以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置(以下、単に、記録装置ともいう)を正面からみた図である。本例のインクジェット記録装置は、比較的大判サイズの記録媒体に記録可能なものであり、記録装置の本体2は、記録媒体をY方向(副走査方向)へ搬送する不図示の搬送ユニットを含む。本体2のガイド軸33には、キャリッジ1が主走査方向(X方向)に移動可能にガイドされている。キャリッジ1は、不図示のキャリッジモータからベルト34を介して伝達される駆動力によって、主走査方向に往復移動される。キャリッジ1には、電気熱変換素子(ヒータ)やピエゾ素子などの吐出エネルギー発生素子を用いて、複数の吐出口からインクを吐出可能な記録ヘッド5が搭載される。本例の場合、記録ヘッド5として、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)、フォトグレイ(Pgy)、フォトマゼンタ(Pm)、フォトシアン(Pc)のインク、および保護インク(P)を吐出する記録ヘッドが複数搭載される。保護インク(P)は、記録媒体における記録面の保護および光沢の均一性向上等、着色以外を目的とする画質向上用の処理液である。記録ヘッド5における複数の吐出口は、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する方向に延在する吐出口列を形成するように配列されている。記録ヘッド5がキャリッジ1と共に主走査方向に移動しつつ、インクを吐出する記録走査と、記録媒体の副走査方向の搬送と、を繰り返すことによって、記録媒体上に画像が記録される。不図示の搬送ユニットは、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する副走査方向において、記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させる。
図2は、記録ヘッド5の構成例を説明するための図である。C,M,Y,Bk,Pgy,Pc,Pm,Pのインクに対応した吐出口列(記録素子列)は、主走査方向にずれるように並列されている。それぞれの吐出口列における吐出口は、ノズル番号0から1343までの1344個のノズルを構成し、インクの吐出信号に基づいて吐出エネルギー発生素子が駆動されるよって、それに対応する吐出口からインクを吐出する。キャリッジ1には、光学式センサ32が設けられている。この光学式センサ32は、キャリッジ1と共に主走査方向へ移動しつつ、プラテン4上における記録媒体の存否を検出する。
また、本実施形態のインクジェット記録装置は、記録ヘッド5の各ノズルのインク不吐出を検知するために、投光部および受光部を有する不吐出ノズル検出ユニット316(図3参照)を備える。この検出ユニット316は、投光部から受光部に至る光路を遮断するインク滴の有無を検知することによって、各ノズルのインクの不吐出を検出する。
また、このインクジェット記録装置には、記録ヘッド5の各ノズルのインクの良好な吐出性能を維持するために、記録ヘッド5の回復部が備えられている。この回復部は、記録ヘッド5のノズル先端に形成される吐出口をキャップによって、ポンプにより発生させた負圧をキャップ内に導入して、ノズル内の増粘インク等を吸引排出させる回復機構(いわゆる吸引回復機構)30を構成する。記録ヘッド5のインクの吐出安定性を高めるために、記録走査の直前に、記録媒体上の非記録領域に画像の記録に寄与しないインクを吐出(予備吐出)し、そのインクはインク回収箱31A,31Bによって回収される。キャリッジ1に搭載された切断ユニット35には、記録媒体の切断に用いるカッター部材35a部材が格納されている。
図3は、図1の記録装置の制御系のロック図である。主制御部300は、演算、判別、制御などの処理動作を実行するCPU301と、CPU301によって実行すべき制御プログラム等を格納するROM302と、記録データのバッファ等として用いられるRAM303、および入出力ポート304等を備えている。入出力ポート304には、搬送モータ(LFモータ)312、キャリッジモータ(CRモータ)313、記録ヘッド5、および切断ユニット35におけるアクチュエータなどを駆動する駆動回路305,306,307,308が接続されている。さらに入出力ポート304には、種々のセンサ類が接続されている。例えば、記録ヘッドの温度を検出するヘッド温度センサ314、記録ヘッドの回復動作を行うためのホームポジションの位置を検出するホームポジションセンサ310、記録ヘッドの吐出状態を検査する不吐出ノズル検出ユニット316などが接続されている。さらに、主制御部300は、インターフェース回路311を介してホストコンピュータ(ホスト装置)315に接続されている。
次に、本実施形態におけるインクの組成について説明する。
(インク)
本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、文中「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
<顔料分散液の調製>
(ブラック顔料分散液の調製)
先ず、顔料20.0部、樹脂水溶液60.0部、および水20.0部を、0.3mm径のジルコニアビーズの充填率を80%としたビーズミル(LMZ2;アシザワファインテック製)に入れ、回転数1,800rpmで5時間分散した。なお、顔料としては、カーボンブラック(商品名:プリンテックス90;デグサ製)を用いた。また、樹脂水溶液としては、スチレン−アクリル酸共重合体であるジョンクリル678(ジョンソンポリマー製)を、酸価と当量の水酸化カリウムで中和したものを含む、樹脂(固形分)の含有量が20.0%である水溶液として用いた。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行うことにより凝集成分を除去し、さらにイオン交換水で希釈することにより、顔料の含有量が15.0%、水溶性樹脂(分散剤)の含有量が9.0%であるブラック顔料分散液を得た。
(マゼンタ顔料分散液の調製)
顔料を、C.I.ピグメントレッド122(商品名:トナーマゼンタE02;クラリアント製)に変更した。それ以外は、上記のブラック顔料分散液の調製と同様の手順により、顔料の含有量が15.0%、水溶性樹脂(分散剤)の含有量が9.0%であるマゼンタ顔料分散液を得た。
(シアン顔料分散液の調製)
顔料を、C.I.ピグメントブルー15:3(商品名:トナーシアンBG;クラリアント製)に変更した。それ以外は、上記のブラック顔料分散液の調製と同様の手順により、顔料の含有量が15.0%、水溶性樹脂(分散剤)の含有量が9.0%であるシアン顔料分散液を得た。
(イエロー顔料分散液の調製)
顔料を、C.I.ピグメントイエロー74(商品名:Hansa Brilliant Yellow 5GX;クラリアント製)に変更した。それ以外は、上記のブラック顔料分散液の調製と同様の手順により、顔料の含有量が15.0%、水溶性樹脂(分散剤)の含有量が9.0%であるイエロー顔料分散液を得た。
<樹脂水溶液の調整>
樹脂水溶液としては、スチレン−アクリル酸共重合体であるジョンクリル678(ジョンソンポリマー製)を、酸価と当量の水酸化カリウムで中和したものを含む、樹脂(固形分)の含有量が0、5%であるものを用いた。
<インクの調整>
下表1の上段(最下段を除く上段)に示す各成分(単位:%)を混合した後、ポアサイズが1.2μmであるメンブレンフィルター(HDCIIフィルター;ポール製)にて加圧ろ過することにより、顔料インク1から6をそれぞれ調製した。イオン交換水の使用量は、成分の合計量が100.0%となる含有量とした。なお、アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製の界面活性剤である。表1の最下段には、顔料インク中の顔料の含有量(単位:%)を示した。このようにして得られたID1から7のインクをそれぞれカートリッジに充填した。
<樹脂水溶液の調整>
樹脂水溶液としては、スチレン−アクリル酸共重合体であるジョンクリル678(ジョンソンポリマー製)を、酸価と当量の水酸化カリウムで中和したものを含む、樹脂(固形分)の含有量が20.0%であるものを用いた。
<保護インクの調整>
次に、本実施形態で用いる保護インクに関して説明する。
下表2に示す各成分(単位:%)を混合した後、ポアサイズが1.2μmであるメンブレンフィルター(HDCIIフィルター;ポール製)にて加圧ろ過することにより、樹脂を含有する保護インクP−1を調製した。イオン交換水の使用量は、成分の合計量が100.0%となる含有量とした。なお、アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製の界面活性剤である。このようにして得られた保護インクをカートリッジに充填した。
(記録方法)
本実施形態においては、カラーインク用の使用ノズルと、保護インク用(処理液用)の使用ノズルと、を主走査方向においてオーバーラップさせて、同一の走査においてカラーインクと保護インクとを吐出可能な領域(オーバーラップ領域)を設定した。以下、このような構成において、カラーインクを先打ちし、保護インクを後打ちする記録方法について説明する。
図4は、本例におけるオーバーラップ領域と使用ノズル領域の関係の説明図である。本例において、1インク色当たりの総使用ノズル数は1344ノズル(ノズル番号0から1343)、記録媒体の1回当たりに搬送量は112ノズル分の長さであり、12パスのマルチパス方式によって画像を記録する。
本例におけるカラーインクは、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)、フォトグレイ(Pgy)、フォトシアン(Pc)、フォトマゼンタ(Pm)のインクである。図4中の領域Aは、複数のカラーインクの吐出領域であり、ノズル番号224から1343のノズル範囲に対応する。ノズル番号0から223のノズルは、カラーインクを吐出しないノズルである。領域Bは保護インクの吐出領域であり、ノズル番号0から671のノズル範囲に対応する。ノズル番号672から1343は、保護インクを吐出しないノズルである。したがって、カラーインクおよび保護インクの吐出量領域がオーバーラップする領域Cがオーバーラップ領域であり、ノズル番号224から671のノズル範囲に対応する。
本例のように、使用ノズル数が1344ノズルである12パスのマルチパス記録において、記録媒体の1回当たりの搬送量が等しい場合には、その搬送量は、112ノズル分の長さである。そのため、カラーインクの吐出領域Aは10パス分の記録領域、保護インクの吐出領域Bは6パス分の記録領域、オーバーラップ領域Cは4パス分の記録領域となる。カラーインクの吐出領域Aにおける10パス、および保護インクの吐出領域Bにおける6パスは、記録画像の粒状感、溢れ、滲み、つなぎスジなどの影響を考慮した画質的観点から、最低限必要なパス数として導き出した。保護インクは、カラーインクと比較して、視認性が低く、また記録面の表層をコーティングすることが目的であるため必要なインク付与量が少ない。このような理由から、保護インクに関しては少ないパス数の設定が可能である。
図5は、本例における12パスのマルチパス記録の説明図である。本例は双方向記録方式であり、記録ヘッドは、矢印Xの主走査方向における往方向(矢印X1方向)の記録走査(往走査)と、復方向(矢印X2)の記録走査(復走査)と、を交互に繰り返す。以下、記録媒体上の記録領域1から記録領域4に対する記録動作について説明する。本例において、記録媒体の幅は1524mm、幅方向における両側の余白領域の長さ4mmであるため、それらの記録領域の横サイズは1516mmである。それらの記録領域の縦サイズは、1200dpiの記録解像度において448画素分であるため、およそ9.48mmである。図5において、カラーインクはCo、保護インクはPとして表し、カラーインクCoと保護インクPのノズル列中の符号の1からは4は、それぞれのスキャンにおいて記録領域1から記録領域4を記録するノズル領域に対応する。
まず、記録領域1に対する記録動作について説明する。この記録動作においては、後述する第1、第2、第3の走査を含む少なくとも3回以上の走査によって画像を記録する。
記録領域1に対しては、ノズル番号1232から1343のノズルによる記録から開始され、スキャン1からスキャン12によって画像が記録される。スキャン1は往方向走査であり、カラーインクがノズル番号1232から1343のノズルから吐出され、保護インクは吐出されない。同様に、スキャン2からスキャン6までは、走査方向を交互に切り替えてカラーインクがインク吐出され、カラーインクのみが記録領域1に付与される(第1の走査)。次の往方向のスキャン7においては、カラーインクと保護インクがノズル番号560から671のノズルから吐出され、カラーインクと保護インクが記録領域1に付与される。同様に、スキャン8からスキャン10において、走査方向を交互に切り替えてカラーインクと保護インクが吐出され、それらのカラーインクと保護インクが同じスキャンにおいて記録領域1に付与される(第2の走査)。スキャン11の往方向走査においては、保護インクがノズル番号112から223のノズルから吐出され、カラーインクは吐出されない。スキャン12の復方向走査においては、保護インクのみが吐出される。したがって、スキャン11,12においては保護インクのみが記録領域1に付与される(第3の走査)。
次に、記録領域2に対する記録動作について説明する。
記録領域2に対しては、ノズル番号1232から1343のノズルによる記録から開始され、スキャン2からスキャン13によって画像が記録される。スキャン2は復方向走査であり、カラーインクがノズル番号1232から1343のノズルから吐出され、保護インクは吐出されない。スキャン2からスキャン7までは、走査方向を交互に切り替えてカラーインク吐出が吐出され、カラーインクのみが記録媒体上に付与される。次の復方向のスキャン8においては、カラーインクと保護インクがノズル番号560から671のノズルから吐出され、カラーインクと保護インクが同じスキャンにおいて吐出される。
記録領域3は、スキャン3から記録が開始され、その後は、記録領域1と同様に記録される。記録領域4は、スキャン4から記録が開始され、記録領域2と同様に記録される。
次に、記録媒体上にインクが付与される際の時間間隔(記録間隔)について説明する。
図6(a)は、記録媒体上における記録領域1から4を表したものであり、それらの記録領域は、主走査方向における「左」,「中」,「右」の3つの領域に分けられている。往方向および復方向における記録ヘッドの走査速度は、20inch/secである。それぞれの記録領域において、図中の左端から右端までの記録走査に要する時間を3秒とし、同様に、図中の右端から左端までの記録走査に要する時間も3秒とする。また、1回の記録媒体の搬送に要する時間は1秒とする。1回の記録走査の終了後に記録媒体の搬送が開始され、その搬送終了後に、次の記録走査が開始される。
図6(b)は、スキャン1を記録開始の走査としたときに、その記録開始から、それぞれの記録領域の「左」,「中」,「右」の領域におけるインクの付与が終了するまでの経過時間(単位は、秒)を示している。例えば、記録領域1の左領域に対するインクの付与が終了する時点(インク付与終了時点)は、スキャン1においては記録開始から1秒後であり、スキャン2においては記録開始から7秒後、スキャン3においては記録開始から9秒後である。記録領域1の左領域に関しては、スキャン1とスキャン2とにおけるインク付与終了時点の間隔(記録間隔)は6秒であり、スキャン2とスキャン3との記録間隔は2秒である。以降、左領域の記録間隔は、6秒、2秒、6秒、2秒、と交互に繰り返される。一方、記録領域2の左領域は、スキャン2から記録が開始される。記録領域2の左領域に対するインク付与終了時点は、スキャン3においては記録開始から7秒後、スキャン4においては記録開始から9秒後、スキャン5においては記録開始から15秒後である。したがって記録領域2の左領域に関しては、スキャン2とスキャン3との記録間隔は2秒であり、スキャン3とスキャン4との記録間隔は6秒である。以降、左領域の記録間隔は、2秒、6秒、2秒、6秒、と交互に繰り返される。記録媒体の搬送方向において隣接する記録領域1の左領域と記録領域2の左領域は、このような画像の記録中における記録間隔が異なる。
図7(a)は、記録領域1の左領域に関して、それぞれのスキャンにおいて付与されるインクと、それぞれのスキャンの間の記録間隔と、を示す。スキャン1からスキャン12において、それぞれのスキャンの間の記録間隔を経過してから、記録媒体上に順次インクが付与される。
具体的には、スキャン1においてカラーインクが記録媒体上に付与されてから、6秒の記録間隔が経過してから、スキャン2においてカラーインクが付与される。そして、2秒の記録間隔の後にスキャン3にてカラーインクが付与され、さらに、6秒の記録間隔の後にスキャン4にてカラーインクが付与される。そして、2秒の記録間隔の後にスキャン5にてカラーインクが付与され、さらに、6秒の記録間隔の後にスキャン6にてカラーインクが付与される。そして、2秒の記録間隔の後にスキャン7にて保護インクが付与されてから、同じスキャン7において直ちにカラーインクが付与される。さらに、6秒の記録間隔の後にスキャン8にてカラーインクが付与されてから、同じスキャン8において直ちに保護インクが付与される。さらに、2秒の記録間隔の後にスキャン9にて保護インクが付与されてから、同じスキャン9において直ちにカラーインクが付与される。さらに6秒の記録間隔の後にスキャン10にてカラーインクが付与されてから、同じスキャン10において直ちに保護インクが付与される。さらに2秒の記録間隔の後にスキャン11にて保護インクが積載されてから、6秒の記録間隔の後にスキャン12にて保護インクが付与される。
図7(b)は、記録領域2の左領域に関して、それぞれのスキャンにおいて付与されるインクと、それぞれのスキャンの間の記録間隔と、を示す。スキャン2からスキャン13において、それぞれのスキャンの間の記録間隔を経過してから、記録媒体上に順次インクが付与される。
具体的には、スキャン2においてカラーインクが記録媒体上に付与されてから、2秒の記録間隔が経過してから、スキャン3においてカラーインクが付与される。そして、6秒の記録間隔の後にスキャン4にてカラーインクが付与され、さらに、2秒の記録間隔の後にスキャン5にてカラーインクが付与される。そして、6秒の記録間隔の後にスキャン6にてカラーインクが付与され、さらに、2秒の記録間隔の後にスキャン7にてカラーインクが付与される。そして、6秒の記録間隔の後にスキャン8にてカラーインクが付与されてから、同じスキャン8において直ちに保護インクが付与される。さらに、2秒の記録間隔の後にスキャン9にて保護インクが付与されてから、同じスキャン9において直ちにカラーインクが付与される。さらに、6秒の記録間隔の後にスキャン10にてカラーインクが付与されてから、同じスキャン10において直ちに保護インクが付与される。さらに2秒の記録間隔の後にスキャン11にて保護インクが付与されてから、同じスキャン11において直ちにカラーインクが付与される。さらに6秒の記録間隔の後にスキャン12にて保護インクが積載されてから、2秒の記録間隔の後にスキャン13にて保護インクが付与される。
(光沢差の要因)
前述したように、オーバーラップ領域が設定された構成において、保護インクを用いて、記録画像の表面の光沢の均一性を向上させようとした場合、記録領域における複数の部分においてインクの付与状態が異なるために、光沢の差が発生するおそれがある。具体的には、記録媒体の搬送方向において隣接する記録領域の間において、バンド単位(記録媒体の搬送量単位)の光沢ムラを引き起こすおそれがある。
以下、記録領域毎における光沢差の発生メカニズムについて説明する。オーバーラップ領域を設定した場合、カラーインク単体の層(第2の層)と、カラーインクと保護インクが混在する層(第2の層)と、保護インクのみの層(第3の層)と、の3種類のインク層が存在する。
図7(a)の記録領域1の左領域において、スキャン1からスキャン6までは、カラーインク単体の第1の層が形成され、スキャン1の記録開始からスキャン6の記録終了までには22秒の記録間隔がある。そしてスキャン6の記録完了から2秒後に、スキャン7において、カラーインクと保護インクとが混在する第2の層が形成される。スキャン7からスキャン10まで第2の層が形成され、スキャン1の記録開始からスキャン10の記録終了までには38秒の記録間隔がある。そして、スキャン10の記録完了から2秒後にスキャン11において、保護インクのみの第3の層が形成される。スキャン11およびスキャン12において第3の層が形成され、スキャン1の記録開始からスキャン12の記録終了までは46秒の記録間隔がある。スキャン10の後はインクが付与されず、インクの乾燥が徐々に進む。
図7(b)の記録領域2の左領域において、スキャン2からスキャン7までは、カラーインク単体の第1の層が形成され、スキャン2の記録開始からスキャン7の記録終了までには18秒の記録間隔がある。そしてスキャン7の記録完了から6秒後に、スキャン8において、カラーインクと保護インクとが混在する第2の層が形成される。スキャン8からスキャン11まで第2の層が形成され、スキャン2の記録開始からスキャン11の記録終了までには34秒の記録間隔がある。そして、スキャン11の記録完了から6秒後にスキャン12において、保護インクのみの第3の層が形成される。スキャン12およびスキャン13において第3の層が形成され、スキャン2の記録開始からスキャン13の記録終了までは46秒の記録間隔がある。スキャン12の後はインクが付与されず、インクの乾燥が徐々に進む。
記録領域1の左領域は、カラーインク単体の第1の層と、カラーインクと保護インクとが混在する第3の層と、が重ねられるときの時間間隔、つまりスキャン6とスキャン7との間の時間間隔は2秒である。一方、記録領域2の左領域において、それと同じ時間間隔、つまりスキャン7とスキャン8との間の時間間隔の6秒である。したがって、その時間間隔については、記録領域1の左領域よりも記録領域2の左領域の方が長い。また、記録領域1の左領域は、カラーインクと保護インクとが混在する第3の層と、保護インク単体の第3の層と、が重ねられるときの時間間隔、つまりスキャン10とスキャン11との間の時間間隔は2秒である。一方、記録領域2の左領域において、それと同じ時間間隔、つまりスキャン11とスキャン12との間の時間間隔の6秒である。したがって、その時間間隔については、記録領域1の左領域よりも記録領域2の左領域の方が長い。
したがって、記録領域1の左領域と記録領域2の左領域とにおいては、第2の層を形成する際の第1の層の乾燥状態が異なり、また、第3の層を形成する際の第2の層の乾燥状態も異なる。そのため、12回のスキャンによって画像を記録したときに、記録領域1の左領域と記録領域2の左領域におけるインクの表面形状が異なり、その結果、それらの間に光沢差が生じるおそれがある。
(光沢差のモデル)
本例においては、カラーインクの層の上に、カラーインクと保護インクを同時に吐出する。ここでは説明の簡略化のために、最も光沢差が顕著に発生しやすい積層状態、つまりカラーインク層の上に保護インク層を積層する例について説明する。
図8に、カラーインク層の乾燥時間が異なることによって生じる光沢差を説明するためのモデルの説明図である。ここでは、それぞれの記録領域において、インクを付与するために使用するノズルの吐出比率は等しいものとし、カラーインク単体の第1の層(カラーインク層)の上に、保護インクのみの第3の層(保護インク層)を積層する。図8は、カラーインク72が付与された後に、保護インク(処理液)73が付与された記録媒体71の断面図である。
図8(a)は、カラーインク層の乾燥時間が短い場合の説明図である。記録媒体71上に先行してカラーインク72を付与してカラーインク層を形成してから、保護インク73を付与して保護インク層を積層するまでの間隔、つまりカラーインク層の乾燥時間が短いために、カラーインク層は記録媒体71にしっかりと定着していない。下地としてのカラーインク層がしっかりと定着していないため、保護インク73は、カラーインク72の中へ浸透し、カラーインク72の上に保護インク層の平滑面を形成することができない。このような記録領域は、光沢度が低い領域となる。
図8(b)は、カラーインク層の乾燥時間が長い場合の説明図である。記録媒体71上に先行してカラーインク72を付与してカラーインク層を形成してから、保護インク73を付与して保護インク層を積層するまでの間隔、つまりカラーインク層の乾燥時間が長いために、カラーインク層は記録媒体71にしっかりと定着する。下地としてのカラーインク層がしっかりと定着しているため、保護インク73は、カラーインク72の中へ浸透しにくくなり、カラーインク72の上に保護インク層の平滑面を形成することができる。このような記録領域は、光沢度が高い領域となる。
以上のように、下地のカラーインク層の乾燥時間に応じて記録画像に光沢差が発生する。本実施形態のような双方向記録方式の場合には、図8(a)の記録領域と、図8(b)の記録領域と、バンド単位に交互に現れるため、記録媒体の搬送方向において隣接するバンド間の光沢差により、バンドムラが発生するおそれがある。
ここでは、光沢差の発生のメカニズムを説明するために、カラーインク層の上に保護インク層を形成する例について説明した。しかし、これらのインク層同士のみではなく、定着性の異なるインク層同士が積層される状況においては、同様の現象が発生する。インクの定着性は、インクに含有される顔料分散液と樹脂の比率に応じて異なる。定着性試験の結果、本例に用いるインクの内、顔料分散液の比率が少ないフォトグレイ(Pgy)、フォトシアン(Pc)、フォトマゼンタ(Pm)は、保護インクPと同程度の定着性能があった。一方、顔料分散液の比率が多いシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)は、保護インクPと比較して定着性能が劣る(定着時間が遅い)。
(マルチパスマスクの比較例)
次に、本実施形態におけるマルチパスマスクの説明に先立ち、その比較例について説明する。
チップ内にノズル列を形成する複数のノズルに関して、インクの吐出比率をノズル列方向において異ならせることによって、記録画像の画質向上の効果が得られることは周知である。例えば、ノズル列の中央に位置するノズルの吐出比率を高め、ノズル列の端部に位置するノズルの吐出比率を低くする。これにより、後者のノズルから吐出されるインクは気流の影響を受けやすいため、その吐出比率を低くすることにより、インクの着弾位置のずれの発生頻度を小さく抑えて、バンド間のつなぎスジの発生を抑制することができる。それぞれのインクに関して、それぞれのノズルの吐出比率は、記録する画像データを各パスのデータに分割するためのマルチパスマスクによって規定される。
図9は、比較例としての、カラーインク吐出用のノズルの吐出比率、および保護インク吐出用のノズルの吐出比率の説明図である。
図9(a)は、カラーインク吐出用のノズルの位置、図9(b)は、それらのノズルの吐出比率を示す。図9(c)は、それらのノズルから、図9(b)の吐出比率でカラーインクを吐出するためのマルチパスマスクを示す。本例のマルチパスマスクは、データ形式が2値のモノクロ画像に対応するものである。図中の白はマスクデータ“0”を表しており、カラーインクが吐出されない画素に対応する。図中の黒はマスクデータ“1”を表しており、カラーインクが吐出される画素に対応する。このマルチパスマスクを用いて、入力された画像データをパス毎に分割することによって、マルチパス記録を実行する。本例の場合、ノズル番号0から223のノズルに設定されるマスクデータは全て“0”であるため、カラーインクは、ノズル番号0から223のノズル領域からは吐出されない。一方、ノズル番号224から1343のノズルに対しては、記録媒体の1回の紙搬量が112ノズルに対応する長さの搬送を伴って、10パスのマルチパス記録が行われた場合に、カラーインク用の吐出データが補完されるようにマルチパスマスクが設定される。このようなマルチパスマスクによって、カラーインク吐出用のノズルの吐出比率が規制され、ノズル番号560を中心として、ノズル番号224から1343のノズルの対称的な吐出比率によってカラーインクが吐出される。
図9(d)は、保護インク吐出のノズルの位置、図9(e)は、それらのノズルの吐出比率を示す。図9(f)は、それらのノズルから、図9(e)の吐出比率で保護インクを吐出するためのマルチパスマスクを示す。本例の場合は、ノズル番号672から1343のノズルに設定されるマスクデータは、全て“0”0であるため、保護インクは、ノズル番号672から1343のノズル領域からは吐出されない。一方、ノズル番号0から671のノズルに対しては、記録媒体の1回の搬送量が112ノズルに対応する長さの搬送を伴って、6パスのマルチパス記録が行われた場合に、保護インク用の吐出データが補完されるようにマルチパスマスクが設定される。このようなマルチパスマスクによって、保護インク吐出用のノズルの吐出比率が規制され、ノズル番号335を中心として、ノズル番号0から671のノズルの対称的な吐出比率によって保護インクが吐出される。
図10は、それぞれのインクの記録デューティー(duty)と、インクの定着時間と、の関係を示す。
記録デューティーは、記録領域における1200×1200dpiの格子に、画像データに基づいて、4plのインク滴によるドットを1つ形成したときの記録デューティーを100%と定義する。インクの付与量は、その定着時間に影響を与えるため、前述した記録間隔と同様に、光沢差を引き起こす大きな要因となる。ここでは、記録媒体上に付与されるインクの定着時間を測定するために、記録媒体上に総量15%の複数のカラーインクを付与し、その後の十分な乾燥時間を確保した上で、記録デューティー毎の定着時間を検証した。この結果から、記録デューティーに応じて1スキャン当たりに付与されるインクに必要な定着時間が導かれる。先の走査によって付与されたインクの定着時間内に、次の走査のインクが付与された場合には、画像の光沢ムラなどが生じて記録品位が低下するおそれがある。
上述したように、本例において用いられるフォトグレイ(Pgy)、フォトシアン(Pc)、フォトマゼンタ(Pm)のインクには、保護インクPと同等の定着性能がある。一方、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)のインクは、保護インクPと比較して定着性能が劣る。そのため、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)をインク群Aとし、フォトグレイ(Pgy)、フォトシアン(Pc)、フォトマゼンタ(Pm)、保護インクPをインク群Bとした。
図10中の条件1は、インク群Aのみを用いる記録条件、条件2は、インク群Aとインク群Bを2対1の比率で用いる記録条件、条件3は、インク群Aとインク群Bを1対1の比率で用いる記録条件である。また、条件4は、インク群Aとインク群Bを1対2の比率で用いる記録条件、条件5は、インク群Bのみを混在させる記録条件である。図10は、これらの条件1から5において、記録デューティーと定着時間との関係を示している。定着時間とは、記録媒体上にインクを付与した後に放置し、その後、記録媒体に触れてもインクの転写が発生しない程度にインクが乾燥するまでの乾燥時間を意味する。
図11は、本比較例におけるスキャン毎の記録デューティーの説明図である。
画像データに応じて生成された各インクの記録デューティーは、マルチパスマスクを用いてスキャン毎に分割される。その分割された記録デューティーをスキャン毎の記録領域において平均化し、その平均化したスキャン毎の記録デューティーを「パス間記録デューティー」とする。図11において、最大のインク打ち込み量は、記録デューティー200%に対応する。また図11においては、カラーインクの最大使用量が総記録デューティーの150%に対応し、保護インクの最大使用量が総記録デューティーの50%に対応する。表3には、このような条件下におけるパス間記録デューティーが記載されている。本例において、総記録デューティーの150%は、定着性能が劣るインク群Aのカラーインクのみによるものである。
スキャン1のパス間記録デューティーは、カラーインクが8.7%であり、保護インクは付与されない。スキャン2のパス間記録デューティーは、カラーインクが11.1%であり、保護インクは付与されない。スキャン3のパス間記録デューティーは、カラーインクが14.6%であり、保護インクは付与されない。スキャン4のパス間記録デューティーは、カラーインクが18.5%であり、保護インクは付与されない。スキャン5のパス間記録デューティーは、カラーインクが20.7%であり、保護インクは付与されない。スキャン6のパス間記録デューティーは、カラーインクが20.9%であり、保護インクは付与されない。スキャン7のパス間記録デューティーは、カラーインクが19.2%であり、保護インクは4.6%である。スキャン8のパス間記録デューティーは、カラーインクが15.5%であり、保護インクは8.1%である。スキャン9のパス間記録デューティーは、カラーインクが11.8%であり、保護インクは11.7%である。スキャン10のパス間記録デューティーは、カラーインクが9.1%であり、保護インクは11.9%である。スキャン11のパス間記録デューティーは、保護インクが8.7%であり、カラーインクは付与されない。スキャン12のパス間記録デューティーは、保護インクが5.0%であり、カラーインクは付与されない。
スキャン毎の記録領域に付与される総インク量と、定着時間と、の関係は、スキャン7においては、カラーインクと保護インクの比率が条件1と条件2との間の比率となり、総インク量は、20%以上かつ25%以下となる。その場合、図10の関係図から、2.4秒から4.2秒程度の定着時間が必要となる。同様に、スキャン8においては、カラーインクと保護インクの比率が条件2と条件3との間の比率となり、総インク量が20%以上かつ25%以下となり、2秒から3.5秒程度の定着時間が必要となる。同様に、スキャン9においては、カラーインクと保護インクの比率がほぼ条件3の条件となり、総インク量が20%以上かつ25%以下となり、2秒から2.8秒程度の定着時間が必要となる。同様に、スキャン10においては、カラーインクと保護インクの比率が条件3と条件4との間の比率となり、総インク量が20%以上かつ25%以下となり、1.5秒から2.8秒程度の定着時間が必要となる。
前述した図6(a),(b)に記載したように、記録領域1の左領域と記録領域2の左領域の記録間隔として、最小の2秒と最大の6秒とが交互に発生し、その時間が定着時間となる。そのため、記録領域毎に下地としてのインクの定着状態が異なる。したがって、記録領域1の左領域と、記録領域2の左領域と、におけるインクの定着状態が異なり、このような異なる定着状態がバンド単位で交互に現れることになる。この結果、記録媒体の搬送方向において隣接するバンド間に光沢差が生じて、記録画像に光沢ムラが発生するおそれがある。このように、この比較例におけるノズルの吐出比率によって、光沢ムラが発生するおそれがある。
(本実施形態のマルチパスマスク)
カラーインク層の上に、保護インクを吐出(後打ち)して保護インク層を形成することにより、記録面の光沢の均一化を図ることができる。一方、それぞれのインク(カラーインクおよび保護インク)による画質を考慮した記録パスの必要数を維持したまま、それらのインクの記録パスを分けた場合には、記録媒体上の単位領域に対する記録パス数が増大して、スループットの低下を招くおそれがある。本実施形態においては、それぞれのインクに適した記録パス数を確保しつつ、それらインクの記録パスをオーバーラップさせる。さらに、そのオーバーラップの走査において吐出されるカラーインクと保護インクの合計の量を所定量以下に制限することにより、保護インクの機能を充分に発揮させて、光沢ムラなどの発生を抑制した高品位の画像を記録する。
本実施形態におけるカラーインク用のマルチパスマスクは、記録パスの前半においてノズルの吐出比率を高くし、その後半においてノズルの吐出比率を低くする。一方、保護インク用のマルチパスマスクは、記録パスの前半においてノズルの吐出比率を低くし、その後半においてノズルの吐出比率を高くする。これにより、カラーインクのみで記録する領域においては、カラーインク用のノズルの吐出比率が高くし、カラーインクおよび保護インクを記録する領域においては、カラーインク用および保護インク用のノズルの吐出比率が低くする。また、保護インクのみで記録する領域においては、保護インク用のノズルの吐出比率が高くする。
顔料分散液を含むカラーインクと、樹脂の含有量が多い保護インクと、を同一スキャンにおいて付与する際に、そのスキャンに対応するバンド内においてノズルの吐出比率に勾配を持たせた場合、そのバンド内においてインクの積層状態が不均一となりやすい。すなわち、カラーインク層と保護インク層とを積層したインク層の表層に残る顔料と樹脂の量が変化し、結果的に、そのバンド内において、インクの積層状態が不均一となり、記録画像に光沢ムラが生じるおそれがある。
このような現象は、インクの表層に残る顔料と樹脂の量が多いほど顕著となる。例えば、顔料濃度の高いシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)のインクと、保護インクと、を同一スキャンにおいて付与した場合、記録画像の光沢ムラが顕著となり、画質弊害として認識されるおそれがある。一方、顔料濃度の低いフォトグレイ(Pgy)、フォトシアン(Pc)、フォトマゼンタ(Pm)のインクと、保護インクと、を同一スキャンにおいて付与した場合、それらのインクの積層状態が不均一となってもバンド内における光沢ムラの程度は微小である。その理由は、そのバンド内において、インク層の表面に残る顔料と樹脂の比率の偏りが少ないためである。また、上記のように光沢ムラが生じる現象は、記録ヘッドの往方向と復方向の両方の移動時に画像を記録する双方向記録方式においてだけではなく、記録ヘッドの一方向の移動時にのみ画像を記録する片方向記録方式においても生じる。
本実施形態においては、顔料分散液の比率が多いカラーインクと、保護インクと、を同一スキャンにおいて付与した際のバンド内の光沢ムラの発生を抑制する。そのために、カラーインクと保護インクとが共に付与されるスキャンの以降においては、カラーインク用および保護インク用のノズルの吐出比率を均一にする。例えば、カラーインク用および保護インク用のマルチパスマスクは、ノズル番号560から671の112個のノズルの吐出比率を均一の19.2%とする。本実施形態は、このようなマルチパスマスクを用いることにより、カラーインクと保護インクが共に付与されるスキャンの以降において、カラーインクと保護インクとの積層状態を均一化することにより、バンド内における光沢ムラの発生を抑制する。
図12は、本実施形態におけるカラーインク用および保護インク用のノズルの吐出比率の説明図である。
図12(a)は、カラーインク用のノズルの位置を示し、図12(b)は、それらのノズルの吐出比率を示す。図12(c)は、図12(b)の吐出比率によってカラーインクを吐出するためのカラーインク用のマルチパスマスクを示す。本例におけるマルチパスマスクは、データ形式が2値のモノクロ画像に対応するものである。図中の白はマスクデータの“0”を表しており、インクが吐出されない画素に対応する。図中の黒はマスクデータの“1”を表しており、インクが吐出される画素に対応する。このようなマルチパスマスクを用いて、入力された画像データをパス毎に分割することにより、マルチパス記録を実行する。
本例の場合、ノズル番号0から223のノズルに設定されるマスクデータは、全て“0”であるため、カラーインクは、ノズル番号0から223に対応するノズル領域からは吐出されない。一方、ノズル番号224から1343のノズルに対しては、記録媒体の1回の搬送量が112ノズルに対応する長さの搬送を伴って、10パスのマルチパス記録が行われた場合に、カラーインク用の吐出データが補完されるようにマルチパスマスクが設定される。このマルチパスマスクによって、カラーインク用のノズルの吐出比率が設定される。
図12(d)は、保護インク用のノズルの位置を示し、図12(e)は、それらのノズルの吐出比率を示す。図12(f)は、図12(e)の吐出比率によって保護インクを吐出するためのマルチパスマスクを示す。本例の場合、ノズル番号672から1343のノズルに設定されるマスクデータは、全て“0”であるため、保護インクは、ノズル番号672から1343に対応するノズル領域からは吐出されない。一方、ノズル番号0から671のノズルに対しては、記録媒体の1回の搬送量が112ノズルに対応する長さの搬送を伴って、6パスのマルチパス記録が行われた場合に、保護インク用の吐出データが補完されるようにマルチパスマスクが設定される。このマルチパスマスクによって、保護インク用のノズルの吐出比率が設定される。
このように複数のノズルから吐出されるカラーインクおよび保護インクの吐出比率は、それぞれの走査において、ノズルの配列方向において勾配をもってもよく、または一定であってもよい。
次に、それぞれの記録領域に付与布される総インク量について説明する。記録デューティーおよび定着時間に関しては、前述したとおりである。本例においては、12パスのマルチパス記録が行われた際に、それぞれのスキャンにおいて付与されるカラーインクおよび保護インクの量について説明する。
図13は、本実施形態におけるスキャン毎の記録デューティーの説明図である。
画像データに応じて生成された各インクの記録デューティーは、マルチパスマスクを用いてスキャン毎に分割される。その分割された記録デューティーをスキャン毎の記録領域において平均化し、その平均化したスキャン毎の記録デューティーを「パス間記録デューティー」とする。図13において、最大のインク打ち込み量は、記録デューティー200%に対応する。また図13において、インク群Aのカラーインクの最大使用量は、記録デューティー150%に対応し、保護インクの最大使用量は、記録デューティー50%に対応する。
スキャン1のパス間記録デューティーは、カラーインクが12.0%であり、保護インクは付与されない。スキャン2のパス間記録デューティーは、カラーインクが22.5%であり、保護インクは付与されない。スキャン3のパス間記録デューティーは、カラーインクが25.5%であり、保護インクは付与されない。スキャン4のパス間記録デューティーは、カラーインクが27.0%であり、保護インクは付与されない。スキャン5のパス間記録デューティーは、カラーインクが24.0%であり、保護インクは付与されない。スキャン6のパス間記録デューティーは、カラーインクが18.0%であり、保護インクは付与されない。スキャン7のパス間記録デューティーは、カラーインクが10.5%であり、保護インクは3.5%である。スキャン8のパス間記録デューティーは、カラーインクが6.0%であり、保護インクは6.0%である。スキャン9のパス間記録デューティーは、カラーインクが3.0%であり、保護インクは10.0%である。スキャン10のパス間記録デューティーは、カラーインクが1.5%であり、保護インクは12.5%である。スキャン11のパス間記録デューティーは、保護インクが11.5%であり、カラーインクは付与されない。スキャン12のパス間記録デューティーは、保護インクが6.5%であり、カラーインクは付与されない。
カラーインクのみによって記録されるスキャン1においては、総インク量が20%以下である。スキャン2からスキャン5においては、総インク量が20%以上かつ30%以下である。また、保護インクのみによって記録されるとき、および、保護インクとカラーインクとによって記録されるときは、総インク量が15%以下である。その場合、図10における記録デューティーと定着時間との関係から、インクの定着時間は2秒以内である。
前述した図6(a),(b)に記載されているように、記録領域1の左領域と記録領域2の左領域との記録間隔は、最小2秒である。スキャン1、およびスキャン6からスキャン12において、領域1の左領域と記録領域2の左領域は、記録間隔やパス間記録デューティーが異なっても下地のインク層の定着が完了している。そのため、これらのスキャンにおいては、常にインクの定着時間を経過した状態のインク層の上に、次のスキャンによってインクが付与されることになる。スキャン2からスキャン5においては、インクの定着に2秒以上を要する。しかし、保護インクが付与されるスキャンまでには、十分な記録間隔があるため、カラーインクのみのインク層はスキャン7までには定着が完了している。その結果、領域1の左領域と、記録領域2の左領域と、のインクの積層状態を均一に保って、記録媒体の搬送方向において隣接するバンド間の光沢差を抑制することができる。
以上のように、カラーインク用のノズルと、保護インク用のノズルと、にオーバーラップ領域を設定した構成において、カラーインクに関しては、カラーインクのみで記録する領域における吐出比率を高め、オーバーラップ領域における吐出比率を低くする。保護インクに関しては、オーバーラップ領域における吐出比率を低くし、保護インクのみで記録する領域における吐出比率を高くする。この結果、オーバーラップ領域において吐出されるカラーインクと保護インクの合計の量を所定量以下に制限して、光沢ムラの発生を抑制することができる。その所定量は、複数の記録走査の相互間、つまり前後の記録走査の間(走査間内)において、記録媒体に定着可能な量とすることができる。
(第2の実施形態)
本実施形態は、顔料濃度の高い第1のカラーインク、顔料濃度の低い第2のカラーインク、および保護インクを用いて画像を記録する構成において、それらのインクの吐出比率を関連的に設定する。第1のカラーインクと第2のカラーインクは、前述した特許文献2に記されているインクジェット専用用紙に対し、先行して付与されたインクの色味がより強く発色するカラーインクである。第1のカラーインクを先行して付与し、その後に第2のカラーインクを付与(後がけ)することにより、第1のカラーインクをより強く発色させることができる。
第2のカラーインクは、主に記録画像の低濃度部に対して使用され、記録面上を完全に被覆するようには付与されない。そのため、記録画像の低濃度部においてカラーインクが付与されていない領域に対しては、保護インクを付与することによって、光沢の均一性を向上させる。一方、顔料濃度が低いフォトグレイ(Pgy)、フォトシアン(Pc)、フォトマゼンタ(Pm)などのインクと、保護インクと、を同一スキャンにおいて付与した場合、それらのインクの積層状態が不均一となっても影響は小さい。すなわち、それらのカラーインクの顔料成分の量が少ないため、光沢ムラが発生したとしても視認性が低い。同じ記録領域に、第2のカラーインクと保護インクを同一スキャンにおいて付与したときに光沢の均一性を向上させることができ、また光沢ムラが目立たないことから、前述したようにオーバーラップ領域を設定するができる。
図14は、本例におけるオーバーラップ領域と使用ノズル領域の関係の説明図である。本例において、1インク色当たりの総使用ノズル数は1280(ノズル番号0から1270)、記録媒体の1回当たりに搬送量は80ノズル分の長さであり、16パスのマルチパス方式によって画像を記録する。本例においては、1インク色当たりの総使用ノズル数が1344の図2の記録ヘッドを用い、その記録ヘッドにおいて、記録媒体の1回当たりに搬送量に応じた未使用ノズルを設定することにより、有効ノズル数を1280に制限して記録動作を行う。
第1のカラーインクは、前述した表1において、顔料濃度が4.5%であるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)のインクである。第2のカラーインクは、顔料濃度が0.75%であるフォトマゼンタ(Pm)、フォトシアン(Pc)、フォトグレイ(Pgy)のインクである。図14には、記録ヘッドにおけるインク毎の使用ノズルの位置が表されている。図中の領域Aは第1のカラーインクの吐出領域であり、ノズル番号480から1279のノズル範囲に対応する。ノズル番号0から479のノズルは、第1のカラーインクを吐出しない。領域Bは第2のカラーインクの吐出領域であり、ノズル番号0から799のノズル範囲に対応する。ノズル番号800から1279のノズルは、第2のカラーインクを吐出ない。領域Cは保護インクの吐出領域であり、ノズル番号0から479のノズル領域に対応する。ノズル番号480から1279のノズルは、保護インクを吐出しない。第1のカラーインクの吐出領域Aと、第2のカラーインクの吐出領域Bと、がオーバーラップするノズル番号480から799の領域Dがオーバーラップ領域1である。また、第2のカラーインクの吐出領域Bと、保護インクの吐出領域Cと、がオーバーラップするノズル番号0から479の領域Eがオーバーラップ領域2である。
使用ノズル数が1280ノズルである16パスのマルチパス記録において、記録媒体の1回当たりの搬送量が等しい場合、その搬送量は、80ノズル分の長さである。そのため、第1のカラーインクの吐出領域Aは10パス分の記録領域、第2のカラーインクの吐出領域Bは10パス分の記録領域、保護インクの吐出領域Cは6パス分の記録領域となる。また、オーバーラップ領域1としての領域Dは4パス分の記録領域、オーバーラップ領域1としての領域Eは6パス分の記録領域となる。第1のカラーインクの吐出領域の10パス、第2のカラーインクの吐出領域Bの10パス、保護インクの吐出領域Cの6パスは、記録画像の粒状感、溢れ、滲み、つなぎスジなどの影響を考慮した画質的観点から、最低限必要なパス数として導き出した。保護インクは、カラーインクと比較して、視認性が低く、また記録面の表層をコーティングすることが目的であるため必要な付与量が少ない。このような理由から、保護インクに関しては少ないパス数の設定が可能である。
次に、このようなオーバーラップ領域が設定された記録ヘッドを用いた記録動作、それぞれの記録領域におけるインクの積層形態、および記録間隔について説明する。本例の場合、使用ノズル数が1280、記録媒体の搬送量が80ノズル分の長さである16パスのマルチパス記録である。記録ヘッドは、矢印Xの主走査方向における往方向(矢印X1方向)と復方向(矢印X2)の記録走査を交互に繰り返す(双方向記録方式)。
(マルチパスマスク)
図15は、それぞれのインク(第1のカラーインク、第2のカラーインク、保護インク)を吐出する使用ノズルの位置、吐出比率、およびマルチパスマスクの説明図である。
図15(a)は、第1のカラーインク用のノズルの位置、図15(b)は、それらのノズルの吐出比率を示す。図15(c)は、それらのノズルから、図15(b)の吐出比率で第1のカラーインクを吐出するためのマルチパスマスクを示す。ノズル番号0から479のノズルに設定されるマスクデータは全て“0”であるため、第1のカラーインクは、ノズル番号0から479のノズル領域からは吐出されない。一方、ノズル番号480から1279のノズルに対しては、記録媒体の1回の搬送量が80ノズルに対応する長さの搬送を伴って10パスのマルチパス記録が行われた場合に、第1のカラーインク吐出用のデータが補完されるようにマルチパスマスクが設定される。このようなマルチパスマスクによって、第1のカラーインク用のノズルの吐出比率が設定される。
図15(d)は、第2のカラーインク用のノズルの位置、図15(e)は、それらのノズルの吐出比率を示す。図15(f)は、それらのノズルから、図15(e)の吐出比率で第2のカラーインクを吐出するためのマルチパスマスクを示す。ノズル番号800から1279のノズルに設定されるマスクデータは全て“0”であるため、第2のカラーインクは、ノズル番号800から1279のノズル領域からは吐出されない。一方、ノズル番号0から799のノズルに対しては、記録媒体の1回の搬送量が80ノズルに対応する長さの搬送を伴って10パスのマルチパス記録が行われた場合に、第2のカラーインク吐出用のデータが補完されるようにマルチパスマスクが設定される。このようなマルチパスマスクによって、第2のカラーインク用のノズルの吐出比率が設定される。
図15(g)は、保護インク用のノズルの位置、図15(h)は、それらのノズルの吐出比率を示す。図15(i)は、それらのノズルから、図15(h)の吐出比率で保護インクを吐出するためのマルチパスマスクを示す。ノズル番号480から1279のノズルに設定されるマスクデータは全て“0”であるため、第2のカラーインクは、ノズル番号480から1279のノズル領域からは吐出されない。一方、ノズル番号0から479に対しては、記録媒体の1回の搬送量が80ノズルに対応する長さの搬送を伴って6パスのマルチパス記録が行われた場合に、保護インク吐出用のデータが補完されるようにマルチパスマスクが設定される。このようなマルチパスマスクによって、保護インク用のノズルの吐出比率が設定される。
本例においては、それぞれのインク(第1のカラーインク、第2のカラーインク、保護インク)の記録デューティーの合計が後述するインクの定着時間の条件を満たすように、それらのインクの吐出比率が設定される。すなわち、第1のカラーインクの吐出比率は、そのインクが吐出される10パスの内の前半の方が後半よりも高く設定され、第2のカラーインクの吐出比率は、そのインクが吐出される10パスの内の前半の方が後半よりも高く設定される。また、保護インクの吐出比率は、そのインクが吐出される6パスの内の前半の方が後半よりも低く設定される。
このようなマルチパスマスクを使用することにより、記録媒体の1回の搬送単位の記録領域に対し、スキャン1からスキャン6までは第1のカラーインクのみによって記録が行われる。スキャン7からスキャン10までは、第1のカラーインクおよび第2のカラーインクによって記録が行われ、スキャン11からスキャン16までは、第2のカラーインクおよび保護インクによって記録が行われる。
本例においては、下記の4つの条件を満たすようにマルチパスマスクを設定する。これにより、オーバーラップ領域を設定した構成において、画質を考慮したパス数を保持したまま、インクの積層状態の均一性を高めて光沢ムラの発生を抑制する。
条件1:各色のインクによる記録画像の画質を考慮した記録パス数を保持する
条件2:カラーインクの上に保護インクを付与(後がけ)することによる効果を最大限に活かすために、第1のカラーインクは先行して付与し(先打ち)、保護インクは、その後の完全な後がけ(後打ち)とする。
条件3:インクをより強く発色させるために、第1のカラーインクを先打ちとし、第2のカラーインクは後打ちとする。
条件4:それぞれのスキャン内において付与されるインク量は、インクの定着時間に応じて制限する。
条件1は、前述したように記録画像の粒状感、溢れ、滲み、つなぎスジなどの画質的観点から、最低限必要とされるパス数を維持することである。本例の場合、第1のカラーインクは10パス、第2のカラーインクは10パス、保護インクは6パスが必要である。
本例の場合、条件2により、第1のカラーインクは10パス、保護インクは6パスが必要となる。すなわち、全記録パス数が16パスであるため、第1のカラーインクを16パスの内の先方側の10パスにおいて付与し、保護インクは後方側の6パスにおいて付与することにより、第1のカラーインクの吐出後に保護インクを完全に後打ちすることができる。
条件1から、第2のカラーインクは10パスが必要であるため、条件3により、第2のカラーインクを最も後打ちできるパスは、全16パスの内の後方側の10パスとなる。
条件4は、上述したように、インクの吐出比率を設定することによって満たすことができる。すなわち、第1のカラーインクの吐出比率は、そのインクが吐出される10パスの内の前半の方を後半よりも高く設定し、第2のカラーインクの吐出比率は、そのインクが吐出される10パスの内の前半の方を後半よりも高く設定する。また、保護インクの吐出比率は、そのインクが吐出される6パスの内の前半の方を後半よりも低く設定する。
図16に、本例における記録動作を説明するための図である。図16において、第1のカラーインクはCo1、第2のカラーインクはCo2、保護インクはPとして表す。それらのインクCo1,Co2,Pのノズル列中の符号の1からは4は、それぞれのスキャンにおいて記録領域1から記録領域4を記録するノズル領域に対応する。本例は往復記録方式であり、記録ヘッドは、矢印Xの主走査方向における往方向(矢印X1方向)と復方向(矢印X2)の記録走査を交互に繰り返す。記録媒体において、記録領域1から記録領域4を合わせた領域は、横幅512画素、縦幅320画素のサイズに対応する。
まず、記録領域1に対する記録動作について説明する。
記録領域1に対してはノズル番号1200から1279のノズルによる記録から開始され、スキャン1からスキャン16によって画像が記録される。スキャン1は往方向走査であり、第1のカラーインクがノズル番号1200から1279のノズルから吐出され、第2のカラーインクおよび保護インクは吐出されない。同様にスキャン2からスキャン6までは、走査方向を交互に切り替えて第1のカラーインクが吐出され、第1のカラーインクのみが記録媒体上に付与される。スキャン7は往方向走査であり、第1のカラーインクおよび第2のカラーインクがノズル番号720から799のノズルから吐出され、保護インクは吐出されない。同様に、スキャン7からスキャン10までは走査方向を交互に切り替えて、第1および第2のカラーインクが吐出され、それらのインクが記録媒体上に付与される。スキャン11は往方向走査であり、第2のカラーインクおよび保護インクがノズル番号400から479のノズルから吐出され、第1のカラーインクは吐出されない。同様に、スキャン11からスキャン16までは走査方向を交互に切り替えて、第2のカラーインクおよび保護インクが吐出され、それらのインクが記録媒体上に付与される。
次に、記録領域2に対する記録動作について説明する。
記録領域2に対してもノズル番号1200から1279のノズルによる記録から開始され、スキャン1からスキャン16によって画像が記録される。スキャン1は復方向走査であり、第1のカラーインクがノズル番号1200から1279のノズルから吐出され、第2のカラーインクおよび保護インクは吐出されない。同様に、スキャン2からスキャン6までは走査方向を交互に切り替えて第1のカラーインクを吐出し、そのインクのみが記録媒体上に付与される。スキャン7は復方向走査であり、第1のカラーインクおよび第2のカラーインクがノズル番号720から799吐出され、保護インクは吐出されない。同様に、スキャン7からスキャン10までは走査方向を交互に切り替えて第1および第2のカラーインクを吐出し、それらのインクが記録媒体上に付与される。スキャン11は復方向走査であり、第2のカラーインクおよび保護インクがノズル番号400から479のノズル吐出され、第1のカラーインクは吐出されない。同様に、スキャン11からスキャン16までは走査方向を交互に切り替えて第2のカラーインクおよび保護インクを吐出し、それらのインクが記録媒体上に付与される。
記録領域3に対しては、スキャン3から記録が開始され、その後は、記録領域1と同様の記録動作によって画像が記録される。記録領域4に対しては、スキャン4から記録が開始され、記録領域2と同様の記録動作によって画像が記録される。
図17は、本実施形態におけるスキャン毎の記録デューティーの説明図である。
画像データに応じて生成された各インクの記録デューティーは、マルチパスマスクを用いてスキャン毎に分割される。その分割された記録デューティーをスキャン毎の記録領域において平均化し、その平均化したスキャン毎の記録デューティーを「パス間記録デューティー」とする。図17において、最大のインク打ち込み量は、記録デューティー200%に対応する。また図17において、第1のカラーインクの最大使用量は記録デューティー120%に対応し、第2のカラーインクの最大使用量は記録デューティー30%に対応し、保護インクの最大使用量は記録デューティー50%に対応する。前述した実施形態と同様に、第2のカラーインクと保護インクは同等の定着性をもつものとする。
表5に示すように、スキャン1からスキャン10までの第1のカラーインクの記録デューティーは、全てのスキャンで30%以下である。スキャン7からスキャン10までの第1および第2のカラーインクの合計の打ち込み量は、全てのスキャンで15%以下であり、スキャン11からスキャン16までの第2のカラーインク、保護インクの合計の打ち込み量は、全てのスキャンで15%以下である。
それぞれのインクのパス間記録デューティーと、インクの定着時間と、の関係から、インク群Aである第1のカラーインクの記録デューティーが30%以下のときは、その定着時間は2秒以内である。また、第1のカラーインクと、インク群Bである第2のカラーインクと、の総記録デューティーが15%以下のときは、それらの定着時間は2秒以内である。
前述した図6(a),(b)に記載されているように、記録領域1の左領域と記録領域2の左領域との記録間隔は、最小2秒である。記録領域1の左領域と記録領域2の左領域は、記録間隔やパス間記録デューティーが異なっても下地のインク層の定着が完了している。そのため、常に、定着時間を経過した状態のインク層の上に、次のスキャンによるインクが付与されることになる。その結果、記録領域1の左領域と、記録領域2の左領域と、におけるインクの積層状態を均一に保って、記録媒体の搬送方向において隣接するバンド間の光沢差を抑制することができる。
以上のように、カラーインク吐出用のノズルと、保護インク吐出用のノズルと、にオーバーラップ領域を設定する。そして、第1のカラーインクに関しては、第1のカラーインクのみで記録する領域における吐出比率を高め、オーバーラップ領域における吐出比率は低くする。第2のカラーインクに関しては、第1のカラーインクとのオーバーラップ領域における吐出比率を高め、保護インクとのオーバーラップ領域における吐出比率は低くする。保護インクに関しては、スキャン11から16の前半における吐出比率を低くし、その後半における吐出比率を高くすることにより、光沢の均一性を保持することができる。
(その他の実施形態)
記録媒体上の所定領域に対する記録ヘッドの走査回数に応じて、異なる記録モードを選択するように構成する個ともできる。例えば、記録媒体上の所定領域に対する記録ヘッドの走査回数が所定数以下のときは第1の記録モードを選択し、その走査回数が所定数を越えるときは第2の記録モードを選択する。その場合、第1の記録モードにおいては、上述した第1の実施形態にて用いられるカラーインクの複数を第1および第2のインクとして、その第1の実施形態の記録動作を実行することができる。一方、第2の記録モードにおいては、上述した第2の実施形態の記録動作を実行することができる。
上述した実施形態では、インクジェット記録装置に、複数のノズル列が並列に形成された記録ヘッドを搭載して、オーバーラップ領域を設定し、それらのノズルにおける使用ノズルの位置を制限した記録を行う構成となっている。しかし、本発明は、このような構成に限定されるものではない。例えば、複数の記録ヘッドの取り付け位置を予めずらして配置する構成(いわゆる、つなぎヘッド構成)のインクジェット記録装置にも適用可能である。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも含む。さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。すなわち「インク」は、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等を形成するものだけではなく、記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を含む。さらに「ノズル」とは、特にことわらない限り、吐出口、これに連通する液路、およびインクの吐出に利用されるエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子を総括して言うものとする。その吐出エネルギー発生素子としては、電気熱変換素子(ヒータ)、およびピエゾ素子などの電気機械変換素子などを用いることができる。カラーインクとしては、自己分散型顔料を含むインク、もしくは高分子分散剤により分散した顔料を含むインクを用いることができる。また保護インクは、インクよりも先に先に付与されるインクであってもよく、この場合、カラーインクと保護インクを付与する順序は、前述した実施形態とは逆となる。
また、上述した本実施形態においては、光学式センサを用いて記録媒体の幅寸法を検出し、その検出データを制御部であるCPUに入力する。しかし、記録媒体の幅寸法は、予め使用者が入力部からCPUに入力するようにしてもよい。
また、本発明に係るインクジェット記録装置は、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体または別体に設けられるものの他、リーダ等と組み合わせた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るものであってもよい。
また本発明は、前述した実施形態の機能処理を実現するソフトウェアのプログラムを、システムあるいは装置に対して直接または遠隔供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータが、供給されたプログラムコードを読み出して実行する場合を含む。この場合、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、そのコンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。また、コンピュータにインストールされるプラグラムは、本発明の機能処理を実現するものであればよく、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等、そのプログラムの形態は問わない。
また、プログラムの供給方法は、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットに接続し、ホームページからダウンロードする方法、もしくは圧縮されて自動インストール機能を含むファイルをダウンロードする方法などであってもよい。また、本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることも可能である。つまり、本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを、複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明の範囲に含まれる。コンピュータが読み出したプログラムを実行して前述した実施形態の機能を実現する他、そのプログラムによってコンピュータ上で稼動しているOS等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能を実現することができる。