以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、車両の概略構成図である。車両は、エンジン1と、トルクコンバータ2と、バリエータ3と、終減速機構4と、駆動輪5と、オイルポンプ10と、油圧制御回路11と、コントローラ12と、センサ・スイッチ群13と、を備える。車両では、自動変速機15が、バリエータ3のほか、トルクコンバータ2や、オイルポンプ10や、油圧制御回路11や、コントローラ12や、センサ・スイッチ群13を有して構成される。
エンジン1は、車両の駆動源を構成する。エンジン1の出力は、トルクコンバータ2、バリエータ3及び終減速機構4を介して駆動輪5へと伝達される。換言すれば、トルクコンバータ2やバリエータ3や終減速機構4は、エンジン1から駆動輪5に動力を伝達する動力伝達経路に設けられる。
トルクコンバータ2は、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータ2では、ロックアップクラッチ2aを締結することで、動力伝達効率を高めることができる。
バリエータ3は、プライマリプーリ31と、セカンダリプーリ32と、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ32に巻き掛けられたベルト33と、を有する。以下では、プライマリをPRIとも称し、セカンダリをSECとも称す。バリエータ3は、PRIプーリ31とSECプーリ32との溝幅をそれぞれ変更することでベルト33の巻掛け径を変更して変速を行うベルト式無段変速機構を構成している。
PRIプーリ31は、固定プーリ31aと、可動プーリ31bと、PRI室31cと、を有する。PRIプーリ31では、PRI室31cに供給されるプライマリ圧を制御することにより、可動プーリ31bが作動し、PRIプーリ31の溝幅が変更される。
SECプーリ32は、固定プーリ32aと、可動プーリ32bと、SEC室32cと、を有する。SECプーリ32では、SEC室32cに供給されるセカンダリ圧を制御することにより、可動プーリ32bが作動し、SECプーリ32の溝幅が変更される。
ベルト33は、PRIプーリ31の固定プーリ31aと可動プーリ31bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面と、SECプーリ32の固定プーリ32aと可動プーリ32bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面に巻き掛けられる。
終減速機構4は、複数の歯車列やディファレンシャルギアを有して構成される。終減速機構4は、車軸を介して駆動輪5を回転する。
オイルポンプ10は、可変容量オイルポンプであり、エンジン1により駆動されてオイルを吐出する機械式のオイルポンプである。オイルポンプ10には具体的には、可変容量型ベーンポンプが用いられる。バリエータ3には、オイルポンプ10を油圧源として油圧が供給される。
油圧制御回路11は、オイルポンプ10が吐出した油の圧力すなわち油圧を調整してバリエータ3の各部位に伝達する。油圧制御回路11では、ライン圧PLやPRI圧やSEC圧の調整が行われる。ライン圧PLは、自動変速機15における油圧の元圧を構成する。油圧制御回路11は、トルクコンバータ2にも油圧を供給する。
コントローラ12は、電子制御装置であり、コントローラ12には、センサ・スイッチ群13からの信号が入力される。
センサ・スイッチ群13は例えば、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサや、ブレーキペダルの踏み込み量BRPに基づくブレーキ踏力を検出するブレーキセンサや、車速Vspを検出する車速センサや、回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサや、変速レバーの操作位置を検出するインヒビタスイッチや、自動変速機15の油温OLTを検出する油温センサや、エンジン1の始動、停止を行うためのイグニッションスイッチIGSWを含む。センサ・スイッチ群13からの信号は例えば、他のコントローラを介してコントローラ12に入力されてもよい。
センサ・スイッチ群13はさらに例えば、PRI圧を検出するPRI圧センサや、SEC圧を検出するSEC圧センサや、PRIプーリ31の入力側回転速度である回転速度Npriを検出するPRI回転速度センサや、SECプーリ32の出力側回転速度である回転速度Nsecを検出するSEC回転速度センサを含む。
コントローラ12は、センサ・スイッチ群13からの信号に基づき、油圧制御回路11を制御する。バリエータ3の変速比は、油圧制御回路11及びコントローラ12によって、オイルポンプ10が吐出するオイルを制御することで変更される。コントローラ12は、オイルポンプ10の吐出量も制御する。
図2は、油圧制御回路11の要部を示す図である。図2では、オイルポンプ10や、PRI室31cや、SEC室32cについても併せて示す。油圧制御回路11は、ライン圧制御弁111と、PRI圧制御弁112と、SEC圧制御弁113と、ライン圧油路114と、を有する。
ライン圧制御弁111はライン圧PLを制御する。ライン圧制御弁111は、本体111aと、スプール111bと、スプリング111cと、を備える。ライン圧制御弁111は、ポート111dからポート111gを有する。ライン圧制御弁111はライン圧油路114に設けられる。
本体111aは、スプール111b及びスプリング111cを収容する。スプリング111cは、スプール111bをポート111f側に付勢する。ポート111dからポート111gは、本体111aの内外を連通する。
ポート111dは入口ポートであり、ライン圧油路114に接続される。ポート111eは出口ポートであり、循環系等に接続される。ポート111fはフィードバックポートであり、ポート111fにはライン圧PLの実圧がフィードバック圧としてオリフィス等を介して入力される。ポート111gはパイロットポートであり、ポート111gには図示しないソレノイド弁によってライン圧PLの指示圧に応じた制御圧Psが入力される。
ライン圧制御弁111では、スプール111bに作用する力、具体的にはフィードバック圧に応じた作用力、スプリング111cの付勢力及び制御圧Psに応じた作用力がバランスする位置にスプール111bが移動することで、実圧が指示圧になるようにライン圧PLが制御される。
PRI圧制御弁112は、PRI圧を制御し、SEC圧制御弁113は、SEC圧を制御する。PRI圧制御弁112及びSEC圧制御弁113は、ライン圧油路114のうちライン圧制御弁111の下流部分に設けられる。PRI圧制御弁112及びSEC圧制御弁113には、ライン圧制御弁111同様、フィードバックポート等を有する制御弁を適用することができる。オイルポンプ10は、PRI圧制御弁112を介してPRI室31cに油を供給し、SEC圧制御弁113を介してSEC室32cに油を供給する。
ところで、このような油圧制御回路11を備える自動変速機15では、実圧が指示圧を上回る油圧のオーバーシュートが、例えばライン圧PLで発生する可能性がある。
ライン圧PLのオーバーシュートは具体的には、次のようにして発生する。すなわち、エンジン1が始動すると、回転速度Neの上昇に応じてオイルポンプ10の吐出量が増加し、スプール111bがポート111g側へ移動する。そして、ポート111g側の油が圧縮され制御圧Psが上昇すると、実圧を上昇させるように指示圧が設定されたのと同様になるので、ライン圧PLの実圧がさらに上昇することになる。そして、このような作用によって、スプール111bに作用する力がバランスするまでの間に、ライン圧PLのオーバーシュートが発生することになる。
ライン圧PLのオーバーシュートが発生すると、その影響がライン圧制御弁111の下流に及ぶ結果、実圧が指示圧を上回る油圧のオーバーシュートが、PRI圧やSEC圧でも発生し得る。温度が低いほど油の粘度が高くなり、油を供給する際の抵抗が大きくなって油圧が高まり易くなる関係上、油圧のオーバーシュートは、エンジン1が例えば−35℃など極低温で始動された際に顕著なものとなる。
このため、自動変速機15では、エンジン1の極低温始動時には、油圧制御を含む始動時制御として、回転速度Neとライン圧PLの指示圧とを低下させる極低温始動時制御を行う。これにより、オイルポンプ10からの油の吐出が抑制されるとともに、ライン圧制御弁111での油のドレーンが促進されるので、油圧のオーバーシュートの抑制が図られる。
ところが、極低温時に2回以上のエンジン1の始動が行われると、1回目の始動時から十分な時間が経過していない2回目以降の始動時に、自動変速機15において油圧のオーバーシュートが大きくなることが判明した。
2回目以降の始動時に油圧のオーバーシュートが大きくなる理由は例えば、次のように考えられる。すなわち、油圧制御回路11内に気体が混入している場合、その気体は油圧のオーバーシュートを下げる働きをする。ところが、1回目の始動後には、オイルポンプ10からの油の供給によって油圧制御回路11から気体が排出される。このため、2回目以降の始動時に、油圧のオーバーシュートが大きくなると考えられる。
可変容量型ベーンポンプのオイルポンプ10を備える構成では、さらに次のような理由も考えられる。
ここで、オイルポンプ10では、1回目の始動時には一部のベーンが重力によって回転中心側に引っ込んだ状態になっている。このため、一部のベーンが引っ込んでいる分、オイルポンプ10の吐出量は小さくなる。ところが、1回目の始動時から十分な時間が経過していない2回目以降の始動時には、油の粘性によってベーンが張り出した状態に維持される。結果、オイルポンプ10の吐出量が1回目の始動時よりも増加するので、油圧のオーバーシュートが発生すると考えられる。
このため、本実施形態ではコントローラ12が次に説明するように制御を行う。
図3は、コントローラ12が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。図3では、油圧がライン圧PLである場合について説明する。コントローラ12は、本フローチャートの処理を例えば微小時間毎に繰り返し実行する。
ステップS1で、コントローラ12は、イグニッションスイッチIGSWがONになったか否かを判定する。ステップS1で否定判定であれば、本フローチャートの処理は一旦終了する。ステップS1で肯定判定であれば、処理はステップS2に進む。
ステップS2で、コントローラ12は、自動変速機15の油温OLTが第1設定温度OLT1よりも低いか否かを判定する。第1設定温度OLT1は、自動変速機15の油温OLTが極低温であるか否かを判定するための値として設定される。第1設定温度OLT1は例えば−35℃であり、実験等に基づき予め設定することができる。ステップS2で肯定判定であれば、処理はステップS3に進む。
ステップS3からステップS7では、吐出量低下制御の禁止条件が成立しているか否かが判定される。吐出量低下制御は、極低温時の2回目以降のエンジン1の始動時のオーバーシュートを抑制するための制御である。吐出量低下制御についてはさらに後述する。
ステップS3で、コントローラ12は、1回目の始動判定が済んでいるか否かを判定する。1回目の始動判定は例えば、極低温になった後、1回目の始動が行われたと判定した場合に、判定済となる。1回目の始動が行われたか否かは、エンジン1の始動の際に、所定状態が第2設定時間T2よりも長く継続しなかったか否かで判定することができる。コントローラ12は、極低温時にエンジン1が始動する度に、このような判定を行うとともにその判定結果を記憶することで、記憶した判定結果に基づき1回目の始動がすでに行われたか否かを判定することができる。判定結果は、極低温時でなくなった場合にリセットすることができる。
1回目の始動が行われたか否かの判定に関し、エンジン1の始動の際は具体的には、エンジン1の始動直後である。エンジン1の始動直後は例えば、回転速度Neが上昇し始めた直後であってもよく、エンジン1のクランキング完了直後であってもよい。
所定状態は、ライン圧PLが設定ライン圧PL1よりも高い状態であり、換言すればライン圧PLが立ち上がった状態である。そして、ライン圧PLが立ち上がった状態が第2設定時間T2よりも長く継続した場合、すなわちライン圧PLが立ち上がった状態が維持された場合には、ライン圧PLが立ち上がったと言える。したがって、逆の場合にはライン圧PLが立ち上がらなかったといえる。
このため、1回目の始動が行われたか否かは換言すれば、エンジン1の始動の際に、ライン圧PLが立ち上がらなかったか否かで判定され、これにより、エンジン1の始動が1回目の始動であるか2回目以降の始動であるかが判定される。
したがって、1回目の始動と2回目以降の始動とは、エンジン1の始動の際に、ライン圧PLが立ち上がらなかったか否かで区別することができる。これは、次のようにライン圧PLが変化するためである。
ここで、極低温時を含む低温時には、オイルポンプ10の駆動負荷を軽減するために、エンジン1の始動の際にラインPLの指示圧は低く設定される。また、1回目の始動時には、混入気体等がライン圧PLのオーバーシュートを下げる働きをする。このため、1回目の始動時には、エンジン1の始動直後にライン圧PLは立ち上がらない。
その一方で、1回目の始動で油圧制御回路11内から気体が排出されたりすると、混入気体等によるオーバーシュート低減の働きがなくなる。このため、2回目以降の始動時には、ラインPLの指示圧を低く設定していても、エンジン1の始動直後にライン圧PLが立ち上がる。
但し、2回目以降の始動であっても油圧制御回路11内から気体が十分に排出されていない場合には、1回目の始動と同様、エンジン1の始動直後にライン圧PLは立ち上がらない。
このため、ステップS3の判定は、このような場合、すなわち所定状態が第2設定時間T2継続するという状態を経験しない場合に、吐出量低下制御を禁止する禁止条件が成立したか否かの判定をさらに含む判定となっている。設定ライン圧PL1や第2設定時間T2は、ライン圧PLが立ち上がらなかったか否かを判定するための値として、実験等により予め設定することができる。ステップS3で否定判定であれば、処理はステップS4に進む。
ステップS4で、コントローラ12は、1回目の始動から第1設定時間T1が経過しているか否かを判定する。ここで、1回目の始動から長時間が経過した場合には、油が攪拌されたり、エンジン1の停止中に油圧制御回路11内の油が落下したりして、油圧制御回路11内に気体が再度混入している可能性がある。
このため、第1設定時間T1は、油圧制御回路11内に気体が再度混入している可能性があるか否かを判定するための値として設定される。第1設定時間T1は例えば、数時間から1日程度に設定することができる。1回目の始動から第1設定時間T1が経過している場合とは、具体的には1回目の始動で始動したエンジン1が停止してから第1設定時間T1が経過している場合、とすることができる。第1設定時間T1は、実験等により予め設定することができる。ステップS4で否定判定であれば、処理はステップS5に進む。
ステップS5で、コントローラ12は、自動変速機15の油温OLTが第2設定温度OLT2よりも高いか否かを判定する。ここで、再度検知した油温OLTが高くなれば、その分油の粘度は低いことになるので、吐出量低下制御の実行が不要な可能性がある。このため、第2設定温度OLT2は、受熱等による油温OLTの上昇や、油温OLTのばらつきを考慮して、吐出量低下制御の実行が不要な可能性があるか否かを判定するための値として設定される。
第2設定温度OLT2は具体的には、第1設定温度OLT1よりも高く設定される。したがって、ステップS5では換言すれば、所定の温度だけ油温OLTが極低温よりも高いか否かが判定される。これにより、油温OLTがあくまで検知箇所における油温であり、位置によってばらつきがあるとしても、吐出量低下制御の実行が適切に禁止される。第2設定温度OLT2は例えば、第1設定温度OLT1よりも2、3℃程度高い温度に設定することができる。第2設定温度OLT2は、実験等により予め設定することができる。ステップS5で否定判定であれば、処理はステップS6に進む。
ステップS6で、コントローラ12は、1回目の始動後の経験車速Vsp´が設定車速Vsp1よりも高くなったか否かを判定する。換言すれば、ステップS6では、1回目の始動後に車速Vspが設定車速Vsp1よりも高くなったか否かが判定される。
ここで、車速Vspが高まった後には、潤滑系等での油の受熱量が大きくなり、油温OLTのばらつきも大きくなる。結果、検知箇所における油温OLTが第1設定温度OLT1よりも低い場合であっても、吐出量低下制御の実行が不要な油温状態となっている可能性がある。
このため、設定車速Vsp1は、吐出量低下制御の実行が不要な油温状態になっている可能性があるか否かを判定するための値として設定される。設定車速Vsp1は、実験等により予め設定することができる。ステップS6で否定判定であれば、処理はステップS7に進む。
ステップS7で、コントローラ12は、1回目の始動後のオイルポンプ10の経験回転速度Np´が設定回転速度Np1よりも高くなったか否かを判定する。言い換えれば、ステップS7では、1回目の始動後に回転速度Npが設定回転速度Np1よりも高くなったか否かが判定される。
ここで、回転速度Npは、回転速度Neの上昇に応じて高まる。そして、回転速度Neが高まった後には、車速Vspが高まった後と同様、検知箇所における油温OLTが第1設定温度OLT1よりも低い場合であっても、吐出量低下制御の実行が不要な油温状態となっている可能性がある。
このため、設定回転速度Np1は、吐出量低下制御の実行が不要な油温状態となっている可能性があるか否かを判定するための値として設定される。設定回転速度Np1は、実験等により予め設定することができる。ステップS6及びステップS7の判定それぞれでは、肯定判定される場合の条件が、1回目の始動から第1設定時間T1よりも短い第4設定時間T4が経過する前であること、をさらに含んでもよい。第4設定時間T4は例えば、油の受熱が影響する期間を考慮して、数時間程度に設定することができる。
ステップS7で否定判定であれば、処理はステップS8に進む。ステップS8で、コントローラ12は、吐出量低下制御を実行する。吐出量低下制御は、2回目以降の始動時のオイルポンプ10の設定吐出量を1回目の始動時よりも低下させる制御である。
吐出量低下制御では具体的には、オイルポンプ10の設定吐出量が吐出量S1に設定される。吐出量S1は、2回目以降の始動時にライン圧PLのオーバーシュートを抑制するための値として設定される。吐出量S1は、油温OLTが低い場合ほど小さく設定される。吐出量S1は、実験等により予め設定することができる。
ステップS9で、コントローラ12は、吐出量低下制御の開始後、所定状態が第3設定時間T3継続したか否かを判定する。所定状態は、ステップS3で前述した通り、ライン圧PLが立ち上がった状態である。第3設定時間T3は、ライン圧PLが立ち上がってから、立ち上がり時のライン圧PLの変動がピークを過ぎるまでの値として、実験等により予め設定することができる。
ステップS9で否定判定であれば、立ち上がり時のライン圧PLの変動が未だピークを過ぎていないので、処理はステップS8に戻る。結果、吐出量低下制御が継続される。ステップS9で肯定判定であれば、処理はステップS10に進む。
ステップS10で、コントローラ12は、吐出量低下制御を終了させる。コントローラ12は、吐出量低下制御を終了させることで、オイルポンプ10の吐出量を上昇させる。オイルポンプ10の吐出量を上昇させるにあたっては、例えばオイルポンプ10の設定吐出量を極低温時でない場合の通常時の吐出量など、吐出量S1よりも大きな吐出量に設定することができる。ステップS10の後には、本フローチャートの処理は一旦終了する。
ステップS3で肯定判定であれば、処理はステップS11に進む。ステップS11で、コントローラ12は、極低温時の1回目の始動時に行う1回目始動時制御を実行する。1回目始動時制御としては、回転速度Neとライン圧PLの指示圧とを低下させる前述の極低温始動時制御が実行される。1回目始動時制御には、極低温始動時制御のほか、公知技術を含む適宜の技術が適用されてもよい。
ステップS4からステップS7のうちいずれかで肯定判定であれば、処理はステップS12に進む。ステップS2で否定判定の場合も同様である。ステップS12で、コントローラ12は、通常始動時制御を実行する。通常始動時制御は、極低温時でない場合に行われる始動時制御である。通常始動時制御には、公知技術のほか適宜の技術が適用されてよい。
ステップS11やステップS12では、上述のようにして1回目始動時制御や通常始動時制御を行うことで、通常通りの判断に基づき始動時制御が行われる。ステップS11やステップS12の後には、本フローチャートの処理は一旦終了する。
ステップS7で、コントローラ12は、1回目の始動後の経験回転速度Ne´が設定回転速度Ne1よりも高くなったか否かを判定してもよい。設定回転速度Ne1は、設定回転速度Np1と同様に、実験等により予め設定することができる。ステップS7で、判定パラメータとして経験回転速度Np´を用いる場合、次のように設定回転速度Np1を設定することもできる。
すなわち、オイルポンプ10が可変容量オイルポンプである場合には、回転速度Neと回転速度Npとは必ずしも同様に変化しない。このため、判定パラメータとして経験回転速度Np´を用いる場合、2回目以降の始動の際に油圧制御回路11内から気体が十分に排出されているか否かを判定するための値として、或いはこのような値であることをさらに兼ねる値として、設定回転速度Np1を設定することもできる。この場合、ステップS3とステップS7とで、2回目以降の始動の際に油圧制御回路11内から気体が十分に排出されているか否かをダブルチェックすることができる。
ステップS9で、コントローラ12は、吐出量低下制御を開始してから第3設定時間T3´が経過したか否かを判定してもよい。第3設定時間T3´は、吐出量低下制御を開始してから、立ち上がり時のライン圧PLの変動がピークを過ぎるまでの時間として、実験等に応じて予め設定することができる。
コントローラ12は、エンジン1によって駆動される車両に搭載され、オイルポンプ10を有する自動変速機15の制御装置であり、ステップS2で肯定判定である場合に、ステップS8の処理を行うことで、第1制御部として機能する。
コントローラ12はさらに、ステップS4で肯定判定の場合に、ステップS8の処理の実行を禁止することで、第2制御部として機能する。コントローラ12はさらに、ステップS6或いはステップS7で肯定判定の場合に、ステップS8の処理の実行を禁止することで、第3制御部として機能する。コントローラ12はさらに、ステップS3で肯定判定の場合に、ステップS8の処理の実行を禁止することで、第4制御部として機能する。コントローラ12はさらに、ステップS9で肯定判定の場合に、ステップS10の処理を行うことで、第5制御部として機能する。
コントローラ12は、これら第1制御部から第5制御部の各制御部として機能することで、各制御部を有する。自動変速機15の制御装置は、さらに油圧制御回路11やセンサ・スイッチ群13を有して構成されていると把握されてもよい。
次に、コントローラ12の主な作用効果について説明する。
図4は、コントローラ12が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。図4では、極低温時の回転速度Ne及びライン圧PLの変化の一例を示す。図4では、比較例の場合のライン圧PLの変化についても破線で併せて示す。
タイミングTG1では、1回目の始動が開始される。1回目の始動では、油圧制御回路11内に気体が混入しており、オイルポンプ10のベーンの一部が引っ込んだ状態になっている。そして、これらがライン圧PLのオーバーシュートを下げる働きをすることと相俟って、ライン圧PLは、タイミングTG1後、エンジン1の始動に応じて立ち上がらず、タイミングTG1から大きく遅れたタイミングTG2で設定ライン圧PL1を超えて立ち上がり始める。
エンジン1の始動の際に、所定状態すなわちライン圧PLが設定ライン圧PL1よりも高い状態が第2設定時間T2よりも長く継続しなかった場合は具体的には、このような場合に対応する。1回目の始動では、ライン圧PLのオーバーシュートは1回目始動時制御で抑制される。エンジン1はその後、タイミングTG3で停止され、これに応じてライン圧PLも低下する。
エンジン1の始動の際に、所定状態が第2設定時間T2よりも長く継続しなかった場合は、エンジン1のクランキング後、ライン圧PL1が設定ライン圧PL1を上回り、且つライン圧PLが設定ライン圧PL1よりも高い状態が第2設定時間T2´よりも長く経過した場合とされてもよい。すなわち、タイミングTG1、タイミングTG2間のライン圧PLの状態を規定する前者の場合は、タイミングTG2、タイミングTG3間のライン圧PLの状態を規定する後者の場合とされてもよい。前者の場合であることは、後者の場合であることを含む。第2設定時間T2´は、1回目の始動に応じた態様のライン圧PLの立ち上がりがあったか否かを判定するための値として、実験等により予め設定することができる。
タイミングTG4では、2回目の始動が開始される。タイミングTG4は、タイミングTG1から第1設定時間T1が経過する前のタイミングである。この例では、2回目の始動時には、油圧制御回路11内の気体が排出されており、オイルポンプ10のベーンも張り出した状態に維持されている。したがって、2回目の始動では混入気体等によるオーバーシュート低減の働きがなく、ライン圧PLは、タイミングTG4直後にエンジン1の始動に応じて立ち上がる。エンジン1はその後、タイミングTG5で再び停止される。
タイミングTG6では、3回目の始動が開始される。タイミングTG6もタイミングTG4と同様、タイミングTG1から第1設定時間T1が経過する前のタイミングである。この場合も2回目の始動時と同様、混合気体等によるオーバーシュート低減の働きはなく、ライン圧PLは、タイミングTG6直後に立ち上がる。エンジン1はその後、タイミングTG7で停止される。
比較例の場合、2回目以降の始動でも1回目の始動時と同様、1回目始動時制御が行われる。ところが、2回目以降の始動では、ライン圧PLが始動直後に立ち上がるので、1回目始動時制御ではライン圧PLのオーバーシュートに十分に対応できず、ライン圧PLが大きくオーバーシュートする。
このような事情に鑑み、本実施形態では、コントローラ12が、自動変速機15の油温OLTが第1設定温度OLT1よりも低いときに、すなわち極低温時に、2回目以降のエンジン1の始動時のオイルポンプ10の設定吐出量を1回目のエンジン1の始動時よりも低下させる吐出量低下制御を実行する。
このような構成のコントローラ12によれば、極低温時の2回目以降の始動時には、吐出量低下制御によってオイルポンプ10の設定吐出量を下げるので、ライン圧PLのオーバーシュートに対応すべく、オイルポンプ10の吐出量を確実に低下させることができる。したがって、極低温時の2回目以降の始動時にライン圧PLのオーバーシュートが発生する事態を改善することができる。また、オイルポンプ10の設定吐出量を下げることで、極低温始動時のエンジン1の負荷も軽減される。このため、このような構成のコントローラ12によれば、エンジン1のスタータモータの小型化などにも有利である(請求項1、6に対応する効果)。
コントローラ12はさらに、1回目のエンジン1の始動から第1設定時間T1を経過している場合に、吐出量低下制御の実行を禁止する。
このような構成のコントローラ12によれば、1回目の始動から長時間経過し、油圧制御回路11内に気体が再度混入している可能性がある場合には、通常通りの判断に基づき始動時制御を行うことができる。すなわち、状況に応じた適切な制御を行うことができる(請求項2に対応する効果)。
コントローラ12はさらに、1回目のエンジン1の始動後に、車速Vspが設定車速Vsp1よりも高くなった場合、或いは回転速度Npが設定回転速度Np1よりも高くなった場合に、吐出量低下制御の実行を禁止する。
このような構成のコントローラ12によれば、1回目の始動後の車両の運転状態に起因して吐出量低下制御が不要な程度に油温状態が改善されている可能性がある場合には、通常通りの判断に基づき始動時制御を行うことができる。したがって、状況に応じた適切な制御を行うことができる(請求項3に対応する効果)。
コントローラ12はさらに、2回目以降のエンジン1の始動の際に、ライン圧PLが設定ライン圧PL1よりも高い状態が第2設定時間T2よりも長く継続しなかった場合に、吐出量低下制御の実行を禁止する。
このような構成のコントローラ12によれば、2回目以降の始動であっても、油圧制御回路11内から気体が十分に排出されていない可能性がある場合には、通常通りの判断に基づき始動時制御を行うことができる。したがって、状況に応じた適切な制御を行うことができる(請求項4に対応する効果)。
コントローラ12はさらに、吐出量低下制御を第3設定時間T3よりも長く継続した後に、オイルポンプ10の吐出量を上昇させる。
このような構成のコントローラ12によれば、立ち上がり時のライン圧PLの変動がピークを過ぎた後には、ライン圧PLの確保を優先することができる(請求項5に対応する効果)。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
上述した実施形態では、自動変速機15が、バリエータ3を有して構成される場合について説明した。しかしながら、自動変速機15は例えば、有段の自動変速機構すなわち所謂オートマチックトランスミッションを有して構成されてもよい。また、バリエータ3は例えば、トロイダル型の無段変速機構であってもよい。
上述した実施形態では、エンジン1が駆動源である場合について説明した。しかしながら、駆動源は例えば、モータやエンジン1及びモータであってもよい。
上述した実施形態では、オイルポンプ10がエンジン1の動力によって駆動される機械式のオイルポンプである場合について説明した。しかしながら、オイルポンプ10は例えば、エンジン1の始動に応じてエンジン1の動力以外の動力によって駆動されるオイルポンプであってもよい。
上述した実施形態では、オイルポンプ10が可変容量ポンプシステムである場合について説明した。しかしながら、可変容量ポンプシステムは例えば、吐出量を段階的に可変にする多段式のオイルポンプであってもよい。
上述した実施形態では、コントローラ12が、第1制御部から第5制御部の各制御部を構成する場合について説明した。しかしながら、各制御部は例えば、複数のコントローラで構成されてもよい。