以下、本発明の実施形態を適宜図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する本発明を実施形態及び実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められる。本発明の主旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
<実施形態1>
(刻印構造の外観)
図1は、本発明の刻印構造1の外観を示したモデル図である。図1に示されるように、刻印構造1は、基材2の基材表面3から基材裏面4の方向に向かって設けられた凹部5に形成されている。図1に示された刻印構造1は、それぞれ「B」、「B」、及び「S」のアルファベットの文字を表わしている。これらの刻印構造1は、基材2の凹部5の底面6に形成されている対象物7が基材2から浮き出しているように見える視覚的効果を有している。刻印構造1は、第1刻印領域10と第2刻印領域20とを備える。例えば、刻印構造1である「B」は、アルファベット「B」の意味を伝達する「ビィー」を表す第1刻印領域10と、アルファベット「B」が浮き出しているように見える視覚的効果を発揮させるための第2刻印領域20とを備える。
以下、刻印構造1が備えている第1刻印領域10と第2刻印領域20について説明する。
(第1刻印領域)
第1刻印領域10は、基材2の凹部5の底面6に対象物7を特定した領域である。第1刻印領域10において、対象物7の特定は、基材2の凹部5の底面6に対象物7の外縁を刻印することにより行われる。第1刻印領域において、刻印される対象物7の形状は、当該対象物7を特定した対象物の形状である。
第1刻印領域10において、刻印される対象物7の形状が基材2から浮き出しているように見える対象である。第1刻印領域10において、刻印される対象物7は、特に限定されない。対象物7は、文字、図形、記号、これらの組み合わせであってもよい。文字は一定の意味を伝達する情報媒体を意味する。文字には、アルファベット、カタカナ、ひらがな、漢字が含まれる。図形は、線描きの図形、絵画を含んで意味する。具体的には、イラスト絵、絵文字、交通標識、地図記号、ロゴマーク等が含まれる。記号は、意味を持った図形を意味する。
対象物7の大きさは、切削等の加工が可能な限り、限定されない。例えば、対象物7が文字である場合、文字幅が1.0〜1000mmであってもよい。対象物7としては、腕時計、置時計の文字盤の文字、メガネのフレーム、食器の模様、自動車用ホイールのスポーク部分に施されるエンブレムを例示することができる。また、対象物としては、広告看板、モニュメント等を例示することができる。
基材2の凹部5は、基材2の基材表面3から基材裏面4の方向に向かって設けられている。第1刻印領域10は、基材2の凹部5の底面6に設けられている。第1刻印領域10に対象物7の形状が刻印されている。第1刻印領域10は、対象物7を特定するために必要な面積を有している。第1刻印領域10の形状は、刻印される対象物7の形状により異なる。第1刻印領域に特定された対象物7は、対象物7の形状を特定するための外縁を有している。
第1刻印領域10は、基材表面3から基材裏面4の方向に深さBDを有する基材2の凹部5の底面6に位置している。基材2の凹部5の深さBDは、第1刻印領域10において特定される対象物7の輪郭幅KWとの相対関係によって決定される。具体的には、凹部5の深さBDは、対象物7の輪郭幅KWに対して、0.005〜0.06であることが好ましい。すなわち、基材2の凹部5の深さBDと対象物7の輪郭幅KWとの関係は、以下の数式によって表される。
図1に示されるように、対象物7の輪郭幅KWは、対象物の外縁と、当該対象物の外縁に対向している外縁とによって形成される輪郭幅である。かかる対向している外縁は、後述する第2刻印領域に隣接している。対象物7の輪郭幅KWは、対象物7の大きさ、形状により異なる。すなわち、対象物7の輪郭幅KWは、横長形状の対象物であっても、縦長形状の対象物であっても、曲線形状を有する対象物であっても、それぞれの対象物に応じた輪郭幅となっている。基材2の凹部5の深さBDは、第2刻印領域と隣接する第1刻印領域の輪郭幅KWとの相対的な関係によって規定されている。そして、凹部5の深さBDを有する面である底面6が第1刻印領域10の基準面である。
基材2の凹部5の深さBDが対象物7の輪郭幅KWに対して、0.005以上であると、第1刻印領域10において刻印される対象物7が明瞭に特定されるため好ましく、0.06以下であると、第1刻印領域10において刻印される対象物7が基材2から浮き出しているように見えることができるため好ましい。
第1刻印領域10は、基材2の凹部5の深さBDの位置する底面6に形成されている。すなわち、刻印構造1は、対象物7の輪郭幅KWに応じて、基材2の凹部5の深さBDを設定し、凹部5に深さBDを有する底面6を形成させ、底面6に対象物7を特定するための第1刻印領域10を備えている。刻印構造1は、第1刻印領域10と、第1刻印領域10に隣接した第2刻印領域20とを備えている。刻印構造1は、第1刻印領域10と、第1刻印領域10に隣接した第2刻印領域20とを備えていることによって、人間の目に光学的な錯覚を起こさせる点に技術的特徴を有している。
第1刻印領域10に対象物7を特定する。底面6の形状が対象物7の形状を特定する形状であってもよい。また、底面6に対象物7の外縁である外形形状を凹部として刻印させてもよい。後者の場合は、対象物7の外縁が「縁取り」されることになり、対象物7がより明確となり、第1刻印領域において際立って特定されることができる。かかる凹部は、基準面となる底面6よりも基材裏面4側に凹んだ形状となっている。
第1刻印領域10において特定された対象物7は、対象物7を特定している外縁である外形形状で囲まれる領域の内部に直線状の溝8を複数備えていてもよい。例えば、図1に示された刻印構造1が備えている第1刻印領域10に設けられた直線状の溝8は、刻印構造1が観察される方向から見て、第2刻印領域20寄りに、角度A30〜60°または120〜150°にて形成されている。これらの直線状の溝8によって、第1刻印領域10において刻印される対象物7が基材2から浮き出しているように見える効果をより増大させることができる。直線状の溝8の本数は、対象物7の輪郭幅により適宜設定することができ、特に限定されるものではない。
直線状の溝8は、凹部形状を有している。当該凹部形状は、同一であっても異なっていてもよい。凹部形状としては、円弧形状、楕円弧形状、テーパ形状等を例示することができる。直線状の溝8は、連続した溝であっても、一定のピッチ(間隔)を持った溝であってもよい。直線状の溝8の幅、当該溝8の深さは、それぞれ後述する第2刻印領域が備えている傾斜部に形成されている溝の幅、溝の深さと同一であってもよい。直線状の溝8の凹部形状としては、第1刻印領域に光のグラデーションが最も形成され易い形状である円弧形状又はテーパ形状が好ましい。直線状の溝8は、直線であってもよいし、波線であってもよいし、一部に曲線を含んでいてもよい。
基材2に採用できる材料としては、基材2に凹部5を設けることができ、凹部5の底面6に第1刻印領域10を設けることができる素材であれば特に限定されない。具体的には、基材2として、金属、プラスチック、ガラス、石材等を採用することができる。
基材2に採用することができる金属としては、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、ステンレス、チタン、金、銀、銅、真鍮等を例示することができる。プラスチックとしては、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を例示することができる。ガラスとしては、ソーダー石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス等を例示することができる。石材としては、大理石、石灰石、三波石、御影石、宝石等を例示することができる。
(第2刻印領域)
第2刻印領域20は、第1刻印領域10において特定された対象物7が基材2から浮き出しているように見えさせるための刻印領域である。刻印構造1は、第1刻印領域10と第2刻印領域20とが相俟って、第1刻印領域10において特定された対象物7が基材2から浮き出しているように見えさせる効果を奏する。かかる効果を「ドロップシャドウ効果」という。また、対象物7が基材2から浮き出しているように見えさせるための刻印領域を「ドロップシャドウ」という。刻印構造1において、第2刻印領域20は、第1刻印領域の「ドロップシャドウ」に相当する。
図2は、「ドロップシャドウ」のオフセット・パターンを示したモデル図である。「ドロップシャドウ」は、第1刻印領域10が基材2から浮き出しているように見えさせる効果を発揮する。「ドロップシャドウ」は、対象物となる文字、図形、記号等の模様につける影である。
具体的には、刻印構造1において、刻印される対象物7の形状が基材2から浮き出しているように見えさせている第2刻印領域20が「ドロップシャドウ」に相当する。なお、ドロップシャドウは、基材表面を頂点とし基材底面に向かっている傾斜部であり、基材表面の凹部に形成されている。
図2(a)に示されるように対象物7である「B」は、アルファベットの意味を伝達する「ビィー」を表す第1刻印領域10と、アルファベットが浮き出しているように見えさせる視覚的効果を発揮させるための第2刻印領域20とを備える。同様に、図2(b)〜(d)に示されるように対象物7である「B」、「S」及び「J」は、それぞれアルファベットの意味を表す第1刻印領域10と、当該アルファベットが浮き出しているように見える視覚的効果を発揮させるための第2刻印領域20とを備える。
図2(a)に示されるように対象物7である第1番目のアルファベット「B」は、「斜め右下」の位置に第2刻印領域20を有している。図2(b)に示されるように対象物7である第2番目のアルファベット「B」は、「斜め右上」の位置に第2刻印領域20を有している。図2(c)に示されるように対象物7である第3番目のアルファベット「S」は、「斜め左下」の位置に第2刻印領域20を有している。図2(d)に示されるように対象物7である第4番目の「J」は、「斜め左上」の位置に第2刻印領域20を有している。なお、刻印構造1において、第2刻印領域20に相当する「ドロップシャドウ」のオフセット・パターンとしては、「上」、「下」、「右」、「左」、「中央」を例示することができる。
図3は、対象物7をアルファベット「B」とする刻印構造100の正面図、及び対象物をアルファベット「B」とする刻印構造100のA−Aにて切断した場合の構造を示した断面図である。
図3(a)は、刻印構造100の正面図である。図3(a)に示されるように対象物をアルファベット「B」とする刻印構造100は、アルファベット「B」が刻印された第1刻印領域200と、「ドロップシャドウ」に相当する第2刻印領域300とを備えている。図3(a)示されたにアルファベット「B」とする刻印構造100は、「斜め右下」の位置に第2刻印領域300を有している。第2刻印領域300は、正面視において、刻印構造100のアルファベット「B」の曲線部分と、アルファベット「B」の底辺部分に沿って形成されている。なお、アルファベット「B」が刻印された第1刻印領域200は、アルファベット「B」を特定している輪郭の内部に複数の直線状の溝220を備えている。溝220は、刻印構造100のアルファベット「B」の下辺を基準として、第2刻印領域300方向に約60°の角度にて傾斜している。
図3(b)に示されるように第2刻印領域300は、基材120の基材表面320を頂点とし、基材120の凹部340の底面360から基材の表面に立ち上がって行く傾斜部380を備えている。刻印構造100は基材120の凹部340に深さBDの底面360を有している。すなわち、基材120の凹部340の底面360から基材120の表面320に立ち上がって行く高さは、基材120の凹部340の深さBDに相当する。
第2刻印領域300が備えている傾斜部380は、対象物の形状に沿った凹部形状からなる溝400を備えている。溝400は、傾斜部380に複数存在することが必要である。図3(b)に示されるように傾斜部380が備えている溝400は、複数の溝420、溝440、溝460、溝480の4本の溝を備えている。溝400が複数存在することにより、第2刻印領域300に存在する複数の溝によって光のグラデーションが形成される。溝400の数は、光のグラデーションが形成され得る数であれば、特に限定されるものではないが2〜12が好ましく、特に好ましくは、4〜10、さらに好ましくは、6〜8である。溝400の数が2以上であると、光のグラデーション効果を発揮することができるため好ましく、溝400の数が12以下であると、刻印構造を製造する工程において、工程の簡略化を図ることができるので好ましい。
図3(b)に示されるように傾斜部380が備えている溝400は、対象物であるアルファベット「B」の曲線部分と、アルファベット「B」の底辺部分に沿って形成されている。第1刻印領域200には、対象物であるアルファベット「B」の形状が刻印されている。第1刻印領域200に刻印されているアルファベット「B」のアルファベット「B」を特定している輪郭を基礎として、その外側に溝420が形成され、溝420の外側に溝440が形成され、溝440の外側に溝460が形成され、溝460の外側に溝480が形成される。これらの溝420〜480は、傾斜部380に等間隔となるように形成されている。なお、本発明の刻印構造において、第2刻印領域の傾斜部が備えている複数の溝は、等間隔となるように形成されているものに限定されない。上記複数の溝のそれぞれが異なる間隔をもって形成されていてもよい。
図4は、第2刻印領域300が有している傾斜部380の構造を示した拡大図である。図4に示されるように傾斜部380は、円弧形状の凹部形状を有している溝400を備えている。溝400は、溝420〜480から構成されている。溝420〜480は、凹部形状を有している。これらの凹部形状は、同一であっても異なっていてもよい。これらの凹部形状が連なって、傾斜部380上に形成されている。凹部形状は、傾斜部380に凹部の溝を形成することができる形状であれば、特に限定されない。例えば、円弧形状、楕円弧形状、テーパ形状等を例示することができる。これらの凹部形状の中でも光のグラデーションが最も形成され易い形状である円弧形状又はテーパ形状が好ましい。
図4に示されるように溝420〜480は、一定の溝の深さSDと一定の溝の幅SWを有している。溝の深さSD及び溝の幅SWは、隣り合っている2つの溝を用いて、以下のように定義される。例えば、溝420と溝440は隣り合っている。溝420は、円弧形状の凹部形状の底420Bと凹部形状の頂点420Tを有している。溝440は、円弧形状の凹部形状の底440Bと凹部形状の頂点440Tを有している。ここで、凹部形状の底420Bと凹部形状の底440Bをそれぞれ「谷」とし、凹部形状の頂点420T、凹部形状の頂点440Tをそれぞれ「山」とする。なお、図4において、点線は、円弧形状を形成させるために用いる切削工具(以下、「ミーリングツール」という。)の形状を示している。
円弧形状を有する溝400の溝の幅SWは、隣り合う「山」と「山」との距離を表わす。すなわち、円弧形状を有する溝400の溝の幅SWは、凹部形状の頂点420Tと凹部形状の頂点440Tとの差である。また、円弧形状を有する溝400の溝の深さSDは、「山」と「谷」との距離を表わす。すなわち、円弧形状を有する溝400の溝の深さSDは、円弧形状の凹部形状の底420Bと凹部形状の頂点420Tとの差である。
溝440と溝460は隣り合っている。溝440は、円弧形状の凹部形状の底440Bと凹部形状の頂点440Tを有している。溝460も円弧形状の凹部形状の底460Bと凹部形状の頂点460Tを有している。円弧形状を有する溝400の溝の幅SWは、凹部形状の頂点440Tと凹部形状の頂点460Tとの差である。また、円弧形状を有する溝440の溝の深さSDは、円弧形状の凹部形状の底440Bと凹部形状の頂点440Tとの差である。隣り合っている溝460と溝480との関係も同様である。このように、傾斜部380は、一定の溝の深さSDと一定の溝の幅SWを有する溝を複数備えている。なお、本発明の刻印構造において、第2刻印領域の傾斜部が備えている複数の溝は、一定の溝の深さSDと一定の溝の幅SWを有しているものに限定されない。上記複数の溝のそれぞれが、異なる溝の深さSDと、異なる溝の幅SWとを有していてもよい。
傾斜部380が備えている溝の凹部形状は、楕円弧形状、テーパ形状であってもよい。溝の凹部形状が楕円弧形状の場合、矩形形状、テーパ形状の場合であっても、凹部形状の頂点及び凹部形状の底は存在する。溝の凹部形状が楕円弧形状の場合、テーパ形状の場合であっても、円弧形状の場合と同様に、一定の溝の深さSDと一定の溝の幅SWを有する溝を形成することができる。また、凹部形状が楕円弧形状の場合、テーパ形状の場合であっても、複数の溝は、一定の溝の深さSDと一定の溝の幅SWを有しているものに限定されない。上記複数の溝のそれぞれが、異なる溝の深さSDと、異なる溝の幅SWとを有していてもよい。
傾斜部380が備えている溝400の凹部形状は、一定の溝の幅SWを有する。溝の幅SWは、下記一般式(B)を満たすことが必要である。
すなわち、溝400の溝の幅SWは、対象物7の輪郭幅KWとの相対的な関係によって規定されている。具体的には、溝の幅SWは、対象物7の輪郭幅KWに対して、0.01〜0.05であることが好ましい。具体的には、溝の幅SWは、対象物7の輪郭幅KWに対して、0.01以上であると、光のグラデーションを視覚によって認識することができるため好ましく、0.05以下であると、複数の溝によって、光のグラデーションを十分に発揮することができるため好ましい。
傾斜部380が備えている溝400の凹部形状は、一定の溝の深さSDを有す。溝の深さSDは、下記一般式(C)を満たすことが必要である。
すなわち、溝400の溝の深さSDは、溝の幅SWとの相対的な関係によって規定されている。具体的には、溝の深さSDは、溝の幅SWに対して、0.03〜0.25である。具体的には、溝の深さSDは、溝の幅SWに対して、0.03以上であると、光のグラデーションを視覚によって認識することができるため好ましく、0.25以下であると、溝によって、光のグラデーションを発揮することができるため好ましい。
図5は、刻印構造が備えている第1刻印領域と第2刻印領域の傾斜部の構造を示した断面図である。第1刻印領域は、基材表面から基材底面の方向に深さBDの基材凹部を有している。第1刻印領域は、基材凹部の底面を基準面として形成されている。第1刻印領域に特定された対象物は、その内部に溝を有している。
第2刻印領域は、傾斜部を備えている。この傾斜部は、n本の凹部形状の溝を有している。傾斜部が有している凹部形状のそれぞれの溝は、溝の深さSD、溝の幅SWを有している。
図5(a)は、刻印構造が備えている第2刻印領域を示したモデル図である。第2刻印領域は、第1刻印領域の基準面から基材表面に向かって傾斜部を備えており、当該傾斜部には、複数の溝が形成されている。第2刻印領域が備える傾斜部には、第1刻印領域が形成されている基材凹部外縁に突き当たる段部に第1刻印領域の基準面から基材表面に向かって凹部形状の複数の溝が順番に形成されている。
第2刻印領域は、二次元形状を表示するための便法となっているドロップシャドウ技法を用いて意匠的バランスの観点からデザインされている。第2刻印領域が備えている傾斜部は、複数の溝の幅SW、及び溝の本数を決定し、基材凹部外縁に突き当たる段部を切削加工することによって形成される。
図5(a)に示されるように、溝の幅SWと溝の本数を決定することにより、第2刻印領域が備えている傾斜部の幅が必然的に定まる。図5(a)においては、(イ)溝の幅SWを有する溝を2本形成することとしたので、傾斜部の幅は、(溝の幅SW)×2となっている。(ロ)溝の幅SWを有する溝を4本形成することとした場合、傾斜部の幅は、(溝の幅SW)×4となっている。(ハ)溝の幅SWを有する溝を8本形成することとした場合、傾斜部の幅は、(溝の幅SW)×8となっている。
第2刻印領域が備えている傾斜部が有する複数の溝の幅SDは、溝の幅SWに対して、最適値となるように決定されている。溝の深さSDは、溝の幅SWの0.03〜0.25倍となるように決定されている。特に好ましくは、溝の深さSDが、溝の幅SWの0.05倍となるように決定する。なお、溝の深さSDの特定は、CADを使用して行う。
図5(b)に示されるように、第2刻印領域の凹部底面側外郭A点と、基材表面側外郭B点とが、傾斜部が有している複数の溝の加工端部となるようにミーリングツールの軌跡が特定される。その結果、傾斜部に形成されている溝が有する凹部形状が特定される。ミーリングツールの種類を決定することにより、第2刻印領域が備えている傾斜部の断面形状が決定される。なお、第1刻印領域凹部外郭部の端部底面と、第2刻印領域の凹部底面側外郭A点との溝形成のためのミーリングツールとの干渉は、対象物の縁取り溝にて吸収される。
第2刻印領域が備えている傾斜部が有する複数の溝は、ミーリングツールを採択し、基材凹部外縁に突き当たる段部を当該ミーリングツールによって、切削加工することによって形成される。ミーリングツールは、球形状であってもよいし、テーパ形状であってもよい。ミーリングツールが球形状である場合には、ミーリングツール底部形状が最適となるように底部形状の半径を採択することが重要となる。ここで、ミーリングツール底部形状とは、ミーリングツールが基材に対して垂直方向に、決定されたミーリングツールの切り込み深さTDにて接触し、基材を切削加工する際に特定される形状という。具体的には、球形状のミーリングツールが基材と接触する際に特定される底部形状は、円弧形状となる。
ミーリングツール底部形状は、第2刻印領域が備えている傾斜部が有する溝の幅SWとの相対的な関係によって定められる。ここで、ミーリングツール底部形状の半径をRとすると、ミーリングツール底部形状の半径Rは、以下の一般式(D)を満たすことが必要となる。
すなわち、ミーリングツール底部形状の半径Rは、第2刻印領域が備えている傾斜部が有する凹部形状の溝の幅SWとの相対関係によって決定される。ミーリングツール底部形状の半径Rは、凹部形状の溝の幅SWの0.62〜4.18倍であることが好ましい。
一般式(D)において、ミーリングツール底部形状の半径Rと凹部形状の溝の幅SWとの比率であるR/SWが0.62以上であると、ミーリングツール底部形状の半径が小さくなり過ぎることなく、かつ、凹部形状の溝が有する凹部が急な凹部形状とならないため、基材の底部の平坦部から基材表面に立ち上がって形成される傾斜部に明暗の光の縞模様が形成されないため好ましい。一方、ミーリングツール底部形状の半径Rと凹部形状の溝の幅SWとの比率であるR/SWが4.18以下であると、ミーリングツール底部形状がほぼ直線となり、光の反射角度が小さくなり、面光源から発生する無方向性の入射光の大半が反射し、基材の底部の平坦部から基材表面に立ち上がって形成される傾斜部に光のグラデーションが形成されないことを回避することができるための好ましい。
ミーリングツール底部形状の半径Rは、第2刻印領域が備えている傾斜部が有する凹部形状の溝の幅SWとの相対関係によって決定される。既に説明したように、凹部形状の溝の幅SWは、第1刻印領域に特定された対象物の輪郭幅KWとの相対的関係によって決定され、最大値と最小値を有している。また、凹部形状の溝の深さSDは上記溝の幅SWとの相対関係によって決定され、最大値と最小値を有している。
ミーリングツール底部形状の半径Rを決定する要素となる、対象物の輪郭幅KW、溝の幅SW、及び溝の深さSDに具体的な数値を与えて、種々のケースにおけるミーリングツール底部形状の半径Rを検討する。
例えば、対象物の輪郭幅KWを1,000mmとすると、その溝の幅SWが有する最小値の溝の幅SWは、上記一般式(B)により10mmとなる。溝の幅SWが有する最小値の溝の幅SWに対する、溝の深さSDは、最小値と最大値を有しており、その値は、上記一般式(C)により、最大値2.5mm、最小値0.3mmとなる。
溝の深さSDが最小値をとる場合には、上記一般式(D)により、ミーリングツール底部形状の半径Rは、溝の幅SWの最小値10mm×4.18により41.8mmとなる。一方、溝の深さSDが最大値をとる場合には、上記一般式(D)により、ミーリングツール底部形状の半径Rは、溝の幅SWの最小値10mm×0.62により6.25mmとなる。
さらに、対象物の輪郭幅KWを1,000mmとし、その溝の幅SWが有する最大値の溝の幅SWをとる場合も上記と同様に考え、ミーリングツール底部形状の半径Rを算出することができる。また、対象物の輪郭幅KWを2.0mmとし、その溝の幅SWが有する最大値の溝の幅SW、及び最小値の溝の幅SWをとる場合も同様に考え、ミーリングツール底部形状の半径Rを算出することができる。表1に、対象物の輪郭幅KW、溝の幅SW、溝の深さSDに対応したミーリングツール底部形状の半径Rを示した。
このようにミーリングツール底部形状の半径Rは、対象物の輪郭幅KW、溝の幅SW、溝の深さSDとの相対関係によって決定される。ミーリングツール底部形状の半径Rが決定されることにより、凹部形状の円弧形状が特定される。
一方、ミーリングツールがテーパ形状である場合には、ミーリングツール先端部形状が最適となるようにミーリングツールを採択する。溝が有している凹部形状は、基材凹部外縁に突き当たる段部を当該ミーリングツールにより切削加工することより形成される。ここで、ミーリングツール先端部形状とは、ミーリングツールが基材に対して垂直方向に、決定されたミーリングツールの切り込み深さTDにて接触し、基材を切削加工する際に特定される形状という。具体的には、テーパ形状のミーリングツールが基材と接触する際に特定される先端部形状は、所定の角度を有するテーパ形状となる。
ミーリングツール先端部の先端角度は、115°〜172°であることが好ましい。ミーリングツール先端部の先端角度が115°以上であると対象物が際立って浮き出すように見えるため好ましい。ミーリングツール先端部の先端角度が172°以下であると第2刻印領域の傾斜部が緩やかとなり、光のグラデーションが形成され易く好ましい。表2に、対象物の輪郭幅KW、溝の幅SW、溝の深さSDに対応したミーリングツールがテーパ形状である場合の先端角度を示した。
ミーリングツールがテーパ形状である場合も、第1刻印領域に特定された対象物の輪郭幅KWとの相対的関係によって決定された溝の幅SWの最大値及び最小値と、上記溝の幅SWの最大値及び最小値との相対関係によって決定される溝の深さSDの最大値及び最小値によって、テーパ形状が特定される。溝の幅SW及び溝の深さSDによって、テーパ形状の先端角度が決定する。
以下、本発明の刻印構造が光のグラデーションを発揮するメカニズムについて説明する。図6(a)〜(d)は、上記メカニズムを説明するためのモデル図である。図6(a)は、光のグラデーションの基礎となる光のコントラストが形成されるメカニズムを示している。図6(a)に示されるように、まず刻印構造の第2刻印領域が備えている傾斜部に光が入射する。傾斜部に入射する光は、面光源から発生する無方向性の入射光(以下、「入射光」という。)である。
第2刻印領域が備えている傾斜部には、複数の溝が形成されている。入射光は、第2刻印領域が備えている傾斜部に形成されている複数の溝を構成するそれぞれの溝に入射する。傾斜部に形成されている溝は、凹部形状を有している。このため、入射光は、溝が有している凹部形状の接触角に対応して反射する。溝が有している凹部形状が円弧形状である場合には、凹部形状を形成する円弧の曲率半径に対応して反射する。また、溝が有している凹部形状がテーパ形状である場合には、凹部形状を形成する先端部の面角度に対応して反射する。
傾斜部に形成された溝に入射した入射光は、反射光となる。反射光は、人間の網膜を刺激する。人間は反射光を認識する。ここで、反射光の強度は、人間が傾斜部に形成されている溝を見る角度により異なる。反射光の強度が「強い」場合には、反射光は「明るい」光として認識される。一方、反射光の強度が「弱い」場合には、反射光は「暗い」光として認識される。
このように、傾斜部に形成されている溝によって、反射光は、溝の凹部形状が有している曲率半径又は面角度に対応して、凹部形状の左側から「暗い」−「明るい」−「暗い」の順番で光のコントラストとなって現出される。溝の凹部形状によって現出される光のコントラストは、段階的に少しずつ変化している。このような光のコントラストが段階的に変化している「様」が光の明暗を有する「光のグラデーション」となる。
図6(b)左図は、傾斜部に形成される溝によって、光のグラデーションが形成され難い場合を示したモデル図である。図6(b)左図に示された溝が有している凹部形状は、円弧形状であり、入射光に対して、溝の深さSDが深くなっており(SD/SW>0.25)、円弧形状の曲率半径が大きくなっている。入射光が溝の凹部形状に入射した場合を考えると、凹部形状の中心に位置する底部から反射される反射光は、その光の強度が「強すぎる」ものとなっており、「明るくなりすぎる」光となっている。一方、凹部形状の両端部から反射される反射光は、その光の強度が「弱すぎる」ものとなっており、「暗すぎる」光となっている。すなわち、図6(b)左図に示された溝が有している凹部形状は、明るさが段階的に変化している「光のコントラスト」を形成することができない。その結果、図6(b)左図に示された溝が有している凹部形状は、クリア過ぎる「明るい」−「暗い」から構成される、単なる「白黒の縞模様」を形成することができるに過ぎない。
本発明の刻印構造が光のグラデーションを発揮するためには、第2刻印領域が備えている傾斜部に形成された溝が有している凹部形状の曲率半径又は面角度を光のコントラストが段階的に変化するように設計することがきわめて重要となる。
図6(b)右図は、第2刻印領域が備えている傾斜部に形成された複数の溝によって、光のグラデーションが形成されている場合を示したモデル図である。図6(b)右図に示された溝が有している凹部形状は、円弧形状であり、入射光に対して、溝の深さSDが浅くなっており(SD/SW=0.25)、複数の溝を構成するそれぞれの溝から反射される反射光は、相互に干渉し合うことになる。しかしながら、傾斜部が備えている複数の溝をどの角度から観察しても、複数の溝を構成するそれぞれの溝から現出される光のグラデーションが1本ごとに明瞭に強く見える結果、光の明暗のグラデーションが溝の数だけ連続して観察される。
図6(c)は、本発明の刻印構造の技術的ポイントとなっている「ドロップシャドウ効果」と、「光のグラデーション効果」とによる「シナジー効果」が発揮されるメカニズムを示したモデル図である。図6(c)に示されるように、第2刻印領域が備えている傾斜部は、基材表面のB点より開始されている。傾斜部は、基材表面のB点より、傾斜部の終点であり、かつ第1刻印領域の凹部平面の外縁であるA点に向かって凹部を形成するように傾斜している。
第2刻印領域が備えている傾斜部は、基材表面から凹んでいるため、傾斜部それ自身がいわゆる「ドロップシャドウ」となっている。かかる傾斜部のドロップシャドウは、人間の視覚を通じて、対象物が基材から突き出ているように見える光学的な錯覚を引き起こすという、ドロップシャドウ効果を奏する。
さらに、第2刻印領域が備えている傾斜部は、複数の溝を有している。かかる複数の溝は、人間の視覚を通じて、対象物を基材から突き出ているように飛躍的に見せ、立体感をさらに増強し、しかも基材に刻印された対象物の高級感を高めるという、光のグラデーション効果を奏する。すなわち、本発明の刻印構造は、第2刻印領域が備えている傾斜部と、傾斜部が有している複数の溝とか相俟って、ドロップシャドウ効果に光のグラデーション効果が追加された両者からなるシナジー効果を奏する。つまり、本発明の刻印構造が有する特有のシナジー効果によって、どのような角度から観察しても、基材凹部に形成された対象物が浮き上がって、立体的に見え、しかも高級感に訴えることができるという、超視覚的な錯覚が現出される。
刻印構造は、対象物が特定された第1刻印領域と、第2刻印領域を備えており、第2刻印領域それ自体が有するドロップシャドウ効果と共に、第2刻印領域が有する凹部形状の溝によって形成される光のグラデーションによって、基材の凹部に形成されている第1刻印領域に特定された対象物を浮き上がっているようにさせている。
このように、本発明の刻印構造は、第2刻印領域が有する凹部形状の溝によって光のグラデーションが形成されることを技術的特徴としている。このため、第2刻印領域が有する溝の凹部形状は、第1刻印領域に特定された対象物に対して、光のグラデーションがバランス良く形成されることができるものであれば十分である。複数の凹部形状の溝1から反射される光の波長による、光のグラデーションをバランス良く形成させるために、溝が備えている凹部形状を切削加工することができる。例えば、溝の凹部形状を切削加工して、円弧形状、楕円弧形状、テーパ形状とすることもできる。溝の凹部形状を形成するためのミーリングツールとして、球形ツール、楕円形のツール、テーパ形のツールを採用することによって、種々の凹部形状を有する溝を形成することができる。
<実施形態2>
実施形態2は、第2刻印領域の傾斜部が有している溝の凹部形状がテーパ形状である刻印構造である。図7は、実施形態2の刻印構造が備えている傾斜部が有している溝の凹部形状を示した模式図である。
溝の凹部形状となっているテーパ形状は、一定の溝の深さSDと一定の溝の幅SWを有している。実施形態2の刻印構造は、基材の凹部の深さBD、傾斜部が有している凹部形状の溝の幅SW、溝の深さSD及び溝の本数nを適宜決定することによって設計される。テーパ形状は、基材表面から基材底面の方向に尖った形状となっている。テーパ形状を形成させるために用いるミーリングツールの先端角度を適宜設定することにより、テーパ形状を設計することができる。ミーリングツールの先端角度は、光のグラデーションを形成することができれば、特に制限されるものではないが、115°〜172°であることが好ましい。なお、図7に示された第2刻印領域の傾斜部が有している溝のテーパ形状の先端角度は、125°(図7(a))、141°(図7(b))となっている。
実施形態2の刻印構造において、テーパ形状を有する凹部形状の溝から反射光が発生する。実施形態2の刻印構造においても、実施形態1の刻印構造と同様に、第2刻印領域が有する凹部形状の溝によって形成される光のグラデーションが形成される。
<実施形態3>
(刻印構造の製造方法)
次に、刻印構造の製造方法について説明する。本発明の刻印構造の製造方法は、基材凹部の底面に対象物を特定した第1刻印領域を形成する工程と、上記対象物を立体的に表現するための形状を特定した第2刻印領域を形成する工程と、を備えている。以下、各工程について説明する。図8は、刻印構造の製造方法が備える各工程を示したモデル図である。図8の上段は、刻印構造の製造方法によって得られる刻印構造の断面の模式図である。
(第1刻印領域を形成する工程)
刻印構造の製造方法は、工程(a)〜(h)を備えている。第1刻印領域を形成する工程は、工程(a)及び(b)である。
工程(a)は、刻印構造の基礎となる基材凹部が形成される工程である。工程(a)において、基材凹部の深さBDは、第1刻印領域に特定される対象物の輪郭幅KWに応じて決定される。工程(a)によって形成された基材凹部の底面が基準面となる。なお、基材凹部の深さBDは、第1刻印領域に特定される対象物7の輪郭幅KWの0.005〜0.06倍となっている。
基材凹部を形成する方法は、基材を切削加工することができる方法であれば、特に限定されない。通常は、数値制御(NC)による機械による加工方法によって行われる。第1刻印領域に特定される対象物の大きさ、形状等によりミーリングツールの刃先の動作を座標値によって、予め設定する。そして、設定されたミーリングツールの刃先の動作の情報を基礎として、数値制御(NC)工作機械に内蔵されたサーボ―モータ等が動作することによって、ミーリングツールが基材と接触して、切削加工が行なわれる。なお、ミーリングツールの刃先の動作の情報を数値制御(NC)工作機械に入力する必要があるが、かかるミーリングツールの刃先の動作の情報を記録したものを数値制御(NC)加工プログラムという。
工程(b)は、工程(a)において形成された基材凹部の基準面として、第1刻印領域に特定される対象物の縁取りを形成するために設けられる凹部を形成する工程である。この凹部が有する溝の深さが第2刻印領域の傾斜部において形成される凹部形状の溝の深さに相当する場合がある。工程(b)において設けられた縁取りを形成するために設けられる凹部の底面が基材凹部の最も低く位置する底面となる。工程(b)において設けられた縁取りによって、対象物が特定される。
(第2刻印領域を形成する工程)
第2刻印領域を形成する工程は、工程(c)〜(h)である。工程(c)〜(h)は、第1刻印領域の基準面から基材表面に向かって傾斜部を形成し、当該傾斜部に複数の溝を形成する工程である。第2刻印領域が備える傾斜部は、工程(b)において形成された基材凹部を構成する凸部となった一方の部分(段部)となっている、基材凹部外縁に突き当たる段部に第1刻印領域の基準面から基材表面に向かって凹部形状の複数の溝が順番に形成される。
工程(c)〜(h)は、工程(b)において形成された基材凹部外縁に突き当たる段部を第2刻印領域に切削加工するために当該第2刻印領域の二次元形状を便法となっているドロップシャドウ技法を用いて意匠的バランスの観点からデザインする工程である。工程(c)〜(h)においては、第2刻印領域が備えている傾斜部が有する溝の本数n、溝の幅SW及び溝の深さSDを決定する。
工程(c)〜(h)において、溝の幅SWと溝の本数を決定することにより、第2刻印領域が備えている傾斜部の幅が必然的に定まる。図8においては、溝の幅SWを有する溝を5本形成することとしたので、傾斜部の幅は、(溝の幅SW)×5となる。
さらに、工程(c)〜(h)において、第2刻印領域が備えている傾斜部が有する複数の溝の深さSDを溝の幅SWに対して、最適値となるように決定している。溝の深さSDは、溝の幅SWの0.03〜0.25倍となるように決定する。特に好ましくは、溝の深さSDが、溝の幅SWの0.05倍となるように決定する。なお、溝の深さSDの特定は、CADを使用して行う。
まず、工程(c)において第1本目の溝が形成される。第1本目の溝は、第1刻印領域凹部外縁に突き当たる段部がミーリングツールによって切削加工されることにより形成される。第1本目の溝は、第1刻印領域凹部の縁取りを吸収し、凹部形状を形成している。次に、工程(d)において第2本目の溝が形成される。第2本目の溝は、凹部外縁に突き当たる段部がミーリングツールによって切削加工されることにより形成される。続いて、工程(e)〜(g)において、第3本目の溝、第4本目の溝、第5本目の溝が順次形成される。
このように、傾斜部が有している凹部形状の溝は、基材凹部外縁に突き当たる段部をミーリングツールによって順次、切削加工することによって形成することができる。例えば、凹部形状が円弧形状である場合には、球形状のミーリングツールを使用する。かかる球形状のミーリングツールを基材凹部外縁に突き当たる段部と接触させ、段部を切削加工することにより、複数の円弧形状の溝が形成される。
工程(c)〜(h)において、ミーリングツールは、1本の溝を形成するために、基材凹部外縁に突き当たる段部と接触しながら、基材表面から基材裏面方向に駆動する。ミーリングツールは、形成される溝の凹部形状が有する溝の幅SW、溝の深さSDが設計されたスケール値となるように切り込み深さTDに相当する距離だけ基材表面から基材裏面方向に駆動する。
工程(c)〜(h)において、傾斜部が有している凹部形状の溝を形成する際には、凹部形状が有する溝の幅SW、溝の深さSD及び溝の本数を決定することにより、ミーリングツール切り込み深さTDが設定される。同時に傾斜部の大きさ、及び傾斜部が有する基材凹部底面から基材表面に立ち上がる角度を適宜設定することができる。
最後に、工程(h)は、工程(b)において形成された基材凹部の第1刻印領域に特定された対象物の縁取りで囲まれる領域に「底面グラデーション溝」を形成させる。工程(h)において形成される溝は直線状の溝であればよく、直線であっても、曲線を含んでいても、一部に波線を含んでいてもよい。工程(h)において形成される溝は、第2刻印領域に傾斜して対象物の底辺に対して30〜60°または、120〜150°傾斜していてもよい。このようにして工程(c)〜(h)によって、複数の溝を有する傾斜部を備えた第2刻印領域が形成され、刻印構造が完成する。
<実施形態4>
(色彩が塗り分けられた刻印構造)
実施形態5は、第1刻印領域及び第2刻印領域の色彩と、基材表面の色彩を塗り分けた実施形態である。本発明の刻印構造は、色彩に依存することなく、対象物が浮き出ているように見える効果をするものである。さらに、本発明の刻印構造は、第1刻印領域及び第2刻印領域の色彩と、基材表面の色彩とを塗り分けることによって、一層その効果を助けるものとなっている。
以下、実施例を比較例と共に挙げ、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(刻印構造の製造)
実施例1は、対象物を「B」のアルファベットとした刻印構造である。基材は、10センチ×20センチの寸法を有するアルミニウム板(6061合金)とした。実施例1の刻印構造は基材凹部の底部に「B」の文字が刻印された第1刻印領域と、右斜め下に第1刻印領域に特定された「B」を視覚的に浮き上がって見えるようするための第2刻印領域を備えている。実施例1において、基板を切削するためのミーリングツールとして球形のミーリングツールを採用した。ミーリングツールは、数値制御(NC)工作機械と接続されており、あらかじめ数値制御(NC)プログラムによってプログラミングされた動作をする。基材は、ミーリングツールによって、所望の形状に加工される。
まず、基材に凹部を形成させる。凹部の深さBDは、対象物「B」の文字を構成する曲線部分の輪郭幅の大きさによって定めされる。対象物「B」の文字を構成する曲線部分の輪郭幅の大きさを9.0mmとした。凹部の深さBDをその0.03倍(1/30に設定して、0.30mmとした。基材に形成された凹部を基材凹部とした。この基材凹部に対象物「B」を刻印した。
次に、基材凹部に形成された第1刻印領域に隣接し、対象物「B」の右斜め下に第2刻印領域を形成した。第2刻印領域は、基材凹部の底面から基材表面に向かって立ち上がるように形成されている。第2刻印領域は、傾斜部を備えている。球形のミーリングツール(ミーリングツール底部形状の半径R=0.5mm)を用い、凹部形状の溝を形成する。凹部形状の溝の本数を6本とした。溝の形状は円弧形状である。実施例1の刻印構造が備えている溝の深さSDを10μm、幅の幅SWを0.2mmとした。最後に第1刻印領域に刻印された対象物「B」の輪郭内部に深さ0.05mmの円弧形状の溝を設けた。実施例1において製造した刻印構造の製造条件を表1に示した。
(刻印構造の評価)
実施例1において製造した刻印構造を以下の基準により評価した。評価は、本件特許出願人の研究所内の年齢30〜55歳の平均的な視力を有する男女を100人選出し、日中、本件特許出願人の研究所内等の屋内において、肉眼観察より行った。評価ポイントは10段階評価とした。表2に評価基準及び評価ポイントを示した。さらに、実施例1において製造された刻印構造の写真を図9に示した。
<実施例2〜8>
実施例2〜8は、実施例1で製造した刻印構造において、製造条件を適宜変更して製造した刻印構造である。具体的には、基材の凹部の深さBD、溝の形状(切削用工具(ミーリングツール)、溝の深さSD、幅の幅SW、溝の本数nを変更して刻印構造を製造した。製造条件を表1に示した。さらに、実施例4、7において製造された刻印構造の写真をそれぞれ図10、11に示した。
<実施例9〜11>
実施例9〜11は、実施例1で製造した刻印構造において、製造条件を適宜変更して製造した刻印構造である。具体的には、対象物、基材の凹部の深さBD、溝の形状(切削用工具(ミーリングツール))、溝の深さSD、幅の幅SW、溝の本数nを変更して刻印構造を製造した。実施例9(「化」の文字)、実施例10(「ホ」の文字)、実施例11(「星印」の図形)を刻印構造の対象物とした。実施例9〜11の製造条件を表3に示した。さらに、実施例9〜11において製造された刻印構造の写真をそれぞれ図12〜14に示した。
<実施例12〜14>
実施例12〜14は、刻印構造を形成する基材を実施例12(ステンレス)、実施例13(真鍮)、実施例14(アクリル樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様の条件にて本発明の刻印構造を製造した。製造条件と共に評価結果を表4に示した。さらに、実施例12〜14において製造された刻印構造の写真をそれぞれ図15〜17に示した。
<比較例1>
比較例1は、対象物を「B」のアルファベットを凸部とした形成させた刻印構造である。比較例1の刻印構造は、対象物を「B」のアルファベットを浮き出させるために実施例1の第1刻印領域に相当する領域を基材表面として残存させて、対象物を特定し、その周辺を凹部とした構造である。比較例1において製造された刻印構造の写真を図18に示した。
表1及び2からも明らかなように、本発明の刻印構造は、基材の凹部の深さBD、溝の形状(切削用工具(ミーリングツール))、溝の深さSD、幅の幅SW、溝の本数nを緻密に設定することにより、対象物が浮き出しているように見える視覚的効果を有する。表2からも明らかなように、本発明の刻印構造は、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、真鍮、ステンレス等のあらゆる金属材料、アクリル樹脂等の高分子材料にも適用することができる。
図9(実施例1)と図18(比較例1)の写真とを比較する。図9に示された本発明の刻印構造は、基材に施される文字、図形、記号等の模様を構成する部分を「凹部」とし、当該「凹部」からなる文字、図形、記号等の模様を立体的に現出させ、高級感のある高度な刻印構造であることが明瞭に理解することができる。一方、図18に示された刻印構造は、基材に施される文字、図形、記号等の模様を構成する部分を「凸部」とし、当該「凸部」からなる文字、図形、記号等の模様を立体的に現出させようと試みたものであったが、対象物を特定することができない刻印構造である。
基材の表面に施された文字、図形、記号等の模様となる刻印構造を「凹部」とすれば、当該「凹部」は、物理的に手前に突出した「凸部」ではないから、視覚的に立体的な文字、図形、記号等の模様が現出されることとはならないことを勘案すると、本発明の刻印構造の技術的意義は、きわめて大きい。