(電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物)
まず、本発明における電子とH−との両方を包接するマイエナイト型化合物(以下、単に「マイエナイト型化合物I」と称することがある。)について以下に説明する。
マイエナイト型化合物は、陽電荷を有する包接ケージと、この包接ケージの内側に包接され、陰電荷を有する包接粒子とを備える。マイエナイト型化合物Iにおける包接粒子は、電子及びH−である。包接ケージが立体網目状に三次元的に連なることにより、全体の構造体としてケージクラスターが構成される。
包接ケージ及び複数の包接ケージによって構成されるケージクラスターは、マイエナイト型化合物特有の結晶構造を備える。図1で示されるように、それぞれ大きさの異なる主に3種類の元素によって、包接ケージが形成される。図1で示される例では、番号4で示されるAl、番号3で示されるCa、及び番号2で示されるOによって、包接ケージが形成される。Al、Ca及びOによって包接ケージが形成されるマイエナイト型化合物は、12CaO・7Al2O3、又はC12A7と称されることもある。また、図1では、3つの包接ケージ6によってケージクラスターが構成されている例を示しているが、C12A7は単位格子あたり12個の包接ケージを有する。また、図中の右側に位置する包接ケージ中には、1つの電子が包接される例を便宜上示しているが、実際には包接粒子が電子の場合は質量がイオンに比べて非常に小さいので量子力学的に振る舞う。すなわち、電子は陽電荷に引き付けられているものの、非局在化しており、存在確率でしか示すことができない状態にある。
包接ケージは、マイエナイト型化合物特有の結晶構造が破壊されない限りにおいて、Al、Ca及びO以外の元素を含んでいてもよい。例えば、Alは、その一部又は全てが、B、Ga、C、Si、Fe、及びGeからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素で置換されていてもよい。Caは、その一部又は全てが、Sr、Li、Na、K、Mg、Sr、Ba、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ir、Ru、Rh、及びPtからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素で置換されていてもよい。Oは、その一部又は全てが、H、F、Cl、Br、及びAuからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素で置換されていてもよい。Al、Ca、又はOを、他の元素によって置換すると、原子間の結合距離が変化し、マイエナイト型化合物の性質が変化することが知られている。上記元素で置換されるマイエナイト型化合物は、その結晶構造を大きく変化させることがなく、本発明の効果を奏することができる。
包接粒子は、ケージクラスターを構成する包接ケージの内側に、それぞれ包接される。C12A7は、単位格子あたり12個の包接ケージを有し、全体で4価の陽電荷を帯びる。よって、包接ケージに包接される包接粒子が2価の陰イオンの場合、陰イオンは12個中2個の包接ケージに包接され、包接粒子が1価の陰イオンの場合、陰イオンは12個中4個の包接ケージに包接される。また、包接粒子が電子である場合は、前述したように、非局在化しており、存在確率でしか示すことができない状態になっている。負電荷を有する包接粒子は、陽電荷を有する包接ケージの内側において、電気的に安定に保持される。
マイエナイト型化合物Iは、電子とH−とを包接する。電子及びH−は、それぞれ1価の陰電荷を有することから、12個の包接ケージ中3個の包接ケージにH−が包接され、1個の電子が非局在化して存在する場合、12個の包接ケージ中2個の包接ケージにH−が包接され、2個の電子が非局在化して存在する場合、及び12個の包接ケージ中1個の包接ケージにH−が包接され、3個の電子が非局在化して存在する場合等がありうる。マイエナイト型化合物Iにおいては、マイエナイト型化合物Iを構成するケージクラスターの全体のいずれかの箇所において、電子とH−との両方が包接されていればよく、個々の包接ケージ中における包接粒子の種類は特に限定されない。
マイエナイト型化合物I中に包接される電子とH−との含有比は特に制限されない。マイエナイト型化合物Iによる還元反応を特に適切に制御することができるとともに、酸化防止剤又は還元剤等として用いられるのに十分な電子供与能及びH−供与能を有するように、マイエナイト型化合物I中に包接される電子とH−との含有比を適宜に変更することができる。マイエナイト型化合物Iは、1つ又は複数のケージクラスターによって構成される。
マイエナイト型化合物Iは、電子及びH−以外に、H−以外の陰イオン及びラジカル等を含んでいてもよい。つまり、本発明に係るマイエナイト型化合物は、12個の包接ケージ中少なくとも1個の電子と1個のH−が包接されていればよく、最大2個の包接ケージに他の陰イオン又はラジカルが包接されていてもよい。マイエナイト型化合物I中に含有されうる、H−以外の陰イオンの具体例としては、S2−、F−、Cl−、O−、O2−、O2 2−、及びOH−等が挙げられる。
マイエナイト型化合物Iが電子を包接することは、光吸収スペクトルにおいて、光子エネルギーが0.4eV及び2.8eVとなる2つの位置に、光吸収ピークを有することによって、確認することができる。さらに、これら吸収ピークの強度から、包接されている電子の量を求めることもできる。また、別の方法として、マイエナイト型化合物Iが電子を包接することは、電子スピン共鳴装置(ESR)にてESRスペクトルを測定し、電子に起因する信号の有無によって、確認することができる。また、二次イオン質量分光法(「SIMS」と称されることがある。)を用いることによって、マイエナイト型化合物I中においてH−が包接されていることを確認することができ、さらにH−の濃度を定量することができる。また、別の方法として、マイエナイト型化合物IがH−を包接することは、マイエナイト型化合物Iを塩酸等の強酸中に溶解したときの水素ガスの発生の有無又は水に含浸させることによりマイエナイト型化合物Iが水和して結晶が崩壊する際の水素ガスの発生の有無により確認することができる。さらに、別の方法として、核磁気共鳴装置(NMR)を用いることによって、マイエナイト型化合物IがH−を包接することを確認することができる。
マイエナイト型化合物Iは、電子とH−とを包接するので、十分な電子供与性を有するとともに、H−供与性を有する。また、マイエナイト型化合物Iは、前述したように、特有の結晶構造を有することにより、陰イオン特に酸素イオンを取り込む機能を有し、また、水との接触により水和反応する。したがって、マイエナイト型化合物Iは、電子供与反応、H−供与反応、脱酸素反応、及び脱水反応を引き起こすことができる。
マイエナイト型化合物Iは、電子のみを包接するマイエナイト型化合物が有する機能とH−のみを包接するマイエナイト型化合物が有する機能との両方を有する。電子を包接するマイエナイト型化合物は、電子供与性を有することにより、フリーラジカルを消去し、特に、活性酸素を消去し、また、還元性を有する。H−を包接するマイエナイト型化合物は、H−供与性を有し、還元性を有する。マイエナイト型化合物Iは、カゴ状の結晶構造を有し、陽電荷を有する包接ケージの内側に陰電荷を有する電子及びH−の少なくとも一方が包接されている。結晶格子としてCa、Al、及びOを少なくとも含むマイエナイト型化合物Iは、包接ケージの内部に陰イオン特に酸素イオンを取り込む機能及び水との接触により水和反応をして周囲に存在する水分を除去する機能を有する。マイエナイト型化合物Iの周囲に酸素や水分が存在する場合、まず、マイエナイト型化合物Iは包接ケージの内部に酸素イオンO2−を取り込み、取り込まれた酸素イオンO2−は周囲の水分と反応し、包接ケージ内でOH−になる。このように、マイエナイト型化合物Iは、脱酸素反応及び脱水反応に寄与する。マイエナイト型化合物Iは、従来一般的に用いられている電子供与剤のような有機化合物ではなく、無機化合物からなるセラミックスである。セラミックスの一種であるマイエナイト型化合物は、特に油等の有機溶媒に溶けないという性質を有する。このように、マイエナイト型化合物Iは、油等の液体中に溶解することなく、液体中の含有成分に電子を供与することによりラジカル消去活性を有すると共に還元性を有し、液体中の含有成分にH−を供与することにより還元性を有し、水との接触により水和反応することにより脱水性能を有し、また、包接ケージの内部に酸素イオン等を取り込み、脱酸素性能を有するという多機能を有する。
(電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物との混合物II)
次に、電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物との混合物(以下、単に「混合物II」と称することがある。)について説明する。電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接ケージに包接される粒子が電子であること以外は、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物Iと同様の構造を有する。H−を包接するマイエナイト型化合物は、包接ケージに包接される粒子がH−であること以外は、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物Iと同様の構造を有する。混合物IIにおいて、電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物との含有比は特に制限されない。混合物IIの用途に応じて、混合物IIにおける、電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物との含有比を適宜変更することができる。
電子を包接するマイエナイト型化合物及びH−を包接するマイエナイト型化合物は、マイエナイト型化合物Iと同様に不可避不純物として、電子及びH−それぞれ以外の陰イオン及びラジカル等を含んでいてもよい。
前記混合物IIは、マイエナイト型化合物Iと同様の機能を有する。
(電子を包接するマイエナイト型化合物)
次に、電子を包接するマイエナイト型化合物について説明する。電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接ケージに包接される粒子が電子であること以外は、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物Iと同様の構造を有する。電子を包接するマイエナイト型化合物は、マイエナイト型化合物Iと同様に不可避不純物として、電子以外に陰イオン及びラジカル等を含んでいてもよい。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、電子供与性を有することにより、フリーラジカルを消去するラジカル消去活性を有し、特に、活性酸素を消去し、また、還元性を有する。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接ケージ間で包接される電子の授受が行われることにより、導電性を発揮する。よって、マイエナイト型化合物I及び電子を包接するマイエナイト型化合物は、導電性を要求される部材の構成材料として使用されることができる。例えば、コンデンサ及び電池等の電極の構成材料、電子回路の構成材料としてマイエナイト型化合物I及び電子を包接するマイエナイト型化合物を使用することができる。より具体的には、マイエナイト型化合物I及び電子を包接するマイエナイト型化合物を含む導電材料のパターンを基板上に印刷することにより、基板上のパターンに沿って電気が伝導される電気回路が得られる。また、電子銃において電子を放出する陰極の構成材料としてマイエナイト型化合物I及び電子を包接するマイエナイト型化合物を使用することもできる。
マイエナイト型化合物I及び電子を包接するマイエナイト型化合物は、電子供与性を有する。電子供与反応としては、包接する電子をケージクラスターの外部に存在するイオン、ラジカル等の粒子へ直接付与する反応が起こりうる。
(H−を包接するマイエナイト型化合物)
次に、H−を包接するマイエナイト型化合物について説明する。H−を包接するマイエナイト型化合物は、包接ケージに包接される粒子がH−であること以外は、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物Iと同様の構造を有する。H−を包接するマイエナイト型化合物は、マイエナイト型化合物Iと同様に不可避不純物として、H−以外の陰イオン及びラジカル等を含んでいてもよい。
H−を包接するマイエナイト型化合物は、H−供与性を有し、還元性を有する。
(マイエナイト型化合物I及び混合物IIの形態)
マイエナイト型化合物I及び混合物IIは、任意の形態をとることができ、例えば、容器、多孔体、被膜、粉末、顆粒、ボール、ペレット、フィルタ等の形態をとることができる。
容器の形状は、特に限定されず、容器全体がマイエナイト型化合物I又は混合物IIで形成されていてもよいし、容器の一部がマイエナイト型化合物I又は混合物IIで形成されていてもよい。例えば、容器の内面のみ、底のみ、容器の蓋の内側のみがマイエナイト型化合物I又は混合物IIで形成されていてもよい。少なくとも一部がマイエナイト型化合物I又は混合物IIで形成されている容器は、ラジカル消去活性、還元性、脱酸素性能、及び脱水性能を有するので、酸化を防止し、水分の混入を避けたい物質の長期保存に好適に用いることができる。容器は、陶器状又はガラス質のいずれであってもよい。容器が陶器状である場合、素焼きにすることにより多孔質化した容器とすることができ、高い比表面積が得られることから、物理吸着性能を向上させることができる。このとき、容器の表面を釉薬等でコーティングすることにより、内容物が漏出することを防止することができる。電子を包接するマイエナイト型化合物は、高濃度に電子が包接されるほど緑色から黒色に着色するので、マイエナイト型化合物Iにおける電子の濃度、及び混合物IIにおける電子を包接するマイエナイト型化合物の含有割合によっては、ガラス状の容器を遮光ビンとして用いることができる。
マイエナイト型化合物I又は混合物IIを多孔体にすることにより、比表面積が大きくなり、ラジカル消去活性、還元性、脱酸素性能、及び脱水性能に加えて、物理吸着性能を向上させることができる。マイエナイト型化合物I又は混合物IIが物理吸着性能を有すると、悪臭物質や不純物を除去したり、反応性を向上させたりすることができる。多孔体の形状は特に限定されず、任意の形状をとることができる。多孔体は、マイエナイト型化合物I又は混合物IIのみで構成されていてもよいし、セラミック等のその他の材料が含まれていてもよい。多孔体は、その用途に応じて、少なくとも表面が多孔質であればよい。多孔体の製造方法については、後述する。また、マイエナイト型化合物I又は混合物IIと活性炭、活性アルミナ、ゼオライト等の高比表面積である物質とを混合して多孔体又は焼結体を形成することにより、さらに高い物理吸着性能を有する多孔体又は焼結体とすることもできる。
被膜は、任意の対象物の表面に形成されることにより、ラジカル消去活性、還元性、脱酸素性能、及び脱水性能を任意の対象物に付与することができる。被膜は、対象物の少なくとも一部に設けられていればよく、対象物の全面に設けられていてもよい。被膜が、マイエナイト型化合物I又は混合物IIのみで構成されていてもよいし、セラミック等のその他の材料が含まれていてもよい。被膜の製造方法については、後述する。
粉末、顆粒、ボール、又はペレットの形状を有するマイエナイト型化合物I又は混合物IIは、成形体に比べて比表面積が大きいので、ラジカル消去活性、還元性、脱酸素性能、及び脱水性能の効果が高くなる。マイエナイト型化合物I又は混合物IIを、対象物質に分散させ、又はこれらを袋等に入れて対象物質中に置くことにより、対象物質の酸化を防止し、水分の混入を避けることができ、対象物質の品質を維持することができる。また、マイエナイト型化合物I及び混合物IIは、油等の不溶性の液体に直接散布してもよい。
フィルタは、シート状、板状、柱状等の形状を有する。フィルタは、例えば、筒型のケースの内部に配置され、フィルタの一方の側から他方の側へ液体又は気体の被反応物を通過させることにより、ラジカルの消去、還元、脱酸素、及び脱水等が行なわれた被反応物が得られる。フィルタは、液体や気体が通過可能に形成されていればよく、マイエナイト型化合物I又は混合物IIのみで例えば多孔質に形成されていてもよいし、天然繊維や化学繊維等で形成された布及び不織布等に、粉末状のマイエナイト型化合物I及び混合物IIが担持されて形成されてもよい。
(マイエナイト型化合物I及びIIの製造方法)
次に、マイエナイト型化合物I及び混合物IIの製造方法について説明する。
<酸素元素を含む陰イオンを包接するマイエナイト型化合物前駆体の製造>
O2−及びOH−等の酸素元素を含む陰イオンを包接するマイエナイト型化合物前駆体(以下、単に「マイエナイト型化合物前駆体」と称することもある。)を製造する。まず、マイエナイト型化合物における元素構成比に合わせて、原料粉末を混合及び粉砕する混合粉砕工程を行う。次いで、必要に応じて噴霧乾燥し、得られた混合粉末を焼成する第1焼成工程を行う。
[混合粉砕工程]
例えば、12CaO・7Al2O3を得るには、原料粉末として炭酸カルシウム等のCa含有化合物と酸化アルミニウム等のAl含有化合物とを用いることができる。Ca含有化合物とAl含有化合物とは、CaとAlとの元素数比が12:14となるような混合比率で、混合される。
混合粉砕工程では、混練機に玉石と原料とを一緒に入れて、混練及び粉砕する方法を挙げることができる。混練及び粉砕に用いられる混合器及び玉石等の混合粉砕器具は、製造する予定のマイエナイト型化合物と同じ又は類似の組成を有するセラミックで形成されているのが好ましい。原料粉末を混合及び粉砕する工程では、玉石や混合器が摩耗して、これらを構成する材料成分が原料に混入し、原料の純度の低下を招くおそれがある。一方、混合粉砕器具が、製造する予定のマイエナイト型化合物と同じ又は類似の組成を有するセラミックで形成されていると、玉石や混合器を構成する材料成分が原料に混入した場合でも、製造する予定のマイエナイト型化合物と同じ又は類似の成分であるので、原料の純度の低下を防止することができる。
混合粉砕工程は、原料粉末にアルコール等の溶媒を加えてスラリーとして、行ってもよい。この場合、噴霧乾燥装置を用いてスラリーを気体中に噴霧して急速に乾燥させることにより、混合粉末を得ることができる。気体は乾燥ガスを用いてもよく、乾燥ガスとしては、空気、及び窒素、並びに水素、及び一酸化炭素等の還元ガスを挙げることができる。
[第1焼成工程]
得られた混合粉末は、ルツボ、焼成皿、焼成サヤ、焼成窯等の焼成器具内又は焼成器具上に載置して、例えば、1200℃以上1450℃未満の温度条件下で、大気中で焼成されることにより、マイエナイト型化合物前駆体が製造される。これらの焼成器具は、製造する予定のマイエナイト型化合物と同じ又は類似の組成を有するセラミックで形成されているのが好ましい。混合粉末を焼成する工程では、焼成器具を構成する材料成分が混合粉末に混入するおそれがあり、また、混合粉末と接触している部分で焼成器具を構成する材料と反応して製造する予定のマイエナイト型化合物とは異なる化合物が生成するおそれがある。一方、焼成器具が、製造する予定のマイエナイト型化合物と同じ又は類似の組成を有するセラミックで形成されていると、焼成器具を構成する材料成分が混合粉末に混入した場合でも、混合粉末の純度の低下を防止することができ、また、焼成器具を構成する材料と混合粉末とが反応した場合でも、製造する予定のマイエナイト型化合物とは異なる化合物が生成するのを防止することができる。
マイエナイト型化合物前駆体は、別の方法として、混合粉末を1200℃以上1450℃未満の温度条件で焼結することによって得られた焼結体から、帯溶法を用いることによっても製造することができる。具体的には、棒状に成形した前記焼結体に赤外線を集光させながら、焼結体を徐々に引き上げると、赤外線によって溶融される溶融帯が移動する。この際に、赤外線が照射される溶融帯とその周辺の凝固部との界面において、マイエナイト前駆体の単結晶が成長する。これにより、包接ケージ中に、酸素イオンO2−が包接されるマイエナイト型化合物前駆体が得られる。帯溶法によって得られたマイエナイト型化合物前駆体は、棒状に成形されている。所望のマイエナイト型化合物の形態に合わせて、棒状のマイエナイト型化合物前駆体を、切断、粉砕等の加工をすることができる。具体的に、顆粒状のマイエナイト型化合物Iを製造する場合には、マイエナイト型化合物前駆体を、ボールミル等を用いて、粉状になるまで粉砕することができる。
また、マイエナイト型化合物前駆体は、別の方法として、化学溶液法(ゾル−ゲル法)により製造することができる。例えば、まず、アルミニウム−sec−ブトキシドと金属Caと2−メトキシエタノールとを混合し、125℃で約12時間還流して前駆体溶液を製造する。この前駆体溶液を、例えばスピンコーティング法により基板上に塗布し、これを150℃で所定時間乾燥し、その後350℃で所定時間仮焼成を行い、1000℃で所定時間高速熱アニールを行う工程を繰り返し行うことにより、薄膜状のマイエナイト型化合物前駆体を形成することができる。また、前駆体溶液を所定の形状を有する容器に入れて、適宜の温度及び時間で乾燥及び熱処理を行うことにより、バルク状のマイエナイト型化合物前駆体を形成することができる。
マイエナイト型化合物に、Ca、Al、及びO以外の元素を含有させるには、前記原料粉末を混合する際に、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム以外の原料粉末を添加すればよい。例えば、12CaO・7Al2O3と、12SrO・7Al2O3との混晶化合物を得るには、炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとに加えて、ストロンチウムを含有する原料粉末を混合し、得られた混合粉末を焼結すればよい。
<電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I及び混合物IIの製造>
次に、粉末状又は顆粒状のマイエナイト型化合物前駆体をそのまま、又は成形工程を経て、後述する第2焼成工程を行うことにより、包接されるO2−及びOH−等の酸素元素を含む陰イオンを、その他のイオン、例えばH−、又は電子等に置換することができる。
[成形工程]
所望の形状を有するマイエナイト型化合物I及び混合物IIを製造する場合には、粉末状又は顆粒状のマイエナイト型化合物前駆体、マイエナイト型化合物前駆体と任意のセラミック粉末とを含有する混合物、或いはマイエナイト型化合物前駆体を後述するように焼成して得られた電子及び/又はH−を包接するマイエナイト型化合物等のマイエナイト粉末、又は混合粉砕工程で得られた混合粉末を成形して成形体を得る成形工程を経た後に、焼成する。
成形体の成形方法は、特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。例えば、成形方法としては、加圧成形法、静水圧成形法、回転成形法、押出成形法、射出成型法、鋳込成形法、加圧鋳込成形法、回転鋳込成形法、ろくろ成形法、薄板状成形法、3次元積層造形法等を挙げることができる。
加圧成形法では、例えば、金型又はゴム型に顆粒状のマイエナイト粉末を充填して加圧成形する。加圧成形法は、同じ形状の成形体を大量に製造するのに好適に用いられる。
静水圧成形法では、例えば、ゴム型にマイエナイト粉末を充填し、静水圧を印加して成形する。
回転成形法では、例えば、マイエナイト粉末をドラム状等の回転機に投入し、回転により造粒して粒子を成長させることにより、球状及びペレット状等の構造体を得る。
押出成形法では、例えば、マイエナイト粉末に溶媒及びバインダー等を加えて可塑性を持たせ、押し出し機にて加圧して金型から押し出して、棒状、筒状等の成形体を得る。金型から押し出された成形体を切断することにより、ペレット状の成形体とすることもできる。
射出成形法は、例えば、マイエナイト粉末に樹脂等を加えて可塑性を持たせ、金型に射出して成形する。射出成形法は、複雑な形状を有する成形体を製造するのに好適に用いられる。
鋳込成形法、加圧鋳込成形法、及び回転鋳込成形法は、例えば、マイエナイト粉末にアルコール等の溶媒を加えてスラリーとして、このスラリーを型に流し込み、型の内側面に着肉した後にスラリーを排出し、若しくはそのまま固化して成形体を得る。型の素材は特に限定されないが、製造する予定のマイエナイト型化合物と同じ又は類似の組成を有するセラミックで形成されているのが好ましい。型が製造する予定のマイエナイト型化合物と同じ又は類似の組成を有するセラミックで形成されていると、成形体に不純物が混入するのを防ぐことができる。成形体を得る際に、型を加圧すると、着肉速度を速めることができ、生産性を向上させることができる。また、円筒形の成形体を得る場合には、型を回転させることにより遠心力を用いて着肉速度を早めることができる。
ろくろ成形法は、例えば、マイエナイト粉末に溶媒を加えた材料をろくろ等の回転機器により成形する。
薄板状成形法は、例えば、マイエナイト粉末に溶媒を加えてスラリーとして、このスラリーを平坦な基体に置いて刃状部品で厚さを調整しながら薄板状に成形する。前記基体の素材は特に限定されず、セラミック及び金属等を挙げることができる。この成形方法によると、薄膜構造に成形することができる。また、基体にスラリーを塗布して乾燥した後に、その上にさらにスラリーを塗布して乾燥する工程を繰り返すことにより、多層構造に成形することができる。なお、スラリーを基体に塗布した後に熱風を送ると、乾燥を早めることができるので生産性を上げることができる。この成形方法によって製造された成形体は、基体に密着した状態で焼成してもよいし、基体から剥離した後に焼成してもよい。
3次元積層造形法としては、例えば、インクジェット法、粉末積層造形法、スラリー積層造形法等を挙げることができる。
インクジェット法は、例えば、マイエナイト粉末に溶媒及びバインダー等を加えてトナー剤として、3Dプリンタにこのトナー剤を投入し、3Dデータに基づいて、ノズルからトナー剤を射出して、所望の形状の成形体を得ることができる。
粉末積層造形法は、例えば、まず、マイエナイト粉末とバインダーとの混合粉末を成形用シリンダーに層状に供給し、3Dデータに基づいてレーザ照射により所望の形状にスキャンして加熱を行い、バインダーを溶融して、原料粉末を融着させる。次いで、成形用シリンダーを層の厚み分下降させた後に、その上に混合粉末を層状に供給し、レーザ照射により原料粉末を融着させる。これらの操作を繰り返すことにより、任意の立体形状の成形体を得ることができる。
スラリー積層造形法は、例えば、光硬化性又は熱硬化性の液体樹脂にマイエナイト粉末を分散させたスラリーを準備し、これを基板上に塗布し、レーザ照射により所望の形状にスキャンして液体樹脂を硬化する。次いで、その上にスラリーを塗布し、レーザ照射により液体樹脂を硬化する。これらの操作を繰り返すことにより、任意の立体形状の成形体を得ることができる。
3次元積層造形法により得られた成形体は、マイエナイト粉末の種類によってはそのままマイエナイト型化合物I又は混合物IIを得ることができ、必要に応じて、還元性雰囲気で加熱する工程、カーボンルツボに封入して加熱する工程、紫外線、X線、又は電子線を照射する工程等を行ってもよく、これにより所望の活性種を包接するマイエナイト型化合物を得ることができる。この成形方法によると、複雑な形状の成形体を製造することができる。
[第2焼成工程]
粉末状又は顆粒状のマイエナイト型化合物前駆体、又は成形工程を経た後の成形体を、イリジウム等の貴金属によって形成される貴金属ルツボやアルミナルツボ等適宜の材料で形成されたルツボ中に封じ、例えば貴金属ルツボ中に水素ガスを充填、又は炉内の雰囲気を水素ガス等で還元性雰囲気にして、700℃以上の温度で加熱することにより、包接された前記酸素元素を含む陰イオンをH−に置換することができる。
また、カーボンルツボ中に、マイエナイト型化合物前駆体をカーボンルツボ中に窒素ガス等の不活性ガスを充填、又は炉内の雰囲気を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気や真空にして、700℃以上の温度で加熱することによって、包接された陰イオンを電子に置換することができる。マイエナイト型化合物前駆体が粉末状又は顆粒状である場合、炭素の微粉末を還元剤としてこれに混合して焼成してもよい。カーボンルツボにマイエナイト型化合物前駆体を封入して焼成する場合には、カーボンルツボに接触する部分は電子を包接するマイエナイト型化合物が形成され易い一方で、カーボンルツボに接触していない部分は電子を包接するマイエナイト型化合物が形成され難く、不均一になるおそれがある。一方、炭素の微粉末をマイエナイト型化合物前駆体に混合して焼成すると、炭素とマイエナイト型化合物前駆体との接触面積が広くなり、均一に接触するので、電子を包接するマイエナイト型化合物の均一物を製造することができる。
また、炭素を混合したマイエナイト型化合物前駆体を成形した後に焼成すると、焼成により成形体に含まれていた炭素がCOガス、CO2ガスとして抜けるので、マイエナイト型化合物の多孔体を製造することができる。炭素を混合したマイエナイト型化合物前駆体を、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気や真空で焼成すると、電子を包接するマイエナイト型化合物からなる多孔体を製造することができる。一方、炭素を混合したマイエナイト型化合物前駆体を大気雰囲気又は酸素雰囲気で焼成すると、COガス、CO2ガスが抜けることにより得られた多孔体は酸化され、マイエナイト型化合物に活性酸素等の陰イオンが包接されているので、さらにこの多孔体を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気や真空で、カーボンルツボ中で焼成することにより電子を包接するマイエナイト型化合物からなる多孔体を製造することができる。
なお、マイエナイト型化合物前駆体の粉末又は顆粒に炭素の微粉末を還元剤として混合し、窒素ガス等の不活性雰囲気や真空で焼成する場合、混合する炭素の量が不十分であると結晶ケージ内に包接された活性酸素等の陰イオンの電子への置換が十分に行われずに活性酸素が残留することがあり、また、混合する炭素の量が過剰であると得られた焼成体に炭素が残留してしまうことがある。混合する炭素の量が不十分であり、結晶ケージ内に活性酸素が残留した場合には、再度、不活性雰囲気や真空で、カーボンルツボ中で焼成することにより、結晶ケージ内に残留した活性酸素を電子に置換することができる。また、過剰に炭素混合することにより得られた焼成体に炭素が残留するおそれがある場合には、微粉末状の炭素ではなくボール状又はペレット状の炭素、すなわちマイエナイト型化合物前駆体の粉末又は顆粒に比べて粒度が大きい炭素を使用することにより、焼成後にマイエナイト型化合物から炭素を容易に分離することができる。
貴金属ルツボ又はカーボンルツボにおいて加熱される温度の上限値は特に制限されないが、例えば、1450℃以下の温度で加熱されることが好ましい。C12A7の融点は約1450℃なので、加熱における温度を1450℃以下とすることにより、加熱の過程においてマイエナイト型化合物前駆体が溶融し、マイエナイト型化合物前駆体の形状が変化することを防止することができる。一方で、マイエナイト型化合物前駆体を加熱過程で溶融させ、種々の形状に成形されたマイエナイト型化合物を製造する場合には、加熱温度を1450℃よりも大きくすることもできる。
カーボンルツボ又は貴金属ルツボ中における加熱反応時間を長くすればするほど、電子又はH−による酸素を含む陰イオンの置換量が大きくなる。例えば、水素ガスを充填した貴金属ルツボにおいて、マイエナイト型化合物前駆体を、700℃で240時間加熱すると、ほぼ全量の包接酸素イオンをH−に置換することができる。
マイエナイト型化合物Iは次のようにして製造できる。すなわち、酸素イオンの一部又は全部がH−によって置換されたマイエナイト型化合物前駆体に、紫外線、X線、又は電子線を照射することにより、包接されたH−の一部が電子に置換され、電子とH−との両方が包接されたマイエナイト型化合物Iが得られる。尚、マイエナイト型化合物前駆体に照射する紫外線の波長は、例えば、250nm以上350nm以下とすることができる。
また、マイエナイト型化合物前駆体をカーボンルツボ中に封じ、還元性雰囲気で700℃以上の温度で所定時間加熱することによっても電子とH−との両方が包接されたマイエナイト型化合物Iを製造することができる。
マイエナイト型化合物Iは、特に結晶格子にCa、Al及びOが含まれる場合、包接される電子及びH−の割合によって、その色調が変化する。具体的には、包接される電子の割合が大きければ大きいほど、マイエナイト型化合物の色調は黒色を呈するようになり、包接される電子の割合が小さければ小さいほど、マイエナイト型化合物における黒色が薄くなり、白色に近い色になる。
混合物IIは、還元性雰囲気で加熱することにより得られたH−を包接するマイエナイト型化合物と、カーボンルツボを用いて加熱及び/又は炭素の微粉末を還元剤としてマイエナイト型化合物前駆体に混合して加熱することにより得られた電子を包接するマイエナイト型化合物とを任意の割合で混合することにより得られる。
第2焼成工程でのマイエナイト型化合物前駆体の加熱方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、加熱方法としては、炉焼成方法、電磁波焼成法、加圧焼結法等を挙げることができる。
炉焼成法は、電気炉、ガス炉等の炉にマイエナイト型化合物前駆体を載置して、加熱する。このとき、さらに炉内を乾燥雰囲気にして焼成するほど、すなわち水蒸気分圧を低くするほど、また、炉内を脱酸素雰囲気にして焼成するほど、すなわち酸素分圧を低くするほど、電子及び/又はH−を高濃度に包接するマイエナイト型化合物を製造することができる。炉内を乾燥雰囲気にする方法としては、例えば、炉内又は炉内へのガスの供給路に脱水剤を配置する方法を挙げることができる。炉内の酸素分圧を低くする方法としては、例えば、炉内又は炉内へのガス供給路に脱酸素剤を配置する方法を挙げることができる。これによって、雰囲気ガスに微量に含まれる酸素を除去することができる。
電磁波焼成法は、電磁波を照射することにより加熱する方法である。電磁波焼成法の一例として、マイクロ波焼成法を挙げることができる。マイエナイト型化合物前駆体を、炭素容器等の電磁波を吸収し易い素材で形成された容器に入れて加熱すると、輻射熱により短時間で昇温できることから好ましい。また、マイエナイト型化合物前駆体に電磁波を吸収し易い材料を混合することによっても短時間で昇温することができる。電磁波焼成法においても、上述したように、乾燥雰囲気及び脱酸素雰囲気で焼成することにより、電子及び/又はH−を高濃度に包接するマイエナイト型化合物を製造することができる。
加圧焼結法は、加圧しながら焼成する方法である。加圧焼結法として、例えば、ホットプレス法及び熱間静水圧焼結法(HIP)等を挙げることができる。加圧焼結法においても、上述したように、乾燥雰囲気及び脱酸素雰囲気で焼成することにより、電子及び/又はH−を高濃度に包接するマイエナイト型化合物を製造することができる。
第2焼成工程では、マイエナイト粉末又はこれを成形して得られた成形体をルツボ、焼成皿、焼成サヤ、焼成窯等の焼成器具内又は焼成器具上に載置して焼成する。このとき、「酸素元素を含む陰イオンを包接するマイエナイト型化合物前駆体の製造」の欄で説明したのと同様の理由により、これらの焼成器具は、製造する予定のマイエナイト型化合物と同じ又は類似の組成を有するセラミックで形成されているのが好ましい。
このようにして、マイエナイト型化合物I及び混合物IIが得られる。
なお、前述の製造方法では、第1焼成工程を行うことによりマイエナイト型化合物前駆体を製造し、必要に応じて成形工程を経て、第2焼成工程を行うことにより電子及び/又はH−が包接されたマイエナイト型化合物を製造しているが、第1焼成工程を経ずに混合粉砕工程で得られた混合物を、必要に応じて成形工程を経て所望の焼成雰囲気で焼成する第2焼成工程を行うことにより、電子を包接するマイエナイト型化合物、H−を包接するマイエナイト型化合物、又はマイエナイト型化合物Iを製造することもできる。
なお、マイエナイト型化合物I及び混合物IIが成形体として得られた場合には、必要に応じて、切削加工、研削加工、及び研磨加工等を行うことにより、任意の寸法及び形状に製造することができる。このとき、通常、研削液等は水若しくは油が用いられる場合があるが、電子を包接するマイエナイト型化合物及びH−を包接するマイエナイト型化合物は、水及び油と反応する場合があるので、ドライ加工若しくは安定性の高い液体を選択して加工を行う。加工雰囲気は、不活性雰囲気又は還元性雰囲気を選択することにより、マイエナイト型化合物I及び混合物IIの酸化を抑制することができる。
マイエナイト型化合物含有製品が、マイエナイト型化合物I又は混合物IIのみで形成される場合には、上述のように製造することができる。また、マイエナイト型化合物含有製品が、マイエナイト型化合物I又は混合物IIとこれら以外の物質とを含有する物質から形成される場合には、上述した適宜の工程で他の物質を含有させることができる。具体的には、マイエナイト型化合物前駆体と他のセラミック粉末等と混合して成形体を得た後に焼成する方法、及びマイエナイト型化合物I又は混合物IIと他のセラミック粉末とを含む粉末を成形して成形体を得ることにより製造する方法等を挙げることができる。
[多孔体の製造方法]
多孔質のマイエナイト型化合物I又は混合物IIを製造する場合には、例えば、溶媒揮発法、酸腐食法、水和法等を採用することができる。
溶媒揮発法は、マイエナイト粉末に、有機溶剤、水、及び樹脂等のバインダーを混合し、成形加工した後に仮焼してバインダーを揮発させることにより、多孔体を形成する。バインダーが揮発した跡が気孔となる。バインダーの種類及び添加量等を適宜選択することにより多孔体の気孔率、気孔径、及び比表面積等を調整することができる。
酸腐食法は、硫酸及び硝酸等の酸にマイエナイト粉末又は成形体を浸漬して、少なくとも表面を腐食することにより、少なくとも表面が多孔質である多孔体を形成する。酸の種類、濃度、pH値等を適宜選択することにより多孔体の気孔率、気孔径、及び比表面積等を調整することができる。
水和法は、マイエナイト粉末又は成形体に水を接触させて、少なくとも表面を水和反応させて表面の結晶を崩壊させることにより、少なくとも表面が多孔質である多孔体を形成する。マイエナイト粉末又は成形体に接触させる水の量及び温度等を適宜選択することにより水和反応の進行を制御することができ、これによって多孔体の気孔率、気孔径、及び比表面積等を調整することができる。
[被膜の製造方法]
対象物の表面にマイエナイト型化合物I又は混合物IIを含む被膜を製造する場合には、例えば、塗装法、溶射法、釉薬法等を採用することができる。
塗装法は、マイエナイト粉末に樹脂、溶剤等を添加して塗料を形成し、これを対象物の適宜の表面に塗布して乾燥することにより、対象物の表面に被膜を形成することができる。
溶射法は、マイエナイト粉末を加熱して液滴化した溶射材を高速ガス流等によって対象物に吹き付けることにより、対象物の表面に被膜を形成することができる。溶射工程において、雰囲気ガスを還元性雰囲気にすることにより、包接ケージ内にH−を包接させることができる。また、溶射により被膜を形成した対象物を適宜の雰囲気で焼成することによっても包接される活性種を選択することができる。
釉薬法は、アルコール等の有機溶剤及び水等の溶媒にマイエナイト粉末を懸濁させて釉薬を形成し、これを対象物の適宜の表面に塗布した後に焼成することにより、対象物の表面にガラス質の被膜を形成することができる。釉薬は、マイエナイト粉末ではなく、Ca含有化合物とAl含有化合物との混合粉末を溶媒に懸濁させて形成されてもよい。CaとAlとを所定の元素比で混合した釉薬を、対象物の適宜の表面に塗布した後に焼成することにより、マイエナイト型化合物の被膜を形成することができる。焼成時の雰囲気を還元性雰囲気にすることにより、H−を包接するマイエナイト型化合物からなる被膜を形成することができる。
[フィルタの製造方法]
フィルタ状のマイエナイト型化合物I又は混合物IIを製造する場合には、例えば、天然繊維又は化学繊維により公知の方法により形成された不織布又は織物を、粉末状のマイエナイト型化合物I又は混合物IIが分散された溶液に浸漬して、不織布又は織物にマイエナイト型化合物I又は混合物IIを担持させる方法、天然繊維又は化学繊維にマイエナイト型化合物I又は混合物IIを担持させた後に、公知の方法により不織布又は織物を形成して所望の形状を有するフィルタを形成する方法、前述した多孔質のマイエナイト型化合物I又は混合物IIの製造方法と同様にして、多孔質のフィルタを製造する方法、及び所定の空間に粉末状又は顆粒状の多機能剤を充填して充填物とすることによりフィルタを形成する方法等を挙げることができる。
[ガラスの製造方法]
マイエナイト型化合物は、溶融状態でも電子、H−等の活性種が包接されており、急冷することによりガラスに加工することができる。したがって、マイエナイト型化合物I又は混合物IIを溶融及び急冷することによりガラスに加工することができる。急冷する際に任意の型を用いることにより、任意の形状のガラス状マイエナイト型化合物を製造することができる。型の素材としては、セラミック、金属、炭素等を挙げることができる。板ガラス状にする場合には、溶融スズ上へ溶融したマイエナイト型化合物前駆体を流し込むことにより製造することができる。電子を包接するマイエナイト型化合物及びH−を包接するマイエナイト型化合物は、空気中の酸素に触れることにより酸化するので、N2、Ar等の不活性雰囲気、水素雰囲気、又は真空でガラス化することが好ましい。また、宙吹き、型吹き、プレス成形、被せガラス法、キャスト、ホットキャスト、コールドキャスト、サンドキャスト等の従来用いられてきたガラスの加工方法を適用することができる。また、マイエナイト型化合物を溶融した後に線引き加工することにより、繊維状に成形することもできる。
(多機能剤)
次に、本発明に係る多機能剤について説明する。
本発明における多機能剤は、電子とH−との両方を包接するマイエナイト型化合物I及び電子を包接するマイエナイト型化合物とH−とを包接するマイエナイト型化合物との混合物IIのうちの少なくとも一つを含有する。具体的に、多機能剤は、マイエナイト型化合物Iのみを含有していてもよく、混合物IIのみを含有していてもよい。以下において、多機能剤が含有するマイエナイト型化合物I及び混合物IIを単にマイエナイト型化合物と称することもある。
マイエナイト型化合物I及び混合物IIは、電子のみを包接するマイエナイト型化合物が有する機能とH−のみを包接するマイエナイト型化合物が有する機能との両方を有する。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、電子供与性を有することにより、フリーラジカルを消去し、特に、活性酸素を消去し、また、還元性を有する。
H−を包接するマイエナイト型化合物は、H−供与性を有し、還元性を有する。
マイエナイト型化合物は、カゴ状の結晶構造を有し、陽電荷を有する包接ケージの内側に陰電荷を有する電子及びH−の少なくとも一方が包接されている。結晶格子としてCa、Al、及びOを少なくとも含むマイエナイト型化合物Iは、包接ケージの内部に陰イオン特に酸素イオンを取り込む機能及び水との接触により水和反応をして周囲に存在する水分を除去する機能を有する。マイエナイト型化合物Iの周囲に酸素や水分が存在する場合、まず、マイエナイト型化合物Iは包接ケージの内部に酸素イオンO2−を取り込み、取り込まれた酸素イオンO2−は周囲の水分と反応し、包接ケージ内でOH−になる。このように、マイエナイト型化合物Iは、脱酸素反応及び脱水反応に寄与する。
このように、マイエナイト型化合物I及び混合物IIは、電子供与性を有することによりラジカル消去活性を有すると共に還元性を有し、H−供与性を有することにより還元性を有し、水との接触により水和反応することにより脱水性能を有し、また、包接ケージの内部に酸素イオン等を取り込み、脱酸素性能を有するという多機能を有する。
本発明における機能剤は、マイエナイト型化合物Iに包接される電子及びH−の包接割合、及び混合物IIにおける電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物との含有割合は特に限定されないが、用途に応じて、前記包接割合及び前記含有割合を調整すればよい。また、本発明における多機能剤は、前記機能を有する限り、マイエナイト型化合物I及び混合物II以外のマイエナイト型化合物、例えば、電子及びH−以外のイオンを包接するマイエナイト型化合物、包接ケージにおけるAl及びCaの一部が他の元素に置換されて成るマイエナイト型化合物を含んでいてもよい。
以下に、より具体的に多機能剤の機能について説明する。
多機能剤は、溶媒に不溶であるという性質を有する。前記溶媒は、親水性溶媒及び疎水性溶媒のいずれであってもよい。親水性溶媒の好適例として水が挙げられ、疎水性溶媒の好適例として油等の有機溶媒が挙げられる。よって、本発明に係る多機能剤は、水及び油のいずれにも不溶であるという性質を有する。
多機能剤においては、構成物質であるマイエナイト型化合物が、マイエナイト型化合物以外の分子、イオン、ラジカル等に電子を供与することができる。より具体的には、多機能剤においては、マイエナイト型化合物に包接される電子をケージクラスターの外部に存在するマイエナイト型化合物以外の分子、イオン、ラジカル等へ直接付与する反応がおこりうる。マイエナイト型化合物に包接される電子をケージクラスターの外部に存在するラジカルへ付与することにより、反応性の高いラジカルが消去され、連鎖的にラジカル反応が進行することを防止することができる。例えば、活性酸素が存在する中にこの多機能剤を置くことにより、活性酸素に電子を供与して活性酸素を消去して、酸化反応が進行することを防止することができる。また、例えば、マイエナイト型化合物に包接される電子をベンゼン環に付与することによりバーチ還元反応が生じ、有害物質を無害化することができる。
また、多機能剤は、マイエナイト型化合物に包接されるH−をケージクラスターの外部に存在するマイエナイト型化合物以外の分子、イオン等に付与する反応が起こりうる。マイエナイト型化合物に包接されるH−を、例えば、カルボニル化合物に付与することによりヒドリド還元反応が生じ、アルデヒドとケトンがアルコールに還元され、有害物質を無害化することができる。
多機能剤においては、構成物質であるマイエナイト型化合物がカゴ状の結晶構造を有し、水との接触により水和反応が生じ、水和物を生成する。これによって、多機能剤は脱水性能を有する。また、この水和反応により結晶ケージが崩壊して、包接されている電子及びH−等の活性種が飛び出す。水和が進行すると、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊するので、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている活性種も反応に寄与することができる。したがって、水の存在下で多機能剤を用いることにより、長期にわたって多機能剤の活性を維持することができる。
(多機能剤の用途)
多機能剤は、複数の機能を有するので、様々な用途に用いることができる。多機能剤は、例えば、前記溶媒等の液体中に静置されることにより用いられる。多機能剤は、溶媒に溶けることなく、液体中において固体状態を維持したまま存在する。多機能剤は、溶媒中に溶解せずとも、溶媒を構成する分子、溶媒中に溶解するイオン及びラジカル等、又は溶媒中に分散する分子及びイオン等に電子を付与し、これらを還元することができる。
以下においては、主に疎水性溶媒の典型例である油中に用いられる多機能剤について説明する。油は、有機化合物を含み、水と混ざり合わない液体であればよく、例えば、鉱物由来油、植物由来油、及び動物由来油等が挙げられる。これら油の更に具体的な例としては、絶縁油、石油、灯油、軽油、食品用油、潤滑油、エンジンオイル、シリコーン油、精油、香油、髪油、バイオ燃料、乾性油を含む有機塗料、魚油、ラード、鯨油、馬油、蝋、及びこれらの廃油等が挙げられる。
多機能剤は、油等の液体に不溶の固体であればよく、その形状及び態様は特に制限されない。多機能剤の具体的な形態として、例えば、粉末状、顆粒状、ボール状、フィルタ状、被膜状、多孔体、容器等が挙げられる。
油に用いられる多機能剤のより具体的な用途を以下に説明する。
多機能剤は、油の品質を維持するために用いることができる。多機能剤は酸化防止剤、還元剤、脱水剤として作用する。すなわち、多機能剤におけるラジカル消去活性及び脱酸素性能により油の酸化を防止し、還元性により酸化した油を再生し、脱水性能により油に含有される水を除去して油の劣化を防止する。
多機能剤は、酸化防止剤として機能し、油中に静置させることにより、油を構成する炭化水素の酸化反応を抑制し、油の劣化を抑制することができる。油中にスーパーオキシドアニオンラジカル及びヒドロキシラジカルといった酸素ラジカルが存在すると、油中に存在する炭化水素が酸化し易くなる。多機能剤が、油中に静置されることにより、マイエナイト型化合物に包接されている電子が酸素ラジカルへ供与されて酸素ラジカルが消去され、炭化水素が酸化されることを防止することができる。また、包接ケージの外部に存在する酸素及び酸素イオン等が、包接ケージに包接されているイオン等を置換することによって、包接ケージ中に酸素イオンがトラップされる。これにより、油中に溶解している酸素イオンの含有量を減少させることができ、油を構成する炭化水素が酸化されることを防止することができる。
多機能剤は、還元剤として機能し、油と接触させることにより、既に酸化反応が進行した酸化型の炭化水素を還元し、還元型の炭化水素を再生することができる。多機能剤を還元剤として使用することにより、炭化水素の酸化反応が進行し、劣化した油を改質することができる。還元剤は、油中に存在する、既に酸化された炭化水素に、マイエナイト型化合物に包接される電子を供与することによって、炭化水素を還元することができる。また、炭化水素が酸化されるとカルボニル化合物が生成される。還元剤は、マイエナイト型化合物に包接されるH−を、このカルボニル化合物に供与することによってヒドリド還元反応が生じ、アルコールに還元することができる。
多機能剤は、脱水剤として機能し、油と接触させることにより、油に含有される水を除去することができる。多機能剤の構成物質であるマイエナイト型化合物は、カゴ状の結晶構造を有し、水との接触により水和反応が生じ、水和物を生成する。これによって、油中の水分を取り除くことができる。また、この水和反応により、結晶ケージが崩壊して、包接されている電子やH−が飛び出す。水和が進行すると、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊するので、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている電子やH−も油の劣化防止に寄与することができる。
多機能剤の具体的な態様として、図2に示される顆粒状の多機能剤が挙げられる。顆粒状の多機能剤は、マイエナイト型化合物と、必要に応じてその他の成分とを含む。顆粒状の多機能剤に含有されるマイエナイト型化合物の粒径の好適例は、0.1mm以上2.0mm未満である。油中において、顆粒状の多機能剤が拡散することを防ぐために、顆粒状の多機能剤は図2に示されるような袋体7に収容されることが好ましい。袋体7は、油を透過させることができるが、内側に収容された顆粒状の多機能剤や水和物が外部へ漏れ出すことのない程度の大きさの開口部を備え、例えば、メッシュ構造の袋が用いられる。図2では、顆粒状の多機能剤8が収容された袋体7が、内部に油9が収容された容器10中に沈められる。容器10の内部から袋体7を容易に取出しやすくするために、袋体7はひも付きの形状とし、このひもの一端を容器10の外部に取り出しておくこともできる。図2の右側における、袋体7の内部を示した透過図において白色の丸で示される物質の一例として、油中に存在する酸素イオン、又は酸化された炭化水素が挙げられる。また、前記透過図において黒色の丸で示される物質の一例として、マイエナイト型化合物の包接ケージ中にトラップされた酸素イオン、又は還元された炭化水素が挙げられる。油中に存在する酸素イオンは、袋体の内側に存在するマイエナイト型化合物における包接ケージにトラップされ、その酸化能を失う。また、油中に存在する酸素ラジカルは、袋体の内側に存在するマイエナイト型化合物における電子が供与されて消去される。また、油中に存在する酸化された炭化水素は、マイエナイト型化合物に包接される電子又はH−等によって還元される。また、油中に存在する水分は、マイエナイト型化合物と水和反応し、水和物を生成する。よって、袋状の多機能剤を油中に投入することにより、油中の炭化水素の酸化を防止することができ、油の劣化を抑制することができる。尚、多機能剤の他の具体的な態様として、粉末状の多機能剤が挙げられる。粉末状の多機能剤は、その粒径が前記顆粒状の多機能剤の粒径よりも小さく、粉状体を形成する。粉末状の多機能剤を図2に示されるような袋体に詰めて、この袋体を油中に浸漬させることによっても、油中の炭化水素の酸化を防止することができる。袋体7は、図2に示すように、油9中に置かれる場合に限定されず、油9の周辺の気体中に置いて使用することもできる。多機能剤は、周辺にある水分を除去し、また、酸素イオンを包接ゲージ内に取り込むことから、脱水性能及び脱酸素性能を有する。
例えば、顆粒状の多機能剤は、サラダ油、ごま油、大豆油、なたね油等の食品用油の酸化防止剤として好適に用いられる。より具体的には、顆粒状の多機能剤を入れた袋体は、食品用油を収容するプラスチック容器の中に、沈められる。通常、食品用油を長期間保存しておくと、空気中の酸素、湿気、熱、光、金属イオン、微生物等の作用によって酸化が進み、酸敗又は変敗と呼ばれる油の劣化現象が進行する。特に、油を空気中に長期間放置しておくことによって、油中の不飽和脂肪酸が酸素を吸収して、不安定な過酸化物であるスーパーオキサイドを生じ、これが転位して不飽和のハイドロパーオキサイドが生じることによって、油の酸化が進行していく。食品用油中には、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸が多量に含まれていることから、油の酸化反応が進みやすく、酸化反応によって過酸化脂質が発生する。過酸化脂質は、人体内において酸化反応を進行させ、発がん作用を有するので、健康上の観点から食品用油中における不飽和脂肪酸の酸化反応を防止することが望まれている。
顆粒状又は粉末状の多機能剤を、食品用油中に入れておくことによって、食品用油に含まれるラジカルを消去することができる。具体的には、食品用油中に含有されるラジカルは、マイエナイト型化合物の包接ケージ内の電子が付与されることによって消去される。例えば、油中に存在するヒドロキシラジカル・OHは、包接ケージ内の電子が付与されることにより消去され、酸化能が比較的乏しい水酸化物イオンOH−になる。
多機能剤を用いることにより、食品用油中の溶存酸素がマイエナイト型化合物中に包接され、食品用油中における溶存酸素量が低下する。これにより、食品用油中において好気性細菌が増殖することを防止することができるので、食品用油をより長期間保存することができる。
以上のように、顆粒状の多機能剤を、食品用油中に浸漬させておくことによって、経時的に油中の炭化水素における酸化反応が進行し、人体に有害な過酸化物が発生することを防止することができる。多機能剤を用いることによって、食品用油の劣化を防ぎ、食品用油を長持ちさせることができる。
顆粒状又は粉末状の多機能剤は、油中に溶解することがない。よって、食品用油に多機能剤を静置させても、人体に有害な成分等が油中に溶け出すことがない。また、多機能剤は、食品用油の構成成分を変化させることがなく、食品添加物の添加量に関する規制を受けることがない。食品用油中に多量の多機能剤を投入しても、食品用油の構成成分に影響を及ぼすことがないので、任意の量の多機能剤を食品用油へ投入することができる。よって、十分な量の多機能剤を食品用油へ投入し、油の劣化を十分に抑制することができる。さらに、多機能剤は、約300℃の高温まで酸化防止剤としての機能を十分に発揮することができる。酸化防止剤として食品用油に使用されるビタミンEは熱に弱く、高温では酸化防止剤としての機能が低下してしまうところ、この多機能剤は高温下においても酸化防止剤としての機能を発揮することができる。したがって、例えば、鍋やフライヤー等の調理機器に、食品用油と共に多機能剤が収容された袋体を投入して、加熱調理をすることができる。未酸化である調理中の油に、多機能剤が収容された袋体を、酸化防止剤として投入することで、前記食品用油の寿命を延ばすことができる。
食品用油以外の油の品質を維持するために用いられる多機能剤として、顆粒状又は粉末状の多機能剤を使用することもできる。例えば、アロマオイルとも称される精油を収容する容器、香油等の化粧油を収容する化粧容器、自動四輪車又は自動二輪車、より具体的には車、バイク、農業機械、発電機、各種のカート等の内燃機関を搭載する車両、航空機、船等に設けられた燃料タンク、ストーブ等における灯油タンク部、灯油の保存に用いられるポリタンク、及び住宅に設置される金属製かつ大型の灯油タンク(「ホームタンク」と称されることもある。)、石油備蓄タンク、油入変圧器における変圧器タンク及び油入コンデンサにおけるコンデンサタンク等に、図2で示されるような顆粒状又は粉末状の多機能剤が収容された袋体を浸漬させておくことにより、これらの容器又はタンクに収容された油の酸化による劣化を防止することができる。
顆粒状又は粉末状の多機能剤は、絶縁油の品質を維持する絶縁油用多機能剤として好適に使用することができる。絶縁油用多機能剤は、例えば、油入変圧器、油入コンデンサ、油入ケーブル、及び油入遮断機等に用いられる絶縁油の品質を維持するために用いられる。絶縁油は、JIS C 2320に規定されており、例えば、鉱油、アルキルベンゼン、ポリブテン、アルキルナフタレン、アルキルジフェニルアルカン、シリコーン油等を主成分とする絶縁油を挙げることができる。
図9は、油入変圧器の一例を示す概略説明図である。図9に示す油入変圧器81は、鉄心72と、鉄心72の外周に巻回された巻線73と、鉄心72と巻線73とを収容する変圧器タンク80と、変圧器タンク80内に充填された絶縁油79と、絶縁油79中に沈められた、多機能剤が収容された袋体78とを有する。絶縁油79は、温度、酸素、水分等の影響を受けて、時間と共に酸化し、カルボニル化合物や水が生成される。絶縁油79中の水分が増大すると変圧器タンク80等に錆が発生し易くなり、そのため絶縁油79中にスラッジが生成し、絶縁破壊を引き起こすおそれがある。一方、この実施形態の油入変圧器81は、顆粒状又は粉末状の多機能剤がメッシュ構造の袋に収容されてなる袋体78が絶縁油79中に沈められていることから、絶縁油79中に存在する酸素ラジカルは、多機能剤から電子を供与されて消去される。また、絶縁油79中に存在する酸素イオンは、マイエナイト型化合物の包接ケージにトラップされる。したがって、多機能剤が収容された袋体78が沈められた絶縁油79は、酸化し難くなる。また、絶縁油79中に存在する酸化された炭化水素は、マイエナイト型化合物に包接される電子又はH−によって還元され、還元型の炭化水素が再生される。したがって、多機能剤が収容された袋体78が沈められた絶縁油79は、たとえ炭化水素が酸化し、劣化したとしても、劣化した絶縁油が改質される。また、絶縁油79中に多機能剤が収容された袋体78があると、絶縁油79中に存在する水分は、多機能剤におけるマイエナイト型化合物と水和反応し、水和物を生成する。水和物は袋体の中に留まり、絶縁油79中から水分が除去され、絶縁油79の劣化を防止することができる。また、多機能剤が多孔質に形成されていると、絶縁油79中にあるスラッジを吸着することができる。
また、油入変圧器81は、通常、巻線73の導体被覆として電気絶縁紙が使用されている。電気絶縁紙は、クラフトパルプ、マニラ麻、ミツマタ等により形成され、いずれも主要構成物質はセルロースである。セルロースを主要構成物質とする電気絶縁紙が劣化すると、電気絶縁紙が化学変化を起こし、アルコール類が生成され、アルコール類からさらにアルデヒド類、フルフラール、カルボニル化合物が順に生成され、最終的にはCO、CO2、水が生成される。電気絶縁紙は劣化により破断するおそれがあり、電気絶縁紙が破断すると、絶縁破壊する可能性がある。一方、多機能剤が収容された袋体78が絶縁油79中にあると、劣化により生成されたアルデヒド類及びカルボニル化合物等がマイエナイト型化合物に包接される電子又はH−によって還元されるので、絶縁油が劣化するのが抑制され、品質が維持される。
絶縁油79及び絶縁紙が劣化して絶縁油79中に水分が生成すると、多機能剤におけるマイエナイト型化合物と水和反応して水和物が生成することにより、絶縁油79中の水分を除去することができる。また、絶縁油79中の水分により、多機能剤におけるマイエナイト型化合物が水和反応して、結晶ケージが崩壊し、包接されている電子及びH−等の活性種が飛び出す。水和反応が進行すると、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊するので結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている活性種も反応に寄与することができる。したがって、長期にわたって多機能剤の機能を発揮することができる。
この実施形態では、顆粒状又は粉末状の多機能剤が収容された袋体78が絶縁油79中に沈められている例について説明したが、多機能剤の形態は特に限定されず、ボール状又はペレット状の多機能剤が袋等に収容されずにそのまま絶縁油中に沈められている態様、変圧器タンク80の内周面に多機能剤を含有する被膜が設けられている態様、変圧器タンク80を形成する材料に多機能剤が含有されている態様等を挙げることができる。
また、変圧器タンク80が図9に示すように密閉されているのではなく、一部が開放され、絶縁油79が空気に曝されている構造の油入変圧器81の場合には、多機能剤は絶縁油79中にある場合に限定されず、絶縁油79の周辺すなわち絶縁油79の界面に隣接する気体中に載置されていてもよい。多機能剤が絶縁油79の周辺に載置されていると、絶縁油79中にある場合と同様に、絶縁油79周辺の大気中にある酸素ラジカルが消去されると共に酸素イオンが包接ケージ内に取り込まれることから絶縁油79の酸化が防止される。また、多機能剤により絶縁油79周辺の大気中にある水分が除去され、絶縁油79の劣化が防止される。したがって、絶縁油79の周辺、例えば、変圧器タンク80の外気取り入れ箇所に載置されている多機能剤は、脱水剤兼脱酸素剤の代替品として用いることができ、絶縁油79の劣化を防止することができる。
図10は、油入コンデンサの一例を示す概略説明図である。図10に示す油入コンデンサ91は、複数のコンデンサ素子を収容するコンデンサ82と、コンデンサ82を収容するコンデンサタンク90と、コンデンサタンク90内に充填された絶縁油89と、絶縁油89中に沈められた、多機能剤が収容された袋体88とを有する。油入コンデンサ91は、油入変圧器81の場合と同様に、絶縁油89中に多機能剤が収容された袋体88があるので、絶縁油89の酸化が防止されると共に劣化した絶縁油89は再生され、また、絶縁油89中の水分が除去される。また、油入コンデンサ91における多機能剤の形態もまた特に限定されず、油入変圧器81の場合と同様に、ボール状、ペレット状、被膜状等であってもよい。また、コンデンサタンク90が図10に示すように密閉されているのではなく、一部が開放され、絶縁油89が空気に曝されている構造の油入コンデンサ91の場合には、多機能剤は絶縁油89中にある場合に限定されず、油入変圧器81の場合と同様に、絶縁油89の周辺に載置されていてもよい。絶縁油79の周辺、例えば、コンデンサタンク90の外気取り入れ箇所に載置されている多機能剤は、脱水剤兼脱酸素剤の代替品として用いることができる。
多機能剤の他の具体的な態様として、図3に示されるボール状の多機能剤18が挙げられる。ボール状の多機能剤は、粉状のマイエナイト型化合物に適当な溶媒及びバインダー等を加え、適当な大きさ、形状等に成形されることにより得られる。ボール状の多機能剤は、通常、前記顆粒状の多機能剤よりも大きい。ボール状の多機能剤の大きさは略球形であることが好ましく、その大きさは、粒径が2mm以上50mm以下であることが好ましい。本発明の効果を奏する限りにおいて、ボール状の多機能剤には、マイエナイト型化合物以外の成分が含有されていてもよい。また、略球形以外の形状に成形された多機能剤の具体例として、ペレット状の多機能剤が挙げられる。ペレット状の多機能剤の形状は、略球形以外であればよく、例えば、略円柱形状、略多角柱形状、略円錐台形状、及び略多角錐台形状等が挙げられる。これらボール状又はペレット状の多機能剤は、緻密質であってもよいし、多孔質であってもよい。ボール状又はペレット状の多機能剤における細孔の大きさ及び数等を調節することにより、多機能剤における比表面積等を調節することができる。本明細書において説明されるボール状の多機能剤に関する用途と同じ用途について、ペレット状の多機能剤を同様に用いることができる。
図3では、ボール状の多機能剤18は、内部に油19が収容された容器20の底部に沈めて静置される。図3の右側におけるボール状の多機能剤18の拡大図において、白色の丸で示される物質の一例として、油中に存在する酸素イオン、酸素ラジカル、又は酸化された炭化水素等が挙げられる。また、前記拡大図において黒色の丸で示される物質の一例として、マイエナイト型化合物の包接ケージ中にトラップされた酸素イオン、又は還元型の炭化水素等が挙げられる。油中に存在する酸素イオンは、マイエナイト型化合物における包接ケージにトラップされ、その酸化能を失う。油中に存在する酸素ラジカルは、マイエナイト型化合物に包接される電子が供与されて消去される。また、油中に存在する酸化された炭化水素は、マイエナイト型化合物に包接される電子又はH−によって還元される。また、油中に存在する水分は、マイエナイト型化合物と水和反応し、水和物を生成する。よって、ボール状の多機能剤を油中に投入することにより、油中の炭化水素の酸化を防止することができ、ひいては油の劣化を抑制することができる。
ボール状の多機能剤は、例えば、石油備蓄タンクにおいて好適に用いられる。具体的には、石油を内部に備蓄する大型のタンクの底部に、ボール状の多機能剤を敷き詰めておくことができる。長期間の保管の間に、炭化水素における酸化反応が進行することによって、石油は劣化してしまう。具体的には、石油と酸素との反応によって石油の色相が変化するとともに、黒褐色のガム物質が生成することがある。この炭化水素における酸化反応は、石油中の炭化水素から水素が引き抜かれる反応を起点とし、さらに水素が引き抜かれた炭素と酸素分子とが反応することによってスーパーオキサイドが発生する。スーパーオキサイドによって、ラジカル反応が連鎖的に進行することにより、石油中の炭化水素の酸化反応が進行する。石油の劣化は、石油燃料の劣化や油の色調変化等をもたらすために、防止されることが好ましい。
石油備蓄タンクにボール状の多機能剤を浸漬させることによって、石油における炭化水素の酸化反応が防止される、具体的には、石油中に発生したラジカルにマイエナイト型化合物に包接される電子を供与することによって、ラジカルからイオンを発生させ、ラジカルを消去することができる。マイエナイト型化合物は、炭化水素の酸化反応過程で発生するスーパーオキサイドに電子を供与することによって、スーパーオキサイドを分解し、炭化水素の酸化反応を抑制することができる。よって、ボール状の多機能剤を用いることにより、石油備蓄タンクに備蓄された石油中の炭化水素の酸化反応を防止することができ、品質を劣化させることなく、長期間石油を備蓄することができる。
また、ボール状の多機能剤は、石油中に溶解することがない。よって、多機能剤は、石油における構成成分を変化させることがなく、石油中への添加物の添加量に関する規制を受けることがない。石油中に多量の多機能剤を投入しても、石油の構成成分に影響を及ぼすことがないので、任意の量の多機能剤を石油中へ投入することができる。よって、十分な量の多機能剤を石油中へ投入することにより、石油の劣化を十分に抑制することができ、従来に比べて長期間、石油を劣化させることなく備蓄することができる。
前記ボール状の多機能剤は、石油備蓄タンク以外に用いられることもできる。具体的には、灯油を保存する灯油タンク、石油等の燃料油を輸送するタンク車及びタンカー等に、ボール状の多機能剤を沈めておくことができる。また、精油、香油、及び食品用油等を収容する容器中に、ボール状の多機能剤を沈めておくこともできる。ボール状の多機能剤を用いることによって、タンク、タンク車、タンカー及び容器等に収容された油の酸化を防止することができる。更に、ボール状の多機能剤の他の用途例として、油を利用した加熱調理の際に、鍋やフライヤー等の調理機器に、ボール状の多機能剤を直接投入する例が挙げられる。ボール状の多機能剤の投入により、調理機器における油の酸化を遅らせる事ができる。即ち、未酸化である調理中の油に、ボール状の多機能剤を、抗酸化剤として投入することで、前記油の寿命を延ばすことができる。
多機能剤の具体的な態様として、図5に示される被膜状の多機能剤38が挙げられる。被膜状の多機能剤は、粉末状のマイエナイト型化合物に、必要に応じて溶媒又はバインダー等を添加してスラリーを作り、油等の保存容器の内壁面へスラリーを塗膜、及び固化させることによって得られる。図5のように、容器40中に収容された油39の少なくとも一部は、容器40の内壁面に形成された被膜状の多機能剤38と接触する。図5において白色の丸で示される物質の一例として、油中に存在する酸素イオン、酸素ラジカル、又は酸化された炭化水素が挙げられる。また、図5において黒色の丸で示される物質の一例として、マイエナイト型化合物の包接ケージ中にトラップされた酸素イオン、又は還元された炭化水素が挙げられる。油中に存在する酸素イオンは、被膜状の多機能剤38におけるマイエナイト型化合物の包接ケージにトラップされ、その酸化能を失う。また、油中に存在する酸素ラジカルは、多機能剤におけるマイエナイト型化合物に包接された電子が供与されて消去される。また、油中に存在する酸化された炭化水素は、マイエナイト型化合物に包接される電子又はH−によって還元される。よって、多機能剤で形成された被膜を有する容器中に油等を保存することにより、油中の炭化水素の酸化を防止することができ、油の劣化を抑制することができる。
被膜状の多機能剤は、例えば、インク及びペンキ等の有機塗料の保存において好適に用いられる。具体的には、有機塗料を収容する缶体の内壁面に、被膜状の多機能剤を形成させる。缶体の外部から侵入する酸素分子は、被膜状の多機能剤中のマイエナイト型化合物にトラップされる。よって、有機塗料の酸化を防止することができる。被膜状の多機能剤は、特に、油絵具の保存において好適に用いられる。油絵具の性質として、顔料及び乾性油を含む油性の液状体であることが挙げられる。油絵具が紙等の上に塗布された後に、乾性油が酸化され、液状体が硬化することによって、紙等の上に絵具が定着する。被膜状の多機能剤が設けられた容器内に、油絵具を収容すると、乾性油の酸化による液状体の硬化を防止することができる。よって、液状体として使用可能の状態を維持したまま、油絵具を長期間に亘って保存することができる。なお、塗料の種類として、空気中の酸素と反応させて塗料を酸化させることにより乾燥させる「酸化重合型」の塗料がある。「酸化重合型」の塗料に、例えば粉末状又は顆粒状の多機能剤を分散させると、塗料の乾燥が遅れるおそれがある。したがって、「酸化重合型」の塗料の酸化を防止する方法としては、粉末状又は顆粒状の多機能剤を塗料中に分散させるのではなく、塗料中に静置する方法、例えば、内壁に被膜状の多機能剤が形成されている容器に塗料を保存する方法、多機能剤が収容された袋体を塗料を保存する容器に入れる方法等が好ましい。
また、被膜状の多機能剤は、有機塗料中に溶解し、その成分を変化させることがない。よって、有機塗料と多機能剤を接触させても、有機塗料の構成成分が変化することにより、有機塗料の微妙な色調等に影響を及ぼすことがない。よって、十分な量の多機能剤を被膜として形成させることにより、有機塗料の劣化を十分に抑制することができ、従来に比べて長期間、有機塗料を劣化させることなく保存することができる。
多機能剤の具体的な態様として、図6に示される容器型の多機能剤48が挙げられる。容器型の多機能剤48は、前述したように、例えば、粉末状のマイエナイト型化合物に、必要に応じて溶媒又はバインダー等を添加してスラリーを作り、スラリーを成形し、これを焼成することによって得られる。図6のように、容器50中に収容された油49の少なくとも一部は、容器50を構成する多機能剤48と接触する。図6において白色の丸で示される物質の一例として、油中に存在する酸素イオン、酸素ラジカル、又は酸化された炭化水素が挙げられる。また、図6において黒色の丸で示される物質の一例として、マイエナイト型化合物の包接ケージ中にトラップされた酸素イオン、又は還元された炭化水素が挙げられる。油中に存在する酸素イオンは、容器50を構成する多機能剤48におけるマイエナイト型化合物の包接ケージにトラップされ、その酸化能を失う。また、油中に存在する酸素ラジカルは、多機能剤48におけるマイエナイト型化合物に包接された電子が供与されて消去される。また、油中に存在する酸化された炭化水素は、マイエナイト型化合物に包接される電子又はH−によって還元される。よって、多機能剤48を含む容器50中に油等を保存することにより、油中の炭化水素の酸化を防止することができ、油の劣化を抑制することができる。
容器型の多機能剤は、酸化及び水分の混入を防止することが望ましい液体の保存に好適に用いられ、被膜状の多機能剤と同様に、例えば、インク及びペンキ等の有機塗料等の保存に好適に用いられる。
次に、多機能剤を、特に油の還元剤として用いる例について説明する。
還元剤は、油と接触させることにより、既に酸化反応が進行した酸化型の炭化水素を還元し、還元型の炭化水素を再生することができる。還元剤を使用することにより、炭化水素の酸化反応が進行し、劣化した廃油から、炭化水素の酸化反応が十分に進行していない再生油を得ることができる。還元剤は、油中に存在する、既に酸化された炭化水素に、マイエナイト型化合物に包接される電子を供与することによって、炭化水素を還元することができる。また、炭化水素が酸化されるとカルボニル化合物等の化合物が生成される。還元剤は、マイエナイト型化合物に包接されるH−を、このカルボニル化合物等の化合物に供与することによってヒドリド還元反応が生じ、アルコールに還元することができる。
前記廃油の具体例としては、例えば、繰り返し使用された後の食品用油、工場等で繰り返し使用された後の機械用油等が挙げられる。これらの廃油と、多機能剤とを一定時間接触させることにより、廃油中に含まれる酸化型の炭化水素に電子及びH−が供与され、還元型の炭化水素が再生される。炭化水素を還元型に再生した後に、必要に応じて廃油中に含まれる不純物を精製により除去することにより、再度使用可能な再生油が得られる。
例えば、各種の工場において、繰り返し使用された後の機械用油を、大型の廃油タンク中に貯蔵する。この廃油タンクに、ボール状又は顆粒状の多機能剤をそのまま投入又はメッシュ状の袋に多機能剤を入れて投入し、一定期間放置する。また、廃油と多機能剤との反応効率を高めるために、廃油タンク中に収容された廃油を撹拌することもできる。廃油タンク中では、酸化された炭化水素がマイエナイト型化合物によって還元され、還元型の炭化水素に変化することにより、やがて再度使用可能な再生油が得られる。
従来、工場等から大量に排出される使用済みの廃油は、ローリー車によって大型の廃油再生プラントに集積されることが一般的である。廃油再生プラントにおいては、大型のブロワー装置を用いて廃油中に水素ガスが吹き込まれ、炭化水素の還元反応が行われる。よって、従来の廃油再生反応を行うには廃油再生プラント及びブロワー装置等の大型設備が必要であり、廃油が実際に発生する工場や家庭等の現場において、簡単に廃油を再生させることは難しいという問題がある。また、廃油の収集、及び集積作業に多大な手間、コストがかかるという問題もある。
多機能剤を還元剤として使用することにより、工場における廃油の収取及び集積作業にかかる手間及びコストを低減することができ、かつ廃油が生成する工場の現場において、タンク中にボール状又は顆粒状の還元剤を投入するという簡単な操作のみによって、廃油の再生反応を行うことができる。
また、還元剤は、家庭から排出される廃油、例えば、フライヤー等の揚げ物調理器具から産生される廃油についても、好適に用いられる。天ぷらやフライ等を揚げる食品用油を収容したフライヤーは、繰り返し調理に用いられることにより、炭化水素が酸化し、油が変色したり臭いを発したりするようになる。このような劣化した廃油は、従来、新品の食品用油と交換されることが一般的である。また、使用済みの廃油は、産業廃棄物として処理される。
揚げ物調理器具から産生される廃油を、適当な容器に貯めておき、この容器中に顆粒状又はボール状の多機能剤を静置させる。廃油中に存在する酸化された炭化水素は、顆粒状の多機能剤に含まれるマイエナイト型化合物により還元される。十分な量の多機能剤を加え、十分な時間経過させると、酸化された炭化水素の多くが還元されることにより、再度使用可能な再生油が得られる。
多機能剤を、家庭から排出される廃油用の還元剤として使用することによって、家庭から排出される廃油由来の産業廃棄物の量を減少させることができる。また、廃油の再生方法は、上述したように、例えば顆粒状の多機能剤を廃油中に静置させておくだけでよく、家庭においても特別な装置及び操作等を必要とせずに、容易に廃油を再生することができる。さらに、本発明に係る多機能剤は、廃油中に溶解することがないので、得られた再生油中に不純物が混入することを防止することができる。
多機能剤の具体的な態様として、図4に示されるフィルタ状の多機能剤28が挙げられる。フィルタ状の多機能剤は、粉末状のマイエナイト型化合物に、必要に応じて溶媒、及びバインダー等を添加して、フィルタ部材様の形状に成形することによって得られる。例えば、フィルタ状の多機能剤は、薄板状、シート状、膜状、又は柱状の形状を有する多孔体に形成することができる。また、フィルタ状の多機能剤は、不織布又は織物に粉末状の多機能剤を担持させることにより形成することができる。また、フィルタ状の多機能剤は、所定の空間に粉末状又は顆粒状の多機能剤を充填することにより形成することもできる。
図4に示されるように、フィルタ状の多機能剤28は、例えば、廃油再生管30の断面の一部又は全面に設けられる。フィルタ状の多機能剤28の前段における廃油29Aから、多機能剤の後段において再生油29Bが得られる。尚、フィルタ状の多機能剤28において十分な還元反応が進行するように、再生油29Bが十分な時間、フィルタ状の多機能剤28と接触するように、フィルタ状の多機能剤28における厚さ、気孔率、及び廃油29Aの通過速度等を適宜調節することができる。
フィルタ状の多機能剤は、自動車や機械用油等のオイルフィルタにおいて好適に用いられる。オイルフィルタは、自動車のエンジンオイル等の機械用油中におけるスラッジ、塵等を取り除くフィルタ部材として用いられる。具体的には、オイルフィルタの濾材の一部に、フィルタ状の多機能剤を含有させることできる。フィルタ状の多機能剤が含有されるオイルフィルタ中に、エンジンオイル等を通すことにより、エンジンオイル中の除塵等がなされるとともに、マイエナイト型化合物に包接される電子及びH−の供与によって、炭化水素の還元反応が進行する。また、マイエナイト型化合物とエンジンオイルに含まれる水分とが水和反応して水和物が生成されることにより脱水される。よって、このオイルフィルタを使用することによって、炭化水素の酸化によって劣化したエンジンオイルを還元し、脱水し、その結果、炭化水素の酸化及び水分による劣化があまり進行していない、再生油を得ることができる。本発明におけるフィルタ状の多機能剤を用いることによって、エンジンオイルの交換頻度を低減させることができ、エンジンオイル交換によるコストを低減することができるとともに、使用済みのエンジンオイル由来の産業廃棄物の発生量を減少させることができる。
フィルタ状の多機能剤は、フライヤー等の調理器具において食品用油の使用後に発生する廃油を、再生処理する還元剤としての機能を主に有する多機能剤として用いることができる。具体的には、炭化水素が酸化された状態にある前記廃油を、多機能剤を含むオイルフィルタに通油させる。廃油中の炭化水素は、オイルフィルタを通油する間に還元され、また、廃油中の水分が除去される。オイルフィルタの後段では、炭化水素が還元され、水分が除去されて、再び食品用油として使用可能であり、かつ劣化の進行が遅延された再生油が得られる。本発明におけるフィルタ状の多機能剤を用いることによって、調理器具から排出される廃油の量を減少させることができ、食品用油の交換頻度を低減させることができるとともに、使用済みの食品用油由来の廃油による廃棄物の発生量を減少させることができる。
フィルタ状の多機能剤は、油と接触する際に、油中に溶解することがない。これにより、本発明に係る多機能剤と使用済みの機械用油を接触させることによって得られる再生油中には、再生前の油に含まれる構成成分以外の不純物が混入することがない。よって、多機能剤を用いて得られた再生油は、機械等にトラブルを生じさせることなく、再び機械用油として使用することができる。
フィルタ状の多機能剤は、油を改質するだけでなく、その他の液体又はガスを通過させることにより、液体又はガスを改質する機能を有する。例えば、フィルタ状の多機能剤は、空気中に存在するラジカル消去活性フィルタ、空気中に存在する有害物質を還元して無害化する有害物質分解フィルタ、又はCO2の吸着フィルタとして使用することもできる。すなわち、多機能剤は、ガス相改質剤として好適に使用することができる。フィルタ状の多機能剤に空気を通気することにより、通気前の空気中に存在するラジカルは、マイエナイト型化合物の包接ケージ内の電子が供与され、通気後の空気におけるラジカルの含有量を減少させることができる。また、フィルタ状の多機能剤に空気を通気することにより、通気前の空気中に存在する有害物質は、マイエナイト型化合物の包接ケージ内の電子やH−が供与され、還元されることで無害化することができる。また、フィルタ状の多機能剤に空気を通気することにより、通気前の空気中に存在するCO2は還元され、通気後の空気において含有されるCO2濃度を減少させることができる。
多機能剤の具体的な態様として、図8に示される反応器型の多機能剤が挙げられる。反応器型の多機能剤によって、例えば、廃油から再生油を得ることができる。この実施形態の反応器71は、2つの開口部65,66及び内部空間67を有するケース70と、内部空間67に配置された多機能剤68とを有する。多機能剤68の形態は内部空間67に収容することができる限り、図8に示される、顆粒状、粉末状、ボール状、ペレット状等の多機能剤を内部空間67に充填する態様に特に限定されない。反応器71は、内部空間を形成する内壁に多機能剤の被膜を設ける態様、内部空間67と相似形状を有する多機能剤の多孔体を配置する態様等であってもよい。反応器71の構造は、多機能剤に接触するように廃油63を透過させることができる限り特に限定されず、開口部の数は3つ以上であってもよい。ケース70の形状は、図8に示される筒形状に特に限定されず、軸線方向に長いパイプ形状及び中空球状等であってもよい。反応器71を透過した廃油63は、多機能剤68と接触することにより、廃油63中に存在する酸素ラジカルが消去される。また、廃油63中に存在する酸化された炭化水素は、マイエナイト型化合物に包接される電子及びH−の供与によって還元され、廃油63が再生される。また、廃油63中に含まれる水分とマイエナイト型化合物とが水和反応して水和物が生成されることにより、水分が除去される。また、多機能剤が多孔体である場合及び内部空間67に所望の空隙を有するように多機能剤が充填されている場合には、反応器71を通過することにより、廃油63に含まれている不純物が捕捉される。このように、反応器71に廃油63を透過させることにより、炭化水素の酸化及び水分による劣化があまり進行していない再生油64を得ることができる。油の種類は特に限定されず、食用油、エンジンオイル、絶縁油等を挙げることができる。
反応器型の多機能剤は、油を改質して再生油を得ることができるだけでなく、その他の液体又はガスを改質することもできる。また、反応器71は、廃油63及び多機能剤68を加熱又は加圧する機構を備えていてもよい。反応器71が加熱又は加圧する機構を備えていると還元反応等の反応性を向上させることができる。反応器71は、多機能剤68におけるマイエナイト型化合物に包接される電子に刺激を与える機構、例えば、電圧、電磁誘導、電磁波等を与える機構を備えていてもよい。反応器71が、マイエナイト型化合物に電圧、電磁誘導、電磁波等を与える機構を備えていると、ケース70内に配置されている多機能剤68に電流が流れ、反応活性を向上させることができる。反応器71における多機能剤68には、触媒が担持されていてもよい。多機能剤68に触媒が担持されていると、マイエナイト型化合物自体の活性が向上し、還元反応等の反応性を向上させることができる。反応器71は、多機能剤の下流側に微粒子を捕捉するフィルタ又は吸着層等を備えていてもよい。反応器71が微粒子を捕捉するフィルタ又は吸着層等を備えていると、多機能剤におけるマイエナイト型化合物と水とが水和反応し、水和物が生じた場合等に水和物が捕捉され、反応器71を流通した後の再生油64に不純物が含まれるのを防止することができる。
本発明に係る多機能剤は、上述する酸化防止剤、及び還元剤等として使用されるうちに、マイエナイト型化合物に包接されている電子又はH−がH−以外のイオンに置換されていき、マイエナイト型化合物中に包接されている電子及びH−の割合が低下していく。マイエナイト型化合物中に包接されている電子及びH−の割合が低下することによって、多機能剤における電子供与能が低下してしまう。つまり、多機能剤を使用している間に、徐々に多機能剤の有する抗酸化能、及び還元能等は低下する。一方、マイエナイト型化合物は水との接触により水和反応するので、ケージクラスターの表面にある包接ケージに包接される活性種が減少しても、水和反応により結晶ケージが崩壊すればケージクラスター内部に包接されている活性種も還元反応等に寄与することができる。したがって、水分が存在する環境で多機能剤を使用する場合には、多機能剤の有する抗酸化能、及び還元能等の機能が長期間にわたって発揮される。マイエナイト型化合物に包接される活性種とその他のラジカル及びイオン等との反応速度は、マイエナイト型化合物に接触する水分量が多いほど結晶ケージが崩壊することにより放出される活性種の量が多くなることから速くなる。したがって、多機能剤を水系で使用する場合には反応の進行が速い。一方、油等の水分量が少ない使用環境で多機能剤を使用する場合には、反応速度は緩やかであるが、油の劣化により水が生成するとマイエナイト型化合物が水和反応することにより、ケージクラスター内部に包接されている活性種が放出されるので、長期にわたって多機能剤の機能が発揮される。また、ガス相の改質に多機能剤を使用する場合には、例えば、燃焼ガスや呼気等に含有される水蒸気によりマイエナイト型化合物が水和反応することにより、ケージクラスター内部に包接されている活性種が放出されるので、長期にわたって多機能剤の機能が発揮される。
以上においては、多機能剤を油等の疎水性溶媒中で用いる例について説明してきたが、多機能剤は、水等の親水性溶媒中で用いることもできる。多機能剤は、水中においても溶解することなく、酸化防止能、還元能、及びラジカル消去活性能等を発揮することができる。具体的に、多機能剤は、水中に存在する各種有機物を還元し、水中に存在するラジカルを消去することができる。
次に、多機能剤を、特にラジカル消去活性剤として用いる例について説明する。
ラジカル消去活性剤として用いられる多機能剤は、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、及び電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物との混合物IIのうち、電子供与能が高い、すなわち包接される電子濃度が高いマイエナイト型化合物I及び混合物IIが好適に用いられる。有機化合物を含む医薬品、農薬、及び試薬等の薬品を保存する際に、空気中における酸素分子から活性酸素が発生し、活性酸素によってラジカル反応が引き起こされることがある。ラジカル反応によって、薬品中の有機化合物が分解され、薬品中における構成成分の量が減少することによって、薬品の機能及び効果等が失われてしまうことがある。従来は、有機化合物の分解や変質を防止するために、容器内部に酸素が侵入しないように、容器を密閉にして保存することが行われている。しかし、不可避的に容器内に侵入する酸素分子が起点となって、ラジカル反応及びラジカル反応による有機化合物の分解が引き起こされることがある。
多機能剤は、薬品の保存の際に引き起こされるラジカル反応を防止するためのラジカル消去活性剤として用いられる。具体的には、顆粒状又はボール状の多機能剤を、薬品が収容される容器中に投入することにより、ラジカル反応を防止することができる。例えば、固体状の薬品を保存する際には、顆粒状の多機能剤が収容された袋体、又はボール状の多機能剤を、固体状の薬品が収容される容器中に投入しておけばよい。多機能剤におけるマイエナイト型化合物に包接される電子が、気体中に存在する酸素ラジカルに供与され、酸素ラジカルを酸素イオンにすることにより、酸素ラジカルが消去される。また、酸素イオンの一部を包接ケージ内に捕捉し、酸素イオンの形で包接することができる。このように、多機能剤がラジカルのうち酸素ラジカルを消去する場合には、活性酸素消去剤と称することもある。また、多機能剤は、多機能剤におけるマイエナイト型化合物と水とが接触すると、水和反応して水和物を生成することにより脱水性能を有する。したがって、多機能剤は、空気中に含まれる水分を除去することができるので、空気中に含まれる水分によって薬品が変質するのを防止することができる。
また、液体状の薬品を保存する際には、顆粒状の多機能剤が収容された袋体又はボール状の多機能剤を、液体状の薬品中に投入しておくことができる。多機能剤におけるマイエナイト型化合物に包接される電子が、液体中に存在する酸素ラジカルに供与され、酸素ラジカルを酸素イオンにすることにより、酸素ラジカルが消去される。また、酸素イオンの一部を包接ケージ内に捕捉し、酸素イオンの形で包接することができる。
以上より、ラジカル消去活性剤として用いられる多機能剤は、ラジカル反応によって分解及び失活する可能性のある薬品類におけるラジカル反応を防止し、これらの薬品類を長期間にわたって失活することなく保存することを可能にする。また、この多機能剤は、液体に不溶であるので、液体の薬品中に投入しても、薬品の純度を低下させることなく、ラジカル消去活性剤として機能することができる。
尚、ラジカル消去活性剤として、図5に示される被膜状の多機能剤や図6に示される容器型の多機能剤を使用することもできる。具体的には、被膜状の多機能剤が内壁面に形成された薬品保存用容器又は多機能剤を含有する材料で形成された薬品保存用容器に、薬品を保存しておくことにより、容器内部においてラジカル反応が進行し、薬品が失活することを防止することができる。また、多機能剤は、多機能剤におけるマイエナイト型化合物と水とが接触すると、水和反応して水和物を生成することにより脱水性能を有する。したがって、多機能剤は、空気又は液体状の薬品中に含まれる水分を除去することができるので、空気又は液体状の薬品に含まれる水分によって薬品が変質するのを防止することができる。
次に、多機能剤をタバコ煙用フィルタとして用いる例について説明する。
より具体的には、タバコにおけるフィルタの一部に、前記フィルタ状の多機能剤を使用してタバコ煙用フィルタとして使用することができる。例えば、多機能剤は、タバコの葉に隣接する位置にフィルタの一部として配置される。多機能剤の形態は、例えば、柱状或いは薄板状の多孔体、又は粉末状又は顆粒状の多機能剤の充填物である。喫煙時には、タバコから発せられる煙中には活性酸素等の各種のラジカルが発生する。フィルタ状の多機能剤を用いることによって、タバコの煙に含まれるラジカルの含有量を減少させることができる。また、タバコの煙に含まれる発癌性物質等の有害物質を無害化することができる。また、タバコの煙に含まれるCO2濃度も同様に減少させることができる。また、タバコの燃焼ガス中に存在する水蒸気とマイエナイト型化合物の結晶ケージとが水和反応するので、ケージクラスター表面の結晶ケージが崩壊し、ケージクラスター内部に位置する結晶ケージに包接される活性種も放出されることから、前述した反応が維持される。よって、本発明に係るフィルタ状の多機能剤を用いることにより、煙中に含まれるラジカル、発癌性物質、及びCO2等の有害物質の量を減少させることができる。
多機能剤が、タバコの煙を改質するのに用いられる場合には、多機能剤をタバコのフィルタの一部として使用する場合に限定されず、例えば、パイプ状のタバコ煙用アタッチメントの一部として使用してもよい。図7に示すように、タバコ煙用アタッチメント61は、例えば、2つの開口部55、56及び内部空間57を有するケース60と、前記内部空間57に配置された多機能剤58とを有する。タバコ煙用アタッチメントを使用する場合には、一方の開口部55にタバコを装着し、他方の開口部56を吸口として、前記ケース内を通過するタバコの煙59を多機能剤58に接触させることによって改質する。内部空間47に配置される多機能剤58は、多孔体であってもよいし、粉末状又は顆粒状の多機能剤の充填物であってもよい。多機能剤をタバコ煙用フィルタ及びタバコ煙用アタッチメントの一部として使用する場合、多機能剤におけるタバコの煙の下流側に微粒子を捕捉するフィルタ又は吸着層等を備えているのが好ましい。タバコの燃焼ガス中に存在する水蒸気とマイエナイト型化合物とが水和反応し、水和物の微粒子が発生するおそれがあるので、多機能剤に隣接する位置に水和物の微粒子を捕捉することができるフィルタ又は吸着層があると、水和物の微粒子が人体に入るのを防止することができる。
次に、多機能剤をマスク又は防毒マスクにおけるフィルタ部として用いる例について説明する。
フィルタ状又は反応器型の多機能剤は、通常のマスク及び防毒マスクにおけるフィルタ部にも用いることができる。通常のマスクの形状としては、例えば、口及び鼻を覆うことができる大きさを有する布状のフィルタ部に装着用の紐が取り付けられた形状を挙げることができる。多機能剤を含む布状のフィルタ部は、例えば不織布を染色するのと同様の方法により不織布に多機能剤を担持させることにより形成される。防毒マスクは、例えば、顔面を覆う面体と面体を頭部に固定するためのベルトと有毒ガスを通過させてガスを改質する反応器とを有する。反応器は、例えば図8に示す構造を有し、2つの開口部と内部空間とを有するケースを有し、前記内部空間に多孔体の多機能剤が配置されるか、又は粉末状或いは顆粒状の多機能剤が充填されて形成され、反応器の内部に配置された多機能剤を有毒ガスが通過することにより有毒ガスの改質が行われる。フィルタ状の多機能剤を備えたマスク及び防毒マスクを有毒ガスが通過すると、有毒ガスに含まれるラジカルが消去され、有毒ガスに含まれる有害物質が無害化され、CO2が除去される。したがって、フィルタ状又は反応器型の多機能剤を備えたマスク及び防毒マスクを使用することにより、マスク及び防毒マスクの装着者が多量のラジカル、有害物質、及びCO2を含む空気を吸引することを防止することができる。また、多機能剤は、呼気中に含まれる水蒸気や空気中に含まれる水分によって水和反応し、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊し、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている活性種も反応に寄与することができるので、長期にわたって有毒ガスを改質する機能を維持することができる。なお、フィルタ状又は反応器型の多機能剤は、CO2を吸着する機能を有するが、200℃以上では、COを放出することから、200℃未満の環境で使用するのが好ましい。
次に、多機能剤を有機化合物分解剤として用いる例について説明する。
有機化合物分解剤として用いる多機能剤は、少なくともH−を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及びH−を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、H−供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。
有機化合物分解剤は、マイエナイト型化合物に包接されるH−を有機化合物に供与することにより、ヒドリド還元反応が生じ、有機化合物を分解することができる。例えば、この有機化合物分解剤は、「シックハウス症候群」の要因の一つとして挙げられるホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物を分解することができる。ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物の室内濃度を低減させるための様々な法律が存在するが、化学物質に過敏な人は僅かなホルムアルデヒドであっても反応することがあり、ゼオライト、多孔質材、ゲル、ビーズ材、炭等を用いて、ホルムアルデヒドを物理吸着する製品が市販されている。これらの製品はホルムアルデヒドを物理吸着により低減するものであり、気孔等が埋まればそれ以上吸着することができず、継続的な効果が得られない場合があった。一方、この有機化合物分解剤は、マイエナイト型化合物に包接されるH−が放出され、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物に供与されることによりヒドリド還元反応が生じ、アルコールに還元されて、室内中の揮発性有機化合物を無害化することができる。なお、分解する対象となる揮発性有機化合物としては、ヒドリド還元反応が生じる化合物である限り特に限定されず、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン等のカルボニル基を有するカルボニル化合物等を挙げることができる。
有機化合物分解剤の形態は、特に限定されず、例えば、シートや壁紙、スラリー状の塗布剤、ボード等の建材、塗装剤、顆粒、粉末、ボール状、フィルタ、多孔体、及びマイエナイト型化合物が充填された反応器を搭載した空気循環機構を備えた装置等を挙げることができる。これらの形態の有機化合物分解剤は、マイエナイト型化合物単体で形成されてもよいし、必要に応じて他の材料を混合して形成されてもよい。また、反応活性を向上させるためにマイエナイト型化合物に触媒を担持させてもよい。また、マイエナイト型化合物が充填された反応器等を備えた装置等は、反応活性を向上させるために加熱機構や加圧機構を備えていてもよい。
次に、多機能剤を水素補給剤として用いる例について説明する。
水素補給剤として用いる多機能剤は、少なくともH−を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及びH−を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、H−供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。
マイエナイト型化合物は酸に溶解する。H−を包接するマイエナイト型化合物は酸に溶解すると水素ガスを発生する。また、マイエナイト型化合物が水と接触して水和反応し、結晶ゲージが崩壊することによっても水素ガスが発生する。例えば、マイエナイト型化合物を単体で又は他の物質と共に錠剤を形成し、これを経口摂取すると、胃酸及び人体の水分でマイエナイト型化合物に包接されるH−が放出される。水素は水溶液等にすると揮発してしまい失われやすいが、例えば、マイエナイト型化合物を錠剤等にすることで水素を安定した状態で保持し、携帯性に優れた水素補給サプリメントとすることができる。なお、マイエナイト型化合物が水和反応することにより生成する水和物はセメント成分であり、消化吸収されないので、水素補給剤として経口摂取しても便と一緒に体外へ排出されるため人体に無害である。また、H−を包接するマイエナイト型化合物は水和すると水素ガスを放出するので、水素補給剤を水、茶、清涼飲料等の各種飲料に添加して水素水として飲用することもできる。また、水素補給剤を入浴剤として浴槽へ投入して水素風呂とすることができる。
水素補給剤の形態は、特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、ペレット、フィルタ、容器、多孔体、及び水素補給剤が袋に収容された袋体等を挙げることができる。これらの形態の水素補給剤は、マイエナイト型化合物単体で形成されてもよいし、必要に応じて他の材料を混合して形成されてもよい。
次に、多機能剤を水素吸蔵体として用いる例について説明する。
水素吸蔵体として用いる多機能剤は、少なくともH−を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及びH−を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、H−供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。
水素ガスは分子が小さいので、水素ガスを安定的に保存するには特別な容器が必要である。一方、H−を包接するマイエナイト型化合物は水素を水素陰イオンの形で保持しており、マイエナイト型化合物を酸に溶解したり、水和反応させたり、200℃〜550℃に加熱したりすることにより水素ガスを発生させることができる。マイエナイト型化合物は、常温で固体であるので、水素ガスの持ち運び性及び水素ガスの保存性の点で有効である。また、従来から水素貯蔵を目的として開発されている水素吸蔵合金は、金属であるので、重く、持ち運び等に不利であるのに比べて、マイエナイト型化合物は軽い元素で構成されているので、軽量である点でも有利である。また、マイエナイト型化合物は、粉末及び顆粒でも利用可能であるので、取り扱いが容易である。マイエナイト型化合物は、特定の条件で水素を発生させることができるので、水素自動車の水素タンク、水素ステーションの水素保管モジュール、水素燃料の備蓄、小型の燃料電池等に用いる携帯用水素等として用いることができる。
次に、多機能剤を記録媒体として用いる例について説明する。
記録媒体として用いる多機能剤は、H−を包接するマイエナイト型化合物を含有する。 H−を包接するマイエナイト型化合物を任意の形状、好ましくは板状に形成して記録媒体とし、この記録媒体の表面に、紫外線、X線、及び電子線等を照射すると、照射された箇所は電子を包接するマイエナイト型化合物になる。この特性を利用して、H−を包接するマイエナイト型化合物で形成された成形体を記録媒体とすることができる。この記録媒体は、H−を包接するマイエナイト型化合物で形成された記録媒体上に紫外線等を照射することにより電子を包接するマイエナイト型化合物で形成された複数の領域を連続体又は非連続体として配置することにより、情報を書き込むことができる。記録媒体に情報を書き込む手法としては、紫外線レーザ、X線レーザ、及び電子線ビームを、記録媒体上に連続照射又は点照射する方法を挙げることができる。前記レーザ及び電子線ビームは微細な書き込みが可能であるので、この記録媒体は大容量の情報を蓄積することができる。また、この記録媒体はマイエナイト型化合物に包接される化学種の1個1個を情報とすることができるので、大容量の情報を蓄積することができる。
また、電子を包接するマイエナイト型化合物のうちC12A7は、300℃を超えると電子が失われ、H−を包接するマイエナイト型化合物に戻る。したがって、記録媒体に書き込まれた情報は、300℃より高い温度に加熱することにより消失され、再び記録媒体に情報を書き込むことが可能となる。
また、H−を包接するマイエナイト型化合物は、紫外線等を照射することにより電子を包接するマイエナイト型化合物に変わるので、記録媒体は、後述する電子回路基板と同様に紫外線等を遮断する保護部を有するのが好ましい。この記録媒体は、情報を記録するときに紫外線等を照射すること以外は紫外線等が遮断され、かつ300℃以下の環境下にある限り、書き込まれた情報を半永久的に蓄積しておくことができる。
次に、多機能剤を土壌散布剤として用いる例について説明する。
土壌散布剤として用いる多機能剤は、電子とH−との少なくとも一方を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、電子を包接するマイエナイト型化合物、及びH−を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有する。
土壌散布剤は、マイエナイト型化合物に包接される電子及び/又はH−を土壌中に存在する有害物質や悪臭物質に供与して還元することにより、無害化することができる。電子を包接するマイエナイト型化合物は、電子を供与することにより炭化水素を還元する。H−を包接するマイエナイト型化合物は、H−をカルボニル化合物等に供与することによってヒドリド還元反応が生じ、カルボニル化合物等をアルコールに還元する。したがって、有害物質や悪臭の原因物質別に電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物とを使い分けて、例えばこれらの含有比率を適宜調整することにより、土壌散布剤としての効果をより一層発揮させることができる。また、土壌中に水が存在する場合には、マイエナイト型化合物に包接される電子が水に供与されて、OH−が発生するので、土壌のpHの数値を大きくすることができる。したがって、電子を包接するマイエナイト型化合物は、土壌のpH調整機能を有する。植物の生育は土壌のpHが影響するので、この土壌散布剤を土壌のpH調整剤として用いることもできる。マイエナイト型化合物は、水と反応すると水和物(セメント成分)になるので、土壌中に放置しても無害であり問題ない。土壌散布剤の形態は、特に限定されず、例えば、粉末、粉末が分散した溶液、顆粒、ボール状、及びペレット状等を挙げることができる。
次に、多機能剤を脱臭剤として用いる例について説明する。
脱臭剤として用いる多機能剤は、電子とH−との少なくとも一方を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、電子を包接するマイエナイト型化合物、及びH−を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有する。
脱臭剤は、マイエナイト型化合物に包接される電子及び/又はH−を悪臭物質に供与して還元することにより、消臭することができる。悪臭物質は、固体、液体、気体のいずれであってもよい。電子を包接するマイエナイト型化合物は、電子を供与することにより炭化水素を還元する。H−を包接するマイエナイト型化合物は、H−をカルボニル化合物等に供与することによってヒドリド還元反応が生じ、カルボニル化合物等をアルコールに還元する。したがって、悪臭の原因物質別に電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物とを使い分けて、例えばこれらの含有比率を適宜調整することにより、脱臭剤としての効果をより一層発揮させることができる。脱臭剤の形態は、特に限定されず、粉末、顆粒、ボール状、ペレット状、フィルタ状等を挙げることができる。脱臭剤は、靴の中敷き、おむつ、ナプキン、汗用パット、衣類、動物や人体への塗布物又は噴霧用液体、トイレ用脱臭剤等に用いることができる。
次に、多機能剤を脱水剤兼脱酸素剤として用いる例について説明する。
脱水剤兼脱酸素剤として用いる多機能剤は、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。
食品、薬品、各種装置を使用するときの雰囲気、及び各種液体に含まれる酸素や水分を除去する目的で、脱水剤や脱酸素剤が使用されることがある。シリカゲル、生石灰等の脱水剤は対象物の脱水のみを目的として使用され、また、脱酸素剤は対象物から酸素を吸収することのみを目的として使用され、脱水剤及び脱酸素剤はそれぞれ1つの機能しか持ち合わせていない。一方、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物は、水和反応により水和物を生成し、対象物から水分を取り除くことができ、脱水剤としての機能を有すると共に、マイエナイト型化合物の周辺に存在する酸素ラジカルに電子を供与することにより酸素イオンにして取り込むことができ、脱酸素剤としての機能も有する。すなわち、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物は、脱水剤と脱酸素剤との両方の機能を有する。脱水剤兼脱酸素剤の形態は、特に限定されないが、例えば、粉末、顆粒状のものが袋に充填された袋体、ボール状、容器、容器の蓋の内側に貼り付ける形態等を挙げることができる。脱水剤兼脱酸素剤は、脱酸素剤が使用される用途でさらに脱水性能が要求される用途に好適に用いられ、例えば、好気性微生物やカビ等の増殖抑制、食品の酸化防止、衣類の変質防止等に用いられる。
次に、多機能剤を防錆剤として用いる例について説明する。
防錆剤として用いる多機能剤は、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。
金属の錆の発生を防止するには、金属から酸素及び水を遮断することである。電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接される電子をケージクラスターの外部に存在するラジカル、特に酸素ラジカルへ付与することにより、反応性の高いラジカル、特に活性酸素を消去し、酸素イオンを取り込むので、酸化反応が進行するのを防止することができる。また、マイエナイト型化合物は、水との接触により水和反応が生じ、脱水性能を有する。したがって、例えば、この防錆剤を含有する塗料を金属製の対象物に塗布した場合には、酸素及び水分を除去することにより錆の進行を遅延させることができる。防錆剤の形態は、特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、粉末又は顆粒が充填された袋体、粉末を分散させたシート、及び粉末を含有する塗料等を挙げることができる。
次に、多機能剤を消火剤として用いる例について説明する。
消火剤として用いる多機能剤は、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。
燃焼は、燃焼により生じたラジカルが大気中の酸素と反応し、更にラジカルが増殖し、連鎖的にラジカル反応が進行する反応である。電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接される電子をケージクラスターの外部に存在するラジカルへ付与することにより、反応性の高いラジカルを消去するので、連鎖的にラジカル反応が進行するのを防ぐことができる。また、マイエナイト型化合物が酸素を取り込むことにより、酸素濃度を低下させることができる。また、燃焼ガス等に含有される水蒸気によりマイエナイト型化合物が水和反応することにより、ケージクラスター表面の結晶ケージが崩壊するので、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている電子も反応に寄与することができる。消火剤の形態は特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、及び粉末を分散させたシート等を挙げることができる。また、この消火剤を他の種類の消火剤に混合して使用することもできる。
次に、多機能剤を電磁波吸収材として用いる例について説明する。
電磁波吸収材として用いる多機能剤は、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましく、電子を高濃度に包接させた状態の黒体化したマイエナイト型化合物であるのがより好ましい。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接される電子が金属と同様に結晶ケージ同士の間を自由に移動するので、金属と同様の性質を有する。特に、電子を包接するマイエナイト型化合物は、様々な波長の電磁波を吸収する性質を有し、電磁波吸収材として用いることができる。また、電子を包接するマイエナイト型化合物は、電磁波を吸収する性質を利用して、電磁波の遮蔽材料として用いることもできる。電磁波吸収材の形態は、特に限定されず、塗料、コーティング剤、粉末、容器、ガラス、陶器等の形態を挙げることができる。電磁波吸収材は、例えば、建造物を構成するレンガ、壁パネル、窓ガラス、瓦等の構造体として用いることができる。
次に、多機能剤を電子放出源として用いる例について説明する。
電子放出源として用いる多機能剤は、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましく、電子を高濃度に包接させた状態の黒体化したマイエナイト型化合物であるのがより好ましい。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、電場を印加することで電子を放出させることができ、電子ビーム発生器の電子放出源として用いることができる。電子ビーム発生器は、推進動力として利用することができる。特に、電子ビーム発生器を発電可能な宇宙機の推進動力として利用する場合には、推進剤が不要となり、また、マイエナイト型化合物は、軽い元素で構成され、質量が軽いので、宇宙機の軽量化を図ることができる。また、電子を包接するマイエナイト型化合物は、イオンエンジンの中和器における電子放出源としても用いることができる。
次に、多機能剤をクロマトグラフィー用カラム充填剤として用いる例について説明する。
クロマトグラフィー用カラム充填剤として用いる多機能剤は、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましく、電子を高濃度に包接させた状態の黒体化したマイエナイト型化合物であるのがより好ましい。
クロマトグラフィーにはガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィーの3つのタイプがある。液体クロマトグラフィーのうちの一つであるイオン交換クロマトグラフィーは、電荷の違いを利用してイオン性化合物の分離をすることができる。電子を包接するマイエナイト型化合物は、水和反応により電子が飛び出すので、陰電荷となる。このような電子を包接するマイエナイト型化合物はイオン交換クロマトグラフィーにおけるカラムの固定相として使用することができる。また、電子及びH−の少なくとも一方を包接するマイエナイト型化合物は、酸素イオン等のイオンを結晶ケージ内に取り込み、また、水と接触すると水和反応し、脱水性能を有する。したがって、このようなマイエナイト型化合物をクロマトグラフィーにおける所定の位置に設置することにより、バックグラウンドとなる水分や酸素等の成分を排除することができるので、マイエナイト型化合物は、脱水剤及び脱酸素剤としてクロマトグラフィーにおける正確な分析に寄与することができる。また、電子を包接するマイエナイト型化合物は水が存在すると、包接されている電子が水に供与されてOH−を生じさせるので、電子を包接するマイエナイト型化合物は、移動相のpHを制御することもできる。カラムの形態としては、筒状の部材にマイエナイト型化合物の粉末や顆粒を充填して固定相とした形態を挙げることができる。固定相には、必要に応じてシリカゲルや活性アルミナ等を混合してもよい。また、マイエナイト型化合物に包接される活性種は、電子及びH−に限定されず、後述する酸素イオン等使用目的に応じて選択することができる。
次に、多機能剤を熱電素子として用いる例について説明する。
熱電素子として用いる多機能剤は、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有する。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有し、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのが好ましく、電子を高濃度に包接させた状態の黒体化したマイエナイト型化合物であるのがより好ましい。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接される電子が金属と同様に結晶ケージ同士の間を自由に移動するので、金属と同様の性質を有する。したがって、電子を包接するマイエナイト型化合物は、ペルティエ素子、トムソン素子、又はゼーベック素子として利用することができる。ペルティエ素子は、電子濃度の異なる2つのマイエナイト型化合物を接合して接合体とし、これに電流を流すことにより放熱又は吸熱を生じさせることができる。トムソン素子は、所定の電子濃度のマイエナイト型化合物の線材に温度勾配を加えて電流を流すことにより、電流に比例した放熱又は吸熱を生じさせることができる。よって、ペルティエ素子及びトムソン素子は暖房機器、冷房機器等に使用することができる。ゼーベック素子は、電子濃度の異なる2つのマイエナイト型化合物を環状に接合して閉回路を作り、2つの接合部を異なる温度に保持することにより、2つの接合部間に起電力を発生させることができる。すなわちゼーベック素子は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができ、熱電発電素子として使用することができる。
次に、多機能剤を触媒として用いる例について説明する。
触媒として用いる多機能剤は、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。すなわち、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有するのが好ましく、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのがより好ましく、電子を高濃度に包接させた状態の黒体化したマイエナイト型化合物であるのが特に好ましい。
多機能剤における電子供与性を利用することにより、多機能剤を還元反応用の触媒として用いることができる。還元反応用の触媒に関する具体例としては、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する機能を有するCO2分解フィルタ中に使用される還元触媒として、多機能剤を用いる例が挙げられる。また、N2とH2とからアンモニアを合成する反応におけるアンモニア合成触媒の構成材料として、多機能剤を用いることもできる。
次に、多機能剤を光ファイバー用ガラスとして用いる例について説明する。
光ファイバー用ガラスとして用いる多機能剤は、任意のマイエナイト型化合物を含有し、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。すなわち、任意の活性種を含有するマイエナイト型化合物を含有し、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有するのが好ましい。
マイエナイト型化合物は、溶融して急冷することによりガラス化することができる。したがって、マイエナイト型化合物は、様々な形状に加工したガラス製品とすることができる。マイエナイト型化合物は、線状に加工することにより、光ファイバーとして使用することができ、光ファイバーにおけるコア及びクラッドのいずれにも用いることができる。電子を包接するマイエナイト型化合物は、導電性を有するので、光信号と共に電気信号及び電力を供給するケーブルとして使用することができる。
次に、多機能剤をろう材として用いる例について説明する。
ろう材として用いる多機能剤は、任意のマイエナイト型化合物を含有し、少なくとも電子を包接するマイエナイト型化合物を含有するのが好ましい。すなわち、任意の活性種を含有するマイエナイト型化合物を含有し、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I、混合物II、及び電子を包接するマイエナイト型化合物のうちの少なくとも1つを含有するのが好ましく、電子供与能が高いマイエナイト型化合物を含有するのがより好ましく、電子を高濃度に包接させた状態の黒体化したマイエナイト型化合物であるのが特に好ましい。
マイエナイト型化合物は、溶融して急冷することによりガラス化することができる。したがって、マイエナイト型化合物をはんだ付け及びろう付け等の溶接で使用するガラス接着材として使用することができる。従来、溶接で使用されていた金属製の接着材でセラミック製の基材同士を接着する場合、金属とセラミックとでは熱膨張率が異なるので、温度変化により剥がれが生じるおそれがあった。一方、マイエナイト型化合物はセラミックであるので、これをガラス接着材としてセラミック製の基材同士の接着に用いることにより、接着材と基材との熱膨張率の差を小さくすることができ、その結果、温度変化による剥がれを防止することができる。また、電子を包接するマイエナイト型化合物は、導電性を有するので、導電性を有するガラス接着材として使用することができる。
次に、H−を包接するマイエナイト型化合物を電子回路基板作製用組成物として用い、H−を包接するマイエナイト型化合物及び電子を包接するマイエナイト型化合物を電子回路基板として用いる例について説明する。
電子回路基板作製用組成物は、H−を包接するマイエナイト型化合物を含有する。
電子回路基板用組成物を成形して基板とし、基板の表面に紫外線、X線、又は電子線を照射すると、照射された箇所が電子を包接するマイエナイト型化合物になり、照射された箇所は導電性を有するようになる。H−を包接するマイエナイト型化合物を含有する基板の表面における所望の位置を、電子を包接するマイエナイト型化合物にすることにより、所望のパターンの回路が形成された電子回路基板が得られる。すなわち、H−を包接するマイエナイト型化合物を含有する基板と、前記基板上にある、電子を包接するマイエナイト型化合物を含有する電子回路とを有する電子回路基板が得られる。回路の形成方法は、特に限定されず、例えば、基板の表面の所定の位置をマスキングした状態で紫外線等を照射する方法、基板の表面にマスキングすることなく紫外線レーザ、X線レーザ、電子ビームを連続照射又は点照射する方法等を挙げることができる。これらの中でもレーザや電子ビームで回路を形成する方法は微細な回路パターンを形成することができることから好ましい。基板を形成するマイエナイト型化合物の形態は特に限定されず、単結晶、多結晶、ガラス状、及び陶器状等を挙げることができる。
電子やH−を包接するマイエナイト型化合物は、空気中に存在する酸素で酸化されると、抵抗値が高くなる傾向にある。したがって、H−を包接するマイエナイト型化合物と電子を包接するマイエナイト型化合物とで形成される電子回路基板は、酸化を防止することができる保護部を有することが好ましい。保護部の形態は特に限定されず、例えば、電子回路基板を被覆して酸素を遮断する保護被膜、電子回路基板を覆蓋し、酸素の侵入を遮断する保護ケース等が挙げられる。保護被膜としては、金属製の保護被膜すなわち金属被膜を挙げることができ、例えば、金属蒸着、金属溶射等によって電子回路基板の表面に形成することができる。保護ケースは、少なくとも回路が形成されている面を密閉する容器であればよく、容器内を不活性ガスで充填するのが好ましい。
H−を包接するマイエナイト型化合物と電子を包接するマイエナイト型化合物とで形成される電子回路基板は、光に曝されていると、紫外線等を吸収し、H−を包接するマイエナイト型化合物を含む基板が電子を包接するマイエナイト型化合物に変わることにより、回路が消失するおそれがある。したがって、H−を包接するマイエナイト型化合物と電子を包接するマイエナイト型化合物とで形成される電子回路基板は、紫外線やX線等の特定の周波数を有する電磁波を遮蔽することができる保護部を有することが好ましい。保護部の形態は特に限定されず、例えば、電子回路基板を被覆して特定の周波数の電磁波を遮蔽する保護被膜、電子回路基板を覆蓋し、特定の周波数の電磁波を遮蔽する保護ケース等が挙げられる。保護被膜としては、金属製の保護被膜すなわち金属被膜を挙げることができ、例えば、金属蒸着、金属溶射等によって電子回路基板の表面に形成することができる。保護ケースは、少なくとも回路が形成されている面を覆蓋する容器であればよく、保護ケースが特定の周波数の電磁波を反射等する材質で形成されていればよい。
電子を包接するマイエナイト型化合物のうちC12A7は、300℃を超えると包接されている電子が失われ、導電性を有さなくなる。したがって、H−を包接するマイエナイト型化合物と電子を包接するマイエナイト型化合物とで形成される電子回路基板が300℃を超える環境で使用される場合には、熱を遮断する断熱材や電子回路基板を冷却する冷却機器を、電子回路基板の保護部として有することにより、電子回路基板が300℃を超えないようにすることが好ましい。断熱材の形態は特に限定されず、例えば、電子回路基板を被覆して熱を遮断する保護被膜を挙げることができる。冷却機器としては、例えば、電子回路基板の熱を風で放熱する冷却ファンを挙げることができる。
次に、H−を包接するマイエナイト型化合物及び電子を包接するマイエナイト型化合物をヒューズとして用いる例について説明する。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接される電子が金属と同様に結晶ケージ同士の間を自由に移動するので、金属と同様の性質を有し、導電性を有する。電子を包接するマイエナイト型化合物のうちC12A7は300℃を超えると、包接されている電子が失われ、絶縁体となる。この特性を利用して、H−を包接するマイエナイト型化合物と電子を包接するマイエナイト型化合物とで形成される電子回路基板をヒューズとして使用することができる。電子回路を大電流が流れたときに300℃を超えるように電子回路を設計することにより、電子回路を大電流が流れたときに回路が絶縁体となり、遮断されるのでヒューズとして機能する。電子回路に大電流が流れたときに300℃を超えさせる方法としては、回路を形成するマイエナイト型化合物の電子濃度を調整する方法、及び回路の線径を調整する方法等を挙げることができ、これらの方法によって回路の抵抗値を適宜調整することができる。
従来のヒューズは、ガラス管の中に金属線が封入されており、振動及び衝撃に弱いという特性があった。一方、マイエナイト型化合物により形成されるヒューズは、H−を包接するマイエナイト型化合物を含む基板の表面に電子を包接するマイエナイト型化合物を含む回路が形成されているので、従来のヒューズに比べて振動及び衝撃に強い。また、従来は、基板上に別部品としてヒューズを設けていたが、上述したように、このマイエナイト型化合物により形成されるヒューズは、H−を包接するマイエナイト型化合物で形成された基板の表面に紫外線等を照射して電子回路を形成することによりヒューズを形成することができるので、ヒューズを電子回路基板上に一体にすることができる。
次に、H−を包接するマイエナイト型化合物及び電子を包接するマイエナイト型化合物を磁場発生装置として用いる例について説明する。
上述したように、H−を包接するマイエナイト型化合物で形成された基板の表面に紫外線等を照射して電子回路を形成することにより、電子回路基板を形成することができる。コイル状及び直線状等の任意のパターンの電子回路に電流を流すことにより磁場を発生させることができる。したがって、適宜の電子回路パターンを有する電子回路基板は磁場発生装置となる。磁場発生装置の形態は、基板状に限定されず、柱状、筒状、その他の部材の表面にコーティングした被膜に適宜のパターンの電子回路を形成した形態等であってもよい。この磁場発生装置は、電磁石、モータ、発電機、スピーカ等に使用することができる。マイエナイト型化合物は、金属に比べて軽い元素で構成されているので、軽量化した磁場発生装置を提供することができる。
次に、H−を包接するマイエナイト型化合物及び電子を包接するマイエナイト型化合物をヒータとして用いる例について説明する。
H−を包接するマイエナイト型化合物に、紫外線、X線、及び電子線等を照射すると、照射された箇所は電子を包接するマイエナイト型化合物になる。電子を包接するマイエナイト型化合物は、導電性を有し、金属と同様の性質を有する。H−を包接するマイエナイト型化合物に紫外線等を照射することにより電子を包接するマイエナイト型化合物の回路を形成し、これを抵抗体として通電することにより抵抗体から発熱させることができる。電子を包接するマイエナイト型化合物を所定の抵抗値を有する抵抗体に形成する方法としては、マイエナイト型化合物に包接される電子濃度を適宜調整する方法、及び回路の太さを適宜調整する方法等を挙げることができる。従来のヒータは電熱線により形成され、例えばセラミック製の基板上に電熱線でヒータを形成しているので、基板と電熱線との熱膨張率の違いにより破損するおそれがあった。一方、マイエナイト型化合物で形成されるヒータは、基板及び抵抗体又は抵抗線を共にマイエナイト型化合物で形成することができるので、熱膨張率の違いにより破損するのを防止することができる。このヒータは、例えば、ガラス状製品の曇り防止用ヒータ、エアヒータ、水用ヒータ、油用ヒータ、暖房器具等として使用することができる。
次に、H−を包接するマイエナイト型化合物及び電子を包接するマイエナイト型化合物をアンテナとして用いる例について説明する。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、導電性を有し、金属と同様の性質を有することから、電波、マイクロ波、赤外線、可視光線等の任意の電磁波の波長に合わせたアンテナ構造の回路を設計することにより、電磁波を空間に放射したり受けたりするアンテナとして使用することができる。H−を包接するマイエナイト型化合物に紫外線等のレーザや電子線ビームを照射することにより微細な回路を形成し、これをアンテナとすることができる。マイエナイト型化合物により形成されるアンテナは、電波だけでなく、赤外線及び可視光線等の電磁波も放射及び受信することができる。アンテナを形成するマイエナイト型化合物の形態は特に限定されず、単結晶、多結晶、ガラス状、被膜状、陶器状等を挙げることができる。また、アンテナの形状は特に限定されず、線状、板状、平面状、コイル状等を挙げることができる。
マイエナイト型化合物により形成されたアンテナは、電磁波送信装置及び電磁波受信装置に使用することができる。
マイエナイト型化合物により形成されたアンテナは、赤外線を放射できるようにアンテナ回路を設計することにより、赤外線を放射するアンテナとすることができ、これを赤外線発信装置に使用することができる。この赤外線発信装置は暖房機器として使用することもできる。
マイエナイト型化合物により形成されたアンテナは、可視光線を放射できるようにアンテナ回路を設計することにより、可視光線を放射するアンテナとすることができ、これを可視光線発信装置に使用することができる。
マイエナイト型化合物により形成されたアンテナは、放電で発生する紫外線を蛍光体に当てて可視光線に変換する蛍光灯等とは異なり、任意の周波数の可視光線を直接に発信可能な光源として使用することができる。
マイエナイト型化合物により形成されたアンテナは、単一の周波数を有する電磁波を放射することができるようにアンテナ回路を設計することにより、レーザを発信する素子とすることができ、これをレーザ発信装置に使用することができる。
マイエナイト型化合物により形成されたアンテナは、可視光線を放射できるようにアンテナ回路を設計することにより、可視光線を放射する光源とすることができる。この光源はディスプレイ用光源として使用することができる。
マイエナイト型化合物により形成されたアンテナは、任意の周波数を有する電磁波を受信できるようにアンテナ回路を設計することにより、任意の周波数を有する電磁波を受信可能なアンテナとすることができ、これを電磁波受信装置に使用することができる。この電磁波受信装置で受信された電磁波を電気信号に変換することにより、カメラのイメージセンサとすることができる。
アンテナで受信した電磁波は、電力に変換することができる。したがって、マイエナイト型化合物により形成されたアンテナが受信した任意の周波数の電磁波を電力に変換することにより発電装置とすることができる。マイエナイト型化合物により形成されたアンテナは、エネルギーが比較的大きい可視光線や赤外線も受信することができ、これを電力に変換することができるから、アンテナを様々な熱源の近傍に設置することにより、余剰熱を電力に変換することができる。
次に、H−を包接するマイエナイト型化合物及び電子を包接するマイエナイト型化合物を温度測定器として用いる例について説明する。
電子を包接するマイエナイト型化合物は、包接される電子が金属と同様に結晶ケージ同士の間を自由に移動するので、金属と同様の性質を有し、温度が上がるにしたがって抵抗値が大きくなる。この特性を利用して、H−を包接するマイエナイト型化合物と電子を包接するマイエナイト型化合物とで形成される電子回路基板に、抵抗値を測定する抵抗測定器を組合せることにより、温度測定器とすることができる。電子を包接するマイエナイト型化合物のうちC12A7は300℃を超えると、包接されている電子が失われ、金属と同様の性質を示さなくなるので、この温度測定器の使用環境温度は300℃以下である。
電子供与能が低下した多機能剤は、再生処理を行うことによって、電子供与能を再生することができる。具体的には、電子供与能が低下した多機能剤を、水素ガス等の還元性雰囲気で、例えば貴金属ルツボ中に封じ、貴金属ルツボを加熱することにより、マイエナイト型化合物中に包接されるH−以外の陰イオンを、H−に置換することができる。また、カーボンルツボ中に、電子供与能が低下した多機能剤を封じ、カーボンルツボを加熱することによって、マイエナイト型化合物中に包接される陰イオンを電子に置換することができる。貴金属ルツボ又はカーボンルツボ中の加熱温度は、マイエナイト型化合物に包接される陰イオンの種類により、適宜変更することができるが、一例として、700℃以上1450℃以下であればよい。さらに、このH−置換後のマイエナイト型化合物を含有する多機能剤に、紫外線等を照射することによって、H−の一部が電子によって置換される。以上により、電子供与能の低下した多機能剤から、包接粒子として多量のH−及び電子を含有し、電子供与能が再生された多機能剤を得ることができる。電子供与能が再生された不溶性電子供与能力は、酸化防止剤、還元剤、脱酸素剤、及びラジカル消去活性剤等として再び使用することができる。
例えば、前記顆粒状又はボール状の多機能剤の例では、使用後の電子供与能が低下した顆粒又はボールについて、水素ガス等の還元性雰囲気で、例えば貴金属ルツボ中においてH−への置換反応を行い、次いで紫外線等を照射することによって、電子供与能が再生された顆粒状又はボール状の多機能剤が得られる。また、フィルタ状の多機能剤の例では、使用後のフィルタについて、水素ガス等の還元性雰囲気で、例えば貴金属ルツボ中においてH−への置換反応を行い、次いで紫外線等を照射することによって、電子供与能が再生されたフィルタ状の多機能剤が得られる。被膜状の多機能剤の例では、容器の内壁面から被膜を分離し、分離された被膜構成体について、水素ガス等の還元性雰囲気で、例えば貴金属ルツボ中においてH−への置換反応を行い、次いで紫外線等を照射する。さらに、紫外線等を照射後の被膜構成体に、溶媒及びバインダー等を加えて、スラリーを作成し、このスラリーを容器の内壁面に塗膜及び固定することにより、電子供与能が再生されたフィルタ状の多機能剤が得られる。
本発明に係る多機能剤は、使い捨てられることが一般的である従来の抗酸化剤とは異なり、再生処理を行うことによって繰り返し使用することができる。本発明に係る多機能剤を使用することによって、抗酸化剤由来の廃棄物量を減少させることができる。なお、水和反応したマイエナイト型化合物は、前記の還元処理だけでは再生させることができない。
前述したように、本発明に係る多機能剤に含有されるマイエナイト型化合物は、特に結晶格子としてCa、Al、Oが含まれる場合、包接される電子の割合が多いほど黒色を呈し、包接される電子の割合が少ないほど黒色が薄くなる。また、このマイエナイト型化合物は、水和反応によって結晶ケージが崩壊すると、黒色が薄くなる。よって、本発明に係る多機能剤は、その色調を観察することによって、一目にして電子供与能を有しているか否かを判別することができる。例えば、使用を開始した直後の多機能剤は、そのマイエナイト型化合物中に豊富に電子が包接されており、濃い黒色を呈している。多機能剤を長期間使用している間に、マイエナイト型化合物中に包接されている電子が徐々に減少し、多機能剤の黒色も徐々に薄くなる。一定期間が経過した後に、多機能剤の黒色は完全に脱色されてしまい、白色に近い色を呈するようになる。白色を呈するようになった多機能剤を観察することにより、多機能剤は電子供与能を失ってしまったと判断することができる。このように判断された多機能剤は、新品の多機能剤に交換すること、又は前記の再生処理によってマイエナイト型化合物中に電子及びH−を再度包接させること等によって、電子供与能を再生させることができる。以上より、本発明に係る多機能剤は、色の変化を観察することによって、交換又は再生すべきタイミングが一目瞭然に判別される。
多機能剤中に含有されるマイエナイト型化合物は、比較的安価なCaO及びAl2O3の原料粉末を用いて合成することができる。これにより、マイエナイト型化合物を含有する本発明に係る多機能剤は、従来の酸化防止剤、還元剤、脱酸素剤、又はラジカル消去活性剤等と比較して、安価に大量の多機能剤を製造することができる。尚、本発明に係る多機能剤を製造するには、市販されているC12A7の粉末を使用することもできる。
(活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物)
O−、O2 −等の活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、マイエナイト型化合物以外の他の分子やイオン等に活性酸素種を付与することにより酸化反応を引き起こす。したがって、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、酸化剤として用いることができる。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、カゴ状の結晶構造を有し、陽電荷を有する包接ケージの内側に陰電荷を有する活性酸素種が包接されている。包接ケージは、水との接触により水和反応をして水分を除去する機能及びその内部に陰イオンを取り込む機能を有する。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、水和反応により包接ケージが崩壊した場合には、包接されている活性酸素種が飛び出す。水和が進行すると、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊するので、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている活性酸素種も反応に寄与することができる。したがって、水の存在下で活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物を用いることにより、長期間にわたって酸化剤等としての機能を維持することができる。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、無機化合物からなるセラミックスであるので、液体中において固体状態を維持したまま存在し、特に油等の有機溶媒に溶けないという性質を有する。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、包接ケージに包接される粒子が活性酸素種であること以外は、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物Iと同様の構造を有する。活性酸素種としては、O−、O2 −を挙げることができ、包接ケージ内ではO2 −、O−、O2 2−、O2−等の種々の酸化状態で存在する。活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、マイエナイト型化合物Iと同様に不可避不純物として、活性酸素種以外の陰イオン及びラジカル等を含んでいてもよい。
マイエナイト型化合物が活性酸素種を包接することは、電子スピン共鳴装置(ESR)にてESRスペクトルを測定し、O−、O2 −に起因する信号の有無によって、確認することができる。
(活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物の形態)
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、任意の形態をとることができ、例えば、容器、多孔体、被膜、粉末状、顆粒状、ボール状、ペレット状、及びフィルタ状等の形態をとることができる。活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物の形態については、前述した「マイエナイト型化合物I及び混合物IIの形態」の記載と同様である。
(活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物の製造方法)
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、前述した「電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物I及び混合物IIの製造」に記載の製造方法では、粉末状又は顆粒状のマイエナイト型化合物前駆体をそのまま、又は成形工程を経て、還元性雰囲気中で加熱を行ってH−を包接するマイエナイト型化合物を製造しているのを、乾燥した酸素ガスを流しながら1200℃〜1400℃で加熱すること以外は、同様にして製造することができる。加熱時には、酸素分圧を高くするほど、また、水蒸気分圧を低くするほど高濃度の活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物を得ることができる。
(活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物の用途)
O−又はO2 −等の活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、酸化力を有する。したがって、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、酸化剤として用いることができる。例えば、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、固体、液体、及びガスいずれの状態の有機化合物も酸化することができる。有機化合物を酸化することにより、有害物質や悪臭物質を酸化して無害化することができる。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物を有機化合物分解剤として用いる例について説明する。
有機化合物分解剤は、マイエナイト型化合物に包接されている活性酸素が有機化合物に供与されることにより、有機化合物を酸化することができる。例えば、この有機化合物分解剤は、「シックハウス症候群」の要因の一つとして挙げられるホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物を酸化することができる。有機化合物分解剤は、ホルムアルデヒドを酸化してギ酸にし、ギ酸を酸化して水と二酸化炭素に分解することにより無害化することができる。また、大気中に水蒸気が含まれていると、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物が水和反応し、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊し、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている活性酸素種も反応に寄与することができるので、長期にわたって有害物質や悪臭物質を無害化する機能を維持することができる。
有機化合物分解剤の形態は、特に限定されず、例えば、シートや壁紙、スラリー状の塗布剤、ボード等の建材、塗装剤、顆粒状、粉末状、ボール状、フィルタ、多孔体、及び、例えば図8に示す反応器を搭載した空気循環機構を備えた装置等を挙げることができる。これらの形態の有機化合物分解剤は、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物単体で形成されてもよいし、必要に応じて他の材料を混合して形成されてもよい。また、反応活性を向上させるために活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物に触媒を担持させてもよい。また、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物が充填された反応器等を備えた装置等は、反応活性を向上させるために加熱機構や加圧機構を備えていてもよい。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物を土壌散布剤として用いる例について説明する。
土壌散布剤は、マイエナイト型化合物に包接されている活性酸素種を土壌中に存在する有害物質や悪臭物質に供与して酸化することにより、無害化することができる。また、土壌中に水が含まれている場合には、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物が水和反応し、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊し、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている活性酸素種も反応に寄与することができるので、長期にわたって有害物質や悪臭物質を無害化する機能を維持することができる。また、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は水和反応して水和物(セメント成分)になるので、土壌中に放置しても無害であり問題ない。土壌散布剤の形態は、特に限定されず、例えば、粉末、粉末が分散した溶液、顆粒状、ペレット状、ボール状等を挙げることができる。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物を殺菌剤として用いる例について説明する。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、細菌やウイルスを殺菌又は滅菌することができる。殺菌剤の形態は、特に限定されず、例えば、粉末、粉末が分散した溶液、顆粒状、ペレット状、ボール状、フィルタ状、シート状、反応器型等を挙げることができる。例えば、殺菌剤は、病原性の高い細菌や致死率の高いウイルスの発生した土地で、土壌や池等に散布することにより、細菌及びウイルスの感染拡大を抑制することができる。また、殺菌剤をフィルタ状又は反応器型に形成して、通常のマスク又は防毒マスクにおけるフィルタ部に用いて、細菌やウイルス等を除去することができる。活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、大気中又は呼気中に含まれる水蒸気によって水和反応し、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊し、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている活性酸素種も反応に寄与することができるので、長期にわたって細菌やウイルス等を除去する機能を維持することができる。マスク及び防毒マスクの形状等については、上述した通りである。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物をガス相改質剤として用いる例について説明する。
ガス相改質剤は、任意の種類のガス相を酸化して改質することができる。すなわち、空気、自動車等の排ガス、工場の排ガス、及びタバコの煙等に存在する有害物質及び悪臭物質を酸化して無害化したり、細菌及びウイルス等を除去したりして、改質することができる。ガス相に水蒸気が含まれている場合には、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物が水和反応し、ケージクラスター表面の結晶ケージだけでなく、ケージクラスター内部の結晶ケージも崩壊し、結晶ケージの奥に位置している結晶ケージに包接されている活性酸素種も反応に寄与することができるので、長期にわたってガス相を改質する機能を維持することができる。ガス相改質剤の形態は、特に限定されず、フィルタ状、反応器型、粉末、顆粒、ボール状、及びペレット状等を挙げることができる。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物を脱臭剤として用いる例について説明する。
脱臭剤は、マイエナイト型化合物に包接されている活性酸素種を悪臭の原因となる物質に供与して酸化することにより、脱臭することができる。悪臭物質は、固体、液体、及び気体のいずれであってもよい。悪臭の原因となる物質によって、電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物と活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物とを使い分けて、例えば、これらの含有比率を適宜調整することにより、脱臭剤としての効果をより一層発揮させることができる。脱臭剤の形態は、特に限定されず、粉末、顆粒、ボール状、ペレット状、フィルタ状、反応器型等を挙げることができる。脱臭剤は、靴の中敷き、おむつ、ナプキン、汗用パット、衣類、動物や人体への塗布物又は噴霧用液体、トイレ用脱臭剤等を構成する材料の一つとして使用することができる。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物をスパークプラグ用絶縁体又は内燃機関の内壁材として用いる例について説明する。
スパークプラグは、通常、中心軸線に沿って配置された棒状の、端子及び中心電極、これらの外側に配置された略筒状の絶縁体、絶縁体の外側に配置された略筒状の主体金具、及び主体金具の先端に接合された接地電極を有し、中心電極の先端部と接地電極の先端部との間には間隙があり、高電圧が印加されると、この間隙で火花放電が生じる。スパークプラグは、内燃機関の燃焼室内に、火花放電が生じる間隙部分が配置されるように取り付けられる。中心電極の外側に配置されている絶縁体と主体金具との間には僅かな隙間があり、未燃焼の燃料や炭素が絶縁体に付着することがある。絶縁体にカーボン等が付着すると、絶縁抵抗値が低下し、前記間隙以外の箇所で通電することにより、失火するおそれがある。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、約700℃を超えると包接ケージから活性酸素種が放出され、酸化反応が促進される。内燃機関の燃焼室内は、稼働時には約3000℃まで達することがあるので、スパークプラグの絶縁体が活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物で形成されていると、絶縁体に付着した未燃焼の燃料や炭素が、包接ケージから放出された活性酸素種によって酸化し、水や二酸化炭素になり、絶縁体の絶縁抵抗値の低下による失火を抑制することができる。
また、内燃機関の燃焼室の内壁面が活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物を含む内壁材で形成されている場合、稼働により燃焼室内の温度が高まるとマイエナイト型化合物に包接されている活性酸素種が燃焼室内に放出され、これがフリーラジカルとして働く。その結果、燃料の燃焼時にフリーラジカルが増大し、燃焼性を向上させることができる。また、燃焼室の内壁面に付着した炭素が、包接ケージから放出された活性酸素種によって酸化され、一酸化炭素や二酸化炭素になることにより、燃焼室の内壁面から炭素を除去することができる。
活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物をO−ビーム放出源として用いる例について説明する。
活性酸素を高濃度に含むマイエナイト型化合物中に電場を印加することによって、高密度のO−イオンビームを取り出すことができる。したがって、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物は、O−ビーム発生器のO−ビーム放出源として用いることができる。活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物に酸素ガスを連続的に供給することにより、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物からO−ビームを連続的に放出することができる。また、活性酸素種を包接するマイエナイト型化合物を約700℃以上の温度に加熱しつつ電場を印加することにより純粋なO−ビームを取り出すことができる。
(酸素元素を含む陰イオンを包接するマイエナイト型化合物前駆体の製造)
原料粉末として、CaCO3とAl2O3とをモル比で12:7の比率で混合し、これとエタノールとを樹脂ポットに投入し、回転機にて撹拌してスラリーを得た。スラリーを湯煎にかけて、エタノールを蒸発させて混合粉末を得た。次いで、混合粉末を焼成皿に載せて、これを電気炉に入れ、大気雰囲気中で昇温速度4℃/分で昇温し、1300℃で10時間保持して焼成した。得られた焼成体を乳鉢で粉砕した後ふるいにて細かい粒子を採取してマイエナイト型化合物前駆体Aを得た。
マイエナイト型化合物前駆体AをX線回折装置にてX線回折分析を行ったところ、カゴ状の結晶構造を有するC12A7であることが確認された。
(電子及びH−を包接するマイエナイト型化合物Iの製造)
マイエナイト型化合物前駆体Aとエタノールとをビーカーに投入し、回転機にて撹拌してスラリーを得た。スラリーを湯煎にかけて、エタノールを蒸発させて混合粉末を得た。次いで、混合粉末をカーボンルツボに入れて、これを電気炉に入れ、水素ガスを流しながら昇温速度4℃/分で昇温し、1300℃で24時間保持して焼成し、試料Bを得た。
試料BをX線回折装置にてX線回折分析を行ったところ、図11の上側に示すX線回折パターンが得られた。得られたX線回折パターンと図11の下側に示すICDDカードにおけるマイエナイト型化合物(C12A7)のX線回折パターンとを比較したところ、試料Bはカゴ状の結晶構造を有するマイエナイト型化合物(C12A7)であることが確認された。
試料Bの色を目視にて確認したところ、緑色を呈していた。マイエナイト型化合物に電子が包接されていない場合、粉末は白色であり、包接されている電子濃度が高くなるほど、黄、黄緑、緑、黒へと変化する。よって、試料Bには高濃度の電子が包接されていることが分かる。
試料Bを電子スピン共鳴装置(ESR:BRUKER社製Elexsys E580)にて、ESRスペクトルを測定した。測定は、試料Bを内径4mmの石英管に入れ、真空引き後、Heで置換して室温にて行った。
その結果、電子に起因すると考えられる信号(g=1.9944付近)が観測された。このことからも、試料Bには電子が包接されていることが分かる。
試料Bを塩酸及び水それぞれに入れたところ、どちらも試料Bからガスが発生した。還元性雰囲気で焼成して得られたマイエナイト型化合物であることから、このガスは水素ガスであると考えられ、試料Bには水素イオンが包接されていることが強く推定される。
以上から、試料Bは、電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物Iであることが分かる。
(電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物との混合物IIの製造)
マイエナイト型化合物前駆体Aとエタノールとをビーカーに投入し、回転機にて撹拌してスラリーを得た。スラリーを湯煎にかけて、エタノールを蒸発させて混合粉末を得た。次いで、混合粉末をカーボンルツボに入れて、これを電気炉に入れ、窒素ガスを流しながら昇温速度4℃/分で昇温し、1300℃で24時間保持して焼成し、試料Cを得た。なお、電気炉内への窒素ガスのガス供給路には、脱水剤を置き、炉内を乾燥雰囲気にして焼成を行った。
一方、試料Cの場合と同様にして得られた混合粉末をイリジウムルツボに入れて、これを電気炉に入れ、水素ガスを流しながら昇温速度4℃/分で昇温し、1300℃で24時間保持して焼成し、試料Dを得た。なお、電気炉内への水素ガスのガス供給路には、脱水剤を置き、炉内を乾燥雰囲気にして焼成を行った。
試料C及び試料Dについて、試料Bと同様にしてX線回折分析を行ったところ、マイエナイト型化合物(C12A7)であることが確認された。
試料Cの色を目視にて確認したところ、緑色を呈していることから、試料Cには電子が包接されていることが分かる。
よって、試料Cは、電子が包接されたマイエナイト型化合物である。
試料Dを水に入れたところ、試料Dからガスが発生した。還元性雰囲気で焼成して得られたマイエナイト型化合物であることから、このガスは水素ガスであると考えられ、試料Dには水素イオンが包接されていることが強く推定される。
よって、試料Dは、H−が包接されたマイエナイト型化合物である。
最後に、試料Cと試料Dとエタノールとをビーカーに投入し、回転機にて撹拌してスラリーを得て、スラリーを湯煎にかけてエタノールを蒸発させることにより、電子を包接するマイエナイト型化合物とH−を包接するマイエナイト型化合物との混合物IIを得た。
(還元性の評価)
食用油を準備し、酸価試験紙で食用油の酸価を測定したところ酸価は2.0であった。したがって、この食用油は酸価していることが確認された。
試料Bを乳鉢で粉砕し、粉末状にした後に、試料Bと食用油とを混合して泥漿状の混合物を得た。
次いで、泥漿状の混合物を作製した数分後に混合物中の食用油の酸価を測定したところ、酸価は1.0であった。
酸価は大きいほど油が劣化していることを示す。よって、試料Bにより酸化した油が還元されたことが分かる。
(脱水性の評価)
試料Bを乳鉢で粉砕し、粉末状にした後に、粉末状の試料Bを水に入れる試験を行ったところ、数分経過後に微細な気泡の発生が観察されると共に、試料Bの粒子が細かくなっていることが観察された。このことから、試料Bは水との接触により水和反応し、細かい水和物を生成したことが分かる。したがって、水分が含まれている油等に試料Bを投入すると、試料Bが水和反応して油中から水分を除去することができる。
混合物IIについても試料Bと同様の試験を行ったところ、数分経過後に微細な気泡の発生が観察されると共に、混合物IIの粒子が細かくなっていることが観察された。
(ガラス状の電子及びH−を包接するマイエナイト型化合物の製造)
試料Bを乳鉢で粉砕し、粉末状にした後に、これをアルミナの皿に載せて、電気炉で水素ガスを流しながら昇温速度4℃/分で昇温し、1600℃で6時間保持して試料Bを溶融し、その後自然放冷してガラス状の試料Eを得た。
試料Eは、薄い緑色を呈していた。よって、試料Eには電子が包接されていることが分かる。
試料Eを塩酸に入れたところ、試料Eから水素ガスが発生した。このことから、試料Eには水素イオンが包接されていることが分かる。
以上から、試料Bを溶融することによりガラス状の電子とH−とを包接するマイエナイト型化合物を形成することができることが分かる。