以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る演算システムの構成例を示した図である。図1に示すように、演算システムは、演算装置1と、加速度センサー2とを有している。
加速度センサー2は、例えば、直交関係にある3軸方向の加速度データを出力する。以下では、加速度センサー2から出力される加速度データを単に加速度と表現する場合がある。また、以下では、説明を簡単にするため、加速度センサー2が出力する3軸方向の加速度を区別せず、単に加速度とする。加速度センサー2は、加速度および角速度を計測できる慣性センサー(IMU)であってもよい。
加速度センサー2から出力される加速度は、例えば、デジタル信号である。加速度センサー2から出力される加速度がアナログ信号である場合、例えば、加速度センサー2と演算装置1との間に、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D(Analog to digital)変換器を設ける。
演算装置1は、取得部11と、積分部12と、近似式算出部(本発明の算出部に相当する)13と、減算部14と、平均部15と、出力部16とを有している。演算装置1は、加速度センサー2から出力される加速度を2回積分して変位を算出する。
取得部11は、加速度センサー2から、加速度を取得する。取得部11は、例えば、バッファーを備えており、そのバッファーに、加速度センサー2から取得した加速度の時系列データを順次記憶する。
積分部12は、バッファーに記憶された、加速度の時系列データを、一部がオーバーラップするように所定区間ごとに取り出す。積分部12は、オーバーラップするように取り出した加速度のデータを2回積分する。
近似式算出部13は、積分部12の積分結果の近似式を算出する。
減算部14は、積分部12の積分結果から、近似式算出部13が算出した近似式の値を減算する。
平均部15は、減算部14が出力する減算結果の同じ時系列における減算結果を平均する。
出力部16は、平均部15によって平均された減算結果(変位)を出力する。出力部16は、例えば、変位を用いてデータ処理する装置に、変位を出力する。
演算装置1の積分演算の詳細を説明する前に、積分による発散について説明する。加速度センサー2から出力される加速度(ここでは、連続値とする)は、次の式(1)で示されるとする。
式(1)の「a(t)」は、加速度センサー2から出力される加速度を示す。式(1)の「A(t)」は、加速度センサー2が取り付けられた被計測体に生じた実際の加速度を示す。式(1)の「t」は時間を示し、「a(t)」および「A(t)」は時間の関数であることを示している。
式(1)の「c」は、加速度センサー2から出力される加速度「a(t)」に含まれるオフセットやノイズ成分等を示している。比較的短時間内では「c」の変動は小さいので一定とみなす事が出来る。ここでは、説明を簡単にするため、「c」は定数としている。また、以下では、加速度に含まれるオフセットやノイズ成分等を、単にオフセットと呼ぶ。
式(1)に示すように、加速度センサー2から出力される加速度「a(t)」には、被計測体に生じた実際の加速度「A(t)」の他に、オフセット「c」が含まれている。
変位は、加速度を2回積分すると求まる。まず、式(1)を1回積分すると、速度が求まり、速度は、次の式(2)で示される。
式(2)の「v(t)」は、速度を示す。式(2)では、説明を簡単にするため、初期条件を「t=0」のとき「v(t)=0」とし、積分定数を「0」としている。
式(1)に示したように、加速度センサー2から出力される加速度「a(t)」に、オフセット「c」が含まれると、時間の経過とともに、速度に誤差が含まれていく。速度に含まれる誤差は、式(2)の右辺第2項の「ct」に示すように、時間の増加とともに線形的に増加する。
図2は、加速度を1回積分して得た速度の波形例を示した図である。図2に示すグラフG1の横軸は時間を示し、縦軸は速度を示す。
グラフG1に示す波形W1aは、式(2)に示す速度「v(t)」の、時間的変化を示している。グラフG1に示す波形W1bは、式(2)の右辺第2項の「ct」を示している。速度「v(t)」は、式(2)の右辺第2項の「ct」によって、時間の経過とともに、線形的に下降している。なお、グラフG1では、「c」の値を「負」の値としている。すなわち、グラフG1は、式(1)のオフセット「c」が「負」の場合の速度変化を示している。
加速度センサー2から出力される加速度「a(t)」に、一定のオフセット「c」が含まれると、グラフG1に示すように、速度「v(t)」には、オフセット「c」による誤差が累積されていく。従って、速度「v(t)」は、時間の経過とともに、その絶対値が増加していく。つまり、加速度センサー2から出力される加速度「a(t)」に、一定のオフセット「c」が含まれていると、速度「v(t)」に累積される誤差の量は時間ともに増加し、速度「v(t)」は、時間が進むにつれて発散する。
式(2)をもう一回積分すると、変位が求まる。変位は、次の式(3)で示される。
式(3)の「u(t)」は、変位を示す。式(3)では、説明を簡単にするため、初期条件を「t=0」のとき「u(t)=0」とし、積分定数を「0」としている。
式(1)に示したように、加速度センサー2から出力される加速度「a(t)」に、オフセット「c」が含まれると、時間の経過とともに、変位に誤差が含まれていく。変位に含まれる誤差は、式(3)の右辺第2項の「(1/2)ct2」に示すように、時間の増加とともに2次関数的に増加する。
図3は、加速度を2回積分して得た変位の波形例を示した図である。図3に示すグラフG2の横軸は時間を示し、縦軸は変位を示す。
グラフG2に示す波形W2aは、式(3)に示す変位「u(t)」の、時間的変化を示している。グラフG2に示す波形W2bは、式(3)の右辺第2項の「(1/2)ct2」を示している。変位「u(t)」は、式(3)の右辺第2項の「(1/2)ct2」によって、時間の経過とともに、2次関数的に下降している。なお、グラフG2では、「c」の値を「負」の値としている。すなわち、グラフG2は、式(1)のオフセット「c」が「負」の場合の変位変化を示している。
加速度センサー2から出力される加速度「a(t)」に、一定のオフセット「c」が含まれると、グラフG2に示すように、変位「u(t)」には、オフセット「c」による誤差が累積されていく。すなわち、変位「u(t)」は、時間の経過とともに、その絶対値が増加していく。従って、加速度センサー2から出力される加速度「a(t)」に、一定のオフセット「c」が含まれていると、変位「u(t)」に累積される誤差の量は時間ともに増加し、変位「u(t)」は、時間が進むにつれて発散する。
このように、加速度センサー2から出力される加速度に、一定のオフセットが含まれていると、加速度を積分した積分結果には、誤差が累積されていく。そのため、オフセットが小さいものであっても、加速度を積分した積分結果は、時間が進むにつれて発散する。
なお、上記では、説明を簡単にするため、速度の初期条件を「t=0」のとき「v(t)=0」としたが、「t=0」のとき「v(t)≠0」の場合、速度は、時間がそれ程経過しなくても、発散(演算スケールが飽和)する場合がある。例えば、図2のグラフG1において、「t=0」のとき、速度「v(0)」が所定の負の値をもっていた場合、速度は、その所定の負の値から下降を始めるため、時間がそれ程経過しなくても、演算スケールが飽和する場合がある。同様に、変位においても、「t=0」のとき「u(t)≠0」でない場合、変位は、時間がそれ程経過しなくても、発散する場合がある。
また、上記では、説明を簡単にするため、加速度センサー2から出力される加速度に含まれるオフセットは一定であるとしたが、時間とともに変化するものであってもよい。すなわち、オフセットは、時間の関数「c(t)」で示されるものであってもよい。例えば、オフセット「c(t)」が1次関数で示される場合、すなわち、オフセットが、温度ドリフト等によって線形的に変動する場合も、加速度を積分した積分結果は発散する。なお、オフセット「c(t)」が1次関数の場合、式(2)の右辺第2項は2次式となり、式(3)の右辺第2項は3次式となる。
演算装置1の積分演算について詳細に説明する。上記したように、2回積分の結果は、時間が進むにつれて誤差が累積するため発散する。そこで、演算装置1は、連続する時系列の加速度から、連続する有限個(所定数)の加速度を取り出して、2回積分する。その際、演算装置1は、加速度を所定数取り出して2回積分する積分結果が、実際の変位計測の結果と相違しないよう、測定する変位波形に対して影響しない範囲の長い区間長の加速度を、測定する変位波形に対して影響しない範囲のスライド幅でオーバーラップするように取り出し、取り出した加速度の積分結果(この積分結果は、次に説明するように、オフセットの影響が抑制される)を、同じ時系列において平均する。
また、演算装置1は、加速度を2回積分した積分結果の近似式を算出する。そして、演算装置1は、2回積分の積分結果から、算出した近似式の値を減算し、積分結果に含まれるオフセットの影響を抑制する。
図4は、近似式減算を説明する図である。図4に示すグラフG3,G4の横方向は時間を示し、縦方向は変位を示す。
グラフG3の波形W3aは、連続する加速度の時系列データから、連続するある有限個の加速度のデータを取り出して、2回積分した結果の波形を示している。すなわち、波形W3aは、ある有限個の加速度から算出した変位の波形を示している。なお、加速度のデータは、離散値であり、それを2回積分した結果も離散値となる。そのため、波形W3aは、本来離散的な波形になるが、図4では、連続した波形として描いている。以下においても、離散的な波形を連続的な波形で示す。
図3で説明したように、加速度に定数のオフセットが含まれていると、変位は、2次関数に沿って変化する。グラフG3の波形W3bは、加速度に含まれていたオフセットによる変位を示し、波形W3aは、波形W3bに沿って変化する。
演算装置1は、2回積分した結果の近似式を算出する。すなわち、演算装置1は、波形W3aの近似式を算出する。演算装置1は、例えば、回帰分析等によって、波形W3aの近似式を算出する。
そして、演算装置1は、2回積分した結果から、算出した近似式の値を減算する。これにより、2回積分した結果に含まれていたオフセットによる変位分は、抑制される。すなわち、波形W3aから、波形W3bの成分が除かれる。グラフG4の波形W4は、2回積分した結果から、算出した近似式の値を減算した波形を示している。
2回積分した結果の近似式の次数は、例えば、2次または3次とする。近似式の次数を高くすると、加速度センサー2から出力される加速度に含まれている、被計測体に生じた加速度による変位も抑制されるためである。すなわち、近似式の次数を高くすると、近似式による波形は、波形W3aに近づき、波形W3aから、波形W3aに近づいた近似式の値を減算すると、変位はほぼ「0」になってしまうためである。
また、上記したように、加速度センサー2から出力される加速度に、一定のオフセットが含まれている場合、その加速度を2回積分して算出した変位には、2次関数で示されるオフセットによる変位分が含まれる。また、加速度センサー2から出力される加速度に、線形的に変化するオフセットが含まれている場合、その加速度を2回積分して算出した変位には、3次関数で示されるオフセットによる変位分が含まれる。従って、加速度センサー2から出力される加速度に、一定のオフセットまたは温度ドリフト等によって線形的に変化するオフセットが含まれるとすると、近似式の次数は、2次または3次であることが望ましい。
図5は、演算装置1の積分演算を説明する図である。図5に示す加速度21は、取得部11が加速度センサー2から取得した加速度のデータを示している。加速度21は、例えば、取得部11が備えるバッファーに所定数記憶されている。
図5の例では、番号「1」から番号「46」の、46個の加速度21のデータが示してある。番号「1」〜番号「46」は、加速度21の時系列を示し、番号が大きいほど、新しい加速度のデータである。
積分部12は、バッファーに記憶された加速度21を、所定区間ごと(所定数ずつ)に取り出す。例えば、積分部12は、バッファーから、加速度21を15個ずつ取り出す。図5に示す矢印22は、積分部12がバッファーから取り出す加速度21の区間長(図5の例では、「15」)を示している。
積分部12は、バッファーから、所定区間ごとに加速度21を取り出すとき、取り出す加速度21が、前回取り出した加速度21に対し、一部オーバーラップするように取り出す。例えば、積分部12は、取り出す加速度21の先頭を、所定のスライド幅でずらしながら、所定区間の加速度21をバッファーから取り出し、取り出す加速度21が、一部オーバーラップするようにする。図5に示す矢印23は、バッファーから取り出す加速度21の先頭をずらすスライド幅(図5の例では、「3」)を示している。
より具体的には、積分部12は、番号「1」〜番号「15」の加速度21をバッファーから取り出す。次に、積分部12は、バッファーから取り出す加速度21の先頭の番号を「3」個スライドし、番号「4」〜番号「18」の加速度21を取り出す。次に、積分部12は、バッファーから取り出す加速度21の先頭の番号を「3」個スライドし、番号「7」〜番号「21」の加速度21を取り出す。以下、同様にして、積分部12は、バッファーから取り出す加速度21の先頭の番号を「3」個スライドしながら、バッファーから加速度21を取り出していく。
これにより、積分部12が取り出す加速度21は、その前に取り出された加速度21に対し、12個オーバーラップしている。スライド幅は、区間長より短く、加速度21のオーバーラップする数「OL」は、次の関係がある。
OL=区間長−スライド幅
積分部12は、バッファーから、加速度21をオーバーラップするよう、所定区間ごとに取り出すと、取り出した加速度21を2回積分する。例えば、積分部12は、番号「1」〜番号「15」の加速度21をバッファーから取り出すと、取り出した番号「1」〜番号「15」の加速度21を2回積分する。また、積分部12は、番号「4」〜番号「18」の加速度21をバッファーから取り出すと、取り出した番号「4」〜番号「18」の加速度21を2回積分する。また、積分部12は、番号「7」〜番号「21」の加速度21をバッファーから取り出すと、取り出した番号「7」〜番号「21」の加速度21を2回積分する。以下、同様にして、積分部12は、順次バッファーから加速度21を取り出し、2回積分する。
積分部12は、所定区間ごとに取り出した加速度21を2回積分するとき、速度と変位の初期速度を「0」とする。または、積分部12は、所定区間ごとに取り出した加速度21を2回積分するとき、取り出した加速度21の先頭の時系列と同じ時系列の、1つ前に取り出した加速度21に基づいて算出した速度と変位とを、初期条件としてもよい。例えば、積分部12は、番号「1」〜番号「15」の加速度21を2回積分した後、番号「4」〜番号「18」の加速度21を2回積分するが、そのとき、先頭の番号「4」と同じ番号「4」の、前回2回積分した際に算出した速度と変位とを、初期条件としてもよい。
近似式算出部13は、積分部12が算出した2回積分の結果の近似式を算出する。近似式算出部13は、上記したように、2次または3次の近似式で、積分部12が算出した2回積分の結果の近似式を算出する。
減算部14は、積分部12が算出した2回積分の結果から、近似式算出部13が算出した近似式の値を減算する。
例えば、積分部12は、番号「1」〜番号「15」の加速度21を2回積分し、近似式算出部13は、その積分結果に対する、近似式A1を算出したとする。この場合、減算部14は、番号「1」〜番号「15」の加速度21の2回積分結果から、近似式A1の値を減算する。また、積分部12は、番号「4」〜番号「18」の加速度21を2回積分し、近似式算出部13は、その積分結果に対する、近似式A2を算出したとする。この場合、減算部14は、番号「4」〜番号「18」の加速度21の2回積分結果から、近似式A2の値を減算する。以下、同様にして、積分部12は、オーバーラップするように取り出した所定区間の加速度21を2回積分し、近似式算出部13は、その2回積分結果の近似式を算出し、減算部14は、積分部12が算出した2回積分結果から、近似式算出部13が算出した近似式の値を減算する。
図5に示す取り出し番号24は、所定区間の加速度21が、バッファーから取り出された順番を示している。また、取り出し番号24の右側に示す時系列データは、バッファーから取り出された加速度21を2回積分し、その積分結果を近似式で減算したデータ列を示している。
例えば、取り出し番号24が「1」の右側に示す番号「1」〜「15」のデータは、積分部12が、バッファーから番号「1」〜番号「15」の加速度21を取り出して2回積分し、近似式算出部13が、その2回積分した結果から、2回積分結果の近似式を算出し、減算部14が、2回積分の結果から、近似式の値を減算したデータを示している。
また、取り出し番号24が「2」の右側に示す番号「4」〜「18」のデータは、積分部12が、バッファーから番号「4」〜番号「18」の加速度21を取り出して2回積分し、近似式算出部13が、その2回積分した結果から、2回積分結果の近似式を算出し、減算部14が、2回積分の結果から、近似式の値を減算したデータ列を示している。
平均部15は、減算部14の同時系列における減算結果を平均する。例えば、図5の取り出し番号24の右側に示す番号「1」〜番号「15」、番号「4」〜番号「18」、番号「7」〜番号「21」・・・の時系列データは、上記したように、減算部14の減算結果を示している。平均部15は、取り出し番号24の右側に示す減算結果の、同じ番号の減算結果を加算する。例えば、減算部14は、矢印25に示すように、同じ時系列である番号「17」の5個の減算結果のデータを加算する。図5に示す加算データ26は、同じ番号の減算結果(同時系列における減算結果)を加算したデータ列を示している。
平均部15は、加算データ26を、加算した減算結果の数(平均数)で除算する。すなわち、平均部15は、図5の矢印27に示すように、加算データ26を平均数で除算する。図5の例の場合、平均数は、矢印28に示すように、「5」となり、平均部15は、加算データ26の各番号のデータを、「5」で除算する。なお、平均数と、区間長と、スライド幅には、次の関係がある。
平均数=区間長/スライド幅
図5に示す平均データ29は、平均部15が出力する出力結果を示している。平均部15が出力する平均データ29が、加速度21から算出した変位である。
なお、平均部15は、減算部14の減算結果を加算した加算データ26を、平均数で除算しなくてもよい。すなわち、平均部15は、加算データ26を出力してもよい。加算データ26を、平均数で除算するかしないかは、出力する結果を所定倍して出力するかしないかの違いだからである。除算しない場合は、後段の出力されたデータを用いて何らかの演算処理する過程で除算すればよい。
図6は、減算結果の平均を説明する図である。図6に示すグラフG5の横軸は時間を示し、縦軸は変位を示す。
グラフG5に示す複数の細線の波形W5aは、減算部14から出力される減算結果を示している。例えば、波形W5aのそれぞれは、図5の取り出し番号24の右側に示す時系列データの波形を示している。
グラフG5に示す1本の太線の波形W5bは、平均部15から出力される平均データ(変位)を示している。例えば、波形W5bは、図5の平均データ29の波形を示している。
上記したように、平均部15は、減算部14の同時系列における減算結果を平均する。従って、グラフG5の波形W5bは、平均数(例えば、「5」個)の波形W5aを平均して得たものである。波形W5bが、加速度から得た変位を示している。
以下、演算装置1の動作を、フローチャートを用いて説明する。
図7は、演算装置1の動作例を示したフローチャートである。まず、取得部11は、加速度センサー2から、加速度を取得する(ステップS1)。取得部11は、加速度センサー2から取得した加速度をバッファーに一時記憶する。
次に、積分部12は、バッファーに記憶された加速度を、オーバーラップするように、所定区間ごとに取り出す(ステップS2)。積分部12がバッファーから取り出した加速度は、例えば、次のように示される。
[ai,1,ai,2,・・・,ai,k]
上記加速度の「i」は、バッファーから、加速度を取り出した順番を示し、例えば、図5に示す取り出し番号24に対応する。「k」は、区間長を示す。図5の例の場合、「k」は、「15」となる。
次に、積分部12は、ステップS2にて、バッファーから取り出した加速度を2回積分する(ステップS3)。
積分部12は、例えば、次の式(4)によって、1回目の積分を行う。
式(4)に示す「Vi,m」は、バッファーから、「i」番目に取り出した加速度によって算出した速度を示している。「m」は、「m=1,2,…,k」の値をとり、積分部12が出力する速度は、次のような時系列データで出力される。
[Vi,1,Vi,2,・・・,Vi,k]
また、式(4)の「0.001×9.80665」は、単位換算を示している。例えば、積分部12は、加速度センサー2から出力される加速度の単位が「mg」(m:ミリ、g:重力加速度)の場合、算出する速度の単位を「m/s」にするため、式(4)に示すように、単位換算を行う。
また、式(4)に示す「T」は、加速度のサンプリング周期を示す。加速度のサンプリング周期は、例えば、加速度センサー2が加速度を出力する周期と同じ周期にする。
積分部12は、例えば、次の式(5)によって、2回目の積分を行う。
式(5)に示す「Ui,m」は、バッファーから、「i」番目に取り出した加速度によって算出した変位を示している。「m」は、「m=1,2,…,k」の値をとり、積分部12が出力する変位は、次のような時系列データで出力される。
[Ui,1,Ui,2,・・・,Ui,k]
また、式(5)の「1000」は、単位換算を示している。例えば、積分部12は、単位「m/s」の速度から、「mm」単位の変位を算出する場合、式(5)に示すように、単位換算を行う。
次に、近似式算出部13は、積分部12がステップS3にて算出した2回積分結果の近似式を算出する(ステップS4)。
積分部12が算出した2回積分結果[Ui,1,Ui,2,・・・,Ui,k]の近似式は、次の式(6)で示されるとする。
式(6)の「q」は、2回積分結果を近似する近似式の次数を示す。近似式の次数「q」は、上記したように、「2」または「3」が望ましい。
また、式(6)の「Op」は、近似式の係数を示す。近似式算出部13は、例えば、回帰分析等によって、2回積分結果に対する近似式の係数「Op」を算出する。
次に、減算部14は、積分部12がステップS3にて算出した積分結果から、近似式算出部13がステップS4にて算出した近似式の値を減算する(ステップS5)。
減算部14は、次の式(7)に基づいて、積分部12が算出した積分結果から、近似式算出部13が算出した近似式の値を減算する。
式(7)に示す「Ui,m」は、積分部12が算出した変位であり、上記したように、[Ui,1,Ui,2,・・・,Ui,k]で示される。減算部14は、この変位のデータ[Ui,1,Ui,2,・・・,Ui,k]のそれぞれから、式(7)の最右辺第2項の時刻「t=1T,2T,・・・,kT」における近似式の値を減算する。
減算部14が出力する減算データは、次のような時系列で出力される。
[ΔUi,1,ΔUi,2,・・・,ΔUi,k]
例えば、上記の減算データの「i」および「k」を、「i=6」および「k=15」とすると、[ΔU6,1,ΔU6,2,・・・,ΔU6,15]は、例えば、図5の取り出し番号24が「6」の、右側に示す番号「16」〜番号「30」のデータに対応する。
次に、平均部15は、減算部14がステップS5にて算出した減算結果を、同時系列において平均する(ステップS6)。例えば、平均部15は、同じ時系列の「ΔUi,m」を加算して平均数で除算し、平均データを算出する。なお、減算結果「ΔUi,m」に対する、取り出し順が「n個」前の同じ時系列の減算結果は、スライド幅を「s」とすると、「ΔUi−n,m+n×s」となる。例えば、スライド幅を「s=3」とすると、「ΔU6,2」(i=6、m=2)の1個(n=1)前の同じ時系列の減算結果は、「ΔU5,5」となる。具体的には、「ΔU6,2」は、図5の取り出し番号24が「6」の右側の、番号「17」のデータに対応し、「ΔU5,5」は、図5の取り出し番号24が「5」の右側の、番号「17」のデータに対応する。
次に、出力部16は、平均部15が算出した平均データ(変位)を、例えば、外部の装置に出力する(ステップS7)。
このように、演算装置1の取得部11は、加速度センサー2から、加速度を取得し、積分部12は、加速度の時系列データを、オーバーラップするように所定区間ごとに取り出し、取り出した時系列データを2回積分する。そして、近似式算出部13は、時系列データの2回積分結果の近似式を算出し、減算部14は、時系列データの2回積分の結果から、近似式の値を減算し、平均部15は、減算部14の同時系列における減算結果を平均する。これにより、演算装置1は、加速度を2回積分して算出する変位の発散を抑制することができる。
また、近似式算出部13は、2次または3次の近似式を算出する。これにより、演算装置1は、積分部12が算出した2回積分結果から、近似式の値を減算したとき、変位の情報が失われることを抑制できる。
なお、上記では、積分部12は、加速度を2回積分して、変位を算出するとしたが、1回積分して、速度を算出してもよい。演算装置1は、1回の積分であっても、時間経過とともに累積する誤差による発散を抑制できる。
また、積分部12の積分回数は、3以上であってもよい。積分回数をn回とすると、近似式算出部13が算出する近似式の次数は、「n」または「n+1」が望ましい。近似式の次数を「n」または「n+1」とすることにより、演算装置1は、入力データに含まれるオフセットの影響を抑制でき、積分結果に含まれる必要な情報が失われることを抑制できる。
また、加速度センサー2は、速度データを出力してもよい。そして、積分部12は、加速度センサー2から取得した速度データを1回積分して、変位を算出してもよい。
また、演算装置1は、積分部12が取り出す加速度の、所定区間の区間長を入力する入力部を備えてもよい。区間長を可変できるようにすることによって、演算装置1は、加速度センサー2から出力される様々な加速度に対応して、適切に変位を算出できる。例えば、加速度センサー2から出力される加速度は、ある周期の加速度成分を持っているとする。バッファーから取り出す加速度の区間長を、この周期長にすれば、その周期以上の加速度の変位は、オフセットによる変位として抑制され、その周期より短い加速度の変位は、変位として出力される。
また、スライド幅を入力する入力部を備えてもよい。スライド幅を調整することによって、ある周期の加速度成分を抑制することができる。
また、演算装置1の各部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)によって、その機能を実現してもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのカスタムIC(Integrated Circuit)でその機能を実現してもよい。CPUが実行するプログラムは、例えば、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)などの記憶装置に記憶される。また、演算装置1の各部は、CPUとASICとによって、その機能を実現してもよい。
また、取得部11の前段または後段にオフセットを抑制するHPF(High Pass Filter)を設けてもよい。この場合、HPFは、加速度の波形が持つ情報が失われないよう、ベッセルフィルターで構成するのが望ましい。カットオフ周波数は、オフセット成分が抑制され、その他の信号成分が通過するよう、例えば、「0.0001Hz〜0.001Hz」にするのが望ましい。
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態では、積分部は、バッファーから取り出した所定区間の加速度から、オフセット分を減算する。
図8は、第2の実施の形態に係る演算システムの構成例を示した図である。図8において、図1と同じものには同じ符号を付し、その説明を省略する。
図8の演算装置1では、積分部31が、図1の演算装置1の積分部12と異なる。積分部31は、バッファーから取り出した加速度に含まれるオフセットを抑制するフィルター部31aを有している。
フィルター部31aは、所定区間ごとに取り出された時系列の加速度のそれぞれから、その時系列の先頭の加速度を減算する。
図9は、フィルター部31aの動作を説明する図である。図9に示すグラフG11の横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。
グラフG11に示す波形W11aは、積分部31が、バッファーから取り出した、所定区間の加速度の波形を示している。フィルター部31aは、波形W11aの加速度を、波形W11aの先頭の加速度で減算する。
グラフG11に示す波形W11bは、波形W11aの加速度を、波形W11aの先頭の加速度で減算した結果の波形を示す。波形W11bに示すように、波形W11aの加速度を、波形W11aの先頭の加速度で減算すると、バッファーから取り出された所定区間の加速度は、オフセット分が抑制される。
積分部31は、バッファーから、加速度を所定区間ごとに取り出す。そのため、加速度にオフセットが含まれていると、所定区間ごとの積分処理の度に、ステップ信号が入力されると言え、平均部15の出力にステップ応答によるオーバーシュートやリンギングが生じる。フィルター部31aは、加速度に含まれるオフセットを抑制し、オフセットによる平均部15の出力のステップ応答を抑制する。
図8の演算装置1の動作は、図7のフローチャートと同様になる。ただし、ステップS3の処理が異なる。
ステップS3にて、積分部12が、バッファーから所定区間の加速度を取り出すと、フィルター部31aは、取り出された加速度のそれぞれから、先頭の加速度を減算する。フィルター部31aは、次の式(8)に基づいて、取り出された加速度のそれぞれから、先頭の加速度を減算する。
式(8)の「i」は、バッファーから加速度を取り出した順番を示し、例えば、図5に示した取り出し番号24に対応する。「k」は、区間長を示す。フィルター部31aが出力する加速度は、次のような時系列データで出力される。
[0,ai,2−ai,1,・・・,ai,k−ai,1]
積分部12は、フィルター部31aが出力する上記の時系列の加速度を、2回積分する。以降の処理は、図7のフローチャートと同様である。
フィルター部31aの別の動作について説明する。フィルター部31aは、所定区間ごとに取り出された加速度の先頭から所定数の加速度の平均値を算出し、所定区間ごとに取り出された加速度のそれぞれから、算出した平均値を減算する。
図10は、フィルター部31aの別の動作を説明する図である。図10に示すグラフG12の横軸は時間を示し、縦軸は加速度を示す。
グラフG12に示す波形W12aは、積分部31が、バッファーから取り出した、所定区間の加速度の波形を示している。フィルター部31aは、波形W12aの先頭から、所定数の加速度の平均値を算出する。例えば、フィルター部31aは、図10の矢印32に示す区間の加速度の平均値を算出する。
フィルター部31aは、所定区間ごとに取り出された加速度のそれぞれから、算出した平均値を減算する。グラフG12に示す波形W12bは、波形W12aの加速度を、矢印32の所定数の加速度の平均値で減算した結果の波形を示す。波形W12bに示すように、波形W12aの加速度を、矢印32の所定数の加速度の平均値で減算すると、バッファーから取り出された所定区間の加速度は、オフセット分が抑制される。
図8の演算装置1の動作は、図7のフローチャートと同様になる。ただし、ステップS3の処理が異なる。
ステップS3にて、積分部12が、バッファーから所定区間の加速度を取り出すと、フィルター部31aは、取り出された加速度の先頭から所定数の加速度の平均値を算出し、取り出された加速度のそれぞれから、算出した平均値を減算する。フィルター部31aは、次の式(9)に基づいて、取り出された加速度の先頭から所定数の加速度の平均値を算出する。
式(9)の「l」は、平均値を算出する加速度の数(所定数)を示す。例えば、「l=10」の場合、フィルター部31aは、取り出された加速度の先頭から、10個の加速度の平均値を算出する。
フィルター部31aが出力する加速度は、次のような時系列データで出力される。
[ai,1−aav_i,l,ai,2−aav_i,l,・・・,ai,k−aav_i,l]
積分部12は、フィルター部31aが出力する上記の時系列の加速度を、2回積分する。以降の処理は、図7のフローチャートと同様である。
このように、演算装置1の積分部12は、バッファーから取り出した加速度に含まれるオフセットを抑制するフィルター部31aを有する。これにより、演算装置1は、平均部15の出力のステップ応答を抑制することができる。
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態では、演算システムの適用例について説明する。例えば、演算システムの加速度センサーは、構造物が橋梁である場合、橋梁の床版に設けられるのが好ましい。ここで、床版は移動体が移動する面を構成する部分のことをいう。演算装置は、車両等の通過による、床版の垂直方向の変位を算出する。
図11は、第3の実施の形態に係る演算装置を用いた計測システムの概略構成の一例を示した図である。図11に示すように、計測システムは、計測装置41と、加速度センサー2とを有している。また、図11には、橋梁43が示してある。
橋梁43は、橋梁43の中央部(略中央部を含む)に位置する橋脚43aと、両端に位置する2つの橋台43b,43cと、橋台43bから橋脚43aまでの上を渡される床版43dと、橋台43cから橋脚43aまでの上を渡される床版43eとを有している。橋脚43aと橋台43b,43cはそれぞれ、地盤に施設された基礎(図示せず)の上に固定される。
加速度センサー2は、床版43dの側面に設置される。加速度センサー2は、車両44(本発明の移動体に相当する)の通過により、床版43dに生じる加速度を計測する。計測装置41と加速度センサー2は、通信ネットワーク42を介して通信可能に接続されており、加速度センサー2は、計測した加速度を、通信ネットワーク42を介して、計測装置41に送信する。
なお、加速度センサー2は、例えば無線通信インターフェイスを有し、あるいは無線通信インターフェイスに接続され、当該無線通信インターフェイスを介して通信ネットワーク3に接続される。
計測装置41は、加速度センサー2から送信された加速度を受信する。計測装置41は、加速度センサー2から送信された加速度に基づいて、床版43dを通過する車両の運動状態を解析する。
図12は、加速度センサー2の設置方法の一例を説明する図である。図12には、図11に示した床版43d,43eの斜視図が示してある。
図12には、図11に図示していない主桁43f〜43iが示してある。主桁43f〜43iは、橋脚43aと橋台43b,43cの上部に掛けられ、床版43d,43eは、主桁43f〜43iの上部に設置される。
以下では、説明を分かり易くするため、床版43dの路面は水平であるものとし、路面の垂直方向は鉛直方向に一致するものとする。
加速度センサー2は、平面視で略4辺形である構造物に設けられた移動体の移動方向規制手段の規制方向に略平行な辺(端部)の中央部に設けられている。例えば、加速度センサー2は、床版43dに設けられている、車両44の移動方向規制手段(例えば、車線や縁石、欄干等)の規制方向と平行(略平行を含む)な側面43da(本発明の端部に相当する)の、規制方向の中央部(略中央部を含む)に取り付けられる。加速度センサー2は、互いに直交する3軸の各軸方向に生じる加速度を計測可能である。加速度センサー2は、例えば、3つの検出軸(x軸、y軸、z軸)のうち、1軸(例えばx軸)を床版43dの路面の垂直方向に合わせ、他の1軸(例えばz軸)を床版43dの路面の幅員方向に合わせて、床版43dの側面43daに設置される。
床版43dは、その上を車両44が通過した場合、車両44の荷重により、下方向に撓むように変形する。加速度センサー2の取り付け位置は、橋脚43aと橋台43bから最も離れた位置であるため、床版43dの垂直方向の位置(x軸上の位置)の変化が他の位置と比べて大きく現れやすい。また、加速度センサー2の取り付け位置は、床版43dの側面43daであるため、床版43dの水平方向に対する傾き(z軸の傾き)が、他の位置と比べて大きく現れやすい。従って、加速度センサー2は、床版43dの上記した位置に取り付けられることにより、車両44の通過によって生じる、床版43dの垂直方向の加速度や幅員方向の加速度を明瞭に検出できる。
図13は、計測装置41の機能ブロックの構成例を示した図である。図13に示すように、計測装置41は、通信部51と、フィルター部52と、記憶部53と、制御部54と、表示部55と、操作部56と、演算装置1とを有している。図13の演算装置1は、図1の演算装置1と同様であり、各部には同じ符号が付してある。
通信部51は、通信ネットワーク42を介して、加速度センサー2から、加速度を受信する。通信部51が受信する加速度には、垂直方向加速度(x軸方向加速度)、幅員方向加速度(z軸方向加速度)、および進行方向加速度(y軸方向加速度)が含まれている。通信部51は、加速度センサー2から受信した加速度に含まれる、少なくとも垂直方向加速度と幅員方向加速度とをフィルター部52に出力する。
フィルター部52は、以下で詳述するが、通信部51から出力された垂直方向加速度と幅員方向加速度とをフィルタリング処理する。例えば、フィルター部52は、LPF(Low Pass Filter)であり、垂直方向加速度および幅員方向加速度の低域周波数成分を通過させ、高域周波数成分を抑制する。フィルター部52は、フィルタリング処理した垂直方向加速度を演算装置1に出力し、フィルタリング処理した幅員方向加速度を制御部54に出力する。
演算装置1は、フィルター部52から出力される垂直方向加速度を2回積分し、床版43dの垂直方向変位を算出する。演算装置1は、算出した床版43dの垂直方向変位を、制御部54に出力する。
記憶部53は、制御部54が計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部53は、制御部54が所定のアプリケーション機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。各種のプログラムやデータ等は、あらかじめ不揮発性の記録媒体に記憶されていてもよいし、制御部54が通信ネットワーク42を介してサーバーから受信して記憶部53に記憶させてもよい。記憶部53は、例えば、ROMやフラッシュROM、RAM等の各種ICメモリーやハードディスク、メモリーカードなどの記録媒体等により構成される。
制御部54には、演算装置1から出力される垂直方向変位と、フィルター部52から出力される幅員方向加速度とが入力される。制御部54は、入力された垂直方向変位および幅員方向加速度に基づいて、床版43d上における車両44の運動状態を解析する。例えば、制御部54は、床版43dを通過した車両44の速度や通過時間、走行した車線、重量等を解析する。
表示部55は、制御部54が解析した車両44の運動状態を表示装置に出力する。
操作部56は、ユーザーからの操作データを取得し、制御部54に送る処理を行う。
床版43dに取り付けられた加速度センサー2から出力される加速度の周波数特性について説明する。
図14は、車両44が床版43dを通過したときの加速度の周波数特性の例を示した図である。図14のグラフG21の横軸は周波数を示し、縦軸はパワースペクトル密度を示す。加速度の周波数特性を測定した床版43dの長さは「30m」である。
グラフG21に示す波形W21aは、床版43dの側面43daに取り付けられた加速度センサー2の、x軸方向(図12参照)の加速度の周波数特性を示している。波形W21bは、加速度センサー2のy軸方向の加速度の周波数特性を示している。波形W21cは、加速度センサー2のz軸方向の加速度の周波数特性を示している。
グラフG21に示すように、各軸の加速度は、「10Hz」辺りにピークを有している。この「10Hz」辺りのピークは、床版43dの固有共振によるものと考えられる。
グラフG21に示す「0.1Hz〜1Hz」の加速度は、床版43dを通過し得る車両44の速度を「3m/s〜17m/s」と仮定し、その速度の車両44の通過によって生じる、床版43dの変形による加速度とする。例えば、車両44の通過によって生じる、床版43dの変形による振動周期(下方に撓んで元の位置に戻ってくる時間)は、床版43dを通過する車両44の速度を「3m/s〜17m/s」とすると、概ねその車両44の通過時間と同じ「10s〜1.8s」(0.1Hz〜0.6Hz)になると考えられるためである。
「0.01Hz」より低い周波数成分は、温度や風等の環境による、床版43dの長期的変動、または計測器のドリフトによるものと考えられる。
以上より、床版43dの加速度の周波数特性は、一般的に、床版43dの固有共振周波数を含む高域部分と、車両44の通過によって生じる加速度の周波数分を含む低域部分とに分けられる。例えば、グラフG21に示す加速度の周波数特性では、少なくとも「1Hz」より大きい周波数において、床版43dの固有共振周波数が含まれ、「1Hz」以下の周波数において、車両44の通過による、床版43dの変形による加速度の周波数成分が含まれている。
なお、床版43dの固有共振周波数は、橋梁43の構造や材質等によって異なる。また、車両44の通過によって生じる、床版43dの変形による加速度の周波数成分は、床版43dの長さおよび床版43dを通過する車両44の仮定する速度によって異なる。
上記したように、制御部54は、床版43d上における車両44の運動状態を解析する。従って、垂直方向加速度および幅員方向加速度に含まれる、床版43dの固有共振周波数成分は、車両44の運動状態を解析するのに不要な情報である。そこで、フィルター部52は、垂直方向加速度および幅員方向加速度に含まれる、床版43dの固有共振周波数成分を抑制する。
図14で説明したように、床版43dの加速度の周波数特性は、一般的に、床版43dの固有共振周波数を含む高域部分と、車両44の通過によって生じる加速度の周波数分を含む低域部分とに分けられるので、フィルター部52は、例えば、LPFで構成する。LPFのカットオフ周波数は、車両44の通過によって生じる、床版43dの変形による加速度周波数より大きくし、床版43dの固有共振周波数より小さくする。例えば、図14のグラフG21に示す周波数特性の例の場合、カットオフ周波数は、「1Hz」にする。これにより、フィルター部52を通過する垂直方向加速度および幅員方向加速度は、床版43dの固有共振周波数成分が遮断され、車両44の通過によって生じる、床版43dの変形による加速度の周波数成分が通過する。
なお、フィルター部52は、加速度の波形が持つ情報が失われないよう、ベッセルフィルターで構成するのが望ましい。
また、床版43dの固有共振周波数は、上記したように、橋梁43の種類や構造によって異なり、車両44の通過によって生じる、床版43dの変形による加速度の周波数に近いところに現れる場合がある。例えば、図14のグラフG21において、3Hz周辺に固有共振周波数が現れる場合がある。この場合、固有共振周波数が十分に抑制されるよう、フィルター次数を大きくする。または、フィルターカットオフ周波数を低周波側にシフトする。
このように、フィルター部52は、床版43dが有する固有共有周波数成分を抑制する。これにより、制御部54は、床版43d上における車両44の運動状態を適切に解析することができる。
また、演算装置1は、加速度センサー2から出力される加速度に、床版43dの長期的変形による長周期の加速度が含まれていても、発散を抑制できる。また、演算装置1は、区間長の設定によって、床版43dの長期的変形による加速度をオフセットして扱うことができ、床版43dの長期的変形による加速度による変位分を抑制した変位を算出することができる。
なお、フィルター部52は、制御部54または演算装置1に組み込まれていてもよい。また、制御部54は、演算装置1の機能を有していてもよい。
また、上記では、フィルター部52は、床版43dの固有共振周波数成分を抑制するとしたが、床版43dの固有共振周波数成分を含む周波数帯域または固有共振周波数成分を含む高周波側周波数帯域を抑制してもよい。
また、フィルター部52は、移動体規制方向加速度の固有共振周波数成分を抑制してもよい。
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、演算装置および計測装置の機能構成は、演算装置および計測装置の構成を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。構成要素の分類の仕方や名称によって、本願発明が制限されることはない。演算装置および計測装置の構成は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。また、各構成要素の処理は、1つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。
また、本発明の技術的範囲は、上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者には明らかである。例えば、第3の実施の形態の演算装置に、第2の実施の形態で説明したフィルター部を追加してもよい。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。また、本発明は、演算方法、演算装置のプログラム、当該プログラムを記憶した記憶媒体として提供することもできる。