以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
[蓄電装置用外装材]
図1は、本発明の蓄電装置用外装材の一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示すように、本実施形態の外装材(蓄電装置用外装材)10は、基材層11と、該基材層11の一方の面上に形成された第一の接着剤層12と、該第一の接着剤層12の基材層11とは反対の面上に形成された金属箔層13と、該金属箔層13の第一の接着剤層12とは反対の面上に形成された腐食防止処理層14と、該腐食防止処理層14の金属箔層13とは反対の面上に形成された接着性樹脂層15と、該接着性樹脂層15の腐食防止処理層14とは反対の面上に形成されたシーラント層16と、が順次積層された積層体である。外装材10は、基材層11が最外層、シーラント層16が最内層である。すなわち、外装材10は、基材層11を蓄電装置の外部側、シーラント層16を蓄電装置の内部側に向けて使用される。以下、各層について説明する。
<基材層11>
基材層11は、蓄電装置製造時のシール工程における耐熱性付与、加工や流通の際に起こりうるピンホール対策という目的で設けるものであり、絶縁性を有する樹脂層を用いるのが好ましい。そのような樹脂層としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸または未延伸フィルムを、単層または2層以上積層した多層フィルムとして使用することができる。より具体的には、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)とナイロンフィルム(Ny)とを接着性樹脂を用いて共押出後に、延伸処理を施した共押し出し多層延伸フィルムを用いることが可能である。
基材層11の厚さは、6〜40μmが好ましく、10〜25μmがより好ましい。基材層11の厚さが6μm以上であることにより、蓄電装置用外装材10の耐ピンホール性及び絶縁性を向上できる傾向がある。一方、基材層11の厚さが40μm以下であることにより、蓄電装置用外装材10の深絞り成型性をより向上できる傾向がある。
<第一の接着剤層12>
第一の接着剤層12は、基材層11と金属箔層13とを接着する層である。第一の接着剤層12を構成する材料としては、具体的には、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、カーボネートポリオールなどの主剤に対し、2官能以上のイソシアネート化合物を作用させたポリウレタン樹脂等が挙げられる。
ポリエステルポリオールは、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸などの脂肪族系;イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族系の二塩基酸の一種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなど脂肪族系;シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリーコルなどの脂環式系;キシリレングリーコルなどの芳香族系のジオールの一種以上と、を用いて得られる。
また、ポリエステルポリオールとしては、上述した二塩基酸とジオールとを用いて得られるポリエステルポリオールの両末端の水酸基を、例えば、2,4−もしくは2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2,4−もしくは2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネートなどから選ばれるイソシアネート化合物の単体、あるいは少なくとも一種以上から選択される上記イソシアネート化合物からなるアダクト体、ビューレット体、イソシアヌレート体を用いて鎖伸長したポリエステルウレタンポリオールなどが挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのエーテル系のポリオールや、鎖長伸長剤として上述したイソシアネート化合物を作用させたポリエーテルウレタンポリオールを用いることが可能である。
アクリルポリオールとしては、上述したアクリル系モノマーを用いて重合したアクリル樹脂を用いることが可能である。
カーボネートポリオールとしては、カーボネート化合物とジオールとを反応させて得ることができる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネートなどを用いることができる。一方、ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリールなどの脂環式ジオール;キシリレングリールなどの芳香族ジオール等の1種以上の混合物を用いたカーボネートポリオール、あるいは上述したイソシアネート化合物により鎖伸長を施したポリカーボネートウレタンポリオールが挙げられる。
上述した各種ポリオールは、外装材に求められる機能や性能に応じて、単独または2種以上を併用して用いることができる。また、これらの主剤に、上述したイソシアネート系化合物を硬化剤として用いることでポリウレタン系接着剤として用いることも可能である。
さらに、接着促進を目的として、上述したポリウレタン樹脂に、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、リン化合物、シランカップリング剤などを配合してもよい。
カルボジイミド化合物としては、例えば、N,N’−ジ−o−トルイルカルボジイミド、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ジオクチルデシルカルボジイミド、N−トリイル−N’−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,2−ジ−t−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−トルイルカルボジイミドなどが挙げられる。
オキサゾリン化合物としては、例えば、2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2,5−ジメチル−2−オキサゾリン、2,4−ジフェニル−2−オキサゾリンなどのモノオキサゾリン化合物、2,2’−(1,3−フェニレン)−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−(1,2−エチレン)−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−(1,4−ブチレン)−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−(1,4−フェニレン)−ビス(2−オキサゾリン)などのジオキサゾリン化合物が挙げられる。
エポキシ化合物としては、例えば、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールのような脂肪族のジオールのジグリシジルエーテル、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセロール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセロール、トリメチロールプロパンなどの脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ポリオールのポリグリシジルエーテル、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族、芳香族の多価カルボン酸のジグリシジルエステルまたはポリグリシジルエステル、レゾルシノール、ビス−(p−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス−(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、トリス−(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンなどの多価フェノールのジグリシジルエーテルまたはポリグリシジルエーテル、N,N’−ジグリシジルアニリン、N,N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ビス−(p−アミノフェニル)メタンのようにアミンのN−グリシジル誘導体、アミノフェールのトリグリシジル誘導体、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、オルソクレゾール型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシが挙げられる。
リン化合物としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノおよびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)などが挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなど各種シランカップリング剤を使用することが可能である。
また、接着剤に求められる性能に応じて、上述したポリウレタン樹脂に、その他の各種添加剤や安定剤を配合してもよい。
第一の接着剤層12の厚さは、特に限定されるものではないが、所望の接着強度、追随性、及び加工性等を得る観点から、例えば、1〜10μmが好ましく、3〜7μmがより好ましい。
<金属箔層13>
金属箔層13は、水分が蓄電装置の内部に浸入することを防止する水蒸気バリア性を有する。また、金属箔層13は、深絞り成形をするために延展性を有する。金属箔層13としては、アルミニウム、ステンレス鋼等の各種金属箔を使用することができ、質量(比重)、防湿性、加工性及びコストの面から、アルミニウム箔が好ましい。
アルミニウム箔としては、一般の軟質アルミニウム箔を用いることができるが、さらなる耐ピンホール性、及び成形時の延展性を付与させる目的で、鉄を含むアルミニウム箔を用いるのが好ましい。アルミニウム箔中の鉄の含有量は、アルミニウム箔100質量%中、0.1〜9.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。鉄の含有量が0.1質量%以上であることにより、より優れた耐ピンホール性及び延展性を有する外装材10を得ることができる。鉄の含有量が9.0質量%以下であることにより、より柔軟性に優れた外装材10を得ることができる。
また、アルミニウム箔としては、所望の成型時の延展性を付与できる点から、焼鈍処理を施した軟質アルミニウム箔(例えば、JIS規格でいう8021材、8079材よりなるアルミニウム箔)がさらに好ましい。
金属箔層13の厚さは、特に限定されるものではないが、バリア性、耐ピンホール性、加工性を考慮して9〜200μmとすることが好ましく、15〜100μmとすることがより好ましい。
金属箔層13にアルミニウム箔を用いる場合、アルミニウム箔としては、未処理のアルミニウム箔を用いてもよいが、耐電解液性を付与する点で脱脂処理を施したアルミニウム箔を用いるのが好ましい。脱脂処理としては、大きく区分するとウェットタイプとドライタイプが挙げられる。
ウェットタイプとしては、酸脱脂やアルカリ脱脂などが挙げられる。酸脱脂に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの無機酸が挙げられ、これら無機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、アルミニウム箔のエッチング効果を向上させるという観点から、必要に応じてFeイオンやCeイオンなどの供給源となる各種金属塩を配合しても構わない。アルカリ脱脂に使用するアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウムなどの強エッチングタイプが挙げられる。また、弱アルカリ系や界面活性剤を配合したものを用いてもよい。これらの脱脂は浸漬法やスプレー法で行われる。
ドライタイプとしては、アルミニウムを焼鈍処理する工程で、脱脂処理を行う方法が挙げられる。また、脱脂処理の他にも、フレーム処理やコロナ処理などを行ってもよい。さらには特定波長の紫外線を照射して発生する活性酸素により、汚染物質を酸化分解・除去するような脱脂処理も挙げられる。
なお、アルミニウム箔に脱脂処理する場合は、アルミニウム箔の片面のみに脱脂処理を施してもよく、両面に脱脂処理を施してもよい。
<腐食防止処理層14>
腐食防止処理層14は、電解液、又は、電解液と水分の反応により発生するフッ酸による金属箔層13の腐食を防止するために設けられる層である。腐食防止処理層14としては、例えば、脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理、あるいはこれらの処理の組み合わせにより形成される。
脱脂処理としては、酸脱脂あるいはアルカリ脱脂が挙げられる。酸脱脂としては、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの無機酸の単独、またはこれらの混合液を使用する方法などが挙げられる。また、酸脱脂として、一ナトリウム二フッ化アンモニウムなどのフッ素含有化合物を上記無機酸で溶解させた酸脱脂剤を用いることで、特に金属箔層13にアルミニウム箔を用いた場合に、アルミニウムの脱脂効果が得られるだけでなく、不動態であるアルミニウムのフッ化物を形成させることができ、耐フッ酸性という点で有効である。アルカリ脱脂としては、水酸化ナトリウムなどを使用する方法が挙げられる。
熱水変成処理としては、例えば、トリエタノールアミンを添加した沸騰水中にアルミニウム箔を浸漬処理するベーマイト処理が挙げられる。
陽極酸化処理としては、例えば、アルマイト処理が挙げられる。
化成処理としては、浸漬型、塗工型が挙げられる。浸漬型の化成処理としては、例えばクロメート処理、ジルコニウム処理、チタニウム処理、バナジウム処理、モリブデン処理、リン酸カルシウム処理、水酸化ストロンチウム処理、セリウム処理、ルテニウム処理、あるいはこれらの混合相からなる各種化成処理が挙げられる。一方、塗工型の化成処理としては、腐食防止性能を有するコーティング剤を金属箔層13上に塗工する方法が挙げられる。
これら腐食防止処理のうち、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理のいずれかで腐食防止処理層の少なくとも一部を形成する場合は、事前に上述した脱脂処理を行うことが好ましい。なお、金属箔層13として脱脂処理済みの金属箔を用いる場合は、腐食防止処理層14の形成において改めて脱脂処理する必要なはい。
塗工型の化成処理に用いられるコーティング剤は、好ましくは3価クロムを含有する。また、コーティング剤には、後述するカチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーが含まれていてもよい。
また、上記処理のうち、特に熱水変成処理、陽極酸化処理は、処理剤によってアルミニウム箔表面を溶解させ、耐腐食性に優れるアルミニウム化合物(ベーマイト、アルマイト)を形成させる。そのため、アルミニウム箔を用いた金属箔層13から腐食防止処理層14まで共連続構造を形成した形態になるので、化成処理の定義に包含されるが、後述するように化成処理の定義に含まれない、純粋なコーティング手法のみで腐食防止処理層14を形成することも可能である。この方法としては、例えば、アルミニウムの腐食防止効果(インヒビター効果)を有し、かつ、環境側面的にも好適な材料として、平均粒径100nm以下の酸化セリウムのような希土類元素酸化物のゾルを用いる方法が挙げられる。この方法を用いることで、一般的なコーティング方法でも、アルミニウム箔などの金属箔に腐食防止効果を付与することが可能となる。
上記希土類元素酸化物のゾルとしては、例えば、水系、アルコール系、炭化水素系、ケトン系、エステル系、エーテル系などの各種溶媒を用いたゾルが挙げられる。なかでも、水系のゾルが好ましい。
上記希土類元素酸化物のゾルには、通常その分散を安定化させるために、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸またはその塩、酢酸、りんご酸、アスコルビン酸、乳酸などの有機酸が分散安定化剤として用いられる。これらの分散安定化剤のうち、特にリン酸は、外装材10において、(1)ゾルの分散安定化、(2)リン酸のアルミキレート能力を利用した金属箔層13との密着性の向上、(3)フッ酸の影響で溶出したアルミニウムイオンを捕獲(不動態形成)することよる電解液耐性の付与、(4)低温でもリン酸の脱水縮合を起こしやすいことによる腐食防止処理層14(酸化物層)の凝集力の向上、などが期待される。
上記リン酸またはその塩としては、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、またはこれらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩が挙げられる。なかでも、外装材10における機能発現には、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ウルトラメタリン酸などの縮合リン酸、またはこれらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩が好ましい。また、上記希土類元素酸化物のゾルを用いて、各種コーティング法により希土類元素酸化物からなる腐食防止処理層14を形成させる時の乾燥造膜性(乾燥能力、熱量)を考慮すると、低温での脱水縮合性に優れる点から、ナトリウム塩がより好ましい。リン酸塩としては、水溶性の塩が好ましい。
希土類元素酸化物に対するリン酸(あるいはその塩)の配合比は、希土類元素酸化物100質量部に対して、1〜100質量部が好ましい。上記配合比が希土類元素酸化物100質量部に対して1質量部以上であれば、希土類元素酸化物ゾルがより安定になり、外装材10の機能がより良好になる。上記配合比は、希土類元素酸化物100質量部に対して5質量部以上がより好ましい。また、上記配合比が希土類元素酸化物100質量部に対して100質量部以下であれば、希土類元素酸化物ゾルの機能が高まり、電解液の浸食を防止する性能に優れる。上記配合比は、希土類元素酸化物100質量部に対して、50質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
上記希土類元素酸化物ゾルにより形成される腐食防止処理層14は、無機粒子の集合体であるため、乾燥キュアの工程を経ても層自身の凝集力が低くなるおそれがある。そこで、この場合の腐食防止処理層14は、凝集力を補うために、下記アニオン性ポリマー、またはカチオン性ポリマーにより複合化されていることが好ましい。
アニオン性ポリマーとしては、カルボキシ基を有するポリマーが挙げられ、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸(あるいはその塩)、あるいはポリ(メタ)アクリル酸を主成分として共重合した共重合体が挙げられる。この共重合体の共重合成分としては、アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基など。);(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基など。)、N−アルコキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルコキシ(メタ)アクリルアミド、(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基など。)、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有モノマー;(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシランなどのシラン含有モノマー;(メタ)アクリロキシプロピルイソシアネートなどのイソシアネート基含有モノマーなどが挙げられる。
これらアニオン性ポリマーは、希土類元素酸化物ゾルを用いて得られた腐食防止処理層14(酸化物層)の安定性を向上させる役割を果たす。これは、硬くて脆い酸化物層をアクリル系樹脂成分で保護する効果、および、希土類元素酸化物ゾルに含まれるリン酸塩由来のイオンコンタミ(特にナトリウムイオン)を捕捉する(カチオンキャッチャー)効果によって達成される。つまり、希土類元素酸化物ゾルを用いて得られた腐食防止処理層14中に、特にナトリウムなどのアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンが含まれると、このイオンを含む場所を起点にして腐食防止処理層14が劣化しやすくなる。そのため、アニオン性ポリマーによって希土類元素酸化物ゾルに含まれるナトリウムイオンなどを固定化することで、腐食防止処理層14の耐性が向上する。
アニオン性ポリマーと希土類元素酸化物ゾルを組み合わせた腐食防止処理層14は、アルミニウム箔にクロメート処理を施して形成した腐食防止処理層14と同等の腐食防止性能を有する。アニオン性ポリマーは、本質的に水溶性であるポリアニオン性ポリマーが架橋された構造であることが好ましい。この構造の形成に用いる架橋剤としては、例えば、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシ基、オキサゾリン基を有する化合物が挙げられる。
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートあるいはその水素添加物、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’ジフェニルメタンジイソシアネートあるいはその水素添加物、イソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネート類;あるいはこれらのイソシアネート類を、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールと反応させたアダクト体、水と反応させることで得られたビューレット体、あるいは三量体であるイソシアヌレート体などのポリイソシアネート類;あるいはこれらのポリイソシアネート類をアルコール類、ラクタム類、オキシム類などでブロック化したブロックポリイソシアネートなどが挙げられる。
グリシジル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類と、エピクロルヒドリンを作用させたエポキシ化合物;グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価アルコール類と、エピクロルヒドリンを作用させたエポキシ化合物;フタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、アジピン酸などのジカルボン酸と、エピクロルヒドリンとを作用させたエポキシ化合物などが挙げられる。
カルボキシ基を有する化合物としては、例えば、各種脂肪族あるいは芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。また、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ(土類)金属塩を用いてもよい。
オキサゾリン基を有する化合物としては、例えば、オキサゾリンユニットを2つ以上有する低分子化合物、あるいはイソプロペニルオキサゾリンのような重合性モノマーを用いる場合には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどのアクリル系モノマーを共重合させたものが挙げられる。
また、アニオン性ポリマーには、シランカップリング剤のように、アミンと官能基を選択的に反応させ、架橋点をシロキサン結合にさせてもよい。この場合、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランなどが使用できる。なかでも、特にアニオン性ポリマーあるいはその共重合物との反応性を考慮すると、エポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシランが好ましい。
アニオン性ポリマーに対するこれらの架橋剤の比率は、アニオン性ポリマー100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。架橋剤の比率がアニオン性ポリマー100質量部に対して1質量部以上であれば、架橋構造が十分に形成されやすい。架橋剤の比率がアニオン性ポリマー100質量部に対して50質量部以下であれば、塗液のポットライフが向上する。
アニオン性ポリマーを架橋する方法は、上記架橋剤に限らず、チタニウム、ジルコニウム化合物を用いてイオン架橋を形成する方法などであってもよい。
カチオン性ポリマーとしては、アミンを有するポリマーが挙げられ、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフトさせた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンあるいはこれらの誘導体、アミノフェノールなどのカチオン性のポリマーが挙げられる。
カチオン性ポリマーは、カルボキシ基やグリシジル基などのアミン/イミンと反応が可能な官能基を有する架橋剤と併用することが好ましい。カチオン性ポリマーと併用する架橋剤としては、ポリエチレンイミンとイオン高分子錯体を形成するカルボン酸を有するポリマーも使用でき、例えば、ポリアクリル酸あるいはそのイオン塩などのポリカルボン酸(塩)、あるいはこれにコモノマーを導入した共重合体、カルボキシメチルセルロースあるいはそのイオン塩などのカルボキシ基を有する多糖類などが挙げられる。ポリアリルアミンとしては、例えば、アリルアミン、アリルアミンアミド硫酸塩、ジアリルアミン、ジメチルアリルアミンなどの単独重合体あるいは共重合体などが挙げられる。これらのアミンは、フリーのアミンであってもよく、酢酸あるいは塩酸による安定化物であってもよい。また、共重合体成分として、マレイン酸、二酸化硫黄などを使用してもよい。さらに、1級アミンを部分メトキシ化させることで熱架橋性を付与したタイプも使用でき、また、アミノフェノールも使用できる。特に、アリルアミンあるいはその誘導体が好ましい。
本実施形態では、カチオン性ポリマーも腐食防止処理層14を構成する一構成要素として記載している。その理由は、蓄電装置用外装材で要求される電解液耐性、フッ酸耐性を付与するべく様々な化合物を用い鋭意検討を行った結果、カチオン性ポリマー自体も、電解液耐性、耐フッ酸性を付与することが可能な化合物であることが判明したためである。この要因は、フッ素イオンをカチオン性基で補足する(アニオンキャッチャー)ことで、アルミニウム箔が損傷することを抑制しているためであると推測される。
カチオン性ポリマーは、接着性の向上という点でより好ましい材料である。また、カチオン性ポリマーも、上記アニオン性ポリマーと同様に、水溶性であることから、架橋構造を形成させて耐水性を付与することがより好ましい。カチオン性ポリマーに架橋構造を形成する際の架橋剤は、アニオン性ポリマーの項で説明した架橋剤を使用できる。腐食防止処理層14として希土類元素酸化物ゾルを用いた場合、その保護層として上記アニオン性ポリマーを用いる代わりに、カチオン性ポリマーを用いてもよい。
クロメート処理に代表される化成処理による腐食防止処理層は、アルミニウム箔との傾斜構造を形成させるため、特にフッ酸、塩酸、硝酸、硫酸あるいはこれらの塩を配合した化成処理剤を用いてアルミニウム箔に処理を施し、次いでクロムやノンクロム系の化合物を作用させて化成処理層をアルミニウム箔に形成させるものである。しかしながら、上記化成処理は、化成処理剤に酸を用いていることから、作業環境の悪化やコーティング装置の腐食を伴う。一方、前述したコーティングタイプの腐食防止処理層14は、クロメート処理に代表される化成処理とは異なり、アルミニウム箔を用いた金属箔層13に対して傾斜構造を形成させる必要がない。そのため、コーティング剤の性状は、酸性、アルカリ性、中性などの制約を受けることがなく、良好な作業環境を実現できる。加えて、クロム化合物を用いるクロメート処理は、環境衛生上、代替案が求められている点からも、コーティングタイプの腐食防止処理層14が好ましい。
以上の内容から、上述したコーティングタイプの腐食防止処理の組み合わせの事例として、(1)希土類元素酸化物ゾルのみ、(2)アニオン性ポリマーのみ、(3)カチオン性ポリマーのみ、(4)希土類元素酸化物ゾル+アニオン性ポリマー(積層複合化)、(5)希土類元素酸化物ゾル+カチオン性ポリマー(積層複合化)、(6)(希土類元素酸化物ゾル+アニオン性ポリマー:積層複合化)/カチオン性ポリマー(多層化)、(7)(希土類元素酸化物ゾル+カチオン性ポリマー:積層複合化)/アニオン性ポリマー(多層化)、等が挙げられる。中でも(1)及び(4)〜(7)が好ましく、(4)〜(7)が特に好ましい。ただし、本実施形態は、上記組み合せに限られるわけではない。たとえば腐食防止処理の選択の事例として、カチオン性ポリマーは、後述するシーラント接着層(接着性樹脂層又は第二の接着剤層)の説明で挙げる変性ポリオレフィン樹脂との接着性が良好であるという点でも非常に好ましい材料であることから、シーラント接着層が変性ポリオレフィン樹脂で構成される場合においては、シーラント接着層に接する面にカチオン性ポリマーを設ける(例えば、構成(5)及び(6)などの構成)といった設計が可能である。
また、腐食防止処理層14は、前述した層には限定されない。例えば、公知技術である塗布型クロメートのように、樹脂バインダー(アミノフェノールなど)にリン酸とクロム化合物を配合した処理剤を用いて形成してもよい。この処理剤を用いれば、腐食防止機能と密着性の両方を兼ね備えた層とすることができる。また、塗液の安定性を考慮する必要があるものの、希土類元素酸化物ゾルとポリカチオン性ポリマーあるいはポリアニオン性ポリマーとを事前に一液化したコーティング剤を使用して腐食防止機能と密着性の両方を兼ね備えた層とすることができる。
腐食防止処理層14の単位面積当たりの質量は、多層構造、単層構造いずれであっても、0.005〜0.200g/m2が好ましく、0.010〜0.100g/m2がより好ましい。上記単位面積当たりの質量が0.005g/m2以上であれば、金属箔層13に腐食防止機能を付与しやすい。また、上記単位面積当たりの質量が0.200g/m2を超えても、腐食防止機能はあまり変らない。一方、希土類元素酸化物ゾルを用いた場合には、塗膜が厚いと乾燥時の熱によるキュアが不十分となり、凝集力の低下を伴うおそれがある。なお、腐食防止処理層14の厚みについては、その比重から換算できる。
<接着性樹脂層15>
接着性樹脂層15は、主成分となる接着性樹脂組成物と必要に応じて添加剤成分とを含んで概略構成されている。接着性樹脂組成物は、特に制限されないが、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分と、マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分とを含有することが好ましい。また、添加剤成分は、アタクチック構造のポリプロピレン及び/又はプロピレン−αオレフィン共重合体を含むことが好ましい。中でも、添加剤成分は、アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(c)を含むことがより好ましい。以下、各成分について説明する。
(変性ポリオレフィン樹脂(a))
変性ポリオレフィン樹脂(a)は、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステルのいずれかから導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分が、ポリオレフィン樹脂にグラフト変性された樹脂であることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、ホモ、ブロック、あるいはランダムポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体などのポリオレフィン樹脂などが挙げられるが、シーラント層16との接着性からポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
これらのポリオレフィン樹脂をグラフト変性する際に用いる化合物としては、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステルのいずれかから導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分が挙げられる。
具体的には、不飽和カルボン酸として、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸などが挙げられる。
不飽和カルボン酸の酸無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物などの不飽和カルボン酸の酸無水物などが挙げられる。
不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えばアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、フマール酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロ無水フタル酸ジメチル、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸ジメチルなどの不飽和カルボン酸のエステルなどが挙げられる。
変性ポリオレフィン樹脂(a)は、ベースとなるポリオレフィン樹脂100質量部に対し、上述した不飽和カルボン酸誘導体成分0.2〜100質量部をラジカル開始剤の存在下、グラフト重合(グラフト変性)することで製造することができる。グラフト変性の反応温度は、50〜250℃が好ましく、60〜200℃がより好ましい。また、反応時間は、製造方法に応じて適宜設定されるが、例えば二軸押出機による溶融グラフト重合の場合、押出機の滞留時間内、具体的には2〜30分が好ましく、5〜10分がより好ましい。なお、グラフト変性は、常圧、加圧のいずれの条件下においても実施できる。
グラフト変性に用いられるラジカル開始剤としては、アルキルパーオキサイド、アリールパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。
これらの有機過酸化物は、上述した反応温度や反応時間の条件によって適宜選択して用いることができる。例えば、二軸押出機による溶融グラフト重合の場合、アルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステルが好ましく、具体的にはジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシ−ヘキシン−3、ジクミルペルオキシドなどが好ましい。
変性ポリオレフィン樹脂(a)としては、無水マレイン酸により変性されたポリオレフィン樹脂が好ましく、例えば、三井化学社製の「アドマー」、三菱化学社製の「モディック」などが適している。このような変性ポリオレフィン樹脂(a)成分は、各種金属や各種官能基を有するポリマーとの反応性に優れるため、該反応性を利用して接着性樹脂層15に密着性を付与することができ、耐電解液性を向上することができる。
(マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b))
マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)は、変性ポリオレフィン樹脂(a)に対し、分散相サイズが200nmを超え、50μm以下の範囲でマクロ相分離構造を形成するものである。
接着性樹脂組成物が、マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分を含有することにより、接着性樹脂層15を構成する主成分となる変性ポリオレフィン樹脂(a)成分等をラミネートする際に発生する残留応力を開放することができ、熱弾性的な接着性を接着性樹脂層15に付与することができる。従って、接着性樹脂層15の密着性がより向上して、耐電解液性により優れた外装材10が得られる。
マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)は、変性ポリオレフィン樹脂(a)上で海島状に存在するが、分散相サイズが200nm以下であると、粘弾性的な接着性の改善を付与させることが困難になる。一方、分散相サイズが50μmを超えると、変性ポリオレフィン樹脂(a)とマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)とは本質的に非相溶性であるため、ラミネート適正(加工性)が著しく低下すると共に、接着性樹脂層15の物理的強度が低下しやすくなる。以上より、分散相サイズは、500nm〜10μmであることが好ましい。
このようなマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)としては、例えば、エチレンおよび/またはプロピレンに、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンから選ばれるα−オレフィンを共重合させたポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
また、マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分としては、市販品を使用することができ、例えば、三井化学社製の「タフマー」、三菱化学社製の「ゼラス」、モンテル社製の「キャタロイ」などが適している。
接着性樹脂層15において、接着性樹脂組成物中の変性ポリオレフィン樹脂(a)成分に対するマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分の含有量は、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分100質量部に対して、1〜40質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。ここで、マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分の含有量が1質量部未満であると、接着性樹脂層の密着性の向上が期待できない。一方、マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分の含有量が40質量部を越えると、本来、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分とマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分とは相溶性が低いために加工性が著しく低下しやすくなる。また、マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分は接着性を示す樹脂ではないため、シーラント層16や腐食防止処理層14などの他の層に対する接着性樹脂層15の密着性が低下しやすくなる。
(アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(c))
接着性樹脂層15は、添加剤成分として、アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(以下、単に、「成分(c)」と称する)を含むことが好ましい。ここで、成分(c)は、完全非晶性の樹脂成分である。
アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体とは、プロピレン及びα−オレフィンの少なくとも一方の側鎖の配列がアタクチック構造であることを示す。言い換えると、このような構造としては、次の4つの場合が挙げられる。
(1)ポリプロピレンのプロピレン連鎖の側鎖の配向がアタクチック構造である場合
(2)プロピレン−αオレフィン共重合体中のプロピレン連鎖の側鎖の配向がアタクチック構造である場合
(3)プロピレン−αオレフィン共重合体中のα−オレフィンの連鎖の側鎖の配向がアタクチック構造である場合
(4)プロピレン−αオレフィン共重合体中のプロピレン/α−オレフィン複合連鎖の側鎖の配向がアタクチック構造である場合
本実施形態に係るポリプロピレン又はプロピレン−αオレフィン共重合体のアタクチック構造は、例えば、次の方法によって確認することができる。まず、本実施形態に係るポリプロピレン又はプロピレン−αオレフィン共重合体の重合に用いた遷移金属錯体を用いてホモポリプロピレンを重合する。次いで、13C−NMRスペクトルにより、プロピレンメチル炭素のmm、mr、及びrrに帰属される各シグナルの強度をそれぞれ[mm]、[mr]、及び[rr]で表したとき、下記式で定義されるF(1)が得られる。この式で得られるF(1)の値が、40以上60以下である場合、上述の重合によって得られたホモポリプロピレンがアタクチック構造を有すると判定することができる。F(1)の値は、43以上57以下であることが好ましく、45以上55以下であることが更に好ましい。F(1)の値が上記範囲内であると、接着性樹脂層において、冷間成型時などの応力によるクラックの発生がより抑制され、成型後の絶縁性をより向上させることができる。
F(1)=100×[mr]/([mm]+[mr]+[rr])
以下、接着性樹脂層15において、主成分となる接着性樹脂組成物に添加剤成分(c)を添加する効果について説明する。
成分(c)は、接着性樹脂層15が溶融状態においては接着性樹脂組成物中の変性ポリオレフィン樹脂(a)成分と相溶であるが、冷却に伴う結晶化の際に結晶外へ排出され、相分離する。これにより、成分(c)は、主成分である接着性樹脂組成物中の変性ポリオレフィン樹脂(a)成分の結晶化度を阻害しない。また、接着性樹脂層15中に成分(c)を添加することで、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分の濃度が成分(c)によって希釈されて結晶成長が抑制されるため、ベース樹脂の接着成分(すなわち、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分)の結晶サイズ(球晶サイズ)を小さくすることが可能となる。また、結晶外に排出された成分(c)は、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分の微小球晶の周辺に、均一に分散する。
また、接着性樹脂層15の主成分となる接着性樹脂組成物に添加剤成分として成分(c)を添加することにより、接着性樹脂層15中の変性ポリオレフィン樹脂成分(a)の結晶化度を保持しつつ、柔軟性を付与できるため、外装材10の電解液膨潤時のラミネート強度の低下を抑制することが可能となるとともに、冷間成型時の応力に伴うボイド−クレーズの発生が抑制できるため、成型後の絶縁性をより向上させることができる。
接着性樹脂層15中の、成分(c)の割合は、下限値が2.5質量%であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。一方、上限値は、60質量%であることが好ましい。ここで、接着性樹脂層15中の、成分(c)の割合が2.5質量%未満であると、上述したような成分(c)を添加することによる効果が十分に得られない傾向がある。一方、60質量%を超えると(すなわち、接着性樹脂組成物の割合が40質量%未満であると)、シーラント層16や腐食防止処理層14などの他の層に対する接着性樹脂層15の密着性が低下しやすくなる傾向がある。
(アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(d))
接着性樹脂層15は、添加剤成分として、上述した成分(c)に加えて、アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(以下、単に「成分(d)」と称する)をさらに含むことが好ましい。
ここで、成分(d)は、接着性樹脂層15の主成分である接着性樹脂成分において、変性ポリオレフィン樹脂(a)が特にポリプロピレン系の接着性樹脂の場合に相溶ゴム成分として作用し、当該変性ポリオレフィン樹脂(a)の結晶化を抑制する。
すなわち、接着性樹脂層15の主成分である接着性樹脂成分に、添加剤成分としてさらに成分(d)を添加することにより、応力を緩和するための柔軟性が付与でき、冷間成型時の応力に伴うボイド−クレーズの発生が抑制できるため、成型後の絶縁性をより向上させることができる。
接着性樹脂層15中の、添加剤成分(すなわち、成分(c)と成分(d)との総量)の割合は、5〜60質量%であることが好ましい。ここで、接着性樹脂層15中の、添加剤成分の割合が5質量%未満であると(すなわち、接着性樹脂組成物の割合が95質量%を超えると)、上述したような添加剤を添加することによる効果が十分に得られない傾向がある。一方、60質量%を超えると(すなわち、接着性樹脂組成物の割合が40質量%未満であると)、シーラント層16や腐食防止処理層14などの他の層に対する接着性樹脂層15の密着性が低下しやすくなる傾向がある。
なお、接着性樹脂層15中の、添加剤成分である成分(c)の分析方法としては、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)による立体規則性評価によって定量することが可能である。
一方、成分(d)の分析としては、フーリエ変換型赤外分光法(FT−IR)を用いて、α−オレフィンの分岐に帰属される吸収体と、変性ポリオレフィン樹脂(a)の特性吸収体に帰属される吸収体とで検量線を作成することで、配合比を確認することができる。
接着性樹脂層15は、接着性樹脂組成物(すなわち、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分ならびにマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分)および添加剤成分(すなわち、成分(c)ならびに成分(d))の他に、必要に応じて各種添加剤、例えば難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などを含有してもよい。
接着性樹脂層15の厚さは、特に限定されるものではないが、応力緩和や水分・電解液透過の観点から、シーラント層16と同じもしくはそれ以下であることが好ましい。
<シーラント層16>
シーラント層16は、外装材10にヒートシールによる封止性を付与する層である。シーラント層16は、単層であっても多層であってもよい。シーラント層16は、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体を60〜95質量%と、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有する(B)相溶系エラストマー及び/又は(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さない(C)非相溶系エラストマーを合計で5〜40質量%と、を含有する樹脂組成物により形成された層を含む。上記樹脂組成物において、(B)相溶系エラストマーの含有量に対する(C)非相溶系エラストマーの含有量の質量比は0〜1である。また、(B)相溶系エラストマーと(C)非相溶系エラストマーとは共通のコモノマー成分を有する。以下、各成分について説明する。
((A)プロピレン−エチレンランダム共重合体)
(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体は、プロピレン−エチレンブロック共重合体及びプロピレン単独重合体と比較して低温でのヒートシール性に優れており、電解液が関与するシール特性を向上することができる。また、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体は、結晶性が低いため、熱収縮による体積変化を抑制して、クラックの発生を抑制し、成型後の絶縁性を向上することができる。
(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体において、エチレン含有量は0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましく、2〜5質量%であることが更に好ましい。エチレン含有量が0.1質量%以上であると、エチレンを共重合させることによる融点低下効果が十分に得られ、電解液が関与するシール特性をより一層向上できる傾向がある。エチレン含有量が10質量%以下であると、融点が下がりすぎることを抑制でき、シール部以外での熱融着(過剰シール部分)の発生をより十分に抑制できる傾向がある。なお、エチレン含有量は、赤外線吸収スペクトル法(IR法)、核磁気共鳴吸収法(13C−NMR法、1H−NMR法)などで測定することができる。
(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体の融点は、120〜145℃であることが好ましく、125〜140℃であることがより好ましい。融点が120℃以上であると、過剰シール部分の発生をより十分に抑制できる傾向がある。融点が145℃以下であると、電解液が関与するシール特性をより一層向上できる傾向がある。
(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体の重量平均分子量は、融点が上記範囲内となるように適宜調整することが好ましいが、好ましくは10,000〜10,000,000であり、より好ましくは100,000〜1,000,000である。
(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体は、酸変性されたものであってもよく、例えば、無水マレイン酸をグラフト変性させた酸変性プロピレン−エチレンランダム共重合体であってもよい。酸変性プロピレン−エチレンランダム共重合体を用いることにより、タブシーラントがなくてもタブリードとの密着性を保つことができる。
(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
シーラント層形成用の樹脂組成物において、(A)成分の含有量は、樹脂組成物の固形分全量を基準として60〜95質量%であり、70〜90質量%であることが好ましく、70〜85質量%であることがより好ましい。(A)成分の含有量が60質量%以上であることにより、(A)成分を用いること自体の効果(融点、結晶化度)により、電解液が関与するシール特性を向上することができる。また、(A)成分の含有量を60質量%以上とすることにより、(B)成分及び/又は(C)成分が過剰に存在することを防げるため、シーラント層の耐熱性の低下を抑制でき、且つ、電解液膨潤を抑制できる。一方、(A)成分の含有量を95質量%以下とすることにより、(B)成分及び/又は(C)成分を合計で5質量%以上含有させることができるため、(B)成分及び/又は(C)成分によるデガッシングヒートシール強度の改善効果を得ることができる。
((B)相溶系エラストマー)
(B)相溶系エラストマーは、クラックの発生を抑制して成型後の絶縁性の向上に寄与する。
(B)相溶系エラストマーは、(A)成分に対して相溶性を有するエラストマーである。ここで、(A)成分に対して相溶性を有する(相溶系)とは、(A)成分を構成するプロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂中に分散相サイズ1nm以上500nm未満で分散することを意味する。相溶性を有さない(非相溶系)とは、(A)成分を構成するプロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂中に分散相サイズ500nm以上20μm未満で分散することを意味する。
(B)相溶系エラストマーとしては、例えば、プロピレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、エチレン−αオレフィン系(α−オレフィンの炭素数が多く、α−オレフィンの含有率が高いもの)エラストマー等が挙げられる。エチレン−αオレフィン系エラストマーにおいて、α−オレフィンの炭素数は、例えば、4以上であり、α−オレフィンの含有率は、例えば、35mol%以上である。中でも、(A)成分との親和性に優れる観点から、プロピレン系エラストマー及び水添スチレン系エラストマーが好ましい。プロピレン系エラストマーとしては、例えばプロピレン−1−ブテンランダム共重合体のタフマー(三井化学社製)、ナノ結晶構造制御型エラストマーのノティオ(三井化学社製)等が挙げられる。また、水添スチレン系エラストマーとしては、例えば、タフテック(旭化成社製)等が挙げられる。(B)相溶系エラストマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(B)相溶系エラストマーの融点は、成型後の絶縁性の向上の観点から、130℃以下であることが好ましく、60〜120℃であることがより好ましく、65〜90℃であることがさらに好ましい。融点が130℃以下であることにより、電解液が関与するシール特性、特にデガッシングヒートシール特性をより向上することができる。また、融点が60℃以上であると、クラックの発生を抑制し、成型後の絶縁性をより向上する観点で有利である。
((C)非相溶系エラストマー)
(C)非相溶系エラストマーは、デガッシングヒートシール強度を含む電解液が関与するシール特性の向上に寄与する。
(C)非相溶系エラストマーは、(A)成分に対して相溶性を有さないエラストマーである。ここで、(A)成分に対して相溶性を有さない(非相溶系)とは、(A)成分を構成するプロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂中に分散相サイズ500nm以上20μm未満で分散することを意味する。
(C)非相溶系エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、エチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アミド系エストマー等が挙げられる。中でも、(B)成分との親和性に優れる観点から、エチレン−1−ブテンランダム共重合体及びスチレン系エラストマーが好ましい。また、電解液による膨潤が少ないことから、エチレン−1−ブテンランダム共重合体(例えば、エクセレン(住友化学社製))が好ましい。(C)非相溶系エラストマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(C)非相溶系エラストマーの融点は、成型後の絶縁性及び電解液が関与するシール特性の向上の観点から、130℃以下であることが好ましく、60〜120℃であることがより好ましく、65〜90℃であることがさらに好ましい。融点が130℃以下であることにより、電解液が関与するシール特性、特にデガッシングヒートシール強度をより向上することができる。また、融点が60℃以上であると、クラックの発生を抑制し、成型後の絶縁性をより向上する観点で有利である。
シーラント層形成用の樹脂組成物において、(B)相溶系エラストマー及び/又は(C)非相溶系エラストマーの含有量の合計は、樹脂組成物の固形分全量を基準として5〜40質量%であり、10〜40質量%であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。(B)成分及び/又は(C)成分の含有量の合計が5質量%以上であることにより、クラックの発生を抑制して成型後の絶縁性を向上することができる。一方、(B)成分及び/又は(C)成分の含有量の合計を40質量%以下とすることにより、シーラント層16の耐熱性の低下を抑制でき、且つ、電解液膨潤によるシール強度や、デガッシングヒートシール強度の低下を抑制することができる。
(B)相溶系エラストマーに対する(C)非相溶系エラストマーの含有量の質量比((C)非相溶系エラストマー/(B)相溶系エラストマー)は、0〜1であり、0.3〜1であることが好ましく、0.5〜1であることがより好ましい。含有量の質量比を上記範囲とすることにより、クラックの発生を抑制することができ、成型後の絶縁性を向上し、且つ、デガッシングヒートシール強度をより向上することができる。
シーラント層形成用の樹脂組成物において、(B)相溶系エラストマー及び(C)非相溶系エラストマーは、共通のコモノマー成分を有する。(B)成分及び(C)成分の組合せとしては、(A)成分との親和性に優れ、海島構造の界面における親和性をより向上する観点から、(B)相溶系エラストマーが、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体であり、(C)非相溶系エラストマーが、エチレン−1−ブテンランダム共重合体であることが好ましい。この場合、共通のコモノマー成分は、1−ブテンである。また、同様の観点、及び、成型などの応力を緩和する観点からは、(B)相溶系エラストマーが、水添スチレン系エラストマーであり、(C)非相溶系エラストマーが、スチレン系エラストマーであることが好ましい。この場合、共通のコモノマー成分は、スチレンである。
シーラント層16において、1−ブテン、スチレン等のコモノマー成分の存在は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)により帰属することで確認可能である。また、コモノマー成分の含有量は、既知量のコモノマー成分を含むエラストマーを既知量配合した樹脂組成物を用いて、(A)成分と(B)成分の特性吸収帯の透過度あるいは吸光度にて検量線を作成することで確認することが可能である。更に、(B)相溶系エラストマー、及び、(C)非相溶系エラストマーのそれぞれのコモノマー成分の含有量についても、同様にFT−IRの特性吸収帯にてイメージングを行い、顕微FT−IR(透過法)でコモノマー成分起因の吸収帯でマッピングすることにより確認可能である。なお、FT−IR以外にも、シーラント層16を溶媒で溶解させてNMRで測定することでコモノマー成分の存在及び含有量を確認することも可能である。
(添加成分)
シーラント層形成用の樹脂組成物は、上述した(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外の他の成分を更に含んでいてもよい。(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外の他の成分としては、例えば引取性、加工性を向上させるためにLDPE(低密度ポリエチレン)などの他の樹脂を添加してもよい。添加する他の樹脂成分の含有量は、樹脂組成物の固形分全量を基準として10質量%以下であることが好ましい。また、樹脂以外の成分として、例えば、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。これら樹脂以外の他の成分の含有量は、樹脂組成物の固形分全量を基準として5質量%以下であることが好ましい。
シーラント層16の厚さは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、5〜100μmの範囲であることが好ましく、10〜60μmの範囲であることがより好ましい。
以上、本発明の蓄電装置用外装材の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、図1では、腐食防止処理層14が金属箔層13の接着性樹脂層15側の面に形成されている場合を示したが、腐食防止処理層14は金属箔層13の第一の接着剤層12側の面に形成されていてもよく、金属箔層13の両面に形成されていてもよい。金属箔層13の両面に腐食防止処理層14が形成されている場合、金属箔層13の第一の接着剤層12側に形成される腐食防止処理層14の構成と、金属箔層13の接着性樹脂層15側に形成される腐食防止処理層14の構成とは、同一であっても異なっていてもよい。
また、図1では、接着性樹脂層15を用いて金属箔層13とシーラント層16とが積層されている場合を示したが、図2に示す蓄電装置用外装材20のように、第二の接着剤層17を用いて金属箔層13とシーラント層16とが積層されていてもよい。以下、第二の接着剤層17について説明する。
<第二の接着剤層17>
第二の接着剤層17は、腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する層である。第二の接着剤層17には、金属箔層とシーラント層とを接着するための一般的な接着剤を用いることができる。
腐食防止処理層14が上述したカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーを含む層を有する場合、第二の接着剤層17は、腐食防止処理層14に含まれる上記ポリマーと反応性を有する化合物(以下、「反応性化合物」とも言う)を含む層であることが好ましい。
例えば、腐食防止処理層14がカチオン性ポリマーを含む場合、第二の接着剤層17はカチオン性ポリマーと反応性を有する化合物を含む。腐食防止処理層14がアニオン性ポリマーを含む場合、第二の接着剤層17はアニオン性ポリマーと反応性を有する化合物を含む。また、腐食防止処理層14がカチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーを含む場合、第二の接着剤層17はカチオン性ポリマーと反応性を有する化合物と、アニオン性ポリマーと反応性を有する化合物とを含む。ただし、第二の接着剤層17は必ずしも上記2種類の化合物を含む必要はなく、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーの両方と反応性を有する化合物を含んでいてもよい。ここで、「反応性を有する」とは、カチオン性ポリマーまたはアニオン性ポリマーと共有結合を形成することである。また、第二の接着剤層17は、酸変性ポリオレフィン樹脂をさらに含んでいてもよい。
カチオン性ポリマーと反応性を有する化合物としては、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。
これら多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物としては、カチオン性ポリマーを架橋構造にするための架橋剤として先に例示した多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物などが挙げられる。これらの中でも、カチオン性ポリマーとの反応性が高く、架橋構造を形成しやすい点で、多官能イソシアネート化合物が好ましい。
アニオン性ポリマーと反応性を有する化合物としては、グリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。これらグリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物としては、カチオン性ポリマーを架橋構造にするための架橋剤として先に例示したグリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物などが挙げられる。これらの中でも、アニオン性ポリマーとの反応性が高い点で、グリシジル化合物が好ましい。
第二の接着剤層17が酸変性ポリオレフィン樹脂を含む場合、反応性化合物は、酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基とも反応性を有する(すなわち、酸性基と共有結合を形成する)ことが好ましい。これにより、腐食防止処理層14との接着性がより高まる。加えて、酸変性ポリオレフィン樹脂が架橋構造となり、外装材20の耐溶剤性がより向上する。
反応性化合物の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基に対し、等量から10倍等量であることが好ましい。等量以上であれば、反応性化合物が酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基と十分に反応する。一方、10倍等量を超えると、酸変性ポリオレフィン樹脂との架橋反応としては十分飽和に達しているため、未反応物が存在し、各種性能の低下が懸念される。
酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸性基をポリオレフィン樹脂に導入したものである。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基などが挙げられ、カルボキシ基が特に好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂としては、接着性樹脂層15に用いる変性ポリオレフィン樹脂(a)として例示したものと同様のものを用いることができる。
第二の接着剤層17には、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の各種添加剤を配合してもよい。
なお、金属箔層とシーラント層とを接着させるために用いる一般的な接着剤には、シランカップリング剤が含まれている場合がある。これは、シランカップリング剤を配合することで接着を促進し、接着強度を高めるためである。しかし、シランカップリング剤を配合する接着剤を用いると、シランカップリング剤に含まれる官能基の種類によっては、接着剤層に含まれるシランカップリング剤以外の成分とシランカップリング剤とが副反応を起こし、本来の目的の架橋反応に弊害が生じるおそれがある。そのため、金属箔層とシーラント層とを接着させるために用いる接着剤には、シランカップリング剤が含まれていないことが好ましい。
第二の接着剤層17が上述した反応性化合物を含むことにより、腐食防止処理層14中のポリマーと共有結合を形成し、腐食防止処理層14と第二の接着剤層17との接着強度が向上する。よって、第二の接着剤層17には接着を促進する目的でシランカップリング剤を配合する必要がなく、第二の接着剤層17はシランカップリング剤を含まないことが好ましい。
第二の接着剤層17の厚さは、特に限定されるものではないが、所望の接着強度、及び加工性等を得る観点から、1〜10μmが好ましく、3〜7μmがより好ましい。
第二の接着剤層17以外の蓄電装置用外装材20の構成は、蓄電装置用外装材10と同様である。なお、蓄電装置用外装材20におけるシーラント層16の厚さは、第二の接着剤層17の厚さに応じて調整する。蓄電装置用外装材20におけるシーラント層16の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、5〜100μmの範囲であることが好ましく、20〜80μmの範囲であることがより好ましい。
また、図1及び図2では、シーラント層16が単層から形成されている場合を示したが、シーラント層16は2層以上の多層から形成されていてもよい。シーラント層16を形成する多層のそれぞれの層の構成は、同一であっても異なっていてもよい。
シーラント層が多層から形成されている場合、シーラント層を形成する多層のうち、シーラント層の第二の接着剤層又は接着性樹脂層とは反対側の面を主面として有する層(シーラント層の最内層)が、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体を含有し、且つ、(B)相溶系エラストマー及び(C)非相溶系エラストマーを含有しない樹脂組成物、又は、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体及び(B)相溶系エラストマーを含有し、且つ、(C)非相溶系エラストマーを含有しない樹脂組成物により形成された層であることが好ましい。この場合、シーラント層の最内層において、冷間成型時のクラックの発生がより抑制されることにより、電解液の金属箔層側への浸透がより抑制され、成型後の絶縁性をより向上することができる。多層構造のシーラント層の最内層に用いる樹脂組成物において、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体、(B)相溶系エラストマー及び(C)非相溶系エラストマーとしては、上述したものと同一のものを用いることができる。
シーラント層16が2層から形成される場合、図3に示す蓄電装置用外装材30のように、シーラント層16は、金属箔層13側の第一のシーラント層16a、及び、シーラント層16の最内層である第二のシーラント層16bを含む。
蓄電装置用外装材30において、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール強度を含む電解液が関与するヒートシール特性をより向上する観点から、第一のシーラント層16aが、(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体を60〜95質量%と、(B)相溶系エラストマー及び/又は(C)非相溶系エラストマーを合計で5〜40質量%と、を含有する樹脂組成物により形成された層であり、該樹脂組成物において、(B)相溶系エラストマーの含有量に対する(C)非相溶系エラストマーの含有量の質量比が0〜1であり、(B)相溶系エラストマーと(C)非相溶系エラストマーとが共通のコモノマー成分を有することが好ましい。この場合、電解液が関与するヒートシール特性をより向上する観点から、第一のシーラント層16aに用いる樹脂組成物において、(B)相溶系エラストマーの含有量に対する(C)非相溶系エラストマーの含有量の質量比は、0.3〜1であることがより好ましく、0.5〜1であることが更に好ましい。
第一のシーラント層16a及び第二のシーラント層16b以外の蓄電装置用外装材30の構成は、蓄電装置用外装材10と同様である。蓄電装置用外装材30における第一のシーラント層16a及び第二のシーラント層16bの厚さは、特に限定されないが、絶縁性向上の観点から、第二のシーラント層16bの厚さは、第一のシーラント層16aの厚さ以上であることが好ましい。
また、図1、図2及び図3では、第一の接着剤層12を介して基材層11と金属箔層13とが接着されている場合を示したが、第一の接着剤層12を介さずに、コーティング法により金属箔層13上に基材層11が直接形成されていてもよい。本明細書中、このようにコーティング法により金属箔層13上に直接形成された基材層を被覆層と言う。なお、金属箔層13の被覆層側の面には、腐食防止処理層14が形成されていてもよい。以下、被覆層について説明する。
<被覆層>
被覆層は、蓄電装置を製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、加工や流通の際に起こり得るピンホールの発生を抑制する役割を果たす。
被覆層は樹脂で形成され、金属箔層13の一方の面に、接着剤等を介さずに直接形成されている。このような被覆層の形成は、被覆層となる樹脂材料を金属箔層13上に塗布または塗工することにより形成することができる。
被覆層を形成する樹脂材料としては、ポリエステル、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂などを用いることができ、中でもウレタンアクリレートが好ましい。これは、ウレタンアクリレートからなる塗膜が好適な延展性を有するからである。これらの樹脂材料を含む塗工液として、2液硬化型の塗工液が用いられてもよい。
被覆層の厚さは、3μm〜30μmが好ましく、5μm〜20μmがより好ましい。被覆層は、金属箔層13上に直接形成されるため、被覆層の厚さを20μm以下とすることで、従来の外装材よりも薄い構成とすることも容易である。
[外装材の製造方法]
次に、図1に示す外装材10の製造方法の一例について説明する。なお、外装材10の製造方法は以下の方法に限定されない。
本実施形態の外装材10の製造方法は、金属箔層13に腐食防止処理層14を積層する工程と、基材層11と金属箔層13とを貼り合わせる工程と、接着性樹脂層15およびシーラント層16をさらに積層して積層体を作製する工程と、必要に応じて、得られた積層体を熱処理する工程とを含んで概略構成されている。
(金属箔層13への腐食防止処理層14の積層工程)
本工程は、金属箔層13に対して、腐食防止処理層14を形成する工程である。その方法としては、上述したように、金属箔層13に脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理を施したり、腐食防止性能を有するコーティング剤を塗工したりする方法などが挙げられる。
また、腐食防止処理層14が多層の場合は、例えば、下層側(金属箔層13側)の腐食防止処理層を構成する塗工液(コーティング剤)を金属箔層13に塗工し、焼き付けて第一層を形成した後、上層側の腐食防止処理層を構成する塗工液(コーティング剤)を第一層に塗工し、焼き付けて第二層を形成すればよい。また、第二層は、後述する接着性樹脂層15およびシーラント層16の積層工程において形成することもできる。
脱脂処理についてはスプレー法または浸漬法にて、熱水変成処理や陽極酸化処理については浸漬法にて、化成処理については化成処理のタイプに応じ、浸漬法、スプレー法、コート法などを適宜選択して行えばよい。
腐食防止性能を有するコーティング剤のコート法については、グラビアコート、リバースコート、ロールコート、バーコートなど各種方法を用いることが可能である。
上述したように、各種処理は金属箔の両面または片面のどちらでも構わないが、片面処理の場合、その処理面は接着性樹脂層15が積層する側に施すことが好ましい。なお、要求に応じて、基材層11の表面にも上記処理を施してもよい。
また、第一層及び第二層を形成するためのコーティング剤の塗布量はいずれも、0.005〜0.200g/m2が好ましく、0.010〜0.100g/m2がより好ましい。
また、乾燥キュアが必要な場合は、用いる腐食防止処理層14の乾燥条件に応じて、母材温度として60〜300℃の範囲で行うことができる。
(基材層11と金属箔層13との貼り合わせ工程)
本工程は、腐食防止処理層14を設けた金属箔層13と、基材層11とを、第一の接着剤層12を介して貼り合わせる工程である。貼り合わせの方法としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ウエットラミネーションなどの手法を用い、上述した第一の接着剤層12を構成する材料にて両者を貼り合わせる。第一の接着剤層12は、ドライ塗布量として1〜10g/m2の範囲、より好ましくは3〜7g/m2の範囲で設ける。
(接着性樹脂層15およびシーラント層16の積層工程)
本工程は、先の工程により形成された腐食防止処理層14上に、接着性樹脂層15およびシーラント層16を形成する工程である。その方法としては、押出ラミネート機を用いて接着性樹脂層15をシーラント層16と共にサンドラミネーションする方法が挙げられる。さらには、接着性樹脂層15とシーラント層16とを押出すタンデムラミネート法、共押出法でも積層可能である。
本工程により、図1に示すような、基材層11/第一の接着剤層12/金属箔層13/腐食防止処理層14/接着性樹脂層15/シーラント層16の順で各層が積層された積層体が得られる。
なお、接着性樹脂層15は、上述した材料配合組成になるように、ドライブレンドした材料を直接、押出ラミネート機により積層させてもよいし、あるいは事前に単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダーミキサーなどの溶融混練装置を用いてメルトブレンドを施した後の造粒した接着性樹脂層15を押出ラミネート機を用いて積層させてもよい。
また、多層の腐食防止処理層14を形成する場合、押出ラミネート機にアンカーコート層を塗工することが可能なユニットを備えていれば、該ユニットにて腐食防止処理層14の第二層を塗工してもよい。
(熱処理工程)
本工程は、積層体を熱処理する工程である。積層体を熱処理することで、金属箔層13/腐食防止処理層14/接着性樹脂層15/シーラント層16間での密着性を向上させ、より優れた耐電解液性や耐フッ酸性を付与することができ、また、接着性樹脂層15及びシーラント層16の結晶化を制御し、成型後の絶縁性を向上する効果も得られる。従って本工程では、上述した各層間での密着性を向上させるとともに、接着性樹脂層15及びシーラント層16の結晶化に適した熱処理を行うのが好ましい。
このようにして、図1に示すような、本実施形態の外装材10を製造することができる。
次に、図2に示す外装材20の製造方法の一例について説明する。なお、外装材20の製造方法は以下の方法に限定されない。
本実施形態の外装材20の製造方法は、金属箔層13に腐食防止処理層14を積層する工程と、基材層11と金属箔層13とを貼り合わせる工程と、第二の接着剤層17を介してシーラント層16をさらに積層して積層体を作製する工程と、必要に応じて、得られた積層体をエージング処理する工程とを含んで概略構成されている。なお、基材層11と金属箔層13とを貼り合わせる工程までは、上述した外装材10の製造方法と同様に行うことができる。
(第二の接着剤層17およびシーラント層16の積層工程)
本工程は、金属箔層13の腐食防止処理層14側に、第二の接着剤層17を介してシーラント層16を貼り合わせる工程である。貼り合わせの方法としては、ウェットプロセス、ドライラミネーション等が挙げられる。
ウェットプロセスの場合は、第二の接着剤層17を構成する接着剤の溶液又は分散液を、腐食防止処理層14上に塗工し、所定の温度(接着剤が酸変性ポリオレフィン樹脂を含む場合は、その融点以上の温度)で溶媒を飛ばし、焼き付けを行う。その後、シーラント層16を積層し、外装材20を製造する。塗工方法としては、先に例示した各種塗工方法が挙げられる。
(エージング処理工程)
本工程は、積層体をエージング(養生)処理する工程である。積層体をエージング処理することで、金属箔層13/腐食防止処理層14/第二の接着剤層17/シーラント層16間の接着を促進させることができる。エージング処理は、室温〜100℃の範囲で行うことができる。エージング時間は、例えば、1〜10日である。
このようにして、図2に示すような、本実施形態の外装材20を製造することができる。
次に、図3に示す外装材30の製造方法の一例について説明する。なお、外装材30の製造方法は以下の方法に限定されない。
本実施形態の外装材30の製造方法は、金属箔層13に腐食防止処理層14を積層する工程と、基材層11と金属箔層13とを貼り合わせる工程と、接着性樹脂層15、第一のシーラント層16aおよび第二のシーラント層16bをさらに積層して積層体を作製する工程と、必要に応じて、得られた積層体を熱処理する工程とを含んで概略構成されている。
(接着性樹脂層15、第一のシーラント層16aおよび第二のシーラント層16bの積層工程)
本工程は、腐食防止処理層14上に、接着性樹脂層15、第一のシーラント層16aおよび第二のシーラント層16bを形成する工程である。その方法としては、押出ラミネート機を用いて接着性樹脂層15と第一のシーラント層16aおよび第二のシーラント層16bとを押出すタンデムラミネート法、共押出法が挙げられる。
このようにして、図3に示すような、本実施形態の外装材30を製造することができる。
以上、本発明の蓄電装置用外装材及びその製造方法の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。なお、基材層11及び第一の接着剤層12の代わりに被覆層を備える蓄電装置用外装材を製造する場合は、上述のように、被覆層となる樹脂材料を金属箔層13上に塗布または塗工することにより被覆層を形成することができる。
本発明の蓄電装置用外装材は、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、及び鉛蓄電池等の二次電池、並びに電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタなどの蓄電装置用の外装材として好適に用いることができる。中でも、本発明の蓄電装置用外装材は、リチウムイオン電池用の外装材として好適である。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
実施例、参考例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
<基材層(厚さ25μm)>
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)とナイロンフィルム(Ny)との共押し出し多層延伸フィルム(グンゼ社製)を用いた。
<第一の接着剤層(厚さ4μm)>
ポリエステルポリオール系主剤に対して、トリレンジイソシアネートのアダクト体系硬化剤を配合したポリウレタン系接着剤(東洋インキ社製)を用いた。
<第一の腐食防止処理層(基材層側)>
後述するシーラント層側の第二の腐食防止処理層と同一とした。
<金属箔層(厚さ40μm)>
焼鈍脱脂処理した軟質アルミニウム箔(東洋アルミニウム社製、「8079材」)を用いた。
<第二の腐食防止処理層(シーラント層側)>
(CL−1):溶媒として蒸留水を用い、固形分濃度10質量%に調整した「ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル」を用いた。なお、ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルは、酸化セリウム100質量部に対して、リン酸のNa塩を10質量部配合して得た。
(CL−2):溶媒として蒸留水を用い固形分濃度5質量%に調整した「ポリアリルアミン(日東紡社製)」90質量%と、「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製)」10質量%からなる組成物を用いた。
(CL−3):溶媒として1質量%濃度のリン酸水溶液を用い、固形分濃度1質量%に調整した水溶性フェノール樹脂(住友ベークライト社製)に対し、フッ化クロム(CrF3)を最終乾燥皮膜中に存在するCr量として10mg/m2となるように濃度を調整した化成処理剤を用いた。
<接着性樹脂層>
以下の材料の混合物を質量比でAR−1:AR−2:AR−3=3:1:1となるように混合して用いた。
(AR−1):非相容系ゴムとしてエチレン−プロピレンゴムを配合したランダムポリプロピレン(PP)ベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物(三井化学社製)を用いた。
(AR−2):アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(住友化学社製、「タフセレンH」)を用いた。
(AR−3):アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(三井化学社製、「タフマーXM」)を用いた。
<第二の接着剤層(厚さ3μm)>
トルエンに溶解させた無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、イソシアヌレート構造のポリイソシアネート化合物を10質量部(固形分比)で配合した接着剤を用いた。
<シーラント層>
下記表1に示す各成分を同表に示す配合量(単位:質量部)で混合した樹脂組成物(SL−1〜SL−12)を用いた。なお、各成分の詳細を以下に示す。
・(A)成分
(ランダムPP):融点140℃のプロピレン−エチレンランダム共重合体(プライムポリマー社製、「プライムポリプロ」)。
・(B)成分
(プロピレン−1−ブテン):(A)成分に対して相溶性を有する、融点75℃のプロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマー(三井化学社製、「タフマーXM」)。
(水添スチレン系エラストマー):(A)成分に対して相溶性を有する、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)。
・(C)成分
(エチレン−1−ブテン):(A)成分に対して相溶性を有さない、融点70℃のエチレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマー(住友化学社製、「エクセレン」)。
(スチレン系エラストマー):(A)成分に対して相溶性を有さない、スチレン−ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)。
[参考例1]
まず、金属箔層に、第一及び第二の腐食防止処理層を以下の手順で設けた。すなわち、金属箔層の両方の面に(CL−1)を、ドライ塗布量として70mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工し、乾燥ユニットにおいて200℃で焼き付け処理を施した。次いで、得られた層上に(CL−2)を、ドライ塗布量として20mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工することで、(CL−1)と(CL−2)からなる複合層を第一及び第二の腐食防止処理層として形成した。この複合層は、(CL−1)と(CL−2)の2種を複合化させることで腐食防止性能を発現させたものである。
次に、第一及び第二の腐食防止処理層を設けた金属箔層の第一の腐食防止処理層側をドライラミネート手法により、ポリウレタン系接着剤(第一の接着剤層)を用いて基材層に貼りつけた。これを押出ラミネート機の巻出部にセットし、第二の腐食防止処理層上に290℃、100m/分の加工条件で共押出しすることで接着性樹脂層(厚さ12μm)、シーラント層(厚さ23μm)の順で積層した。なお、接着性樹脂層及びシーラント層は、事前に二軸押出機を用いて各種材料のコンパウンドを作製しておき、水冷・ペレタイズの工程を経て、上記押出ラミネートに使用した。シーラント層の形成には、樹脂組成物(SL−1)を用いた。
このようにして得られた積層体を、該積層体の最高到達温度が190℃になるように、熱ラミネーションにより熱処理を施して、参考例1の外装材(基材層/第一の接着剤層/第一の腐食防止処理層/金属箔層/第二の腐食防止処理層/接着性樹脂層/シーラント層の積層体)を製造した。
[参考例2〜4及び実施例5〜7]
シーラント層の形成に用いた樹脂組成物を、(SL−2)〜(SL−7)(いずれも厚さ23μm)にそれぞれ変更した以外は参考例1と同様にして、参考例2〜4及び実施例5〜7の外装材を製造した。
[実施例8]
参考例1と同様にして、基材層/第一の接着剤層/第一の腐食防止処理層/金属箔層/第二の腐食防止処理層の積層体を作製した。これを押出ラミネート機の巻出部にセットし、第二の腐食防止処理層上に290℃、100m/分の加工条件で共押出しすることで接着性樹脂層(厚さ10μm)、第一のシーラント層(金属箔層側、厚さ10μm)、第二のシーラント層(最内層、厚さ15μm)を積層した。なお、接着性樹脂層、第一のシーラント層及び第二のシーラント層は、事前に二軸押出機を用いて各種材料のコンパウンドを作製しておき、水冷・ペレタイズの工程を経て、上記押出ラミネートに使用した。第一のシーラント層の形成には、樹脂組成物(SL−5)を用い、第二のシーラント層の形成には、樹脂組成物(SL−2)を用いた。
[実施例9]
第一のシーラント層の形成に用いた樹脂組成物を(SL−7)(厚さ10μm)に変更したこと以外は実施例8と同様にして、実施例9の外装材を製造した。
[参考例10]
接着性樹脂層の厚さを10μm、シーラント層の厚さ20μmに変更した以外は参考例2と同様にして、参考例10の外装材を製造した。
[参考例11]
参考例1と同様にして、基材層/第一の接着剤層/第一の腐食防止処理層/金属箔層/第二の腐食防止処理層の積層体を作製した。次に、第二の腐食防止処理層上にドライラミネート手法により、ドライ塗工量4〜5g/m2で接着剤(第二の接着剤層)を塗工し、乾燥及び造膜後、シーラント層を貼り付けた。シーラント層は、樹脂組成物(SL−2)を用いて厚さ30μmに製膜し、接着剤貼り合わせ面にコロナ処理を施した未延伸キャストフィルムを用いた。その後、40℃で5日間のエージングを行い、参考例11の外装材(基材層/第一の接着剤層/第一の腐食防止処理層/金属箔層/第二の腐食防止処理層/第二の接着剤層/シーラント層の積層体)を製造した。
[参考例12]
第一及び第二の腐食防止処理層を以下の手順で設けたこと以外は参考例2と同様にして、参考例12の外装材を製造した。参考例12では、金属箔層の両方の面に(CL−3)を、ドライ塗布量として30mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工し、乾燥ユニットにおいて200℃で焼き付け処理を施した。次いで、得られた層上に(CL−2)を、ドライ塗布量として20mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工することで、(CL−3)と(CL−2)からなる複合層を第一及び第二の腐食防止処理層として形成した。この複合層は、(CL−3)と(CL−2)の2種を複合化させることで腐食防止性能を発現させたものである。
[参考例13]
第一及び第二の腐食防止処理層を以下の手順で設けたこと以外は参考例11と同様にして、参考例13の外装材を製造した。参考例13では、金属箔層の両方の面に(CL−3)を、ドライ塗布量として30mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工し、乾燥ユニットにおいて200℃で焼き付け処理を施した。次いで、得られた層上に(CL−2)を、ドライ塗布量として20mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工することで、(CL−3)と(CL−2)からなる複合層を第一及び第二の腐食防止処理層として形成した。この複合層は、(CL−3)と(CL−2)の2種を複合化させることで腐食防止性能を発現させたものである。
[参考例14]
接着性樹脂層の厚さを13μm、シーラント層の厚さ27μmに変更した以外は参考例2と同様にして、参考例14の外装材を製造した。
[実施例15]
接着性樹脂層の厚さを13μm、シーラント層の厚さ27μmに変更した以外は実施例5と同様にして、実施例15の外装材を製造した。
[参考例16]
接着性樹脂層の厚さを15μm、シーラント層の厚さ30μmに変更した以外は参考例2と同様にして、参考例16の外装材を製造した。
[実施例17]
接着性樹脂層の厚さを15μm、シーラント層の厚さ30μmに変更した以外は実施例5と同様にして、実施例17の外装材を製造した。
[参考例18]
接着性樹脂層の厚さを27μmに変更し、シーラント層の厚さを53μmに変更した以外は参考例2と同様にして、参考例18の外装材を製造した。
[実施例19]
接着性樹脂層の厚さを27μmに変更し、シーラント層の厚さを53μmに変更した以外は実施例5と同様にして、実施例19の外装材を製造した。
[比較例1〜5]
シーラント層の形成に用いた樹脂組成物を、(SL−8)〜(SL−12)(いずれも厚さ23μm)にそれぞれ変更した以外は参考例1と同様にして、比較例1〜5の外装材を製造した。
<評価>
実施例、参考例及び比較例で得られた外装材に対し、以下の評価試験を行った。
(電解液ラミネート強度)
エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(質量比)の混合溶液にLiPF6を1Mになるように加えた電解液をテフロン(登録商標)容器に充填し、その中に外装材を15mm×100mmにカットしたサンプルを入れ、密栓後85℃、24時間で保管した。その後、共洗し、金属箔層/接着性樹脂層間又は金属箔層/第二の接着剤層間のラミネート強度(T形はく離強さ)を、試験機(INSTRON社製)を用いて測定した。試験は、JIS K6854に準じて、23℃、50%RH雰囲気下、剥離速度50mm/minで行った。その結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:ラミネート強度が9N/15mm超
B:ラミネート強度が7N/15mm以上、9N/15mm以下
C:ラミネート強度が5N/15mm以上、7N/15mm未満
D:ラミネート強度が5N/15mm未満
(電解液ヒートシール強度)
外装材を60mm×120mmにカットしたサンプルを2つに折り畳み、1辺を10mm幅のシールバーで190℃、0.5MPa、3secで熱封緘した。その後、残りの2辺も熱封緘し袋状になった外装材に、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(質量比)の混合溶液にLiPF6を1Mになるように加えた電解液を2ml注入したパウチを60℃で24時間保管後、熱封緘1辺目を15mm幅にカットし(図4を参照)、シール強度(T形はく離強さ)を、試験機(INSTRON社製)を用いて測定した。試験は、JIS K6854に準じ、23℃、50%RH雰囲気下、剥離速度50mm/minで行った。その結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:シール強度が80N/15mm以上、バースト幅が5mm超
B:シール強度が80N/15mm以上、バースト幅が3〜5mm
C:シール強度が60N/15mm以上、80N/15mm未満
D:シール強度が60N/15mm未満
(デガッシングヒートシール強度)
外装材を75mm×150mmにカットしたサンプルを37.5mm×150mmに2つ折りにした後(図5(a)を参照)、150mm辺と37.5mm辺の一方をヒートシールし、製袋する。その後、パウチ内に、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(質量比)の混合溶液にLiPF6を1Mになるように加えた電解液を5ml注液し、37.5mm辺の他方をヒートシールして、シール部S1により密封されたパウチを得た。次いで、このパウチを60℃で24時間保管した後、電解液を含んだ状態でパウチ中央部を190℃、0.3MPa、2secでヒートシールした(デガッシングシール部S2、図5(b)を参照)。シール部を安定化させるため、常温で24時間保管後、デガッシングシール部S2を含む領域を15mm幅にカットし(図5(c)を参照)、ヒートシール強度(T形はく離強さ)を、試験機(INSTRON社製)を用いて測定した。試験は、JIS K6854に準じて、23℃、50%RH雰囲気下、剥離速度50mm/minで行った。その結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:シール強度が60N/15mm以上
B:シール強度が40N/15mm以上、60N/15mm未満
C:シール強度が30N/15mm以上、40N/15mm未満
D:シール強度が30N/15mm未満
(成型後の絶縁性)
外装材を120mm×200mmにカットしたサンプル40を、シーラント層が成型機の凸部に接するように冷間成型用金型にセットし、成型速度15mm/secで2.5mmの深絞りを行って深絞り部41を形成した後、120mm×100mmに2つ折りにした(図6(a)を参照)。次いで、タブ42とタブシーラント43とを間に挟んだ状態で100mmの上辺部44をヒートシールした後(図6(b)を参照)、120mmの側辺部45をヒートシールして製袋した(図6(c)を参照)。その後、電極を接触させるために、サンプル40の外層の一部を削って金属箔層の露出部46を形成した(図6(d)を参照)。次いで、パウチ内に、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(質量比)の混合溶液にLiPF6を1Mになるように加えた電解液を5ml注液し、100mmの下辺部47をヒートシールにて封止した(図6(e)を参照)。その後、タブ42と金属箔層の露出部46に電極48a,48bをそれぞれ接続し、耐電圧・絶縁抵抗試験器(KIKUSUI製、「TOS9201」)を用いて25Vを印加し、そのときの抵抗値を測定した(図6(f)を参照)。金型には、成型エリアが80mm×70mm(角筒型)、パンチコーナーラジアス(RCP)が1.0mmのものを用いた。その結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:抵抗値が200MΩ超
B:抵抗値が100MΩ以上200MΩ以下
C:抵抗値が30MΩ以上100MΩ未満
D:抵抗値が30MΩ未満
(総合品質)
上記各評価の結果を表2に示す。下記表2において、各評価結果にD評価がないものは、総合的な品質が優れていると言える。
表2に示した結果から明らかなように、シーラント層を形成する樹脂組成物として(SL−1)〜(SL−7)を用いた実施例5〜9、15、17、19及び参考例1〜4、10〜14、16、18の外装材は、成型後の絶縁性及び電解液が関与するラミネート強度及びシール強度(電解液ラミネート強度、電解液ヒートシール強度及びデガッシングヒートシール強度)に優れることが確認された。一方、比較例1、2、4及び5の外装材は、電解液が関与するラミネート強度及びシール強度は良好であるものの、成型後の絶縁性に劣ることが確認された。また、比較例3の外装材は、成型後の絶縁性は良好であるものの、デガッシングヒートシール強度に劣ることが確認された。