以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、プレキャスト構造体1を示す斜視図である。なお、図1においては、後述する緊張材等の図示を省略する。
プレキャスト構造体1は、複数のセグメント3からなる。なお、図示した例では、プレキャスト構造体1が、4つのセグメント3からなる例を示すが、複数のセグメント3から構成されれば、セグメント3の個数は限定されない。また、各セグメント3の長手方向の連結数は、図示した例には限られない。なお、プレキャスト構造体1が、4つのセグメント3からなる場合には、セグメント3の連結位置は、水平方向に対して±45°の位置に配置することが望ましい。例えば、地下にプレキャスト構造体1を埋設した際に、土圧によるモーメント分布を考慮すると、水平方向に対して±45°の位置が、モーメントの符号が変わる部位となり、最もモーメントの小さな部位となるためである。
図2(a)はセグメント3の正面図、図2(b)はセグメント3の平面図である。また、図3(a)は、図2(a)のA−A線断面図である。セグメント3は、コンクリート製であり、シールドトンネルに用いられるセグメントとほぼ同様の外形を有する。すなわち、セグメント3は、互いに対向する円弧状(アーチ形状)の曲面と、曲面同士を接続する側面とからなる。セグメント3を複数個周方向に連結することで、リング状のプレキャスト構造体1を形成することができる。すなわち、セグメント3で構成されるプレキャスト構造体1は、アーチ形状を有する。
セグメント3は、幅方向(図2(b)の上下方向)にわたって孔11が設けられ、内部には、後述する緊張部材が挿通される。すなわち、緊張部材は、セグメント3の幅方向に貫通する。また、セグメント3の周方向(図2(b)の左右方向)には、セグメント3の湾曲形状に沿って孔12が形成され、内部に後述する緊張部材が挿通される。すなわち、緊張部材は、セグメント3の周方向に貫通する。このように、セグメント3同士を周方向および幅方向に連結した際にプレストレスを付与することが可能な、緊張材用の孔11、12がセグメント3の周方向および幅方向に設けられている
セグメント3の緊張部材以外の部位には、発泡体15が埋設される。発泡体15は、発泡スチロールなどの軽量な樹脂製である。すなわち、セグメント3を構成するコンクリートの内部には、中空部が形成され、中空部には発泡体15が設けられる。なお、本発明におけるセグメント3内部の中空部とは、コンクリートの無い部位を指し、コンクリートの内部に他の部材が埋設されている場合も、中空部と称する。
図3(a)に示すように、発泡体15の四隅近傍には、緊張部材が挿通される孔12が設けられ、発泡体15の周囲を覆うように鉄筋10がセグメント3の周方向に沿って配置される。なお、図示した状態では、孔12に緊張部材27が挿通された状態を示す。セグメント3は、コンクリート製の外殻の内部に、鉄筋10、発泡体15等を所定の位置に配置した状態で、コンクリートを空隙に充填して箱抜きすることで形成される。このようなセグメント3は、内部まで中実のコンクリート製の部材と比較して、軽量化することができる。
このように、コンクリートの圧縮およびせん断に対しては、コンクリート断面として余裕があるため、中空にしても問題がない。一方、コンクリートの引張に対しては、引張りに抵抗する鉄筋の配置が可能なだけの、コンクリート部材としての部材高さ(部材厚さ)を確保できればよい。
なお、図3(b)に示すように、複数のパイプ15aを埋設することで、コンクリートの中空部を形成してもよい。パイプ15aは、例えばワインディングパイプであり、パイプ15a等を配置した状態でコンクリートを充填して箱抜きすることで、セグメント3を形成することができる。
このように、セグメント3の内部に、コンクリートの中空部が設けられるため、セグメント3を軽量化することができる。このため、運搬や取扱いが容易である。また、セグメントを軽量化できるため、同じ重量制限の場合においては、セグメント3のサイズを大きくすることができる。この結果、大型の構造物に適用が可能である。また、セグメント3の幅を広くすることができるため、使用するセグメント3の個数を減らすことができる。この結果、接続部の数を減らして、止水性を向上することができるとともに、組み立て工数を削減することができる。
なお、本発明では、コンクリートの中空部を有するセグメントであれば中空部の形成方法については、前述した発泡体15やパイプ15aに限定されない。
図4(a)は、プレキャスト構造体1の正面図である。前述した様に、複数のセグメント3を周方向に連結することで、プレキャスト構造体1はリング状となる。さらに、リング状のセグメント連結体同士を幅方向(プレキャスト構造体1の長手方向)に連結することで、プレキャスト構造体1が形成される。
なお、セグメント3の幅方向の両側面には、止水部材9a、9bが設けられる。すなわち、セグメント3は、止水部材9a、9bを介して連結される。また、セグメント3の周方向の両側面にも、図示を省略した止水部材が設けられる。すなわち、セグメント3同士の連結面には止水部材が設けられ、セグメント3同士は、周方向および長手方向に止水部材を介して連結される。
セグメント3の幅方向(プレキャスト構造体1の長手方向)の連結には、緊張部材5が用いられる。図5は、図4のB−B線断面図である。孔11は、セグメント3の厚み方向の略中央に設けられる。孔11には、緊張部材5が挿通される。緊張部材5は、複数のセグメント3を貫通する。
一部またはすべてのセグメント3は、内面側に孔11が露出する開口部が設けられる。したがって、開口部において、内部の緊張部材5が露出する。緊張部材5の端部は、アンカープレート17によって、セグメント3の開口部に定着される。また、さらに、緊張部材5の端部にはカプラースリーブ19が設けられ、カプラージョイント21を介して接続可能である。このため、セグメント3を、長手方向に所定の数だけ連結するたびに、緊張部材5を挿通して、緊張部材5同士を連結することができる。このため、連結されたセグメント3の長手方向の全長にわたってプレストレスを付与することができる。
なお、緊張部材5の緊張と定着は、一つのセグメント3を連結するたびに行ってもよく、複数個のセグメント3が連結されるたびに行ってもよい。
ここで、前述した様に、セグメント3同士の対向面(端面)には、止水部材9a、9bが配置される。このように、連結されたセグメント3の長手方向の全長にわたってプレストレスを付与し、互いの接触面に2重に止水部材9a、9bを配置することで、セグメント3同士の接触面の止水性を確保することができる。
同様に、セグメント3の周方向の連結には、前述した緊張部材27が用いられる。周方向に貫通する緊張部材27によって、セグメント3は周方向に緊張されて連結される。すなわち、周方向に連結されたセグメント3には、周方向にプレストレスが付与される。
前述した様に、セグメント3を周方向に連結すると、プレキャスト構造体1は、略円形となる。このため、いずれの方向からもアーチアクションを利用することができる。このため、プレキャスト構造体1の肉厚を薄くすることができる。
このように、プレキャスト構造体1は、セグメント3が、周方向および長手方向に、止水部材を介して連結され、長手方向および周方向の連結部に、プレストレス力を付与するため、高い止水性を確保することができる。なお、プレキャスト構造体1の形状は、完全な円形でなくてもよく、楕円形など、アーチアクションを利用可能であれば、他の形状であってもよい。
なお、図4(b)に示すように、セグメント3の外周に、緊張部材27aを配置してもよい。すなわち、セグメント3の内部に緊張部材27を挿通するのではなく、セグメント3を周方向に連結した状態のリング状部材の外周に、緊張部材27aを配置して、樽締めしてもよい。この場合には、緊張部材27aは、例えば、エポキシなどの樹脂で被覆された鋼線を使用することができる。
また、図6に示すプレキャスト構造体1aのように、セグメント3の周方向の連結部の一部に、結合突部7を設けてもよい。この場合には、一つまたは複数のセグメントからなる下方のセグメント連結体(図中矢印Dの部位)を下部セグメント3aと称し、複数のセグメントからなる上方のセグメント連結体(図中矢印Cの部位)を上部セグメント3bと称することとする。すなわち、下部セグメント3aおよび上部セグメント3bは、それぞれ、結合突部7を有する。結合突部7は、半円状の下部セグメント3aおよび上部セグメント3bの先端部に、一対形成される。
図7(a)は、図6のE部におけるF矢視図であり、図7(b)は、図7(a)のG−G線断面図である。下部セグメント3aと上部セグメント3bとを対向させて組み合わせると、結合突部7同士が対向して接触する。結合突部7には、上下に貫通する孔23が設けられる。なお、孔23の個数は、図示した例には限られない。
下部セグメント3aの結合突部7の孔23と、上部セグメント3bの結合突部7の孔23とを略直線上に配置した状態で、孔23には、上下の結合突部7を貫通する緊張部材27bが挿通される。周方向に隣接する下部セグメント3aと上部セグメント3bの結合突部7同士の位置を合わせた状態で、緊張部材27bを結合突部7の上下面に定着することで、結合突部7同士が緊張部材27bで緊張される。
ここで、下部セグメント3aと上部セグメント3bの対向面(端面)には、止水部材9c、9dが配置される。このように、周方向に連結された下部セグメント3aと上部セグメント3bを緊張部材27bで緊張して連結し、互いの接触面に2重に止水部材9c、9dを配置することで、下部セグメント3aと上部セグメント3bの接触面の止水性を確保することができる。
また、プレキャスト構造体1aがアーチアクションを利用する際には、プレキャスト構造体1aの外周面側に引張力が付与される。しかし、結合突部7が、下部セグメント3a、上部セグメント3bの外周面に配置されるため、連結が容易であるのみではなく、プレキャスト構造体1aの外周面側に圧縮力を付与することができる。このため、下部セグメント3aと上部セグメント3bの接続部が開くことがなく、高い止水性を確保することができる。
以上のように、本実施形態のプレキャスト構造体1、1aによれば、プレキャスト構造体が、アーチ形状を有する複数のセグメント3からなるため、アーチアクションを利用することで部材を薄くすることができる。このため、工期を大幅に短縮することができる。
次に、プレキャスト構造体1aを用いた、地下構造物の施工方法について説明する。なお、地下構造物には、プレキャスト構造体1を用いてもよい。この場合には、現場で全てのセグメント3を組み立ててもよく、予め一部またはすべてのセグメント3を連結して、リング状または半リング状の部材を現場で組み立ててもよい。
図8(a)は、下部セグメント3aを配置して連結する工程を示す図である。なお、以下の説明では、山留等の図示を省略する。下部セグメント3aは、予め複数のセグメント3によって構成され、開削部31の下方(地下)に敷設される。図8(a)に示すように、開削部31には、所定の間隔で支保工33が配置される。したがって、下部セグメント3aは、支保工33の隙間からクレーンで吊降ろされる。開削部31の下部には、開削部31の長手方向に沿って、レール35が敷設される。
クレーンによって、レール35上に配置された下部セグメント3aは、ウィンチ37によって、移動可能である(図中矢印H方向)。したがって、下部セグメント3aをすでに設置した下部セグメント3a方向に移動させて、長手方向に連結することができる。この際、下部セグメント3a同士の間には、止水部材9a、9bが配置されて、緊張部材5により緊張される。
所定長の下部セグメント3aの連結が終了すると、次に、図8(b)に示すように、下部セグメント3aの周囲に、流動化処理土39が充填される。
図9は、図8(b)のI−I線断面図である。前述した様に、下部セグメント3aは、円弧上の形状であるため、開削部31の底面との隙間が大きく、流動化処理土39の充填が容易である。また、この際、下部セグメント3aの内部にも流動化処理土39が所定量の流動化処理土39が充填される。このようにすることで、下部セグメント3a(プレキャスト構造体)の浮き上がりを防止することができるとともに、下部セグメント3a内の足場を確保することができる。このように設置された下部セグメント3aの少なくとも一部が流動化処理土39によって埋め戻される。
次に、図10(a)に示すように、予め複数のセグメント3によって構成される上部セグメント3bを吊降ろす。この際、図10(b)に示すように、下部セグメント3a内部の流動化処理土39上には、レール35が敷設され、さらに、レール35上には、架台41が設置される。したがって、架台41は、レール35に沿って、開削部31の長手方向に移動可能である。
クレーンによって、架台41上に上部セグメント3bを吊降ろすと、ウィンチ37によって、上部セグメント3bが載置された架台41を、すでに設置した上部セグメント3b方向に移動させて、下部セグメント3a同士を長手方向に連結することができる。この際、上部セグメント3b同士の間には、止水部材9a、9bが配置され、緊張部材5により緊張される。
また、上部セグメント3bは、下部セグメント3aと連結される。この際、下部セグメント3aと上部セグメント3bの間には、止水部材9c、9dが配置される。このように、下部セグメント3aと上部セグメント3bを周方向および長手方向に連結することでプレキャスト構造体1aが構築される。
図11は、このようにして構築された地下構造物43を示す図である。なお、地下構造物43は、地下トンネルである例を示すが、上下水貯留部や地下駐車場など、プレキャスト構造体の少なくとも一部が地下に埋設されて、地下に構築される構造物であれば、いずれにも適用可能である。また、プレキャスト構造体1、1aは、略円形であってもよく、または、複数の円断面が連結した形態であってもよい。
なお、プレキャスト構造体1aの止水性を確保するためには、図12(a)に示すように、連結部に塗膜45を施してもよい。塗膜45は、例えば超速硬化ポリウレタン樹脂の吹付などによって形成される。例えば、セグメント3同士の長手方向の連結部の外周や、周方向の連結部(結合突部7の連結部)などに塗膜45が施される。
図12(b)は、図12(a)のJ部におけるK−K線断面図である。プレキャスト構造体1aの下方においては、塗膜45の吹付が困難である。このため、下部セグメント3a同士の対向面にさらに防水シート47を挟み込んでもよい。また、塗膜45は、プレキャスト構造体1aの内面側に設けてもよい。このように、塗膜45等を用いれば、止水部材9a、9bなどを用いる場合と比較して、セグメント同士の位置精度が低くても、止水性を確保することができる。
次に、海底トンネルの構築方法について説明する。図13は、トンネル51の長手方向の概略断面図である。トンネル51は、海底トンネル部53と陸上トンネル部55とが連結して構成される。
海底トンネル部53は、海底61の下部に埋設される。海底トンネル部53と陸上トンネル部55とは接続部59で接続される。接続部59は、例えば、換気塔を兼ねる。本発明のトンネル51は、少なくとも海底トンネル部53が、複数のプレキャスト構造体57が連結されて構成される。プレキャスト構造体57は、例えば、プレキャスト構造体1の端面の開口部が塞がれたものである。なお、プレキャスト構造体57は、略円形であってもよく、または、複数の円断面が連結した形態であってもよい。
プレキャスト構造体57は、海底61に埋設される。例えば、プレキャスト構造体57は、砕石で埋設される。この場合、海底61を所定深さまで掘削した後、所定の厚みで砕石を配置し、その上にプレキャスト構造体57を沈設した後、プレキャスト構造体57の全体を砕石で埋設すればよい。また、必要に応じて、砕石を敷設する下部の地盤に対して地盤改良を行ってもよい。
次に、トンネル51の施工方法について詳細に説明する。まず、図14(a)に示すように、海底トンネル部53が施工される海底トンネル施工範囲53aと、陸上トンネル部55が施工される陸上トンネル施工範囲55aとの間に、鋼管矢板筒79を施工する。鋼管矢板筒79は、複数の鋼管矢板が連結されて形成される。なお、鋼管矢板筒79は、海底トンネル部53と陸上トンネル部55との接続部59(図13参照)よりも深く形成される。
鋼管矢板筒79で囲まれた内部の地盤は掘削されて、所定の深さに底版83が施工される。底版83は、接続部59(図13参照)が施工される部位である。すなわち、底版83は、海底トンネル部53と、陸上トンネル部55とが接続される部位よりも深い位置に形成される。
鋼管矢板筒79よりも陸側である陸上トンネル施工範囲55aの所定の範囲には製作ヤード89が施工される。製作ヤード89は、陸上トンネル施工範囲55aの一部の地盤を開削することで形成される。製作ヤード89の深さは、水面よりも低ければ、陸上トンネルを施工する深さまで開削する必要はない。すなわち、製作ヤード89は、陸上トンネル施工範囲55aの全体を利用して形成してもよく、陸上トンネル施工範囲55aの一部のみを利用して陸上トンネル施工範囲55aよりも小さい範囲に形成してもよい。なお、前述した底版83の施工は、製作ヤード89の施工と同時に行ってもよい。
製作ヤード89は鋼管矢板筒79まで形成される。製作ヤード89の側面には、山留が設けられる。すなわち、山留は鋼管矢板筒79に接合される。また、鋼管矢板筒79の一部を切除して、プレキャスト構造体57の通路を形成する。すなわち、製作ヤード89と海とが連通する。なお、鋼管矢板筒79の海に面した面には、ゲート85が形成されるため、ゲート85よりも陸側の製作ヤード89へ海水が流入することが防止される。
ドライドッグとして機能する製作ヤード89において、プレキャスト構造体57が組み立てられる。なお、プレキャスト構造体57の内部には、例えばバラストが設けられる。また、プレキャスト構造体57の両端部は塞がれる。
プレキャスト構造体57の組み立てが完了すると、図14(b)に示すように、ゲート85を開き、製作ヤード89内に、海水を導入する。なお、ゲート85の素材は、例えば鉄やコンクリート(プレキャスト)などであり、ゲート85は、大型重機などで引き上げる方法や、仮設水門のような方法で開閉される。
海面に浮上したプレキャスト構造体57は、曳航船によって海側に曳航される(図中矢印O)。すなわち、プレキャスト構造体57は、製作ヤード89から沈設場所の海上まで曳航されて移動する。なお、ゲート85は、図示したように、上下に移動させる形態ではなく、両開きなどの形態でも良い。
海上に曳航されたプレキャスト構造体57は、沈設場所まで曳航される。この際、前述した様に、プレキャスト構造体57の沈設場所の海底61は、予め所定の深さまで掘削されて、前述した様に砕石が敷設される。なお、海底61を掘削して砕石が敷設された底を、海底61aとする。すなわち、プレキャスト構造体57は海底61aに沈設される。
プレキャスト構造体57を沈設場所まで曳航した後、バラストに水を導入し、プレキャスト構造体57を沈設する。以上により、所望の場所の海底61aにプレキャスト構造体57を沈設することができる。なお、この時点で、例えばプレキャスト構造体57の通路部分(上部)を除いて、底版83上に例えばケーソン等によって、接続部59(図13参照)の一部を構築してもよい。
以上のプレキャスト構造体57の製造、曳航および沈設を繰り返す。複数のプレキャスト構造体57を沈設した後、隣り合うプレキャスト構造体57同士を接続する。なお、プレキャスト構造体57同士の接続には、通常のセグメント同士を連結できれば、いずれの構造であってもよい。また、全てのプレキャスト構造体57が鋼管矢板筒79の部位を通過した後、接続部59(図13参照)を地上まで完成させる。このように、プレキャスト構造体57を沈埋函体として利用することができる。
ここで、従来の箱型の沈埋函体の接続構造には、周囲の変形を吸収するための可撓性機構が設けられる。一方、本発明のプレキャスト構造体57同士の接続部には、可撓性機構は不要である。これは、本発明のプレキャスト構造体57が、多数のセグメント3で構成されるため、環状部材同士の接続部において、わずかに変位を許容することができるためである。例えば、本発明のプレキャスト構造体57は、80〜100の環状部材が長手方向に連結されて構成される。従来の接続構造における可撓性機構が100mm程度の変形を許容するとすれば、本発明では、環状部材同士の接続部でそれぞれ1mm程度に分散して変形を許容できればよいこととなる。このため、沈埋函体同士の接続部には、可撓性機構が不要となる。
この結果、本発明のプレキャスト構造体57を用いた沈埋トンネルは、長手方向において、略一定の剛性となるため、従来のように、接続部で大きな剛性変化部が形成されることがなく、応力集中も生じにくい。
なお、プレキャスト構造体57同士を接続するには、プレキャスト構造体57同士の間にシール部材を挟み込んで水圧接合で行われる。水圧接合は、まず、シール部材が端面に取り付けたプレキャスト構造体57を、他方のプレキャスト構造体57に取り付けられ、図示を省略した引寄せジャッキで引き寄せる。この際、引寄せジャッキの力で、シール部材を圧縮し、止水効果を得る。次に、プレキャスト構造体57の端面とシール部材で囲まれた部分の水を排水すると、プレキャスト構造体57の反対側端面の外部水圧と差圧を生じ、シール部材は更に圧縮量を増し、安全性の高い止水効果が得られる。
プレキャスト構造体57の内面および接続部の内面には、二次覆工が打設される。以上により、プレキャスト構造体57同士の接続が完了する。海底トンネル部53の全長にわたってプレキャスト構造体57を沈設して接合が完了して、プレキャスト構造体57を埋め戻すことで、海底トンネル部53が完成する。
このように、プレキャスト構造体57を連結して構成するため、断面にアーチ形状を容易に形成することができる。したがって、従来のように、ドライドッグにおいて場所打ちで形成される箱型の沈埋函体と比較して、耐外圧特性が向上する。このため、肉厚を薄くすることができる。
また、プレキャスト構造体57の組み立てを行う製作ヤード89として、陸上トンネル施工範囲55aが利用される。このため、沈設場所に近い場所でプレキャスト構造体57を組み立てることができる。また、開削によって形成される製作ヤード89は、その後の陸上トンネル部55の施工にそのまま利用することができる。したがって、無駄がなく、効率よくトンネル51を施工することができる。
次に、陸上トンネル部55の施工方法について説明する。陸上トンネル部55は、前述した開削工法で施工することもできるが、以下のようにして施工することもできる。
まず、陸上トンネル部55の施工領域のほぼ全域を開削して、例えば最端部(海底トンネル部53から遠い側であって、地表に近い側)に新たに製作ヤードを構築する。新たに構築された製作ヤードは、海面よりも低い位置に形成される。また、製作ヤードの海側の端部には、ゲートが設けられる。ゲートによって、製作ヤードへ海水が流入することが防止される。すなわち、ゲートの外側(海側)の陸上トンネル施工範囲55aには、海水が導入される。
ゲートによってドライドッグとして機能する製作ヤードでは、プレキャスト構造体57が組み立てられる。プレキャスト構造体57の組み立てが完了すると、前述の工程と同様に、ゲートを開き、製作ヤード内に、海水を導入する。水面に浮上したプレキャスト構造体57は、曳航船によって海側に曳航される。すなわち、プレキャスト構造体57は、製作ヤードから沈設場所まで曳航される。
プレキャスト構造体57が、陸上トンネル施工範囲55aにおける沈設場所まで水上を移動した後、バラストに水を導入し、プレキャスト構造体57を沈設する。以上により、所望の場所にプレキャスト構造体57を沈設することができる。なお、陸上トンネル部55の端部に設置されるプレキャスト構造体57は、海底トンネル部53と陸上トンネル部55の接続部59に接続される。
以上のプレキャスト構造体57の製造、曳航および沈設を繰り返す。複数のプレキャスト構造体57を沈設した後、隣り合うプレキャスト構造体57同士を接続する。なお、プレキャスト構造体57同士の接続には、海底トンネル部53の施工と同様である。
全てのプレキャスト構造体57の沈設が完了した後、内面および接続部の内面に、二次覆工が打設される。以上により、プレキャスト構造体57同士の接続が完了する。陸上トンネル部55の全長にわたってプレキャスト構造体57を沈設して接合が完了して、プレキャスト構造体57を埋め戻すことで、陸上トンネル部55が完成する。
以上のように、本発明では、陸上トンネル部55についても、プレキャスト構造体57の沈設によって施工することができる。すなわち、シールド工法が利用できないような比較的浅い陸上トンネル部55に対しても、セグメント3を利用した陸上トンネル部55を容易に施工することができる。
次に、プレキャスト構造体57を用いた洋上浮体構造物の例について説明する。図15は、洋上浮体構造物90を示す図である。前述した様に、プレキャスト構造体57は、両端部が塞がれている。このため、プレキャスト構造体57は、全体として比重を1よりも小さくすることが容易である。このため、洋上に浮上させることができる。洋上浮体構造物90として利用する場合には、複数のプレキャスト構造体57が、長手方向に垂直な方向に複数連結される。図示した例では、二つのプレキャスト構造体57が連結される。
このようにして構築された洋上浮体構造物90には、洋上風車などの洋上浮体設備91が設置される。このように、プレキャスト構造体57は、止水性に優れるため、洋上浮体構造物90として利用することもできる。
なお、上述した実施形態では、プレキャスト構造体が、長手方向にセグメント3が略直線状に複数連結されて形成される例を示したが、本発明はこれに限られない。図16は、プレキャスト構造体63を示す平面図である。プレキャスト構造体63は、長手方向に複数のセグメント3が略円環状に連結されて形成される。すなわち、プレキャスト構造体63は、略ドーナツ型である。
プレキャスト構造体63は、長手方向にもリング状であるため、直線状の場合のように、両端部に開口部がなく、開口部を塞ぐ必要はない。なお、図16のL−L線断面図は、図4(a)とほぼ同様になる。プレキャスト構造体63も、セグメント3の周方向(図4(a)の周方向)と、長手方向(図16のリング状の周方向)の両方とも、プレストレスが付与される。このため、止水性が優れる。
図17は、プレキャスト構造体63の使用方法の一例である、洋上浮体構造物90aを示す図である。プレキャスト構造体63は、例えば、水中に沈められて用いられる。なお、プレキャスト構造体63は、全体として比重を1よりも小さくすることができるため、容易に水中では浮いた状態とすることができる。このようにして構築された洋上浮体構造物90aには、洋上風車などの洋上浮体設備91が設置される。
プレキャスト構造体63は、全方向に対してもアーチ効果を得ることができるため、波や水流に対して高い強度を得ることができる。また、中央に穴があるため、波などの揚力を穴から逃がすことができる。なお、プレキャスト構造体63を水中で保持するためには、内部のバラスト調整などによって全体としての比重を調整することもできる。
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。