JP6558410B2 - エンジンの信号処理装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンに設けられる信号処理装置に関する。
従来より、気筒内の圧力を検出する筒内圧検出手段をエンジンに設けて、筒内圧検出手段で検出された筒内圧をエンジンの各部の制御に用いることが検討されている。例えば、筒内圧を用いて気筒内の熱発生率や熱発生量等の気筒内の燃焼状態に関わるパラメータを算出して点火タイミング等を制御することが行われている。
例えば、特許文献1には、気筒内の圧力である筒内圧を検出可能な筒内圧検出手段をエンジンに設けた装置であって、筒内圧検出手段で検出された筒内圧に基づいて気筒内での熱発生量を推定し、この熱発生量の重心時期、つまり、熱発生量が1燃焼サイクル中に生じる全熱発生量のうちの50%となる時期を検出する装置が開示されている。
特許第3873580号公報
筒内圧検出手段として筒内圧に応じて変位するダイアフラムを有するものを用いた場合、筒内圧検出手段で検出された筒内圧が実際の値からずれやすく、筒内圧検出手段で検出された筒内圧を用いて気筒内の燃焼状態に関わるパラメータを算出するとその算出精度が低くなりこのパラメータを用いたエンジンの制御精度が悪化するという問題がある。
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、筒内圧検出手段の検出精度の悪化に伴うエンジン制御への悪影響を防止することのできるエンジンの信号処理装置を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本願発明者らは鋭意研究の結果、筒内圧検出手段として筒内圧に応じて変位するダイアフラムを有するものを用いた場合、ダイアフラムに加えられた熱負荷が高いときに筒内圧検出手段の検出値が実値(実際の筒内圧)からずれやすいこと、さらに、このときに筒内圧検出手段の検出値と実値とのずれ量が大きくなりやすいとを突き止めた。
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、気筒内の圧力である筒内圧に応じて変位するダイアフラムを有し、当該ダイアフラムの変位量に基づいて前記筒内圧を検出可能な筒内圧検出手段と、前記ダイアフラムの熱変形に伴って生じる前記筒内圧検出手段の検出値における実際の筒内圧からのずれを補正する補正手段とを備え、前記補正手段は、前記気筒内で混合気が燃焼する期間を含む所定期間中の各クランク角度において前記ダイアフラムに加えられる熱負荷を推定するとともに、推定した当該熱負荷に基づいて、前記筒内圧検出手段の検出値に適用される補正係数をクランク角度ごとに決定し、前記補正係数は、前記熱負荷が予め定められた所定値以下のときに一定とされ、前記熱負荷が前記所定値を超えると当該熱負荷が高いほど大きくされることを特徴とするエンジンの信号処理装置を提供する(請求項1)。
この装置によれば、筒内圧検出手段のダイアフラムに加えられる熱負荷が大きく、これに伴って、筒内圧検出手段の検出値と実値とのずれ量が大きいときは、このずれ量が小さいときよりも前記検出値の補正量が大きくされるため、筒内圧検出手段の検出値を前記ずれ量に応じてより実値に近い値に補正することができる。従って、筒内圧をより精度よく検出することができ、この検出精度の悪化に伴うエンジン制御に対する悪影響を防止することができる。
また、本発明は、気筒内の圧力である筒内圧に応じて変位するダイアフラムを有し、当該ダイアフラムの変位量に基づいて前記筒内圧を検出可能な筒内圧検出手段と、前記筒内圧検出手段で検出された前記筒内圧に基づいて前記気筒内の燃焼状態に関わるパラメータを推定する燃焼パラメータ推定手段とを備え、前記燃焼パラメータ推定手段は、1燃焼サイクル中に前記ダイアフラムに加えられる熱負荷が予め定められた所定値以上になるか否かを判定し、所定のクランク角度において前記熱負荷が前記所定値以上になると判定した場合には、当該所定のクランク角度よりも進角側における前記筒内圧検出手段の検出値のみを用いて前記パラメータを推定することを特徴とするエンジンの信号処理装置を提供する(請求項2)。
この装置では、筒内圧検出手段のダイアフラムに加えられる熱負荷が所定値以上であって筒内圧検出手段の検出値の実値からのずれ量が大きくなるおそれがあるときは、パラメータの推定に対する筒内圧検出手段の検出値の使用が制限される。そのため、実値から大きくずれた筒内圧検出手段の検出値が用いられることで前記パラメータの推定誤差が大きくなること、および、推定誤差の大きい前記パラメータを用いてエンジンの各部が制御されることを防止できる。従って、この装置によっても、筒内圧検出手段の検出精度の悪化に伴うエンジン制御に対する悪影響を防止することができる。
前記構成において、前記燃焼パラメータ推定手段は、予め設定された基準期間における各時点での前記気筒内の熱発生量を前記パラメータとして推定するとともに、この推定した基準期間における熱発生量の時系列データに基づいて、1燃焼サイクルにおいて前記気筒への供給燃料の50%質量分が燃焼した時点である燃焼重心時期を推定するのが好ましい(請求項3)。
この構成によれば、筒内圧検出手段で検出された筒内圧を用いて燃焼重心時期を推定できるとともに、燃焼重心時期の推定精度が悪化するのを防止できる。
前記構成において、エンジンの少なくとも一部の運転領域では、気筒内の混合気の一部を火花点火により強制的に燃焼させた後に気筒内の残りの混合気を自着火燃焼させる部分圧縮着火燃焼が実施されるのが好ましい(請求項4)。
部分圧縮着火燃焼では、火花点火によって生じる燃焼と自着火燃焼という形態が異なる燃焼が生じ、1燃焼サイクル中でダイアフラムへの熱負荷のかかり具合ひいてはダイアフラムの熱変形量が変動しやすい。そのため、筒内圧検出手段の検出値の実値とのずれ量が1燃焼サイクル中で変化するおそれがある。従って、このような部分圧縮着火燃焼において前記各発明を実施すれば、前記のずれに伴うエンジン制御に対する悪影響を効果的に防止することができる。
以上説明したように、本発明のエンジンの信号処理装置によれば、筒内圧検出手段の検出精度の悪化に伴うエンジン制御に対する悪影響を防止することができる。
本発明の実施形態に係るエンジンの信号処理装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。 エンジン本体周辺の概略構成図である。 エンジン本体の断面図とピストンの平面図とを併せて示した図である。 エンジンの制御系統を示すブロック図である。 エンジンの運転領域を示した図である。 各運転領域における燃料噴射時期、点火時期、燃焼波形を例示した図である。 SPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)時の熱発生率の波形を示すグラフである。 筒内圧センサの信号処理を説明するための図である。 ダイアフラムに高い熱負荷が加えられたときの筒内圧センサの出力と実値とを比較して示した図である。 ダイアフラムに高い熱負荷が加えられたときの筒内圧センサの出力から演算した熱発生量の出力と実値とを比較して示した図である。 本実施形態に係る燃焼重心時期の算出手順を示したフローチャートである。 本実施形態に係る燃焼重心時期の算出手順を説明するための熱発生量の波形を示した図である。 オフセット量の算出手順を示したフローチャートである。 第2実施形態に係る信号処理の手順を示したフローチャートである。 第3実施形態に係る信号処理の手順を示したフローチャートである。 第3実施形態に係る補正係数と熱負荷との関係を示した図である。
(1)エンジンの全体構成
図1〜図3は、本発明の圧縮着火式エンジンの好ましい実施形態を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流するEGR装置50を備えている。
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2にそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。図2に示すように、エンジン本体1は、多気筒型のものであり、図例では一列に並ぶ4つの気筒を有している。
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、燃焼室6に噴射される燃料は、主成分としてガソリンを含有していればよく、例えばガソリンに加えてバイオエタノール等の副成分を含んでいてもよい。
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室の容積との比は、後述するSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)に好適な値として、13以上30以下に設定される。より詳しくは、気筒2の幾何学的圧縮比は、オクタン価が91程度のガソリン燃料を使用するレギュラー仕様に場合に14以上17以下に設定し、オクタン価が96程度のガソリン燃料を使用するハイオク仕様の場合に15以上18以下に設定するのが好ましい。
シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度(クランク角度)およびクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出するクランク角センサSN1が設けられている。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが設けられている。
図2および図3に示すように、本実施形態のエンジンのバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。すなわち、吸気ポート9は、第1吸気ポート9Aおよび第2吸気ポート9Bを有しており、排気ポート10は、第1排気ポート10Aおよび第2排気ポート10Bを有している。吸気弁11は、第1吸気ポート9Aおよび第2吸気ポート9Bをそれぞれ開閉するように(合計2つ)設けられ、排気弁12は、第1排気ポート10Aおよび第2排気ポート10Bをそれぞれ開閉するように(合計2つ)設けられている。
そして、第2吸気ポート9Bには開閉可能なスワール弁18が設けられており、このスワール弁18の開閉によって気筒2内のスワール流(気筒2の軸線の回りを旋回する旋回流)の強度を変更できるようになっている。
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
吸気弁11用の動弁機構13には、吸気弁11の少なくとも開時期を変更可能な吸気VVT13aが内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構14には、排気弁12の少なくとも閉時期を変更可能な排気VVT14aが内蔵されている。これら吸気VVT13aおよび排気VVT14aの制御により、当実施形態では、吸気弁11および排気弁12の双方が排気上死点を跨いで開弁するバルブオーバーラップ期間を調整することが可能であり、また、このバルブオーバーラップ期間の調整により、燃焼室6に残留する既燃ガス(内部EGRガス)の量を調整することが可能である。なお、吸気VVT13a(排気VVT14a)は、吸気弁11(排気弁12)の開時期(閉時期)を固定したまま閉時期(開時期)のみを変更するタイプの可変機構であってもよいし、吸気弁11(排気弁12)の開時期および閉時期を同時に変更する位相式の可変機構であってもよい。
図3に示すように、ピストン5の冠面には、その中央部を含む比較的広い領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹陥させたキャビティ20が形成されている。キャビティ20の中心部には、相対的に上方に隆起したほぼ円錐状の隆起部20aが形成されており、この隆起部20aを挟んだ径方向の両側がそれぞれ断面お椀状の凹部とされている。言い換えると、キャビティ20は、隆起部20aを囲むように形成された平面視ドーナツ状の凹部である。また、ピストン5の冠面のうちキャビティ20よりも径方向外側の領域は、円環状の平坦面からなるスキッシュ部21とされている。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(主にガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と燃焼室6に導入された空気との混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。
インジェクタ15は、その先端部に複数の噴孔を有した多噴孔型のインジェクタであり、当該複数の噴孔から放射状に燃料を噴射することが可能である(図3中のFは各噴孔から噴射された燃料の噴霧を表している)。インジェクタ15は、その先端部がピストン5の冠面の中心部(隆起部20a)と対向するように設けられている。
点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置されている。点火プラグ16の先端部(電極部)は、キャビティ20と平面視で重複する位置に設定されている。
図1に示すように、シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6(気筒2)内の圧力である筒内圧を検出するための筒内圧センサ(筒内圧検出手段)SN2が設けられている。本実施形態では、各気筒2にそれぞれ1本ずつ筒内圧センサSN2が設けられている。
筒内圧センサSN2は燃焼室6の天井面から燃焼室6内を臨むようにシリンダヘッド4に取り付けられている。また、筒内圧センサSN2は、その先端部がピストン5の冠面の中心付近と対向するように配置されている。
筒内圧センサSN2は、燃焼室6内の圧力に応じた電圧を出力する。例えば、筒内圧センサSN2は、その先端部に形成された燃焼室6と連通する通路と、この通路の終端に設けられて前記通路内の圧力に応じて変位するダイアフラムと、このダイアフラムに取付けられた圧電素子とを有する。このような筒内圧センサSN2では、燃焼室6内およびこれと連通する前記通路内の圧力に応じてダイアフラムが変位し、このダイアフラムの変位量に応じた電圧つまり燃焼室6内の圧力である筒内圧に応じた電圧を圧電素子が出力する。このように筒内圧センサSN2は電圧を出力するものであり、筒内圧センサSN2から出力された電圧は後述するECU100において圧力に変換される。
図1に示すように、吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を過給する過給機33と、吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。図2に示すように、吸気通路30はサージタンク36から下流側において4本の通路に分岐しており、各分岐通路がそれぞれ各気筒2の2本の吸気ポート9と連通している。
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN3と、吸気の温度を検出する第1・第2吸気温センサSN4,SN5が設けられている。エアフローセンサSN3および第1吸気温センサSN4は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の流量および温度を検出する。第2吸気温センサSN5は、吸気通路30における過給機33とインタークーラ35との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の温度を検出する。
また、吸気通路30には、吸気通路内の圧力であって気筒2に導入される吸気の圧力である吸気圧を検出する吸気圧センサSN6が設けられている。吸気圧センサSN6は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。吸気圧センサSN6は、サージタンク36内の絶対圧を検出可能に構成されている。
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。
過給機33とエンジン本体1との間には、締結と解放を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が介設されている。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が解放されると、前記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される。
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)は、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)31bとが内蔵されている。なお、触媒コンバータ41の下流側に、三元触媒やNOx触媒等の適宜の触媒を内蔵した別の触媒コンバータを追加してもよい。
EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部分と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部分とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。
EGR通路51には、EGR弁53の上流側の圧力と下流側の圧力との差を検出するための差圧センサSN7が設けられている。
(2)制御系統
図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるECU100は、各種センサの検出信号が入力されるI/F回路110(図8参照)と、エンジンを統括的に制御するためのマイクロコンピューター120(図8参照)とを含む。
ECU100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、ECU100は、クランク角センサSN1、筒内圧センサSN2、エアフローセンサSN3、第1・第2吸気温センサSN4,SN5、吸気圧センサSN6、および差圧センサSN7と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報がECU100に逐次入力される。また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダル(図示省略)の開度を検出するアクセルセンサSN8が設けられており、このアクセルセンサSN8による検出信号もECU100に入力される。
ECU100のマイクロコンピューター120は、前記各センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU100は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、前記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
(3)燃焼制御
(3−1)基本制御
図5は、エンジンの回転速度/負荷に応じた制御の相違を説明するためのマップ図である。本図に示すように、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって4つの運転領域A1〜A4に大別される。それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3、第4運転領域A4とすると、第1運転領域A1は、回転速度および負荷の双方が低い低速・低負荷の領域であり、第3運転領域A3は、回転速度が低くかつ負荷が高い低速・高負荷の領域であり、第4運転領域A4は、回転速度が高い高速領域であり、第2運転領域A2は、第1、第3、第4運転領域A1,A3,A4を除いた残余の領域(言い換えると低速・中負荷領域と中速領域とを合わせた領域)である。以下、各運転領域で選択される燃焼形態等について順に説明する。
(a)第1運転領域
低速・低負荷の第1運転領域A1では、過給機33による過給が停止された状態(自然吸気の状態)で、SI燃焼とCI燃焼とをミックスした部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。なお、SPCCI燃焼における「SPCCI」とは、「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
ここで、SI燃焼とは、点火プラグ16により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる形態のことであり、CI燃焼とは、ピストン5の圧縮により高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる形態のことである。そして、これらSI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の残りの混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。
SPCCI燃焼では、SI燃焼時の熱発生がCI燃焼時の熱発生よりも穏やかになる。例えば、SPCCI燃焼が行われたときの熱発生率の波形は、後述する図6または図7に示すように、立ち上がりの傾きが相対的に小さくなる。また、燃焼室6における圧力変動(つまりdP/dθ:Pは筒内圧 θはクランク角度)も、SI燃焼時はCI燃焼時よりも穏やかになる。言い換えると、SPCCI燃焼時の熱発生率の波形は、SI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが小さい第1熱発生率部と、CI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが大きい第2熱発生部とが、この順に連続するように形成される。
SI燃焼によって、燃焼室6内の温度および圧力が高まると、これに伴い未燃混合気が自着火し、CI燃焼が開始される。後述する図6または図7に例示するように、この自着火のタイミング(つまりCI燃焼が開始するタイミング)で、熱発生率の波形の傾きが小から大へと変化する。すなわち、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで現れる変曲点(図7のX)を有している。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。ただし、CI燃焼は、圧縮上死点の後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが過大になることはない。すなわち、圧縮上死点を過ぎるとピストン5の下降によりモータリング圧力が低下するので、このことが熱発生率の上昇を抑制する結果、CI燃焼時のdp/dθが過大になることが回避される。このように、SPCCI燃焼では、SI燃焼の後にCI燃焼が行われるという性質上、燃焼騒音の指標となるdp/dθが過大になり難く、単純なCI燃焼(全ての燃料をCI燃焼させた場合)に比べて燃焼騒音を抑制することができる。
CI燃焼の終了に伴いSPCCI燃焼も終了する。CI燃焼はSI燃焼に比べて燃焼速度が速いので、単純なSI燃焼(全ての燃料をSI燃焼させた場合)に比べて燃焼終了時期を早めることができる。言い換えると、SPCCI燃焼では、燃焼終了時期を膨張行程内において圧縮上死点に近づけることができる。これにより、SPCCI燃焼では、単純なSI燃焼に比べて燃費性能を向上させることができる。
前記のようなSPCCI燃焼を実現するため、第1運転領域A1では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の全量または大半を圧縮行程中に噴射する。例えば、第1運転領域A1に含まれる運転ポイントP1において、インジェクタ15は、図6のチャート(a)に示すように、圧縮行程の中期から後期にかけた2回に分けて燃料を噴射する。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、前記運転ポイントP1において、点火プラグ16は、圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する(図6のチャート(a))。
過給機33はOFF状態とされる。すなわち、電磁クラッチ34が解放されて過給機33とエンジン本体1との連結が解除されるとともに、バイパス弁39が全開とされることにより、過給機33による過給が停止される。
吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、吸・排気弁11,12の双方が排気上死点を跨いで開弁されるバルブオーバーラップ期間が十分に形成されるようなタイミングに設定する。これにより、燃焼室6に既燃ガスを残留させる内部EGRが実現され、燃焼室6の温度(圧縮前の初期温度)が高められる。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、基本的に、燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)が予め定められた空燃比となるように、その開度が制御される。具体的に、第1運転領域A1での空燃比は、図5に示される負荷ラインLよりも低負荷側で理論空燃比よりもリーン(λ>1)に、負荷ラインLよりも高負荷側で理論空燃比もしくはその近傍(λ≒1)に設定される。そして、EGR弁53の基本的な開度はこの空燃比が実現される開度に設定される。なお、λとは空気過剰率のことであり、空燃比が理論空燃比(14.7)のときにλ=1となり、理論空燃比よりもリーンなときにλ>1となる。第1運転領域A1では、前記のように空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりリーンに設定される上に、燃焼室6にEGRガス(外部EGRガスおよび内部EGRガス)が導入されるので、燃焼室6内の全ガスと燃料との重量比であるガス空燃比(G/F)は、第1運転領域A1内のいずれにおいてもリーンとなる。
スワール弁18は、燃焼室6内に強いスワール流が形成されるように、全閉もしくは全閉に近い低開度まで閉じられる。このスワール流は、吸気行程中に成長して、圧縮行程の途中まで残存する。このため、例えば前述した運転ポイントP1のように圧縮行程中に燃料を噴射した場合には、噴射された燃料をスワール流が比較的弱い燃焼室6の中央部に集めることができ、燃料の成層化が実現される。例えば、燃焼室6の中央部の空燃比が20以上30以下に、燃焼室6の外周部の空燃比が35以上に設定される。
(b)第2運転領域
第2運転領域A2(低速・中負荷領域と中速領域とを合わせた領域)では、過給機33による過給を行いつつ混合気をSPCCI燃焼させるべく、次のような制御が実行される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の一部を吸気行程中に噴射し、残りの燃料を圧縮行程中に噴射する。例えば、第2運転領域A2に含まれる運転ポイントP2において、インジェクタ15は、図6のチャート(b)に示すように、比較的多量の燃料を噴射する1回目の燃料噴射を吸気行程中に実行するとともに、当該1回目の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する2回目の燃料噴射を圧縮行程中に実行する。また、運転ポイントP2よりも高負荷かつ高回転側の運転ポイントP3において、インジェクタ15は、図6のチャート(c)に示すように、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、点火プラグ16は、前記運転ポイントP2では圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火し(図6のチャート(b))、前記運転ポイントP3では圧縮上死点よりもやや遅角側のタイミングで混合気に点火する(図6のチャート(c))。
過給機33はON状態とされる。すなわち、電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結されることにより、過給機33による過給が行われる。このとき、第2吸気圧センサSN6により検出されるサージタンク36内の圧力(過給圧)が、運転条件(回転速度/負荷)ごとに予め定められた目標圧力に一致するように、バイパス弁39の開度が制御される。
吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、第2運転領域A2の低負荷側の一部においてのみ内部EGRが行われるように(言い換えると高負荷側では内部EGRが停止されるように)、吸気弁11および排気弁12のバルブタイミングを制御する。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、基本的に、燃焼室6内の空燃比(A/F)が予め定められた空燃比となるように、その開度が制御される。具体的に、第2運転領域A2での空燃比は、負荷ラインL(図5)よりも低負荷側でリーン(λ>1)に、負荷ラインLよりも高負荷側で理論空燃比もしくはその近傍(λ≒1)に設定される。例えば、排気ガスの還流量は、高負荷側ほど少なくなるように調整され、エンジンの最高負荷の近傍においてほぼゼロとされる。言い換えると、燃焼室6内のガス空燃比は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18は全閉とされるか、もしくは全閉/全開を除いた適宜の中間開度まで開かれる。具体的に、スワール弁18は、第2運転領域A2の低負荷側の一部で全閉とされ、残りの高負荷側の領域で中間開度とされる。なお、後者の領域におけるスワール弁18の開度は、負荷が高いほど大きくされる。
(c)第3運転領域
低速・高負荷の第3運転領域A3では、過給機33による過給を行いつつ混合気をSI燃焼させるべく、次のような制御が実行される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の一部を吸気行程中に噴射し、残りの燃料を圧縮行程中に噴射する。例えば、第3運転領域A3に含まれる運転ポイントP4において、インジェクタ15は、図6のチャート(d)に示すように、比較的多量の燃料を噴射する1回目の燃料噴射を吸気行程中に実行するとともに、当該1回目の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する2回目の燃料噴射を圧縮行程の後期(圧縮上死点の直前)に実行する。
点火プラグ16は、例えば圧縮上死点から5〜20°CA程度経過した(※)比較的遅めのタイミングで混合気に点火する。そして、この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
過給機33はON状態とされる。またこのとき、サージタンク36内の圧力(過給圧)が目標圧力に一致するようにバイパス弁39の開度が制御される。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりややリッチとなるように、その開度が制御される。一方、燃焼室6内のガス空燃比(G/F)は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18の開度は、所定の中間開度(例えば50%)またはその近傍値に設定される。
(d)第4運転領域
前記第1〜第3運転領域A1〜A3よりも高速側の第4運転領域A4では、比較的オーソドックスなSI燃焼が実現されるように、次のような制御が行われる。
インジェクタ15は、少なくとも吸気行程と重複する所定の期間にわたって噴射を噴射する。例えば、第4運転領域A4に含まれる運転ポイントP5において、インジェクタ15は、図6のチャート(e)に示すように、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、前記運転ポイントP5において、点火プラグ16は、圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する(図8のチャート(e))。そして、この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
過給機33はON状態とされる。またこのとき、サージタンク36内の圧力(過給圧)が目標圧力に一致するようにバイパス弁39の開度が制御される。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりややリッチとなるように、その開度が制御される。一方、燃焼室6内のガス空燃比(G/F)は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18は全開とされる。これにより、第1吸気ポート9Aだけでなく第2吸気ポート9Bが完全に開放されて、エンジンの充填効率が高められる。
(3−2)SI率
前述したように、本実施形態では、SI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼が第1運転領域A1および第2運転領域A2において実行されるが、このSPCCI燃焼では、SI燃焼とCI燃焼との比率を運転条件に応じてコントロールすることが重要になる。
ここで、当実施形態では、前記比率として、SPCCI燃焼(SI燃焼およびCI燃焼)による全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合であるSI率を用いる。図7は、このSI率を説明するための図であり、SPCCI燃焼が起きたときの熱発生率(J/deg)のクランク角度による変化を示している。図7の波形における変曲点Xは、燃焼形態がSI燃焼からCI燃焼に切り替わるときに現れる変曲点であり、この変曲点Xに対応するクランク角度θciを、CI燃焼の開始時期と定義することができる。そして、このθci(CI燃焼の開始時期)よりも進角側に位置する熱発生率の波形の面積Q1をSI燃焼による熱発生量とし、θciよりも遅角側に位置する熱発生率の波形の面積Q2をCI燃焼に熱発生率とする。これにより、(SI燃焼による熱発生量)/(SPCCI燃焼による熱発生量)で定義される前述したSI率は、前記各面積Q1,Q2を用いて、SI率=Q1/(Q1+Q2)で表すことができる。
CI燃焼の場合は混合気が自着火により同時多発的に燃焼するため、火炎伝播によるSI燃焼と比べて熱発生率が高くなり易く、大きな騒音が発生し易い。このため、SPCCI燃焼におけるSI率(=Q1/(Q1+Q2))は、総じて、負荷が高いほど大きくすることが望ましい。これは、負荷が高い場合は低い場合に比べて、燃料の噴射量が多く燃焼室6内でのトータルの熱発生量が大きいため、SI率を小さくする(つまりCI燃焼の割合を増やす)と大きな騒音が発生するからである。逆に、CI燃焼は熱効率の面では優れているため、騒音が問題にならない限り、できるだけ多くの燃料をCI燃焼させるのが好ましい。このため、SPCCI燃焼におけるSI率は、総じて、負荷が低いほど小さくする(つまりCI燃焼の割合を増やす)ことが望ましい。このような観点から、当実施形態では、負荷が高いほどSI率が大きくなるように、目標とするSI率(目標SI率)がエンジンの運転条件に応じて予め定められており、この目標SI率が実現されるように、点火タイミング、燃料の噴射量/噴射タイミング、および筒内状態量といった制御量の目標値がそれぞれ定められている。なお、ここでいう筒内状態量とは、例えば、燃焼室6内の温度やEGR率等である。EGR率には、燃焼室6内の全ガスに対する外部EGRガス(EGR通路51を通じて燃焼室6に還流される排気ガス)の割合である外部EGR率と、燃焼室6内の全ガスに対する内部EGRガス(燃焼室6に残留する既燃ガス)の割合である内部EGR率とが含まれる。
例えば、点火タイミングが進角されるほど、多くの燃料がSI燃焼により燃焼することになり、SI率が高くなる。また、燃料噴射タイミングが進角されるほど、多くの燃料がCI燃焼により燃焼することになり、SI率が低くなる。あるいは、燃焼室6の温度が高くなるほど、多くの燃料がCI燃焼により燃焼することになり、SI率が低くなる。
前記のような傾向に基づいて、当実施形態では、点火タイミング、燃料の噴射量/噴射タイミング、および筒内状態量(温度、EGR率等)の目標値が、前述した目標SI率を実現可能な組合せになるように運転条件ごとに予め定められている。SPCCI燃焼による運転時(つまり第1・第2運転領域A1,A2での運転時)、ECU100は、これら制御量の目標値に従って、インジェクタ15、点火プラグ16、EGR弁53、吸・排気VVT13a,14a等を制御する。例えば、点火タイミングの目標値に従って点火プラグ16を制御するとともに、燃料の噴射量/噴射タイミングの目標値に従ってインジェクタ15を制御する。また、燃焼室6の温度およびEGR率の各目標値に従ってEGR弁53および吸・排気VVT13a,14aを制御し、EGR通路51を通じた排気ガス(外部EGRガス)の還流量や内部EGRによる既燃ガス(内部EGRガス)の残留量を調整する。すなわち、点火プラグ、インジェクタ15、EGR弁53および吸・排気VVT13a,14aは、(3−1)で説明した基本制御に従って制御されつつ、さらに、詳細に前記目標SI率が実現されるように制御される。
(3−3)補正制御
前記のように制御されることで、基本的には、各領域でSPCCI燃焼あるいはSI燃焼が実現され、且つ、SPCCI燃焼が実施される領域において目標SI率が実現されるが、本実施形態では、これに加えて、後述するように燃焼重心時期を推定し、この燃焼重心時期が所定の範囲に収まるように点火タイミング等を補正する。
(4)筒内圧センサの信号処理
図8は、筒内圧センサSN2の信号処理を説明するための図である。ECU100のI/F回路110には、ローパスフィルタ(LPF)111が設けられている。また、ECU100のマイクロコンピュータ120には、A/D変換器121、記憶部122、IIRフィルタ(IIR)123が設けられているとともに、機能的に、角度同期処理部124、圧力変換部125、および燃焼パラメータ算出部(燃焼重心時期推定手段)126が設けられている。
筒内圧センサSN2の信号はまずI/F回路110のローパスフィルタ111に入力される。ローパスフィルタ111は、所定の周波数以下の波形のみを出力するフィルタであり、ローパスフィルタ111を通過することで筒内圧センサSN2の信号から高周波の電気的なノイズ(いわゆるホワイトノイズ)が除去される。ローパスフィルタ111から出力された筒内圧センサSN2の信号はA/D変換器121においてデジタル信号に変換される。例えば、筒内圧センサSN2の信号は50kHzのサンプリング周波数でデジタル信号に変換される。
デジタル信号に変換された筒内圧センサSN2の信号は、記憶部122に送られ、この記憶部122にて記憶される。本実施形態では、吸気下死点付近の複数の信号と、圧縮行程後半(およそ圧縮上死点前90°CA(クランク角度))から膨張下死点付近までの複数の信号が記憶部122に記憶される。
記憶部122に記憶された筒内圧センサSN2の信号は、IIRフィルタ123、角度同期処理部124、圧力変換部125を介して燃焼パラメータ算出部126に送られる。
燃焼パラメータ算出部126は、入力された情報に基づいて燃焼に関わるパラメータである燃焼重心時期を算出する。燃焼重心時期は、熱発生量(1燃焼サイクル中に燃焼によって燃焼室6内で発生した熱量)が、1燃焼サイクル中に燃焼室6内で発生する総熱発生量の50%の量に達する時期である。
熱発生量は、クランク角度に応じて変化しており、各クランク角度における熱発生量は、各クランク角度において筒内圧センサSN2により検出された筒内圧を用いて算出することができる。従って、次の手順によれば、ECU100の演算負荷が過剰に高くなるのを回避しつつ、燃焼重心時期を求めることができる。
まず、燃焼期間を含む所定の期間の筒内圧をクランク角度に対応づけて記憶しておく。次に、この筒内圧を用いて各クランク角度における熱発生量を算出して、クランク角度と対応づけて記憶する。次に、算出した全クランク角度(所定の期間における全クランク角度)の熱発生量からその最大値Qmaxと最小値Qminを検索する。次に、この最大値Qmaxと最小値Qminの平均値Q50(最大値と最小値との合計を2で割った値)を算出する。最後に、この平均値Q50に最も近い熱発生量となるクランク角度を燃焼重心時期Qmfb50として抽出する。そして、これらの演算をECU100の演算負荷が比較的低いタイミングで実施する。以下、この算出手順を比較算出手順という。
しかしながら、本願発明者らは、筒内圧センサSN2のダイアフラムに高い熱負荷が加えられると、ダイアフラムが変形して、筒内圧センサSN2の出力が実際の筒内圧から大きくずれてしまい、前記の比較算出手順で燃焼重心時期を算出すると熱発生の重心時期を適切に算出できないことを突き止めた。
図9は、ダイアフラムに高い熱負荷が加えられたときの、実際の筒内圧(計測用のセンサで筒内圧を計測した結果、破線)と、前記筒内圧センサSN2で検出された筒内圧(実線)とを比較して示した図である。図10は、ダイアフラムに高い熱負荷が加えられたときの、実際の筒内圧を用いて前記比較算出手順に従って算出した熱発生量(破線)つまり熱発生量の実値と、前記筒内圧センサSN2で検出された筒内圧を用いて比較算出手順に従って算出した熱発生量(実線)とを比較して示した図である。なお、図9、図10は、説明を容易にするために、非常に高い熱負荷がダイアフラムにかかるようにしたときの例を示した図であり、通常のエンジンの運転時における筒内圧の落ち込みは図9の例よりも少なく抑えられる。
図9の例では、クランク角度θaにて燃焼が開始し、クランク角度θa後に所定のクランク角度θbにおいてダイアフラムに加えられる熱負荷が所定値以上になる。これに伴い、この例では、クランク角度θb後にダイアフラムが熱変形して、筒内圧センサSN2で検出された筒内圧が実際の値に比べて非常に小さい値となってしまう。そして、図10の実線に示すように、この筒内圧センサSN2で検出された筒内圧を用いて算出した熱発生量は、燃焼の開始後(クランク角度θa後)一旦上昇するものの、その後、減少していってしまう。
従って、図9、10の例において、筒内圧センサSN2で検出された筒内圧を用いて単純に比較算出手順に従って燃焼重心時期を算出すると、算出された燃焼重心時期θ´mfb50と実際の燃焼重心時期θmfb50とがずれてしまう。
具体的には、図10の例では、熱発生量が最大値Qmax´となったクランク角度θmfb100´以降に減少していくことで、所定の期間つまり熱発生量の演算を行った期間のうち最も遅角側の時期θ_eの熱発生量が最小値Qmin´として抽出される。そして、この最小値Qmin´と熱発生量の最大値Qmax´との平均値Q50´となる燃焼重心時期が、熱発生量が最大となる時期θmfb100´よりも遅角側の時期θ´mfb50に誤検出されてしまう。
そこで、本実施形態では、前記手順とは異なる手順で燃焼重心時期を算出する。ただし、本実施形態でも、ECU100の演算負荷が高くなるのを回避するべく、燃焼期間を含む所定の期間の筒内圧をクランク角度に対応づけて記憶しておき、演算負荷が比較的低いタイミングで燃焼重心時期の算出を行う。
本実施形態に係る燃焼重心時期の算出手順について、図11のフローチャートおよび図12の熱発生量の図を用いて説明する。
まず、ステップS1にて、ECU100は、記憶部122に記憶されている圧縮行程後半(およそ圧縮上死点前90°CA(クランク角度))から膨張下死点付近までの筒内圧センサSN2の信号(デジタル信号に変換された後の筒内圧センサSN2の電圧信号)のうち燃焼期間を含む期間であって予め設定された基準期間の信号を読み込む。
次に、ステップS2にて、ECU100は、ステップS1で抽出した筒内圧センサSN2の信号をIIRフィルタ123に通す。IIRフィルタ123は、所定の周波数の信号を除去可能なフィルタである。IIRフィルタ123は、ノッキングが生じたときの筒内圧の波形の周波数であって予め設定された比較的高い周波数の信号を除去できるように構成されており、IIRフィルタ123を通過することで、筒内圧センサSN2の信号からノッキングの信号が除去される。IIRフィルタ123から出力された筒内圧センサSN2の信号は、角度同期処理部124に送られる。
次に、ステップS3にて、ECU100(角度同期処理部124)は、IIRフィルタ123から出力された筒内圧センサSN2の信号であって50kHzでサンプリングされた信号を、この信号と関連づけて記憶されているクランク角センサSN1の信号を用いて、所定クランク角度毎の信号に変換する。本実施形態では、ステップS3にて、筒内圧センサSN2の信号が3°CA毎の信号に変換される。この筒内圧センサSN2の信号は、圧力変換部125に送られる。
次に、ステップS4にて、ECU100(圧力変換部125)は、角度同期処理部124から入力された筒内圧センサSN2の信号を、筒内圧の絶対圧に変換する。つまり、角度同期処理部124から出力された信号はまだ電圧値であり、圧力変換部125においてこの信号がはじめて筒内圧の絶対圧に変換される。
本実施形態では、筒内圧の絶対圧Pcpsが、筒内圧センサSN2の電圧をVcpsとしてPcps=K×Vcps+OFFSETで算出できるようになっており、この式を用いて筒内圧センサSN2の出力値(電圧値)が絶対圧に変換される。
係数Kは、筒内圧センサSN2毎に予め決められている値であり、ECU100に記憶されている。一方、係数OFFSET(以下、適宜、この係数をオフセット量という)は予め設定されておらず、本実施形態では、吸気圧センサSN6の値を用いて算出する。オフセット量OFFSETの算出手順については後述する。
筒内圧の絶対圧に変換された筒内圧センサSN2の出力値は、燃焼パラメータ算出部126に入力される。
次に、ステップS5にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部126)は、クランク角度θにおける熱発生率△Q(θ)を、筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧)Pを用いて下記式(1)より算出する。本実施形態では、前記のように、圧力変換部125を介して角度同期処理部124から燃焼パラメータ算出部126には3°CA刻みの筒内圧センサSN2の出力値が入力されるようになっており、ここでは、3°CA刻みで3°CAあたりの熱発生率△Q(θ)が算出される。また、熱発生率△Q(θ)の演算は、圧縮行程後半に設定された熱発生量演算開始クランク角度θ_sから膨張下死点付近までの範囲について実施される。
式(1)におけるκは燃焼室6内のガスの比熱比であり予め設定された値が用いられる。V(θ)は、クランク角度θにおける燃焼室6の容積である。ECU100には各クランク角度に対する燃焼室6の容積がマップで記憶されており、このマップからクランク角度θに対応する燃焼室6の容積V(θ)が抽出されて式(1)に用いられる。△V(θ)は、クランク角度θにおける燃焼室6の容積Vの変化速度であり、ここでは、クランク角度θにおける燃焼室6の容積Vから、クランク角度θよりも3°CA前の燃焼室6の容積Vを引いた値が用いられる。つまり、△V(θ)には、△V(θ)=V(θ)−V(θ−3°CA)により算出された値が用いられる。
また、P(θ)は、クランク角度θにおける筒内圧(筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧))である。△P(θ)は、クランク角度θにおける筒内圧Pの変化速度であり、ここでは、クランク角度θにおける筒内圧Pから、クランク角度θよりも3°CA前の筒内圧Pを引いた値が用いられる。つまり、△P(θ)には、△P(θ)=P(θ)−P(θ−3°CA)により算出された値が用いられる。
次に、ステップS6において、ECU100(燃焼パラメータ算出部126)は、熱発生量演算開始クランク角度θ_sにおける熱発生量Q(θ_s)(以下、初期熱発生量Q(θ_s)という)を算出する。本実施形態では、初期熱発生量Q(θ_s)を、熱発生量演算開始クランク角度θ_sにおける筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧)と、モータリング時圧力との差を用いて算出する。
モータリング時圧力は、現在のエンジン回転数(熱発生量を算出しようとしている筒内圧の波形が得られたエンジン回転数)と同じエンジン回転数でモータリングを行ったときの、熱発生量演算開始クランク角度θ_sにおける圧力である。本実施形態では、減速時に、熱発生量演算開始クランク角度θ_sにおける筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧)を検出するとともに、ECU100に、この出力値をエンジン回転数と関連付けて記憶させるようにしており、この記憶された値から現在のエンジン回転数に対応する筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧)をモータリング時圧力として抽出する。
次に、ステップS7にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部126)は、ステップS26で算出した初期熱発生量Q(θ_s)に、ステップS25で算出した熱発生率を積算していき、各クランク角度θにおける熱発生量Q(θ)を算出する。具体的には、次の式(2)によって熱発生量Q(θ)を算出する。
次に、ステップS8にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部126)は、算出された各クランク角度θの熱発生量Q(θ)の最大値Qmax、および、熱発生量Q(θ)がこの最大値Qmaxとなるときのクランク角度θmfb100(以下、最大クランク角度という)を求める。
次に、ステップS9にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部126)は、熱発生量Q(θ)が最小となるときの値を熱発生量Q(θ)の最小値Qminとして求めるとともに、熱発生量Q(θ)がこの最小値Qminとなるときのクランク角度θmfb0(以下、最小クランク角度という)を最小クランク角度θmfb0として求める。
このとき、本実施形態では、図11に示すように、ステップS8で求めた最大クランク角度θmfb100よりも進角側の範囲R内で、熱発生量Q(θ)の最小値Qminおよび最小クランク角度θmfb0を求める。つまり、ECU100(燃焼パラメータ算出部126)は、熱発生量演算開始クランク角度θ_sから最大クランク角度θmfb100までの各クランク角度における熱発生量Q(θ)のなかから値が最小となるものを前記最小値Qminとして抽出し、熱発生量演算開始クランク角度θ_sから最大クランク角度θmfb100までの角度のうち熱発生量Q(θ)が最小値Qminとなる角度を最小クランク角度θmf0とする。
次に、ステップS10にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部126)は、熱発生量Q(θ)の最大値Qmaxと熱発生量Q(θ)の最小値Qminの平均値(最大値Qmaxと最小値Qminとの合計を2で割った値)Q50を算出する。
次に、ステップS31にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部126)は、最大クランク角度θmfb100よりも進角側の範囲R内で、熱発生量Q(θ)がステップS30で算出した平均値Q50に最も近くなるとなるときのクランク角度θを算出し、このクランク角度θを燃焼重心時期として決定する。
このように、本実施形態では、最大クランク角度θmfb100つまり熱発生量Q(θ)の最大値Qmaxとなるクランク角度θmfb100よりも進角側で且つ熱発生量が前記平均値Q50となるクランク角度を燃焼重心時期θmfb50として決定する。
次に、筒内圧センサSN2から出力された電圧を絶対圧に変換するのに必要なオフセット量OFFSETの算出手順について図13を用いて説明する。
まず、ステップS21で、圧力変換部125は吸気弁11が閉弁した時期である吸気閉弁時期IVCを読み込む。詳細には、変換処理の対象となる筒内圧センサSN2が設けられた気筒2の吸気閉弁時期IVC、且つ、変換処理の対象となる燃焼サイクルにおける吸気閉弁時期IVCを読み込む。
次に、ステップS22にて、圧力変換部125は、吸気閉弁時期IVCよりも所定のクランク角度前の時期から吸気閉弁時期IVCまでの期間(所定の期間、以下、適宜、平均処理期間という)に吸気圧センサSN6で検出された複数の吸気圧を読み込むとともに、この平均処理期間に筒内圧センサSN2から出力された複数の電圧値を記憶部122から読み込む。なお、本実施形態では、記憶部122には、少なくとも平均処理期間を含む所定の期間にわたって吸気圧センサSN6からの出力値が記憶されている。また、記憶部122には、吸気下死点付近の筒内圧センサSN2の複数の信号であって、平均処理期間を含む期間中に出力された信号が記憶されている。平均処理期間は例えば12°CA(クランク角度)に設定されている。
次に、ステップS23にて、圧力変換部125は、ステップS22で読み込んだ複数の吸気圧の平均値Pim_aveつまり平均処理期間における吸気圧の平均値Pim_aveを算出する。
また、ステップS24にて、圧力変換部125は、ステップS2で読み込んだ複数の筒内圧センサSN2の出力値(電圧値)の平均値Vcps_aveつまり平均処理期間における筒内圧センサSN2の出力値(電圧値)の平均値Vcps_aveを算出する。
次に、ステップS25にて、圧力変換部125は、ステップS4にて算出した筒内圧センサSN2の出力値(電圧値)の平均値Vcps_aveに、前記係数Kをかけた値をオフセット補正前筒内圧として算出する。つまり、ステップS5では、オフセット補正前筒内圧をPcps_ofとして、これを、Pcps_of=K×Vcps_aveにより算出する。
次に、ステップS26にて、圧力変換部125は、ステップS3で算出した吸気圧の平均値Pim_aveからステップS5で算出したオフセット補正前筒内圧Pcps_ofを引いた値をオフセット量として算出する。つまり、オフセット量をOFFSETとして、これを、OFFSET=Pim_ave−Pcps0により算出する。
(5)第1実施形態の作用等
以上のように、本実施形態では、まず、最大クランク角度θmfb100つまり熱発生量Q(θ)が最大となるクランク角度θmfb100を求める。次に、最大クランク角度θmfb100よりも進角側の範囲R内で、熱発生量Q(θ)の最小値Qminを求める。そして、最大クランク角度θmfb100よりも進角側の範囲R内で、熱発生量がその最大値Qmaxと前記のようにして求めた最小値Qminとの平均値Q50となる(平均値Q50に最も近くなる)クランク角度を燃焼重心時期θmfb50として決定する。
従って、熱発生量が図11や図10の実線で示すように誤算出された場合であっても、最小クランク角度θmfb0および燃焼重心時期θmfb50が最大クランク角度θmfb100よりも遅角側の時期として誤算出されること、つまり、燃焼重心時期θmfb50が実際の時期から大きくずれるのを防止することができる。そして、この実値から大きくずれた燃焼重心時期θmfb50に基づいて点火タイミング等が不適切に補正されるのを防止できる。
(6)第2実施形態
前記第1実施形態では、熱発生量が最大となる時期(最大クランク角度)よりも進角側の範囲で熱発生量の最小値を抽出するとともに、熱発生量が最大となる時期(最大クランク角度)よりも進角側の範囲のクランク角度を燃焼重心時期θmfb50として決定することで、燃焼重心時期θmfb50が実際の時期から大きくずれるのを防止した場合について説明したが、これに代えて、筒内圧センサSN2のダイアフラムに加えられる熱負荷が所定値以上のときは、筒内圧センサSN2の検出値を用いた燃焼重心時期θmfb50の算出を停止するようにしてもよい。
図14は、このように構成された第2実施形態に係る筒内圧センサSN2の信号処理の流れを示したフローチャートである。
まず、ステップS31にて、ECU100は、エンジンの運転状態を読み込む。詳細には、算出しようとしている燃焼重心時期に対応するタイミングのエンジンの運転状態に係る各値であって記憶部122に記憶した各値を読み込む。例えば、ECU100は、エンジン回転数、エンジン負荷、燃料噴射量、燃焼開始前の筒内温度等を読み込む。なお、燃焼開始前の筒内温度は、吸気温度、エンジン冷却水の温度等に基づいてECU100において別途推定されている。
次に、ステップS32にて、ECU100は、ステップS31で読み込んだエンジンの運転状態に基づいて筒内圧センサSN2のダイアフラムに加えられる熱負荷を推定する。
具体的には、1燃焼サイクル(算出しようとしている燃焼重心時期に対応する燃焼サイクル)中にダイアフラムに加えられる熱負荷の最大値を推定する。例えば、ECU100は、エンジン回転数、エンジン負荷、燃料噴射量、燃焼開始前の筒内温度がそれぞれ高いほど、前記熱負荷の最大値を高い値に推定する。
次に、ステップS33において、ECU100は、推定した熱負荷の最大値(最大熱負荷)が予め設定された判定値(所定値)以上であるか否かを判定する。
ステップS33の判定がNOであって推定した熱負荷の最大値が判定値未満の場合は、ECU100は、ステップS34に進み、筒内圧センサSN2の検出値を用いて燃焼重心時期を算出する。なお、このときの燃焼重心時期の算出手順は、第1実施形態で説明した手順であってもよいし、前記の比較算出手順であってもよい。
一方、ステップS33の判定がYESであって推定した熱負荷の最大値が判定値以上の場合は、ECU100は、ステップS35に進み、前回の燃焼サイクルの燃焼重心時期を今回の燃焼重心時期として算出する。ここで、前回の燃焼サイクルとは、ステップS33の判定がNOとなって筒内圧センサSN2の検出値に基づいて燃焼重心時期が算出されたときの燃焼サイクルである。
なお、本実施形態では、前記ステップS31〜S35の処理は主として燃焼パラメータ算出部126で行われ、この燃焼パラメータ算出部126が請求項における燃焼パラメータ推定手段として機能する。
(作用等)
この第2実施形態によれば、筒内圧センサSN2のダイアフラムに加えられた熱負荷が予め設定された判定値以上の場合は、筒内圧センサSN2の検出値を用いた燃焼重心時期の推定が停止される。従って、ダイアフラムの熱変形が大きいことに伴って燃焼重心時期が実値と大きくずれた値に推定されてしまうのを防止することができる。そして、第1実施形態と同様に、この実値から大きくずれた燃焼重心時期θmfb50に基づいて点火タイミング等が不適切に補正されるのを防止できる。
(変形例)
なお、前記では、1燃焼サイクル中にダイアフラムに加えられる熱負荷の最大値が判定値以上であるかを判定し、この判定結果に応じて筒内圧センサSN2の検出値を用いて燃焼重心時期を算出するか否かを決定した場合について説明したが、これに代えて各クランク角度での前記熱負荷を推定し、この熱負荷が前記判定値以上となるクランク角度よりも遅角側のクランク角度においてのみ筒内圧センサSN2の検出値の利用を停止するようにしてもよい。具体的には、所定のクランク角度において熱負荷が前記判定値以上になると、この所定のクランク角度よりも進角側の筒内圧センサSN2の検出値のみを用いて燃焼重心時期を求めるようにしてもよい。この場合において、さらに、圧縮上死点から所定期間が経過すると、前記熱負荷が前記判定値以上になったと推定するようにしてもよい。
また、筒内圧センサSN2の検出値を利用して推定するパラメータであって燃焼に係るパラメータは燃焼重心時期に限らず、他の燃焼パラメータであってもよい。例えば、筒内圧センサSN2の検出を利用して着火時期等を推定するように構成し、ステップS35において筒内圧センサSN2の検出値を利用して着火時期等を推定し、ステップS34において前回の着火時期等を用いるように構成してもよい。
(7)第3実施形態
また、前記第1実施形態および第2実施形態に代えて、筒内圧センサSN2のダイアフラムに前記判定値以上の熱負荷がかかった場合には、筒内圧センサSN2の検出値を補正するように構成してもよい。
図15は、このように構成された第3実施形態に係る筒内圧センサSN2の信号処理の流を示したフローチャートである。
まず、ステップS41にて、エンジンの運転状態を読み込む。詳細には、算出しようとしている燃焼重心時期に対応する燃焼サイクル(以下、対象サイクルという)におけるエンジンの運転状態であって記憶部122に記憶している各値を読み込む。例えば、ECU100は、エンジン回転数、エンジン負荷、燃料噴射量、燃焼開始前の筒内温度等を読み込む。
次に、ステップS42にて、筒内圧センサSN2のダイアフラムに加えられる熱負荷であって各クランク角度における熱負荷を推定する。
具体的には、ECU100には、1燃焼サイクル中の所定期間(燃焼が生じる期間を含む)における各クランク角度での前記熱負荷が、燃料噴射量毎にマップで記憶されており、ECU100は、対象サイクルの燃料噴射量に基づいてこのマップを抽出する。そして、ECU100は、このマップの各クランク角度に対する前記熱負荷の値を、エンジン回転数、エンジン負荷、燃焼開始前の筒内温度に基づいて補正し、各クランク角度の前記熱負荷を推定する。
次に、ステップS43にて、ECU100は、ステップS42で推定した熱負荷に応じて各クランク角度の筒内圧の補正係数を決定する。
本実施形態では、この補正係数は図16に示すように設定されており、熱負荷が予め設定された基準値以下では補正係数は1とされ、熱負荷が基準値を超えると熱負荷が高いほど補正係数は高い値とされる。つまり、本実施形態では、筒内圧センサSN2は、ダイアフラムに加えられる熱負荷が大きく熱変形量が大きくなるほど圧電素子の出力が小さくなるようになっており、これに対応して前記補正係数すなわち補正量は熱負荷が高いほど大きい値とされる。
次に、ステップS44にて、ECU100は、ステップS43で決定した補正係数を用いて、各クランク角度について、筒内圧センサSN2により検出された筒内圧を補正する。具体的には、図11で示したフローチャートのステップS4で筒内圧センサSN2の出力値を圧力に変換した後、これに前記補正係数を積算する。つまり、ステップS44では、各クランク角度について、補正後の筒内圧が、補正後の筒内絶対圧=(ステップS4で求めた筒内圧)×補正係数で算出される。
その後、ECU100は、ステップS45において、この補正係数で補正した後の筒内圧を用いて燃焼重心時期を算出する。具体的には、補正係数で補正した後の筒内圧を用いて図11のフローチャートのステップS5以降を実施して燃焼重心時期を算出する。
なお、本実施形態では、前記ステップS41〜S44の処理は主として燃焼パラメータ算出部126で行われ、この燃焼パラメータ算出部126が請求項における補正手段として機能する。
(作用等)
この第3実施形態によれば、筒内圧センサSN2のダイアフラムに加えられた熱負荷に応じて筒内圧センサSN2の検出値が補正されるため、筒内圧をより精度よく検出することができ、燃焼重心時期が実値から大きくずれた値に誤推定されるのを防止できる。そして、第1実施形態および第2実施形態と同様に、この実値から大きくずれた燃焼重心時期θmfb50に基づいて点火タイミング等が不適切に補正されるのを防止できる。
(変形例)
この第3実施形態においても、筒内圧センサSN2の検出値を利用して推定するパラメータであって燃焼に係るパラメータは燃焼重心時期に限らず、他の燃焼パラメータであってもよい。例えば、筒内圧センサSN2の検出を利用して着火時期等を推定するように構成し、ステップS45において筒内圧センサSN2の検出値を利用して着火時期等を推定するように構成してもよい。
(8)その他の変形例
エンジン本体で実施される燃焼形態は前記に限らない。例えば、全ての運転領域でSI燃焼が実施されるエンジンに前記の筒内圧センサSN2の信号処理が用いられてもよい。
ただし、SPCCI燃焼では、火花点火によって生じる燃焼と自着火燃焼という形態の異なる燃焼が行われて、1燃焼サイクル中でダイアフラムへの熱負荷のかかり具合ひいてはダイアフラムの熱変形量が比較的大きく変動する。そのため、SPCCI燃焼が実施されたときには、筒内圧センサSN2の検出値の実値とのずれ量が1燃焼サイクル中で変化しやすい。従って、このようなSPCCI燃焼が実施されるエンジンに、前記各実施形態に係る筒内圧センサSN2の信号処理を実施すれば、前記のずれに伴うエンジン制御に対する悪影響を効果的に防止することができる。
2 気筒
126 燃焼パラメータ算出部(燃焼重心時期推定手段、燃焼パラメータ推定手段、補正手段)
SN2 筒内圧センサ(筒内圧検出手段)
θmfb50 燃焼重心時期

Claims (4)

  1. 気筒内の圧力である筒内圧に応じて変位するダイアフラムを有し、当該ダイアフラムの変位量に基づいて前記筒内圧を検出可能な筒内圧検出手段と、
    前記ダイアフラムの熱変形に伴って生じる前記筒内圧検出手段の検出値における実際の筒内圧からのずれを補正する補正手段とを備え、
    前記補正手段は、前記気筒内で混合気が燃焼する期間を含む所定期間中の各クランク角度において前記ダイアフラムに加えられる熱負荷を推定するとともに、推定した当該熱負荷に基づいて、前記筒内圧検出手段の検出値に適用される補正係数をクランク角度ごとに決定し、
    前記補正係数は、前記熱負荷が予め定められた所定値以下のときに一定とされ、前記熱負荷が前記所定値を超えると当該熱負荷が高いほど大きくされることを特徴とするエンジンの信号処理装置。
  2. 気筒内の圧力である筒内圧に応じて変位するダイアフラムを有し、当該ダイアフラムの変位量に基づいて前記筒内圧を検出可能な筒内圧検出手段と、
    前記筒内圧検出手段で検出された前記筒内圧に基づいて前記気筒内の燃焼状態に関わるパラメータを推定する燃焼パラメータ推定手段とを備え、
    前記燃焼パラメータ推定手段は、1燃焼サイクル中に前記ダイアフラムに加えられる熱負荷が予め定められた所定値以上になるか否かを判定し、所定のクランク角度において前記熱負荷が前記所定値以上になると判定した場合には、当該所定のクランク角度よりも進角側における前記筒内圧検出手段の検出値のみを用いて前記パラメータを推定することを特徴とするエンジンの信号処理装置。
  3. 請求項2に記載のエンジンの信号処理装置であって、
    前記燃焼パラメータ推定手段は、予め設定された基準期間における各時点での前記気筒内の熱発生量を前記パラメータとして推定するとともに、この推定した基準期間における熱発生量の時系列データに基づいて、1燃焼サイクルにおいて前記気筒への供給燃料の50%質量分が燃焼した時点である燃焼重心時期を推定することを特徴とするエンジンの信号処理装置。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のエンジンの信号処理装置であって、
    エンジンの少なくとも一部の運転領域では、気筒内の混合気の一部を火花点火により強制的に燃焼させた後に気筒内の残りの混合気を自着火燃焼させる部分圧縮着火燃焼が実施されることを特徴とするエンジンの信号処理装置。
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