以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法を示すフローチャートである。実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法は、放射性核種または重金属元素を吸着しているイオン交換基を有する使用済みイオン交換樹脂を、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを含む液体と接触させて、使用済みイオン交換樹脂から放射性核種または重金属元素を脱離させる。そして、図1に示すように、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法は、液体に鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを供給する工程(以下、供給工程ともいう)S100と、液体中の元素濃度を測定する工程(以下、測定工程ともいう)S200と、測定工程S200で測定される液体中の元素濃度に応じて、液体に供給される鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つの量を調整する工程(以下、供給量調整工程ともいう)S300とを備える。
実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法で処理される使用済みイオン交換樹脂は、例えば、原子力発電所の炉水浄化系、復水浄化系、放射性廃液の処理系、または重金属元素を含む産業排水の無害化処理に使用された使用済みのイオン交換樹脂である。使用済みイオン交換樹脂のイオン交換基には、放射性核種または重金属元素が吸着している。使用済みイオン交換樹脂のイオン交換基は、放射性核種または重金属元素の吸着部位である。
放射性核種としては、例えば、コバルト−60などが挙げられる。また、重金属元素としては、例えば、クロム(Cr)、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)などが挙げられる。
使用済みイオン交換樹脂のイオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂からなる混床型イオン交換樹脂のいずれであってもよい。
図1に示す供給工程S100では、液体に鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを供給する。供給工程S100では、使用済みイオン交換樹脂を浸漬している液体に鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを供給してもよいし、使用済みイオン交換樹脂を浸漬する前の液体にこれら物質を供給してもよい。
液体は、後述するように、液体中で鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの反応によってラジカルを生成することができれば特に限定されず、例えば水が挙げられる。このような反応によって生じるラジカルの酸化力は強い。そのため、液体中のラジカルは、使用済みイオン交換樹脂を酸化して、放射性核種または重金属元素を吸着しているイオン交換基を使用済みイオン交換樹脂から脱離させることができる。
鉄化合物は、過酸化水素と反応してラジカルを発生させる化合物であれば特に限定されない。その中でも、ラジカルを容易に発生させるという観点から、鉄化合物は塩化鉄(II)であることが好ましい。また、鉄化合物は、炉水中で生じるスラッジのように、イオン交換樹脂の使用環境下に豊富に存在するので、入手し易い。液体中の鉄化合物の濃度は、鉄換算で、12ppm以上50ppm以下が好ましい。鉄化合物の濃度がこのような範囲であると、使用済みイオン交換樹脂からのイオン交換基の脱離、および使用済みイオン交換樹脂の分解に必要なラジカルが効率よく発生する。
過酸化水素は、鉄化合物またはオゾンと反応してラジカルを発生させる。液体中の過酸化水素の濃度は、0.14wt%以上8.40wt%以下が好ましい。過酸化水素の濃度がこのような範囲であると、使用済みイオン交換樹脂からのイオン交換基の脱離、および使用済みイオン交換樹脂の分解に必要なラジカルが効率よく発生する。
オゾンは、それ自身の自己溶解や、過酸化水素と反応してラジカルを発生させる。オゾンは、液体中へのバブリングなどによって、液体に供給される。
供給工程S100で得られた鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを含む液体は、使用済みイオン交換樹脂と接触する。この接触によって、以下のような液体と使用済みイオン交換樹脂との反応が行われる。
過酸化水素およびオゾンを溶解している液体中に少量の鉄化合物が共存することによって、ヒドロキシラジカル等のラジカルが生成する。生成したラジカルは強い酸化力を有する。このようなラジカルは、結合エネルギーの小さい使用済みイオン交換樹脂とイオン交換基との結合を切断する。そして、放射性核種または重金属元素を吸着しているイオン交換基が使用済みイオン交換樹脂から脱離する。
鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを含む液体を用いることで、液体に対して加圧や減圧を行うことなく、イオン交換基の脱離性能を向上させることができる。そのため、使用済みイオン交換樹脂の処理工程や装置構成を簡素化することができる。
このように、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを含む液体に使用済みイオン交換樹脂を浸漬させ、液体と使用済みイオン交換樹脂とを接触させることで、放射性核種または重金属元素を吸着しているイオン交換基は、使用済みイオン交換樹脂の骨格から脱離する。以下では、使用済みイオン交換樹脂のイオン交換基に放射性核種が吸着している場合について説明するが、重金属元素が吸着している場合についても同様である。
液体と使用済みイオン交換樹脂との液固比は、廃液量を低減させる観点から、液体(mL)/使用済みイオン交換樹脂(g)で表される式で10(mL/g)以下であることが好ましい。
供給工程S100の後に実施される測定工程S200では、液体中の元素濃度を測定する。上記のように、液体に浸漬している使用済みイオン交換樹脂から放射性核種が脱離する。そして、脱離した放射性核種は、液体中に存在している。そのため、測定工程S200では、使用済みイオン交換樹脂から脱離した放射性同位元素(以下、放射性同位元素を単に元素という)の濃度を測定する。
液体中の元素濃度の測定には、ICP発光分光分析装置など、既知の測定装置が用いられる。
測定工程S200の後に実施される供給量調整工程S300では、測定工程S200で測定される液体中の元素の濃度に応じて、液体に供給される鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つの量を調整する。
供給量調整工程S300では、測定工程S200で測定された元素の濃度よりも、元素の濃度を増加させるため、供給工程S100時の鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの供給量から、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つの供給量が増加される。鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの3つ全ての供給量を増加しなくても、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの1つまたは2つの供給量を増加することによって、液体中に発生するラジカルの量を効率的に増加することができる。ラジカルの量が増加すると、使用済みイオン交換樹脂から脱離する放射性核種の量が増加し、液体中の元素の濃度が増加する。
このように、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの3つ全ての供給量を増加せずに、放射性核種の脱離量を増加することができる。そのため、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの3つの合計の供給量の増加を抑制することができる。また、供給量を容易に調整するという観点から、供給量調整工程S300では、液体に供給される鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちのいずれか1つの量が調整されることが好ましい。
供給量調整工程S300において、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つは、所定時間毎に一定量または不定量供給されてもよいし、時間に関係なく常に一定量または不定量供給されてもよい。供給量調整工程S300では、鉄化合物および過酸化水素の少なくとも一方が所定時間毎に一定量供給されることが好ましい。鉄化合物および過酸化水素の少なくとも一方が所定時間毎に一定量供給されると、放射性核種の脱離量が効率的に増加することができ、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの合計の使用量を抑制することができる。
また、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つが時間に関係なく不定量供給される場合、例えば使用済みイオン交換樹脂に吸着している全ての放射性核種を脱離するために必要な量の全てが、供給量調整工程S300の初期に一度に供給される。
液体に供給される鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの合計の物質量は、特には限定されない。液体への鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの供給量が増加するにつれて、使用済みイオン交換樹脂から脱離する放射性核種の量が増加し、その後、使用済みイオン交換樹脂から二酸化炭素および水への分解が進む。そのため、液体に供給される鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの合計の物質量は、使用済みイオン交換樹脂の骨格を構成する炭素原子の物質量以下であることが好ましい。液体に供給されるこれら3つの合計の物質量がこのような範囲であれば、より少ない3つの物質の使用量で効率的に、二酸化炭素および水に分解する使用済みイオン交換樹脂の量を抑制して、使用済みイオン交換樹脂に吸着している全ての放射性核種を使用済みイオン交換樹脂から脱離することができる。使用済みイオン交換樹脂の分解量が減少すると、再利用されるイオン交換樹脂の量が増加すると共に、イオン交換樹脂が容易に再利用される。
また、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法は、液体のpHを調整する工程(以下、pH調整工程ともいう)をさらに備えることが好ましい。pH調整工程は、供給工程の前、供給工程と測定工程との間、測定工程と供給量調整工程との間、供給量調整工程の後のいずれに実施してもよい。
pH調整工程では、液体に酸や塩基などの添加剤を供給して、液体のpHを所望の値に調整する。液体のpHは、例えば酸性側では1〜5が好ましく、1〜2がより好ましい。液体のpHが所望の値に調整されると、液体中に発生するラジカルの量が増加する。そのため、放射性核種の脱離量をより増加することができる。液体に供給する添加剤は、pHを容易に調整できる観点から、硫酸、硝酸、塩酸などが好ましい。
また、pH調整工程は、液体のpHを測定しながら液体のpHを調整してもよい。例えば、既知のpH測定装置によってpHの測定を行いながら、上記の添加剤を液体に供給して、液体のpHを所望の値に調整する。
また、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法では、液体が加熱されることが好ましい。液体の加熱は、上記の各工程で実施してもよい。液体が加熱されると、ラジカルの発生が促進され、放射性核種の脱離量をより増加することができる。そのため、液体の温度は、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。また、液体の沸点の回避など、操作の容易性という観点から、液体の温度は90℃以下であることが好ましい。
使用済みイオン交換樹脂と鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを含む液体との接触時間は、使用済みイオン交換樹脂の量、使用済みイオン交換樹脂のイオン交換基に吸着している放射性核種の量、液体中の鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの含有量などに応じて適宜設定されるが、処理効率という観点から、使用済みイオン交換樹脂と液体との接触時間は、5時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。
また、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法は、供給量調整工程S300の後に、使用済みイオン交換樹脂を処理することによって得られた処理済みのイオン交換樹脂(以下、処理済みイオン交換樹脂ともいう)と液体とを分離する工程(以下、分離工程ともいう)をさらに備えてもよい。
処理済みイオン交換樹脂は、放射性核種または重金属元素を吸着しているイオン交換基を使用済みイオン交換樹脂から脱離処理することによって得られる。そのため、使用済みイオン交換樹脂と比較して、処理済みイオン交換樹脂に吸着している放射線核種の量や重金属元素の量が少ない。好ましくは、使用済みイオン交換樹脂には、放射線核種や重金属元素が吸着していない。
分離工程における液体には、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンに加えて、使用済みイオン交換樹脂から脱離したイオン交換基、放射性核種、重金属元素などが含まれる。分離工程では、フィルターなどの分離部材に液体を通過させることによって、放射性核種または重金属元素を含む液体と処理済みイオン交換樹脂とが分離される。
また、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法は、分離工程の後に、液体に含まれる放射性核種または重金属元素を沈降させる工程(以下、沈降工程ともいう)をさらに備えてもよい。沈降工程は、分離工程で得られた放射性核種または重金属元素を含む液体にpH上昇剤を加える。放射性核種または重金属元素を含む液体にpH上昇剤を供給すると、液体のpHが上昇し、液体中に含まれる放射性核種または重金属元素が沈降する。
沈降工程では、液体のpHが10以上であることが好ましく、11以上であることがより好ましい。液体のpHがこのような値であると、放射性核種または重金属元素の沈降が促進される。
液体に供給されるpH上昇剤は、アルカリ金属の水酸化物であることが好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウムが好ましい。
沈降工程では、pH上昇剤と共に凝集剤を液体に供給することが好ましい。pH上昇剤と共に凝集剤を液体に加えることにより、放射性核種または重金属元素の沈降がさらに促進される。凝集剤としては、放射性核種または重金属元素の沈降を促進するものであればよく、アルミニウム系の凝集剤が好ましい。アルミニウム系の凝集剤としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウムなどが挙げられる。
また、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法は、沈降工程の後に、沈降工程で生じた放射性核種または重金属元素の沈降物を液体から分離する工程(以下、沈降物分離工程ともいう)をさらに備えてもよい。沈降物分離工程では、放射性核種または重金属元素の沈降物を含む液体を分離部材に通過させることによって、放射性核種または重金属元素が液体から分離回収される。
次に、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理装置について説明する。図2は、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理装置を示す概略図である。使用済みイオン交換樹脂の処理装置100は、放射性核種または重金属元素を吸着しているイオン交換基を有する使用済みイオン交換樹脂を処理する装置である。
図2に示すように、使用済みイオン交換樹脂の処理装置100は、処理対象である使用済みイオン交換樹脂を、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを含む液体と接触させる脱離槽1を備える。さらに、使用済みイオン交換樹脂の処理装置100は、使用済みイオン交換樹脂を脱離槽1に供給する使用済みイオン交換樹脂供給部2と、液体を脱離槽1に供給する液体供給部3と、鉄化合物を脱離槽1に供給する鉄化合物供給部4と、過酸化水素を脱離槽1に供給する過酸化水素供給部5と、オゾンを脱離槽1に供給するオゾン供給部6とを備える。さらに、使用済みイオン交換樹脂の処理装置100は、脱離槽1内に収容される液体中の元素濃度を測定する測定部7と、測定部7によって測定される液体中の元素濃度に応じて、脱離槽1に供給される鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つの量を調整する制御部8とを備える。
使用済みイオン交換樹脂を内部に貯蔵する使用済みイオン交換樹脂供給部2は、配管などを介して脱離槽1に接続しており、配管を介して使用済みイオン交換樹脂を脱離槽1に供給する。液体を内部に貯蔵する液体供給部3は、配管などを介して脱離槽1に接続しており、配管を介して液体を脱離槽1に供給する。鉄化合物を内部に貯蔵する鉄化合物供給部4は、配管などを介して脱離槽1に接続しており、配管を介して鉄化合物を脱離槽1に供給する。過酸化水素を内部に貯蔵する過酸化水素供給部5は、配管などを介して脱離槽1に接続しており、配管を介して過酸化水素を脱離槽1に供給する。オゾンを内部に貯蔵するオゾン供給部6は、配管などを介して脱離槽1に接続しており、配管を介してオゾンを脱離槽1に供給する。オゾン供給部6は、例えばオゾン発生器からなる。
脱離槽1には、液体供給部3から液体が供給され、鉄化合物供給部4から鉄化合物が供給され、過酸化水素供給部5から過酸化水素が供給され、オゾン供給部6からオゾンが供給されて、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを含む液体が脱離槽1に収容される。脱離槽1は、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを含む液体と使用済みイオン交換樹脂とを接触させて、使用済みイオン交換樹脂から放射性核種を脱離させる。
測定部7は、脱離槽1に収容される液体における、使用済みイオン交換樹脂から脱離した放射性核種に由来する元素の濃度を測定する。この測定部7は、ICP発光分光分析装置などの既知の測定装置から構成される。また、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを供給しながら測定部7によって元素の濃度を測定してもよいし、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの供給を停止してから測定部7によって元素の濃度を測定してもよい。この測定部7は、例えば脱離槽1の側面の外側に設けられる。
制御部8は、鉄化合物供給部4、過酸化水素供給部5、オゾン供給部6、および測定部7に接続している。この制御部8は、鉄化合物供給部4から脱離槽1への鉄化合物の供給量、過酸化水素供給部5から脱離槽1への過酸化水素の供給量、およびオゾン供給部6から脱離槽1へのオゾンの供給量を調整することができる。また、制御部8は、測定部7で測定される液体中の元素濃度の測定結果を監視することができる。
そして、制御部8は、測定部7によって測定される液体中の元素濃度に基づいて、鉄化合物供給部4、過酸化水素供給部5、およびオゾン供給部6の稼動を制御し、脱離槽1に供給される鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つの量を増加する。例えば、測定部7に予め記録している所定の元素濃度の値よりも測定部7で測定される元素濃度の値が低い場合や測定部7で測定される元素濃度の値を増加させる場合、制御部8は、鉄化合物供給部4、過酸化水素供給部5、およびオゾン供給部6のうちの1つまたは2つに信号を送り、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの1つまたは2つの量を増加する。そのため、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの3つの合計の供給量の増加を抑制することができる。さらには、使用済みイオン交換樹脂から処理済みイオン交換樹脂を生成する速度、すなわち使用済みイオン交換樹脂の処理速度を増加することができる。
なお、ここでは、図2のように、制御部8が鉄化合物供給部4、過酸化水素供給部5、オゾン供給部6、および測定部7に接続している一例を示すが、制御部8は使用済みイオン交換樹脂供給部2、液体供給部3、後述する添加剤供給部9のうちの少なくとも1つにさらに接続していてもよい。制御部8が使用済みイオン交換樹脂供給部2、液体供給部3、添加剤供給部9に接続している場合、制御部8は、測定部7によって測定される液体中の元素濃度に基づいて、使用済みイオン交換樹脂供給部2、液体供給部3、添加剤供給部9の稼動を制御し、脱離槽1に供給される使用済みイオン交換樹脂の量の増加、液体の量の増加、pHを調整するための添加剤の種類や量を調整することができる。そのため、使用済みイオン交換樹脂の処理速度をより増加することができる。
また、使用済みイオン交換樹脂の処理装置100は、pHを調整するための添加剤を脱離槽1に供給する添加剤供給部9をさらに備えることが好ましい。酸や塩基のような添加剤を内部に貯蔵する添加剤供給部9は、配管を介して脱離槽1に接続しており、配管を介して添加剤を脱離槽1に供給する。添加剤供給部9から脱離槽1に添加剤が供給されて、脱離槽1に収容される液体のpHが所定の値に調整される。液体のpHが所定の値に調整されると、液体中のラジカルの量が増加するので、使用済みイオン交換樹脂からの放射性核種の脱離量をより増加することができる。
また、制御部8に接続された図示しないpH測定部によって脱離槽1に収容される液体のpHを測定しながら、このpH測定部で測定される液体のpH値に基づき、制御部8が添加剤供給部9を制御し、液体のpHを調整してもよい。このとき、液体のpHが短時間で所定の値に調整されるので、使用済みイオン交換樹脂からの放射性核種の脱離量をより効率的に増加することができる。
また、使用済みイオン交換樹脂の処理装置100は、図示しない加熱器をさらに備えることが好ましい。加熱器は、脱離槽1内の液体を加熱して、液体の温度を上げる。この加熱器は、例えば脱離槽の内部に設けられる。液体が加熱器によって加熱されるため、液体中に発生するラジカルの量が増加し、放射性核種の脱離量がより増加する。
また、使用済みイオン交換樹脂の処理装置100は、脱離槽1の内部に分離部材10をさらに備えることが好ましい。分離部材10は、処理済みイオン交換樹脂と液体とを分離する。この分離部材10は、例えば、脱離槽1の下部の一部の内部空間を充填するように設けられる。
分離部材10は、処理済みイオン交換樹脂を通過させずに、液体を通過させる。このとき、液体中の放射性核種も分離部材10を通過する。このように、分離部材10は処理済みイオン交換樹脂を分離する。そのため、分離部材10の下部の脱離槽1には、放射性核種を含有する液体が収容される。
上記したように、実施の形態の使用済みイオン交換樹脂の処理方法および使用済みイオン交換樹脂の処理装置によれば、使用済みイオン交換樹脂から脱離した放射性核種または重金属元素に由来する元素の液体中の濃度に応じて、液体に供給される鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つの量を調整することによって、液体中に発生するラジカルの量を効率的に増加することができる。ラジカルの量が増加すると、使用済みイオン交換樹脂から脱離する放射性核種または重金属元素が増加する。このように、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの3つ全ての供給量を調整しなくとも、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つの容易な調整によって、放射性核種または重金属元素の脱離量を効率的に増加することができる。さらに、放射性核種または重金属元素の脱離に要する鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの合計の使用量を抑制することができる。
また、使用済みイオン交換樹脂の処理は、液体中の鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンのうちの少なくとも1つの量の調整によって容易に達成できるため、複雑な装置や大量のエネルギーを必要としない。さらに、放射性核種または重金属元素の脱離によって得られる処理済みイオン交換樹脂は、原子力発電所などに再利用できるため、二次廃棄物の発生量が低減される。
以下、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されない。
(実施例1)
イオン交換樹脂として、陽イオン交換樹脂を用意した。そして、陽イオン交換樹脂を硫酸コバルト溶液に浸漬して、放射性核種であるコバルトを陽イオン交換樹脂のイオン交換基に吸着させた。こうして、陽イオン交換樹脂のイオン交換基にコバルトを吸着させた使用済みイオン交換樹脂を得た。また、イオン交換樹脂の浸漬前後において、硫酸コバルト溶液中のコバルト濃度をICP発光分光分析装置によって測定して、使用済みイオン交換樹脂へのコバルトの吸着量を算出した。
鉄化合物として、塩化鉄(II)を用意した。また、液体として水を用意した。
図3は、実施例1の使用済みイオン交換樹脂の処理方法を示すフローチャートである。まず、上記で得られた使用済みイオン交換樹脂を液体である水に浸漬した。このとき、液体と使用済みイオン交換樹脂との液固比は、10(mL/g)とした。また、実施例1の使用済みイオン交換樹脂の処理方法では、液体の温度を90℃に調整した。
続いて、図3に示すように、pH調整工程S50を行った。pH調整工程S50では、使用済みイオン交換樹脂を浸漬している液体に硫酸を供給して、液体のpHを1となるように調整した。このとき、液体のpHをpH測定装置で測定しながら、pH調整工程S50を行った。
pH調整工程S50の後、供給工程S100を行った。供給工程S100では、pH調整した液体に鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを供給した。詳細には、鉄化合物は、水に溶解させて供給した。過酸化水素は、過酸化水素水として供給した。オゾンは、液体中へのバブリングによって供給した。このとき、液体中の鉄化合物の濃度は鉄換算で50ppm、液体中の過酸化水素の濃度は2wt%、液体中へのオゾンの供給量は50mmol/hとした。
供給工程S100の後、測定工程S200を行った。測定工程S200では、ICP発光分光分析装置によって、使用済みイオン交換樹脂から脱離したコバルトの液体中における濃度を測定した。
測定工程S200の後、供給量調整工程S300を行った。供給量調整工程S300では、測定工程S200で測定した液体中のコバルトの濃度に応じて、液体に供給される鉄化合物、過酸化水素、またはオゾンの量を調整した。液体に供給される鉄化合物の量のみを調整したときには、液体中の鉄化合物の濃度は鉄換算で150ppmとした。過酸化水素の量のみを調整したときには、液体中の過酸化水素の濃度は8wt%とした。オゾンの量のみを調整したときには、液体中へのオゾンの供給量は150mmol/hとした。
供給量調整工程S300において、鉄化合物、過酸化水素、またはオゾンの量を調整して反応開始してから60分後、液体中のコバルトの濃度を測定し、使用済みイオン交換樹脂から脱離したコバルトの脱離量を算出した。そして、下記式によって、コバルトの脱離率(%)を算出した。
脱離率(%)=(コバルトの脱離量/コバルトの吸着量)×100
図4は、実施例1におけるコバルトの脱離率と、供給量を調整した物質の種類との関係を示すグラフである。なお、図4における未調整とは、鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンの供給量を調整しない、すなわち供給量調整工程S300を行わない液体中のコバルトの濃度から算出した脱離率である。
図4に示すように、未調整におけるコバルトの脱離率は90%程度であった。その一方で、鉄化合物、過酸化水素、またはオゾンの量を増加すると、コバルトの脱離率は増加した。特に、過酸化水素またはオゾンの供給量を増加した場合、コバルトの脱離率は100%であった。
鉄化合物、過酸化水素、またはオゾンのうちの少なくとも1つの量を増加することによって、コバルトの脱離率が効率的に増加する理由は以下のように考えられる。鉄化合物の供給量が増加すると、過酸化水素との反応によって生成するラジカルの量が増加する。さらに、過酸化水素との反応によって発生した水酸化物イオンが過酸化水素とオゾンとの反応およびオゾンの自己分解反応を促進させるため、生成するラジカルの量が増加する。また、過酸化水素の供給量が増加すると、鉄化合物との反応およびオゾンとの反応によって生成するラジカルの量が増加する。また、オゾンの供給量が増加すると、過酸化水素との反応およびオゾン自身の自己分解反応によって生成するラジカルの量が増加する。このように、ラジカルの量が増加したことによって、コバルトの脱離率が上昇した。
(実施例2)
実施例2では、液体中の鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンによって発生するラジカルの量と液体の温度との関係性について調べた。
まず、液体の温度を50℃、70℃、90℃に調整した。続いて、液体に硫酸を供給して、液体のpHを1となるように調整した。
続いて、液体に酢酸ナトリウムを供給して、液体中の酢酸ナトリウムの濃度を10mmol/lとした。
続いて、液体に鉄化合物、過酸化水素、およびオゾンを供給した。詳細には、鉄化合物は、水に溶解させて供給した。過酸化水素は、過酸化水素水として供給した。オゾンは、液体中へのバブリングによって供給した。このとき、液体中の鉄化合物の濃度は鉄換算で50ppm、液体中の過酸化水素の濃度は2wt%、液体中へのオゾンの供給量は50mmol/hとした。
鉄化合物、過酸化水素、オゾンを供給した後、液体中の酢酸ナトリウムの濃度を測定した。酢酸ナトリウムはヒドロキシラジカルによって分解する。そのため、酢酸ナトリウムの濃度を測定することによって、ヒドロキシラジカルの発生量を調べた。
図5は、実施例2におけるヒドロキシラジカルの発生量と、各温度における鉄化合物、過酸化水素、オゾンを供給した後の時間との関係を示すグラフである。なお、各々のヒドロキシラジカルの発生量については、液体の温度が90℃および時間が60分のときのヒドロキシラジカルの発生量で標準化した。
図5に示すように、液体の温度が上昇すると共に、ヒドロキシラジカルの発生量が増加した。そして、液体の温度が90℃のときに、ヒドロキシラジカルの発生量が最も多かった。この理由としては、液体の温度が高いほど、鉄化合物またはオゾンと過酸化水素との反応、およびオゾンの自己分解反応の速度が速いからである。
実施例1および2によれば、簡便な設備で、二次廃棄物の発生量を低減すると共に、使用済みイオン交換樹脂に吸着している放射性核種や重金属元素を容易かつ効率的に脱離することができる使用済みイオン交換樹脂の処理方法および使用済みイオン交換樹脂の処理装置を提供することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。