛合切替機構55等が収納されている。
ブレーキケース71は、補助変速機ケース13の前端部を構成する周壁部分13fの外側、例えば後方側の下側に一体に、かつ、補助変速機ケース13と軸方向に逆向きに開く有底円筒状に形成されている。すなわち、ブレーキケース71は、メインシャフト22およびアウトプットシャフト24の回転中心軸線に対し平行な中心軸線を有しトランスミッションケース10の後端側である車両後方側に開く凹状をなしている。
図2および図3に示すように、ブレーキカバー72は、ブレーキケース71の車両方向側の開口を閉塞する蓋状部72aを有するとともに、補助変速機ケース13の一部をなすブレーキケース71の開口周辺でその周方向に等間隔を隔てつつ径方向に突出する複数の締結固定部72fを有している。そして、ブレーキカバー72は、これら複数の締結固定部72fにおいて複数の締結用のボルト72bによってブレーキケース71の後端部に締結されている。ブレーキケース71とブレーキカバー72の間には、ガスケット72gやシールリング72sが介装されている。
ブレーキカバー72は、さらに、蓋状部72aからブレーキケース71の内部に入り込むように嵌合する円筒壁部72cを有しており、その円筒壁部72cの内周側には、アウターディスク73をスプライン結合させる内歯のスプライン72tが形成されている。
これらスプライン72tは、ブレーキカバー72の円筒壁部72cの内奥側の円筒内周面72iよりも径方向外側に形成されている。したがって、ブレーキカバー72の円筒壁部72cの内奥側にブレーキピストン76を収納した後、アウターディスク73をスプライン72tにスプライン係合させながら、アウターディスク73およびインナーディスク75を順次交互に収納し、さらに、複数の受け板77bを収納して、スナップリング状のストッパリング77aを円筒壁部72cを入口側の内周部に係止することができる。
すなわち、ブレーキカバー72内に内奥側から順に収納されるブレーキピストン76、アウターディスク73、インナーディスク75、複数の受け板77bおよびストッパリング77aと、ブレーキケース71に対し着脱可能なブレーキカバー72とは、これら全体として、補助変速機ケース13および軸受29によってカウンターシャフト23と同一の軸線上に保持されるブレーキシャフト79に対し、着脱可能な多板式のブレーキユニット72Uを構成している。
また、このブレーキユニット72Uにおいて、ブレーキカバー72およびブレーキピストン76は、互いに最も接近した状態でも流体圧供給ポート72aを通して所定量の圧縮空気を導入可能な加圧流体室78を画成し得るような軸方向凹凸形状をなしている。
ブレーキハブ74の後端部には、ブレーキピストン76の前面中心部に当接する当接部材74aと、この当接部材74aを介してブレーキピストン76を加圧流体室78の容積を縮小する方向に常時付勢する復帰ばね74bおよびカラー74cが設けられている。
当接部材74aは、ブレーキハブ74の後端側に開く凹部74hに軸方向摺動可能に嵌合しており、凹部74hの内底部側にはブレーキハブ74またはブレーキシャフト79の外周面側に連通する空気孔74dが、図2または図3に示すような形で形成されている。
ブレーキシャフト79の前端部79aにも、中心部から外周面側に延び、カウンターシャフト23の後端部とブレーキシャフト79の間の閉空間をブレーキシャフト79の外周面側に連通させる空気孔79dが形成されている。
ブレーキシャフト79は、カウンターシャフト23より低剛性であり、しかも、この空気孔79dが外周面上に開口する部分付近が、同一軸線上で一体に回転する他の部分よりも低捩り剛性となっている。
そして、この低捩り剛性部分により、あるいは、更に低捩り剛性になるように横断面積を小さくした部分により、ブレーキシャフト79には、カウンターシャフト23に対する制動トルクが予め設定された上限値を超えたときにカウンターブレーキ機構70とカウンターシャフト23の連結を遮断する機能を有する遮断構造部79c(図4参照)が設けられている。
遮断構造部79cは、ここでは、いわゆるメカニカルヒューズとなっているが、制動トルクが上限値を超えたときに作動するトルクリミッタやクラッチその他の機械的な連結遮断手段あるいは断接切替手段で構成されてもよい。
また、ブレーキカバー72は、ここでは、補助変速機ケース13と一体のブレーキケース71にボルト締結されているが、ブレーキカバー72の外周部をブレーキケース71の開口端側の雌ねじ部にねじ結合させるようにしてもよい。勿論、他の任意の固定手段を用い得るし、特殊な工具でのみ取外し可能な締結形態とすることができる。
次に、作用について説明する。
上述のように構成された本実施形態においては、平行軸歯車変速機20に複数のスリーブ式の噛合切替機構51、52、53が設けられ、複数のメインギヤ31〜34のうち任意のギヤとメインシャフト22とが択一的に回転方向一体に結合されたり、インプットシャフト21がスプリッタハイギヤ35またはスプリッタローギヤ33に択一的に結合されたりすることで、動力伝達経路が多段変速可能に切り換えられる。さらに、補助変速機80による高低2段の切替えがされることで、より多段に変速される。
このような変速に際しては、シフトレバーからのアップシフト方向の変速要求となる操作入力に応じて、あるいは、車速およびアクセルポジション等に基づいて、変速制御用のECUからのアップシフト方向の変速要求がなされ、シフト・セレクト機構60に対する操作入力を制御する電磁切換弁Vや前述の変速操作用のアクチュエータ類が作動する。そして、カウンターブレーキ機構70が作動する。
いま、例えば、アップシフト方向への変速、例えば2速から3速へのアップシフトが要求され、噛合切替機構52のスリーブ52bがメインギヤ33側に軸方向移動することで、3速のメインギヤ33がメインシャフト22に回転方向一体に結合されるものとすると、このとき、カウンターブレーキ機構70が作動する。
具体的には、変速のためにクラッチ装置3によって動力伝達経路が切断され、車両の車速が略一定の走行状態で、2速から3速に変速されるとき、平行軸歯車変速機20の出力回転数が略一定の状態で変速ギヤ比が小さくなり、エンジン回転数が変速後の回転速度に近付くように低下する。また、噛合切替機構52のスリーブ52bが2速のメインギヤ32から切り離されて中立位置に戻ると、すべてのメインギヤ31〜34がメインシャフト22に対して空転状態となり、オイル粘性等によりカウンターシャフト23の回転数も低下する。
このとき、図5に示す制動開始時期t1から制動終了時期t2までカウンターブレーキ機構70を作動させ、カウンターシャフト23の回転数を変速前の2速での回転数から変速後の3速での回転数に近い回転数、例えば3速での回転数より所定比率だけ大きい回転数まで減速させる。
したがって、カウンターシャフト23の回転数が自然に減速するよりも十分に短い時間で、スリーブ52bのスプライン歯部と対応するメインギヤ33のスプライン33aとを所定値以内の回転速度差に制御でき、噛合切替機構52のスリーブ52bを3速のメインギヤ32に迅速に噛合させることができる。
このような本実施形態の車両用変速装置2では、噛合切替機構51、52に同期噛合用のシンクロナイザリングが設けられていないので、従来の一般的な車両用変速装置に比べて、比較的大径で多数、例えば6つの環状精密部品を削減できることになる。したがって、装置の構造の簡素化によるコスト低減を図ることができ、コンパクト化が可能となる。
また、噛合切替機構51、52においては、回転同期のためにスリーブとメインギヤの間に摩擦テーパ面を設ける必要もないので、シフト・セレクト機構60により各噛合切替機構51、52に加える操作力を軽減でき、空圧式のパワーシフト機構を小型化したり倍力用のブースタ等を省略したりでき、あるいは、モータ等の電動アクチュエータを小型化できることになる。さらに、同期噛合機構での摩擦面による回転同期の必要が無いので、各スリーブ51b、52bの移動によるシフトスピードを高めることができ、変速時間の短縮化が可能となる。
さらに、本実施形態では、カウンターブレーキ機構70に対するトランスミッションケース10の後端側の外方からのメンテナンス作業が可能となる。
すなわち、トランスミッションケース10に対し十分に小径で軽量なブレーキカバー72をブレーキケース71側から取り外すだけで、ブレーキピストン76やアウターディスク73およびインナーディスク75等をブレーキケース71内から取り出し可能となる。また、ブレーキシャフト79がカウンターシャフト23にスプライン結合している場合、ブレーキハブ74やブレーキシャフト79も、外側に取外し可能となる。
したがって、カウンターブレーキ機構70のメンテナンス作業が必要な場合に、トランスミッションケース10の大口径部分の締結を解除したり車両用変速装置2を車両から取り外したりする大掛かりな別の作業が必要になることがない。なお、作業が必要になるのは、メンテナンス作業時のみならず、車両用変速装置2の組立初期の調整時であっても同様である。
また、本実施形態では、カウンターブレーキ機構70が、トランスミッションケース10の後端側に一体化されたブレーキケース71に対して、ブレーキカバー72がトランスミッションケース10の外側に着脱可能に支持されている。したがって、トランスミッションケース10の後方側や下方側にブレーキカバー72をブレーキケース71から取り外す作業空間を容易に確保でき、カウンターブレーキ機構70のメンテナンス作業自体の作業性が良くなる。
特に、本実施形態では、ブレーキカバー72内にブレーキピストン76、アウターディスク73、インナーディスク75および複数の受け板77b等を収納した多板式のブレーキユニット72Uが、車両停止状態で補助変速機ケース13および軸受29によってカウンターシャフト23と同一軸線上に保持されるブレーキシャフト79に対して、ブレーキカバー72と共に一体的に着脱可能となっている。したがって、複数の締結用のボルト72bを外してブレーキカバー72をブレーキケース71から取り外すときに、定位置に静止するブレーキシャフト79のブレーキハブ74から多板式のブレーキユニット72Uを切り離すことができる。
また、ブレーキカバー72をブレーキケース71に再装着するとき、ブレーキカバー72の回転方向の角度位置を取外し時と同一にするだけで、メンテナンス作業後のブレーキユニット72Uをそのブレーキハブ74に容易にスプライン結合させることができる。
さらに、ブレーキシャフト79や軸受29自体も、外方に引き抜いたり止め輪29aを外したりするだけで、トランスミッションケース10の外方に容易に取り出すことができ、再度の取付け作業も取外し時と逆の手順で容易に行うことができる。
その結果、車両用変速装置2の構造が簡素で円滑な変速ができることに加えて、カウンターブレーキ機構70のメンテナンスに必要な作業を格段に容易化できることになる。
加えて、本実施形態では、メインシャフト22の後端側から出力される主変速後の回転動力をさらに変速する補助変速機80と、トランスミッションケース10の後端側で補助変速機80を収納する補助変速機ケース13と、を有しており、カウンターブレーキ機構70のブレーキケース71が、補助変速機ケース13に一体に支持されている。したがって、カウンターブレーキ機構70の部品点数を抑えることができる。
また、カウンターブレーキ機構70は、圧縮空気の圧力を供給するときにカウンターシャフトに対する制動力を出力可能であるので、圧縮空気の圧力を利用する圧空式のアクチュエータ類を多用する車両に好適である。
加えて、本実施形態では、カウンターブレーキ機構70のブレーキシャフト79に、カウンターシャフト23に対する制動力を機械的に遮断可能な遮断構造部79cが設けられている。したがって、カウンターブレーキ機構70の故障等による異常発生時にカウンターシャフト23に過大な制動トルクや回転抵抗トルクが作用することを防止でき、フェールセーフ機能を高めることができる。
なお、上述の一実施形態においては、トランスミッションケース10のメインケース12の後方に補助変速機80および補助変速機ケース13が配置されていたが、補助変速機80のような副変速機が無くてもよいし、トランスミッションケースの前段に配置されてもよい。また、カウンターブレーキ機構70は、多板式のブレーキ機構としたが、応答性の良い他方式のブレーキであってもよく、空圧式でなく電磁式等であってもよい。さらに、カウンターブレーキ機構70のブレーキケース71は補助変速機ケース13と一体に形成されるものとしたが、カップ状のブレーキケース71自体を補助変速機ケース13側に形成した後方に開く凹状部分に嵌め込んだりねじ結合させたりしてもよい。また、アップシフト方向の変速を平行軸歯車変速機20における2速から3速への変速として説明したが、任意の変速段での変速時にあるいは飛越し変速時にも、本発明は適用可能である。上述の一実施形態においては、トランスミッションケースの後端側車両後方側として説明したが、本発明にいうトランスミッションケースの後端側とは変速出力軸側であり、必ずしも車両後方側である必要はない。したがって、本発明の車両用変速装置を、いわゆる横置きエンジンからの回転動力を変速する車両用変速装置に適用することも考えられる。
以上説明したように、本発明の車両用変速装置は、構造が簡素で円滑な変速ができることに加えて、カウンターブレーキ機構に対するトランスミッションケースの後端側外方からのメンテナンス作業を可能にすることで、トランスミッションケースの大口径部分の締結を解除したり車両用変速装置を車両から取り外したりする大掛かりな別作業の必要を無くして、カウンターブレーキ機構のメンテナンス作業を格段に容易化できるものである。かかる本発明は、カウンターシャフトを備えた多段の車両用変速装置全般に有用である。